(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023065646
(43)【公開日】2023-05-12
(54)【発明の名称】高次アンビソニックス・オーディオ信号からステレオ・ラウドスピーカー信号を復号する方法および装置
(51)【国際特許分類】
H04S 7/00 20060101AFI20230502BHJP
【FI】
H04S7/00 300
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023034396
(22)【出願日】2023-03-07
(62)【分割の表示】P 2021097063の分割
【原出願日】2013-03-20
(31)【優先権主張番号】12305356.3
(32)【優先日】2012-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】510185767
【氏名又は名称】ドルビー・インターナショナル・アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】ケイラー,フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】ベーム,ヨハネス
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高次アンビソニックス・オーディオ信号からステレオ・ラウドスピーカー信号を復号する方法及び装置を提供する。
【解決手段】高次アンビソニックス(HOA)についてのステレオ・デコーダのための処理において、所望されるパン関数は、ラウドスピーカー間での仮想源の配置のためのパン則から導出する。各ラウドスピーカーについて、すべての可能な入力方向についての所望されるパン関数が定義される。パン関数は円調和関数によって近似され、アンビソニックス次数が増すほど近似は所望されるパン関数に少ない誤差で一致する。ラウドスピーカーの間の前方領域については特に、正接則またはベクトル基底振幅パン(VBAP)のようなパン則が使われる。後方への方向については、これらの方向からのサウンドのわずかな減衰をもったパン関数が定義される。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高次アンビソニックス(HOA)・オーディオ信号を復号する方法であって、当該方法は:
前記HOAオーディオ信号を受領する段階と;
パン関数値の行列Gを決定する段階であって、前記行列Gは球上のS個の仮想サンプリング点のそれぞれについて、利得ベクトルg1…gsを含み、少なくとも、ラウドスピーカー位置の反対側に位置する第一の仮想サンプリング点についての第一のパン関数値はゼロに近づき、少なくとも、前記ラウドスピーカー位置の近くに位置する第二の源についての第二のパン関数値はゼロに近づかない値をもつ、段階と;前記行列Gに基づいて復号行列Dを決定する段階と;
少なくとも一つのプロセッサによって、前記復号行列に基づいて、前記HOAオーディオ信号をステレオ・ラウドスピーカー信号にレンダリングする段階とを含む、
方法。
【請求項2】
前記行列GはサイズL×Sをもち、Lはラウドスピーカーの数に対応する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記利得ベクトルg1…gsは、L個のラウドスピーカーのS個の方向におけるパンされた混合を達成するようにされる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
一つまたは複数のプロセッサによって実行されたときに一つまたは複数のプロセッサに請求項1に記載の方法を実行させる命令を記憶している非一時的なコンピュータ読み取り可能な媒体。
【請求項5】
高次アンビソニックス(HOA)・オーディオ信号を復号する装置であって、当該装置は:
前記HOAオーディオ信号を受領するように構成された第一の受領器と;
パン関数値の行列Gを決定するように構成された第一のプロセッサであって、前記行列Gは球上のS個の仮想サンプリング点のそれぞれについて、利得ベクトルg1…gsを含み、少なくとも、ラウドスピーカー位置の反対側に位置する第一の仮想サンプリング点についての第一のパン関数値はゼロに近づき、少なくとも、前記ラウドスピーカー位置の近くに位置する第二の源についての第二のパン関数値はゼロに近づかない値をもつ、第一のプロセッサと;
