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特開2023-6583炭化ケイ素半導体装置およびその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023006583
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】炭化ケイ素半導体装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20230111BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20230111BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
H01L29/78 652K
H01L29/78 652T
H01L29/78 652F
H01L29/78 652S
H01L29/78 653A
H01L29/78 652J
H01L29/78 658F
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021109264
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】末松 知夏
(72)【発明者】
【氏名】須藤 建瑠
(72)【発明者】
【氏名】小林 慶亮
(57)【要約】
【課題】SiCエピタキシャル基板の上面に形成されたトレンチを有する縦型のSiCパワーMISFETを備えた炭化ケイ素半導体装置の性能を向上させる。
【解決手段】半導体層の上面に形成され、半導体層の上面に沿う第1方向において対向する側面9aおよび側面9bを備えたトレンチ9と、トレンチ9の内側に絶縁膜7を介して形成されたゲート電極2と、側面9aに接するボディ層5と、トレンチ9の底面の側面9a側の角部を覆い、トレンチ9の底面の側面9b側の角部から離間するガード領域8と、を有し、第1方向において、側面9bを覆う絶縁膜7の膜厚は、側面9aを覆う絶縁膜7の膜厚よりも大きい炭化ケイ素半導体装置を形成する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の炭化ケイ素基板と、
前記炭化ケイ素基板上に形成され、炭化ケイ素を含む前記第1導電型の半導体層と、
前記半導体層の上面に形成された、前記第1導電型の第1半導体領域と、
前記半導体層内において前記第1半導体領域の下端から前記半導体層の途中深さに亘って形成された、前記第1導電型と異なる第2導電型の第2半導体領域と、
前記第2半導体領域の下の前記半導体層内に形成された、前記第1導電型の第3半導体領域と、
前記半導体層の前記上面から前記第3半導体領域の途中深さに亘って形成され、前記半導体層の前記上面に沿う第1方向において対向する第1側面および第2側面を備えたトレンチと、
前記トレンチの内側に絶縁膜を介して形成されたゲート電極と、
前記炭化ケイ素基板内に形成された、前記第1導電型の第4半導体領域と、
前記第2半導体領域よりも下の前記第3半導体領域内に形成された前記第2導電型の第5半導体領域と、
を有し、
前記第1半導体領域、前記ゲート電極、前記第2半導体領域および前記第4半導体領域は、電界効果トランジスタを構成し、
前記第1側面は、前記第2半導体領域に接し、前記トレンチと、前記トレンチに接する前記第5半導体領域とのそれぞれは、前記第1方向に複数並んで形成され、
前記第1方向において、前記第1側面と前記第2側面とは、交互に配置され、
前記絶縁膜は、前記第1側面を覆う第1絶縁膜、前記第2側面を覆う第2絶縁膜、および、前記トレンチの底面を覆う第3絶縁膜を有し、
前記第1方向において、前記第2絶縁膜の膜厚は、前記第1絶縁膜の膜厚よりも大きく、
前記第5半導体領域は、前記トレンチの前記第1側面と前記底面の一部とに亘る第1面に接し、前記トレンチの前記第2側面と前記底面の他の一部とに亘る第2面から離間している、炭化ケイ素半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の炭化ケイ素半導体装置において、
前記第1面は、前記電界効果トランジスタの主たる通電経路であるチャネルが形成される面である、炭化ケイ素半導体装置。
【請求項3】
請求項1に記載の炭化ケイ素半導体装置において、
前記第1方向において、前記トレンチの前記第2側面と前記底面との境界から、前記トレンチの前記底面と前記第5半導体領域との境界までの距離は、前記第1方向における前記第2絶縁膜の前記膜厚よりも小さい、炭化ケイ素半導体装置。
【請求項4】
請求項1に記載の炭化ケイ素半導体装置において、
前記半導体層の前記上面に対し垂直な方向において、前記第5半導体領域の上面から前記トレンチの前記底面までの距離は、前記第3絶縁膜の膜厚よりも大きい、炭化ケイ素半導体装置。
【請求項5】
請求項1に記載の炭化ケイ素半導体装置において、
前記第1絶縁膜の前記膜厚は、前記第3絶縁膜の膜厚よりも小さい、炭化ケイ素半導体装置。
【請求項6】
請求項1に記載の炭化ケイ素半導体装置において、
前記第2半導体領域と前記第5半導体領域との間の前記半導体層内に、前記第1導電型の第6半導体領域をさらに有し、
前記第6半導体領域の不純物濃度は、前記第1半導体領域の不純物濃度よりも低く、前記第3半導体領域の不純物濃度よりも高い、炭化ケイ素半導体装置。
【請求項7】
請求項1に記載の炭化ケイ素半導体装置において、
前記半導体層上に形成され、前記第1半導体領域に接続されたソース電極と、
前記第1方向において隣り合う前記第5半導体領域同士の間に形成された、前記第1導電型の第7半導体領域と、
をさらに有し、
前記第5半導体領域および前記第7半導体領域のそれぞれは、前記半導体層の前記上面に沿う方向であって、平面視で前記第1方向に交わる第2方向に延在し、
前記ソース電極は、前記第1方向に延在し、前記第2方向に複数並んで配置されている、炭化ケイ素半導体装置。
【請求項8】
請求項1に記載の炭化ケイ素半導体装置において、
前記半導体層上に形成され、前記第1半導体領域に接続されたソース電極をさらに有し、
複数の前記トレンチのそれぞれは、前記半導体層の前記上面に沿う方向であって、平面視で前記第1方向に交わる第2方向に延在し、
前記ソース電極は、前記第1方向に延在している、炭化ケイ素半導体装置。
【請求項9】
(a)第1導電型の炭化ケイ素基板と、前記炭化ケイ素基板上に形成され、炭化ケイ素を含み、内部に第1導電型の第3半導体領域を有する前記第1導電型の半導体層とを備えた半導体基板を用意する工程、
(b)前記半導体層の上面に、前記第1導電型の第1半導体領域を形成し、前記半導体層内において前記第1半導体領域の下端から前記半導体層の途中深さに亘って、前記第1導電型と異なる第2導電型の第2半導体領域を形成し、前記第2半導体領域よりも下の前記第3半導体領域内に前記第2導電型の第5半導体領域を複数形成する工程、
(c)前記半導体層の前記上面から前記第3半導体領域の途中深さに亘って、前記半導体層の前記上面に沿う第1方向において対向する第1側面および第2側面を備えたトレンチを複数形成する工程、
(d)前記トレンチ9の側面および底面を覆う第1絶縁膜を形成する工程、
(e)前記トレンチの内側に、前記第1絶縁膜を介して導電膜を形成する工程、
(f)前記導電膜のうち、前記第2側面と対向する部分を除去することで、前記導電膜から成るゲート電極を形成する工程、
(g)前記(f)工程で前記導電膜を除去した前記トレンチ内の領域に、第2絶縁膜を埋め込む工程、
を有し、
前記炭化ケイ素基板は、内部に前記第1導電型の第4半導体領域を備え、
前記第1半導体領域、前記ゲート電極、前記第2半導体領域および前記第4半導体領域は、電界効果トランジスタを構成し、
