IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TOTO株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-水洗大便器 図1
  • 特開-水洗大便器 図2
  • 特開-水洗大便器 図3
  • 特開-水洗大便器 図4A
  • 特開-水洗大便器 図4B
  • 特開-水洗大便器 図5A
  • 特開-水洗大便器 図5B
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023065638
(43)【公開日】2023-05-12
(54)【発明の名称】水洗大便器
(51)【国際特許分類】
   E03D 11/02 20060101AFI20230502BHJP
【FI】
E03D11/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034009
(22)【出願日】2023-03-06
(62)【分割の表示】P 2020146383の分割
【原出願日】2020-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】守田 友昭
(72)【発明者】
【氏名】南 雄大
(72)【発明者】
【氏名】吉坂 慶太
(57)【要約】
【課題】排水トラップの屈曲部分において洗浄水の逆流を抑制して排出性能の低下を抑えること。
【解決手段】実施形態に係る水洗大便器は、洗浄水で便器本体を洗浄する水洗大便器であって、便器本体は、ボウル部と、排水トラップと、ゼット吐水口と、排出口とを備える。ボウル部は、汚物を受ける。排水トラップは、ボウル部の下部に接続される。ゼット吐水口は、排水トラップに向けて洗浄水を噴出する。排出口は、排水トラップに接続され、便器本体から汚物を排出する。排水トラップは、上昇管路と、屈曲管路と、下降管路とを備える。上昇管路は、ボウル部に接続される。屈曲管路は、上昇管路に接続され、後方に上昇する上昇屈曲部および後方に下降する下降屈曲部を有する。下降管路は、屈曲管路に接続される。排水トラップは、屈曲管路の屈曲頂部よりも下流側において、後方に向けて膨出した空間を形成し、かつ、排出口まで連続している膨出部を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄水によって便器本体を洗浄する水洗大便器であって、
前記便器本体は、
汚物を受けるボウル部と、
前記ボウル部の下部に接続される排水トラップと、
前記排水トラップの前方から該排水トラップに向けて洗浄水を噴出するゼット吐水口と、
前記排水トラップに接続され、前記便器本体から汚物を排出する排出口と
を備え、
前記排水トラップは、
前記ボウル部に接続される上昇管路と、
前記上昇管路に接続され、後方に向かうにつれて上昇する上昇屈曲部および前記上昇屈曲部から後方に向かうにつれて下降する下降屈曲部を有する屈曲管路と、
前記屈曲管路に接続される下降管路と
を備え、
前記排水トラップは、
前記屈曲管路の屈曲頂部よりも下流側において、後方に向けて膨出した空間を形成し、かつ、前記排出口まで連続している膨出部を有することを特徴とする水洗大便器。
【請求項2】
前記下降管路は、前記下降屈曲部に連続するように後方に突出し、前記排出口まで連続している突出部を有することを特徴とする請求項1に記載の水洗大便器。
【請求項3】
前記突出部は、前記下降屈曲部の上部内周面から後方に向けて水平方向に延びるように突出していることを特徴とする請求項2に記載の水洗大便器。
【請求項4】
前記突出部は、前記下降管路の後部側にのみ形成されていることを特徴とする請求項2または3に記載の水洗大便器。
【請求項5】
前記突出部の側方の幅は、前記上昇屈曲部の側方の幅と略同一であることを特徴とする請求項2~4のいずれか一つに記載の水洗大便器。
【請求項6】
前記屈曲管路は、後方に向かうにつれて上昇する上昇屈曲部および前記上昇屈曲部から後方に向かうにつれて下降する下降屈曲部で構成され、
前記下降屈曲部は、側面視において上部内周面の曲率が前記上昇屈曲部の上部内周面の曲率よりも小さいことを特徴とする請求項1~5のいずれか一つに記載の水洗大便器。
【請求項7】
