(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023065689
(43)【公開日】2023-05-12
(54)【発明の名称】リポポリサッカライドの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 37/00 20060101AFI20230502BHJP
C12P 19/04 20060101ALN20230502BHJP
【FI】
C08B37/00 P
C12P19/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036572
(22)【出願日】2023-03-09
(62)【分割の表示】P 2021548854の分割
【原出願日】2020-09-17
(31)【優先権主張番号】P 2019173207
(32)【優先日】2019-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】500315024
【氏名又は名称】有限会社バイオメディカルリサーチグループ
(71)【出願人】
【識別番号】508098394
【氏名又は名称】自然免疫応用技研株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】杣 源一郎
(72)【発明者】
【氏名】稲川 裕之
(72)【発明者】
【氏名】河内 千恵
(72)【発明者】
【氏名】松下 恭平
(72)【発明者】
【氏名】橋野 亮
(72)【発明者】
【氏名】李 文▲セイ▼
(57)【要約】
【課題】労働衛生及び環境保全に寄与し、大規模生産に適したリポポリサッカライドの製造方法、及び、これによって製造されるリポポリサッカライドを提供する。
【解決手段】グラム陰性菌からリポポリサッカライドを抽出、精製するリポポリサッカライドの製造方法で製造されたリポポリサッカライドであって、上記リポポリサッカライドの製造方法は、上記グラム陰性菌を熱水で抽出することにより、上記リポポリサッカライドを含む抽出液を得る第一工程と、逆相液体クロマトグラフィーを用いて前記抽出液又は前記抽出液中のLPSを含む溶液を精製することにより、リポポリサッカライドを得る第二工程とを含み、上記逆相液体クロマトグラフィーにおける逆相カラムは、炭素数が1~8の官能基を有する材料で構成された充填剤を有するリポポリサッカライド。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラム陰性菌からリポポリサッカライドを抽出、精製するリポポリサッカライドの製造方法で製造されたリポポリサッカライドであって、
前記リポポリサッカライドの製造方法は、前記グラム陰性菌を熱水で抽出することにより、前記リポポリサッカライドを含む抽出液を得る第一工程と、
逆相液体クロマトグラフィーを用いて前記抽出液又は前記抽出液中のLPSを含む溶液を精製することにより、リポポリサッカライドを得る第二工程とを含み、
前記逆相液体クロマトグラフィーにおける逆相カラムは、炭素数が1~8の官能基を有する材料で構成された充填剤を有する
ことを特徴とするリポポリサッカライド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リポポリサッカライドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リポポリサッカライド(以下、LPSともいう。)は、大腸菌、サルモネラ菌、百日咳菌等のグラム陰性細菌細胞壁のペプチドグリカンを囲む外膜に存在している脂質及び糖からなる複合化合物であり、内毒素(エンドトキシン)の活性成分として知られている(非特許文献1)。
上記LPSの基本構造は、特異な脂質を有するリピドA、それに共有結合したRコアと呼ばれるオリゴ糖、更にO特異多糖の3成分よりなっている(非特許文献2)。そして、LPSの構造は、由来する菌の種類によって異なることが知られている。
【0003】
LPSは、エンドトキシンとして知られており、免疫系細胞を活性化し、炎症性サイトカインを上昇させることが知られているが、最近では、LPSの免疫系細胞を活性化させる機能が注目されている。そのため、LPSを用いた自然免疫研究、生体防御機能の研究が盛んに行われるようになってきた。その中で、パントエア菌由来のLPSは、ヒトでの食経験が豊富で、また健康食品、ワクチン用アジュバント、医薬品などに利用できる可能性も報告されており、特に有用なLPSといえる。
【0004】
このように、LPSの需要は増加しているものの、LPSの製造については、その抽出工程でトリクロロ酢酸、フェノール、クロロホルム、トルエン、アルカン、石油エーテル等の有機溶剤が抽出溶媒として多量に用いられることから、製造作業者の健康を害し、また、排出による自然環境への影響が問題となっている。また、前記の有機溶剤に対応した特殊な設備の導入が必要となり、製造コスト等がかかる点が問題となっている。
例えば、公知のLPSの製造法として、ガラノス(Galanos)法が知られているが、これは、フェノール、クロロホルム及び石油エーテルの混合物(PCP)によるLPS抽出に続いて、クロロホルム及び石油エーテルの蒸発、アセトン及び水の添加によるLPSの沈殿、並びに遠心又はろ過によるLPSの回収を含む方法である(非特許文献3)。
また、サン(TSANG)法では、トリクロロ酢酸水溶液による抽出の後に、フェノール水溶液による抽出を行って、LPSを得ている(非特許文献4)。
また、チェン(Chen)法はクロロホルム及びメタノールの混合物(CM)によるLPS抽出に続いて、一連のメタノール沈降ステップを含むものである(非特許文献5)。
【0005】
上記ガラノス法およびサン法では、環境上、健康上及び安全上の懸念がある溶媒混合物(フェノール、クロロホルム、石油エーテル、トリクロロ酢酸等)が抽出工程で使用されており、大規模な生産には不向きであり、商業的生産には適していない。また、チェン法においてもクロロホルムが抽出工程で用いられており、環境上、健康上及び安全上の懸念があり、また、チェン法では、LPS-リン脂質の豊富なCM相が生じるため、充分な純度のLPSを得るために複数の沈降ステップが必要とされ、製造時間及びコストを必要とする。
【0006】
また、例えば、特許文献1には、グラム陰性菌からLPSを抽出する工程において、ガラノス法で用いられるフェノール、クロロホルム及び石油エーテルの溶媒混合物(PCP)の代わりに、アルコール、有機溶媒及び水を用いることが開示されている。
しかしながら、上記有機溶媒としては、クロロホルム、アルカン、トルエン及び石油エーテルのグループから選択できる有機溶媒が用いられることが開示されており、本製造方法においても、環境上、健康上及び安全上の懸念があり、大規模な生産には不向きである。
【0007】
このように従来のLPSの製造方法は、環境及び労働衛生に対する負荷が大きい製造プロセスを含むものであった。言い換えると、従来のLPSの製造方法は、作業環境管理、作業管理及び健康管理の労働衛生管理のリスクに加え、環境保全のリスクを有するものである。また、LPSの製造施設は上記リスク対策設備が必要とされ、製造コストも上がっていた。
【0008】
また、LPSの中では、健康食品、ワクチン用アジュバント、医薬品の用途として有用な、Pantoea(以下、パントエア菌ともいう。)由来LPSは、上述の通り有用性が種々報告されており需要増加が見込まれる。そのため、抽出工程に有機溶媒を用いない、大規模生産に適した製造方法の開発が特に求められていた。しかしながら、パントエア菌由来LPSの製造方法としては、熱フェノールによる抽出とアニオン交換カラム精製を組み合わせた方法の報告があるくらいであり(非特許文献6)、その方法もフェノールを用いることから、大規模生産を行うには、健康上及び安全上の懸念があった。
【0009】
以上のように、大規模生産に適したLPSの製造方法、すなわち、労働衛生及び環境保全の負荷の小さい製造方法が求められていた。特にパントエア菌由来LPSの製造において、上記のような製造方法が求められていた。
【0010】
なお、LPSの抽出方法に関しては、有害な有機溶媒を用いない例として、特許文献2には、酢酸菌、グルコン酸菌、キサントモナス菌、ザイモモナス菌又はエンテロバクター菌に対して熱水抽出を行うことが開示されている。しかしながら、当該製造方法で得られるリポ多糖(LPS)は、LPS以外の不純物を多く含み、LPS純度の低いエキスを得る抽出操作に過ぎず、LPSの実用的な製造方法といえるものではない。また、特許文献2には、LPSの製造方法が別途開示されているが、それは熱フェノール抽出と核酸分解酵素処理を組み合わせた方法である。すなわち特許文献2には、有害な有機溶媒を用いずにLPSを製造する方法は、開示も示唆もされていない。
【0011】
また、通常、LPSの抽出精製物は低分子量成分と高分子量成分の混合物であり、低分子量LPSの割合が増えると、安全性が高まり、また、生理活性(サイトカイン誘導能)も向上することが報告されている(特許文献3、非特許文献7)。そこで従来製法によるLPSよりも低分子量LPSを多く含むLPS及びその製法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2016-174601号公報