前記行列Gに基づいて復号行列Dを決定する第二のプロセッサと;
前記復号行列に基づいて、前記HOAオーディオ信号をステレオ・ラウドスピーカー信号にレンダリングするレンダラーとを有する、
装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円上のサンプリング点についてのパン関数を使って高次アンビソニックス・オーディオ信号からステレオ・ラウドスピーカー信号を復号する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステレオ・ラウドスピーカーまたはヘッドホン・セットアップについてのアンビソニックス表現の復号は、一次アンビソニックスについては、たとえば非特許文献1の式(10)から、また非特許文献2から知られている。これらのアプローチは、特許文献1に開示されるブラムライン(Blumlein)ステレオに基づいている。もう一つのアプローチはモード・マッチングを使う:非特許文献3。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】英国特許第394325号
【特許文献2】国際公開第2011/117399号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J.S. Bamford, J. Vender-kooy、"Ambisonic sound for us"、Audio Engineering Society Preprints, Convention paper 4138、99th Conventionで呈示、October 1995、New York
【非特許文献2】XiphWiki-Ambisonics http://wiki.xiph.org/index.php/Ambisonics#Default_channel_conversions_from_B-Format
【非特許文献3】M.A. Poletti、"Three-Dimensional Surround Sound Systems Based on Spherical Harmonics"、J. Audio Eng. Soc., vol.53(11), pp.1004-1025, November 2005
【非特許文献4】S. Weinzierl、"Handbuch der Audiotechnik"、Springer, Berlin, 2008、3.3.4.1節
【非特許文献5】J.M. Batke, F. Keiler、"Using VBAP-derived panning functions for 3D Ambisonics decoding"、Proc. of the 2nd International Symposium on Ambisonics and Spherical Acoustics, May 6-7 2010, Paris, France、URL http://ambisonics10.ircam.fr/drupal/files/proceedings/presentations/O14_47.pdf
【非特許文献6】V. Pulkki、"Virtual sound source positioning using vector base amplitude panning"、J. Audio Eng. Society, 45(6), pp.456-466, June 1997
【非特許文献7】Earl G. Williams、"Fourier Acoustics"、vol.93 of Applied Mathematical Sciences, Academic Press, 1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そのような一次アンビソニックス・アプローチは、8の字パターンを有する仮想マイクロホンをもつブラムライン・ステレオ(特許文献1)に基づくアンビソニックス・デコーダと同様に、高い負のサイドローブをもつか、前方方向での定位が貧弱になる。負のサイドローブでは、たとえば、後方右方向からのサウンド・オブジェクトが左のステレオ・ラウドスピーカーで再生される。
【0006】
