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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023065484
(43)【公開日】2023-05-12
(54)【発明の名称】新規タウ種
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/47 20060101AFI20230502BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20230502BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230502BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20230502BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20230502BHJP
【FI】
C07K14/47 ZNA
C07K16/18
G01N33/53 D
C12N15/13
C12P21/08
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023023160
(22)【出願日】2023-02-17
(62)【分割の表示】P 2019552967の分割
【原出願日】2018-03-27
(31)【優先権主張番号】17305355.4
(32)【優先日】2017-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】518338518
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・リール
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE LILLE
(71)【出願人】
【識別番号】507091037
【氏名又は名称】サントレ オスピタリエ レジョナル ユニヴェルシテル ドゥ リール
(71)【出願人】
【識別番号】595040744
【氏名又は名称】サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(71)【出願人】
【識別番号】515232158
【氏名又は名称】エコール・スーペリウール・ドゥ・フィジック・エ・ドゥ・シミ・アンデュストリエル・ドゥ・ラ・ビル・ドゥ・パリ
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ビュエ,リュック
(72)【発明者】
【氏名】アムダン,マリカ
(72)【発明者】
【氏名】ブルーム,ダヴィド
(72)【発明者】
【氏名】デリスブール,マクシム
(72)【発明者】
【氏名】ルゲイ,コリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】キアペッタ,ジョバンニ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィン,ジョエル
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルディエ,ヤン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】アルツハイマー病等のタウオパシー障害の診断に使用することができる、アルツハイマー病患者のヒト脳から単離された新規タウ種に特異的に結合する抗体を提供する。
【解決手段】特定の配列における11位のメチオニン残基から始まる少なくとも9連続アミノ酸を含む単離タウポリペプチドであって、該11位のメチオニンがN-アルファアセチル化されている単離ポリペプチド、当該単離ポリペプチドに対して生成される抗体、当該ヒトタウポリペプチドを検出する及び/又は生体サンプル中の該ポリペプチドの量を評価する方法、並びに当該タウポリペプチドの検出を使用する、アルツハイマー病等のタウオパシーの診断方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1~7における11位のメチオニン残基から始まる少なくとも9連続アミノ酸を含む単離タウポリペプチドであって、該11位のメチオニンがN-アルファアセチル化されている単離ポリペプチド。
【請求項2】
11位のメチオニンから始まり776位のアミノ酸までのアミノ酸配列を含む、請求項1記載の単離ポリペプチド。
【請求項3】
(i)タウN-アルファアセチル-Met11-352からなるアミノ酸配列(配列番号1);
(ii)タウN-アルファアセチル-Met11-381からなるアミノ酸配列(配列番号2);
(iii)タウN-アルファアセチル-Met11-383からなるアミノ酸配列(配列番号3);
(iv)タウN-アルファアセチル-Met11-410からなるアミノ酸配列(配列番号4);
(v)タウN-アルファアセチル-Met11-412からなるアミノ酸配列(配列番号5);
(vi)タウN-アルファアセチル-Met11-441からなるアミノ酸配列(配列番号6);
(vii)タウN-アルファアセチル-Met11-776からなるアミノ酸配列(配列番号7);
(viii)(i)~(vii)の配列と実質的に相同なアミノ酸配列、好ましくは(i)~(vii)の配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列
(ix)(i)~(viii)の配列の11位のN-アルファアセチルメチオニン残基から始まる少なくとも9連続アミノ酸の断片
からなる群から選択される単離ポリペプチド。
【請求項4】
以下のアミノ酸配列(N-α-アセチル)MEDHAGTYGLG(配列番号8)を含むか又はからなる単離ポリペプチド。
【請求項5】
最大766アミノ酸の、請求項4記載の単離ポリペプチド。
【請求項6】
抗原として使用するための、請求項4~5記載の単離ペプチド。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項記載の単離ポリペプチドに特異的に結合する抗体。
【請求項8】
メチオニン11タウポリペプチドの非N-アルファ-アセチル化型及び/又はN-アルファ-アセチル-Met1-タウポリペプチドに結合しない、請求項7記載の抗体。
【請求項9】
ポリクローナル又はモノクローナルである、請求項7~8記載の抗体。
【請求項10】
請求項7~9のいずれか記載の抗体を含むキット。
【請求項11】
請求項1~5のいずれか記載のヒトタウペプチドを検出する及び/又は生体サンプル中の該ヒトタウペプチドの量を評価する方法。
【請求項12】
前記サンプルを請求項7~8のいずれか記載の抗体と接触させることを含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
タウオパシーのインビトロ診断のための、請求項11~12記載の方法。
【請求項14】
タウオパシーがアルツハイマー病である、請求項12記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野:
本発明は、N-アルファアセチル化されている11位のメチオニン残基から始まる新規タウ種であって、アルツハイマー病患者のヒト脳から単離されたタウ種に関する。また、本発明は、この新規タウ種に特異的に結合する抗体に関する。これら特異的抗体は、アルツハイマー病等のタウオパシー障害の診断に使用することができる。
【0002】
背景技術:
アルツハイマー病(AD)は、最初に記憶及び認知の機能に影響を及ぼし、そして、最終的には介護依存及び自律性の喪失を招く最も一般的な認知症である。認知症を発症する確率の数は、5年間毎にほぼ倍増している。Alzheimer's Disease International associationは、2015年に世界中で4600万人が認知症に罹患しており、2050年までに1億3150万人に増加すると推定した。ADは、主要な公衆衛生上の問題になりつつある。認知症に関する世界全体の合計推定費用は、2015年において8180億米ドルである。経済的な側面に加えて、ADは、次世代に対する影響を制限する真の社会的かつ人類の課題である。
【0003】
実のところこの疾患の正確な原因は分かっておらず、そして、最適な医学的かつ社会的な処置の観点から、診断の遅れは患者への対処にとって有害である。数十年間にわたって、アミロイドカスケード仮説がアルツハイマー病の研究を推進してきた。しかし、アミロイドペプチドのアミロイド沈着物への凝集に加えて、該疾患の他の特徴は、微小管結合タウタンパク質でできている神経原線維変性の形成である。実際、タウタンパク質は、AD患者の変性ニューロンにおいて、凝集し、かつ、異常に修飾された状態でみられる。皮質脳領域におけるタウ病態の進行は、ADにおける認知障害と密接に相関している。現在、タウ病態及びその進行につながる機序は依然として解明されていない。それにもかかわらず、タウタンパク質の翻訳後修飾は該病態において関与し得る。したがって、タウ障害の新規診断法を開発することが継続して必要とされている。
【0004】
タウタンパク質は、微小管結合タンパク質ファミリーに属しており、そして、本質的にニューロンにみられ、ニューロンにおいて、該タウタンパク質は、微小管の安定性及び動態の制御、並びに軸索輸送に関与している。ヒト成人脳には、異なるアミノ末端を有し、そして、そのカルボキシ末端部に4つの微小管結合ドメイン(4Rアイソフォーム)又は3つの微小管結合ドメイン(3Rアイソフォーム)を含有する6つのタウアイソフォームが存在する。タウタンパク質は、エクソン2、3、及び10のオルタナティブスプライシングによって単一遺伝子から得られる(Sergeant et al., 2008)。タウオパシーと呼ばれる神経変性障害の大きなグループでは、タウタンパク質が凝集してフィラメントになる。ADは、最も一般的なタウオパシーであり、そして、認知症の形態である。ADの特徴の1つは、凝集しかつ異常にリン酸化されたタウタンパク質で構成される神経原線維変性(NFD)である。神経病理学的研究及び生化学的研究の両方によって、皮質脳領域におけるNFDの進行がADにおける認知障害と密接に相関していることが既に示されており、これは、タウ病態が中心的な役割を果たしていることを支持する(Braak and Braak, 1995;Duyckaert et al., 1998;Delacourte et al., 1999)。現在、NFD病変及びその進行につながる機序は依然として解明されていない。未だに答えが出ていない主な疑問は、毒性タウ種の正確な性質がどんなものか、そして、神経変性における毒性タウ種の役割の根底にある機序が何なのかということである。AD脳でみられるタウ種の中でも、切断型が大きな関心対象であり、そして、更に研究する価値がある。広範囲にわたる分子質量を有する幾つかの未だ同定されていない切断型タウ断片がAD脳で見出され、したがって、タウタンパク質のN末端部及びC末端部の両方で切断が生じることが示唆される(Kovacech and Novak, 2010;Derisbourg et al., 2015)。更に、AD及び幾つかの関連するタウオパシーの患者の脳脊髄液におけるタウの特性評価は、該タウが主に切断型種として見出されることを示した(Johnson et al., 1997、Barthelemy et al., 2016)。ADにおけるタウ切断の関連性の理解における大きな進歩は、適切な実験ツールを作製するために、タウ種の正確な切断部位を同定することであろう。前者は、同定された切断型種のタウの機能/機能不全に対する影響、並びにAD病態及びそれに関連するタウオパシーにとっての意義を調べることが必須である。幾つかのN末端及びC末端が切断されたタウ種がヒト脳で観察されるが、残基Asp13、Asp25、Asn368、Glu391、及びAsp421の後は、限られた数の特異的タウ切断部位しかインサイツで同定されていない。これら切断によって生成される種が神経原線維変性でみられ、そして、その発生はAD疾患の重篤度と相関している(Novak et al., 1993;Gamblin et al., 2003;Guo et al., 2004;Horowitz et al., 2004;Rissman et al., 2004;Basurto-Islas et al., 2008;Zhang et al., 2014)。更に、これら種は、マウスモデルにおいてタウ神経原線維変性を再現することができ(Zilka et al., 2006;de Calignon et al., 2010;McMillan et al., 2011)、それによって、タウ病態の根底にある機序を見抜くためにタウの切断について調べることの価値が強調される。
