(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023065373
(43)【公開日】2023-05-12
(54)【発明の名称】薬物の治療可能性を改善するためのOアセチル化GD2ガングリオシドに対する抗体の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 47/68 20170101AFI20230502BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230502BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20230502BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20230502BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230502BHJP
A61K 31/675 20060101ALI20230502BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20230502BHJP
A61K 31/4745 20060101ALI20230502BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20230502BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20230502BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20230502BHJP
【FI】
A61K47/68
A61P35/00 ZNA
A61P35/02
A61P35/04
A61K45/00
A61K31/675
A61K31/704
A61K31/4745
A61K31/7088
A61K31/713
C07K16/28
【審査請求】有
【請求項の数】22
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023014183
(22)【出願日】2023-02-01
(62)【分割の表示】P 2019530023の分割
【原出願日】2017-12-05
(31)【優先権主張番号】16002576.3
(32)【優先日】2016-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】515298475
【氏名又は名称】オージーディー2 ファーマ
(71)【出願人】
【識別番号】505028222
【氏名又は名称】ナント ユニベルシテ
(71)【出願人】
【識別番号】505351201
【氏名又は名称】セントレ ナシオナル デ ラ ルシェルシェ シエンティフィーク
(71)【出願人】
【識別番号】507042442
【氏名又は名称】インサーム (インスティテュート ナショナル デ ラ サンテ エ デ ラ ルシェルシェ メディカル)
(71)【出願人】
【識別番号】519195501
【氏名又は名称】インスティテュート デ カンセロロジエ デ ルエスト
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】バークル ステファーヌ
(72)【発明者】
【氏名】フルーレンス ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】ファラージ セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ル ドゥッサル ジャン-マルク
(72)【発明者】
【氏名】コションノー デニス
(72)【発明者】
【氏名】テルム ミカエル
(72)【発明者】
【氏名】アスーリーヌ ブリジット
(57)【要約】 (修正有)
【課題】癌細胞及び腫瘍における薬物取り込みの欠点を克服して、その治療可能性を改善し、毒性などのその副作用も抑制する、新しい組成物及びキットを提供する。
【解決手段】OAcGD2ガングリオシドを発現する細胞中に抗癌剤を送達するために使用するための組成物であって、(i)分子量100ダルトン~200,000ダルトンを有する少なくとも1種の抗癌剤、及び、(ii)前記OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の多量体抗体を含み、前記多量体抗体が軽鎖可変領域(VL)ポリペプチド及び重鎖可変領域(VH)を含み、前記多量体抗体が細胞膜内で非選択孔を生成し、前記多量体抗体が、多量体化特性を有するように変異されたIgG1定常領域を含む、前記組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
OAcGD2ガングリオシドを発現する細胞中に抗癌剤を送達する方法であって、前記細胞による前記抗癌剤の取り込みを増大させるのに有効な量及び濃度の前記OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の多量体抗体、その機能的断片又は誘導体と前記細胞を接触させるステップを含み、前記抗体が細胞膜内の孔形成などの透過性欠陥を生じる、前記方法。
【請求項2】
(i)少なくとも1種の抗癌剤及び(ii)OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の多量体抗体、その機能的断片又は誘導体を含む、前記OAcGD2ガングリオシドを発現する細胞中への抗癌剤の送達のための組成物であって、前記OAcGD2ガングリオシドを認識する前記少なくとも1種の抗体が、腫瘍細胞による前記少なくとも1種の抗癌剤の取り込みを増強する、前記組成物。
【請求項3】
癌を処置及び/又は防止するためにOAcGD2ガングリオシドを発現する細胞中への少なくとも1種の抗癌剤の選択的送達に使用される、前記OAcGD2ガングリオシドを認識する多量体抗体、その機能的断片又は誘導体。
【請求項4】
前記OAcGD2ガングリオシドを認識する前記抗体、その機能的断片又は誘導体が、a)アミノ酸配列配列番号1の軽鎖可変領域(VL)ポリペプチド及びb)アミノ酸配列配列番号2の重鎖可変領域(VH)を含む、請求項2に記載の組成物、又は請求項3に記載の使用のための抗体。
【請求項5】
前記OAcGD2ガングリオシドを認識する前記抗体、その機能的断片又は誘導体が、
配列番号39及び配列番号40を含む若しくはそれからなる群において選択されたアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(VL)ポリペプチド、並びに/又は
配列番号48、配列番号49、配列番号50及び配列番号51を含む若しくはそれからなる群において選択されたアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(VH)
を含む、請求項2に記載の組成物、又は請求項3に記載の使用のための抗体。
【請求項6】
前記OAcGD2ガングリオシドを認識する前記抗体の前記機能的断片が重鎖及び軽鎖可変領域の単鎖断片(scFv)の形である、請求項2に記載の組成物、又は請求項3に記載の使用のための抗体。
【請求項7】
前記OAcGD2ガングリオシドを認識する前記抗体の機能的断片が、キメラ抗原受容体(CAR)の単鎖部分である、請求項2に記載の組成物、又は請求項3に記載の使用のための抗体。
【請求項8】
前記OAcGD2ガングリオシドを認識する前記抗体、その機能的断片又は誘導体が、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39及び配列番号40を含む若しくはそれからなる群において選択されたアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(VL)ポリペプチド、並びに/又は配列番号41、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、配列番号47、配列番号48、配列番号49、配列番号50及び配列番号51を含む若しくはそれからなる群において選択されたアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(VH)を含む、請求項2に記載の組成物、又は請求項3に記載の使用のための抗体。
【請求項9】
前記OAcGD2ガングリオシドを認識する前記少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体が、
a)アミノ酸配列配列番号14の軽鎖可変領域(VL)ポリペプチド、及び
b)アミノ酸配列配列番号15の重鎖可変領域(VH)
を含む、請求項2に記載の組成物、又は請求項3に記載の使用のための抗体。
【請求項10】
前記OAcGD2ガングリオシドを認識する前記少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体が、
a)アミノ酸配列配列番号16、配列番号17及び配列番号18の3つの重鎖相補領域(CDR)と免疫グロブリン重鎖由来の重鎖フレームワーク配列とを含む重鎖、並びに
b)アミノ酸配列配列番号19、配列番号20及び配列番号21の3つの軽鎖相補領域(CDR)と免疫グロブリン軽鎖由来の軽鎖フレームワーク配列とを含む軽鎖
を含む、請求項2に記載の組成物、又は請求項3に記載の使用のための抗体。
【請求項11】
前記抗体が免疫複合体である、請求項2に記載の組成物、又は請求項3に記載の使用のための抗体。
【請求項12】
前記少なくとも1種の抗癌剤が、アルキル化剤、代謝拮抗物質、抗腫瘍抗体、抗腫瘍性抗生物質、トポイソメラーゼ阻害剤、有糸分裂阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、コルチコステロイド、ホルモン又はホルモン様薬物、サイトカイン、ヌクレオシド類似体、核酸、こうした二本鎖合成短鎖RNA分子(miRNA)又は合成DNA/RNA様オリゴヌクレオチド(ASO)などの抗癌剤を含む又はそれからなる群から選択される、請求項2に記載の組成物、又は請求項3に記載の使用のための抗体。
【請求項13】
前記少なくとも1種の抗癌剤が癌細胞の細胞膜を単独で通過できない、請求項2に記載の組成物、又は請求項3に記載の使用のための抗体。
【請求項14】
前記OAcGD2ガングリオシドを発現する癌が、神経芽細胞腫、神経膠腫、網膜芽細胞腫、腫瘍のユーイングファミリー、肉腫(すなわち、横紋筋肉腫、骨肉腫、平滑筋肉腫、脂肪肉腫及び線維肉腫)、小細胞肺癌、乳癌、黒色腫、転移性腎癌、頭頚部癌並びに血液癌(すなわち、白血病、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫及び骨髄腫)を含む又はそれからなる群から選択される、請求項3から13のいずれか一項に記載の使用のための抗体。
【請求項15】
前記少なくとも1種の抗癌剤が、シクロホスファミド、ドキソルビシン、トポテカン、イリノテカン、テモゾロマイド(TMZ)、レチノイン酸(RA)、5-フルオロウラシル(5-FU)、フルダラビン、カルボプラチン及びシスプラチンを含む又はそれからなる群から選択される、請求項14に記載の使用のための抗体。
【請求項16】
前記少なくとも1種の抗癌剤がテモゾロマイド、トポテカン、イリノテカン、フルダラビン、シクロホスファミド又はそれらの混合物であり、前記OAcGD2ガングリオシドを発現する前記癌が神経芽細胞腫である、請求項3から15のいずれか一項に記載の使用のための抗体。
【請求項17】
抗癌剤を含むOAcGD2ガングリオシドを発現する癌の処置の有効性を高める方法であって、(i)分子量100ダルトン~200,000ダルトンの少なくとも1種の抗癌剤と、(ii)前記OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体と、場合によっては(iii)薬学的に許容される担体とを含む有効量の組成物をそれを必要とする患者に投与するステップを含む、前記方法。
【請求項18】
OAcGD2ガングリオシドを発現する癌に罹患した患者における抗癌剤に対する感受性を高める方法であって、(i)分子量100ダルトン~200,000ダルトンの少なくとも1種の抗癌剤と、(ii)前記OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体と、場合によっては(iii)薬学的に許容される担体とを含む有効量の組成物をそれを必要とする患者に投与するステップを含む、前記方法。
【請求項19】
OAcGD2ガングリオシドを発現する癌に罹患した患者における抗癌剤に対して抵抗性の癌の発生を防止又は遅延させる方法であって、(i)分子量100ダルトン~200,000ダルトンの少なくとも1種の抗癌剤と、(ii)前記OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体と、場合によっては(iii)薬学的に許容される担体とを含む有効量の組成物をそれを必要とする患者に投与するステップを含む、前記方法。
【請求項20】
(i)分子量100ダルトン~200,000ダルトンの少なくとも1種の抗癌剤と(ii)OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の多量体抗体、その機能的断片又は誘導体との相乗的組合せを特定するインビトロ/エクスビボ方法であって、
a)分子量100ダルトン~200,000ダルトンの少なくとも1種の抗癌剤と(ii)前記OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体とを含む組成物と一緒に、GD2ガングリオシドのOアセチル化体を発現する原発腫瘍細胞又は癌細胞系細胞をインビトロでインキュベートするステップ、並びに
b)Chou及びTalalayによって開示された方法に従ってCI50指数を測定し、1未満のCI50が相乗作用を表すステップ
を含む、前記方法。
【請求項21】
OAcGD2ガングリオシドを発現する癌の処置に適したキットであって、(i)分子量100ダルトン~200,000ダルトンの少なくとも1種の抗癌剤と、(ii)前記OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の多量体抗体、その機能的断片又は誘導体と、場合によっては(iii)薬学的に許容される担体とを含む、前記キット。
【請求項22】
GD2ガングリオシドのOアセチル化体を発現する細胞において分子量100ダルトン~200,000ダルトンの抗癌剤の細胞内取り込みを増強するための、OAcGD2ガングリオシドを認識する多量体抗体、その機能的断片又は誘導体の使用。
【請求項23】
OAcGD2ガングリオシドを発現する癌に罹患した患者における難治性又は再発癌を処置する方法であって、(i)分子量100ダルトン~200,000ダルトンの少なくとも1種の抗癌剤と、(ii)前記OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の多量体抗体、その機能的断片又は誘導体とを含む有効量の組成物をそれを必要とする患者に投与するステップを含み、前記癌が、アルキル化剤、代謝拮抗物質、抗腫瘍性抗生物質、トポイソメラーゼ阻害剤、有糸分裂阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤及びヌクレオシド類似体からなる群から選択される1種以上の抗癌剤を含む第一選択の癌処置に対して難治性であり、又はその後に再発する、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、参照により本明細書に援用する2016年12月5日に出願された欧州特許出願公開第16002576.3号の優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、抗癌剤と、癌細胞による前記抗癌剤の取り込みを増大させるGD2ガングリオシドの特定のOアセチル化体(すなわち、OAcGD2ガングリオシド)を認識する抗体とを含む組成物、並びにOAcGD2ガングリオシドを発現する細胞を特徴とする、特定の癌を処置、防止及び/又は管理する方法におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
細胞への抗癌剤の送達は、癌に対する治療手法の一中心的態様である。抗癌剤の生化学的性質は、その分子量、環境pH及びその親油性対親水性プロファイルに依拠する。
【0004】
負に帯電した細胞膜を通過することは、抗癌剤を細胞に送達するための第1ステップである。pH勾配が動物腫瘍において生じることは現在十分証明されている。抗癌剤は水性媒体中でイオン化可能であるので、腫瘍細胞における酸性細胞外pHは、弱い塩基性又は酸性の抗癌剤の活性を異なって変調する(非特許文献1)。溶液中、大部分の抗癌剤は、非イオン型とイオン型の両方として存在する。非イオン型抗癌剤は、通常、より脂溶性であり、細胞膜を通って容易に拡散することができる。それに対して、イオン型抗癌剤は低脂溶性であり、通常は生理学的基質に使用される輸送体に寄生せずに脂質膜を透過することができない。それで、このイオントラッピング機構によって、薬物蓄積を変え、化学療法効率をかなり調節することができる。
【0005】
抗癌剤を癌細胞及び腫瘍に移送するのに直面する生物学的障壁を乗り越える能力は、毒性度と均衡が保たれなければならない。従来の抗癌剤の中でも、アルキル化剤、代謝拮抗物質又は抗腫瘍性抗生物質は、DNA又はRNAを直接的に損傷又は妨害して、癌細胞を成長及び増殖させない。トポイソメラーゼ阻害剤又は有糸分裂阻害剤などの他の薬物は、細胞周期に関与する酵素を特異的に標的にする。異なる薬剤又はホルモンも癌細胞を正常細胞に成熟させ、又は癌の増殖を遅くするのに使用される。ほぼすべての抗癌剤は有毒であり、化学療法は、激しい悪心、骨髄抑制、及び免疫抑制を含めて、重大な、しばしば危険な副作用を生じる。
【0006】
さらに、従来の抗癌剤への曝露は、抗癌剤を組み合せて投与しても、化学療法の失敗及び腫瘍の進行を招く可能性がある。この現象は、既存の前駆細胞又は新生薬剤耐性クローンによることが多い。さらに、抗癌剤は、心臓若しくは神経損傷などの重大な副作用を生じる可能性があり、又は更により劇的に、薬物投与後数年で二次癌のリスクを高める可能性がある。
【0007】
より最近では、標的遺伝子を高い効率及び特異性で発現停止させるRNA干渉の能力を利用して、ヒト細胞におけるRNAを標的にした薬物が開発された(非特許文献2)。癌治療のために開発されたRNAベースの療法は、二本鎖合成短鎖RNA分子(miRNA)又は合成DNA/RNA様オリゴヌクレオチド(ASO)の使用に依拠する。癌細胞の細胞膜を通るこれらの分子の移動は、それらの負電荷のためにかなり問題になる。この欠点は、オリゴヌクレオチド構造を化学的に改変することによって、並びに/又はウイルスベクター、生体適合性カチオン性ポリマー及びコポリマー、無機ナノ粒子、アテロコラーゲン及びリポソームを含めた送達系を使用することによって、減じることができる。しかし、これらの送達系は、miRNAベースの治療法の薬物動態学的プロセスに影響し、毒性を有する可能性もある。さらに、送達系は、細胞型ごとにパラメータ最適化を必要とすることが多い。
【0008】
したがって、癌細胞及び腫瘍における薬物取り込みの欠点を克服して、その治療可能性を改善し、毒性などのその副作用も抑制する、新しい組成物及び方法が必要とされる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】MAHONEYら、Biochemical Pharmacology、vol.66、p:1207~1218、2003
【非特許文献2】BARATAら、Cancer Treatment Reviews、vol.50、p:35~47、2016
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、GD2ガングリオシドのOアセチル化体(すなわち、OAcGD2ガングリオシド)を特異的に標的にしたマウス治療抗体が、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌の処置に有益な効果を示すことを以前に立証した(欧州特許第2076542号B1)。
【0011】
本発明者らは、今回、驚くべきことに、この抗体が、それ自体の抗癌活性に加えて、別の抗癌剤のアジュバントとして用いたときに癌を処置するのに有効であることを見いだした。それらは、より具体的には、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌に対する、OAcGD2ガングリオシドを特異的に標的にした抗体と種々の抗癌剤との併用治療の相乗効果を示し、抗癌剤の投与量、したがって有毒な副作用を減少させることが可能になる。
【0012】
