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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023006536
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】弦楽器用弦及び弦楽器用弦の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G10D 3/10 20060101AFI20230111BHJP
   G10D 3/22 20200101ALI20230111BHJP
【FI】
G10D3/10
G10D3/22
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021109182
(22)【出願日】2021-06-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】592030838
【氏名又は名称】株式会社ヤマダアトマイザー
(74)【代理人】
【識別番号】100115842
【弁理士】
【氏名又は名称】秦 正則
(72)【発明者】
【氏名】山田 雅昭
【テーマコード(参考)】
5D002
【Fターム(参考)】
5D002CC32
5D002DD07
(57)【要約】
【課題】ウクレレやギター等の弦楽器に適した、天然ガット弦の持つ音色と近い音色を再現できる弦楽器用弦を低コストで提供可能な弦楽器用弦及び弦楽器用弦の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の弦楽器用弦1は、合成樹脂を構成材料とした線材Wを用いて、通常時は、コイル状に巻回された形状とした構成とし、使用の際には、コイル状に巻回された形状から解かれた状態で対象の弦楽器に張られるものである。かかる構成とすることにより、天然ガット弦の持つ音色と近い優れた音色を、合成樹脂を構成材料とした線材Wにより低コストで再現できるとともに、弦楽器用弦1としての諸特性(例えば、テンションが弱くてもネガティブな面がない、音量も大きい、張り上げ直後でも弦が安定する、ピッチも正確である等。)を具備する弦楽器用弦1となる。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂から構成され、外径dが0.3~1.2mmの線材からなり、
コイル状に巻回された形状であることを特徴とする弦楽器用弦。
【請求項2】
前記合成樹脂が、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリアミド系樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の弦楽器用弦。
【請求項3】
前記コイル状に巻回された形状の巻回径Dが、0.8~4.0mmであり、
1mあたりの巻回数(コイル数)tが、130~520回/mであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の弦楽器用弦。
【請求項4】
ウクレレ用弦またはギター用弦であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の弦楽器用弦。
【請求項5】
合成樹脂から構成され、外径dが0.3~1.2mmの線材の一端を固定し、前記線材の他端を長さ方向に対して捻回して、前記線材をコイル状に巻回された形状とすることを特徴とする弦楽器用弦の製造方法。
【請求項6】
前記合成樹脂が、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリアミド系樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項5に記載の弦楽器用弦の製造方法。
【請求項7】
前記線材をコイル状に巻回された形状とするための回転数を、600回転/m以上とすることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の弦楽器用弦の製造方法。
【請求項8】
前記コイル状に巻回された形状の線材に、γ線を照射することを特徴とする請求項5ないし請求項7のいずれかに記載の弦楽器用弦の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弦楽器用弦及び弦楽器用弦の製造方法に関する。さらに詳しくは、音色の優れた弦楽器用弦を低コストで提供可能な弦楽器用弦及び弦楽器用弦の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウクレレやガットギター等のギター等に代表される楽器に用いられる弦(弦楽器用弦)としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン系樹脂やポリアミド(ナイロン(登録商標)とも呼ばれる。)系樹脂等の合成樹脂から構成される線材からなる弦が知られており、広く販売もされている。また、フッ化ビニリデンのモノフィラメントからなる楽器用弦に関する技術が提案されている(例えば、特許文献1等を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7-2937号公報([特許請求の範囲]、[0011])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のウクレレ用弦やギター用弦等の弦楽器用弦は、音色という点で十分でなく、よい音色を求める場合には高価な弦を使用せざるを得ないというのが実情であった。
【0005】
