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特開2023-65708大腸菌を用いた外来タンパク質の製造方法
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  • 特開-大腸菌を用いた外来タンパク質の製造方法 図1
  • 特開-大腸菌を用いた外来タンパク質の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023065708
(43)【公開日】2023-05-15
(54)【発明の名称】大腸菌を用いた外来タンパク質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/31 20060101AFI20230508BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
C12N15/31
C12P21/02 C ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020064178
(22)【出願日】2020-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼永 智久
(72)【発明者】
【氏名】西山 陶三
(72)【発明者】
【氏名】石黒 康二朗
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064AG26
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】大腸菌によって、外来タンパク質を培養液中に生産するための方法であって、該タンパク質が培養液中に分泌され、かつ培養上清の粘性上昇が抑制されることにより、培養後の後処理工程に負荷のかからない、培養上清から直接精製することができる方法の提供。
【解決手段】外来タンパク質の製造方法であって、部分変異を有するペプチドグリカン結合リポタンパク質(Pal)をコードする遺伝子、及び、外来タンパク質をコードする遺伝子を含む大腸菌を培養し、当該外来タンパク質を培養上清中に分泌させる、当該外来タンパク質の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外来タンパク質の製造方法であって、部分変異を有するペプチドグリカン結合リポタンパク質(Pal)をコードする遺伝子、及び外来タンパク質をコードする遺伝子を含む大腸菌を培養し、当該外来タンパク質を培養液中に分泌させる、当該外来タンパク質の製造方法。
【請求項2】
前記大腸菌による外来タンパク質の培養上清中への分泌量が、Palに部分変異を有さない大腸菌による外来タンパク質の培養上清中への分泌量よりも増加している請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記部分変異を有するPalが、配列番号1に示すアミノ酸配列に部分変異を有する、又は配列番号1のアミノ酸配列に部分変異を有さず、かつシグナルペプチドに部分変異を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記部分変異を有するPalが、配列番号1の3位から17位、19位から121位、および123位から152位のアミノ酸配列の中から選ばれる1つ以上のアミノ酸配列、及び/又は配列番号3に示すアミノ酸配列に部分変異を有する、請求項1~3に記載の方法。
【請求項5】
前記部分変異が、1つ以上のアミノ酸の欠損、置換または挿入である請求項1~4に記載の方法。
【請求項6】
前記部分変異を有するPalが、配列番号5、7、9、11、13、15、17、及び19のいずれかに示すアミノ酸配列、配列番号5、7、9、11、13、15、17、及び19のいずれかに示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、または配列番号5、7、9、11、13、15、17、及び19のいずれかに示すアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、および/または付加したアミノ酸配列である、請求項1~5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大腸菌を用いた外来タンパク質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子組換え技術を用いた組換えタンパク質の生産には、様々な宿主が用いられている。例えば、CHO(Chinese Hamster Ovary)細胞といった動物細胞や、大腸菌や酵母といった微生物等が挙げられる。微生物においては、動物細胞と比較して短時間かつ低コストで目的タンパク質を生産できるというメリットがある。とりわけ、大腸菌は最も研究されている微生物の一つで、短時間で増殖し、かつ取扱いも容易なことからタンパク質生産において頻繁に利用されている。
【0003】
大腸菌を用いたタンパク質生産において、一般的には、細胞内でタンパク質が生産されるため、発酵培養後に培養液を菌体と培養上清に分離し、ペリプラズム抽出、または、超音波や溶菌酵素であるリゾチーム等による細胞破壊、もしくは、封入体(インクルージョンボディー)の回収等の操作を行う必要があり、さらには、目的のタンパク質を多種・多量の宿主由来物質から精製する必要があることから、これらの後処理工程が目的タンパク質の生産コストに大きく影響する。
