(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023065446
(43)【公開日】2023-05-12
(54)【発明の名称】耐火性物品、酸化還元反応を防止するためのコーティング組成物、及び耐火性物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 24/08 20060101AFI20230502BHJP
C03B 5/16 20060101ALI20230502BHJP
C03B 5/167 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
C23C24/08 C
C03B5/16
C03B5/167
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019799
(22)【出願日】2023-02-13
(62)【分割の表示】P 2019569768の分割
【原出願日】2018-06-18
(31)【優先権主張番号】10-2017-0077447
(32)【優先日】2017-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(72)【発明者】
【氏名】ミョン-ジン チョ
(72)【発明者】
【氏名】ホン-グ チェ
(72)【発明者】
【氏名】スン-ヨン チェ
(72)【発明者】
【氏名】キ-ジュ クァク
(72)【発明者】
【氏名】ヨン-ウォン イ
(72)【発明者】
【氏名】ユン-キョン ソン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】白金粒子及び発泡効果によって発生する欠陥製品を減少させることができる耐火性物品、抗酸化還元コーティング組成物、及び上記耐火性物品の製造方法を提供する。
【解決手段】耐火性物品は:白金(Pt)系基板;及び上記Pt系基板の表面上の酸化還元反応を防止するためのコーティング層を含み、酸化還元反応を防止するための上記コーティング層は、酸化物ベースで、約40重量%~約70重量%のSiO
2;約20重量%~約52重量%のAl
2O
3;約3重量%~約6重量%のB
2O
3;及び約2.4重量%~約4.8重量%のCaOを含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス製造に使用される耐火性物品であって、
前記耐火性物品は:
白金(Pt)系基板;及び
前記Pt系基板上に配置されたコーティング層
を備え、
前記コーティング層は、酸化物ベースで、60重量%~70重量%のSiO2;20重量%~30重量%のAl2O3;3重量%~6重量%のB2O3;及び2.4重量%~4.8重量%のCaOを含む、耐火性物品。
【請求項2】
前記コーティング層は、シリカマトリクス中に分布するウィスカを含む、請求項1に記載の耐火性物品。
【請求項3】
前記ウィスカはムライト結晶相を含む、請求項2に記載の耐火性物品。
【請求項4】
1重量%~7重量%のネットワーク改質剤を更に含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の耐火性物品。
【請求項5】
抗酸化還元コーティング組成物であって、
前記抗酸化還元コーティング組成物は:
酸化物ベースで、55重量%~70重量%のSiO2、12重量%~22重量%のAl2O3、5重量%~15重量%のB2O3、及び5重量%~10重量%のCaOを含む、第1の耐火材料;
SiO2を主成分として含有する第2の耐火材料;並びに
Al2O3を主成分として含有する第3の耐火材料
を含み、
100重量部の前記第1の耐火材料に対して、前記第2の耐火材料の量は25重量部~130重量部であり、前記第3の耐火材料の量は20重量部~150重量部である、抗酸化還元コーティング組成物。
【請求項6】
100重量部の前記第1の耐火材料に対して、前記第2の耐火材料の前記量は25重量部~115重量部であり、前記第3の耐火材料の前記量は45重量部~150重量部である、請求項5に記載の抗酸化還元コーティング組成物。
【請求項7】
100重量部の前記第1の耐火材料に対して、前記第2の耐火材料の前記量は33重量部~90重量部であり、前記第3の耐火材料の前記量は20重量部~45重量部である、請求項5に記載の抗酸化還元コーティング組成物。
【発明の詳細な説明】
【優先権】
【0001】
本出願は、2017年6月19出願の韓国特許出願第10‐2017‐0077447号の優先権を主張するものであり、上記特許出願の内容は依拠され、参照によりその全体が以下に完全に記載されているかのように本出願に援用される。
【技術分野】
【0002】
本発明の概念は、耐火性物品、酸化還元反応を防止するためのコーティング組成物、及び上記耐火性物品の製造方法に関し、より詳細には、白金粒子及び発泡効果によって発生する欠陥製品を減少させることができる耐火性物品、抗酸化還元コーティング組成物、並びに上記耐火性物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ガラス製品の製造プロセスでは、製造装置の動作が開始されると、製造装置の動作は典型的には数年にわたって定常状態に維持される。従って、欠陥の1つ以上の原因を同定するために動作を停止又は一時停止させることは困難である。ガラス製品中の気泡又は不透明な物品の混合物の生成は、欠陥を引き起こすおそれがあるため、このような欠陥の形成を低減又は排除することが重要である。
【発明の概要】
【0004】
本開示の実施形態によると、耐火性物品が提供され、上記耐火性物品は:白金(Pt)系基板;及び上記Pt系基板の表面上の酸化還元反応を防止するためのコーティング層(即ち抗酸化還元コーティング層)を含み、上記コーティング層は、酸化物ベースで、約40重量%~約70重量%のSiO2;約20重量%~約52重量%のAl2O3;約3重量%~約6重量%のB2O3;及び約2.4重量%~約4.8重量%のCaOを含んでよい。上記コーティング層は、シリカマトリクス中に分布するウィスカを含んでよい。いくつかの実施形態では、上記ウィスカはムライト結晶相を含んでよい。
【0005】
いくつかの実施形態では、上記耐火性物品は、Pt系基板の内面を備える撹拌チャンバであってよく、上記コーティング層は、上記撹拌チャンバの上記内面の少なくとも一部をコーティングする。
