(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023065802
(43)【公開日】2023-05-15
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 69/00 20060101AFI20230508BHJP
C08L 33/06 20060101ALI20230508BHJP
C08K 5/521 20060101ALI20230508BHJP
C08K 5/49 20060101ALI20230508BHJP
C08K 5/13 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
C08L69/00
C08L33/06
C08K5/521
C08K5/49
C08K5/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021176148
(22)【出願日】2021-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太郎
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BG032
4J002CG001
4J002EJ008
4J002EW007
4J002EW046
4J002FD077
4J002FD078
4J002FD206
4J002GP00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】高耐熱で滞留安定性に優れ、全光線透過率と拡散性をバランス良く満足するポリカーボネート樹脂組成物。
【解決手段】ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、架橋アクリル系重合体粒子(B)を0.2~1.0質量部、酸性リン酸エステル化合物(C)を0.01~0.5質量部、及びリン系酸化防止剤(D)を0.0001~0.5質量部含有し、架橋アクリル系重合体粒子(B)の熱量測定装置により測定した10%重量減少温度が330℃以上であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、架橋アクリル系重合体粒子(B)を0.2~1.0質量部、酸性リン酸エステル化合物(C)を0.01~0.5質量部、及びリン系酸化防止剤(D)を0.0001~0.5質量部含有し、架橋アクリル系重合体粒子(B)の熱量測定装置により測定した10%重量減少温度が330℃以上であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
さらに、フェノール系酸化防止剤(E)を、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.0001~0.5質量部含有する請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
酸性リン酸エステル化合物(C)が、アルキルアシッドホスフェート、アルケニルアシッドホスフェート及びこれらの金属塩より選ばれる1種又は2種以上のホスフェートである請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物からなる成形品。
【請求項5】
照明用部品または光学用部材である請求項4に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物に関し、高耐熱で滞留安定性に優れ、全光線透過率と拡散性をバランス良く満足するポリカーボネート樹脂組成物及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性、耐熱性、耐候性、難燃性等の物性が優れ、高い光線透過率を有する高機能性樹脂であり、特にその優れた光学特性と難燃性を活かし、近年では照明機器用の部品や光学用部材として利用されるようになってきた。
【0003】
これらの中には、LED等を光源とする照明カバー、各種ディスプレイ、車両用ライトガイドなどの部材では、光拡散性を付与することによって照明光を広げるものがあり、これらでは照明効率を落とさないよう高い光拡散性と光透過性を保持することが求められる。
【0004】
光拡散性を付与したポリカーボネート樹脂として、ポリメチルメタアクリレート等のアクリル系樹脂粒子を配合したポリカーボネート樹脂組成物が各種提案されている。また、アクリル系樹脂粒子に代えて、シリコーン系粒子を添加することも提案されている。
しかしながら、シリコーン系粒子は耐熱性に優れるものの、光線透過率と光拡散性の両方を必要とする光学特性はアクリル系樹脂粒子に比べると十分とはいえず、アクリル系樹脂粒子は有用である。
【0005】
近年は、照明用部品や光学用部材は様々な形状のものがあり、大型化や長尺化が進行しており、例えば1mを優に超えるような長尺物の光学用部材も登場している。このような長尺物の成形品を射出成形する際には、樹脂組成物は高温で長時間滞留するため、滞留劣化が激しく、原料樹脂の粘度低下により成形不可に陥ることもあり、耐熱性に優れることが必須となる。
【0006】
特許文献1には、アクリル系樹脂拡散剤中にホスファイト系酸化防止剤を含有させた上で、ポリカーボネート樹脂に配合することにより、ポリカーボネート樹脂の変色を防止する発明が記載されている。しかしながら、ホスファイト系酸化防止剤入りの拡散剤を製造するのは簡単ではなく、またホスファイト系酸化防止剤による効果も必ずしも十分とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、アクリル系樹脂粒子を配合する系において、高耐熱で滞留安定性に優れ、全光線透過率と拡散性をバランス良く満足するポリカーボネート樹脂組成物を提供することを課題(目的)とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を達成すべく、鋭意検討を重ねた結果、ポリカーボネート樹脂に、10%重量減少温度が特定温度以上である架橋アクリル系重合体粒子(B)、酸性リン酸エステル化合物(C)、及びリン系酸化防止剤(D)をそれぞれ特定の量で配合することにより、上記課題が解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下のポリカーボネート樹脂組成物及び成形品に関する。
【0010】
