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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023006565
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】免震台ユニット、および免震プレート
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/04 20060101AFI20230111BHJP
   A47B 97/00 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
F16F15/04 F
F16F15/04 E
A47B97/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021109234
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】508267484
【氏名又は名称】菊地 武志
(74)【代理人】
【識別番号】100111224
【弁理士】
【氏名又は名称】田代 攻治
(72)【発明者】
【氏名】菊地 武志
【テーマコード(参考)】
3J048
【Fターム(参考)】
3J048BG04
3J048DA01
3J048EA13
(57)【要約】
【課題】地震の揺れを吸収する摺動面を樹脂シート貼付けから樹脂コート塗布に改め、作業性の改善と低摩擦係数を実現する免震台ユニット、免震プレートを提供する。
【解決手段】免震台ユニット1は、クッションシート52(62)をサンドイッチ状に挟む一対の平坦な硬質支承板51、53(61、63)からなる免震部材50、60の2つと、両免震部材を重ね合わせた状態で両者を束ねる伸縮性の拘束ベルト70から構成される。免震部材50、60の相互に対向する支承板53、63の各表面には低摩擦材からなる摺動層54、64がそれぞれ形成され、摺動層54、64のいずれか一方もしくは双方が、支承板53、63に塗布されて加熱硬化されたポリ四フッ化エチレンを含む樹脂コート層か、もしくは粉体塗装により塗布されて加熱硬化されたビーズ材を含むエポキシ・ポリエステル系のサテンコート層である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の内部もしくはその周辺に配置された家具等と、前記建物の床面との間に配置され、地震の際に前記家具等の倒壊もしくは損壊を防ぐための免震台ユニットにおいて、
前記免震台ユニットが、振動吸収材からなるクッションシートをサンドイッチ状に挟む一対の平坦な硬質支承板からなる免震部材の2つと、前記2つの免震部材を重ね合わせた状態で両者を束ねて拘束する伸縮性の拘束ベルトとから構成され、
前記重ね合される2つの免震部材の相互に対向する側の前記支承板の表面に、地震時に相互間の摺動により揺れを吸収する低摩擦材からなる摺動層がそれぞれ形成され、
前記摺動層のいずれか一方もしくは双方が、当該支承板の表面に塗布されて加熱硬化されたポリ四フッ化エチレンを含むフッ素樹脂コート層、もしくは粉体塗装により塗布されて加熱硬化させたビーズ材を含むエポキシ・ポリエステル系のサテンコート層のいずれかであることを特徴とする免震台ユニット。
【請求項2】
前記相互に対向する支承板の表面にそれぞれ形成された前記摺動層のいずれか他方が、亜鉛メッキ鋼板の亜鉛メッキ層、当該支承板の表面に貼り付けられたポリ四フッ化エチレンシート層、もしくは同じく当該支承板の表面に貼り付けられた超高分子ポリエチレンシート層のいずれである、請求項1に記載された免震台ユニット。
【請求項3】
前記摺動層のいずれか一方が前記支承板の表面に粉体塗装により塗布されて加熱硬化させたビーズ材を含むエポキシ・ポリエステル系のサテンコート層であり、前記摺動層のいずれか他方が前記支承板の表面に貼り付けられた淀川ヒューテック株式会社製TF45シリーズのポリ四フッ化エチレンシート層である、請求項2に記載された免震台ユニット。
【請求項4】
前記支承板が、鉄板、鋼板、銅板、アルミニウム板を含む金属板、強化ガラス板、硬化樹脂板のいずれかからなる、請求項1に記載された免震台ユニット。
【請求項5】
前記一対の摺動部材の中間に、少なくとも1つの第3の摺動部材がさらに配置され、
当該第3の摺動部材が、振動吸収材からなるクッションシートと、当該クッションシートをサンドイッチ状に挟む一対の平坦な硬質支承板とから構成され、
前記一対の支承板のクッションシート側とは反対側となる各々の表面に低摩擦材からなる摺動層がそれぞれ形成され、
前記一対の支承板のいずれか一方もしくは双方の表面に形成された摺動層が、当該支承板の表面に塗布されて加熱硬化されたポリ四フッ化エチレンを含む樹脂コート層、もしくは粉体塗装により塗布されて加熱硬化されたビーズ材を含むエポキシ・ポリエステル系のサテンコート層のいずれかである、請求項1に記載された震台ユニット。
【請求項6】
前記結束バンドが、前記一対の摺動動部材と前記少なくとも1つの第3の摺動部材の内の隣接する摺動部材同士を束ねる複数の伸縮性の結束バンドから構成されている、請求項5に記載された免震台ユニット。
【請求項7】
前記免震台ユニットの平面形状が、多角形、円形、楕円形のいずれかである請求項1に記載された免震台ユニット。
【請求項8】
低摩擦係数の摺動層と、前記摺動層を一面に形成してこれをバックアップする平坦な硬質材料からなる支承板とから構成され、前記摺動層を床面に対向させて家具等との間に配置され、地震時の揺れを床面と当該摺動層との間の滑りで吸収して家具等の倒壊、損壊を回避する免震効果を果たす免震プレートにおいて、
前記摺動層が、前記支承板の表面に塗布されて加熱硬化されたポリ四フッ化エチレンを含むフッ素樹脂コート層、もしくは粉体塗装により塗布されて加熱硬化されたビーズ材を含むエポキシ・ポリエステル系のサテンコート層のいずれかであることを特徴とする免震プレート。
