(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023065744
(43)【公開日】2023-05-15
(54)【発明の名称】振動解析方法および振動解析装置
(51)【国際特許分類】
B23Q 17/12 20060101AFI20230508BHJP
B23Q 17/09 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
B23Q17/12
B23Q17/09 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021176060
(22)【出願日】2021-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】棚瀬 良太
(72)【発明者】
【氏名】橋本 高明
(72)【発明者】
【氏名】松尾 優大
(72)【発明者】
【氏名】久保 詩織
(72)【発明者】
【氏名】松原 厚
(72)【発明者】
【氏名】河野 大輔
【テーマコード(参考)】
3C029
【Fターム(参考)】
3C029CC07
(57)【要約】
【課題】簡易な手法で切削工具や工作物の振動を解析可能な技術を提供する。
【解決手段】切削工具または工作物を解析対象物とする振動解析方法は、定速で回転している切削工具によって工作物に切削加工を施しながら切削力および解析対象物の振動を計測することによって切削力データおよび振動データを取得する計測工程と、取得された各データから切削工具の刃が工作物に接触してから次に切削工具の刃が工作物に接触するまでの時間間隔に対応する長さの区間のデータである部分データを抽出する抽出工程と、各部分データの端部に付加データを付加する付加工程と、付加データを含んだ各部分データを用いた周波数解析によって解析対象物の振動特性を導出する解析工程とを有する。付加データは、周波数解析の時間窓長を拡張するためのデータであり、時系列に沿って連続して並んだ複数のゼロの値で構成されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削工具または工作物を解析対象物とする振動解析方法であって、
定速で回転している前記切削工具によって前記工作物に切削加工を施しながら前記切削工具から前記工作物に加えられる切削力および前記解析対象物の振動を計測することによって、前記切削力が時系列的に表された切削力データおよび前記振動が時系列的に表された振動データを取得する計測工程と、
前記切削力データから前記切削工具の刃が前記工作物に接触してから次に前記切削工具の刃が前記工作物に接触するまでの時間間隔に対応する長さの区間のデータである切削力部分データを抽出するとともに、前記振動データから前記区間のデータである振動部分データを抽出する抽出工程と、
前記切削力部分データの端部および前記振動部分データの端部に付加データを付加する付加工程と、
前記付加データを含んだ前記切削力部分データおよび前記振動部分データを用いた周波数解析によって、前記解析対象物の振動特性を導出する解析工程と、
を有し、
前記付加データは、前記周波数解析の時間窓長を拡張するためのデータであり、時系列に沿って連続して並んだ複数のゼロの値で構成されている、
振動解析方法。
【請求項2】
請求項1に記載の振動解析方法であって、
前記計測工程では、さらに、前記切削工具が1回転するごとにパルス信号を出力する回転検出器によって前記切削工具の回転周期を計測し、
前記抽出工程では、前記回転周期を前記切削工具の刃数で除すことによって前記時間間隔を算出した後、前記パルス信号が出力されたタイミングから前記回転周期よりも短い予め定められた長さの時間が経過したタイミングを前記区間の始点とし、かつ、前記始点から前記時間間隔と同じ長さの時間が経過したタイミングを前記区間の終点として、前記切削力部分データおよび前記振動部分データを抽出する、振動解析方法。
【請求項3】
請求項1に記載の振動解析方法であって、
前記計測工程では、さらに、前記切削工具が1回転するごとにパルス信号を出力する回転検出器によって前記切削工具の回転周期を計測し、
前記抽出工程では、前記回転周期を前記切削工具の刃数で除すことによって前記時間間隔を算出した後、前記パルス信号が出力されたタイミングを前記区間の始点とし、かつ、前記始点から前記時間間隔と同じ長さの時間が経過したタイミングを前記区間の終点として、前記切削力部分データおよび前記振動部分データを抽出する、振動解析方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3いずれか一項に記載の振動解析方法であって、
前記付加工程では、前記付加データを含んだ前記切削力部分データのデータ数が2のべき乗になり、かつ、前記付加データを含んだ前記振動部分データのデータ数が2のべき乗になるように前記付加データを付加し、
前記解析工程では、前記付加データを含んだ前記切削力部分データおよび前記振動部分データに対して高速フーリエ変換を実行して、前記振動特性を導出する、振動解析方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4いずれか一項に記載の振動解析方法であって、
前記計測工程では、前記切削工具から前記工作物に前記切削力が加えられる加工点とは異なる位置に配置されたセンサによって前記切削力を計測し、
