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特開2023-65271難燃薬剤保持板、耐火性木質複合材及び耐火木製構造材
<図1>
  • 特開-難燃薬剤保持板、耐火性木質複合材及び耐火木製構造材 図1
  • 特開-難燃薬剤保持板、耐火性木質複合材及び耐火木製構造材 図2
  • 特開-難燃薬剤保持板、耐火性木質複合材及び耐火木製構造材 図3
  • 特開-難燃薬剤保持板、耐火性木質複合材及び耐火木製構造材 図4
  • 特開-難燃薬剤保持板、耐火性木質複合材及び耐火木製構造材 図5
  • 特開-難燃薬剤保持板、耐火性木質複合材及び耐火木製構造材 図6
  • 特開-難燃薬剤保持板、耐火性木質複合材及び耐火木製構造材 図7
  • 特開-難燃薬剤保持板、耐火性木質複合材及び耐火木製構造材 図8
  • 特開-難燃薬剤保持板、耐火性木質複合材及び耐火木製構造材 図9
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023065271
(43)【公開日】2023-05-12
(54)【発明の名称】難燃薬剤保持板、耐火性木質複合材及び耐火木製構造材
(51)【国際特許分類】
   B27M 1/00 20060101AFI20230502BHJP
   B27K 5/00 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
B27M1/00 Z
B27K5/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021175984
(22)【出願日】2021-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000183428
【氏名又は名称】住友林業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小峰 早貴
(72)【発明者】
【氏名】猪野 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】門田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】吉井 良介
【テーマコード(参考)】
2B230
2B250
【Fターム(参考)】
2B230AA07
2B230AA08
2B230BA03
2B230BA04
2B230BA18
2B230CA19
2B230CA30
2B230CB08
2B230CB12
2B230CB25
2B230CC11
2B230EA11
2B230EB27
2B230EB28
2B250AA02
2B250BA06
2B250BA07
2B250CA04
2B250CA11
2B250DA01
2B250DA04
2B250EA02
2B250EA13
2B250FA07
2B250FA31
2B250GA03
2B250HA01
(57)【要約】
【課題】容易に製造することができるとともに、薄さ及び耐火性能を両立することができる、難燃薬剤保持板及び耐火性木質複合材を提供すること。
【解決手段】本発明の難燃薬剤保持板10は、耐火被覆層の形成に用いられ、第1方向X及び第1方向Xと直交する第2方向Yを有し、一面側及び他面側のそれぞれに非貫通の開孔21,22を有する木質基材20と、該開孔21,22それぞれに充填された難燃薬剤含有固形物30とを備えており、一面側の開孔21と他面側の開孔22とは、中心点21a,22aの位置が、第1方向X若しくは第2方向Y又はそれらの両方向にずれている。本発明の耐火性木質複合材は、難燃薬剤保持板10が複数枚積層された構造を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火被覆層の形成に用いられる難燃薬剤保持板であって、
第1方向及び第1方向と直交する第2方向を有し、
一面側及び他面側のそれぞれに非貫通の開孔を有する木質基材と、該開孔それぞれに充填された難燃薬剤含有固形物とを備えており、
一面側の前記開孔と他面側の前記開孔とは、中心点の位置が、第1方向若しくは第2方向又はそれらの両方向にずれている、難燃薬剤保持板。
【請求項2】
前記難燃薬剤保持板において、一面側の前記開孔と他面側の前記開孔とは、平面視において重なっていない、請求項1に記載の難燃薬剤保持板。
【請求項3】
前記難燃薬剤保持板は、その厚み方向の中央域に、一面側の前記開孔の一部と他面側の前記開孔の一部との両方が存在する開孔重複領域を有する、請求項1又は2に記載の難燃薬剤保持板。
【請求項4】
前記木質基材は、複数の単板の積層体からなる合板である、請求項1~3のいずれか一項に記載の難燃薬剤保持板。
【請求項5】
前記難燃薬剤含有固形物が、固体難燃剤を含む硬化性組成物の硬化物、及び固体難燃剤を含む圧粉体のいずれか一方又は両方である、請求項1~4のいずれか一項に記載の難燃薬剤保持板。
【請求項6】
難燃薬剤保持板が複数枚積層された構造を有する耐火性木質複合材であって、
前記難燃薬剤保持板が、請求項1~5のいずれか一項に記載の難燃薬剤保持板である耐火性木質複合材。
【請求項7】
角材からなる荷重支持部と、該荷重支持部の軸方向に沿う3側面又は4側面を被覆する耐火被覆層とを備える耐火木製構造材であって、
各前記側面を被覆する前記耐火被覆層それぞれが、請求項1~5のいずれか一項に記載の難燃薬剤保持板を含んでいる、耐火木製構造材。
【請求項8】
前記耐火被覆層それぞれが、請求項1~5のいずれか一項に記載の難燃薬剤保持板が厚み方向に複数積層されている難燃薬剤保持板積層部を有している、請求項7に記載の耐火木製構造材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃薬剤保持板、耐火性木質複合材及び耐火木製構造材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、木材に耐火性能を持たせることを目的として、種々の技術が提案されている。例えば、特許文献1には、複数の開孔を有する木質基材と、該開孔内に充填された難燃薬剤含有固形物とを備えている難燃薬剤保持体が記載されている。また特許文献1には、難燃薬剤保持体を複数積層されてなる耐火性木質複合材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-59126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の耐火性木質複合材では、高い耐火性能を得るためには、積層された難燃薬剤保持体どうしの位置関係を制御することが望まれる。具体的には、複数の難燃薬剤保持体を、開孔の位置をずらした状態に積層することが望まれる。しかしながら、積層された難燃薬剤保持体の開孔の位置を高精度に制御することは、必ずしも容易でない。
【0005】
また、特許文献1では、木質基材が有する開孔は貫通孔であるので、開孔を形成した後に該開孔に難燃薬剤含有固形物を充填する場合、該難燃薬剤含有固形物が該開孔から飛び出てしまうことがある。難燃薬剤含有固形物が開孔から飛び出てしまった場合には、手作業で補修する必要があるので、特許文献1の耐火性木質複合材の製造工程をライン化することは、必ずしも容易でない。
このように、特許文献1の耐火性木質複合材は、製造の容易さの点で、改善の余地があった。
また、特許文献1の耐火性木質複合材は、耐火性能を向上させるには、積層する難燃薬剤保持体の数を増やす必要があり、該耐火性木質複合材の厚みを抑えながら耐火性能を向上させる点で、改善の余地があった。
【0006】
本発明の目的は、容易に製造することができるとともに、薄さ及び耐火性能を両立することができる難燃薬剤保持板、耐火性木質複合材及び耐火木製構造材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、耐火被覆層の形成に用いられる難燃薬剤保持板であって、第1方向及び第1方向と直交する第2方向を有し、一面側及び他面側のそれぞれに非貫通の開孔を有する木質基材と、該開孔それぞれに充填された難燃薬剤含有固形物とを備えており、一面側の前記開孔と他面側の前記開孔とは、中心点の位置が、第1方向若しくは第2方向又はそれらの両方向にずれている、難燃薬剤保持板を提供するものである。
【0008】
また本発明は、難燃薬剤保持板が複数枚積層された構造を有する耐火性木質複合材であって、前記難燃薬剤保持板が、本発明の難燃薬剤保持板である耐火性木質複合材を提供するものである。
【0009】
また本発明は、角材からなる荷重支持部と、該荷重支持部の軸方向に沿う3側面又は4側面を被覆する耐火被覆層とを備える耐火木製構造材であって、各前記側面を被覆する前記耐火被覆層それぞれが、本発明の難燃薬剤保持板を含んでいる、耐火木製構造材を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、容易に製造することができるとともに、薄さ及び耐火性能を両立することができる難燃薬剤保持板、耐火性木質複合材及び耐火木製構造材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の好ましい実施形態の耐火性木質複合材を示す斜視図である。
図2図2(a)は、図1のA部を平面視した平面図であり、図2(b)は、図2(a)のIIb-IIb線に沿う1枚の難燃薬剤保持板の断面図である。
図3図3は、図1のIII-III線断面の一部を表す断面図である。
図4図4は、難燃薬剤保持板の積層状態の変形例を示す断面図であり、図3相当図である。