したがって、本発明は、(i)少なくとも1種の抗癌剤及び(ii)OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体を含む、OAcGD2ガングリオシドを発現する細胞中への抗癌剤の送達のための組成物であって、OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体が、細胞による少なくとも1種の抗癌剤の取り込み、ひいてはその活性に有利に働く、前記組成物に関する。ここで、OAcGD2ガングリオシドを認識する前記少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体は、前記ガングリオシドに特異的である。
【0013】
一実施形態においては、OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体は、
a)アミノ酸配列配列番号1の軽鎖可変領域(VL)ポリペプチド、及び
b)アミノ酸配列配列番号2の重鎖可変領域(VH)
を含む。
【0014】
さらに、ある実施形態においては、少なくとも1種の抗癌剤は、抗癌剤、こうしたアルキル化剤、代謝拮抗物質、抗腫瘍抗体、抗腫瘍性抗生物質、トポイソメラーゼ阻害剤、有糸分裂阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、コルチコステロイド、ホルモン又はホルモン様薬物、サイトカイン、ヌクレオシド類似体、核酸、こうした二本鎖合成短鎖RNA分子(miRNA)又は合成DNA/RNA様オリゴヌクレオチド(ASO)を含む又はそれからなる群から選択される。
【0015】
少なくとも1種の抗癌剤は、癌細胞の細胞膜を単独で通過できない可能性がある。
【0016】
少なくとも1種の抗癌剤は、分子量が100ダルトン~200,000ダルトンである。
【0017】
本発明の別の目的は、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌を処置するために、OAcGD2ガングリオシドを発現する細胞中への抗癌剤の選択的送達に使用される、OAcGD2ガングリオシドを認識する抗体、その機能的断片又は誘導体を提供することである。
【0018】
本発明の別の目的は、OAcGD2ガングリオシドを発現する細胞中に抗癌剤を送達する方法であって、細胞による抗癌剤の取り込みを増大させるのに有効な量及び濃度のOAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体と癌細胞を接触させるステップを含み、抗体が細胞膜内の孔形成などの透過性欠陥を生じる、前記方法を提供することである。
【0019】
本発明の更に別の目的は、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌を防止及び/又は処置する方法であって、(i)少なくとも1種の抗癌剤と、(ii)OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体と、場合によっては(iii)薬学的に許容される担体とを含む組成物をそれを必要とする患者に投与するステップを含む、前記方法を提供することである。
【0020】
本発明の更に別の目的は、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌に罹患した患者における抗癌剤に対する感受性を高める方法であって、(i)少なくとも1種の抗癌剤と、(ii)OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体と、場合によっては(iii)薬学的に許容される担体とを含む組成物をそれを必要とする患者に投与するステップを含む、前記方法を提供することである。
【0021】
本発明の更に別の目的は、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌に罹患した患者における抗癌剤に対して抵抗性の癌の発生を防止又は遅延させる方法であって、(i)少なくとも1種の抗癌剤と、(ii)OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体と、場合によっては(iii)薬学的に許容される担体とを含む組成物をそれを必要とする患者に投与するステップを含む、前記方法を提供することである。
【0022】
本発明の別の目的は、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌の防止及び/又は処置に適切な、(i)少なくとも1種の抗癌剤と(ii)OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体との相乗的組合せを特定する、前記方法を提供することである。
【0023】
本発明の更に別の目的は、OAcGD2ガングリオシドを発現する細胞における抗癌剤の細胞内取り込みを増大させるための、OAcGD2ガングリオシドを認識する抗体、その機能的断片又は誘導体の新しい使用を提供することである。
【0024】
最後に、本発明は、(i)少なくとも1種の抗癌剤と、(ii)OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体と、場合によっては(iii)薬学的に許容される担体とを含むキットに関する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1A】40μg/mlの抗OAcGD2mAb8B6と一緒に30分間インキュベートした神経芽細胞腫細胞系及び神経膠芽腫初代細胞に対して走査型電子顕微鏡法を行ったことを示す図である。未処理(又はアイソタイプの一致した負の対照マウスIgG3で処理された)IMR5(パネルA)、LAN-1(パネルC)及びDUASOII(パネルE)細胞が連続円形を共有するのに対して、抗OAcGD2mAb8B6処理IMR5(パネルB)、LAN-1(パネルD)及びDUASOII(パネルF)細胞の膜には幾つかの孔が出現する。倍率は、それぞれ2.5キロ倍(KX)(パネルA、B、C、D及びF)並びに2.0KX(パネルE)である。
【
図1B】40μg/mlの抗OAcGD2mAb8B6と一緒に30分間インキュベートした神経芽細胞腫細胞系及び神経膠芽腫初代細胞に対して走査型電子顕微鏡法を行ったことを示す図である。未処理(又はアイソタイプの一致した負の対照マウスIgG3で処理された)IMR5(パネルA)、LAN-1(パネルC)及びDUASOII(パネルE)細胞が連続円形を共有するのに対して、抗OAcGD2mAb8B6処理IMR5(パネルB)、LAN-1(パネルD)及びDUASOII(パネルF)細胞の膜には幾つかの孔が出現する。倍率は、それぞれ2.5キロ倍(KX)(パネルA、B、C、D及びF)並びに2.0KX(パネルE)である。
【
図1C】40μg/mlの抗OAcGD2mAb8B6と一緒に30分間インキュベートした神経芽細胞腫細胞系及び神経膠芽腫初代細胞に対して走査型電子顕微鏡法を行ったことを示す図である。未処理(又はアイソタイプの一致した負の対照マウスIgG3で処理された)IMR5(パネルA)、LAN-1(パネルC)及びDUASOII(パネルE)細胞が連続円形を共有するのに対して、抗OAcGD2mAb8B6処理IMR5(パネルB)、LAN-1(パネルD)及びDUASOII(パネルF)細胞の膜には幾つかの孔が出現する。倍率は、それぞれ2.5キロ倍(KX)(パネルA、B、C、D及びF)並びに2.0KX(パネルE)である。
【
図1D】40μg/mlの抗OAcGD2mAb8B6と一緒に30分間インキュベートした神経芽細胞腫細胞系及び神経膠芽腫初代細胞に対して走査型電子顕微鏡法を行ったことを示す図である。未処理(又はアイソタイプの一致した負の対照マウスIgG3で処理された)IMR5(パネルA)、LAN-1(パネルC)及びDUASOII(パネルE)細胞が連続円形を共有するのに対して、抗OAcGD2mAb8B6処理IMR5(パネルB)、LAN-1(パネルD)及びDUASOII(パネルF)細胞の膜には幾つかの孔が出現する。倍率は、それぞれ2.5キロ倍(KX)(パネルA、B、C、D及びF)並びに2.0KX(パネルE)である。
【
図1E】40μg/mlの抗OAcGD2mAb8B6と一緒に30分間インキュベートした神経芽細胞腫細胞系及び神経膠芽腫初代細胞に対して走査型電子顕微鏡法を行ったことを示す図である。未処理(又はアイソタイプの一致した負の対照マウスIgG3で処理された)IMR5(パネルA)、LAN-1(パネルC)及びDUASOII(パネルE)細胞が連続円形を共有するのに対して、抗OAcGD2mAb8B6処理IMR5(パネルB)、LAN-1(パネルD)及びDUASOII(パネルF)細胞の膜には幾つかの孔が出現する。倍率は、それぞれ2.5キロ倍(KX)(パネルA、B、C、D及びF)並びに2.0KX(パネルE)である。
【
図1F】40μg/mlの抗OAcGD2mAb8B6と一緒に30分間インキュベートした神経芽細胞腫細胞系及び神経膠芽腫初代細胞に対して走査型電子顕微鏡法を行ったことを示す図である。未処理(又はアイソタイプの一致した負の対照マウスIgG3で処理された)IMR5(パネルA)、LAN-1(パネルC)及びDUASOII(パネルE)細胞が連続円形を共有するのに対して、抗OAcGD2mAb8B6処理IMR5(パネルB)、LAN-1(パネルD)及びDUASOII(パネルF)細胞の膜には幾つかの孔が出現する。倍率は、それぞれ2.5キロ倍(KX)(パネルA、B、C、D及びF)並びに2.0KX(パネルE)である。
【
図2A】細胞及び孔の直径及び表面の測定を、40μg/mlの抗OAcGD2mAb8B6と一緒に30分間インキュベートした神経芽細胞腫細胞系及び神経膠芽腫初代細胞:IMR5(パネルA)、LAN-1(パネルB及びC)並びにDUASOII(パネルD及びE)細胞に対して行ったことを示す図である。倍率は、それぞれ5.02KX(パネルA)、4.5KX(パネルB及びC)並びに7.5KX(パネルD及びE)である。
【
図2B】細胞及び孔の直径及び表面の測定を、40μg/mlの抗OAcGD2mAb8B6と一緒に30分間インキュベートした神経芽細胞腫細胞系及び神経膠芽腫初代細胞:IMR5(パネルA)、LAN-1(パネルB及びC)並びにDUASOII(パネルD及びE)細胞に対して行ったことを示す図である。倍率は、それぞれ5.02KX(パネルA)、4.5KX(パネルB及びC)並びに7.5KX(パネルD及びE)である。
【
図2C】細胞及び孔の直径及び表面の測定を、40μg/mlの抗OAcGD2mAb8B6と一緒に30分間インキュベートした神経芽細胞腫細胞系及び神経膠芽腫初代細胞:IMR5(パネルA)、LAN-1(パネルB及びC)並びにDUASOII(パネルD及びE)細胞に対して行ったことを示す図である。倍率は、それぞれ5.02KX(パネルA)、4.5KX(パネルB及びC)並びに7.5KX(パネルD及びE)である。
【
図2D】細胞及び孔の直径及び表面の測定を、40μg/mlの抗OAcGD2mAb8B6と一緒に30分間インキュベートした神経芽細胞腫細胞系及び神経膠芽腫初代細胞:IMR5(パネルA)、LAN-1(パネルB及びC)並びにDUASOII(パネルD及びE)細胞に対して行ったことを示す図である。倍率は、それぞれ5.02KX(パネルA)、4.5KX(パネルB及びC)並びに7.5KX(パネルD及びE)である。
【
図2E】細胞及び孔の直径及び表面の測定を、40μg/mlの抗OAcGD2mAb8B6と一緒に30分間インキュベートした神経芽細胞腫細胞系及び神経膠芽腫初代細胞:IMR5(パネルA)、LAN-1(パネルB及びC)並びにDUASOII(パネルD及びE)細胞に対して行ったことを示す図である。倍率は、それぞれ5.02KX(パネルA)、4.5KX(パネルB及びC)並びに7.5KX(パネルD及びE)である。
【
図3】神経芽細胞腫細胞における5-FU、シスプラチン及びドキソルビシンの内部移行を示す図である。LAN-1細胞を、アイソタイプの一致した負の対照マウスIgG3(40μg/ml)又は抗OAcGD2mAb8B6、抗OAcGD2mAb c8B6.14b、抗OAcGD2mAb c8B6.15b(40μg/ml)の組合せで、5-FU(1.52μM)-パネルA、又はシスプラチン(1.52μM)-パネルB、又はドキソルビシン(4.7μM)-パネルC及びDで処理した。抗癌剤及びmAbを、30分間37℃でインキュベートした。神経芽細胞腫細胞を、FACS取得前にPFA4%で固定した。正の対照は、固定されたLAN-1細胞を抗癌剤と組み合わせたサポニン0.05%で30分間処理して行われた。腫瘍細胞における抗癌剤の取り込みを、フローサイトメトリー(535nmレーザーで励起)によって評価し、結果を全細胞集団における抗癌剤が取り込まれた細胞の割合で表す。
【
図4-1】黒色腫(M21細胞)、乳癌(MDA-MB-231細胞)、小細胞肺癌(H524細胞)、ユーイング肉腫細胞(TC71細胞)におけるドキソルビシンの内部移行を示す図である。細胞をアイソタイプの一致した負の対照マウスIgG3(40μg/ml)又は抗OAcGD2mAb8B6(40μg/ml)の組合せで抗癌剤0.26μM(MDA-MB-231、0.18μMを除く)で処理した。抗癌剤及びmAbを30分間37℃でインキュベートした。腫瘍細胞をFACS取得前にPFA4%で固定した。正の対照は、固定された腫瘍細胞を抗癌剤と組み合わせたサポニン0.05%で30分間処理して行われた。黒色腫(M21)-パネルA、乳癌(MDA-MB-231)-パネルB、小細胞肺癌(H524)-パネルC、ユーイング肉腫(TC71)-パネルD細胞における抗癌剤の取り込みを、フローサイトメトリー(535nmレーザーで励起)によって評価し、結果を全細胞集団における抗癌剤が取り込まれた細胞の割合で表す。
【
図4-2】神経膠芽腫細胞(DuGan)におけるドキソルビシンの内部移行を示す図である。細胞をアイソタイプの一致した負の対照マウスIgG3(40μg/ml)又は抗OAcGD2mAb8B6(40μg/ml)の組合せで抗癌剤0.26μM(MDA-MB-231、0.18μMを除く)で処理した。抗癌剤及びmAbを30分間37℃でインキュベートした。腫瘍細胞をFACS取得前にPFA4%で固定した。正の対照は、固定された腫瘍細胞を抗癌剤と組み合わせたサポニン0.05%で30分間処理して行われた。神経膠芽腫(DuGan)-パネルE細胞における抗癌剤の取り込みを、フローサイトメトリー(535nmレーザーで励起)によって評価し、結果を全細胞集団における抗癌剤が取り込まれた細胞の割合で表す。
【
図5】インビボ神経芽細胞腫実験肝転移マウスモデルにおける抗OAcGD2mAb8B6による化学療法抗腫瘍活性の増強を示す図である。マウス(n=10/群)に2.5×10
5個のNXS2マウス神経芽細胞腫細胞を静脈内注射によって接種した。週2回連続3週間(累積用量=150μg、A~C)の腫瘍細胞接種後3日目に8B6mAb処理を開始した。すべての化学療法処置を、腫瘍接種後10日目に開始した。パネルA:イソトレチノインを10mg/kgで経口で毎週5回2週間投与した。パネルB:トポテカンを腹腔内注射によって0.36mg/kgで週5回1週間投与した。パネルC:ドキソルビシンを腹腔内注射によって1mg/kgで毎週5回2週間投与した。マウスを腫瘍接種後28日目に安楽死させた。ビヒクルのみで処置したマウスに比べて新しい検体の肝臓重量を測定することによって抗腫瘍効率を評価した。肝臓重量は、肝転移数を示す。y軸は、平均正常肝臓重量に相当する0.8gから始まる。データを平均±SEMとして示す。
【
図6】イソトレチノイン(パネルA)、トポテカン(パネルB)及びドキソルビシン(パネルC)と組み合わせた抗OAcGD2mAb8B6の全身的耐容性を示す図である。
図6の0日目に示したマウス群(n=10)の平均重量を100%重量として定義した。各群の重量は、処置期間安定していた。△、mAb8B6で処置したマウス;○、抗癌剤で処置したマウス;□、化学療法薬+mAb8B6で処置したマウス。
【
図7】抗OAcGD2mAb8B6がインビボ神経膠芽腫異種移植マウスモデルにおける患者由来のTMZ難治性GBM-10細胞(GBM-10TMZ
R))において腫瘍抵抗性を克服することを示す図である。1×10
6個のGBM-10細胞をマウスに0日目に皮下注射した。次いで、マウスを2群に分割し、第1の群のマウスにテモゾロマイド(TMZ)を腹腔内注射によって単一用量0.05mg/マウスで12、22及び32日目に投与し、第2の群のマウスを未処置で放置した。腫瘍体積(パネルA)をモニターした。OAcGD2発現を、TMZ処置マウスと未処置マウスとの両方から単離されたGBM-10細胞において評価した(パネルB)。次に、TMZ難治性レベルを限界希釈アッセイによって決定し、腫瘍異種移植片における神経膠芽腫癌幹細胞(GSC)頻度として表した。GSC生存に対する単独療法(8B6又はTMZ)と2種の薬剤の組合せ(TMZ+8B6)の効果を、未処置(パネルC、GBM-10CTL(TMZs))及び再発GBM-10異種移植片(パネルD、GBM-10TMZ
R)から単離されたGBM-10細胞において比較した。
【発明を実施するための形態】
【0026】
第1の態様においては、本発明は、OAcGD2ガングリオシドを発現する細胞中に抗癌剤を送達する方法であって、細胞による抗癌剤の取り込みを増大させるのに有効な量及び濃度のOAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体と細胞を接触させるステップを含み、抗体が細胞膜内の孔形成などの欠陥を生じる、前記方法に関する。
【0027】
好ましくは、OAcGD2ガングリオシドを認識する前記少なくとも1種の抗体は、多量体抗体である。
【0028】
実際、本発明者らは、OAcGD2ガングリオシドを認識し、同時に多量体化特性を有する抗体(例えば、凝集性を有する8B6 IgG3抗体、及び多量体化特性(すなわち、六量体形成)を有するキメラ化IgG1定常領域を含むキメラ化8B6抗体)が抗癌剤の透過を誘導するのに対して、こうした多量体化特性をもたない抗体(例えば、IgG1定常領域を含むキメラ化8B6抗体)がこうした透過に対して効果がないことを証明した。したがって、OAcGD2ガングリオシド結合と多量体化特性との両方が、OAcGD2ガングリオシドを発現する細胞の細胞膜中の孔形成に必要であると思われる。本明細書では「多量体抗体」という用語は、二量体、三量体、四量体、...又は凝集体を指し得る。
【0029】
本発明では、細胞膜、細胞質膜、外側細胞膜及び原形質膜という用語は、同義であり、区別無く使用することができる。
【0030】
「細胞中への抗癌剤の送達」という用語は、細胞内部の抗癌剤の放出を指し、その結果、抗癌剤はその細胞内標的に到達することができる。
【0031】
好ましい一実施形態によれば、OAcGD2ガングリオシドを発現する細胞は、細胞膜に固定されたOAcGD2ガングリオシドを有する腫瘍細胞、癌細胞、癌幹細胞又は過剰増殖細胞である。「癌幹細胞」という用語は、当該技術分野におけるその一般的な意味を有し、正常幹細胞に付随する特性、特に特定の癌試料中に見られるすべての細胞型を生じる能力を有する(固形腫瘍及び血液癌内に見られる)癌細胞の亜集団を指す。それらは、自己複製、複数の癌細胞系譜への分化、及び広範な増殖の能力を有する。それらは、少量の癌幹細胞だけで新しい腫瘍を惹起することができ、化学療法及び放射線療法を含めた従来の療法に対して抵抗性である傾向がある。癌幹細胞は、急性骨髄性白血病及び急性リンパ性白血病を含めた白血病、乳癌、神経膠芽腫を含めた神経膠腫、結腸直腸癌、膵癌、前立腺癌、肺癌、肝癌、膀胱癌又は胃癌を含めて、ただしそれらに限定されない、極めて種々のタイプの癌において同定された。種々のマーカーが癌細胞の塊の中で癌幹細胞を同定する際に観察され、こうしたマーカーは多様であり、癌タイプに依存する。癌幹細胞の同定に使用することができるマーカーの例としては、CD34、CD38、CD19、インターロイキン-3受容体α(CD123)、CD33、CD44、CD44v6、CD47、CD24、EpCAM(ESA)、Lin、CD133、A2B5、SSEA-1、CD166、CD26、CD200、α2β1、Sca、CD45、Pecam、ALDH、ALDH1、Oct4、ABCG2、CXCR4、AFP、EMA、IGF-IRが挙げられるが、それらに限定されない。
【0032】
「細胞による抗癌剤の取り込み」という用語は、腫瘍細胞、癌細胞、癌幹細胞、又は過剰増殖細胞などの標的細胞中への抗癌剤の接触及び内部移行/透過を指す。細胞膜の通過は抗癌剤がその細胞内標的に到達する第1の律速ステップであることは、現在十分証明されている。
【0033】
「欠陥」という用語は、細胞膜透過性を増加させる細胞の一過性の変形を生じる局所的な細胞膜の乱れを指す。例えば、細胞膜の局所的陥入又は膨出は、OAcGD2ガングリオシドを発現する細胞への、OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体の結合に起因し得る。換言すれば、OAcGD2ガングリオシドを発現する細胞の細胞膜透過性の一過性増加は、OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体の存在下でのみ生じる。欠陥は一過性であり得、したがって細胞膜はその本来の構造に戻ることができる。