前記解析工程では、予め導出された前記加工点と前記センサとの間の力の伝達特性を用いて、前記センサによって計測された前記切削力を前記加工点での前記切削力に補正した上で、前記振動特性を導出する、振動解析方法。
【請求項6】
振動解析装置であって、
切削工具または工作物を解析対象物として前記解析対象物の振動を解析する振動解析部を備え、
前記振動解析部は、
定速で回転している前記切削工具によって前記工作物に切削加工を施しながら前記切削工具から前記工作物に加えられる切削力および前記解析対象物の前記振動を計測することによって得られる、前記切削力が時系列的に表された切削力データおよび前記振動が時系列的に表された振動データを取得する取得処理と、
前記切削力データから前記切削工具の刃が前記工作物に接触してから次に前記切削工具の刃が前記工作物に接触するまでの時間間隔に対応する長さの区間のデータである切削力部分データを抽出するとともに、前記振動データから前記区間のデータである振動部分データを抽出する抽出処理と、
前記切削力部分データの端部および前記振動部分データの端部に付加データを付加する付加処理と、
前記付加データを含んだ前記切削力部分データおよび前記振動部分データを用いた周波数解析によって、前記解析対象物の振動特性を導出する解析処理と、
を実行し、
前記付加データは、前記周波数解析の時間窓長を拡張するためのデータであり、時系列に沿って連続して並んだ複数のゼロの値で構成されている、
振動解析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、振動解析方法および振動解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
切削工具によって工作物に切削加工を施すときに生じるびびり振動を抑制するためには、切削加工中の切削工具や工作物の固有振動数および機械的コンプライアンスを把握することが好ましい。切削加工中の切削工具や工作物の固有振動数および機械的コンプライアンスを取得する方法に関して、例えば、特許文献1には、切削工具の回転速度を段階的に変更しながら切削工具によって工作物に切削加工を施し、切削加工中の切削工具の変位および切削力を計測することにより得られる回転速度ごとの変位および切削力のデータを用いて、切削加工中の切削工具の固有振動数および機械的コンプライアンスを取得する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
工作物の形状によっては、上述した方法のように、切削工具の回転速度を段階的に変更しながら工作物に切削加工を施すことが困難な場合がある。そこで、より簡易な手法で切削工具や工作物の振動を解析可能な技術が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の第1の形態によれば、切削工具または工作物を解析対象物とする振動解析方法が提供される。この振動解析方法は、定速で回転している前記切削工具によって前記工作物に切削加工を施しながら前記切削工具から前記工作物に加えられる切削力および前記解析対象物の振動を計測することによって、前記切削力が時系列的に表された切削力データおよび前記振動が時系列的に表された振動データを取得する計測工程と、前記切削力データから前記切削工具の刃が前記工作物に接触してから次に前記切削工具の刃が前記工作物に接触するまでの時間間隔に対応する長さの区間のデータである切削力部分データを抽出するとともに、前記振動データから前記区間のデータである振動部分データを抽出する抽出工程と、前記切削力部分データの端部および前記振動部分データの端部に付加データを付加する付加工程と、前記付加データを含んだ前記切削力部分データおよび前記振動部分データを用いた周波数解析によって、前記解析対象物の振動特性を導出する解析工程と、を有する。前記付加データは、前記周波数解析の時間窓長を拡張するためのデータであり、時系列に沿って連続して並んだ複数のゼロの値で構成されている。
この形態の振動解析方法によれば、定速で回転している切削工具によって工作物に切削加工を施しながら切削力データおよび振動データを取得するので、工作物の形状によって切削力データおよび振動データの取得が制限されることを抑制できる。さらに、切削力データおよび振動データから切削工具の刃が工作物に接触してから次に切削工具の刃が工作物に接触するまでの時間間隔に対応する長さの区間のデータを抽出し、かつ、付加データによって時間窓長を拡張した上で周波数解析を実行するので、周波数解析によって導出される振動特性の精度を高めることができる。
(2)上記形態の振動解析方法において、前記計測工程では、さらに、前記切削工具が1回転するごとにパルス信号を出力する回転検出器によって前記切削工具の回転周期を計測し、前記抽出工程では、前記回転周期を前記切削工具の刃数で除すことによって前記時間間隔を算出した後、前記パルス信号が出力されたタイミングから前記回転周期よりも短い予め定められた長さの時間が経過したタイミングを前記区間の始点とし、かつ、前記始点から前記時間間隔と同じ長さの時間が経過したタイミングを前記区間の終点として、前記切削力部分データおよび前記振動部分データを抽出してもよい。
この形態の振動解析方法によれば、切削工具の回転速度ムラに影響されることなく、正確に上記時間間隔に対応する長さのデータを抽出できる。
