(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023065218
(43)【公開日】2023-05-12
(54)【発明の名称】ロープ及びロープの製造方法
(51)【国際特許分類】
D07B 1/16 20060101AFI20230502BHJP
D07B 1/06 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
D07B1/16
D07B1/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021175888
(22)【出願日】2021-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】302019599
【氏名又は名称】ミズノ テクニクス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005935
【氏名又は名称】美津濃株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】近藤 慎
(72)【発明者】
【氏名】渥美 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】矢野 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】宮田 美文
(72)【発明者】
【氏名】大森 一寛
(72)【発明者】
【氏名】藤本 和也
(72)【発明者】
【氏名】浦田 一生
【テーマコード(参考)】
3B153
【Fターム(参考)】
3B153AA26
3B153AA32
3B153AA45
3B153BB01
3B153CC21
3B153CC23
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3B153CC52
3B153CC53
3B153EE15
3B153EE23
3B153FF15
3B153FF48
3B153GG01
(57)【要約】
【課題】ロープを軽量化するとともに、耐切断性を向上する。
【解決手段】繊中心に金属製のワイヤ21が配置され、前記ワイヤ21の外面に、樹脂未含浸の強化繊維が編み組みされてなる強化繊維層22と、繊維強化樹脂製のトウプリプレグが編み組みされてなる繊維強化樹脂層23とが積層されており、前記繊維強化樹脂層23は前記強化繊維層22の外層側に積層されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心に金属製のワイヤが配置され、前記ワイヤの外面に、樹脂未含浸の強化繊維が編み組みされてなる強化繊維層と、繊維強化樹脂製のトウプリプレグが編み組みされてなる繊維強化樹脂層とが積層されており、
前記繊維強化樹脂層は前記強化繊維層の外層側に積層されていることを特徴とするロープ。
【請求項2】
前記繊維強化樹脂層を構成する樹脂は、柔軟エポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のロープ。
【請求項3】
前記強化繊維層を構成する強化繊維は、前記繊維強化樹脂層を構成する強化繊維より耐摩耗性が高いことを特徴とする請求項1又は2に記載のロープ。
【請求項4】
前記強化繊維層における強化繊維の配向角度は、前記繊維強化樹脂層における強化繊維の配向角度より小さいことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のロープ。
【請求項5】
前記強化繊維層を構成する強化繊維は、アラミド繊維及び液晶ポリエステル繊維の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のロープ。
【請求項6】
本体部と、前記本体部の両端に一体に形成された取付部を備え、
前記取付部には、最外層の前記繊維強化樹脂層の外側に、該繊維強化樹脂層を構成する樹脂より硬質な樹脂材料で構成された硬質樹脂層が形成されていることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のロープ。
【請求項7】
繊維強化樹脂製のロープの製造方法であって、
金属製のワイヤの外面に、樹脂未含浸の強化繊維束を編み組みして強化繊維層を積層する第1編組工程と、