本発明によって解決されるべき課題は、改善されたステレオ信号出力をもつアンビソニックス信号復号を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、請求項1および2に開示される方法によって解決される。これらの方法を利用する装置は、請求項3に開示される。
【0008】
本発明は、高次アンビソニックス(HOA: higher-order Ambisonics)オーディオ信号についてのステレオ・デコーダのための処理を記述する。所望されるパン関数(panning functions)は、ラウドスピーカー間での仮想源の配置のためのパン則(panning law)から導出できる。各ラウドスピーカーについて、すべての可能な入力方向についての所望されるパン関数が定義される。アンビソニックス復号行列は、非特許文献5および特許文献2の対応する記載と同様に計算される。パン関数は円調和関数によって近似され、アンビソニックス次数が増すほど近似は所望されるパン関数に少ない誤差で一致する。ラウドスピーカーの中間の前方領域については特に、正接則またはベクトル基底振幅パン(VBAP: vector base amplitude panning)のようなパン則を使うことができる。ラウドスピーカー位置を越えた後方への方向については、これらの方向からのサウンドのわずかな減衰をもったパン関数が使われる。
【0009】
特殊なケースは、ラウドスピーカー方向をポイントするカージオイド・パターンの半分を後方方向のために使うことである。
【0010】
本発明では、高次アンビソニックスのより高い空間分解能が特に前方領域において活用され、後方方向における負のサイドローブの減衰がアンビソニックス次数が増すとともに大きくなる。本発明は、半円または半円より小さな円弧〔円セグメント〕上に配置される三つ以上のラウドスピーカーがあるラウドスピーカー・セットアップのためにも使用できる。本発明はまた、いくつかの空間領域がより大きな減衰を受ける、より芸術的な、ステレオへのダウンミックスを容易にする。これは、改善された直接音対拡散音の比を生成するために有益であり、ダイアログの了解性をよくすることができる。
【0011】
本発明に基づくステレオ・デコーダは、いくつかの重要な属性を備える:ラウドスピーカーの間の前方方向における良好な定位、結果として得られるパン関数における小さな負のサイドローブのみおよび後方方向の軽微な減衰。また、二チャネル・バージョンを聞くときに普通なら騒がしいまたは煩わしいと知覚されうる諸空間領域の減衰またはマスキングも可能にする。
【0012】
特許文献2と比較して、所望されるパン関数は円弧ごとに定義され、ラウドスピーカー位置の中間での前方領域ではよく知られたパン処理(たとえばVBAPまたは正接則)が使用でき、その一方、後方方向はわずかに減衰されることができる。そのような属性は、一次アンビソニックス・デコーダを使うときには実現可能ではない。
【0013】
原理的には、本発明の方法は、高次アンビソニックス・オーディオ信号a(t)からステレオ・ラウドスピーカー信号l(t)を復号するために好適であり、当該方法は:
・左右のラウドスピーカーの方位角値からおよび円上の仮想サンプリング点の数Sから、すべての仮想サンプリング点についての所望されるパン関数を含む行列Gを計算する段階であって、
【数1】
であり、g
L(φ)およびg
R(φ)要素はS個の異なるサンプリング点についてのパン関数である、段階と;
・前記アンビソニックス・オーディオ信号a(t)の次数Nを判別する段階と;
・前記数Sからおよび前記次数Nから、モード行列Ξおよび該モード行列Ξの対応する擬似逆行列Ξ
+を計算する段階であって、Ξ=[y
*(φ
1),y
*(φ
2),…,y
*(φ
S)]であり、y
*(φ)=[Y
*
-N(φ),…,Y
*
0(φ),…,Y
*
N(φ)]
Tは前記アンビソニックス・オーディオ信号a(t)の円調和関数ベクトルy(φ)=[Y
-N(φ),…,Y
0(φ),…,Y
N(φ)]
Tの複素共役であり、Y
m(φ)は円調和関数である、段階と;
・前記行列GおよびΞ
+から復号行列D=GΞ
+を計算する段階と;
・ラウドスピーカー信号l(t)=Da(t)を計算する段階とを含む。
【0014】
原理的には、本発明の方法は、2D高次アンビソニックス・オーディオ信号a(t)からステレオ・ラウドスピーカー信号l(t)=Da(t)を復号するために使用できる復号行列Dを決定するために好適であり、当該方法は:
・前記アンビソニックス・オーディオ信号a(t)の次数Nを受領する段階と;