本発明は、前記に鑑みてなされたものであって、ウクレレやギター等の弦楽器に適した、天然ガット弦の持つ音色と近い音色を再現できる弦楽器用弦を低コストで提供可能な弦楽器用弦及び弦楽器用弦の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するために、本発明に係る弦楽器用弦は、
合成樹脂から構成され、外径dが0.3~1.2mmの線材からなり、
コイル状に巻回された形状であることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る弦楽器用弦は、前記した本発明において、前記合成樹脂が、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリアミド系樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る弦楽器用弦は、前記した本発明において、前記コイル状に巻回された形状の巻回径Dが、0.8~4.0mmであり、1mあたりの巻回数(コイル数)tが、130~520回/mであることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る弦楽器用弦は、前記した本発明において、ウクレレ用弦またはギター用弦であることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る弦楽器用弦の製造方法は、
合成樹脂から構成され、外径dが0.3~1.2mmの線材の一端を固定し、前記線材の他端を長さ方向に対して捻回して、前記線材をコイル状に巻回された形状とすることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る弦楽器用弦の製造方法は、前記した本発明において、前記合成樹脂が、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリアミド系樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る弦楽器用弦の製造方法は、前記した本発明において、前記線材をコイル状に巻回された形状とするための回転数を、600回転/m以上とすることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る弦楽器用弦の製造方法は、前記した本発明において、前記コイル状に巻回された形状の線材に、γ線を照射することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る弦楽器用弦は、合成樹脂を構成材料とした線材を用いて、通常時は、コイル状に巻回された形状とした構成とし、使用の際には、コイル状に巻回された形状から解かれた状態とされて対象の弦楽器に張られるものである。かかる構成とすることにより、天然ガット弦の持つ音色と近い優れた音色を、合成樹脂を構成材料とした線材により低コストで再現できるとともに、弦楽器用弦としての諸特性を具備する弦楽器用弦となるものである。
【0015】
また、本発明に係る弦楽器用弦の製造方法は、通常時は、コイル状に巻回された形状である、前記した効果を奏する弦楽器用弦を簡便な方法で製造可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る弦楽器用弦の一態様を示した斜視図である。
図2図1を上から見た図である。
図3】弦楽器用弦を製造する装置の一態様を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(I)本発明に係る弦楽器用弦1の構成:
以下、図面を用いて、本発明に係る弦楽器用弦1の一態様について説明する。
【0018】
図1は、本発明に係る弦楽器用弦1の一態様を示した斜視図、図2は、図1を上方向(図1の黒太字矢印方向)から見た図、をそれぞれ示す。図1及び図2中、1は弦楽器用弦、11は一端、12は他端、2は内部空間、Wは線材(弦楽器用弦1となる。)、dは弦楽器用弦1の外径、Dは巻回径、をそれぞれ示す。なお、図1は、全体のうち一部(中段部)を、2本の一点破線で省略して示している。
【0019】
図1及び図2に示す弦楽器用弦1(以下、単に「弦1」とする場合もある。)は、通常時(使用していない状態を示す。以下同じ。)は、コイル状に巻回された形状であり、使用の際には、かかるコイル状に巻回された形状から解かれた状態とされて対象の弦楽器に張られるものである。
【0020】
本発明に係る弦楽器用弦1(以下、単に「弦」とする場合もある。)は、例えば、ウクレレ、ギター(例えば、これまでもフロロカーボン弦やナイロン弦等が適用されていたガットギター等。)、マンドリン、バンジョー、琴、大正琴、三味線等の種々の弦楽器に使用することができる。
【0021】
本発明に係る弦楽器用弦1は、合成樹脂から構成される(合成樹脂を構成材料とする)線材W(弦楽器用弦1への加工は後記する。また、図3も参照。)からなり、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系樹脂等のフッ素樹脂、ポリアミド(ナイロン(登録商標。他も、「ナイロン」について同じ。))系樹脂、アセチルセルロース系樹脂等のアセテート系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等のポリオレフィン系樹脂等の合成樹脂を、弦楽器用弦1ないしはそれを形成する線材Wの構成材料とすることが好ましい。本発明にあっては、弦楽器用弦1の構成材料として広く使用実績がある、ポリフッ化ビニリデン系樹脂やポリアミド系樹脂を使用することが特に好ましい。前記した合成樹脂は、その1種を単独で使用してもよく、また、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
