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特開2023-65357ケイ素系合金、その製造方法、及びこのような合金の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023065357
(43)【公開日】2023-05-12
(54)【発明の名称】ケイ素系合金、その製造方法、及びこのような合金の使用
(51)【国際特許分類】
   C22C 35/00 20060101AFI20230502BHJP
   C22C 33/04 20060101ALI20230502BHJP
   C01B 33/06 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
C22C35/00
C22C33/04 C
C01B33/06
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023010545
(22)【出願日】2023-01-26
(62)【分割の表示】P 2020568748の分割
【原出願日】2019-06-07
(31)【優先権主張番号】20180804
(32)【優先日】2018-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NO
(71)【出願人】
【識別番号】520239883
【氏名又は名称】エルケム エーエスエー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】デュドネ, アメリ
(72)【発明者】
【氏名】クレヴァン, オーレ スヴェイン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】鋼生産業のための、低炭素含有量を有する新規のケイ素系合金、その製造方法及び使用を提供する。
【解決手段】本発明のケイ素系合金は、45~95重量%のSi、最大0.05重量%のC、0.4~30重量%のCr、0.01~10重量%のAl、0.01~0.3重量%のCa、最大0.10重量%のTi、最大25重量%のMn、0.005~0.07重量%のP、0.001~0.02重量%のS、Feである残部、及び通常量の付随的不純物を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
45~95重量%のSi、
最大0.05重量%のC、
0.4~30重量%のCr、
0.01~10重量%のAl、
0.01~0.3重量%のCa、
最大0.10重量%のTi、
最大25重量%のMn、
0.005~0.07重量%のP、
0.001~0.02重量%のS、
Feである残部、及び通常量の付随的不純物を含む、ケイ素系合金。
【請求項2】
50~80重量%のSiを含む、請求項1に記載のケイ素系合金。
【請求項3】
64~78重量%のSiを含む、請求項2に記載のケイ素系合金。
【請求項4】
最大0.03重量%のCを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のケイ素系合金。
【請求項5】
0.01~0.1重量%のCaを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のケイ素系合金。
【請求項6】
最大0.06重量%のTiを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のケイ素系合金。
【請求項7】
0.04~0.3重量%のMnを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のケイ素系合金。
【請求項8】
0.3~25重量%のMnを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のケイ素系合金。
【請求項9】