【0005】
この状況において、本発明者らは、特に、C末端に比べてそれほど特性評価されていないN末端における新規タウ切断部位を正確に同定するための挑戦的なプロテオミクスアプローチを試みた。本発明者らは、ヒト脳において幾つかの新規N末端切断型タウ種を既に同定している(Derisbourg et al., 2015)。これら新規種の中でも、N末端残基としてMet11を有するタウ断片が特に関心対象であるが、その理由は、この新規部位が、全てのタウタンパク質アイソフォームが共有しているエクソン1によってコードされている領域に位置するためである。エクソン1の機能についてはほとんど知られていないにもかかわらず、その修飾は、タウの機能及び病態に影響を与える可能性がある。実際、アルギニン5残基(R5)における2つのミスセンス突然変異:遅発性前頭側頭認知症の被験体におけるR5H(Hayashi et al., 2002)及び進行性核上麻痺の被験体におけるR5L(Poorkaj et al., 2002)がタウオパシーにおいて生じることが報告されている。驚くべきことに、これら突然変異は、タウの線維化に加えて、その微小管との相互作用及び軸索輸送に影響を及ぼす(Hayashi et al., 2002;Poorkaj et al., 2002;Magnani et al.; 2007)。微小管結合ドメイン(Goode et al., 1994;Gustke et al., 1994)及び凝集に関与するモチーフ(von Bergen et al., 2000;Mukrasch et al., 2005)がタウタンパク質のc末端部に位置することに鑑みて、N末端の役割は、特定のタウ構造の形成におけるその関与に関連しているであろう。実際、元々折り畳まれていないタンパク質であるタウは、N末端ドメインとC末端ドメインとの間の分子内相互作用の結果として「ペーパークリップ」高次構造をとる可能性がある(Jeganathan et al., 2006)。更に、選択的に線維状タウタンパク質を認識する高次構造抗体のエピトープマッピング研究は、効率的な抗体結合にN末端ドメイン及び微小管結合ドメインの両方が必要であることを示し、したがって、分子間相互作用に基づくタウ折り畳みの概念を支持する(Carmel et al., 1996;Jeganathan et al., 2008)。したがって、Met11-タウタンパク質において遭遇するようなタウの最外N末端の欠失は、非常に重要な機能的及び/又は病理学的意義があるであろう。
【0006】
Met11-タウ断片の生成を引き起こす機序に関して、第1の考えは、それをカスパーゼ等の潜在的にタウを切断し得るプロテアーゼに帰することである(総説については、Mandelkow and Mandelkow 2012)が、Met11は、カスパーゼ切断にとって標準的なコンセンサス環境には局在しない。興味深いことに、タウmRNA配列の分析は、開始ATG(Met1)と同様に、Met11のATGコドンが最低限のコザックコンセンサス配列(Kozak, 1987)と一致する翻訳開始に最適な状況にあることを示す。その後、Met11-タウ断片がタンパク質分解切断の生成物ではなく、選択的翻訳部位の生成物であるかどうかを問うことができる。N末端切断型変異体を生成する内部開始コドンにおける選択的翻訳開始は、タンパク質の機能及び代謝の転写後制御機序として記載されている(Courtois et al., 2002;Yin et al., 2002;Rocchi et al., 2013;Weingarten-Gabbay et al., 2013)。
【0007】
更に興味深いことに、本発明者らによる更なる分析は、Met11-タウがN-アルファ末端アセチル化型でも検出されることを示したが(未公開データ);このようなタウ種はこれまで報告されていない。タウのN末端アセチル化は、アラニン2についてのみ報告されている(Hasegawa et al., 1992;Derisbourg et al., 2015)。
【0008】
N末端アセチル化は、哺乳類のタンパク質のほぼ80%で生じる、広く知られている翻訳後修飾である(Polevoda et al., 2003;Arnesen et al., 2009)。リジンアセチルトランスフェラーゼ(KAT)によるリジン側鎖におけるε-アミノ基の可逆的アセチル化とは異なり、N末端アセチル化は不可逆的であり、そして、Nα末端アセチルトランスフェラーゼ(NAT)によるアセチルコエンザイムAから基質ポリペプチドの最初のアミノ酸残基のNα基へのアセチル基の転移からなる(Drazic et al., 2016)。この酵素触媒反応は、翻訳時及び翻訳後の両レベルで、一般的にMet残基において生じる(Driessen et al., 1985;Helsens et al., 2011,)。N末端アセチル化は、主に、タンパク質分解の制御因子であるとしかみなされておらず;安定剤として作用しているか、分解シグナルとして作用しているかについては議論の余地が残されている。しかし、タンパク質-タンパク質相互作用、細胞内局在、膜ターゲティング、及びタンパク質の折り畳みの制御を含む、この翻訳後修飾の機能的多様性を示すデータが増加しつつある(総説については、Aksnes et al., 2016)。その微小管結合タンパク質としての役割に加えて、タウが他のほとんど知られていない細胞局在及び機能を示すことは注目に値する。タウは、原形質膜(Brandt et al., 1995)、ミトコンドリア(Jung et al., 1993)、並びにSrc及びFynチロシンキナーゼ等のシグナル伝達分子(Lee et al., 1998;Burnouf et al., 2013)と相互作用することが示されている。また、タウは、核に局在し(Loomis et al., 1990;Sultan et al., 2011)、そして、細胞外に放出され得る(Frost et al., 2009;Dujardin et al., 2014)。したがって、N末端アセチル化の機能的意義を解析することによって、タウのバイオロジー及びその関連する病態生理学的過程についての我々の理解を進歩させることが期待できる。
【0009】
真核生物では、触媒サブユニット及び制御サブユニットの複合体で構成される6つの異なるNAT(NatA~NatF)が存在し、そして、その基質特異性は、タンパク質のN末端における2番目の位置のアミノ酸残基に依存する(Arnesen, 2011;Kalvik and Arnesen, 2013)。NatBは2番目の位置に酸性残基を有するN末端をアセチル化することに鑑みて、その後、2位にグルタミン酸残基を有するMet11-タウタンパク質が前者の基質候補である。更に、最近の研究は、脳の発生中にNatBの発現が制御されることを示しており、これは、神経分化中及び有糸分裂後ニューロンにおける未だ明らかになっていない重要な役割を示唆している(Ohyama et al., 2012)。N末端アセチル化の重要性を考慮して、タウタンパク質の代謝及び機能に対してN末端アセチル化を研究し、そして、AD及びそれに関連するタウオパシーに対するAc-Met11-タウ種の関連性を証明することが大きな関心対象である。
【0010】
最後に、タウ障害の新規診断法を開発することが継続して必要とされている。
【0011】
発明の概要:
本発明は、配列番号1~7における11位のメチオニン残基から始まる少なくとも9連続アミノ酸を含む単離タウポリペプチドであって、該11位のメチオニンがN-アルファアセチル化されているポリペプチドを提供する。
【0012】
本発明は、更に、本発明の単離ポリペプチドに対して生成される抗体に関する。
【0013】
本発明は、更に、本発明に係るヒトタウポリペプチドを検出する及び/又は生体サンプル中の該ポリペプチドの量を評価する方法に関する。
【0014】
本発明は、更に、本発明に係るタウポリペプチドの検出を使用するタウオパシーの診断方法に関する。
【0015】
発明を実施するための形態:
発明の詳細な説明
ヒト脳から新規タウ種を同定するためにプロテオミクスアプローチを使用した後(Derisbourg et al., 2015)、本発明者らは、続いて、N-アルファ末端アセチル化型である残基Met11で始まる新規タウ種(Met11-タウ)(N-アルファ-アセチル-Met11-タウ種:Ac-Met11-タウ)を同定した。このような修飾(N-アルファ-アセチル-Met11)は、タウタンパク質について報告されたことがない。実際、N-アルファ-アセチル-Met11は、全てのタウアイソフォームに共通であるタウタンパク質のエクソン1に位置する(図6の幾つかのヒトタウアイソフォームを参照)。診断バイオマーカーとしてのこの新規タウ種の能力を評価するために、本発明者らは、この新規N-アルファアセチル化種の最初の11アミノ酸を抗原として使用することによって幾つかのモノクローナル抗体(例えば、2H2ハイブリドーマから得られた2H2/D11抗体;表1を参照)を開発した。このようなツールによって、Ac-Met11-タウ種の特異的検出が可能になる。2H2/D11の特異性を検証した後、加齢と共に神経原線維変性(NFD)及び記憶欠損を発現するTHY-Tau22マウスモデルを使用して、Ac-Met11-タウ種とタウ病態との間の関連性を証明するためにこの抗体を使用した(Schindowski et al., 2006;Van der Jeugd et al., 2013)。Ac-Met11-タウ種は、海馬脳切片においてNFDを示すニューロンにおいてはっきりと検出された。興味深いことに、Ac-Met11-タウ種は、記憶欠損に先んじて(早ければ2ヶ月)病理学的過程の初期段階に検出された。更に、本発明者らは、次にヒト脳海馬の切片を調べたところ、免疫組織化学的分析は、2H2D/11抗体がAD脳では神経原線維変性を標識するが、高齢対照由来の海馬では反応しないことを示した。最後に、本発明者らは、Ac-Met11-タウ種を特異的に認識する2H2/D11を用いるELISAサンドイッチを開発した。このようなELISAサンドイッチを使用することによって、AD脳サンプルがヒト高齢対照脳と明確に区別される。
【0016】
単離ペプチド
本発明は、配列番号1~7における11位のメチオニン残基から始まる少なくとも9連続アミノ酸を含む単離タウポリペプチドであって、該11位のメチオニンがN-アルファアセチル化されているポリペプチドに関する。
【0017】
具体的な実施態様では、本発明の単離ポリペプチドは、11位のメチオニンから始まり776位のアミノ酸までのアミノ酸配列を含む。
【0018】
本発明では、アミノ酸の付番は、441アミノ酸のタウアイソフォーム(配列番号6)に従う。
【0019】
また、本発明は、
(i)タウN-アルファアセチル-Met11-352からなるアミノ酸配列(配列番号1);
(ii)タウN-アルファアセチル-Met11-381からなるアミノ酸配列(配列番号2);
(iii)タウN-アルファアセチル-Met11-383からなるアミノ酸配列(配列番号3);
(iv)タウN-アルファアセチル-Met11-410からなるアミノ酸配列(配列番号4);
(v)タウN-アルファアセチル-Met11-412からなるアミノ酸配列(配列番号5);
(vi)タウN-アルファアセチル-Met11-441からなるアミノ酸配列(配列番号6);
(vii)タウN-アルファアセチル-Met11-776からなるアミノ酸配列(配列番号7);
(viii)(i)~(vii)の配列と実質的に相同なアミノ酸配列、好ましくは(i)~(vii)の配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列
(ix)(i)~(viii)の配列の11位のN-アルファアセチルメチオニン残基から始まる少なくとも9連続アミノ酸の断片
を含むか又はからなる群から選択される単離ポリペプチドを提供する。
【0020】
特定の実施態様では、単離タウポリペプチドは、(i)~(viii)の配列の11位のN-アルファアセチルメチオニンから始まり、カルボキシ末端アミノ酸までのアミノ酸配列を含むか又はからなる。
【0021】
