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特開2023-65774地上子の応動距離計測方法および応動距離の管理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023065774
(43)【公開日】2023-05-15
(54)【発明の名称】地上子の応動距離計測方法および応動距離の管理方法
(51)【国際特許分類】
   B61L 3/12 20060101AFI20230508BHJP
   B61L 27/00 20220101ALI20230508BHJP
【FI】
B61L3/12 Z
B61L27/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021176115
(22)【出願日】2021-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷 雅信
【テーマコード(参考)】
5H161
【Fターム(参考)】
5H161AA01
5H161BB02
5H161BB06
5H161BB20
5H161CC13
5H161CC20
5H161DD23
5H161FF05
5H161FF07
5H161JJ01
5H161JJ40
(57)【要約】
【課題】多くの人手と時間を要することなく定位置を検知するための情報信号を送信可能な地上子の応動距離の計測値を得ることができる応動距離計測方法を提供する。
【解決手段】車両速度情報信号をよび地上子からの信号の受信に関する情報信号を複数の車両で複数日にわたって所定の時間間隔で取得して記憶し、記憶された情報の中から2回の実測が行われた地上子の受信に関する情報信号をよび地上子からの信号を受信している間の車両速度情報信号を抽出し、抽出した情報に基づいて地上子の応動距離を算出し、算出された応動距離に基づいて所定期間における代表値を決定し、決定された代表値を2回の実測の期間にわたって蓄積または累積し、2回の実測の値がほぼ同じである場合にその実測値と蓄積または累積された代表値とに基づいて代表値と実測値の近似式を決定し、決定した近似式を用いて応動距離を算出するようにした。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両に搭載された車両速度検出手段により取得した車両速度情報信号をよび軌道上の地上子からの信号を受信する信号受信手段により取得した前記地上子からの信号に基づいて、前記地上子の通信範囲に対応する応動距離を計測する地上子の応動距離計測方法であって、
前記車両速度検出手段および前記信号受信手段により車両速度情報信号をよび前記地上子からの信号の受信に関する情報信号を複数の車両で複数日にわたって所定の時間間隔で取得し記憶する第1工程と、
前記第1工程により記憶された情報の中から、2回の実測が行われた地上子の受信に関する情報信号をよび前記信号受信手段が前記地上子からの信号を受信している間の車両速度情報信号を抽出する第2工程と、
前記第2工程により抽出した情報に基づいて、前記地上子からの信号を受信している間に車両が移動した距離を対応する地上子の応動距離として算出する第3工程と、
前記第3工程により算出された前記応動距離に基づいて所定期間における代表値を決定する第4工程と、
前記第4工程により決定された代表値を前記2回の実測の期間にわたって蓄積または累積する第5工程と、
前記2回の実測の値がほぼ同じである場合にその実測値と前記第5工程で蓄積または累積された代表値とに基づいて、代表値と実測値の近似式を決定する第6工程と、
を含むことを特徴とする地上子の応動距離計測方法。
【請求項2】
前記第6工程においては、各路線の一方面の軌道上の地上子と逆方面の軌道上の地上子をそれぞれグループ化し、グループごとに前記近似式を決定することを特徴とする請求項1に記載の地上子の応動距離計測方法。
【請求項3】
前記近似式は、a,bを係数として、y=ax+bで表わされ、
前記代表値のばらつきの範囲は、月ごとの応動距離の平均値の標準偏差σに応じて前記近似式の変数xに入れ込むことで誤差の範囲として設定されることを特徴とする請求項1又は2に記載の地上子の応動距離計測方法。
【請求項4】