1~20重量%のCrを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のケイ素系合金。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のケイ素系合金の製造方法であって、液体ベースのフェロシリコン合金を準備することと、Cr源及び所望によりMn源を前記液体フェロシリコンに添加し、それにより溶融物を得ることと、前記得られた溶融物を精錬することと、を含み、前記精錬することが、前記溶融物の鋳造前及び/又は鋳造中に、形成された炭化ケイ素粒子を除去すること、を含む、方法。
【請求項11】
前記添加されたCr源が、高炭素フェロクロム合金、中炭素フェロクロム合金、低炭素フェロクロム合金、Cr金属、又はこれらの混合物の形態である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記添加されたMn源が、高炭素フェロマンガン合金、中炭素フェロマンガン合金、低炭素フェロマンガン合金、Mn金属、又はこれらの混合物の形態である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記液体ベースのフェロシリコン合金が、
Si:45~95重量%、
C:最大0.5重量%、
Al:最大2重量%、
Ca:最大1.5重量%、
Ti:最大0.1重量%、
Cr:最大0.4重量%、
Mn:最大0.3重量%、
P:最大0.02重量%、
S:最大0.005重量%、
Feである残部、及び通常量の付随的不純物を含む、請求項10~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
Alを添加して、前記Al含有量を最大10重量%に調整する、請求項10~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
鋼の生産における添加剤としての、請求項1~9のいずれか一項に記載のケイ素系合金の使用。
【請求項16】
電磁鋼の生産における、請求項15に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロムを含有するケイ素系合金、その製造方法、及びこのような合金の使用に関する。本発明はまた、クロム及びマンガンを含有するケイ素系合金、その製造方法、並びにこのような合金の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
フェロシリコン(FeSi)は、ケイ素及び鉄の合金であり、鋼製品の生産において重要な添加剤である。このような合金は、一般に、フェロシリコン合金と呼ばれているが、ケイ素含有量が高い場合、及び/又は合金元素の含有量が高い場合には、合金中に存在する鉄は非常に少量になり、したがって、用語「ケイ素(Si)合金」もまた、このような合金を表記するために使用される。フェロシリコンの形態のケイ素は、鋼から酸素を除去するために、及び合金元素として使用され、鋼の最終品質が改良される。ケイ素により、明示的に、強度及び耐摩耗性、弾性(ばね鋼)、耐スケール性(耐熱鋼)が向上し、電気伝導性及び磁歪(電磁鋼)が低下する。Elkemにより製造された従来技術におけるフェロシリコンの品質の例を表1にて参照されたい。LA1(低アルミニウム)、HP/SHP(高純度/準高純度)、及びLC(低炭素)フェロシリコンのような特殊フェロシリコンが、電磁鋼、ステンレス鋼、ベアリング鋼、ばね鋼、及びタイヤコード鋼などの特殊な鋼質を生み出すのに使用されている。
【0003】
【0004】
フェロクロムはクロムと鉄との合金であり、Cr濃度は、典型的にはグレードに応じて50~70重量%である。
【0005】
フェロクロム合金中の主な汚染元素は炭素であり、これは0.03~最大9.5重量%であり得る。市販のCr合金の例は、典型的に最大8重量%の炭素含有量を有する高炭素フェロクロム(HC FeCr)、典型的に最大9.5重量%のCを有するチャージクロム(chCr)、典型的に1~2重量%のCを有する中炭素フェロクロム(MC FeCr)、及び最大0.1重量%のC~最大0.03重量%のCである5つの異なるタイプの低炭素フェロクロム(LCFeCr)である。最大9.5重量%の異なる炭素含有量を有する他の合金が利用可能であり得る。FeSiCrは主にLC FeCrの製造における原料として使用されるが、Si及びCr単位の供給源として鋼製造業者が直接使用することもできる。このような材料では、典型的には、炭素含有量が最大0.05%まで低下していることが保証され得ながらも、30重量%を超えるCr含有量及び30~50%のSi含有量が保たれている。以下の表2は、鋼生産業で使用される市販のフェロクロム及びFeSiCr合金の例を示す。