前記下降屈曲部は、流路断面における上部内周面の上端部および下部内周面の下端部の間の距離が側面視において下流側に向かうにつれて大きくなることを特徴とする請求項6に記載の水洗大便器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の実施形態は、水洗大便器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水洗大便器において、上昇管路、屈曲管路および下降管路を有する排水トラップを備え、ゼット吐水口から強力な水勢の洗浄水を排水トラップに向けて噴出して強力な水流を発生させることで、サイフォン作用に頼ることなく汚物を下流側へ吹き飛ばす、いわゆるブローアウト式のものがある(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
また、水洗大便器において、排水トラップにおいて汚物を後方(下流側)に送りやすくするために、屈曲部分の下流側の内部空間を拡大しているものがある(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-206562号公報
【特許文献2】特開平10-331239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来の水洗大便器では、ブローアウト式の水洗大便器の場合、ゼット吐水によって洗浄水が拡散することなく流束が細いまま上昇管路を流れるため、排水トラップの頂部付近において洗浄水が屈曲管路の上部内周面と衝突し、洗浄水の一部が逆流することがある。このため、上昇管路で逆流する洗浄水が抵抗となって排水性能が低下することがあった。
【0006】
また、排水トラップの屈曲部分の下流側の内部空間を拡大することで洗浄水の排水力を強化することも考えられるが、排水トラップの内部空間を単に拡大するだけでは洗浄水が拡大空間に衝突して滞留し、逆に排水性能が低下してしまうおそれがある。
【0007】
実施形態の一態様は、排水トラップの屈曲部分において洗浄水の逆流を抑制することができ、排出性能の低下を抑えることができる水洗大便器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の一態様に係る水洗大便器は、洗浄水によって便器本体を洗浄する水洗大便器であって、前記便器本体は、汚物を受けるボウル部と、前記ボウル部の下部に接続される排水トラップと、前記排水トラップの前方から該排水トラップに向けて洗浄水を噴出するゼット吐水口と、前記排水トラップに接続され、前記便器本体から汚物を排出する排出口とを備え、前記排水トラップは、前記ボウル部に接続される上昇管路と、前記上昇管路に接続され、後方に向かうにつれて上昇する上昇屈曲部および前記上昇屈曲部から後方に向かうにつれて下降する下降屈曲部を有する屈曲管路と、前記屈曲管路に接続される下降管路とを備え、前記排水トラップは、前記屈曲管路の屈曲頂部よりも下流側において、後方に向けて膨出した空間を形成し、かつ、前記排出口まで連続している膨出部を有する。
【0009】
このような構成によれば、排水トラップにおいて後方に向かうにつれて膨出するような空間が形成されているため、ゼット吐水口から噴出する洗浄水が排水トラップの屈曲頂部よりも下流側に到達した際、到達した洗浄水が膨出部、すなわち、後方に向けて膨出した空間に流れ込む。これにより、排水トラップの屈曲部分(屈曲管路)において洗浄水の逆流を抑制することができる。また、このように、洗浄水の逆流を抑制することで、排出性能の低下を抑えることができる。
【0010】
また、上記した水洗大便器では、前記下降管路は、前記下降屈曲部に連続するように後方に突出し、前記排出口まで連続している突出部を有する。
【0011】
このような構成によれば、屈曲管路から排出口までの間が連続しているため、膨出部に流れ込んだ洗浄水は速やかに排出口へと導かれ、膨出部で洗浄水が滞留しない。このように、膨出部で洗浄水が滞留しないため、排出性能の低下をさらに抑えることができる。
【0012】
また、上記した水洗大便器では、前記突出部は、前記下降屈曲部の上部内周面から後方に向けて水平方向に延びるように突出している。
【0013】
このような構成によれば、突出部が屈曲管路から水平方向に延びるように突出しているため、排水トラップにおいて下降屈曲部の上部内周面から突出部へと変化する位置で下降屈曲部の上部内周面に沿って流れる洗浄水を、上部内周面から剥離させて突出部の空間内へと送ることができる。
【0014】
また、上記した水洗大便器では、前記突出部は、前記下降管路の後部側にのみ形成されている。
【0015】
このような構成によれば、突出部が下降管路の後部側にのみ形成されているため、言い換えると、突出部が下降管路の後方部分にしか形成されていないため、後方への流れのベクトルが大きくなり、排出口に向かう洗浄水の流れを強くすることができる。