前記第1側面は、前記第2半導体領域に接し、前記トレンチと、前記トレンチに接する前記第5半導体領域とのそれぞれは、前記第1方向に複数並んで形成され、
前記第1方向において、前記第1側面と前記第2側面とは、交互に配置され、
前記第5半導体領域は、前記トレンチの前記第1側面と前記底面の一部とに亘る第1面に接し、前記トレンチの前記第2側面と前記底面の他の一部とに亘る第2面から離間している、炭化ケイ素半導体装置の製造方法。
【請求項10】
(a)第1導電型の炭化ケイ素基板と、前記炭化ケイ素基板上に形成され、炭化ケイ素を含み、内部に第1導電型の第3半導体領域を有する前記第1導電型の半導体層とを備えた半導体基板を用意する工程、
(b)前記半導体層の上面に、前記第1導電型の第1半導体領域を形成し、前記半導体層内において前記第1半導体領域の下端から前記半導体層の途中深さに亘って、前記第1導電型と異なる第2導電型の第2半導体領域を形成し、前記第2半導体領域よりも下の前記第3半導体領域内に前記第2導電型の第5半導体領域を複数形成する工程、
(c)前記半導体層の前記上面から前記第3半導体領域の途中深さに亘って、前記半導体層の前記上面に沿う第1方向において対向する第1側面および第2側面を備えたトレンチを複数形成する工程、
(d)前記第1側面を覆う第1絶縁膜と、前記第2側面を覆い、前記第1絶縁膜よりも前記第1方向における膜厚が大きい第2絶縁膜と、前記トレンチの底面を覆う第3絶縁膜とを有する絶縁膜を形成する工程、
(e)前記トレンチの内側に、前記絶縁膜を介してゲート電極を形成する工程、
を有し、
前記炭化ケイ素基板は、内部に前記第1導電型の第4半導体領域を備え、
前記第1半導体領域、前記ゲート電極、前記第2半導体領域および前記第4半導体領域は、電界効果トランジスタを構成し、
前記第1側面は、前記第2半導体領域に接し、前記トレンチと、前記トレンチに接する前記第5半導体領域とのそれぞれは、前記第1方向に複数並んで形成され、
前記第1方向において、前記第1側面と前記第2側面とは、交互に配置され、
前記第5半導体領域は、前記トレンチの前記第1側面と前記底面の一部とに亘る第1面に接し、前記トレンチの前記第2側面と前記底面の他の一部とに亘る第2面から離間している、炭化ケイ素半導体装置の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の炭化ケイ素半導体装置の製造方法において、
前記(d)工程は、
(d1)前記トレンチ内に第4絶縁膜を埋め込む工程、
(d2)前記第4絶縁膜の一部を異方性エッチングにより除去することで、前記第1側面を露出させる工程、
(d3)前記(d2)工程の後、前記第1側面を覆う前記第1絶縁膜を形成する工程、
を有し、
前記第2絶縁膜は、前記第4絶縁膜を含み、
前記第3絶縁膜は、前記第4絶縁膜または前記第1絶縁膜のいずれか一方または両方を含む、炭化ケイ素半導体装置の製造方法。
【請求項12】
請求項10に記載の炭化ケイ素半導体装置の製造方法において、
前記(d)工程は、
(d1)前記トレンチ内に第4絶縁膜を埋め込む工程、
(d2)前記第4絶縁膜の一部を等方性エッチングにより除去することで、前記第1側面を露出させる工程、
(d3)前記(d2)工程の後、前記第1側面を覆う前記第1絶縁膜を形成する工程、
を有し、
前記第2絶縁膜は、前記第4絶縁膜を含み、
前記第3絶縁膜は、前記第4絶縁膜または前記第1絶縁膜のいずれか一方または両方を含む、炭化ケイ素半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワー半導体装置である炭化ケイ素半導体装置であって、特にトレンチ構造を有するもの、および、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体パワー素子には高耐圧のほか、低オン抵抗、低スイッチング損失が要求されるが、現在の主流であるケイ素(Si)パワー素子は理論的な性能限界に近づいている。炭化ケイ素(SiC)はSiと比較して絶縁破壊電界強度が約1桁大きいため、耐圧を保持するドリフト層を約1/10に薄く、不純物濃度を約100倍高くすることで、素子抵抗を理論上3桁以上低減できる。また、Siに対してバンドギャップが約3倍大きいことから高温動作も可能であり、SiC半導体素子は、Si半導体素子を超える性能が期待され、SiCパワーデバイスの開発が進められている。
【0003】
特許文献1(特開2015-72999号公報)には、炭化ケイ素から成るn型の基板と、基板上のn型のドリフト層と、ドリフト層の上にストライプ状の複数形成されたトレンチとを有する半導体装置が記載されている。ここでは、各トレンチ内に絶縁膜を介して形成されたゲート電極と、ドリフト層上に形成され、ドリフト層よりも不純物濃度が高いn型の電流分散層とを有することが記載されている。当該ゲート電極は、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を構成しており、トレンチの底部はp型のボトム層により覆われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-72999号公報
【特許文献2】特開2021-12934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
トレンチを有する構造は、チャネルの面積の増大が可能であり、オン抵抗の減少が期待される。しかし一般的に、オン抵抗と耐圧はトレードオフの関係がある。また、トレンチ内の絶縁膜には大きな電界が掛かるため、絶縁膜の電界を緩和することも重要である。絶縁膜における電界を緩和する技術として、例えば特許文献1や特許文献2に記載されているように、トレンチの底部をp型層で覆う事が有効である。
【0006】
しかし、トレンチの底部全体を覆うp型層を形成すると、隣り合うトレンチ同士の間隔を大きく確保する必要が生じるため、セルピッチが大きくなる。また、特許文献1では、トレンチ底部のp型層の電位が浮遊していることに起因して、サージによりゲート絶縁膜が破壊されることを防ぐため、トレンチとトレンチとの間にさらにp型層を形成している。このp型層はセルピッチを大きくし、さらに、当該p型層から空乏層が形成されるため、オン抵抗が増加する。
【0007】
特許文献2には、特許文献1の構造をベースにチャネルを縦方向とし、かつトレンチの底部がp型のボトム層により覆われている構造が記載されている。しかし、特許文献2の構造では、低オン抵抗を目指してセルピッチを詰める際、トレンチ間隔がJFET領域の幅に影響し、JFET抵抗が高くなる問題がある。
【0008】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願において開示される実施の形態のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0010】
一実施の形態である炭化ケイ素半導体装置は、半導体層の上面に形成され、半導体層の上面に沿う第1方向において対向する第1側面および第2側面を備えたトレンチと、トレンチの内側に絶縁膜を介して形成されたゲート電極と、第1側面に接するボディ層と、トレンチの底面の第1側面側の角部を覆い、トレンチの底面の第2側面側の角部から離間するガード領域と、を有し、第1方向において、第1側面を覆う絶縁膜の膜厚は、第1側面を覆う絶縁膜7の膜厚よりも大きいものである。
【0011】
一実施の形態である炭化ケイ素半導体装置の製造方法は、炭化ケイ素を含む半導体基板の上面側から順に、ソース領域、ボディ層およびドリフト層を形成し、ドリフト層内にガード領域を形成する工程と、当該半導体基板の上面にトレンチおよびトレンチ内のゲート電極を形成する工程とを有するものである。トレンチは、半導体基板の上面に沿う第1方向において対向する第1側面および第2側面を備えている。ここで、ゲート電極の形成工程では、トレンチ内に絶縁膜を介して埋め込まれた導電膜のうち、第2側面に対向する部分を除去することで、第1側面側の導電膜から成るゲート電極を形成する。