【0004】
大腸菌を用いたタンパク質生産において、目的タンパク質を細胞外に分泌する方法を用いることができれば、培養上清と菌体との分離作業のみにより、ペリプラズム抽出や菌体破壊といった更なる後処理工程を行うことなく、培養上清から直接的に精製することができる。
【0005】
これまでに、膜タンパク質の一種であるlppの遺伝子に突然変異を有する大腸菌を使用して、組換えタンパク質の培養上清中への分泌が報告されている(特許文献1)。
【0006】
また、非特許文献1では大腸菌における様々な膜タンパク質をCRISPR/Cas9を用いてゲノム編集した膜タンパク質欠損株を用い、外来蛍光タンパク質の細胞外への分泌生産の検討が行われており、生産された該タンパク質の細胞外への分泌が報告されている。その中で、大腸菌の外膜構造維持に関わるペプチドグリカン結合リポタンパク質(Pal)欠損株においても該タンパク質の細胞外への分泌が確認されている。一方で、培地中へのDNAの漏出も観察されている。一般的にDNAの細胞外への漏出は培養上清の粘性増大の要因となることが報告されている(非特許文献2)。
【0007】
培養上清の粘性が増大した場合、後処理工程での膜処理におけるフィルターろ過性の低下、クロマトグラフィーでの精製時におけるカラム圧の上昇等、培養後の後処理工程に負荷がかかり、生産効率の低下や生産コストの増加の要因となる。
【0008】
一方、種々の部分欠損を有するPalをコードする遺伝子を組み込んだプラスミドを用い、Pal欠損株に対して形質転換することで、Pal欠損株では失われている外膜の整合性が完全にまたは一部相補されることが報告されている(非特許文献3)。しかしながら、これはPalがTolA、TolB、OmpAといった他の膜タンパク質やペプチドグリカンと相互作用することで、Palの外膜の整合性に寄与することを明らかにしたものであり、外来タンパク質の分泌生産能については不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008-73046号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Wen Gao 他著、ACS Synth. Biol., 7, 1291-1302(2018)
【非特許文献2】Joseph M. Newton 他著, Biotechnol Prog., 32(4), 1069-1076(2016)
【非特許文献3】Cascales E.and Lloubes R著,,Mol Microbiol.,51(3),873-885(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、目的タンパク質を培養上清中に分泌させるとともに、培養上清の粘性上昇を低減する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、大腸菌の膜タンパク質であるPalに部分変異を有するタンパク質をコードする遺伝子を有し、Palの機能が低減した大腸菌を用いることで、目的タンパク質の培養上清中への分泌生産を実現し、かつ培養上清の粘性上昇が低減することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明では以下の発明が提供される。
(1)外来タンパク質の製造方法であって、部分変異を有するペプチドグリカン結合リポタンパク質(Pal)をコードする遺伝子、及び外来タンパク質をコードする遺伝子を含む大腸菌を培養し、当該外来タンパク質を培養上清中に分泌させる、当該外来タンパク質の製造方法。
(2)前記大腸菌による外来タンパク質の培養上清中への分泌量が、Palに部分変異を有さない大腸菌による外来タンパク質の培養上清中への分泌量よりも増加している(1)に記載の方法。
(3)前記部分変異を有するPalが、配列番号1に示すアミノ酸配列に部分変異を有する、又は配列番号1のアミノ酸配列に部分変異を有さず、かつシグナルペプチドに部分変異を有する(1)または(2)に記載の方法。
(4)前記部分変異を有するPalが、配列番号1の3位から17位、19位から121位、および123位から152位のアミノ酸配列の中から選ばれる1つ以上のアミノ酸配列、及び/又は配列番号3に示すアミノ酸配列に部分変異を有する(1)~(3)に記載の方法。
(5)前記部分変異が、1つ以上のアミノ酸の欠損、置換または挿入である(1)~(4)に記載の方法。