本明細書で使用するとき、用語「アミノ酸」とは、キラルアミノ酸についてD及びLの立体異性体である天然又は非天然のアミノ酸を指す。アミノ酸及び例えばペプチジル構造で存在する対応するアミノ酸残基の両方を指すことが理解される。天然及び非天然のアミノ酸は当技術分野において周知である。一般的な天然アミノ酸は、アラニン(Ala)、アルギニン(Arg)、アスパラギン(Asn)、アスパラギン酸(Asp)、システイン(Cys)、グルタミン(Gln)、グルタミン酸(Glu)、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、リジン(Lys)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、プロリン(Pro)、セリン(Ser)、トレオニン(Thr)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、及びバリン(Val)を含むが、これらに限定されるわけではない。非一般的かつ非天然のアミノ酸は、アリルグリシン(AllylGly)、ノルロイシン、ノルバリン、ビフェニルアラニン(Bip)、シトルリン(Cit)、4-グアニジノフェニルアラニン(Phe(Gu))、ホモアルギニン(hArg)、ホモリジン(hLys)、2-ナフチルアラニン(2-Nal)、オルニチン(Orn)、及びペンタフルオロフェニルアラニンを含むが、これらに限定されるわけではない。
【0022】
アミノ酸は、典型的には、その側鎖に従って極性、疎水性、酸性、塩基性、及び芳香族を含む1つ以上のカテゴリーに分類される。極性アミノ酸の例は、ヒドロキシル、スルフヒドリル、及びアミド等の側鎖官能基を有するものに加えて、酸性及び塩基性のアミノ酸を含む。極性アミノ酸は、アスパラギン、システイン、グルタミン、ヒスチジン、セレノシステイン、セリン、トレオニン、トリプトファン、及びチロシンを含むが、これらに限定されるわけではない。疎水性又は非極性のアミノ酸の例は、例えば、限定されるわけではないが、ロイシン、イソロイシン、バリン、グリシン、アラニン、プロリン、メチオニン、及びフェニルアラニン等の非極性脂肪族側鎖を有する残基を含む。塩基性アミノ酸残基の例は、アミノ又はグアニジノ基等の塩基性側鎖を有するものを含む。塩基性アミノ酸残基は、アルギニン、ホモリジン、及びリジンを含むが、これらに限定されるわけではない。酸性アミノ酸残基の例は、カルボキシ基等の酸性側鎖官能基を有するものを含む。酸性アミノ酸残基は、アスパラギン酸及びグルタミン酸を含むが、これらに限定されるわけではない。芳香族アミノ酸は、芳香族側鎖基を有するものを含む。芳香族アミノ酸の例は、ビフェニルアラニン、ヒスチジン、2-ナフチルアラニン(napthylalananine)、ペンタフルオロフェニルアラニン、フェニルアラニン、トリプトファン、及びチロシンを含むが、これらに限定されるわけではない。幾つかのアミノ酸は1つを超える群に分類され、例えば、ヒスチジン、トリプトファン、及びチロシンは、極性アミノ酸及び芳香族アミノ酸の両方に分類されることに留意する。アミノ酸は、更に、非荷電又は荷電(正又は負)のアミノ酸として分類され得る。正荷電アミノ酸の例は、リジン、アルギニン、及びヒスチジンを含むが、これらに限定されるわけではない。負荷電アミノ酸の例は、グルタミン酸及びアスパラギン酸を含むが、これらに限定されるわけではない。上記各群に分類される更なるアミノ酸は、当業者に公知である。
【0023】
用語「タウ」は、本明細書で使用するとき、哺乳類、そして特に霊長類(及びツパイ科)に由来するタウタンパク質を意味する。ヒトタウは、主に軸索でみられる神経細胞の微小管結合タンパク質であり、そして、チューブリンの重合を促進し、かつ、微小管を安定化させるよう機能する。6つのアイソフォーム(アイソフォームA、B、C、D、E、F、G、胎児型タウ)がヒト脳でみられ、最も長いアイソフォームは441アミノ酸を含む(アイソフォームF、Uniprot P10636-8)。タウ及びその特性は、Reynolds, C. H. et al., J. Neurochem. 69 (1997) 191-198によっても記載されている。タウは、その高リン酸化型において、アルツハイマー病(AD)脳における神経原線維病変の構成要素である対らせん状フィラメント(PHF)の主な成分である。タウは、GSK3ベータ、cdk5、MARK、及びMAPキナーゼファミリーのメンバーを含む幾つかの異なるキナーゼによって、そのセリン又はトレオニンの残基がリン酸化され得る。
【0024】
ヒトタウタンパク質及びそのアイソフォームのタンパク質配列は、以下のアクセス番号でUniprotデータベースに見出すことができる:
タウアイソフォーム胎児型(352アミノ酸)Uniprot P10636-2
タウアイソフォームB(381AA)Uniprot P10636-4
タウアイソフォームD(383AA)Uniprot P10636-6
タウアイソフォームC(410AA)Uniprot P10636-5
タウアイソフォームE(412AA)Uniprot P10636-7
タウアイソフォームF(441AA)Uniprot P10636-8
タウアイソフォームG(776AA)Uniprot P10636-9
【0025】
参照ペプチドと「実質的に相同な」ペプチドは、1つ以上の保存的置換によって参照配列から得ることができる。1つ以上のアミノ酸残基が生物学的に類似している残基によって置換されているとき、又はアミノ酸の80%超が同一であるか、若しくは約90%超、好ましくは約95%超が類似している(機能的に同一である)とき、2つのアミノ酸配列は、「実質的に相同である」又は「実質的に類似している」。好ましくは、類似、同一、又は相同な配列は、例えば、GCG(Genetics Computer Group, Program Manual for the GCG Package, Version 7, Madison, Wisconsin)パイルアッププログラム、又は当技術分野において公知のプログラムのいずれか(BLAST、FASTA等)を使用するアラインメントによって同定される。例えばNeedleを使用して全長に沿って2つの配列の最適なアラインメント(ギャップを含む)を見つけるためにNeedleman-Wunschアラインメントアルゴリズムに基づくペアワイズグローバルアラインメントを実行し、そして、ギャップオープニングペナルティ10及びギャップエクステンションペナルティ0.5でBLOSUM62マトリクスを使用することによって同一率を計算することができる。
【0026】
用語「保存的置換」は、本明細書で使用するとき、類似の特性(例えば、極性、水素結合能、酸性、塩基性、形状、疎水性、芳香族等)を有するものによるアミノ酸の置換を含むがこれらに限定されない、ペプチドの全体的な高次構造及び機能を変化させることなくアミノ酸残基を別のアミノ酸残基によって置換することを意味する。類似の特性を有するアミノ酸は、当技術分野において周知である。例えば、アルギニン、ヒスチジン、及びリジンは、親水性-塩基性アミノ酸であり、そして、置き換え可能であり得る。同様に、疎水性アミノ酸であるイソロイシンは、ロイシン、メチオニン、又はバリンで置換することができる。互いに置換することができる中性親水性アミノ酸は、アスパラギン、グルタミン、セリン、及びトレオニンを含む。
【0027】
本発明における「置換された」又は「修飾された」とは、本発明は天然のアミノ酸から変化しているか又は修飾されているアミノ酸を含む。
【0028】
したがって、本発明の状況において、保存的置換は、あるアミノ酸の類似の特性を有する別のアミノ酸への置換として当技術分野において認識されることを理解すべきである。
【0029】
本発明によれば、第2のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する第1のアミノ酸配列とは、第1の配列が、第2のアミノ酸配列と80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99%の同一性を有することを意味する。アミノ酸配列の同一性は、好ましくは、好適な配列アラインメントアルゴリズム及びデフォルトパラメータ、例えば、BLAST P(Karlin and Altschul, 1990)等を使用して求められる。
【0030】
幾つかの実施態様では、本発明の単離ペプチドは、最大766(かつ少なくとも9)アミノ酸を含む。幾つかの実施態様では、本発明のポリペプチドは、766、765、764、763、762、761、760、759、758、757、756、755、754、753、752、751、750、749、748、747、746、745、744、743、742、741、740、739、738、737、736、735、734、733、732、731、730、729、728、727、726、725、724、723、722、721、720、719、718、717、716、715、714、713、712、711、710、709、708、707、706、705、704、703、702、701、700、699、698、697、696、695、694、693、692、691、690、689、688、687、686、685、684、683、682、681、680、679、678、677、676、675、674、673、672、671、670、669、668、667、666、665、664、663、662、661、660、659、658、657、656、655、654、653、652、651、650、649、648、647、646、645、644、643、642、641、640、639、638、637、636、635、634、633、632、631、630、629、628、627、626、625、624、623、622、621、620、619、618、617、616、615、614、613、612、611、610、609、608、607、606、605、604、603、602、601、600、599、598、597、596、595、594、593、592、591、590、589、588、587、586、585、584、583、582、581、580、579、578、577、576、575、574、573、572、571、570、569、568、567、566、565、564、563、562、561、560、559、558、557、556、555、554、553、552、551、550、549、548、547、546、545、544、543、542、541、540、539、538、537、536、535、534、533、532、531、530、529、528、527、526、525、524、523、522、521、520、519、518、517、516、515、514、513、512、511、510、509、508、507、506、505、504、503、502、501、500、499、498、497、496、495、494、493、492、491、490、489、488、487、486、485、484、483、482、481、480、479、478、477、476、475、474、473、472、471、470、469、468、467、466、465、464、463、462、461、460、459、458、457、456、455、454、453、452、451、450、449、448、447、446、445、444、443、442、441、440、439、438、437、436、435、434、433、432、431、430、429、428、427、426、425、424、423、422、421、420、419、418、417、416、415、414、413、412、411、410、409、408、407、406、405、404、403、402、401、400、399、398、397、396、395、394、393、392、391、390、389、388、387、386、385、384、383、382、381、380、379、378、377、376、375、374、373、372、371、370、369、368、367、366、365、364、363、362、361、360、359、358、357、356、355、354、353、352、351、350、349、348、347、346、345、344、343、342、341、340、339、338、337、336、335、334、333、332、331、330、329、328、327、326、325、324、323、322、321、320、319、318、317、316、315、314、313、312、311、310、309、308、307、306、305、304、303、302、301、300、299、298、297、296、295、294、293