【0006】
いくつかの実施形態では、上記コーティング層は、酸化物ベースで:約40重量%~約60重量%のSiO2;約32重量%~約52重量%のAl2O3;約3重量%~約6重量%のB2O3;及び約2.4重量%~約4.8重量%のCaOを含んでよい。
【0007】
上記耐火性物品は撹拌器を更に含んでよく、上記コーティング層は、上記撹拌器の側面の少なくとも一部をコーティングしてよい。
【0008】
いくつかの実施形態では、上記耐火性物品は、Pt系基板の表面を備えるチューブであってよく、上記コーティング層は、上記チューブの外面の少なくとも一部分をコーティングしてよい。
【0009】
いくつかの実施形態では、上記コーティング層は、酸化物ベースで:約60重量%~約70重量%のSiO2;約20重量%~約30重量%のAl2O3;約3重量%~約6重量%のB2O3;及び約2.4重量%~約4.8重量%のCaOを含んでよい。
【0010】
上記コーティング層は更に、約1重量%~約7重量%のネットワーク改質剤を含んでよい。
【0011】
本明細書で開示される実施形態によると、抗酸化還元コーティング組成物が提供され、上記抗酸化還元コーティング組成物は:酸化物ベースで、約55重量%~約70重量%のSiO2、約12重量%~約22重量%のAl2O3、約5重量%~約15重量%のB2O3、及び約5重量%~約10重量%のCaOを含む、第1の耐火材料;SiO2を主成分として含有する第2の耐火材料;並びにAl2O3を主成分として含有する第3の耐火材料を含み、100重量部の上記第1の耐火材料に対して、上記第2の耐火材料の量は約25重量部~約130重量部であり、上記第3の耐火材料の量は約20重量部~約150重量部である。
【0012】
上記コーティング組成物は、撹拌チャンバの内面のコーティングのためのものであってよく、100重量部の上記第1の耐火材料に対して、上記第2の耐火材料の上記量は約25重量部~約115重量部であってよく、上記第3の耐火材料の上記量は約45重量部~約150重量部である。
【0013】
上記コーティング組成物は、チューブの外面のコーティングのためのものであってよく、100重量部の上記第1の耐火材料に対して、上記第2の耐火材料の上記量は約33重量部~約90重量部であってよく、上記第3の耐火材料の上記量は約20重量部~約45重量部である。
【0014】
本開示の実施形態によると、耐火性物品の製作方法が提供され、上記方法は:スラリーコーティング層を、白金(Pt)系基板を含む物品に塗布するステップであって、上記スラリーは、第1の耐火材料、第2の耐火材料、及び第3の耐火材料を含み、上記第1の耐火材料は、約55重量%~約70重量%のSiO2、約12重量%~約22重量%のAl2O3、約5重量%~約15重量%のB2O3、及び約5重量%~約10重量%のCaOを含み、上記第2の耐火材料は、SiO2を主成分として含有し、上記第3の耐火材料は、Al2O3を主成分として含有する、ステップ;並びに上記スラリーコーティング層を熱処理することによって上記耐火性物品を形成するステップを含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、上記スラリーは、噴霧法によって塗布してよい。上記噴霧法は例えば、上記スラリーの供給源における上記スラリーの均質化と同時に実施してよい。
【0016】
上記熱処理は、約30時間~約100時間の時間にわたって、約1350℃~約1550℃の温度で実施してよい。
【0017】
上記熱処理の後、シリカマトリクス中に分散されたムライト結晶の粒子を含む微小構造を、上記熱処理によって上記スラリーコーティング層から得ることができる。
【0018】
いくつかの実施形態では、上記スラリーは、100重量部の上記第1の耐火材料に対して、約25重量部~約130重量部の上記第2の耐火材料、及び約20重量部~約150重量部の上記第3の耐火材料を含んでよい。
【0019】
いくつかの実施形態では、上記物品は撹拌チャンバであってよく、上記スラリーは、100重量部の上記第1の耐火材料に対して、約25重量部~約115重量部の上記第2の耐火材料、及び約45重量部~約150重量部の上記第3の耐火材料を含んでよい。
【0020】
いくつかの実施形態では、上記物品はチューブであってよく、上記スラリーは、100重量部の上記第1の耐火材料に対して、約33重量部~約90重量部の上記第2の耐火材料、及び約20重量部~約45重量部の上記第3の耐火材料を含んでよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1A】ある実施形態による、抗酸化還元コーティング層のシリカマトリクスの表面にウィスカが分布する構造のキャプチャ画像
【
図1B】ある実施形態による、抗酸化還元コーティング層のシリカマトリクス中にウィスカが分布する断面構造のキャプチャ画像
【
図2】実施形態による耐火性物品を適用できるガラスシート製造装置を概念的に示すプロセス図
【
図3】
図2の製造装置内の混合用容器を特に示す、ある実施形態による耐火性物品の概念図
【
図4】
図2の製造装置内のインレットチューブを示す、別の実施形態による耐火性物品の概念図
【
図5】実験例10、実験例15、実験例16、及び比較例10に関する、時間経過に応じた酸素の分圧のグラフ
【
図6】ある実施形態による、耐火性物品の製造方法のフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0022】
これより、例示的実施形態が図示されている添付の図面を参照して、本開示をより詳細に説明する。しかしながら、本開示の主題は多数の異なる形態で実現してよく、本明細書に記載の例示的な実施形態に限定されるものと解釈してはならず、むしろこれらの実施形態は、本開示が徹底的かつ完全なものとなり、またその主題を当業者に完全に伝達するものとなるように、提供される。図面では、分かりやすくするために、層及び範囲の厚さを誇張する場合がある。可能な限り、図面中の類似の参照番号は、類似の要素を指す。従って本開示は、添付の図面に図示されているような相対的なサイズ又は間隔によって限定されない。
【0023】
様々な構成部品を説明するために「第1の(first)」、「第2の(second)」等の用語を使用する場合があるが、これらの構成部品はこれらの用語に限定されない。上記用語は、ある構成部品を別の構成部品から区別するためだけに使用される。例えば、競合することなく、第1の構成部品が第2の構成部品を指す場合もあり、又は第2の構成部品が第1の構成部品を指す場合もある。