(6)前記部分変異を有するPalが、配列番号5、7、9、11、13、15、17、及び19のいずれかに示すアミノ酸配列、配列番号5、7、9、11、13、15、17、及び19のいずれかに示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、または配列番号5、7、9、11、13、15、17、及び19のいずれかに示すアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、および/または付加したアミノ酸配列である、(1)~(5)に記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のPalを部分変異させた大腸菌で外来タンパク質を生産することにより、培養上清中に目的の外来タンパク質を分泌させることができる。また、本発明によって、分泌生産に伴う培養上清の粘性上昇が抑制され、後処理工程への負荷軽減により効率的に目的の外来タンパク質を生産できる方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例3に係る培養上清のSDS-PAGE解析の結果を示す図である。レーンMはマーカーであり15kDaを示す。レーン1はBL21(DE3)株、レーン2はPal1株、レーン3はPal2株を示す。
図2】本発明の実施例4に係る培養上清のSDS-PAGE解析の結果を示す図である。レーンMはマーカーであり15kDaを示す。レーン1はBL21(DE3)株、レーン2はPal1株、レーン3はPal2株を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[部分変異を有するPalをコードする遺伝子を含む大腸菌]
本発明において、「部分変異」とは遺伝子、もしくはタンパク質を部分的に変異させることを意味し、部分変異の種類としては、1つ以上のアミノ酸の部分的な置換、部分的な欠損、部分的な挿入が挙げられる。本発明で用いられる「部分変異を有するPalをコードする遺伝子を含む大腸菌(以下、「Pal部分変異株」と呼称する)」とは、大腸菌ゲノム上のPal(配列番号1)をコードする遺伝子(配列番号2)を部分的に変異させ、Pal(配列番号1)を部分的に変異させた大腸菌であり、Pal(配列番号1)に部分変異を有していない場合でも、Palのシグナルペプチド(配列番号3)をコードする遺伝子(配列番号4)を部分的に変異させ、Palのシグナルペプチド(配列番号3)を部分的に変異させた大腸菌も含む。部分変異させるシグナルペプチドは、他のシグナルペプチド、例えば、OmpA、OmpF、Lpp、PhoE等であっても良い。
【0017】
本発明において、前記部分変異は部分欠損であることが好ましい。「部分欠損」とは遺伝子、もしくはタンパク質を部分的に欠損させることを意味し、「部分欠損を有するPalをコードする遺伝子を含む大腸菌(以下、「Pal部分欠損株」と呼称する)」とは、大腸菌ゲノム上のPal(配列番号1)をコードする遺伝子(配列番号2)を部分的に欠損させ、Pal(配列番号1)を部分的に欠損させた大腸菌であり、配列番号3または4に部分欠損を有する場合も含む。Palに部分欠損を施す箇所は文献に記載されているものを適用した(Cascales E.and Lloubes R著,(2004年),Mol Microbiol.,51(3),873-885)。
【0018】
Pal部分変異株は、Palをコードする遺伝子を欠損させたPal欠損株に部分変異を有するPalをコードした遺伝子を有する遺伝子を導入し、部分変異を有するPalを発現させることで作製することも可能であるが、本発明では、pal(配列番号1)が部分変異した大腸菌を用いることが好ましく、前記部分変異は部分欠損であることがより好ましい。
【0019】
前記Palの部分変異は、Palのシグナルペプチド、配列番号1の3位から17位、19位から121位、および123位から152位のアミノ酸配列の中から選ばれる一つ以上のアミノ酸配列の部分変異であることが好ましい。
【0020】
本明細書では、3位のアミノ酸から17位のアミノ酸が欠損しているPal(配列番号5)をコードしている遺伝子(配列番号6)をゲノム上に有する大腸菌株をPal1株、19位のアミノ酸から43位のアミノ酸が欠損しているPal(配列番号7)をコードしている遺伝子(配列番号8)をゲノム上に有する大腸菌株をPal2株、44位のアミノ酸から62位のアミノ酸が欠損しているPal(配列番号9)をコードしている遺伝子(配列番号10)をゲノム上に有する大腸菌株をPal3株、62位のアミノ酸から93位のアミノ酸が欠損しているPal(配列番号11)をコードしている遺伝子(配列番号12)をゲノム上に有する大腸菌株をPal4株、94位のアミノ酸から121位のアミノ酸が欠損しているPal(配列番号13)をコードしている遺伝子(配列番号14)をゲノム上に有する大腸菌株をPal5株、123位のアミノ酸から152位のアミノ酸が欠損しているPal(配列番号15)をコードしている遺伝子(配列番号16)をゲノム上に有する大腸菌株をPal6株、126位のアミノ酸から129位のアミノ酸が欠損しているPal(配列番号17)をコードしている遺伝子(配列番号18)をゲノム上に有する大腸菌株をPal7株、144位のアミノ酸から147位のアミノ酸が欠損しているPal(配列番号19)をコードしている遺伝子(配列番号20)をゲノム上に有する大腸菌株をPal8株とする。
【0021】
本発明では、前記配列番号5、7、9、11、13、15、17、及び19のいずれかに示すPalをコードする遺伝子(配列番号6、8、10、12、14、16、18、及び20)を含む大腸菌を用いることが好ましい。
【0022】
本発明では、前記部分変異を有するPalは、配列番号5、7、9、11、13、15、17、及び19のいずれかに示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有していても良い。前記配列同一性は90%以上がより好ましく、95%以上がより好ましく、96%以上がさらにより好ましく、97%以上が特に好ましく、98%以上、又は99%以上が最も好ましい。