【請求項9】
前記免震プレートが、前記摺動層が形成された面と反対側の面上に、地震の上下方向の振動を吸収するクッションシートと、該クッションシートのさらに上にもう一つの支承板とを備え、前記クッションシートを一対の前記支承板でサンドイッチ状に挟む摺動部材とした、請求項8に記載された免震プレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震発生時に、家具、設備、棚にある商品など、建物内外にある物品の倒壊、損壊、落下を回避、軽減するための免震手段となる免震台ユニット、ならびに免震プレートに関する。
【背景技術】
【0002】
地震は建物自身の倒壊、損壊を招くのみならず、建物が倒壊に至らない場合にあっても、建物内部若しくはその周辺にある家具、什器、装飾品等、事務所や工場では機械、設備、備品等、商店等では棚、棚にある商品等(本明細書では、これらを総称して「家具等」という。)が倒壊、損壊に至ることがよく見られる。従来行われていたこれらへの対策は、対象となる家具等を物理的に固定することが主であった。例としては、棚類を壁に対して固定する、天井との間で倒壊防止用バーを設置する、設備を床面に固定するなどであった。しかしながら、地震力は未定の周期、加速度、速度、変位からなる波形から構成されるため、そのような地震力に対してこれらの転倒防止策では必ずしも万全ではなかった。また、商店等では商品棚が固定できても、その棚に置かれた商品の落下を防ぐものとはならなかった。
【0003】
これらの従来技術の課題に対応するため、本願出願人はこれまでいくつかの免震対策手段を開示してきた。図3はその内の1つである特許文献1に開示された免震台10を示しており、当該免震台10を床面に垂直な断面で示したものである。同図において免震台10は、床面50に対して敷設された第1のクッションシート11と、第1のクッションシート11の上に敷設された一対の低摩擦材からなる第1、第2の摺動シート12、13と、両摺動シート12、13の上にさらに敷設された第2のクッションシート14とから構成されている。図3では一般住宅への適用がされた例であり、免震台10の上にはカーペット51が敷かれ、さらにその上には一例としてテレビ52が置かれたテレビ台53が載せられている。なお、図面では便宜的に免震台10を構成する第1、第2の摺動シート12、13の間に隙間を広く設けて描いているが、これは説明および理解容易化のためであって、実際にはこれらは密着するように重ね合されている。
【0004】
第1のクッションシート11の上に第1の摺動シート12を敷設する際、第1のクッションシート11に粘着材又は接着材等を使って第1の摺動シート12を部分的に又は全面的に密着・溶着固定してもよい。その上に位置する第2の摺動シート13は第1の摺動シート12との間で摺動(滑り)自在の状態にある。この第1および第2の摺動シート12、13の間で地震の揺れを吸収するものとなるため、両者摺動シート12、13の間の静摩擦係数はできるだけ低いものであること好ましい。ここではいずれの摺動シート12、13とも0.075mm厚のフッ素樹脂シートを使用しており、これによる両者間の静摩擦係数は0.2以下に収めることができる。摺動シート12、13の代替材料として、静摩擦係数はやや大きくなるが超高分子ポリエチレンシート(分子量100万以上が好ましい)の利用も提案されている。
【0005】
次に、第2の摺動シート13の上に第2のクッションシート14が敷設される。第1と第2のクッションシート11と14は、いずれもゴムシートが使用されており、第1のクッションシート11は床面の凹凸を吸収し、第2のクッションシート14はその上に載置される家具等の平面の凹凸を吸収する柔軟性をそれぞれ有している。両クッションシート11、14の板厚は例として1.5mmとされている。第2のクッションシート14は、第2の摺動シート13の上に敷設する際、粘着材又は接着材を使って両者を部分的又は全面的に密着固定してもよい。この結果、第1及び第2の摺動シート12、13は、第1及び第2のクッションシート11、14に挟まれたサンドイッチ構造となっている。
【0006】
以上のように構成された特許文献1に記載された免震台10の動作は、地震の発生により、まず床面50に揺れが伝わる。この揺れは第1のクッションシート11に伝わり、これに密着固定された第1の摺動シート12に伝わる。第1の摺動シート12と第2の摺動シート13とは摩擦係数が低いことから、一定の限度までは後者は前者に追従するもののその限度を超えると両摺動シート12、13の間で摺動(滑り)が発生する。第2の摺動シート13は第2のクッションシート14に密着固定されており、摺動の発生によって床面50の揺れがそのまま上方にあるテレビ台53まで伝達されることはなくなり、すなわちこの間の滑りによって免震効果が果たされる。
【0007】
次に図4は、特許文献2に開示された免震台ユニット1を示しており、まず図4(a)において、免震台ユニット1は、第1の摺動部材50と、第2の摺動部材60とが重ね合され、これを無端ベルト状の一対の結束バンド70で十字状に束ねられている。ここで第1の摺動部材50は図3に示す第1のクッションシート11と第1の摺動シート12の組合せに相当し、同じく第2の摺動部材60は第2のクッションシート14と第2の摺動シート13の組合せに相当している。図面には表れていないが、第1と第2の摺動部材50、60は各々の表面に貼り付けられたフッ素樹脂シートなどの低摩擦係数の摺動シート同士を対向させて接触している。
【0008】
図4(b)は図4(a)の代替案を示しており、ここでは結束バンド70が十字状ではなく、矩形形状の摺動部材50、60の主平面で対向する一対の頂角をたすき掛け状に止めることにより両摺動部材50と60を束ねている点が相違し、その他の構成は図4(a)と同様である。煩雑さを避けるため図4(b)では便宜的に1つの結束バンド70のみを表示しているが、残りの2つの頂角を同様にたすき掛け状に止める結束バンド70を追加することが可能であり、そうすることによって方向性のない摺動部材50、60の拘束が可能となる。