【0024】
様々な例示的実施形態について本明細書中で使用される用語は、例示的実施形態を説明するためだけに使用されており、様々な追加の実施形態を限定するものと解釈してはならない。文脈的にそうでないことが定義されていない限り、単数形の表現は複数形の表現を含む。様々な例示的実施形態について本明細書中で使用される用語「…を備える(comprise)、又は「…を備えてよい(may comprise)」は、対応する機能、動作又は構成部品の存在を示すことができ、1つ以上の追加の機能、動作又は構成部品を制限するものではない。更に、本明細書中で使用される場合、用語「…を備える(comprise及び/又はcomprising)」は、言及されている特徴、整数、ステップ、動作、要素及び/又は構成部品を明示するために使用でき、1つ以上の他の特徴、整数、ステップ、動作、要素、構成部品及び/又はその群を排除するものではないことを理解されたい。
【0025】
ある特定の実施形態を異なる形態で実装できる場合、具体的なプロセスの順序を、記載されている順序とは異なる順序で実施してよい。例えば、2つの連続して記載されたプロセスは、略同時に実施してよく、又は記載されている順序とは反対の順序で実施してよい。
【0026】
例えば製造技法及び/又は許容誤差の結果として、図示された形状からの変化が発生することが予想できる。よって、本開示の実施形態は、本明細書中で図示されている領域の特定の形状に限定されるものとして解釈してはならず、例えば製造によってもたらされる形状の偏差を含むものとする。本明細書中で使用される場合、用語「及び/又は(and/or)」は、関連して列挙された項目のうちの1つ以上のいずれのあらゆる組み合わせを含む。更に本明細書中では、「基板(substrate)」は、基板自体、又は基板と、基板の表面上に形成された1つ以上のコーティング、層若しくはフィルムとを含む積層構造体を指す場合がある。また、本明細書では、「基板の表面(a surface of a substrate)」は、基板の露出した表面、又は基板上に形成されたコーティング、層、若しくはフィルムの外側表面を指すことができる。
【0027】
本明細書で開示されている実施形態によると、白金系基板と、上記白金系基板の表面をコーティングする抗酸化還元コーティング層とを含む、耐火性物品が提供される。上記耐火性物品は、高温環境、例えば1200℃~1750℃に曝露されるいずれの製品、例えばガラス製品の製造に使用される導管、チャンバ、るつぼ等の製品又はその構成部品であってよい。
【0028】
上記白金系基板は、白金(Pt)を主成分として含む基板であってよい。上記白金系基板は、純Pt基板、又はPtとアルミニウム(Al)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、スズ(Sn)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、及び/又はタングステン(W)等の他の金属成分との合金であってよい。本明細書では、「主成分(main component)」は、50重量%超の成分比を有する成分を定義する。例えば「白金系基板の主成分はPtである」は、上記白金系基板中のPtの量が50重量%を超えることを指すことができる。
【0029】
上記抗酸化還元コーティング層は:約40重量%~約70重量%のSiO2;約20重量%~約52重量%のAl2O3;約3重量%~約6重量%のB2O3;及び約2.4重量%~約4.8重量%のCaOを含んでよい。
【0030】
SiO2の量が多すぎる場合、上記コーティング層で均一にコーティングすることができない。一方、SiO2の量が少なすぎる場合、Al2O3の量が増大し、コーティング層が層間剥離しやすくなり得る。
【0031】
抗酸化還元コーティング層は、SiO2マトリクス中にウィスカが分布する構造を有してよい。特に上記ウィスカはムライト結晶相を含んでよい。
【0032】
図1Aは、ある実施形態による、抗酸化還元コーティング層のSiO
2マトリクスの表面にウィスカが分布する、上記構造のキャプチャ画像である。
【0033】
図1Bは、ある実施形態による、抗酸化還元コーティング層のSiO
2マトリクス中にウィスカが分布する、上記構造の断面のキャプチャ画像である。
【0034】
図1Aを参照すると、ウィスカタイプの粒子は高密度に濃縮されている。
図1Bを参照すると、ウィスカタイプの粒子はSiO
2マトリクス中に比較的均一に分布され得る。
【0035】
更に、ムライト結晶相を含むウィスカ粒子は、エネルギ分散型X線分光法(EDS)及びX線回折(XRD)分析によって識別できる。
【0036】
図2は、本開示の実施形態による耐火性物品を適用できるガラスシート製造装置10を概念的に示すプロセス図である。
【0037】
図2を参照すると、ガラスシート製造装置10は、貯蔵用蓋付き容器59から供給されたバッチ材料57を受承するよう構成された、溶融用容器12を含んでよい。バッチ材料57は、モータ13によって駆動されるバッチ搬送デバイス11によって、溶融用容器12へと導入できる。コントローラ15は、矢印17が示すように所望量のバッチ材料57を溶融用容器12に導入できるよう、モータ13を制御できる。ガラス液位プローブ19は、スタンドパイプ23内のガラス溶融物21の液位を測定し、また測定した液位情報を送信するために、通信ライン25を介してコントローラ15と通信してよい。
【0038】
ガラスシート製造装置10は、例えば清澄用チューブである清澄用容器27を含んでよく、これは、溶融ガラスの流れに対して溶融用容器12の下流に位置し、第1の接続チューブ29を介して溶融用容器12と流体連通する。更に、例えば撹拌チャンバである混合用容器31が、清澄用容器27の下流に位置してよく、また送達用容器33が混合用容器31の下流に位置してよい。図示されているように、第2の接続チューブ35は、清澄用容器27を混合用容器31に接続でき、第3の接続チューブ37は、混合用容器31を送達用容器33に接続できる。ガラス溶融物21を送達用容器33から成形装置43のインレットチューブ41に移送するために、下降管39を配置してよい。
【0039】