前記係数a,bは、地上子ごとに複数車両の複数回にわたり取得したデータを統計的に処理することによって、地上子ごと異なる値として決定されることを特徴とする請求項3に記載の地上子の応動距離計測方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の地上子の応動距離計測方法により決定された近似式に基づいて補正式を決定しこの補正式を用いて補正された計測値により応動距離の管理を行う応動距離の管理方法であって、
前記第5工程で蓄積または累積された代表値に基づいて前記代表値のばらつきの範囲を設定し、前記近似式を応用して、前記第3工程により算出された前記応動距離を補正するための補正式を決定する第7工程と、
鉄道車両に搭載された車両速度検出手段および信号受信手段により車両速度情報信号をよび軌道上の地上子からの信号の受信に関する情報信号を取得する第8工程と、
前記第8工程により取得した情報に基づいて、前記地上子からの信号を受信している間に車両が移動した距離を当該各地上子の応動距離として算出する第9工程と、
前記第9工程により算出された応動距離を、対応する前記補正式により補正して最終計測値を算出する第10工程と、
前記第10工程により算出された前記最終計測値が予め設定された応動距離の上限値と下限値との間に入っているか否か判定する第11工程と、
を含むことを特徴とする応動距離の管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道軌道に設けられている定位置を検知するための情報信号を送信可能な地上子の通信範囲に関連する指標である応動距離(停車可能範囲)を計測する計測方法および応動距離の管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鉄道の駅ホームへのホームドアの普及が進められている。駅ホームにホームドアを設置した場合、ホームドアと車両側のドアとを一致させた状態で車両を正確に停止させる必要があるため、定位置を検知するための情報信号(定位置信号)を送信可能な地上子が軌道上に設置されている。一方、鉄道車両側は、車両の底部に設けられた車上子により、上記地上子からの定位置信号を受信し、運転席に設けられた定位置停止用のランプを点灯させ、運転士は、このランプが点灯している間に列車を停止させるようにブレーキを操作することで、ホームドアと車両側のドアとを一致させた状態で列車を停止させることができる。
【0003】
また、定位置を検知するための情報信号を送信可能な地上子からの信号は、車両側からホームドアの制御装置へ開指令を送信してホームドアを開動作させる制御に利用したり、車両側のドアの開制御や自動で車両を停止させる制御にも利用したりすることができる。なお、地上子から送信された定位置信号によりホームドアの開制御を行うシステムに関する発明としては、例えば特許文献1に記載されているものがある。
上記のように、定位置を検知するための情報信号を送信可能な地上子は、鉄道車両の停止やホームドアの開制御にとって重要な役割を有している。
【0004】
一方、定位置を検知するための情報信号を送信可能な地上子は、構成部品が劣化したり故障したりすることで、通信範囲が狭くなるおそれがある。そのため、図9に示すように、車上子BCが地上子GCからの定位置信号を受信することができる範囲を応動距離と呼ばれる名称で管理しており、定期的に応動距離を計測する保守作業が実施されている。
なお、定位置を検知するための情報信号を送信可能な地上子GCは、車上子BCの中心位置O1が地上子GCの中心位置O2に一致したときに、車両側ドアの中心線とホームドアの中心線とが一致するような位置に設置されている。応動距離は、例えばホームドアの開口幅が2000mmで、車両側ドアの開口幅が1300mmである場合、差分に近い700~800mmのような範囲に設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-348770号公報
