(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023065738
(43)【公開日】2023-05-15
(54)【発明の名称】熱流体解析システム及び熱流体解析方法
(51)【国際特許分類】
G06F 30/23 20200101AFI20230508BHJP
G06F 30/28 20200101ALN20230508BHJP
G06F 113/08 20200101ALN20230508BHJP
【FI】
G06F30/23
G06F30/28
G06F113:08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021176049
(22)【出願日】2021-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】嶋山 慶信
(72)【発明者】
【氏名】重森 正宏
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146DJ03
5B146DJ07
5B146DJ08
5B146DJ14
(57)【要約】
【課題】解析計算時間を削減しつつ、解析精度を向上させることが可能な熱流体解析システム及び熱流体解析方法を提供する。
【解決手段】熱流体解析システムは、解析領域10における複数種類の境界面の配置に関する情報を取得する取得部と、複数種類の境界面ごとに規定された境界条件であって、境界面における熱設計及び流体の流出入に関する境界条件を記憶し、解析領域10をメッシュ状に分割する際の第一分割寸法L1及び第一分割寸法L1よりも細かい第二分割寸法L2を記憶する記憶部と、解析領域10内において境界条件に基づいて特定される境界面に隣接する特定領域13を設定する設定部と、特定領域13を除く解析領域10を第一分割寸法L1で分割するとともに、特定領域13を第二分割寸法L2で分割するメッシュ作成部と、メッシュ作成部によって分割された分割要素にて解析計算を実行する解析部と、解析された解析結果を出力する出力部と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類の境界面を配置して構成される解析領域をメッシュ状に分割して、前記解析領域内での熱の移動及び流体の移動の少なくとも一方を解析計算して出力する熱流体解析システムであって、
前記解析領域における複数種類の前記境界面の配置に関する情報を取得する取得部と、
複数種類の前記境界面ごとに規定された境界条件であって、前記境界面における熱設計及び流体の流出入に関する前記境界条件を記憶するとともに、前記解析領域をメッシュ状に分割する際の第一分割寸法及び前記第一分割寸法よりも細かい第二分割寸法に関する情報を記憶する記憶部と、
前記解析領域内において、前記記憶部に記憶された前記境界条件に基づいて特定される前記境界面に隣接する特定領域を設定する設定部と、
前記設定部で設定された前記特定領域を除く前記解析領域を前記第一分割寸法でメッシュ状に分割するとともに、前記特定領域を前記第二分割寸法でメッシュ状に分割するメッシュ作成部と、
前記メッシュ作成部によって分割された分割要素にて解析計算を実行する解析部と
前記解析部によって解析された解析結果を出力する出力部と、
を備えることを特徴とする熱流体解析システム。
【請求項2】
前記メッシュ作成部は、前記特定領域をメッシュ状に分割する際、前記境界条件に含まれる前記流体の流出速度及び流出量に基づいて前記第二分割寸法を増減させることを特徴とする請求項1に記載の熱流体解析システム。
【請求項3】
前記設定部は、前記特定領域を設定する際、前記境界条件に含まれる前記流体の流出速度及び流出量に基づいて前記特定領域の領域寸法を増減させることを特徴とする請求項1または2に記載の熱流体解析システム。
【請求項4】
前記特定領域に隣接する前記境界面を特定する前記境界条件は、前記境界面から流出する前記流体の流出速度が基準流出速度を超える条件及び前記流体の流出量が基準流出量を超える条件の少なくとも一方であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の熱流体解析システム。
【請求項5】
複数種類の境界面を配置して構成される解析領域をメッシュ状に分割して、前記解析領域内での熱の移動及び流体の移動の少なくとも一方を解析計算して出力する熱流体解析方法であって、
前記解析領域における複数種類の前記境界面の配置に関する情報を取得する取得ステップと、
前記解析領域内において、数種類の前記境界面ごとに規定された境界条件であって、前記境界面における熱設計及び流体の流出入に関する前記境界条件に基づいて特定される前記境界面に隣接する特定領域を設定する設定ステップと、
前記設定ステップで設定された前記特定領域を除く前記解析領域を第一分割寸法でメッシュ状に分割するとともに、前記特定領域を前記第一分割寸法よりも細かい第二分割寸法でメッシュ状に分割するメッシュ作成ステップと、
前記メッシュ作成ステップにおいて分割された分割要素にて解析計算を実行する解析ステップと
前記解析ステップにおいて解析された解析結果を出力する出力ステップと、
を備えることを特徴とする熱流体解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱流体解析システム及び熱流体解析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な工業分野において、熱流体解析として、対象空間(解析領域)内の熱の移動及び流体の移動の少なくとも一方を、解析領域を要素で分割する解析メッシュを設定し、コンピュータを用いて解析計算することが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような、従来の熱流体解析では、精度良くコンピュータによる解析計算を行なうために、ユーザーが解析領域に解析メッシュを設定する際、必要な領域をその都度判別して、領域ごとにメッシュの粗密を付けるなど、解析精度を考慮した要素分割を行なわなければならなかった。また、一度解析計算を実行した後に解析結果の良否をユーザーが判断し、再度、解析メッシュを作り、コンピュータでの解析計算をやり直す必要があった。そのため、メッシュ設定に関する経験的知識または専門的知識を有するユーザーでなければ、短時間で解析を実行して適切な解析結果が得られないという課題があった。このような課題に対処するため、全ての解析メッシュを解析計算が発散しない大きさのメッシュに予め細かく設定することも考えられるが、メッシュを細かく設定すると、解析計算を実行する要素の数が膨大なものとなり、解析計算に多くの時間がかかることになる。
