(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023065340
(43)【公開日】2023-05-12
(54)【発明の名称】高いアセチレン含有量を有するガス混合物の選択的水素化工程
(51)【国際特許分類】
C07C 7/167 20060101AFI20230502BHJP
C07C 9/04 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
C07C7/167
C07C9/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022172289
(22)【出願日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】10-2021-0144229
(32)【優先日】2021-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】308007044
【氏名又は名称】エスケー イノベーション カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK INNOVATION CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】26, Jong-ro, Jongno-gu, Seoul 110-728 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】ユン ドン ミン
(72)【発明者】
【氏名】イム ジュ ファン
(72)【発明者】
【氏名】キム ヒ ス
(72)【発明者】
【氏名】キム ド キュン
(72)【発明者】
【氏名】チョ デ ヒュン
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC11
4H006AD31
4H006BA05
4H006BA25
4H006BC10
4H006BE20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】メタン熱分解プロセスによって生成された高濃度のアセチレン含有ガス混合物に対する選択的水素化によってエチレンを高収率で製造する方法、さらに水素も効果的に回収又は活用する方法を提供する。
【解決手段】メタンの熱分解(例えば、メタンの非酸化カップリング)反応などによって形成された高濃度のアセチレン、及び水素を含有するガス混合物を、2種の金属担持触媒の存在下で選択的水素化反応させて、ガス混合物中のアセチレンからエチレンを製造すると同時に、未反応のメタン及び水素を副生成物として回収する及び/又はさらにリサイクルすることによって、メタンを高付加化合物に転換させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも2モル%のアセチレン、少なくとも50モル%の水素、及び48モル%までのメタンを含有するガス混合物を提供する段階;
b)多孔性支持体上に水素化活性を有する第1金属(M
1)及び選択的水素化を誘導する機能を有する第2金属(M
2)が担持された水素化触媒の存在下で、前記ガス混合物を水素化させ、前記ガス混合物に比べて増加したエチレン濃度を有する水素化生成物を形成する段階;及び
c)前記水素化生成物からエチレン及び水素をそれぞれ分離して回収する段階;
を含み、
ここで、前記第1金属(M
1)は、Pd、Pt、Rh、Ir、Ni及びCoからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、前記第2金属(M
2)は、Cu、Ag、Au、Zn、Ga及びSnからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、
前記水素化触媒中の第1金属(M
1)及び第2金属(M
2)のそれぞれの含有量は、0.15~2重量%及び0.8~30重量%の範囲であり、及び
下記の式1を満たす、選択的水素化方法:
[数1]
【数1】
上記の式で、W
M1は、水素化触媒中の第1金属の重量%であり、W
M2は、水素化触媒中の第2金属の重量%である。
【請求項2】
前記段階a)で提供されるガス混合物は、メタンの熱分解生成物から芳香族が除去されたものであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記メタンのソースは、メタン、天然ガス及びバイオガスからなる群から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記水素化生成物中のメタン、及び水素のうち少なくとも一部を、メタンの熱分解反応によってリサイクルする段階をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記リサイクルされるCH4/H2のモル比は、0.05~1の範囲であることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ガス混合物は、3~10モル%のアセチレン、52~75モル%の水素、及び18~45モル%のメタンを含有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ガス混合物中のアセチレン以外のC2炭化水素をさらに含有し、その濃度は1モル%未満であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ガス混合物は、C3~C5炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも一つをさらに含有し、その濃度は1モル%未満であることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記段階b)は、外部から別の水素供給無しで行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記水素化触媒中の第1金属(M1)及び第2金属(M2)はそれぞれ、パラジウム(Pd)及び銅(Cu)であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記水素化触媒中の多孔性支持体は、アルミナ、シリカ、カーボン、ジルコニア、チタニア、セリア及びシリコンカーバイドからなる群から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記多孔性支持体は、少なくとも300m2/gの比表面積(BET)、少なくとも0.5cm3/gのポア体積、及び50~200Åの平均ポアサイズを有することを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記水素化触媒は、第1金属(M1)の前駆体及び第2金属(M2)の前駆体を組み合わせた複合前駆体の溶液をスプレー方式で支持体に含浸させて前駆体固形物を製造する段階を含む方法によって製造されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記前駆体固形物中の第1金属(M1)の前駆体及び第2金属(M2)の前駆体を還元雰囲気及び200~400℃の温度条件で還元処理する段階をさらに含むことを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記還元処理段階は、水素単独、又は不活性ガスに水素を希釈させた雰囲気下で行われることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記段階b)の水素化反応は、常温から250℃までの温度、及び0.2~1barの圧力条件下で行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記段階b)は連続式モードによって行われ、このとき、空間速度は1~15L/gcat・hr-1の範囲で調節されることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示内容は、高いアセチレン含有量を有するガス混合物の選択的水素化工程に関する。より具体的に、本開示内容は、メタンの熱分解(例えば、メタンの非酸化カップリング)反応などによって形成された高濃度のアセチレン、及び水素を含有するガス混合物を、2種の金属担持触媒の存在下で選択的水素化反応させ、ガス混合物中のアセチレンからエチレンを製造すると同時に、未反応されたメタン及び水素を副生成物として回収する及び/又はさらにリサイクルすることによって、メタンを高付加化合物に転換させる工程に関する。