【0016】
また、上記した水洗大便器では、前記突出部の側方の幅は、前記上昇屈曲部の側方の幅と略同一である。
【0017】
このような構成によれば、突出部の側方の幅が上昇屈曲部の側方の幅と略同一であるため、上昇屈曲部を流れてきた洗浄水を圧力損失が生じることなく突出部に流入させることができる。
【0018】
また、上記した水洗大便器では、前記屈曲管路は、後方に向かうにつれて上昇する上昇屈曲部および前記上昇屈曲部から後方に向かうにつれて下降する下降屈曲部で構成され、前記下降屈曲部は、側面視において上部内周面の曲率が前記上昇屈曲部の上部内周面の曲率よりも小さい。
【0019】
このような構成によれば、排水トラップの屈曲頂部よりも下流側に到達した洗浄水が衝突する下降屈曲部の上部内周面が側面視において緩やかなカーブとなっているため、洗浄水が後方側に誘導されやすく、また、下降屈曲部の上流側にある上昇屈曲部の上部内周面が側面視において下降屈曲部の上部内周面よりも急なカーブとなっているため、洗浄水が上流側に戻りにくい。
【0020】
また、上記した水洗大便器では、前記下降屈曲部は、流路断面における上部内周面の上端部および下部内周面の下端部の間の距離が側面視において下流側に向かうにつれて大きくなる。
【0021】
このような構成によれば、排水トラップの屈曲頂部よりも下流側に到達した洗浄水の下降屈曲部の上部内周面との衝突による逆流を抑えるとともに、洗浄水が排出口まで誘導されやすくなる。
【発明の効果】
【0022】
実施形態の一態様によれば、排水トラップの屈曲部分において洗浄水の逆流を抑制することができ、排出性能の低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、実施形態に係る水洗大便器を示す側断面図である。
図2図2は、図1におけるA-A線断面図である。
図3図3は、排水トラップの膨出部および突出部を示す側断面図である。
図4A図4Aは、図3におけるB-B線断面図である。
図4B図4Bは、図3におけるC-C線断面図である。
図5A図5Aは、本例における洗浄水の流れの説明図である。
図5B図5Bは、比較例における洗浄水の流れの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照して、本願の開示する水洗大便器の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0025】
<水洗大便器>
図1および図2を参照して実施形態に係る水洗大便器1の全体構成について説明する。図1は、実施形態に係る水洗大便器1を示す側断面図である。図2は、図1におけるA-A線断面図である。
【0026】
図1および図2に示すように、水洗大便器1は、便器本体2を備える。便器本体2は、たとえば、陶器製である。なお、便器本体2は、樹脂製のものでもよいし、陶器と樹脂を組み合わせて製造されたものでもよい。便器本体2は、トイレ室の壁面に取り付けられる、いわゆる壁掛け式のものである。便器本体2の後部側の上方には、洗浄水源である貯水タンク3などの給水装置が設置される。
【0027】
貯水タンク3は、上水道などの給水源(図示せず)に接続される。貯水タンク3に設けられた操作レバー(図示せず)を操作することにより洗浄操作を開始すると、貯水タンク3の排水弁(図示せず)が開き、貯水タンク3から所定の洗浄水量(たとえば、6L)が便器本体2の中央後部側の上部に開口された供給口4に供給される。なお、供給口4は、中央のみならず、前後中央線から右側または左側にずれて形成されてもよい。
【0028】
また、水洗大便器1においては、たとえば、貯水タンク3から供給される洗浄水量が3L~6Lの範囲である節水タイプの水洗大便器、好ましくは4.8L~6Lの範囲である節水タイプの水洗大便器に使用することができる。
【0029】
また、貯水タンク3などの給水装置は、このような貯水タンク3の他、規定の洗浄水量を供給できるフラッシュバルブなどの他の給水装置でもよい。
【0030】
また、便器本体2の前側上部には、ボウル部5が形成され、便器本体2の後側上部には、貯水タンク3の下流側端部が接続される供給口4と後述するリム通水路11との間に形成され、貯水タンク3から供給された洗浄水を供給口4からリム通水路11に導水する導水路6が形成される。なお、ディストリビュータなどの他の構造で導水路6およびリム通水路11の一部の流路が形成されてもよい。
【0031】