【0034】
「孔形成」という用語は、細胞膜内に穴を形成するグリセロリン脂質二重層の物理的な改変又は乱れを指す。これは、細胞膜の透過性を一過的に増加させ、細胞外分子のエンドサイトーシスにおいてある役割を果たすこともできる。孔形成によって、細胞外区画から細胞内区画に分子が入ることができる。孔の数及び直径は、細胞型、細胞膜組成、細胞に接触する抗体の量及び時間などの幾つかのパラメータに依存する。孔径は、本発明の方法によって細胞の細胞質中に送達することができる薬剤のサイズを決定する。走査型電子顕微鏡法(SEM:Scanning electron microscopy)及び原子間力顕微鏡法(AFM:atomic force microscopy)を使用して、孔径を測定することができる(ZHAOら、Journal of Drug Targeting、16:1、18~25、2008)。
【0035】
好ましい一実施形態によれば、膜孔の平均直径は、約1nm~約100nm、好ましくは約1nm~約50nm、最も好ましくは約1nm~約10nmである。
【0036】
脂質二重層細胞膜は、厚さ4~10nmである。したがって、孔の平均直径は、ある場合には、細胞膜厚さよりも大幅に大きい可能性がある。
【0037】
すべての実施形態においては、OAcGD2ガングリオシドを認識する抗体、その機能的断片又は誘導体は、細胞膜上で非選択孔を生成する。「非選択孔」は、非荷電分子又はイオン型抗癌剤などの荷電分子が細胞膜のリン脂質二重層を通って拡散できるようにする孔を意図する。孔径は、細胞膜を通過する非荷電又は荷電化合物の選択の関連基準である。
【0038】
OAcGD2ガングリオシドを発現する細胞と適切な条件下で接触すると、OAcGD2ガングリオシドを認識する抗体、その機能的断片又は誘導体は、細胞膜内に孔を生ずることによって所与の細胞培養集団の一部又は全細胞内の抗癌剤の細胞透過を誘導する能力を有する。「細胞透過」は、受動拡散よりもかなり良好な条件下の細胞内環境における外部環境からの抗癌剤の通過を意図する。
【0039】
この発見は、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌を処置する全く新しい手法を提供する。癌細胞における非選択孔の役割を果たすことによって、OAcGD2ガングリオシドを認識する抗体、その機能的断片又は誘導体は、抗癌剤に対する癌細胞の透過性を大きく高める。これは、それらの治療効果(therapeutic affect)を高めるだけでなく、それらの関連する潜在的副作用を減少させ得る。
【0040】
インビトロ及び/又はエクスビボで使用されるときには、本発明の方法は、薬物スクリーニング目的で実行される。したがって、OAcGD2ガングリオシドを発現する細胞、好ましくは腫瘍細胞中への抗癌剤のインビトロ及び/又はエクスビボ送達方法は、抗癌剤とOAcGD2ガングリオシドを認識する抗体、その機能的断片又は誘導体との相乗的組合せのスクリーニングに適している。
【0041】
したがって、本発明は、(i)少なくとも1種の抗癌剤、(ii)OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体を含む、OAcGD2ガングリオシドを発現する細胞、好ましくは腫瘍細胞中への抗癌剤の送達のための組成物であって、OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体が、細胞、好ましくは腫瘍細胞による少なくとも1種の抗癌剤の取り込みを増大させる、前記組成物にも関する。
【0042】
インビボで使用されるときには、本発明の方法は治療目的で実行される。したがって、OAcGD2ガングリオシドを発現する細胞、好ましくは腫瘍細胞中への抗癌剤のインビボ送達方法は、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌の治療に適している。
【0043】
したがって、本発明は、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌の処置及び/又は防止方法に使用される(i)少なくとも1種の抗癌剤と、(ii)OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体と、場合によっては(iii)薬学的に許容される担体とを含む組成物にも関する。
【0044】
本発明は、癌を処置及び/又は防止するためにOAcGD2ガングリオシドを発現する細胞中への少なくとも1種の抗癌剤の選択的送達に使用される、OAcGD2ガングリオシドを認識する抗体、その機能的断片又は誘導体にも関する。
【0045】
本発明は、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌を防止及び/又は処置する方法であって、(i)少なくとも1種の抗癌剤と、(ii)OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体と、場合によっては(iii)薬学的に許容される担体とを含む有効量の組成物をそれを必要とする患者に投与するステップを含む、前記方法にも関する。
【0046】
「OAcGD2ガングリオシドを発現する癌の処置方法」又は「OAcGD2ガングリオシドを発現する癌を処置する方法」という用語は、同義であり、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌の有害作用若しくはOAcGD2ガングリオシドを発現する癌の進行を治癒、逆転、減衰、緩和、最小化、抑制若しくは停止すること、又はOAcGD2ガングリオシドを発現する癌の進行を減衰させることを指す。好ましくは、こうした処置は、腫瘍増殖又は転移拡散の後退、すなわち、測定可能な腫瘍のサイズの減少ももたらす。最も好ましくは、こうした処置は、腫瘍の完全な後退をもたらす。
【0047】
「OAcGD2ガングリオシドを発現する癌」という用語は、GD2ガングリオシドのOアセチル化体をその表面で発現する細胞を有する癌を指す。一般に、前記細胞は、1,000個を超えるOAcGD2ガングリオシド分子をその細胞表面で発現し、好ましくは10,000個を超える、より好ましくは50,000個を超えるOAcGD2ガングリオシド分子をその細胞表面で発現する。前記OAcGD2ガングリオシドを発現する癌は、神経芽細胞腫、神経膠腫、網膜芽細胞腫、腫瘍のユーイングファミリー、肉腫(すなわち、横紋筋肉腫、骨肉腫、平滑筋肉腫、脂肪肉腫及び線維肉腫)、小細胞肺癌、乳癌、黒色腫、転移性腎癌、頭頚部癌並びに血液癌(すなわち、白血病、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫及び骨髄腫)を含む又はそれからなる群から選択される。より一般的には、「OAcGD2ガングリオシドを発現する癌」という用語は、OAcGD2ガングリオシドを発現する細胞の10%超、好ましくは15%超、更により好ましくは20%超を提示する癌を指す。好ましくは、前記細胞は、癌幹細胞(CSC:Cancer Stem Cell)である。OAcGD2ガングリオシドを発現する癌の処置とは、腫瘍を破壊するための、又はOAcGD2ガングリオシドをその表面で発現する癌細胞を破壊するための、(i)少なくとも1種の抗癌剤と、(ii)OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体と、場合によっては(iii)薬学的に許容される担体とを含む組成物の投与を指す。
【0048】
OAcGD2ガングリオシドを発現する癌の「防止」とは、腫瘍増殖を低減するための、又は転移拡散を妨げるための、又は更には腫瘍再発を阻止するための、(i)少なくとも1種の抗癌剤と、(ii)OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体と、場合によっては(iii)薬学的に許容される担体とを含む組成物の投与を指す。好ましくは、防止の成果は、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌に既に罹患した対象における再発前に処置が施された場合、転移拡散の発生を防止することであり得る。最も好ましくは、防止の別の成果は、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌の治療が既になされた対象における腫瘍再発を防止することであり得る。
【0049】
本明細書では「患者」という用語は、ヒトを含めた任意の哺乳動物を指す。該用語は、特定の年齢又は性別に限定されるものではない。したがって、成体及び新生対象並びに小児が、雄でも雌でも、該用語に包含される。
【0050】
「抗癌剤」という用語は、腫瘍成長、増殖及び/又は発生を阻害するのに使用することができる抗増殖性、抗発癌性及び/又は制癌性を有する化学的、物理的又は生物学的製剤又は化合物を指す。好ましくは、抗癌剤は、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌に対する活性を有する。
【0051】
少なくとも1種の抗癌剤は、アルキル化剤、代謝拮抗物質、抗腫瘍抗体、抗腫瘍性抗生物質、トポイソメラーゼ阻害剤、有糸分裂阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、コルチコステロイド、ホルモン又はホルモン様薬物、サイトカイン、ヌクレオシド類似体、核酸、こうした二本鎖合成短鎖RNA分子(miRNA)又は合成DNA/RNA様オリゴヌクレオチド(ASO)などの抗癌剤を含む又はそれからなる群から選択することができる。
【0052】
少なくとも1種の抗癌剤は、癌細胞の細胞膜を単独で通過できない可能性がある。
【0053】
すべての実施形態においては、抗癌剤は、約1nm~約2μmの孔のサイズに適合した立体障害を有し、細胞とOAcGD2ガングリオシドを認識する抗体、その機能的断片又は誘導体との接触によって生じる孔を経由して細胞膜を通過することができる。
【0054】
一部の実施形態においては、抗癌剤は、生体適合性及び生分解性ナノ粒子中に包埋することができる。これは、抗癌剤が核酸、こうした二本鎖合成短鎖RNA分子(miRNA)若しくは合成DNA/RNA様オリゴヌクレオチド(ASO)又はヌクレアーゼ若しくはプロテアーゼによる切断からそれらを保護する短鎖ポリペプチドであるときに特に適切である。
【0055】
この場合、ナノ粒子のタイプは、そのサイズ並びにその物理化学的及び薬物動態学的特性に基づいて当業者が選択することができる。例えば、miRNAは、胃腺癌の動物モデルにおいて酸化鉄ナノ粒子(HIRAKIら、Molecular Therapy-Nucleic Acids(2015)4、e231)、結腸直腸腺癌の動物モデルにおいて炭酸アパタイトナノ粒子(SUNら、2014、Mol Cell Biochem、vol.390、pp19~30)を用いることによって癌細胞に送達することに成功した。ナノ粒子のサイズ分布は、原子間力顕微鏡法(AFM)、透過型電子顕微鏡法(TEM:transmission electron microscopy)、動的光散乱(DLS:dynamic light scattering)などの様々な技術を用いて測定することができる。例えば、酸化鉄ナノ粒子の単一粒径は10~60nmであり、炭酸アパタイトナノ粒子で構成されるものは70~80nm、凝集体を形成する場合には最高200~300nmであった。
【0056】
患者の体内に均一に分布し、癌細胞を正常細胞から区別できない、化学療法に使用される抗癌剤にナノ粒子を使用することもできる。
【0057】
近年、癌治療のための超小型無機粒子(USNP)に多大な努力が向けられている。金USNPは、コアサイズ1~3nmである。
【0058】
ナノ粒子及び超小型ナノ粒子のサイズは、OAcGD2ガングリオシドを認識する抗体と一緒にインキュベートしたときに、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌細胞の細胞膜内で観察される孔のサイズに適合する。
【0059】
一部の実施形態においては、抗癌剤は、ナノ粒子中に包埋されない。この場合、溶液中の抗癌剤は、非球状であり、動的(転回)であり、溶媒和している。動的、水和、溶媒和抗癌剤の見かけサイズは、したがって、抗癌剤の拡散性を利用して測定することができる。動的光散乱(DLS)は、観察中の分子と同じ速度で拡散する等価な剛体球の半径として定義される流体力学半径(Rh)を計算する最良の技術と考えられる。Rhは、動的水和/溶媒和分子の見かけサイズを示す。Rhは、一般に、拡散係数からストークス-アインシュタイン式を用いて計算される。回転半径(Rg)は、分子のコアから分子中の各質量要素までの質量加重平均距離として定義され、分子のサイズの測定を可能にする別のパラメータである。しかし、小角中性子散乱(SANS:small angle neutron scattering)、小角X線散乱(SAXS:small angle x-ray scattering)などの別の技術を用いて、又は高分解能X線構造から、分子のRgを得ることができる。
【0060】
癌を処置するのに使用される組成物の抗癌剤形成部をその分子量によって特徴づけることも適切であり得る。
【0061】
好ましい一実施形態においては、抗癌剤は、分子量が100ダルトン~200,000ダルトンである。
【0062】
「分子量」は、分子を定義する分子式中の原子の原子量を合計することによって計算される前記分子の平均質量を意味する。質量と重量という語は、本発明においては区別なく使用される。「原子量」は、メンデレーエフの周期表で示された元素の一般的な地球上の試料に見られる同位体質量の加重平均を意味する。
【0063】
ダルトンの定義は、Green Bookに見出すことができる(IUPAC、Green book、第3版、「Quantities,Units and Symbols in physical chemistry」、2007)。ダルトン、記号Daは、統合原子質量単位、記号uの代替名として使用される。ダルトンは、炭素12核種の質量に関係し、炭素12原子の1/12質量として定義される(ma(12C)/12≒1.666 538 782(83)×10-27kg=10-3/Na(kg)、ここでNaはアボガドロ定数であり、6.022 14×1023mol-1に等しい)。したがって、炭素12のモル質量は正確に12g/molということになる。その結果、モル質量は、SI単位g/mol(g.mol-1に等しい)で表されるとき、原子量と数値的に同一である。一例として、水(H2O)のモル質量は18g.mol-1であり、その分子量は18Daである。ダルトンは、SI接頭辞と組み合わせて、大分子の質量をキロダルトン(kDA)又はメガダルトン(MDa)で表すことができる。例えば、モル質量200,000g・mol-1の抗癌剤は、分子量200,000Daであり、200kDaと定義することもできる。
【0064】
また、ある実施形態においては、本発明に係る組成物の抗癌剤は分子量が10kDa~15kDa、より好ましくは11kDa~14kDa、より好ましくは12kDa~13kDaである。最も好ましくは、本発明に係る組成物の抗癌剤は分子量が10kDa~13kDaである。
【0065】
別の実施形態においては、本発明に係る組成物の抗癌剤は分子量が80kDa~200kDa、より好ましくは100kDa~180kDa、より好ましくは120kDa~160kDaである。最も好ましくは、本発明に係る組成物の抗癌剤は分子量が150kDa~200kDaである。
【0066】
別の実施形態においては、本発明に係る組成物の抗癌剤は分子量が120ダルトン~800ダルトン、より好ましくは150ダルトン~600ダルトン、より好ましくは250ダルトン~550ダルトンである。最も好ましくは、本発明に係る組成物の抗癌剤は分子量が120ダルトン~550ダルトンである。
【0067】
さらに、ある実施形態においては、少なくとも1種の抗癌剤は、アントラサイクリンなどの抗腫瘍性抗生物質、カンプトセシンなどのトポイソメラーゼ阻害剤、イミダゾテトラジン又はシクロホスファミドなどのアルキル化剤、プレノール脂質、ジアジンなどの代謝拮抗物質、及び遷移金属塩を含む又はそれからなる抗癌剤の群から選択される。
【0068】
アントラサイクリンは、癌の処置において最も効率的な薬物クラスの一つである。1950年代に始まり、これらの分子は、最初に、土壌細菌ストレプトミセス ペウセティウス(Streptomyces peucetius)から同定された。アントラサイクリンは、隣接するキノン及びヒドロキノン部分を有する硬質平面状四環系構造、C-13にカルボニル基を有する短い側鎖、及び四環系環のC-7にグリコシド結合によって結合したアミノ糖ダウノサミンで構成される。アントラサイクリンは、受動拡散によって細胞に入り、トポイソメラーゼ-DNA複合体と相互作用することができ、それによって細胞の増殖を阻害する。癌細胞を死滅させる効率的活性にもかかわらず、ダウノルビシン、ドキソルビシン、イダルビシン、エピルビシン、バルルビシン、ミトキサントロン、ピクサントロンなど、それらのうちごく少数しか薬用に認可されていない。さらに、それらの臨床有用性は、不可逆的心不全を起こし得る累積用量依存的な心毒性によって限定される。好ましくは、本発明の組成物に使用されるアントラサイクリンは、ダウノルビシン、ドキソルビシン、イダルビシン、バルルビシン及びそれらの他の誘導体を含む又はそれからなる群から選択される。最も好ましくは、本発明の組成物に使用されるアントラサイクリンは、ドキソルビシン又はその誘導体の一つである。
【0069】
すべての実施形態においては、本発明に係る組成物は、治療有効量の少なくとも1種の抗癌剤及び治療有効量のOAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体を含む。
【0070】
本明細書では「治療有効量」という用語は、所望の治療効果又は生物学的効果が得られる任意の量を包含するものとする。治療効果は、処置されるOAcGD2ガングリオシドを発現する癌又は所望の生物学的効果に依存する。したがって、治療効果は、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌に付随する症候の重症度の低下、及び/又はOAcGD2ガングリオシドを発現する癌の進行の(部分的又は完全な)阻害であり得る。治療反応を誘発するのに必要とされる量は、癌タイプ、患者の年齢、健康、体格及び性別に基づいて決定することができる。
【0071】
好ましい一実施形態によれば、ドキソルビシン又はその誘導体の一つは、成体対象の場合40mg/m2~60mg/m2の用量で1~3日間3又は4週ごとに投与することができる。ドキソルビシン又はその誘導体の一つの最大累積用量は、600mg/m2を超えるべきではない。用量は、子供の場合25mg/m2~30mg/m2に低減される(MATTHAYら、N Engl J Med、1999、vol.341、pp.1165~1173)。mg/m2単位の用量をmg/kg単位の用量に変換するには、ヒトの場合、単に37で割る(NAIR及びJACOB、J Basic Clin Pharm.、2016、vol.7(2):pp.27~31)
本明細書に記載の用量は、成人及び/又は子供のヒトの場合であるが、重量又は平方メートルサイズに応じて、他の哺乳動物のサイズに合わせて調節することができる。
【0072】
カンプトセシンは、ピロロ[3,4-ベータ]-キノリン部分(環A、B及びC)、共役ピリドン部分(環D)並びに(S)配置のアルファ-ヒドロキシラクトン環(E環)内の20位における1個のキラル中心を含む、平面状五環系環構造を含む複素環式化合物である。これらのキノリン系アルカロイドは、アジアの木であるカンレンボクから最初に抽出された。トポテカン及びイリノテカンは、癌の処置にそれらの使用が認可されたわずか2種のカンプトセシン誘導体薬物である。好ましくは、本発明の組成物に使用されるカンプトセシンは、トポテカン、イリノテカン、ルビテカン及び他の誘導体を含む又はそれからなる群から選択される。最も好ましくは、本発明の組成物に使用されるカンプトセシンは、トポテカン、イリノテカン又はそれらの誘導体の一つである。
【0073】
好ましい一実施形態によれば、トポテカン又はその誘導体の一つは、成体対象の場合、開始用量1.5mg/m2で5日間3週ごとに、次いで用量1mg/m2~1.5mg/m2で5日間3週ごとに投与することができる。用量は、子供の場合、0.75mg/m2に低減され、5日間28日ごとである(DI GIANNATALEら、Phase II study of temozolomide in combination with topotecan(TOTEM) in relapsed or refractory neuroblastoma:a European Innovative Therapies for Children with Cancer-SIOP-European Neuroblastomastudy and Reza Rahbar,Carlos Rodriguez-Galindo,John G.Meara,Edward R.Smith,Antonio R.Perez-Atayde.2 decembre 2013 Springer Science&Business Media)。