【背景技術】
【0002】
メタンは、天然ガス中に最も豊富に存在する化合物であり、既存に知られた化石燃料ソースと比較して2倍に相当する炭素量を含有する。具体的に、天然ガスの埋蔵量は、石炭及びオイルの和よりも多いと報告されたことがある。石炭及びオイルの枯渇が進むにつれて天然ガスの活用が全世界のエネルギーバランスに重大な影響を及ぼしている。したがって、メタンのような天然ガスは石油資源よりも保有量が多いので、石油資源の枯渇による石油を代替できる最も現実的な代替原料として浮上しており、これにより、メタンをそれよりも重質である高付加物質、例えば、エチレン、ベンゼン、ナフタ、燃料油などに転換させる技術に関する研究が活発に行われている。
【0003】
メタンをより重質の炭化水素に転換するための方法として直接転換法及び間接転換法が知られており、間接転換法は、主にスチーム改質反応などによる合成ガスの生成を伴うが、直接転換法は、合成ガス生成のような中間段階がない。現在、商用化しているメタン高付加化工程の大部分は、メタンの部分酸化によって生成された合成ガスから炭化水素化合物を合成することであり、例えば、フィッシャートロプシュ工程(Fischer-Tropsh Process)は、合成ガスから金属触媒(Co、Fe)を用いて炭化水素などを製造する。しかし、このような間接転換技術は、多数の段階を行わなければならなく、反応効率が低く、高温及び高圧の運転環境によって工程コストが高いため、地域によっては経済性が確保し難い。
【0004】
そこで、合成ガスを経由しないでメタンを直接転換させる方式が代案として提示されたが、代表的に、酸化カップリング(Oxidative Coupling of Methane)反応によってC2+炭化水素(例えば、エタン、エチレン及び/又はアセチレンのようなC2炭化水素、及びベンゼンのような芳香族)を製造する方法を挙げることができる(例えば、韓国特許公開番号第2018-0113448号など)。さらに他のメタンの直接転換方式として、非酸化的(Non-Oxidative)ルートを用いてC2+炭化水素を製造する方法が知られている。しかし、前述した直接転換方法では、副生成物が形成される傾向があり、酸化的転換方式では炭素酸化物(CO、CO2など)、そして非酸化的転換方式では触媒の不活性化を招くコークが形成される傾向がある。
【0005】
それにも拘わらず、直接転換方式が有する長所を極力確保しながら、コーク形成のような問題点を解決するための方案が研究されている。これと関連して、本発明者らは、メタン熱分解時に水素を添加するものの、メタンに対する水素量の比、熱分解温度、反応圧力、滞留時間などの反応条件をより精密に調節して、メタンの転換率を高めながらコークの形成を抑制する方案を考慮したことがある。この時、反応条件を調節してメタン転換率を高めながらコークの生成を最小限に抑制する方式でメタン熱分解を行う場合に、C2炭化水素として主にアセチレンが生成され得るところ、熱分解生成物からベンゼンのような芳香族を分離して残ったガス相生成物は、高濃度のアセチレン含有生成物に該当する。また、熱分解反応中にメタンの転換率を極大化するほど経済性は上昇するが、過量のコークが生成されてしまい、運転ができなくなる。経済性のあるメタン転換率内で運転するものの、メタン熱分解生成物は必然的に水素及び未反応メタンを含有する。このように、芳香族分離後に得られたメタン熱分解生成物中のアセチレン濃度は、従来技術によるメタン熱分解生成物に比べて高いレベルである。このような高濃度のアセチレンを含有する熱分解生成物は、高温プラズマ反応器を用いるとともに、メタンの転換率を高めながらコークなどの生成を抑制するために調節された反応条件下で熱分解反応を行う場合にも得られるが、プラズマ反応器の使用時に経済性を確保し難いという短所がある。一方、アセチレンをエチレンに水素化させるアセチレン転換触媒として白金担持触媒、パラジウム担持触媒などが報告されたことがあるが、高濃度のアセチレンを含有する熱分解生成物に対して既存の商用化技術による触媒を用いる場合に、アセチレンの転換率及びエチレンに対する選択度を高めることに限界がある。また、従来のアセチレン転換工程では、水素及びアセチレン比が当量であるが、熱分解生成物では水素及びアセチレン比が高い。
【0006】
また、メタンの熱分解生成物中には水素が相当量で含まれているが、水素は、単位質量当たりのエネルギー効率が高く、燃焼の際に水のみ発生するだけで、他の有害な副産物を生成しない。このような有利な性状から、近年、清浄エネルギ源として水素の価値が増大しているところ、メタンの熱分解過程で行われる脱水素化反応の副生成物として形成される水素が効果的に回収可能であれば、工程全般の経済性向上の側面でも有利であろう。
【0007】
したがって、メタンの非酸化的カップリングによって生成された従来技術に比べて、アセチレン含有量が高く、ひいてはエチレンを殆ど含有しない組成を有するメタン熱分解生成物からエチレンの収率を極大化できる選択的水素化触媒、及び熱分解反応生成物中の水素の活用を高めることができる方案が要求される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示内容に係る一具体例では、メタン熱分解プロセスによって生成された高濃度のアセチレン含有ガス混合物に対する選択的水素化によってエチレンを高収率で製造する方案を提供しようとする。
【0009】
また、本開示内容の他の具体例では、メタンの熱分解反応生成物から、エチレンの他に水素も効果的に回収又は活用する方案を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示内容の第1面によれば、
a)少なくとも2モル%のアセチレン、少なくとも50モル%の水素、及び48モル%までのメタンを含有するガス混合物を提供する段階;
b)多孔性支持体上に水素化活性を有する第1金属(M
1)及び選択的水素化を誘導する機能を有する第2金属(M
2)が担持された水素化触媒の存在下で、前記ガス混合物を水素化させ、前記ガス混合物に比べて増加したエチレン濃度を有する水素化生成物を形成する段階;及び
c)前記水素化生成物からエチレン及び水素をそれぞれ分離して回収する段階;
を含み、
ここで、前記第1金属(M
1)は、Pd、Pt、Rh、Ir、Ni及びCoからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、前記第2金属(M
2)は、Cu、Ag、Au、Zn、Ga及びSnからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、
前記水素化触媒中の第1金属(M
1)及び第2金属(M
2)のそれぞれの含有量は、0.15~2重量%及び0.8~30重量%の範囲であり、及び
下記の式1を満たす選択的水素化方法が提供される:
[数1]
【数1】
【0011】
上記の式で、WM1は、水素化触媒中の第1金属の重量%であり、WM2は、水素化触媒中の第2金属の重量%である。
【0012】
例示的な具体例によれば、前記ガス混合物は、3~10モル%のアセチレン、52~75モル%の水素、及び18~45モル%のメタンを含有してよい。
【0013】
例示的な具体例によれば、前記ガス混合物中にアセチレン以外のC2炭化水素をさらに含有し、その濃度は1モル%未満であってよい。
【0014】
例示的な具体例によれば、前記ガス混合物は、C3~C5炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも一つをさらに含有し、その濃度は1モル%未満であってよい。
【0015】
例示的な具体例によれば、前記段階b)は、外部から別の水素供給無しで行われてよい。
【0016】
例示的な具体例によれば、第1金属(M1)は-4~-2eVの範囲の水素吸着エネルギー、及び第2金属(M2)は-1~0eVの範囲の水素吸着エネルギーを有してよい。
