(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023065742
(43)【公開日】2023-05-15
(54)【発明の名称】インシュレータ構造体、電動機
(51)【国際特許分類】
H02K 3/50 20060101AFI20230508BHJP
【FI】
H02K3/50 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021176054
(22)【出願日】2021-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】森 洸太郎
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 康仁
【テーマコード(参考)】
5H604
【Fターム(参考)】
5H604AA05
5H604BB01
5H604CC01
5H604CC05
5H604QB01
5H604QB14
(57)【要約】
【課題】巻線の巻き回すスペースを圧迫してしまい性能低下につながるという課題および、隣接する端子ピンと渡り線間で接触して電動機の挙動が不安定になるという課題。
【解決手段】回転軸を中心に環状に配置された巻線固定部と、巻線固定部に巻線を複数回巻き回して形成された複数の巻回部と、複数の巻回部を接続する渡線と、渡線の引き回しをサポートするサポート部と、を備え、サポート部は、複数の巻回部の一端を共有する環状水平面から巻回部とは反対方向へ突出したピン固定部と、環状水平面からピン固定部と同方向へ突出したリブと、を備え、渡線は、ピン固定部とリブとを支点として回転軸の径方向にたすき掛け状に引き回される。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を中心に環状に配置された巻線固定部と、
前記巻線固定部に巻線を複数回巻き回して形成された複数の巻回部と、
複数の前記巻回部を接続する渡線と、
前記渡線の引き回しをサポートするサポート部と、を備え、
前記サポート部は、
複数の前記巻回部の一端を共有する環状水平面から前記巻回部とは反対方向へ突出したピン固定部と、
前記環状水平面から前記ピン固定部と同方向へ突出したリブと、を備え、
前記渡線は、
前記ピン固定部と前記リブとを支点として前記回転軸の径方向にたすき掛け状に引き回されたインシュレータ構造体。
【請求項2】
前記サポート部は、
複数の前記巻回部を前記環状水平面上で接続する環状部を備え、
前記ピン固定部と前記リブは、
二つの前記巻回部の間であって前記環状部に少なくとも1つずつ設けられた、請求項1記載のインシュレータ構造体。
【請求項3】
前記リブは、
前記環状水平面より前記反対方向へ突出する支柱部と、
前記環状部に這わせて配置された前記渡線の前記反対方向への移動を抑制する渡線固定部と、を備えた請求項1記載のインシュレータ構造体。
【請求項4】
前記渡線固定部は、
前記環状水平面と平行であって前記渡線のたすき掛け状における折り返し部と同一方向に、前記渡線の径よりも大きく突出する請求項3記載のインシュレータ構造体。
【請求項5】
前記ピン固定部は、
前記環状水平面に対して前記渡線の径以上の高さを有する請求項1記載のインシュレータ構造体。
【請求項6】
前記渡線は、
上流側の前記巻回部より引き出され下流側の前記巻回部に引き込まれ、
前記環状水平面上で、
前記上流側に設けられた前記ピン固定部の内周側、
前記リブにおける前記支柱部の外周側、
前記リブよりも前記下流側に設けられた前記ピン固定部の内周側、
の順に前記たすき掛け状に引き回される請求項3記載のインシュレータ構造体。
【請求項7】
前記渡線は、
前記ピン固定部、前記支柱部、前記巻線固定部、及び前記環状部、以外にはサポートされない請求項6記載のインシュレータ構造体。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載のインシュレータ構造体を備えた電動機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインシュレータ構造体及び電動機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、円環状に配置されたステータコア、すなわち鉄心に巻線が巻き回され、さらに近傍の鉄心に巻線が引き回される際に、巻線を安定して引き回すため、インシュレータにリブを形成することが知られている。