弦楽器用弦1を形成する線材Wを構成する材料がポリフッ化ビニリデン系樹脂やポリアミド系樹脂であれば、弦楽器用弦1として使用した場合に音色や音質が優れ、音をより安定して発することができる等の効果が期待できる。なお、ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、釣り糸の(弦楽器用弦にも)原料として、「フロロカーボン(ライン)」と呼ばれる糸に用いられている。本発明にあっては、弦楽器用弦1を形成する線材Wを形成する線材Wとして、かかるフロロカーボン(ライン)や、ポリアミド(ナイロン)系樹脂からなるテグス(ナイロンテグス)を使用することができる。
【0023】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、フッ化ビニリデンモノマーの単独重合体を使用することが好ましい。また、かかる単独重合体に限られるものではなく、他のポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、フッ化ビニリデンモノマー及びこれと共重合可能なモノマーの1種または2種以上との共重合体、あるいは、この共重合体とフッ化ビニリデンモノマーの単独重合体との混合物等を使用することができる。
【0024】
フッ化ビニリデンモノマーと共重合可能なモノマーとしては、例えば、三フッ化エチレン、四フッ化エチレン、三フッ化塩化エチレン、六フッ化プロピレン、フッ化ビニル等が挙げられ、その1種を単独で使用してもよく、また、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂には、本発明の目的及び効果を妨げない範囲で、各種有機顔料等の添加剤、ポリエステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、フラバントロンで代表される核剤、あるいは、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリエステル、アクリル酸メチル-イソブチレン共重合体等のフッ化ビニリデン系樹脂との相溶性が良好な樹脂材料を混合して形成される組成物等を含むようにしてもよい。また、ポリフッ化ビニリデン系樹脂も含め、使用される合成樹脂には、本発明の目的及び効果を妨げない範囲で、線材Wを成形する際に適用される各種添加剤(可塑剤、酸化防止剤、滑剤等。)を適宜添加することができる。
【0026】
なお、かかる組成物中のポリフッ化ビニリデン系樹脂の含有率としては、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることが特に好ましい。また、前記した可塑剤としては、例えば、繰り返し単位の組成が、炭素数2~4のジアルコールと炭素数4~6のジカルボン酸とのエステルから形成され、末端基が炭素数1~3の1価の酸基若しくは1価のアルコール残基からなり、かつ、分子量が1500~4000のポリエステルを用いることが好ましい。
【0027】
図1及び図2に示すような、本発明に係る弦楽器用弦1の外径d(弦楽器用弦1を形成する線材Wの外径も共通である。以下同じ。)は、弦楽器用弦1を形成する線材Wの構成材料、適用される楽器(ウクレレ、ギター等。)や、楽器において適用される弦の音階(ウクレレであれば1~4弦のうちのどの音階とするか。ギター(ガットギター等)であれば、本発明の弦楽器用弦1を適用できそうな、例えば1~3弦のうちのどの音階とするか。以下、「適用される弦の音階」について同じ。)等によって適宜決定することができるが、概ね、外径dを0.3~1.2mmとすればよく、0.4~1.0mmとすることが好ましく、0.45~0.9mmとすることが特に好ましい。
【0028】
なお、本発明にあって、弦楽器用弦1をウクレレ用弦とする場合は、1弦から4弦(1弦(A)、2弦(E)、3弦(C)、4弦(G)(( )内は開放音階。))に適用するために、弦楽器用弦1(線材W)の外径dを、概ね、0.4~1.0mmとすることが好ましく、0.45~0.9mmとすることが特に好ましい。また、弦楽器用弦1をギター用弦とする場合は、例えば、1弦から3弦((1弦(E)、2弦(B)、3弦(G)、4弦(D)(( )内は開放音階。))に適用するために、弦楽器用弦1(線材W)の外径dを、概ね、0.4~1.0mmとすることが好ましく、0.45~0.9mmとすることが特に好ましい。
【0029】
本発明に係る弦楽器用弦1は、通常時には、図1及び図2に示すように、コイル状(螺旋状)に巻回された形状である。そして、使用に際して、かかるコイル状に巻回された状態から解かれて、ウクレレやギター等に代表される弦楽器にまっすぐに張られて使用されることになる。
【0030】
通常時のコイル状に巻回された形状の状態において、弦楽器用弦1の巻回径Dは、形成する線材Wの構成材料、弦楽器用弦1の外径dのほか、適用される楽器や、楽器において適用される弦の音階等によって適宜決定することができるが、巻回径Dを、概ね、0.8~4.0mmとすることが好ましく、1.0~3.0mmとすることがより好ましく、1.2~2.8mmとすることがさらに好ましく、1.3~2.7mmとすることが特に好ましい。なお、「巻回径D」とは、図1及び図2にあるように、コイル状に巻回された際の内部空間2を取り囲む、コイル状の弦楽器用弦1の幅方向の外径D(コイル径)を指すものとする。
【0031】
巻回径Dは、概ね、弦楽器用弦1(線材W)の外径dに8/3~10/3を乗じて得られる値の範囲内(D=d×8/3~d×10/3)となることが好ましい。また。弦楽器用弦1の幅方向1回転(コイル1回転)の長さ(コイル状に巻回された形状である弦楽器用弦1の幅方向の外周)は、概ね、巻回径×2.4~2.6となることが好ましい。かかる範囲内である場合、外径dが決まれば、巻回径D及び線材の単位長さ(例えば1m)で製造されるコイル長(弦楽器用弦1の長さ方向(コイル長さ方向:図1参照。)の長さを推定することができる。