【0017】
例示的な具体例によれば、前記水素化触媒中の第1金属(M1)及び第2金属(M2)はそれぞれ、パラジウム(Pd)及び銅(Cu)であってよい。
【0018】
例示的な具体例によれば、前記水素化触媒中の多孔性支持体は、アルミナ、シリカ、カーボン、ジルコニア、チタニア、セリア及びシリコンカーバイドからなる群から選ばれる少なくとも一つであってよい。
【0019】
例示的な具体例によれば、前記水素化触媒は、第1金属(M1)の前駆体及び第2金属(M2)の前駆体を組み合わせた複合前駆体の溶液を用いてスプレー方式で支持体を含浸させて前駆体固形物を製造する段階を含む方法によって製造されてよい。
【0020】
例示的な具体例によれば、前記水素化触媒を製造する方法は、前記前駆体固形物中の第1金属(M1)の前駆体及び第2金属(M2)の前駆体を還元雰囲気及び200~400℃の温度条件で還元させる段階をさらに含むことができる。
【発明の効果】
【0021】
本開示内容に係る具体例によってガス混合物からエチレン及び水素を製造する方法は、メタン熱分解時に、反応条件によって比較的高い濃度のアセチレンを含有する生成物の組成を考慮して、2種の金属の担持触媒の存在下でガス混合物中のアセチレンを選択的に水素化させてエチレンを高収率で製造でき、また、ガス混合物中の水素を回収して高付加価値を創出する用途に適用でき、なお、アセチレンの選択的水素化反応に要求される水素供給源として活用することにより、外部からの別の水素供給の必要性を除去することができる。その他にも、水素化生成物中のメタン及び/又は水素を前段のメタン熱分解反応によってリサイクルする場合に、メタン熱分解反応時にメタンの転換率を高めながらコークの生成を抑制できる他にも、特にアセチレンに対する選択度を高めて、メタンの熱分解生成物中でアセチレンがC2炭化水素の大部分を占める組成のガス混合物を形成することができる。このように、本具体例による方法は、選択的水素化工程の他にも、その前段工程及び後段工程と結合して、メタンの高付加化プラットホームの全体的な効率性を改善できるなど、商用化に特に有利な長所を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】メタン熱分解工程及びアセチレンの水素化工程を結合してエチレンを製造するための工程を概略的に示す図である。
【
図2】実施例で用いられた装置の構造を概略的に示す図である。
【
図3】異なる運転条件(温度、運転圧力、水素/メタンの体積比及び滞留時間)で算出されたメタン転換率を示すグラフ(各図は、反応圧力(0.1~10気圧)のログ値対滞留時間(sec)としてプロットされる。)である。
【
図4】様々な運転条件で算出されたC2炭化水素及びベンゼンの収率を示すグラフである。
【
図5】1200℃の温度及び1~5秒の滞留時間で異なる反応圧力及び水素を共に供給する場合において、メタン転換率に対して(
図5のA、D、G)C2+C
6H
6、(
図5のB、E、H)C2、及び(
図5のC、F、I)C
6H
6のそれぞれに対する選択度をプロットしたシミュレーション結果を示すグラフ(ここで、(
図5のA、B、C)ではH
2/CH
4=0、1~10bar;(
図5のD、E、F)ではH
2/CH
4=1、0.1~10bar;(
図5のG、H、I)ではH
2/CH
4=1、0~0.5bar)である。
【
図6】Aは、異なる熱分解条件で流通時間(time on stream,TOS)に対するメタン転換率を、Bは、異なる熱分解条件で生成物の平均選択度を示すグラフである。
【
図7】異なる条件で選択された転換率対≦C
6炭化水素に対する選択度を示すグラフ(黒四角はH
2/CH
4=0及び常圧条件、青三角はH
2/CH
4=1及び常圧条件、赤円はH
2/CH
4=1及び常圧未満の条件を示し、等高線は収率に相当し、及びそれぞれのポイントは個別実験の平均値を示す。)である。
【
図8】Aは、メタン熱分解及びPdCu触媒を用いた水素化反応によって生成された炭化水素の収率(熱分解条件:1235℃、0.5bar、H
2/CH
4=1及びGHSV=1415hr
-1;水素化反応条件:100℃、0.5bar、WHSV=4L/g hr)を、Bは、PdCu触媒、PdAg触媒及びPdAu触媒のそれぞれに対して算出されたエチレンの選択度を示すグラフ(触媒反応器に対する温度は、アセチレン転換率を調節するように変化される。)である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、下記の説明によっていずれも達成可能である。下記の説明は、本発明の好ましい具体例を記述するものとして理解されるべきであり、本発明が必ずしもこれに限定されるわけではない。また、添付の図面は理解を助けるためのもので、本発明を限定するためのものでないと理解しなければならない。
【0024】
本明細書において使われる用語は、下記のように定義できる。
【0025】
“コーク(Coke)”とは、低い水素含有量を有する炭化水素、具体的に、固相の炭素残留副生成物を意味できる。
【0026】
“カップリング(Coupling)”とは、狭義には2個の同じ分子が反応してより大きい分子を形成する化学反応を意味できる。
【0027】
“メタンカップリング(Methane Coupling)”とは、メタンからC2炭化水素(例えば、エタン、エチレン、アセチレンなど)の他にも、それ以上の炭素数を有する炭化水素(C2+)(例えば、ベンゼン、ナフタレンなど)などを生成する反応を意味するものと理解されてよい。
【0028】
“熱分解(Pyrolysis)”とは、酸素又は酸素含有反応物の添加なしにも、熱などによる露出時に炭化水素が分解される反応を意味でき、本開示内容では、熱を加えて化合物を1又はそれ以上の他の物質に転換させる反応を含むことができる。
【0029】
“不均一系触媒(Heterogeneous Catalyst)”とは、触媒反応過程で反応物と異なる相(phase)で存在する触媒を意味でき、例えば、反応媒質内で溶解されない触媒を意味できる。不均一系触媒は、反応が起きるためには少なくとも一つの反応物が不均一系触媒の表面に拡散して吸着しなければならず、反応後には、生成物が不均一系触媒の表面から脱離する必要がある。
【0030】
“支持体(Support)”とは、触媒活性成分が付着した高い比表面積を有する材料(典型的に、固相材料)を意味できる。
【0031】
“水素化(Hydrogenation)”とは、水素の供給下で化合物を触媒と接触させて化合物の少なくとも一部分に水素を化学的に付加することによって化合物中の水素含有量を増加させる反応を意味できる。
【0032】
“含浸法(Impregnation)”とは、触媒前駆体を溶解させた溶液を支持体に含浸させた後、必要時に乾燥及び/又は焼成(又は、還元)処理過程を経る方式で触媒を製造する方法を意味できる。
【0033】
“転換率(Conversion)”とは、供給源料の単位モル当たりの供給源料以外の化合物に転換されたモル数を意味できる。
【0034】
“選択度(Selectivitiy)”とは、転換された供給源料の単位モル当たりのターゲット生成物のモル数を意味できる。
【0035】
本開示内容の一具体例によれば、ガス混合物を水素化反応させて、アセチレンをエチレンに選択的に転換させる工程を提供する。このようなガス混合物は、典型的にメタンの熱分解生成物であってよく、具体的には、メタンの熱分解生成物のうち、C6以上の炭化水素、特に芳香族炭化水素を分離して残ったガス混合物であってよい。したがって、ガス混合物中のベンゼン、トルエン、ナフタレンなどのような芳香族炭化水素は実質的に含有しなくてよい。
【0036】
一具体例によれば、水素化反応の供給源料であるガス混合物は、既存のメタン熱分解生成物に比べてより高い濃度のアセチレンを含有してよい。このように、高濃度のアセチレンを含有するガス混合物は、熱分解過程においてメタンの転換率を高める一方、コーク形成を最小限に抑制する目的で熱分解反応条件(温度、圧力、滞留時間など)を調節し、特に、水素添加下で熱分解反応を行う場合に、メタンがエチレンよりは主にアセチレンに転換される現象に基づく。このような組成を有するガス混合物は、メタンの非酸化的熱分解生成物(具体的に、メタンの非酸化的カップリング生成物)、メタンのプラズマ熱分解(又は、カップリング)生成物などから得ることができ、それらを組み合わせたガス混合物であってもよい。特に、本具体例において適用可能なガス混合物は、典型的に、メタンの熱分解反応のうち、酸素を使用しない熱分解反応(具体的に、非酸化的熱分解)に由来するものであるので、一酸化炭素、二酸化炭素などは実質的に含有しない。
