(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023065749
(43)【公開日】2023-05-15
(54)【発明の名称】ヨシ苗の育成方法及び水質浄化方法
(51)【国際特許分類】
A01G 22/00 20180101AFI20230508BHJP
C02F 3/32 20230101ALI20230508BHJP
A01G 7/02 20060101ALI20230508BHJP
A01G 24/12 20180101ALI20230508BHJP
【FI】
A01G22/00
C02F3/32
A01G7/02
A01G24/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021176075
(22)【出願日】2021-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】503179104
【氏名又は名称】有限会社イー・エス・テクノ
(74)【代理人】
【識別番号】100118706
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 陽
(72)【発明者】
【氏名】中島 佳郎
【テーマコード(参考)】
2B022
4D040
【Fターム(参考)】
2B022AA01
2B022AB20
2B022BA02
2B022BB01
2B022DA11
4D040CC02
4D040CC05
(57)【要約】
【課題】富栄養化成分を除去する機能に優れ、一年を通じて優れた富栄養化防止機能を発揮することができるヨシ苗の生育方法及びそれを用いた水質浄化方法を提供する。
【解決手段】本発明のヨシ苗の育成方法は、ヨシが植えられた育成床に二酸化炭素を500mg/L以上 含む水を張って育成することを特徴とする。こうして育成されたヨシ苗は富栄養化成分を除去する機能に優れており、河岸に移植することにより、一年を通じて優れた富栄養化防止機能を発揮することができる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨシが植えられた育成床に二酸化炭素を500mg/L以上含む水を張って育成することを特徴とするヨシ苗の育成方法。
【請求項2】
前記育成床は焼成されていない鋳物由来砂が敷かれている請求項1に記載のヨシ苗の育成方法。
【請求項3】
請求項1又は2のヨシの育成方法によって育成されたヨシ苗を河岸に移植することを特徴とする水質浄化方法。
【請求項4】
前記河岸は潮汐によって水に浸かったり、干上がったりする場所であることを特徴とする請求項3の水質浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨシを利用して河川や湖沼に含まれる富栄養化成分を除去するためのヨシ苗の生育方法及び水質浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イネ科ヨシ属の多年草であるヨシは、河川の下流域から汽水域上部、あるいは干潟の陸側に生育し、広大なヨシ原を作る。ヨシは河川中の富栄養化成分を吸収して生育する。したがって、ヨシは河川や干潟の富栄養化を防ぐための重要な役割を果たしているといえる。本発明者はヨシの富栄養化防止機能に着目し、NO3等の富栄養化成分を効果的に除去することができる水質浄化装置及び水質浄化方法を開発している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来のヨシによる水質浄化方法ではNO3等の富栄養化成分をさらに効果的に除去することが求められていた。また、ヨシは春によく成長するが、夏になると成長が遅くなり、富栄養化防止の機能が低下するという問題があった。
【0005】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、NO3等の富栄養化成分を除去する機能に優れ、春~夏まで優れた富栄養化防止機能を発揮することができるヨシ苗の生育方法及びそれを用いた水質浄化方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、ヨシが生育する場所の水質について鋭意研究を行った。その結果、二酸化炭素を含む水によって育成したヨシ苗を移植することにより、富栄養化防止機能が飛躍的に高められるのみならず、本来の成長期である春以外に夏においても成長速度が速くなり、春~夏まで富栄養化防止機能が発揮されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明のヨシ苗の育成方法は、ヨシが植えられた育成床に二酸化炭素を500mg/L以上含む水を張って育成することを特徴とする。この方法で育成されたヨシ苗は、富栄養化防止機能が飛躍的に高められる。さらには、本来の成長期である春以外に夏においても成長速度が速く、春から夏にかけて富栄養化防止機能が発揮できる。
【0008】
前記育成床は焼成されていない鋳物由来砂が敷かれていることが好ましい。発明者の試験結果によれば、焼成されていない鋳物由来砂は硝酸化バクテリアコロニーの繁殖に適した環境を提供し、水質浄化機能がより進むこととなる。
【0009】
本発明のヨシ苗の育成方法によって育成されたヨシ苗を河岸に移植することによって湖沼や河川の水質を一年を通じて浄化することができる。この場合において、河岸は潮汐によって水に浸かったり、干上がったりする場所であることが好ましい。こうであれば、潮汐によって何らの動力を用いずに河川水を浄化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1において用いた育成床の模式図である。
【
図4】NO
3の浄化試験で用いた浄化装置10の模式断面図である。
【
図5】ヨシ1本当たりの浄化率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施形態)
本発明の水質浄化方法に用いるヨシは、イネ科ヨシ属の植物である。イネ科ヨシ属の植物にはいろいろな品種が知られているが、特に限定されることはなく、いずれの品種であっても用いることができる。
【0012】