【0003】
また、巻線が絡げられる端子ピンを固定するため、インシュレータにピン固定部を形成することが知られている。
【0004】
以下、その構成について
図8を参照しながら説明する。
図8に示すように、インシュレータ100は、環状部111にリブ112を備え、リブ112を介することで渡線113を環状部111の環に沿って渡らせることで切断の抑制ができる。また、環状部111に端子ピンを固定する穴であるピン固定部114を設けることで、巻線へ電流を共有する事ができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような従来のインシュレータでは、リブが巻線の巻き回すスペース側へ突出しているため、巻線の巻き回すスペースを圧迫してしまい性能低下につながるという課題および、従来のピン固定部では、隣接する端子ピンと渡り線間で接触して電動機の挙動が不安定になるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明に係るインシュレータ構造体、およびこのインシュレータ構造体を備えた電動機は、回転軸を中心に環状に配置された巻線固定部と、前記巻線固定部に巻線を複数回巻き回して形成された複数の巻回部と、複数の前記巻回部を接続する渡線と、前記渡線の引き回しをサポートするサポート部と、を備え、前記サポート部は、複数の前記巻回部の一端を共有する環状水平面から前記巻回部とは反対方向へ突出したピン固定部と、前記環状水平面から前記ピン固定部と同方向へ突出したリブと、を備え、前記渡線は、前記ピン固定部と前記リブとを支点として前記回転軸の径方向にたすき掛け状に引き回されたものとし、これにより所期の課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、インシュレータの形状を工夫することで、巻線の巻き回すスペースを圧迫せず性能を維持しつつ、かつ、電動機の安定駆動を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図4】本発明に係るインシュレータ構造体の斜視図。
【
図7】本発明に係るインシュレータ構造体の回転軸垂直方向の上面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。また、全図面を通して、同一の部位については同一の符号を付して二度目以降の説明を省略している。さらに、各図面において、本発明に直接には関係しない各部の詳細については説明を省略している。
【0011】
(実施の形態1)
本発明の第1の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0012】
まず、
図1を参照して本実施の形態に電動機10について説明する。なお、
図1は電動機10の展開図である。
【0013】
電動機10は、例えば一般家庭コンセント等で得られる交流電圧(単相交流)を印加することで回転するモータであり、換気扇、空気清浄機、加湿器、送風機等に用いられる。電動機10は、固定子1と、回転子2と、ハウジング3a、3bと、を備える。
【0014】
固定子1は、外部より電流が供給されることで、磁束を発生し、回転子2に対して回転力を発生させる。固定子1の詳細については後述する。
【0015】
回転子2は、固定子1より得られた回転力で回転軸11を中心として回転運動し、回転運動で得られた動力を、シャフト21を介して電動機10の外部へ伝達する。回転子2は、シャフト21と、ダイカスト部22と、ベアリング23と、を備える。
【0016】
シャフト21は、炭素鋼材やステンレス鋼材等で形成され、回転子2の動力を外部へ伝達する軸である。またシャフト21は円筒棒形状であり、回転軸11と同心である。シャフト21は、ダイカスト部22に空けられたシャフト径と略同径の穴に、圧入固定される。
【0017】
ダイカスト部22は、回転軸11と同一方向、つまり回転軸11の伸長方向に積層した複数枚の電磁鋼板と、アルミニウム等で形成されるかご型導体と、を備える。固定子1より発生した磁束が、ダイカスト部22の電磁鋼板を通ることで、かご型導体に誘導電流が流れ、フレミング左手の法則より回転力が発生する。ダイカスト部22は、円筒形状でシャフト21と同心である。
【0018】