【0037】
一具体例によれば、ガス混合物中のアセチレンの濃度は、少なくとも約2モル%、具体的に約3~10モル%、より具体的に約4~8モル%の範囲であってよい。上述したアセチレンの濃度は、既存のメタン熱分解反応生成物中のアセチレン濃度が約2モル%未満(より具体的に、約0.5~1モル%)であり、相対的にエタン、エチレンなどのようなアセチレン以外のC2炭化水素の濃度が相対的に高い組成を有するものとは区別される。
【0038】
一方、ガス混合物は、メタンの熱分解反応のうちC-Cカップリング反応によって副生成物として形成される水素、及び/又は後述するように、メタン熱分解時に転換率を高め、コーク形成を抑制する目的でメタンと共に供給されたり或いは反応する水素をさらに含むことができる。一例として、ガス混合物は、少なくとも約50モル%、具体的に約52~75モル%、より具体的に約60~65モル%の水素を含有してよい。また、ガス混合物は、典型的に、熱分解反応において転換されなかったメタン(すなわち、未反応メタン)を含有するが、このとき、メタンの濃度は、約48モル%まで、具体的に約18~45モル%、より具体的に約28~35モル%のメタンを含有してよい。
【0039】
特定の具体例によれば、ガス混合物は、約4~7モル%のアセチレン、約62~64モル%の水素、及び約30~33モル%のメタンを含有してよい。
【0040】
例示的な具体例によれば、ガス混合物は、アセチレン以外のC2炭化水素をさらに含有してよく、このようなC2炭化水素は、エタン及び/又はエチレンであってよい。アセチレン以外のC2炭化水素の濃度は、例えば、約1モル%未満、具体的に約0.75モル%未満、より具体的に約0.5モル%未満であってよい。特定の具体例によれば、ガス混合物中のエチレンの濃度は、例えば、約1モル%未満、具体的に約0.75モル%未満、より具体的に約0.5モル%未満であってよい。
【0041】
また、例示的な具体例によれば、前記ガス混合物は、メタンの熱分解生成物から芳香族の分離過程で除去されなかった炭化水素、一例として、C3~C5炭化水素をさらに含有できる。このような炭化水素は、典型的に約1モル%未満、具体的に約0.75モル%未満、より具体的に約0.5モル%未満の濃度で含まれてよい。
【0042】
一具体例によれば、前述したガス混合物は、触媒を用いた選択的水素化反応によってガス混合物中のアセチレンがエチレンに転換されてよい。このとき、注目すべき点は、アセチレンの水素化反応に必要な水素を別に供給しないで、ガス混合物中の水素をそのまま活用できるということである。ただし、アセチレンの効果的な水素化に適した水素分圧に到達できるように、外部からの水素補充が完全に排除されるわけではないが、この場合にも、水素添加量を顕著に下げることができる。これと関連して、アセチレンをエチレンに選択的水素化することに適した反応生成物中のH2/C2H2のモル比は、例えば、約5~35、具体的に約8~30、より具体的に約9~20、特に具体的に約10~15の範囲で調節されてよい。
【0043】
一方、水素化反応は、触媒の存在下で行われてよく、このとき、触媒は、通常の熱分解生成物に比べてアセチレン濃度が高いガス混合物を対象に、アセチレンの転換率の他にエチレンに対する選択度も上げることができる活性を有する種類を使用する必要がある。そのために、本具体例では、多孔性支持体上に少なくとも2種の金属、具体的に、水素化活性を有する第1金属(M1)及び選択的水素化を誘導する機能を有する第2金属(M2)が担持された不均一触媒の存在下で水素化反応が行われる。このような金属機能は、DFT(Density Functinoal Theory)計算されたH adatom吸着エネルギーで定量化でき、第1金属(M1)は、約-4~-2eVの範囲の水素吸着エネルギー、及び第2金属(M2)は-1~0eVの水素吸着エネルギーを示すことができる。
【0044】
一例として、第1金属(M1)は、Pd、Pt、Rh、Ir、Ni及びCoからなる群から選ばれる少なくとも一つであってよく、具体的にはPdであってよい。また、第2金属(M2)は、Cu、Ag、Au、Zn、Ga及びSnからなる群から選ばれる少なくとも一つであってよく、具体的にはCuであってよい。特定の具体例によれば、支持体上に担持される金属の組合せは、Pd及びCuの組合せであってよいが、その使用理由は、合金効果によって説明され得る。本具体例で使用された水素化触媒は、2種の活性金属成分を含む触媒であり、第1金属(特に、Pd)及び第2金属(特に、Cu)は、結晶性を示す状態であってよく、また、合金形態又は相互緊密に(intimately)接触しつつ担持された形態であってよい。その他にも、第1金属(M1)は、単原子の形態で存在してよく、第2金属(M2)は、ナノ粒子の形態で存在してよい。
【0045】
例示的な具体例において、水素化触媒中の活性金属(又は、第1金属及び第2金属のそれぞれ)のサイズは、例えば、約100nm以下、具体的に約10~70nm、より具体的に約20~50nmの範囲であってよい。
【0046】
一具体例によれば、水素化触媒中の第1金属(M1)の含有量は、例えば、約0.15~2重量%、具体的に約0.2~1重量%、より具体的に約0.21~0.5重量%の範囲であってよい。第1金属の含有量は、選択的水素化活性と選択度に影響を及ぼす要因であることから、前述した範囲内で決められることが有利であり得る。また、第2金属(M2)の含有量は、例えば、約0.8~30重量%、具体的に約1~10重量%、より具体的に約1.5~5重量%の範囲であってよい。第2金属の含有量が過度に高い又は低い場合には、活性が不十分であるか、選択的水素化でない水素化現象が誘発されることがあることから、前述した範囲内で決められてよい。
【0047】
一方、例示的な具体例において、第1金属(M
1)及び第2金属(M
2)は、それぞれの金属が持つ性状を考慮して所定の比率で組み合わせられてよい。これと関連して、水素化触媒は、下記の式1を満たしてよい(ICP-OES分析基準)。
[数1]
【数2】
【0048】
上記の式で、WM1は、水素化触媒中の第1金属の重量%であり、WM2は、水素化触媒中の第2金属の重量%である。
【0049】
例示的な具体例によれば、
【数3】
は、例えば、約2~10、具体的に約3~8、より具体的に約4~7の範囲で調節されてよいが、第2金属(M
2)に比べて第1金属(M
1)の量が一定レベルに至らないか超える場合には、活性が顕著に低いか、或いは水素化反応時にアセチレンに対する選択度が減少する現象が誘発されることから、前述した範囲で適切に調節することが有利であり得る。
【0050】
一方、2種の金属(第1及び第2金属)を担持するための支持体は、アルミナ、シリカ、カーボン、ジルコニア、チタニア、セリア及びシリコンカーバイドからなる群から選ばれる少なくとも一つであってよい。具体的にはアルミナ、より具体的にはガンマ-アルミナを使用することができる。
【0051】
例示的な具体例によれば、支持体は多孔性支持体であってよく、支持体は、反応物又は生成物が支持体内で拡散時に過度に長時間滞留しないように多孔性が調節されてよい。
【0052】
これと関連して、支持体は、下記に例示される性状を示してよい:
【0053】
- 比表面積(BET):少なくとも約300m2/g、具体的に約400~700m2/g、より具体的に約500~600m2/g、
- ポア体積:少なくとも約0.5cm3/g、具体的に約0.75~2cm3/g、より具体的に約1~1.5cm3/g、及び
- 平均ポアサイズ:約50~200Å、具体的に約70~180Å、より具体的に約100~150Å。
【0054】