【0074】
別の好ましい一実施形態によれば、イリノテカン又はその誘導体の一つは、成体対象の場合、340~350mg/m2で90分間の静脈内注入によって3週ごとに投与することができる(FRIEDMANら、J.Clin.Oncol.、vol.27(28)、p:4733~4740、2009)。
【0075】
本明細書に記載の用量は、成人及び/又は子供のヒトの場合であるが、重量又は平方メートルサイズに応じて、他の哺乳動物のサイズに合わせて調節することができる。
【0076】
イミダゾテトラジンは、オルト縮合イミダゾール及びテトラジン環を含むヘテロ二環式化合物の一クラスである。これらの化合物のうち、テモゾロマイド(Temodar(登録商標)、Temodal(登録商標)、TMZ)が、新規に診断された多形性膠芽腫(GBM)の処置に認可され、難治性未分化星細胞腫にも認可された。このプロドラッグは、活性であるために活性化される必要がある。神経膠芽腫に罹患した患者の一部に明らかに有益であるにもかかわらず、TMZは、TMZ抵抗性の出現に付随する進行性腫瘍増殖も誘導する。好ましくは、本発明の組成物に使用されるイミダゾテトラジンは、テモゾロマイド又はその誘導体の一つである。
【0077】
好ましい一実施形態によれば、テモゾロマイド又はその誘導体の一つは、成体対象の場合75mg/m2~200mg/m2の用量で1日投与することができる。
【0078】
本明細書に記載の用量は、ヒトの場合であるが、重量又は平方メートルサイズに応じて、他の哺乳動物及び小児のサイズに合わせて調節することができる。
【0079】
プレノール脂質は、主にメバロン酸経路を介して生成される5炭素前駆体イソペンテニル二リン酸及びジメチルアリル二リン酸から合成される。単純なイソプレノイド(線状アルコール、二リン酸など)は、C5単位の連続的な付加によって形成されるので、それらをこのようにして分類するのは好都合であり、これらの構造のポリテルペンサブクラスは40個を超える炭素(すなわち、8超のイソプレノイド単位)を含む。例えば、ビタミンA及びその誘導体並びにフィタン酸及びその酸化生成物プリスタン酸は、C20イソプレノイドに分類される。カロテノイドは、抗酸化剤として、また、ビタミンAの前駆体として機能する重要な単純なイソプレノイドである。別の生物学的に重要なクラスの分子は、非イソプレノイド起源のキノン類似のコアに結合したイソプレノイド末端を含むキノン及びヒドロキノンによって例示される。ビタミンE及びK並びにユビキノンは、このクラスの例である。プレノール脂質のうち、レチノイドは、ビタミンAの天然及び合成誘導体である。幾つかの研究は、強力な分化誘導物質、又は急性骨髄性白血病(AML:acute myeloid leukemia)などの癌を処置するための腫瘍細胞アポトーシスの誘導物質としてのそれらの使用を報告した。例えば、ビタミンA誘導体としては、レチノイン酸(RA:retinoic acid)、全トランス型レチノイン酸(ATRA:all-trans retinoic acid)、9-シスRA、4-HPPR、13-シスRA、及びAM580などのレチノイン酸の合成類似体が挙げられる。最近、13-シスRAは、骨髄移植後のハイリスクな神経芽細胞腫の処置において有益であることが判明した(Matthayら、N Engl J Med;341:1165~1173、1999)。好ましくは、本発明の組成物に使用されるプレノール脂質は、ATRA、9-シスRA及び13-シスRAを含む又はそれからなる群から選択される。最も好ましくは、本発明の組成物に使用されるプレノール脂質は、イソトレチノインとも呼ばれる13-シスRAである。
【0080】
好ましい一実施形態によれば、イソトレチノインは、成体対象の場合、用量80mg/m2~160mg/m2で投与することができる(YUら、N Engl J Med.、2010、vol.363(14):pp.1324~1334)。
【0081】
本明細書に記載の用量は、ヒトの場合であるが、重量又は平方メートルサイズに応じて、他の哺乳動物及び小児のサイズに合わせて調節することができる。
【0082】
ジアジンは、5個の窒素原子、並びに1及び2位(ピリダジン)、1及び3位(ピリミジン)、又は1及び4位(ピラジン)における2個の窒素原子を有する5員複素環式化合物を含む有機化合物である。好ましくは、本発明の組成物に使用されるジアジンは、チオグアニン、フルダラビン、クラドリビン、シタラビン、ゲムシタビン、6-メルカプトプリン、5-フルオロウラシル(5-FU)及び類縁体を含む又はそれからなるピリミジン及びピリミジン誘導体の群から選択される。最も好ましくは、本発明の組成物に使用されるジアジンは、5-FU又はフルダラビンである。
【0083】
好ましい一実施形態によれば、5-FUは、成体対象の場合、用量350mg/m2~400mg/m2で4~5日間4週ごとに投与することができる。
【0084】
好ましい一実施形態によれば、フルダラビンは、経口用量40mg/m2/日で連続5日間28日ごとに投与することができる。本明細書に記載の用量は、ヒトの場合であるが、重量又は平方メートルサイズに応じて、他の哺乳動物及び小児のサイズに合わせて調節することができる。
【0085】
IUPACは、不完全な副殻を有する、又は不完全なd副殻とのみ安定なイオンを形成し得る任意の元素として遷移金属を定義する。遷移金属は、元素周期表で21~30、39~48、71~80及び103~112の40種の化学元素である。好ましくは、本発明の組成物に使用される遷移金属は、シスプラチン、オキサリプラチン、エプタプラチン、ロバプラチン、ネダプラチン、カルボプラチン、イプロプラチン、サトラプラチン、テトラプラチン、DCP、PLD-147、JM118、JM126、JM335及び他の誘導体を含む又はそれからなる群から選択される。最も好ましくは、本発明の組成物に使用される遷移金属は、カルボプラチン又はシスプラチンである。
【0086】
好ましい一実施形態によれば、シスプラチンは、成体対象の場合、用量50mg/m2~100mg/m2で3又は4週ごとに投与することができる。用量は、子供の場合、28日ごとに60mg/m2である。
【0087】
好ましい一実施形態によれば、カルボプラチンは、成体対象の場合、用量300mg/m2~400mg/m2で3又は4週ごとに投与することができる。用量は、子供の場合、21日ごとに200mg/m2である(Kohlerら、European Journal of Cancer(2013)49、3671~3679)。
【0088】
本明細書に記載の用量は、成人及び/又は子供のヒトの場合であるが、重量又は平方メートルサイズに応じて、他の哺乳動物のサイズに合わせて調節することができる。
【0089】
ナイトロジェンマスタード化合物は、窒素原子に結合した2個のベータ-ハロアルキル基を有する化合物である。このクラスの化合物のうち、シクロホスファミドは、多様な癌の処置に使用されている。
【0090】
好ましい一実施形態によれば、シクロホスファミドは、成体対象の場合、用量400mg/m2~1800mg/m2で2~5日間分割して投与することができ、間欠療法の場合、2~4週間の間隔で繰り返すことができ、毎日の連続療法の場合、60mg/m2~120mg/m2/日で繰り返すことができる。用量は、子供においては、1.5mg/m2~3mg/m2/日で5日間である。
【0091】
本明細書に記載の用量は、成人及び/又は子供のヒトの場合であるが、重量又は平方メートルサイズに応じて、他の哺乳動物のサイズに合わせて調節することができる。
【0092】
好ましい一実施形態によれば、OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体を含む組成物を使用して、神経芽細胞腫、神経膠腫、網膜芽細胞腫、腫瘍のユーイングファミリー、肉腫(すなわち、横紋筋肉腫、骨肉腫、平滑筋肉腫、脂肪肉腫及び線維肉腫)、小細胞肺癌、乳癌、黒色腫、転移性腎癌、頭頚部癌並びに血液癌(すなわち、白血病、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫及び骨髄腫)を含む又はそれからなる群から選択される、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌を防止及び/又は処置するときには、少なくとも1種の抗癌剤は、シクロホスファミド、ドキソルビシン、トポテカン、イリノテカン、テモゾロマイド(TMZ)、レチノイン酸(RA)、5-フルオロウラシル(5-FU)、フルダラビン、カルボプラチン及びシスプラチンを含む又はそれからなる群から選択される。
【0093】
別の好ましい一実施形態によれば、OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体を含む組成物を使用して、神経芽細胞腫を防止及び/又は処置するときには、抗癌剤は、テモゾロマイド、トポテカン、イリノテカン、フルダラビン、シクロホスファミド又はそれらの混合物である。
【0094】
この好ましい実施形態においては、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌の処置として組み合わせて特許請求される化合物(すなわち、OAcGD2ガングリオシドを認識する抗体と抗癌剤)の各々は、同じ疾患又は関連する症状に対して治療活性を有することが別途知られている。OAcGD2ガングリオシドを認識する抗体と抗癌剤を組み合わせると、予想外の技術的効果、すなわち相乗作用を生じる。
【0095】
ある実施形態においては、OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体は、
a)アミノ酸配列配列番号1の軽鎖可変領域(VL)ポリペプチド、及び
b)アミノ酸配列配列番号2の重鎖可変領域(VH)
を含む。
【0096】
「可変領域」という用語は、抗原への抗体の結合に関与する抗体重鎖(VH)及び軽鎖(VL)のドメインを指す。
【0097】
好ましい一実施形態によれば、軽鎖可変領域(VL)ポリペプチドは、アミノ酸配列配列番号3である。
【0098】
好ましくは、軽鎖可変領域(VL)ポリペプチドは、配列番号4、配列番号5、配列番号6及び配列番号7を含む又はそれからなる群において選択される。
【0099】
別の好ましい一実施形態によれば、軽鎖可変領域(VL)ポリペプチドは、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39及び配列番号40を含む又はそれからなる群において選択されるアミノ酸配列を有する。
【0100】
好ましくは、軽鎖可変領域(VL)ポリペプチドは、配列番号39及び配列番号40を含む又はそれからなる群において選択されたアミノ酸配列を有する。
【0101】
別の好ましい一実施形態によれば、重鎖可変領域(VH)ポリペプチドは、アミノ酸配列配列番号8である。
【0102】
好ましくは、重鎖可変領域(VH)ポリペプチドは、配列番号9、配列番号10及び配列番号11を含む又はそれからなる群において選択される。
【0103】
別の好ましい一実施形態によれば、重鎖可変領域(VH)ポリペプチドは、配列番号41、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、配列番号47、配列番号48、配列番号49、配列番号50、及び配列番号51を含む又はそれからなる群において選択されたアミノ酸配列を有する。
【0104】
好ましくは、重鎖可変領域(VH)ポリペプチドは、配列番号48、配列番号49及び配列番号50を含む又はそれからなる群において選択されたアミノ酸配列を有する。
【0105】
別の好ましい一実施形態によれば、軽鎖可変領域(VL)ポリペプチドは、アミノ酸配列配列番号12である。
【0106】
別の好ましい一実施形態によれば、重鎖可変領域(VH)ポリペプチドは、アミノ酸配列配列番号13である。
【0107】
更により好ましくは、OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体は、
a)アミノ酸配列配列番号14の軽鎖可変領域(VL)ポリペプチド、及び
b)アミノ酸配列配列番号15の重鎖可変領域(VH)
を含む。
【0108】
配列番号16、配列番号17及び配列番号18のアミノ酸配列を有する重(VH)鎖可変領域の相補性決定領域(CDR)、並びに配列番号19、配列番号20及び配列番号21のアミノ酸配列を有する軽(VL)鎖可変領域の相補性決定領域。
【0109】
別の特定の一実施形態においては、OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体は、
a)アミノ酸配列配列番号16、配列番号17及び配列番号18の3つの重鎖相補領域(CDR)と免疫グロブリン重鎖由来の重鎖フレームワーク配列とを含む重鎖、並びに
b)アミノ酸配列配列番号19、配列番号20及び配列番号21の3つの軽鎖相補領域(CDR)と免疫グロブリン軽鎖由来の軽鎖フレームワーク配列とを含む軽鎖
を含む。
【0110】
相補性決定領域(CDR)は、それぞれ、配列番号15のアミノ酸残基26~35(CDR1_VH)、50~68(CDR2_VH)、99~108(CDR3_VH)、及び配列番号14のアミノ酸残基24~39(CDR1_VL)、54~60(CDR2_VL)、94~102(CDR3_VL)に生じる。
【0111】
各CDRへのアミノ酸の割当ては、IMGT、Kabat及びChothiaシステムを含めて、周知の付番システムに従う(IMGT、The International Immunogenetics Information System(登録商標)、LEFRANCら、Nucleic Acids Research、vol.27、p:209-212、1999;KABAT、sequences of Proteins of Immunological Interest、5版、U.S Department of Health and Human Services、Public Health Service、National Institutes of Health、NIH publication、No91-3242、991;CLOTHIA&LESK、J Mol Biol.、vol.196(4)、p:901~917、1987)。
【0112】
「OAcGD2ガングリオシドを認識する抗体」という用語は、25℃で2×105Mを超えるOAcGD2ガングリオシドに対する抗体の平衡結合定数(KA)、好ましくは2×106M以下のKA、より好ましくは1×107M以上、又は更には2×107M以上のKAを指す。こうした親和性は、当該技術分野において利用可能な技術、例えば、スキャッチャード分析、競合ELISA、BIACOREアッセイ又はKINEXAアッセイによって簡単に測定することができる。
【0113】
本発明によれば、本発明に係る組成物に使用される抗体は、GD2ガングリオシドに特異的ではない。本発明に係る組成物に使用される抗体の平衡結合定数(KA)は、GD2ガングリオシドに対してOAcGD2ガングリオシドに対するよりも少なくとも1/10、より好ましくは少なくとも1/100である。好ましくは、25℃で105M未満のGD2ガングリオシドに対する抗体の平衡結合定数(KA)、好ましくはGD2ガングリオシドに対して104M未満のKA。
【0114】
「機能的断片」という用語は、OAcGD2ガングリオシドに特異的に結合する抗体断片を指す。こうした断片は、当業者が簡単に同定することができ、一例として、scFv断片、Fab断片(例えば、パパイン消化による)、Fab’断片(例えば、ペプシン消化及び部分的還元による)、F(ab’)2断片(例えば、ペプシン消化による)、Facb(例えば、プラスミン消化による)、並びにFv及びFd(例えば、ペプシン消化、部分的還元及び再凝集による)断片を含み、本発明によって包含される。
【0115】
こうした断片は、STANWORTHら(Handbook of Experimental Immunology、vol.1、chapter 8、Blackwell Scientific Publications、1978)に記載のものなどの当該技術分野において周知の方法を用いて、酵素切断、合成又は組換え技術によって生成することができる。抗体は、抗体遺伝子を用いて種々の切断型で生成することもでき、1個以上の終止コドンが天然の終結部位の上流に導入される。例えば、F(ab’)2重鎖部分をコードする組合せ遺伝子は、重鎖のCH1ドメイン及び/又はヒンジ領域をコードするDNA配列を含むように設計することができる。抗体の様々な部分を従来技術によって化学的に連結することができ、又は遺伝子操作技術を用いて隣接タンパク質として調製することができる。
【0116】
ここで、これらの断片は、前述の重鎖及び軽鎖の少なくとも可変領域を含む。
【0117】
これらの断片は、可溶性とすることができるが、キメラ抗原受容体(CAR:chimeric antigen receptor)の単鎖可変部として細胞膜内に固定することもできる。
【0118】
本明細書では「キメラ抗原受容体(CAR)」という用語は、抗体の少なくとも1個の抗原結合性ドメイン及び少なくとも1個のエフェクター細胞シグナル伝達ドメインを含む人工ハイブリッドポリペプチドを指す。こうしたCARは、人工的な特異性を特定の免疫エフェクター細胞(例えば、T細胞、NK細胞及びNKT細胞)上に移植する操作された受容体を包含する。CARを使用して、モノクローナル抗体の特異性をMHCに拘束されない様式でT細胞上に付与することができ、したがってモノクローナル抗体の抗原結合性を活用することができる。T細胞中で発現されると、CARは、生理学的T細胞受容体(TCR:T-Cell Receptor)とは異なる主要な組織適合性抗原のそれらの発現とは無関係に未処理の抗原を認識し、したがって腫瘍エスケープの2つの主要な機序、HLA発現の下方制御又はプロテオソーム抗原プロセシングを迂回する。特異抗原へのCARの結合は、免疫応答を誘発する。
【0119】
特定の態様においては、CARは、外部ドメイン、膜貫通ドメイン及び内部ドメインを含む。ここで、配列は、二重特異性抗体又はまた多量体などの多重結合であり得る(例えば、国際公開第2016/016343号に記載の多連鎖キメラ抗原受容体)。
【0120】
外部ドメインは、抗原結合性ドメイン及びスペーサードメイン(柄領域)に対応する。抗原結合性ドメインは、好ましくは、単鎖可変断片(scFv)である。こうしたscFvは、PLUCKTHUNにおいて一例として開示された柔軟なペプチドリンカーによって連結された、免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖、又はVH、VLなどのその一部から通常はなる遺伝子操作された抗体断片である(The Pharmacology of Monoclonal Antibodies、vol.113、Rosenburg及びMoore編、Springer-Verlag、ニューヨーク、p:269~315、1994)。柔軟なペプチドリンカーは、6~40個のアミノ酸残基のペプチドであり得る。アラニン及びグリシンなどの小さいアミノ酸の使用は、柔軟なリンカーを作るのに有用である。例示的な柔軟なリンカーとしては、グリシンポリマー(G)n、例えば、(GS)n、GSGGSn(配列番号22)n、GGGSn(配列番号23)n及びGGGGSn(配列番号24)nなどのグリシン-セリンポリマー、ここでnは少なくとも1の整数である、グリシン-アラニンポリマー若しくはグリシン-セリンポリマー、又は当該技術分野で公知の他の柔軟なリンカーが挙げられる。有用なポリマーの例としては、GGGGSGGGGSGGGGS((G4S)3;配列番号25)、GSTSGSGKPGSGEGSTKG(CD19リンカー;配列番号26)、GGSSRSSSSGGGGSGGGG(18量体;配列番号27)、GGGGSGGGGSGGGGSGGGGS((G4S)4;配列番号28)、KESGSVSSEQLAQFRSLD(配列番号29)、EGKSSGSGSESKST(配列番号30)、GSAGSAAGSGEF(配列番号31)、GGGGGGGG(配列番号32)又はGGGGGG(配列番号33)を挙げることができる。最後に、これらのscFv断片は、GILLILANDら(Tissue Antigens、vol.47、pp.1~20、1996)によって記述されたものなどの当業者に周知の方法によって得ることができる。本明細書では「柄領域」という用語は、「スペーサー又はヒンジドメイン」とも呼ばれ、膜貫通ドメインを外部ドメインに連結するように機能する任意のオリゴ又はポリペプチドを指す。特に、柄領域を使用して、より大きい柔軟性及び到達性を外部ドメインに付与する。スペーサー配列は、CARにおいて主に構造上の役割を果たす。スペーサーは、標的部分をT細胞膜から物理的に分離する。必要な最適距離は、各抗原で異なる可能性がある。効率的な標的接近を可能にするために、CARが標的細胞膜に近いエピトープに結合する場合、又は抗原のサイズ及びグリコシル化状態が複雑であるときに、スペーサーが必要であると思われる。ヒトIgG由来のスペーサー(ヒンジ-CH2-CH3)は、CAR発現に対するその安定化作用のために一般に使用されるが、骨髄細胞上のスペーサーのFcドメインとFcガンマ受容体(FcgR)との相互作用は、T細胞の活性化誘導細胞死をもたらし、インビボでの存続が限定される可能性がある。これは、FcgR結合に不可欠である定常重鎖(CH)2ドメインの領域を除去又は改変することによって克服され、それによって前臨床モデルにおいてインビボでのCAR T細胞存続及び抗腫瘍活性を改善することができる。一般に使用される他のヒンジドメインとしては、CD28若しくはCD8から誘導されるもの、又はヒトIgG由来のスペーサーからの他の切断断片が挙げられる。好ましい一実施形態においては、CARは、外部ドメインと膜貫通ドメインの間の柄領域を含む。柄領域は、最高300個のアミノ酸、好ましくは10~100個のアミノ酸及び最も好ましくは25~50個のアミノ酸を含むことができる。この柄領域は、CD8、CD4若しくはCD28の細胞外領域の一部などの天然の分子のすべて若しくは一部、又は抗体定常領域のすべて若しくは一部に由来することができる。あるいは、この柄領域は、合成配列とすることができる。