【0009】
結束バンド70は、無端状で両摺動部材50と60とを束ねるゴムバンドでもよいが、図4(c)に示すように、一対の伸縮部71と一対の連結部72とを長手方向に交互に連結して無端ベルト状にしたものでもよい。こうすることによって伸縮部71には例えば超低硬度ゴムなどの伸縮率の高い弾性部材を使用し、他方の連結部72に伸縮性のないもしくは伸縮率の低い例えば防水シート、ゴムシートやプラスチック材を使用することで、結束バンド70全体として適度な伸縮度を選択することができる。
【0010】
以上の構成に係る特許文献2に開示された免震台ユニット1の地震発生時の動作は、基本的に図3に示す免震台10と同様であるがここでは免震台をユニット化したものであり、両摺動部材50、60に貼り付けられた両摺動シート間の滑りによって相対移動することによって地震による揺れを吸収し、免震効果を果たしている。図4(a)に示す免震台ユニット1では、地震時における両摺動部材50、60の相対移動によって両者間を結ぶ弾性部材である結束バンド70に伸びが生じ、相対移動量が増すに従ってより強い反力を及ぼし、この相対移動量を制限する制振機能を果たすことになる。
【0011】
結束バンド70を設けるさらなる利点は、相対移動した後の摺動部材50、60をずれが発生する前の当初の原点位置に復帰させる復元力を付与することである。特には家具等の重量が過分に重かった場合など、原点復帰が瞬時に行われないとしても、復元力が常時作用し続けることによって周囲での何らか要因による振動などの折に徐々に原点復帰することもあり得る。
【0012】
図4(a)に示す免震台ユニット1では、両摺動部材50、60の外側にさらに支承板が配備されており、荷重による応力集中をより一層緩和するものとしている。なお、図3図4に表示され、また以上の説明で用いた各構成要素の符号は、いずれもそれぞれ該当する特許文献に対して使用されたものであり、両図面間における符号の整合性はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2013-46743号公報
【特許文献2】特開2020-58718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
図3に示す免震台10と図4に示す免震台ユニット1は、それぞれ小型で取扱いが容易であり、それ以前の従来技術に係る免震台ユニットに対して優れたものとなっていたが、未だ改善の余地があった。例えば、摺動シートとクッションシートとは別体となっていたため、それを重ね合わせて使用したり、粘着、接着などにより固定して使用したりするため手間を要していた。また、クッションシートには凹凸状態を吸収するための柔軟性が要求され、使用されるゴムシートには一定の厚みも必要であった。このため免震台10、免震台ユニット1全体としても厚みを生じ、保護する機材の高さを増すこととなった。また免震台10ではクッションシートで荷重を受けるため局部的に応力集中が発生するなど摺動面全体への荷重分散が必ずしも十分ではなく、摺動時には局部的に摩擦力が発生することもあり得た。
【0015】
さらに加えて、摺動面はポリ四フッ化エチレンなどのフッ素樹脂シート同士を対向させて摺動させており、これは静摩擦係数を0.2以下に収めることができるなど従来技術に対する改善効果は見られたものの、より一層低い摩擦係数の得られる摺動面も所望されている。地震発生時には摺動抵抗が小さいことが振動吸収に効果的であるため、さらなる摩擦係数の低減は基本的に望まれるところである。しかしながら一方において、場合によっては地震の振幅の増大によって保護する対象のずれ幅も増大することから免震効果を果たしながらも摩擦係数の低減を一定限度に抑えたいとの要求も見られる。したがって、摩擦係数の低減は、摩擦力の選択の幅を広げる効果が得られると同時に、ある程度制御された摩擦力の設定ができる状態にしておくことにつながる。
【0016】
以上より、本発明はこれら先の発明にあった課題を解消し、その改善を図った免震台ユニットおよび免震プレートを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明では、摺動シートをバックアップする素材としてクッションシートではなく剛性の高い支承板を使用すること、また支承板に摺動シートを貼り付ける代わりに樹脂コートもしくは特殊塗装からなる摺動層を直接支承板に塗布などで形成することによって、摺動シートを貼り付けのための手間を排し、作業性を改善するとともに静摩擦係数のさらなる低減を図ること、また摺動面を構成する摺動層の組み合わせを変化させることで摩擦抵抗値の選択幅を広げることを可能とする免震台ユニットを提供し、従来技術の改善を図るものであり、具体的に以下の内容を含む。
【0018】
すなわち、本発明による1つの態様は、建物の内部もしくはその周辺に配置された家具等と、建物の床面との間に配置され、地震の際に前記家具等の倒壊もしくは損壊を防ぐための免震台ユニットに関する。当該免震台ユニットは、振動吸収材からなるクッションシートをサンドイッチ状に挟む一対の平坦な硬質支承板からなる免震部材の2つと、前記2つの免震部材を重ね合わせた状態で両者を束ねて拘束する伸縮性の拘束ベルトとから構成されている。前記重ね合される2つの免震部材の相互に対向する側の前記支承板の表面には、地震時に相互間の摺動により揺れを吸収する低摩擦材からなる摺動層が形成されている。そして前記相互に対向する支承板の表面のいずれか一方もしくは双方に形成された前記摺動層は、当該支承板の表面に塗布されて加熱硬化されたポリ四フッ化エチレンを含むフッ素樹脂コート層、もしくは粉体塗装により塗布されて加熱硬化させたビーズ材を含むエポキシ・ポリエステル系のサテンコート層のいずれかであることを特徴としている。前記免震台ユニットの平面形状は、多角形、円形、楕円形のいずれかとすることができる。