【0023】
本発明においてアミノ酸配列の配列同一性は、当業者に周知の方法、配列解析ソフトウェア等を使用して求めることができる。例えば、BLASTアルゴリズムのblastpプログラム、FASTAアルゴリズムのfastaプログラムが挙げられる。本発明において、ある評価対象アミノ酸配列の、アミノ酸配列Xとの「配列同一性」とは、アミノ酸配列Xと評価対象アミノ酸配列とを整列(アラインメント)させ、必要に応じてギャップを導入して、両者のアミノ酸一致度が最も高くなるようにしたときの、ギャップ部分も含んだアミノ酸配列において同一部位に同一のアミノ酸が出現する頻度を%で表示した値である。
【0024】
本発明では、前記部分変異を有するPalは、配列番号5、7、9、11、13、15、17、及び19のいずれかに示すアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、および/または付加したアミノ酸配列であっても良い。「1もしくは複数個」は、例えば1~80個、好ましくは1~70個、好ましくは1~60個、好ましくは1~50個、好ましくは1~40個、好ましくは1~30個、好ましくは1~20個、好ましくは1~15個、好ましくは1~10個、好ましくは1~5個、好ましくは1~4個、好ましくは1~3個、好ましくは1~2個、好ましくは1個である。
【0025】
使用される大腸菌株はK12株由来のW3110やB株由来のBL21等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0026】
任意の大腸菌株のゲノムにおいて、部分変異を有したPal遺伝子を作製する方法は、当業者の公知の方法、例えば、適正なオリゴヌクレオチドをプライマーとしたオーバーラップPCR法や全合成法が挙げられる。
【0027】
作製した部分変異を有するPal遺伝子を宿主細胞へ組み込む方法は公知の方法を適宜使用することができ、Red-recombinase システム(Datsenko K.A.,and Wanner B. L.著(2000年),Proc. Natt. Acad. Sci. USA,97(12),6640-6645)や宿主細胞の相同組換え機構によって組み込まれる方法(Link A. J.他著(1997年),J.Bacteriol., 179,6228-6237)等が挙げられるが、特に、大腸菌ゲノム以外の外来遺伝子がゲノム上に組み込まれないLink他において記載された方法が好ましい。
【0028】
この際、部分変異を有するPal遺伝子の組換えベクターを作製する方法は、ライゲーション法、In-Fusion(Clontec社)、PCR法、全合成法等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。また、組換えベクターを宿主細胞へ導入するためには、例えば、宿主として大腸菌を用いる場合、塩化カルシウム法やエレクトロポレーション法等の方法で可能だが、特にこれらに限定されるものではない。
【0029】
外来タンパク質の生産量・分泌量を増加させるために、Pal部分変異株において、FkpA、Dsb、SurAなどのペリプラズム性シャペロンの共発現を組み合わせることも可能である。
【0030】
[発現ベクター]
Pal部分変異株において、外来タンパク質を生産することが可能である。本明細書において、「外来タンパク質」とは、宿主細胞外部から組み込まれた遺伝子にコードされているタンパク質で、形質転換を行っていない宿主細胞が通常発現しないタンパク質のことを意味する。本発明において、外来タンパク質を培養上清中に分泌させるためには、大腸菌の細胞質からペリプラズム空間へ移行されなければならない。そのために、外来タンパク質をコードしている遺伝子の5´末端側にペリプラズム移行シグナル配列が付加していることが必要である。大腸菌内で機能を発揮するペリプラズム移行シグナルとして、例えば、PelB、OmpA、PhoA、OmpF、StII等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0031】
本発明における「発現ベクター」とは、形質転換後の宿主細胞において、発現ベクターに組み込まれた発現カセット中の遺伝子が発現する機能を有する人為的に構築された核酸分子のことを意味する。発現ベクターは発現カセットに加えて、1つ以上の制限酵素認識配列を含むクローニングサイト、Clontec社のIn-Fusionクローニングシステム等を用いるためのオーバーラップ領域、薬剤耐性遺伝子等のマーカー遺伝子、自己複製配列等を有することができる。発現ベクターは、例えば、プラスミドベクターや人工染色体が挙げられるが、ベクター調製や、大腸菌株の形質転換が容易であることから、プラスミドベクターの方が好ましい。プラスミドとしては、公知の発現ベクターである、例えば、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pBluescript等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0032】