(3)上記形態の振動解析方法において、前記計測工程では、さらに、前記切削工具が1回転するごとにパルス信号を出力する回転検出器によって前記切削工具の回転周期を計測し、前記抽出工程では、前記回転周期を前記切削工具の刃数で除すことによって前記時間間隔を算出した後、前記パルス信号が出力されたタイミングを前記区間の始点とし、かつ、前記始点から前記時間間隔と同じ長さの時間が経過したタイミングを前記区間の終点として、前記切削力部分データおよび前記振動部分データを抽出してもよい。
この形態の振動解析方法によれば、切削工具の回転速度ムラに影響されることなく、正確に上記時間間隔に対応する長さのデータを抽出できる。
(4)上記形態の振動解析方法において、前記付加工程では、前記付加データを含んだ前記切削力部分データのデータ数が2のべき乗になり、かつ、前記付加データを含んだ前記振動部分データのデータ数が2のべき乗になるように前記付加データを付加し、前記解析工程では、前記付加データを含んだ前記切削力部分データおよび前記振動部分データに対して高速フーリエ変換を実行して、前記振動特性を導出してもよい。
この形態の振動解析方法によれば、付加データを含んだ切削力部分データおよび付加データを含んだ振動部分データを時間領域のデータから周波数領域のデータに変換する時間を短期化できる。
(5)上記形態の振動解析方法において、前記計測工程では、前記切削工具から前記工作物に前記切削力が加えられる加工点とは異なる位置に配置されたセンサによって前記切削力を計測し、前記解析工程では、予め導出された前記加工点と前記センサとの間の力の伝達特性を用いて、前記センサによって計測された前記切削力を前記加工点での前記切削力に補正した上で、前記振動特性を導出してもよい。
この形態の振動解析方法によれば、センサによって計測された切削力を加工点での切削力に補正した上で振動特性を導出するので、振動特性の精度をさらに高めることができる。
(6)本開示の第2の形態によれば、振動解析装置が提供される。この振動解析装置は、切削工具または工作物を解析対象物として前記解析対象物の振動を解析する振動解析部を備える。前記振動解析部は、定速で回転している前記切削工具によって前記工作物に切削加工を施しながら前記切削工具から前記工作物に加えられる切削力および前記解析対象物の前記振動を計測することによって得られる、前記切削力が時系列的に表された切削力データおよび前記振動が時系列的に表された振動データを取得する取得処理と、前記切削力データから前記切削工具の刃が前記工作物に接触してから次に前記切削工具の刃が前記工作物に接触するまでの時間間隔に対応する長さの区間のデータである切削力部分データを抽出するとともに、前記振動データから前記区間のデータである振動部分データを抽出する抽出処理と、前記切削力部分データの端部および前記振動部分データの端部に付加データを付加する付加処理と、前記付加データを含んだ前記切削力部分データおよび前記振動部分データを用いた周波数解析によって、前記解析対象物の振動特性を導出する解析処理と、を実行し、前記付加データは、前記周波数解析の時間窓長を拡張するためのデータであり、時系列に沿って連続して並んだ複数のゼロの値で構成されている。
この形態の振動解析装置によれば、定速で回転している切削工具によって工作物に切削加工を施すことにより得られる切削力データおよび振動データを取得するので、工作物の形状によって切削力データおよび振動データの取得が制限されることを抑制できる。さらに、切削力データおよび振動データから切削工具の刃が工作物に接触してから次に切削工具の刃が工作物に接触するまでの時間間隔に対応する長さの区間のデータを抽出し、かつ、付加データによって時間窓長を拡張した上で周波数解析を実行するので、周波数解析によって導出される振動特性の精度を高めることができる。
本開示は、振動解析方法や振動解析装置以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、安定限界線図作成方法、安定限界線図作成装置等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態の工作機械の概略構成を示す斜視図。
【
図3】第1実施形態の安定限界線図作成方法を示すフローチャート。
【
図4】第1実施形態の切削加工中に計測されるデータを示す説明図。
【
図6】第1実施形態のコンプライアンスデータを示す説明図。
【
図7】比較例のコンプライアンスデータを示す説明図。
【
図8】第2実施形態の工作機械の概略構成を示す斜視図。
【
図9】第2実施形態の安定限界線図作成方法を示すフローチャート。
【
図10】切削力が補正される様子を模式的に示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
図1は、第1実施形態における振動解析方法に用いられる工作機械11の概略構成を示す斜視図である。本実施形態では、工作機械11は、横型マシニングセンタとして構成されている。工作機械11は、互いに直交する3つの座標軸であるX,Y,Z軸を有している。本実施形態では、X軸は工作機械11の左右方向に沿った座標軸であり、Y軸は工作機械11の上下方向に沿った座標軸であり、Z軸は工作機械11の前後方向に沿った座標軸である。
【0009】
工作機械11は、ベッド20と、テーブル30と、コラム40と、主軸装置50と、切削力センサ60と、振動センサ70と、回転検出器80と、制御装置90とを備えている。テーブル30およびコラム40は、ベッド20に支持されている。テーブル30の上面には、工作物WKが固定される。テーブル30は、ベッド20にガイドされながらX軸に沿って移動する。コラム40は、ベッド20にガイドされながらZ軸に沿って移動する。主軸装置50は、コラム40に支持されており、コラム40にガイドされながらY軸に沿って移動する。主軸装置50は、主軸55を有している。主軸55には、工作物WKを加工するための切削工具TLが装着される。主軸装置50は、Z軸に平行な回転軸を中心にして、主軸55および切削工具TLを回転させる。