【0005】
そこで本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、解析計算時間を削減しつつ、解析精度を向上させることが可能な熱流体解析システム及び熱流体解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そして、この目的を達成するために、本発明に係る熱流体解析システムは、複数種類の境界面を配置して構成される解析領域をメッシュ状に分割して、解析領域内での熱の移動及び流体の移動の少なくとも一方を解析計算して出力するシステムである。熱流体解析システムは、解析領域における複数種類の境界面の配置に関する情報を取得する取得部と、複数種類の境界面ごとに規定された境界条件であって、境界面における熱設計及び流体の流出入に関する境界条件を記憶するとともに、解析領域をメッシュ状に分割する際の第一分割寸法及び第一分割寸法よりも細かい第二分割寸法に関する情報を記憶する記憶部と、解析領域内において、記憶部に記憶された境界条件に基づいて特定される境界面に隣接する特定領域を設定する設定部と、設定部で設定された特定領域を除く解析領域を第一分割寸法でメッシュ状に分割するとともに、特定領域を第二分割寸法でメッシュ状に分割するメッシュ作成部と、メッシュ作成部によって分割された分割要素にて解析計算を実行する解析部と解析部によって解析された解析結果を出力する出力部と、を備える。
【0007】
また、本発明に係る熱流体解析方法は、複数種類の境界面を配置して構成される解析領域をメッシュ状に分割して、解析領域内での熱の移動及び流体の移動の少なくとも一方を解析計算して出力する方法である。熱流体解析方法は、解析領域における複数種類の境界面の配置に関する情報を取得する取得ステップと、解析領域内において、数種類の境界面ごとに規定された境界条件であって、境界面における熱設計及び流体の流出入に関する境界条件に基づいて特定される境界面に隣接する特定領域を設定する設定ステップと、設定ステップで設定された特定領域を除く解析領域を第一分割寸法でメッシュ状に分割するとともに、特定領域を第一分割寸法よりも細かい第二分割寸法でメッシュ状に分割するメッシュ作成ステップと、メッシュ作成ステップにおいて分割された分割要素にて解析計算を実行する解析ステップと、解析ステップにおいて解析された解析結果を出力する出力ステップと、を備える。
【0008】
これらにより所期の目的を達成するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、解析計算時間を削減しつつ、解析精度を向上させることが可能な熱流体解析システム及び熱流体解析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態1に係る熱流体解析システムの全体構成図である。
【
図2】
図2は、熱流体解析システムにおいて熱流体解析を実行する対象の解析領域をメッシュ分割していない状態の解析モデル図である。
【
図3】
図3は、熱流体解析システムにおいて熱流体解析を実行する対象の解析領域をメッシュ分割した状態の解析モデル図である。
【
図4】
図4は、熱流体解析による熱流体解析結果を示す図である。
【
図5】
図5は、熱流体解析システムにおいて熱流体解析を実施するフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る熱流体解析システムは、複数種類の境界面を配置して構成される解析領域をメッシュ状に分割して、解析領域内での熱の移動及び流体の移動の少なくとも一方を解析計算して出力するシステムである。熱流体解析システムは、解析領域における複数種類の境界面の配置に関する情報を取得する取得部と、複数種類の境界面ごとに規定された境界条件であって、境界面における熱設計及び流体の流出入に関する境界条件を記憶するとともに、解析領域をメッシュ状に分割する際の第一分割寸法及び第一分割寸法よりも細かい第二分割寸法に関する情報を記憶する記憶部と、解析領域内において、記憶部に記憶された境界条件に基づいて特定される境界面に隣接する特定領域を設定する設定部と、設定部で設定された特定領域を除く解析領域を第一分割寸法でメッシュ状に分割するとともに、特定領域を第二分割寸法でメッシュ状に分割するメッシュ作成部と、メッシュ作成部によって分割された分割要素にて解析計算を実行する解析部と解析部によって解析された解析結果を出力する出力部と、を備える。
【0012】
こうした構成によれば、解析領域における複数種類の境界面の配置に関する情報を取得することによって、特定領域を除く解析領域が第一分割寸法でメッシュ状に自動的に分割され、特定領域が第一分割寸法よりも細かい第二分割寸法でメッシュ状に自動的に分割される。このため、ユーザーが解析領域を分割し、その分割領域ごとにメッシュ粗密を判別する必要がなくなり、解析時間の短縮を図ることができる。また、境界面の境界条件に基づいて特定領域を自動的に設定し、特定領域に対して第一分割寸法よりも細かい第二分割寸法で分割するので、解析領域全体のメッシュ分割数が必要最低限に削減され、解析時間の顕著な増加を抑制できる。これらの結果、熱流体解析システムは、解析計算時間を削減しつつ、解析精度を向上させることが可能となる。
【0013】
また、本発明に係る熱流体解析システムでは、メッシュ作成部は、特定領域をメッシュ状に分割する際、境界条件に含まれる流体の流出速度及び流出量に基づいて第二分割寸法を増減させてもよい。このようにすることで、境界面から出力される流体の流出速度及び流出量が増減した状況下において、特定領域のメッシュの第二分割寸法を、ユーザーが求める解析精度で解析計算するために必要となる適切な寸法に変化させて解析計算が実行されるので、解析精度をさらに向上させることができる。
【0014】
また、本発明に係る熱流体解析システムでは、設定部は、特定領域を設定する際、境界条件に含まれる流体の流出速度及び流出量に基づいて特定領域の領域寸法を増減させてもよい。このようにすることで、境界面から出力される流体の流出速度及び流出量が増減した状況下において、必要な特定領域の領域寸法を、ユーザーが求める解析精度で解析計算するために必要となる適切な寸法に変化させて解析計算が実行されるので、解析精度をさらに向上させることができる。
【0015】
