(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023065331
(43)【公開日】2023-05-12
(54)【発明の名称】藻類培養システム及び藻類培養方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20230502BHJP
C12N 1/12 20060101ALI20230502BHJP
C12M 1/02 20060101ALI20230502BHJP
B01F 21/00 20220101ALI20230502BHJP
B01F 23/23 20220101ALI20230502BHJP
【FI】
C12M1/00 E
C12N1/12 A
C12M1/02 A
B01F21/00
B01F23/23
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170966
(22)【出願日】2022-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2021175201
(32)【優先日】2021-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】515294123
【氏名又は名称】公益財団法人農村更生協会
(71)【出願人】
【識別番号】510093336
【氏名又は名称】飛田和 義行
(74)【代理人】
【識別番号】100158023
【弁理士】
【氏名又は名称】牛田 竜太
(72)【発明者】
【氏名】坂本 幸資
(72)【発明者】
【氏名】飛田和 義行
(72)【発明者】
【氏名】石橋 定己
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
4G035
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA07
4B029BB04
4B029CC01
4B029DB01
4B029DB11
4B029DF01
4B029DF10
4B065AA83X
4B065AC20
4B065BC01
4B065BC03
4B065BC08
4B065BC50
4B065CA54
4G035AA01
4G035AB04
4G035AE02
(57)【要約】
【課題】
フルボ酸を含む腐植液を利用することによって効率的に藻類を培養することができる藻類培養システム及び藻類培養方法の提供。
【解決手段】
藻類培養システム1は、培養部2と、腐植液生成部3と、溶解部4と、を有している。培養部は、藻類を培養する培養槽21と、培養液を攪拌する攪拌部22とを有している。腐植液生成部3は、培養槽21にフルボ酸を含む腐植液を投入する。溶解部4は、閉鎖された溶解槽41に二酸化炭素供給源50から二酸化炭素を投入して培養液に二酸化炭素を溶解させる。ポンプ部25は、溶解部4によって生成された二酸化炭素を含む培養液を培養槽21に供給する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養液を攪拌する攪拌部が設けられた藻類を培養するため培養槽と、
前記培養槽にフルボ酸を含む腐植液を投入する腐植液投入部と、
閉鎖された溶解槽にガスを投入して前記培養液を供給することにより前記培養液に前記ガスを溶解させる溶解部と、
前記溶解部によって生成された前記ガスを含む前記培養液を前記培養槽に供給する供給部と、を有することを特徴とする藻類培養システム。
【請求項2】
前記腐植液投入部の前記腐植液の前記培養槽への投入量を制御する制御部と、
前記培養槽の環境データを検出するセンサ部と、
前記培養槽の温度を調節するための温度調節部と、をさらに有し、
前記制御部は、前記センサ部から検出された前記環境データに基づいて、前記温度調節部と、前記溶解部に溶解させる前記ガスの量を制御することを特徴とする請求項1に記載の藻類培養システム。
【請求項3】
前記腐植液に前記ガスを溶解させる腐植液溶解部をさらに有し、
前記腐植液溶解部は、前記腐植液投入部に接続され閉鎖された腐植液溶解槽に、前記ガスを投入して前記腐植液を供給することにより、前記腐植液に前記ガスを溶解させることを特徴とする請求項1に記載の藻類培養システム。
【請求項4】