【0019】
前記相互に対向する支承板の表面のいずれか他方に形成された前記摺動層は、亜鉛メッキ鋼板の亜鉛メッキ層、当該支承板の表面に貼り付けられたポリ四フッ化エチレンシート層、もしくは同じく当該支承板の表面に貼り付けられた超高分子ポリエチレンシート層のいずれかとすることができる。また、前記支承板は、鉄板、鋼板、銅板、アルミニウム板を含む金属板、強化ガラス板、硬化樹脂板のいずれかとすることができる。摺動時に発生する摺動音を回避する観点からは、前記摺動層のいずれか一方を前記支承板の表面に粉体塗装により塗布されて加熱硬化させたビーズ材を含むエポキシ・ポリエステル系のサテンコート層とし、前記摺動層のいずれか他方が前記支承板の表面に貼り付けられた淀川ヒューテック株式会社製TF45シリーズのポリ四フッ化エチレンシート層とすることが好ましい。
【0020】
前記一対の摺動部材の中間に、少なくとも1つの第3の摺動部材をさらに配置することができ、当該第3の摺動部材は、振動吸収材からなるクッションシートと、当該クッションシートをサンドイッチ状に挟む一対の平坦な硬質支承板とから構成されている。前記一対の支承板のクッションシート側とは反対側となる各々の表面に低摩擦材からなる摺動層がそれぞれ形成されており、当該摺動層のいずれか一方もしくは双方は、当該支承板の表面に塗布されて加熱硬化されたポリ四フッ化エチレンを含む樹脂コート層、もしくは粉体塗装により塗布されて加熱硬化されたビーズ材を含むエポキシ・ポリエステル系のサテンコート層のいずれかとすることができる。この際、前記結束バンドは、前記一対の摺動動部材と前記少なくとも1つの第3の摺動部材の内の隣接する摺動部材同士を束ねる複数の伸縮性の結束バンドから構成することができる。
【0021】
本発明の他の態様は、低摩擦係数の摺動層と、前記摺動層を一面に形成してこれをバックアップする平坦な硬質材料からなる支承板とから構成され、前記摺動層を床面に対向させて家具等との間に配置され、地震時の揺れを床面と当該摺動層との間の滑りで吸収して家具等の倒壊、損壊を回避する免震効果を果たす免震プレートであって、前記摺動層が、前記支承板の表面に塗布されて加熱硬化されたポリ四フッ化エチレンを含む樹脂コート層、もしくは粉体塗装により塗布されて加熱硬化されたビーズ材を含むエポキシ・ポリエステル系のサテンコート層のいずれかであることを特徴とする免震プレートに関する。
【0022】
前記免震プレートは、前記摺動層が形成された面と反対側の面上に、地震の上下方向の振動を吸収するクッションシートと、該クッションシートのさらに上にもう一つの支承板とを備え、前記クッションシートを一対の前記支承板でサンドイッチ状に挟む摺動部材として前記摺動層を床面に対向させて家具等の裏面との間に配置させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る免震台ユニットの実施により、特許文献1、2に開示された従来技術に係る免震台ユニットに対して製造が容易となり、より摩擦抵抗の低い免震台ユニットを提供するとの効果を奏する。また、同様技術を利用した免震プレートは、免震台の簡便な代替品として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施の形態に係る免震台ユニットを示す側面断面図である。
図2】本発明の他の実施の形態に係る免震台ユニットを示す側面断面図である。
図3】特許文献1に開示された免震台の構成を示す説明図である。
図4】特許文献2に開示された免震台ユニットの構成例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の第1の実施の形態に係る免震台ユニットについて図面を参照して説明する。本発明は、図4に示す特許文献2に開示された免震台ユニット1の改善を図るものである。図1は本実施の形態に係る免震台ユニット1の側面断面図を示している。当該免震台ユニット1の全体概要は図4(a)に示す免震台ユニット1と同様であるため、以下同図をも参照してその内容について説明する。本実施の形態に係る免震台ユニット1は平面図で見て略正方形状であり、図4(a)において下側に位置する第1摺動部材50と、その上に接する第2摺動部材60と、両者をつなぐ伸縮性のある2つの結束バンド70とを主な構成要素としている。ただし、平面形状の略正方形状は一例であって、三角形、四角形、六角形、八角形を含む多角形、円形、楕円形(長円を含む)、その他L字状やT字状、十字状など他の異形形状であってもよい。結束バンド70はその形状に応じて図4(b)に示すたすき掛け状など適切に配置することで、結束バンドによる拘束力の方向性を取り除くことができる。
【0026】
図1に戻って、本実施の形態に係る免震台ユニット1の図の下側に位置する第1の摺動部材50は、クッションシート52を上下からサンドイッチ状に挟む一対の支承板51、53と、支承板53の上側表面に形成された摺動層54とから構成されている。これに対して図の上側に位置する第2の摺動部材60は、摺動部材50とは対称的な構成にてクッションシート62をサンドイッチ状に挟む一対の支承板61、63と、支承板63の下側表面に形成された摺動層64とから構成されている。すなわち、免震台ユニット1は、第1、第2の摺動部材50、60が双方の摺動層54、64を対向させるよう重ね合され、結束バンド70によって拘束されて一体となるよう組み合わされている。なお、図1においては視認性を高めるため4つの支承板のみに断面ハッチングを付し、他の断面のハッチングは省略している。
【0027】