前記強化繊維層の外面に、熱硬化性樹脂が含浸された繊維強化樹脂製のトウプリプレグを編み組みして繊維強化樹脂層を積層する第2編組工程と
を備えていることを特徴とするロープの製造方法。
【請求項8】
前記第1編組工程及び前記第2編組工程の後に、前記繊維強化樹脂層の外面に熱可塑性樹脂材料を積層して第1中間体を得る保護層積層工程と、
前記第1中間体を加熱して熱硬化体を得る熱硬化工程と、
前記熱硬化体の両端部を樹脂で被覆して取付部を成形する取付部成形工程と
をさらに備え、
前記取付部成形工程は、前記熱硬化体の両端部に、前記トウプリプレグに含浸された樹脂より硬質な樹脂が含浸されたプリプレグを積層して前記取付部を成形することを特徴とする請求項7に記載のロープの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂製のロープ及び繊維強化樹脂製のロープの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自転車、オートバイ等の盗難防止として、車体に取り付けるセキュリティロックが知られている。セキュリティロックには、南京錠、U字ロック、チェーンロック、螺旋ロープ等様々なタイプが存在する。
【0003】
セキュリティロックに対する要求特性は、耐切断性があって防犯性に優れていること、軽量であって携帯性に優れていること等である。しかし、従来知られている金属製のセキュリティロックは、携帯性を重視して軽量化を図ると、細径となってしまって耐切断性に劣ることになる。一方、耐切断強度を重視して大径化を図ると、重くなってしまって携帯性に劣ることになる。
【0004】
特許文献1には、自転車、オートバイ等の移動物体を盗難から保護するためのセキュリティケーブルに係る発明が記載されている。セキュリティケーブルは、軽量化を図るために、金属製のチェーンの外面に、繊維又はヤーンからなる複数層の撚織物、編織物、又は織布を重ねて配置する構成としている。これにより、軽量でありながら、耐切断性、可撓性に優れるセキュリティケーブルとできるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、金属製のチェーンの割合を少なくする分、軽量化には貢献できるものの、複数層の織物層の積層構造では十分な強度を得ることができない。耐切断性については、改善の余地があるものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明のロープは、中心に金属製のワイヤが配置され、前記ワイヤの外面に、樹脂未含浸の強化繊維が編み組みされてなる強化繊維層と、繊維強化樹脂製のトウプリプレグが編み組みされてなる繊維強化樹脂層とが積層されており、前記繊維強化樹脂層は前記強化繊維層の外層側に積層されている。
【0008】
上記の構成によれば、強化繊維層と繊維強化樹脂層が積層された構造であるため、全体が金属製のものに比べて軽量である。
また、強化繊維層と繊維強化樹脂層は強化繊維を有しているため、強度に優れ、耐切断性が実現できる。そして、強化繊維層では樹脂未含浸の強化繊維が編み組みされているため、強化繊維層内での強化繊維の動きが許容されている。切断治具によって切断しようとすると、切断治具からの押圧力によって強化繊維層内の強化繊維が逃げるように動く。これによっても耐切断性が向上する。また、強化繊維の動きが許容されることで柔軟性が向上する。
【0009】
さらに、強化繊維層の外層側に繊維強化樹脂層が積層されていることで、樹脂未含浸の強化繊維がロープの表面から露出することが抑制される。樹脂未含浸の強化繊維のほつれが抑制されて、ロープの外観形状を良好にすることができる。耐久性が向上する。
【0010】
上記の構成において、前記繊維強化樹脂層を構成する樹脂は、柔軟エポキシ樹脂であることが好ましい。
上記の構成によれば、ロープの柔軟性が向上して扱い易い。また、柔軟性が向上することで携帯性も向上する。
【0011】
上記の構成において、前記強化繊維層を構成する強化繊維は、前記繊維強化樹脂層を構成する強化繊維より耐摩耗性が高いことが好ましい。
上記の構成によれば、ロープの柔軟性が向上する。
【0012】
上記の構成において、前記強化繊維層における強化繊維の配向角度は、前記繊維強化樹脂層における強化繊維の配向角度より小さいことが好ましい。