【発明の効果】
【0012】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0013】
本発明によれば、炭化ケイ素半導体装置の性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態1である炭化ケイ素半導体装置を示す平面図である。
図2】本発明の実施の形態1である炭化ケイ素半導体装置を示す斜視図である。
図3図1のA-A線における断面図である。
図4図3の一部を拡大する断面図である。
図5】本発明の実施の形態1である炭化ケイ素半導体装置の製造方法を説明する断面図である。
図6図5に続く炭化ケイ素半導体装置の製造方法を説明する断面図である。
図7図6に続く炭化ケイ素半導体装置の製造方法を説明する断面図である。
図8図7に続く炭化ケイ素半導体装置の製造方法を説明する断面図である。
図9図8に続く炭化ケイ素半導体装置の製造方法を説明する断面図である。
図10図9に続く炭化ケイ素半導体装置の製造方法を説明する断面図である。
図11図10に続く炭化ケイ素半導体装置の製造方法を説明する断面図である。
図12】本発明の実施の形態1の変形例1である炭化ケイ素半導体装置を示す断面図である。
図13】本発明の実施の形態1の変形例2である炭化ケイ素半導体装置を示す平面図である。
図14】本発明の実施の形態2である炭化ケイ素半導体装置を示す断面図である。
図15】本発明の実施の形態2である炭化ケイ素半導体装置の製造方法を説明する断面図である。
図16図15に続く炭化ケイ素半導体装置の製造方法を説明する断面図である。
図17図16に続く炭化ケイ素半導体装置の製造方法を説明する断面図である。
図18図17に続く炭化ケイ素半導体装置の製造方法を説明する断面図である。
図19図18に続く炭化ケイ素半導体装置の製造方法を説明する断面図である。
図20】本発明の実施の形態2の変形例である炭化ケイ素半導体装置の製造方法を説明する断面図である。
図21図20に続く炭化ケイ素半導体装置の製造方法を説明する断面図である。
図22図21に続く炭化ケイ素半導体装置の製造方法を説明する断面図である。
図23】比較例である炭化ケイ素半導体装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なときを除き、同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。また、実施の形態を説明する図面においては、構成を分かり易くするために、平面図または斜視図などであってもハッチングを付す場合がある。さらに、実施の形態を説明する図面においては、構成を分かり易くするために、断面図においてハッチングを省略する場合がある。
【0016】
また、「」および「」は、導電型がn型またはp型の相対的な不純物濃度を表記した符号であり、例えば「n--」、「n」、「n」、「n」、「n++」の順にn型不純物の濃度は高くなる。
【0017】
<改善の余地の詳細>
以下に、図23を用いて、改善の余地の詳細について説明する。図23に示すように、比較例では、SiC(炭化ケイ素)から成るn型のドレイン領域12が形成された炭化ケイ素(SiC)基板上に、n型のドリフト層4、n型の電流拡散領域17、p型のボディ層5およびソース領域6が順に形成されている。ドレイン領域12、ドリフト層4、電流拡散領域17、ボディ層5およびn++型のソース領域6から成る半導体基板の上面には、複数のトレンチ9が並んで形成されてる。各トレンチ9の底部は電流拡散領域17の途中深さまで達しており、当該底部を覆うように、半導体基板内にはガード領域8aが形成されている。トレンチ9内にはゲート絶縁膜である絶縁膜7fを介してゲート電極2が形成されており、ゲート電極2の上面は絶縁膜16により覆われている。半導体基板上には、ゲート電極2および絶縁膜16を覆うソース電極1が形成されている。隣り合うトレンチ9のそれぞれの底部のガード領域8a同士は互いに離間しており、それらのトレンチ9同士の間の領域には、JFET領域13が形成されている。ドレイン領域12の下面、つまり半導体基板の下面には、ドレイン電極3が接して形成されている。ゲート電極2、ソース領域6およびドレイン領域12は、SiCパワーMISFET(Metal Insulator Semiconductor Field Effect Transistor)を構成している。
【0018】
比較例のようにトレンチを有する構造は、チャネルの面積を増やし、オン抵抗の減少が期待される。しかし一般的に、オン抵抗と耐圧はトレードオフの関係があり、特にJFET領域を有する場合、JFET領域の幅を狭くすると耐圧が上がる一方、抵抗(JFET抵抗)も高くなる。このため、JFET領域の設計は非常に重要である。さらに、SiCはSiに比べてバンドギャップが広く、高い絶縁破壊強度を有するが、その分絶縁膜に掛かる電界も大きくなるため、絶縁膜の電界を緩和することが重要である。絶縁膜における電界が強いと、ゲート絶縁膜においてリーク電流が生じ、ゲート絶縁膜寿命の低下、およびゲート絶縁膜の絶縁破壊などのデバイス動作不良に繋がる。
【0019】
上記比較例では、トレンチ9の底部をp型のガード領域8aで覆うことで、絶縁膜7fに掛かる電界を緩和している。しかし、オン抵抗の増大を防ぐ観点から、隣り合うガード領域8a同士の間は、所定の距離を有している必要がある。このため、トレンチ9の底部全体を覆うガード領域8aを形成すると、隣り合うトレンチ9同士の間隔を大きく確保する必要が生じる。つまり、隣り合うガード領域8a同士を近づけると、JFET領域の幅を狭くなり抵抗(JFET抵抗)が高くので、このような抵抗の増加を防ぐため、セルピッチを大きく確保する必要がある。
【0020】
また、比較例では、トレンチ9の底部のp型層の電位が浮遊していることに起因して、サージによりゲート絶縁膜が破壊される虞がある。これを防ぐため、トレンチ9とトレンチ9との間にさらにp型層を形成することが考えられる。しかし、このp型層はセルピッチを大きくし、さらに、当該p型層から空乏層が形成されるため、オン抵抗が増加する。
【0021】
このように、トレンチを備えたSiCパワーMISFETでは、オン抵抗の低減と耐圧の確保を両立することが、改善の余地として存在する。
【0022】
そこで、本願の実施の形態では、上述した改善の余地を解決する工夫を施している。以下では、この工夫を施した実施の形態における技術的思想について説明する。
【0023】
(実施の形態1)
以下、トレンチ(溝、凹部)内の側面をチャネル領域として有するSiCパワーMISFETであるトレンチ型MOSFETを例とし、炭化ケイ素半導体装置について図面を用いて説明する。
【0024】
<炭化ケイ素半導体装置の構造>
本実施の形態1による炭化ケイ素半導体装置の構造について図1図4を用いて説明する。図1において、半導体基板上の構造としてソース電極の一部である延在部分を示しているが、半導体基板上の構造である絶縁膜およびゲート電極の一部の図示を省略している。また、図1では半導体基板の上面のソース領域6の図示を省略し、半導体基板の途中深さに形成され、互いに並ぶガード領域8およびJFET領域13を透過して示している。図2では図を分かり易くするため、絶縁膜7(ゲート絶縁膜および層間絶縁膜)とゲート電極2とソース電極1との図示を一部省略している。
【0025】