「発現カセット」とは、プロモーターおよび外来タンパク質をコードしている遺伝子より構成され、ターミネーターを含んでも良い。
【0033】
使用するプロモーターとしては、当業者において公知のプロモーター、例えば、lacプロモーター、tacプロモーター、araプロモーター、tetプロモーター、T7プロモーター等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0034】
本発明におけるプラスミドベクターの薬剤耐性マーカー遺伝子は、本発明で提供される大腸菌株では特に限定されるものではない。具体的な例としては、カナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子等が挙げられ、それぞれカナマイシン、アンピシリン、テトラサイクリン、クロラムフェニコールを含む培地における耐性により選択することが可能である。
【0035】
[外来タンパク質の分泌生産]
本発明では、上記の発現ベクターが導入されたPal部分変異株が提供され、その大腸菌株は発現ベクターに含まれる薬剤耐性遺伝子により得られる薬剤耐性を指標に、選択的に得ることが可能である。
【0036】
一般に当業者の中で、大腸菌におけるタンパク質の分泌とは細胞質内で発現したタンパク質がペリプラズム空間に移行されることを示す。本発明における分泌生産とは、上記大腸菌株を培養することで培養上清中に外来タンパク質を生産すること、または、従来のペリプラズム抽出操作、例えば、浸透圧ショック法等の操作よりも簡便な操作、例えば、培養液に添加剤を加える等といった操作でペリプラズム空間に存在する外来タンパク質を菌体外に移行させることを表し、好ましくは、培養上清中に外来タンパク質を生産することである。
【0037】
上記大腸菌株を培養することで培養上清中に外来タンパク質を生産することにおいて、親株または遺伝子組換え操作がなされていない野生型株において分泌されない外来タンパク質が培養上清中に分泌されている、または、親株または野生型株おける培養上清中への外来タンパク質分泌量に対して、1.1倍、1.2倍、1.3倍、1.4倍、1.5倍、1.6倍、1.7倍、1.8倍、1.9倍、2.0倍、2.5倍、3.0倍、3.5倍、4.0倍、4.5倍、または5.0倍以上であることを表す。培養上清中への外来タンパク質の分泌量は、当業者に公知の方法、例えば、バンド強度比較、ウェスタンブロッティング法、ELISA法などにより決定することができる。
【0038】
本発明で提供される培養上清はヌクレアーゼ処理等のDNA除去の操作を必要とせずに精製工程に進むことができ、その培養上清中に分泌された外来タンパク質は遠心分離等の操作で菌体を除いた後、直接的に回収することができる。その回収方法については、公知の精製法、例えば、塩析(硫酸アンモニウム沈殿、リン酸ナトリウム沈殿等)、溶媒沈殿(アセトン又はエタノール等による蛋白質分画沈殿法)、透析、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、限外濾過等の手法を単独または適当に組み合わせて用いることができる。
【0039】
回収された外来タンパク質は、そのまま使用することもできるが、その後PEG化等の薬理学的な変化をもたらす修飾、酵素やアイソトープ等の機能を付加する修飾を加えて使用することもできる。また、各種の製剤化処理を使用してもよい。
【0040】
発現ベクターで形質転換された上記大腸菌株を培養するための培地は、大腸菌が資化する栄養源を含むものであれば何でも使用でき、上記栄養源としては、グルコース、スクロース、ラクトース、マルトース等の糖類、乳酸、酢酸、クエン酸、プロピオン酸等の有機酸類、グリセロール等の糖アルコール類、パラフィン等の炭化水素類、大豆油、菜種油等の油脂類、またはこれらの混合物等の炭素源、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、尿素、酵母エキス、肉エキス、ペプトン、コーンスチープリカー等の窒素源、更に、その他の無機塩、ビタミン類等の栄養源を適宜混合・配合した通常の培地を用いることができるが、特にグルコースやグリセロールを炭素源として用いることが好ましい。酵母エキスといった天然成分を含むものを用いる培地でも、それらを含まない合成培地でも培養することが可能で、培地の種類は限定されるものではない。また、培養方法も特に限定されず、バッチ培養、フェドバッチ培養、連続培養等が適用される。
【0041】
生産される外来タンパク質の例としては、微生物由来の酵素類、動物や植物といった多細胞生物由来のタンパク質等が挙げられる。例えば、フィターゼ、プロテインA、プロテインG、プロテインL、アミラーゼ、グルコシダーゼ、セルラーゼ、リパーゼ、プロテアーゼ、グルタミナーゼ、ペプチダーゼ、ヌクレアーゼ、オキシダーゼ、ラクターゼ、キシラナーゼ、トリプシン、ペクチナーゼ、イソメラーゼ、及び蛍光タンパク質等が挙げられるが、これらに限定はされるものではない。特に、バイオ医薬品用タンパク質が好ましい。
【0042】
バイオ医薬品用タンパク質として、例えば、VHH、scFv、Fabなどの部分抗体、サイトカイン、成長因子、プロテインキナーゼ、タンパク質ホルモン、Fc融合タンパク質、およびヒト血清アルブミン(HSA)融合タンパク質等が挙げられる。
【0043】