【0006】
【0007】
フェロクロムは、ステンレス鋼グレードが最小で10.5重量%のCrを含有するように、HC FeCr又はchCrの形態で、主にステンレス鋼の製造に使用される。これは、鋼にステンレス特性を与えるために必要な最小濃度である。他の多くの鋼グレードは、主に0.5重量%~2重量%の範囲でのCr添加を含む。これは、Crの添加が硬度及び耐スケール性の向上に役立つためである。このような鋼の例は、工具鋼、耐熱鋼、高強度鋼である。高炭素フェロクロムグレードはCr単位当たりの価格が最安であるため、鋼製造業者は、可能な限り高炭素フェロクロムグレードを使用することを目指している。しかし、一部の用途、特に炭素含有量を正確に制御する必要がある製鋼プロセスの最終工程で添加する場合には、中炭素及び低炭素フェロクロムグレードを使用する必要がある。
【0008】
更に、マンガンは強靱性及び強度のような鋼の最終特性を向上させる合金元素であるため、鋼グレードは一般に、Mnを典型的に0.2~2重量%の範囲で含有する。したがって、ばね鋼及び工具鋼など、広範囲にわたる鋼グレードには合金元素としてCr及びMnの両方が同時に含まれる。200シリーズのステンレス鋼グレードは別の例であり、このグレードではMn含有量は10又は更には15重量%ほど高く、Cr濃度は最大20重量%であり得る。
【0009】
鋼製造で使用される市販のMn合金の例は、典型的に6~8重量%の炭素含有量を有する高炭素フェロマンガン(HCFeMn)、典型的に1~2重量%のCを有する中炭素フェロマンガン(MCFeMn)、及び約0.5重量%のCを有する低炭素フェロマンガン(LCFeMn)である。また、最大0.04重量%まで低下したCを有する電解マンガンも利用可能である。他には最大8%で様々な炭素含有量を有する合金が利用可能であり得る。製造プロセスが環境問題をもたらすものであることが既知であり、製造コストが非常にかさむ電解マンガンにおいて、Mn合金における最小炭素含有量が見られる点も注目に値する。以下の表3は、鋼生産業で使用される市販のマンガン合金の例を示す。
【0010】
【0011】
したがって、本発明の目的は、鋼生産業のための、低炭素含有量を有する新規のケイ素系合金を提供することである。
【0012】
別の目的は、上記Si系合金の製造方法を提供することである。
【0013】
更なる目的は、上記Si系合金の使用を提供することである。
【0014】
本発明の利点は、以下の説明において明らかとなる。
【発明の概要】
【0015】
第1の態様では、本発明は、
45~95重量%のSi、
最大0.05重量%のC、
0.4~30重量%のCr、
0.01~10重量%のAl、
0.01~0.3重量%のCa、
最大0.10重量%のTi、
最大25重量%のMn、
0.005~0.07重量%のP、
0.001~0.02重量%のS、
Feである残部、及び通常量の付随的不純物を含む、ケイ素系合金に関する。
【0016】
一実施形態では、ケイ素系合金は、50~80重量%のSiを含む。
【0017】
別の実施形態では、ケイ素系合金は、64~78重量%のSiを含む。
【0018】
一実施形態では、ケイ素系合金は、最大0.03重量%のCを含む。
【0019】
一実施形態では、ケイ素系合金は、0.01~0.1重量%のCaを含む。
【0020】
一実施形態では、ケイ素系合金は、最大0.06重量%のTiを含む。
【0021】
一実施形態では、ケイ素系合金は、0.04~0.3重量%のMnを含む。
【0022】
一実施形態では、ケイ素系合金は、0.3~25重量%のMnを含む。
【0023】
一実施形態では、ケイ素系合金は、1~20重量%のCrを含む。
【0024】
第2の態様では、本発明は、上記で定義されたケイ素系合金の製造方法であって、液体ベースのフェロシリコン合金を準備することと、Cr源及び所望によりMn源を上記液体フェロシリコンに添加し、それにより溶融物を得ることと、上記得られた溶融物を精錬することと、を含み、上記精錬することが、上記溶融物の鋳造前及び/又は鋳造中に、形成された炭化ケイ素粒子を除去すること、を含む、方法に関する。