1.ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、架橋アクリル系重合体粒子(B)を0.2~1.0質量部、酸性リン酸エステル化合物(C)を0.01~0.5質量部、及びリン系酸化防止剤(D)を0.0001~0.5質量部含有し、架橋アクリル系重合体粒子(B)の熱量測定装置により測定した10%重量減少温度が330℃以上であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
2.さらに、フェノール系酸化防止剤(E)を、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.0001~0.5質量部含有する上記1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
3.酸性リン酸エステル化合物(C)が、アルキルアシッドホスフェート、アルケニルアシッドホスフェート及びこれらの金属塩より選ばれる1種又は2種以上のホスフェートである上記1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
4.上記1~3のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物からなる成形品。
5.照明用部品または光学用部材である上記4に記載の成形品。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、高耐熱で滞留安定性に優れ、全光線透過率と拡散性をバランス良く満足し、また、成形性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明する。
なお、本明細書において、「~」とは、特に断りがない場合、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0013】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、架橋アクリル系重合体粒子(B)を0.2~1.0質量部、酸性リン酸エステル化合物(C)を0.01~0.5質量部、及びリン系酸化防止剤(D)を0.0001~0.5質量部含有し、架橋アクリル系重合体粒子(B)の熱量測定装置により測定した10%重量減少温度が330℃以上であることを特徴とする。
以下、本発明のポリカーボネート樹脂組成物を構成する各成分、成形品等につき、詳細に説明する。
【0014】
[ポリカーボネート樹脂(A)]
本発明において使用するポリカーボネート樹脂(A)は、特に限定されず、種々のものが用いられる。ポリカーボネート樹脂は、炭酸結合に直接結合する炭素がそれぞれ芳香族炭素である芳香族ポリカーボネート樹脂、及び脂肪族炭素である脂肪族ポリカーボネート樹脂に分類できるが、いずれを用いることもできる。中でも、ポリカーボネート樹脂(A)としては、耐熱性、機械的物性、電気的特性等の観点から、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0015】
芳香族ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、芳香族ジヒドロキシ化合物の例を挙げると、
1,2-ジヒドロキシベンゼン、1,3-ジヒドロキシベンゼン(即ち、レゾルシノール)、1,4-ジヒドロキシベンゼン等のジヒドロキシベンゼン類;
2,5-ジヒドロキシビフェニル、2,2’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等のジヒドロキシビフェニル類;
【0016】
2,2’-ジヒドロキシ-1,1’-ビナフチル、1,2-ジヒドロキシナフタレン、1,3-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、1,7-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン類;
【0017】
2,2’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルエーテル、1,4-ビス(3-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン等のジヒドロキシジアリールエーテル類;
【0018】
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールC)、
2,2-ビス(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
1,1-ビス(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン、
1,3-ビス[2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキシルメタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)(4-プロペニルフェニル)メタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)ナフチルメタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-ナフチルエタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、
4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ノナン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ドデカン、
等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;
【0019】
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3-ジメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,4-ジメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,5-ジメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-プロピル-5-メチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-tert-ブチル-シクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-tert-ブチル-シクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-フェニルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-フェニルシクロヘキサン、