上記の構成によれば、樹脂未含浸の強化繊維が、繊維強化樹脂層の強化繊維より緩く編み組みされた状態となる。そのため、強化繊維層内で強化繊維が動き易い。これにより、ロープの耐切断性が向上する。また、繊維強化樹脂層の強化繊維は、強化繊維層の強化繊維を締め付けるように編み組みされている。そのため、強化繊維層内での強化繊維の動きを許容しつつ、過度の動きを抑制することができる。
【0013】
上記の構成において、前記強化繊維層を構成する強化繊維は、アラミド繊維及び液晶ポリエステル繊維の少なくともいずれかであることが好ましい。
上記の構成によれば、ロープをより軽量化することができる。
【0014】
上記の構成において、本体部と、前記本体部の両端に一体に形成された取付部を備え、前記取付部には、最外層の前記繊維強化樹脂層の外側に、該繊維強化樹脂層を構成する樹脂より硬質な樹脂材料で構成された硬質樹脂層が形成されていることが好ましい。
【0015】
上記の構成によれば、両端の取付部に南京錠等のロック部材を取り付ければ、ロープをセキュリティ用に使用することができる。この場合、取付部に硬質樹脂層が形成されていることで、一体形成された取付部であっても、その強度を向上させることができる。
【0016】
上記の課題を解決するため、本発明は、繊維強化樹脂製のロープの製造方法であって、金属製のワイヤの外面に、樹脂未含浸の強化繊維束を編み組みして強化繊維層を積層する第1編組工程と、前記強化繊維層の外面に、熱硬化性樹脂が含浸された繊維強化樹脂製のトウプリプレグを編み組みして繊維強化樹脂層を積層する第2編組工程とを備えている。
【0017】
上記の構成によれば、軽量であり、耐切断性に優れたロープを製造することができる。
上記の構成において、前記第1編組工程及び前記第2編組工程の後に、前記繊維強化樹脂層の外面に熱可塑性樹脂材料を積層して第1中間体を得る保護層積層工程と、前記第1中間体を加熱して熱硬化体を得る熱硬化工程と、前記熱硬化体の両端部を樹脂で被覆して取付部を成形する取付部成形工程とをさらに備え、前記取付部成形工程は、前記熱硬化体の両端部に、前記トウプリプレグに含浸された樹脂より硬質な樹脂が含浸されたプリプレグを積層して前記取付部を成形することが好ましい。
【0018】
上記の構成によれば、ロープに取付部を一体に形成することができる。そのため、取付部が形成されたロープの製造工程が簡略化する。そして取付部では、繊維強化樹脂層の外側に硬質な繊維強化樹脂層が積層された状態となる。そのため、取付部の強度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、軽量であるとともに耐切断性に優れたロープが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】セキュリティロープにおける径方向の断面構造について説明する図。
【
図3】セキュリティロープの外観形状について説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を具体化したロープの一実施形態について
図1~
図3に従って説明する。
<ロープ10について>
図1に示すように、本実施形態のロープは、自転車、オートバイ等の盗難防止用に、車体に取り付けるためのセキュリティロックに適用可能なセキュリティロープ10である。以下では、単にロープ10と言う。ロープ10は、長いひも状の本体部11と、本体部11の両端の取付部12を備えている。本体部11と取付部12は一体に形成されている。ロープ10は、両端の取付部12に図示しない南京錠等を取り付けることによって、セキュリティロックとして使用することができる。
【0022】
図2に示すように、ロープ10の本体部11は、ワイヤ21、強化繊維層22、繊維強化樹脂層23、及び保護層24を備えている。一方、図示は略すが、取付部12は保護層24を備えておらず、最外層の繊維強化樹脂層23の外側に、硬質樹脂層が形成されている。
【0023】
金属製のワイヤ21は、ロープ10の径方向中心に配置されている。ワイヤ21は市販されている金属製のものから適宜選択することができる。材質、直径は特に限定されない。例えば、ステンレス鋼(SUS)、タングステン、チタン等の特殊鋼、真鍮、銅等が挙げられる。ロープ10の軽量性、耐久性、柔軟性、耐切断性を実現する観点から、ステンレス鋼が好ましい。
【0024】