【特許文献2】特許第2904212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、定位置を検知するための情報信号を送信可能な地上子の応動距離の計測は、当該地上子からの定位置信号を受信する車上子と同様な機能を有する受信器が、レール上に載置された際に車両側の車上子と同じ高さになるとともにレールに沿って移動可能に構成され、定位置信号を受信すると表示を行う表示器が設けられた専用の計測器を使用して、作業員が手作業で計測器を移動させながらオン、オフの表示を確認して通信範囲の両端にマーキングを行い、マーキングの距離を物差しで測ることで行われていた。そのため、従来の応動距離の計測は、多くの人手と時間を要するという課題があった。
【0007】
なお、地上子の取付位置の測定方法に関する発明として、特許文献2に記載されている発明があるが、この先行文献に記載されている発明は、地上子の位置を光学的に測定するものであるため、物理的な位置は精度よく測定することができるものの、地上子によってばらつきのある通信範囲に対応する応動距離を直接測定することはできないという課題がある。
本発明は、上記のような課題に着目してなされたもので、その目的とするところは、多くの人手と時間を要することなく、定位置を検知するための情報信号を送信可能な地上子の応動距離の計測値を得ることができる応動距離計測方法および応動距離の管理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本出願に係る発明は、上記目的を達成するために、
鉄道車両に搭載された車両速度検出手段により取得した車両速度情報信号をよび軌道上の地上子からの信号を受信する信号受信手段により取得した前記地上子からの信号に基づいて、前記地上子の通信範囲に対応する応動距離を計測する地上子の応動距離計測方法であって、
前記車両速度検出手段および前記信号受信手段により車両速度情報信号をよび前記地上子からの信号の受信に関する情報信号を複数の車両で複数日にわたって所定の時間間隔で取得し記憶する第1工程と、
前記第1工程により記憶された情報の中から、2回の実測が行われた地上子の受信に関する情報信号をよび前記信号受信手段が前記地上子からの信号を受信している間の車両速度情報信号を抽出する第2工程と、
前記第2工程により抽出した情報に基づいて、前記地上子からの信号を受信している間に車両が移動した距離を対応する地上子の応動距離として算出する第3工程と、
前記第3工程により算出された前記応動距離に基づいて所定期間における代表値を決定する第4工程と、
前記第4工程により決定された代表値を前記2回の実測の期間にわたって蓄積または累積する第5工程と、
前記2回の実測の値がほぼ同じである場合にその実測値と前記第5工程で蓄積または累積された代表値とに基づいて、代表値と実測値の近似式を決定する第6工程と、
を含むようにしたのである。
【0009】
上記のような地上子の応動距離計測方法によれば、車両に搭載した車上システムで取得したデータに基づいて定位置を検知するための情報信号を送信可能な地上子の応動距離を算出することができるため、多くの人手と時間を要することなく応動距離の計測値を得ることができる。また、1回の取得したデータに基づいて算出した応動距離にはバラつきがあるが、複数車両による複数回にわたり取得したデータを統計的に処理することによって応動距離の計測値を算出する近似式を決定するため、決定した近似式を用いて応動距離を算出でき、精度の高い応動距離計測値を得ることができる。
【0010】
ここで、望ましくは、前記第5工程においては、各路線の一方面の軌道上の地上子と逆方面の軌道上の地上子をそれぞれグループ化し、グループごとに前記近似式を決定するようにする。
かかる方法によれば、一方面(上り)の地上子と逆方面(下り)の軌道上の地上子によって、車上システムで取得したデータに基づいて算出した応動距離に無視できないようなずれがあるような場合にも、代表値と実測値の近似式を別々に決定するため、精度の高い応動距離計測値を得ることができる。
【0011】
また、前記近似式は、a,bを係数として、y=ax+bで表わされ、
前記代表値のばらつきの範囲は、月ごとの応動距離の平均値の標準偏差σに応じて前記近似式の変数xに入れ込むことで誤差の範囲として設定されるようにする。
かかる方法によれば、地上子ごとに異なる補正式を設定することができ、それによって精度の高い応動距離計測値を得ることができる。
ここで、前記係数a,bは、地上子ごとに複数車両の複数回にわたり取得したデータを統計的に処理することによって、地上子ごと異なる値として決定すると良い。
【0012】
