(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023006518
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】落雷抑制型避雷装置および落雷抑制型避雷器
(51)【国際特許分類】
H05F 3/04 20060101AFI20230111BHJP
【FI】
H05F3/04 G
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021109155
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】511019144
【氏名又は名称】株式会社落雷抑制システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(72)【発明者】
【氏名】松本 敏男
【テーマコード(参考)】
5G067
【Fターム(参考)】
5G067AA11
5G067CA10
5G067DA32
(57)【要約】
【課題】落雷の発生を抑制することにより、落雷によって被保護体に発生する種々の不具合を極力解消することを解決すべき課題とする。
【解決手段】 被保護体の上部に立設された支柱と、この支柱の上端部に電気的に接続された状態で装着された電荷中和部材とを備え、前記支柱が接地され、前記電荷中和部材が、上部に開口を有する筒状に形成されてこの開口から大気中を浮遊するエアロゾルが取り込まれる構成となされていることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
落雷による雷撃から保護すべき被保護体に設けられて、この被保護体への落雷を抑制するようにした落雷抑制型避雷装置であって、前記被保護体の上部に立設された支柱と、この支柱の上端部に電気的に接続された状態で装着された電荷中和部材とを備え、前記支柱が接地され、前記電荷中和部材が、上部に開口を有する筒状に形成されてこの開口から大気中を浮遊するエアロゾルが取り込まれる構成となされていることを特徴とする落雷抑制型避雷装置。
【請求項2】
前記電荷中和部材が上部に開口を有する有底筒状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の落雷抑制型避雷装置。
【請求項3】
前記電荷中和部材の下部に、この電荷中和部材の内外を連通させる貫通孔が形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の落雷抑制型避雷装置。
【請求項4】
被保護体への取付部材となる支柱と、この支柱の上部に電気的に接続状態で装着された筒状の電荷中和部材とを備える落雷抑制型避雷器。
【請求項5】
前記電荷中和部材が上部に開口を有する有底筒状に形成されていることを特徴とする請求項4に記載の落雷抑制型避雷器。
【請求項6】
前記電荷中和部材の下部に、この電荷中和部材の内外を連通させる貫通孔が形成されていることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の落雷抑制型避雷器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落雷の発生を抑制して、落雷から被保護体を保護する落雷抑制型避雷装置および落雷抑制型避雷器に関する。
【背景技術】
【0002】
落雷は大気中で起こる放電現象であり、雷放電には雲内放電、雲間放電、雲―大地間放電等がある。雷放電で大きな被害を出すのは雲―大地間放電(以下落雷)である。落雷は雷雲(雲底)と大地または大地等に建設された被保護体としての建造物との間の電界強度が非常に大きくなり、その電荷が飽和状態となって大気の絶縁を破壊したときに発生する現象である。
【0003】
落雷の現象を詳細に観察すると、夏季に起こる一般的な落雷(夏季雷)の場合、
図7に示すように、雷雲Cが成熟するとその雲底がマイナス電荷を帯び、これに伴い、大気中のエアロゾルZもマイナス電荷を帯びるとともに、大地Eや建造物Bがプラス電荷を帯びる。
【0004】
このような電荷分布が形成されると、雷雲CからステップトリーダSが、大気の抵抗が比較的小さい場所において大地Eへ向けて伸びてくる。
ステップトリーダSが大地とある程度の距離になると、大地EからステップトリーダSに向かって、微弱電流の上向きストリーマT(お迎え放電)が伸び、このストリーマTとステップトリーダSが結合すると、その経路を通って、雷雲Cと大地E間に大電流(帰還電流)が流れ、落雷となる。
【0005】