上記外来タンパク質を構成するアミノ酸は天然のものでもよいし、非天然のものでもよいし、修飾を受けていてもよい。また、タンパク質のアミノ酸配列は、人為的な改変がなされているものでもよいし、de-novoで設計されたものでもよい。
【0044】
大腸菌の培養は通常一般の条件により行うことができ、例えば、pHは6~8、好ましくは6.5~7.5、より好ましくは6.9~7.1、温度は15~42℃、好ましくは20~37℃、より好ましくは25~30℃、溶存酸素濃度は10~80%、好ましくは20~60%、より好ましくは30~40%で、培養時間は20~150時間培養することにより行うことができる。また、必要に応じて、栄養素又は誘導物質をショットや流加により培地に供給することができる。
【0045】
誘導物質は、使用するプロモータにより適宜選択され、例えば、lacプロモーターやtacプロモーターの直接的誘導や、lacプロモーターでT7 RNAポリメラーゼを発現させることでのT7プロモーターの間接的誘導では、ラクトースやイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)などが用いられる。IPTGを誘導物質として用いる場合、終濃度が0.1~2.0mM、より好ましくは0.2~1.0mMとなるように添加することでタンパク質発現誘導を行うことができる。
【0046】
また、外来タンパク質発現誘導を行うタイミングは、外来タンパク質が発現して培養上清中に分泌されるなら、特に限定されないが、好ましくは対数増殖期初期、対数増殖期中期または対数増殖期後期であり、特に好ましくは対数増殖期後期である。
【0047】
培養上清の粘性評価については、菌体を分離した培養上清をシリンジフィルターまたは遠心ろ過デバイスなどを用いて、通液量を測定することで評価できる。また、非特許文献2に記載されているように、レオメーターや粘度計を用いてもよいし、宿主由来のDNA漏出が培養上清中の粘性上昇に寄与していることから、DNA Dye Binding Assay for the Measurement of Residual E. coli Host Cell DNA(シグナス社)といったDNA定量キットで比較・評価するのも良いが、これらにより限定されるものではない。
【実施例0048】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0049】
本発明では、親株として大腸菌株はBL21(DE3)株を用いた。
【0050】
本発明で用いられる遺伝子組換え技術、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、遺伝子合成、DNAの単離および精製、制限酵素処理、改変DNAのクローニング、形質転換などは、当業者に公知である、また、製造元の添付マニュアルに記載されている方法で実施した。
【0051】
以下の実施例において、PCRはPrime STAR HS DNA Polymerase(タカラバイオ社)等を用いた。PCR産物や制限酵素反応液の精製では、QIAuick Gel Extraction Kit(QIAGEN社)等を用いた。PCR以外でのDNA断片の調製は遺伝子合成を用いた。
【0052】
形質転換に用いるプラスミドベクターは、構築したベクターを大腸菌E.coli DH5αコンピテントセル(タカラバイオ社)に導入し、得られた形質転換体を培養して増幅することによって調製した。プラスミド保持株からのプラスミドの抽出はFastGene Plasmid Mini Kit(ニッポンジーン社)を用いて行った。
【0053】
使用したクローニングベクターは、pTH18cs(国立遺伝学研究所:NIG)を改変したクローニングベクターであり、テトラサイクリン耐性遺伝子を有している。
【0054】
また、使用した発現ベクターは、EcoRIとXhoIの認識配列を含むマルチクローニングサイト、T7発現系、カナマイシン耐性遺伝子、自己複製開始配列、lacリプレッサー遺伝子を有することを特徴とする。
【0055】
Pal部分欠損株の培養上清中への外来タンパク質分泌量の比較対象として、親株であるBL21(DE3)株、培養上清の粘性の比較対象として、Red-recombinase システムを用いて作製したLpp全欠損株(以下、「ΔLpp」と呼称する)を用いた。ΔLppは外来タンパク質を分泌生産するものの、課題として、その外来タンパク質を含む培養上清の粘性が高く、フィルターろ過性が低いため、後処理工程に大きな負荷がかかるといったことが挙げられる。
【0056】
(実施例1)Pal1株の作製
大腸菌BL21(DE3)株のPal部分欠損株をLink A. J.他(J.Bacteriol.,1997年 179,6228-6237)の方法を参考に実施した。Palの3位のアミノ酸から17位のアミノ酸が欠損したPal1をコードするPal1遺伝子を含み、Pal遺伝子外の上流・下流それぞれ500bpのゲノム上での相同組換えに必要なホモロジーアームを有するDNA断片(配列番号21)を作製するために、BL21(DE3)株のゲノム(塩基配列:Acssession No. CP001509(J. Mol. Biol., 394,644-52(2009)))を鋳型として、プライマー1(配列番号22)およびプライマー2(配列番号23)、プライマー3(配列番号24)およびプライマー4(配列番号25)を用いたPCRを行い、各PCR産物を混合した後、プライマー1およびプライマー4を用いたPCRを行い、目的DNA断片を得た。このDNA断片は5´末端側にEcoRI、3´末端側にSalIの制限酵素認識配列を有する。