【特許文献2】国際公開第2007/061102号
【特許文献3】特許第4043533号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】ジェー・エム・ギューセン及びアール・ハッケンベック(J.M.Ghuysen and R.Hakenbeck)編、「ニュー・コンプリヘンシブ・バイオケミストリー(New Comprehensive Biochemistry)」、第27巻、バクテリアル・セル・ウオール(Bacterial Cell Wall)、第18ページ、エルセヴィア(Elsevea)、1994年
【非特許文献2】「日経バイオテクノロジー最新用語辞典」、第431ページ、日経マグロウヒル社、1985年
【非特許文献3】Galanos et al.,Eur.J.Biochem.9:245(1969)
【非特許文献4】J.C.TSANG et al.,JOURNAL OF BACTERIOLOGY,Feb.1974,p.786-795
【非特許文献5】Chen et al. Journal of Infectious Desieses.128s,43,1973
【非特許文献6】ANTICANCER RESEARCH27:3701-3706(2007)
【非特許文献7】Biotherapy 10(3):519-521,March,1996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記現状に鑑み、労働衛生及び環境保全に寄与し、大規模生産に適したリポポリサッカライドの製造方法、及び、これによって製造されるリポポリサッカライドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した目的を達成するため、環境負荷の高い有機溶媒を用いることなく、大規模生産に適用可能な収量が得られるLPSを抽出精製する方法を鋭意検討した。その結果、グラム陰性菌を熱水で抽出する第一工程と、特定の充填剤を有する逆相カラムを備えた逆相液体クロマトグラフィーを用いて第一工程で得られた抽出液又は上記抽出液中のLPSを含む溶液を精製する第二工程とを組み合わせることにより、環境負荷の高い有機溶媒を用いることなく、大規模生産に適用可能な収量のLPSが得られることを見出した。さらに、本製造方法で得られたLPSは、高純度であり、かつ、低分子量リポポリサッカライドを高含有量で含むことを見出した。
【0016】
すなわち、本発明は、グラム陰性菌からリポポリサッカライドを抽出、精製するリポポリサッカライドの製造方法であって、上記グラム陰性菌を熱水で抽出することにより、上記リポポリサッカライドを含む抽出液を得る第一工程と、逆相液体クロマトグラフィーを用いて前記抽出液又は前記抽出液中のLPSを含む溶液を精製することにより、リポポリサッカライドを得る第二工程とを含み、上記逆相液体クロマトグラフィーにおける逆相カラムは、炭素数が1~8の官能基を有する材料で構成された充填剤を有することを特徴とするリポポリサッカライドの製造方法である。
上記充填剤は、炭素数が2~6の官能基を有する材料で構成されていることが好ましい。
上記充填剤は、炭素数が2~4の官能基を有する材料で構成されていることが好ましい。
上記充填剤は、炭素数が4の官能基を有する材料で構成されていることが好ましい。
また、上記官能基はアルキル基であることが好ましい。
上記第一工程の熱水の温度が50~150℃であることが好ましい。
上記第一工程の熱水の温度が50~99℃であることが好ましい。
上記第一工程の熱水の温度が70~99℃であることが好ましい。
上記第一工程の熱水の温度が85~95℃であることが好ましい。
上記グラム陰性菌は、Escherichia属、Salmonella属、Pantoea属、Acetobacter属、Zymomonas属、Xanthomonas属及びEnterobacter属、Roseomonas属とRhodobactor属からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
上記グラム陰性菌は、Pantoea属であることが好ましい。
【0017】
また、本発明は、本発明の製造方法で製造されたことを特徴とするリポポリサッカライドでもある。
また、本発明のリポポリサッカライドは、上記グラム陰性菌から得られることが好ましい。
また、本発明のリポポリサッカライドは、SDS-PAGE法で測定した分子量が2000~20000である低分子量リポポリサッカライドと、SDS-PAGE法で測定した分子量が20000より大きく100000以下である高分子量リポポリサッカライドとを含み、上記低分子量リポポリサッカライドと上記高分子量リポポリサッカライドとの合計量に対する、上記低分子量リポポリサッカライドの含有量が80%以上であることが好ましい。
また、本発明のリポポリサッカライドは、ELISA法によるリポポリサッカライド定量値(E)をリムルス試験(エンドポイント-比色法)によるリポポリサッカライド定量値(L)で除した値(E/L比)が1.0以下であることが好ましい。
以下本発明を詳述する。なお、以下の説明において、百分率の表示は特に断りのない限り、重量による値である。
【発明の効果】
【0018】
本発明のリポポリサッカライドの製造方法によれば労働衛生及び環境保全に寄与し、かつ、大規模生産に適したリポポリサッカライドの製造方法を提供できる。
上記労働衛生及び環境保全に寄与するとは、具体的に、環境負荷の高い有機溶媒を用いることなくリポポリサッカライドを抽出することができることであり、これにより、環境上、健康上及び安全上のリスクを改善することができる。また、リポポリサッカライドの製造において、作業環境管理、作業管理及び健康管理の労働衛生管理のリスクに加え、環境保全のリスクを低減できるため、LPSの製造施設における上記リスク対策設備を削減でき、全体的な製造コストを抑制することができる。
さらに、本発明の製造方法によれば、高純度かつ低分子量リポポリサッカライド高含有量のリポポリサッカライドが得られるので、安全性と生理活性の高いリポポリサッカライドを提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、SDS-PAGE(銀染色法)泳動図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書において、上述の環境負荷の高い溶媒とは、LPSを含む抽出液を得る第1工程においては有機溶媒であり、さらに上記第1工程を除く製造工程全体においては、化学物質排出把握管理促進法において第1種指定化学物質に指定される物質で有機溶媒として使用可能なものである。
【0021】
本明細書において、高純度のLPSとは、タンパク質、核酸と比較してLPSが主成分たりえるLPS、すなわち、LPSの含有量(得られたLPSの重量からタンパク質と核酸の含有量(重量)を減じた残りの割合)が60重量%以上であるLPSを意味する。また、本明細書において、「純度」は、LPSの純度を意味し、重量%で表記する。LPSの純度は好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上である。
【0022】
また、本明細書において低分子量リポポリサッカライド(以下、低分子量LPSともいう。)は、SDS-PAGE(銀染色法)によって構成成分に展開し、プロテインサイズマーカー移動度を指標として求められる分子量が、2000以上20000以下のLPSであり、高分子量リポポリサッカライド(以下、高分子量LPSともいう。)は、上記測定により求められる分子量が20000より大きく100000以下のLPSである。
また低分子量リポポリサッカライド(低分子量LPS)を高含有量で含むLPSとは、実質的に高分子量リポポリサッカライド(高分子量LPS)を含まないものから、高分子量LPSを含んでいても、高分子量LPSと低分子量LPSとの合計に対する低分子量LPSの含有量が80%以上のものを意味する。低分子量LPSの含有量が高分子量LPSと低分子LPSとの合計に対し80%以上のLPSは、従来法で精製したLPSと比較して低分子量LPSの含有量が多い。より具体的に説明すると、LPSをSDS-PAGE(銀染色法)によって構成成分に展開し、プロテインサイズマーカー移動度を指標として分子量を求め、SDS-PAGE画像(銀染色後)の画像輝度総量によって構成成分の含有量を求めた場合、分子量が2000~20000の低分子量リポポリサッカライドと、分子量が20000より大きく100000以下の高分子量リポポリサッカライドとを含むLPSについて、SDS-PAGEの銀染色法により上記低分子量リポポリサッカライドの量と上記高分子量リポポリサッカライドとの量の合計に対する、上記低分子量リポポリサッカライドの含有量が80%以上であることを意味する。
以下の説明において、低分子量LPSの含有量が80%以上のLPSを低分子量LPS高含有のLPSと表現する。
【0023】
なお、本明細書において、大規模生産に適用可能な収量のリポポリサッカライドとは、菌体ペレット1kgから製造されるリポポリサッカライドが4g以上の収量であるリポポリサッカライドをいう。なお、菌体1kgから製造されるリポポリサッカライドの収量は、HPLC法を用いて測定することができる。