図5図5(a)は、本発明の好ましい実施形態の耐火木製構造材の横断面図であり、図5(b)は、図5(a)に示す耐火木製構造材の変形例であり、図5(c)は、本発明の別の実施形態の耐火木製構造材の横断面図である。
図6図6は、実施例1の試験体について燃焼試験を行い、該試験体の温度を測定した結果を示すグラフである。
図7図7は、実施例2の試験体について燃焼試験を行い、該試験体の温度を測定した結果を示すグラフである。
図8図8(a)は、実施例3の試験体について燃焼試験を行ったときの、温度変化の測定位置を示す図であり、図8(b)は、該試験体の温度を測定した結果を示すグラフである。
図9図9(a)は、実施例4の試験体について燃焼試験を行ったときの、温度変化の測定位置を示す図であり、図9(b)は、該試験体の温度を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づいて詳細に説明する。
本発明の好ましい一実施形態の耐火性木質複合材1は、図1に示すように、難燃薬剤保持板10が厚み方向に複数積層された構成を有する。耐火性木質複合材1は、難燃薬剤保持板10が厚み方向Zに2つ積層されている。難燃薬剤保持板10は、平面視において第1方向X及び第1方向Xに直交する第2方向Yを有している。図1に示す実施形態では、2つの難燃薬剤保持板10は、第1方向X及び第2方向Yを一致させた状態で積層されている。難燃薬剤保持板10は、耐火被覆層の形成に用いられるものである。
【0013】
難燃薬剤保持板10は、図2(a)及び図2(b)に示すように、木質基材20と難燃薬剤含有固形物30とを備えている。木質基材20は、厚み方向Zにおいて一面S1と他面S2とを有する。木質基材20は、一面S1側及び他面S2側それぞれに、非貫通の開孔21,22を有する。難燃薬剤含有固形物30は、一面S1側の開孔21及び他面S2側の開孔22それぞれに充填されている。
【0014】
難燃薬剤保持板10は、上述のように、複数の開孔21,22を有する木質基材20と、該開孔21,22それぞれに充填された難燃薬剤含有固形物30とを備えている。この構成により、難燃薬剤保持板10は、木質基材20の開孔21,22それぞれに充填された難燃薬剤含有固形物30により縁切りされているため、例えば難燃薬剤保持板10が燃焼したときに、難燃薬剤保持板10に大きな割れが生じ難くなっている。ここで、縁切りとは、割れの伸長を開孔部分で止めることを意味する。
【0015】
開孔21,22は、図2(b)に示すように、木質基材20を貫通していない。具体的には、一面S1側の開孔(以下、「一面側開孔」ともいう。)21は、該一面S1側が開口しており、他面S2側に底部21bを有している。他面S2側の開孔(以下、「他面側開孔」ともいう。)22は、該他面S2側が開口しており、一面S1側に底部22bを有している。本実施形態では、個々の開孔21,22は略円柱形状を有しており、複数の開孔21,22の形状は略同一となっている。
【0016】
本発明の耐火性木質複合材では、難燃薬剤保持板における一面側開孔と他面側開孔とは、中心点の位置が、第1方向若しくは第2方向又はそれらの両方向にずれている。本実施形態の耐火性木質複合材1では、図2(a)に示すように、難燃薬剤保持板10における一面側開孔21と他面側開孔22とは、中心点21a,22aの位置が、第1方向X及び第2方向Yの両方向にずれている。以下、本実施形態に係る難燃薬剤保持板10における一面側開孔21及び他面側開孔22の配置位置について詳述する。
【0017】
一面側開孔21は、図2(a)に示すように、第1方向X及び第2方向Yのそれぞれに等間隔に形成されている。より詳述すると、一面側開孔21は、その複数が、第2方向Yに沿って一定の間隔Pyで一列に配された第1一面側開孔列21Rを形成している。第1一面側開孔列21Rは、第1方向Xに間隔を空けて複数列配されている。第1方向Xに隣り合う第1一面側開孔列21Rを構成する一面側開孔21どうしは、第2方向Yにおける一面側開孔21の中心点21aどうしの位置が一致している。また、一面側開孔21は、その複数が、第1方向Xに沿って一定の間隔Pxで一列に配された第2一面側開孔列21Lを形成している。第2一面側開孔列21Lは、第2方向Yに間隔を空けて複数列配されている。第2方向Yに隣り合う第2一面側開孔列21Lを構成する一面側開孔21どうしは、第1方向Xにおける開孔21の中心点21aどうしの位置が一致している。
【0018】
つまり、第1方向Xに隣り合う第1一面側開孔列21Rを構成する一面側開孔21は、第1方向Xに沿って一定の間隔で一列に配された第2一面側開孔列21Lを形成している。そして、第1一面側開孔列21Rを構成する一面側開孔21の間隔Pyと、第2一面側開孔列21Lを構成する開孔21の間隔Pxとは一致している。「第1一面側開孔列21Rを構成する一面側開孔21の間隔Py」とは、第2方向Yに隣り合う一面側開孔21の中心点21aどうしの距離を意味し、「第2一面側開孔列21Lを構成する一面側開孔21の間隔Px」とは、第1方向Xに隣り合う一面側開孔21の中心点21aどうしの距離を意味する(図2(a)参照)。
【0019】
他面側開孔22は、図2(a)に示すように、第1方向X及び第2方向Yのそれぞれに等間隔に形成されている。より詳述すると、他面側開孔22は、その複数が、第2方向Yに沿って一定の間隔Qyで一列に配された第1他面側開孔列22Rを形成している。第1他面側開孔列22Rは、第1方向Xに間隔を空けて複数列配されている。第1方向Xに隣り合う第1他面側開孔列22Rを構成する他面側開孔22どうしは、第2方向Yにおける他面側開孔22の中心点22aどうしの位置が一致している。また、他面側開孔22は、その複数が、第1方向Xに沿って一定の間隔Qxで一列に配された第2他面側開孔列22Lを形成している。第2他面側開孔列22Lは、第2方向Yに間隔を空けて複数列配されている。第2方向Yに隣り合う第2他面側開孔列22Lを構成する他面側開孔22どうしは、第1方向Xにおける開孔22の中心点22aどうしの位置が一致している。
【0020】
つまり、第1方向Xに隣り合う第1他面側開孔列22Rを構成する他面側開孔22は、第1方向Xに沿って一定の間隔で一列に配された第2他面側開孔列22Lを形成している。そして、第1他面側開孔列22Rを構成する他面側開孔22の間隔Qyと、第2他面側開孔列22Lを構成する開孔22の間隔Qxとは一致している。「第1他面側開孔列22Rを構成する他面側開孔22の間隔Qy」とは、第2方向Yに隣り合う他面側開孔22の中心点22aどうしの距離を意味し、「第2他面側開孔列22Lを構成する他面側開孔22の間隔Qx」とは、第1方向Xに隣り合う他面側開孔22の中心点22aどうしの距離を意味する(図2(a)参照)。
【0021】
本実施形態に係る難燃薬剤保持板10では、上述のように、一面側開孔21と他面側開孔22とは、中心点21a,22aの位置が、第1方向X及び第2方向Yの両方向にずれている。より具体的には、第1方向Xに隣り合う第1一面側開孔列21Rどうしの間に、第1他面側開孔列22Rが配されている。第1一面側開孔列21Rと第1他面側開孔列22Rとは第2方向Yに半ピッチ分ずれている。また、第2方向Yに隣り合う第2一面側開孔列21Lどうしの間に、第2他面側開孔列22Lが配されている。更に、第2一面側開孔列21Lと第2他面側開孔列22Lとは第1方向Xに半ピッチ分ずれている。上記では、積層された2つの難燃薬剤保持板10のうち、上側の難燃薬剤保持板10における開孔21,22の配置について説明したが、下側の難燃薬剤保持板10における開孔21,22の配置についても同様である。
【0022】
耐火性木質複合材1では、図1及び図3に示すように、難燃薬剤保持板10が2つ積層されている。本実施形態では、図3に示すように、厚み方向Zに隣り合う難燃薬剤保持板10における、互いの対向面に形成された開孔21,22どうしが重なっていない。具体的には、難燃薬剤保持板10の他面側開孔22と、該難燃薬剤保持板10と厚み方向Zに隣り合う難燃薬剤保持板10の一面側開孔21とは重なっていない。
【0023】
本実施形態において、厚み方向Zに隣り合う難燃薬剤保持板10どうしの位置関係は特に制限されず、例えば、図4に示すように、厚み方向Zに隣り合う難燃薬剤保持板10における、互いの対向面に形成された開孔21,22どうしが完全に重なっていてもよい。なお、厚み方向Zに隣り合う難燃薬剤保持板10における、互いの対向面に形成された開孔21,22のどうしは、互いの一部が重なっていてもよい。
【0024】
本実施形態の耐火性木質複合材1は、例えば、以下のように製造することができる。
まず、開孔21,22が形成されていない木質基材20に、開孔21,22を、中心点21a,22aの位置を第1方向X及び第2方向Yにずらして形成する。次に、開孔21,22それぞれに、難燃薬剤含有固形物30を充填する。このようにして製造した難燃薬剤保持板10どうしを積層し、耐火性木質複合材1を製造する。積層した難燃薬剤保持板10どうしは、例えば接着剤等により接合することが好ましい。
【0025】
開孔21,22を形成する順番と、難燃薬剤含有固形物30を充填する順番とは特に制限されない。一面側開孔21及び他面側開孔22のいずれか一方の開孔を形成した後に他方の開孔を形成してもよいし、両方の開孔21,22を同時に形成してもよい。また、一面側開孔21及び他面側開孔22のいずれか一方に難燃薬剤含有固形物30を充填した後に他方の開孔に難燃薬剤含有固形物30を充填してもよいし、両方の開孔21,22に同時に難燃薬剤含有固形物30を充填してもよい。また、一面側開孔21及び他面側開孔22のいずれか一方の開孔を形成した後に、該形成された開孔に難燃薬剤含有固形物30を充填し、その後、他方の開孔を形成した後に、該形成された開孔に難燃薬剤含有固形物30を充填してもよい。耐火性木質複合材1の製造方法の詳細については後述する。