また、例示的な具体例によれば、支持体は、パウダー形態の他にも、当業界に知られた様々な形状に製造されてよい。一例として、球形(中空を含む)、シリンダ形(中空を含む)、グラニュール形状、タブレット形状、リング(ring)形状、サドル(saddle)形状、星状、ハニコム形状、ペレット形状、三葉(trilobe)形状、四葉(quatrolobe)形状などであってよい。このように、特定形状の支持体を製造するために、当業界に公知の成形方法、押出(extrusion)、スプレー乾燥、ペレット化(Pelletizing)、オイルドロップ(Oil Dropping)などを適用できるが、これは、例示的なものと理解されてよい。また、前記例示された形状の支持体の平均サイズは、例えば、約1~5mm、具体的に約1.5~3mm、より具体的に約2~2.75mmの範囲であってよいが、これは、例示的なものと理解されてよい。
【0055】
例示的な具体例によれば、水素化反応触媒は、当業界に公知の担持方式によって製造されてよく、例えば、含浸法(impregnation)、蒸着法(deposition)、イオン交換法(ion-exchange)、蒸着-沈殿法(deposition-precipitation)などを挙げることができ、具体的に含浸法、より具体的に初期湿式含浸法又は修正された初期湿式含浸法を適用できる。
【0056】
特定の具体例では、含浸法によって触媒を製造でき、そのために、金属は、前駆体形態、具体的に金属化合物、より具体的に金属塩、錯体などの形態で使用することができ、含浸溶液の製造時に使用される媒質(具体的に、水系媒質)に対して溶解性を有する種類から選択されてよい。一例として、活性金属のうち第1金属がパラジウムである場合に、その前駆体は、有機酸塩又は無機酸塩、錯体、水酸化物、ハロゲン化物、これらの組合せなどであってよい。例えば、パラジウム前駆体として、酢酸パラジウム、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、硝酸アンモニウムパラジウム、硫酸パラジウム、炭酸パラジウム、水酸化パラジウム、ハロゲン化パラジウム、これらの水和物などから選ばれる少なくとも一つを使用することができるが、これは、例示的なものと理解されてよい。より典型的には、前駆体として硝酸アンモニウムパラジウムを使用することができる。一方、第2金属が銅である場合に、その前駆体は、例えば、水酸化リン酸銅、硝酸銅、硫酸銅、酢酸銅、ギ酸銅、塩化(II)銅、ヨード化銅などから選ばれる少なくとも一つであってよく、より典型的には硝酸銅を使用することができる。
【0057】
例示的な具体例によれば、第1金属前駆体及び第2金属前駆体を順次に又は同時に媒質中に添加して含浸溶液を製造することができる。この時、含浸溶液中の活性金属前駆体(第1金属前駆体及び第2金属前駆体)の全濃度は、例えば、約0.01~2μM、具体的に約0.1~1μM、より具体的に約0.25~0.75μMの範囲で最終触媒中の第1及び第2金属の担持量、第1金属と第2金属との比を考慮して調節されてよい。その他にも、前述した第1金属前駆体及び第2金属前駆体を含有する溶液のpHは、金属前駆体を担持体中に効果的に分散させる目的で、例えば、約1~3、具体的に約1.2~2、より具体的に約1.3~1.5の範囲で調節されてよい。そのために、当業界で知られた酸成分を含浸溶液に添加することができる。このような酸成分の例は、硝酸、硫酸、塩酸、シュウ酸などから選ばれる少なくとも一つであってよい。
【0058】
含浸過程は、金属前駆体溶液(すなわち、第1及び第2金属の複合前駆体溶液)が支持体のポア内に十分に接触できれば、特定の方式に限定されないが、一例として、金属前駆体溶液をスプレー方式で接触又は含浸させて前駆体固形物を製造することができる。或いは、支持体を金属前駆体溶液中に浸漬(immersion)させてもよく、例えば、約15~80℃(具体的に約20~50℃、より具体的に常温)で約0.5~3時間(具体的に、約1~2時間)にわたって接触させることができる。ただし、このような条件は例示的なものと理解されてよい。
【0059】
上述したように、活性金属を支持体に含浸した後、乾燥過程を行うことができ、例えば、酸素含有雰囲気(具体的に、空気)雰囲気であってよく、乾燥温度は、例えば、約60~150℃、具体的に約70~100℃の範囲であってよいが、これに限定されるものではない。また、乾燥時間は、例えば、約3~24時間、具体的に約6~12時間の範囲で決められてよい。乾燥過程によって金属前駆体が支持体にさらに緊密に付着してよい。その結果、支持体上に活性金属の前駆体が被覆された形態を有するようになり、一例として、コアセル構造を有することができる。
【0060】
上記のように、支持体上に第1金属前駆体及び第2金属前駆体が付着した固形物が得られた後には、還元処理によって金属成分を還元形又は元素の形態に転換させることができる。この時、還元に先立ってか焼(calcination)又は熱処理を行うことを排除するわけではないが、具体的には、か焼処理無しで前駆体固形物を還元処理する方式を採択することができる。
【0061】
還元処理のために、水素単独、又は不活性ガス(例えば、N2、He、Arなど)に水素を希釈して使用することができ、例えば、約200~400℃、具体的に約220~380℃、より具体的に約250~350℃の温度範囲で行われてよく、昇温速度は、例えば、約3~10℃/min、具体的に約4~8℃/min、より具体的に約5~7℃/minの範囲で決められてよい。また、還元処理時間は、特に限定されないが、例えば、約0.5~24時間、具体的に約1~12時間の範囲内で調節されてよい。例示的に、還元ガスが不活性ガスに還元ガスを希釈した場合に、還元ガスの濃度は、例えば、約5~20体積%の範囲であってよい。その他にも、還元処理時の圧力は、例えば、約常圧~10bar(主に常圧)の範囲であってよい。
【0062】
一具体例によれば、前述した触媒の存在下で高濃度のアセチレンを含有するガス混合物を水素化処理する。この時、水素化反応温度は、常温~250℃、具体的に約40~200℃、より具体的に約50~150℃の範囲で決められてよい。また、水素化反応圧力は、例えば、約0.2~1bar、具体的に約0.3~0.8bar、より具体的に約0.4~0.7barの範囲で決められてよい。
【0063】
例示的な具体例によれば、水素化工程は、回分式(batch)又は連続式(continuous)モードによって製造されてよいが、操業の経済性などからは連続式モードが好ましい。この場合、反応器としては、特に限定されないか、例えば、気相の固定層反応器、流動層反応器などが用いられてよく、固定層反応器が有利であり得る。また、空間速度(gas hourly space velocity;GHSV)は、エチレンの生産性及び触媒接触を用いた転換率を総合的に考慮して決定されるが、低すぎると生産性が低下することがあり、一方、高すぎると触媒との接触が不十分になることがある。このことから、空間速度は、例えば、約1~15L/gcat・hr-1、具体的には約2~10L/gcat・hr-1、より具体的に約3~5L/gcat・hr-1の範囲で調節されてよい。
【0064】
例示的な具体例によれば、供給源料であるガス混合物中のアセチレンの転換率は、例えば、少なくとも約95%、具体的に少なくとも約97.5%、より具体的に約99~99.9%の範囲であってよく、また、エチレンに対する選択度は、例えば、少なくとも約95%、具体的に少なくとも約97.5%、より具体的に約99~99.9%の範囲であってよい。ただし、前記数値範囲は例示的な目的で記載されたものと理解されるべきである。
【0065】
水素化反応の完了した生成物は、当業界に公知の手段(例えば、蒸留、PSAなど)の組合せを用いて、分離又は精製過程を経てエチレン及び水素をそれぞれ回収することができる。ただし、水素化生成物中には水素化反応過程でそのまま維持されたメタン及び水素を依然として含有でき、メタン、及び水素の一部を分離過程でリサイクルすることができる。この時、メタン及び水素のそれぞれを個別にリサイクルしてもよく、混合ガスの形態でリサイクルしてもよい。一例として、メタン及び水素の混合ガスの形態でリサイクルして、新規メタン含有供給源料(又は、これと水素との組合せ)と共に熱分解反応器に供給でき、リサイクル流れ中のCH4/H2のモル比は、例えば、約0.05~1、より具体的に約0.1~0.8、さらに具体的に約0.2~0.5の範囲で調節できる。
【0066】
熱分解及び水素化統合工程