ベアリング23は、シャフト21と同心の中空円形状であり、回転運動するシャフト21を支持する。ベアリング23の内径は、シャフト21の径と略同径であり、ダイカスト部22をシャフト21の両側から挟み込む形で2個、シャフト21に圧入固定される。
【0019】
ハウジング3a、3bは、固定子1の外径と略同径の内部空間を有し、固定子1を内部空間に保持する有底円筒形状を有する外郭である。ハウジング3aは、有底円筒形状における天面開口を固定子1に向けて、固定子1の軸方向における一方より固定子1を格納する。
ハウジング3bは、ハウジング3aと略同一形状を有し、同じく天面開口を固定子1に向けて、固定子1の軸方向における他方より固定子1を格納する。これによりハウジング3a、3b内に、固定子1及び回転子2が格納される。
【0020】
続いて、
図2、
図3を参照して本実施の形態に係る固定子1について説明する。なお、
図2は固定子1の展開図、
図3は固定子1の斜視図である。
【0021】
固定子1は、基板4と、二個のインシュレータ構造体5と、を備える。
【0022】
基板4は、複数の電気的接点を接続することで、外部のインバータ回路等とインシュレータ構造体5とを接続し、インシュレータ構造体5への電流供給を可能にする。
【0023】
固定子1は、インシュレータ構造体5を、互いに所定の間隔を埋めるように交互に位置させて組み合わせた組み合わせ構造を有する。このような形状を有する固定子1は、二個の同一形状のインシュレータ構造体5を製造すればよく、部品点数の少数化に寄与できる。
【0024】
続いて、
図4、
図5、
図6を参照して本実施の形態に係るインシュレータ構造体5について説明する。なお、
図4はインシュレータ構造体5の斜視図、
図5コア7の斜視図、
図6はインシュレータの側面図である。
【0025】
インシュレータ構造体5は、巻回部8と、渡線15と、サポート部16と、を備える。
【0026】
巻回部8は、銅やアルミニウムの合金を主な素材とする導電線である巻線20と、巻線固定部6と、を備える。巻回部8は、回転軸11を中心に環状に複数配置される。
【0027】
巻線固定部6は、コア7と、インシュレータ9と、を備える。
【0028】
コア7は、外径側に形成される継鉄部12と当該継鉄部12から内周側に突出する基部13と、基部13の先端に設けられた歯部14とが一体に形成される。また、コア7は、固定子1の完成形状において、円環状に構成される。
【0029】
インシュレータ9は、コア7を覆う構成であって、コア7と巻線20との間を電気的に絶縁する絶縁材である。
【0030】
渡線15は、複数の巻回部を接続する導電線である。
【0031】
サポート部16は、上流側から下流側の巻回部8へ渡線15を引き回す際にサポートする役割を持ち、環状部17と、ピン固定部18と、リブ19と、を備える。
【0032】
環状部17は、複数の巻回部8の一端を共有する環状水平面24上において、複数の巻線固定部6を接続する役割を持ち、複数の環状部17と、複数の巻回部と、によりインシュレータ構造体の円環形状を形成する。
【0033】
ピン固定部18は、基板4と巻線20とを電気的に接続する端子ピンを、インシュレータ構造体5へ圧入固定する固定穴である。ピン固定部18は、環状水平面24より巻回部8とは反対方向へ渡線15の径よりも突出する。
【0034】
リブ19は、環状水平面24より巻回部8とは反対方向へ突出する支柱部25と、環状部17に這わせて配置された渡線15の反対方向への移動を抑制する渡線固定部26と、を備える。
【0035】
渡線固定部26は、環状水平面24と平行であって、回転軸11から径方向に、支柱部25よりも渡線15の径以上の突出する形状を有する。つまり、リブ19は、回転軸11から径方向に、支柱部25と渡線固定部26間で、段形状となる。また、環状水平面24より巻回部8とは反対方向の渡線固定部26端面は、基板4と接することで、基板4を支持する。
【0036】
支柱部25は、環状水平面24より渡線15の径以上の高さを有し、また環状水平面24より巻回部8の方向へ接続される環状部17の径方向厚みと同じか、もしくはそれよりも薄い特徴を有する。
【0037】
続いて、
図7を参照して本実施の形態に係るインシュレータ構造体5における渡線の引き回しについて説明する。なお、
図7はインシュレータ構造体の上面図である。
【0038】