培養液を攪拌する攪拌部が設けられた藻類を培養槽で培養するステップと、
前記培養槽にフルボ酸を含む腐植液を投入するステップと、
閉鎖された溶解槽にガスを投入して前記培養液を供給することにより前記培養液に前記ガスを溶解させるステップと、
前記溶解槽で生成された前記ガスを含む前記培養液を前記培養槽に供給するステップと、を有することを特徴とする藻類培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は藻類培養システム及び藻類培養方法に関し、特にフルボ酸を含む腐植液を用いた藻類培養システム及び藻類培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、藻類や微細藻類は高い増殖特性や細胞から取り出すことの出来る有用物を利用することによって、食糧やエネルギー、又はバイオマス燃料等の各種の分野において多様な用途が開発されており、藻類を培養するための種々の技術が存在する。特に、バイオ燃料や油を生産することができる藻類の存在が注目されている。この藻類は、大気中にある二酸化炭素を光合成によって吸収することで燃料や油を作る。藻類によって作り出されたバイオ燃料は、燃焼させても二酸化炭素が増えないためクリーンなエネルギーとして期待されている。
【0003】
特許文献1の培養槽は、藻類をレースウェイポンド型の培養槽を用いて、攪拌手段で水流を起こしながら二酸化炭素供給源から培養液内に二酸化炭素を直接溶解させている。レースウェイポンド型の培養槽では、底部に存在する光合成微生物に十分な量の光を届けるために水深が浅く設計されている。浅い水深であっても水中に十分な量の二酸化炭素を溶解させるために攪拌手段にカバーが設けられ、当該カバー内に二酸化炭素供給源から二酸化炭素が供給される。
【0004】
特許文献2に記載の藻類の培養システムは、二酸化炭素を含む火力発電所から排出される燃焼ガスから湿式又は乾式の有害物質除去装置を用いてガス内の有害物質を除去し、培養槽に供給している。ユーグレナ等の藻類を大量に培養するためには非常に多くの二酸化炭素が必要となるが、火力発電所の排出ガスを藻類の培養に利用することによって、排気ガスの有効利用を図るとともに藻類を効率的に培養することができる。
特許文献2の
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-23979号公報
【特許文献2】特開2015-198649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のようにカバーに覆われた環境下で二酸化炭素を曝気によって水中に供給する場合は、カバーの隙間等から外部に漏れ出てしまうため効率的に二酸化炭素を供給することが難しかった。また、特許文献2に記載の藻類の培養システムでは、排気ガスから鉛や硫黄化合物等の有害物質を除去する工程が必要となるため、二酸化炭素の供給プロセスが煩雑になってしまった。
【0007】
藻類の培養に関する技術は発達途上であり、培養の工程における効率化が課題となっている。特に、藻類の種類に応じて各種気象条件や海水条件が大きく異なるため安定的に藻類を培養することが難しい。また、藻類に供給する栄養剤についても十分な研究がなされておらず、更なる効率的な培養方法が求められていた。
【0008】
そこで本発明は、フルボ酸を含む腐植液を利用することによって効率的に藻類を培養することができる藻類培養システム及び藻類培養方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために第1の本発明は、培養液を攪拌する攪拌部が設けられた藻類を培養するため培養槽と、前記培養槽にフルボ酸を含む腐植液を投入する腐植液投入部と、閉鎖された溶解槽にガスを投入して前記培養液を供給することにより前記培養液に前記ガスを溶解させる溶解部と、前記溶解部によって生成された二酸化炭素を含む前記培養液を前記培養槽に供給する供給部と、を有することを特徴とする藻類培養システムを提供する。
【0010】
第2の発明は、第1の発明に記載された藻類培養システムであって、前記腐植液投入部の前記腐植液の前記培養槽への投入量を制御する制御部と、前記培養槽の環境データを検出するセンサ部と、前記培養槽の温度を調節するための温度調節部と、をさらに有し、前記制御部は、前記センサ部から検出された前記環境データに基づいて、前記温度調節部と、前記溶解部に溶解させる前記ガスの量を制御することを特徴としている。