【0024】
本願明細書において、「A~B」は、「A以上B以下」を意味する。
【0025】
本発明の一実施形態であるリポポリサッカライドの製造方法は、グラム陰性菌からリポポリサッカライドを抽出、精製するリポポリサッカライドの製造方法であって、上記グラム陰性菌を熱水で抽出することにより、上記リポポリサッカライドを含む抽出液を得る第一工程と、逆相液体クロマトグラフィーを用いて前記抽出液又は前記抽出液中のLPSを含む溶液を精製することにより、リポポリサッカライドを得る第二工程とを含み、上記逆相液体クロマトグラフィーにおける逆相カラムは、炭素数が1~8の官能基を有する材料で構成された充填剤を有することを特徴とする。
【0026】
一般に、LPSは、グラム陰性菌細胞壁からの抽出物又はその改変体であってよく、合成品であってもよい。しかし、本発明のLPSの製造方法で得られるLPSは、グラム陰性菌細胞壁からの抽出精製物である。
【0027】
上記グラム陰性菌としては、例えば、Escherichia属、Shigella属、Salmonella属、Yersinia属、Viblio属、Haemophilus属、Pseudomonas属、Legionella属、Bordetella属、Brucella属、Francisella属、Bacteroides属、Neisseria属、Chlamydia属、Plesiomonas属、Prophyromonas属、Pantoea属、Agrobacterium属、Stenortophomonas属、Serratia属、Leclercia属、Rahnella属、Acidicaldus属、Acidiphilium属、Acidisphaera属、Acidocella属、Acidomonas属、Asaia属、Belnapia属、Craurococcus属、Gluconacetobacter属、Gluconobacter属、Kozakia属、Leahibacter属、Muricoccus属、Neoasaia属、Oleomonas属、Paracraurococcus属、Rhodopila属、Roseococcus属、Rubritepida属、Saccharibacter属、Stella属、Swaminathania属、Teichococcus属、Zavarzinia属、Achromobacter属、Flavobacterium属、Enterobacter属、Acetobacter属、Xanthomonas属及びZymomonas属、Roseomonas属、Rhodobactor属、Proteus属、Klebsiella属、Citrobacter属、Acinetobacter属等が挙げられる。
【0028】
なかでも、グラム陰性菌としては、Escherichia属、Salmonella属、Pantoea属(パントエア菌)、Acetobacter属、Zymomonas属、Xanthomonas属、Enterobacter属、Roseomonas属及びRhodobactor属からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらは、古来より多くの食品、漢方薬に含まれ、生体への安全性が担保されているためである。特にPantoeaは、現在健康食品として用いられており、Pantoea属から抽出、精製されるLPSは、その使用に対し、より安全性及び有効性が高いといえる。グラム陰性菌は、Pantoea属であることがより好ましい。本発明の製造方法は、需要増加が見込まれるPantoea(パントエア菌)由来LPSの製造において、労働衛生及び環境保全に寄与する製造方法と、高純度かつ低分子量LPS高含有のパントエア菌由来LPSを提供できる。
【0029】
上記第一工程では、グラム陰性菌を熱水で抽出することにより、上記グラム陰性菌の細胞壁が変性し除去され、上記細胞壁中のLPS、及び、グラム陰性菌の細胞内のタンパク質及び核酸が抽出され、LPSを含む抽出液が得られる。
【0030】
上記第一工程の熱水の温度は、50~150℃であることが好ましい。熱水の温度が、150℃より高い場合は、高温に起因して抽出されるLPSの熱変性が発生する可能性があり、50℃未満の場合は、上記グラム陰性菌の細胞壁の変性が生じず、LPSが充分に抽出されない可能性があるためである。
また、熱水の温度は、50~130℃がより好ましく、50~99℃がさらに好ましく、70~99℃がよりさらに好ましく、85~95℃が最も好ましい。LPSを効率よく抽出できるためである。また、常圧での抽出も可能なためである。
【0031】
上記熱水で抽出を行う時間は、10~120分であることが好ましい。抽出時間が120分を超える場合は、LPSの熱分解等を生じる場合があり、10分未満の場合は、LPSが充分に抽出されない場合があるためである。
【0032】
第一工程における熱水抽出の温度及び時間は、用いられるグラム陰性菌の種類によって上述の熱水温度及び抽出時間から最適な条件を適宜選択することができる。
グラム陰性菌がPantoea属の場合も、LPSの抽出における熱水温度及び抽出時間を上述の範囲内で適宜選択することができるが、好ましくは70~99℃で10~120分の条件、さらに好ましくは85~95℃で20~30分の条件で熱水抽出を行う。
【0033】
また、第一工程での熱水抽出は、1回のみの実施でもよく、同じ温度又は異なる温度で複数回実施してもよい。なお、上記熱水抽出で用いられる水は、特に限定されず、本分野で通常使用される水を用いることができる。
【0034】
また、熱水抽出は、本技術分野において一般的に用いられている方法及び装置を用いて実施することができ、常圧、減圧又は加圧下において行うことができる。
また、熱水抽出で用いられる水に対し、界面活性剤、キレート剤、有機酸塩、無機塩類などを加えてもよい。
【0035】
本発明の一実施形態におけるLPSの製造方法において、上記第一工程と上記第二工程とは連続して行われてもよく、また、第一工程と第二工程との間に他の工程を含んでもよい。
上記第一工程と上記第二工程とが連続で行われる場合、第一工程で得られた抽出液が第二工程で精製される。また、上記第一工程と上記第二工程との間に他の工程を含む場合、第一工程で得られた抽出液中のLPSを含む溶液が、第二工程で精製される。
【0036】
上記第一工程と上記第二工程との間に行われる他の工程としては、例えば、限外ろ過、酵素処理、エタノール沈殿、透析、固相抽出等が挙げられ、なかでも第一工程で得られた抽出液に対し、限外ろ過を行うことが好ましい。限外ろ過を行うことで、上記抽出液中のLPSを濃縮し、同時に低分子量(限外ろ過膜20万ダルトンを通り抜けるもの)の不純物を除去することにより、第二工程における逆相液体クロマトグラフィーを用いた精製を効率よく行うことができるためである。第一工程で得られた抽出液は、1回又は複数回限外ろ過されることが好ましい。なお、LPSはミセルを形成して見かけ上の分子量が大きくなるため、その分子量は、上記の限外ろ過膜のカットオフ値の分子量とは直接的には対応しない。
【0037】
本発明の製造方法において、第一工程と第二工程との間で限外ろ過が行われる場合、上記限外ろ過で用いられる限外ろ過膜は、分画分子量(Cut-off molecular weight)が5000~20万ダルトン、好ましくは8000~10万ダルトンである。より好ましくは1万~5万ダルトンである。
なお、分画分子量は、JIS K 3802(膜用語)に定義された膜特性を表す用語である。
【0038】
上記第二工程で用いられる逆相液体クロマトグラフィーの逆相カラムは、炭素数1~8の官能基を有する材料で構成された充填剤を有する。特定の炭素数の官能基を有する材料で構成された充填剤を有する逆相カラムを用いることで、第一工程で得られた抽出液又は抽出液中のLPSを含む溶液に残存するLPS以外の不純物を取り除き、より純度の高いLPSを精製できるためである。また、低分子量LPS高含有のLPSを精製できるためである。
【0039】
上記充填剤は、炭素数2~6の官能基を有する材料で構成されていることが好ましく、炭素数2~4の官能基を有する材料で構成されていることがより好ましく、炭素数4の官能基を有する材料で構成されていることがさらに好ましい。
【0040】
上記官能基は、アルキル基であることが好ましい。第一工程で得られた抽出液に残存するLPS以外の不純物を取り除き、より純度の高いLPSを精製できるためである。また、本発明の製造方法に用いられる設備のコストを抑制しながら、LPSを充分に精製できるためである。上記充填剤は、炭素数1~8のアルキル基を有する材料で構成されていることが好ましく、炭素数2~6のアルキル基を有する材料で構成されていることがより好ましく、炭素数2~4のアルキル基を有する材料で構成されていることがさらに好ましく、炭素数4のアルキル基を有する材料で構成されていることが最も好ましい。すなわち上記充填剤は、ブチル基を有する材料で構成されていることが最も好ましい。
【0041】