また、本発明に係る熱流体解析システムでは、特定領域に隣接する境界面を特定する境界条件は、境界面から流出する流体の流出速度が基準流出速度を超える条件及び流体の流出量が基準流出量を超える条件の少なくとも一方であることが好ましい。これにより、解析領域における複数種類の境界面の配置に関する情報に基づいて、ユーザーが求める解析精度で解析計算する必要がある領域を特定領域として確実に設定することができる。
【0016】
また、本発明に係る熱流体解析方法は、複数種類の境界面を配置して構成される解析領域をメッシュ状に分割して、解析領域内での熱の移動及び流体の移動の少なくとも一方を解析計算して出力する方法である。熱流体解析方法は、解析領域における複数種類の境界面の配置に関する情報を取得する取得ステップと、解析領域内において、数種類の境界面ごとに規定された境界条件であって、境界面における熱設計及び流体の流出入に関する境界条件に基づいて特定される境界面に隣接する特定領域を設定する設定ステップと、特定領域を除く解析領域を第一分割寸法でメッシュ状に分割するとともに、設定ステップで設定された特定領域を第一分割寸法よりも細かい第二分割寸法でメッシュ状に分割するメッシュ作成ステップと、メッシュ作成ステップにおいて分割された分割要素にて解析計算を実行する解析ステップと、解析ステップにおいて解析された解析結果を出力する出力ステップと、を備える。
【0017】
このようにすることで、取得ステップにおいて取得した解析領域における複数種類の境界面の配置に関する情報によって、メッシュ作成ステップにおいて特定領域を除く解析領域が第一分割寸法でメッシュ状に自動的に分割され、特定領域が第一分割寸法よりも細かい第二分割寸法でメッシュ状に自動的に分割される。このため、ユーザーが解析領域を分割し、その分割領域ごとにメッシュ粗密を判別するステップが必要なくなり、解析時間の短縮を図ることができる。また、設定ステップにおいて境界面の境界条件に基づいて特定領域を自動的に設定し、メッシュ作成ステップにおいて特定領域に対して第一分割寸法よりも細かい第二分割寸法で分割するので、解析領域全体のメッシュ分割数が必要最低限に削減され、解析ステップでの解析時間の顕著な増加を抑制できる。これらの結果、熱流体解析方法では、解析ステップでの解析計算時間を削減しつつ、出力ステップで出力される解析精度を向上させることが可能となる。
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について添付図面を参照して説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。また、全図面を通して、同一の部位については同一の符号を付して説明を省略している。さらに、本発明に直接には関係しない各部の詳細については重複を避けるために、図面ごとの説明は省略している。
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0020】
(実施の形態1)
まず、
図1を参照して、本発明の実施の形態1に係る熱流体解析システム1について説明する。
図1は、本発明の実施の形態1に係る熱流体解析システム1の全体構成図である。
【0021】
本実施の形態1に係る熱流体解析システム1は、複数種類の境界面Fを配置して構成される解析領域10をメッシュ状に分割して、解析領域10内での流体の移動を解析計算して出力するシステムである。なお、熱流体解析システム1は、解析領域10内での熱の移動のみを解析計算して出力するシステム、又は、熱の移動と流体の移動の両方を解析計算して出力するシステムであってもよい。つまり、熱流体解析システム1は、解析領域10内での熱の移動及び流体の移動の少なくとも一方を解析計算して出力するシステムとも言える。
【0022】
熱流体解析システム1は、入力端末2から入力された情報を基にして、対象となる解析領域10の解析計算を行い、解析結果を表示装置3に表示するように構成される。
【0023】
解析領域10は、熱流体解析を実行する対象となる領域である。解析領域10には、例えば、一般住宅の居住空間あるいはオフィス空間などが想定される。
【0024】
入力端末2は、キーボード、マウス、又はデジタイザー等の入力装置である。ユーザーは、入力端末2を用いて、熱流体解析システム1に対して熱流体解析の対象とする、解析領域10における複数種類の境界面F(
図2参照)の配置に関する情報(境界面配置情報)の入力操作を行う。
【0025】
表示装置3は、ディスプレイ等の出力装置であり、熱流体解析システム1から得られた解析結果の出力を行う。表示装置3は、解析結果を出力する際には、例えば、解析結果を画像として表示する。ここで、入力端末2と表示装置3は、両者が一体となった外部端末であってもよい。
【0026】
熱流体解析システム1は、プロセッサ及びメモリを有するコンピュータシステムによって構成される。そして、入力端末2から入力された情報を基にして、プロセッサがメモリに格納されているプログラムを実行することにより、解析計算を実行する。
【0027】
具体的には、熱流体解析システム1は、
図1に示すように、取得部1a、記憶部1b、設定部1c、メッシュ作成部1d、解析部1e、処理部1f、及び出力部1gを機能として備える。
【0028】
取得部1aは、入力端末2から、熱流体解析の対象となる解析領域10における複数種類の境界面Fの配置に関する情報(境界面配置情報)を受け付け、受け付けた情報を処理部1fに出力する。なお、取得部1aは、入力端末2との間で無線または有線により通信可能に接続されている。取得部1aは、入力部とも言える。
【0029】
ここで、
図2を参照して、解析領域10における複数種類の境界面Fの配置に関する情報(境界面配置情報)について説明する。
図2は、熱流体解析システム1において熱流体解析を実行する対象の解析領域10をメッシュ分割していない状態の解析モデル図である。
図2の(a)は、解析モデルを解析領域10の側面方向から描写した側面図であり、
図2の(b)は、解析モデルを解析領域10の上方向から描写した上面図である。
【0030】
図2は、直方体形状の住宅を想定した空間内に配置された空気浄化装置11から吹出気流12を発生させて空間内の空気を循環させる状況において、空間内の空気(流体に相当)の移動の熱流体解析を実行する場合を想定した解析モデルを示す。
【0031】
空気浄化装置11は、装置天面に設けられた一つの吹出口と、対向する二つの装置側面にそれぞれ設けられた吸込口とを備える。空気浄化装置11は、二つの吸込口から装置側面へ垂直方向に吸い込んだ空間内の空気を、内部に設けられたフィルターにより浄化して、装置天面の吹出口から吹出気流12として45度の角度(仰角)で装置前方(