本発明のヨシ苗の育成方法では、ヨシが植えられた育成床に二酸化炭素を500mg/L以上含む水を張って育成する。こうして育成されたヨシ苗は、富栄養化防止機能が飛躍的に高められる。また、本来の成長期である春以外においても成長速度が速くなり、一年を通じて富栄養化防止機能が発揮できる。
【0013】
育成床には焼成処理をしていない鋳物由来砂を用いることが好ましい。焼成されていない鋳物由来砂は、硝酸化バクテリアコロニーの繁殖に適した環境を提供する。このため、河川水や湖沼水中のアンモニア成分を硝酸化バクテリアコロニーによって効率的に硝酸イオンに変化させる。ヨシはアンモニアよりも硝酸イオンの方をよく吸収するため、水質浄化機能がより進むこととなるからである。
【0014】
利用される鋳物由来砂については、例えば、鉄鋳物、アルミ鋳物、銅合金鋳物等に用いられた鋳物由来砂を用いることができる。この中でも鉄鋳物が特に好ましい。アルミ鋳物や銅合金鋳物では、アルミや銅合金が吸着材に混入するおそれがある。また、銅合金には鉛等の有害な重金属を含むこともあるからである。
また、鋳物砂型には、ケイ砂、粘土、デンプン、植物性油、炭素等を含む生砂型や、ケイ砂、フェノール樹脂やフラン樹脂等の有機バインダー樹脂を含む有機砂型があるが、そのどちらも原料として用いることができる。
【0015】
<ヨシ苗の移植方法>
ヨシ苗の川岸への移植においては、潮汐により水に浸かったり、干上がったりする河川護岸デッキ上に鋳物由来砂を積層させて形成することが望ましい。必要とする幅(例えば1m)にブロック(鋳物由来砂を利用した建築用コンクリートブロックの使用が生物膜生成時によい)を並べて区画形成し、砂が流されないようにすることが好ましい。鋳物由来砂の厚さは圧密後で10~30cmとなるようにするのが好ましく、通常は20cm程度とする。ヨシは泥中で下方にまっすぐ50~60cmに茎が成長する性質を有するため、鋳物由来砂を50~60cmを超える厚さに積層させてもよい。あるいは、コンクリート上に積層した鋳物由来砂において、ヨシの茎を横方向に縦横無尽に成長させることもできる(発明者の試験結果によれば、ヨシの成長には砂圧密厚さ10cm以上であれば、茎を成長させることができる)。したがって、ヨシの育成と、育成床の形成に要する経費とを勘案し、コンクリート上のヨシ育成は10cm以上30cm以下の砂圧密層であることが好ましい。この程度の砂圧密層であれば、コンクリート上でも厚さの薄い砂干潟にてヨシが数m以上に成長でき、効率的に水質浄化することができる。
【0016】
<ヨシ苗の移植時期>
ヨシ苗の移植時期は3月中旬~4月中旬が好ましい。ヨシ苗は4月頃の1カ月で約1m成長する。そのため余り大きく成長しないうちに越冬したヨシ茎の芽の20~30cm径の大きな株茎を砂ごと移植することが好ましい。このようにすればヨシは横方向に茎を成長させ、多くの芽を発芽させヨシが平面に均等に成長する。
【0017】
以下、本発明をさらに具体化した実施例について、比較例と比較しつつ説明する。
(実施例1)
ヨシ苗の育成床は次のようにして作製した。
図1に示すように、市販のペットボトル(容量2L)の上部を切り落として有底円筒(10×8.5×22cm)としたものを育成容器1とした。この育成容器1に、焼成していない鉄鋳物砂由来の廃鋳物砂2を底から7~8cmの高さまで投入し、そこへ15~20cmに成長したヨシ苗3を6月21日に移植した(n数=3)。そして二酸化炭素を500mg/L溶解した炭酸ガス水溶液4を250ml加え、その後、同じ濃度の炭酸ガス水溶液4を一日1回50mlづつ供給した。
(比較例1)
比較例1では、実施例1と同様の育成床を用い、ただし炭酸ガス水溶液4の代わりに、河川水を用いて育成を行った。その他は実施例1と同様であり、説明を省略する。
(比較例2)
比較例2では、ケイ砂の多い山砂(成分表を表1に示す)を敷いた育成床で生育したヨシ苗を用いた。その他は比較例1と同様であり、説明を省略する。
【表1】
【0018】
図2に実施例1のヨシ苗の成長記録を示す。また、
図3に比較例1のヨシ苗の成長記録を示す。これらの図から、実施例1のヨシ苗は成長期である春を過ぎているにもかかわらず、ヨシは順調に成長を続け、6月21日に17~20cmであったのが、7月21日には34~44cmとなった。これに対して比較例1のヨシ苗の成長は、背丈があまり伸びず6月21日に18~21cmであったのが、7月4日には28cmとなった。さらに、実施例1のヨシ苗は成長期である春を過ぎているにもかかわらず順調に成長を続け、8月9日には高さが2.4~2.5倍となった。
【0019】
<NO
3の浄化試験>
実施例1、比較例1及び比較例2のヨシ苗を用いてNO
3の浄化試験を行った。浄化試験は
図4に示す浄化装置10を用いて行った。この浄化装置10は有底容器状の直方体形状をなし、井桁状の基礎11の上に園芸用のろ過布12を敷き、その上に焼成していない鉄鋳物砂由来の廃鋳物砂13が7~8cmの厚さで敷かれている。浄化装置10の端部上端には流入管14が設けられており、反対側の端部下端には流出管15が設けられている。廃鋳物砂13には15~20cmに成長したヨシ苗16が等間隔で移植されている(実施例1では3本、比較例1、2では各15本)。流入管14からは所定の濃度のNO
3イオンが含まれた水が供給され、廃鋳物砂13の上に水層17を形成しつつ、廃鋳物砂13によってろ過されながら、徐々に流出管15から流出するようになっている。なお、試験においては、流出管15からの流量が2~5L/hrとなるように、流入管14から流入する河川水の流量を調製した。
【0020】
流出管15から流出する水の中に含まれるNO3イオンの濃度を(株)共立理化学研究所社製のλ-9000を用いてナフチルエチレンジアミン法によって測定した。そして、流入管14から流入する水のNO3イオンの濃度の減少割合を浄化率とし(式(1)参照)、この浄化率をヨシを植えた本数で除してヨシ1本当たりの浄化率を求めた。
【0021】
【0022】
結果を
図5に示す。この図から、実施例1のヨシは比較例1及び比較例2のヨシと比較して、NO
3イオンの濃度を顕著に減少させることが分かった。
【0023】
この発明は上記発明の実施の態様及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。