【0025】
一実施形態では、添加されたCr源は、高炭素フェロクロム合金、中炭素フェロクロム合金、低炭素フェロクロム合金、Cr金属、又はこれらの混合物の形態である。
【0026】
一実施形態では、添加されたMn源は、高炭素フェロマンガン合金、中炭素フェロマンガン合金、低炭素フェロマンガン合金、Mn金属、又はこれらの混合物の形態である。
【0027】
一実施形態では、液体ベースのフェロシリコン合金は、
Si:45~95重量%、
C:最大0.5重量%、
Al:最大2重量%、
Ca:最大1.5重量%、
Ti:最大0.1重量%、
Cr:最大0.4重量%、
Mn:最大0.3重量%、
P:最大0.02重量%、
S:最大0.005重量%、
Feである残部、及び通常量の付随的不純物を含む。
【0028】
一実施形態では、Alを添加して、Al含有量を0.1~10重量%の範囲に調整する。
【0029】
別の態様では、本発明は、鋼の生産における添加剤としての、上記で定義されたケイ素系合金の使用に関する。
【0030】
一実施形態では、本発明は、電磁鋼の生産における添加剤としての、上記で定義されたケイ素系合金の使用に関する。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、低炭素であり、クロム含有量が最大30重量%である、新規のケイ素系合金を提供する。本発明はまた、低炭素であり、クロム含有量が最大30重量%であり、マンガン含有量が最大25重量%である、新規のケイ素系合金を提供する。
【0032】
本発明による合金は、以下の組成:
Si:45~95重量%、
C:最大0.05重量%、
Cr:0.4~30重量%、
Ca:0.01~0.3重量%、
Ti:最大0.10重量%、
P:0.005~0.07重量%、
S:0.001~0.02重量%、
Mn:最大25重量%、
Al:0.01~10重量%、
Feである残部、及び通常量の付随的不純物、を有する。
【0033】
本出願では、用語ケイ素系合金及びフェロシリコン系合金は、互換的に使用される。Siは、鋼溶融物に添加される、この合金中の主元素である。従来から、75重量%のSi又は65重量%のSiが使用されている。75重量%のSiを有するフェロシリコンでは、添加したときの鋼溶融物の温度上昇が、温度にほぼ影響しない65重量%のSiの場合よりも高まる。現在では、Siが50重量%未満であるフェロシリコンが鋼産業において滅多に使用されていないことは、目標とするSi含有量を得るためには多量の合金が添加されること、及び製鋼中に問題が生じることを意味している。Si系合金中のケイ素含有量が増加すると、ケイ素単位当たりの製造コストが増加するため、今日では、80%より高いものは滅多に使用されていない。したがって、好ましいSi範囲は50~80重量%である。別の好ましいSi範囲は64~78重量%である。
【0034】
クロムは、典型的には、ケイ素系合金の製造における不純物である。しかし、本発明者らは驚くべきことに、ケイ素系合金を、炭素含有量を低く維持しながら0.4~30%の範囲のクロムと合金化することにより、Si及びCrを含有し低炭素含有量を必要とする鋼質の製造における使用に特に優れた特性を有する合金が得られることを見出した。他の可能なCrの範囲は、1~25%、1~20%、又は1~15%、又は更には2~10%である。
【0035】
一部の用途においては、低炭素を維持しながら、Crを含有するSi系合金中のMn含有量を高くすることもまた、良好な解決策であることが見出された。したがって、Mn含有量を不純物濃度よりも高くすることは、一部の用途に有利であり得る。マンガンは、典型的にはケイ素系合金の製造における不純物であり、典型的には最大0.3重量%、例えば0.04~0.3重量%の範囲である。クロムを含有する本発明のケイ素系合金は、炭素含有量を低く維持しながら、マンガンを合金元素として0.3~25重量%の範囲で含有し得る。これにより、低炭素含有量を必要とする鋼質の製造における使用に特に優れた特性を有する合金が提供される。他の好適なMn範囲は、1~20重量%、又は1~15重量%、又は更には2~10重量%である。
【0036】