【0026】
本実施形態の耐火性木質複合材1によれば、難燃薬剤保持板10が有する一面側開孔21及び他面側開孔22は非貫通の開孔であるので、該開孔21,22に難燃薬剤含有固形物30を充填するときに、難燃薬剤含有固形物30が該開孔21,22から飛び出しにくい。したがって、耐火性木質複合材1を製造するときに、製造途中の耐火性木質複合材1を手作業により補修する必要がないので、耐火性木質複合材1の製造工程をライン化することが容易である。
【0027】
また本実施形態の耐火性木質複合材1は、上述のように、難燃薬剤保持板10において、一面側開孔21の中心点21aの位置と、他面側開孔22の中心点22aの位置とが第1方向X及び第2方向Yの両方向にずれている。このような構成により、耐火性木質複合材1の一面、即ち、厚み方向Zに隣り合う難燃薬剤保持板10のうち最上層の難燃薬剤保持板10の一面S1における一面側開孔21でない部分が燃焼し、燃焼が厚み方向Z下側に進行したとしても、該部分の厚み方向Z下側には、難燃薬剤含有固形物30が充填された他面側開孔22が位置しているので、燃焼が厚み方向Z下側に進行することを防ぐことができるようになっている。したがって、難燃薬剤保持板10における一面側開孔21でない部分の厚み方向Z下側に、別の難燃薬剤保持板10が有する難燃薬剤含有固形物30が位置するように、難燃薬剤保持板10どうしを積層する必要は必ずしもない。つまり、本実施形態の耐火性木質複合材1は、積層された難燃薬剤保持板10どうしの位置関係を任意のものとすることができるので、複数の難燃薬剤保持板10を積層して耐火性木質複合材1とすることが容易である。
このように、本実施形態の耐火性木質複合材1は容易に製造することができる。
【0028】
また、本実施形態の耐火性木質複合材1は、難燃薬剤保持板10が有する一面側開孔21及び他面側開孔22の中心点21a,22aの位置が、上述のような位置関係となっていることによって、該難燃薬剤保持板10において燃焼が厚み方向Z下側に進行することを防ぐことができるようになっているので、耐火性木質複合材1が有する難燃薬剤保持板10の数が少ない場合であっても、該耐火性木質複合材1の耐火性能を維持することができる。尤も、耐火性木質複合材1における難燃薬剤保持板10の積層数は、特に制限されない。本実施形態では、難燃薬剤保持板10を2つ積層しているが、難燃薬剤保持板10を3つ以上積層してもよい。例えば、難燃薬剤保持板10を2つ以上4つ以下積層してもよい。
また、本実施形態の耐火性木質複合材1は、上述のように、難燃薬剤保持板10が有する一面側開孔21及び他面側開孔22が非貫通である。したがって、例えば、難燃薬剤含有固形物30が一面側開孔21又は他面側開孔22から脱落することを防止することを目的として、木質基材20の一面S1側又は他面S2側に封止層を設ける必要がない。そのため、難燃薬剤保持板10の厚みが、木質基材20の厚みよりも厚くなることを抑制することができる。したがって、難燃薬剤保持板10が積層された耐火性木質複合材1が厚くなることを抑制することができる。
このように、本実施形態の耐火性木質複合材1は、薄さ及び耐火性能を両立することができる。
【0029】
耐火性木質複合材1に用いる難燃薬剤保持板10は、一面側開孔21及び他面側開孔22が非貫通の開孔であるので、難燃薬剤含有固形物30を充填するときに、難燃薬剤含有固形物30が飛び出しにくく、製造が容易である。また、単層で使用する場合及び積層して使用する場合のいずれにおいても、薄さ及び耐火性能を両立させやすい。
【0030】
本実施形態に係る難燃薬剤保持板10は、図2(b)に示すように、その厚み方向Zにおいて、一面側開孔21の一部と他面側開孔22の一部との両方が存在する開孔重複領域25を有する。換言すれば、難燃薬剤保持板10は、その厚み方向Zにおいて、一面側開孔21の底部21bの位置が、他面側開孔22の底部22bの位置よりも、該難燃薬剤保持板10の他面S2側に位置している。より具体的には、難燃薬剤保持板10は、一面側開孔21の深さH1と他面側開孔22の深さH2との合計深さ(H1+H2)が、該難燃薬剤保持板10の厚みHよりも大きくなっている。
【0031】
難燃薬剤保持板10は、図2(b)に示すように、その厚み方向Zの中央域10Cに、開孔重複領域25を有することが好ましい。こうすることにより、難燃薬剤保持板10の耐火性能を一層向上させることができるので、耐火性木質複合材1の耐火性能を一層向上させることができる。この効果が一層顕著に奏されるようにする観点から、難燃薬剤保持板10の厚みHに対する、開孔重複領域25の厚み方向Zの長さH3の比H3/Hは、好ましくは0.04以上、より好ましくは0.08以上である。前記比H3/Hの上限は、例えば0.8とすることができる。開孔重複領域25の厚み方向Zの長さH3は、一面側開孔21の深さH1と他面側開孔22の深さH2との合計深さ(H1+H2)から、難燃薬剤保持板10の厚みHを引いて算出することができる。
【0032】
耐火性木質複合材1が有する複数の難燃薬剤保持板10のうち、少なくとも1つの難燃薬剤保持板10において前記比H3/Hが上述の範囲内となっていることが好ましく、複数の難燃薬剤保持板10の全てで前記比H3/Hが上述の範囲内となっていることがより好ましい。
難燃薬剤保持板10の中央域10Cは、例えば図2(b)に示すように、難燃薬剤保持板10を厚み方向Zに四等分して四つの領域に分けたときの中央の2領域とすることができる。
【0033】
難燃薬剤保持板10の厚みHに対する、一面側開孔21の深さH1の比H1/Hは、好ましくは0.3以上0.9以下、より好ましくは0.5以上0.8以下である。一面側開孔21の深さH1とは、一面側開孔21における最も深い部分の深さを意味する。耐火性木質複合材1が有する複数の難燃薬剤保持板10のうち少なくとも1つで前記比H1/Hが上述の範囲内となっていることが好ましく、複数の難燃薬剤保持板10の全てで前記比H1/Hが上述の範囲内となっていることがより好ましい。
【0034】
難燃薬剤保持板10の厚みHに対する、他面側開孔22の深さH2の比H2/Hは、好ましくは0.3以上0.9以下、より好ましくは0.5以上0.8以下である。他面側開孔22の深さH2とは、他面側開孔22における最も深い部分の深さを意味する。耐火性木質複合材1が有する複数の難燃薬剤保持板10のうち少なくとも1つで前記比H2/Hが上述の範囲内となっていることが好ましく、複数の難燃薬剤保持板10の全てで前記比H2/Hが上述の範囲内となっていることがより好ましい。
前記比H1/Hとで前記比H2/Hとは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0035】
難燃薬剤保持板10の厚みHは、好ましくは12mm以上48mm以下、より好ましくは18mm以上30mm以下である。耐火性木質複合材1が有する複数の難燃薬剤保持板10のうち少なくとも1つで前記厚みHが上述の範囲内となっていることが好ましく、複数の難燃薬剤保持板10の全てで前記厚みHが上述の範囲内となっていることがより好ましい。
【0036】
難燃薬剤保持板10において、一面側開孔21と他面側開孔22とは、該難燃薬剤保持板10の平面視において、互いの一部どうしが重なっていてもよいし、図2(a)に示すように、重なっていなくてもよい。
難燃薬剤保持板10において、一面側開孔21の50%以上100%以下が他面側開孔22と重なっていないことが好ましく、一面側開孔21の70%以上100%以下が他面側開孔22と重なっていないことがより好ましく、一面側開孔21の90%以上100%以下が他面側開孔22と重なっていないことが更に好ましい。耐火性木質複合材1が有する複数の難燃薬剤保持板10のうち少なくとも1つで、他面側開孔22と重なっていない一面側開孔21の割合が上述の範囲内となっていることが好ましく、複数の難燃薬剤保持板10の全てで、他面側開孔22と重なっていない一面側開孔21の割合が上述の範囲内となっていることがより好ましい。
【0037】
難燃薬剤保持板10において、一面側開孔21の開口面積の合計は、木質基材20の一面S1の面積に対して、難燃薬剤含有固形物30を必要量保持することの観点から、9%以上であることが好ましく、11%以上であることがより好ましく、30%以下であることが好ましく、22%以下であることがより好ましく、9%以上30%以下であることが好ましく、11%以上22%以下であることがより好ましい。耐火性木質複合材1が有する複数の難燃薬剤保持板10のうち少なくとも1つで、木質基材20の一面S1の面積に対する一面側開孔21の開口面積の合計の割合が上述の範囲内となっていることが好ましく、複数の難燃薬剤保持板10の全てで、該一面S1の面積に対する一面側開孔21の開口面積の合計の割合が上述の範囲内となっていることがより好ましい。
【0038】
難燃薬剤保持板10において、他面側開孔22の開口面積の合計は、木質基材20の他面S2の面積に対して、難燃薬剤含有固形物30を必要量保持することの観点から、9%以上であることが好ましく、11%以上であることがより好ましく、30%以下であることが好ましく、22%以下であることがより好ましく、9%以上30%以下であることが好ましく、11%以上22%以下であることがより好ましい。耐火性木質複合材1が有する複数の難燃薬剤保持板10のうち少なくとも1つで、木質基材20の他面S2の面積に対する他面側開孔22の開口面積の合計の割合が上述の範囲内となっていることが好ましく、複数の難燃薬剤保持板10の全てで、該他面S2に対する他面側開孔22の開口面積の合計の割合が上述の範囲内となっていることがより好ましい。