さらに、本出願の他の発明は、上記のような手順の地上子の応動距離計測方法により決定された近似式に基づいて補正式を決定しこの補正式を用いて補正された計測値により応動距離の管理を行う応動距離の管理方法地上子の応動距離計測方法により決定された補正式を用いて補正された計測値により応動距離の管理を行う応動距離の管理方法において、
前記第5工程で蓄積または累積された代表値に基づいて前記代表値のばらつきの範囲を設定し、前記近似式を応用して、前記第3工程により算出された前記応動距離を補正するための補正式を決定する第7工程と、
鉄道車両に搭載された車両速度検出手段および信号受信手段により車両速度情報信号をよび軌道上の地上子からの信号の受信に関する情報信号を取得する第8工程と、
前記第8工程により取得した情報に基づいて、前記地上子からの信号を受信している間に車両が移動した距離を当該各地上子の応動距離として算出する第9工程と、
前記第9工程により算出された応動距離を、対応する前記補正式により補正して最終計測値を算出する第10工程と、
前記第10工程により算出された前記最終計測値が予め設定された応動距離の上限値と下限値との間に入っているか否か判定する第11工程と、
を含むようにしたものである。
【0013】
上記のような方法によれば、車両に搭載した車上システムで取得したデータに基づいて精度の高い応動距離を検出するとともに、代表値のばらつきの範囲を設定して補正式を決定しこの補正式により補正して最終計測値を算出するので、車上システムにより取得したデータに基づいて算出した応動距離の平均値にバラつきがあったとしても、適切に補正して管理範囲の上限値と下限値と比較して判定することができ、車上システムの取得データに基づいて算出した応動距離を使用して多数の駅に設置されている地上子の応動距離を、離れた場所にある管理装置で一元的に管理することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の応動距離計測方法によれば、多くの人手と時間を要することなく、定位置を検知するための情報信号を送信可能な地上子の応動距離の計測値を得ることができる。また、本発明の地上子の管理方法によれば、多数の駅に設置されている定位置を検知するための情報信号を送信可能な地上子の応動距離を一元的に管理することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る定位置を検知するための情報信号を送信可能な地上子の応動距離計測方法を適用するシステムの一例を示すシステム構成図である。
図2】鉄道軌道を走行する車両に搭載されるシステム(車上システム)の具体例を示すブロック図である。
図3】(A)は1つの地上子に対して複数の列車で算出した、1カ月分の応動距離を日単位で表記したグラフ、(B)は上記1カ月分の応動距離の分布状況を示したヒストグラムである。
図4】(A)はある路線の10駅の一方面の地上子についての10カ月分の計算値の平均と実測値との関係を示すグラフ、(B)は同じ10駅の逆方面の地上子についての10カ月分の計算値の平均と実測値との関係を示すグラフである。
図5】ある定位置を検知するための情報信号を送信可能な地上子について、補正する前の1カ月ごとの計算値の平均の変化と、実測値との関係を示す線形近似式を用いて補正した値の1カ月ごとの計算値の平均の変化を示すグラフである。
図6】ある定位置を検知するための情報信号を送信可能な地上子について、実測値との関係を示す線形近似式を用いて補正した平均値に誤差を加味した補正を行なった場合の1カ月ごとの変化を示すグラフである。
図7】本発明に係る地上子の応動距離計測方法および管理方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図8】(A)は複数駅の上り方面軌道上の地上子の月ごとの応動距離の算出値を平均した値と、10カ月の平均値、最大値、最小値、最大値と最小値の差、標準偏差を示す図表、(B)は複数駅の下り方面軌道上の地上子の月ごとの応動距離の算出値を平均した値と、10カ月の平均値、最大値、最小値、最大値と最小値の差、標準偏差を示す図表である。