【0057】
上記で作製したDNA断片およびクローニングベクターを、制限酵素EcoRIとSalIによって切断した。各切断されたDNA断片を用いてライゲーションを行った。このように作製したプラスミド(pPal1)をDH5α株に塩化カルシウム法で形質転換し、テトラサイクリンを含む培地を用いてpPal1保持株を選択した。BL21(DE3)株に得られたpPal1を塩化カルシウム法によって形質転換を行い、テトラサイクリンを含む培地を用いてpPal1保持株を選択した。以下、Pal1株を得るまでの遺伝子組換え操作はLink A.J.他の方法をもとに実施した。
【0058】
上記のように作製した株をPal1株とした。
【0059】
(実施例2)Pal2株の作製
実施例1と同様の方法で実施した。Palの19位のアミノ酸から43位のアミノ酸が欠損したPal2をコードするPal2遺伝子を含み、Pal遺伝子外の上流・下流それぞれ200bpのゲノム上での相同組換えに必要なホモロジーアームを有するDNA断片(配列番号26)を作製するために、BL21(DE3)株のゲノムを鋳型として、プライマー5(配列番号27)およびプライマー6(配列番号28)、プライマー7(配列番号29)およびプライマー8(配列番号30)を用いたPCRを行い、各PCR産物を混合した後、プライマー1およびプライマー4を用いたPCRを行い、目的DNA断片を得た。このDNA断片は、5´末端側にEcoRI、3´末端側にSalIの制限酵素認識配列を有する。
【0060】
上記で作製したDNA断片およびクローニングベクターを、制限酵素EcoRIとSalIによって切断した。各切断されたDNA断片を用いてライゲーションを行った。このように作製したプラスミド(pPal2)をDH5α株に塩化カルシウム法で形質転換し、テトラサイクリンを含む培地を用いてpPal2保持株を選択した。BL21(DE3)株に得られたpPal2を塩化カルシウム法によって形質転換を行い、テトラサイクリンを含む培地を用いてpPal2保持株を選択した。以下、Pal2株を得るまでの遺伝子組換え操作はLink A.J.他の方法をもとに実施した。
【0061】
上記のように作製した株をPal2株とした。
【0062】
(実施例3)Pal部分欠損株を用いた合成培地でのナノボディー(VHH)生産
シグナルペプチドPelB(配列番号31)を有し、かつC末側にHisタグを有するanti-Fc VHHをコードしたDNA断片(配列番号32)を遺伝子合成によって作製した。このDNA断片と発現ベクターを制限酵素EcoRIとXhoIで切断し、それぞれ制限酵素で切断されたDNA断片を混合し、ライゲーションを行った。得られたVHH発現ベクターをPal1株およびPal2株にエレクトロポレーション法により導入し、形質転換した。発現ベクター保持株はカナマイシン含有培地(50mg/l)によって選択された。
【0063】
合成培地での培養は、USRE44512E1を参考に実施した。
【0064】
2.5lの合成培地(5.2g/l (NHSO(和光純薬工業社、特級)、4.36g/l NaHPO・2HO(和光純薬工業社、特級)、4.025g/l KCl(和光純薬工業社、特級)、1.04g/l MgSO・7HO(和光純薬工業社、特級)、4.68g/l クエン酸・HO(和光純薬工業社、特級)、112g/l グリセロール(キシダ化学社、特級)、25ml微量元素溶液(100.4g/l クエン酸・HO(和光純薬工業社、特級)、5.22g/l CaCl・2HO(和光純薬工業社、特級)、2.06g/l ZnSO・7HO(和光純薬工業社、特級)、2.06g/l MnSO・7HO(和光純薬工業社、特級)、0.81g/l CuSO・5HO(和光純薬工業社、特級)、0.42g/l CoSO・7HO(和光純薬工業社、特級)、10.06g/l FeCl・6HO(和光純薬工業社、特級)、0.03g/l HBO(和光純薬工業社、特級)、0.02g/l NaMoO・2HO(和光純薬工業社、特級))に初期OD値が0.1になるように前培養液を加えた。対数増殖期にNaHPOとMgSO・7HOを加えた。発現誘導は、対数増殖期後期にイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)(カルボンシス社)を終濃度が0.2mMになるように添加することで実施した。それと同時に、80%(w/w)グリセロール溶液を一定速度で流加した。培養開始時は30℃の温度に設定し、発現誘導後は25℃の温度で培養した。また、培養中において、pHは10%NHOHまたは10%HSOを適宜添加することにより7.0の値に維持し、溶存酸素濃度は攪拌数と通気量のカスケード制御により30%に維持した。
【0065】