等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;
【0020】
9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、
9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン等のカルド構造含有ビスフェノール類;
【0021】
4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、
4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリールスルフィド類;
4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類;
4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、
4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類;
等が挙げられる。
【0022】
これらの中ではビス(ヒドロキシアリール)アルカン類が好ましく、中でもビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカン類が好ましく、特に耐衝撃性、耐熱性の点から2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールC)が好ましい。
なお、芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0023】
ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、カーボネート前駆体の例を挙げると、カルボニルハライド、カーボネートエステル等が使用される。なお、カーボネート前駆体は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0024】
カルボニルハライドとしては、具体的には例えば、ホスゲン;ジヒドロキシ化合物のビスクロロホルメート体、ジヒドロキシ化合物のモノクロロホルメート体等のハロホルメート等が挙げられる。
【0025】
カーボネートエステルとしては、具体的には例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等のジアリールカーボネート類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類;ジヒドロキシ化合物のビスカーボネート体、ジヒドロキシ化合物のモノカーボネート体、環状カーボネート等のジヒドロキシ化合物のカーボネート体等が挙げられる。
【0026】
ポリカーボネート樹脂(A)の製造方法は、特に限定されるものではなく、任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。これらの中では、界面重合法によるものが特に好ましい。
【0027】
ポリカーボネート樹脂(A)の分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量(Mv)で、好ましくは10000~50000であり、より好ましくは10000~40000,中でも10000~30000、10000~26000であり、更には10500以上、11000以上、特には11500以上、最も好ましくは12000以上であり、さらには24000以下、特に好ましくは20000以下である。粘度平均分子量を上記範囲の下限値以上とすることにより、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の機械的強度をより向上させることができ、粘度平均分子量を上記範囲の上限値以下とすることにより、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の流動性低下を抑制して改善でき、成形加工性を高めて薄肉成形加工を容易に行えるようになる。
なお、粘度平均分子量の異なる2種類以上のポリカーボネート樹脂を混合して用いてもよく、この場合には、粘度平均分子量が上記の好適な範囲外であるポリカーボネート樹脂を混合してもよい。
【0028】
なお、粘度平均分子量[Mv]とは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度25℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10
-4Mv
0.83から算出される値を意味する。また、極限粘度[η]とは、各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[η
sp]を測定し、下記式により算出した値である。
【数1】
【0029】
また、成形品の外観の向上や流動性の向上を図るため、ポリカーボネート樹脂(A)は、ポリカーボネートオリゴマーを含有していてもよい。このポリカーボネートオリゴマーの粘度平均分子量[Mv]は、通常1500以上、好ましくは2000以上であり、また、通常9500以下、好ましくは9000以下である。さらに、含有されるポリカーボネートオリゴマーは、ポリカーボネート樹脂(ポリカーボネートオリゴマーを含む)の30質量%以下とすることが好ましい。
【0030】
さらにポリカーボネート樹脂(A)は、バージン原料だけでなく、使用済みの製品から再生されたポリカーボネート樹脂(いわゆるマテリアルリサイクルされたポリカーボネート樹脂)であってもよい。
ただし、再生されたポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート樹脂(A)のうち、80質量%以下であることが好ましく、中でも50質量%以下であることがより好ましい。再生されたポリカーボネート樹脂は、熱劣化や経年劣化等の劣化を受けている可能性が高いため、このようなポリカーボネート樹脂を前記の範囲よりも多く用いた場合、色相や機械的物性を低下させる可能性があるためである。
【0031】