【0032】
弦楽器用弦1の単位長さ(1m)あたりの巻回数(コイル数)tも、同様に、形成する線材Wの構成材料、弦楽器用弦1の外径dのほか、適用される楽器や、楽器において適用される弦の音階等によって適宜決定することができるが、単位長さあたりの巻回数(コイル数)tを、概ね、130~520回/mとすることが好ましく、150~420回/mとすることがより好ましく、170~400回/mとすることがさらに好ましく、190~380回/mとすることが特に好ましい。
【0033】
(II)弦楽器用弦1の製造方法:
本発明の弦楽器用弦1を製造する方法の一例を説明する。図1及び図2に示す弦楽器用弦1は、通常時はコイル状(螺旋状)に巻回された形状であるが、かかるコイル状に巻回された形状とすべく、巻回されていない、まっすぐ(直線状)の線材Wを加工して、コイル状(螺旋状)に巻回する形状とすることが好ましい。
【0034】
合成樹脂からなる線材Wは、前記した(I)で挙げた合成樹脂等を、押出成形や、溶融紡糸や乾式(湿式)紡糸等の従来公知の方法を用いて、通常時も巻回されていない、まっすぐ(直線状)な線材Wを得るようにすることが好ましい。線材Wは、単層構造を有するものでも、芯部と鞘部を有する等の(多)層構造を有するものであっても構わない。線材Wの外径dは、前記した(I)で挙げた範囲内とすることができる。
【0035】
かかる合成樹脂からなる線材Wは、市販される線材Wを用いてもよく、前記した樹脂材料のうち、ポリフッ化ビニリデン系樹脂であれば、例えば、フロロカーボンライン等としても知られているKFストリングス、シーガー(ともにクレハ合繊株式会社製)、ROOTS FC LEADER(株式会社ゴーセン製)、X-BRAID(株式会社ワイ・ジー・ケー製)、シューター(株式会社サンライン製)等を使用することができる。また、ポリアミド(ナイロン)系樹脂であれば、ナイロンテグス等として知られている銀鱗(東レ株式会社製)、クインスター(株式会社サンライン製)、エープライム(サンヨーナイロン株式会社製)等を使用することができる。
【0036】
また、かかる巻回されていない、まっすぐ(直線状)の線材Wを加工して、コイル状(螺旋状)に巻回された形状とするには、例えば、図3に示した装置Xを用いて、下記の方法により簡便に製造することができる。
【0037】
図3は、弦楽器用弦1を製造する装置Xの一態様を示した図である。図3中、Wは線材(弦楽器用弦1となる。)、W1は線材Wの一端(弦楽器用弦1の一端11となる。)、W2は線材Wの他端(弦楽器用弦1の他端12となる。)、Rは回転駆動体、Sは回転駆動体Rの回転駆動部、をそれぞれ示す。なお、図3では、線材Wの一端W1と他端W2との間の距離Lを1mとした態様を示している。
【0038】
回転駆動体Rは、線材Wの他端W2を固定可能であり、図3において線材Wの長さ方向に対して回転させることにより線材Wを長さ方向に対して捻回できるものであれば特に制限はなく、例えば、回転駆動部Sが回転可能な、ハンドドリル(手動ハンドドリル、電動ハンドドリル等。)等が挙げられる。そして、例えば、線材Wの一端W1を所定の場所に固定した状態で、かかるハンドドリルの回転駆動部S(の図示しないチャック部)に線材Wの他端W2をチャックして固定して、線材Wの両端W1,W2を固定した状態とすればよい。
【0039】
図3において、線材Wの一端W1を固定して、他端W2をかかる線材Wについて長さ方向に対して回転可能な回転駆動部Sに固定して、線材Wを張った状態で、回転駆動体Rの回転駆動部Sを長さ方向に対して回転させることで、(必要により所定のテンションをかけながら)線材Wの他端W2を長さ方向に対して回転させ、線材W(の他端W2)を長さ方向に対して捻回するようにする。
【0040】
図3において、回転駆動部Sの回転により線材Wの他端W2は長さ方向に対して捻回されて捻じられていくが、線材Wの捻回が進むにつれて、線材Wは徐々に図1等に示すようなコイル状(螺旋状)に巻回された形状(以下、単に「コイル状の形状」等とする場合もある。)となっていく。このような「(a)コイル状の形状になり始める回転数」(なお、回転は、線材W(の他端W2)に、回転駆動体Rの回転駆動部Sにより線材Wの捻回のために伝達されるので、回転数とは、線材Wの捻回のための回転数(捻回数)となる。以下同じ。)としては、弦楽器用弦1の外径dや適用される楽器に張るために必要な長さ等に起因すると考えられ、その他、楽器において適用される弦の音階等によって適宜決定することができる。概ね、1mあたり、400回転/m以上となることが好ましく、400~750回転/mとすることがさらに好ましく、450~650回転/mとすることが特に好ましい。
【0041】
線材Wは、捻回によりコイル状に巻回された形状とされ、線材Wの捻回をさらに進めるにつれて、必要量がコイル状の形状となった状態で、捻回してもこれ以上はコイル状とならない限界(捻回限界)に達する。かかる捻回限界に達すると、それ以上捻回させても線材Wはコイル状とはならず、捻回させても、線材Wに蓄積されてしまい、線材Wの他端W2を回転駆動部Sから外して開放した際に、回転(捻回)により蓄積されたエネルギーを開放ないし発散するため、線材Wが捻回(回転)方向と逆回転してしまうことになる。なお、線材Wについて長さ方向に対して捻回させて、一旦コイル状になると、線材Wの他端を回転駆動部Sから外して開放状態としても、もとのまっすぐな状態に戻ることはなく、図1及び図2に示したコイルに巻回された形状が維持される。
【0042】
「(b)必要量がコイル状の形状となるための回転数」は、弦楽器用弦1の外径dや適用される楽器に張るために必要な長さ等に起因すると考えられ、その他、楽器において適用される弦の音階等によって適宜決定することができるが、前記した「(a)コイル状の形状になり始める回転数」に加えて、200~500回転を加えることにより達成されるものと考えられるが、特に限定されない。