上記充填剤を構成する材料(ベース材料)はシリカゲルであることが好ましい。第一工程で得られた抽出液に残存するLPS以外の不純物を取り除き、より純度の高いLPSを精製できるためである。また、本発明の製造方法に用いられる設備のコストを抑制しながら、LPSを充分に精製できるためである。上記充填剤は、炭素数1~8の官能基を有するシリカゲルであることが好ましく、炭素数2~6の官能基を有するシリカゲルであることがより好ましく、炭素数2~4の官能基を有するシリカゲルであることがさらに好ましく、炭素数4の官能基を有するシリカゲルであることが最も好ましい。
上記充填剤を構成する材料(ベース材料)はアルキル基を有するシリカゲルであることが好ましい。第一工程で得られた抽出液に残存するLPS以外の不純物を取り除き、より純度の高いLPSを精製できるためである。また、本発明の製造方法に用いられる設備のコストを抑制しながら、LPSを充分に精製できるためである。上記充填剤は、炭素数1~8のアルキル基を有するシリカゲルであることが好ましく、炭素数2~6のアルキル基を有するシリカゲルであることがより好ましく、炭素数2~4のアルキル基を有するシリカゲルであることがさらに好ましく、炭素数4のアルキル基を有するシリカゲルであることが最も好ましい。すなわち、上記充填剤は、ブチル基を有するシリカゲルであることが最も好ましい。
【0042】
上記充填剤は、官能基がアルキル基であり、材料がシリカゲルであることが好ましく、上述の構成を適宜組み合わせた構成を採用することができる。
【0043】
また、上記第二工程は、逆相液体クロマトグラフィーで処理される上記第一工程で得られた抽出液又は抽出液中のLPSを含む溶液に対する前処理を含んでもよい。前処理としては、本分野で通常使用され、逆相液体クロマトグラフィーによる分離に適した操作を行うことができる。具体的に、上記第一工程で得られた抽出液又は抽出液中のLPSを含む溶液に対し、界面活性剤を添加し、LPSの可溶化処理を行い、これを逆相液体クロマトグラフィーで精製することとしてもよい。逆相液体クロマトグラフィーによる分離の効率化を図ることができるためである。上記第二工程は、逆相液体クロマトグラフィーの前処理として、上述の可溶化処理を含むことが好ましい。
【0044】
上記界面活性剤は、イオン性界面活性剤が好ましい。LPSの可溶化効果が高いためである。イオン性界面活性剤としては特に限定されないが、例えば、アルキルアンモニウム塩、胆汁酸、フシジン酸、アミノ酸、オリゴペプチド又はポリペプチドの脂肪酸結合物、アミノ酸、オリゴペプチドのグリセリドエステル、ポリペプチドのグリセリドエステル、アシルラクチレート、モノグリセリドのモノアセチル化酒石酸エステル、モノグリセリドのジアセチル化酒石酸エステル、ジグリセリドのモノアセチル化酒石酸エステル、ジグリセリドのジアセチル化酒石酸エステル、スクシニル化モノグリセリド、モノグリセリドのクエン酸エステル、ジグリセリドのクエン酸エステル、アルギン酸、プロピレングリコールアルギン酸エステル、レシチン、水素化レシチン、リゾレシチン、水素化リゾレシチン、リゾリン脂質、リン脂質、アルキルサルフェートの塩、脂肪酸、及び、薬理学的に許容可能なそれらの塩等が挙げられるが、胆汁酸及び/又はその薬理学的に許容可能な塩であることが好ましい。LPSの可溶化効果が特に高いためである。
【0045】
また、上記胆汁酸及びその薬理学的に許容可能な塩としては、例えば、ケノデオキシコール酸(CDCA)、ウルソデオキシケノデオキシコール酸(UDCA)、コール酸、デヒドロコール酸、デオキシコール酸、グルコール酸、グリコール酸、グリコデオキシコール酸、タウロコール酸、タウロデオキシコール酸、タウロ-24,25-ジヒドロ-フシジン酸ナトリウム、グリコジヒドロフシジン酸、及び、薬理学的に許容可能なそれらの塩(例えば、ナトリウム塩)等が挙げられる。
【0046】
なかでも、上記界面活性剤は、デオキシコール酸及び/又はその薬理学的に許容可能な塩であることが好ましい。また、上記界面活性剤は、デオキシコール酸及び/又はその塩であることが好ましい。LPSの可溶化効果が特に高いためである。
【0047】
また、本発明のLPSの製造方法における上記第二工程は、上記第一工程後の抽出液又は上記抽出液中のLPSを含む溶液に対し、上述の可溶化処理の他に、濃度調整、pH調整、イオン強度調整、有機溶媒添加、ろ過、透析など、一般的に逆相液体クロマトグラフィーの試料液に対して行われる、様々な前処理を適宜行ってもよい。逆相液体クロマトグラフィーによる分離の効率化を図ることができるためである。
【0048】
また、上記第二工程は、逆相液体クロマトグラフィーを用いて得られたLPSを含む分離液に対する後処理を含んでもよい。後処理としては、逆相液体クロマトグラフィーの分離液に適した操作を行うことができ、分離液に適した操作としては、本発明の属する技術分野において通常使用されている分離液処理を適宜組み合わせて行うことができる。具体的には、例えば、蒸留、塩析、溶媒沈殿法等の溶解度の差を利用する方法;透析、限外ろ過、ゲル濾過、PAGE、SDS-PAGE等の分子量の差を利用する方法;等電点電気泳動等の等電点の差を利用する方法等が挙げられる。なかでも、後処理として、蒸留及び/又は限外ろ過を行うことが好ましく、蒸留及び限外ろ過を行うことがより好ましい。上記第二工程における逆相液体クロマトグラフィーの移動相中に含まれる不純物を除去できる為である。
【0049】
また、本発明の一実施形態におけるLPSの製造方法は、上記第二工程で精製されたLPSを濃縮する工程や、洗浄する工程を有していてもよい。濃縮工程や洗浄工程は、本発明の属する技術分野において通常使用されている処理を適宜組み合わせて行うことができる。
【0050】
また、本発明の一実施形態におけるLPSの製造方法は、上記第二工程で精製したLPSを乾燥させる工程(乾燥工程)を有してもよい。上記第二工程で精製したLPSには、第二工程における逆相液体クロマトグラフィーの移動相に含まれる揮発性有機溶媒や、水等の溶媒が含まれている場合が多い。そのため、乾燥工程では、乾燥蒸留法(エバポレーション)により第二工程における逆相液体クロマトグラフィーの移動相に含まれる揮発性有機溶媒を除去する工程(有機溶媒除去工程)、及び/又は、凍結乾燥によって水などの溶媒を完全に除去する工程(溶媒除去工程)を含むことが望ましい。このような乾燥工程を有することで、LPSの取扱い性を向上させることができる。
【0051】
なお、上述の本発明のLPSの製造方法は、大規模生産に好適に使用することができる。本発明のLPSの製造方法から得られるLPSの収量は、グラム陰性菌の菌体ペレット1kgから製造されるリポポリサッカライドが4g以上であることが好ましい。本発明のLPSの製造方法から得られるLPSは、HPLC法を用いて定量することができる。
【0052】
別の実施形態として、本発明は、上述の本発明の製造方法で製造されたリポポリサッカライドである。本発明の製造方法で製造されたリポポリサッカライドは、純度が60重量%以上の高純度のLPSであるが、純度が70重量%以上であることが好ましく、純度が80重量%以上であることがより好ましく、純度が90重量%以上であることがさらに好ましい。
【0053】
本発明の別の実施形態であるリポポリサッカライドは、上述のグラム陰性菌から製造されることが好ましい。上記グラム陰性菌は、Escherichia属、Salmonella属、Pantoea属、Acetobacter属、Zymomonas属、Xanthomonas属及びEnterobacter属、Roseomonas属とRhodobactor属からなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、パントエア属であることがさらに好ましい。これらは、古来より多くの食品、漢方薬に含まれ、生体への安全性が担保されているためである。特にPantoeaは、現在健康食品として用いられており、Pantoea属から抽出、精製されるLPSは、その使用に対し、より安全性及び有効性が高いといえる。
【0054】
本発明の別の実施形態であるリポポリサッカライドは、SDS-PAGE法で測定した分子量が2000~20000である低分子量リポポリサッカライドと、SDS-PAGE法で測定した分子量が20000より大きく100000以下である高分子量リポポリサッカライドとを含み、上記低分子量リポポリサッカライドと上記高分子量リポポリサッカライドとの合計量に対する、上記低分子量リポポリサッカライドの含有量が80%以上であることが好ましい。低分子量LPSの含有量が80%以上でのLPSは、極めて安全性が高く、かつ生物活性にも優れており特に有用である。
【0055】
本発明において、LPSの分子量は、SDS-PAGE(銀染色法)によって構成成分に展開し、プロテインサイズマーカー移動度を指標として分子量を求めた値である。低分子量LPSと高分子量LPSとの含有量比は、SDS-PAGE画像(銀染色後)の画像輝度総量によって、構成成分の含有量を求めることにより得られる値である。
【0056】
本発明の別の実施形態であるリポポリサッカライドは、ELISA法によるリポポリサッカライド定量値(E)をリムルス試験(エンドポイント-比色法)によるリポポリサッカライド定量値(L)で除した値(E/L比)が1.0以下であることが好ましい。なお、上記E/L比は0より大きい値である。
【0057】
ELISA法によるリポポリサッカライド定量値(E)、及び、リムルス試験(エンドポイント-比色法)によるリポポリサッカライド定量値(L)は、例えば、下記方法により測定される。