[架橋アクリル系重合体粒子(B)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、架橋アクリル系重合体粒子(B)を含有し、熱量測定装置により測定した10%重量減少温度が330℃以上のものを使用する。
【0032】
架橋アクリル系重合体粒子(B)として、好ましいのは、非架橋性アクリルモノマーと架橋性モノマーを、好ましくは懸濁重合により、製造される架橋アクリル樹脂系粒子である。
非架橋性アクリル系モノマーとしては、アクリルモノマー単独またはアクリルモノマー複数を組み合わせて用いる。アクリルモノマーとしては、メチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチル-ヘキシルアクリレート等のアクリル酸エステル類、メチルメタアクリレート、エチルメタアクリレート、プロピルメタアクリレート、ブチルメタアクリレート等のメタアクリル酸エステル類が好ましく挙げられ、これらを単独又は二種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、メチルメタアクリレートが好適に用いられる。
また、単量体には、(メタ)アクリル酸エステル系単量体と共重合可能な単量体を加えてもよく、そのような単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、酢酸ビニル等のビニル基を有する単量体が挙げられる。
【0033】
架橋性モノマーとしては、分子内に2個以上の不飽和結合を持つ化合物が好ましく用いられる。例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリルメタアクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアネート、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジアリルエーテル、ジビニルベンゼン、ジエチレングリコールジメタアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタアクリレート等が挙げられる。なかでも、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0034】
架橋アクリル系重合体粒子(B)は、非架橋性アクリルモノマーと架橋性モノマーを懸濁重合させることにより製造できる。例えば、両モノマーを、ポリビニルアルコールを分散剤として、懸濁させて重合を行い、ろ過、洗浄、篩がけ、乾燥することにより得られる。両モノマーの使用割合は、好ましくは、非架橋性アクリルモノマー90~99質量%、架橋性モノマー10~1質量%である。架橋性モノマーの量が少なすぎると、得られたビーズ状架橋アクリル重合体粒子のポリカーボネート樹脂中への分散性が不良となりやすく、架橋性モノマーの量を多くすることで10%重量減少温度を上げることができるが、多くなり過ぎると、架橋アクリル系重合体粒子が硬くなり過ぎて衝撃強度が低下しやすいので好ましくない。
【0035】
架橋アクリル系重合体粒子(B)の10%重量減少温度が330℃以上であるが、330℃以上のものを配合すると、成形時の滞留時間が長くなっても樹脂組成物の全光線透過率変化、及びヘイズ変化も小さいことが判明した。10%重量減少温度は、好ましくは335℃以上、中でも340℃以上、345℃以上、350℃以上、355℃以上、360℃以上、特に365℃以上が好ましい。その上限としては、架橋アクリル系重合体であれば通常400℃程度までである。
【0036】
10%重量減少温度の測定は、熱量測定装置(TGA)により、窒素雰囲気下で、10℃/minの速度で40℃から520℃まで昇温する過程で、樹脂重量の10%が減少する温度を測定することにより行うが、その具体的な方法は実施例に記載する通りである。
【0037】
10%重量減少温度が330℃以上の架橋アクリル系重合体粒子(B)を得るには、常法により、架橋性モノマーの量を多くするとか、重合体の分子量を大きくする等の方法で可能であり、また市販品の中から選択して使用することでも可能である。
【0038】
架橋アクリル系重合体粒子(B)は、その平均粒径が好ましくは1~10μmであり、平均粒径がこの範囲にあると、光拡散率や分散度がより高上する。平均粒径は、好ましくは1.5~7μm、さらに好ましくは2~4μmである。なお、粒径の測定は、コールターカウンター法にて個数基準にて行われるD50である。
【0039】
架橋アクリル系重合体粒子(B)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.2~1.0質量部であり、このような範囲で、酸性リン酸エステル化合物(C)及びリン系酸化防止剤(D)の特定量と組み合わせることにより、高耐熱で滞留安定性に優れ、全光線透過率と拡散性をバランス良く満足するポリカーボネート樹脂組成物とすることができる。架橋アクリル系重合体粒子(B)の好ましい量は、0.2~0.9質量部、さらに好ましくは0.2~0.8質量部である。
【0040】
[酸性リン酸エステル化合物(C)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、酸性リン酸エステル化合物(C)を含有する。
酸性リン酸エステル化合物(C)としては、アルキルアシッドホスフェート、アルケニルアシッドホスフェート及びこれらの金属塩より選ばれる1種又は2種以上のホスフェートが好ましい。
【0041】
アルキルアシッドホスフェート又はアルケニルアシッドホスフェートは、下記式(I)で表されるものであることが好ましい。アルキルアシッドホスフェート又はアルケニルアシッドホスフェートは、下記一般式(I)で表され、アルキルアシッドホスフェート金属塩又はアルケニルアシッドホスフェート金属塩は下記式(I)で表されるアルキルアシッドホスフェート又はアルケニルアシッドホスフェートの亜鉛塩、アルミニウム塩等の金属塩であることが好ましい。
O=P(OH)n(OR)3-n …(I)
(式中、Rは炭素数9~30のアルキル基又はアルケニル基であり、nは1又は2の整数を表す。nが1の場合、2つのRは同一であってもよく異なるものであってもよい。)
【0042】
上記式(I)中のRで示されるアルキル基は直鎖アルキル基であってもよく、分岐を有していてもよい。Rのアルキル基としては、具体的には、ノニル、イソノニル、デシル、イソデシル、ドデシル、トリデシル、イソトリデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル(ステアリル)、エイコシル、テトラコシル基等が挙げられる。また、Rで示されるアルケニル基についても直鎖アルケニル基であってもよく、分岐を有していてもよい。Rのアルケニル基としては、具体的には、オレイル基等が挙げられる。nは、1又は2であり、その混合物であっても良い。