前記一面S1に対する一面側開孔21の開口面積の合計の割合と、前記他面S2に対する他面側開孔22の開口面積の合計の割合とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0039】
一面側開孔21の直径は、難燃薬剤含有固形物30を必要量保持することと、縁切りすることで加熱試験時に大きな割れが生じにくくすることの観点から、6mm以上であることが好ましく、7mm以上であることがより好ましく、12mm以下であることが好ましく、11mm以下であることがより好ましく、6mm以上12mm以下であることが好ましく、7mm以上11mm以下であることがより好ましい。耐火性木質複合材1が有する複数の難燃薬剤保持板10のうち少なくとも1つで一面側開孔21の直径が上述の範囲内となっていることが好ましく、複数の難燃薬剤保持板10の全てで一面側開孔21の直径が上述の範囲内となっていることがより好ましい。
【0040】
他面側開孔22の直径は、難燃薬剤含有固形物30を必要量保持することと、縁切りすることで加熱試験時に大きな割れが生じにくくすることの観点から、6mm以上であることが好ましく、7mm以上であることがより好ましく、12mm以下であることが好ましく、11mm以下であることがより好ましく、6mm以上12mm以下であることが好ましく、7mm以上11mm以下であることがより好ましい。耐火性木質複合材1が有する複数の難燃薬剤保持板10のうち少なくとも1つで他面側開孔22の直径が上述の範囲内となっていることが好ましく、複数の難燃薬剤保持板10の全てで他面側開孔22の直径が上述の範囲内となっていることがより好ましい。
一面側開孔21の直径と、他面側開孔22の直径とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0041】
難燃薬剤含有固形物30は、一面側開孔21及び他面側開孔22それぞれと、同形同寸であってもよいし、一面側開孔21及び他面側開孔22それぞれよりも小さい寸法を有していてもよい。
より具体的には、一面側開孔21の体積に対する、該開孔21に充填される難燃薬剤含有固形物30の体積は、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上であり、上限は100%である。耐火性木質複合材1が有する複数の難燃薬剤保持板10のうち少なくとも1つで、一面側開孔21の体積に対する、該開孔21に充填される難燃薬剤含有固形物30の体積が上述の範囲内となっていることが好ましく、複数の難燃薬剤保持板10の全てで、一面側開孔21の体積に対する、該開孔21に充填される難燃薬剤含有固形物30の体積が上述の範囲内となっていることがより好ましい。
【0042】
また他面側開孔22の体積に対する、該開孔22に充填される難燃薬剤含有固形物30の体積は、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上であり、上限は100%である。耐火性木質複合材1が有する複数の難燃薬剤保持板10のうち少なくとも1つで、他面側開孔22の体積に対する、該開孔22に充填される難燃薬剤含有固形物30の体積が上述の範囲内となっていることが好ましく、複数の難燃薬剤保持板10の全てで、他面側開孔22の体積に対する、該開孔22に充填される難燃薬剤含有固形物30の体積が上述の範囲内となっていることがより好ましい。
【0043】
第1一面側開孔列21R及び第2一面側開孔列21Lを構成する一面側開孔21の間隔Py及び間隔Pxは、難燃薬剤含有固形物30を必要量保持することと、縁切りすることで加熱試験時に大きな割れが生じにくくすることの観点から、15mm以上であることが好ましく、18mm以上であることがより好ましく、30mm以下であることが好ましく、25mm以下であることがより好ましく、15mm以上30mm以下であることが好ましく、18mm以上25mm以下であることがより好ましい(図2(a)参照)。耐火性木質複合材1が有する複数の難燃薬剤保持板10のうち少なくとも1つで一面側開孔21の間隔Py及び間隔Pxが上述の範囲内となっていることが好ましく、複数の難燃薬剤保持板10の全てで一面側開孔21の間隔Py及び間隔Pxが上述の範囲内となっていることがより好ましい。
【0044】
第1他面側開孔列22R及び第2他面側開孔列22Lを構成する他面側開孔22の間隔Qy及び間隔Qxは、難燃薬剤含有固形物30を必要量保持することと、縁切りすることで加熱試験時に大きな割れが生じにくくすることの観点から、15mm以上であることが好ましく、18mm以上であることがより好ましく、30mm以下であることが好ましく、25mm以下であることがより好ましく、15mm以上30mm以下であることが好ましく、18mm以上25mm以下であることがより好ましい(図2(a)参照)。耐火性木質複合材1が有する複数の難燃薬剤保持板10のうち少なくとも1つで他面側開孔22の間隔Qy及び間隔Qxが上述の範囲内となっていることが好ましく、複数の難燃薬剤保持板10の全てで他面側開孔22の間隔Qy及び間隔Qxが上述の範囲内となっていることがより好ましい。
【0045】
本実施形態では、一面側開孔21は、第1方向X及び第2方向Yのそれぞれに等間隔に形成されているが、第1一面側開孔列21Rを構成する一面側開孔21の間隔Pyと、第2一面側開孔列21Lを構成する一面側開孔21の間隔Pxとは異なっていてもよい。
第1一面側開孔列21Rを構成する一面側開孔21の間隔Pyと第2一面側開孔列21Lを構成する一面側開孔21の間隔Pxとが異なっている場合、第2一面側開孔列21Lを構成する一面側開孔21の間隔Pxは、難燃薬剤保持板10自体の一方向の極端な強度低下を防ぐことと、薬剤保持における均質性を確保することの観点から、15mm以上であることが好ましく、18mm以上であることがより好ましく、50mm以下であることが好ましく、25mm以下であることがより好ましく、15mm以上50mm以下であることが好ましく、18mm以上25mm以下であることがより好ましい(図2(a)参照)。耐火性木質複合材1が有する複数の難燃薬剤保持板10のうち少なくとも一面側開孔21の間隔Pxが上述の範囲内となっていることが好ましく、複数の難燃薬剤保持板10の全てで一面側開孔21の間隔Pxが上述の範囲内となっていることがより好ましい。
【0046】
また本実施形態では、他面側開孔22は、第1方向X及び第2方向Yのそれぞれに等間隔に形成されているが、第1他面側開孔列22Rを構成する他面側開孔22の間隔Qyと、第2他面側開孔列22Lを構成する他面側開孔22の間隔Qxとは異なっていてもよい。
第1他面側開孔列22Rを構成する他面側開孔22の間隔Qyと第2他面側開孔列22Lを構成する他面側開孔22の間隔Qxとが異なっている場合、第2他面側開孔列22Lを構成する他面側開孔22の間隔Qxは、難燃薬剤保持板10自体の一方向の極端な強度低下を防ぐことと、薬剤保持における均質性を確保することの観点から、15mm以上であることが好ましく、18mm以上であることがより好ましく、50mm以下であることが好ましく、25mm以下であることがより好ましく、15mm以上50mm以下であることが好ましく、18mm以上25mm以下であることがより好ましい(図2(a)参照)。耐火性木質複合材1が有する複数の難燃薬剤保持板10のうち少なくとも他面側開孔22の間隔Qxが上述の範囲内となっていることが好ましく、複数の難燃薬剤保持板10の全てで他面側開孔22の間隔Qxが上述の範囲内となっていることがより好ましい。
【0047】
本実施形態の耐火性木質複合材1は、図3に示すように、厚み方向Zの両端に位置する難燃薬剤保持板10の外面側には何も配されていないところ、図4に示すように、厚み方向Zの両端に位置する難燃薬剤保持板10のうち少なくとも1つにおける別の難燃薬剤保持板10が存在する側とは反対側に化粧層5が配されていてもよい。具体的には、耐火性木質複合材1における火災時に外部から加熱される側の面を化粧層5が構成していることが好ましい。化粧層5としては、単板、合成樹脂、紙等からなる化粧シート並びに塗工層等を用いることができる。
厚み方向Zの両端に位置する難燃薬剤保持板10のうち少なくとも1つにおける別の難燃薬剤保持板10が存在する側とは反対側に化粧層5が配されていることにより、耐火性木質複合材1の意匠性を向上させることが可能となる。
厚み方向Zの両端に位置する難燃薬剤保持板10は、複数の難燃薬剤保持板10のうち、厚み方向Zの端部又は最も端部に寄りに位置する難燃薬剤保持板である。
【0048】
また、厚み方向Zの両端に位置する難燃薬剤保持板10の少なくとも1つは、別の難燃薬剤保持板10が存在する側とは反対側の面S1に難燃薬剤が塗布されていてもよい。具体的には、耐火性木質複合材1の火災時に外部から加熱される側を構成する面に難燃薬剤が塗布されていることが好ましい。耐火性木質複合材1が化粧層5を有している場合は、化粧層5における、難燃薬剤保持板10側とは反対側の面に難燃薬剤が塗布されていてもよい。また、化粧層5及び難燃薬剤保持板10の一方又は双方に難燃薬剤が塗布される等の方法により、化粧層5と難燃薬剤保持板10との間に難燃薬剤が配されていても良い。
化粧層5や難燃薬剤保持板10に塗布する難燃薬剤は、難燃薬剤含有固形物30に含まれる固体難燃剤と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