【0121】
膜貫通ドメインは、膜アンカードメインであり、外部ドメインと内部ドメインとの間のリンカーでもある。この膜貫通ドメインは、ヒトIgG4Fcヒンジ領域、Fc領域、CD4膜貫通ドメイン、T細胞受容体膜貫通、又はCD16などの他のヒト膜貫通シグナル伝達タンパク質由来の他の膜貫通ドメイン、TCRゼータ鎖(CD3ζ)、CD28及びCD8及びエリスロポイエチン受容体、並びにそれらの変異体であり得る。好ましくは、この膜貫通ドメインは、T細胞受容体膜貫通ドメインである。好ましくは、T細胞受容体膜貫通ドメインは、抗原のT細胞受容体(TCR)と複合体を形成することができる膜貫通タンパク質に由来する。好ましくは、T細胞受容体膜貫通ドメインは、TCRゼータ鎖(CD3ζ)、CD28、OX40/CD134、4-1BB/CD137/TNFRSF9、FcεRIγ、ICOS/CD278、ILRB/CD122、IL-2RG/CD132、CD27、DAP10及びCD40の1つ以上の一部又は全部を含む。
【0122】
内部ドメインは、細胞内シグナル伝達ドメインであり、これは、免疫細胞を活性化させる標的抗原への外部ドメインの結合後の細胞内シグナル伝達を担う。換言すれば、細胞内シグナル伝達ドメインは、キメラ受容体が発現される免疫細胞の正常エフェクター機能の少なくとも1つの活性化の原因である。「エフェクター機能」という用語は、細胞溶解性活性、又はサイトカインの分泌を含めたヘルパー活性であり得る、T細胞の特殊機能を指す。したがって、「細胞内シグナル伝達ドメイン」という用語は、エフェクター機能シグナルを伝達し、特殊機能を果たすように細胞を誘導する、タンパク質の部分を指す。通常は全細胞内シグナル伝達ドメインが使用されるが、多くの場合において、全細胞内ポリペプチドを使用する必要はない。細胞内シグナル伝達ドメインの切断部分を使用することができる程度に、こうした切断部分は、エフェクター機能シグナルを依然として伝達する限り、完全な鎖の代わりに使用することができる。細胞内シグナル伝達ドメインという用語は、したがって、エフェクター機能シグナルを伝達するのに十分な細胞内シグナル伝達ドメインの任意の切断部分を含むことを意味する。
【0123】
多連鎖CARに使用されるシグナル伝達ドメインの好ましい例は、Fc受容体又はT細胞受容体及び協調して働いて抗原受容体結合後にシグナル伝達を開始する共受容体の細胞質配列、並びにこれらの配列の任意の誘導体又は変異体、及び同じ機能的能力を有する任意の合成配列であり得る。シグナル伝達ドメインは、抗原依存性一次活性化を惹起するもの、及び抗原非依存的に働いて、二次又は共刺激シグナルを与えるものの2つの異なるクラスの細胞質シグナル伝達配列を含む。一次細胞質シグナル伝達配列は、ITAMの免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフとして知られるシグナル伝達モチーフを含むことができる。ITAMは、syk/zap70クラスチロシンキナーゼの結合部位として働く種々の受容体の細胞質内末端に見られる明確に定義されたシグナル伝達モチーフである。本発明に使用されるITAMの例としては、非限定的例として、TCRゼータ、FcRガンマ、FcRベータ、FcRイプシロン、CD3ガンマ、CD3デルタ、CD3イプシロン、CD5、CD22、CD79a、CD79b及びCD66dから誘導されるものが挙げられる。好ましい一実施形態においては、多連鎖CARのシグナル伝達ドメインは、CD3ゼータシグナル伝達ドメイン、又はFcイプシロンRIベータ若しくはガンマ鎖の細胞質内ドメインを含むことができる。
【0124】
特定の実施形態においては、本発明の多連鎖CARのシグナル伝達ドメインは、共刺激シグナル分子を含む。共刺激分子は、効率的免疫応答に必要である抗原受容体以外の細胞表面分子又はそれらのリガンドである。
【0125】
「共刺激リガンド」とは、T細胞上の同族の共刺激分子に特異的に結合し、それによって、例えば、ペプチドを含むMHC分子とのTCR/CD3複合体の結合によって与えられる一次シグナルに加えて、増殖活性化、分化などを含めて、ただしそれらに限定されない、T細胞応答を媒介するシグナルを与える、抗原提示細胞上の分子を指す。共刺激リガンドとしては、CD7、B7-1(CD80)、B7-2(CD86)、PD-L1、PD-L2、4-1BBL、OX40L、誘導性共刺激リガンド(ICOS-L)、細胞間接着分子(ICAM、CD30L、CD40、CD70、CD83、HLA-G、MICA、M1CB、HVEM、リンホトキシンベータ受容体、3/TR6、ILT3、ILT4)、Tollリガンド受容体に結合する作動物質又は抗体、B7-H3に特異的に結合するリガンドなどが挙げられるが、それらに限定されない。共刺激リガンドは、とりわけ、CD27、CD28、4-IBB、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、DAP-10、リンパ球機能関連抗原1(LFA-1)、CD2、CD7、LTGHT、NKG2C、B7-H3、CD83に特異的に結合するリガンドなど、ただしそれらに限定されない、T細胞上に存在する共刺激分子に特異的に結合する抗体も包含する。
【0126】
「共刺激分子」とは、共刺激リガンドに特異的に結合し、それによって増殖など、ただしそれに限定されない、細胞による共刺激反応を媒介する、T細胞上の同族の結合パートナーを指す。共刺激分子としては、MHCクラスI分子、BTLA及びTollリガンド受容体が挙げられるが、それらに限定されない。共刺激分子の例としては、CD27、CD28、CD8、4-1BB(CD137)、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、DAP-10、リンパ球機能関連抗原1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、及びCD83に特異的に結合するリガンドなどが挙げられる。
【0127】
「その誘導体」という用語は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、配列番号47、配列番号48、配列番号49、配列番号50及び配列番号51を含む又はそれからなる群において選択されたアミノ酸配列と少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%(すなわち、それぞれ約12、6及び2個のアミノ酸置換に対応する)、好ましくは少なくとも99%(すなわち、約1個のアミノ酸置換に対応する)の同一性の割合を有するアミノ酸配列を指す。
【0128】
CDR配列に関連して、その誘導体という用語は、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20及び配列番号21を含む又はそれからなる群において選択されたアミノ酸配列と少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%(すなわち、それぞれ約2個及び1個のアミノ酸置換に対応する)の同一性の割合を有するアミノ酸配列を指す。
【0129】
こうした誘導体は、当業者がその個人的な知識及び本特許出願の教示を考慮して簡単に同定することができる。天然アミノ酸を化学修飾アミノ酸で置き換え得ることも理解される。一般に、こうした化学修飾アミノ酸は、ポリペプチド半減期を増加させる。
【0130】
本明細書では2個のアミノ酸配列間の「同一性の割合」は、比較される2個の配列間の、前記配列の最良の整列で得られる同一のアミノ酸の割合を意味し、この割合は純粋に統計学的なものであり、これら2個の配列間の相違はアミノ酸配列上で無作為に分布している。本明細書では「最良の整列」又は「最適な整列」は、求められた同一性の割合(下記参照)が最高である整列を意味する。2個のアミノ酸配列間の配列比較は、通常、最良の整列に従って前もって整列されたこれらの配列を比較することによって実施され、この比較は、類似性の局所的領域を同定し、比較するために、比較のセグメント上で実施される。比較を行う最良の配列整列は、手作業のほかに、Smith及びWaterman(Ad.App.Math.、vol.2、p:482、1981)によって開発された局所的相同性アルゴリズムを用いて、Neddleman及びWunsch(J.Mol.Biol.、vol.48、p:443、1970)によって開発された全体的相同性アルゴリズムを用いて、Pearson及びLipmolan(Proc.Natl.Acad.Sci.USA、vol.85、p:2444、1988)によって開発された類似性の方法を用いて、こうしたアルゴリズム(Wisconsin Genetics software Package、Genetics Computer Group、575 Science Dr.,Madison、WI USA中のGAP、BESTFIT、BLAST P、BLAST N、FASTA、TFASTA)を用いたコンピュータソフトウェアを用いて、MUSCLE多重整列アルゴリズム(Edgar、Robert C.、Nucleic Acids Research、vol.32、p:1792、2004)を用いて、実施することができる。最良の局所的整列を得るために、好ましくは、BLOSUM62マトリックスを有するBLASTソフトウェアを使用することができる。2個のアミノ酸配列間の同一性割合は、最適に整列させたこれら2個の配列を比較することによって求められ、アミノ酸配列は、これら2個の配列間の最適な整列を得るために、参照配列に対する追加又は欠失を包含することができる。同一性の割合は、これら2個の配列間の同一の位置の数を求め、この数を比較位置の全数で割り、得られる結果に100を掛けて、これら2個の配列間の同一性の割合を得ることによって計算される。
【0131】
本発明の組成物に使用される抗体は、組換えによって生成される。
【0132】
本発明の組成物に使用される抗体は、グリコシル化されても、されなくてもよいが、グリコシル化抗体が好ましい。好ましい一実施形態においては、本発明の組成物に使用される抗体を低フコースとすることができる。
【0133】
本発明の組成物に使用される抗体を、免疫複合体とすることができる。
【0134】
本明細書では「免疫複合体」という用語は、第2の分子、好ましくは免疫調節剤、細胞傷害性薬物又は放射性同位体に結合した少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体を含む複合分子を指す。こうした免疫複合体は、抗体薬物複合体(ADC:Antibody Drug Conjugate)、免疫サイトカイン(ICK)又は抗体ラジオ複合体(ARC:Antibody Radio Conjugate)であり得る。ここで、この第2の分子は、別の抗原に対して結合特異性を有する抗体とすることができ、形成される免疫複合体は、BiTE(二重特異性T細胞結合体)などの二重特異性抗体である。前記抗体又はその断片は、前記第2の分子と複合化又は共有結合する(例えば、融合タンパク質)。好ましくは、前記抗体又はその断片は、共有結合によって前記第2の分子に結合する。この第2の分子は、糖類と特異的に相互作用して、レクチンなどの非共有結合を形成することができるタンパク質又は糖タンパク質とすることができる。
【0135】
本発明の組成物に使用される抗体は、二重特異性又は多重特異性抗体とすることができる。二重可変ドメイン免疫グロブリン(DVD)、二重特異性T細胞結合体(BiTE)、二重特異性抗体、四価タンデム抗体(TandAbs)又は二重親和性再標的分子(DART)などの幾つかの形式が、組成物に使用される抗体の適切な形式である(WEIDLEら、Cancer Genomics & Proteomics、2013、vol.10、pp.1~18)。
【0136】
好ましくは、患者がヒトであるときには、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌の処置に使用される抗体は、抗体のヒト又はヒト化(CDRグラフト)バージョンであるが、抗体のマウスバージョンを使用することもできる。反復処置を考えるときには、ヒト又はヒト化IgG抗体は、患者から抗IgG免疫応答を発生する可能性が低い。
【0137】
すべての実施形態においては、本発明に係る組成物は、治療有効量の少なくとも1種の抗癌剤及び治療有効量のOAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体を含む。
【0138】
好ましい一実施形態によれば、抗体、その機能的断片又は誘導体は、注射によって対象1m2当たり用量2~2,000mg、好ましくは用量5~1,000mg/m2、最も好ましくは用量10~500mg/m2で投与することができる。
【0139】
本明細書に記載の用量は、ヒトの場合であるが、重量又は平方メートルサイズに応じて、他の哺乳動物及び小児のサイズに合わせて調節することができる。
【0140】
本明細書では「治療有効量」という用語は、所望の治療効果又は生物学的効果が得られる任意の量を包含するものとする。治療効果は、処置されるOAcGD2ガングリオシドを発現する癌又は所望の生物学的効果に依存する。したがって、治療効果は、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌に付随する症候の重症度の低下、及び/又はOAcGD2ガングリオシドを発現する癌の進行の(部分的又は完全な)阻害であり得る。治療反応を誘発するのに必要とされる量は、癌タイプ、患者の年齢、健康、体格及び性別に基づいて決定することができる。
【0141】
最適な量は、処置に対する患者の反応のモニタリングに基づいて決定することもできる。
【0142】
ある実施形態においては、組成物は、療法に使用される薬学的に許容される担体も含む。
【0143】
「薬学的に許容される」という表現は、生理学的に容認でき、ヒトに投与したときにアレルギー反応又は胃の不調、めまいなどの類似の望ましくない反応を一般に生じない、分子的実体及び組成物を指す。好ましくは、本明細書では、「薬学的に許容される」という表現は、連邦若しくは州政府の規制行政機関によって承認可能であること、又は米国薬局方若しくは動物用、より具体的にはヒト用の他の一般に認知された薬局方に記載されていることを意味する。
【0144】
「担体」という用語は、化合物が一緒に投与される溶媒、アジュバント、賦形剤又はビヒクルを指す。こうした薬剤担体は、落花生油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油などの石油、動物、野菜又は合成起源のものを含めて、水及び油などの無菌液体とすることができる。
【0145】
前記組成物は、溶液剤、懸濁液剤、凍結乾燥散剤、カプセル剤及び錠剤を含めて、ただしそれらに限定されない、患者への投与に適切な任意の剤形とすることができる。ここで、本発明の組成物の投与経路は好ましくは非経口であり、本明細書では「非経口」という用語は、静脈内、筋肉内、皮下、腹腔内、直腸、膣、粘膜、髄腔内、頭蓋内又は腫瘍内投与を含む。したがって、医薬組成物は、注射しようとする製剤に対して薬学的に許容されたビヒクルを含む。これらは、特に、等張性無菌食塩水(リン酸一ナトリウム若しくはリン酸二ナトリウム、塩化ナトリウム、カリウム、カルシウム若しくはマグネシウムなど、又はこうした塩の混合物)、或いは症例に応じて滅菌水若しくは生理食塩水を添加して注射液を構成することができる乾燥、特に凍結乾燥組成物とすることができる。適切な薬剤担体は、E.W.Martinによる「Remington’s Pharmaceutical Sciences」に記載されている。
【0146】
最も好ましくは、組成物は、患者への静脈内投与に適切な任意の剤形である。
【0147】
本発明の抗体、機能的断片又は誘導体は、緩衝剤若しくは水に可溶化することができ、又は乳濁液、マイクロエマルジョン、ヒドロゲル(例えば、PLGA-PEG-PLGAトリブロックコポリマーベースのヒドロゲル)、ミクロスフェア、ナノスフェア、微粒子、ナノ粒子(例えば、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)微粒子(例えば、ポリ乳酸(PLA:poly lactic acid);ポリ(ラクチド-コ-グリコール酸)(PLGA);ポリグルタミン酸ミクロスフェア、ナノスフェア、微粒子又はナノ粒子)、リポソーム、若しくは他のガレヌス製剤に入れることができる。すべての場合において、製剤は、無菌であり、注射器に許容される程度の流体でなければならない。製剤は、製造及び貯蔵条件下で安定でなければならず、細菌及び真菌などの微生物の汚染作用に対して保護されなければならない。
【0148】
分散液剤は、グリセロール、液状ポリエチレングリコール及びそれらの混合物中並びにオイル中で調製することもできる。通常の貯蔵及び使用条件下では、これらの製剤は、微生物の増殖を防止するために防腐剤を含む。
【0149】
本発明の抗体、機能的断片又は誘導体は、組成物中に中性又は塩の形で処方することができる。薬学的に許容される塩としては、例えば、塩酸、リン酸などの無機酸、又は酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などの有機酸と一緒に形成される(タンパク質の遊離アミノ基と一緒に形成される)酸付加塩が挙げられる。遊離カルボキシル基と一緒に形成される塩は、例えば、水酸化ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム又は鉄(III)などの無機塩基、及びイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなどの有機塩基から誘導することもできる。
【0150】
担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液状ポリエチレングリコールなど)、それらの適切な混合物、及び植物油を含む、溶媒又は分散媒とすることもできる。本発明の抗体は、その生物学的利用能を高めるように、一例としてPEG化によって、改変することもできる。
【0151】
適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用によって、分散液剤の場合には必要な粒径の維持によって、及び界面活性剤の使用によって、維持することができる。微生物の作用は、種々の抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによって防止することができる。多くの場合において、等張化剤、例えば、糖又は塩化ナトリウムを含むことが好ましい。
【0152】
注射用組成物の吸収は、吸収を遅らせる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム、ゼラチン、ポリオール並びに半減期延長共有結合性及び非共有結合性製剤を、組成物中で使用することによって延長することができる。
【0153】
加水分解及び変性を含めて、ペプチドの不安定性又は劣化の多数の原因が存在する。疎水性相互作用は、分子の集塊(すなわち、凝集)を生じ得る。安定剤を添加して、こうした問題を減少又は防止することができる。
【0154】