【0043】
上記式(I)中のRで示されるアルキル基又はアルケニル基の炭素数は、13,18,24のいずれかであることがより好ましく、アルキルアシッドホスフェートとしては、特に、下記式(II)で表され、式(II)におけるn=1のジステアリルアシッドホスフェートとn=2のモノステアリルアシッドホスフェートとの混合物であるものが好ましい。
O=P(OH)n(OC18H37)3-n …(II)
【0044】
また、アルキルアシッドホスフェートの金属塩としては、下記式(IIIa)で表されるジステアリルアシッドホスフェート亜鉛塩と、下記式(IIIb)で表されるモノステアリルアシッドホスフェート亜鉛塩との混合物が好ましい。
【化1】
【0045】
酸性リン酸エステル化合物(C)の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.01~0.5質量部である。このような範囲で、架橋アクリル系重合体粒子(B)及びリン系酸化防止剤(D)の特定量と組み合わせることにより、高耐熱で滞留安定性に優れ、全光線透過率と拡散性をバランス良く満足するポリカーボネート樹脂組成物とすることができる。酸性リン酸エステル化合物(C)の含有量は、好ましくは0.015質量部以上、より好ましくは0.02質量部以上であり、好ましくは0.4質量部以下、より好ましくは0.3質量部以下、中でも0.2質量部以下、0.1質量部以下、0.08質量部以下、0.05質量部以下である。
【0046】
[リン系酸化防止剤(D)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、さらにリン系酸化防止剤(D)を含有する。
リン系酸化防止剤(D)の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.0001~0.5質量部である。このような範囲で、架橋アクリル系重合体粒子(B)及び酸性リン酸エステル化合物(C)の特定量と組み合わせることにより、高耐熱で滞留安定性に優れ、全光線透過率と拡散性をバランス良く満足するポリカーボネート樹脂組成物とすることができる。リン系酸化防止剤(D)の好ましい含有量は0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、好ましくは0.4質量部以下、より好ましくは0.3質量部以下、中でも0.2質量部以下、0.1質量部以下、0.08質量部以下、特に好ましくは0.05質量部以下である。
【0047】
リン系酸化防止剤(D)としては、亜リン酸、リン酸、亜リン酸エステル、リン酸エステル(ただし、前記した酸性リン酸エステル化合物(C)を除く。)等が挙げられ、中でも3価のリンを含み、変色抑制効果を発現しやすい点で、ホスファイト、ホスホナイト等の亜リン酸エステルが好ましい。
【0048】
ホスファイトとしては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジラウリルハイドロジェンホスファイト、トリエチルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリス(2-エチルヘキシル)ホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、トリステアリルホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、モノフェニルジデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイト、水添ビスフェノールAフェノールホスファイトポリマー、ジフェニルハイドロジェンホスファイト、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェニルジ(トリデシル)ホスファイト)、テトラ(トリデシル)4,4’-イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジラウリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(4-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、水添ビスフェノールAペンタエリスリトールホスファイトポリマー、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0049】
また、ホスホナイトとしては、テトラキス(2,4-ジ-iso-プロピルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-n-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-3,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-iso-プロピルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-n-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-3,3’-ビフェニレンジホスホナイト等が挙げられる。
【0050】
亜リン酸エステルの中では、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましく、耐熱性が良好であることと加水分解しにくいという点で、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトが特に好ましい。
【0051】
リン系酸化防止剤(D)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
[フェノール系酸化防止剤(E)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物はフェノール系酸化防止剤(E)を含有することが好ましい。フェノール系酸化防止剤を含有することで、色相劣化や、熱滞留時の機械物性の低下を抑制することができる。
【0053】