図1に示すように、本実施の形態の炭化ケイ素半導体装置を構成するセルアレイは、所定の平面レイアウトを有するユニットセルを行列状に複数並べた構成を有している。図1では、1つのユニットセルを一点鎖線で囲んでおり、トレンチ9が複数並んでいる領域であるトレンチ形成領域を破線で囲んでいる。図1に示すX方向およびY方向は、半導体基板の上面(主面)に沿う方向である。つまり、X方向およびY方向は、半導体層の上面に沿う方向であり、炭化ケイ素基板の上面に沿う方向である。X方向およびY方向は、平面視で互いに直交する関係にある。炭化ケイ素半導体装置は、半導体基板上に形成され、Y方向に延在する複数のソース電極1を有している。図1では、Y方向に延在するソース電極1がX方向に複数並んで配置されているが、それらのソース電極1は、ストライプ状に並ぶ複数のソース電極1の上においてセルアレイを覆うソース電極1(図示しない)を介して一体化しており、互いに電気的に接続されている。ソース電極1は、半導体基板の上面に形成されたp++型半導体領域である電位固定領域14に電気的に接続されている。以下の説明で「ソース電極」という場合、特に説明する場合を除き、ソース電極1は平面視でストライプ状に形成された部分(ソースプラグ、導電性接続部)を指し、ストライプ状の複数のソース電極1の上のソース電極1を含まない。
【0026】
1つのユニットセルは、半導体基板の上面に形成されたn++型半導体領域であるソース領域6と、ソース領域6の周囲を囲む電位固定領域14と、平面視でソース領域6と電位固定領域14とに接して半導体基板の上面に形成されたトレンチ9とを有している。図1では、半導体基板の上面に形成されたソース領域6を示していない。ソース領域6は、図1に示すガード領域8およびJFET領域13の直上に形成されている。すなわち、ソース領域6の平面視における形状は、図1に示すガード領域8およびJFET領域13を含む形状と同様である。
【0027】
トレンチ9は、Y方向に延在するソース領域6に接してY方向およびX方向に行列状に並んで形成されている。具体的には、1つのユニットセル内の1つのソース領域6に接して、X方向に2つのトレンチ9が並んで形成され、Y方向に4つのトレンチ9が並んで形成されている。つまり、1つのユニットセルは8つのトレンチ9を有している。各トレンチ9のそれぞれの内側には、ゲート絶縁膜である絶縁膜7を介してゲート電極2が埋め込まれている。本願では、トレンチ9内のゲート電極2をトレンチゲート電極と呼ぶ場合がある。ソース電極1は、ソース領域6およびソース領域6の周囲を囲む電位固定領域14に跨がるように延在している。つまり、延在するソース電極1の直下にはソース領域6および電位固定領域14が形成されている。ソース電極1の直下において、ソース電極1と電位固定領域14とはソース電極1に電気的に接続されている。
【0028】
図1に示す構造では、1つのユニットセルは平面視でX方向における両方の端部を有し、ソース電極1はそれらの端部のうち一方に位置し、それらの端部のうち他方の半導体基板の上面には、電位固定領域14が形成されている。つまり、平面視において、ユニットセルのX方向の両側の端部のうち、ソース電極1が形成されている端部の反対側の端部は、ソース領域6と離間している。このため、X方向において、第1のユニットセルと一方の側で隣り合う第2のユニットセルとの間では、ソース領域6同士は接続されており、第1のユニットセルと他方の側で隣り合う第3のユニットセルとの間では、ソース領域6同士は互いに離間している。
【0029】
図1に示すように、1つのユニットセルは、X方向において隣り合う2つのソース電極1のうち、1つのソース電極1の中心から、それらのソース電極1同士の中間までの範囲を占めている。また、1つのユニットセルは、Y方向において交互に並ぶソース領域6および電位固定領域14のうち、1つのソース領域6と、そのソース領域6の周囲の電位固定領域14とから成る範囲を占めている。平面視において、このようなユニットセルはY方向に複数並んでおり、X方向において反転しながら並んでいる。つまり、X方向で隣り合うユニットセルは、互いの境界線を軸として線対称の平面レイアウトを有している。言い換えれば、X方向で隣り合うユニットセルのそれぞれの構造は、平面視において線対称の関係にある。
【0030】
トレンチ9はここではX方向に延在しており、これにより、容易にSiCパワーMISFETのチャネル幅を広げることができる。このようなチャネル幅の増大は、トレンチゲート電極がソース電極1と同様にY方向に延在するトレンチ型MOSFETでは実現が困難である。これに対し、本実施の形態では、島状のトレンチゲート電極をY方向において互いに離間させて配置しているため、トレンチ9をX方向に延在させることができ、容易にチャネル幅を増大させることができる。その結果、SiCパワーMISFETのオン抵抗を低減することができる。
【0031】
ここでは、トレンチ9はトレンチ形成領域内で複数並列されている。これにより、チャネル幅を増大させ、損失を低減できる。
【0032】
また、ソース電極1(ソースコンタクト領域)とトレンチ形成領域とが互いに平行に配置され、JFET領域13がソース電極1と直交する方向に配置されている。これにより、ソースコンタクト領域、トレンチ形成領域、およびJFET領域13のそれぞれを独立した設計が可能であるため、設計柔軟性を向上できる。特に、JFET領域13がソース電極1と独立なのでソース電極1と独立設計が可能で、JFET領域13のピッチを狭くし、JFET領域13の本数を増やせる。
【0033】
図2および図3に示すように、本実施の形態の炭化ケイ素半導体装置は、n型の炭化ケイ素(SiC)エピタキシャル基板(以下、SiCエピタキシャル基板または半導体基板と呼ぶ)を有している。SiCエピタキシャル基板(半導体基板)は、炭化ケイ素を含むn型の炭化ケイ素基板と、炭化ケイ素基板上にエピタキシャル成長法により形成されたn型のエピタキシャル層(半導体層)とにより構成される積層基板である。エピタキシャル層は、SiCを含む半導体層である。本願の各図では、エピタキシャル層を主に構成するn型半導体領域であるドリフト層4を示し、ドリフト層4の下に、n型半導体領域の炭化ケイ素基板により構成されるドレイン領域12を示している。つまり、図2および図3並びにその他の断面図において、ドレイン領域12として示されている部分は炭化ケイ素基板である。
【0034】
このように、半導体基板内にはドレイン領域12が形成されており、半導体基板内において、ドレイン領域12上にはドレイン領域12に接してドリフト層4が形成されている。ドレイン領域12のn型不純物濃度は、ドリフト層4のn型不純物濃度より高い。エピタキシャル層内には、ドリフト層4、ボディ層5、ソース領域6、ガード領域8、ドレイン領域12、JFET領域13および電位固定領域14(図1参照)が形成されている。図2および図3には、電位固定領域14は示していない。
【0035】
ドレイン領域12の下面、つまり半導体基板の下面には、ドレイン電極3が接して形成されている。すなわち、半導体基板の下面はドレイン電極3に覆われており、ドレイン電極3はドレイン領域12に電気的に接続されている。ドレイン電極3は、例えば金(Au)を含む積層導体膜から成る。半導体基板の上面(エピタキシャル層の上面)には、半導体基板の上面から所定の深さに亘ってソース領域6が形成されており、ソース領域6とドリフト層4との間には、ソース領域6の下面に接して、p型半導体領域であるボディ層5が形成されている。ソース領域6は、下記の電流拡散領域17よりも高いn型不純物濃度を有しており、ソース電極1に電気的に接続されている。ボディ層5の下面は、ドリフト層4に接している。
【0036】
トレンチ9は、半導体基板の上面からドリフト層4内の途中深さに亘って形成されており、X方向に延在し、Y方向に複数並んで配置されている。トレンチ9のY方向における両側の側面には、下から順にドリフト層4、ボディ層5およびソース領域6が接している。