【0011】
第3の発明では、第1の発明に記載された藻類培養システムであって、前記腐植液に前記ガスを溶解させる腐植液溶解部をさらに有し、前記腐植液溶解部は、前記腐植液投入部に接続され閉鎖された腐植液溶解槽に、前記ガスを投入して前記腐植液を供給することにより、前記腐植液に前記ガスを溶解させることを特徴としている。
【0012】
第4の発明では、培養液を攪拌する攪拌部が設けられた藻類を培養槽で培養するステップと、前記培養槽にフルボ酸を含む腐植液を投入するステップと、閉鎖された溶解槽にガスを投入して前記培養液を供給することにより前記培養液に前記ガスを溶解させるステップと、前記溶解槽で生成された二酸化炭素を含む前記培養液を前記培養槽に供給するステップと、を有することを特徴とする藻類培養方法を提供している。
【発明の効果】
【0013】
第1の発明によると、腐植液投入部がフルボ酸を含む腐植液を培養槽に投入するため、培養槽内で培養される藻類の繁殖を促し効率的な培養が可能となる。また、閉鎖された溶解槽にガスを投入して培養液にガスを溶解させているため、培養液に高濃度でガスを溶解させることができる。さらに、閉鎖された溶解槽においてガスを溶解させるため、ガスが外に漏れることなく効率的に培養液に溶解させることができる。また、溶解部によって生成されたガスを含む培養液を培養槽に供給するため、培養槽を所望の環境とすることができ、効率的な藻類の培養が可能となる。
【0014】
第2の発明によると、制御部が腐植液の投入量を制御するため、藻類を好適な環境下で培養することができる。また、制御部がセンサ部からの環境データに基づいて温度調節部及びガスの量を制御するため、藻類を好適な環境下で培養することができる。
【0015】
第3の発明によると、閉鎖された腐植液溶解槽においてガスを溶解させるため、ガスが外に漏れることなく効率的に腐植液に溶解させることができる。また、腐植液溶解部によって生成されたガスにより高濃度化されたフルボ酸等を含む腐植液を培養槽に供給するため、効率的な藻類の培養が可能となる。
【0016】
第4の発明によると、腐植液を投入するステップにおいてフルボ酸を含む腐植液を培養槽に投入するため、培養槽内で培養される藻類の繁殖を促し効率的な培養が可能となる。また、閉鎖された溶解槽にガスを投入して培養液にガスを溶解させるステップを有するため、培養液に高濃度でガスを溶解させることができる。さらに、閉鎖された溶解槽においてガスを溶解させるため、ガスが外に漏れることなく効率的にガスを培養液に溶解させることができる。また、溶解するステップによって生成されたガスを含む培養液を培養槽に供給するため、培養槽を所望の環境とすることができ、効率的な藻類の培養が可能となる。
【0017】
本発明によれば、フルボ酸を含む腐植液を利用することによって効率的に藻類を培養することができる藻類培養システム及び藻類培養方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1の実施の形態の藻類培養システムのブロック図。
【
図2】本発明の第1の実施の形態の藻類培養システムのフロー図。
【
図3】本発明の第2の実施の形態の藻類培養システムの培養槽を示す図。
【
図4】本発明の第3の実施の形態の藻類培養システムのブロック図。
【
図5】本発明の第3の実施の形態の藻類培養システムのフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態による藻類培養システム1を
図1から
図3に基づき説明する。本実施の形態における藻類とは、生物の中からコケ植物、シダ植物、及び種子植物を除いたものであり、水中生活をする同化色素を有する植物を一括して称したものである。この藻類は、面積あたりの増殖性・収穫量に優れ、油脂をはじめとする有用物質を多量に蓄積し、健康食品やサプリメント、化学原料、バイオ燃料等の原料になり得て利用価値が高い。
【0020】