・左右のラウドスピーカーの所望される方位角値(φ
L,φ
R)からおよび円上の仮想サンプリング点の数Sから、すべての仮想サンプリング点についての所望されるパン関数を含む行列Gを計算する段階であって、
【数2】
であり、g
L(φ)およびg
R(φ)要素はS個の異なるサンプリング点についてのパン関数である、段階と;
・前記数Sからおよび前記次数Nから、モード行列Ξおよび該モード行列Ξの対応する擬似逆行列Ξ
+を計算する段階であって、Ξ=[y
*(φ
1),y
*(φ
2),…,y
*(φ
S)]であり、y
*(φ)=[Y
*
-N(φ),…,Y
*
0(φ),…,Y
*
N(φ)]
Tは前記アンビソニックス・オーディオ信号a(t)の円調和関数ベクトルy(φ)=[Y
-N(φ),…,Y
0(φ),…,Y
N(φ)]
Tの複素共役であり、Y
m(φ)は円調和関数である、段階と;
・前記行列GおよびΞ
+から復号行列D=GΞ
+を計算する段階とを含む。
【0015】
原理的には、本発明の装置は、高次アンビソニックス・オーディオ信号a(t)からステレオ・ラウドスピーカー信号l(t)を復号するために好適であり、当該装置は:
・左右のラウドスピーカーの方位角値からおよび円上の仮想サンプリング点の数Sから、すべての仮想サンプリング点についての所望されるパン関数を含む行列Gを計算するよう適応された手段であって、
【数3】
であり、g
L(φ)およびg
R(φ)要素はS個の異なるサンプリング点についてのパン関数である、手段と;
・前記アンビソニックス・オーディオ信号a(t)の次数Nを判別するよう適応された手段と;
・前記数Sからおよび前記次数Nから、モード行列Ξおよび該モード行列Ξの対応する擬似逆行列Ξ
+を計算するよう適応された手段であって、Ξ=[y
*(φ
1),y
*(φ
2),…,y
*(φ
S)]であり、y
*(φ)=[Y
*
-N(φ),…,Y
*
0(φ),…,Y
*
N(φ)]
Tは前記アンビソニックス・オーディオ信号a(t)の円調和関数ベクトルy(φ)=[Y
-N(φ),…,Y
0(φ),…,Y
N(φ)]
Tの複素共役であり、Y
m(φ)は円調和関数である、手段と;
・前記行列GおよびΞ
+から復号行列D=GΞ
+を計算するよう適応された手段と;
・ラウドスピーカー信号l(t)=Da(t)を計算するよう適応された手段とを含む。
【0016】
本発明の有利な追加的な実施形態がそれぞれの従属請求項に開示されている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本発明の例示的な実施形態は、付属の図面を参照して記述される。
【
図1】所望されるパン関数、ラウドスピーカー位置φ
L=30°、φ
R=-30°である。
【
図2】極座標図での所望されるパン関数、ラウドスピーカー位置φ
L=30°、φ
R=-30°である。
【
図3】N=4についての結果として得られるパン関数、ラウドスピーカー位置φ
L=30°、φ
R=-30°である。
【
図4】極座標図でのN=4についての結果として得られるパン関数、ラウドスピーカー位置φ
L=30°、φ
R=-30°である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
復号処理の第一段階では、ラウドスピーカーの位置が定義される必要がある。それらのラウドスピーカーは聴取位置から同じ距離をもつと想定され、そのためラウドスピーカー位置は方位角によって定義される。方位角はφで表わされ、反時計回りに測られる。左右のラウドスピーカーの方位角はφLおよびφRであり、対称的なセットアップではφR=-φLである。典型的な値はφL=30°である。以下の記述では、すべての角度値は、2π(ラジアン)または360°の整数倍のオフセットをもって解釈されることができる。
【0019】
円上の仮想サンプリング点が定義されるべきである。これらはアンビソニックス復号処理において使われる仮想源の方向であり、これらの方向について、たとえば二つの実ラウドスピーカー位置のための所望されるパン関数値が定義される。仮想サンプリング点の数はSで表わされ、対応する方向は円のまわりに均等に分布している。よって、
【数4】
Sは2N+1より大きくあるべきであり、Nはアンビソニックス次数を表わす。実験は、有利な値がS=8Nであることを示している。
【0020】