炭素はこの新規合金の目標となる鋼グレードにおいて主な不要元素であり、本発明によるこの新規合金においては可能な限り少なくする必要がある。上記合金中の炭素の最大含有量は、0.05重量%である。最大0.03重量%のC含有量が可能であり、又は現在利用可能な低炭素フェロシリコングレードのように最大0.02重量%が可能であり、又は更には最大0.01重量%が可能である。炭素を全部除去することは困難であるものと考えられ、本発明による合金中には、通常0.003重量%のCが存在し得る。
【0037】
合金中のクロムを増加させるに伴い、本発明による新規のケイ素系合金中の炭素含有量は、最大0.05重量%になり得る。
【0038】
同様に、合金中のクロム及びマンガンを増加させるに伴い、本発明による新規のケイ素系合金中の炭素含有量は、最大0.05重量%になり得る。
【0039】
アルミニウムは、典型的にはケイ素系合金の製造において不純物であり、典型的には標準グレードで炉外にて約1重量%である。きわめて低いアルミニウム含有量を必要とする一部の鋼用に、本発明のケイ素合金においては、最大0.01重量%の低さにまで精錬することができる。電磁鋼などの他の鋼では、アルミニウムもまた合金元素として添加される。したがって、本発明による合金中に最大5重量%、又は更に最大10重量%のアルミニウムを添加することが、いくつかの場合では好ましいことがある。
【0040】
カルシウムは、ケイ素系合金の製造における不純物であり、ノズル詰まりなどの、製鋼及び鋳造中の問題を回避するために低く維持する必要がある。本発明による合金中で、カルシウムの範囲は、0.01~0.3重量%である。有利には、カルシウムの範囲は0.01~0.1重量%、例えば最大0.05重量%である。本発明による合金を製造するための出発物質中のカルシウム含有量が、上記合金中の所望のカルシウム含有量よりも高い場合、酸素(空気及び/又は純酸素による)を吹き込み/撹拌することにより、スラグとして除去することができる酸化カルシウムを形成することによって、製造中にカルシウムを除去することができる。
【0041】
チタンはケイ素系合金の製造における不純物であり、典型的には75重量%のFeSi標準製造物において、原料混合物に応じて炉外にて約0.08重量%である。しかし、一部の鋼グレードでは、有害な含有物の形成を回避するために、チタンが低含有量であることが多くの場合有益である。したがって、本発明による新規合金における最大0.06重量%、又は最大0.03重量%、又は更には最大0.01重量%のTi濃度は、電磁鋼の製造といった一部の用途に有利である。本発明による合金中には微量のTiが存在してもよいため、Tiの最小濃度は0.003重量%であり得る。Tiを取鍋内で精錬することは困難であり得るため、良好な炉操業及び原料選択が、低チタン含有量を首尾よく得るための一助となる。
【0042】
リンはケイ素系合金の製造における不純物であり、一般に、市販グレードのSi系フェロ合金において0.03重量%未満である。Cr合金は一般に、Si合金と同様の範囲のP濃度を含有する。しかし、Pは通常、Mn合金中で十分に多くなるため、Mnとの合金化により最終Si合金中のP含有量が高くなり得る。したがって、本発明におけるP濃度は最大0.07重量%であるが、例えばクロムを含有するSi合金中にMnを添加しない場合、P濃度は最大0.03重量%にまで低下し得る。本発明のケイ素合金を添加して作られる鋼中のP含有量は、ケイ素合金、クロム合金、及びマンガン合金を別個に添加したものと同じであるか、又はそれよりわずかに低いことに注目することは重要である。
【0043】
硫黄は一般にケイ素合金の製造において少なく、一般に、市販グレードのケイ素合金中で0.003重量%未満である。しかし、Sは通常Cr合金中で多くなり、Mn合金中でわずかに多くなる。そのためCr及び/又はMnとの合金化により、目標とするCr及びMn含有量に応じて、最終ケイ素合金中のSがより多くなり得る。したがってS濃度は、本発明において最大0.02重量%である。本発明のケイ素合金を添加して作られる鋼中のS含有量は、ケイ素合金、クロム合金、及びマンガン合金を別個に添加したものと同じであるか、又はそれよりわずかに低いことに注目することは重要である。
【0044】
一実施形態では、本発明による合金の組成物は、
Si:64~78重量%、
C:最大0.03重量%、
Cr:1~25重量%、
Ca:0.01~0.05重量%、
