(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023065868
(43)【公開日】2023-05-15
(54)【発明の名称】SARS-CoV-2不活化剤、SARS-CoV-2用消毒剤及びSARS-CoV-2不活化剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
A01N 37/02 20060101AFI20230508BHJP
A01N 37/06 20060101ALI20230508BHJP
A01N 65/20 20090101ALI20230508BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20230508BHJP
A01N 25/04 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
A01N37/02
A01N37/06
A01N65/20
A01P1/00
A01N25/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021176254
(22)【出願日】2021-10-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ウェブサイト:https://www2.kufm.kagoshima-u.ac.jp/field/health-research/c001/01.html 公開日:令和3年7月1日 ウェブサイト:https://www.nanocollo.com/antitest/ 公開日:令和2年12月20日
(71)【出願人】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(71)【出願人】
【識別番号】519369032
【氏名又は名称】株式会社Nexting
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【弁理士】
【氏名又は名称】末富 孝典
(74)【代理人】
【識別番号】100146916
【弁理士】
【氏名又は名称】廣石 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】馬場 昌範
(72)【発明者】
【氏名】岡本 実佳
(72)【発明者】
【氏名】外山 政明
(72)【発明者】
【氏名】浦田 和昭
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA04
4H011BA01
4H011BB06
4H011BB22
4H011BC17
4H011DA14
4H011DG05
(57)【要約】
【課題】より安全なSARS-CoV-2不活化剤、SARS-CoV-2用消毒剤及びSARS-CoV-2不活化剤の製造方法を提供する。
【解決手段】SARS-CoV-2不活化剤は、大豆脂肪酸を含有する微細粒子のコロイド溶液を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆脂肪酸を含有する微細粒子のコロイド溶液を含む、
SARS-CoV-2不活化剤。
【請求項2】
請求項1に記載のSARS-CoV-2不活化剤を含み、
塗布又は噴霧により使用されるSARS-CoV-2用消毒剤。
【請求項3】
大豆脂肪酸及びレシチンを含む水を撹拌し、大豆脂肪酸を含有する微細粒子のコロイド溶液を生成するステップを含む、
SARS-CoV-2不活化剤の製造方法。
【請求項4】
1体積部の前記コロイド溶液と、5~15体積部の、pH9.5~10.0かつ硬度2以下の水と、を混合するステップをさらに含む、
請求項3に記載のSARS-CoV-2不活化剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SARS-CoV-2不活化剤、SARS-CoV-2用消毒剤及びSARS-CoV-2不活化剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SARS(重症急性呼吸器症候群)を引き起こす新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は世界でパンデミックとなっている。SARS-CoV-2に対するワクチンが開発され、COVID-19の重症化を抑えるという効果が証明されつつある。一方で、強い感染力を有する変異ウイルス株の出現等、ワクチンだけではCOVID-19の脅威を完全に払拭することはできない。このため、SARS-CoV-2への感染を予防するためには、マスクの着用及び手指の消毒を徹底する必要がある。
【0003】
皮膚の消毒には、消毒用エタノールが汎用されているが、エタノールの刺激に皮膚が過敏に反応する人も多い。人体への安全性を考慮して、より安全なSARS-CoV-2不活化剤が求められている。
【0004】
天然由来の抗ウイルス剤として、特許文献1には、大豆脂肪酸及びレシチンを用いたコロイド状の組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、上記組成物がインフルエンザウイルス及びノロウイルスに有効であることが記載されているものの、SARS-CoV-2を不活化させるかは不明である。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、より安全なSARS-CoV-2不活化剤、SARS-CoV-2用消毒剤及びSARS-CoV-2不活化剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点に係るSARS-CoV-2不活化剤は、