ワイヤ21の外面には、樹脂未含浸の強化繊維からなる強化繊維層22と、繊維強化樹脂製のトウプリプレグからなる繊維強化樹脂層23とが、交互に積層されている。本実施形態のロープ10では、一つの強化繊維層22と一つの繊維強化樹脂層23との組み合わせが、3つ積層されている。強化繊維層22は内側に配置され、繊維強化樹脂層23は外側に配置されている。一つの強化繊維層22は、単層構造であってもよく複層構造であってもよい。また、一つの繊維強化樹脂層23は、単層構造であってもよく複層構造であってもよい。本実施形態のロープ10は、一つの強化繊維層22が4層構造であり、一つの繊維強化樹脂層23が1層構造である。
【0025】
強化繊維層22及び繊維強化樹脂層23は、強化繊維及びトウプリプレグを所定の組角度で編み組みしていくブレイディング法によって形成されている。
図3に示すように、本実施形態のロープ10の表面には、強化繊維の編み組み状態が視認できる。これは、本実施形態の繊維強化樹脂層23が、熱硬化性樹脂が含浸された強化繊維からなるトウプリプレグと樹脂未含浸の強化繊維とを組み合せて編み組みされていることによる。強化繊維層22は、樹脂未含浸の強化繊維のみを編み組みして形成されている一方で、外層側の繊維強化樹脂層23は、トウプリプレグのみで編み組みする場合に限らず、トウプリプレグと樹脂未含浸の強化繊維とを組み合せて編み組みしてもよい。
【0026】
強化繊維層22を構成する強化繊維の配向角度は、繊維強化樹脂層23を構成する強化繊維の配向角度より小さいことが好ましい。強化繊維層22を構成する強化繊維の配向角度が小さいと、樹脂未含浸の強化繊維が、樹脂が含浸された強化繊維より緩く編み組みされた状態となる。これにより、強化繊維層22内で強化繊維の動きが許容される。ロープ10を切断しようとしても強化繊維が逃げるように作用して、耐切断性が向上する。また、配向角度の大きい繊維強化樹脂層23の強化繊維が、強化繊維層22の強化繊維を締め付けるように作用する。
【0027】
強化繊維層22を構成する強化繊維の配向角度は、0~±70゜程度であることが好ましく、0~±30゜程度であることがより好ましい。強化繊維層22を構成する強化繊維の配向角度がこの範囲であると、ロープ10の柔軟性、可撓性が向上する。柔軟性をより発揮させるためには、ロープ10の軸線方向に対して平行な0゜に近いことがさらに好ましい。
【0028】
また、繊維強化樹脂層23を構成するトウプリプレグの配向角度は、±10~±90゜程度であることが好ましく、±30~±80゜程度であることがより好ましい。本実施形態の繊維強化樹脂層23のように、トウプリプレグと樹脂未含浸の強化繊維とを組み合せて編み組みされている場合、繊維強化樹脂層23を構成する樹脂未含浸の強化繊維とトウプリプレグとは同じ配向角度とされている。
【0029】
強化繊維層22及び繊維強化樹脂層23を構成する強化繊維は、従来公知のものから適宜選択することができる。例えば、炭素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、炭化ケイ素繊維、スチール繊維、アラミド繊維、液晶ポリエステル繊維、アルミナ繊維、チラノ繊維、アモルファス繊維等が挙げられる。強化繊維層22を構成する強化繊維は、繊維強化樹脂層23を構成する強化繊維より耐摩耗性が高いことが好ましい。例えば、繊維強化樹脂層23を構成する強化繊維を炭素繊維とした場合、強化繊維層22を構成する強化繊維をアラミド繊維とすればよい。また、ロープ10を軽量化する観点から、強化繊維層22を構成する強化繊維は、比重の小さい強化繊維が好ましい。例えば、炭素繊維より比重の小さいアラミド繊維、液晶ポリエステル繊維等が挙げられる。
【0030】
繊維強化樹脂層23を構成する熱硬化性樹脂は、従来公知のものから適宜選択することができる。例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。繊維強化樹脂層23を構成する樹脂には、柔軟性に優れ、強化繊維束への含浸性が良好であることが要求される。この点から、これらの中でも、柔軟性に優れた柔軟エポキシ樹脂が好ましい。柔軟エポキシ樹脂とは、柔軟性を有する硬化物が得られるエポキシ系樹脂であり、具体的には炭化水素変性、エラストマー変性、ゴム変性、シリコーン変性等の変性エポキシ樹脂を挙げることができる。柔軟エポキシ樹脂は、例えば弾性率が数MPa~数十MPa程度の範囲のエポキシ樹脂である。柔軟エポキシ樹脂を採用することにより、ロープ10の柔軟性、可撓性が向上する。