メタン熱分解工程及びアセチレンの水素化工程を結合してエチレンを製造するための例示的な工程は、
図1に示す通りである。これは、本開示内容の理解を高めるために例示されたものであり、特に、水素化反応の前段の熱分解プロセスは、様々な方式で具現でき、必ずしも以下に記述される熱分解反応に限定解釈されるものではない。
【0067】
同図を参照すると、供給原料としてのメタン含有ガス1は、リサイクルされる混合ガス(メタン及び水素の混合ガス;12)と組み合わせられたメタン及び水素のガス混合物2として熱分解反応器101に導入される。一例として、メタン含有ガス1は純粋メタンであってもよく、又はメタン以外に希釈ガスをさらに含有した状態で熱分解反応器101に供給されてもよく、一例として、希釈ガスは、窒素、二酸化炭素及び硫化水素からなる群から選ばれる少なくとも一つであってよく、その含有量は、例えば、最大で約20モル%、具体的に最大で約10モル%、より具体的に最大で約5モル%、特に具体的に最大で約3モル%であってよいが、これは例示的なものと理解されてよい。
【0068】
このとき、熱分解反応器は、特定種類に限定されないが、熱伝達効率から、放射形チューブ反応器であってよい。また、熱分解反応器、具体的に、非酸化直接転換反応器の材質は、例えば、アルミナ、SiC、FeCrAl合金、Inconel(NiCr)などから選ばれる少なくとも一つであってよい。
【0069】
一方、メタンは、不活性ガスの安定した構造と類似の非極成分子であり、C-Hの結合エネルギーは435kJ/molであり、熱力学的安定性が高い。このように高い化学的及び熱力学的安定性は、メタンを様々な化合物に転換し難くする。これに対し、本具体例によれば、熱分解過程において、例えば、直接非酸化カップリング反応又はプラズマカップリング反応によって、メタンからC2+炭化水素及び副生成物として水素が生成される。以下では、直接非酸化カップリング反応を伴う熱分解工程を中心に記述する。
【0070】
熱分解反応では、メタンをメチルラジカルに活性化させた後にラジカル反応がなされるところ、この時、メタン転換率を高め、コーク生成を抑制するために、反応温度及び圧力条件を精密に調節できる。一例として、熱分解温度は、例えば、約1000~1400℃、具体的に約1050~1350℃、より具体的に約1100~1300℃、特に具体的に約1150~1250℃の範囲で調節されてよい。また、熱分解圧力は、例えば、約0.1~1bar、具体的に約0.2~0.8bar、より具体的に約0.3~0.7bar、特に具体的に約0.4~0.6barの範囲で調節されてよい。その他にも、空間速度(GHSV)は、例えば、約300~3600hr-1、具体的に約720~1800hr-1、より具体的に約900~1600hr-1、特に具体的に約1200~1440hr-1の範囲で設定されてよい。
【0071】
図示の具体例において、前述したように、新規メタン含有供給源料と共に反応器内に導入されるリサイクル混合ガスはメタン及び水素を含有するので、水素の供給下で熱分解反応が起き、これは、メタン転換率を高める一方で、コーク生成物質の形成を抑制することに効果的である。このような反応条件下でメタンが、C2炭化水素のうちエチレンよりは主にアセチレンに転換され得る。これと関連して、熱分解反応器内の組成は、下記の式2で表示された要件を満たしてよい。
[数2]
【数4】
【0072】
上記の式で、PH2は、反応器に導入される混合ガスの水素分圧であり、PCH4は、反応器に導入される混合ガスのメタン分圧である。
【0073】
例示的な具体例によれば、
【数5】
は、例えば、約0.5~3、具体的に約0.7~2.5、より具体的に約0.9~1.5の範囲で調節されてよい。
【0074】
例示的な具体例によれば、熱分解反応は、触媒(例えば、担持触媒)の存在下で行われてよく、メタン活性化機能を有する金属として、鉄(Fe)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)などから選ばれる少なくとも一つを使用することができる。また、支持体として無機酸化物材質の多孔性支持体、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリアなどから選ばれる少なくとも一つを使用することができる。また、触媒中の活性金属の含有量は、例えば、約0.1~10重量%、具体的に約0.3~8重量%、より具体的に約0.5~5重量%の範囲で調節されてよい。上述した触媒組成は、例示的なものとして提供され、必ずしもそれに限定されるものではない。
【0075】
例示的な具体例によれば、前述した反応条件下で行われる熱分解反応時に、メタン転換率は約10~50%の範囲であってよく、この時、メタン転換率が低いほどC2+炭化水素に対する選択度は増加する傾向を示し得る。一例として、メタン転換率が0~10%の区間でC2+炭化水素に対する選択度は少なくとも約99.9%、メタン転換率が10~20%の区間でC2+炭化水素に対する選択度は少なくとも約99.5%、メタン転換率が20~30%の区間でC2+炭化水素に対する選択度は少なくとも約95%、メタン転換率が30~40%の区間でC2+炭化水素に対する選択度は少なくとも約90%、メタン転換率が40~50%の区間でC2+炭化水素に対する選択度は少なくとも約80%であり得る。ただし、メタン転換率を過度に上げると、C2+炭化水素に対する選択度が約70%まで減少し、過度に下げると収率に問題があり得る。したがって、メタン転換率は、例えば、約10~50%、具体的に約20~40%、より具体的に約30~35%の範囲で保つことが有利であり得る。
【0076】
また、熱分解生成物中のアセチレンに対する選択度は、例えば、少なくとも約55%、具体的に少なくとも約60%、より具体的に約65~70%の範囲であってよく、芳香族(特に、ベンゼン)に対する選択度は、例えば、約30%以下、具体的に約5~25%、より具体的に約10~20%の範囲であってよい。
【0077】
例示的な具体例によれば、熱分解生成物は、アセチレン及び芳香族の他にも、エタン、エチレン、C3-C5炭化水素などから選ばれる少なくとも一つの化合物をさらに含有でき、その含有量は、熱分解生成物を基準に、例えば、約40体積%以下、具体的に約30体積%以下、より具体的に約20体積%以下であってよい。
【0078】
図1を再び参照すると、熱分解生成物3は、真空ポンプ102を経て減圧した流れ4を生成し、その後、急冷タワー103において、例えば、約-20~25℃(具体的に、約-10~0℃)まで急激に冷却されてよい。図示の具体例において、上段流れ(overhead flow)としてC
5
-炭化水素及び水素を含有するガス混合物5、及び下段流れ(bottom flow)としてC
6
+炭化水素(具体的に、ベンゼン及びC
6超過炭化水素)7にそれぞれ分離する。この時、下段流れ7は、ベンゼンカラム105でベンゼン20とこれよりも重質である留分21とにそれぞれ分離され、ベンゼンを回収することができる。一方、上段流れ5は、前述したように、メタン、水素及びアセチレンを含有する留分であり、選択的に、アセチレン以外のC2炭化水素(エタン及び/又はエチレン)、及びC3-C5炭化水素をさらに含有できるガス混合物である。このようなガス混合物はアセチレン転換器104に導入され、前述したようにアセチレンの選択的水素化反応が行われてよい。
【0079】
その後、水素化生成物6は、プロセスガス圧縮器106を通過しながら、例えば、約10~50bar(具体的に、約15~30bar)に加圧され、加圧された流れ8は、冷却ボックス(cold-box)107において、例えば、約-75~-45℃(具体的に、約-60~-55℃)に冷却されてよい。冷却された流れ9は、デメタナイザー108に移送され、デメタナイザー108から、メタン及びこれよりも軽質である水素の混合ガス10が上段流れとして排出される一方、C2+炭化水素11は下段流れとして排出され、その後、デエタナイザー110でC2炭化水素16とC3-C5炭化水素17とに分離される。その後、C2炭化水素16は、C2スプリッター111でエチレン18とエチレン以外のC2炭化水素19とにそれぞれ分離される。この時、デメタナイザー108、デエタナイザー110及びC2スプリッター111はそれぞれ、極低温(cryogenic)条件で運転される。