図9】定位置を検知するための情報信号を送信可能な地上子の通信範囲と車上子との位置関係から決まる応動距離の概念を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明に係る地上子の応動距離計測方法について説明する。図1は本発明に係る地上子の応動距離計測方法を適用するためのシステムの一例を示すシステム構成図、図2は鉄道車両(列車)に搭載される車上システムの構成例を示すブロック図である。なお、図1および図2に示すシステムの構成は一例であって、これに限定されるものでない。
【0017】
図1に示すように、本発明に係る地上子の応動距離計測方法を実施するためのシステムは、車両Tに搭載され走行中における車両の各種データを収集する車上システム10と、複数の車両の車上システム10が収集記憶したデータを受信して集計するデータ収集サーバ21と、データ収集サーバ21が収集したデータの中から応動距離の算出に必要なデータを通信ネットワーク22を介して取得して応動距離を算出するとともに算出した応動距離に基づいて定位置を検知するための情報信号を送信可能な地上子32を管理する演算装置(コンピュータ)23などによって構成される。
また、データ収集サーバ21内のデータベースには、別途専用の測定器を用いて各駅の定位置を検知するための情報信号を送信可能な地上子(以下、単に地上子と記す)の応動距離の測定が行われた場合、その測定値(以下、実測値と称する)が記憶される。
【0018】
車上システム10は、地上子32からの信号を受信するアンテナとしての車上子11と、車両速度を検出するための速度検出器12と、地上子32からの受信信号や速度検出器12からの信号に基づく車両速度を時刻データと共に記憶する記憶装置13、外部のデータ収集サーバ21との間の通信を担う無線通信装置14などを備える。
車両Tが駅に進入して駅ホーム31の所定位置に設けられている地上子32の通信可能範囲(応動距離)内に車上子11が入ると、地上子32からの信号を受信し車上システム10は受信信号の有無を表わす情報信号を記憶装置13に記憶する。そして、記憶装置13に記憶されたデータは、例えば1日ごとに無線通信装置14によりデータ収集サーバ21へ送信され、データベースに蓄積する処理が行われるように構成されている。特に限定されるものでないが、地上子32は電源ケーブルを介して供給される電力で動作する。
【0019】
また、車上システム10は、上記車上子11、速度検出器12、記憶装置13、無線通信装置14の他に、図2に示すように、地上子からの信号を受信する車上子11の受信信号を増幅したり波形整形したりする受信器15と、車輪を回転駆動する駆動装置(走行用モータ)16および車両制動用のブレーキ装置17、前記駆動装置16およびブレーキ装置17を制御する制御装置18などを備える。このうち速度検出器12は、例えば速度発電機により構成され、制御装置18は速度発電機からの信号に基づいて演算によって車両速度を算出し時刻データとともに記憶装置13に記憶する。
【0020】
ここで、速度発電機(12)からの信号に基づく車両速度は、既存の一般的な速度発電機を使用して検出したものを用いることができる。また、既存の営業列車には、仕様ごとに設定した所定の時間間隔で車両搭載機器の状態をサンプリングして時刻データと共に記憶するモニタリング装置を搭載して路線を走行しているものがある。
そこで、本発明者は、モニタリング装置により、車上子11による停止位置信号の受信の有無および車両速度をサンプリングして時刻データと共に記憶し、記憶したデータを解析することによって、地上子の応動距離を算出できるのではないかと考え、検討を行なった。
【0021】
その結果、地上子ごとに算出された1カ月分の応動距離(4359個のデータ)は、図3(A)に示すように、1回ごとのブレが大きいため算出値のバラツキが大きくなり、専用の測定装置を使用した実測値(破線)との乖離が大きいので、そのままでは地上子の応動距離管理に利用できないことが明らかとなった。
また、1カ月分の速度データに基づき算出された応動距離の分布を調べたところ、図3(B)にヒストグラムで示すように、全体は正規分布に近いとともに1カ月単位の中央値は1カ月平均値とほぼ同じであるが、平均値は実測値と乖離していることが分かった。なお、車両側のサンプリングデータに基づく応動距離の1回ごとの算出値のブレが大きい原因としては、車両側の車上子の特性バラツキや、地上子の設置誤差、車両速度の検出精度、車輪やレールの摩耗、天候に依存する車輪の滑り、運転士の技量の違いなど、様々な要因が考えられる。