【0043】
1つの目安として、前記した「(a)コイル状の形状になり始める回転数」と「(b)必要量がコイル状の形状となるための回転数」を合わせて、「線材Wをコイル状に巻回された形状とするための回転数」としては、1mあたり、概ね600回転/m以上とすることが好ましく、700回転/m以上とすることがさらに好ましく、750回転/m以上とすることが特に好ましい。また、線材Wの切断等を考慮すれば、回転数は、1200回転/m以下とすることが好ましく、1100回転/m以下とすることがさらに好ましく、1050回転/m以下とすることが特に好ましい。
【0044】
なお、以上に挙げた1mあたりの回転数は、あくまでも目安であり、弦楽器用弦1の外径dや適用される楽器に張るために必要な長さ等に起因すると考えられ、その他、楽器において適用される弦の音階等によって適宜決定すればよい。
【0045】
なお、回転駆動体Rにおける回転駆動部Sの回転速度(線材Wを回転させるための回転速度)は、速ければ製造効率が良好となる一方、過度に速すぎると線材Wの切断等を招く場合もあるため、概ね、100~750rpmの範囲内とすることが好ましい。
【0046】
そして、得られたコイル状に巻回された形状の線材W(弦楽器用弦1)には、後処理としてγ線(ガンマ線)を照射するようにしてもよい。γ線を照射することにより、発する音色や音質等(以下、単に、「音色等」とする場合もある。)を変化させることができ、例えば、γ線を照射しないものと比較して、角が取れ枯れた独特な音色等、種々の音色等とすることができる。かかる音色等の変化は、γ線の照射により、線材の分子配列のみが数十年分経年変化した状態となったためと推定される。
【0047】
γ線の照射条件としては、形成する線材Wの構成材料、外径dや、求める音色等により適宜決定することができ、線材W(弦楽器用弦1)の諸特性に悪影響を与えない(例えば、過剰量の照射により機械的特性が悪くなる等。)範囲において特に制限はない。例えば、吸収線量として、10000Gr前後を目安として、5000~20000Grとすることができるが、かかる範囲には限定されない。また、吸収線量を実現するために、例えば、線量率を100~10000Gr/hとして、それに適する照射時間を選択してγ線を照射すればよいが、線量率や照射時間も任意に選択することができる。
【0048】
(III)発明の効果:
以上説明した本発明の弦楽器用弦1は、合成樹脂を構成材料とした線材Wを用いて、通常時は、コイル状に巻回された形状とした構成とし、使用の際には、コイル状に巻回された形状から解かれた状態とされて対象の弦楽器に張られるものである。かかる構成とすることにより、天然ガット弦の持つ音色と近い優れた音色を、合成樹脂を構成材料とした線材Wにより低コストで再現できるとともに、弦楽器用弦1としての諸特性(例えば、テンションが弱くてもネガティブな面がない、音量も大きい、張り上げ直後でも弦が安定する、ピッチも正確である等。)を具備する弦楽器用弦1となる。
【0049】
また、本発明に係る弦楽器用弦1の製造方法は、通常時は、コイル状に巻回された形状である、前記した効果を奏する弦楽器用弦1を簡便な方法で製造可能とする。
【0050】
得られた弦楽器用弦1は、前記したように、各種の弦楽器に適用することができるが、特に、ウクレレやギターに適用する弦(ウクレレ用弦、ギター用弦)として適用することが好ましい。
【0051】
(IV)実施形態の変形:
なお、以上説明した態様は、本発明の一態様を示したものであって、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の構成を備え、目的及び効果を達成できる範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。また、本発明を実施する際における具体的な構造及び形状等は、本発明の目的及び効果を達成できる範囲内において、他の構造や形状等としても問題はない。本発明は前記した各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形や改良は、本発明に含まれるものである。
【0052】
例えば、前記した態様にあっては、図3にも示すように、線材Wを弦楽器用弦1に加工する場合の線材Wの一端W1と他端W2との間の距離Lを1mとした例を挙げて説明したが、かかる距離Lは特に1mには限定されず、距離Lは、適用する楽器に必要な弦楽器用弦1の長さに応じて適宜決定する等、製造がしやすい任意の距離を選定すればよい。なお、かかる距離Lは、実際の弦楽器用弦1の製造の過程では、まっすぐな線材Wがコイル状に巻回された形状とされるにつれて徐々に短くなっていくため、線材Wの他端W2も、一端W1に向かって近付けていく必要が生じる。
【0053】
また、前記した態様では、線材Wの他端W2について線材Wの長さ方向に対して捻回するための手段として、装置Xを挙げ、回転駆動部Sを有する回転駆動体Rであるハンドドリルを用いて、線材Wの他端を回転駆動部Sに固定した状態で、回転駆動部Sを線材Wの長さ方向に対して回転させ、線材Wを捻回させるようにして説明したが、装置Xの構成や手段等は前記の態様には限定されず、線材Wを長さ方向に対して捻回することが可能な任意の部材等を使用することができる。
その他、本発明の実施の際の具体的な構造及び形状等は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造等としてもよい。
【実施例0054】
以下、本発明を実施例等に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0055】
[実施例1]
ウクレレ用弦の製造(1):
下記の方法を用いて、弦楽器用弦である実施例1のウクレレ用弦を製造した。
【0056】