【0031】
保護層24は、ロープ10の本体部11の最外層を構成して、本体部11の外面を被覆している。保護層24は、熱可塑性樹脂材料によって形成されている。保護層24の材質は、従来公知の熱可塑性樹脂から適宜選択することができる。
【0032】
ロープ10の取付部12は、繊維強化樹脂層23を構成する樹脂より硬質な熱硬化性樹脂で被覆されて、最外層に、図示しない硬質樹脂層が形成されている。取付部12を被覆している硬質樹脂層の樹脂は、本体部11での繊維強化樹脂層23を構成する樹脂と同じ材質の樹脂であることが好ましい。例えば、本体部11の繊維強化樹脂層23を構成する樹脂が、弾性率が数MPa~数十MPa程度の範囲の柔軟エポキシ樹脂である場合、取付部12は、弾性率が数千MPa程度のエポキシ樹脂で被覆されている。そのため、ロープ10の本体部11は柔軟性がある一方で、取付部12は本体部11に比べて硬質となっている。
【0033】
<ロープ10の製造方法について>
次に、ロープ10の製造方法について説明する。
ロープ10の製造方法は、第1編組工程、第2編組工程、保護層積層工程、熱硬化工程、及び取付部成形工程を備えている。第1編組工程は、金属製のワイヤ21の外面に、樹脂未含浸の強化繊維束を編み組みして強化繊維層22を積層する工程である。第2編組工程は、強化繊維層22の外面に、熱硬化性樹脂が含浸された繊維強化樹脂製のトウプリプレグを編み組みして繊維強化樹脂層23を積層する工程である。保護層積層工程は、繊維強化樹脂層23の外面に熱可塑性樹脂材料を積層して第1中間体を得る工程である。熱硬化工程は、第1中間体を加熱して熱硬化体を得る工程である。取付部成形工程は、熱硬化体の端部を硬質樹脂で被覆して取付部12を成形する工程である。
【0034】
第1編組工程と第2編組工程は、ブレイディング装置で、同時に行うことができる。本実施形態のロープ10は、一つの強化繊維層22と一つの繊維強化樹脂層23との組み合わせが、3つ積層されている。また、強化繊維層22が4層構造であり、繊維強化樹脂層23が1層構造である。ブレイディング装置には、中心に芯材としてのワイヤ21を配置して、ワイヤ21の周りに、1~4層目用の組糸として、樹脂未含浸の強化繊維を配置する。また、5層目用の組糸として、樹脂未含浸の強化繊維と熱硬化性樹脂が含浸された強化繊維(トウプリプレグ)を配置する。ブレイディング装置を駆動して、ワイヤ21の周りに1~5層目を同時に積層していく。また、同様にして、一つの強化繊維層22と一つの繊維強化樹脂層23との組み合わせからなる外層側の2つの積層構造を積層していく。
【0035】
保護層積層工程では、最外層の繊維強化樹脂層23の外面に、熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂材料を積層する。熱可塑性樹脂材料は、両端部を除いた全長に亘って積層する。熱可塑性樹脂材料の積層は、例えば、熱可塑性樹脂製の熱収縮シートを巻き付けたり、熱可塑性樹脂製の押出チュープを被せたり、熱可塑性樹脂繊維のブレイディングスリープを被せたり、熱可塑性樹脂繊維をブレイディングしたりして行う。ここで得られたものを第1中間体とする。
【0036】
熱硬化工程では、第1中間体を金型内に配置して、所定温度、所定時間加熱する。これにより、繊維強化樹脂層23に含浸された熱硬化性樹脂が熱硬化して、強化繊維層22と繊維強化樹脂層23が交互に積層され、最外層に保護層24が積層された熱硬化体が得られる。熱硬化体では、繊維強化樹脂層23を構成する強化繊維が、熱硬化した樹脂によってその移動が規制されている一方で、強化繊維層22構成する強化繊維は樹脂未含浸の状態に保持されて、その移動が許容された状態となっている。
【0037】
取付部成形工程では、熱硬化体の両端部を、繊維強化樹脂層23を構成する熱硬化性樹脂より硬質な熱硬化性樹脂で被覆するか、或いは、熱硬化体の両端部に、繊維強化樹脂層23を構成する熱硬化性樹脂より硬質な熱硬化性樹脂を含浸させたプリプレグを積層する。両端部は、シート積層工程において熱可塑性樹脂材料が積層されていない部分に相当する。そして、両端部をそれぞれ折り曲げて環状とし、環状の部分を金型内に配置する。所定時間、所定温度加熱することにより、取付部12を成形する。両端部にプリプレグを積層して取付部12を成形する場合、取付部12には本体部11より硬質な繊維強化樹脂層が形成される。そのため、強度に優れた取付部12の成形が可能となる。