培養開始から70時間後に、培養液を回収し、菌体と培養上清を遠心分離により分離した。2μlの培養上清と2μlの2×サンプルバッファー(Laemmli Sample Buffer(BIO-Rad社)、0.2M DTT)を混合し、95℃で5分間処理をした。本サンプルを分子量マーカー(Precision Plus Protein’ TM Dual Color Standards、Bio-Rad社)と共に、e-PAGELゲル(E-R15L、ATTO社)を用いてSDS-PAGE電気泳動に供した。泳動後、ゲルを30分間水洗し、染色液(Bio-Safe CBB G-250ステイン、Bio-Rad社)により45分染色したのち、水で脱色した。一方、親株BL21(DE3)株においても、実施例3で使用した発現ベクターを使用して同様の条件による培養を実施し、SDS-PAGE電気泳動およびCBB染色を実施した。その結果、いずれもVHHのアミノ酸配列から推定される分子量に相当する領域にバンドが認められた(図1)。得られたSDS-PAGEからVHHのバンド強度を撮影装置ChemiDoc XRSおよび画像解析ソフトウェアQuantity One(Bio-Rad社)を用いて測定した結果、親株と比較して、Pal1株では6.7倍、Pal2株では6.9倍の強度で、VHHのバンドが検出できた(表1)。表1中では、親株の培養上清中のVHHバンド強度を1とし、Pal1株、Pal2株での培養上清中のVHHバンド強度を示している。
【0066】
【表1】
【0067】
よって、Pal遺伝子に部分欠損を有する大腸菌では、外来タンパク質の培養上清中への分泌生産性が向上していることが確認された。
【0068】
(実施例4)Pal部分欠損株を用いた半合成培地でのVHH生産
使用した発現ベクターおよび菌株は実施例3で使用したものと同様である。
【0069】
2.5lの半合成培地(1.0g/l NHCl(和光純薬工業社、特級)、9.0g/l NaHPO・12HO(和光純薬工業社、特級)、3.0g/l NaPO・12HO(和光純薬工業社、特級)、20g/l グルコース(和光純薬工業社、特級)、20g/l 酵母エキス(オリエンタル酵母社、赤ラベル)、1.0g/l MgSO・7HO(和光純薬工業社、特級)、0.006g/l MnCl・4HO(和光純薬工業社、特級)、0.05g/l FeSO・7HO(和光純薬工業社、特級))に初期ODが0.3となるように前培養液を加えた。発現誘導は、培養開始24時間後にIPTGを終濃度が0.8mMになるように添加することで実施した。培養開始時は30℃の温度に設定し、発現誘導後は25℃の温度で培養した。また、培養中において、pHは10%NHOHまたは10%HPOを適宜添加することにより7.0の値に維持し、溶存酸素濃度はフィード液(144g/l グルコース、423g/l 酵母エキス、13g/l MgSO・7HO)の流加速度により40%に維持した。
【0070】
培養開始から72時間後に、培養液を回収し、菌体と培養上清を遠心分離により分離した。実施例3と同様の方法でSDS-PAGE電気泳動およびCBB染色を実施した。一方、親株BL21(DE3)株においても、実施例3で使用した発現ベクターを使用して同様の条件による培養を実施し、SDS-PAGE電気泳動およびCBB染色を実施した。その結果、いずれもVHHのアミノ酸配列から推定される分子量に相当する領域にバンドが認められた(図2)。得られたSDS-PAGEからVHHのバンド強度を撮影装置ChemiDoc XRSおよび画像解析ソフトウェアQuantity One(Bio-Rad社)を用いて測定した結果、元株と比較して、Pal1株およびPal2株ともに2.1倍の強度で、VHHのバンドが検出できた(表2)。
【0071】
【表2】
【0072】
よって、Pal遺伝子に部分欠損を有する大腸菌では、半合成培地で培養した場合においても、外来タンパク質の培養上清中への分泌生産性が向上していることが確認された。
【0073】
(実施例5)培養上清のフィルターろ過性の評価
実施例3および実施例4で得られたPal1株およびPal2株の培養上清を再度遠心分離し、上清10mLを0.2μmのシリンジフィルター(DISMIC(R)-25AS、ADVANTEC社)で処理し、1平方cmあたりの通液量をもとにフィルターろ過性を評価した。一方、ΔLpp株おいても、実施例3で使用した発現ベクターを使用しての同様の条件で培養し、同様の条件で培養上清の粘性評価を実施した。ここでΔLpp株は、BL21(DE3)株を親株として、特開2008-73046号を参考に、Red-recombinase systemにより作製した。合成培地で培養では、ΔLpp株の培養上清の1平方cmあたりの通液量は0.70gであったのに対して、Pal1株の培養上清の1平方cmあたりの通液量は2.54g以上、Pal2株の培養上清の1平方cmあたりの通液量は2.55g以上となった。この時、Pal1株およびPal2株の培養上清は10mL全てがフィルターを通過した。
【0074】
半合成培地での培養では、ΔLpp株の培養上清の1平方cmあたりの通液量は0.07gであったのに対して、Pal1株の培養上清の1平方cmあたりの通液量は1.82g、Pal2株の培養上清の1平方cmあたりの通液量は1.87gとなった(表3)。
【0075】
【表3】
【0076】
これらのことから、どちらの培地においてもΔLppの培養上清と比較して、Pal1株およびPal2株の培養上清の1平方cmあたりの通液量が多く、フィルターろ過性が高いことから、培養上清の粘性が抑えられていることが確認できた。
図1
図2
【配列表】
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