Ti:最大0.06重量%、
P:0.005~0.07重量%、
S:0.001~0.02重量%、
Mn:0.04~20重量%、
Al:0.01~10重量%、
Feである残部、及び通常量の付随的不純物を含む。
【0045】
別の実施形態では、本発明によるSi合金の組成物は、Mnを添加しない状態でCrと合金化されたフェロシリコンを含む。したがって、Mnは不純物として存在する。
Si:45~95重量%、
C:最大0.05重量%、
Cr:0.4~30重量%、
Ca:0.01~0.3重量%、
Ti:最大0.10重量%、
P:0.005~0.03重量%、
S:0.001~0.02重量%、
Mn:0.04~0.3重量%、
Al:0.01~10重量%、
Feである残部、及び通常量の付随的不純物。
【0046】
別の実施形態では、本発明によるSi合金の組成物は、Mnを添加した状態でCrと合金化されたフェロシリコンを含む。したがって、Mnは合金元素として存在する:
Si:45~95重量%、
C:最大0.05重量%、
Cr:0.4~30重量%、
Ca:0.01~0.3重量%、
Ti:最大0.10重量%、
P:0.005~0.07重量%、
S:0.001~0.02重量%、
Mn:0.3~25重量%、
Al:0.01~10重量%、
Feである残部、及び通常量の付随的不純物。
【0047】
本発明による合金は、合金元素又は不純物元素として炭素を含むCr源を、液体Si系合金に添加することによって作製される。Cr源は、クロムフェロ合金若しくはクロム金属又はこれらの混合物の形態で、固体又は液体クロム単位の形態であり得る。クロム源は、通常の不純物/汚染物質を含む場合がある。クロム源は、例えば、高炭素フェロクロム、中炭素フェロクロム、低炭素フェロクロム、若しくはクロム金属、又はこれらの混合物などの、フェロクロム合金であり得る。市販のクロムフェロ合金、例えば上記表2に示すもの、若しくは市販のクロム金属、又はこのような合金の2つ以上の組み合わせは、本発明における使用に好適である。好ましくは、添加されたCrは、高炭素フェロクロム又は中炭素フェロクロムの形態である。
【0048】
クロム源から添加された炭素はケイ素と反応し、これにより固体SiC(炭化ケイ素)粒子が形成される。固体SiC粒子は精錬中、溶融物から取鍋の耐火物に、又は鋳造プロセスの前若しくは最中に形成されていた任意のスラグに、好ましくは取鍋内で撹拌しながら除去される。形成されたSiC粒子のために十分に大きな受容体を有することが必要な場合、スラグ形成剤を添加することができる。これにより、低炭素含有量を有し、クロムを上に示したような元素の範囲で含有する、本発明によるSi合金がもたらされる。
【0049】
マンガンを最終製品中に存在(最大25%)させる場合、固体又は液体マンガン単位の添加を、クロムの添加とともに取鍋内で行うことができる。Mnを添加して、Mn含有量を0.3~25重量%の範囲に調整することができる。Mn源は、マンガン合金若しくはマンガン金属又はこれらの混合物の形態で、固体又は液体マンガン単位の形態であってもよい。マンガン源は、通常の不純物/汚染物質を含む場合がある。マンガン合金は、例えば、高炭素フェロマンガン、中炭素フェロマンガン、低炭素フェロマンガン、又はこれらの混合物などの、フェロマンガン合金であってもよい。市販のマンガン合金、例えば上記表3に示すもの、又はこのような合金の2つ以上の組み合わせは、本発明における使用に好適である。好ましくは、添加されたMnは、高炭素フェロマンガン又は中炭素フェロマンガンの形態である。
【0050】
マンガン源から添加された炭素は、クロム源により添加された炭素について上で説明したものと同じようにケイ素と反応し、これにより固体SiC(炭化ケイ素)粒子が形成される。固体SiC粒子は精錬中、溶融物から取鍋の耐火物に、又は鋳造プロセスの前若しくは最中に形成されていた任意のスラグに、好ましくは取鍋内で撹拌しながら除去される。形成されたSiC粒子のために十分に大きな受容体を有することが必要な場合、スラグ形成剤を添加することができる。この方法により、低炭素含有量を有し、クロム及びマンガンを上に示したような元素の範囲で含有する、本発明によるSi合金が製造される。
【0051】