ピン固定部18は、巻回部8を中心として環状形状を有する環状部17に2箇所設けられるのに対し、リブ19は、上流側の巻回部8aと下流側の巻回部8bの間に1箇所設けられる。つまり、上流側の巻回部8aから下流側の巻回部8bに向けて、環状部17上には、ピン固定部18a、リブ19、ピン固定部18b、と交互に配置された構造となる。
【0039】
渡線15は、上流側の巻回部8aより引き出され下流側の巻回部8bに引き込まれるにあたり、環状水平面24上で、矢印27aのように上流側に設けられたピン固定部18aの内周側、矢印27bのようにリブ19における支柱部25の外周側、矢印27cのようにリブ19よりも下流側に設けられたピン固定部18bの内周側、の順にたすき掛け状に引き回される。
【0040】
以上により、巻線を巻くスペースを圧迫せず渡線15を引き回す事が可能である。
【0041】
また、ピン固定部18が、環状水平面24より巻回部8とは反対方向へ突出している事で、渡線15と端子ピン間の物理的接触を抑制することができる。
【0042】
(実施の概要)
本発明に係るインシュレータ構造体は、回転軸を中心に環状に配置された巻線固定部と、巻線固定部に巻線を複数回巻き回して形成された複数の巻回部と、複数の巻回部を接続する渡線と、渡線の引き回しをサポートするサポート部と、を備え、サポート部は、複数の巻回部の一端を共有する環状水平面から巻回部とは反対方向へ突出したピン固定部と、環状水平面からピン固定部と同方向へ突出したリブと、を備え、渡線は、ピン固定部とリブとを支点として回転軸の径方向にたすき掛け状に引き回される。
【0043】
これにより、巻線を巻き回すスペースを圧迫する事なく、かつ、隣接する端子ピンと渡り線間での接触恐れなく、渡線を引き回す事ができる。
【0044】
また、サポート部は、複数の巻回部を環状水平面上で接続する環状部を備え、ピン固定部とリブは、二つの巻回部の間であって環状部に少なくとも1つずつ設けられる。
【0045】
これにより、ピン固定部とリブとを支点として、渡線をたすき掛け状に引き回す事ができ、環状水平面から巻回部と同方向への移動を抑制できる。
また、リブは、環状水平面より反対方向へ突出する支柱部と、環状部に這わせて配置された渡線の反対方向への移動を抑制する渡線固定部と、を備える。
【0046】
これにより、渡線の径方向から回転軸方向への移動を抑制できる。
【0047】
また、渡線固定部は、環状水平面と平行であって渡線のたすき掛け状における折り返し部と同一方向に、渡線の径よりも大きく突出する。
【0048】
これにより、渡線の環状水平面から巻回部と反対方向への移動を抑制できる。
【0049】
また、ピン固定部は、環状水平面に対して渡線の径以上の高さを有する。
【0050】
これにより、隣接する端子ピンと渡り線間での接触を物理的に抑制する事ができる。
【0051】
また、渡線は、上流側の巻回部より引き出され下流側の巻回部に引き込まれ、環状水平面上で、上流側に設けられたピン固定部の内周側、リブにおける支柱部の外周側、リブよりも下流側に設けられたピン固定部の内周側、の順にたすき掛け状に引き回される。
【0052】
これにより、ピン固定部とリブとを支点として、張力を加えながら、巻線を引き回す事ができ、渡線のたわみ防止となる。
【0053】
また、渡線は、ピン固定部、支柱部、巻線固定部、及び環状部、以外にはサポートされない。
【0054】
これにより、最小限のインシュレータ形状工夫にて、渡線をサポートする事ができる。
【0055】
また、上述のインシュレータ構造体を備えた電動機としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明にかかるインシュレータ構造体は、電動機における巻線の巻き回しスペースの確保と、安定駆動を実現することができるものとして有用である。
【符号の説明】
【0057】
1 固定子
2 回転子
3a、3b ハウジング
4 基板
5 インシュレータ構造体
6 巻線固定部
7 コア
8、8a、8b 巻回部
9 インシュレータ
10 電動機
11 回転軸
12 継鉄部
13 基部
14 歯部
15 渡線
16 サポート部
17 環状部
18、18a、18b ピン固定部
19 リブ
20 巻線
21 シャフト
22 ダイカスト部
23 ベアリング
24 環状水平面
25 支柱部
26 渡線固定部
27a、27b、27c 矢印
100 インシュレータ
111 環状部
112 リブ
113 渡線
114 ピン固定部