【0022】
また、データ解析の結果、複数の地上子の応動距離の実測値と収集データに基づく計算値の平均との間には、図4に示すように、正の相関があることが分かった。なお、図4(A)はある路線の、過去に応動距離の実測を2回行なった10駅の一方の方向の軌道上の地上子についての10カ月分の応動距離計算値の平均と実測値との関係を示すグラフ、図4(B)は上記と同じ10駅の逆方向の軌道上の地上子についての10カ月分の計算値の平均と実測値との関係を示すグラフである。
【0023】
図4(A)、(B)において、右上がりの実線は最小二乗法を用いて求めた回帰線であり、一次関数で表わされる直線(線形近似式)となる。また、それぞれのグラフにおける決定係数R2はそれぞれ0.7533と0.8592であり、計算値の平均と実測値との間には強い相関があることが分かる。従って、上記線形近似式を用いて、計算値を実測値に近い値に補正することができると予想される。
なお、列車が向う方向(環状線の内回り/外回り又は上り/下り)によって直線の傾きが違うのは、例えば駅間に高低差がある、つまり軌道に勾配があると、方向により列車の制動特性が変わるため、車上システム10で取得したデータに基づいて算出した応動距離に差が生じることが考えられる。従って、路線によっては列車が向う方向にかかわらず同一の近似式となる場合もある。
【0024】
図5には、ある地上子について、補正する前の1カ月ごとの応動距離計算値の平均の変化と、上記線形近似式を用いて補正した値の1カ月ごとの計算値の平均の変化を示す。図5より、補正前は破線Aで示すように、応動距離の管理範囲(管理応動距離の上限値Lmaxと下限値Lminの間の範囲)からはずれていたものが、補正後は実線Bで示すように、応動距離の管理範囲に入り、線形近似式を用いて適切な補正ができることが分かった。
【0025】
ただし、上記のような補正を行なったとしても、図5のグラフより、車上システムにより取得したデータに基づいて算出した応動距離の平均値にはバラつきがある一方、実測値(実際の応動距離)は変化していないため、毎月のバラつきは算出誤差であるので、実際に応動距離が変化した時に、その変化がバラつきによるものかそうでないのか判別できないこととなる。従って、算出した平均値のバラつきを考慮した補正が必要となる。
そこで、本発明者は、図6に示すように、算出平均値に誤差を加味した補正を行い、誤差を含んだ応動距離の算出値が管理応動距離の上限値Lmaxと下限値Lminの範囲に入るか否か判断することとした。算出平均値に加味する誤差の具体的な設定の仕方については、後に説明する。
【0026】
次に、図7のフローチャートを用いて本発明に係る応動距離計測方法および管理方法の手順について説明する。
本実施例においては、先ず、走行速度および定位置を検知するための情報信号を送信可能な地上子からの受信信号を取得して記憶する機能を備えた複数の車両(例えば営業列車)の車上システム10による走行速度の取得および受信信号の有無(受信フラグ)の取得とデータ収集サーバ21による計測データの収集を複数日ないし数カ月にわたって実施する(ステップS1)。
【0027】
次に、データ収集サーバ21内のデータベースを参照して各駅に設置されている上記地上子についての応動距離の実測値の有無を判断し、例えば1ヶ月以上の間隔をおいて2回以上の実測が行われた地上子を抽出する(ステップS2)。本発明方法は、実測値を基準として計測値を補正するためである。そのため、1度も実測が行われていない地上子については、1回目の実測が終了するまではステップS3以降の処理の対象とせず、少なくとも1回の実測が行われた後にステップS3以降の処理を行うようにする。
なお、通常は2回の実測値がほぼ同じ値となるが、2回目の実測値が1回目の実測値と異なる場合、その地上子には異常があると考えられるので、調整、修繕または交換作業が実施されることとなる。
【0028】
ステップS3においては、演算装置23が、データ収集サーバ21に収集された車両速度情報信号をよび地上子の受信フラグに基づいて各地上子の応動距離の算出を行う。具体的には、最初に受信フラグが立ったタイミングをTs、受信フラグが立ち下がったタイミングをTe、データのサンプリング間隔をt秒とすると、先ずTsでの速度とTsからt秒後の速度との平均値にtを掛けてt秒間の車両移動距離を求め、次にTsから2t秒後の速度とTsから2t秒後の速度との平均値にtを掛けて次のt秒間の移動距離を求め、既に求めた移動距離に加算する。この演算を、Teに達するまで繰り返すことで、計測対象の地上子の応動距離(計測値)が得られる。