溶融用容器12の少なくとも一部、例えば内壁の少なくとも一部は、上述の耐火性物品を含んでよい。ガラスシート製造装置10は更に、一般に白金又は白金含有金属、例えば白金‐ロジウム、白金‐イリジウム及びこれらの組み合わせを含む構成部品を含んでよいが、これらの構成部品は、モリブデン、パラジウム、レニウム、タンタル、チタン、タングステン、ルテニウム、オスミウム、ジルコニウム、及びこれらの合金、並びに/又は二酸化亜鉛等の耐火性金属も含んでよい。上記白金含有構成部品は、第1の接続チューブ、清澄用容器27(例えば清澄用チューブ)、第2の接続チューブ35、スタンドパイプ23、混合用容器31(例えば撹拌チャンバ)、第3の接続チューブ37、送達用容器33、下降管39、及びインレットチューブ41のうちの少なくとも1つを含んでよい。また、成形装置43の少なくとも一部は、上述のような耐火性物品を含んでよく、又はガラスリボン53を形成するように設計されていてよい。
【0040】
図3は、
図2の製造装置10内の混合用容器31を特に示す、ある実施形態による耐火性物品の概念図である。
【0041】
図3を参照すると、ガラス溶融物21を、混合用容器31内の撹拌器312によって均一に混合できる。混合用容器31は、
図2に示すように、清澄用容器27からガラス溶融物21の供給を受け、ガラス溶融物21を混合した後、ガラス溶融物21を送達用容器33へと移送する。混合用容器31内の温度は、約1400℃~約1500℃であってよい。撹拌器312は、シャフト312aと、シャフト312aに取り付けられた1つ以上のインペラ312bとを含んでよい。
【0042】
シャフト312aに受け板315を設けてよい。受け板315は、不純物が容器カバー313とシャフト312aとの間の間隙を通って落下して、ガラス溶融物21に含まれるのを防止できる。
【0043】
特に、混合用容器31の容器本体311、容器カバー313、及び撹拌器312は、高温加工条件に対する耐熱性を有する高純度ガラス製品を製造するために、全体又は一部に白金又は白金合金を含んでよい。白金は、高温環境下で酸化し、ガス相の酸化白金(PtO2(g))を形成し得る。しかしながら、PtO2ガスは、混合用容器31内の又は混合用容器31に隣接した比較的低温の領域において、濃縮され、及び/又は化学的に還元される場合があり、その後、典型的には固体白金の細い針の形態で、ガラス溶融物21内に混合される場合がある。白金Pt(s)の融点は極めて高いため、白金Pt(s)がガラス溶融物21中に混合されると、これは、結果として得られるガラス製品中に欠陥を発生させ得る。上述の反応は、温度、ガス相流の流速、及びガス相流中のO2濃度に左右され得、また上述の反応は、ガラス溶融物21と接触しない混合用容器31の上部内側に沿って、活発に発生し得ると推定される。
【0044】
従って、容器本体311の内壁表面を、実施形態による抗酸化還元コーティング層317aでコーティングしてよい。特に、抗酸化還元コーティング層317aで、ガラス溶融物21の上面(自由表面)より高い高さにある容器本体311の壁面をコーティングしてよい。
【0045】
更に、上記実施形態による抗酸化還元コーティング層317bで、受け板315の下方表面、及び受け板315の下側のシャフト312aの外面をコーティングしてよい。抗酸化還元コーティング層317bは、ガラス溶融物21の上側界面より高い部分のみをコーティングしてよい。
【0046】
更に、上記実施形態による抗酸化還元コーティング層317cで、容器カバー313の仮面(例えば内側を向いた面)をコーティングしてよい。
【0047】
抗酸化還元コーティング層317a、317b、及び317cはそれぞれ:約40重量%~約60重量%のSiO2;約32重量%~約52重量%のAl2O3;約3重量%~約6重量%のB2O3;及び約2.4重量%~約4.8重量%のCaOを含んでよい。
【0048】
SiO2の量が多すぎる、又はAl2O3の量が少なすぎる場合、コーティングを均一に形成できない。SiO2の量が少なすぎる、又はアルミナの量が多すぎる場合、コーティングの耐熱性が低下する場合があるか、又はコーティング層が容易に層間剥離し得る。
【0049】
混合用容器31の内壁等をコーティングする抗酸化還元コーティング層317が上述の範囲内の組成を有する場合、白金基板の酸化還元によるガラス溶融物中への白金粒子の包有、及び欠陥製品の生成を低減できる。
【0050】
欠陥の原因を分析した結果、白金粒子による従来技術での欠陥比を任意単位(A.U.)で1.0と仮定すると、抗酸化還元コーティング層317で混合用容器31の内壁等のコーティングした場合、白金粒子による欠陥比は0.4A.U.まで低減された。
【0051】
図4は、
図2の製造装置10内のインレットチューブ41を示す、別の実施形態による耐火性物品の概念図である。
【0052】
図4を参照すると、ガラス溶融物21(
図2を参照)は、送達用容器33から下降管39を介してインレットチューブ41へと移送される。更に、インレットチューブ41へと移送されたガラス溶融物21を成形装置43に送って、ガラスリボン53として成形してよい。
【0053】
本開示はいずれの理論によっても束縛されないものとするが、白金含有構成部品を採用した装置で発生する気泡形成表面膨張効果は、白金‐ガラス溶融物界面付近の富酸素層の形成の結果として発生すると考えられる。このガラス中の富酸素層は、電気化学的反応と化学的反応との組み合わせによって生成されると考えられる。これらは、溶融物の熱電電解、多価酸化物の分解、並びにガラス中に溶解したOH基及び水の分解を含む。最後に記載した効果は、白金‐ガラス界面における酸素富化、及びこれに続く該界面における表面膨張(気泡)の生成の速度に対して最も大きな影響を有すると考えられる。ガラス製造温度において、OH基の一部分が中性水素及び酸素へと解離すると考えられる。白金構成部品‐ガラス界面(構成部品の内側)における水素の分圧が、白金含有構成部品の外側(構成部品の、ガラスに接触していない部分)における水素の分圧より高い場合、水素は、白金皮膜を透過することによってガラスから出る場合がある。この水素の損失により、ガラスの表面領域(白金接触領域)における酸素の富化が発生し、これがガラスの溶解限界を超えた場合に気泡が形成され得る。
【0054】