【0038】
以上の工程を経て、ロープ10が得られる。
<ロープ10の作用について>
次に、ロープ10の作用について説明する。
【0039】
ロープ10は、中心に金属製のワイヤ21が配置され、ワイヤ21の外面に、樹脂未含浸の強化繊維が編み組みされてなる強化繊維層22と、樹脂未含浸の強化繊維及び繊維強化樹脂製のトウプリプレグが編み組みされてなる繊維強化樹脂層23とが積層されている。強化繊維層22では、強化繊維に樹脂が含浸されていないため、強化繊維の移動が許容されている。ロープ10を曲げると、強化繊維層22の強化繊維が曲げに追従して変形することで、ロープ10の柔軟性、可撓性が実現される。また、強化繊維層22を構成する強化繊維を、繊維強化樹脂層23を構成する強化繊維より耐摩耗性が高いものを使用することによっても、ロープ10の柔軟性が向上する。
【0040】
強化繊維層22では強化繊維に樹脂は含浸されていないものの、強化繊維層22の外層側には、樹脂が含浸されたトウプリプレグが編み組みされた繊維強化樹脂層23が存在している。ロープ10の外面での、強化繊維の露出が抑制され、ロープ10使用時の擦過等による強化繊維のほつれが抑制される。また、繊維強化樹脂層23の外側に形成された保護層24によって、繊維強化樹脂層23を構成する強化繊維の耐候性及び耐摩耗性が向上する。
【0041】
強化繊維層22における強化繊維の配向角度は、繊維強化樹脂層23における強化繊維の配向角度より小さく、樹脂未含浸の強化繊維が、繊維強化樹脂層23の強化繊維より緩く編み組みされた状態となっている。これにより、強化繊維層22内で強化繊維が動き易くなり、柔軟性、可撓性が向上する。また、切断治具による切断時には、強化繊維が逃げ易く、ロープ10の耐切断性が向上する。
【0042】
一方、強化繊維の配向角度がより大きく、強化繊維層22の外層側に積層される繊維強化樹脂層23は、強化繊維層22の強化繊維を外側から締め付けるように作用する。強化繊維層22内での強化繊維の動きを許容しつつ、強化繊維の過度の動きが抑制される。
【0043】
ロープ10の両端部には、硬質の取付部12が本体部11と一体に形成されている。ロープ10の本体部11は柔軟性がある一方で、取付部12は本体部11に比べて硬質となっている。本体部11は変形し易く、柔軟性、可撓性に優れる一方で、南京錠等を取り付けて使用する取付部12での強度が向上している。
【0044】
次に、上記実施形態のロープ10の効果について説明する。
(1)上記実施形態のロープ10は、金属製のワイヤ21の外面に、樹脂未含浸の強化繊維が編み組みされてなる強化繊維層22と、繊維強化樹脂製のトウプリプレグが編み組みされてなる繊維強化樹脂層23とが積層されている。そのため、金属製のチェーンロックのように全体が金属製のものに比べて軽量である。携帯性に優れている。また、強度に優れた強化繊維によって耐切断性が向上する。さらに、強化繊維層22内に存在する樹脂未含浸の強化繊維は、外力が付加されたときにその動きが許容されている。切断治具によって切断しようとしても、強化繊維が逃げるように動くことで耐切断性がより向上する。
【0045】
(2)繊維強化樹脂層23は強化繊維層22の外層側に積層されている。そのため、ロープ10の外面での、強化繊維の露出が抑制され、強化繊維のほつれが抑制される。ロープ10の外観形状を良好に保持することができて、耐久性が向上する。
【0046】
(3)ロープ10の本体部11の最外層は、熱可塑性樹脂材料からなる保護層24で被覆されている。そのため、ロープ10の外面での強化繊維のほつれがより抑制される。ロープ10の耐久性が向上する。また、繊維強化樹脂層23を構成する強化繊維の耐候性及び耐摩耗性が向上する。
【0047】
(4)ロープ10の両端部には、取付部12が本体部11と一体に形成されている。南京錠等を取り付ける部分を別部材で設ける必要がなく、ロープ10の構成が簡略化する。
(5)取付部12には、本体部11と比較して硬質な樹脂材料からなる硬質樹脂層が形成されている。そのため、一体形成された取付部12であっても、その強度が向上している。
【0048】