出発物質としての組成物の例は、炉からの液体FeSiであり得るが、達成すべき最終規格に応じてその他の多くのものにも可能性がある。標準フェロシリコン又は高純度フェロシリコンのような再溶融している任意の市販のケイ素系合金も、可能な出発物質であり得る。
【0052】
したがって、可能な出発物質は、
Si:45~95重量%、
C:最大0.5重量%、
Al:最大2重量%、
Ca:最大1.5重量%、
Ti:最大0.1重量%、
Cr:最大0.4重量%、
Mn:最大0.3重量%、
P:最大0.02重量%、
S:最大0.005重量%、
Feである残部、及び通常量の付随的不純物を含み得る。
【0053】
アルミニウムを最終製品中に存在(最大10%)させる場合、固体又は液体アルミニウム単位の添加を取鍋内で行うことができる。あるいは、炉からの液体フェロシリコン中のアルミニウムを、炉への原料の選択によって増加させることができる。Alを添加して、Al含有量を最大10%に調整することができる。
【0054】
本発明による合金を製造するために、全般的に既知の技術による、スラグの精錬、スキミング、及び/又は撹拌を伴う、追加の工程を行い、特に本発明によって特許請求される炭素の低濃度に到達させることができる。このような工程は、鋳造プロセスの前若しくは最中、又はそれらの組み合わせで行うことができる。
【0055】
以下の実施例は、本発明を例示するものであり、その範囲を限定するものではない。
【0056】
実施例1
フェロシリコンを、空気で底部撹拌しながら、注湯取鍋(tapping ladle)に通常のとおり注いだ(tapped)。液体フェロシリコンの量は約7800kgであった。表4は、フェロクロムを添加する前の出発物質の化学組成を示す。
【0057】
【0058】
注いだ後、取鍋を合金化及び鋳造領域に運んだ。次に、67.61重量%のCr、7.23重量%のC、0.92重量%のSi、Feである残部、及び通常量の付随的不純物を有する、塊の多い401kgのHCFeCrを、最終製品においてCrを3重量%とすることを目指して液体フェロシリコン中に添加した。Crの収量が不明であったため、HCFeCrを、各々100kgとした4つのバッチで、Crの目標である3重量%に到達するまで8~10分間にわたり徐々に添加した。(添加は、より短い時間で又はより長い時間にわたり行う場合がある)全添加プロセス中、底部撹拌を維持した。HCFeCr合金を添加した後、形成されたSiC粒子を精錬中に除去し、取鍋を鋳造領域に運び、そこで液体材料を鋳鉄型に流し込んだ。
【0059】
製造した本発明による新規合金の試料を、鋳造後、破砕前の段階で取り出した。結果を表5に示す。
【0060】
全ての試料を、XRF(Malvern Panalytical製Zetium(登録商標))を使用して、Al、Cr、Si、P、Ca、Ti、Mnに関して分析した。Cに関しては、LECO(登録商標)CS-220(燃焼分析)を使用した。
【0061】
【0062】
このような方法を適用することにより、本発明者らは、低炭素濃度を達成した。これは、高ケイ素合金中では炭素の溶解度が低いことによって説明することができる。しかし、現在の低炭素フェロシリコングレードと同じほどに低い炭素濃度に達することが可能であった(表1を参照されたい)ことは、驚くべきことであった。
【0063】
本発明による合金は、必要とされる合金元素Si及びCrを別個に、より低炭素タイプのフェロシリコンとしてフェロクロム合金と組み合わせて添加することによる、加工時間及び品質の改善による、最近の方法の費用効率がよい代替物である。上記合金はまた、鋼製造業者が鋼中の全炭素含有量を減少させること、フェロシリコン/Si系合金及び低炭素フェロクロム合金の形態のクロムを別個に添加することよりも低い濃度に到達させることに役立ち得る。更に、上記合金により、鋼製造業者がより高いCr濃度を有する新規のグレードを作製することが可能となり、同時に、1つの合金添加剤のみを使用して鋼中の炭素含有量を低く維持することが可能となる。
【0064】