また、ボウル部5の下部は溜水部7となっており、初期水位の溜水面がWLで示される所定量の溜水が貯留されている。また、溜水部7の下端部には、排水トラップ8の入口が接続され、排水トラップ8は、その入口から後方へと延びている。
【0032】
また、ボウル部5は、ボウル形状に形成され、汚物を受けるボウル面の上縁部において洗浄水を導くリム通水路11を形成するリム部10を備える。
【0033】
導水路6は、供給口4から前方に延び、リム通水路11に接続される。導水路6は、便器本体2の略中央に配置された供給口4付近からボウル部5に向けて延びている。
【0034】
導水路6では、洗浄水W1が良好に整流され、洗浄水W1の指向性が高められ、導水路6からリム通水路11を周回しようとする向きに整った流れ、かつ、比較的水勢の強い状態の流れとなって洗浄水W1が吐出される。
【0035】
また、導水路6は、その一部が、リム通水路11の合流部分の一部と平行になるように形成される。導水路6の出口(吐水口)10a付近においては、リム通水路11を周回しようとする洗浄水W2の流れの向きと略一致するので、導水路6の吐水口10aから流出する洗浄水W1が、リム通水路11を略同一の旋回方向(周回方向)に向かって流れ、水勢を保った状態(流量および流速を略維持した状態)でリム通水路11を周回しようとする流れを形成することができる。
【0036】
これにより、導水路6からリム通水路11に合流する洗浄水W1が、リム通水路11の主流(洗浄水W2)と逆の方向に向かって流れること、後述するスリット開口部14から主流(洗浄水W2)がボウル面に流下してしまうことを抑制することができる。
【0037】
リム部10は、ボウル部5の上縁部として全周にわたって環状に形成されている。リム部は、リム外壁部12aと、リム上壁部12bと、リム内壁部12cとを備える。リム外壁部12aは、リム部10の外周面を形成し、かつ、便器本体2の外面上を頂部まで立ち上がるように立壁状に形成される。リム上壁部12bは、リム部10の上部において平坦面を形成する。リム内壁部12cは、リム部10の内周面を形成し、かつ、リム上壁部12bからやや内側の下方に向けて垂下するように延びている。
【0038】
リム部10の下部には棚部13が形成される。棚部13は、リム部10内においてボウル部5のボウル面の上縁部から外側に延びる略平坦な面として形成され、かつ、ボウル部5の略全周にわたって環状に形成される。
【0039】
リム部10とボウル部5のボウル面との間には、スリット開口部14が形成される。スリット開口部14は、リム内壁部12cと共に、リム通水路11の下方においてリム部10のボウル面に向けた吐水部を形成するように下方に向けて開口している。
【0040】
便器本体2の後部に延在している排水トラップ8は、上昇管路81と、屈曲管路82と、下降管路83とを備える。上昇管路81は、上流側の端部がボウル部5(溜水部7)に接続される。上昇管路81は、後方に向かうにつれて上昇するように傾斜した管路である。
【0041】
屈曲管路82は、上流側の端部が上昇管路81の下流側の端部に接続される。屈曲管路82は、上昇屈曲部821と、下降屈曲部822とを有する。上昇屈曲部821は、上昇管路81から連続し、後方に向かうにつれて上昇するように傾斜した部位である。下降屈曲部822は、上昇屈曲部821から連続し、後方に向かうにつれて下降するように傾斜した部位である。上昇屈曲部821と下降屈曲部822との接続部は、屈曲管路82の最も高い部位の屈曲頂部となる。
【0042】
下降管路83は、屈曲管路82の下流側の端部、すなわち、下降屈曲部822の下流側の端部に接続される。下降管路83は、後方に向かうにつれて下降するように傾斜した管路である。また、下降管路83の下流側の端部は、便器本体2から洗浄水や汚物を排出する排出口9に接続される。排出口9には、水洗大便器1外部の配管である設備配管が接続される。
【0043】
排水トラップ8の上昇管路81の前方には、排水トラップ8(上昇管路81)に向けて洗浄水を噴射するゼット吐水口20が形成される。図2に示すように、ゼット吐水口20は、ゼット導水路21の出口に形成され、ゼット導水路21の洗浄水を強力な水勢で噴射することで、サイフォン作用を発生させる。
【0044】
ここで、ゼット吐水口20から噴出された洗浄水は、拡散することなく流束が細いまま上昇管路81を流れるため、排水トラップ8の屈曲頂部付近において上部内周面と衝突し、洗浄水の一部が逆流することがある。このように、洗浄水が逆流すると、逆流する洗浄水が抵抗となって排水性能が低下することがある。このため、本実施形態では、洗浄水の逆流を抑制して排水性能の低下を抑えることが可能な構造の排水トラップ8としている。