【0010】
切削工具TLは、中心軸を中心とする略円柱形状を有しており、外周側面部に少なくとも1つの刃を有している。本実施形態では、切削工具TLは、エンドミルであり、外周側面部に等間隔で配置された2つの刃を有している。なお、他の実施形態では、切削工具TLの刃の数は、1つでもよいし、3つ以上でもよい。切削工具TLは、エンドミルではなく、例えば、フライス工具でもよい。
【0011】
切削力センサ60は、主軸55に設けられている。切削力センサ60は、切削工具TLから工作物WKに加えられる切削力を検出する。切削力センサ60によって検出された切削力に関する情報は、制御装置90に送信される。
【0012】
振動センサ70は、工作物WKに固定されている。振動センサ70は、工作物WKの振動の大きさを表す物理量を検出する。振動の大きさを表す物理量には、加速度、速度、および、変位が含まれる。本実施形態では、振動センサ70は、工作物WKの振動の大きさを表す物理量として、工作物WKの加速度を検出する。振動センサ70によって検出された加速度に関する情報は、制御装置90に送信される。なお、他の実施形態では、振動センサ70は、工作物WKの振動の大きさを表す物理量として、工作物WKの加速度ではなく、工作物WKの速度、あるいは、工作物WKの変位を検出してもよい。
【0013】
回転検出器80は、主軸装置50に設けられている。回転検出器80は、主軸55の回転角度を検出する。本実施形態では、回転検出器80は、主軸55が1回転するごとに、パルス信号を出力する。回転検出器80から出力されたパルス信号は、制御装置90に送信される。
【0014】
制御装置90は、CPUと、メモリと、入出力インターフェースとを備えたコンピュータとして構成されている。本実施形態では、制御装置90は、NC制御部91と、振動解析部92とを有している。NC制御部91は、工作機械11の各部を制御することによって、切削工具TLを回転させて工作物WKに対する切削加工を実行する。振動解析部92は、工作物WKを解析対象物とする振動解析を実行する。本実施形態では、振動解析部92は、振動解析の結果を用いて、安定限界線図を作成する。なお、制御装置90のことを振動解析装置と呼ぶことがある。
【0015】
図2は、安定限界線図の一例を示す説明図である。安定限界線図の横軸は、主軸55の回転速度、換言すれば、切削工具TLの回転速度を表しており、安定限界線図の縦軸は、工作物WKに対する切削工具TLのZ軸方向の切り込み深さを表している。安定限界線図には、安定領域と不安定領域との境界線である安定限界線が表されている。安定限界線に対して低切り込み深さ側の安定領域では、切削加工中のびびり振動の発生が抑制され、安定限界線に対して高切り込み深さ側の不安定領域では、切削加工中にびびり振動が発生する。
【0016】
安定限界線図は、主軸55に装着された切削工具TL、あるいは、テーブル30に固定された工作物WKを解析対象物として、解析対象物の振動を解析し、解析対象物の振動特性を導出することによって作成可能になる。例えば、非切削加工時に行われるハンマリング試験によって、解析対象物の振動特性を導出することができる。しかしながら、切削加工時と非切削加工時とで解析対象物の振動特性が異なるので、ハンマリング試験の試験結果に基づいて作成された安定限界線図では、びびり振動を抑制できない場合がある。そこで、本実施形態では、後述するように、切削加工時の解析対象物の振動特性を導出して安定限界線図を作成する。
【0017】
図3は、本実施形態における振動解析方法を含む安定限界線図作成方法の内容を示すフローチャートである。
図4は、切削加工中に計測されるデータFD,VDを示す説明図である。
図5は、付加データAFD,AVDを示す説明図である。
図6は、コンプライアンスデータCDを示す説明図である。本実施形態では、安定限界線図作成方法は、制御装置90によって実行される。この方法は、例えば、制御装置90に対して所定の開始操作が行われた場合に、制御装置90によって開始される。
【0018】
まず、
図3のステップS110にて、制御装置90のNC制御部91は、切削工具TLを定速で回転させて、定速で回転している切削工具TLによって工作物WKに切削加工を施す。制御装置90の振動解析部92は、切削加工中に切削力センサ60を用いて切削工具TLから工作物WKに加えられる切削力を計測することによって、切削力が時系列的に表された切削力データFDを取得し、かつ、切削加工中に振動センサ70を用いて工作物WKの振動の大きさを表す物理量を計測することによって、工作物WKの振動の大きさを表す物理量が時系列的に表された振動データVDを取得する。本実施形態では、振動解析部92は、切削力データFDおよび振動データVDの他に、切削加工中に回転検出器80から出力されるパルス信号PSを取得する。
図4には、切削力データFD、振動データVD、および、パルス信号PSの一例が表されている。本実施形態では、振動データVDには、工作物WKの振動を表す物理量として、工作物WKの加速度が表されている。振動解析部92は、所定のサンプリング周波数で切削力データFDおよび振動データVDを取得する。なお、他の実施形態では、振動データVDには、工作物WKの振動の大きさを表す物理量として、工作物WKの加速度ではなく、例えば、工作物WKの変位が表されてもよい。