本実施の形態の藻類培養システム1によって培養される微細藻類は、体長が数μm~数百μmの単細胞性の藻類であり、人の肉眼では個々の存在が識別できないような大きさの藻類である。また、微細藻類は、海水において生息できる海水性の微細藻類または汽水において生息できる汽水性の藻類である。微細藻類としては、例えば、スピルリナ、ユーグレナ、クロレラ、ドナリエラ、ボツリオコッカス等の緑藻類、又は石油と同等の炭化水素を合成することができるハプト藻(例えば、Dicrateria rotunda)が挙げられる。これに限定されず、多細胞生物であるアオノリ、アオサ等の緑藻類、カギケノリ、アサクサノリ、フノリ、テングサ等の紅藻類、コンブ、ヒジキ、モズク、ワカメの褐藻類等の海藻類又は共生藻を培養することも可能である。
【0021】
藻類としては、バイオディーゼルの原料となるトリグリセリドを大量に蓄積できるという点、食物繊維、ビタミン、カロテノイド、タンパク質、リノール酸、リノレン酸などの有価物を多く含んでいるという点、大量に培養しやすいという点で、クロレラ属に属する生物が好ましい。また、藻類としては、バイオディーゼルの原料となるワックスエステルを大量に蓄積できるという点、ビタミン、カロテノイド、栄養価の高いタンパク質、パラミロンなどの有価物を多く含んでいるという点、大量に培養しやすいという点で、ユーグレナ属に属する生物が好ましい。
【0022】
藻類培養システム1は、培養部2と、腐植液生成部3と、溶解部4と、全体を制御する制御部5と、から構成される。培養部2は、培養槽21と、攪拌部22と、照射部23と、センサ部24と、ポンプ25と、温度制御部26と、調整部27と、を有している。
【0023】
培養槽21は、微細藻類が懸濁された培養液21Aで満たされており、外部から光を取り込み藻類の光合成を促すためにアクリル製であって、500リットル程度の容量を有している。なお、形状及び容量は培養量に応じて任意に設定することができる。培養槽21の蓋21Bも同様に、採光のためにアクリル製となっている。培養槽21は、日当たりの良い場所に設置することが好ましい。
【0024】
攪拌部22は、攪拌羽22Aと、モータ22Bと、シャフト22Cと、を有している。攪拌羽22Aは、培養槽21を攪拌するためのファンであって、培養槽21の底部近傍に位置している。攪拌羽22Aは、シャフト22Cを介してモータ22Bに接続されている。モータ22Bは、制御部5からの制御信号に基づいて、所定の回転数で攪拌羽22Aを回転させる。攪拌羽22Aの回転数は、外部環境、培養槽21の状態、培養液21Aの藻類の状態に応じて、任意に設定することができる。
【0025】
照射部23は複数のLEDで構成され、培養槽21の直上に設置される。照射部23の点灯及び消灯は、センサ部24によって検出される光強度に基づいて、制御部5により制御される。日当たりの良い場所に設置する場合であって藻類が光合成で培養するのに十分な光量が確保できるときは、照射部23は設置しなくてもよい。なお、照射部23の強度によって光阻害を誘発する可能性がある波長域の光を数銃%程度遮光するメッシュ状の遮光シートを設けてもよい。
【0026】
センサ部24は培養槽21の蓋21Bに設置されていて、照射部23の光強度、培養液21Aの温度及びpHを測定する。なお、採取するデータはこれらに限定されず、培養する藻類の種類に応じて所望のデータを採取してもよい。センサ部24によって検出されたデータは、制御部5に送信される。光強度、温度、及びpHは、本発明の環境データの一例である。
【0027】
ポンプ25は、培養液21Aを溶解部4に輸送するために設けられている。ポンプ25の配管にはコントロールバルブ25Aが設けられていて、制御部5からの制御信号に基づいて溶解部4への流量が制御される。本実施の形態では、培養液21Aの二酸化炭素量は50~100mg/Lの範囲が望ましいが、培養する藻類の種類に応じて任意の値を設定することができる。ポンプ25は、本発明の供給部の一例である。
【0028】
温度制御部26は、センサ部24からの温度に基づいて培養槽21の温度が所定の範囲に収まるよう制御している。温度制御部26は加熱及び冷却が可能であって、配管にコントロールバルブ26Aが設けられている。制御部5は、センサ部24からの温度に基づいてコントロールバルブ26Aの流量を調整し、培養槽21の温度を制御する。温度制御部26は、培養槽21内に設けられたホース26Bに冷媒又は熱媒を流し培養液21Aとの間で間接的な熱交換を行う。ホース26Bを培養槽21の底面に張り巡らすことにより、効率的な熱交換を行ってもよい。