安定剤としては、シクロデキストリン及びその誘導体が挙げられる(米国特許第5,730,969号参照)。スクロース、マンニトール、ソルビトール、トレハロース、デキストラン、グリセリンなどの適切な防腐剤を添加して、最終製剤を安定化することもできる。イオン及び非イオン界面活性剤、D-グルコース、D-ガラクトース、D-キシロース、D-ガラクツロン酸、トレハロース、デキストラン、ヒドロキシエチルデンプン並びにそれらの混合物から選択される安定剤を、製剤に添加することができる。アルカリ金属塩又は塩化マグネシウムの添加は、ペプチドを安定化することができる。ペプチドは、それをデキストラン、コンドロイチン硫酸、デンプン、グリコーゲン、デキストリン及びアルギン酸塩からなる群から選択される糖類と接触させることによって安定化することもできる。添加することができる別の糖としては、単糖、二糖、糖アルコール及びそれらの混合物(例えば、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、スクロース、マルトース、ラクトース、マンニトール、キシリトール)が挙げられる。ポリオールは、ペプチドを安定化することができ、水混和性又は水可溶性である。適切なポリオールは、マンニトール、グリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチルグリコール、ビニルピロリドン、グルコース、フルクトース、アラビノース、マンノース、マルトース、スクロース及びそれらのポリマーを含めて、ポリヒドロキシアルコール、単糖及び二糖とすることができる。血清アルブミン、アミノ酸、ヘパリン、脂肪酸及びリン脂質、界面活性剤、金属、ポリオール、還元剤、金属キレート剤、ポリビニルピロリドン、加水分解ゼラチン及び硫酸アンモニウムを含めた種々の賦形剤も、ペプチドを安定化することができる。
【0155】
すべての実施形態においては、分子量100ダルトン~200,000ダルトンの少なくとも1種の抗癌剤、及びOAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体を別々に、同時に又は逐次的に投与することができる。
【0156】
ある実施形態においては、OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、機能的断片又は誘導体と別々に、同時に又は逐次的に投与される少なくとも1種の抗癌剤は、分子量が10kDa~15kDaである。
【0157】
さらに、ある実施形態においては、OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、機能的断片又は誘導体と別々に、同時に又は逐次的に投与される少なくとも1種の抗癌剤は、分子量が80kDa~200kDaである。
【0158】
さらに、ある実施形態においては、OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、機能的断片又は誘導体と別々に、同時に又は逐次的に投与される少なくとも1種の抗癌剤は、分子量が120~800ダルトンである。
【0159】
例えば、OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体は、分子量100ダルトン~200,000ダルトンの少なくとも1種の抗癌剤の投与前に投与することができる。投与の方法及び順序は、組合せの有効性を最大にすることを目指し、各投与は、迅速な総投与から持続注入まで、時間を変えることができる。結果として、分子量100ダルトン~200,000ダルトンの少なくとも1種の抗癌剤とOAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体との組合せは、それらの物理的結合によって得られるものにも、同時又は逐次的とすることができる別々の投与を許容するものにも限定されない。
【0160】
ある実施形態においては、医薬組成物は、アルキル化剤、代謝拮抗物質、抗腫瘍抗体、抗腫瘍性抗生物質、トポイソメラーゼ阻害剤、有糸分裂阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、コルチコステロイド、ホルモン又はホルモン様薬物、サイトカイン、ヌクレオシド類似体などを含めて、ただしそれらに限定されない、第2、第3、第4、第nの抗癌剤も含む。
【0161】
別々に又は同じ組成物で投与される、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌の処置及び/又は防止方法に使用される、(i)分子量100ダルトン~200,000ダルトンの少なくとも1種の抗癌剤と、(ii)OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体と、場合によっては(iii)薬学的に許容される担体とを含む組成物と組み合わせることができる別の抗癌剤の例としては、
(a)アルキル化剤:メクロラミン(mechloramine)、クロラムブシル、イホスファミド、メルファランなど、
(b)代謝拮抗物質:6-メルカプトプリン(6-MP)、カペシタビン、シタラビン、フロクスウリジン、フルダラビン、ゲムシタビン、ヒドロキシ尿素、メトトレキサート、ペメトレキセドなど、
(c)抗腫瘍性抗生物質:アクチノマイシン-D、ブレオマイシン、マイトマイシン-C、ミトキサントロンなど、
(d)トポイソメラーゼ阻害剤:エトポシド(VP-16)、テニポシドなど、
(e)有糸分裂阻害剤:パクリタキセル、ドセタキセルなど、
(f)チロシンキナーゼ阻害剤:イマチニブ、ゲフィニニブ(gefininib)、スニチニブなど、
(g)コルチコステロイド:プレドニゾン、メチルプレドニゾン、デキサメタゾンなど、
(h)ホルモン又はホルモン様薬物:フルベストラント、タモキシフェン、トレミフェン、アナストロゾール、エキセメスタン、レトロゾール、酢酸メゲストロール、エストロゲン、ビカルタミド、フルタミド、ニルタミド、ロイプロリド、ゴセレリンなど、
(i)サイトカイン:特異抗原と接触すると1つの細胞集団(例えば、初回刺激T-リンパ球)によって放出され、細胞間の細胞間媒介物質として作用する約5~20kDaの可溶性低分子タンパク質。サイトカインの例としては、リンホカイン、モノカイン、インターロイキン、並びに腫瘍壊死因子(TNF:tumor necrosis factor)及びインターフェロンなどの幾つかの関連したシグナル伝達分子が挙げられる、
(j)ヌクレオシド類似体:クラドリビン、フルダラビン、ペントスタチンなど
が挙げられるが、それらに限定されない。
【0162】
ある実施形態においては、医薬組成物は、核酸、こうした二本鎖合成短鎖RNA分子(miRNA)又は合成DNA/RNA様オリゴヌクレオチド(ASO)を含めて、ただしそれらに限定されない、第2、第3、第4、第nの抗癌剤も含む。マイクロRNA(miRNA)は、mRNA翻訳の転写後減衰に関与する16~25ヌクレオチドの内在性一本鎖非コードRNAである。それらの調節解除は、癌を含めた多数の疾患で頻繁に認められる。mir-34ファミリー及びmir-17-92クラスターの重要性は、神経芽細胞腫における腫瘍形成と転移との両方で確立されたのに対して、mir-184の過剰発現は、神経芽細胞腫腫瘍増殖を減少させる(Chu及びLee、2012、Intech、MicroRNA target signatures in Advanced stage Neuroblastoma,Neuroblastoma-Present and future、Prof.Hiroyuki Shimada、IBSN978-953-307-016-2、13章、pp.271~286)。したがって、miRNA活性を上方調節するmiRNA模倣物又はアゴミル、個々のmiRNA分子をノックダウンするmiRNA阻害剤又はアンタゴミルなどの種々のタイプの小さい一本鎖又は二本鎖化学合成及び最適化核酸(約22ヌクレオチドから)の設計によって、特定のmiRNA活性を制御する、又は細胞におけるmiRNA細胞レベルを厳重に調節することが可能である。OAcGD2ガングリオシドを発現する癌に関与するmiRNAを標的にしたこうした短鎖化学合成核酸を、本発明に係る組成物に使用することができる。
【0163】
本発明の第2の態様は、抗癌剤を含むOAcGD2ガングリオシドを発現する癌の処置の有効性を高める方法であって、(i)分子量100ダルトン~200,000ダルトンの少なくとも1種の抗癌剤と、(ii)OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体と、場合によっては(iii)薬学的に許容される担体とを含む有効量の組成物をそれを必要とする患者に投与するステップを含む、前記方法に関する。
【0164】
ある実施形態においては、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌の処置の有効性を高める方法に使用される組成物において、少なくとも1種の抗癌剤は分子量が10kDa~15kDaである。
【0165】
さらに、ある実施形態においては、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌の処置の有効性を高める方法に使用される組成物において、少なくとも1種の抗癌剤は分子量が80kDa~200kDaである。
【0166】
さらに、ある実施形態においては、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌の処置の有効性を高める方法に使用される組成物において、少なくとも1種の抗癌剤は分子量が120~800ダルトンである。
【0167】
「処置の有効性を高める」という表現は、唯一の抗癌剤を用いた処置と比べた本発明の方法によって得られる癌細胞死の数の増加を指す。
【0168】
分子量100ダルトン~200,000ダルトンの抗癌剤の有効性は、抗癌処置において分子量100ダルトン~200,000ダルトンの抗癌剤とは異なる作用機序を有するOAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体と組み合わせて投与するとかなり改善することができる。
【0169】
本発明に係る組合せの改善された有効性は、治療相乗作用を求めることによって実証することができる。「相乗作用」の明確な十分認められた定義は、各薬物の効果の知識から個々に予想される単純な相加作用よりも組み合わせた薬物の効果が大きいことである。相乗作用の可能な好都合な結果は、治療効果の有効性を高めることができる。好ましくは、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌は、本発明の組成物を使用したときに、より有効に処置される。
【0170】
分子量100ダルトン~200,000ダルトンの少なくとも1種の抗癌剤とOAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体との組合せの有効性は、Chou及びTalalayによって開発されたCombination Index(CI)手法を用いて測定実験データから解釈することができる(Chou TC、Pharmacol Rev 58:621~681、2006)。手短に述べると、2種の薬物(D)1と(D)2の組合せ比(D)1:(D)2=P:Qの組合せの場合、組合せ(D)1,2=(D)1+(D)2において、本発明者らは(D)1=(D)1,2×[P/(P+Q)]及び(D)2=(D)1,2×[Q/(P+Q)]を得る。組合せ指数式CIx=[(D)1/(Dx)1]+[(D)2/(Dx)2]の示すところによれば、系のx%阻害Dxに対する(Fa)xの所与の効果では、各薬物の分割用量の合計に対する組合せ相加作用(D)1/(Dx)1及び(D)2/(Dx)2は1に等しいはずである。CI=1は相加作用を示し、CI<1は相乗効果を示し、CI>1は拮抗作用を示す。
【0171】
固形腫瘍に対する組合せの有効性は、例えば、処置前後の腫瘍サイズの数値を比較することによって実験的に求めることもできる。好ましくは、本明細書に開示される分子量100ダルトン~200,000ダルトンの少なくとも1種の抗癌剤とOAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体との組合せは、腫瘍サイズが少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、100%、より好ましくは少なくとも50~70%減少すると有効である。
【0172】
固形腫瘍に対する組合せの有効性は、例えば、癌細胞数、末梢臓器への癌細胞浸潤、又は腫瘍転移の追跡調査によって求めることもできる。
【0173】
癌治療の有効性は、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌に罹患した患者の生存期間、無増悪生存期間(PFS:progression free survival)、奏効率(RR:response rate)、反応の持続時間、及び/又は生活の質を評価することによって測定することもできる。
【0174】
好ましい実施形態においては、本発明に係る組成物の分子量100ダルトン~200,000ダルトンの少なくとも1種の抗癌剤は、単一の薬剤としてOAcGD2ガングリオシドを発現する癌を処置するために最初に選択されたものと同じである。
【0175】
相乗作用の別の可能な好都合な成果は、少なくとも1種の抗癌剤の投与量の削減であり得るが、毒性を回避するために同じ有効性を高める、又は維持することができる。
【0176】
本発明の第3の態様は、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌に罹患した患者における抗癌剤に対する感受性を高める方法であって、(i)分子量100ダルトン~200,000ダルトンの少なくとも1種の抗癌剤と、(ii)OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体と、場合によっては(iii)薬学的に許容される担体とを含む有効量の組成物をそれを必要とする患者に投与するステップを含む、前記方法に関する。
【0177】
ある実施形態においては、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌に罹患した患者における抗癌剤に対する感受性を高める方法に使用される組成物において、少なくとも1種の抗癌剤は分子量が10kDa~15kDaである。
【0178】
さらに、ある実施形態においては、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌に罹患した患者における抗癌剤に対する感受性を高める方法に使用される組成物において、少なくとも1種の抗癌剤は分子量が80kDa~200kDaである。
【0179】
さらに、ある実施形態においては、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌に罹患した患者における抗癌剤に対する感受性を高める方法に使用される組成物において、少なくとも1種の抗癌剤は分子量が120~800ダルトンである。
【0180】
癌の改善された処置を提供することに加えて、本明細書に記載のある組合せの投与は、患者の生活の質を、異なる処置を受けた同じ患者が経験する生活の質に比べて改善することができる。例えば、それを必要とする患者に対する本明細書に記載のOAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体と抗癌剤の組合せの投与は、同じ患者が抗癌剤のみを療法として受けた場合に経験するであろう生活の質に比べて改善された生活の質を提供することができる。例えば、本明細書に記載の組合せとの併用療法は、必要な抗癌剤の用量を削減し、それによって治療に付随する副作用(例えば、悪心、嘔吐、脱毛、発疹、食欲減退など)を軽減することができる。組合せは、腫瘍量及び疼痛、臓器障害、体重減少などの関連有害事象を減少させることもできる。
【0181】
相乗作用の別の可能な好都合な成果は、薬剤耐性の発生及びその劇的な結果、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌の再発を最小限にする、又は遅延させることができる。
【0182】
本発明の第4の態様は、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌に罹患した患者における抗癌剤に対して抵抗性の癌の発生を防止又は遅延させる方法であって、(i)分子量100ダルトン~200,000ダルトンの少なくとも1種の抗癌剤と、(ii)OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体と、場合によっては(iii)薬学的に許容される担体とを含む有効量の組成物をそれを必要とする患者に投与するステップを含む、前記方法に関する。
【0183】
ある実施形態においては、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌に罹患した患者における抗癌剤に対して抵抗性の癌の発生を防止又は遅延させる方法に使用される組成物において、少なくとも1種の抗癌剤は分子量が10kDa~15kDaである。
【0184】
さらに、ある実施形態においては、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌に罹患した患者における抗癌剤に対して抵抗性の癌の発生を防止又は遅延させる方法に使用される組成物において、少なくとも1種の抗癌剤は分子量が80kDa~200kDaである。
【0185】
さらに、ある実施形態においては、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌に罹患した患者における抗癌剤に対して抵抗性の癌の発生を防止又は遅延させる方法に使用される組成物において、少なくとも1種の抗癌剤は分子量が120~800ダルトンである。
【0186】
単一の抗癌剤を用いた癌の一次処置(すなわち、第一選択の癌処置)後、患者が癌又は癌の徴候及び症候の再発前にその癌のいかなる徴候も症候もなしに短期間生存することは異常なことではない。分子量100ダルトン~200,000ダルトンの少なくとも1種の抗癌剤と(ii)OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体の組合せを使用することによって、目的は、耐性細胞の増殖をもたらすクローン選択を防止することである。
【0187】
好ましい一実施形態においては、本発明に係る組成物の分子量100ダルトン~200,000ダルトンの少なくとも1種の抗癌剤は、癌の抵抗性の始まりにおけるものとは異なる。
【0188】
治療抵抗性の機序は、抗癌剤によって損傷されたDNAの認識及び修復の増加、細胞周期チェックポイント制御の変化、アポトーシス経路の機能障害、並びに抗癌剤を流出するABC輸送体の発現増加の結果としての薬物蓄積の減少を含む。癌幹細胞(CSC:Cancer Stem Cell)が化学及び放射線療法に対する抵抗性の増加を特徴とする癌内の細胞の亜集団であるという証拠が現れ、従来の抗癌手法が、腫瘍形成を惹起し永続させる細胞サブセットを根絶するのに失敗することが多いことを示している。そこで、CSC以外の癌細胞が、もしかすると類似経路を利用することによって化学及び放射線療法に対する抵抗性を増加させる可能性がある。化学療法抵抗性の逆転は、ヒト黒色腫で示されるように、多剤耐性ABC輸送体の特異的遮断によって行うことができる。
【0189】
驚くべきことに、本発明者らは、特にCSC集団において、抗癌剤摂取に関与する多剤耐性トランスポーター又はシャトルの妨害を必要とせずに、化学療法抵抗性を逆転させる新しい方法を特定した。
【0190】
本発明のこの第4の態様は、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌に罹患した患者における難治性又は再発癌を処置する方法であって、(i)分子量100ダルトン~200,000ダルトンの少なくとも1種の抗癌剤と(ii)OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体とを含む有効量の組成物をそれを必要とする患者に投与するステップを含み、前記癌が、アルキル化剤、代謝拮抗物質、抗腫瘍性抗生物質、トポイソメラーゼ阻害剤、有糸分裂阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤及びヌクレオシド類似体からなる群から選択される1種以上の抗癌剤を含む第一選択の癌処置に対して難治性であり、又はその後に再発する、前記方法にも関する。
【0191】
本発明のこの第4の態様は、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌に罹患した患者における難治性又は再発癌の処置に使用される、(i)分子量100ダルトン~200,000ダルトンの少なくとも1種の抗癌剤と(ii)OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体とを含む組成物であって、前記癌が、アルキル化剤、代謝拮抗物質、抗腫瘍性抗生物質、トポイソメラーゼ阻害剤、有糸分裂阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤及びヌクレオシド類似体からなる群から選択される1種以上の抗癌剤を含む第一選択の癌処置に対して難治性であり、又はその後に再発する、前記組成物にも関する。
【0192】