【0019】
図3のステップS120にて、振動解析部92は、切削力データFDから1刃分のデータを抽出し、かつ、振動データVDから1刃分のデータを抽出する。1刃分のデータとは、切削工具TLの刃が工作物WKに接触してから次に切削工具TLの刃が工作物WKに接触するまでの時間間隔に対応する長さの区間のデータのことを意味する。切削工具TLの刃が工作物WKに接触してから次に切削工具TLの刃が工作物WKに接触するまでの時間間隔とは、例えば、切削工具TLが2つの刃を有する場合には、2つの刃のうちの一方が工作物WKに接触してから2つの刃のうちの他方が工作物WKに接触するまでの時間間隔のことを意味する。以下の説明では、切削力データFDから抽出されたデータのことを切削力部分データPFDと呼び、振動データVDから抽出されたデータのことを振動部分データPVDと呼ぶ。切削工具TLの刃が工作物WKに接触してから次に切削工具TLの刃が工作物WKに接触するまでの時間間隔のことを切れ刃通過周期と呼ぶ。
【0020】
本実施形態では、
図4に示すように、振動解析部92は、パルス信号PSの立ち上がる時間間隔から切削工具TLの回転周期T1を導出し、上述したサンプリング周波数を回転周期T1に乗じることによって、切削工具TLの1回転周期あたりのデータ数を算出する。振動解析部92は、1回転周期あたりのデータ数を切削工具TLの刃数で除すことによって、切れ刃通過周期T2あたりのデータ数を算出する。
図4に示した例では、切削工具TLの刃数は2つであり、回転検出器80がパルス信号PSを出力するときの切削工具TLの回転角度と切削工具TLの刃が工作物WKに切り込むときの切削工具TLの回転角度とが異なる。回転検出器80がパルス信号PSを出力するときの切削工具TLの回転角度と切削工具TLの刃が工作物WKに切り込むときの切削工具TLの回転角度とが異なる場合、振動解析部92は、パルス信号PSの立ち上がるタイミングから切削工具TLの回転周期T1よりも短い所定時間が経過したタイミングを始点とし、かつ、始点から切れ刃通過周期T2と同じ長さの時間が経過したタイミングを終点とする区間のデータを1刃分のデータとして、切削力データFDから切削力部分データPFDを抽出し、かつ、振動データVDから振動部分データPVDを抽出する。パルス信号PSの立ち上がるタイミングから上記始点までの時間は、回転検出器80がパルス信号PSを出力するときの切削工具TLの回転角度と切削工具TLの刃が工作物WKに切り込むときの切削工具TLの回転角度との差や、切削工具TLの回転速度に応じて決定できる。切削力部分データPFDのデータ数および振動部分データPVDのデータ数は、切れ刃通過周期T2あたりの切削力データFDのデータ数および振動データVDのデータ数と同じである。なお、回転検出器80がパルス信号PSを出力するときの切削工具TLの回転角度と切削工具TLの刃が工作物WKに切り込むときの切削工具TLの回転角度とが同じ場合には、振動解析部92は、パルス信号PSの立ち上がるタイミングを始点とし、かつ、始点から切れ刃通過周期T2と同じ長さの時間が経過したタイミングを終点とする区間のデータを1刃分のデータとして、切削力データFDから切削力部分データPFDを抽出し、かつ、振動データVDから振動部分データPVDを抽出する。
【0021】
図3のステップS130にて、振動解析部92は、切削力部分データPFDに切削力付加データAFDを付加し、かつ、振動部分データPVDに振動付加データAVDを付加する。切削力付加データAFDおよび振動付加データAVDは、後述するフーリエ変換の時間窓長を拡張するためのデータである。切削力付加データAFDおよび振動付加データAVDは、時系列に沿って連続して並んだ複数の「0」の値で構成されている。
図5に示すように、本実施形態では、振動解析部92は、切削力部分データPFDの後端に切削力付加データAFDを付加し、かつ、振動部分データPVDの後端に振動付加データAVDを付加する。なお、他の実施形態では、振動解析部92は、切削力部分データPFDの前端に切削力付加データAFDを付加し、かつ、振動部分データPVDの前端に振動付加データAVDを付加してもよい。振動解析部92は、切削力部分データPFDの両端に切削力付加データAFDを付加し、かつ、振動部分データPVDの両端に振動付加データAVDを付加してもよい。
【0022】
振動解析部92は、切削力部分データPFDのデータ数と切削力付加データAFDのデータ数との合計と、振動部分データPVDのデータ数と振動付加データAVDのデータ数との合計とが同じになるように、切削力部分データPFDに切削力付加データAFDを付加し、振動部分データPVDに振動付加データAVDを付加する。本実施形態では、振動解析部92は、切削力部分データPFDのデータ数と切削力付加データAFDのデータ数との合計が2のべき乗になるように、切削力部分データPFDに切削力付加データAFDを付加し、振動部分データPVDのデータ数と振動付加データAVDのデータ数との合計が2のべき乗になるように、振動部分データPVDに振動付加データAVDを付加する。
【0023】
図3のステップS140にて、振動解析部92は、切削力付加データAFDを付加された切削力部分データPFD、および、振動付加データAVDを付加された振動部分データPVDに対してフーリエ変換を実行することによって、切削力部分データPFDおよび振動部分データPVDを時間領域のデータから周波数領域のデータに変換する。本実施形態では、振動解析部92は、高速フーリエ変換によって、切削力部分データPFDおよび振動部分データPVDを時間領域のデータから周波数領域のデータに変換する。