大地E上に建設される建造物Bはその上部が雷雲Cに近く、この雷雲Cの雲底と建造物Bの上部間の抵抗が、建造物B以外の領域における雷雲Cと大地E間の抵抗よりも小さいことから、建造物Bへの落雷が発生しやすい。
【0006】
このように建造物Bへ落雷すると、建造物Bの火災や、建造物B内に設置されている電子機器等の損傷を招く。
【0007】
そこで、従来では、建造物Bの上部に、接地線Dによって大地Eに電気的に接続された避雷針(フランクリンロッド)Rを設置し、この避雷針Rに落雷を誘導するとともに、その電流を接地線Dによって大地Eへ導くことにより、この電流が建造物B内を流れることを防止することが行なわれている。
【0008】
これによって、建造物Bの火災や、建造物B内に設置されている電子機器等の損傷といった不具合の発生を防止するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述した従来の技術は、落雷から保護すべき被保護体が、落雷時のエネルギによって損傷を受けることを抑制することを前提としているが、落雷自体は発生していることからその影響が少なからず生じるといった改善すべき問題点が残されている。
【0011】
本発明は、前述した従来の技術において残されている問題点に鑑みてなされたもので、落雷の発生を抑制することにより、落雷によって被保護体に発生する種々の不具合を極力解消することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の落雷抑制型避雷装置は、落雷による雷撃から保護すべき被保護体に設けられて、この被保護体への落雷を抑制するようにした落雷抑制型避雷装置であって、前記被保護体の上部に立設された支柱と、この支柱の上端部に電気的に接続された状態で装着された電荷中和部材とを備え、前記支柱が接地され、前記電荷中和部材が、上部に開口を有する筒状に形成されてこの開口から大気中を浮遊するエアロゾルが取り込まれる構成となされていることを特徴としている。
【0013】
このように構成された本発明の落雷抑制型避雷装置は、被保護体の上方に雷雲が近づくと、この雷雲の底部に分布するマイナス電荷により、雷雲と地面との間の気体中のエアロゾルもマイナス電荷に帯電させられる。
【0014】
気体中のエアロゾルがマイナス電荷に帯電させられると、これに対応して地面がプラス電荷に帯電させられ、さらに、この地面上にある被保護体の上部に立設され、かつ、接地された支柱および電荷中和部材もプラス電荷に帯電させられる。
【0015】
ここで、前記電荷中和部材は、その上部に開口が設けられていることにより、この開口を経て大気中のエアロゾルが電荷中和部材内に取り込まれる。
【0016】
このように電荷中和部材内に取り込まれたエアロゾルは電荷中和部材の内壁に接触するが、エアロゾルがマイナス電荷を帯びていることから、このエアロゾルと電荷中和部材との接触により、エアロゾルのマイナス電荷と電荷中和部材のプラス電荷が合わさり、電荷中和部材が電気的に中性となされる。
【0017】
これによって、雷雲に近づけて設置された電荷中和部材周りに電気的中性領域が形成されて、この電荷中和部材から雷雲へ向かうストリーマの発生が抑制され、これに伴い、電荷中和部材への落雷が抑制されて、この電荷中和部材が設置されている被保護体への落雷が抑制される。
【0018】
前記電荷中和部材の下部に、この電荷中和部材の内外を連通させる貫通孔を形成しておくことが好ましい。
【0019】
このような構成とすることにより、電荷中和部材に取り込まれたエアロゾルが貫通孔を経て外部へ排出される。
【0020】
したがって、マイナス電荷を帯びたエアロゾルが継続して電荷中和部材へ取り込まれて、電荷中和部材の中性化が安定して行なわれる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の落雷抑制型避雷装置によれば、被保護体に雷雲が近づいた際に、被保護体に、雷雲に近づくように設置された電荷中和部材が電気的に中性となり、この電荷中和部材からストリーマが生じることを抑制して落雷を抑制することができる。
また、電荷中和部材に支柱を取り付けた状態で落雷抑制型避雷器を予め構成しておくことにより、既存の被保護体への落雷抑制型避雷装置の組み込みを容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】本発明の一実施形態を示すもので、電荷中和部材の拡大正面図である。
【
図3】本発明の一実施形態を示すもので、電荷中和部材の拡大平面図である。
【