図2の右側方向)に向けて吹き出す。空気浄化装置11は、空間内の中央で、装置の背面が壁の近傍になる配置であり、発生させる気流によって、空間内の空気を効率よく循環することのできる場所に設置されている。なお、吹出口から吹き出される気体の流出速度は、約2[m/s]~約4[m/s]の範囲内、気体の流出量は、約200[m
3/h]~約400[m
3/h]の範囲内で、使用環境に応じて数段階の調整ができるようになっている。
【0032】
解析領域10内には、ユーザーにより事前に設定された複数種類の境界面Fが存在し、各境界面Fに対して境界条件がそれぞれ規定されている。境界条件は、熱流体解析を実施するために、解析領域10の輪郭部にあたる、全ての複数種類の境界面Fに対して規定する流体の移動に関する条件である。
【0033】
ここで、
図2に示す解析モデルでは、複数種類の境界面Fとして、第一境界面F1~第十五境界面F15が設定され、それぞれ以下に示す境界条件が規定されている。
【0034】
第一境界面F1は、空間の天井面であり、流体の出入りのない第一境界条件が設定されている。
【0035】
第二境界面F2、第三境界面F3、第四境界面F4、及び第五境界面F5は、空間の側壁面であり、流体の出入りのない第一境界条件が設定されている。
【0036】
第六境界面F6は、空間の床面であり、流体の出入りのない第一境界条件が設定されている。
【0037】
第七境界面F7は、空間内の側壁面の一部分に配置された窓等を想定した開放可能な面であり、流体が自由に出入りする第二境界条件が設定されている。但し、本解析モデルでは、解析領域10内部における流体の流入量と流出量とが等しい状況を想定しているため、第七境界面F7における流体の出入りは、ほとんどなく、流出速度は、約0[m/s]の状況となる。つまり、第二境界条件は、実質的に第一境界条件と同じ扱いとなる。なお、第七境界面F7は、第五境界面F5のある空間の側壁面の一部に対して設定された境界面であるが、互いに重複しないように設定されている。
【0038】
第八境界面F8は、空気浄化装置11の装置前面(
図2の(a)での右側の面)であり、流体の出入りのない第一境界条件が設定されている。
【0039】
第九境界面F9は、空気浄化装置11の装置後面(
図2の(a)での左側の面)であり、流体の出入りのない第一境界条件が設定されている。
【0040】
第十境界面F10は、空気浄化装置11の装置右面(
図2の(b)での下側の面)であり、流体の出入りのない第一境界条件が設定されている。
【0041】
第十一境界面F11は、空気浄化装置11の装置左面(
図2の(b)の上側の面)であり、流体の出入りのない第一境界条件が設定されている。
【0042】
第十二境界面F12は、空気浄化装置11の装置右面の吸込口であり、第十境界面F10と同じ装置右面に位置しており、装置右面で装置の内部方向へ垂直に流体が流出速度約0.5[m/s]で流入する第三境界条件が設定されている。
【0043】
第十三境界面F13は、空気浄化装置11の装置左面の吸込口であり、第十一境界面F11と同じ装置左面に位置しており、装置左面で装置の内部方向へ垂直に流体が流出速度約0.5[m/s]で流入する第四境界条件が設定されている。
【0044】
第十四境界面F14は、空気浄化装置11の装置上面(
図2の(a)の上側の面)であり、流体の出入りのない第一境界条件が設定されている。
【0045】
第十五境界面F15は、空気浄化装置11の装置上面の吹出口であり、45度の角度(仰角)で装置前方(
図2の右側方向)に向けて吹き出す吹出気流12(流体)が流出速度約2.5[m/s]で流出する第五境界条件が設定されている。ここで、第十五境界面F15における流体の流出量は、第十二境界面F12及び第十三境界面F13における流体の流出量の合算値の2倍となる。なお、第十五境界面F15は、解析領域10における特定境界面とも言える。
【0046】
ここで、上述した複数種類の境界面Fに対応した境界条件に関する情報(境界条件情報)は、予めユーザーによって設定され、記憶部1bに記憶されている。
【0047】
図1に示すように、取得部1aは、入力端末2から解析領域10における複数種類の境界面Fの配置に関する情報(境界面配置情報)を受け付けると、受け付けた境界面配置情報を処理部1fに出力する。そして、処理部1fは、記憶部1b、設定部1c、及びメッシュ作成部1dが連動して動作させることで、解析領域10に対してメッシュ作成処理を行う。
【0048】
記憶部1bは、ユーザーが入力端末2から別途事前に入力することで蓄積された複数種類の境界面Fごとに規定された境界条件であって、境界面Fにおける熱設計及び流体の流出入に関する境界条件に関する情報(境界条件情報)を記憶する。また、記憶部1bは、解析領域10をメッシュ状に分割する際の第一分割寸法L1(
図3参照)及び第一分割寸法L1よりも細かい第二分割寸法L2(
図3参照)に関する情報(分割寸法情報)を記憶する。なお、上述した情報(境界条件情報及び分割寸法情報)は、ユーザーが入力端末2を用いて入力し、取得部1aを介して記憶部1bへ蓄積される構成としたが、ユーザーが入力端末2から記憶部1bに直接入力して蓄積される構成としてもよい。
【0049】
ここで、第一分割寸法L1は、特定領域13を除く解析領域10を、ユーザーが求める解析精度で解析計算するために必要となるメッシュの寸法である。第一分割寸法は、例えば、80mmに設定される。
【0050】
第二分割寸法L2は、特定領域13をユーザーが求める解析精度で解析計算するために必要となる第一分割寸法よりも細かいメッシュの寸法である。特定領域13では、流体の移動が大きい領域であるため、ユーザーが求める解析精度を得るために通常の解析領域10よりも、細かいメッシュの分割寸法が必要となる。このため、第二分割寸法は、例えば、40mmに設定される。
【0051】
詳細な説明は後述するが、解析領域10は、解析領域10を直交座標系(X,Y、Z)で立体的に考えた時に、X,Y、Zの各方向へ、約20[mm]~約200[mm]の寸法の第一分割寸法L1もしくは第二分割寸法L2で、正六面体(立方体)の形状にメッシュ状に分割している。
【0052】
設定部1cは、取得部1aが受け付けた解析領域10における複数種類の境界面Fの配置に関する情報(境界面配置情報)と、記憶部1bに蓄積されている境界面Fにおける熱設計及び流体の流出入に関する境界条件に関する情報(境界条件情報)とを照合して、該当の境界条件が設定された境界面Fを判別し、複数種類の境界面Fの中から第十五境界面F15を特定する。そして、設定部1cは、特定した第十五境界面F15に隣接する領域に対して特定領域13を設定する。