【0024】
ステップS150にて、振動解析部92は、周波数領域のデータに変換された切削力部分データPFDおよび振動部分データPVDを用いて、周波数と工作物WKの機械的コンプライアンスとの関係が表されたコンプライアンスデータCDを生成する。具体的には、振動解析部92は、振動部分データPVDに表された周波数ごとに、振動部分データPVDに表された加速度を(2π×周波数)2で除すことによって周波数と変位との関係を算出し、周波数ごとに変位を切削力で除すことによって周波数と機械的コンプライアンスを算出することにより、コンプライアンスデータCDを生成する。
【0025】
図3のステップS160にて、振動解析部92は、コンプライアンスデータCDを用いて工作物WKの振動特性を取得する。振動特性には、解析対象物の質量M、減衰係数C、および、ばね定数Kが含まれる。一般に、びびり振動は、固有振動数、すなわち、機械的コンプライアンスの高い周波数で生じることが知られている。そこで、本実施形態では、振動解析部92は、びびり振動の生じる周波数として、機械的コンプライアンスの最大となる周波数を特定し、特定された周波数での機械的コンプライアンスのピーク形状に適合する伝達関数G(s)=1/(M×s
2+C×s+K)をカーブフィッティング処理によって導出することによって、解析対象物の質量M、減衰係数C、および、ばね定数Kを取得する。なお、コンプライアンスデータCDに表された機械的コンプライアンスが複数のピーク形状を有し、各ピーク値の差が小さいことに起因していずれの周波数でびびり振動が生じるか判断が難しい場合には、振動解析部92は、ピーク形状ごとに、振動特性を導出してもよい。
【0026】
ステップS170にて、質量M、減衰係数C、および、ばね定数Kに加え、切削工具TLの工具径や切り込み量などの加工条件を用いて、安定限界線図を作成する。振動解析部92は、例えば、2010年3月4日、日本機械学会No.10-24講習会-生産加工基礎講座-実習で学ぼう「切削加工、びびり振動の基礎知識」、講習会テキスト、pp.1-12に示されるようなびびり安定限界線図の求め方に従って安定限界線図を作成することができる。
【0027】
安定限界線図が作成された後、この方法は終了される。この方法によって作成された安定限界線図は、例えば、制御装置90に接続された図示されていない表示装置に表示される。なお、ステップS110のことを計測工程と呼ぶことがあり、ステップS110のうちの振動解析部92が切削力データFDおよび振動データVDを取得する部分のことを取得処理と呼ぶことがある。ステップS120のことを抽出工程、あるいは、抽出処理と呼ぶことがある。ステップS130のことを付加工程、あるいは、付加処理と呼ぶことがある。ステップS140からステップS160までの工程のことを解析工程、あるいは、解析処理と呼ぶことがある。ステップS170のことを安定限界線図作成工程、あるいは、安定限界線図作成処理と呼ぶことがある。
【0028】
図7は、比較例におけるコンプライアンスデータCDbを示す説明図である。
図7には、比較例として、切削力付加データAFDおよび振動付加データAVDを付加せずにフーリエ変換を実行した場合のコンプライアンスデータCDbが実線で、
図6に示したコンプライアンスデータCDが破線で表されている。比較例のコンプライアンスデータCDbの周波数分解能は、本実施形態のコンプライアンスデータCDの周波数分解能よりも低い。そのため、比較例のコンプライアンスデータCDbでは、本実施形態のコンプライアンスデータCDに比べて、機械的コンプライアンスの精度が低下して、安定限界線図の精度が低下する。必要な周波数分解能に応じて、切削力付加データAFDのデータ数、および、振動付加データAVDのデータ数を決定することが好ましい。
【0029】
以上で説明した本実施形態の振動解析方法では、定速で回転している切削工具TLによって工作物WKに切削加工を施しながら切削力データFDおよび振動データVDを取得するので、工作物WKの形状によって切削力データFDおよび振動データVDの取得が制限されることを抑制できる。さらに、本実施形態では、切削力データFDおよび振動データVDから切れ刃通過周期T2に対応する長さの区間のデータPFD,PVDを抽出し、かつ、各付加データAFD,AVDによってフーリエ変換の時間窓長を拡張した上で周波数解析を実行するので、周波数解析によって取得される振動特性の精度を高めることができる。なお、切削力データFDおよび振動データVDから切れ刃通過周期T2に対応する長さの区間のデータPFD,PVDを抽出せずに、切削力データFDおよび振動データVDからそのまま周波数解析に用いる形態では、切れ刃通過周期T2の逆数である切れ刃通過周波数および切れ刃通過周波数の倍数成分以外の切削力が入力されないため、振動特性を高精度に取得するためには、切れ刃通過周波数を変えた加工を行う必要がある。これに対して、本実施形態では、切削力データFDおよび振動データVDから切れ刃通過周期T2に対応する長さのデータPFD,PVDを抽出している。ここで抽出したデータPFD,PVDには、切削工具TLの刃と工作物WKとの接触が1回含まれており、切削工具TLの刃で工作物WKをインパルス加振している状態を表している。このデータPFD,PVDを周波数解析すると、切れ刃通過周波数以外の加振力も含まれるため、高精度な振動特性を1回の加工で取得することができる。