耐火性木質複合材1の外側を構成する面に難燃薬剤が塗布されていることにより、耐火性木質複合材1の耐火性能をより向上させることが可能となる。
【0049】
次に、本実施形態の耐火性木質複合材1の構成材料について説明する。
木質基材20は複数の単板又は板材の積層体からなる。木質基材20が単板の積層体から構成される場合、積層体は、繊維の配向方向が互いに異なる複数種類の単板を含んでいても良いし、単板積層板(LVL)のように、繊維の配向方向が同じ単板のみから構成されていても良い。木質基材20は、複数の単板の積層体からなるものに代えて非積層材である1枚の板材から構成されていてもよい。
木質基材20を構成する木材、例えば単板の原料木材の樹種は、針葉樹でも広葉樹でも良く、例えば、オーク、チーク、ウォルナット、ファルカタ、バルサ、レッドラワン、タモ、ニレ、カバ、キリ、スギ、ヒノキ、カラマツ、エゾマツ、トドマツ、アカマツ、ヒバ、ホワイトウッド、オウシュウアカマツ、ダフリカカラマツ、ダグラスファー等を用いることができる。原料木材の樹種としては、上述した各種の樹種から選択した1種又は2種以上を組み合わせた積層体を木質基材20としてもよい。
これらの中でも、燃焼時の発熱量を軽減させることと、単板の原材料として確保し易いことの観点から、スギ、トドマツ等の、針葉樹で比較的軽く、原料確保が容易な樹種を用いることが好ましい。また同様の観点から、気乾密度が0.3~0.6g/cmであるものを用いることが好ましく、気乾密度が、0.4~0.5g/cmであるものを用いることが更に好ましい。気乾密度は、複数の単板積層体の平均値により決定される。
【0050】
難燃薬剤含有固形物30は、固体状態の固形物である。難燃薬剤含有固形物30は、硬化物であってもよいし、圧粉体であってもよい。難燃薬剤含有固形物30は耐水性を有していることが好ましい。難燃薬剤含有固形物30に耐水性等の性能を付与するために、該難燃薬剤含有固形物30の表面をアクリル樹脂、ウレタン樹脂、ウレタンアクリル樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン変性ポリエステル樹脂、シリコーン変性アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリケート樹脂、フッ素樹脂、塩素系樹脂、ポリオレフィン樹脂等の耐水性を付与する機能を有する材料により、コーティングしてもよい。無溶剤型湿気硬化シリコーンコーティング組成物(KR-400、信越化学工業(株)製)等の市販品を使用することもできる。
【0051】
硬化物は、固体難燃剤を含む硬化性組成物を硬化させたものである。耐火性木質複合材1の製造段階においては、ペースト状の硬化性組成物を、流動体の状態で開孔21,22に充填した後に硬化させて硬化物としてもよいし、ペースト状の硬化性組成物を硬化させて硬化物とした後、該硬化物を開孔21,22に充填してもよい。
硬化性組成物は、所定の条件又は操作により硬化するものである。そのような硬化性組成物としては、所定の条件又は操作により硬化する成分を含むものが挙げられる。所定の条件又は操作としては、常温硬化、湿気硬化、40~150℃加熱硬化、触媒存在下における化学反応による硬化等が挙げられる。また、硬化性組成物に鉄粉などの導電体を加えて、高周波加熱により硬化させてもよい。また硬化性組成物は、製造段階では溶媒を含む流動体となっていてもよい。この場合、時間経過や加熱等により溶媒を揮発させることにより、硬化性組成物を硬化物とすることができる。溶媒としては有機溶媒等を用いることができる。
【0052】
常温硬化する成分は、大気下常温で放置することにより硬化する成分であり、例えば酸化硬化型の塗料、湿気硬化型の塗料等が挙げられる。酸化硬化する成分は、大気中の酸素を介した酸化重合によって硬化する成分であり、不飽和結合を有する炭化水素系化合物を含んだ塗料等が挙げられる。湿気硬化する成分は、大気中の水分と反応して硬化する成分であり、例えばアルコキシ基あるいはシラノール基を有するシリコーン系塗料等が挙げられる。40~150℃加熱硬化する成分は、40~150℃に加熱することにより硬化する成分であり、水酸基とブロックイソシアネートとの反応によって硬化するウレタン系塗料、エポキシ基の反応や開環重合によって硬化するエポキシ系塗料等が挙げられる。
【0053】
本発明のおける硬化物は硬化反応の促進を目的として硬化触媒を含んでいても良く、硬化触媒の種類・混合量・添加方法等は、組成物の種類に応じた公知の方法、条件を採用することができる。硬化性組成物が、触媒存在下における化学反応によって硬化する成分を含んでいる場合、該硬化性組成物は硬化触媒を含んでいることが好ましい。硬化触媒としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、ギ酸ナトリウム、ギ酸カリウム、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキサイド、テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド、テトラメチルアンモニウムアセテート、n-ヘキシルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、ジシアンジアミド等の塩基性化合物類;テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、チタンアセチルアセトナート、アルミニウムトリイソブトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジイソプロポキシ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、過塩素酸アルミニウム、塩化アルミニウム、コバルトオクチレート、コバルトアセチルアセトナート、鉄アセチルアセトナート、スズアセチルアセトナート、ジブチルスズオクチレート、ジブチルスズラウレート等の含金属化合物類;p-トルエンスルホン酸、トリクロル酢酸等の酸性化合物類などが挙げられる。これらの中でも、特にプロピオン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキサイド、テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジイソプロポキシ(エチルアセトアセテート)アルミニウム等が挙げられ、これらの中でも有機系配位子を含有したアルミニウム触媒や有機系配位子を含有したチタン系触媒等の含金属化合物類が好ましい。
【0054】
本実施形態においては、硬化する成分として、硬化性化合物を含んでいることが好ましい。硬化性化合物は、所定の条件又は操作により硬化する化合物である。所定の条件又は操作としては、上述したものが挙げられる。硬化性化合物としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ウレタンアクリル樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン変性ポリエステル樹脂、シリコーン変性アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリケート樹脂、フッ素樹脂、塩素系樹脂、ポリオレフィン樹脂等の樹脂成分を含有する湿気硬化性または加熱硬化性の塗料組成物等が挙げられる。
【0055】
また、硬化性化合物は、下記一般式(1)で表される化合物若しくはその加水分解縮合物又はその両方であることが好ましい。
SiR (4-n) (1)
(式中、R1は、それぞれ独立して、水素原子、又は一つ以上のアミノ基、エポキシ基、酸無水物基、マレイミド基、ビニル基、アリル基、アクリル基、メタアクリル基、若しくはヘテロ環基で置換されていてもよい、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数6~20のアリール基若しくは炭素原子数7~20のアラルキル基を表し、R2は、それぞれ独立して水酸基、炭素原子数1~6のアルコキシ基、又はハロゲン原子を表し、nは、1~4の整数を表す。)
前記nは、3であることが好ましい。前記R1の一部又は全部は、炭素原子数6~20のアルキル基であることが好ましい。また前記R1の一部又は全部は、一つ以上のエポキシ基で置換された炭素原子数1~20のアルキル基であることも好ましい。
【0056】
硬化性化合物は、難燃薬剤の分散、硬化性化合物の扱いやすさ、燃焼後の炭化層形成、耐水性改善の観点から、該硬化性化合物のうちの50質量%以上が上記式(1)で表される化合物であることが好ましく、70質量%以上が上記式(1)で表される化合物であることが更に好ましく、90質量%以上が上記式(1)で表される化合物であることが一層好ましい。
【0057】
硬化性組成物は、上述のように、固体難燃薬剤を含んでいる。本実施形態において、硬化性組成物は、所定の条件又は操作により硬化する成分を含んでおり且つ固体難燃薬剤の含有量が90質量%以下であることが好ましい。硬化性組成物における、固体難燃薬剤の含有量の好ましい範囲については後述する。
【0058】