【0045】
<排水トラップ>
ここから、図3図5Bを参照して排水トラップ8の構造について詳細に説明する。図3は、排水トラップ8の膨出部84および突出部85を示す側断面図である。図4Aは、図3におけるB-B線断面図である。図4Bは、図3におけるC-C線断面図である。図5Aは、本例における洗浄水W31,W32の流れの説明図である。図5Bは、比較例における洗浄水W31,W32,W33の流れの説明図である。
【0046】
図3に示し、かつ、上記したように、排水トラップ8は、上昇管路81と、屈曲管路82と、下降管路83とを備える。また、屈曲管路82は、上昇屈曲部821と、下降屈曲部822とを有する。上昇屈曲部821と下降屈曲部822との接続部がこの屈曲管路82における屈曲頂部となる。
【0047】
すなわち、図3に示すように、上昇管路81は、基準線L1から基準線L2までの管路であり、屈曲管路82は、基準線L2から基準線L4までの管路であり、下降管路83は、基準線L4から基準線L5までの管路である。また、屈曲管路82において、上昇屈曲部821は、基準線L2から基準線L3までの部位であり、下降屈曲部822は、基準線L3から基準線L4までの部位である。また、屈曲管路82の屈曲頂部は、基準線L3の位置となる。
【0048】
また、排水トラップ8は、膨出部84と、突出部85とを備える。膨出部84は、屈曲管路82の屈曲頂部よりも下流側において、後方に向けて膨出している空間を形成している部位である。また、膨出部84は、屈曲管路82の屈曲頂部よりも下流側において、屈曲頂部から洗浄水の流れを妨げないように、排出口9まで連続している。ここで、「連続」とは、たとえば、排出口9までの間に洗浄水の流れを妨げるような凸部がないなど、洗浄水に対して排出口9に向かう流れとは逆向きの流れが発生しない形状のことをいう。
【0049】
突出部85は、下降屈曲部822に連続するように後方に突出している部位である。突出部85においても、洗浄水の流れを妨げないように、排出口9まで連続している。このような突出部85は、膨出部84に含まれる。
【0050】
また、突出部85は、下降屈曲部822の上部内周面から後方に向けて水平方向に延びるように突出している。なお、排水トラップ8は、その断面形状が略円形である。このため、排水トラップ8(上昇管路81、屈曲管路82(上昇屈曲部821および下降屈曲部822)および下降管路83)の上半部の内面を上部内周面(上面ともいう)、下半部の内面を下部内周面(下面ともいう)という。
【0051】
また、図4Aおよび図4Bに示すように、突出部85は、下降管路83の後部側にのみ形成されている。言い換えると、突出部85は、下降管路83の後方に向けてのみ突出し、下降管路83の側方に向けては突出していない。なお、図4Aおよび図4Bにおいても、各管路81,82,83を区画する基準線(基準線L3)を示している。
【0052】
また、図4Bに示すように、突出部85の側方の幅、すなわち、左右方向の幅は、屈曲管路82の上昇屈曲部821の側方(左右方向)の幅と略同一である。
【0053】
本実施形態では、屈曲管路82は、上昇屈曲部821と下降屈曲部822とで構成された側面視において山形状の管路である。そして、下降屈曲部822は、図5Aに示すように、側面視において、上部内周面822aの曲率が上昇屈曲部821の上部内周面821aの曲率よりも小さい。すなわち、下降屈曲部822は、上部内周面822aが上昇屈曲部821の上部内周面821aよりも緩やかなカーブとなっている。
【0054】
また、下降屈曲部822は、その流路断面における上部内周面の上端部と下部内周面の下端部との間の距離が側面視において下流側に向かうにつれて大きくなる。すなわち、下降屈曲部822は、その管径が下流側に向けて末広がりとなっている。
【0055】
<排水トラップにおける洗浄水の流れの態様>
ここで、図5Aおよび図5Bを参照して排水トラップ8における洗浄水W31,W32,W33の流れの態様について説明する。なお、図5Aには、本例(排水トラップ8)における洗浄水W31,W32の流れの態様を示し、図5Bは、比較例(従来の排水トラップ40)における洗浄水W31,W32,W33の流れの態様を示している。
【0056】