【0029】
培養部2の培養槽21内に活性炭(図示せず)を添加してもよい。活性炭は、有害物質である鉛除去用に加工された活性炭を用いることが好ましい。活性炭は、培養槽21内で分散したり、攪拌羽22Aに巻き込まれないように、例えば、通気性及び透水性を有する袋であるネット状の袋に入れたり、カートリッジに入れて、培養槽21の底部に固定して設置する。
【0030】
活性炭の量は特に限定はされず、培養槽21の容量等によって適宜決定する。例えば、活性炭の量は、500g~1kg程度の量を用いることが好ましい。活性炭は、培養槽21内の一箇所に設置してもよいし、複数の箇所に設置してもよい。活性炭は、藻類を回収するまでは、培養槽21内に添加しておくことが好ましい。
【0031】
調整部27は、藻類に栄養を供給するための栄養剤、及び培養槽21内のpHを酸性又はアルカリ性に保つためのpH調整剤を添加する。調整部27は、所定の時間間隔で栄養剤を培養槽21に添加する。制御部5は、センサ部24からのpHの測定結果に基づいて、調整部27からのpH調整剤の添加量を制御する。調整剤は、粉体でもよく、液体でもよく、粉体を水に溶解した水溶液であってもよい。第一の液体に供給しやすく、容易に混合される観点から、調整剤は、液体又は水溶液であることが好ましい。
【0032】
栄養剤としては、有機培養成分であれば、糖分、アミノ酸、エタノール、ビタミンなどが挙げられる。無機培養成分であれば、窒素(N)を含む窒素含有無機化合物、リン(P)を含むリン含有無機化合物などが挙げられる。また、無機栄養素としては、カリウムイオン、鉄イオン、マンガンイオン、コバルトイオン、亜鉛イオン、銅イオン、モリブデンイオン、ニッケルイオンなどが挙げられる。pH調整剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、アンモニア及びこれらの水溶液等の塩基性物質;硫酸、硝酸、酢酸、クエン酸、コハク酸及びこれらの水溶液等の酸性物質が挙げられる。
【0033】
培養槽21には、二酸化炭素を含む炭酸水が供給されるため、培養液21Aは酸性になりやすい。このため、pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム及びこれらの水溶液等の塩基性物質が好ましい。調整部27に供給されるpH調整剤の種類や添加量は、藻類の培養に適したpHに応じて、適宜設定できる。
【0034】
腐植液生成部3は、製造タンク31と、保管部32と、から構成される。腐植液生成部3では、製造タンク31において木酢液にバイオマス原料である有機物を漬け込むことにより腐植液33を生成する。腐植液33は、ヒューミン、フミン酸、フルボ酸を主成分とし、藻類の培養のほかに、土壌改質、キレートマリン、果樹栽培、魚類及び家畜の養殖等に用いることができる。保管部32は、腐植液33を保管し、コントロールバルブ32Aによって腐植液33の培養槽21への供給量が調整されている。保管部32は、本発明の腐植液投入部の一例である。
【0035】
本実施の形態におけるヒューミン、フルボ酸、及びフミン酸は、日本腐植物質学会の属する国際腐植物質学会の分類に基づき、生物体有機物が微生物的・化学的作用を受けて崩壊して生じる化学構造が特定されていない有機物(非生体有機物)である腐植物のうち、アルカリ・酸に対する溶解性での分類を行う。すなわち、フルボ酸は、アルカリに可溶であり、酸に可溶な成分であって、フミン酸もアルカリに可溶であるが、酸に不溶な成分である。ヒューミンは、アルカリに不溶であり、かつ、酸に不溶な成分である。フルボ酸液等に含まれているフルボ酸の程度は、フルボ酸が混合物質であり、かつ他の有機物の有無の影響も大きいため具体的な成分ごとの濃度で規定することが適切ではなく、具体的な数値では規定できない場合がある。
【0036】
ヒューミン、フルボ酸、及びフミン酸は多くのカルボキシル基(-COOH)やフェノール性水酸基(R-OH)を含んでおり、これらの結合の末端にある酸素(O)と水素(H)の結合力は極めて弱いため末端の水素が結合から離れると取り残された酸素には負電荷が発生する。二価鉄のような鉄イオンは陽イオンであるため、負電荷の腐植と結合する。このようにフルボ酸と鉄イオンが結合した物質をフルボ酸鉄と呼ぶ。腐植液33は、フルボ酸鉄を豊富に含んでいることが望ましい。
【0037】