フェノール系酸化防止剤(E)としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。その具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオナミド)、2,4-ジメチル-6-(1-メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3’’,5,5’,5’’-ヘキサ-tert-ブチル-a,a’,a’’-(メシチレン-2,4,6-トリイル)トリ-p-クレゾール、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン,2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール等が挙げられる。
【0054】
中でも、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。このようなフェノール系酸化防止剤の市販品としては、例えば、BASF社製「イルガノックス1010」、「イルガノックス1076」、ADEKA社製「アデカスタブAO-60」、「アデカスタブAO-50」等が挙げられる。
【0055】
フェノール系酸化防止剤(E)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0056】
フェノール系酸化防止剤(E)を含有する場合、その含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、好ましくは0.0001質量部以上、より好ましくは0.001質量部以上、さらに好ましくは0.01質量部以上であり、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.4質量部以下、さらに好ましくは0.3質量部以下、中でも0.2質量部以下、0.1質量部以下、0.08質量部以下、特に好ましくは0.05質量部以下である。このような範囲で、架橋アクリル系重合体粒子(B)、酸性リン酸エステル化合物(C)及びリン系酸化防止剤(D)の前記特定量と組み合わせることにより、高耐熱で滞留安定性に優れ、全光線透過率と拡散性をバランス良く満足するポリカーボネート樹脂組成物とすることができる。
【0057】
[紫外線吸収剤(F)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、紫外線吸収剤(F)を含有することが好ましい。
紫外線吸収剤(F)としては、例えば、酸化セリウム、酸化亜鉛などの無機紫外線吸収剤;ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、サリシレート化合物、シアノアクリレート化合物、トリアジン化合物、オギサニリド化合物、マロン酸エステル化合物、ヒンダードアミン化合物などの有機紫外線吸収剤などが挙げられる。これらの中では有機紫外線吸収剤が好ましく、ベンゾトリアゾール化合物がより好ましい。有機紫外線吸収剤を選択することで、本発明の樹脂組成物の透明性や機械物性が良好なものになる。
【0058】
ベンゾトリアゾール化合物の具体例としては、例えば、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-[2’-ヒドロキシ-3’,5’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル]-ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチル-フェニル)-ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチル-フェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール)、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-アミル)-ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]等が挙げられ、中でも2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]が好ましく、特に2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾールが好ましい。
【0059】
ベンゾフェノン化合物の具体例としては、例えば、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-5-スルホン酸、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-n-ドデシロキシベンゾフェノン、ビス(5-ベンゾイル-4-ヒドロキシ-2-メトキシフェニル)メタン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン等が挙げられる。
【0060】
サリシレート化合物の具体例としては、例えば、フェニルサリシレート、4-tert-ブチルフェニルサリシレート等が挙げられる。
シアノアクリレート化合物の具体例としては、例えば、エチル-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート、2-エチルヘキシル-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート等が挙げられる。
オギサニリド化合物の具体例としては、例えば、2-エトキシ-2’-エチルオキザリニックアシッドビスアリニド等が挙げられる。
マロン酸エステル化合物としては、2-(アルキリデン)マロン酸エステル類が好ましく、2-(1-アリールアルキリデン)マロン酸エステル類がより好ましい。
【0061】
紫外線吸収剤(F)を含有する場合の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、通常0.05質量部以上、好ましくは0.1質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下である。紫外線吸収剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、耐候性の改良効果が不十分となる可能性があり、紫外線吸収剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、モールドデボジット等が生じ、金型汚染を引き起こす可能性がある。
紫外線吸収剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0062】