、292、291、290、289、288、287、286、285、284、283、282、281、280、279、278、277、276、275、274、273、272、271、270、269、268、267、266、265、264、263、262、261、260、259、258、257、256、255、254、253、252、251、250、249、248、247、246、245、244、243、242、241、240、239、238、237、236、235、234、233、232、231、230、229、228、227、226、225、224、223、222、221、220、219、218、217、216、215、214、213、212、211、210、209、208、207、206、205、204、203、202、201、200、199、198、197、196、195、194、193、192、191、190、189、188、187、186、185、184、183、182、181、180、179、178、177、176、175、174、173、172、171、170、169、168、167、166、165、164、163、162、161、160、159、158、157、156、155、154、153、152、151、150、149、148、147、146、145、144、143、142、141、140、139、138、137、136、135、134、133、132、131、130、129、128、127、126、125、124、123、122、121、120、119、118、117、116、115、114、113、112、111、110、109、108、107、106、105、104、103、102、101、100、99、98、97、96、95、94、93、92、91、90、89、88、87、86、85、84、83、82、81、80、79、78、77、76、75、74、73、72、71、70、69、68、67、66、65、64、63、62、61、60、59、58、57、56、55、54、53、52、51、50、49、48、47、46、45、44、43、42、41、40、39、38、37、36、35、34、33、32、31、30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10又は9のアミノ酸を含む。幾つかの実施態様では、本発明のポリペプチドは、50未満のアミノ酸を含む。幾つかの実施態様では、本発明のポリペプチドは、30未満のアミノ酸を含む。幾つかの実施態様では、本発明のポリペプチドは、25未満のアミノ酸を含む。幾つかの実施態様では、本発明のポリペプチドは、20未満のアミノ酸を含む。幾つかの実施態様では、本発明のポリペプチドは、15未満のアミノ酸を含む。
【0031】
本発明に係る単離ポリペプチドは、当技術分野において公知の任意の方法を使用して生成され得る。該ポリペプチドは、例えば、宿主細胞(例えば、細菌、酵母、又は真核生物の宿主細胞)において組み換えポリペプチドとして生成されてもよく、又は化学的に合成されてもよい(総説については、Kent S.B.H. Chem. Soc. Rev., 2009,38, 338-351及びBradley L. et al Annu Rev Biophys Biomol Struct. 2005; 34: 91-118又はR. B. Merrifield (1969). “Solid-phase peptide synthesis.” Advances in enzymology and related areas of molecular biology 32: 221-96.;R. B. Merrifield (1969). “The synthesis of biologically active peptides and proteins.” JAMA 210(7): 1247-54、及びRaibaut, L., O. El Mahdi and O. Melnyk (2015). “Solid Phase Protein Chemical Synthesis.” Topics in current chemistryを参照)。
【0032】
本発明に係る抗体
本発明者らは、本発明のポリペプチドに対する特異的抗体を生成した。
【0033】
マウスを合成ペプチド(N-α-アセチル)MEDHAGTYGLG(配列番号8)で免疫することによってモノクローナル抗体を生成した。より正確には、本発明者らは、本発明の単離ポリペプチドを特異的に認識する能力(図2及び3)、そして、細胞株サンプル、並びにAD患者及びタウオパシーのTHY-Tau22マウスモデルに由来する脳サンプルを染色する能力について抗体がスクリーニングされたことを見出した。本発明の抗体のスクリーニング工程は、これら抗体がメチオニン11タウ種のN-アルファアセチル化型に特異的であることを示したが、その理由は、これらの抗体がメチオニン11タウ種の非アセチル化型にも、非切断型タウ種にも、N-アルファ-アセチル-Met1-タウポリペプチド(非切断型タウ種)にも結合しなかったためである。
【0034】
本発明は、本発明の単離ポリペプチドに特異的に結合する抗体を提供する。
【0035】
具体的な実施態様では、本発明の抗体は、メチオニン11タウポリペプチドの非N-アルファ-アセチル化型(すなわち、配列番号9)及び/又はN-アルファ-アセチル-Met1-タウポリペプチド(すなわち、配列番号10)に結合しない。
【0036】
本発明によれば、「抗体」又は「免疫グロブリン」は同じ意味を有し、そして、本発明において等しく使用される。用語「抗体」は、本明細書で使用するとき、免疫グロブリン分子及び免疫グロブリン分子の免疫学的活性部分、すなわち、抗原に免疫特異的に結合する抗原結合部位を含有する分子を指す。したがって、抗体という用語は、抗体分子全体だけでなく、抗体断片並びに抗体及び抗体断片の変異体(誘導体を含む)も包含する。天然抗体では、2本の重鎖がジスルフィド結合によって互いに結合しており、そして、各重鎖はジスルフィド結合によって軽鎖に結合している。2種の軽鎖、ラムダ(λ)及びカッパ(κ)が存在する。抗体分子の機能活性を決定する5つの主な重鎖クラス(又はアイソタイプ):IgM、IgD、IgG、IgA、及びIgEが存在する。各鎖は、別個の配列ドメインを含有する。軽鎖は、2つのドメイン、可変ドメイン(VL)及び定常ドメイン(CL)を含む。重鎖は、4つのドメイン、可変ドメイン(VH)及び3つの定常ドメイン(CH1、CH2、及びCH3、まとめてCHと称される)を含む。軽鎖(VL)及び重鎖(VH)の両方の可変領域が、抗原に対する結合認識及び特異性を決定する。軽鎖(CL)及び重鎖(CH)の定常領域ドメインは、抗体鎖の会合、分泌、経胎盤移動性、補体結合、及びFc受容体(FcR)への結合等の重要な生物学的特性を付与する。Fv断片は、免疫グロブリンのFab断片のN末端部であり、そして、1本の軽鎖及び1本の重鎖の可変部からなる。抗体の特異性は、抗体結合部位と抗原決定基との間の構造的相補性に帰する。抗体結合部位は、主に超可変性又は相補性決定領域(CDR)に由来する残基で構成される。時折、非超可変性又はフレームワーク領域(FR)由来の残基は、全体的なドメイン構造、ひいては結合部位に影響を与える。相補性決定領域又はCDRは、ネイティブ免疫グロブリン結合部位の天然Fv領域の結合親和性及び特異性を共に規定するアミノ酸配列を指す。免疫グロブリンの軽鎖及び重鎖は、それぞれ3つのCDRを有し、それぞれ、VL-CDR1、VL-CDR2、VL-CDR3及びVH-CDR1、VH-CDR2、VH-CDR3と命名される。したがって、抗原結合部位は、重鎖及び軽鎖の各V領域に由来するCDRセットを含む6つのCDRを含む。フレームワーク領域(FR)は、CDR間に介在するアミノ酸配列を指す。
【0037】
本発明の単離ポリペプチドに結合する抗体は、当技術分野において公知の従来の方法によってアッセイすることができる。本発明のポリペプチドのエピトープに結合する抗体をアッセイするためには、好ましくは、本発明のポリペプチドの成熟型が使用される。あるいは、mAb 2H2/D11の結合を保持している本発明の単離ポリペプチドの任意の変異型を使用することもできる。エピトープ結合を判定するためには、多くの異なる競合結合アッセイフォーマットを使用することができる。使用することができるイムノアッセイは、ラジオイムノアッセイ、ELISA、「サンドイッチ」イムノアッセイ、免疫沈降アッセイ、蛍光イムノアッセイ、プロテインAイムノアッセイ、及び補体結合アッセイ等の技術を使用する競合アッセイシステムを含むが、これらに限定されない。このようなアッセイはルーチンであり、そして、当技術分野において周知である(例えば、Ausubel et al., eds, 1994 Current Protocols in Molecular Biology, Vol. 1, John Wiley & sons, Inc., New Yorkを参照)。例えば、BIACORE(登録商標)(GE Healthcare, Piscaataway, NJ)は、モノクローナル抗体のエピトープビンパネルに常用される様々な表面プラズモン共鳴アッセイフォーマットのうちの1つである。更に、Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Ed Harlow and David Lane, 1988に記載されているもの等のルーチンなクロスブロッキングアッセイを実施してもよい。好適なELISAアッセイの例は以下の実施例にも記載される。
【0038】
本明細書で使用するとき、用語「親和性」とは、単一の抗原部位における抗体と抗原との間の相互作用の強度を指す。各抗原部位内において、抗体「アーム」の可変領域は、多数の部位において弱い非共有結合力を通して抗原と相互作用し;相互作用が強いほど、親和性が強い。親和性は、Kを測定することによって決定することができる。用語「K」は、本明細書で使用するとき、KのKに対する比(すなわち、K/K)から得られ、そして、モル濃度(M)として表される解離定数を指すことを意図する。抗体のK値は、当技術分野において十分に確立されている方法を用いて求めることができる。抗体のKを求める方法は、表面プラズモン共鳴を用いるか又はBiacore(登録商標)システム等のバイオセンサシステムを用いることによる。
【0039】
本発明は、(N-α-アセチル)MEDHAGTYGLG(配列番号8)からなるアミノ酸配列に特異的に結合する抗体を提供する。
【0040】
本発明は、更に、
i)タウN-アルファアセチル-Met11-352からなるアミノ酸配列(配列番号1);
ii)タウN-アルファアセチル-Met11-381からなるアミノ酸配列(配列番号2);
iii)タウN-アルファアセチル-Met11-383からなるアミノ酸配列(配列番号3);
iv)タウN-アルファアセチル-Met11-410からなるアミノ酸配列(配列番号4);
v)タウN-アルファアセチル-Met11-412からなるアミノ酸配列(配列番号5);
vi)タウN-アルファアセチル-Met11-441からなるアミノ酸配列(配列番号6);
vii)タウN-アルファアセチル-Met11-776からなるアミノ酸配列(配列番号7);
viii)(i)~(vii)の配列と実質的に相同なアミノ酸配列、好ましくは(i)~(vii)の配列と少なくとも80%同一のアミノ酸配列
ix)(i)~(viii)の配列の11位のN-アルファアセチルメチオニン残基から始まる少なくとも9連続アミノ酸の断片
を含むか又はからなる単離ポリペプチドに特異的に結合する抗体を提供する。
【0041】
これら抗体は、単離ポリペプチド(i)~(viii)のいずれか1つの11位におけるメチオニン残基から始まる少なくとも9連続アミノ酸の断片内に位置するエピトープ又は該断片内に位置する少なくとも1つのアミノ酸を含むエピトープを認識することができる。
【0042】
好ましくは、該エピトープは、単離ポリペプチド(i)~(viii)のいずれか1つを含むか又はからなる断片内に位置する。
【0043】
最も好ましくは、該エピトープは、ペプチド(N-α-アセチル)MEDHAGTYGLG(配列番号8)内に位置する。このような抗体は、本発明のN-アルファ-アセチル-Met11-タウ種に特異的に結合することを特徴とする。
【0044】
これら抗体は、ポリクローナルであってもモノクローナルであってもよい。抗体がモノクローナルであるとき、これらは例えば、キメラ、ヒト化、又は完全ヒトの抗体、抗体断片、及び単一ドメイン抗体に相当し得る。
【0045】