ある実施形態においては、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌に罹患した患者における難治性又は再発癌を処置する方法に使用される組成物において、少なくとも1種の抗癌剤は分子量が10kDa~15kDaである。
【0193】
さらに、ある実施形態においては、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌に罹患した患者における難治性又は再発癌を処置する方法に使用される組成物において、少なくとも1種の抗癌剤は分子量が80kDa~200kDaである。
【0194】
さらに、ある実施形態においては、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌に罹患した患者における難治性又は再発癌を処置する方法に使用される組成物において、少なくとも1種の抗癌剤は分子量が120~800ダルトンである。
【0195】
さらに、ある実施形態においては、難治性又は再発癌は神経芽細胞腫である。
【0196】
別の好ましい一実施形態によれば、組成物が難治性又は再発神経芽細胞腫を処置する方法に使用されるときには、少なくとも1種の抗癌剤は、テモゾロマイド、トポテカン、イリノテカン、シクロホスファミド、フダラビン(fudarabine)、シスプラチン、ドキソルビシン、イソトレチノイン、エトポシド又はそれらの混合物である。
【0197】
さらに、ある実施形態においては、難治性又は再発癌は神経膠芽腫である。
【0198】
別の好ましい一実施形態によれば、組成物が難治性又は再発神経膠芽腫を処置する方法に使用されるときには、少なくとも1種の抗癌剤は、テモゾロマイド、トポテカン、イリノテカン、シクロホスファミド、フルダラビン、シスプラチン、カルボプラチン又はそれらの混合物である。
【0199】
好ましい実施形態においては、難治性又は再発癌を処置する方法に使用される組成物の分子量100ダルトン~200,000ダルトンの少なくとも1種の抗癌剤は、第一選択の癌処置に使用されるものと同じである。
【0200】
相乗作用の別の可能な好都合な成果は、相乗作用と細胞毒性とのバランスに依拠する相乗的組合せを提供することであり得る。
【0201】
本発明の第5の態様は、分子量100ダルトン~200,000ダルトンの少なくとも1種の抗癌剤と(ii)OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体との相乗的組合せを特定するインビトロ/エクスビボ方法であって、
a)分子量100ダルトン~200,000ダルトンの少なくとも(i)1種の抗癌剤と(ii)OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体とを含む組成物と一緒に、GD2ガングリオシドのOアセチル化体を発現する原発腫瘍細胞又は癌細胞系細胞をインビトロでインキュベートするステップ、並びに
b)Chou及びTalalayによって開示された方法に従ってCI50指数を測定し、1未満のCI50が相乗作用を表すステップ
を含む、前記方法に関する。
【0202】
原発腫瘍細胞は、例えば、外植ヒト腫瘍細胞である。これらの細胞の任意の誘導体は、例えば、癌細胞系を生じ得る。
【0203】
ある実施形態においては、本発明のインビトロ/エクスビボ方法によって特定される相乗的組合せにおいては、少なくとも1種の抗癌剤は分子量が10kDa~15kDaである。
【0204】
さらに、ある実施形態においては、本発明のインビトロ/エクスビボ方法によって特定される相乗的組合せにおいては、少なくとも1種の抗癌剤は分子量が80kDa~200kDaである。
【0205】
さらに、ある実施形態においては、本発明のインビトロ/エクスビボ方法によって特定される相乗的組合せにおいては、少なくとも1種の抗癌剤は分子量が120~800ダルトンである。
【0206】
本発明の第6の態様は、分子量100ダルトン~200,000ダルトンの少なくとも1種の抗癌剤と(ii)OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体との相乗的組合せのインビトロスクリーニング用キットに関する。
【0207】
ある実施形態においては、本発明の相乗的組合せのインビトロスクリーニング用キットにおいては、少なくとも1種の抗癌剤は分子量が10kDa~15kDaである。
【0208】
さらに、ある実施形態においては、本発明の相乗的組合せのインビトロスクリーニング用キットにおいては、少なくとも1種の抗癌剤は分子量が80kDa~200kDaである。
【0209】
さらに、ある実施形態においては、本発明の相乗的組合せのインビトロスクリーニング用キットにおいては、少なくとも1種の抗癌剤は分子量が120~800ダルトンである。
【0210】
本発明の第7の態様は、OAcGD2ガングリオシドを発現する癌の処置に適したキットに関する。すべての実施形態においては、前記キットは、(i)分子量100ダルトン~200,000ダルトンの少なくとも1種の抗癌剤と、(ii)OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の抗体、その機能的断片又は誘導体と、場合によっては(iii)薬学的に許容される担体とを含む。
【0211】
ある実施形態においては、本発明のOAcGD2ガングリオシドを発現する癌の処置に適したキットにおいては、少なくとも1種の抗癌剤は分子量が10kDa~15kDaである。
【0212】
さらに、ある実施形態においては、本発明のOAcGD2ガングリオシドを発現する癌の処置に適したキットにおいては、少なくとも1種の抗癌剤は分子量が80kDa~200kDaである。
【0213】
さらに、ある実施形態においては、本発明のOAcGD2ガングリオシドを発現する癌の処置に適したキットにおいては、少なくとも1種の抗癌剤は分子量が120~800ダルトンである。
【0214】
特定の選択された投与経路を介してキット成分を送達可能な装置を含むこともできる。
【0215】
キット成分は、一緒にパッケージすることができ、又は2個以上の容器に分けることができる。一部の実施形態においては、容器は、再構成に適した組成物の無菌凍結乾燥製剤を含むバイアルとすることができる。キットは、別の試薬の再構成及び/又は希釈に適した1種以上の緩衝剤を含むこともできる。使用することができる別の容器としては、ポーチ、トレイ、ボックス、チューブなどが挙げられるが、それらに限定されない。キット成分は、容器内で無菌でパッケージ及び維持することができる。含むことができる別の成分は、その使用のためのキット使用者への説明書である。
【0216】
OAcGD2ガングリオシドを認識する抗体、その機能的断片又は誘導体は、抗腫瘍療法においてアジュバントとして有用である。
【0217】
本発明の第8の態様は、GD2ガングリオシドのOアセチル化体を発現する細胞において分子量100ダルトン~200,000ダルトンの抗癌剤の細胞内取り込みを増強するためのOAcGD2ガングリオシドを認識する抗体、その機能的断片又は誘導体の使用に関する。
【0218】
ある実施形態においては、OAcGD2ガングリオシドを認識する抗体、その機能的断片又は誘導体は、分子量10kDa~15kDaの抗癌剤の細胞内取り込みを増強するために使用される。
【0219】
さらに、ある実施形態においては、OAcGD2ガングリオシドを認識する抗体、その機能的断片又は誘導体は、分子量80kDa~200kDaの抗癌剤の細胞内取り込みを増強するために使用される。
【0220】
さらに、ある実施形態においては、OAcGD2ガングリオシドを認識する抗体、その機能的断片又は誘導体は、分子量120~800ダルトンの抗癌剤の細胞内取り込みを増強するために使用される。
【0221】
以下の実施例は、本発明のある好ましい実施形態及び態様を実証し、更に説明するために提供されるが、その範囲を限定するものと解釈すべきではない。
【実施例0222】
1.抗OAcGD2mAb8B6を用いた神経芽細胞腫及び神経膠芽腫細胞の処置は、細胞膜内で孔形成を誘導する
抗OAcGD2mAb8B6(マウス、IgG3)又はアイソタイプの一致した負の対照マウスIgG3(CTRL-)と一緒にインキュベーションする24時間前に、培養皿(6ウェル)を500 000 IMR5、LAN-1又はDUASOII細胞/ウェルで被覆した。次いで、40μg/mlの抗体を各ウェルに30分間添加した。上清を遠心沈殿させ、細胞をその支持体から機械的強度(トリプシンなし)を利用して剥離し、遠心沈殿させた。PBSで洗浄後、細胞を0.1mol/Lリン酸ナトリウム緩衝剤中のグルタルアルデヒド2%、pH7.4で1時間4℃で固定した。固定を、1%OsO4を用いて15分間続けた。脱水をエチルアルコール浴中で25%、50%、75%及び100%エチルアルコールを用いて各浴で15分間行った。最後に、細胞を金属スタブに載せ、走査型電子顕微鏡法によって分析した。
【0223】
図1に示すように、IMR5(パネルB)、LAN-1(パネルD)及びDUASOII(パネルF)細胞の膜中の孔形成は、30分間のmAb8B6処理によって現れる。細胞及び孔径及び直径を3つの細胞型について求めた。
図2Aに示すように、IMR5においてmAb8B6によって誘導される孔の直径は約1.914μmであり、その表面は約2.877μm
2である。この場合、孔は、細胞の全表面の少なくとも4%を占める。LAN-1及びDUASOIIで得られた結果もかなり類似している。
図2B及び2Cに示すように、LAN-1においてmAb8B6によって誘導される孔の直径は約1.760μmであり、その表面は約2.433μm
2である。この場合、孔は、細胞の全表面の少なくとも0.7%を占める。
図2D及び2Eに示すように、DUASOIIにおいてmAb8B6によって誘導される孔の直径は約1.459μmであり、その表面は約1.672μm
2である。この場合、孔は、細胞の全表面の少なくとも2.8%を占める。
【0224】
さらに、本発明者らは、より低い抗体濃度がヨウ化プロピジウムの透過の増加を誘導することを確認した。
【0225】
2.イソトレチノイン、トポテカン又はドキソルビシン処理は、神経芽細胞腫(neuroblatoma)細胞系上のOAcGD2発現に影響しない
本発明者らは、神経芽細胞腫細胞系におけるOAcGD2の発現を以前に報告した(Alvarez-Ruedaら、PLos One 2011 6:e25220)。以前の研究によれば、GD2発現-OAcGD2の前駆体-は、神経芽細胞腫細胞においてレチノイン酸に曝露すると変化し得ることが示されている(Rebhanら、Neuroreport.1994 Apr 14;5(8):941~4及びHettmerら、Br J Cancer.2004 Jul 19;91(2):389~397)。したがって、本発明者らは、抗癌剤曝露がmAb8B6結合レベルに影響するかどうか試験した。このために、本発明者らは、フローサイトメトリー分析によってOAcGD2発現を調べる前に、検査されたマウス及びヒト神経芽細胞腫細胞系を各単一薬剤で48時間処理した。これらの実験で使用された薬物の濃度を表1に示す。
【0226】
表1:神経芽細胞腫細胞系の処置に使用された薬物濃度
【表1】
【0227】
神経芽細胞腫細胞系上の細胞表面OAcGD2発現の分析を、フローサイトメトリーによって測定した間接蛍光抗体法によって評価した。本発明者らは、5×105個の細胞を96ウェルマイクロプレート中でmAb8B6(Ceratoら、Hybridoma 1997、16:307~316)又はmAb7H2(O-アセチルGD3に対するマウスモノクローナル抗体を負の対照抗体として使用した)と一緒に10μg/mlで60分間4℃でPBS1%-BSA中でインキュベートした。ヤギ抗マウスIgG(VH+VL)のフルオレセイン-イソチオシアナート複合F(ab’)2断片を二次抗体として用いた(Jackson、Immunoresearch、Soham、UK)60分間4℃の反応後に抗体結合を分析した。細胞蛍光をFACSCalibur(商標)フローサイトメータ(BD Biosciences、San Jose、CA、USA)及びCell Quest(商標)Proソフトウェア(BD Biosciences)を用いて分析した。10,000個の細胞の相対蛍光強度を単一パラメータヒストグラムとして記録し(対数目盛、1024チャネル、及び40)及び平均蛍光強度(MFI:mean fluorescence intensity)を各ヒストグラムで計算した。抗原特異的mAbで染色された細胞のフローサイトメトリーMFI値を負の対照mAb7H2で染色された同じ細胞のMFI値で割って計算されたMFI比として結果を表した。この手法は、グループ内及び異なるグループ間の複数の試験試料の比較を可能にする。
【0228】
表2に示すように、NXS2細胞上のmAb8B6結合のレベルは、未処理細胞に比べて、イソトレチノイン、トポテカン又はドキソルビシンと一緒に48時間インキュベーション後、不変であった。
【0229】
本発明者らは、薬物インキュベーションの48時間後にIMR5、LAN-1及びLAN-5細胞上のmAb8B6結合レベルを調べると、ほとんど又は全く変化がないことも認めた(表2)。
【0230】
表2:48時間の抗癌剤曝露後の神経芽細胞腫細胞系におけるOAcGD2の発現レベル
a
【表2】
a抗OAcGD2mAb8B6で染色された腫瘍細胞の幾何平均蛍光強度(MFI)をmAb7H2対照抗体で染色された腫瘍細胞のMFIに対して規準化した。データを平均±SD(n=3)として示す。
b未処理細胞。
Cこれらの実験に使用された抗癌剤濃度を表1に示す。
【0231】
3.抗OAcGD2mAb8B6は、神経芽細胞腫細胞系において化学療法薬と相乗効果を示す。
抗OAcGD2mAb8B6が化学療法を強化し得るかどうか試験するために、本発明者らは、次に、4つの異なる神経芽細胞腫細胞系においてイソトレチノイン、トポテカン及びドキソルビシンと組み合わせてmAb8B6の腫瘍細胞生存率に対する効果を特徴づけた。
【0232】
抗癌剤の抗増殖活性を、MTT Cell Proliferation Assay Kit(Roche Diagnostic、Indianapolis、USA)を用いて評価した。MTTアッセイは、紫色ホルマザン結晶を形成する代謝活性細胞による黄色テトラゾリウムMTT(臭化3-(4,5-ジメチルチアゾリル-2)-2,5-ジフェニルテトラゾリウム)の還元に基づく。紫色ホルマザンを洗浄剤で可溶化し、分光光度的に570nmで定量化する。
【0233】
増殖の対数期の細胞を96ウェル(LAN-1及びNXS2細胞の場合5×103、IMR5及びLAN-5細胞の場合1×104)処理プレート中の完全培地100μlに播いた。試験薬剤で処理する前に、細胞を終夜インキュベーション中に付着させた。試験薬剤を完全培地で段階希釈し、各ウェルに体積50/65μlで全最終体積165μl/ウェルで添加した。等量の培地体積を対照ウェルに添加した。3つの条件を使用した:抗癌剤単独、mAb8B6単独、mAb8B6+抗癌剤。細胞を試験薬剤に48時間曝露した。試験薬剤に曝露後、MTT試薬15μlを各ウェルに添加した。プレートを恒温器に4時間戻した。インキュベーション期間後、キットから供給される洗浄剤試薬(100μl)をすべてのウェルに添加した。プレートをプラスチックラップに包んで、蒸発を防止し、室温で暗所で終夜放置した。翌日、570nmにおける吸光度を、iMark(商標)Microplate Absorbance Readerプレートリーダー(BioRad)で測定した。分析を四つ組で行い、実験を3回繰り返した。
【0234】
吸光度値を対照のパーセント(Percent of Control)に変換し、CompuSyn(登録商標)ソフトウェア(ComboSyn、Paramus、NJ、USA)を用いた最大半減有効濃度(EC50)計算の試験薬剤濃度に対してプロットした。CompuSyn(登録商標)は、中央値効果式を用いた単一薬物及び中央値効果式と組合せ指数式の両方を用いた多剤混合の用量効果分析に使用することができるChou及びMartinによって開発されたPC用コンピュータソフトウェアである(2005、CompuSyn for Drug Combinations:PC Software and User’s Guide:A Computer Program for Quantitation of Synergism and Antagonism in Drug Combinations,and the Determination of IC50 and ED50 and LD50 Values.ComboSyn、Paramus、NJ.)。CompuSyn(登録商標)ソフトウェアによって使用される中央値効果式は、平衡定常状態における質量作用の法則原理に由来した。最大半減有効濃度(EC50)という用語は、薬物、ベースラインと指定曝露時間後の最大との中間で応答を誘導する抗体の濃度を指す。各試験ウェルの吸光度値を無薬物対照(No Drug Control)平均で割り、100を掛けることによって、対照のパーセント値を計算した。
【0235】
組合せデータをCompuSyn(登録商標)ソフトウェアを用いて分析して、組合せ指数値を計算して、相乗作用を評価した。罹患割合(Fa)を対照のパーセントから次式を用いて計算した:1-パーセント対照/100)、ここで1は100%効果に対応し、0は効果なしに対応する。投与量、罹患割合及び組み合わせて試験された化合物のモル比をCompuSyn(登録商標)ソフトウェアに入力して相乗作用の有無を評価した。CompuSyn(登録商標)は、細胞増殖の50%を阻害する化合物レベルを評価する組合せ指数値を割り当てる。1未満のCI値は相乗作用の存在を示し、1を超えるCI値は拮抗作用を示す。1に等しいCI50値は、相加効果を示す。Chou、PHARMACOL.REV.、58(3):621~81(2006)参照。
【0236】
NXS2細胞をDMEM4.5g/Lグルコース中で10%熱失活ウシ胎仔血清、2mM L-グルタミン、100単位/mlペニシリン及び100μg/mlストレプトマイシンを用いて37℃で5%CO2中で増殖させた。IMR5、LAN-1及びLAN-5細胞をRPMI1640中で10%熱失活ウシ胎仔血清、2mM L-グルタミン、100単位/mlペニシリン及び100μg/mlストレプトマイシンを用いて37℃で5%CO2中で増殖させた。
【0237】
本発明者らは、神経芽細胞腫細胞系NXS2、IMR5、LAN-1及びLAN-5を試験したときに同様の観察結果を見いだした。各試験化学療法薬の計算EC50値は、2種の薬剤の組合せ(すなわち、抗癌剤とmAb8B6)で有意に低下した(p<0.05、表3)。
【0238】
表3:神経芽細胞腫細胞系におけるmAb8B6と一緒のインキュベーション後の薬物細胞傷害性の増強
a
【表3】
aEC50濃度を3つの独立した実験の平均として示す。
b抗OAcGD2mAb8B6を化学療法と濃度40μg/mlで組み合わせた。
【0239】
最後に、本発明者らは、中央値組合せ指数値を計算して、試験したすべての組合せの効果を特徴づけた。本発明者らは、中央値組合せ指数値が試験したすべての組合せで有意に1.0未満(p<0.05)であり、相乗的相互作用を示すことを見いだした(表4参照)。イソトレチノインとmAb8B6の組合せは、組合せ指数値が0.33~0.81であった(NXS2=0.74、IMR5=0.81、LAN-1=0.47、LAN-5=0.33)(表4)。トポテカンは、より強力な相乗作用を示し、組合せ指数値が0.28~0.60であった(NXS2=0.60、IMR5=0.50、LAN-1=0.58、LAN-5=0.28)(表4)。ドキソルビシンとの組合せは、試験神経芽細胞腫細胞系でより強力な相乗作用を示し、組合せ指数値が0.30以下であった(NXS2=0.30、IMR5=0.10、LAN-1=0.05、LAN-5=0.16)(表4)。これらのデータは、抗OAcGD2mAb8B6と一緒に使用したときの化学療法のより強力な抗神経芽細胞腫有効性を示唆している。
【0240】
表4:組合せ指数値
【表4】
*0.05~0.90=相乗作用;0.9~1.10、相加;1.10~10;拮抗作用。
【0241】
抗OAcGD2mAb8B6と別の抗癌剤の組合せについてもLAN-1神経芽細胞腫細胞系で分析した。この実験においては、mAb8B6又はCTRL-(IgG)の存在下で細胞内の5-FU、シスプラチン及びドキソルビシンの取り込みをフローサイトメトリーによって検出した(535nmレーザー励起)。抗癌剤及びmAbを30分間37℃でインキュベートした。正の対照(サポニン0.05%)は、LAN-1細胞において化学療法の取り込みが最大である。
【0242】
図3に示すように、5-FU(パネルA)、シスプラチン(パネルB)1.52μM及びドキソルビシン(パネルC)4.7μMでは、mAb8B6と一緒にインキュベートしたときに、抗癌剤単独及びCTRL-(IgG)と一緒にインキュベートした同じ細胞よりも多くの細胞が陽性であった。さらに、ドキソルビシン(パネルD)4.7μMでは、mAb c8B6.14b及びmAb c8B6.15bと一緒にインキュベートしたときに、抗癌剤単独及びCTRL-(IgG)と一緒にインキュベートした同じ細胞よりも多くの細胞が陽性であった。