インレットチューブ41の外面は、上記実施形態による抗酸化還元コーティング層411でコーティングできる。インレットチューブ41等の白金含有構成部品の外面に適切なコーティングを塗布することにより、白金含有金属を通る水素透過の速度を低減できる。これにより、気泡の生成を低減又は排除できる。この抗酸化還元コーティングは、高温下でも結晶化に関する体積収縮が少なくなければならず、また白金含有構成部品との反応(これは白金含有構成部品中の白金金属の露出につながり得る)を起こしてはならない。
【0055】
抗酸化還元コーティング層411はそれぞれ:約60重量%~約70重量%のSiO2;約20重量%~約30重量%のAl2O3;約3重量%~約6重量%のB2O3;及び約2.4重量%~約4.8重量%のCaOを含んでよい。
【0056】
インレットチューブ41の外壁をコーティングする抗酸化還元コーティング層411が上述の範囲内の組成を有する場合、上記コーティング層は、高温下で層間剥離し得ないものとなり、また、優れたコーティング品質を維持しながら、抗酸化還元コーティング層411と白金含有構成部品との間の反応を防止することにより、白金系基板の露出を効果的に防止できる。従って、インレットチューブ41を通過するガラス溶融物中の気泡を防止でき、ここでこの気泡発生は、ヒドロキシル基の酸化還元反応に起因する。
【0057】
SiO2の量が多すぎる、又はAl2O3の量が少なすぎる場合、コーティングを均一に形成できない。SiO2の量が少なすぎる、又はAl2O3の量が多すぎる場合、コーティングの耐久性、及び水素透過を制限する、例えば排除する能力が低下する場合があるか、又はコーティング層が容易に層間剥離し得る。
【0058】
各抗酸化還元コーティング層411は更に、ネットワーク改質剤を含んでよい。上記ネットワーク改質剤は例えば、アルカリ金属酸化物又はアルカリ土類金属酸化物であってよいが、これらに限定されない。例えば、上記ネットワーク改質剤は、SrO又はフリットであってよい。上記ネットワーク改質剤は、抗酸化還元コーティング層中に約1重量%~約7重量%含まれていてよいが、これに限定されない。
【0059】
ネットワーク改質剤の量が少なすぎる場合、コーティングの品質を改善する効果、例えば層間剥離の防止が不十分となり得る。ネットワーク改質剤の量が多すぎる場合、耐久性、及び水素透過を制限する、例えば排除する能力が低下する場合がある。
【0060】
これより、本明細書で開示されている実施形態の構造及び効果について、実験例及び比較例を参照して説明するが、これらの実験例は、本開示が徹底的かつ完全なものとなり、従ってこれらの実験例に限定されないように、提供されたものである。
【実施例0061】
<実験例1>
63重量%のSiO2;17重量%のAl2O3;10重量%のB2O3;8重量%のCaO;及び2重量%のSrOを含む、第1の耐火材料を調製した。更に、第2の耐火材料としてSiO2を調製し、第3の耐火材料としてAl2O3を調製した。
【0062】
43重量%の第1の耐火材料;26重量%の第2の耐火材料;及び31重量%の第3の耐火材料をボールミル粉砕法によって混合した。これらは、100重量部の第1の耐火材料に対して、約60.5重量部の第2の耐火材料及び約72.1重量部の第3の耐火材料に変換できる。脱イオン(DI)水を溶媒として使用し、総重量の約2%のメチルセルロースを添加して粘度を調整した。
【0063】
噴霧コーティング法によって、上述のようにして調製した抗酸化還元コーティング組成物で白金試験片をコーティングし、噴霧コーティングの実施中、組成物の相分離を防止するために組成物を継続的に撹拌した。コーティング組成物の厚さを、乾燥後の厚さが約80μmとなるように調整した。
【0064】
その後、コーティング済み試験片の熱処理を1450℃で72時間実施し、コーティング層の表面及び断面の画像をキャプチャした。これらを
図1A及び1Bに示す。
【0065】
<実験例2~9>
以下の表1に示す第1~第3の耐火材料の混合比を除いて、上述の実験例1と同一の方法で、抗酸化還元コーティング層を白金試験片上に形成した。
【0066】
<比較例1~7>
以下の表1に示す第1~第3の耐火材料の混合比を除いて、上述の実験例1と同一の方法で、抗酸化還元コーティング層を白金試験片上に形成した。
【0067】
実験例1~9及び比較例1~7に適用した耐火材料の混合比、並びにこれらから得られたコーティング組成物の組成を以下の表1に示す。
【0068】
【0069】
上の表1では、D1は第1の耐火材料を示し、D2は第2の耐火材料を示し、D3は第3の耐火材料を示す。
【0070】
実験例1~9及び比較例1~7の試験片に対して、コーティング層の耐久性を評価するために、熱処理を1450℃で14日間(=336時間)実施した。続いてコーティング層を検査して、微小構造の変化が存在するかどうかを決定した。
【0071】
更に
図3では、混合用容器31は、容器カバー313又は撹拌器312の交換時に、温度の大きな変動による熱衝撃を受ける。例えば混合用容器31は、容器カバー313の交換時に約100℃の熱衝撃を受け、また撹拌器312の交換時に約300℃の熱衝撃を受けることが確認された。熱衝撃に対する耐性を評価するために、温度変動400℃、及び温度変動速度20℃/分で、熱衝撃に関する試験を3回繰り返して実施した。
【0072】
層間剥離及び割れが存在しない場合、結果を◎として評価し、層間剥離が存在せず、かつ割れが局所的に発生した場合、結果を○として評価し、層間剥離が発生するものの、コーティング済み試験片の表面が露出しなかった場合、結果を△として評価し、層間剥離の発生によってコーティング済み試験片の表面が露出した場合、結果をXとして評価した。
【0073】
実験例1~9及び比較例1~7に関する、微小構造に発生した変化の観察結果及び熱衝撃試験の結果を、以下の表2に示す。
【0074】
【0075】
上の表1及び2に示すように、SiO2の量が40重量%未満である、又はAl2O3の量が52重量%を超える場合、微小構造が変化して、熱衝撃耐性が不十分又は劣悪となる(比較例2、3、及び7)ことが観察された。
【0076】
更に、SiO2の量が70重量%を超える、又はAl2O3の量が20重量%未満である場合、熱衝撃特性が適正である場合もあった(比較例1及び4)が、熱衝撃特性が劣悪又は不十分である場合もあった(比較例5及び6)。更にこの場合、微小構造が変化することが観察され、これにより、加工及び動作条件の変化に応じて更なる割れが生成される可能性があることが示唆された。
【0077】