【0053】
ここで、特定領域13は、第十五境界面F15の第五設定条件のように、境界面Fから発生する流体の流出速度が大きい境界面Fに隣接する領域に対して、その領域を囲うような寸法(空間寸法)にして設定されるが、境界面Fから発生する流体の流出速度の大小に応じて、特定領域13の寸法を変化させることが好ましい。また、特定領域13の設定位置は、境界面から発生する流体の流出方向に応じて、境界面Fの位置に対して流出方向に偏らせた位置に設定することが好ましい。
【0054】
続いて、メッシュ作成部1dは、記憶部1bに蓄積された分割寸法情報(第一分割寸法及び第二分割寸法に関する情報)に基づいて、設定部1cで設定された特定領域13を除く解析領域10を第一分割寸法L1でメッシュ状に自動的に分割するとともに、設定部1cで設定された特定領域を第一分割寸法L1よりも細かい第二分割寸法L2でメッシュ状に自動的に分割する。
【0055】
処理部1fは、上述したように記憶部1b、設定部1c、及びメッシュ作成部1dが連動して動作させることにより、解析領域10に対してメッシュ作成処理を実行する。
【0056】
次に、処理部1fによるメッシュ作成処理の具体例として、
図3を参照して、
図2の解析領域10に対して行われるメッシュ作成処理について説明する。
図3は、熱流体解析システム1において熱流体解析を実行する対象の解析領域10をメッシュ分割した状態の解析モデル図である。なお、
図3では、
図2の解析領域10に対してメッシュ作成処理を実行した状況を示している。
図3の(a)は、
図2の(a)に対応した解析モデルを解析領域10の側面方向から描写した側面図であり、
図3の(b)は、
図2の(b)に対応した解析モデルを解析領域10の上方向から描写した上面図である。
【0057】
図3でのメッシュ作成処理では、境界面Fでの流体の流出速度が基準流出速度を超える場合に、該当する境界条件の設定されている境界面Fに隣接する領域を特定領域13として設定する場合について説明を行う。但し、メッシュ作成処理では、境界面Fでの流体の流出量が基準流出量を超える場合に、該当する境界条件の設定されている境界面Fに隣接する領域を特定領域13として設定してもよいし、あるいは、境界面Fでの流体の流出速度が基準流出速度を超え、且つ、流体の流出量が基準流出量を超える場合に、該当する境界条件の設定されている境界面Fに隣接する領域を特定領域13として設定してもよい。
【0058】
ここで、基準流出速度は、境界面Fから流出する流体の流出速度の数値であり、流体の流出速度が増加した際に、特定領域13を第二分割寸法L2でメッシュ状に分割しないと、ユーザーが求める解析精度で解析計算が実行できなくなる閾値となる流出速度である。また、基準流出量は、境界面Fから流出する流体の流出量の数値であり、流体の流出量が増加した際に、特定領域13を第二分割寸法L2でメッシュ状に分割しないと、ユーザーが求める解析精度で解析計算が実行できなくなる閾値となる流出量である。なお、基準流出速度及び基準流出量は、実測と解析結果の整合の繰り返しにより、ユーザーが予め取得して設定する情報である。
【0059】
まず、処理部1fによるメッシュ作成処理を実行する際は、記憶部1bには、複数種類の境界面Fごとに規定された境界条件に関する情報(境界条件情報)と、解析領域10をメッシュ状に分割する際の第一分割寸法及び第二分割寸法に関する情報(分割寸法情報)とが既に記憶され蓄積されている。
【0060】
設定部1cは、取得部1aが受け付けた解析領域10における境界面配置情報と、記憶部1bに記憶されている境界条件情報とを照合して、解析領域10内の複数種類の境界面F(第一境界面F1~第十五境界面F15)をそれぞれ判別し、境界面Fの中から第十五境界面F15を特定境界面として特定する。そして、設定部1cは、特定境界面(特定した第十五境界面F15)に隣接する領域に対して特定領域13を設定する。
【0061】
より詳細には、設定部1cは、境界面配置情報と境界条件情報とを照合して、まずは流体の流出に関する境界条件(第二境界条件~第五境界条件)が設定された境界面Fを特定する。今回の解析モデルでは、第二境界条件の第七境界面F7、第三境界条件の第十二境界面F12、第四境界条件の第十三境界面F13、及び第五境界条件の第十五境界面F15が特定される。続いて、設定部1cは、気流の流出速度が基準流出速度1.0[m/s]を超える境界条件が設定された特定境界面を特定する。今回の解析モデルでは、流体の流出速度が約2.5[m/s]と規定された第五境界条件の第十五境界面F15が特定境界面として特定される。そして、設定部1cは、特定した第十五境界面F15に隣接する領域に対して、所定の空間寸法を有する特定領域13を設定する。
【0062】
ここで、特定領域13を設定する際には、設定部1cは、空気浄化装置11の吹出気流12が装置前方へ床面と45度の角度方向へ流体が流出しているため、吹出気流12の流出方向に合わせて、吹出気流12の流出方向に特定領域13の位置を偏らせて設定している。また、設定部1cは、空気浄化装置11から流出する吹出気流12の流出速度(第五境界条件)に基づいた所定の空間寸法の大きさに設定しているが、特定境界面から発生する流体の流出速度の大小に応じて増減させて設定することが好ましい。
【0063】
続いて、メッシュ作成部1dは、記憶部1bからの分割寸法情報(第一分割寸法及び第二分割寸法に関する情報)に基づいて、設定部1cで設定された特定領域13を除く解析領域10を一辺の長さが第一分割寸法L1(例えば、80mm)の正六面体メッシュで自動的に分割する。また、メッシュ作成部1dは、特定領域13を一辺の長さが第二分割寸法L2(例えば、40mm)で正六面体メッシュに自動的に分割する。なお、今回の解析モデルでは、解析領域10を分割するメッシュの形状として正六面体メッシュを使用しているが、解析領域10の形状あるいは解析精度に応じて、六面体メッシュ(直方体メッシュ)あるいは四面体メッシュなど、形の異なるメッシュ形状で分割を行なってもよい。
【0064】
このようにして、処理部1fによるメッシュ作成処理が実行される。
【0065】
続いて、処理部1fは、解析部1eに対して、解析領域10内での流体の移動に関する解析計算を実行させる。
【0066】