(6)上記実施形態のロープ10の製造方法は、金属製のワイヤ21の外面に、樹脂未含浸の強化繊維束を編み組みして強化繊維層22を積層する第1編組工程と、強化繊維層22の外面に、熱硬化性樹脂が含浸された繊維強化樹脂製のトウプリプレグを編み組みして繊維強化樹脂層23を積層する第2編組工程とを備えている。そして、第1編組工程と第2編組工程を、ブレイディング装置で同時に行っている。
【0049】
そのため、軽量であって、耐切断性に優れたロープ10の製造工程を簡略化することができる。
(7)ロープ10の製造方法は、熱硬化体の両端部を、繊維強化樹脂層23を構成する熱硬化性樹脂より硬質な熱硬化性樹脂で被覆する取付部成形工程を備えている。そのため、取付部12を同時に形成することができて、製造工程が簡略化する。
【0050】
上記実施形態は、次のように変更することができる。なお、上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて適用することができる。
・保護層24を省略してもよい。
【0051】
・ロープ10は、本体部11のみであってもよい。この場合、取付部12として別部材を取り付ければよい。
・上記実施形態のロープ10では、一つの強化繊維層22と一つの繊維強化樹脂層23との組み合わせが、3つ積層されているが、これに限定されない。これより少なくてもよく多くてもよい。
【0052】
・上記実施形態のロープ10では、一つの強化繊維層22が4層構造であり、一つの繊維強化樹脂層23が1層構造であるが、これに限定されない。
・強化繊維層22を構成する強化繊維は、繊維強化樹脂層23を構成する強化繊維より耐摩耗性が低くてもよく、同程度でもよい。
【0053】
・強化繊維層22における強化繊維の配向角度は、繊維強化樹脂層23における強化繊維の配向角度より大きくてもよく、同程度でもよい。
・一つの強化繊維層22の複数層の中で、耐摩耗性の異なる強化繊維を混在させてもよい。一つの繊維強化樹脂層23についても同様である。
【0054】
・一つの強化繊維層22の複数層の中で、配向角度の異なる強化繊維を混在させてもよい。一つの繊維強化樹脂層23についても同様である。
・上記実施形態のロープ10の製造方法では、第1編組工程と第2編組工程を同時に行ったが、別々に行ってもよい。また、1~5層目を同時に積層することに限定されない。5層より多くの層を同時に積層してもよく、5層より少ない層を同時に積層してもよい。
【0055】
上記実施形態及び変更例から導き出せる技術思想を以下に追記する。
(イ)盗難防止のために車体に取り付けて使用するセキュリティロープであって、本体部と鍵部材と取り付けるための取付部を備えており、中心に金属製のワイヤが配置され、前記ワイヤの外面に、樹脂未含浸の強化繊維が編み組みされてなる強化繊維層と、繊維強化樹脂製のトウプリプレグが編み組みされてなる繊維強化樹脂層とが積層されており、前記繊維強化樹脂層は前記強化繊維層の外層側に積層されており、前記取付部は前記本体部と一体に形成されていることを特徴とするロープ。
【0056】
(ロ)前記取付部は、前記トウプリプレグを構成する樹脂より硬質な樹脂で被覆されていることを特徴とする上記(イ)に記載のロープ。
【実施例0057】
本発明のロープについてさらに詳細に説明する。
(実施例1)
ステンレス鋼製のワイヤ21(直径1.5mm)を芯材として使用して、ワイヤ21の外層側にブレイディング装置によって強化繊維層22、繊維強化樹脂層23を合計15層積層した。1~4、6~9、11~14層目が強化繊維層22、5、10、15層目が繊維強化樹脂層23である。強化繊維層22は、未含浸のアラミド繊維(比重1.4)を使用して編み組みした。また、繊維強化樹脂層23は、未含浸のアラミド繊維(比重1.4)と、炭素繊維に柔軟エポキシ樹脂を含浸させたトウプリプレグ(樹脂含浸率Rc30%、引張弾性率24t、曲げ弾性率1.3GPa)を使用して編み組みした。繊維強化樹脂層23では、1層あたり、トウプリプレグが4本、未含浸のアラミド繊維が76本の割合で編み組みした。
【0058】
1~4層目の強化繊維層22のアラミド繊維の組角度、5層目の繊維強化樹脂層23のアラミド繊維及びトウプリプレグ(炭素繊維)の組角度は50゜とした。6~9層目の強化繊維層22のアラミド繊維の組角度、10層目の繊維強化樹脂層23のアラミド繊維及びトウプリプレグ(炭素繊維)の組角度は60゜とした。11~14層目の強化繊維層22のアラミド繊維の組角度、15層目の繊維強化樹脂層23のアラミド繊維及びトウプリプレグ(炭素繊維)の組角度も60゜とした。各層における強化繊維の組角度を表1に示した。