<実験例10>
63重量%のSiO2;17重量%のAl2O3;10重量%のB2O3;8重量%のCaO;及び2重量%のSrOを含む、第1の耐火材料を調製した。更に、第2の耐火材料としてSiO2を調製し、第3の耐火材料としてアルミナを調製した。
【0078】
55重量%の第1の耐火材料;33重量%の第2の耐火材料;及び12重量%の第3の耐火材料をボールミル粉砕法によって混合した。これらは、100重量部の第1の耐火材料に対して、約60重量部の第2の耐火材料及び約21.8重量部の第3の耐火材料に変換できる。DI水を溶媒として使用し、総重量の約2%のメチルセルロースを添加して粘度を調整した。
【0079】
噴霧コーティング法によって、上で調製した抗酸化還元コーティング組成物で、インレットチューブ(例えばインレットチューブ41)の外面をコーティングした。上記コーティングは噴霧コーティング法によって実施され、噴霧コーティングの実施中、組成物の相分離を防止するために組成物を継続的に撹拌した。コーティング組成物の厚さを、乾燥後の厚さが約60μmとなるように調整した。続いて、熱処理を1400℃で2時間実施した。上述の噴霧コーティング、乾燥、及び熱処理のプロセスを、3回繰り返して実施した。
【0080】
<実験例11~20>
以下の表3に示す第1~第3の耐火材料の混合比を除いて、上述の実験例10と同一の方法で、抗酸化還元コーティング層をインレットチューブの外面上に形成した。
【0081】
特に実験例15及び16では、ネットワーク改質剤(RO)をそれぞれ2重量%及び5重量%添加した。実験例15では、ネットワーク改質剤としてSrOを添加し、実験例16では、ネットワーク改質剤としてフリットを添加した。実験例15においてネットワーク改質剤としてSrOを添加するために、対応する量の硝酸ストロンチウム(Sr(NO3)2)を上記DI水に添加することで、抗酸化還元コーティング組成物に含めた。実験例15では、ネットワーク改質剤として追加で添加される酸化ストロンチウムの量は2重量%であり、第1の耐火材料由来の酸化ストロンチウムの量は1.08重量%であったため、酸化ストロンチウムの総量は3.08重量%であった。
【0082】
更に、実験例17~20における第1~第3の耐火材料の混合比は、実験例6~9と同一であった。
【0083】
<比較例8~14>
第1~第3の耐火材料の混合比を除いて、上述の実験例10と同一の方法で、抗酸化還元コーティング層をインレットチューブの外面上に形成した。比較例8~14における第1~第3の耐火材料の混合比は、比較例1~7と同一であった。
【0084】
実験例10~20及び比較例8~14に適用した耐火材料の混合比、並びにこれらから得られたコーティング層の組成を、以下の表3に示す。
【0085】
【0086】
コーティング層の耐久性を評価するために、熱処理を1200℃で14日間(=336時間)実施した。その後、体積収縮又は耐火物との反応に起因する白金表面の露出が存在するかどうかを検査した。コーティング層が平坦な表面を有し、かつ白金表面が全く露出していない場合、評価結果を◎とし、コーティング層が局所的に不均一な表面を有し、かつ白金表面が全く露出していない場合、評価結果を○とし、コーティング層全体が不均一な表面を有し、かつ白金表面が露出していない場合、評価結果を△とし、白金表面の少なくとも一部が露出している場合、評価結果をXとした。
【0087】
コーティング層のコーティング品質を、その層間剥離、割れ、及び厚さに基づいて評価した。コーティング層が透明であり、層間剥離又は割れを有さず、かつ均一な厚さを有する場合、評価結果を◎とし、コーティング層の透明度が低く、層間剥離又は割れを有さず、かつ均一な厚さを有する場合、評価結果を○とし、カバー層が層間剥離している又は割れている場合、評価結果を△とし、層間剥離の発生によって白金表面が露出した場合、評価結果をXとした。
【0088】
ガラス溶融物中の酸素イオンの濃度を測定することによって、水素透過を評価した。1気圧(atm)以上の酸素分圧をXとして評価し、0.1atm以上1atm未満の酸素分圧を△として評価し、0.01atm以上0.1atm未満の酸素分圧を○として評価し、0.01atm未満の酸素分圧を◎として評価した。
【0089】
実験例10~20及び比較例8~14に関して調査した、コーティング品質、耐久性、及び水素透過特性の評価の結果を、以下の表4に示す。
【0090】
【0091】
上の表3及び4に示すように、SiO2の量が40重量%未満である、又はAl2O3の量が52重量%を超える場合、耐久性が低下し、水素透過ブロック特性が劣悪となる(比較例9、10、及び14)ことが観察された。更に、SiO2の量が70重量%を超える、又はAl2O3の量が20重量%未満である場合、コーティング品質が劣悪となる(比較例8、及び11~13)ことが観察された。
【0092】
実験例10、15、及び16、並びに比較例10に関する、時間経過に応じた酸素分圧の経過を
図5に示す。
図5に示すように、比較例10の酸素分圧は1atmを超えているが、実験例10、15、及び16では、酸素分圧は0.01atm未満と測定された。これは、実験例10、15、及び16では水素透過がほとんど発生しなかったことを示す。
【0093】
これより、上述の抗酸化還元コーティング組成物について詳述する。
【0094】
抗酸化還元コーティング組成物は、第1の耐火材料、第2の耐火材料、及び第3の耐火材料を含んでよく、100重量部の第1の耐火材料に対して、第2の耐火材料の量は約25重量部~約130重量部であってよく、第3の耐火材料の量は約20重量部~約150重量部であってよい。
【0095】
ここで第1の耐火材料は、酸化物ベースで:約55重量%~約70重量%のSiO2;約12重量%~約22重量%のAl2O3;約5重量%~約15重量%のB2O3;及び約5重量%~約10重量%のCaOを含んでよい。更に、第2の耐火材料は、SiO2を主成分として含有する混合物、又はSiO2であってよい。更に、第3の耐火材料は、Al2O3を主成分として含有する混合物、例えばアルミナであってよい。上述のように本明細書では、「主成分」は、50重量%超の成分比を有する成分を定義する。例えば「第2の耐火材料の主成分はSiO2である」は、上記第2の耐火材料中のシリカの量が50重量%を超えることを指す。
【0096】