二価鉄は、三価鉄へと酸化すると水酸化物として沈殿しやすくなるため、藻類に吸収され難い。これに対し、フルボ酸と鉄イオンが結合したフルボ酸鉄の状態だと、安定的なキレート化合物として存在するため藻類等に取り込まれやすくなる。これにより、培養液21Aにおける藻類の成長を促し、効率的に培養を行うことができる。
【0038】
製造タンク31において使用される木酢液は、水分が80%以上,有機酸含有量が1.0%以上でpH(H2O)5.0以下,電気伝導度が1.0mS/cm以上であることが望ましい。腐植液生成部3では、製造タンク31に容量比で有機物1.0に対して木酢液を0.5以上の割合で混合して撹拌機等で攪拌し、少なくとも3時間以上、有機物の種類によっては600時間程度漬け込む。
【0039】
長時間浸漬することにより、腐植化が進んでいない木や草又は残渣等に木酢液を含侵させることができる。このとき、製造タンク31に鉄又は鉄を含む物質を混合することによりフルボ酸鉄の生成を促すことができる。製造タンク31に養生期間が経過した後の製造タンク31の溶液が、腐植液33となる。製造タンク31内の腐植液33は、保管部32に貯蔵される。
【0040】
溶解部4は、溶解槽41を有しており二酸化炭素供給源50から二酸化炭素が供給される。制御部5がコントロールバルブ50Aを制御することで、二酸化炭素供給源50の溶解槽41への二酸化炭素の供給量を調整している。
【0041】
溶解槽41は、密閉された装置内で二酸化炭素を供給するため、従来の曝気による供給方法よりも効率が良い。曝気によって二酸化炭素を供給すると液体に溶け出す前に外に逃げてしまうが、本発明の溶解部4では溶解槽41が密閉されているため供給された分のみが液体に溶け出し無駄がない。これにより、高い溶存二酸化炭素濃度を実現することができる。本実施の形態では、溶解部4として岩谷産業株式会社の酸素ファイター(登録商標)を用いるが、これに限定されず他の無気泡溶解装置を用いてもよい。溶解部4によると、培養液21Aに溶解している気体を二酸化炭素に置換することができるため、曝気と比較して高い二酸化炭素濃度を実現することができる。本実施の形態では、溶解部4に二酸化炭素供給源50から二酸化炭素を供給したが、培養槽21で培養する藻類に応じて任意の種類のガスを選択することができる。
【0042】
溶解部4によって培養槽21に供給される二酸化炭素の量は必ずしも一定である必要は無く、時間や天候等の外部環境に応じて供給量を変動させてもよい。具体的には、培養する藻類の種類や活動状況に応じて供給量を変動させてもよい。例えば、午前に光合成が活発であるならば午前に二酸化炭素の量を多く、午後に光合成が活発であるならば午後に二酸化炭素の量を多く、夜間に光合成が行われないならば夜間は二酸化炭素の供給を停止して、藻類の活動状況に応じて二酸化炭素を供給する。これにより、二酸化炭素の無駄な消費を抑制すること、換言すると、藻類に取り込まれなかった二酸化炭素が大気中に無駄に放散されることを防止できる。
【0043】
このような構成によると、保管部32のフルボ酸を含む腐植液33が培養槽21に投入されるため、培養槽21内で培養される藻類の繁殖を促し効率的な培養が可能となる。また、閉鎖された溶解槽41に二酸化炭素を投入して培養液21Aに二酸化炭素を溶解させているため、培養液21Aに高濃度で二酸化炭素を溶解させることができる。さらに、閉鎖された溶解槽41において二酸化炭素を溶解させるため、二酸化炭素が外に漏れることなく効率的に培養液21Aに溶解させることができる。また、溶解部4によって生成された二酸化炭素を含む培養液21Aを培養槽21に供給するため、培養槽21を所望の環境とすることができ、効率的な藻類の培養が可能となる。
【0044】
このような構成によると、制御部5が腐植液33の投入量を制御するため、藻類を好適な環境下で培養することができる。また、制御部5がセンサ部24からの環境データに基づいて温度制御部26及び二酸化炭素の量を制御するため、藻類を好適な環境下で培養することができる。
【0045】
次に本発明の第2の実施の形態の藻類培養システム101について、
図3を参照して説明する。以下の説明において、第1の実施の形態と同一の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。第2の実施の形態では、培養槽121として、レースウェイ型を採用している。