【0058】
(ELISA法によるLPSの定量方法)
ELISA法によるLPSの定量は、例えば、測定対象LPSの糖鎖特異的抗体(例えば、IP-PA1糖鎖特異的抗体、自然免疫応用技研(株)製)を用いたELISA法によって、サンプル中のLPS含有量(E)(μg/mg)を測定することにより求められる。具体的には、以下の手順でELISA測定を行うことができる。
【0059】
1)34-G2(固相化抗体:自然免疫応用技研(株)製、Lot.201107-7、IP-PA1のO抗原多糖に対する抗体)を、使用時にフィルター濾過滅菌したPBS(-)にて、800倍希釈する。96穴イムノプレートに50μLずつ分注し、液が蒸発しないようにパラフィルムで密閉して4℃にて保存する。
2)34-G2を加えた96穴イムノプレートを4℃から出し、液を捨てた後、ブロッキング溶液(PBS(-)に終濃度3%(w/v)になるようにBSAを加えた溶液)を200μL/ウエルの割合で入れ、25℃で30分以上放置し、抗体その他のタンパクの非特異的吸着を防止する。
3)洗浄液(10mM Tris-HCl pH7.5、150mM NaCl、0.05%(v/v) Tween20相当品)200μLで3回洗浄後、ウエルに段階希釈したLPS標準溶液(LPS標準物質(例えば、自然免疫応用技研製のパントエアアグロメランス由来LPS標準品(純度95%以上))50μLを入れる。同じ96穴イムノプレートの別のウエルに、測定対象のサンプル溶液を50μL入れる。25℃の恒温槽で1時間放置する。
4)洗浄液 200μLでウエルを3回洗浄し、1000倍希釈した4E-11(1次抗体:自然免疫応用技研(株)製、Lot.20170702、IP-PA1のO抗原多糖に対する抗体)を50μL/ウエルで入れ、25℃の恒温槽で1時間放置する。
5)洗浄液 200μLでウエルを3回洗浄し、1000倍希釈したアルカリフォスファターゼ結合抗マウスIgG免疫グロブリン抗体(Sigma製、Cat.1418)を50μL/ウエルで入れ、25℃の恒温槽で1時間放置する。
6)洗浄液 200μLでウエルを5回洗浄し、発色液(p-ニトロフェニルリン酸二ナトリウム六水和物(p-NPP):ナカライテスク製、Cat.25019-52、Lot.MOP2259)を100μL/ウエルで入れ、室温で1時間放置する。
7)その後、マイクロプレートリーダー(Molecular Devices SpectraMax、Plus384)にて415nmの吸光度を測定する。検量線は2次曲線で作成する。
8)検量線を用いて、サンプル溶液の吸光度から、サンプル溶液中LPS濃度(μg/mL)を算出する。サンプル溶液中LPS濃度を、サンプル溶液中サンプル濃度(mg/mL)(調製時のサンプル秤量値と溶液量から算出)で除すことで、サンプル中のLPS含有量(E)(μg/mg)を求める。
なお、本測定方法によるELISA法の検出限界は1.6ng/mLである。
【0060】
(リムルス試験によるLPSの定量方法)
リムルス試験によるLPSの定量は、例えばLPS特異的に測定可能なリムルス測定キットを用いて、サンプル中のLPS含有量(L)(μg/mg)を測定することにより求められる。具体的には、以下の手順でリムルス試験を行うことができる。
【0061】
(リムルス試験(エンドポイント-比色法)によるLPS定量方法)
LPS特異的に測定可能なリムルス測定キット(例えば、エンドスペシー ES-50Mセット、生化学工業製)を用い、添付の説明書に従って、マイクロプレートを用いたエンドポイント-比色法により測定対象のサンプルLPS中のLPS含有量(L)(μg/mg)を測定する。
測定には、エンドトキシン標準品としてCSE(10ng/vial)(生化学工業製)を用いる。
【0062】
上記の2つの方法で求めたLPS含有量(EおよびL)に基づき、その比(E/L比)を求めることができる。ここで、まず、LPSの構造と分子量の関係について説明する。LPSは、構造として、O抗原多糖、コア多糖、リピドA部分とからなる。このうち、LPSの1分子中におけるリピドA部分の分子量はLPS種類間で大きな違いはない。LPSの1分子中におけるコア多糖部分の分子量もLPS種類間で大きな違いはない。一方、LPS分子中のO抗原多糖部分は繰り返し構造であり、その繰り返しの程度はLPS種類によって大きく異なる。その結果、LPSの種類によって、O抗原多糖部分の分子量の違いが生じ、LPSの分子量の違いが生じるのである。O抗原多糖部分の繰り返し数が多いと、LPSの分子量は大きく、O抗原多糖部分の繰り返し数が少ないと、LPSの分子量は小さくなるのである。また、グラム陰性菌から抽出されるLPSは、通常、分子量の異なるLPSの混合物である。次にLPSの構造とLPS含有量(EおよびL)の関係について説明する。ELISA法で測定されるLPS量(E)は、LPS構造中のO抗原多糖を認識して結合した抗体の量に基づいて求めたLPS量である。LPS構造中のO抗原多糖の繰り返し数が少ないか、あるいは、O抗原多糖がない場合(すなわち、LPSの分子量が小さい場合)、LPS分子中に十分なサイズの抗体結合部位が確保されないこととなり、LPSに抗体が結合できず、ELISA法によるLPS量の測定値は小さい値となる。一方、リムルス試験で測定されるLPS量(L)は、LPS構造中のリピドA構造の反応活性に基づいて求めたLPS量であるので、LPS構造中のO抗原多糖の割合または有無に関係なく、測定サンプル中のLPSのモル数に対応した測定値が求められる。よって、一定質量のLPSサンプル(分子量の異なるLPSの混合物)をELISA法およびエンドトキシン法で測定してLPS含量(EおよびL)を求めたとき、E/L比が大きければ、測定試料に含まれるLPSは分子量の大きいものが多く含まれることを意味し、E/L比が小さければ、測定試料に含まれるLPSは分子量の小さいものが多く含まれることを意味する。
【0063】
本発明の製造方法により得られたLPSは、上記(E/L比)が0より大きく1.0以下であることが好ましい。このようなLPSは、低分子量LPSの含有割合が、従来製法のLPS(IP-PA1)と比べて、結果として高くなる。本発明の製造方法においては、第二工程の精製で逆相クロマトグラフィーを用いているので、脂溶性が高いLPS(親水性の糖鎖が少なく脂溶性のLipid A部分の割合が高いLPS)が、選択的に回収された可能性が高いと考えられる。
すなわち、逆相クロマトグラフィーによる精製工程を含むことで、低分子量LPS高含有のLPSを製造することができる。そのため、低分子量LPSが高含有量であるために、安全性および生理活性(サイトカイン誘導能)の高いLPSが得られる。
【実施例0064】
以下、本発明の内容を実施例及び比較例によりさらに具体的に説明するが、本発明の権利範囲は実施例に限定されるものではない。
【0065】
<実施例及び比較例で用いるグラム陰性菌(パントエア菌)の調製>
(前培養)
250mLバッフルフラスコ(10本)に各100mLの前培養用培養液(LB培地:1%トリプトン(ナカライテスク製、微生物培養用特製試薬)、0.5%酵母エキス(ナカライテスク製、微生物培養用)、1%塩化ナトリウム(富士フイルム和光純薬(株)製、特級))を分注し、121℃で15分間、オートクレーブ(HIRAYAMA製HV-50)で滅菌処理をした。クリーンベンチ内で、無菌的にパントエアアグロメランス(自然免疫応用技研製)を寒天培地から前記フラスコに植菌し、振蕩培養機(サンキ精機製、RMS-20R)にセットし、振蕩培養した。振蕩培養条件は35℃、150rpmとし、22時間培養した。
【0066】
(本培養)
10Lの本培養培地(1%トリプトン、0.5%酵母エキス、1%塩化ナトリウム、0.2%グリセリン(富士フイルム和光純薬(株)製)、0.04%クエン酸一水和物(富士フイルム和光純薬(株)製、特級)、0.2%リン酸水素二カリウム(富士フイルム和光純薬(株)製、特級)、0.07%リン酸水素アンモニウム四水和物(富士フイルム和光純薬(株)製、一級)、0.01%Antifoam 204(Sigma製))を20Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジン製)に入れ、121℃で30分間オートクレーブ滅菌した。
【0067】
上記の本培養培地に、10% 硫酸マグネシウム七水和物(富士フイルム和光純薬(株)製、特級)を0.04%になるように無菌的に加えた。さらに、上記の前培養液を500mL、無菌的に流し込み植菌し、本培養を行った。本培養の条件は、培養温度:30℃、撹拌速度:300rpm、通気量:18~20L/min、pH:6.8~7.2とした。培養開始16時間経過後に培養液を回収した。
上記の10L培地スケールの本培養操作を並行して2セット実施し、それらを合わせて均質化(混合)した上で、次の菌体回収操作に供した。
【0068】
(菌体回収)
上記の均質化した本培養液を1L遠心管(20本)に移し、4℃、8000rpm、20分間の条件で遠心分離(高速冷却遠心機:KUBOTA製7780)を行った後、上清を取り除き、沈殿物として菌体ペレットを回収した(菌体ペレットの合計量260g)。得られた菌体ペレットは-30℃で凍結保存した。
【0069】
以上の方法で得られたパントエアアグロメランスの菌体ペレット(凍結保存品)について、実施例あるいは比較例の方法でLPSの抽出、精製を行った。