いくつかの実施形態では、抗酸化還元コーティング組成物は、撹拌チャンバの内面をコーティングするための組成物であってよい。この場合、抗酸化還元コーティング組成物は、100重量部の第1の耐火材料に対して、約25重量部~約115重量部の第2の耐火材料、及び約45重量部~約150重量部の第3の耐火材料を含んでよい。
【0097】
他のいくつかの例では、抗酸化還元コーティング組成物は、チューブの外面をコーティングするための組成物であってよい。この場合、抗酸化還元コーティング組成物は、100重量部の第1の耐火材料に対して、約33重量部~約90重量部の第2の耐火材料、及び約20重量部~約45重量部の第3の耐火材料を含んでよい。
【0098】
第1の耐火材料の量と比較して、第3の耐火材料の量が多すぎる、又は第2の耐火材料の量が少なすぎる場合、コーティング層の耐久性、及び水素透過ブロック特性が低下する場合があり、又はコーティング層が容易に層間剥離し得る。第1の耐火材料の量と比較して、第2の耐火材料の量が多すぎる、又は第3の耐火材料の量が少なすぎる場合、コーティングが不均一に形成され得る。
【0099】
第1、第2、及び第3の耐火材料は、粉末として分散媒体中に分散されていてよい。この分散媒体は、水、C1~C5アルコール系溶媒、C2~C8グリコール系溶媒等の親水性液体であってよい。ここで上述のような液体を「溶媒(solvent)」と呼ぶ場合があるが、上記液体は実際には、その中に第1、第2、及び第3の耐火材料を分散させ、第1~第3の耐火材料を溶解させることはないため、上記液体は実際には「分散媒体(dispersion medium)」(分散剤)であってよい。
【0100】
抗酸化還元コーティング組成物は更に、ネットワーク改質剤を形成するためのソース材料として、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩を含んでよい。アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩は、例えば硝酸ストロンチウム(Sr(NO3)2)であってよいが、これに限定されない。アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩は、溶媒に溶解させてよい。抗酸化還元コーティング組成物は、ネットワーク改質剤を形成するために、約1重量%~約7重量%のソース材料を含んでよい。
【0101】
これより、耐火性物品の製造方法を説明する。
図6は、ある実施形態による、耐火性物品の製造方法のフローチャートである。
【0102】
図6を参照すると、抗酸化還元コーティングスラリーの層を、例えば白金含有基板を含む物品である物品上に形成する(S100)。抗酸化還元コーティングスラリーは、第1の耐火材料、第2の耐火材料、及び第3の耐火材料を含んでよい。第1~第3の耐火材料については既に詳述されているため、その説明はここでは省略する。
【0103】
抗酸化還元コーティングスラリーは、100重量部の第1の耐火材料に対して、約25重量部~約130重量部の第2の耐火材料、及び約20重量部~約150重量部の第3の耐火材料を含んでよい。白金系基板については既に詳述されているため、その説明はここでは省略する。抗酸化還元コーティングスラリーは、上述の抗酸化還元コーティング組成物であってよい。
【0104】
抗酸化還元コーティングスラリーの層は、噴霧、ブラシ塗布、ドクターブレード、及び他の適切な方法で形成してよく、これらに限定されない。
【0105】
抗酸化還元コーティングスラリーの層を、熱処理後の厚さが約10μm~約500μmとなるように調整してよい。これを実施するために、熱処理前の抗酸化還元コーティングスラリーの層を、厚さが約15μm~約700μmとなるように適切に調整してよい。この層の厚さが薄すぎると、コーティングの、水素透過を制限する、例えば排除する能力が不十分にしか得られない場合がある。その一方で上記層の厚さが厚すぎると、経済的に適切でなくなり、またコーティング層の一部が剥落して欠陥製品を発生させる場合がある。当業者であれば、上述の因子を考慮に入れて、抗酸化還元コーティングスラリーの層の厚さを適切に選択するだろう。
【0106】
抗酸化還元コーティング組成物の組成によって、抗酸化還元コーティング組成物中に相分離が容易に発生し得る。よって、均一なコーティング層を形成するために、撹拌等の方法を用いて抗酸化還元コーティング組成物を継続的に均質化する必要がある。
【0107】
更に、抗酸化還元コーティングスラリーの層の熱処理を実施してよい(S200)。熱処理は、約1350℃~約1550℃の温度で、約30時間~約100時間の期間にわたって実施してよい。熱処理を過度に低い温度で又は短期間にわたって実施すると、コーティング層の強度が低くなる場合があり、水素透過を十分に防止できなくなることがある。その一方で、熱処理を過度に高い温度で又は長期間にわたって実施すると、コーティング層が層間剥離する場合があり、欠陥製品が増加し得る。当業者であれば、上述の因子を考慮に入れて、熱処理を実施する温度及び期間を適切に選択するだろう。
【0108】
熱処理によって、ムライト結晶化粒子がシリカマトリクス中に分布した構造を得ることができる。
【0109】
スラリーの塗布(S100)及び熱処理の実施(S200)をそれぞれ、1サイクルとして2回以上繰り返してよい。このサイクルを繰り返す回数は、例えば2~10回であってよい。
【0110】
いくつかの実施形態では、抗酸化還元コーティングスラリーは、100重量部の第1の耐火材料に対して、約25重量部~約115重量部の第2の耐火材料、及び約45重量部~約150重量部の第3の耐火材料を含んでよい。この場合、スラリーを用いて、ガラス溶融物を撹拌するための撹拌チャンバの内壁面、撹拌器の側面、及び撹拌チャンバのカバーの内面をコーティングしてよい。
【0111】
いくつかの実施形態では、抗酸化還元コーティングスラリーは、100重量部の第1の耐火材料に対して、約33重量部~約90重量部の第2の耐火材料、及び約20重量部~約45重量部の第3の耐火材料を含んでよい。この場合、スラリーを用いて、ガラス溶融物を移送するためのチューブの外面をコーティングしてよい。
【0112】
本開示を、特にその例示的実施形態を参照して図示及び説明したが、以下の請求項の精神及び範囲から逸脱することなく、上記例示的実施形態の形態及び細部の様々な変更を行うことができることを理解されたい。