【0243】
これらの結果はすべて、抗OAcGD2mAb8B6が腫瘍細胞における抗癌剤の透過を促進することを明瞭に示している。
【0244】
4.抗OAcGD2mAb8B6は、神経膠芽腫初代細胞においてテモゾロマイド(TMZ)と相乗効果を示す。
mAb8B6が化学療法を強化し得るかどうか試験するために、本発明者らは次に6つの異なる神経膠芽腫初代細胞におけるテモゾロマイドと組み合わせたmAb8B6の腫瘍細胞生存率に対する効果を特徴づけた。
【0245】
腫瘍検体をGBMの組織学的診断を受けた患者から収集した。腫瘍を外科的切除時に収集し、腫瘍の解離後gentleMACs(商標)Dissociator(Miltenyi)を用いて製造者の指示に従ってすぐに培養した。すべての検体収集及び分析を治験審査委員会に認可された手順に従って行い、すべての患者又はその保護者は書面のインフォームドコンセントを提出した(Comite de Protection des Personnes Ouest IV、手順#DC-2012-1555)。細胞を5%CO2及び95%湿度雰囲気で限定培地(2mM L-グルタミン、100U/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン、B27補助剤、N2補助剤、2μg/mlヘパリン、40ng/mlβ-FGF及び40ng/mlEGFを含むDMEM/Ham F12)中で維持して、神経球を形成した。
【0246】
増殖の対数期の細胞を、96ウェル(AMBMa、DUGAn、DUASOII、GLIO5、GUITh及びHARCl神経膠芽腫細胞の場合1×104)処理プレート中の完全培地100μlに播いた。試験薬剤で処理する前に、細胞を終夜インキュベーション中に付着させた。試験薬剤を完全培地で段階希釈し、各ウェルに体積50/65μlで全最終体積165μl/ウェルで添加した。等量の培地体積を対照ウェルに添加した。3つの条件を使用した:テモゾロマイド単独、mAb8B6単独、mAb8B6+テモゾロマイド。細胞を試験薬剤に72時間曝露した。試験薬剤に曝露後、MTT試薬15μlを各ウェルに添加した。プレートを恒温器に4時間戻した。インキュベーション期間後、キットから供給される洗浄剤試薬(100μl)をすべてのウェルに添加した。プレートをプラスチックラップに包んで、蒸発を防止し、室温で暗所で終夜放置した。翌日、570nmにおける吸光度をiMark(商標)Microplate Absorbance Readerプレートリーダー(BioRad)で測定した。分析を四つ組で行い、実験を3回繰り返した。
【0247】
細胞生存率をMTTアッセイによって測定し、最大半減有効濃度(EC50)を前に開示したように計算した。結果を下表5に示す。本発明者らは、神経膠芽腫初代細胞AMBMa、DUGAn、DUASOII、GLIO5、GUITh及びHARClを試験したときに同様の観察結果を見いだした。各試験化学療法薬の計算EC50値は、2種の薬剤の組合せ(すなわち、テモゾロマイドとmAb8B6)で低下した。
【0248】
表5:グリア芽細胞腫初代細胞におけるmAb8B6と一緒のインキュベーション後の化学療法薬細胞傷害性の増強
a
【表5】
aEC
50濃度を3つの独立した実験の平均として示す。
b抗OAcGD2mAb8B6を化学療法と濃度40μg/mlで組み合わせた。
【0249】
最後に、本発明者らは、中央値組合せ指数値を計算して、試験したTMZと抗OAcGD2mAb8B6の組合せの効果を特徴づけた。本発明者らは、中央値組合せ指数値が試験したすべての組合せで有意に1.0未満(p<0.05)であり、相乗的相互作用を示すことを見いだした(表6参照)。TMZとmAb8B6の組合せは、組合せ指数値が0.27~0.66であった(GUITh=0.66、DUGAn=0.58、AMBMa=0.27及びHARCI=0.30、GLIO5=0.41及びDUASOII=0.65)(表6)。これらのデータは、抗OAcGD2mAb8B6と一緒に使用したときのTMZのより強力な抗神経膠芽腫有効性を示唆している。
【0250】
表6:グリア芽細胞腫初代細胞における組合せ指数値
【表6】
*0.05~0.90=相乗作用;0.9~1.10、相加;1.10~10;拮抗作用。
【0251】
5.抗OAcGD2mAb8B6は、別のタイプの癌において化学療法薬と相乗効果を示す。
抗OAcGD2mAb8B6が化学療法を神経芽細胞腫及び神経膠芽腫以外でも強化し得るかどうか試験するために、黒色腫(M21細胞)、乳癌(OAcGD2ガングリオシドを過剰発現させるMDA-MB-231細胞)、小細胞肺癌(H524細胞)、神経膠芽腫(DUGAn細胞)及びユーイング肉腫(TC71細胞)の説明のための細胞系をドキソルビシン(0.26μM、ドキソルビシンの濃度が0.18μMであったMDA-MB-231細胞及びドキソルビシンの濃度が1μMであったDUGAn細胞を除く)とmAb8B6又はCTRL-(IgG)との特定の組合せと一緒に30分間インキュベートした。フローサイトメトリーを使用して、実施例のパート3に前に開示したドキソルビシン陽性細胞の数を算定した。
【0252】
図4に示したように、抗OAcGD2mAb8B6は、すべてのタイプの癌においてドキソルビシン陽性細胞の割合を有意に増加させる。より具体的には、ドキソルビシン陽性細胞の6倍の増加がM21黒色腫細胞系で認められ(パネルA)、ドキソルビシン陽性細胞の2倍を超える増加がTC71ユーイング肉腫細胞系で認められ(パネルD)、ドキソルビシン陽性細胞のほぼ2倍の増加がMDA-MB-231乳癌細胞系で認められ(パネルB)、ドキソルビシン陽性細胞の1.5倍の増加がH524小細胞肺癌細胞系で認められ(パネルC)、ドキソルビシン陽性細胞の1.16倍の増加がDUGAn神経膠芽腫細胞で認められる(パネルE)。
【0253】
総合すると、これらの結果は、抗OAcGD2mAb8B6が幾つかのタイプの癌、特にOアセチル化GD2ガングリオシドを発現する細胞を有する癌において抗癌剤の透過を促進することを実証した。
【0254】
6.抗OAcGD2 8B6mAbは、マウス神経芽細胞腫肝転移モデルにおいて化学療法薬の抗腫瘍活性を増強する
6.1-マウス腫瘍モデル
抗OAcGD2mAb8B6及び化学療法処置の抗神経芽細胞腫有効性を、Lodeらによって以前に記述されたA/JマウスにおけるマウスNXS2神経芽細胞腫実験肝転移モデルにおいて求めた(J Natl Cancer Inst 1997、89:1586~1594)。この研究を、Guide for the Care and Use of Laboratory Animals of the French Department of Agricultureにおける推奨に従って厳格に行った。手順は、Committee on the Ethics of Animal Experiments of the Region Pays de la Loireによって認可された。マウスをUTE-UN動物施設(Nantes、フランス)で飼育した。雌性及び雄性A/Jマウス(6~8週齢)をHarlan Laboratories(Gannat、フランス)から得た。本発明者らは、2.5×105個の腫瘍細胞を尾静脈によってPBS中で接種した。本発明者らは、マウスを各10匹のマウスの9群に分けた:1)ビヒクル処置群;2)対照抗体処置群;3)抗OAcGD2mAb8B6処置群;4)イソトレチノイン処置群;5)トポテカン処置群;6)ドキソルビシン処置群;7)イソトレチノイン+mAb8B6処置群、8)トポテカン+mAb8B6処置群;及び9)ドキソルビシン+mAb8B6処置群。抗OAcGD2mAb8B6処置を腫瘍細胞注射後3日目に開始した。マウスに静脈内注射によって週2回mAb8B6 25μgを連続3週間投与した(3、7、10、14、17及び21日目;全用量=150μg)。イソトレチノインをOra-Plus(C)で希釈して10mg/kgで毎日2週間連続して経口投与した(10~14及び17~21日目)。PBSで希釈されたトポテカンを腹腔内注射によって0.36mg/kgで毎日1週間(10~14日目)投与した。ドキソルビシンを腹腔内注射によって1mg/kgで毎日2週間(10~14及び17~21日目)投与した。マウスを接種から28日後に屠殺し、抗腫瘍効率を新しい検体の肝臓重量及び肝転移数によって評価した。
【0255】
6.2-結果
インビトロで得られた本発明者らの観察を拡張するために、本発明者らは、次にmAb8B6/化学療法組合せの潜在的治療効果をインビボで評価した。本発明者らは、Alvarez-Ruedaらによって開示されたマウスNXS2神経芽細胞腫実験肝転移モデルを用いてインビボ検査を行った(ALVAREZ-RUEDAら、PLoS One 2011、vol.6(9)、p:e25220)。関連副作用を最小限にするために、抗癌剤を文献に既報の低用量で投与した。静脈内NSX2腫瘍細胞接種の3日後、10匹のマウスを、前に記載したように単一薬剤又は前述のmAb8B6と抗癌剤の組合せで処置した。腫瘍細胞接種後28日目に、本発明者らはマウス安楽死後の肝転移数及び肝臓重量を測定した。本発明者らがこの検査で用いたmAb8B6の用量(累積用量=150μg)は、ビヒクル処置マウスに比べた肝臓重量によって示されるように、NXS2肝転移の有意な減少をもたらした。mAb8B6処置群における平均肝臓重量は、ビヒクル処置群の2.5±0.18gに比べて1.5±0.15gであった(p<0.05、
図5)。等量の非特異抗体による処置が完全に無効であったので(ビヒクル処置マウス(データ示さず)に比べて平均肝臓重量=2.5±0.18g、p>0.05)、抗OAcGD2mAb8B6療法の特異性が実証された。抗体8B6はイソトレチノイン(10mg/kg、経口、週5回2週間)と協働して、NXS2転移増殖のイソトレチノイン阻害の有意な感作をもたらした(p<0.05、
図5パネルA)。イソトレチノイン+mAb8B6処置群における平均肝臓重量は1.0±0.06gであり、イソトレチノイン処置群は2.0±0.24gであった。トポイソメラーゼIトポテカン(0.36mg/kg、腹腔内、週5回1週間)+mAb8B6の組合せも、トポテカン(1.22±0.09g)又はmAb8B6単独に比べて肝臓重量を有意に減少させた(0.9±0.03g)(p<0.05、
図5パネルB)。アントラサイクリン抗生物質ドキソルビシン(1mg/kg、腹腔内、週5回2週間)の組合せは、ドキソルビシン(1.75±0.09g)又はmAb8B6単独による処置に比べて肝臓重量を有意に減少させた(1.33±0.12g)(p<0.05、
図5パネルC)。mAb8B6とイソトレチノイン又はトポテカンの組合せは、試験した3つの組合せ投薬計画の中で最も強い治療効果をもたらした(
図5)。
【0256】
重量減少は、健康監視の敏感なマーカーとして使用される。本発明者らは、したがって、処置期間にわたる体重の平行分析を行った。本発明者らは体重減少を認めず(
図6)、mAb8B6、イソトレチノイン、イソトレチノイン+mAb8B6、トポテカン、又はトポテカン+mAb8B6で処置したマウスにおける処置関連毒性のないことが示唆された。ドキソルビシン又はドキソルビシン+mAb8B6を投与したマウスは、mAb8B6のみを投与したマウスに比べて17日目後に体重減少を示した。しかし、非ドキソルビシン群に比べたドキソルビシンで処置した2つの群の体重差は、処置期間中に有意でなかった(p>0.05)。これらの観察の示唆するところによれば、抗癌剤+mAb8B6の組合せは、インビボでいずれの薬剤単独よりも強力な抗腫瘍効率を検出可能な毒性なしに示す。
【0257】
7.抗OAcGD2 8B6mAbは、難治性神経膠芽腫モデルにおいて化学療法薬の制癌効果を回復する
7.1-材料及び方法
7.1.1-薬理作用物質
抗OAcGD2mAb8B6及びアイソタイプ対照抗体(CTRL)を既述のように得た。テモゾロマイド(TMZ)をInterchim(モンリュソン、フランス)から購入した。TMZをDMSOを用いて再構成し、一定分量を-20℃で貯蔵した。TMZ溶液と同じ最終割合のDMSOは、すべての研究でビヒクル対照として役立った。
【0258】
7.1.2-細胞培養
患者由来の神経膠芽腫GBM-10細胞を、L-グルタミン、B27、N2補助剤及びヘパリン(2μg/ml)を補充した1%ペニシリン及びストレプトマイシンを含むDMEM/HamF12中で神経球として維持し、追加の増殖因子β-FGF(40ng/ml)及びEGF(40ng/ml)を、それぞれ即座に添加した。培養試薬をGibco Life Technologies(Waltham、MA)から得た。すべての細胞型を初期継代で維持し、PCRによってマイコプラズマに対して常法に従って検査した。
【0259】
7.1.3-GBM10細胞におけるO-アセチル-GD2発現
GBM細胞におけるOAcGD2発現の分析を、フローサイトメトリーによって測定された間接蛍光抗体法によって行った。細胞を冷PBSで洗浄し、PFA4%(Electron Microscopy Sciences、Hatfield、PA)で10分間4℃で固定し、次いでmAb8B6(10μg/ml)と一緒に45分間インキュベートした。ヤギ抗マウスIgGのフルオレセインイソチオシアナート標識F(ab’)2断片(Jackson Immunoresearch、Soham、UK)と一緒に60分間4℃でインキュベーションすることによって抗体8B6結合を検出した。別の実験を、対照IgGを用いて行った。細胞蛍光を、FACSCantoフローサイトメータ(BD Biosciences、San Jose、CA、USA)及びFlowJoソフトウェア(Flowjo LLC、Oregon、OR、USA)を用いて分析した。結果をMFI比で表した。
【0260】
7.1.4-限界希釈分析
限界希釈アッセイのために、GBM腫瘍を解離させ、単離細胞を初濃度103細胞/mLで播き、そこから段階希釈を96ウェルプレート中で行った。細胞を15日間培養し、その後、各細胞培養密度に対して神経球を含まないウェルの割合を計算し、データをELDAソフトウェア(ELDA、Linz、オーストリア)で分析して、試料中の神経膠芽腫幹細胞(GSC:Glioblastoma Stem Cell)の頻度及び種々の処置の影響を定量化した。
【0261】
7.1.4-神経膠芽腫異種移植マウスモデル
Charles River Laboratories(Wilmington、MA)から購入したNSG(NOD.Cg-Prkdcscid Il2rgtm1Wjl/SzJ)マウスを、University of Nantes(UTE、SFR F.Bonamy)の動物施設でSPF状態で飼育し、施設ガイドライン(Agreement#00186.02;Regional ethics committee of the Pays de la Loire、フランス)に従って6~12週齢で使用した。GBM-10細胞(100μl Matrigel中1×106個、Corning、Corning、NY、USA)を0日目に皮下注射した。TMZを、腹腔内注射によって0.05mg/マウスの単一用量で12、22及び32日目に投与した。
【0262】
7.2-結果-
TMZ難治性GBM-10細胞(GBM-10TMZ
R)を、TMZ化学療法後に再発GBM-10細胞から単離した(
図7パネルA)。O-アセチル-GD2発現レベルを、材料&方法セクションで記述したようにフローサイトメトリー分析によって測定した。結果の示すところによれば、O-アセチルGD2発現は、未処置マウスから単離されたGBM-10細胞に比べて、TMZ化学療法後に存続している(
図7パネルB)。
【0263】
次に、TMZ難治性レベルを限界希釈アッセイによって決定し、腫瘍異種移植片における神経膠芽腫癌幹細胞頻度として表した。結果の示すところによれば、幹細胞頻度は、TMZ化学療法によって増加した(
図7パネルC&D)。実際、未処置マウスにおいては、TMZ又はmAb8B6曝露の両方が幹細胞生存を減少させた(
図7パネルC)。より重要なことには、2種の薬剤の組合せ(TMZ+8B6)によって誘導される効果は、それぞれ単独療法として用いた2種の薬剤よりも有意に高い。
【0264】
TMZ化学療法の効果は、再発GBM-10異種移植片から単離されたGBM-10細胞における幹細胞生存を阻害するのに効率が極めて低かった(
図7パネルD)。驚くべきことに、2種の薬剤の組合せ(TMZ+8B6)は、GSC生存を減少させることができた。
(i)分子量100ダルトン~200,000ダルトンを有する少なくとも1種の抗癌剤及び(ii)OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の多量体抗体を含む、前記OAcGD2ガングリオシドを発現する細胞中への抗癌剤の送達に使用するための組成物であって、
前記OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の前記多量体抗体がa)アミノ酸配列配列番号1の軽鎖可変領域(VL)ポリペプチド及びb)アミノ酸配列配列番号2の重鎖可変領域(VH)を含み、
前記OAcGD2ガングリオシドを認識する前記少なくとも1種の多量体抗体が、腫瘍細胞による前記少なくとも1種の抗癌剤の取り込みを増強し、
前記OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の前記多量体抗体が、多量体化特性を有するように変異されたIgG1定常領域を含む、前記組成物。
癌を処置及び/又は防止するためにOAcGD2ガングリオシドを発現する細胞中への分子量100ダルトン~200,000ダルトンを有する少なくとも1種の抗癌剤の選択的送達に使用するための組成物であって、
前記組成物が(i)分子量100ダルトン~200,000ダルトンを有する少なくとも1種の抗癌剤、及び、
(ii)前記OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の多量体抗体を含み、
前記OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の前記多量体抗体がa)アミノ酸配列配列番号1の軽鎖可変領域(VL)ポリペプチド及びb)アミノ酸配列配列番号2の重鎖可変領域(VH)を含み、
前記OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の前記多量体抗体が、多量体化特性を有するように変異されたIgG1定常領域を含む、前記組成物。
分子量100ダルトン~200,000ダルトンを有する前記少なくとも1種の抗癌剤が、アルキル化剤、代謝拮抗物質、抗腫瘍抗体、抗腫瘍性抗生物質、トポイソメラーゼ阻害剤、有糸分裂阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、コルチコステロイド、ホルモン又はホルモン様薬物、サイトカイン、ヌクレオシド類似体、二本鎖合成短鎖RNA分子(miRNA)又は合成DNA/RNA様オリゴヌクレオチド(ASO)などの核酸を含む群又はそれからなる群から選択される、請求項2又は3に記載の組成物。
前記OAcGD2ガングリオシドを発現する前記癌が、神経芽細胞腫、神経膠腫、網膜芽細胞腫、腫瘍のユーイングファミリー、肉腫(すなわち、横紋筋肉腫、骨肉腫、平滑筋肉腫、脂肪肉腫及び線維肉腫)、小細胞肺癌、乳癌、黒色腫、転移性腎癌、頭頚部癌並びに血液癌(すなわち、白血病、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫及び骨髄腫)を含む又はそれからなる群から選択される、請求項3から11のいずれか一項に記載の組成物。
分子量100ダルトン~200,000ダルトンを有する前記少なくとも1種の抗癌剤が、シクロホスファミド、ドキソルビシン、トポテカン、イリノテカン、テモゾロマイド(TMZ)、レチノイン酸(RA)、5-フルオロウラシル(5-FU)、フルダラビン、カルボプラチン及びシスプラチンを含む又はそれからなる群から選択される、請求項14に記載の組成物。
分子量100ダルトン~200,000ダルトンを有する前記少なくとも1種の抗癌剤がテモゾロマイド、トポテカン、イリノテカン、フルダラビン、シクロホスファミド又はそれらの混合物であり、前記OAcGD2ガングリオシドを発現する前記癌が神経芽細胞腫である、請求項3から13のいずれか一項に記載の組成物。
GD2ガングリオシドのOアセチル化体を発現する細胞において分子量100ダルトン~200,000ダルトンの抗癌剤の細胞内取り込みを増強するために使用するための組成物であって、
前記組成物は、(i)分子量100ダルトン~200,000ダルトンの少なくとも1種の抗癌剤と、(ii)OAcGD2ガングリオシドを認識する多量体抗体とを含み、
前記OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の前記多量体抗体がa)アミノ酸配列配列番号1の軽鎖可変領域(VL)ポリペプチド及びb)アミノ酸配列配列番号2の重鎖可変領域(VH)を含み、
前記OAcGD2ガングリオシドを認識する少なくとも1種の前記多量体抗体が、多量体化特性を有するように変異されたIgG1定常領域を含む、前記組成物。