解析部1eは、メッシュ作成部1dによってメッシュ状に分割された解析領域10に対して、吹出気流12を含む流体の移動に関する解析計算を実行する。解析部1eでの解析計算には、一般的な熱流体解析プログラム等が用いられるので、ここでは説明を省略する。そして、解析部1eは、解析して得られた結果(解析結果)を処理部1fに出力する。また、解析部1eは、必要に応じて解析結果を記憶部1bに記憶させる。
【0067】
処理部1fは、入力端末2からの解析結果の出力要求に応じて、解析部1eから受け付けた解析結果(あるいは記憶部1bに記憶させた解析結果)を出力部1gに出力する。
【0068】
出力部1gは、処理部1fから受け付けた解析結果を表示装置3に出力する。なお、出力部1gは、表示装置3との間で無線または有線により通信可能に接続されている。
【0069】
以上のようにして、熱流体解析システム1では、入力端末2から入力された情報(境界面配置情報)を基にして、熱流体解析の対象となる解析領域10をメッシュ状に分割して解析計算を行い、流体の移動に関する解析結果を表示装置3に表示させる。
【0070】
続いて、
図4を参照して、
図2及び
図3に対応した解析モデルにおいて熱流体解析システム1を用いて熱流体解析を行った解析結果について説明する。
図4は、熱流体解析による熱流体解析結果を示す図である。
図4の(a-1)は、解析領域10を第一分割寸法L1のみでメッシュ状に分割した場合の、解析領域10の側面方向から描写した側面図であり、
図4の(b-1)は、特定領域13を除く解析領域10を第一分割寸法L1でメッシュ状に分割するとともに、特定領域13を第二分割寸法でそれぞれメッシュ状に分割した場合の、解析領域10の側面方向から描写した側面図である。
図4の(a-2)は、
図4の(a-1)に対応した側面図であり、熱流体解析によって得られた解析領域10内の流体の流速分布を白黒描写した図である。
図4の(b-2)は、
図4の(b-1)に対応した側面図であり、熱流体解析によって得られた解析領域10内の流体の流速分布を白黒描写した図である。また、
図4の(a-2)及び
図4の(b-2)では、流速分布を等高線で区分しており、解析精度を比較するために、流出速度0.3[m/s]の等高線14を太線で図示している。なお、
図4では、
図2及び
図3の解析モデルの内容と符号を対応させている。但し、
図4では、簡易化のために、
図2及び
図3で設置した、窓当の開放面を想定した第七境界面F7は解析モデルから除外している。
【0071】
図4は、直方体形状の住宅を想定した空間内(体積88m
3)に、空間内の空気を循環させて浄化する空気浄化装置11を設置して、運転させた状況の解析モデルに関して熱流体解析を実行して得られた結果である。
【0072】
以下に、解析領域10内に設定した流体の流出入に関する境界条件を説明する。
【0073】
空気浄化装置11は、装置上面の吹出口から吹出気流12を装置前方へ床面と45度の角度方向へ流出速度2.55[m/s]、流出量0.066[m3/s]で流体が流出する。このため、装置上面の吹出口に対応する第十五境界面F15には、上述の条件を第五境界条件として設定した。
【0074】
また、空気浄化装置11は、装置右面及び装置左面の吸込口から、各面に対して垂直方向へ、流出速度0.57[m/s]、流出量0.033[m3/s]で流体が流入する。このため、装置右面及び装置左面の吸込口に対応する第十二境界面F12及び第十三境界面F13には、上述の条件を第三境界条件及び第四境界条件としてそれぞれ設定した。
【0075】
また、境界面Fから流出する流体の流出速度が基準流出速度1.00[m/s]を超える条件の時に、該当する境界面Fを特定境界面(第十五境界面F15)とし、特定境界面に隣接する領域を特定領域13と設定した。
【0076】
図4の(a-2)と
図4の(b-2)とを比較すると、第一分割寸法L1(80mm)のみで熱流体解析を実行した場合、第二分割寸法L2(40mm)よりもメッシュが粗いため、流体の流れは、吹出気流12の流出方向に対して周囲(図面では上下)へ強く広がる傾向が出てしまい、流出速度0.3[m/s]の等高線14の位置が広がっていることが確認できる。一方で、解析領域10の一部を特定領域13として、特定領域13を第二分割寸法L2で熱流体解析を実行した場合、流体の流れは、吹出気流12の流出方向に対して周囲(図面では上下)へ広がらず、解析精度が向上していることが確認できる。
【0077】
また、熱流体解析システム1による熱流体解析を実施した
図4の(b-2)の解析結果を得るために要した時間は、
図4の(a-2)の解析結果を得るために要した時間の約1.4倍となったが、解析領域10全体を第二分割寸法L2(40mm)の第一分割寸法L1より細かいメッシュで分割して解析計算を実行した場合の解析結果を得るために要する時間の約0.2倍の時間であった。また、特に図示していないが、
図4の(b-2)の解析結果での吹出気流12の周囲へ広がりは、解析領域10全体を第二分割寸法L2(40mm)でメッシュ分割した解析結果での広がりと同程度であり、両者で同程度の解析精度の解析結果を得ることができた。このことは、熱流体解析システム1を用いることで、解析計算時間を削減しつつ、解析精度を向上することができることを示している。
【0078】
なお、熱流体解析システム1を用いた熱流体解析では、特定領域13は、特定領域13以外の解析領域10のメッシュ分割寸法である第一分割寸法L1よりも細かい第二分割寸法L2でメッシュ分割されて解析計算が行わせることから、解析精度が向上する。特定領域13での解析精度向上は、結果として、その周辺の特定領域13以外の解析領域10にも、傾向が伝わり、解析領域10全体としての解析精度も向上することになる。
【0079】
次に、
図5を参照して、熱流体解析システム1を使用して熱流体解析を実施する処理手順(熱流体解析方法)について説明する。
図5は、熱流体解析システム1において熱流体解析を実施するフローチャート図である。
【0080】
まず、
図5に示すように、熱流体解析方法では、ユーザーが入力端末2に入力して設定した熱流体解析の対象となる解析領域10における複数種類の境界面Fの配置に関する情報(境界面配置情報)を取得する(ステップS1)。なお、ステップS1は、請求項の「取得ステップ」に相当する。
【0081】
次に、ステップS1で取得した解析領域10における境界面配置情報と、記憶部1bに蓄積された境界条件情報(境界面Fにおける熱設計及び流体の流出入に関する境界条件に関する情報)とを照合して、該当の境界条件が設定された境界面Fを判別し、複数種類の境界面Fの中から特定境界面(例えば、第十五境界面F15)を特定する(ステップS2)。そして、特定された特定境界面に隣接する領域に対して特定領域13を設定する(ステップS3)。なお、ステップS2及びステップS3は、請求項の「設定ステップ」に相当する。