用語「キメラ抗体」は、抗体のVHドメイン及びVLドメイン、並びにヒト抗体のCHドメイン及びCLドメインを含む抗体を指す。
【0046】
本発明によれば、用語「ヒト化抗体」は、ヒト抗体に由来する可変領域フレームワーク及び定常領域を有するが、以前の非ヒト抗体のCDRを保持している抗体を指す。
【0047】
用語「抗体断片」は、抗体のCDRを含む可変ドメインを含有する該抗体の断片を指す。基本的な抗体断片は、Fab、Fab'、F(ab')2 Fv、scFv、dsFvを含む。抗体断片の例として、総説については、参照により本明細書に含まれるHolliger et al Nature Biotechnology 23, issue 9 1126 - 1136 (2005)も参照。
【0048】
用語「Fab」は、プロテアーゼであるパパインでIgGを処理することによって得られる断片の中でも、H鎖のN末端側の約半分と完全L鎖とがジスルフィド結合を通して互いに結合している、約50,000の分子量及び抗原結合活性を有する抗体断片を意味する。
【0049】
用語「F(ab')2」は、プロテアーゼであるペプシンでIgGを処理することによって得られる断片の中でも、ヒンジ領域のジスルフィド結合を介して結合しているFabよりもわずかに大きい、約100,000の分子量及び抗原結合活性を有する抗体断片を指す。
【0050】
用語「Fab’」は、F(ab')2のヒンジ領域のジスルフィド結合を切断することによって得られる、約50,000の分子量及び抗原結合活性を有する抗体断片を指す。
【0051】
単鎖Fv(「scFv」)ポリペプチドは、ペプチドをコードしているリンカーによって連結されているVH及びVLをコードしている遺伝子を含む遺伝子融合物から通常発現する、共有結合しているVH::VLヘテロダイマーである。「dsFv」は、ジスルフィド結合によって安定化しているVH::VLヘテロダイマーである。二価及び多価の抗体断片は、一価scFVの会合によって自発的に形成される場合もあり、例えば二価sc(Fv)2等、ペプチドリンカーによって一価scFVをカップリングさせることによって生成される場合もある。
【0052】
用語「ダイアボディ」、「トリボディ」又は「テトラボディ」は、多価抗原結合部位(2、3、又は4)を有する小さな抗体断片であって、同じポリペプチド鎖(VH-VL)において軽鎖可変ドメイン(VL)に結合している重鎖可変ドメイン(VH)を含む断片を指す。短すぎて同じ鎖上の2つのドメイン間を対合させることができないリンカーを使用することによって、該ドメインを別の鎖の相補的ドメインと強制的に対合させ、そして、2つの抗原結合部位を作り出す。
【0053】
本明細書で使用するとき、用語「単一ドメイン抗体」は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、そして、天然に軽鎖を有しないラクダ科哺乳類で見出すことができる種類の抗体の単一重鎖可変ドメインを指す。このような単一ドメイン抗体は、VHH又は「ナノボディ(登録商標)」とも呼ばれる。(単一)ドメイン抗体の一般的な説明については、上に引用した先行技術に加えて、欧州特許第0 368 684号、Ward et al. (Nature 1989 Oct 12; 341 (6242): 544-6)、Holt et al., Trends Biotechnol., 2003, 21(11):484-490;及び国際公開公報第06/030220号、同第06/003388号も参照する。ナノボディは、ヒトIgG分子の約10分の1の分子量を有し、そして、該タンパク質は、わずか数ナノメートルの物理的直径を有する。サイズが小さいことの1つの意義は、ラクダ科ナノボディがより大きな抗体タンパク質にとって機能的に認識することができない抗原部位に結合することができることであり、すなわち、ラクダ科ナノボディは、古典的な免疫学的技術を使用して別の隠れた抗原を検出する試薬として、そして、可能な処置剤として有用である。したがって、サイズが小さいことの更に別の意義は、ナノボディが、標的タンパク質の溝又は狭い間隙における特異的部位に結合した結果として阻害することができ、ひいては、古典的な抗体の機能よりも古典的な低分子量薬の機能に類似している能力という点で役立つことができる。低分子量及びコンパクトなサイズであることから、更に、非常に熱安定性であり、極端なpH及びタンパク質分解に対して安定性であり、そして、抗原性が低いナノボディが得られる。別の意義は、ナノボディが循環系から組織に、そして、更には血液脳関門を越えて容易に移動し、そして、神経組織を冒す障害を処置できることである。ナノボディは、更に、血液脳関門を越える薬物輸送を促進することができる。2004年8月19日に公開された米国特許出願公開第20040161738号を参照。これら特徴は、ヒトに対する低い抗原性と相まって、大きな処置可能性を示す。単一ドメイン抗体のアミノ酸配列及び構造は、当技術分野及び本明細書においてそれぞれ「フレームワーク領域1」又は「FR1」;「フレームワーク領域2」又は「FR2」;「フレームワーク領域3」又は「FR3」;及び「フレームワーク領域4」又は「FR4」と称される4つのフレームワーク領域又は「FR」で構成されるとみなすことができ、これらフレームワーク領域は、当技術分野においてそれぞれ「CDR1」のための相補性決定領域1」;「相補性決定領域2」又は「CDR2」;及び「相補性決定領域3」又は「CDR3」と称される3つの相補性決定領域又は「CDR」によって分断されている。したがって、単一ドメイン抗体は、一般構造:FRl-CDRl-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4(式中、FR1~FR4はそれぞれフレームワーク領域1~4を指し、そして、CDR1~CDR3は相補性決定領域1~3を指す)を有するアミノ酸配列として定義することができる。本発明の状況では、単一ドメイン抗体のアミノ酸残基は、International ImMunoGeneTics情報システムアミノ酸付番(http://imgt.cines.fr/)によって与えられるVHドメインについての一般的な付番に従って付番される。
【0054】
このような抗体を得る方法は、当技術分野において周知である。例えば、本発明に係るモノクローナル抗体は、(i)~(vii)のいずれか1つを含むか又はからなる該断片で非ヒト哺乳類を免疫することを通して得ることができる。ポリクローナル抗体から出発し、次いで、標準的な方法を使用してモノクローナル抗体を得ることができる。
【0055】
本発明の抗体は、検出可能な標識とコンジュゲートして免疫コンジュゲートを形成することができる。好適な検出可能な標識は、例えば、放射性同位体、蛍光標識、化学発光標識、酵素標識、生物発光標識、又はコロイド金を含む。このような検出可能に標識された免疫コンジュゲートを作製及び検出する方法は当業者に周知であり、そして、以下により詳細に記載される。
【0056】
検出可能な標識は、オートラジオグラフィによって検出される放射性同位体であってよい。本発明の目的に特に有用な同位体は、H、125I、131I、35S、及び14Cである。
【0057】
免疫コンジュゲートは、蛍光化合物で標識されてもよい。蛍光標識された抗体の存在は、適切な波長の光に免疫コンジュゲートを曝露し、そして、生じた蛍光を検出することによって判定される。蛍光標識化合物は、フルオレセインイソチオシアナート、ローダミン、フィコエリトリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o-フタルデヒド、及びフルオレスカミンを含む。
【0058】
あるいは、免疫コンジュゲートは、化学発光化合物に抗体をカップリングさせることによって検出可能に標識することもできる。化学発光タグ付き免疫コンジュゲートの存在は、化学反応の過程において生じる発光の存在を検出することによって判定される。化学発光標識化合物の例は、ルミノール、イソルミノール、芳香族アクリジニウムエステル、イミダゾール、アクリジニウム塩、及びシュウ酸エステルを含む。
【0059】
同様に、生物発光化合物を使用して、本発明の免疫コンジュゲートを標識することができる。生物発光は、触媒タンパク質が化学発光反応の効率を増大させる生体系においてみられる化学発光の一種である。生物発光タンパク質の存在は、発光の存在を検出することによって判定される。標識に有用な生物発光化合物は、ルシフェリン、ルシフェラーゼ、及びエクオリンを含む。
【0060】
あるいは、免疫コンジュゲートは、モノクローナル抗体を酵素に連結させることによって検出可能に標識することもできる。酵素コンジュゲートを適切な基質の存在下でインキュベートしたとき、酵素部分が基質と反応して、例えば分光的、蛍光的、又は視覚的な手段によって検出することができる化学部分を生成する。多特異的免疫コンジュゲートを検出可能に標識するために使用することができる酵素の例は、β-ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、及びアルカリホスファターゼを含む。
【0061】
本発明の抗体は、ランタニド等の金属化学元素で標識することができる。ランタニドは、安定な同位体である、利用可能な多数のランタニドが存在する(最大100以上の別個の標識)比較的安定である、そして、質量分析を使用して検出したときに高度に検出可能でありかつ検出チャネル間で容易に分離されるという点で他の標識よりも優れた幾つかの利点を提供する。ランタニド標識は、広いダイナミックレンジの検出も提供する。ランタニドは、高い感度を示し、光及び時間に対して非感受性であり、したがって、非常に柔軟性かつロバストであり、そして、多数の異なる状況において利用可能である。ランタニドは、原子番号57~71を有する一連の15の金属化学元素である。ランタニドは、希土類元素とも称される。ランタニドは、CyTOF技術を使用して検出することができる。CyTOFは、誘導結合プラズマ飛行時間型質量分析法(ICP-MS)である。CyTOF機器は、利用可能な安定な同位体タグが存在するときと同じくらい多くのパラメータについて1秒間あたり最大1000個の細胞を分析することができる。
【0062】
当業者は、本発明に従って使用することができる他の好適な標識について理解している。マーカー部分のモノクローナル抗体に対する結合は、当技術分野で公知の標準的な技術を使用して達成され得る。
【0063】
更に、免疫化学的検出の利便性及び汎用性は、アビジン、ストレプトアビジン、及びビオチンとコンジュゲートしているモノクローナル抗体を使用することによって強化され得る。
【0064】
本発明の検出及び診断の方法:
本発明の目的は、本発明のヒトN-アルファ-アセチル-Met11-タウ種を検出する、及び/又は生体サンプル中の該タウ種の量を評価する方法である。
【0065】
生体サンプルは、培養培地及び細胞サンプル、全血サンプル、血清サンプル、血漿サンプル、尿サンプル、唾液サンプル、脳脊髄液サンプル、又は脳組織サンプルを意味するが、これらに限定されるわけではない。
【0066】
N-アルファ-アセチル-Met11-タウ種の検出は、タンパク質/ポリペプチドの分離:タンパク質の分子量に基づく遠心分離;質量及び電荷に基づく電気泳動;疎水性に基づくHPLC;サイズに基づくサイズ排除クロマトグラフィ;並びに使用される特定の固相に対するタンパク質の親和性に基づく固相親和性を含み得る。分離したら、そのタンパク質の公知の「分離プロファイル」、例えば保持時間に基づいてN-アルファ-アセチル-Met11-タウ種を同定し、そして、標準的な技術を使用して測定することができる。あるいは、分離されたタンパク質を例えば質量分析計によって検出及び測定することもできる(実施例の章を参照)。
【0067】
本発明のN-アルファ-アセチル-Met11-タウ種の検出及び量は、イムノアッセイ、例えば競合、直接反応、例えば免疫組織化学的検査、又はサンドイッチ型アッセイを含む標準的な電気泳動及び免疫診断の技術を使用することによって求めることができる。このようなアッセイは、ウエスタンブロット;凝集試験;酵素標識及び酵素媒介イムノアッセイ、例えば、ELISA;ビオチン/アビジン型アッセイ;ラジオイムノアッセイ;免疫電気泳動;免疫沈降等を含むが、これらに限定されない。反応は、一般的に、蛍光、化学発光、放射活性、酵素の標識、若しくは色素分子等の顕色標識、又は抗原とそれと反応した抗体との複合体の形成を検出するための他の方法を含む。
【0068】