【0029】
次のステップS4においては、上記のようにして算出された計測値の所定期間(例えば1カ月)における平均値を求めてそれを代表値と決定し、前後2回の実測の期間内で代表値を蓄積もしくは累積する(ステップS5)。続いて、蓄積(累積)された代表値に基づいて、代表値(計算値の平均)xと実測値yとの近似式を、最小二乗法を用いて決定する(ステップS6)。例えば図4(A)と(B)の例では、近似式はそれぞれy=0.6963x+0.2623、y=0.4765x+0.3681のように決定される。この近似式を用いることで、応動距離の計測値を得ることができる。
【0030】
次に、各地上子の応動距離を管理する場合には、ステップS6で蓄積(累積)された代表値に基づいて、代表値のバラツキの範囲を決め、代表値に加味する誤差の大きさを、例えば月ごとの応動距離の平均値の標準偏差σを用いて設定し、使用する補正式を決定する(ステップS7)。
具体的には、各駅の地上子の月ごとの応動距離の算出値を平均した値と、10カ月の平均値、最大値、最小値、最大値と最小値の差を算出した結果、図8(A)と(B)に示すようになり、標準偏差σとして最右欄に示すような値が得られた場合、(A)におけるA駅~J駅の中で最も大きかった値0.005と(B)におけるA駅~J駅の中で最も大きかった値0.010をσの値として採用する。そして、代表値に加味する誤差の大きさを例えば±4σのように設定し、それを上記近似式に入れ込んで、計測値X1,X2を算出する補正式を、次式
X1=0.6963(x±4σ)+0.2623=0.6963(x)+0.2623±0.0139
X2=0.4765(x±4σ)+0.3681=0.4765(x)+0.3681±0.0191
のように決定する。なお、誤差の大きさは±4σに限定されず±3σ等であっても良い。
【0031】
その後、応動距離の管理処理に移行して、先ず複数の列車の車上システム10により任意の日数(1日を含む)におけるデータ(列車速度および停止位置信号の受信の有無)を収集し(ステップS8)、収集したデータに基づいて演算装置23が各地上子の応動距離を算出する(ステップS9)。それから、ステップS7で決定した補正式を用いて応動距離の算出値を補正して計測値を算出する(ステップS10)。そして、算出した計測値が予め設定された応動距離の管理範囲(例えば700~800mm)内に入っているか判定する(ステップS11)。また、判定結果は、演算装置23の表示部に表示する。
【0032】
上記のような実施形態によれば、上述した一連の処理を行うことによって、専用の測定器を用いて地上子の応動距離を実測することなく、計算によって応動距離の計測値を得ることができ、応動距離の管理に必要な人手と時間を大幅に減らすことができるとともに、多数の駅に設置されている定位置を検知するための情報信号を送信可能な地上子の応動距離を、離れた場所にある管理装置(演算装置23)で一元的に管理することができる。
【0033】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形や変更が可能である。例えば、前記実施形態では、営業列車に搭載された車上システム10によって、地上子の応動距離の計測に必要なデータを収集するとしたが、前記車上システム10と同様な機能を有するシステムを搭載した計測車を走行させてデータを収集するようにしても良い。
また、前記実施形態では、上り/下り(一方面/逆方面)で異なる近似式を使用したが、対象となる路線によっては同一の近似式を使用するようにしても良い。
【符号の説明】
【0034】
10 車上システム
11 車上子
12 速度検出器(速度発電機)
13 記憶装置
14 無線通信装置
15 受信器
16 駆動装置
17 ブレーキ装置
18 制御装置
21 データ収集サーバ
22 通信ネットワーク
23 演算装置
31 駅ホーム
32 地上子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9