固体難燃剤は、難燃性を有する薬剤である。固体難燃剤としてはリン系化合物、ホウ素系化合物等が挙げられる。リン系化合物としては、例えば、有機リン化合物、リン酸、リン酸エステル、リン酸塩等が挙げられ、その具体例としては、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸二グアニジン、ポリリン酸アンモニウム、疎水化ポリリン酸アンモニウム、リン酸グアニル尿素等が挙げられる。ホウ素系化合物としては、例えば、有機ホウ素化合物、ホウ酸、硼砂、酸化ホウ素、ホウ酸エステル、ホウ酸塩類等が挙げられる。リン系化合物及びホウ素系化合物以外のその他の化合物としては、例えば、硫酸アンモニウムや、塩化亜鉛等が挙げられる。これらの中でも、有機リン化合物、リン酸、リン酸エステル、リン酸塩、有機ホウ素化合物、ホウ酸、ホウ酸エステル及びホウ酸塩からなる群から選ばれる一種以上であることが好ましく、ホウ酸であることが更に好ましい。なお、固体難燃剤成分は、一種を単独で用いても、2種以上併用してもよい。
【0059】
圧粉体は粉体を圧粉成型したものである。本実施形態においては、圧粉成形により圧粉体を形成し易くする観点から、粉体とバインダーとを混合した状態で圧粉成形することが好ましい。本実施形態に係る粉体は固体難燃剤を含んでいる。バインダーとしては、圧粉体の形成に用いられる公知のものを使用することができ、例えば、ポリビニルアルコール樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ウレタンアクリル樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン変性ポリエステル樹脂、シリコーン変性アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリケート樹脂、フッ素樹脂、塩素系樹脂、ポリオレフィン樹脂等の樹脂成分等が挙げられる。また、バインダーとして硬化性組成物を用いることもできる。
【0060】
圧粉体は、上述のように、固体難燃薬剤を含んでいる。本実施形態において、圧粉体は、粉体を圧粉成型したものであり且つ固体難燃薬剤の含有量が80質量%以上であることが好ましい。圧粉体における、固体難燃薬剤の含有量の好ましい範囲については後述する。
【0061】
難燃薬剤保持板10は、単位体積当たりの難燃薬剤含有固形物30の保持量が、難燃薬剤保持板10自体の強度確保や燃焼時における吸熱性能の向上と炭化断熱層の保持の観点から、90kg/m以上であることが好ましく、100kg/m以上であることがより好ましく、270kg/m以下であることが好ましく、200kg/m以下であることがより好ましく、90kg/m以上270kg/m以下であることが好ましく、100kg/m以上200kg/m以下であることがより好ましい。耐火性木質複合材1が有する複数の難燃薬剤保持板10のうち少なくとも1つで単位体積当たりの難燃薬剤含有固形物30の保持量が上述の範囲内となっていることが好ましく、複数の難燃薬剤保持板10の全てで単位体積当たりの難燃薬剤含有固形物30の保持量が上述の範囲内となっていることがより好ましい。
【0062】
難燃薬剤含有固形物30として固体状態の固形物を用いることで、難燃薬剤の含浸ムラや乾燥時に難燃薬剤の含有量が不均一になってしまうことを防ぎ易くなり、難燃薬剤保持板10における難燃薬剤の含有量を均一にし易くなるとともに、難燃薬剤保持板10における固体難燃剤の含有量を所望の量とし易くなるので、安定的に耐火性能を担保することが可能となる。従来、木材に耐火性能を持たせる技術として、水に溶解した難燃薬剤を木材に含浸させた後、該木材を乾燥させる方法が知られているところ、この方法では、含浸時に難燃薬剤の含浸ムラが生じてしまったり、乾燥時に木材の表面側の難燃薬剤含有量が木材の内部に比べて多くなってしまったりし、木材全体におくる難燃薬剤の含有量が不均一となってしまうため、木材に安定的に耐火性能を担保することは困難であった。
【0063】
また、本実施形態においては、固形物である難燃薬剤含有固形物30として硬化物又は圧粉体を用いているため、耐火性木質複合材1が水に濡れた場合であっても難燃薬剤が溶け出しにくくなっており、耐水性を向上させることが可能となっている。
【0064】
耐火性木質複合材1の耐火性能を向上させる観点から、硬化性組成物は、固体難燃剤を50~90質量%の範囲で含むことが好ましく、60~85質量%の範囲で含むことが更に好ましく、65~80質量%の範囲で含むことが一層好ましい。同様の観点から、圧粉体は、固体難燃剤を80質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上の範囲で含むことが更に好ましく、95質量%以上の範囲で含むことが一層好ましい。圧粉体は、固体難燃剤のみからなるもの、即ち固体難燃薬剤を100質量%含むものであってもよいが、100質量%であると、バインダーの使用量が少なくなって、圧縮成形の条件の設定等が難しくなることもあるため、99質量%以下が好ましく、より好ましくは97質量%以下である。
【0065】
次に、本実施形態の耐火性木質複合材1の製造方法について説明する。
まず、難燃薬剤含有固形物30として硬化物を有する耐火性木質複合材1を製造する場合について説明する。
まず、開孔21,22が形成されていない木質基材20に、開孔21,22を、中心点21a,22aの位置を第1方向X及び第2方向Yにずらして形成する。これとは別に、硬化性組成物を、開孔21,22と略同一形状の容器に入れ、該容器内で硬化性組成物を硬化させる。このようにして硬化物である難燃薬剤含有固形物30を得る。次に、開孔21,22に難燃薬剤含有固形物30を充填する。開孔21,22に難燃薬剤含有固形物30を充填するに先立って、難燃薬剤含有固形物30の表面に又は開孔21,22の周面に接着剤を塗布しておいてもよい。こうすることで、難燃薬剤含有固形物30が開孔21,22から抜けてしまうことを防止することができる。このようにして難燃薬剤保持板10を製造する。このようにして製造した難燃薬剤保持板10どうしを積層し、耐火性木質複合材1を製造する。
【0066】
硬化性組成物を硬化させる方法は特に制限されない。硬化性組成物を硬化させる方法としては、例えば、上述した所定の条件又は操作により硬化させる方法が挙げられる。例えば、硬化性組成物を入れた容器内に硬化触媒を添加し、化学反応を起こさせることにより硬化させてもよいし、硬化性組成物を容器内に入れたまま放置し、硬化性触媒を大気中の水分と反応させることにより硬化させてもよいし、硬化性組成物を入れた容器を加熱することにより硬化させてもよい。
【0067】
難燃薬剤含有固形物30の表面に又は開孔21,22の周面に塗布する接着剤としては、木質複合材の製造に従来用いられている各種公知の接着剤を用いることができ、例えば、ホットメルト型接着剤、酢酸ビニル系接着剤、エポキシ系接着剤等が挙げられる。これらの中でも酢酸ビニル系接着剤を用いることが好ましい。
難燃薬剤保持板10どうしの接合は、木質複合材の製造に従来用いられている各種公知の接着剤を用いることができ、例えば、水性高分子-イソシアネート系接着剤、レゾルシノール樹脂接着剤、レゾルシノール・フェノール樹脂接着剤、メラミン樹脂接着剤、メラミンユリア樹脂接着剤、ウレタン樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤等が挙げられる。これらの中でも、レゾルシノール樹脂接着剤又はレゾルシノール・フェノール樹脂接着剤が好ましい。
【0068】
また、耐火性木質複合材1を以下のようにして製造することもできる。
まず、開孔21,22が形成されていない木質基材20に、開孔21,22を、中心点21a,22aの位置を第1方向X及び第2方向Yにずらして形成する。そして、硬化性組成物を開孔21,22に充填する。硬化性組成物を硬化させて、硬化物である難燃薬剤含有固形物30とすることにより、難燃薬剤保持板10が製造される。このようにして製造した難燃薬剤保持板10どうしを積層し、耐火性木質複合材1を製造する。開孔21,22は、いずれも非貫通であり、底部21b,22bを有しているので、難燃薬剤含有固形物30が充填時に液体状態であっても、難燃薬剤含有固形物30を開孔21,22に容易に充填することができる。硬化性組成物を硬化させる方法は特に制限されず、上述した方法等を用いることができる。
【0069】
なお、上述の製造方法では、開孔21,22が形成されていない木質基材20を使用した場合について説明したが、別工程にて予め開孔21,22が形成されている木質基材20を使用してもよい。
【0070】
次に、難燃薬剤含有固形物30として圧粉体を有する耐火性木質複合材1を製造する場合について説明する。
まず、開孔21,22が形成されていない木質基材20に、開孔21,22を、中心点21a,22aの位置を第1方向X及び第2方向Yにずらして形成する。これとは別に、固体難燃剤を含む粉体を、開孔21,22と略同一形状に圧粉成型し、圧粉体である難燃薬剤含有固形物30を得る。その後、難燃薬剤含有固形物30として硬化物を用いる場合と同様に、開孔21,22に難燃薬剤含有固形物30を充填して難燃薬剤保持板10を製造し、該難燃薬剤保持板10どうしを積層し、耐火性木質複合材1を製造する。
【0071】
また、耐火性木質複合材1を以下のようにして製造することもできる。
まず、開孔21,22が形成されていない木質基材20に、開孔21,22を、中心点21a,22aの位置を第1方向X及び第2方向Yにずらして形成する。そして、固体難燃剤を含む粉体を開孔21,22に充填する。そして、開孔21,22に充填された粉体を圧粉成型し、圧粉体である難燃薬剤含有固形物30とすることにより、難燃薬剤保持板10を製造する。その後、難燃薬剤保持板10どうしを積層し、耐火性木質複合材1を製造する。
【0072】
なお、難燃薬剤含有固形物30として圧粉体を用いる場合においても、別工程にて予め開孔21,22が形成されている木質基材20を使用してもよい。
【0073】