各支承板51、53、61、63は、鉄板、鋼板、銅板、アルミニウム板に代表される金属板、合板、パーチクルボード、硬質プラスチック、強化ガラス等の剛性のある平板が利用され、これによって加わる荷重をクッションシート52、62に均等に分散させるようにしている。本実施の形態では、各支承板は板厚1mmの鋼板(SPCC)を使用している。クッションシート52、62は、地震による上下方向の衝撃を減衰する役割を果たすもので、柔軟性を備えた防振性のあるゴムシート、アスファルトシート、ゴムマット(バラストマット)、プラスチックシートなどが利用可能である。本実施の形態では、屋内での使用を考慮して板厚3mmの難燃ゴムシートを使用しているが、これは一例であって、免震台ユニット1全体の小型、軽量化を図るため、例えば1.5mm厚のシートとすることもできる。
【0028】
クッションシート52、62の各一方の表面には一対の結束バンド70がはまるよう平面視で十字状の溝が彫られている。また結束バンド70は、低硬度のスチレン・ブタジエン系エラストマ(TPS)、ウレタン系エラストマ(TPU)、EPDM系加硫ゴムなどが使用可能であり、本実施の形態では破断伸びが約750%である超低硬度シリコンゴムを使用している。結束バンド70の設計に当って注意すべき点は、結束バンド70が存在することによって地震の揺れに伴って生じ得る共振を回避すること、すなわち、地震の振動数と結束バンド70により引っ張られる家具等の固有振動数が一致もしくは近接することを回避しなければならないことである。結束バンド70を図4(c)に示すような複数の材料をつなぎ合わせた構成とすることにより、共振を回避するための結束バンド70の適切なばね定数を選択することが可能である。また、図1の上下最外側に破線で示しているのはオプションとなる吸振ゴム91、92であり、上下方向の振動をさらに吸収したい場合に追加して使用することができる。
【0029】
以上の構成は、特許文献2に開示された免震台ユニット1と基本的に同じであるが、本実施の形態における特徴的な相違は摺動層54、64の構成にある。特許文献2では摺動面に低摩擦係数のフッ素樹脂シートが貼り付けられているが、本実施の形態では、フッ素樹脂シートの代わりに摺動層となるポリ四フッ化エチレン等のフッ素樹脂を含む樹脂コートを両摺動部材50、60の支承板53、63の表面に直接塗布するものとしている。これによってフッ素樹脂シートの貼り付けに要する手間を省き、工程が簡略化できるほか、より強固でより摩擦係数の低い摺動層54、64を実現している。
【0030】
本実施の形態における樹脂コート素材としては、摩擦係数が低いポリ四フッ化エチレン樹脂(PTFE)と、同樹脂の柔らかさを改善するための高硬度のバインダ樹脂とを混合したブレンド材を使用している。この種の素材は各種のものが市販されているが、例えば株式会社広陽が販売する充填剤入りPTEF樹脂コート(タフコーティング)やダイキン工業株式会社が販売する「ポリフロンPTFE」(登録商標)などがこれに該当する。これらフッ素樹脂コート素材を支承板53、63の表面に直接スプレー塗布し、加熱処理をすることで所望の摺動層54、64を形成している。この際、密着性を高めるため支承板53、63の表面にはあらかじめショットブラストなどにより表面を荒らしておく対応が考えられる。また摺動層54、64の塗布厚は20μmから100μmほどが望ましく、また焼付け条件としては380℃×3時間が目安となる。ただし、これらは一例であってこれらに限定はされない。
【0031】
摩擦係数の低い摺動層54、64同士を重ね合わせ、地震時にこの両者間の滑りを利用することで振動吸収の効果を高めることができる。この際の摩擦力については後述する。摺動層54、64を含めて両摺動部材50、60のスペックが同一である場合には、免震台ユニット1には表裏の関係がなくなり、いずれを上向きに置いても同一の構成となる。図示の例では、下側に位置する第1の摺動部材50が床面(地面)に置かれ、上側に位置する第2の摺動部材60の上に家具等が載置されることを想定しているが、これを上下逆さまにして使用しても同じものとなる。
【0032】
両摺動部材50、60の支承板53、63の摺動層54、64が形成される面とは反対側となる面は、これらに接するクッションシート52、62の平面に両面テープや接着剤などで固定されている。同様に、免震台ユニット1の図の上下両最外側に位置する支承板51、61は、これらに接するクッションシート52、62の平面に両面テープや接着剤などで固定されている。この時の接着剤として、多数回着脱可能な特殊な両面テープとすることで各支承板51、53、61、63の取り外しが可能となり、これら各支承板や結束バンド70の取り換え等のメインテナンスが容易となる。この種のテープは「はがせる両面テープ」として知られ、例えば株式会社ニトムズから入手可能である。
【0033】
免震台ユニット1の平面のサイズは任意であり、被害を回避したい機械装置や家具等の要求に応じて例えば約20cm×約20cmの小さいサイズのものから約1m×約1mさらにはこれより大きなサイズのものまで任意とすることができる。小さいサイズに関しては地震のストロークから20cm平方以下のサイズとするのは現実的ではない。実施する場合の免震台ユニット1の配置も任意であり、小さな家具等であれば適当な大きさのもの1つを配置し、大きなものであれば1つの家具等の下に複数の免震台ユニット1を配置してもよい。机などの脚柱があるものは小ぶりのものを脚柱ごとに配置することができる。特殊な使用方法として、地震による揺れのストロークを稼ぐために免震台ユニット1を複数個重ねて配置することもできる。
【0034】
以上のように構成された本実施の形態に係る免震台ユニット1の動作は、特許文献2の免震台ユニット1に示すものと同様である。すなわち、地震発生時に床面に置かれた第1の摺動部材50が地震の揺れによって振動し、その揺れによる力が摺動層54、64間の静摩擦抵抗を越える一定限度(例えば地震による入力加速度が約200gal)を越えると両摺動層54、64間に滑りが発生し、第1の摺動部材50が地震に同期して振動しても第2の摺動部材60はこれに追従することなく僅かな振動範囲に留まり、これによって免震台ユニット1の上に載置された家具等に影響を与えることはなくその倒壊や損壊を防ぐことができる。
【0035】