線材として、仕様等を表1に示した、外径dが0.47mm(1弦)、0.62mm(2弦)、0.74mm(3弦)及び0.52mm(4弦)のフロロカーボン(フロロカーボンライン)(KFストリングス:クレハ合繊株式会社、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を構成材料とする。)を用意した。
【0057】
(ウクレレ用弦の製造方法)
図3に示すように、前記の線材の一端を固定し、他端を回転駆動体である市販のハンドドリル(手動)の回転駆動部に固定し(一端から他端までの長さ:1m)、線材にテンションを掛けながら、ハンドドリルの回転駆動部を表1に載せた条件で回転させることで、線材(の他端)を長さ方向に対して捻回させるようにした。回転が進むにつれ線材はコイル状に巻回された形状となり、これ以上捻じれない状態(捻回限界)に達したところで回転を止め、ハンドドリルから線材を取り外し、外観が図1及び図2のような実施例1のウクレレ用弦を得た。得られた実施例1のウクレレ用弦の巻回径D、巻回数t等もあわせて、実施例1の仕様等として表1に示した。なお、表1では、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を、単に「ポリフッ化ビニリデン」として示している。また、表1中、「線材1mで製造されるコイル長(mm)」における「コイル長(mm)」とは、弦楽器用弦(ウクレレ用弦)の長さ方向(コイル長さ方向:図1参照。)の長さ(mm)を示す(以下、実施例2(表2)について同じ。)。
【0058】
(実施例1の仕様等)
【表1】
【0059】
(a)コイル状の形状になり始める回転数は、表1の4本の線材について、どれも500~600回/mの捻回(回転)でコイル状に変化を始めた。また、(b)必要量(ここでは1m)がコイル状の形状となるための回転数は、(テンションより変化するが)前記の回転数に加えて、表1の4本の線材について、どれも300~400回転/m(前記の回転数と総合して、1mの線材をコイル状に巻回された形状とするための回転数は、800~1000回転/mとなる。)であった。ハンドドリルの回転駆動部の回転数は、100~750rpmの範囲で適宜変更させて実施した。
【0060】
なお、表1に示した実施例1のウクレレ用弦については、γ線照射を行わないものと、下記の照射条件でγ線照射を行ったものの2種を作製した。γ線(コバルト60)の照射は、コバルト60照射施設内で、線源強度が2000TBqの装置を用いて実施した。4本のウクレレ用弦それぞれに対して行った。照射した実施例1のウクレレ弦について、外観上の変化はほとんど見られなかった。
【0061】
(γ線照射条件)
線源強度 2000TBq
線量率 約5000Gy/h
照射時間 2時間(総量として、吸収線量が約10000Gyのコバルト60が照射
されたことになる。)
【0062】
[試験例1]
ウクレレ用弦の評価:
得られた実施例1のウクレレ用弦を、参考例として、市販される下記の一般的なウクレレ用弦(ナイロン弦及び(フロロ)カーボン弦(以下、単に「カーボン弦」とする場合もある。))との比較等も含め評価した。なお、実施例1のウクレレ用弦は、使用の際には、コイル状に巻回された形状から解かれた状態とされてウクレレに張られるものである。
【0063】
具体的には、プロミュージシャンの経験がある2名(うち1名は現役プロミュージシャンである。)を評価者(パネラー)として、かかる評価者が、下記の評価項目((1)~(5))に対して、実施例1及び一般的なウクレレ用弦の代表例であるナイロン弦及びカーボン弦を同じモデルのウクレレに張って試奏することや、評価者が保有する複数のウクレレに実施例1のウクレレ用弦を張って試奏し、前記したウクレレ用弦を含む一般的なウクレレ用弦と比較することで、一般的なウクレレ用弦との比較等も含め、実施例1のウクレレ用弦を評価するようにした。
【0064】
(参考例:ナイロン弦)
商品名:フェイマスウクレレナイロン弦(1弦(A)-2弦(E)-3弦(C)-4弦(G)(( )内は開放音階。以下、カーボン弦も同じ。):0.64-0.81-0.91-0.71)
【0065】
(参考例:カーボン弦)
商品名:Worth クリアフロロミディアム(1弦(A)-2弦(E)-3弦(C)-4弦(G):0.52-0.67-0.74-0.57)
【0066】
(評価項目及び結果)
(1)テンション(ウクレレ用弦の張りの強さ)との関係:
評価者曰く、実施例1のウクレレ用弦は、同じ音(音階)にチューニングした場合、一般的なウクレレ用弦と比較してテンションが弱いと感じるものの、同じ音を出すにあたって、一般的にテンションが弱い弦で発生するネガティブ面が無いと感じられるということであった。ここで、「ネガティブ面が無い」とは、例えば、張りが弱くなりウクレレ用弦をつま弾く際に音量の強弱がつけにくくなったり、ウクレレ用弦からの指離れが悪くなり、神経を使う(つまり弾きにくくなる。)ことが無くなること等を指す。
【0067】
(2)音量(弾いた時に発する音量):
評価者曰く、実施例1のウクレレ用弦について、(1)に載せたようなテンションが低い弦としては、弾いた時に発する音量が大きく感じるということであった。また、実施例1のウクレレ用弦を一般的なウクレレ用弦と比較すると、標準的なテンションの場合、音量は、ナイロン弦<実施例1<カーボン弦(音量としてはナイロン弦が一番小さく、カーボン弦が一番大きい。)という感じであった。
【0068】
(3)弦が安定するまでの期間(弦を張り上げてから、チューニングが安定するまでの期間):
弦が安定するまでの期間として、一般的なナイロン弦で1月、一般的なカーボン弦で2週間くらいが必要とされるが、実施例1については、評価者曰く、張り上げた後でも気にならない感じであるとのことであった。具体的には、実施例1のウクレレ用弦は、弦をウクレレに張った直後でも弦の伸びによる音程の低下が穏やかであるため、弦を張った後、数時間~数日という短い時間でも弦が安定して使用することができるのではないかということであった。