図4】本発明の一実施形態を示すもので、電荷中和部材の拡大縦断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態を示すもので、電荷中和部材の拡大縦断面図である。
【
図6】本発明の他の実施形態を示すもので、電荷中和部材の拡大縦断面図である。
【
図7】落雷の発生メカニズムを説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態を
図1ないし
図5を参照して説明する。
なお、以下の説明中、
図7と共通する部分については同一符号を用いて説明を簡略化する。
【0024】
図1において、符号1は、地面E上の建築物からなる被保護体を示し、その頂部に支柱2が立設され、この支柱2の上端部に電荷中和部材3が取り付けられ、この電荷中和部材3が接地線4を介して地面Eに設置された構成となっている。
【0025】
前記電荷中和部材3は、上方に開口3aが形成された有底筒状に形成されているとともに、その底部中央には、支柱2が貫通させられる止着孔3bが形成されている。
【0026】
前記支柱2の上端部には螺子部2aが形成されており、この螺子部2aが電荷中和部材3の止着孔3bに嵌合させられるとともに、電荷中和部材3の底部を挟持する複数の固定ナット5が螺着されている。
【0027】
このように構成された本発明の落雷抑制型避雷装置は、
図1に示すように、被保護体1の上方に雷雲Cが近づくと、この雷雲Cの底部に分布するマイナス電荷により、雷雲Cと地面Eとの間の気体中のエアロゾルZもマイナス電荷に帯電させられる。
【0028】
また、雷雲Cと地面E間のキャパシタの作用により地面Eがプラス電荷に帯電させられ、さらに、この地面Eに接地された支柱2および電荷中和部材3もプラス電荷に帯電させられる。
【0029】
一方、電荷中和部材3の上部に開口3aが設けられていることにより、この開口3aを経て大気中のエアロゾルZが電荷中和部材3内に取り込まれる。
【0030】
このように電荷中和部材3内に取り込まれたエアロゾルZは電荷中和部材3の内壁に接触するが、エアロゾルZがマイナス電荷を帯びていることから、このエアロゾルZと電荷中和部材3との接触により、エアロゾルZのマイナス電荷と電荷中和部材3のプラス電荷が合わさり、
図5に示すように、電荷中和部材3が電気的に中性となされる。
【0031】
これによって、電荷中和部材3から雷雲Cへ向かうストリーマTの発生が抑制され、これに伴い、電荷中和部材3への落雷が抑制される。
この結果、電荷中和部材3が設置されている被保護体1を落雷から保護することができる。
【0032】
なお、前記実施形態において示した各構成部材の諸形状や寸法等は一例であって、たとえば、適用する被保護体に応じて種々変更可能である。
【0033】
たとえば、前記実施形態においては、電荷中和部材3を有底筒状に形成した例について示したが、底部のない筒体とすることも可能である。
ただし、電荷中和部材3を有底筒状とした場合、その内部に取り込まれるエアロゾルZの動きを緩やかにして、エアロゾルZと電荷中和部材3内壁との接触をより有効に行なわせ、これによって電荷中和部材3の中性化を良好なものとすることができる利点がある。
【0034】
また、
図6に示すように、電荷中和部材3の下部に、この電荷中和部材3の内外を連通させる貫通孔6を形成しておくことができる。
【0035】
このような構成とすることにより、電荷中和部材3に侵入する雨水等を貫通孔6によって排水することができる。
【0036】
また、電荷中和部材3に取り込まれたエアロゾルZを、貫通孔6を経て外部へ排出することができる。
これによって、電荷中和部材3において電荷の中和に用いられたエアロゾルZを排出して、新たなマイナス電荷を帯びたエアロゾルZを継続して電荷中和部材3へ送り込むことにより、電荷中和部材3の中性化を安定して行なわせることができる。
【0037】
さらに、
図6に示すように、電荷中和部材3の表裏面を導電部材7によって電気的に接続しておくことも可能である。
【0038】
このような構成とすることにより、電荷中和部材3内の電子の移動を円滑にして、電荷中和部材3の中性化の効率を高めることができる。
【0039】
さらにまた、電荷中和部材3と支柱2とをユニット化して予め落雷抑制型避雷器を構成しておくこともできる。
このようなユニット化により、既存の被保護体を落雷抑制型避雷装置として構築する際に、その対応を容易なものとすることができる。
【符号の説明】
【0040】
1 被保護体
2 支柱
3 電荷中和部材
3a 開口
3b 止着孔
4 接地線
5 固定ナット
6 貫通孔
7 導電部材
B 建造物
C 雷雲
D 接地線
E 大地
R 避雷針
S ステップリーダ
T ストリーマ
Z エアロゾル