【0046】
培養槽121は、藻類が懸濁された培養液121Aを貯留及び培養する水槽である。
図3に示す培養槽121は、長楕円形の循環水路を有するレースウェイ型であって、上方に開放した開口部121aを有しており、貯留した培養液121Aが外気に接する。
【0047】
この培養槽121に貯留された培養液121Aは、液量が200L、水深(深さ)が150mmに設定されている。培養槽121には水車である攪拌部122が設置され、この攪拌部122の回転により撹拌速度10cm/secで培養液121Aが撹拌されている。ここで、水深は培養槽121の底面から培養槽121に貯留された培養液121Aの液面までの距離である。なお、この培養槽121の容積や形状に限定はなく、培養対象の藻類の種類や、培養方法等に応じて適宜選択することができる。
【0048】
培養槽121には、腐植液生成部3が接続されていて、コントロールバルブ32Aによって供給量が調整される。図示を省略するが、培養槽121には、第1の実施の形態と同様に照射部23と、センサ部24と、溶解部4に接続されたポンプ25と、温度制御部26と、調整部27と、が接続されていて制御部5によって制御される。
【0049】
このような構成によると、培養槽121がレースウェイ型であるため水深が浅く底面近傍まで十分な光量を確保するこができる。これにより、藻類の光合成を促し、効率的な培養を行うことができる。また、レースウェイ型の培養槽121は開放型であるため、設置コストが安く生産量が大きくなる。
【0050】
次に、第3の実施の形態の藻類培養システム201について、
図4及び
図5を参照して説明する。以下の説明において、第1の実施の形態と同一の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0051】
藻類培養システム201の培養槽21には、栄養塩類を培養液21Aに供給するための栄養供給部228が接続されている。栄養塩類とは、藻類、特に微細藻類の栄養として必要な塩類をいう。具体的には、栄養塩類として、アンモニア態窒素、硝酸態窒素、亜硝酸態窒素、有機態窒素などの窒素、リン酸態リン、有機態リンなどのリン、オルトケイ酸などのケイ素、カリウム、カルシウム、マグネシウム、硫黄などが挙げられる。栄養塩類は、藻類が増殖するための栄養源として利用される。本実施の形態における培養液21Aでは、栄養供給部228から栄養塩類が供給され、供給された栄養塩類を微細藻類が消費し培養されるサイクルを繰り返すことによって、低濃度の栄養塩類が維持される。
【0052】
保管部32には、腐植液溶解部204が接続されている。腐植液溶解部204は、溶解部4と略同一の構成であって、腐植液溶解槽241を有しており二酸化炭素供給源250から二酸化炭素が供給されるとともに窒素供給源251から窒素が供給される。制御部5がコントロールバルブ250Aを制御することで、二酸化炭素供給源250及び窒素供給源251の腐植液溶解槽241への二酸化炭素の供給量を調整している。
【0053】
腐植液溶解槽241は、密閉された装置内で二酸化炭素及び窒素を供給するため、従来の曝気による供給方法よりも効率が良い。曝気によって二酸化炭素及び窒素を供給すると液体に溶け出す前に外に逃げてしまうが、本発明の腐植液溶解部204では腐植液溶解槽241が密閉されているため供給された分のみが液体に溶け出し無駄がない。これにより、高い溶存二酸化炭素濃度及び窒素濃度を実現することができる。本実施の形態では、腐植液溶解部204として岩谷産業株式会社の酸素ファイター(登録商標)を用いるが、これに限定されず他の無気泡溶解装置を用いてもよい。溶解部4によると、腐植液33に効率的に二酸化炭素及び窒素を供給することができるため、効率的に二酸化炭素濃度を高めることができる。
【0054】
ポンプ225は、腐植液33を腐植液溶解部204に輸送するために設けられている。ポンプ225の配管にはコントロールバルブ225Aが設けられていて、制御部5からの制御信号に基づいて腐植液溶解部204への流量が制御される。本実施の形態では、腐植液33の溶存二酸化炭素量及び窒素量は、培養する藻類の種類、又は腐植液33の種類に応じて任意の値を設定することができる。
【0055】