【0069】
(4)ピッチの正確さ(正確な音階を刻むことができるか):
評価者曰く、実施例1のウクレレ用弦をそれ単体で評価した場合、ピッチが正確であり、また、一般的なウクレレ用弦(ピッチに難の有る安価なウクレレ弦とは異なり、ピッチの正確性に優れた高級なウクレレ弦を指す。)と比較した場合であっても、大きな差はないということであった。
【0070】
(5)音色:
一般的なナイロン弦は暖かい、丸い、ややウェットな音色(暖かく丸みのある一般的に昔からイメージされるウクレレの音色である。)であり、一般的なカーボン弦は力強い、クリアな音色(こちらも一般的なウクレレの音色だが、よりクリアで力強く輪郭がしっかりしている一方、ナイロン弦と比較し「暖かみ」や「メロウ感」は弱い音色である。)であるといわれている。評価者曰く、実施例1のウクレレ用弦は明るい、軽い、爽やかな音色という印象であり、例えば、天然ガット弦の持つ音色と近い音色を再現しているということであった。
【0071】
天然ガットの音色は、ナイロンとカーボンの中間に位置する音色で、ナイロン弦より力強くカーボン弦より暖かい、そして、良い意味で軽く乾いた音色であるといわれている。また、構造上発生する弦表面の「ざらつき」によって、弦楽器の弦として使用した場合には、適度な(心地いい)フィンガーノイズが発生し、ソロを弾く際にフレットを抑える指を移動させる際に「キュッキュッ」という心地よい音が鳴り、「弾いている感」が生じるともいわれている。
【0072】
上記の内容が天然ガットの特徴であるが、実施例1のウクレレ用弦もその辺りの特徴を踏襲している印象であり、単音等の単純な音もそうであるともに、演奏した際のフィーリングも天然ガットにきわめて近い印象であるということであった。但し、強く弾くと直ぐに切れてしまう天然ガットの最大の欠点については解消しており、強く弾いても切れることはなかった。
【0073】
(6)その他のコメント:
評価者曰く、実施例1のウクレレ用弦は、天然ガット弦やビンテージの弦を使用した場合の問題点、及び安価で癖のあるウクレレを使用した場合の音色を含む音の問題点(弦との相性がシビアである、楽器本体が持つ癖(クセ)が強い、弦高が高くなる傾向が有るため、ハイポジションでの音程ずれが顕著になりやすい等の問題点。)に対する改善効果が顕著であるということであった。
【0074】
天然ガット弦は、一般に、ナイロン弦やカーボン弦と比較し、安定性と耐久性が桁違いに劣り、価格も非常に高価なため、ウクレレ用弦として使用する人がほとんどいないのが現状である。なお、ウクレレができた当初は天然ガット弦が使用されることがあったが、現在、天然ガット弦はクラシック楽器(それも超高級品)以外に使用されることはほとんどなく、特に、ウクレレに使用されることはほとんどない。
【0075】
一方、実施例1のウクレレ用弦の音色の素晴らしさは、ナイロン系の弦やカーボン系の弦といった一般的な弦と比較しても勝るとも劣らない美しい音色であるとともに、その音色は非常に素晴らしく、また、奏でられる音も安定して、天然ガットにきわめて近い音色として多くの人に楽しんでもらえるであろうということであった。
【0076】
また、弦の使用可能な期間の目安としては、一般的なナイロン弦は1年、カーボン弦は3年であると考えられているが、評価者曰く、今回の使用感等から勘案して、一般的なウクレレ用弦等を上回る長期の使用でも音の劣化がないことが予想され、耐久性も良好であることが期待できるものと考えられる。
【0077】
以上の結果を勘案すると、実施例1のウクレレ用弦は、天然ガット弦の持つ音色と近い優れた音色を再現でき、テンションが弱くてもネガティブな面がない、音量も大きい、張り上げ直後でも弦が安定する、ピッチも正確である等の、一般的なナイロン弦やカーボン弦と比較しても遜色がなく、ウクレレ用弦としての諸特性を具備することが確認できた。
【0078】
また、前記の効果を好適に奏する実施例1のウクレレ用弦は、釣り糸に用いられるフロロカーボン(ポリフッ化ビニリデン系樹脂)からなる比較的安価な線材を用いて、かかる線材を前記の方法を用いて簡便にかつ低コストで製造することができる。
【0079】
なお、実施例1のウクレレ用弦は、γ線を照射したものとγ線を照射しないものの2種類を用いて評価したが、基本的な評価結果(感想)は共通したものであった。加えて、γ線を照射したウクレレ用弦は、角が取れ枯れた独特な音色となることが確認された。これは、線材(ポリフッ化ビニリデン系樹脂(フロロカーボン))の分子配列のみが数十年分経年変化した状態となったためと推定される。
【0080】
[実施例2]
ウクレレ用弦の製造(2):
線材として、仕様等を表2に示した、外径dが0.62mm(1弦)、0.81mm(2弦)、0.87mm(3弦)及び0.7mm(4弦)のナイロン線(ナイロンテグス)(銀鱗:東レ株式会社、ポリアミド(ナイロン)系樹脂を構成材料とする。)を用意した。
【0081】
そして、前記の線材を、実施例1の「ウクレレ用弦の製造方法」と同様な方法を用いて、弦楽器用弦である実施例2のウクレレ用弦を製造した。得られた実施例2のウクレレ用弦の巻回径D、巻回数t等もあわせて、実施例2の仕様等として表2に示した。なお、表2では、ポリアミド系樹脂を、単に「ポリアミド」として示している。
【0082】
(実施例2の仕様等)
【表2】
【0083】
実施例1と同様、(a)線材がコイル状の形状になり始める回転数は、表2の4本の線材について、どれも500~600回/mの捻回でコイル状に変化を始めた。また、こちらも実施例1と同様、(b)必要量(ここでは1m)がコイル状の形状となるための回転数は、(テンションより変化するが)前記の回転数に加えて、表2の4本の線材について、どれも300~400回転/m(前記の回転数と総合して、1mの線材をコイル状に巻回された形状とするための回転数は、概ね800~1000回転/mとなる。)であった。ハンドドリルの回転駆動部の回転数は、実施例1と同様、100~750rpmの範囲で適宜変更させて実施した。