【0082】
次に、ステップS3において設定された特定領域13を除く解析領域10を、記憶部1bに記憶された第一分割寸法L1でメッシュ状に分割する(ステップS4)。続いて、特定領域13を第一分割寸法L1よりも細かい第二分割寸法L2でメッシュ状に分割する(ステップS5)。なお、ステップS4及びステップS5は、請求項の「メッシュ作成ステップ」に相当する。
【0083】
次に、ステップS4及びステップS5においてメッシュ状に分割された分割要素にて解析領域10内の流体の移動に関する解析計算を実行する(ステップS6)。なお、ステップS6は、請求項の「解析ステップ」に相当する。
【0084】
最後に、ステップS6において解析された解析結果(解析領域10内での空気浄化装置11から吹き出される吹出気流12に起因した流体の移動に関する解析結果)を表示装置3に出力する(ステップS7)。なお、ステップS7は、請求項の「出力ステップ」に相当する。
【0085】
以上のようにして、熱流体解析方法では、熱流体解析システム1を用いて熱流体解析の対象となる解析領域10をメッシュ状に分割して解析計算を行って解析結果を出力する。
【0086】
以上、本実施の形態1に係る熱流体解析システム及び熱流体解析方法によれば、以下の効果を享受することができる。
【0087】
(1)熱流体解析システム1は、複数種類の境界面を配置して構成される解析領域10をメッシュ状に分割して、解析領域10内での熱の移動及び流体の移動の少なくとも一方を解析計算して出力するシステムである。熱流体解析システム1は、解析領域10における複数種類の境界面Fの配置に関する情報(境界面配置情報)を取得する取得部1aと、複数種類の境界面Fごとに規定された境界条件であって、境界面Fにおける熱設計及び流体の流出入に関する境界条件(境界条件情報)を記憶するとともに、解析領域10をメッシュ状に分割する際の第一分割寸法及び第一分割寸法よりも細かい第二分割寸法に関する情報(分割寸法情報)を記憶する記憶部1bと、解析領域10内において、記憶部1bに記憶された境界条件に基づいて特定される境界面Fに隣接する特定領域13を設定する設定部1cと、特定領域13を除く解析領域10を第一分割寸法L1でメッシュ状に分割するとともに、設定部1cで設定された特定領域13を第二分割寸法L2でメッシュ状に分割するメッシュ作成部1dと、メッシュ作成部1dによって分割された分割要素にて解析計算を実行する解析部1eと解析部1eによって解析された解析結果を出力する出力部1gと、を備える構成とした。
【0088】
こうした構成によれば、解析領域10における複数種類の境界面Fの配置に関する情報を取得することによって、特定領域13を除く解析領域10が第一分割寸法L1でメッシュ状に自動的に分割され、特定領域13が第一分割寸法L1よりも細かい第二分割寸法L2でメッシュ状に自動的に分割される。このため、ユーザーが解析領域10を分割し、その分割領域ごとにメッシュ粗密を判別する必要がなくなり、解析時間の短縮を図ることができる。また、境界面Fの境界条件に基づいて特定領域13を自動的に設定し、特定領域13に対して第一分割寸法L1よりも細かい第二分割寸法L2で分割するので、解析領域10全体のメッシュ分割数が必要最低限に削減され、解析時間の顕著な増加を抑制できる。これらの結果、熱流体解析システム1は、解析計算時間を削減しつつ、解析精度を向上させることが可能となる。
【0089】
(2)熱流体解析システム1では、メッシュ作成部1dは、特定領域13をメッシュ状に分割する際、境界条件に含まれる流体の流出速度及び流出量に基づいて第二分割寸法L2を増減させるようにした。これにより、境界面Fから出力される流体の流出速度及び流出量が増減した状況下において、特定領域13のメッシュの第二分割寸法L2を、ユーザーが求める解析精度で解析計算するために必要となる適切な寸法に変化させて解析計算が実行されるので、解析精度を向上させることができる。
【0090】
(3)熱流体解析システム1では、設定部1cは、特定領域13を設定する際、境界条件に含まれる流体の流出速度及び流出量に基づいて特定領域13の領域寸法を増減させるようにした。これにより、境界面Fから出力される流体の流出速度及び流出量が増減した状況下において、必要な特定領域13の領域寸法を、ユーザーが求める解析精度で解析計算するために必要となる適切な寸法に変化させて解析計算が実行されるので、解析精度を向上させることができる。
【0091】
(4)熱流体解析システム1では、特定領域13に隣接する境界面Fを特定する境界条件は、境界面Fから流出する流体の流出速度が基準流出速度を超える条件及び流体の流出量が基準流出量を超える条件の少なくとも一方とした。これにより、解析領域10における複数種類の境界面Fの配置に関する情報に基づいて、ユーザーが求める解析精度で解析計算する必要がある領域を特定領域13として確実に設定することができる。
【0092】
(5)熱流体解析方法は、複数種類の境界面Fを配置して構成される解析領域10をメッシュ状に分割して、解析領域10内での熱の移動及び流体の移動の少なくとも一方を解析計算して出力する方法である。熱流体解析方法は、解析領域10における複数種類の境界面Fの配置に関する情報(境界面配置情報)を取得する取得ステップ(ステップS1)と、解析領域10内において、数種類の境界面Fごとに規定された境界条件であって、境界面Fにおける熱設計及び流体の流出入に関する境界条件(境界条件情報)に基づいて特定される境界面Fに隣接する特定領域13を設定する設定ステップ(ステップS2及びステップS3)と、特定領域13を除く解析領域10を第一分割寸法L1でメッシュ状に分割するとともに、設定ステップで設定された特定領域13を第一分割寸法L1よりも細かい第二分割寸法L2でメッシュ状に分割するメッシュ作成ステップ(ステップS4及びステップS5)と、メッシュ作成ステップにおいて分割された分割要素にて解析計算を実行する解析ステップ(ステップS6)と、解析ステップにおいて解析された解析結果を出力する出力ステップ(ステップS7)と、を備えるようにした。
【0093】