【0113】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0114】
実施形態1
耐火性物品であって、
上記耐火性物品は:
白金(Pt)系基板;及び
上記Pt系基板上に配置されたコーティング層
を備え、
上記コーティング層は、酸化物ベースで、約40重量%~約70重量%のSiO2;約20重量%~約52重量%のAl2O3;約3重量%~約6重量%のB2O3;及び約2.4重量%~約4.8重量%のCaOを含む、耐火性物品。
【0115】
実施形態2
上記コーティング層は、シリカマトリクス中に分布するウィスカを含む、実施形態1に記載の耐火性物品。
【0116】
実施形態3
上記ウィスカはムライト結晶相を含む、実施形態2に記載の耐火性物品。
【0117】
実施形態4
上記耐火性物品は、Pt系基板の内面を備える撹拌チャンバであり、
上記コーティング層は、上記撹拌チャンバの上記内面の少なくとも一部分をコーティングする、実施形態1に記載の耐火性物品。
【0118】
実施形態5
上記コーティング層は、酸化物ベースで:約40重量%~約60重量%のSiO2;約32重量%~約52重量%のAl2O3;約3重量%~約6重量%のB2O3;及び約2.4重量%~約4.8重量%のCaOを含む、実施形態4に記載の耐火性物品。
【0119】
実施形態6
撹拌器を更に備え、
上記コーティング層は、上記撹拌器の外面の少なくとも一部分をコーティングする、実施形態4に記載の耐火性物品。
【0120】
実施形態7
上記耐火性物品は、Pt系基板の表面を有するチューブであり、
上記コーティング層は、上記チューブの外面の少なくとも一部分をコーティングする、実施形態1に記載の耐火性物品。
【0121】
実施形態8
上記コーティング層は、酸化物ベースで:約60重量%~約70重量%のSiO2;約20重量%~約30重量%のAl2O3;約3重量%~約6重量%のB2O3;及び約2.4重量%~約4.8重量%のCaOを含む、実施形態7に記載の耐火性物品。
【0122】
実施形態9
約1重量%~約7重量%のネットワーク改質剤を更に含む、実施形態1に記載の耐火性物品。
【0123】
実施形態10
抗酸化還元コーティング組成物であって、
上記抗酸化還元コーティング組成物は:
酸化物ベースで、約55重量%~約70重量%のSiO2、約12重量%~約22重量%のAl2O3、約5重量%~約15重量%のB2O3、及び約5重量%~約10重量%のCaOを含む、第1の耐火材料;
SiO2を主成分として含有する第2の耐火材料;並びに
Al2O3を主成分として含有する第3の耐火材料
を含み、
100重量部の上記第1の耐火材料に対して、上記第2の耐火材料の量は約25重量部~約130重量部であり、上記第3の耐火材料の量は約20重量部~約150重量部である、抗酸化還元コーティング組成物。
【0124】
実施形態11
上記組成物は、撹拌チャンバの内面のコーティングのためのものであり、
100重量部の上記第1の耐火材料に対して、上記第2の耐火材料の上記量は約25重量部~約115重量部であり、上記第3の耐火材料の上記量は約45重量部~約150重量部である、実施形態10に記載の抗酸化還元コーティング組成物。
【0125】
実施形態12
上記組成物は、チューブの外面のコーティングのためのものであり、
100重量部の上記第1の耐火材料に対して、上記第2の耐火材料の上記量は約33重量部~約90重量部であり、上記第3の耐火材料の上記量は約20重量部~約45重量部である、実施形態10に記載の抗酸化還元コーティング組成物。
【0126】
実施形態13
耐火性物品の製作方法であって、
上記方法は:
スラリーコーティング層を、白金(Pt)系基板を含む物品に塗布するステップであって、上記スラリーコーティング層は、第1の耐火材料、第2の耐火材料、及び第3の耐火材料を含み、上記第1の耐火材料は、酸化物ベースで、約55重量%~約70重量%のSiO2、約12重量%~約22重量%のAl2O3、約5重量%~約15重量%のB2O3、及び約5重量%~約10重量%のCaOを含み、上記第2の耐火材料は、SiO2を主成分として含有し、上記第3の耐火材料は、アルミナを主成分として含有する、ステップ;並びに
上記スラリーコーティング層を熱処理することによって上記耐火性物品を形成するステップ
を含む、方法。
【0127】
実施形態14
上記スラリーコーティング層を塗布する前記ステップは、噴霧法によって実施される、実施形態13に記載の方法。
【0128】
実施形態15
上記噴霧法は、上記スラリーの供給源における上記スラリーの均質化と同時に実施される、実施形態14に記載の方法。
【0129】
実施形態16
上記熱処理は、約30時間~約100時間の時間にわたって、約1350℃~約1550℃の温度で実施される、実施形態13に記載の方法。
【0130】
実施形態17
上記熱処理するステップの後、シリカマトリクス中に分散されたムライト結晶の粒子を含む微小構造が、上記熱処理するステップによって上記スラリーコーティング層から得られる、実施形態13に記載の方法。
【0131】
実施形態18
上記スラリーコーティング層は、100重量部の上記第1の耐火材料に対して、約25重量部~約130重量部の上記第2の耐火材料、及び約20重量部~約150重量部の上記第3の耐火材料を含む、実施形態13に記載の方法。
【0132】
実施形態19
上記物品は撹拌チャンバであり、
上記スラリーコーティング層は、100重量部の上記第1の耐火材料に対して、約25重量部~約115重量部の上記第2の耐火材料、及び約45重量部~約150重量部の上記第3の耐火材料を含む、実施形態18に記載の方法。
【0133】
実施形態20
上記物品はチューブであり、
上記スラリーコーティング層は、100重量部の上記第1の耐火材料に対して、約33重量部~約90重量部の上記第2の耐火材料、及び約20重量部~約45重量部の上記第3の耐火材料を含む、実施形態18に記載の方法。
コーティング層のコーティング品質を、その層間剥離、割れ、及び厚さに基づいて評価した。コーティング層が透明であり、層間剥離又は割れを有さず、かつ均一な厚さを有する場合、評価結果を◎とし、コーティング層の透明度が低く、層間剥離又は割れを有さず、かつ均一な厚さを有する場合、評価結果を○とし、コーティング層が層間剥離している又は割れている場合、評価結果を△とし、層間剥離の発生によって白金表面が露出した場合、評価結果をXとした。