例えば、N-アルファ-アセチル-Met11-タウ種の量の決定は、「様々な技術及び方法、当技術分野において周知の任意の方法」:RIAキット(DiaSorin; IDS, Diasource)Elisaキット(Fujirebio, Thermo Fisher, EHTGFBI, R&D DY2935、IDS(手動)IDS(オープンアナライザーに適応)免疫化学発光自動化法(MesoScaleDiscovery, DiaSorin Liaison, Roche Elecsys family, IDS iSYS)(Janssen et al., 2012)Simoa/Quanterixによって実施することができる。
【0069】
具体的な実施態様では、本発明の方法は、生体サンプルを結合パートナーと接触させることを含む。
【0070】
本明細書で使用するとき、結合パートナーは、本発明のN-アルファ-アセチル-Met11-タウ種と選択的に相互作用することができる分子を指す。
【0071】
結合パートナーは、一般的に、ポリクローナルであってもモノクローナルであってもよく、好ましくはモノクローナルである抗体であってよい。
【0072】
別の実施態様では、結合パートナーはアプタマーであってよい。アプタマーは、分子認識の観点から抗体の代替物となる分子クラスである。アプタマーは、高い親和性及び特異性で実質的にあらゆるクラスの標的分子を認識する能力を有するオリゴヌクレオチド又はオリゴペプチドの配列である。このようなリガンドは、Tuerk et al. (1990) Science, 249, 505-510に記載されているように、ランダムシークエンスライブラリの試験管内進化法(SELEX)を通して単離することができる。ランダムシークエンスライブラリは、DNAのコンビナトリアル化学合成によって得ることができる。このライブラリでは、各メンバーは、ユニーク配列の最終的には化学的に修飾される線状オリゴマーである。このクラスの分子の可能な修飾、使用、及び利点は、Jayasena 1999に概説されている。ペプチドアプタマーは、ツーハイブリッド法によってコンビナトリアルライブラリから選択されるプラットフォームタンパク質、例えば、大腸菌(E.coli)チオレドキシンAによってディスプレイされている高次構造的に拘束された抗体可変領域からなる(Colas et al. (1996) Nature, 380, 548-50)。
【0073】
本発明の結合パートナー、例えば抗体又はアプタマーは、検出可能な分子又は物質、例えば、蛍光分子、放射活性分子、又は当技術分野において公知の任意の他の標識で標識することができる。一般的に(直接又は間接的に)シグナルを提供する標識は、当技術分野において公知である。
【0074】
本明細書で使用するとき、結合パートナーに関して「標識されている」という用語は、検出可能な物質、例えば、放射活性剤又はフルオロフォア(例えば、フルオレセインイソチオシアナート(FITC)又はフィコエリトリン(PE)又はインドシアニン(Cy5)を抗体又はアプタマーにカップリング(すなわち、物理的に連結)させることによる抗体又はアプタマーの直接標識に加えて、検出可能な物質との反応性によるプローブ又は抗体の間接標識を包含することを意図する。本発明の抗体又はアプタマーは、当技術分野において公知の任意の方法によって放射活性分子で標識され得る。例えば、放射活性分子は、I123、I124、In111、Re186、Re188等のシンチグラフィ試験のための放射活性原子を含むがこれらに限定されない。
【0075】
前述のアッセイは、一般的に、固体支持体における結合パートナー(すなわち、抗体又はアプタマー)の結合を含む。本発明の実施において使用することができる固体支持体は、ニトロセルロース(例えば、メンブレン又はマイクロタイターウェルの形態);ポリ塩化ビニル(例えば、シート又はマイクロタイターウェル);ポリスチレンラテックス(例えば、ビーズ又はマイクロタイタープレート);ポリフッ化ビニリデン;ジアゾ化ペーパー;ナイロンメンブレン;活性化ビーズ;磁気応答性ビーズ等の基材を含む。より具体的には、マイクロタイタープレートのウェルがN-アルファ-アセチル-Met11-タウ種に対する抗体のセットでコーティングされているELISA法を使用することができる。次いで、N-アルファ-アセチル-Met11-タウ種を含有しているか又は含有していると思われる体液サンプルを、コーティングされたウェルに添加する。結合パートナー-N-アルファ-アセチル-Met11-タウ種複合体を形成できるのに十分な期間インキュベートした後、未結合材料及び添加された標識二次結合分子を除去するためにプレートを洗浄してもよい。二次結合分子を任意の補足されたサンプルマーカータンパク質と反応させ、プレートを洗浄し、そして、当技術分野において周知の方法を使用して二次結合分子の存在を検出する。
【0076】
結合パートナーとして、二次結合分子を標識してもよい。
【0077】
本発明の抗体及び免疫コンジュゲートは、N-アルファ-アセチル-Met11-タウ種を検出するため、並びに/又は生体サンプル、特に、培養培地及び細胞サンプル、全血サンプル、血清サンプル、血漿サンプル、脳脊髄液サンプル、若しくは脳組織サンプル中の該タウ種の量を評価するために使用することができる。したがって、それらを、全てのタウ疾患の診断に使用することができる。
【0078】
したがって、本発明の検出方法は、結果的に、生体サンプルからタウオパシーをインビトロで診断するのに有用である。具体的には、本発明の検出方法は、結果的に、生体サンプルから初期段階のタウオパシーをインビトロで診断するのに有用である。
【0079】
本明細書で使用するとき、用語「初期段階のタウオパシー」とは、記憶喪失等の臨床症状が発症する前の疾患の段階を指す。
【0080】
本明細書で使用するとき、用語「生体サンプル」は、本明細書で使用するとき、被験体の任意の生体サンプルを指す。好ましくは、該サンプルは、該被験体の体液である。サンプルの非限定的な例は、血液、血清、血漿、尿、唾液、及び脳脊髄液(CRL)を含むが、これらに限定されない。
【0081】
本発明の更なる目的は、N-アルファ-アセチル-Met11-タウ種を検出する及び/又は生体サンプル中の該タウ種の量を評価する方法であって、該サンプルを本発明の抗体又は免疫コンジュゲートとN-アルファ-アセチル-Met11-タウ種と該抗体/免疫コンジュゲートとの間で免疫複合体を形成できる条件下で接触させ、そして、形成された免疫複合体を検出又は測定することを含む方法である。
【0082】
形成された免疫複合体は、非限定的な例として酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)又は他の固相イムノアッセイ、ラジオイムノアッセイ、電気泳動、免疫蛍光法、又はウエスタンブロットを含む標準的な技術を使用する様々な方法によって検出又は測定することができる。
【0083】
本発明の更なる目的は、タウオパシーをインビトロで診断する方法であって、試験される被験体由来の生体サンプル中の上記N-アルファ-アセチル-Met11-タウ種の存在を検出することを含む方法である。
【0084】
用語「タウオパシー」は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、そして、タウの凝集を特徴とする疾患を指す(Iqbal, K. et al. Biochimica et Biophysica Acta (BBA) 1739 (2005) 198-210)。タウオパシーは、特に、アルツハイマー病、ダウン症候群;グアムのパーキンソニズム・認知症複合;拳闘家認知症及び他の慢性外傷性エンセファロパシー;筋緊張性ジストロフィ;ニーマン・ピック病C型;ピック病;嗜銀顆粒病;前頭側頭認知症;大脳皮質基底核変性症;淡蒼球-橋-黒質変性症;進行性核上性麻痺;並びにプリオン障害、例えば、もつれを伴うゲルストマン-シュトロイスラー-シャインカー病を含む。
【0085】
最後に、本発明は、また、本発明の少なくとも1つの抗体又はその断片を含むキットを提供する。本発明のキットは、固体支持体、例えば、組織培養用のプレート又はビーズ(例えば、セファロースビーズ)にカップリングした抗体を含有し得る。インビトロ、例えば、ELISA又はウエスタンブロットにおいてN-アルファ-アセチル-Met11-タウ種を検出及び定量するために抗体を含有するキットが提供され得る。検出に有用なこのような抗体は、蛍光標識又は放射標識等の標識を有して提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0086】
図1】ヒト脳由来のN末端がアセチル化されたペプチドMet11-タウのMS/MSスペクトル。ヒト脳(タウ病態、Braak第III期)由来のN末端がアセチル化されたペプチドMet11-タウのMS/MSスペクトル。電荷:+2。モノアイソトピックm/z:732.31Da;MH+: 1463.62。RT:27.86。スキャン154。G140418_0427_c_ymv.raw Identified with Mascot v1.30;イオンスコア=54;exp値:3E-003
図2】2H2/D11ハイブリドーマによって分泌されたAc-Met11-タウを標的とする特異的モノクローナル抗体の生成。2H2/D11抗体生成の概略図。マウスの免疫に使用されるペプチド及びハイブリドーマ上清スクリーニングに使用されるペプチドのアミノ酸を示す。ヒストグラムは、2H2/D11ハイブリドーマ上清によって得られる代表的なELISA OD値を示した。
図3】ウエスタンブロット及びペプチド免疫枯渇実験による2H2/D11抗体の特異性の検証。
図4】2H2/D11抗体は、サンドイッチELISAによるN末端がアセチル化されたMet11-タウタンパク質の特異的検出を可能にする。
図5】AD及び対照の脳サンプル(側頭皮質)における2H2/D11抗体に基づくサンドイッチELISA
図6】A.脳における6つのヒトタウアイソフォーム。
図7】2H2/D11抗体は、間接ELISAによるN-アルファ末端アセチル化Met11-タウペプチドの特異的検出を可能にする。
図8】サンドイッチELISAによるAD海馬におけるAc-Met11-タウの特異的検出。
【0087】
実施例1:
材料及び方法
ヒト組織サンプル。ヒト脳剖検サンプルは、Lille NeuroBank collection(Centre de Ressources Biologiques du CHU de Lille)から入手した。全ての被験体からインフォームドコンセントを得た。Lille NeuroBankは、参照番号DC-2000-642の下2008年8月14日にLille University Hospital(CHU-Lille)によってフランスの研究省に対して宣言され、そして、インフォームドコンセント、倫理審査委員会の承認、及びデータ保護を含む生物学的資源に関するフランスの法律によって規定される基準を満たしている。この研究は、Lille NeuroBankの倫理審査委員会によって承認された。Braak and Braak (2011)に従って神経病理学的特徴に基づいてタウ病態の段階を分類した。
【0088】
Ac-Met11-タウ種の同定。Derisbourg et al (2015)に詳述されている実験アプローチを使用してAc-Met11-タウを同定した。簡潔に述べると、ヒト後頭皮質脳から免疫沈降によってタウ種を濃縮し、ビオチンで標識し、そして、キャピラリ液体クロマトグラフィ-タンデム質量分析(LC-MS/MS)によって分析した。
【0089】
2H2/D11抗体の生成。11位のメチオニンから21位のグリシンまでのタウ配列に対応するN-アルファ末端アセチルタウペプチド(Ac-Met11-タウペプチド:{Nα-アセチル}MEDHAGTYGLG:配列番号8)で免疫することによって2H2/D11抗体を生成した。この配列は、全てのタウアイソフォームが共有しているエクソン1によってコードされている。KLHコンジュゲーションのためにAc-Met11-タウペプチドのC末端にシステイン残基を付加した。14、45、及び63日目に3回追加免疫してBalb/cマウスを皮下免疫した。次いで、(Pandey, 2010)に記載の方法に従って、最も高い力価を示すマウスの脾臓由来のリンパ球をNS1骨髄細胞と融合させた。以下の異なるペプチドに対する間接ELISAにおいてハイブリドーマ上清をスクリーニングした:
Ac-Met11-タウペプチド:{Nα-アセチル}MEDHAGTYGLG;(配列番号8)抗原として使用されるタウ断片と同じ配列。
Met11-タウペプチド:MEDHAGTYGLG;(配列番号9)