【0070】
(実施例1)(熱水抽出(第一工程)+限外ろ過+C4逆相HPLC(第二工程))
[1]熱水抽出
上述のグラム陰性菌(パントエア菌)の調製の操作で得たパントエアアグロメランスの菌体ペレット78gを、400mLの注射用水(大塚製薬工場製)に添加して懸濁した。pHメーター(堀場製作所製 LAQUA)で測定したところ、懸濁液のpHが6.0であったので、水酸化ナトリウム(富士フイルム和光純薬(株)製)(10N)を加えて中和した。その後、オートクレーブ(HIRAYAMA製HV-50)を用いて、90℃にて20分間加熱した。冷却した後、1L遠心管に移し8000rpm、20分間遠心分離し、上清(熱水抽出液)を回収した。
【0071】
[2]限外ろ過処理
上記熱水抽出液15mLを、分画分子量30kdaの限外ろ過チューブ(Amicon Ultra centrifugal filter units)に加えて、遠心分離(7000rpm×30分)し、限外ろ過膜の未透過側にLPSを含む濃縮液を得た。さらに濃縮液に注射用水を15mL追加し、同様に遠心分離を行って、濃縮液の洗浄を行った。同様の洗浄をさらに5回繰り返して、洗浄後の濃縮液を回収し、注射用水を加えてメスアップし、15mLの限外ろ過済み懸濁液を得た。
【0072】
[3]クロマトグラフィー精製の前処理(可溶化処理)
上記の限外ろ過済み懸濁液の1mLに、可溶化緩衝液(0.25%デオキシコール酸ナトリウム、200mM塩化ナトリウム、10mMトリス-HCl(pH約9.5))3mLを加え、よく混和し4倍に希釈した。可溶化されない沈殿物を、孔径0.45μmのシリンジフィルターで除去し、約3.5mLの可溶化処理済み溶液(上記抽出液中のLPSを含む溶液)を得た。
【0073】
[4]クロマトグラフィー精製
上記の可溶化処理済み溶液の一部(1500μL)を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)装置にインジェクションし、LPS該当成分(サンプルフラクション)を分取した。カラムとしては、ブチル基(炭素数4のアルキル基)を有する逆相シリカゲルカラム(C4逆相カラム)を用いた。すなわち、C4逆相カラムを備えたHPLC(C4逆相HPLC)を用いた。移動相は環境負荷の小さい、水溶液/メタノール系のグラジエント分離を採用した。水溶液にはギ酸およびトリエチルアミンを添加した。グラジエントは、A液リッチ条件で流した後に、B液の濃度を上げるグラジエント条件とした。
具体的な分離条件は以下の通りである。
【0074】
<HPLC分離条件>
・装置:HPLC(島津製作所社製「Prominence」)
・C4逆相カラム:XBridge Protein BEH C4 Column, 300Å, 3.5μm,4.6mmX100mm Waters製
・溶離液:A液(50mMギ酸・50mMトリエチルアミン)の水溶液
B液 メタノール
・グラジエント条件(体積%):
0~10min:濃度一定条件(A液95%/B液5%)、
10~35min:直線的グラジエント条件
(A液95%/B液5%(10min)→(A液5%/B液95%(35min))、
35~50min:濃度一定(A液5%/B液95%)
・流量:4.5mL/min
・カラム温度:40℃
・試料注入量:1500μL
・検出器(DAD):210nm
【0075】
[5]クロマトグラフィー精製の後処理(有機溶媒除去および濃縮)
上記[4]のクロマトグラフィー精製により分取したサンプルフラクションについて、メタノール除去のために35℃でエバポレートし(ロータリーエバポレーター)、揮発しなかった水溶液を回収し、注射用水を加えて15mLとした。
その液を、分画分子量10kdaの限外ろ過チューブ(Amicon Ultra centrifugal filter units)に加えて、遠心分離(7000rpm×30分)し、限外ろ過膜の未透過側にLPSを含む濃縮液を得た。さらに濃縮液に注射用水を15mL追加し、同様に遠心分離を行って、濃縮液の洗浄を行った。同様の洗浄をさらに5回繰り返して、洗浄後の濃縮液を回収し、注射用水を加えてメスアップし、4mLの水溶液を得た。
【0076】
[6]凍結乾燥
得られた水溶液を真空凍結乾燥機(日本テクノサービス製FD-2BU-SQ)にて凍結乾燥し(条件:-20℃、5Pa、15h)、最終産物である実施例1にかかるLPSを得た。
【0077】
(実施例2)(熱水抽出+C4逆相HPLC)
実施例1の工程[1]を経て得られた熱水抽出液を用いた。実施例1で行った工程[2]限外ろ過処理は行わなかった。
【0078】
実施例1の工程[3]クロマトグラフィー精製の前処理(可溶化処理)で用いた、限外ろ過済みの懸濁液1mLに変えて、熱水抽出後の懸濁液1mLを用いた以外は、実施例1の工程[3]と同様の操作を行い、約3.5mLの可溶化処理済み溶液を得た。
【0079】
得られた可溶化処理済み溶液に対し、実施例1の工程[4]クロマトグラフィー精製、[5]クロマトグラフィー精製の後処理(有機溶媒除去および濃縮)、及び、[6]凍結乾燥と同様の操作を行い、最終生産物である実施例2にかかるLPSを得た。
【0080】
(比較例1)(TCA抽出+PhOH抽出+限外ろ過)
[11]TCA抽出
上述のグラム陰性菌(パントエア菌)の調製の操作で得たパントエアアグロメランスの菌体ペレット130gと、蒸留水とを3Lビーカーに添加して、攪拌混合し300mg/mLの懸濁液(433mL)を調製した。
上記懸濁液と等量の0.5Mトリクロロ酢酸(TCA)水溶液を添加し、15~20℃で3時間攪拌混合した(100rpm)。その後、遠心管に移し、遠心分離(8,000G×15分)して上清を得た。これを3Lビーカーに加え、10N NaOH(20μL/mL)を添加し、pHを7.0に調整しTCA抽出液とした。
得られたTCA抽出液300mLに、-20℃のエタノール600mLを添加し、攪拌混合した後、上記TCA抽出液を-20℃で一晩静置し、翌日遠心分離(7,000G×15分)して沈殿を得た。得られた沈殿に蒸留水40mLを添加し懸濁液を調製し、凍結乾燥を行い、乾燥TCA抽出物1.7gを得た。
【0081】
[12]フェノール抽出
ビーカーに、得られた乾燥TCA抽出物1.6gと蒸留水40mLとを添加し、攪拌混合し、40mg/mLの懸濁液を調製した。次に、上記懸濁液に68℃に加温した90%フェノール水溶液を40mL添加し、68℃で20分間攪拌した。続いて、上記懸濁液が20℃以下まで冷めた後に、遠心管に懸濁液を移し、室温にて遠心分離した(7,000G×30分)。遠心分離後の遠心管の上層(1st抽出液)を回収し、下層をフェノール抽出に使用したビーカーに戻した。
上記ビーカーに40mLの蒸留水を加え、68℃で20分間攪拌した。続いて、上記懸濁液が20℃以下まで冷めた後に、得られた懸濁液を遠心管に移し、室温にて遠心分離した(7,000G×30分)。遠心分離後の遠心管の上層(2nd抽出液)を回収し、1st抽出液と合わせて、フェノール抽出水層液とした。
【0082】
[13]限外ろ過処理
上記[12]フェノール抽出水層液全量(約80mL)を分画分子量10kdaの限外ろ過チューブ(Amicon Ultra centrifugal filter units)に加えて、遠心分離(7000rpm×30分)し、限外ろ過膜の未透過側にLPSを含む濃縮液を得た。さらに濃縮液に注射用水を15mL追加し、同様に遠心分離を行って、濃縮液の洗浄を行った。同様の洗浄をさらに11回繰り返して、洗浄後の濃縮液を回収し、注射用水を加えてメスアップし、15mLの限外ろ過済み懸濁液を得た。
[14]凍結乾燥
得られた限外ろ過済みの懸濁液を真空凍結乾燥機(日本テクノサービス製FD-2BU-SQ)にて凍結乾燥し(条件:-20℃、5Pa、15h)、最終産物である比較例1にかかるLPSを得た。
【0083】
(比較例2)(熱水抽出+限外ろ過)
実施例1の工程[1]を経て得られた熱水抽出液15mLを用いて、実施例1の工程[2]と同様の操作を行い、限外ろ過処理を行った。限外ろ過処理で得られた懸濁液は15mLであった。
得られた限界ろ過済み懸濁液について、実施例1の工程[6]凍結乾燥と同様の操作を行い、最終産物である比較例2にかかるLPSを得た。
【0084】
(比較例3)(熱水抽出のみ)
実施例1の工程[1]を経て得られた熱水抽出液について、実施例1の工程[6]凍結乾燥と同様の操作を行い、最終産物である比較例3にかかるLPSを得た。
【0085】
<LPSの定量>
上記工程により得られた各実施例及び比較例に係るLPS(以下、サンプルという。)を下記の溶離液に溶かし、下記のHPLC法にてLPSの定量を行った。また、定量結果から、菌体1kgに対するLPS収量を算出し、下記表1に記載した。
【0086】
<HPLC法>
各サンプルを溶離液で適宜希釈し、HPLCにインジェクションした。定量は絶対検量線法により行った。
【0087】
<HPLC分離条件>
・装置:HPLC(Agilent製「HPLC 1260 Infinity」)
・カラム:PL-aquagel-OH 30 Agilent社製(粒径8um、長さ300mm×内径7.5mm)×3本連結
・溶離液:0.25%デオキシコール酸ナトリウム、200mM塩化ナトリウム、10mMトリス-HCl水溶液(pH9.5)