本発明による合金はまた、必要とされる合金元素Si、Cr、及びMnを別個に、より低炭素タイプのフェロシリコンとして、フェロクロム及びフェロマンガン合金又はマンガン金属と組み合わせて添加することによる、現行の方法の費用効率がよい代替物である。これにより、加工時間及び品質が改善される。上記合金はまた、鋼製造業者が鋼中の全炭素含有量を減少させること、フェロシリコン/Si系合金、低炭素フェロクロム合金の形態のクロム、及び低炭素フェロマンガンの形態のマンガン又はマンガン金属を別個に添加することよりも低い濃度に到達させることに役立ち得る。更に、上記合金により、鋼製造業者が、より高いCr濃度及びより高いMn濃度を有する新規のグレードを作製することが可能となり、同時に、1つの合金添加剤のみを使用して、鋼中の炭素含有量を低く維持することが可能となる。
【0065】
本発明の異なる実施形態を説明してきたが、概念を組み込んでいる他の実施形態が使用され得ることが、当業者には明らかであろう。上に例示した本発明のこれらの及び他の例は、例としてのみ意図されており、本発明の実際の範囲は、以下の特許請求の範囲から決定されるべきである。
【手続補正書】
【提出日】2023-02-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
45~95重量%のSi、
最大0.05重量%のC、
0.4~30重量%のCr、
0.01~10重量%のAl、
0.01~0.3重量%のCa、
最大0.10重量%のTi、
最大25重量%のMn、
0.005~0.07重量%のP、
0.001~0.02重量%のS、
Feである残部、及び不可避的不純物を含む、ケイ素系合金。
【請求項2】
50~80重量%のSiを含む、請求項1に記載のケイ素系合金。
【請求項3】
64~78重量%のSiを含む、請求項2に記載のケイ素系合金。
【請求項4】
最大0.03重量%のCを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のケイ素系合金。
【請求項5】
0.01~0.1重量%のCaを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のケイ素系合金。
【請求項6】
最大0.06重量%のTiを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のケイ素系合金。
【請求項7】
0.04~0.3重量%のMnを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のケイ素系合金。
【請求項8】
0.3~25重量%のMnを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のケイ素系合金。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のケイ素系合金の製造方法であって、
Si:45~95重量%、
C:最大0.5重量%、
Al:最大2重量%、
Ca:最大1.5重量%、
Ti:最大0.1重量%、
Cr:最大0.4重量%、
Mn:最大0.3重量%、
P:最大0.02重量%、
S:最大0.005重量%、
Feである残部、及び不可避的不純物を含む液体ベースのフェロシリコン合金を準備することと、炭素を含むCr源及び所望によりMn源を前記液体フェロシリコンに添加し、それにより溶融物を得ることと、前記得られた溶融物を精錬することと、を含み、前記精錬することが、前記溶融物の鋳造前及び/又は鋳造中に、形成された炭化ケイ素粒子を除去すること、を含む、方法。
【請求項10】
添加されたCr源が、高炭素フェロクロム合金、中炭素フェロクロム合金、低炭素フェロクロム合金、Cr金属、又はこれらの混合物の形態である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
添加されたMn源が、高炭素フェロマンガン合金、中炭素フェロマンガン合金、低炭素フェロマンガン合金、Mn金属、又はこれらの混合物の形態である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
Alを添加して、Al含有量を最大10重量%に調整する、請求項9~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
鋼の生産における添加剤としての、請求項1~8のいずれか一項に記載のケイ素系合金の使用。
【請求項14】
電磁鋼の生産における、請求項13に記載の使用。
【外国語明細書】