【0080】
一方、混合ガス10は、それぞれ、リサイクル流れ12と回収流れ13とに分離され、リサイクル流れは、メタン含有供給源料と組み合わせられた後に熱分解反応器101に導入される。回収流れ13は、圧力スイング吸着器109に導入され、水素14とメタン15とに分離される。
【0081】
前述した具体例において、熱分解反応及び選択的水素化反応後の分離及び精製ユニットの運転原理などは、当業界に公知であり、細部事項に関する記載は省略する。
【0082】
また、他の具体例によれば、
図1に示した工程の基本構成を保持しながら、急冷タワー、真空ポンプ、アセチレン転換器などの配列を変化させる方式で具現することができる。例えば、メタン熱分解反応器の後段に急冷タワー-真空ポンプ-アセチレン転換器の順に配置する場合に、アセチレン転換器は、常圧以上の圧力条件下で運転されてよい。その他にも、真空ポンプ-アセチレン転換器-急冷タワー、アセチレン転換器-真空ポンプ-急冷タワーなどの順に工程を構成することもできる。或いは、アセチレン転換器-真空ポンプ-急冷タワー又はアセチレン転換器-急冷タワー-真空ポンプの順に配置されてもよいが、アセチレン転換触媒にC6+炭化水素が引き込まれる場合には触媒寿命が短縮することがあるため、好ましくないことがある。
【0083】
本発明は、下記の実施例からより明確に理解でき、下記の実施例は、本発明の例示目的に過ぎず、発明の領域を制限しようとするものではない。
【0084】
実施例
触媒製造
三葉(trilobe)形状のアルミナ支持体をSaint-Gobain社(USA)から購入し、別の精製処理無しで使用した。活性金属を担持するに先立ち、支持体を、対流オーブン内で80℃で一晩乾燥させた。第1金属前駆体として硝酸アンモニウムパラジウム(palladium ammonium nitrate;Sigma,99.9%)、及び第2金属前駆体として硝酸銅(Sigma,99.9%)、硝酸金(Sigma,99.9%)又は硝酸銀(Sigma,99.9%)を、酸水溶液(酸成分:10重量%、硝酸)に溶解させた。修正された初期湿式含浸法を用いて金属を担持し、これから得られた固形物を、対流オーブン内で80℃で乾燥させたし、300℃で6時間水素還元させた(昇温速度:5℃/min)。アルミナ支持体上に合金形態の金属が担持された触媒は、x%Pdy%M(x及びyは、それぞれの金属の重量%を意味し、Mは、第2金属(Cu、Ag及びAu)を意味する。)と表示した。
【0085】
メタン熱分解及び水素化
メタン熱分解及び水素化実験は、連続流れシステムで行われた。本実施例で用いられた装置の構造は、
図2に概略的に示す。
【0086】
同図を参照すると、実験装置は、大きく、熱分解炉201、冷却器(chiller)202、水素化反応器203、オンラインガスクロマトグラフィー204、真空ポンプ205を含む。水素化反応器203と真空ポンプ205との間に流れを主に使用したし、分析時に、前記流れをオンラインガスクロマトグラフィー204で変更した。また、TC及びPはそれぞれ、熱電対及び圧力制御器に相当する。
【0087】
具体的に、メタン熱分解領域において、アルミナチューブ反応器(99.9%、1/2”O.D)を、モリブデンシリサイド(MoSi2)加熱部材が備えられた電気炉の中央に配置した。反応に先立ち、不純物を除去する目的で、反応器を空気流れ(10mL・min-1、99.9%)下に700℃で2時間熱処理した(昇温速度:10℃/min)。窒素とメタン(99.999%,Rigas)及び水素(UHP,Riga)が混合されたガス混合物を、質量流れ制御器(5850E,Brooks Instrument)を用いて反応器内に導入した。熱分解生成物流出流れを-10℃で急冷させ、微量の多環芳香族を捕集した。急冷されたガスを、ステンレススチール反応器(1/2”O.D、300mm L)が電気炉の中央に配置された水素化領域に導入した。全ての実験に対して、反応システムは常圧以下で運転されたし、反応圧力は耐化学性ソレノイドバルブ(Parker)及び隔膜(diaphragm)によって制御される真空制御器(Buchi,V800)によって調節された。移送ラインは、100℃で加熱し、潜在的な凝縮を防止した。FID(flame ionized detector)の場合はHP-PLOT/Al2O3毛細管カラム(50m×0.32mm×8.0mm)、及びTCD(thermal conductivity detector)の場合にはHP-Molesieve毛細管カラム(30m×0.53mm×20mm)が備えられたオンラインガスクロマトグラフィー(Agilent Technology,7890A)を用いて2時間の間隔で生成物をサンプリングした。GCカラムは、メタン転換率を算出し、エチレン、エタン、アセチレン及びベンゼンの濃度を定量的に分析するために、水素、窒素及び炭化水素を分離するように構成された。微量のC3-C5生成物は共に組み合わせた。
【0088】
また、本実施例で用いられた微細運動学的シミュレーションは、CANTERAソフトウェアパッケージを用いて行った。
【0089】
結果及び討議
-メタン熱分解シミュレーション
メタンが主生成種として高付加炭化水素に転換される最適反応条件を究明するために、4個の反応パラメータ(温度:1150~1250℃;圧力:0.1~10bar;H
2/CH
4比:0~1;及び滞留時間:0~10秒)を考慮して、メタン熱分解に対するシミュレーションを行った。それぞれの反応パラメータがメタン転換率に及ぼす影響及び生成物収率を、
図3及び
図4において等高線としてプロットした。
図3に示すそれぞれのグラフは、4個の反応パラメータの組合せによる影響を示す。メタン転換率は、温度に関係なく、全般的に滞留時間が長くなるにつれて増加しているが、H
2/CH
4比が増加するにつれて減少している。ただし、運転圧力によって結果が異なっている。1150℃までの温度でメタン転換率は火山形態の傾向を示した。
【0090】
一例として、
図3aによれば、1100℃において、0.2barにおけるメタン転換率は約45%から始まっており、1barでは60%のピーク値を示しており、その後、10barで45%(滞留時間:6秒)に減少した(黒矢印)。一方、1250℃において、メタン転換率は反応圧力が増加するにつれて漸次減少した(
図3cで黄矢印)が、0.2barで87%から出発して10barで10%を示した(H
2/CH
4=0;滞留時間:6秒)。1250℃では、水素を共に供給するか否かに関係なく、類似の傾向が観察された(
図3d、
図3h及び
図3i)。これと関連して、
図3において運転圧力はログスケールと記載されたし、メタン転換率が反応圧力、特に常圧未満の圧力に敏感であるという点に注目する必要がある。また、最高のメタン転換率は、反応温度が増加するにつれて常圧未満で達成された。このような結果は、メタン熱分解過程で容易に形成されたガス相水素が、全メタン転換率を熱力学的に抑制したためと判断される。
【0091】
その後、炭化水素収率を検討したが、シミュレーションで特定炭化水素種(エタン、エチレン、アセチレン及びベンゼン)の収率を測定し、その結果を
図4に示した。
【0092】
H
2/CH
4比を0に固定させた状態で、特定炭化水素生成物の収率は、温度に関係なく反応圧力及び長い滞留時間の方向に増加した(
図4a~
図4cで黄矢印)。1100℃において、最高の炭化水素の収率領域は、水素添加に関係なく、
図4iに示した最高の転換率と類似の領域に位置している。しかし、1200℃まで温度が増加するにつれて(
図4f)、0.5bar及び3秒の滞留時間で特定生成物の最高の収率が得られたが、これは、最高のメタン転換率から観察されるのと区別される(
図3g)。このような差異は、メタンが他の炭化水素、たいてい多環芳香族炭化水素に転換されることを反映する。シミュレーションされた結果は、反応圧力を調節し、水素を共に供給することが、より重質の炭化水素を選択的に製造するためのメタン熱分解反応に重要な考慮要素であることを裏付ける。
【0093】
このように、低い圧力、及び炭化水素と水素を共に供給する場合がメタン熱分解反応中に炭化水素の選択度に及ぼす影響は、