図5Aに示すように、本例の排水トラップ8では、ゼット吐水口20(図3参照)によって上昇管路81を強い水勢で流れてきた洗浄水W31は、屈曲管路82の屈曲頂部(基準線L3の部位)よりも下流側に到達すると、膨出部84に流れ込む。このため、膨出部84に流れ込んだ洗浄水W32は、途中で流れが妨げられることなく、排出口9まで流れる。この場合、突出部85が形成されているため、膨出部84に流れ込んだ洗浄水W32は、速やかに排出口9へと導かれ、膨出部84で滞留しない。
【0057】
図5Bに示すように、比較例の排水トラップ40では、上昇管路41を強い水勢で流れてきた洗浄水W31は、屈曲管路42の屈曲頂部(基準線L3の部位)よりも下流側に到達すると、洗浄水W32のように下降管路43に流れるものの、下降屈曲部422の上部内周面に衝突して上昇屈曲部421に戻る成分(洗浄水W33)が発生する。このように、比較例の排水トラップ40では、逆流する洗浄水W33によって、洗浄水W31の流れが妨げられてしまう。
【0058】
本例の排水トラップ8では、比較例の排水トラップ40のような洗浄水W31の逆流がないため、洗浄水W31の流れが妨げられることはない。
【0059】
このように、実施形態に係る水洗大便器1によれば、排水トラップ8において後方に向かうにつれて膨出するような空間が形成されているため、ゼット吐水口20から噴出する洗浄水W3が排水トラップ8の屈曲頂部よりも下流側に到達した際、到達した洗浄水W3が膨出部84、すなわち、後方に向けて膨出した空間に流れ込む。これにより、排水トラップ8の屈曲部分(屈曲管路82)において洗浄水W3の逆流を抑制することができる。また、このように、洗浄水W3の逆流を抑制することで、排出性能の低下を抑えることができる。
【0060】
また、屈曲管路82から排出口9までの間が連続しているため、膨出部84に流れ込んだ洗浄水W32は速やかに排出口9へと導かれ、膨出部84で洗浄水W32が滞留しない。このように、膨出部84で洗浄水W32が滞留しないため、排出性能の低下をさらに抑えることができる。
【0061】
また、突出部85が屈曲管路82から水平方向に延びるように突出しているため、排水トラップ8において下降屈曲部822の上部内周面822aから突出部85へと変化する位置で下降屈曲部822の上部内周面822aに沿って流れる洗浄水W32を、上部内周面822aから剥離させて突出部85の空間内へと送ることができる。
【0062】
また、突出部85が下降管路83の後部側にのみ形成されているため、言い換えると、突出部85が下降管路83の後部部分にしか形成されていないため、後方への流れのベクトルが大きくなり、排出口9に向かう洗浄水W32の流れを強くすることができる。
【0063】
また、突出部85の側方の幅が上昇屈曲部821の側方の幅と略同一であるため、上昇屈曲部821を流れてきた洗浄水W31を圧力損失が生じることなく突出部85に流入させることができる。
【0064】
また、排水トラップ8の屈曲頂部よりも下流側に到達した洗浄水W31が衝突する下降屈曲部822の上部内周面822aが側面視において緩やかなカーブとなっているため、洗浄水W31が後方側に誘導されやすく、また、下降屈曲部822の上流側にある上昇屈曲部821の上部内周面821aが側面視において下降屈曲部822の上部内周面822aよりも急なカーブとなっているため、洗浄水W31が上流側に戻りにくい。
【0065】
また、下降屈曲部822の管径が下流側に向けて末広がりとなっているため、排水トラップ8の屈曲頂部よりも下流側に到達した洗浄水W31の下降屈曲部822の上部内周面822aとの衝突による逆流を抑えるとともに、洗浄水W32が排出口9まで誘導されやすくなる。
【0066】
なお、上記した実施形態では、水洗大便器1(便器本体2)が壁掛け式のものであるが、これに限定されず、たとえば、床置き式のものであってもよい。この場合、排出口9は、たとえば、下降管路83の直下に配置される。
【0067】
また、上記した実施形態では、屈曲管路82が上昇屈曲部821と下降屈曲部822とで構成された山形状の管路であるが、上昇屈曲部821と下降屈曲部822とを有しつつ他の部位も有する管路であってもよい。
【0068】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 水洗大便器
2 便器本体
5 ボウル部
8 排水トラップ
81 上昇管路
82 屈曲管路
821 上昇屈曲部
821a 上部内周面
822 下降屈曲部
822a 上部内周面
83 下降管路
84 膨出部
85 突出部
9 排出口
20 ゼット吐水口
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B