【0037】
トレンチ9内には、絶縁膜7を介してゲート電極2が埋め込まれている。ただし、トレンチ9内の絶縁膜7の膜厚は、平面視におけるトレンチ9の短手方向(Y方向)において、トレンチ9の一方の側面側と他方の側面側とで同じではない。図3に示すように、トレンチ9は、Y方向において互いに対向する側面9a、9bを有している。なお、トレンチ9の側面はテーパーを有していることが考えられ、その場合、トレンチ9のX方向およびY方向の幅は、下側よりも上側の方が大きい。このため、側面9aに対して垂直な線は、側面9bに対して垂直には交わらないが、そのような場合でも、本願では側面9a、9bは互いに対向するものとして説明する。
【0038】
ここでは、トレンチ9はY方向においてその平面レイアウトを反転させることなく複数並んでいる。したがって、隣り合うトレンチ9のうち、一方のトレンチ9の側面9aは、他方のトレンチ9の側面9bと隣り合っている。つまり、隣り合うトレンチ9のうち、一方のトレンチ9の側面9aと他方のトレンチ9の側面9bとの間には、他のトレンチ9、絶縁膜7およびゲート電極2はいずれも介在していない。したがって、Y方向において、側面9aと側面9bとは、交互に配置されている。
【0039】
また、絶縁膜7は、絶縁膜7a、7bおよび10を含んでいる。絶縁膜7aは、トレンチ9の全側面、底面および半導体基板の上面のそれぞれを連続的に覆う薄い膜である。ゲート電極2は、トレンチ9内から、側面9a側の半導体基板上(ソース領域6上)に亘って形成されている。半導体基板上(ソース領域6上)において、ゲート電極2は、半導体基板上に順に形成された絶縁膜10、7aから成る積層膜を介して形成されている。側面9bを覆う絶縁膜7aとトレンチ9内のゲート電極2とは互いに離間しており、それらの間には、絶縁膜7bの一部が埋め込まれている。トレンチ9の外、つまり半導体基板上の絶縁膜7bは、絶縁膜7a、10およびゲート電極2を覆う層間絶縁膜である。つまり、ゲート電極2、絶縁膜7aおよび7bは、いずれもトレンチ9内から半導体基板上に亘って形成されている。
【0040】
トレンチ9内において、ゲート電極2と側面9bとの間には絶縁膜7a、7bが形成されているのに対し、ゲート電極2と側面9aとの間には絶縁膜7aが形成されているのみであり、7bは形成されていない。このため、図4に示すように、側面9bを覆う絶縁膜7のY方向の膜厚bは、側面9aを覆う絶縁膜7のY方向の膜厚aより大きく、ゲート電極2はトレンチ9内において側面9a側に寄って形成されている。層間絶縁膜である絶縁膜7の上面は平坦化されており、当該上面上には、ソース電極1が形成されている。図1に示すソース電極1は、絶縁膜7を貫通してソース領域6および電位固定領域14に接続されている。図2および図3に示す絶縁膜7上のソース電極1は、図1に示すコンタクトプラグである複数のソース電極1のそれぞれと一体となっている。
【0041】
図示しない領域において、電位固定領域14の下面はボディ層5に接している。電位固定領域14は、ボディ層5およびガード領域8のいずれよりも高いp型不純物濃度を有している。ボディ層5は電位固定領域14を介してソース電極1に電気的に接続されているため、ソース電極1からボディ層5にソース電圧を印加することができる。
【0042】
また、ガード領域8およびJFET領域13は、X方向に延在し、Y方向に複数並んでいる。つまり、ガード領域8およびJFET領域13のそれぞれはストライプ状に並んでいる。したがって、側面9aがボディ層5に接するトレンチ9と、当該トレンチ9に接するボディ層5とのそれぞれは、Y方向に複数並んで形成されている。図示していない領域では、ガード領域8は電位固定領域14を介してソース電極1に電気的に接続されているため、ソース電極1からガード領域8にソース電圧を印加することができる。
【0043】
ここで、図1図2および図3に示すように、ドリフト層4内には、ボディ層5およびドレイン領域12のそれぞれから離間してp型半導体領域であるガード領域8が形成されている。ガード領域8のp型不純物濃度は、電位固定領域14のp型不純物濃度よりも低く、ボディ層5のp型不純物濃度より高い。ガード領域8は、複数のトレンチ9のそれぞれに接して1つずつ形成されている。1つのトレンチ9に接するガード領域8はX方向に延在している。ガード領域8は、トレンチ9の底面および側面9aに接しており、側面9bには接していない。また、ガード領域8は、トレンチ9の底面のうち、側面9b近傍の底面からは離間している。つまり、ガード領域8は、トレンチ9の側面9a側の角部を覆うように形成されており、側面9b側の角部は露出している。言い換えれば、ガード領域8は、トレンチ9の側面9aとトレンチ9の底面の一部とに亘る第1面に接し、前記トレンチの側面9bとトレンチ9の底面の他の一部とに亘る第2面から離間している。
【0044】
なお、ここでいうトレンチ9の角部とは、トレンチ9の底面と側面との境界を含む当該境界近傍を指す。トレンチ9の底面と側面とが曲面により滑らかに接続されている場合でも、本願では当該局面部分を角部と呼ぶ。1つのトレンチ9の角部を覆うガード領域8は、他のトレンチ9とは離間している。トレンチ9の底面はガード領域8の底面より上に位置し、ガード領域8の最上面より下に位置する。また、X方向において、トレンチ9の側面9aは、ガード領域8の両側の側面の相互間に位置する。
【0045】
ドリフト層4内には、n型またはn型の半導体領域であるJFET(Junction Field Effect Transistor)領域13が、Y方向においてガード領域8と並んで形成されている。具体的には、ボディ層5の下において、JFET領域13がガード領域8と隣接している。JFET領域13は、ソース電極1の直下において、ガード領域8と並んでX方向に延在している。JFET領域13は、Y方向で隣り合うガード領域8同士の間に位置する領域である。
【0046】
JFET領域13のn型不純物濃度は、ドリフト層4のn型不純物濃度と同等であるか、または、ドリフト層4のn型不純物濃度より高い。また、JFET領域13のn型不純物濃度は、ソース領域6のn型不純物濃度よりも低い。JFET領域13は、SiCパワーMISFETがオフ状態のときに、隣り合うガード領域8の対向する側面のそれぞれから空乏層が延び、それらの空乏層が互いに接することで電流経路が閉じる領域である。
【0047】
図4に示すように、トレンチ9の底面とゲート電極2との最短距離であるゲート電極2の直下の絶縁膜7(7a)の膜厚cは、側面9aを覆う絶縁膜7のY方向の膜厚aよりも大きい。これにより、トレンチ9の底部から絶縁膜7に掛かる電界を緩和できる。膜厚cは、絶縁膜7のうち、トレンチ9の底面を覆う絶縁膜の、半導体基板の上面に対して垂直な方向における厚さである。膜厚cは、例えば50~500nmである。
【0048】
また、Y方向において、トレンチ9の側面9bから、当該トレンチ9に接するガード領域8までの最短距離である距離dは、膜厚bよりも大きい。このため、トレンチ9の側面9b側の角部近傍の絶縁膜7の電界を緩和できる。距離dは、トレンチ9の側面9bとトレンチ9の底面との境界から、トレンチ9の底面とガード領域8との境界までの距離である。距離dは、例えば100~500nmである。
【0049】
また、半導体基板の厚さ方向(半導体基板の上面に対して垂直な方向)において、ガード領域8の上面(最上面)からトレンチ9の底面までの距離eは、膜厚cよりも大きい。このことは、ガード領域8が、トレンチ9の側面9b側の角部を覆い、さらに、ゲート電極2の側面9b側の角部を覆っていることを意味する。これにより、トレンチ9の側面9a側の角部の絶縁膜7の電界を緩和できる。距離eは、例えば100~1000nmである。
【0050】