・流量:1.0mL/min
・カラム温度:40℃
・試料注入量:50μL
・検出器:示差屈折率検出器
・標準物質:パントエアアグロメランス由来LPS標準品(純度95%以上)
【0088】
<タンパク質及び核酸の各サンプル中濃度の測定>
下記方法により、各サンプル中に残存するタンパク質及び核酸の濃度を測定した。その結果を下記表1に記載した。
【0089】
(タンパク質含有率の測定)
重量を測定した各サンプルを水に溶解し、BCA法(Thermo製「Pierce BCA Protein Assay Kit」)にてタンパク質含有量を測定した。
さらに水溶液の液量を乗じてタンパク質含有量を求めた。
その上で次の式1により各サンプル中のタンパク質含有率を求め、表1に示した。
(式1)タンパク質含有率(%)=(タンパク質含有量(mg)/サンプル(mg))×100
【0090】
(核酸含有率の測定)
重量を測定した各サンプルを水に溶解した水溶液について、分光光度計(Molecular Devices製、SpectraMaxPlus384)にて、水を対照として、各サンプル水溶液の260nmおよび320nmの吸光度を求め、次の式2により水溶液中の核酸濃度Acを求めた。
(式2)Ac(μg/mL)=O.D.260nm-O.D.320nm)×50
さらに水溶液の液量を乗じて核酸含有量を求めた。
その上で次の式3により各サンプル中の核酸含有率を求め、表1に示した。
(式3)核酸含有率(%)=(核酸含有量(mg)/サンプル(mg))×100
【0091】
(LPS純度の計算)
次の式4により得られた各サンプルのLPSの純度を求め、表1に示した。
(式4)LPS純度(%)=100-タンパク質含有率(%)-核酸含有率(%)
【0092】
(湿菌体1kgあたりLPS収量の算出方法)
湿菌体W(g)から得た抽出液(熱水またはTCA)V(mL)のうちv(mL)を精製してWLPS(g)のLPSを得た場合、湿菌体1kgあたりLPS収量はWLPS×(V/v)×(1000/W)(g)である。これに基づき、実施例及び比較例にかかるLPSの収量を算出し、表1に示した。
【0093】
<第一種指定化学物質最大処理濃度>
(第一種指定化学物質最大処理濃度の算出方法)
各工程において溶媒成分Aがa(mL)、成分Bがb(mL)、成分Cがc(mL)混合されており、Bが第一種指定化学物質である場合、第一種指定化学物質処理濃度は{b/(a+b+c)}×100(%)である。実施例または比較例に採用される各工程において第一種指定化学物質処理濃度を算出し、最も高いものを第一種指定化学物質最大処理濃度として、表1に示した。
【0094】
なお、比較例1に係るサンプルの調製に用いられた第一種指定化学物質(化学物質排出把握管理促進法)に指定される物質は、トリクロロ酢酸及びフェノールであり、製造過程におけるこれらの最大処理濃度を下記表1に示す。
【0095】
また、実施例1および2に係るサンプルの調製に用いられた第一種指定化学物質(化学物質排出把握管理促進法)に指定される物質は、トリエチルアミンであり、製造過程における最大処理濃度を下記表1に示す。
【0096】
【0097】
上記表1の結果から、実施例1および2では、熱水抽出とC4逆相カラムHPLCの組合せによって、限外ろ過の有無にかかわらず、抽出溶媒として環境負荷の高い有機溶媒を用いることなく、また、製法全行程での第1種指定化学物質の使用量も少なく抑えて、十分な純度のLPSを製造することができた。環境負荷の高いTCAおよびフェノールで抽出した従来のLPS製造方法である比較例1と同程度の高純度であり、収量も遜色ないことがわかる。そして、熱水抽出のみ、あるいは熱水抽出と限外ろ過だけでは、LPS収量、LPS純度ともに十分ではないことがわかる。この結果より、熱水抽出と特定の逆相カラムを用いたHPLCを組み合わせたことにより、抽出工程で環境負荷の高い有機溶媒を用いず、また、製法全体で第一種指定化学物質の使用量も少なく抑えて、LPS収量、LPS純度ともに満足できるレベルでLPSを製造できることは明らかである。
【0098】
次に実施例2の製法で調製したLPS(LPS純度94.4%)について、LPSとしての構造的特徴を明確化する目的で、SDS-PAGEゲル電気泳動法により分子量分布を評価した。また、ELISA法によるLPS定量値(E)と、リムルス試験(エンドポイント-比色法)によるLPS定量値(L)を求め、その比(E/L比)を評価した。
その測定方法および測定結果を以下に記す。
【0099】
(測定サンプル)
実施例2の製法で調製したサンプル(LPS純度94.4%)(Lot.2、Lot.3)
IP-PA1標準品(パントエアアグロメランス由来LPS、LPS純度97.3%、自然免疫応用技研製、Lot.4)(比較対象として測定)
【0100】
なお、IP-PA1標準品は、パントエアアグロメランス由来LPSであるが、その製法は本発明とは異なる。IP-PA1は、ホットフェノール水によって抽出し、陰イオン交換クロマトグラフィーによって精製して得たものである。
【0101】
<SDS-PAGEゲル電気泳動法による分子量分布の測定>
(測定方法)
Tricine-SDS-PAGEによりLPSを分画し、銀染色法により可視化した。Tricine-SDS-PAGEは、Schaegger H.らの論文(1)を参考にした。15%ポリアクリルアミドゲルはアトー社製のプレキャストゲルを用い、Tricineは泳動Bufferにのみ加えた。銀染色法は、Tsaiらの論文(2)を参考にして、富士フイルム和光純薬(株)製の電気泳動用銀染色IIキット ワコーを用いて染色した。
【0102】
参考論文:
(1)Tricine-sodium dodecyl sulfate-polyacrylamide gel electrophoresis for the separation of proteins in the range from 1 to 100 kDa. Schaegger H, von Jagow G. Anal Biochem. 1987 Nov 1;166(2):368-79
(2)A sensitive silver stain for detecting lipopolysaccharides in polyacrylamide gels. Tsai CM, Frasch CE. Anal Biochem. 1982 Jan 1;119(1):115-9.
【0103】
(泳動用試料溶液の調製および電気泳動)
IP-PA1標準品、実施例2のLPS(Lot.2、Lot.3)を電気泳動した。
IP-PA1標準品、実施例2のLPS(Lot.2、Lot.3)については、蒸留水を加えて500μg/mLとした。それぞれ、12μLを各3本ずつ1.5mLチューブに分注し、同量(12μL)の試料緩衝液(nakarai tesque製、試料緩衝液(SDS-PAGE用、2倍濃縮、2-ME含有))を加えよく混ぜ、100℃のヒーティングブロック中(アルミブロックヒーター、サイニクス製)で5分間加熱処理した。処理後に氷水中で急冷し、遠心分離により試料をチューブの底に集めた後、ゲルに20μLアプライした。
なお、泳動用緩衝液は下記表2の組成で調製した。
【0104】
【0105】
サイズマーカー(Bio-Rad Laboratories 製、プレシジョンPlusプロテインデュアルエクストラスタンダード、分子量サイズ:250、150、100、75、50、37、25、20、15、10、5、2kDa)は、1μLを試料緩衝液(nakarai tesque製、試料緩衝液(SDS-PAGE用、2倍濃縮、2-ME含有))を蒸留水で2倍希釈したもの(39μL)に加え、ゲルに20μLアプライした。サイズマーカーと検体をアプライした後、直ちに、20mAコンスタントで泳動を開始し、BPB(マーカー色素)が分離ゲルの下端から1cmの位置まで泳動された時点(約60分)で泳動を終了した。泳動終了後、ゲル板を装置よりはずし、ゲルを銀染色用の固定液につけた。
【0106】
(銀染色法)
富士フイルム和光純薬(株)製の電気泳動用銀染色IIキット ワコーを用いて染色した。染色操作は、添付の説明書に従った。
【0107】
得られた電気泳動図を、
図1のSDS-PAGE(銀染色法)泳動図に示す。
図1のSDS-PAGEは、左からIP-PA1(N=3)、実施例2のLPS(Lot.2)(N=3)、実施例2のLPS(Lot.3)(N=3)、プロテインサイズマーカーの順に並んでいる。
図1の縦軸は、分子量を示す。また、プロテインサイズマーカー基準で求めた分子量を下記表3に示す。
【0108】
(各バンドの総輝度値の解析)
次に、イメージJソフトウェア(フリー画像処理ソフトウェア、http://imagej.nih.gov/ij/、ImageJ 1.52a)を用いて、画像データを読み込み、各レーンの高分子量領域のバンドと低分子領域のバンドの総輝度値(輝度値×面積)を求めた。SDS-PAGEによる低分子量成分と高分子量成分の総輝度値の測定結果を下記表4に示す。
【0109】
【0110】
【0111】
(測定結果)
電気泳動の結果、プロテインサイズマーカー基準で求めた分子量は、低分子領域バンドは、IP-PA1標準品、実施例2のLPSともに5000~20000であった。高分子領域バンドは、IP-PA1標準品が20000~70000であるのに対して、実施例2のLPSは25000~60000と狭い分布であった。