左右のラウドスピーカーについての所望されるパン関数gL(φ)およびgR(φ)が定義される必要がある。特許文献2および非特許文献5のアプローチとは対照的に、パン関数は複数のセグメントについて定義され、それらのセグメントについて異なるパン関数が使われる。たとえば、所望されるパン関数について、三つのセグメントが使われる:
a)二つのラウドスピーカーの間の前方方向については、よく知られたパン則が使われる。たとえば正接則または等価だが非特許文献6に記載されるようなベクトル基底振幅パン(VBAP)である。
b)ラウドスピーカー円セクション位置を越えた方向については、後方方向についてのわずかな減衰が定義される。それによりパン関数のこの部分はラウドスピーカー位置のほぼ反対の角度において0の値に近づく。
c)所望されるパン関数の残りの部分は、右からの音の左のラウドスピーカーでの再生および左からの音の右のラウドスピーカーでの再生を防ぐために、0と置かれる。
【0021】
所望されるパン関数が0に近づく点または角度値は、左のラウドスピーカーについてはφL,0によって、右のラウドスピーカーについてはφR,0によって定義される。左右のラウドスピーカーについての所望されるパン関数は次のように表わせる。
【0022】
【数5】
パン関数g
L,1(φ)およびg
R,1(φ)はラウドスピーカー位置の間でのパン則を定義する。一方、パン関数g
L,2(φ)およびg
R,2(φ)は典型的には後方方向についての減衰を定義する。交差点では次の属性が満たされるべきである。
【0023】
【数6】
所望されるパン関数は仮想サンプリング点においてサンプリングされる。すべての仮想サンプリング点について所望されるパン関数値を含む行列が
【数7】
によって定義される。実または複素数値のアンビソニックス円調和関数はY
m(φ)である。ここで、m=-N,…,Nであり、Nは上述したアンビソニックス次数である。円調和関数は球面調和関数の方位角依存部分によって表わされる。非特許文献7参照。実数値の円調和関数
【数8】
を用いると、円調和関数は典型的には次式によって定義される。
【0024】
【数9】
ここで、チルダ付きのN
mおよびN
mは使用される規格化方式に依存するスケーリング因子である。
【0025】
円調和関数はベクトルに組み合わされる。
【0026】
y(φ)=[Y-N(φ),…,Y0(φ),…,YN(φ)]T (11)
(・)*によって表わされる複素共役は次を与える。
【0027】
y*(φ)=[Y*
-N(φ),…,Y*
0(φ),…,Y*
N(φ)]T (12)
これらの仮想サンプリング点についてのモード行列は
Ξ=[y*(φ1),y*(φ2),…,y*(φS)] (13)
によって定義される。結果として得られる2D復号行列は
D=GΞ+ (14)
によって計算される。ここで、Ξ+は行列Ξの擬似逆行列である。式(1)で与えられるような均等分布した仮想サンプリング点については、擬似逆行列はΞHのスケーリングされたバージョンによって置換できる。ΞHはΞの随伴(共役転置)である。この場合、復号行列は
D=αGΞH (15)
である。ここで、スケーリング因子αは、円調和関数の規格化方式および設計方向Sの数に依存する。
【0028】
時点tについてラウドスピーカー・サンプル信号を表わすベクトルl(t)は
l(t)=Da(t) (16)
によって計算される。
【0029】
三次元高次アンビソニックス信号a(t)を入力信号として使うとき、二次元空間への適切な変換が適用され、変換されたアンビソニックス係数a'(t)を与える。この場合、式(16)はl(t)=Da'(t)と変えられる。
【0030】
すでにその3D/2D変換を含んでおり、3Dアンビソニックス信号a(t)に直接適用される行列D3Dを定義することも可能である。
【0031】
以下では、ステレオ・ラウドスピーカー・セットアップのためのパン関数の例を記述する。ラウドスピーカー位置の中間では、式(2)および式(3)からのパン関数gL,1(φ)およびgR,1(φ)およびVBAPに基づくパン利得が使われる。これらのパン関数は、ラウドスピーカー位置にその最大値をもつカージオイド・パターンの半分によって続けられる。角φL,0およびφR,0は、ラウドスピーカー位置の反対の位置をもつよう定義される:
φL,0=φL+π (17)
φR,0=φR+π (18)
規格化されたパン利得はgL,1(φL)=1およびgR,1(φR)=1を満たす。φLおよびφRのほうを向くカージオイド・パターンは