<炭化ケイ素半導体装置の動作>
次に、図4を用いて、本実施の形態のSiCパワーMISFETの動作について説明する。SiCパワーMISFETは、少なくともドレイン領域12、ソース領域6、ボディ層5およびゲート電極2を有している。SiCパワーMISFETがオン状態であるとき、図4に示すように、トレンチ9の側面9aと隣接するボディ層5内にはチャネルが形成される。これに対し、トレンチ9の側面9bと隣接するボディ層5内にはチャネルが形成され難い。これは、トレンチ9の側面9bを覆う絶縁膜7が、側面9aを覆う絶縁膜7より大きいためである。また、トレンチ9の側面9bを覆う絶縁膜7が、側面9aを覆う絶縁膜7より大きいことに起因して、側面9bと隣接するドリフト層4内にはキャリア(ここでは電子)が蓄積される蓄積層が形成される。
【0051】
その結果、SiCパワーMISFETがオン状態であるとき、ドレイン領域12側から流れる電流は、互いに隣り合うトレンチ9同士の間のドリフト層4内において、一方のトレンチ9の側面9bの近傍の蓄積層に流れ込み易い。オン状態において、電流は他方のトレンチ9の側面9aに隣接するボディ層5内に形成されたチャネル内を流れる。したがって、図4に太い線で示すように、電流はドリフト層4内において、トレンチ9の側面9bの近傍の蓄積層を流れ、ボディ層5内において、他のトレンチ9の側面9a近傍に形成されたチャネル内を流れる。隣り合うトレンチ9同士の間のボディ層5内においてチャネルを流れる電流の密度は、隣り合うトレンチ9同士の間のドリフト層4内において流れる電流の密度よりも高い。したがって、SiCパワーMISFETの主たる電流経路は、トレンチ9の側面9b側ではなく側面9a側に存在するといえる。
【0052】
また、SiCパワーMISFETがオフ状態のときには、チャネルが形成されないため、電流は流れない。ただし、オフ時のソース・ドレイン間における微小電流の抑制および耐圧向上のため、トレンチ9の下にガード領域8およびJFET領域13を設けている。すなわち、ガード領域8を設けることにより、SiCパワーMISFETがオフ状態のときには、隣り合うガード領域8から延びる空乏層が、それらのガード領域8同士の間のJFET領域13内で空乏層が閉じるため、ソース・ドレイン間の電流経路が遮断される。つまり、ガード領域8は、その周囲に発生する空乏層を、隣り合うガード領域8同士の間で接続させ、これにより微小電流の抑制および耐圧向上を実現する役割を有している。よって、素子の低抵抗化を目的としてドリフト層4の不純物濃度を高めても、オフ時の耐圧を確保することができる。また、ガード領域8は、トレンチ9の角部近傍に電界が集中し、エピタキシャル層とゲート電極2との間で絶縁破壊が起きることを防ぐ役割を有している。
【0053】
<炭化ケイ素半導体装置の製造方法>
次に、本実施の形態の炭化ケイ素半導体装置の製造方法について、図5図11を用いて説明する。以下で説明する極性はp型とn型とを反転してもよい。
【0054】
まず、図5に示すように、炭化ケイ素基板(ウェハ)、つまりSiCバルク基板を用意する。炭化ケイ素基板の上面の面方位はSi面、C面またはその他の面方位であり、当該上面のオフ角は4度である。炭化ケイ素基板は、昇華法を用いて作製した基板でも、溶液法を用いた基板でも、ガス成長法を用いた基板でも、既にエピタキシャル層を積んだ基板でもよい。後述するエピタキシャル成長工程の前に、化学的機械研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)を実施してもよい。炭化ケイ素基板のn型不純物濃度は、例えば1×1018cm-3~1×1021cm-3であり、ここでは例えば1×1018cm-3とする。炭化ケイ素基板結晶型は4H-SiCでも6Hでも3Cでもよい。ここでは、上面にオフ角の存在するウェハを用いる事が好ましいが、ジャスト基板を用いてもよい。
【0055】
次に、炭化ケイ素基板上に、エピタキシャル成長工程により、エピタキシャル層を形成する。すなわち、SiHとCとをキャリアガスにHを用いて1500℃以上の温度で加熱してエピタキシャル成長を行う。これにより、炭化ケイ素基板上にエピタキシャル層を形成する。この時のエピタキシャル層の不純物濃度および膜厚は、作製するデバイスによって異なる。当該不純物濃度は、例えば1×1014cm-3~1×1018cm-3程度、当該膜厚は、例えば数μmから数十μmとする。また、エピタキシャル層を形成する前に、炭化ケイ素基板内に高濃度のバッファ層を形成してもよい。バッファ層の不純物濃度は1×1018cm-3程度である。このエピタキシャル層は、ドリフト層4とも呼ばれる。
【0056】
次に、イオン注入領域を形成する工程について説明する。p型の注入イオンはAl(アルミニウム)またはB(ボロン)である。n型の注入イオンはN(窒素)またはP(リン)である。
【0057】
ドリフト層4の上面からドリフト層4内の所定の深さに亘って、p型のボディ層、p++型の電位固定領域14(図1参照)、p型のガード領域8、JFET領域13、および、n++型のソース領域6をそれぞれイオン注入により形成する。ボディ層5はエピタキシャル成長法で形成してもよい。ソース領域6と電位固定領域14とは、SiCエピタキシャル基板であるウェハの上面(半導体基板の上面)に接している。
【0058】
ボディ層5はソース領域6と接しており、ソース領域6よりも深く形成される。また、ボディ層5は電位固定領域14と電気的に接続されている。ガード領域8はボディ層5よりも深いドリフト層4内に複数並んで形成される。ガード領域は電位固定領域14と電気的に接続されている。JFET領域13は、ボディ層5とドリフト層4とを繋ぐ領域であり、互いに隣り合うガード領域8同士の間に挟まれる領域である。JFET領域13を形成するためのイオン注入を行わず、隣り合うガード領域8の間の領域をJFET領域13とみなしてもよいが、低抵抗化のために、イオン注入を行ってJFET領域13を形成してもよい。なお、本実施の形態ではSiCパワーMISFETが動作する最小限の構成について説明したが、例えばターミネーション領域などの機能を付加する構造を作製してもよい。
【0059】
続いて、炭化ケイ素基板およびエピタキシャル層から成る半導体基板の周囲に、不純物活性化アニールのキャップ材である炭素膜を堆積させる。その後、不純物活性化アニールを、例えば1600~1800℃の温度で行う。その後、キャップ材の炭素層を酸素プラズマアッシングにより除去する。このアニールは、半導体基板の表面の荒れを防ぐ効果を奏する。この後、さらに清浄な表面を得る為に、半導体基板の表面を覆う熱酸化膜を形成した後、希釈フッ酸溶液を用いて当該熱酸化膜を除去してもよい。
【0060】
次に、図6に示すように、トレンチ9を形成する。ここでは、半導体基板の上面に、ソース領域6およびボディ層5を貫通し、ドリフト層内に底部が収まるようなトレンチ9を、絶縁膜10をハードマスクとして用いたエッチングにより形成する。トレンチ9は、Y方向における一方の側面9aと、他方の側面9bとを有している。また、トレンチ9の側面9a側の底面は、1つのガード領域8の途中深さに達している。一方、トレンチ9の側面9b側の底面は、ガード領域8から離間している。この後、エッチングした表面の清浄化のための処理を行ってもよい。当該処理は、例えば、トレンチ9の表面を含む半導体基板の表面を覆う熱酸化膜を形成した後、当該熱酸化膜を希釈フッ酸溶液を用いて除去するものである。
【0061】
次に、図7に示すように、半導体基板上にゲート絶縁膜を構成する絶縁膜7aを形成する。絶縁膜7aの厚さは、例えば10~100nm程度である。絶縁膜7aは、例えば堆積酸化絶縁膜から成る。堆積法により形成された絶縁膜7aの膜厚は、側面9a、9bのそれぞれを覆う部分より、トレンチ9の底面を覆う部分の方が大きくなる。