より具体的に、地震による入力加速度が約200galを越えると両摺動部材50、60の間に顕著な滑りが発生し、入力加速度が500galであっても上方の摺動部材60の応答加速度は約200galに抑えられる。これはほぼ震度5強の地震が発生した場合においても、免震台1の上に載置された家具等に伝わる震度は5弱ほどに軽減されることを意味しており、これによって本来震度5強の地震があった場合には倒壊したであろう家具等が倒壊することを免れ、納められた備品などの損傷を防ぐことにつながる。
【0036】
第1の摺動部材50と第2の摺動部材60との間に生ずるずれは、伸縮性のある結束バンド70の伸びによって吸収され、所定の領域を越えて両者がさらにそれ以上ずれることが回避される。また、地震が収束した後には結束バンド70は両者のずれを解消する原点復帰の効果を果たすものとなる。
【0037】
一部重複となるが、本実施の形態に係る免震台ユニット1を特許文献2に開示された免震台ユニット1と比較すると以下のような改善効果が見られる。
1)摺動部分にフッ素樹脂コート素材同士を対向させたことにより、特許文献2のフッ素樹脂シート同士を対向させた場合の動摩擦係数を下回る0.1からそれ以下に抑えることができ、振動吸収能をより高めることができる。
2)摺動面をフッ素樹脂シートの貼り付けからフッ素樹脂コートを塗布する摺動層に切り替えたことにより、シート貼り付けに要する手間などの作業性を改善することができる。
3)同じく、フッ素樹脂シートからフッ素樹脂コートに改まったことから、摺動面の硬度が高まって免震台ユニットとしての耐久性が改善され、また異物混入による摺動面の切損や剥離などの影響を受け難くなる。
4)僅かではあるが樹脂シートが樹脂コートに置き換わることによって厚さが減少し、他の構成要素のスペックが同一であればその分免震台ユニットも薄くなり、設置時などの取り扱いが容易となる。
【0038】
また、特許文献2以前の従来技術に対する本実施の形態に係る免震台ユニット1には以下の改善点が見られる。
1)摺動層を剛性の高い支承板に直接形成し、これをクッションシートでバックアップする構造とすることにより、摩擦抗力が低く、構造簡単で剛性も高い安定した免震台ユニットが得られ、加えて垂直方向の免震効果をも得ることができる。
2)結束バンドを無端ベルト状にして着脱自在とすることで各構成要素の分解とその後の再組立て容易であり、設置、撤去、メインテナンス、要求に応じた各要素の組合せ変更が極めて容易である。
3)一般家庭の机などの小物から工場の設備に至るまで、幅広い対象物に利用することができる。
4)単純な摺動作用を利用することで機械的な故障がなく、摺動層の耐久性が優れ、長い年月にわたっての安定使用が可能である。
5)ゴム、ばねなどの利用では地震の周波数によって共振により振動が増幅する恐れがあるが、摺動作用のためそのような現象は現れ難い。また、結束バンドの材質として超低硬度ゴムを使用することで一般ゴムを使用した場合に比べて耐久性に優れ、共振防止効果を高めることができる。
【0039】
次に、本発明の第2の実施の形態に係る免震台ユニットにつき、同じ図面を参照して説明する。本実施の形態に係る免震台ユニットは図1に示す第1の実施の形態に係る免震台ユニット1と基本的に同様な構成であるが、摺動層54、64の素材を異にする。図1において、本実施の形態に係る免震台ユニット1は、先の実施の形態でフッ素樹脂コートであった摺動層54、64をサテンコート層に置き換えている。サテンコートとは、エポキシ・ポリエステル系、メラミン系、アクリル系などの樹脂塗料に、骨材とも呼ばれる細かい砂や二酸化ケイ素粒子などからなるビーズ材を混入させて吹付もしくは粉体塗装により塗布し、加熱して焼き付けたものをいう。ビーズ材の混入により塗装表面が見た目はレザー表面のような梨地状のややざらついた感じとなり、これが表面の艶を抑えて高級感を醸し出すことから高級機器などの塗装に使用されることが多い。本実施の形態ではこのサテンコート層の塗膜硬度がJIS規格の鉛筆硬度でHと高く(ちなみに、フッ素樹脂コート層はH-2H、フッ素樹脂シートはHB並)、耐摩耗性に優れた特徴を備えている点に着目し、これを免震台の摺動層として活用することを見出したものである。
【0040】
後の実施の形態にて摩擦係数に関する実験測定値を示すが、サテンコートによる摺動層を他の摺動層とすり合わせてみると、その高い塗膜硬度の効果によって先の実施の形態に示したフッ素樹脂コートと比較して勝るとも劣らないほどの良好な低摩擦が得られることが分かった。特に樹脂表面に対してはサテンコートの効果で面接触から点接触主体となることが滑り性を向上させるものと考えられる。本実施の形態では、この特徴をより一層効果的に引き出すため、エポキシ・ポリエステル系樹脂の粉体塗装を焼き付けた硬めの摺動層を実現している。この時の焼付の条件としては180℃で約20分としているが、これは一例である。
【0041】
サテンコートを摺動層とした免震台ユニット1は、摺動層54、64の素材の相違を除いて図1に示すものと同様であり、またその使用法、動作、従来技術に対する改善効果も先の実施の形態に示すものと同様であることから、ここでの重複した説明は省略する。オプションとして吸振ゴム91、92を配置し、上下方向の振動をさらに吸収できることも同様である。
【0042】
次に、本発明の第3の実施の形態に係る免震台ユニットについて説明する。先の実施の形態では免震台ユニット1を構成する第1の摺動部材50と第2の摺動部材60とがそれぞれ同一の構成に係る組合せを前提としていた。本実施の形態ではこの両者を異なる素材のスペックの組合せの免震台ユニットとした場合の応用可能性を提示するものである。両摺動部材50、60の構成要素が基本的に同一であっても、例えば板厚なり材質なりのスペックを異なったものの組合せとすることは勿論可能である。板厚の変更例としては、各支承板51、53、61、63の板厚をそれらが支えるべき荷重の大小等によって厚さを変化させて組み合わせることが可能である。また垂直方向の振動吸収能を適切な値とするため、各クッションシート52、62の厚さを変化させることができる。材質の変更の例としては、各支承板51、53、61、63の材質を金属板、合板、硬質プラスチック、強化ガラス等の異なったものの組合せとすることができる。クッションシート52、62も同様に、ゴムシート、バラストマット、プラスチックシートなどを用いて適切な組合せとすることができる。このように摺動部材50と摺動部材60とは目的に応じて異なった構成に係る組合せとすることは自由である。