図5に見られる転換率対選択度のプロットから確認できる。前記シミュレーションにおいて、反応圧力及び水素の供給による影響を明確にするために、1200℃の一定温度条件下での実験条件を3個の区域に区分した:水素を共に供給する場合(
図5A~
図5C)、水素を共に供給しない場合(
図5D~
図5I)、運転圧力が常圧未満である場合(
図5G~
図5I)、及び運転圧力が常圧を超える場合(
図5A~
図5F)。
【0094】
測定されたメタン転換率対炭化水素選択度(エタン、エチレン、アセチレン及びベンゼン)を用いて、運転条件に強く依存する理想的な生成物組成を予測することができる。
図5A及び
図5Dを比較すると、水素を共に供給する場合には全メタン転換率が減少したが、炭化水素の選択度は増加した。例えば、通常の運転条件の場合には、50%のメタン転換率において得られるC2+C6選択度は約60%であった(
図5で点線)が、水素を共に供給する場合には、80%レベルであった。このような改善点は、主にC2選択度の増加に起因するものであり得る(
図5B及び
図5E参照)。これは、水素が多環芳香族の形成を抑制する重大な影響を及ぼすことを示す。
【0095】
その後、メタン熱分解反応において常圧未満として運転圧力を設定する場合に、メタン転換率に対する選択度領域を狭めることができる。例えば、約50%のメタン転換率において、1~10barにおける選択度は、60~80%の範囲の値を示すのに対し、0.1~0.5barでは約85%であった。このように区別される結果は、常圧未満に運転圧力を調節し水素を共に供給する場合に、メタン熱分解反応中に、C2+C6炭化水素に対する選択度を極大化できることを示唆する。
【0096】
実験有効性検討
水素の供給と共にメタン熱分解圧力を常圧未満に設定して追加実験を行った。真空ポンプが備えられた反応器から排出されるガス相生成物をサンプリングするために、ガス流出流れ中の揮発性固形物を温和な条件で捕集した。この時、捕集された炭化水素は、微量のナフタレン、アントラセン及びピレンのような多環芳香族炭化水素まで分析した(データは示さない。)。その後、ガス相生成物を約1分にわたって分析装備に速かに移送した(
図2参照)。
【0097】
メタン熱分解実験結果は、
図6A及び
図6Bに示す。温度が1240℃、H
2/CH
4比が1、圧力が0.5bar、及びGHSVが1415hr
-1である運転条件が、メタン熱分解反応のベース実験条件として選択された。このような条件でメタンの平均転換率は34%であり、ベンゼンまでの重質炭化水素に対する選択度は93%であった。運転圧力が0.6barに上昇することによって初期転換率は41%に増加し、その後、次第に36%まで減少した。このような結果は、アルミナ管状反応器の壁にコークが形成されることによる熱伝達に関連した問題と見なすことができる。一方、反応圧力が0.4barから始まることにより、平均メタン転換率は21%と急減したが、これは、前述したように、メタン転換率が反応圧力に敏感であるというシミュレーション結果に符合している。固定された運転圧力条件で昇温させる場合に、43%の増加した初期転換率は、30時間が経過した後には32%であった。このような結果は、メタン熱分解反応時に安定した炭化水素生成に適した反応温度を選択しなければならないことを示す。その他にも、1220℃及び0.5barの最も温和な条件で26%の安定したメタン転換率及び95%の炭化水素選択度を得ることができた。
【0098】
一方、
図7は、転換率対特定炭化水素に対する選択度をプロットした実験結果である。
図7に示すシミュレーションで区分した方式と類似に、実験結果を、水素の供給有無及び反応圧力によって3個の領域に区分した。当該実験において、ターゲットメタン転換率を達成するために、温度は1000~1260℃の範囲で調節した。
【0099】
実験結果によれば、10%未満のメタン転換率において高い炭化水素(C2+C6)に対する選択度が得られた(
図7で黒四角)。しかし、メタン転換率が約40%に増加するにつれて、炭化水素選択度は約30%まで急減したが、これは、主に多環芳香族炭化水素及び/又はコーク形成に起因するものである。水素供給の場合、40%のメタン転換率において達成可能な選択度は約80%であった(
図7で青三角)。これは、改善されたC2選択度に起因するものであり、水素が多環芳香族炭化水素の形成を抑制することに重大な影響を及ぼすことを示す。また、メタン熱分解が常圧未満で運転される場合に、選択度を増加させたが、例えば、50%のメタン転換率において炭化水素に対する選択度は、0.3~0.5barの運転圧力条件で90%レベルであった。実験結果によれば、1275℃及び0.3barでは、平均メタン転換率が36.9%である場合に最高の炭化水素収率が観察された。このような実験結果は、多環芳香族炭化水素のようなコーク前駆体の形成が抑制される条件で3個の主な種、すなわち、アセチレン、水素及びベンゼンが生成されることにメタン熱分解反応が有望であるという点を示唆する。
【0100】
水素化触媒の性能評価
上述したメタン熱分解反応が、特有の化学的組成を有する流出ガスを生成し、また、メタン熱分解反応においてメタン転換率を30%と維持し、C7以上の炭化水素は除去後に水素化反応の供給源料として導入した。メタン熱分解生成物中の多環芳香族炭化水素を除去し、C3-C5炭化水素は微量であって、考慮しなかった。これらの組成は、下記の表1の通りである。
【0101】
【0102】
上記の表でメタン転換率が約30%である場合に、水素化反応器に導入されるガス混合物中のメタン、水素及びアセチレンのそれぞれの濃度は、32.2%、62.5%及び4.5%であった。これは、ここ数十年間パラジウム触媒を使用してきた商用アセチレン転換器用ガス組成よりも高いレベルであった。このような点を考慮して、本実施例では、アルミナ支持体上にPdCu、PdAu及びPdAgをそれぞれ担持した触媒を適用した。スクリーニングのために、初期湿式含浸法を用いて簡単な方式で金属組成を調節しながら触媒を製造した。
【0103】
図8Aは、メタン熱分解及びPdCu触媒を用いた水素化反応のハイブリッドシステムから収得されたアセチレン及びベンゼンの全体的な収率を示す。同図によれば、水素化反応の側面では、PdCu触媒がアセチレンの99.5%をエチレンに転換させており、65時間経過後にも触媒の不活性化は観察されなかった。ハイブリッドシステム内でエチレン及びC2+C6に対する収率はそれぞれ、20%及び24%であった。PdAg触媒及びPdAu触媒は、PdCu触媒に比べて低い触媒性能を示したが、PdAg触媒も同様、概略60%のメタン転換率において比較的高い選択度(98%)を示していることから、有望なものと判断された(
図8B)。PdAu触媒を使用する場合に、高いアセチレン転換率を得ることができたが、エタンが主生成物であったところ、これは、高濃度のアセチレン及び水素濃度を有するガス混合物の選択的水素化においては制限されることを示す。このような結果は、本実施例に係るハイブリッドシステムが、メタンから高付加価値を有するエチレンの連続した製造において大きな潜在力を有することを示唆する。
【0104】
一方、水素化触媒に担持されたPdとCuとの重量比を、下記の表2に記載の通りに調節した。
【0105】
【0106】
【0107】
上記の表によれば、Cuが含まれていない0.2Pd(比較例)では、転換率は、Cuが含まれている0.2Pd1Cu、0.2Pd2Cu、0.2Pd3Cuに比べて転換率は高いが、エチレンへの選択度が低いことが確認でき、また、Pdが含まれていない1Cu(比較例)では、アセチレン水素化機能が顕著に低い特性を示している。PdとCuが含まれている触媒の実施例では、確認された一般の傾向性は、Cu含有量が増加するにつれて同一温度で転換率は低くなるが、エチレンへの選択度は増加することを確認した。特に、Cu含有量が1重量%から3重量%に増加するにつれて、選択度が増加する傾向は、触媒中のアセチレン水素化性能の低いCuナノ粒子にPd原子が配置され、Pd原子が選択的にアセチレンを水素化させ得る環境が造成され、高濃度アセチレンの選択的水素化がなされたものと判断される。
【0108】
本発明の単純な変形や変更は、この分野における通常の知識を有する者にとって容易に利用可能であり、このような変形や変更はいずれも本発明の領域に含まれるものといえる。
【外国語明細書】