【0030】
また、本実施形態では、回転検出器80から出力されたパルス信号PSを用いて切削工具TLの回転周期T1を取得し、回転周期T1を切削工具TLの刃数で除すことによって切れ刃通過周期T2を算出した後、パルス信号PSが出力されたタイミングから回転周期T1よりも短い予め定められた長さの時間が経過したタイミングを区間の始点とし、かつ、始点から切れ刃通過周期T2と同じ長さの時間が経過したタイミングを区間の終点として、切削力部分データPFDおよび振動部分データPVDを抽出する。そのため、切削工具TLの回転速度ムラに影響されることなく、正確に切れ刃通過周期T2に対応する長さのデータを抽出できる。
【0031】
また、本実施形態では、切削力部分データPFDのデータ数と切削力付加データAFDのデータ数との合計が2のべき乗になり、かつ、振動部分データPVDのデータ数と振動付加データAVDのデータ数との合計が2のべき乗になるように各付加データAFD,AVDが付加された後、切削力部分データPFDおよび振動部分データPVDに対して高速フーリエ変換を実行する。そのため、切削力部分データPFDおよび振動部分データPVDを時間領域のデータから周波数領域のデータに変換する時間を短期化できる。
【0032】
B.第2実施形態:
図8は、第2実施形態における振動解析方法に用いられる工作機械12の概略構成を示す斜視図である。本実施形態では、切削工具TLから工作物WKに切削力が加えられる加工点と切削力センサ60との間の力の伝達特性が表された伝達特性データを記憶する伝達特性記憶部93が工作機械12の制御装置190に設けられていること、および、制御装置190の振動解析部92が伝達特性記憶部93に記憶された伝達特性データを用いて、切削力センサ60によって計測された切削力を加工点での切削力に補正した上で、工作物WKの機械的コンプライアンスを算出することが第1実施形態とは異なる。その他の構成については、特に説明しない限り、第1実施形態と同じである。
【0033】
本実施形態では、制御装置190には、上述したとおり、加工点と切削力センサ60との間の力の伝達特性が表された伝達特性データを記憶する伝達特性記憶部93が設けられている。伝達特性データを取得する方法については後述する。さらに、制御装置190には、インパクトハンマ100が接続されている。本実施形態では、インパクトハンマ100は、切削工具TLの先端部の加工点を加振するために用いられる。インパクトハンマ100には、インパクトハンマ100によって加えられる加振力を検出する加振力センサ105が設けられている。加振力センサ105によって検出された加振力に関する情報は、制御装置190に送信される。
【0034】
図9は、第2実施形態における振動解析方法を含む安定限界線図作成方法の内容を示すフローチャートである。
図10は、切削力センサ60を用いて計測された切削力が加工点での切削力に補正される様子を模式的に示す説明図である。
図9に示すように、本実施形態の安定限界線図作成方法では、まず、ステップS200にて、振動解析部92は、加工点と切削力センサ60との間の力の伝達特性を導出して伝達特性データを生成し、伝達特性データを伝達特性記憶部93に記憶させる。
【0035】
具体的には、まず、インパクトハンマ100によって切削工具TLの先端部の加工点に加振力が付与される。本実施形態では、インパクトハンマ100による加工点への加振力の付与は作業者によって行われる。振動解析部92は、加振力センサ105を用いてインパクトハンマ100から加工点に付与された加振力を計測するとともに切削力センサ60を用いて上記加振力を計測することによって、加振力センサ105を用いて計測された加振力が時系列的に表された第1加振力データと、切削力センサ60を用いて計測された加振力が時系列的に表された第2加振力データとを取得する。次に、振動解析部92は、フーリエ変換によって第1加振力データおよび第2加振力データを時間領域のデータから周波数領域のデータに変換する。振動解析部92は、周波数領域のデータに変換された第1加振力データおよび第2加振力データを用いて、加工点と切削力センサ60との間の力の伝達特性を導出して伝達特性データTDを生成し、伝達特性データTDを伝達特性記憶部93に記憶させる。
図10に示すように、伝達特性データTDには、加工点と切削力センサ60との間の力の伝達特性として、加振力センサ105を用いて計測された加工点での加振力と切削力センサ60を用いて計測された計測点での加振力との比が周波数ごとに表されている。なお、伝達特性データTDの精度を高めるために、第1加振力データおよび第2加振力データの取得、および、加工点での加振力と計測点での加振力との比の算出が複数回行われて、伝達特性データTDには、加工点での加振力と計測点での加振力との比の平均値が周波数ごとに表されてもよい。
【0036】
ステップS210にて、振動解析部92は、切削力データFD、振動データVD、および、パルス信号PSを取得する。ステップS220にて、振動解析部92は、切削力データFDから1刃分のデータを抽出することによって切削力部分データPFDを生成し、振動データVDから1刃分のデータを抽出することによって振動部分データPVDを生成する。ステップS230にて、振動解析部92は、切削力部分データPFDの端部に切削力付加データAFDを付加し、振動部分データPVDの端部に振動付加データAVDを付加する。ステップS240にて、振動解析部92は、切削力付加データAFDを付加された切削力部分データPFD、および、振動付加データAVDを付加された振動部分データPVDに対して高速フーリエ変換を実行することによって、切削力部分データPFDおよび振動部分データPVDを時間領域のデータから周波数領域のデータに変換する。