【0043】
この内、以下では特に滑りに対して最も重要な要素である摺動層54、64の異なる構成の組合せに関して説明する。先の実施の形態1、2では摺動層54、64を、第1の実施の形態に示すポリ四フッ化エチレンを含むフッ素樹脂コート、第2の実施の形態に示すエポキシ・ポリエステル系樹脂のサテンコート同士の組合せとしていた。これらの摺動層の組合せは一部の例外を除いて摩擦係数を低く抑える点にておいて好ましくはあるが、免震台ユニットを考慮した場合には必ずしも低い摩擦係数でなくても用途に応じた適切な摩擦係数を備えた免震台ユニットが所望される場合がある。本願発明者らはこの要望に応える方策として、両摺動層54、64のいずれか一方を当該フッ素樹脂コートもしくはサテンコートであるとし、いずれか他方の摺動層の候補として、当該2種類の素材に加え、先行文献1に記載されたPTFEシートの層と、新たに亜鉛メッキ鋼板とを抽出し、これらの組合せに係る摩擦係数を検証するものとした。
【0044】
PTFEシートを貼り付けた摺動層に関しては特許文献1に示すものと同様である。亜鉛メッキ鋼板については、例として冷間圧延鋼板SPCCの表面に溶融亜鉛による亜鉛メッキを施したSGCCや電気的に亜鉛メッキを施したSECCなどが知られている。この亜鉛メッキ層は、鋼板の耐蝕性、防錆効果を高める機能を果たすことが知られているが、この他にも他要素と接した場合に潤滑材として作用することも期待される。本実施の形態ではこの点に着目し、亜鉛メッキ鋼板のメッキ層が本発明の摺動層に相当し、基礎となる鋼板が本発明の支承板に相当するとして、亜鉛メッキ鋼板を免震台1を構成する摺動要素として使用した場合の摩擦力の程度を検証するものである。
【0045】
以下に掲げる表1、表2は、摺動層として第1の実施の形態で示したフッ素樹脂コートとした場合、第2の実施の形態に示したサテンコートとした場合、特許文献2に示すフッ素樹脂シートとした場合、そして上述した亜鉛メッキ層とした場合の全ての組合せを、各々上層(上側の摺動部材60)と下層(下側の摺動部材50)とに置き換え配置し、静、動両摩擦係数を実験により測定したものである。ここでは、フッ素樹脂コート層としては株式会社広陽製のPTEF樹脂コートを、サテンコートとしては日本フォームサービス株式会社のエポキシ・ポリエステル系樹脂粉体塗装のサテンコートを、PTFEシートとしては淀川ヒューテック株式会社製のTF45シートを、亜鉛メッキ鋼板としてSECC材をそれぞれ使用している。
<静摩擦係数>
【表1】
<動摩擦係数>
【表2】

<測定条件>
-荷重:1.45kg
-受圧面積:100cm(10cm×10cm)、面圧:0.0145kg/cm
-引張治具:ばね式指示はかり2kg
-引張速度:100mm/min相当
【0046】
以上の試験結果、大まかに見て低摩擦力を得るための免震台ユニット摺動層としてはサテンコート層、フッ素樹脂コート層の両コート層間の組み合わせが望ましいようであり、逆にこれらのコート層を使用せず、PTFEシート層と亜鉛メッキ層を組み合わせた場合には相対的に高い摩擦力になると見てとれる。前者の摩擦係数(0.02)と比較して後者の摩擦係数は4~7倍ほどの開きが見られる。しかしながらサテンコートを上層に配置した場合には、下層が同じサテンコートとの組み合わせ、および亜鉛メッキとの組み合わせとするとロッキング現象が生じて測定不能となり、これらの組合せは推奨し難いものとなる。その原因としては、サテンコート層と亜鉛メッキ鋼板のメッキ層にはいずれも表面にざらつき感があるため、良好な滑りを阻害する可能性があること、あるいは静電気の発生の可能性があることなどが考えられる。ただし、免震台中で対向する両者の摺動層間に二硫化モリブデンなどの潤滑剤を塗布したり、サテンコートの塗料中に潤滑剤を混ぜたりするなどの対応によってロッキング現象が解消できることから、ここではこれら特定の摺動層の組合せを排除するものではない。表1、表2の結果においても、サテンコートが下層に配置された場合には亜鉛メッキ鋼板との間でロッキング現象は生じていないことが分かる。
【0047】
また、異質素材の組合せによってはロッキングのほかにも摺動時に騒音(滑り音)が発生することがあり得るが、この観点からは摩擦係数ではやや劣るもののサテンコートとPTFEシートの組合せが良好であり、PTFEシートの内でも特には淀川ヒューテック株式会社製のTF45シリーズのシートが良好であった。上記表のテストではシートの呼び厚が0.13mmであるTF45-03シートを使用しているが、これに限定されるものではない。なお、ロッキングと同様に潤滑剤の投与によって騒音の緩和効果が見られる。
【0048】
また摩擦抵抗の大小について上に述べたが、これは「大まかに」述べたものであって、組合せによっては順序が逆転している箇所も見られることから摺動層同士の相性の問題も否定できない。摺動層の組合せを選択する場合にはこれらの要素も勘案する必要がある。また、上記表で挙げた摺動層の素材は測定結果からも分かるようになるべく摩擦係数が小さいものを主に選んでいる。今回の実験には供していないが、その他の素材による摺動層との組み合わせも十分に考えられることから、実施の形態1、2に挙げた素材を判断基準として、その他の素材をも組み合わせることで摩擦程度の選択肢の幅をより広げることができる。その他の素材の一例として、特許文献1に示されている超高分子ポリエチレンシート摺動層の可能性が考えられる。
【0049】