このようにすることで、取得ステップにおいて取得した解析領域10における複数種類の境界面Fの配置に関する情報によって、メッシュ作成ステップにおいて特定領域13を除く解析領域10が第一分割寸法L1でメッシュ状に自動的に分割され、特定領域13が第一分割寸法L1よりも細かい第二分割寸法L2でメッシュ状に自動的に分割される。このため、ユーザーが解析領域10を分割し、その分割領域ごとにメッシュ粗密を判別するステップが必要なくなり、解析時間の短縮を図ることができる。また、設定ステップにおいて境界面Fの境界条件に基づいて特定領域13を自動的に設定し、メッシュ作成ステップにおいて特定領域13に対して第一分割寸法L1よりも細かい第二分割寸法L2で分割するので、解析領域10全体のメッシュ分割数が必要最低限に削減され、解析ステップでの解析時間の顕著な増加を抑制できる。これらの結果、熱流体解析方法では、解析ステップでの解析計算時間を削減しつつ、出力ステップで出力される解析精度を向上させることが可能となる。
【0094】
以上、本発明に関して実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態は例示であり、それらの各構成要素あるいは各処理プロセスの組合せに種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0095】
本実施の形態に係る熱流体解析システム1では、メッシュ作成部1dにて特定領域13をメッシュ状に分割する際の第二分割寸法L2を固定した場合について説明したが、これに限らない。例えば、特定領域13に隣接した境界面Fの境界条件に含まれる流体の流出速度及び流出量の大小に基づいて、第二分割寸法L2を増減させてもよい。これにより、境界面Fから出力される流体の流出速度及び流出量が増減した状況下において、特定領域13のメッシュの第二分割寸法L2を、ユーザーが求める解析精度で解析計算するために必要となる適切な寸法に変化させて解析計算が実行されるので、解析精度を向上させることができる。
【0096】
また、本実施の形態に係る熱流体解析システム1では、設定部1cにより設定される特定領域13の領域寸法を1つの条件で固定した場合について説明したが、これに限らない。例えば、特定領域13に隣接した境界面Fの境界条件に含まれる流体の流出速度及び流出量の大小に基づいて、特定領域13の領域寸法を増減させてもよい。これにより、境界面Fから出力される流体の流出速度及び流出量が増減した状況下において、必要な特定領域13の領域寸法を、ユーザーが求める解析精度で解析計算するために必要となる適切な寸法に変化させて解析計算が実行されるので、解析精度を向上させることができる。
【0097】
本実施の形態に係る熱流体解析システム1では、特定領域13に隣接する境界面Fを特定する境界条件として、境界面Fから流出する流体の流出速度が基準流出速度を超える条件の場合を説明したが、これに限らない。例えば、特定領域13に隣接する境界面Fを特定する境界条件は、流体の流出量が基準流出量を超えた条件及び、流体の流出速度が基準流出速度を超え、流体の流出量も基準流出量を超えた条件の場合でも、特定領域13に隣接する境界面Fの境界条件として特定されるようにしてもよい。より詳細には、流体の流出量が基準流出量を超えた条件の場合は、流体の流出量が基準流出量を超えて、ユーザーが求める解析精度で解析計算をするために、より細かいメッシュの分割寸法が必要となった領域に対して、特定領域13を設定して、第二分割寸法L2でメッシュ状に分割がなされるので、解析精度を向上することができる。また、流体の流出速度が基準流出速度を超え、且つ、流体の流出量も基準流出量を超えた条件の場合には、流体の流出速度が基準流出速度を超え、且つ、流体の流出量が基準流出量を超えて、ユーザーが求める解析精度で解析計算をするために、より細かいメッシュの分割寸法が必要となった領域に対して、特定領域13を設定して、第二分割寸法L2でメッシュ状に分割がなされるので、解析精度を向上させることができる。
【0098】
また、本実施の形態に係る熱流体解析システム1では、解析領域10内での流体の移動について解析計算して出力する場合について説明したが、これに限らない。例えば、解析領域10内の流体内に異なる物質(拡散物質)が混在している状況について、拡散物質の拡散挙動を解析計算する場合にも適応させてもよい。これにより、特定領域13に隣接する境界面Fから拡散物質が出力される状況下において、特定領域13に対して、ユーザーが求める解析精度で拡散物質の拡散挙動を解析計算するために必要となる適切な寸法に変化させて解析計算が実行されるので、拡散物質の拡散挙動に関する解析精度を向上させることができる。
【0099】
また、本実施の形態に係る熱流体解析システム1では、特定領域13が1カ所のみの場合を想定して説明したが、これに限らない。例えば、特定領域13が複数ある場合も同様の処理が行われる。さらに、特定領域13が複数あり、特定領域13同士が重なり合う状況が発生した場合には、特定領域13の重なった領域に対して、より細かい条件の分割寸法でメッシュ分割を行うようにすることが好ましい。これにより、複数の特定領域13に対して、ユーザーが求める解析精度で解析計算するために必要となる適切なメッシュ分割寸法にて解析計算が実行されるので、解析精度をさらに向上させることができる。
【0100】
また、本実施の形態に係る熱流体解析システム1では、少なくとも一つの特定領域13が設定されなる場合を説明したが、解析領域10内に特定領域13が存在しない場合もありうる。但し、熱流体解析では、解析領域10内での、複雑な熱の移動及び流体の移動の少なくとも一方を解析計算するため、単純な境界条件が設定された解析を実行することはほとんどなく、特定領域13が存在しない場合は、稀なことが多い。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明に係る熱流体解析システム及び熱流体解析方法は、解析計算時間を削減しつつ、解析精度を向上することを可能とするものであるので、様々な工業分野においてに使用される熱流体解析のシステム及び方法として有用である。
【符号の説明】
【0102】
1 熱流体解析システム
1a 取得部
1b 記憶部
1c 設定部
1d メッシュ作成部
1e 解析部
1f 処理部
1g 出力部
2 入力端末
3 表示装置
10 解析領域
11 空気浄化装置
12 吹出気流
13 特定領域
14 等高線
F 境界面
F1 第一境界面
F2 第二境界面
F3 第三境界面
F4 第四境界面
F5 第五境界面
F6 第六境界面
F7 第七境界面
F8 第八境界面
F9 第九境界面
F10 第十境界面
F11 第十一境界面
F12 第十二境界面
F13 第十三境界面
F14 第十四境界面
F15 第十五境界面
L1 第一分割寸法
L2 第二分割寸法