gL,2(φ)=(1/2)(1+cos(φ-φL)) (19)
gR,2(φ)=(1/2)(1+cos(φ-φR)) (20)
によって定義される。
【0032】
復号の評価のために、任意の入力方向についての結果として得られるパン関数は
W=DΥ (21)
によって得られる。ここで、Υは考えている入力方向のモード行列である。Wは、アンビソニックス復号プロセスを適用するときの使用される入力方向および使用されるラウドスピーカー位置についてのパン重みを含む行列である。
【0033】
図1および
図2は、所望される(すなわち、理論的なまたは完璧な)パン関数を、それぞれ線形角度スケールに対しておよび極座標形式で、描いている。アンビソニックス復号についての結果として得られるパン重みは、使用された入力方向について式(21)を使って計算される。
図3および
図4は、アンビソニックス次数N=4について計算された、対応する、結果として得られるパン関数を、それぞれ線形角度スケールに対しておよび極座標形式で、描いている。
【0034】
図3、
図4を
図1、
図2と比較すると、所望されるパン関数がよく一致されており、結果として生じる負のサイドローブが非常に小さいことがわかる。
【0035】
以下では、3Dから2Dへの変換の例が、複素数値の球面調和関数および円調和関数について提供される(実数値基底関数については同様の仕方で実行できる)。3Dアンビソニックスのための球面調和関数は
【数10】
である。ここで、n=0,…,Nは次数(order)のインデックスであり、m=-n,…,nは度数(degree)のインデックスであり、M
n,mは規格化方式に依存する規格化因子であり、θは傾斜角であり、P
n
m(・)はルジャンドル陪関数である。3Dの場合についての所与のアンビソニックス係数
【数11】
を用いると、2D係数は
【数12】
によって計算される。ここで、
【数13】
はスケーリング因子である。
【0036】
図5では、所望されるパン関数を計算するステップまたは段階51が左右のラウドスピーカーの方位角φ
Lおよびφ
Rの値ならびに仮想サンプリング点の数Sを受領し、それから――上記のように――すべての仮想サンプリング点についての所望されるパン関数値を含む行列Gを計算する。アンビソニックス信号a(t)から、次数Nがステップ/段階52において導出される。SおよびNから、ステップ/段階53において、式(11)ないし(13)に基づいてモード行列Ξが計算される。
【0037】
ステップまたは段階54は行列Ξの擬似逆行列Ξ+を計算する。行列GおよびΞ+から、復号行列Dは式(15)に従ってステップ/段階55において計算される。ステップ/段階56では、復号行列Dを使ってアンビソニックス信号a(t)からラウドスピーカー信号l(t)が計算される。アンビソニックス入力信号a(t)が三次元の空間的(spatial)信号である場合には、3Dから2Dの変換がステップまたは段階57において実行されることができ、ステップ/段階56は2Dアンビソニックス信号a'(t)を受領する。
【0038】
いくつかの態様を記載しておく。
〔態様1〕
三次元の空間的な高次アンビソニックス・オーディオ信号a(t)からステレオ・ラウドスピーカー信号l(t)を復号する方法であって、当該方法は:
・左右のラウドスピーカーの方位角値からおよび円上の仮想サンプリング点の数Sから、すべての仮想サンプリング点についての所望されるパン関数を含む行列Gを計算する段階であって、
【数14】
であり、g
L(φ)およびg
R(φ)要素はS個の異なるサンプリング点についてのパン関数である、段階と;
・前記アンビソニックス・オーディオ信号a(t)の次数Nを判別する段階(52)と;
・前記数Sからおよび前記次数Nから、モード行列Ξおよび該モード行列Ξの対応する擬似逆行列Ξ
+を計算する段階(53、54)であって、Ξ=[y
*(φ
1),y
*(φ
2),…,y
*(φ
S)]であり、y
*(φ)=[Y
*
-N(φ),…,Y
*
0(φ),…,Y
*
N(φ)]
Tは前記アンビソニックス・オーディオ信号a(t)の円調和関数ベクトルy(φ)=[Y
-N(φ),…,Y
0(φ),…,Y
N(φ)]
Tの複素共役であり、Y
m(φ)は円調和関数である、段階と;
・前記行列GおよびΞ
+から復号行列D=GΞ
+を計算する段階(55)と;