次に、本発明の第4の実施の形態に係る免震台ユニットにつき図面を参照して説明する。図2は、図1に対応させて描いた本実施の形態に係る免震台ユニット2の側面断面図を示している。本実施の形態に係る免震台ユニット2は、図1に示す免震台ユニット1の第1と第2の摺動部材50、60の中間に、第3の摺動部材80を挿入させた三層の摺動部材50、60、80から構成されている。この内、第1と第2の摺動部材50、60の構成は先の実施の形態で説明したものと同様である。これに対し、第3の摺動部材80は、上下に配置される第1と第2の摺動部材50、60との双方との間で摺動を可能とするため、上下両面の支承板82、84にそれぞれ摺動層81、85が配置されている。
【0050】
具体的に、図2において第3の摺動部材80は、下から摺動層81、支承板82、クッションシート83、支承板84、そして最上面に位置する摺動層85から構成されている。これら各構成要素のそれぞれ個別のスペック、材質、各要素間の固着手段等は基本的に第1と第2の摺動部材50、60の構成要素と同様でよい。第3の摺動部材80の摺動層81、85は、それぞれ平坦度が確保される剛性のある支承板82、84にバックアップされており、第1及び第2の摺動部材50、60との間で円滑な滑りが得られるよう構成されている。なお、図2においても視認性を高めるため支承板のみに断面ハッチングを付し、他の断面のハッチングは省略している。
【0051】
3層の摺動部材50、60、80を束ねる結束バンド70は、先の実施の形態と同様に3層をまとめて一緒に束ねるものとしてもよいが、図2に示すように第1と第3の摺動部材50、80を一対の結束バンド70aで拘束し、第2と第3の摺動部材60、80を別の一対の結束バンド70bでそれぞれ別々に拘束するよう構成することが好ましい。3層の摺動部材を一括して束ねる代わりにこのように一対ずつを個別の結束バンドで束ねることによって、地震時の各摺動部材50、60、80相互間の滑り量を均等化し、地震後の原点位置方向への引き戻しをより円滑にする効果が得られる。
【0052】
以上のように構成された本実施の形態に係る免震台ユニット2の動作も、基本的に先の実施の形態に係る免震台ユニット1と同様であるが、摺動箇所が2箇所となる点でより円滑な免震効果が得られ、全体での摩擦力を低減させるという特徴がある。摩擦抵抗力を2つの摺動箇所に分散させることによって、一方の滑り面が摩擦抵抗で地震に追従できない場合でも他方の滑り面が滑ることにより有効に追従し、良好な免震効果を得ることができるようになる。また、3層の免震台ユニット2とすることで滑りによるずれ量を拡大することが可能となり、図1に示す免震台ユニット1に比べ摩擦抵抗が小さくなるため応答加速度を減少させる効果がある。例えば高層ビルの上層階で2次モード、3次モードによって揺れ幅が地震による地面の移動幅の数倍になる場合の適用に関してもより有効となる。
【0053】
なお、図2では摺動部材を3層としているが、中間層に配置される第3の摺動部材80を複数にしてさらに追加してこれ以上の層を積み上げることも勿論可能である。複数の摺動部材80同士の間においても各々の摺動層が対向するよう配置される。その際の結束バンド70の配置も、図4に示すように隣接する摺動部材間で個別に拘束するよう構成することが好ましい。また先の実施の形態で示したオプションの吸振ゴム91、92(図2参照)も同様に追加することができる。
【0054】
次に、本発明の第5の実施の形態に係る免震プレートにつき説明する。ここでいう「免震プレート」とは、これまでの実施の形態で述べてきた免震台ユニットを構成する摺動層とこれをバックアップする支承板との組み合わせに係る構成をいう。図1においては支承板53と摺動層54とからなる構成、あるいは支承板63と摺動層64とからなる構成がそれぞれ免震プレートに該当する。以下、支承板53と摺動層54とからなる免震プレートを代表例として説明する。
【0055】
免震プレートに使用される支承板53は、先の実施の形態で説明したものと同様、鉄板、鋼板、銅板、アルミニウム板に代表される金属板、合板、パーチクルボード、硬質プラスチック、強化ガラス等の剛性のある平坦な板状部材から構成することができる。また摺動層54は、支承板53の一方の面に形成されたコーティング層であり、具体的には第1の実施の形態に示したフッ素樹脂コート、または第2の実施の形態に示したサテンコートのいずれかで構成することができる。
【0056】
免震プレートは、これまでの実施の形態で示すようにその一対の摺動層同士を対向して重ね合わせて免震台ユニット1を構成する要素として使用できるため、免震プレート単独で免震台ユニット1の補修用品として利用できるのは勿論である。加えて、机、棚、箪笥、物置台など主に室内で利用される家具等に対しては、これらの底面、もしくは脚の底面に当該免震プレートの摺動層54を床面に対向するよう配置すれば、免震台ユニット1の代わりとして簡易な免震要素として使用することができる。但しこの場合には、床面が畳などの粗い表面に対しては不向きであり、大理石、Pタイル、木製のフロアなどの比較的硬度が高く平滑面である場合に一定の免震効果を期待することができる。
【符号の説明】
【0057】
1、2.免震台ユニット、 50.第1の摺動部材、 51.支承板、 52.クッションシート、 53.支承板、 54.摺動層、 60.第2の摺動部材、 61.支承板、 62.クッションシート、 63.支承板、 64.摺動層、 70、70a、70b.結束バンド、 71、伸縮部、 72、連結部、 80.第3の摺動部材、 81.摺動層、 82.支承板、 83.クッションシート、 84.支承板、 85.摺動層、 91、92.吸振ゴム。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明に係る免震台ユニットおよび免震プレートは、免震部材の開発、製造、販売、利用を図る産業分野において広く利用することができる。
図1
図2
図3
図4