Ac-Met1-タウペプチド:{Nα-アセチル}MAEPRQEFEVMEDHAGTYGLG(配列番号10);このペプチドはN-アルファ末端アセチル化を有するタウのメチオニン1で始まる。
【0090】
ハイブリドーマ上清の間接ELISAスクリーニングによって、遊離非N-アルファ末端アセチル化メチオニン11とも、非切断型メチオニン11とも、メチオニン11と同じアミノ酸状況にないときの任意のN-アルファ-アセチル-メチオニンとも、わずかな交差反応性しか示さないか又は交差反応性を全く示さずにAc-Met11-タウ種を特異的に検出するクローンのセットを選別することができた。選択されたハイブリドーマについてアイソタイプ及び軽鎖の種類を決定した(表1、以下)。
【表1】
【0091】
ハイブリドーマ2H2を更にサブクローニングし、そして、2H2/D11抗体を生成するハイブリドーマクローンを選択した。間接ELISA、ウエスタンブロッティング、及び免疫組織化学的検査によって、タウタンパク質のN-アルファ末端アセチル化メチオニン11に対する2H2/D11抗体の特異性を再現性よく検証した。2H2D11のVH及びVLの配列が提供される。
【0092】
また、Met11-タウペプチド:MEDHAGTYGLG;(配列番号9)で免疫した後に全タウタンパク質に対する抗体が生成された。ハイブリドーマクローン7C12/E12を選択した(IgG1、カッパ。最も長いヒトタウアイソフォームに従ったエピトープはaa11~20である)。7C12/E7)のVH及びVLの配列が提供される。
【0093】
間接ELISA。4℃で一晩、50mM NaHCO3、pH9.6中100ng/ウェルのAc-Met11-タウ、Met11-タウ、又はAc-Met1-タウペプチド(上記を参照)のいずれかでNunc96ウェルマイクロタイタープレート(Maxisorp F8;Nunc, Inc.)をコーティングした。0.05% Tweenを含有するPBS(PBS-T)で3回洗浄した後、プレートをブロッキングし、そして、1:4000希釈でヤギ抗マウスIgGセイヨウワサビペルオキシダーゼコンジュゲート抗体(A3673;Sigma)を使用することによってハイブリドーマ上清又は精製抗体を試験した。基質はテトラメチルベンジジン(T3405、Sigma)であった。硫酸を添加することによって反応を停止させたところ、色が青色から黄色に変化した。450nmにおいて分光光度計(Multiskan Ascent Thermo Labsystem)でプレートを測定した。
【0094】
サンドイッチELISA。4℃で一晩、炭酸塩バッファ(0.1M NaHCO3、0.1M Na2CO3、pH9.6)中1μg/mlの濃度の2H2/D11抗体(Ac-Met11-タウ種を検出するため)、又はAT120(INNOTEST hTau、FUJIREBIO)、又は7C12/E7抗体(全タウタンパク質を検出するため) 100μlでNunc96ウェルプレート(VWR)をコーティングした。その後、37℃で1時間、0.1% カゼインを含有するWASH1Xバッファ(INNOTEST hTau Ag kit、FUJIREBIO)で該プレートをブロックし、そして、WASH1Xバッファで3回洗浄した。タンパク質サンプルを1μg/μlで標準化し、そして、SAMPL DILバッファ(INNOTEST hTau Ag kit, FUJIREBIO)で希釈した。タンパク質サンプル及びビオチン化抗体(HT7/BT2、INNOTEST hTau Ag kit、FUJIREBIO)を添加し、そして、該プレートを室温で一晩インキュベートした。ウェルを4回洗浄し、次いで、ペルオキシダーゼで標識されたストレプトアビジンと共に室温で30分間インキュベートし、そして、4回洗浄した。室温で30分間テトラメチルベンジジン基質を使用して検出を実施し;H2SO4でアッセイを停止させ、そして、分光光度計(Multiskan Ascent, Thermo Labsystems)で450nmにおける吸光度を読み取った。
【0095】
タウプラスミドコンストラクト。In-Fusion cloning Kit(Clontech)を使用して完全長タウ(Tau-412)及びMet11-タウのcDNAを保有している発現ベクターを生成し、そして、pcDNA4/TO(Invitrogen)のEcoRIサイトへのインサートをクローニングするためにPCRプライマーを設計した。pcDNA3.1-Tau4R(Mailliot et al., 2000)からPCR(DyNAzymeTM EXT DNAポリメラーゼ、New England BioLabs)によって各cDNA断片を増幅させた。フォワードプライマーを、コザックコンセンサス配列を含有するように設計し、そして、以下の通りである:
Tau-412については、
5’-CAGTGTGGTGGAATTCGCCACCATGGCTGAGCCCCGCCAGGAGTT-3’(配列番号11);
Met11-タウについては、
5’-CAGTGTGGTGGAATTCGCCACCATGGAAGATCACGCTGGGACGT-3’(配列番号12);
【0096】
2つの増幅についてのリバースプライマーは、
5’-GATATCTGCAGAATTCTCACAAACCCTGCTTGGCCAGGG AGGCA-3’(配列番号13)
であった。
【0097】
コンストラクトを検証するためにDNAシークエンシングを実施した。
【0098】
タウ細胞株。製造業者の指示書に従ってExGen500(Euromedex, France)を使用して、テトラサイクリン抑制因子を構成的に発現するSH-SY5Y細胞(Hamdane et al., 2003に詳細に記載されている)にタウプラスミドコンストラクトをトランスフェクトした。Zeocin選択(100μg/ml)後に個々の安定なクローンが生成され、そして、タウの基本的発現が最も弱かったものを選択した。ピルビン酸塩、2mM L-グルタミン、50ユニット/ml ペニシリン/ストレプトマイシン、及び1mM 非必須AAを含む10% ウシ胎児血清を添加したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM、Gibco)中で該細胞株を維持した。Tau-412及びMet11-タウの発現を誘導するため、37℃の5% CO2加湿インキュベータにおいて1μg/ml テトラサイクリン(Invitrogen)を含む培地中で細胞を維持した。
【0099】
タンパク質抽出。PBSを使用して細胞を洗浄し、そして、プロテアーゼ阻害剤で完成させた氷冷RIPAバッファ:150mM NaCl、1% NP40、0.5% デオキシコール酸ナトリウム、0.1% SDS、50mM Tris-Cl、pH8.0に収集した。ヒト脳皮質サンプルについては、プロテアーゼ阻害剤(Complete w/o EDTA、Roche)を含む、0.32M スクロース、100mM NaCl、110mM KOAc、0.5% Triton X-100、及び10mM Tris-HClを含有するバッファ、pH7.4中で超音波処理することによって組織をホモジナイズし、超音波処理し、そして、2500×gで5分間遠心分離した。
【0100】
超音波処理及びホモジナイズした後、BCA Assay Kit(Pierce)を使用してタンパク質濃度を求めた。
【0101】
ウエスタンブロッティング。還元剤(Invitrogen)を添加したLDS 2Xを用いてタンパク質抽出物を1μg/μlで標準化し、そして、100℃で10分間変性させた。次いで、プレキャスト4~12% Bis-Tris NuPage Novexゲル(Invitrogen)を使用して、タンパク質をSDS-PAGEで分離した。一次抗体に応じて、TNTバッファ;140mM NaCl、0.5% Tween20、15mM Tris、pH7.4中5% 脱脂粉乳又はTNTバッファ中5% ウシ胎児血清(Sigma)で飽和させた0.45μM ニトロセルロースメンブレン(AmershamTM Hybond ECL)にタンパク質を転写した。次いで、4℃で一晩、メンブレンを一次抗体(表2、以下)と共にインキュベートし、10分間TNTバッファで3回洗浄し、二次抗体(Vector)と共にインキュベートし、そして、現像前に再度洗浄した。LAS-4000取得システム(富士フィルム)において化学発光キット(ECLTM、Amersham Bioscience)を使用して免疫標識を可視化した。
【0102】
ペプチドブロッキング実験。ウエスタンブロット又はIHC免疫染色に進む前に、過剰のブロッキングペプチド(モル比:1/50):Ac-Met11-タウペプチド({Nα-アセチル}MEDHAGTYGLG)又はMet11-タウペプチド(MEDHAGTYGLG)のいずれかを含むか又は含まないブロッキングバッファ中において4℃で一晩撹拌しながら2H2/D11抗体をインキュベートした。その後、抗体サンプルを使用してウエスタンブロッティング及びIHCの章に記載の通り染色プロトコルを実施した。
【0103】
免疫組織化学的検査(IHC)。Thy-Tau22マウスを麻酔し(8% 抱水クロラール)、そして、冷PBS、続いて、4% パラホルムアルデヒドで20分間経心灌流した。脳を速やかに切除し、4% パラホルムアルデヒド中で一晩後固定し、20% スクロース中に24時間置き、そして最後に、使用まで-80℃で冷凍保存した。クライオスタット(Leica Microsystems GmbH, Germany)を使用して連続浮遊矢状切片(40μm)を得た。関心対象の切片を浮遊免疫組織化学的検査のために使用した。ヒト脳切片に関しては、マウスと同じ条件で海馬を切開し、固定し、そして、スライスした。
【0104】
脳切片をPBS-Triton(0.2%)で洗浄し、そして、0.3% H2O2で30分間処理し、そして、MOM(マウスIgGブロッキング試薬)又はウマ血清(PBS中1/100;Vector Laboratories)で1時間非特異的結合をブロッキングした。次いで、4℃で一晩、0.2% PBS-Triton中において一次抗体(表2、以下)と共に該切片をインキュベートした。3回洗浄(10分間)した後、1時間ビオチン化抗マウスIgG又はウサギIgG(0.2%PBS-Triton中1/400;Vector Laboratories)、続いて、ABCキット(PBS中1/400;Vector Laboratories)を使用して標識を増幅し、そして、0.075% H2O2を含有する50mmol/l Tris-HCl、pH7.6中0.5mg/ml DAB(Vector Laboratories)を使用して標識を完成させた。脳切片をSuperFrostスライド上に載せ、一連の等級のアルコール及びトルエンで脱水し、次いで、Zeiss AXIOSCAN Z1slideスキャナ及びZenソフトウェアを使用する顕微鏡分析のためにVectamount(Vector Laboratories)で封入した。
【0105】
免疫蛍光(同時標識実験)。マウス脳切片を0.2% PBS-Tritonで洗浄し、そして、MOM(0.2% PBS-Triton中1/100;Vector Laboratories)と共に1時間インキュベートすることを通して非特異的結合をブロッキングした。次いで、0.2% PBS-Triton中において第1の一次抗体と共に該切片を4℃で一晩インキュベートした。3回洗浄(10分間)した後、0.2% PBS-Triton中において第2の一次抗体と共に該切片を4℃で一晩インキュベートした。次いで、切片を洗浄し、そして、室温で1時間、Alexa 468又はAlexa 588(PBS中1/1000)にカップリングしている2つの二次抗体(Invitrogen)と共にインキュベートした。3回洗浄(10分間)した後、核を標識するためにDAPIを含有するVectashield(Vector Laboratories)で該切片を封入した。Zeiss LSM 710倒立共焦点顕微鏡(60倍)において共焦点顕微鏡観察を実施した。1μm又は0.8μm間隔でz方向に画像を収集した。
【表2】
【0106】
結果
本発明者らは、最近、最適化されたプロテオミクスアプローチを使用し、そして、ヒト脳から新規タウ種を同定することに成功した(Derisbourg et al., 2015)。これら後者の中でも、残基Met11で始まるタウ種(Met11-タウ)がN-アルファ末端アセチル化型(N-アルファ-アセチル-Met11-タウ種:Ac-Met11-タウ)としても検出され;このような修飾はタウタンパク質についてこれまで記載されていなかった(図1)。本発明者らは、これらタウ種がアルツハイマー病(AD)及びその関連するタウオパシーに対して非常に重要な機能的及び/又は病理学的な関連性を有し、そして、診断ストラテジを開発するための有用な候補であると予測する。実際、N-アルファ-アセチル-Met11は、全てのタウアイソフォームに共通であるタウタンパク質のエクソン1に位置する。更に、タウのN末端部における何らかの変化が病理学的意義を有することが示されている。例えば、5位のアミノ酸の突然変異がタウオパシーと関連することが見出されている(Hayashi et al., 2002;Poorkaj et al, 2002.)。