【0062】
次に、図8に示すように、半導体基板上に、厚さ100~300nm程度のn型多結晶シリコン膜である導電膜2aを形成する。ここでは、導電膜2aを例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法により堆積する。これにより、トレンチ9内には、絶縁膜7aを介して導電膜2aが埋め込まれる。続いて、フォトリソグラフィ技術およびドライエッチング法を用いて、導電膜2aをパターニングし、これにより、トレンチ9の外の絶縁膜7aの上面の一部を露出させる。
【0063】
次に、図9に示すように、半導体基板上にフォトレジスト膜から成るレジストパターン20を形成する。レジストパターン20は、平面視において、トレンチ9内の側面9b側の導電膜2aを露出し、トレンチ9内の側面9a側の導電膜2aを覆うものである。
【0064】
次に、図10に示すように、レジストパターン20をマスクとして用いてドライエッチング(異方性エッチング)を行い、その後レジストパターン20を除去する。ここでは、導電膜2aのうち、側面9bと対向する部分を除去する。このようにして、トレンチ9内の側面9b側の導電膜2aが除去され、トレンチ9内の側面9a側の導電膜2aから成るゲート電極2が形成される。
【0065】
次に、図11に示すように、ゲート電極2を覆うように、層間膜である絶縁膜7bを形成する。絶縁膜7bは、例えば酸化シリコン膜から成り、例えばCVD法により形成する。これにより、図10を用いて説明したエッチング工程によりトレンチ9内の導電膜2aが除去された領域には、絶縁膜7bが埋め込まれる。絶縁膜10、7aおよび7bは、絶縁膜7を構成している。
【0066】
続いて、ソース領域6および電位固定領域14とコンタクトを取るための接続孔を絶縁膜7に開口する。すなわち、絶縁膜7上に形成したレジストパターンをマスクとして用いて絶縁膜7をエッチングすることで、半導体基板の上面を露出する接続孔(開口部)を形成する。次に、半導体基板上にシリサイド用金属膜を堆積させ、例えば、700℃~1000℃のアニール処理によりシリサイド化を行い、これにより、接続孔の底面においてソース領域6および電位固定領域14のそれぞれの上面に亘って半導体基板の上面に接するシリサイド層(図示しない)を形成する。当該シリサイド層は、ソースベース共通コンタクトである。その後、ゲート電極2とコンタクトを取るための接続孔を絶縁膜7に開口する。すなわち、絶縁膜7上に形成したレジストパターンをマスクとして用いて絶縁膜7をエッチングすることで、ゲート電極2の上面を露出する接続孔(開口部)を形成する。
【0067】
続いて、絶縁膜11のソース領域6上の接続孔内を埋め込み、絶縁膜11の上面を覆うソース電極1を形成する。その後、半導体基板の下面側のドレイン領域12の下面もシリサイド化して、ドレインコンタクトを形成し、続いて、ドレイン電極3を形成する。シリサイド用金属膜、ソース電極1およびドレイン電極3には、例えばNi(ニッケル)またはAl(アルミニウム)などの材料を用いる。その後、デバイス保護の為に絶縁体から成る表面保護膜により、半導体基板の表面全体を覆う。その後、各電極への配線を行う工程を経て、本実施の形態の炭化ケイ素半導体装置が完成する。
【0068】
<炭化ケイ素半導体装置の効果>
本実施の形態では、オン抵抗の低減とゲート絶縁膜における電界の緩和を目的として、断面における構造が左右非対称なゲート絶縁膜を形成している。ここでは、図3に示すように、絶縁膜7の膜厚bが膜厚aより大きく、トレンチ型のSiCパワーMISFETの主たる通電経路となるチャネル形成面の下のトレンチ角部における絶縁膜7の下に、p型のガード領域8を形成している。
【0069】
SiCパワーMISFETのオン状態においては、側面9bに接するn型領域(ここではドリフト層4)に蓄積層が形成され、電流は側面9b近傍の蓄積層を通って、側面9aに接するボディ層5に形成される反転層に入り、ソース領域6からソース電極1へと流れる。これにより、オン抵抗の低減が可能である。
【0070】
また、オフ状態では、側面9aに接するトレンチ角部はガード領域8に守られ、電界集中が起こらず、側面9bに接するトレンチ角部は厚い絶縁膜7があるため電界が緩和される。よって、信頼性が向上する。
【0071】
また、ここでは、トレンチ9の底部のガード領域8は、トレンチ9の片側(側面9a側)の小さい領域に形成しており、トレンチ9のもう一方の片側(側面9b側)にはガード領域8を形成していない。したがって、トレンチ9の底面全体をガード領域8a(図23参照)で覆う比較例に比べ、隣り合うトレンチ9同士の間隔を狭めることができる。したがって、セルピッチを縮小することができ、オン抵抗を低減できる。したがって、オン抵抗の低減と耐圧の確保を両立することができ、上述した改善の余地を解決できる。
【0072】
また、ここでは、ガード領域8はストライプ状に複数配置されており、それぞれに電位を供給することが容易である。よって、ガード領域8の電位が浮かないため、サージによるゲート絶縁膜の破壊を防ぐ目的で、トレンチ9同士の間にさらにp型層を形成する必要がない。よって、セルピッチの増大を防ぐことができる。
【0073】
以上により、本実施の形態では、炭化ケイ素半導体装置の性能を向上させることができる。
【0074】
<変形例1>
図12に示すように、半導体層内には、ボディ層5の下にn型の半導体領域である電流拡散領域17を形成してもよい。ここでは、電流拡散領域17はドリフト層4内の上部に形成され、ボディ層5の下面に接している。また、電流拡散領域17は、側面9a、9bを含むトレンチ9の側面に接している。また、電流拡散領域17の下面は、ガード領域8の上面に接している。電流拡散領域17の不純物濃度は、ソース領域6の不純物濃度よりも低く、ドリフト層4の不純物濃度よりも高い。
【0075】
電流拡散領域17は、ドリフト層4内に流れる電流を横方向(X方向またはY方向)に拡散させ、広い領域に電流を流すための低抵抗な領域である。つまり、電流拡散領域17を形成することで、電流が局所的に流れることを防ぐことができる。よって、SiCパワーMISFETの抵抗を低減できる。
【0076】
電流拡散領域17は、図5を用いて説明した炭化ケイ素半導体装置の製造工程において、エピタキシャル層内にn型不純物をイオン注入法により打ち込むことで形成できる。電流拡散領域17の形成工程において導入する不純物の濃度を高くすることで、電流拡散領域17をより低抵抗にできる。
【0077】
ここでは、隣り合うガード領域8同士の間には、高濃度の電流経路である電流拡散領域17が存在しないため、オフ状態において、隣り合うガード領域8同士の間で空乏層が閉じ易い。したがって、炭化ケイ素半導体装置の信頼性を高めることができる。
【0078】
<変形例2>
SiCパワーMISFETの平面レイアウトは、図13に示すようなものであってもよい。図13では、1つのユニットセルを一点鎖線で囲んでおり、トレンチ9が複数並んでいる領域であるトレンチ形成領域を破線で囲んでいる。
【0079】
図13に示す本変形例では、1つのユニットセル内においてX方向にトレンチ9は並んでおらず、Y方向にのみトレンチ9が並んでいる点で、図1に示す構造とは異なる。
【0080】
ここでは、トレンチ9はトレンチ形成領域内で複数並列されている。これにより、チャネル幅を増大させ、損失を低減できる。
【0081】
また、ソース電極1(ソースコンタクト領域)とトレンチ形成領域とが互いに平行に配置され、JFET領域13がソース電極1と直交する方向に配置されている。これにより、ソースコンタクト領域、トレンチ形成領域、およびJFET領域13のそれぞれを独立した設計が可能であるため、設計柔軟性を向上できる。特に、JFET領域13がソース電極1と独立なのでソース電極1と独立設計が可能で、JFET領域13のピッチを狭くし、JFET領域13の本数を増やせる。