[離型剤(G)]
本発明の樹脂組成物は離型剤(G)を含有することも好ましい。
離型剤(G)としては、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200~15000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0063】
脂肪族カルボン酸としては、例えば、飽和または不飽和の脂肪族一価、二価または三価カルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸とは、脂環式のカルボン酸も包含する。これらの中で好ましい脂肪族カルボン酸は、炭素数6~36の一価または二価カルボン酸であり、炭素数6~36の脂肪族飽和一価カルボン酸がさらに好ましい。かかる脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸などが挙げられる。
【0064】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルにおける脂肪族カルボン酸としては、例えば、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、アルコールとしては、例えば、飽和または不飽和の一価または多価アルコールが挙げられる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の一価または多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和一価アルコールまたは脂肪族飽和多価アルコールがさらに好ましい。なお、ここで脂肪族とは、脂環式化合物も包含する用語として使用される。
【0065】
かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2-ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0066】
なお、上記のエステルは、不純物として脂肪族カルボン酸及び/又はアルコールを含有していてもよい。また、上記のエステルは、純物質であってもよいが、複数の化合物の混合物であってもよい。さらに、結合して一つのエステルを構成する脂肪族カルボン酸及びアルコールは、それぞれ、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0067】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0068】
数平均分子量200~15000の脂肪族炭化水素としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャ-トロプシュワックス、炭素数3~12のα-オレフィンオリゴマー等が挙げられる。なお、ここで脂肪族炭化水素としては、脂環式炭化水素も含まれる。また、これらの炭化水素は部分酸化されていてもよい。
これらの中では、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスまたはポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスがさらに好ましい。
また、前記の脂肪族炭化水素の数平均分子量は、好ましくは5000以下である。
なお、脂肪族炭化水素は、単一物質であってもよいが、構成成分や分子量が様々なものの混合物であっても、主成分が上記の範囲内であれば使用できる。
【0069】
ポリシロキサン系シリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、ジフェニルシリコーンオイル、フッ素化アルキルシリコーン等が挙げられる。
【0070】
なお、上述した離型剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0071】
離型剤(G)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上であり、また、通常2質量部以下、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.7質量部以下、さらに好ましくは0.5質量部以下である。離型剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、離型性の効果が十分でない場合があり、離型剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染などが生じる可能性がある。
【0072】
[添加剤等]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、上記した以外のその他の添加剤、例えば、蛍光増白剤、顔料、染料、ポリカーボネート樹脂以外の他のポリマー、難燃剤、耐衝撃改良剤、帯電防止剤、可塑剤、相溶化剤などの添加剤を含有することができる。これらの添加剤は一種又は二種以上を配合してもよい。
ただし、ポリカーボネート樹脂(A)以外の他のポリマーを含有する場合は、その含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、20質量部以下とすることが好ましく、10質量部以下がより好ましく、さらには5質量部以下、特には3質量部以下とすることが好ましい。
【0073】
[ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を広く採用でき、上記した各必須成分、並びに、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、通常240~320℃の範囲である。
【0074】
[成形品]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、上記したポリカーボネート樹脂組成物をペレタイズしたペレットを各種の成形法で成形して成形品を製造することができる。またペレットを経由せずに、押出機で溶融混練された樹脂を直接、成形して成形品にすることもできる。
【0075】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、高耐熱で滞留安定性に優れるので、特に射出成形法により、特に滞留時間の長い、例えば10分以上、さらには15分以上、特には20分以上というような成形品、例えば長さが1mを超えるような、特には1m50cm以上の長尺の成形品を成形するのに特に好適に用いられる。