【0037】
ステップS245にて、振動解析部92は、
図10に示すように、伝達特性記憶部93に記憶された伝達特性データTDを用いて、周波数領域のデータに変換された切削力部分データPFDに表された計測点での切削力を加工点での切削力に補正する。その後、ステップS250にて、振動解析部92は、切削力を補正された切削力部分データPFD、および、振動部分データPVDを用いて、周波数と工作物WKの機械的コンプライアンスとの関係が表されたコンプライアンスデータCDを生成する。ステップS260にて、振動解析部92は、コンプライアンスデータCDを用いて工作物WKの振動特性を取得し、ステップS270にて、振動解析部92は、安定限界線図を作成する。
【0038】
以上で説明した本実施形態の振動解析方法では、切削力センサ60を用いて計測された切削力を加工点での切削力に補正した上で工作物WKの振動特性を導出するので、第1実施形態に比べてさらに高精度に工作物WKの振動特性を導出することができ、ひいては、第1実施形態に比べてさらに高精度に安定限界線図を作成することができる。
【0039】
C.他の実施形態:
(C1)上述した各実施形態の振動解析方法では、工作物WKを解析対象物とする振動解析が実行される。これに対して、切削工具TLを解析対象物とする振動解析が実行されてもよい。この場合、振動データVDには、切削工具TLの振動の大きさを表す物理量が表される。切削工具TLの振動の大きさを表す物理量は、例えば、切削工具TLの加速度である。切削工具TLの加速度は、例えば、レーザドップラ振動計を用いて、切削加工中に非接触で計測できる。
【0040】
(C2)上述した各実施形態の振動解析方法では、ステップS120やステップS220にて、各データPFD,PVDを抽出する区間を決定するための目印として、回転検出器80から出力されるパルス信号PSを用いている。これに対して、各データPFD,PVDを抽出する区間を決定するための目印として、回転検出器80から出力されるパルス信号PSが用いられなくてもよい。例えば、切削力の大きさが所定値を超えたタイミングを区間の始点や終点を決定するための目印としてもよい。
【0041】
(C3)上述した各実施形態の振動解析方法では、ステップS140やステップS240にて、高速フーリエ変換以外の方法で時間領域のデータを周波数領域のデータに変換してもよい。例えば、離散フーリエ変換によって時間領域のデータを周波数領域のデータに変換してもよい。
【0042】
(C4)上述した各実施形態では、工作機械11,12は、横型のマシニングセンタである。これに対して、工作機械11,12は、横型のマシニングセンタでなくてもよい。工作機械11,12は、例えば、立型のマシニングセンタや、NCフライス盤でもよい。
【0043】
(C5)上述した第1実施形態では、工作機械11の制御装置90は、NC制御部91と、振動解析部92とを有している。これに対して、振動解析部92は、制御装置90以外に設けられてもよい。例えば、振動解析部92は、制御装置90とは別のコンピュータ上に設けられてもよい。この場合、振動解析部92は、有線通信または無線通信によって、切削力センサ60を用いて計測された切削力を取得し、振動センサ70を用いて計測された振動の大きさを表す物理量を取得してもよい。
【0044】
(C6)上述した第2実施形態では、工作機械12の制御装置190は、NC制御部91と、振動解析部92と、伝達特性記憶部93とを有している。これに対して、振動解析部92および伝達特性記憶部93は、制御装置190以外に設けられてもよい。例えば、振動解析部92および伝達特性記憶部93は、制御装置190とは別のコンピュータ上に設けられてもよい。この場合、振動解析部92は、有線通信または無線通信によって、加振力センサ105を用いて計測された加振力、切削力センサ60を用いて計測された加振力、切削力センサ60を用いて計測された切削力、および、振動センサ70を用いて計測された振動の大きさを表す物理量を取得してもよい。
【0045】
(C7)上述した第2実施形態では、切削工具TLが装着される主軸55に切削力センサ60が設けられており、伝達特性データTDには、切削工具TLの先端部の加工点にインパクトハンマ100を用いて加振力を付与したときに加振力センサ105を用いて計測された加振力と切削力センサ60を用いて計測された加振力との比が表されている。これに対して、例えば、工作物WKが固定されるテーブル30に切削力センサが設けられ、伝達特性データTDには、工作物WKの加工点にインパクトハンマ100を用いて加振力を付与したときに加振力センサ105を用いて計測された加振力と切削力センサを用いて計測された加振力との比が表されてもよい。
【0046】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0047】
11…工作機械、20…ベッド、30…テーブル、40…コラム、50…主軸装置、55…主軸、60…切削力センサ、70…振動センサ、80…回転検出器、90,190…制御装置、91…NC制御部、92…振動解析部、93…伝達特性記憶部、100…インパクトハンマ、105…加振力センサ、TL…切削工具、WK…工作物