【0059】
最外層に熱可塑性樹脂製の熱収縮シートを積層して被覆した後、135℃で60分加熱した。ここでは、ロープ10の本体部11のみを成形し、取付部12を成形する取付部成形工程は行わなかった。得られたロープ10を実施例1とした。実施例1のロープ10の直径は10.6mm、単位長さ当たりの質量は101.6g/mであった。その結果を表2に示した。
【0060】
(実施例2)
強化繊維の組角度を変更した以外は、実施例1と同様である。1~4層目の強化繊維層22のアラミド繊維の組角度、5層目の繊維強化樹脂層23のアラミド繊維及びトウプリプレグ(炭素繊維)の組角度は18゜とした。6~9層目の強化繊維層22のアラミド繊維の組角度、10層目の繊維強化樹脂層23のアラミド繊維及びトウプリプレグ(炭素繊維)の組角度は10゜とした。11~14層目の強化繊維層22のアラミド繊維の組角度、15層目の繊維強化樹脂層23のアラミド繊維及びトウプリプレグ(炭素繊維)の組角度は15゜とした。各層における強化繊維の組角度を表1に示した。
【0061】
最外層に熱可塑性樹脂製の熱収縮シートを積層して被覆した後、135℃で60分加熱した。得られたロープ10を実施例2とした。実施例2のロープ10の直径は7.1mm、単位長さ当たりの質量は63.9g/mであった。その結果を表2に示した。
【0062】
(実施例3)
強化繊維の組角度を変更した以外は、実施例1と同様である。1~4層目の強化繊維層22のアラミド繊維の組角度、5層目の繊維強化樹脂層23のアラミド繊維及びトウプリプレグ(炭素繊維)の組角度は19゜とした。6~9層目の強化繊維層22のアラミド繊維の組角度、10層目の繊維強化樹脂層23のアラミド繊維及びトウプリプレグ(炭素繊維)の組角度は12゜とした。11~14層目の強化繊維層22のアラミド繊維の組角度は18゜、15層目の繊維強化樹脂層23のアラミド繊維及びトウプリプレグ(炭素繊維)の組角度は47゜とした。各層における強化繊維の組角度を表1に示した。
【0063】
最外層に熱可塑性樹脂製の熱収縮シートを積層して被覆した後、135℃で60分加熱した。得られたロープ10を実施例3とした。実施例3のロープ10の直径は9.3mm、単位長さ当たりの質量は72.0g/mであった。その結果を表2に示した。
【0064】
【表1】
(耐切断性評価)
実施例1~3のロープのそれぞれを、切断治具を使用して切断した。切断に要する時間を計測することにより耐切断性を評価した。切断治具は、万能はさみ、アルミボルトクリッパー、ワイヤーロープカッターの3種類を使用した。
【0065】
また、市販されているチェーンロックについても同様に評価した。市販品1はステンレス鋼製ワイヤを芯材として、その外周を繊維又はヤーンからなる複数層の撚織物で被覆したものである。市販品2~4は、ステンレス鋼製ワイヤを芯材として、その外周をポリ塩化ビニル樹脂で被覆したものである。
【0066】
その結果を表2に示した。
【0067】
【表2】
実施例2のロープ10は、実施例1のロープ10より細径であって軽量であるものの、アルミボルトクリッパーに対する切断強度が向上した。各層での強化繊維の組角度を0゜に近づけることで、耐切断性が向上することがわかった。
【0068】
実施例3のロープ10は、実施例2のロープ10より少し太径である。これは、繊維強化樹脂層23のトウプリプレグ(炭素繊維)の組角度をより大きくしたことによる。これにより、万能はさみおよびワイヤーロープカッターに対する耐切断性が向上した。
【0069】
実施例1~3のロープ10は、ステンレス鋼製ワイヤの外周を繊維又はヤーンからなる複数層の撚織物で被覆した市販品1に比べて、耐切断性が顕著に向上していた。また、ステンレス鋼製ワイヤの外周をポリ塩化ビニル樹脂で被覆した市販品2に比べて、アルミボルトクリッパーに対する切断強度が向上し、市販品3、4に比べて、アルミボルトクリッパー及び万能はさみに対する切断強度が向上していた。
【0070】
また、ここでは示していないが、最外層に熱収縮シートを積層していないものを加熱成形して、実施例1~3のロープ10と比較した。これによると、最外層に熱収縮シートを積層することでロープ10が太径となり、万能はさみとワイヤーロープカッターに対する切断強度が向上することがわかった。