本発明による藻類培養システム及び藻類培養方法は、上述した実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明の要旨の範囲内で種々の変更が可能である。
【0056】
本発明による藻類培養システム1に使用した腐植液33の用途は、上記に限定されない。例えば、ヒューミン、フルボ酸、及びフミン酸を含む腐植液33は、土壌改質、キレートマリン、果樹栽培、魚類及び家畜の養殖等に用いることができる。
【0057】
森林では、バイオ炭を土壌に埋め込み、腐植液33を散布することにより、土壌改良による効率的な樹木の育成、及び塩害水田の回復等の効果が見込まれる。農場では、腐植液33を散布することで効率的な作物の収穫、植物疾病の発現の低減、糖度の向上等の効果が見込まれる。養殖場では、腐植液33の施設への散布による悪臭軽減、及び家畜への飲用による施設内の悪臭軽減及び死亡率軽減効果が見込まれる。
【0058】
海洋の使用用途としては、バイオ炭に腐植液33を配合してキレート材とし、フルボ酸鉄とケイ素を溶出させることによって植物性プランクトン(珪藻類)を増殖させ、富栄養状態を抑制することによってヘドロを分解し、水質浄化を行う。フルボ酸鉄は、悪臭及び海中微生物に有害な硫化水素イオンと反応して無害な硫化鉄となって硫化水素の発生を抑制する。これにより、海底生物の生息及び繁殖しやすい環境を整えることができ、海洋生物又はプランクトンの多様性が向上する。
【0059】
溶出したフルボ酸鉄及びケイ素は、珪藻類に付着した植物性プランクトンによって取り込まれ、付着珪藻を増加させる。これにより、付着珪藻を養分とする海中生物や巻きあがった付着珪藻を捕食する貝類や甲殻類の成長が促進される。フルボ酸鉄及びケイ素が植物性プランクトンに取り込まれることで珪藻類が増加し、これらが水中の無機窒素やリンを取り込むことで水質改善を図ることができる。同時に、植物性プランクトンや珪藻類による二酸化炭素の海洋固定化も行うことができる。
【0060】
腐植液は,アルギン酸類と混ぜ合わせることでゲル状となるようにして腐植液の成分の溶出をコントロールして,動植物の生理活性を促す効果を持続させながら使用してもよい。また、腐植液をバイオ炭に染み込ませることにより固形化できるようにして腐植液の成分の溶出をコントロールして動植物の生理活性を促す効果を持続させながら使用してもよい。
【0061】
上述の実施の形態では、レースウェイ型の培養槽121を用いたが、これに限定されない。例えば、閉鎖型のフォトバイオリアクターを用いてもよい。フォトバイオリアクターとしては、平板型のもの、チューブ型のもの、太陽光集光・光転送・内部照射型のもの、完全人工光利用型のものなどが挙げられる。閉鎖系の培養槽は、培養液の温度制御が容易であり、培養槽内への異物混入(コンタミネーション)を抑制することができる。フォトバイオリアクターの内部に濾過膜を配置するための空間がないチューブ型の閉鎖系フォトバイオリアクターを採用されても、藻類培養システム1においては、フォトバイオリアクターにて効率的に藻類を増殖させることができる。また、開放型プール形状の循環式培養槽、又は海洋中における藻類培養にも適用することができる。海洋での藻類培養においては、腐植液33を固体化させたものを用いることによりフルボ酸等を効果的に藻類に付与することが望ましい。
【0062】
上述の実施の形態では、二酸化炭素供給源50としてガスボンベを用いたが、これに限定されない。例えば、バイオマス発電等から排出される二酸化炭素を回収して溶解槽41又は腐植液溶解槽241に投入してもよい。これにより、バイオマス発電で排出される二酸化炭素等の地球温暖化ガスを回収し有効利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の藻類培養システム及び藻類培養方法は、細胞内に炭化水素や多糖類などの有機物を貯蔵する藻類を培養によって増殖させるために使用することができる。藻類培養システムによって培養された藻類は、健康食品、医薬品、飼料、化成品、又は燃料等の用途で利用できる。
【符号の説明】
【0064】
1 藻類培養システム
2 培養部
3 腐植液生成部
4 溶解部
5 制御部
21 培養槽
22 攪拌部
23 照射部
24 センサ部
25 ポンプ
26 温度制御部
27 調整部
31 製造タンク
32 保管部
41 溶解槽
50 二酸化炭素供給源