射出成形の際の樹脂温度は、ポリカーボネート樹脂に一般的な260~300℃よりも高い樹脂温度にて成形することも可能であり、300℃超~400℃の樹脂温度でも可能とする。
【0076】
本発明の樹脂組成物は、滞留安定性に優れるので、滞留時間20分後の樹脂組成物についての、全光線透過率変化(3mm厚、Δ透過率)ヘイズ値変化(3mm厚、ΔHaze)及び単位時間あたり流れ値変化(ΔQ)が、好ましくは以下のようにすることが可能となる。
Δ透過率(%)=|[初期全光線透過率]-[滞留時間20分後の全光線透過率]|
好ましくは3.0%以下、より好ましくは2.5%以下、さらに好ましくは2.0%以下
ΔHaze(%)=|[初期ヘイズ]-[滞留時間20分後のヘイズ]|
好ましくは1.2%以下、より好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.8%以下、中でも0.6%以下、0.5%以下、特に好ましくは0.3%以下。
ΔQ(×10-2cm3/sec)=|[滞留時間20分後のQ値]-[初期Q値]|
好ましくは4以下、より好ましくは3.5以下、さらに好ましくは3以下、中でも2.5以下、2以下、特に好ましくは1.5以下。
また、本発明の樹脂組成物は、全光線透過率(%)は、その初期値として好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上、特に好ましくは80%以上である。
ヘイズは、その初期値として好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは96%以上である。
Q値(×10-2cm3/sec)は、その初期値として好ましくは11以上、より好ましくは13以上、さらに好ましくは14以上である。
【0077】
全光線透過率、ヘイズ、Q値の測定法とそのΔ値の求め方の詳細は、実施例に記載する通りである。
【0078】
成形品としては、特に照明用部品または光学用部材に好適であり、LED、有機EL、白熱電球、蛍光ランプ、陰極管等の光源を直接又は間接に利用する機器・器具の部品が挙げられ、特に光路長が長い、例えば30cm超、50cm以上、80cm以上、中でも100cm以上、120cm以上、特には150cm以上というような長尺の光学用部材に特に好適である。
代表的なものとして、片側の光源から入射した光を、内面反射を利用して他方へ効率よく導くライトガイドが挙げられ、車両(自動車や電車)あるいは航空機に内装される照明用ライトガイドや照明用拡散カバーがある。その他、車両用ヘッドランプにおけるライトガイド;各種照明用の照明用ライトガイドや拡散カバー;電飾看板;各種ディスプレイ装置;液晶テレビ、携帯電話や携帯端末等の各種携帯機器、パソコン等に用いられる導光板;スキャナー光源ユニット、各種レンズ等、にも好適に使用することができる。
【0079】
また、成形品としての形状は、長尺状、平板状、棒状、筒状、らせん状、レンズ状、またフィルム状やシートであってもよい。
【実施例0080】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
以下の実施例及び比較例で使用した原料は、表1の通りである。
【0081】
【0082】
なお、上記した架橋アクリル系重合体粒子等の10%重量減少温度は、株式会社日立ハイテクサイエンス製熱量測定装置「TG/DTA7200」にて窒素雰囲気下で、サンプル10mgを40℃から昇温速度10℃/分で昇温した時に、室温時重量を100%とした時に重量減少が10%となる時の温度を測定した。
【0083】
(実施例1~12、比較例1~13)
[樹脂組成物ペレットの製造]
上記した各成分を、後記表2以下に記した割合(質量部)で配合し、タンブラーにて20分混合した後、二軸押出機(芝浦機械社製「TEM26SX」)に供給し、スクリュー回転数200rpm、吐出量25kg/時、バレル温度280℃の条件で混練し、ストランドカットによりペレットを得た。
【0084】
[全光線透過率(単位:%)、ヘイズ(単位:%)]
上記の方法で得られたペレットを、120℃で5時間、熱風循環式乾燥機により乾燥した後、射出成形機(日本製鋼所社製「J55-60H」)により、シリンダー温度330℃、金型温度80℃、スクリュー回転数100rpm、射出速度40mm/sの条件下にて、3段型プレート[90mm×50mm×厚みがゲート側から3mm(長さ20mm)、2mm(長さ45mm)、1mm(長さ25mm)]を成形した。この際、通常サイクルでの成形後、成形機を一時停止させ、射出シリンダー内に溶融樹脂を20分間保持した後、上記3段型プレートを成形した。
上記の通常サイクルで得られた3段型プレートの3mm厚部分を、日本電色工業社製ヘイズメーター「SH7000」を用いて、JIS K7136、JIS K7361に基づき、全光線透過率(初期全光線透過率)及びヘイズ(初期ヘイズ)を測定した。
さらに、射出シリンダー内に溶融樹脂を20分間保持した後に成形した3段型プレートの3mm厚部分の全光線透過率(初期全光線透過率)及びヘイズ(初期ヘイズ)を上記と同様にして測定し、以下の式により、Δ透過率、ΔHazeを求めた。
Δ透過率(%)=|[初期全光線透過率]-[滞留時間20分後の全光線透過率]|
ΔHaze(%)=|[初期ヘイズ]-[滞留時間20分後のヘイズ]|
【0085】
[単位時間あたり流れ値(Q値、単位:×10-2cm3/sec)]
上述した方法で得られた通常サイクルの3段型プレートを120℃で5時間乾燥した後、高架式フローテスターを用いて、280℃の温度、荷重160kgfの条件下で組成物の単位時間あたりの流れ値(初期Q値、単位:×10-2cm3/sec)を測定した。
さらに上述した方法で得られた射出シリンダー内に溶融樹脂を20分間保持した後に成形した3段型プレートのQ値(滞留時間20分後のQ値)を上記と同様にして測定し、以下の式により、ΔQ値を求めた。
ΔQ=|[滞留時間20分後のQ値]-[初期Q値]|
ΔQ値が大きいほどポリカーボネート樹脂の分解が進行し、滞留安定性が悪いことを示す。
【0086】
以上の評価結果を、下記表2以下に示す。
【0087】
【0088】
【0089】
なお、上記表3の比較例5では、成形品に多量のシルバーが発生し、正確な光学特性を評価することが困難であった。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、高耐熱で滞留安定性に優れ、全光線透過率と拡散性をバランス良く満足するポリカーボネート樹脂組成物であるので、各種の成形品に好適に利用できる。