また、上述した製造方法では、難燃薬剤含有固形物が硬化物である場合、硬化性組成物を開孔21,22と略同一形状の容器に入れ、該容器内で硬化性組成物を硬化させて硬化物である難燃薬剤含有固形物30を形成していたが、これに代えて、硬化性組成物を開孔21,22と略同一径の筒状の容器に入れ、開孔21,22の深さよりも長い硬化物を形成した後、該硬化物を開孔21,22の深さに合わせて切断して、難燃薬剤含有固形物30を形成してもよい。筒状の容器としてはタピオカストローが好ましい。
【0074】
また、硬化性組成物は、固体難燃剤、硬化性組成物及び硬化触媒に加えて、本発明の効果を阻害しない範囲で他の成分を含んでいてもよい。硬化性組成物に含まれる他の成分としては、紫外線吸収剤、防蟻剤、酸化防止剤等が挙げられる。また、圧粉体は、固体難燃剤、硬化性組成物及び硬化触媒に加えて、本発明の効果を阻害しない範囲で他の成分を含んでいてもよい。圧粉体に含まれる他の成分としては、紫外線吸収剤、防蟻剤、酸化防止剤等が挙げられる。
【0075】
また、耐火性木質複合材1が難燃薬剤含有固形物30を複数有する場合、該難燃薬剤含有固形物30の全てが硬化物又は圧粉体であってもよいし、複数の難燃薬剤含有固形物30のうちの一部が硬化物であり、残りが圧粉体であってもよい。複数の難燃薬剤含有固形物30のうちの一部が硬化物であり、残りが圧粉体である耐火性木質複合材は、例えば以下のようにして製造することができる。
【0076】
まず、開孔21,22が形成されていない木質基材20に、開孔21,22を、中心点21a,22aの位置を第1方向X及び第2方向Yにずらして形成する。これとは別に、硬化性組成物を開孔21と略同一形状の容器に入れ、該容器内で硬化性組成物を硬化させ、硬化物である難燃薬剤含有固形物30を得る。また、固体難燃剤を含む粉体を、開孔21,22と略同一形状に圧粉成型し、圧粉体である難燃薬剤含有固形物30を得る。次に、複数の開孔21,22のそれぞれに、硬化物である難燃薬剤含有固形物30又は圧粉体である難燃薬剤含有固形物30を充填する。このようにして、硬化物である難燃薬剤含有固形物30及び圧粉体である難燃薬剤含有固形物30の両方を有する難燃薬剤保持板10を製造する。このようにして製造した難燃薬剤保持板10どうしを積層し、耐火性木質複合材1を製造する。
【0077】
また、以下のようにして、複数の難燃薬剤含有固形物30のうちの一部が硬化物であり、残りが圧粉体である耐火性木質複合材を製造することもできる。
まず、開孔21,22が形成されていない木質基材20に、開孔21,22を、中心点21a,22aの位置を第1方向X及び第2方向Yにずらして形成する。そして、複数の開孔21,22のそれぞれに、硬化性組成物又は粉体を充填する。そして、硬化性組成物を硬化させて硬化物である難燃薬剤含有固形物30を形成する。また、粉体を圧粉成型し、圧粉体である難燃薬剤含有固形物30を形成する。このようにして、硬化物である難燃薬剤含有固形物30及び圧粉体である難燃薬剤含有固形物30の両方を有する難燃薬剤保持板10を製造する。このようにして製造した難燃薬剤保持板10どうしを積層し、耐火性木質複合材1を製造する。
【0078】
本実施形態の耐火性木質複合材1における難燃薬剤保持板10は、複数積層し、耐火性木質複合材1として用いるのみならず、1つの難燃薬剤保持板10を単独で用いることもできる。単独の難燃薬剤保持板10は、木質基材20の開孔21に充填された難燃薬剤含有固形物30により縁切りされているため、例えば難燃薬剤保持板10が燃焼したときに、難燃薬剤保持板10に大きな割れが生じ難くなっている。また、難燃薬剤含有固形物30として固体状態の固形物を用いることで、難燃薬剤保持板10における難燃薬剤の含有量を均一にし易くなるとともに、難燃薬剤保持板10における難燃薬剤の含有量を所望の量とし易くなるので、安定的に耐火性能を担保することが可能となる。
【0079】
また難燃薬剤保持板10は、一面側開孔21及び他面側開孔22は非貫通の開孔であるので、該開孔21,22に難燃薬剤含有固形物30を充填するときに、難燃薬剤含有固形物30が該開孔21,22から飛び出しにくい。したがって、難燃薬剤保持板10を製造するときに、製造途中の難燃薬剤保持板10を手作業により補修する必要がないので、難燃薬剤保持板10の製造工程をライン化することが容易である。
このように、難燃薬剤保持板10は容易に製造することができる。
【0080】
また、一面側開孔21及び他面側開孔22が非貫通の開孔であることにより、難燃薬剤含有固形物30が一面側開孔21又は他面側開孔22から脱落することを防止することを目的として、木質基材20の一面S1側又は他面S2側に封止層を設ける必要がない。そのため、難燃薬剤保持板10の厚みが、木質基材20の厚みよりも厚くなることを抑制することができる。
更に、一面側開孔21の中心点21aの位置と、他面側開孔22の中心点22aの位置とが第1方向X及び第2方向Yの両方向にずれていることにより、難燃薬剤保持板10の一面S1における一面側開孔21でない部分が燃焼し、燃焼が厚み方向Z下側に進行したとしても、該部分の厚み方向Z下側には、難燃薬剤含有固形物30が充填された他面側開孔22が位置しているので、燃焼が厚み方向Z下側に進行することを防ぐことができるようになっている。
このように、難燃薬剤保持板10は、薄さと耐火性能を両立することができる。
本発明の難燃薬剤保持板及び耐火性木質複合材は、例えば壁、床又は天井等に張り付けて用いることができる。
【0081】
図5(a)~(c)に、本発明の耐火木製構造材の好ましい実施形態の例を示す。本発明の耐火木製構造材は、木造建築物の梁や柱として使用される構造用の角材である。図5(a)及び(b)に示す耐火木製構造材7Aは、木造建築物の柱として使用される構造用の角材であり、荷重支持部8と耐火被覆層9とを備えている。
図5(a)には、荷重支持部8と耐火被覆層9とを備えた耐火木製構造材7Aが示されている。耐火木製構造材7Aは、木造建築物の柱として使用される構造用の角材である。
荷重支持部8は角材であり、単独で、固定荷重、積載荷重等の長期に生ずる荷重(長期荷重)に対して構造耐力上安全であるようにその断面設計がなされている。斯かる断面設計は公知である。荷重支持部8の横断面形状は四角形状であり、耐火木製構造材7Aの横断面における、荷重支持部8の縦方向の長さ及び横方向の長さは、梁や柱の形状、あるいは大きさ等によって適宜に変更することができる。
【0082】
耐火被覆層9は、荷重支持部8の軸方向に沿う4側面を被覆するように配されている。各側面を被覆する耐火被覆層9それぞれは、難燃薬剤保持板10を含んでいる。より具体的には、各耐火被覆層9それぞれは、難燃薬剤保持板10が厚み方向に複数積層されている難燃薬剤保持板積層部40を有している。難燃薬剤保持板積層部40は、上述の耐火性木質複合材1と同様の構成を具備しており、平面視において第1方向と第1方向に直交する第2方向を有している。耐火被覆層9は、難燃薬剤保持板積層部40に加えて化粧層5を有している。化粧層5としては、上述の耐火性木質複合材1が有する化粧層5と同様のものを用いることができる。なお、耐火被覆層9は化粧層5を有している必要は必ずしもなく、化粧層5を有していなくてもよい。また、各耐火被覆層9それぞれは、難燃薬剤保持板積層部40を有することに代えて、難燃薬剤保持板10を1つのみ有していてもよい。また、難燃薬剤保持板積層部40を有する耐火被覆層9と、難燃薬剤保持板10を1つのみ有する耐火被覆層9とが共存していてもよい。
【0083】
図5(a)では、耐火被覆層9における荷重支持部8が存在する部分から延出している部分9eを、荷重支持部8の角を挟んで両側に位置する耐火被覆層9どうしを接合させた横断面L字形状の耐火被覆層9により形成している。また、耐火被覆層9における荷重支持部8が存在する部分から延出している部分9eは、図5(b)に示すように、荷重支持部8の一側面に沿う耐火被覆層9を、荷重支持部8が存在する部分9sよりも延出させることにより形成してもよい。
【0084】
耐火木製構造材7Aの耐火被覆層9は、開孔21,22に充填された難燃薬剤含有固形物30により木質基材20が縁切りされた難燃薬剤保持板10を具備しているため、耐火木製構造材7Aは、例えば耐火被覆層9が燃焼したときに、耐火被覆層9に大きな割れが生じ難くなっており、燃焼が荷重支持部8に伝わり難くなっている。また耐火木製構造材7Aは、耐火被覆層9が、一面側開孔21の中心点21aの位置と他面側開孔22の中心点22aの位置とが第1方向X及び第2方向Yの両方向にずれている難燃薬剤保持板10を具備しているため、例えば耐火被覆層9が燃焼したときに、燃焼が厚み方向Z下側に進行することを防ぐことができるようになっており、燃焼が荷重支持部8に伝わり難くなっている。
【0085】
次に、本発明の耐火木製構造材の他の実施形態である耐火木製構造材7Bについて、図5(c)を参照しながら説明する。図5(c)に示す耐火木製構造材7Bについては、図5(a)及び(b)に示す耐火木製構造材7Aと異なる点について説明する。特に説明しない点については、耐火木製構造材7Aと同様であり、耐火木製構造材7Aの説明が適宜適用される。
【0086】
図5(c)に示す耐火木製構造材7Bは、木造建築物の梁として使用される構造用の角材である。耐火木製構造材7Bでは、耐火被覆層9は、荷重支持部8の軸方向に沿う3側面を被覆するように配されている。耐火木製構造材7Bの荷重支持部8は、横断面の中心から耐火被覆層9が形成されていない側面に亘って存在するものである。耐火木製構造材7Bの耐火被覆層9が形成されていない側面は、例えば床等を載せて荷重支持部8の上側を被覆してもよい。