次に各バンドの総輝度値については、IP-PA1標準品では、輝度値で低分子LPSの割合が74.9%に対して、実施例2のLPS Lot.2では、82.3%、Lot.3では84.6%と、実施例2のLPSは両ロット共、低分子LPSの比率がIP-PA1標準品より高いことが示された。
【0112】
<E/L比の測定>
(ELISA法によるLPSの定量方法)
IP-PA1糖鎖特異的抗体(自然免疫応用技研(株)製)を用いたELISA法によって、サンプル中のLPS含有量(E)(μg/mg)を測定した。具体的には、以下の手順でELISA測定を行った。
【0113】
1)34-G2(固相化抗体:自然免疫応用技研(株)製、Lot.201107-7、IP-PA1のO抗原多糖に対する抗体)を、使用時にフィルター濾過滅菌したPBS(-)にて、800倍希釈した。96穴イムノプレートに50μLずつ分注し、液が蒸発しないようにパラフィルムで密閉して4℃にて保存した。
2)34-G2を加えた96穴イムノプレートを4℃から出し、液を捨てた後、ブロッキング溶液(PBS(-)に終濃度3%(w/v)になるようにBSAを加えた溶液)を200μL/ウエルの割合で入れ、25℃で30分以上放置し、抗体その他のタンパクの非特異的吸着を防止した。
3)洗浄液(10mM Tris-HCl pH7.5、150mM NaCl、0.05%(v/v) Tween20相当品)200μLで3回洗浄後、ウエルに段階希釈したIP-PA1標準液(IP-PA1純度97.2%以上:自然免疫応用技研、Lot.4)50μLを入れた。同じ96穴イムノプレートの別のウエルに、測定対象のサンプル溶液を50μL入れた。25℃の恒温槽で1時間放置した。
4)洗浄液 200μLでウエルを3回洗浄し、1000倍希釈した4E-11(1次抗体:自然免疫応用技研(株)製、Lot.20170702、IP-PA1のO抗原多糖に対する抗体)を50μL/ウエルで入れ、25℃の恒温槽で1時間放置した。
5)洗浄液 200μLでウエルを3回洗浄し、1000倍希釈したアルカリフォスファターゼ結合抗マウスIgG免疫グロブリン抗体(Sigma製、Cat.1418)を50μL/ウエルで入れ、25℃の恒温槽で1時間放置した。
6)洗浄液 200μLでウエルを5回洗浄し、発色液(p-ニトロフェニルリン酸二ナトリウム六水和物(p-NPP):ナカライテスク製、Cat.25019-52、Lot.MOP2259)を100μL/ウエルで入れ、室温で1時間放置した。
7)その後、マイクロプレートリーダー(Molecular Devices SpectraMax、Plus384)にて415nmの吸光度を測定した。検量線は2次曲線で作成した。
8)検量線を用いて、サンプル溶液の吸光度から、サンプル溶液中LPS濃度(μg/mL)を算出した。サンプル溶液中LPS濃度を、サンプル溶液中サンプル濃度(mg/mL)(調製時のサンプル秤量値と溶液量から算出)で除すことで、サンプル中のLPS含有量(E)(μg/mg)を求めた。
なお、本ELISA法の検出限界は1.6ng/mLである。
【0114】
IP-PA1標準液(Lot.4)、実施例2のLPS(Lot.2及びLot.3)について、ELISA法によるLPS定量を行った。各測定結果を下記表5に示す。
【0115】
(リムルス試験(エンドポイント-比色法)によるLPS定量方法)
LPS特異的に測定可能なリムルス測定キット(エンドスペシー ES-50Mセット、生化学工業製)を用い、添付の説明書に従って、マイクロプレートを用いたエンドポイント-比色法によりサンプル(実施例2のLPS(Lot.2及びLot.3)及びIP-PA1標準液(Lot.4))中のLPS含有量(L)(μg/mg)を測定した。
測定には、エンドトキシン標準品としてCSE(10ng/vial)(生化学工業製)を用いた。各測定結果を下記表5に示す。
【0116】
上記の2つの方法で求めたLPS含有量(EおよびL)に基づき、その比(E/L比)を求めた。結果を下記表5に示す。
【0117】
【0118】
(測定結果)
従来製法で製造されたIP-PA1のE/L比が1.64であるのに対し、実施例2のLPSは0.71~0.72、と低い値となった。
【0119】
LPSは、生物由来の物質であるため、異なる構造および分子量の分子の混合物と考えられる。よって、本発明の産物も構造式によって明確に規定することは困難である。そこで、構造に起因する特性値を評価することによって、製造産物の特性を明確化した。すなわち、SDS-PAGEゲル電気泳動法の測定結果より、実施例の方法で製造することで、LPS全体に対する低分子量LPSの比率が、従来製法のLPS(IP-PA1)よりも高いLPS混合物が得られたことが確認できた。また、実施例の方法で製造したLPSのE/L比の値が従来製法のLPS(IP-PA1)よりも小さいことは、分子量への寄与が大きい糖鎖部分が短くなっていることを示しており、この結果からも、実施例の方法で製造することによって、LPS全体に対する低分子量LPSの比率が、従来製法のLPS(IP-PA1)よりも高いLPS混合物が得られたことを示していることを確認した。
【0120】
すなわち、本発明の製造方法においては、精製工程で逆相クロマトグラフィーを用いているので、脂溶性が高いLPS(親水性の糖鎖が少なく脂溶性のLipid A部分の割合が高いLPS)が、選択的に回収された可能性が考えられた。
【0121】
以上のように本発明のLPSは、特定の製造方法で製造することにより、LPS全体における低分子量LPSの割合の多い産物(LPS)が得られる。そして、その分子量分布ゆえに、安全性および生理活性(サイトカイン誘導能)の高いLPSである。
【0122】
[1]
グラム陰性菌からリポポリサッカライドを抽出、精製するリポポリサッカライドの製造方法であって、
前記グラム陰性菌を熱水で抽出することにより、前記リポポリサッカライドを含む抽出液を得る第一工程と、
逆相液体クロマトグラフィーを用いて前記抽出液又は前記抽出液中のLPSを含む溶液を精製することにより、リポポリサッカライドを得る第二工程とを含み、
前記逆相液体クロマトグラフィーにおける逆相カラムは、炭素数が1~8の官能基を有する材料で構成された充填剤を有する
ことを特徴とするリポポリサッカライドの製造方法。
[2]
充填剤は、炭素数が2~6の官能基を有する材料で構成されていることを特徴とする、[1]に記載のリポポリサッカライドの製造方法。
[3]
充填剤は、炭素数が2~4の官能基を有する材料で構成されていることを特徴とする、[1]又は[2]に記載のリポポリサッカライドの製造方法。
[4]
充填剤は、炭素数が4の官能基を有する材料で構成されていることを特徴とする、[1]~[3]のいずれか一項に記載のリポポリサッカライドの製造方法。
[5]
官能基はアルキル基であることを特徴とする、[1]~[4]のいずれか一項に記載のリポポリサッカライドの製造方法。
[6]
第一工程の熱水の温度が50~150℃であることを特徴とする、[1]~[5]のいずれか一項に記載のリポポリサッカライドの製造方法。
[7]
第一工程の熱水の温度が50~99℃であることを特徴とする、[1]~[6]のいずれか一項に記載のリポポリサッカライドの製造方法。
[8]
第一工程の熱水の温度が70~99℃であることを特徴とする、[1]~[7]のいずれか一項に記載のリポポリサッカライドの製造方法。
[9]
第一工程の熱水の温度が85~95℃であることを特徴とする、[1]~[8]のいずれか一項に記載のリポポリサッカライドの製造方法。
[10]
グラム陰性菌は、Escherichia属、Salmonella属、Pantoea属、Acetobacter属、Zymomonas属、Xanthomonas属及びEnterobacter属、Roseomonas属とRhodobactor属からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする、[1]~[9]のいずれか一項に記載のリポポリサッカライドの製造方法。
[11]
グラム陰性菌は、Pantoea属であることを特徴とする、[1]~[10]のいずれか一項に記載のリポポリサッカライドの製造方法。
[12]
[1]~[9]のいずれか一項に記載の製造方法で製造されたことを特徴とする、リポポリサッカライド。
[13]
[10]又は[11]記載のグラム陰性菌から得られることを特徴とする、[12]に記載のリポポリサッカライド。
[14]
SDS-PAGE法で測定した分子量が2000~20000である低分子量リポポリサッカライドと、SDS-PAGE法で測定した分子量が20000より大きく100000以下である高分子量リポポリサッカライドとを含み、前記低分子量リポポリサッカライドと前記高分子量リポポリサッカライドとの合計量に対する、前記低分子量リポポリサッカライドの含有量が80%以上であることを特徴とする、[12]又は[13]に記載のリポポリサッカライド。
[15]
ELISA法によるリポポリサッカライド定量値(E)をリムルス試験(エンドポイント-比色法)によるリポポリサッカライド定量値(L)で除した値(E/L比)が1.0以下であることを特徴とする、[12]~[14]のいずれか一項に記載のリポポリサッカライド。