【0082】
ここでは、図1に示す構造に比べ、トレンチ9に隣接するソース領域6がソース電極1に近いため、ソース領域6に安定してソース電位を供給できる。
【0083】
(実施の形態2)
前記実施の形態1では、ゲート電極を形成してからゲート電極の一部を削除することについて説明したが、以下では、トレンチ内の絶縁膜を左右非対称に形成した後に、トレンチ内にゲート電極を形成することについて説明する。
【0084】
図14に、本実施の形態のSiCパワーMISFETの断面を示す。図14に示すように、半導体基板内の構造は、前記実施の形態1とほぼ同様であるが、半導体基板上の絶縁膜およびゲート電極の構造が前記実施の形態1とは異なる。
【0085】
ここでは、絶縁膜7は、絶縁膜7c、7d、10および11を含んでいる。トレンチ9の側面9a側の上端と半導体基板の上面との境界部分は、なだらかに繋がっており、側面9bの上端と半導体基板の上面との境界部分に比べ、丸まっている。絶縁膜10は、平面視で側面9bと隣接しているのに対し、側面9aとは離間している。側面9aと、側面9aと絶縁膜10との間の半導体基板の上面とは、ゲート絶縁膜である絶縁膜7dにより連続的に覆われている。絶縁膜10上には、絶縁膜7cを介して絶縁膜11が形成されている。トレンチ9の側面9aが、比較的膜厚が薄い絶縁膜7dにより覆われているのに対し、側面9bは、絶縁膜7dよりも膜厚が大きい絶縁膜7cにより覆われている。
【0086】
トレンチ9内において、絶縁膜7c、7dの相互間には、ゲート電極2が埋め込まれている。また、ゲート電極2の一部は、トレンチ9の直上、および、側面9aと絶縁膜10との間の半導体基板の直上にも埋め込まれており、ゲート電極2の他の一部は絶縁膜11の上面を覆うように形成されている。ゲート電極2および絶縁膜7は、層間膜である絶縁膜7eにより覆われている。その他の構造は、前記実施の形態1と同様である。
【0087】
次に、本実施の形態の炭化ケイ素半導体装置の製造方法について、図15図19を用いて説明する。
【0088】
まず、図5および図6を用いて説明した工程と同様の工程を行う。次に、図15に示すように、例えばCVD法を用いて、トレンチ9内を埋め込み、絶縁膜10の側面および上面を覆う絶縁膜7cを形成する。絶縁膜7cは、例えば酸化シリコン膜から成る。ここでは、トレンチ9が完全に埋まる程度の堆積酸化膜を形成する。絶縁膜7cの膜厚は、例えば100~1000nmである。
【0089】
続いて、絶縁膜7c上に、例えばCVD法を用いて絶縁膜11を形成する。絶縁膜11は、平面視において、トレンチ9内の側面9b側の絶縁膜7cを覆い、トレンチ9内の側面9a側の絶縁膜7cを露出している。
【0090】
次に、図16に示すように、絶縁膜11をマスクとして用いて、異方性エッチング(例えばドライエッチング)を行う。これにより、絶縁膜7cを一部除去し、側面9aと、側面9aに隣接し、絶縁膜10、11から露出する半導体基板の上面とを露出させる。このとき、エッチング量を制御することで、トレンチ9の底面を覆う絶縁膜7cを残す。これによりトレンチ9の底部のゲート絶縁膜の膜厚を大きくし、トレンチ9の底部における電界緩和を実現できる。なお、このエッチング工程により、トレンチ9の底面を露出させてもよい。
【0091】
次に、図17に示すように、例えばCVD法を用いて、絶縁膜7dを形成する。ここでは堆積法により絶縁膜7dを形成しているため、実際には絶縁膜7dは絶縁膜10、11などを覆うことが考えられるが、図17ではトレンチ9の側面9aの近傍にのみ絶縁膜7dを示している。絶縁膜7dは、トレンチ9の側面9aと、側面9aに隣接し、絶縁膜10、11から露出する半導体基板の上面とを連続的に覆う。絶縁膜7dの膜厚は、例えば10~100nmである。絶縁膜7c、7d、10および11は、絶縁膜7を構成する。トレンチ9の底面を覆う絶縁膜7は、絶縁膜7c、7dのいずれか一方または両方を有している。
【0092】
次に、図18に示すように、トレンチ9内を埋め込むゲート電極2を形成する。ここでは、例えばCVD法により、半導体基板上にn型多結晶シリコン膜である導電膜を例えば100~300nmの厚さで形成する。その後、当該導電膜をフォトリソグラフィ技術およびエッチング法を用いてパターニングすることで、当該導電膜から成るゲート電極2を形成できる。
【0093】
次に、図19に示すように、ゲート電極2および絶縁膜7を覆う絶縁膜7eを、例えばCVD法を用いて半導体基板上に形成する。その後、図11を用いて説明した工程と同様にして、ソース電極1およびドレイン電極3を形成する。これにより、本実施の形態の炭化ケイ素半導体装置が完成する。
【0094】
本実施の形態のように、異方性エッチングにより、トレンチ内の絶縁膜を左右非対称に形成した後にトレンチ内にゲート電極を形成した場合でも、前記実施の形態1と同様の効果を得られる。
【0095】
<変形例>
図15図19を用いて説明した製造方法と異なり、トレンチ内の絶縁膜を等方性エッチングにより左右非対称に形成することについて、以下に図20および図21を用いて説明する。
【0096】
ここではまず、図5および図6を用いて説明した工程と同様の工程を行い、続いて、図15を用いて説明した工程と同様の工程を行う。次に、図20に示すように、絶縁膜11をマスクとして用いて、等方性エッチング(例えばウェットエッチング)を行う。これにより、絶縁膜7cを一部除去し、側面9aと、側面9aに隣接し、絶縁膜10、11から露出する半導体基板の上面とを露出させる。このとき、エッチング量を制御することで、トレンチ9の底面を覆う絶縁膜7cを残す。これによりトレンチ9の底部のゲート絶縁膜の膜厚を大きくし、トレンチ9の底部における電界緩和を実現できる。なお、このエッチング工程により、トレンチ9の底面を露出させてもよい。
【0097】
次に、図21に示すように、図17図19を用いて説明した工程と同様の工程を行うことで、本実施の形態の炭化ケイ素半導体装置が完成する。
【0098】
本実施の形態のように、等方性エッチングにより、トレンチ内の絶縁膜を左右非対称に形成した後にトレンチ内にゲート電極を形成した場合でも、前記実施の形態1と同様の効果を得られる。ここでは、ゲート電極の角部が図1図19を用いて説明した炭化ケイ素半導体装置に比べて丸くなるため、トレンチの底部のゲート絶縁膜における電界を緩和できる。
【0099】
以上、本発明者らによってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0100】
例えば、各部の材質、導電型、および製造条件などは前述した実施の形態の記載に限定されるものではなく、各々多くの変形が可能であることはいうまでもない。ここで、説明の都合上、半導体基板および半導体膜の導電型を固定して説明したが、前述した実施の形態に記載した導電型には限定されない。つまり、前記実施の形態1、2では、n型のSiCパワーMISFETについて説明したが、各半導体領域の導電型を反転させたp型のSiCパワーMISFETにおいても、前記実施の形態1、2の効果を得ることができる。
【0101】
また、前記実施の形態1の前記変形例1、2は、実施の形態2または実施の形態2の変形例と組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0102】
2 ゲート電極
3 ドレイン電極
4 ドリフト層
5 ボディ層
6 ソース領域
8 ガード領域
7、7a~7e 絶縁膜
9 トレンチ
9a、9b 側面
12 ドレイン領域
13 JFET領域
図1
図2
図3
図4
図5
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