・ラウドスピーカー信号l(t)=Da(t)を計算する段階(56)であって、この計算のためにa(t)の3Dから2Dへの変換(57)が実行される、段階とを含む、
方法。
〔態様2〕
2D高次アンビソニックス・オーディオ信号a(t)からステレオ・ラウドスピーカー信号l(t)=Da(t)を復号する(56)ために使用できる復号行列Dを決定する方法であって、当該方法は:
・前記アンビソニックス・オーディオ信号a(t)の次数Nを受領する段階(52)と;
・左右のラウドスピーカーの所望される方位角値(φ
L,φ
R)からおよび円上の仮想サンプリング点の数Sから、すべての仮想サンプリング点についての所望されるパン関数を含む行列Gを計算する段階(51)であって、
【数15】
であり、g
L(φ)およびg
R(φ)要素はS個の異なるサンプリング点についてのパン関数である、段階と;
・前記数Sからおよび前記次数Nから、モード行列Ξおよび該モード行列Ξの対応する擬似逆行列Ξ
+を計算する段階(53、54)であって、Ξ=[y
*(φ
1),y
*(φ
2),…,y
*(φ
S)]であり、y
*(φ)=[Y
*
-N(φ),…,Y
*
0(φ),…,Y
*
N(φ)]
Tは前記アンビソニックス・オーディオ信号a(t)の円調和関数ベクトルy(φ)=[Y
-N(φ),…,Y
0(φ),…,Y
N(φ)]
Tの複素共役であり、Y
m(φ)は円調和関数である、段階と;
・前記行列GおよびΞ
+から復号行列D=GΞ
+を計算する段階(55)とを含む、
方法。
〔態様3〕
三次元の空間的な高次アンビソニックス・オーディオ信号a(t)からステレオ・ラウドスピーカー信号l(t)を復号する装置であって、当該装置は:
・左右のラウドスピーカーの方位角値(φ
L,φ
R)からおよび円上の仮想サンプリング点の数Sから、すべての仮想サンプリング点についての所望されるパン関数を含む行列Gを計算するよう適応された手段(51)であって、
【数16】
であり、g
L(φ)およびg
R(φ)要素はS個の異なるサンプリング点についてのパン関数である、手段と;
・前記アンビソニックス・オーディオ信号a(t)の次数Nを判別するよう適応された手段(52)と;
・前記数Sからおよび前記次数Nから、モード行列Ξおよび該モード行列Ξの対応する擬似逆行列Ξ
+を計算するよう適応された手段(53、54)であって、Ξ=[y
*(φ
1),y
*(φ
2),…,y
*(φ
S)]であり、y
*(φ)=[Y
*
-N(φ),…,Y
*
0(φ),…,Y
*
N(φ)]
Tは前記アンビソニックス・オーディオ信号a(t)の円調和関数ベクトルy(φ)=[Y
-N(φ),…,Y
0(φ),…,Y
N(φ)]
Tの複素共役であり、Y
m(φ)は円調和関数である、手段と;
・前記行列GおよびΞ
+から復号行列D=GΞ
+を計算するよう適応された手段(55)と;
・ラウドスピーカー信号l(t)=Da(t)を計算するよう適応された手段(56)であって、l(t)=Da(t)を計算するためにa(t)の3Dから2Dへの変換(57)が実行される、手段とを含む、
装置。
〔態様4〕
前記パン関数が前記円上の複数のセグメントについて定義され、前記複数のセグメントについて異なるパン関数が使用される、態様1または2記載の方法または態様3記載の装置。
〔態様5〕
前記ラウドスピーカーの中間の前方領域については正接則またはベクトル基底振幅パンVBAPがパン則として使用される、態様1、2または4記載の方法または態様3または4記載の装置。
〔態様6〕
前記ラウドスピーカー位置を越えた後方への方向については、これらの方向からの音の減衰をもつパン関数が使用される、態様1、2、4および5のうちいずれか一項記載の方法または態様3ないし5のうちいずれか一項記載の装置。
〔態様7〕
三つ以上のラウドスピーカーが前記円のあるセグメント上に配置される、態様1、2、4、5、6のうちいずれか一項記載の方法または態様3ないし6のうちいずれか一項記載の装置。
〔態様8〕
S=8Nである、態様1、2、4、5、6、7のうちいずれか一項記載の方法または態様3ないし7のうちいずれか一項記載の装置。
〔態様9〕
均等に分布した仮想サンプリング点の場合、前記復号行列D=GΞ
+は復号行列D=αGΞ
Hで置き換えられ、Ξ
HはΞの随伴であり、スケーリング因子αは前記円調和関数の規格化方式およびSに依存する、態様1、2、4、5、6、7、8のうちいずれか一項記載の方法または態様3ないし8のうちいずれか一項記載の装置。
【外国語明細書】