【0084】
表2に示した実施例2のウクレレ用弦に対して、実施例1に示したγ線照射条件と同様な条件でγ線照射を行った。その結果、実施例1と同様、γ線を照射したウクレレ用弦は、γ線照射しないものと比較して、角が取れ枯れた独特な音色となることが確認された。これも、線材(ポリアミド(ナイロン)系樹脂)の分子配列のみが数十年分経年変化した状態となったためと推定される。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、天然ガット弦の持つ音色と近い音色を再現できる弦楽器用弦を低コストで提供する手段として、産業上の利用可能性は高い。
【符号の説明】
【0086】
1 …… 弦楽器用弦
11 …… 一端
12 …… 他端
2 …… 内部空間
W …… 線材
W1 …… 線材の一端
W2 …… 線材の他端
R …… 回転駆動体
S …… 回転駆動部
L …… 線材の一端と他端との間の距離
X …… 装置
D …… 巻回径
d …… 弦楽器用弦の外径
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2021-07-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂から構成され、外径dが0.3~1.2mmの線材からなり、
コイル状に巻回された形状であることを特徴とする弦楽器用弦。
【請求項2】
前記合成樹脂が、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリアミド系樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の弦楽器用弦。
【請求項3】
前記コイル状に巻回された形状の巻回径Dが、0.8~4.0mmであり、
1mあたりの巻回数(コイル数)tが、130~520回/mであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の弦楽器用弦。
【請求項4】
ウクレレ用弦またはギター用弦であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の弦楽器用弦。
【請求項5】
合成樹脂から構成され、外径dが0.3~1.2mmの線材の一端を固定し、前記線材の他端を長さ方向に対して捻回して、前記線材をコイル状に巻回された形状とすることを特徴とする弦楽器用弦の製造方法。
【請求項6】
前記合成樹脂が、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリアミド系樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項5に記載の弦楽器用弦の製造方法。
【請求項7】
前記線材をコイル状に巻回された形状とするための回転数を、600回転/m以上とすることを特徴とする請求項または請求項に記載の弦楽器用弦の製造方法。
【請求項8】
前記コイル状に巻回された形状の線材に、γ線を照射することを特徴とする請求項5ないし請求項7のいずれかに記載の弦楽器用弦の製造方法。

【手続補正書】
【提出日】2021-09-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂から構成され、外径dが0.3~1.2mmの線材からなり、
コイル状に巻回され、内部空間を備えた形状であることを特徴とする弦楽器用弦。
【請求項2】
前記合成樹脂が、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリアミド系樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の弦楽器用弦。
【請求項3】
前記コイル状に巻回された形状の巻回径Dが、0.8~4.0mmであり、
1mあたりの巻回数(コイル数)tが、130~520回/mであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の弦楽器用弦。
【請求項4】
ウクレレ用弦またはギター用弦であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の弦楽器用弦。
【請求項5】
合成樹脂から構成され、外径dが0.3~1.2mmの線材の一端を固定し、前記線材の他端を長さ方向に対して捻回して、前記線材をコイル状に巻回された形状とすることを特徴とする弦楽器用弦の製造方法。
【請求項6】
前記合成樹脂が、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びポリアミド系樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項5に記載の弦楽器用弦の製造方法。
【請求項7】
前記線材をコイル状に巻回された形状とするための回転数を、600回転/m以上とすることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の弦楽器用弦の製造方法。
【請求項8】
前記コイル状に巻回された形状の線材に、γ線を照射することを特徴とする請求項5ないし請求項7のいずれかに記載の弦楽器用弦の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
前記の課題を解決するために、本発明に係る弦楽器用弦は、
合成樹脂から構成され、外径dが0.3~1.2mmの線材からなり、
コイル状に巻回され、内部空間を備えた形状であることを特徴とする。