以上、本発明の耐火性木質複合材の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、斯かる実施形態に制限されず適宜変更可能である。
例えば、本実施形態の耐火性木質複合材1では、一面側開孔21と他面側開孔22とは、中心点21a,22aの位置が第1方向X及び第2方向Yの両方向にずれていたが、一面側開孔21と他面側開孔22とは、中心点21a,22aの位置が第1方向X及び第2方向Yのいずれか一方向にずれていてもよい。この場合でも、本実施形態の耐火性木質複合材1と同様の効果が奏される。
【0087】
また第1方向Xに隣り合う第1一面側開孔列21Rを構成する一面側開孔21どうしは、第2方向Yにおける一面側開孔21の中心点21aどうしの位置が一致している必要は必ずしもなく、第2方向Yにおける一面側開孔21の中心点21aどうしの位置が異なっていてもよい。例えば、第1方向Xに隣り合う第1一面側開孔列21Rどうしは、第2方向Yに半ピッチ分ずれていてもよいし、3分の2ピッチ分ずれていてもよい。また第2方向Yに隣り合う第2一面側開孔列21Lを構成する一面側開孔21どうしは、第1方向Xにおける一面側開孔21の中心点21aどうしの位置が異なっていてもよく、例えば、第2方向Yに隣り合う第2一面側開孔列21Lどうしは、第1方向Xに半ピッチ分ずれていてもよいし、3分の2ピッチ分ずれていてもよい。
【0088】
また第1方向Xに隣り合う第1他面側開孔列22Rを構成する他面側開孔22どうしは、第2方向Yにおける他面側開孔22の中心点22aどうしの位置が一致している必要は必ずしもなく、第2方向Yにおける他面側開孔22の中心点22aどうしの位置が異なっていてもよい。例えば、第1方向Xに隣り合う第1他面側開孔列22Rどうしは、第2方向Yに半ピッチ分ずれていてもよいし、3分の2ピッチ分ずれていてもよい。また第2方向Yに隣り合う第2他面側開孔列22Lを構成する他面側開孔22どうしは、第1方向Xにおける他面側開孔22の中心点22aどうしの位置が異なっていてもよく、例えば、第2方向Yに隣り合う第2他面側開孔列22Lどうしは、第1方向Xに半ピッチ分ずれていてもよいし、3分の2ピッチ分ずれていてもよい。
【0089】
本実施形態では、耐火性木質複合材1は四角形の面材であり、第1方向Xは面材の一辺と平行な方向であり、第2方向Yは該一辺と直交する辺と平行な方向であるが、面材の一辺に対して0度超90度未満の角度を有するように第1方向Xを定め、該第1方向Xに直交する方向を第2方向Yとしてもよい。
【実施例0090】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0091】
(実施例1)
図2に示す難燃薬剤保持板10と同様の構成を有する難燃薬剤保持板を製造した。具体的には、木質基材として、縦方向の長さが400mmであり、横方向の長さが350mmであり、厚みが24mmである合板を使用した。一面側開孔は直径10mm、深さ14mmであり、第1方向及び第2方向における一面側開孔の間隔は20mmであった。他面側開孔は直径10mm、深さ14mmであり、第1方向及び第2方向における他面側開孔の間隔は20mmであった。一面側開孔に、以下の組成を有する硬化性組成物を該開孔の体積に対して100%充填した後、60℃に加熱して6時間硬化させ、硬化物である難燃薬剤含有固形物を形成した。他面側開孔の難燃薬剤含有固形物も、一面側開孔の難燃薬剤含有固形物と同様にして形成した。このようにして製造した難燃薬剤保持板を、厚み方向に2つ積層した。2つの難燃薬剤保持板は、互いの対向面に形成された開孔どうしが重ならないように積層した。積層した難燃薬剤保持板の厚み方向における一方の面に、縦方向の長さが400mmであり、横方向の長さが350mmであり、厚みが48mmである、針葉樹合板を配した。難燃薬剤保持板及び合板の接着には、レゾルシノール系接着剤を使用した。このようにして製造した、難燃薬剤保持板及び合板の積層体における難燃薬剤保持板側の面以外の面をセラミックブランケットと石膏ボードで養生し、実施例1の試験体とした。
【0092】
<硬化性組成物の組成>
・固体難燃剤:ホウ酸、70質量%
・硬化性化合物:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、23質量%
・硬化触媒:アルミニウム系硬化触媒(ACS、ホープ製薬株式会社製)、7質量%
【0093】
(実施例2)
実施例1において、一面側開孔及び他面側開孔の深さを20mmに変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2の試験体を製造した。
【0094】
(燃焼試験1)
実施例1及び2で得られた試験体を燃焼試験炉に収容した。試験体は、難燃薬剤保持板側の面における縦方向が鉛直方向と一致するように配置した。試験体においては、難燃薬剤保持板側の面が一面加熱される加熱面である。そして通常の火災を想定したISO834-1標準加熱により1時間加熱を行い、加熱終了後、4時間の炉内放冷を行った。
その際、実施例1及び2では、加熱面を鉛直方向に三等分したときの二か所の境界線のうち上側の境界線の位置において、加熱面からの深さが12mm、24mm、36mm、48mmとなる位置(図6及び図7中、それぞれの位置を上12、上24、上36、上48と表記する)、及び前記二か所の境界線のうち下側の境界線の位置において、加熱面からの深さが12mm、24mm、36mm、48mmとなる位置(図6及び図7中、それぞれの位置を下12、下24、下36、下48と表記する)における温度変化を計測し、各位置における温度の継時的変化を確認した。実施例1の各位置における温度の継時的変化を図6に、実施例2の各位置における温度の継時的変化を図7に示す。
【0095】
実施例1及び2では、燃え止まりが確認でき、1時間耐火性能を有していることが確認できた。具体的には、実施例1及び2のいずれも、加熱面からの深さが36mmの位置及び48mmの位置の温度が、木材の発火温度である250℃まで達していない。つまり、積層した2つの難燃薬剤保持板のうち、加熱面とは反対側の難燃薬剤保持板は、燃焼していない。また加熱面からの深さが12mmの位置及び24mmの位置において、加熱終了後(加熱開始から1時間以降)は、温度が漸次下がっており、温度の再上昇も見られないことから、燃焼は継続しておらず、燃え止まっていることが分かる。
また、実施例1の炭化深さは29mmであり、実施例2の炭化深さは26mmであった。このことから、一面側開孔又は他面側開孔の深さを深くし、難燃薬剤含有固形物の高さを高くすることで、難燃薬剤保持板の積層数を増やすことなく、耐火性木質複合材の耐火性能を向上させることができることが分かる。
【0096】
(実施例3)
縦120mm、横120mm、高さ1000mmのスギ柱の高さ方向に沿う4側面に、実施例1と同様の方法で製造した難燃薬剤保持板を2つ積層した積層体を接着し、実施例3の試験体とした。2つの難燃薬剤保持板は、実施例1と同様に、互いの対向面に形成された開孔どうしが重ならないように積層した。
【0097】
(実施例4)
実施例3において、2つの難燃薬剤保持板を、互いの対向面に形成された開孔どうしが完全に重なるように積層した(図4参照)以外は、実施例3と同様にして実施例4の試験体を製造した。
【0098】
(燃焼試験2)
実施例3及び4で得られた試験体を、高さ方向が鉛直方向と一致するように直立状態として試験炉内に配置し、4側面のそれぞれに対して、通常の火災を想定したISO834-1標準加熱により1時間加熱を行い、加熱終了後、4時間の炉内放冷を行った。その際、試験体の高さ方向の中央位置において、スギ柱の横断面の4つの角部、及び該横断面の4側辺それぞれの中央位置における温度変化を計測した。温度変化を計測した各位置を図8及び図9に黒点及び白点で示す。図8及び図9中、黒点は、スギ柱の横断面の4つの角部を示し、白点は、該横断面の4側辺それぞれの中央位置を示す。各位置における温度変化を計測した結果をそれぞれ、図10及び図11に示す。
【0099】
実施例3及び4では、燃え止まりが確認でき、1時間耐火性能を有していることが確認できた。具体的には、実施例3及び4は、温度変化を計測した全ての位置の温度が、木材の発火温度である250℃に達していない。つまり、燃焼はスギ柱まで達していない。実施例3及び4のいずれも燃え止まりが確認できることから、本発明の耐火性木質複合材においては、積層する難燃薬剤保持板どうしの位置関係を任意のものとすることができることが分かる。なお、実施例3と実施例4とを比較すると、実施例3の方が温度のばらつきが少なく、また最高温度も低いことから、実施例3の方が実施例4よりも耐火性能に優れることが分かる。実施例3において、2つの難燃薬剤保持板は、互いの対向面に形成された開孔どうしが重ならないように積層しており、実施例4において、2つの難燃薬剤保持板は、互いの対向面に形成された開孔どうしが完全に重なるように積層しているところ、2つの難燃薬剤保持板を、互いの対向面に形成された開孔どうしの一部が重なるように積層したときには、実施例3と実施例4との間の耐火性能を示すことが予想される。
【符号の説明】
【0100】
1 耐火性木質複合材
10 難燃薬剤保持板
S1 難燃薬剤保持板の一面
S2 難燃薬剤保持板の他面
20 木質基材
21 一面側の開孔
22 他面側の開孔
25 開孔重複領域
30 難燃薬剤含有固形物
5 化粧層
7 耐火木製構造材
8 荷重支持部
9 耐火被覆層
40 難燃薬剤保持板積層部
X 第1方向
Y 第2方向
Z 厚み方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9