【0107】
Derisbourg et al (2015)に記載されているプロテオミクスアプローチでは、同定は可能であるが、同定されたタウ種の定量はできない。したがって、Ac-Met11-タウ種がAD及びそれに関連するタウオパシーの識別特徴であるかどうかを証明し、そして、診断バイオマーカーとしてのこの新規タウ種の潜在力を評価するために、本発明者らは、Ac-Met11-タウ種の特異的検出を可能にする抗体を開発した:2H2/D11(材料及び方法の章)(図2)。この新規抗体は、遊離非修飾Met11も非切断型メチオニン11も認識しない。また、メチオニン番号1で始まるタウペプチドを使用した間接ELISAによって示されている通り、2H2/D11抗体は、Met11と同じアミノ酸状況にないときのN-アルファ-アセチル-メチオニンを認識しない。アイソタイプストリップは、2H2/D11がカッパ鎖を有するIgG2a抗体であることを証明した(表1、材料及び方法の章)。
【0108】
その後、細胞株からのタンパク質抽出物を使用したウエスタンブロッティング分析によって2H2/D11の特異性を検証した。このために、本発明者らは、完全長又はMet11タウ種(それぞれ、FL-Tau(Tau-412)及びMet11-タウ)のいずれかのコード配列を含有するテトラサイクリン誘導性発現ベクターをヒト神経芽細胞腫細胞にトランスフェクトすることによって、誘導可能で安定な細胞株を生成した。LC-MS/MSプロテオミクスアプローチによってMet11-タウ細胞を分析したとき、この細胞株において切断型Met11-タウタンパク質は非修飾型とN-アルファ末端アセチル化型との混合物として見出されたことに留意すべきである(質量スペクトル分析は、N-アルファ-アセチル基のメチオニン11への付加に対応する42Daのシフトを示した;データは示さない)。
【0109】
テトラサイクリンで処理された細胞においては、全てのタウ種を認識するタウのC末端部に対する抗体を使用したウエスタンブロットによってトランスジーンの発現が示される。2H2/D11抗体を使用したウエスタンブロット分析では、FL-Tauと全く交差反応することなく、Met11-タウタンパク質を発現している細胞からの抽出物のみが標識される(図3)。Ac-Met11-タウ種に対する2H2/D11抗体の特異性は、免疫染色を進める前にペプチドブロッキングを実施した実験によって確認されている。図3に示すように、抗体がN-アルファ-アセチル化-Met11-タウペプチドによって中和されたとき、染色は存在しないが、Met11-タウペプチドでブロックされた抗体による免疫染色は抗体単独の場合と同じである。
【0110】
2H2/D11の特異性を検証した後、本発明者らは、Ac-Met11-タウ種とタウ病態との間に関連性があるかどうかを証明するためにこの抗体を使用し、加齢と共に神経原線維変性及び記憶欠損を発現するTHY-Tau22マウスモデルを使用した(十分な説明については、Schindowski et al., 2006;Van der Jeugd et al., 2013;Burnouf et al., 2012; 2013を参照されたい)。本発明者らは2H2/D11モノクローナル抗体を用いてこれらマウス由来の海馬の切片を調べた。免疫組織化学的分析は、興味深いことに、2H2/D11抗体はWtマウスとは免疫反応性を示さなかったが、Thy-Tau22マウスでは、ニューロンにおける特徴的な病的封入体によって示されるように該抗体がタウ病態を標識することを示した。更に、この免疫標識は早期に検出され、そして、加齢と共に増加するようである。
【0111】
この知見の特異性は、免疫染色を進める前にペプチドブロッキングを実施した実験によって更に確認された。抗体がN-アルファ-アセチル化-Met11-タウペプチドによって中和されたとき、染色は存在しないが、Met11-タウペプチドでブロックされた抗体による免疫染色は抗体単独の場合と同じである。
【0112】
更に、本発明者らは、幾つかの十分に特性評価されているリン酸化タウ特異的抗体を使用して二重標識実験を実施した。本発明者らは、神経原線維変性の存在とは関係なく、ニューロンにおいてタウを標識するホスホセリン199抗体、及び病的タウのみを標識するホスホセリン422抗体を使用した。同時標識実験は、2H2/D11抗体が、病的ホスホセリン422タウと免疫反応性であるニューロンの亜集団を検出することを示した。全体的にみて、本発明者らのデータは、マウスモデルにおいてAc-Met11-タウタンパク質のほとんどがタウ病態を示すニューロンでみられること、そして、Ac-Met11が病理学的過程の初期段階のマーカーである可能性があることを示唆している。
【0113】
本発明者らは、次に、ヒト脳海馬の切片について調べた。免疫組織化学的分析は、2H2D/11抗体が高齢対照由来の海馬では反応しないことを示した。興味深いことに、AD海馬では、該抗体が、ADの識別特性である神経原線維変性の特徴的な機構を標識する。
【0114】
Ac-Met11-タウ種が潜在的診断用バイオマーカーであるかどうかを調べることを本発明者らが試みることに鑑みて、本発明者らは、ELISAによってAc-Met11-タウ種を検出及び定量するためのツールとしての2H2/D11抗体を検証するために、安定な細胞株(材料及び方法の章及び図3に記載)由来のタンパク質抽出物を使用することによってサンドイッチELISAを開発した。本発明者らのデータは、2H2/D11抗体がこの免疫学的用途において機能すること、そして、本発明の抗体によってAc-Met11-タウタンパク質の特異的な検出が可能になることを示した(図4)。その後、同年齢対照(n=7)及びアルツハイマー病症例(n=9、Braak第IV~VI期)の側頭皮質由来のタンパク質抽出物を2H2/D11ベースのサンドイッチELISAにおいて使用した。本発明者らのデータは、興味深いことに、2H2/D11がADサンプルにおいて特異的に反応することを示した((図5;p=0.0002;マン-ホイットニー検定で比較)。Thy-Tau22トランスジェニックマウスモデルから同じデータが得られた(示さない)。
【0115】
結論
本発明者らは、メチオニン11で始まり、そして、N-アルファ末端アセチル化を有する新規タウ種を同定した。本発明者らは、N-アルファ末端アセチル化Met11 Tau種の特異的検出を可能にする、2H2/D11抗体を生成するハイブリドーマを含むハイブリドーマを開発した。トランスジェニックマウスモデル及びヒト脳からのIHC及びELISAアッセイに基づく本発明者らのデータは、Ac-Met11-タウ種が病理学的修飾であることを示した。
【0116】
本発明者らによる継続中の研究は、ADの発症機序におけるこの新規タウ種の役割を決定し、そして、Ac-Met11-タウ種及びその関連するMet11種がAD及びそれに関連するタウオパシーの識別特徴であるかどうか、並びにそれがAD段階の指標になるかどうかを証明することを目的とする。したがって、本発明者らは、AD及び他のタウオパシーにおけるこの種について更に調べるために詳細な免疫組織化学的特性評価を実施している。本発明者らは、対照被験体、様々な段階の十分に特性評価されているAD患者、及び他のタウオパシー患者に由来する脳を使用する生化学的及び組織学的アッセイ(免疫組織化学的検査、ウエスタンブロッティング、及びELISA)において、本発明者らの新規に開発された試薬に基づく定量的及び定性的アプローチを使用する。この研究は、診断に直ちに応用されるであろう。
【表3】


【0117】
実施例2:
材料及び方法
間接ELISA。4℃で一晩、50mM NaHCO3、pH9.6中100ng/ウェルのTau 1-ペプチド(配列番号10)、Met11-タウペプチド(配列番号9)、又はAc-Met11-タウペプチド(配列番号8)でNunc96ウェルマイクロタイタープレート(Maxisorp F8;Nunc, Inc.)をコーティングした。0.05% Tweenを含有するPBS(PBS-T)で3回洗浄した後、37℃で1時間0.1% カゼイン溶液(PBS)でプレートをブロッキングし、続いて、37℃で1時間、2H2/D11抗体又は7C12/E7抗体と共にインキュベートした。1:4000希釈でヤギ抗マウスIgGセイヨウワサビペルオキシダーゼコンジュゲート抗体(A3673;Sigma)を使用することによって、免疫検出を実施した。基質はテトラメチルベンジジン(T3405、Sigma)であった。硫酸を添加することによって反応を停止させたところ、色が青色から黄色に変化した。450nmにおいて分光光度計(Multiskan Ascent Thermo Labsystem)でプレートを測定した。
【0118】
タンパク質抽出。ヒト脳剖検サンプル(海馬)は、Lille NeuroBank collection(Centre de Ressources Biologiques du CHRU de Lille)から入手した。プロテアーゼ阻害剤(Complete w/o EDTA、Roche)で完成させた150mM NaCl、1% NP40、0.5% デオキシコール酸ナトリウム、0.1% SDS、50mM Tris-HClを含有するバッファ、pH8.0中で超音波処理することによって組織をホモジナイズし;BCA Assay Kit(Pierce)を使用してタンパク質濃度を求めた。
【0119】
サンドイッチELISA。4℃で一晩、炭酸塩バッファ(0.1M NaHCO3、0.1M Na2CO3、pH9.6)中1μg/mlの濃度の2H2/D11抗体(Ac-Met11-タウ種を検出するため)又はAT120(INNOTEST hTau、FUJIREBIO)(全タウタンパク質を検出するため) 100μlでNunc96ウェルプレート(VWR)をコーティングした。その後、37℃で1時間、0.1% カゼインを含有するWASH1Xバッファ(INNOTEST hTau Ag kit、FUJIREBIO)で該プレートをブロッキングし、そして、WASH1Xバッファで3回洗浄した。タンパク質サンプルを1μg/μlで標準化し、そして、SAMPL DILバッファ(INNOTEST hTau Ag kit、FUJIREBIO)で希釈した。タンパク質サンプル及びビオチン化抗体(HT7/BT2、INNOTEST hTau Ag kit、FUJIREBIO)を添加し、そして、該プレートを室温で一晩インキュベートした。ウェルを4回洗浄し、次いで、ペルオキシダーゼで標識されたストレプトアビジンと共に室温で30分間インキュベートし、そして、4回洗浄した。室温で30分間テトラメチルベンジジン基質を使用して検出を実施し;H2SO4でアッセイを停止させ、そして、分光光度計(Multiskan Ascent, Thermo Labsystems)で450nmにおける吸光度を読み取った。
【0120】
結果
間接ELISAは、タウタンパク質のN-アルファ末端アセチル化メチオニン11に対する2H2/D11抗体の特異性を再現性よく検証した。実際、2H2/D11は、遊離非N-アルファ末端アセチル化メチオニン11とも、非切断型メチオニン11とも、メチオニン11と同じアミノ酸状況にないときのN-アルファ-アセチル-メチオニンとも反応性を示さない。全タウタンパク質に対する7C12/E7抗体に関しては、3つのペプチドに対して同様の免疫反応性を示す(図7)。
【0121】
高齢対照(n=6)及びAD症例(n=10、Braak第IV~VI期)の海馬由来のタンパク質抽出物を2H2D/11ベースのサンドイッチELISAにおいて使用した。データは、興味深いことに、本発明者らの抗体がAD海馬サンプルにおいて特異的に反応することを示した(p=0.0002;マン-ホイットニー検定で比較)(図8)。
【0122】
参照文献:
本願全体を通して、本発明が関連する技術分野の最新技術について様々な参照文献が説明している。これら参照文献の開示は、参照により本開示に組み入れられる。
【表4】




図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
2023065484000001.app
【外国語明細書】