大豆脂肪酸を含有する微細粒子のコロイド溶液を含む。
【0009】
本発明の第2の観点に係るSARS-CoV-2用消毒剤は、
上記本発明の第1の観点に係るSARS-CoV-2不活化剤を含み、
塗布又は噴霧により使用される。
【0010】
本発明の第3の観点に係るSARS-CoV-2不活化剤の製造方法は、
大豆脂肪酸及びレシチンを含む水を撹拌し、大豆脂肪酸を含有する微細粒子のコロイド溶液を生成するステップを含む。
【0011】
上記本発明の第3の観点に係るSARS-CoV-2不活化剤の製造方法は、
1体積部の前記コロイド溶液と、5~15体積部の、pH9.5~10.0かつ硬度2以下の水と、を混合するステップをさらに含む、
こととしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、より安全なSARS-CoV-2不活化剤及びSARS-CoV-2用消毒剤が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】試験例1に係る生細胞数の割合を示す図である。(A)、(B)及び(C)は、それぞれサンプル1、2及び3における生細胞数の割合を示す。
【
図2】試験例3に係る生細胞数の割合を示す図である。(A)、(B)及び(C)は、それぞれサンプルA、B及びCにおける生細胞数の割合を示す。
【
図3】試験例3に係る生細胞数の割合を示す図である。(A)、(B)及び(C)は、それぞれサンプルD、E及びFにおける生細胞数の割合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、本発明は下記の実施の形態によって限定されるものではない。
【0015】
本実施の形態に係るSARS-CoV-2不活化剤は、大豆脂肪酸を含有する微細粒子のコロイド溶液を含む。大豆脂肪酸は、例えば大豆油を加水分解し、タンパク質及びグリセリンを除去した大豆油脂から抽出できる。
【0016】
コロイド溶液において、大豆脂肪酸は、ブラウン運動を行うことが可能な大きさの微細粒子として溶液中に分散している。微細粒子の大きさは、ブラウン運動が可能であれば特に限定されないが、好ましくは、ナノサイズである。微細粒子の粒径は、例えば0.1~1000nm、1~900nm又は5~800nmである。微細粒子の粒径は、ふるい分け法、沈降法、顕微鏡法、光散乱法、レーザー回折・散乱法、電気的抵抗試験、透過型電子顕微鏡による観察及び走査型電子顕微鏡による観察等の公知の方法で測定できる。粒径は公知の粒度分布計で測定してもよい。粒径は、複数の粒子を測定対象として、平均で表した平均粒径、体積平均粒径及び面積平均粒径等であってもよい。また、粒径は、レーザー回折・散乱法等の測定に基づく個数分布等から算出される平均粒径であってもよい。
【0017】
大豆脂肪酸を含有する微細粒子のコロイド溶液は、例えば、ナノコロナチュレ(商標)(株式会社Nexting製)等の市販のものであってもよい。
【0018】
続いて、SARS-CoV-2不活化剤の製造方法について説明する。当該製造方法では、大豆脂肪酸及びレシチンを含む水を撹拌し、大豆脂肪酸を含有する微細粒子のコロイド溶液を生成するステップを含む。大豆脂肪酸とレシチンとを水中で撹拌することで脂肪酸の分子が切断され、微細粒子となる。撹拌では、大豆脂肪酸とレシチンとを含む水を撹拌機等で撹拌すればよい。得られたコロイド状の混合物に対してさらに鹸化工法を適用してもよい。なお、酸化を防ぐために、得られたコロイド溶液にα-トコフェロール等の抗酸化剤を添加してもよい。
【0019】
レシチンとして、公知のレシチンが使用できるが、好ましくは、大豆レシチンが挙げられる。原料として大豆から抽出した大豆脂肪酸を使用する場合、大豆に含まれるレシチンを分子の切断に利用できる。大豆から抽出した大豆脂肪酸を使用する場合、大豆由来のレシチンがコロイド溶液に含まれてもよい。
【0020】
本実施の形態に係るSARS-CoV-2不活化剤の製造方法は、1体積部のコロイド溶液と、5~15体積部の水と、を混合するステップをさらに含んでもよい。好ましくは、コロイド溶液と混合される水はpH9.5~10.0かつ硬度2以下の水である。コロイド溶液と混合される水として、天然水等が挙げられ、好ましくは鹿児島県の垂水温泉から湧き出す天然水が使用できる。好適には、コロイド溶液と混合される水は温泉水99(商標)(エスオーシー株式会社製)である。
【0021】
コロイド溶液と混合される上記水は、コロイド溶液1体積部に対して、好ましくは5~14体積部、6~13体積部、7~12体積部又は8~11体積部である。好適には、コロイド溶液と混合される上記水は、コロイド溶液1体積部に対して9体積部である。
【0022】
下記実施例に示すように、本実施の形態に係るコロイド溶液は、標準株はもちろん、英国型アルファ変異株及びインド型デルタ変異株等の変異株を含むSARS-CoV-2を不活化させる作用を有する。当該コロイド溶液は、特に、SARS-CoV-2の感染価を減少させる。本実施の形態に係るコロイド溶液は、天然由来の大豆脂肪酸を有効成分とするため、安全性が高い。
【0023】
本実施の形態に係るSARS-CoV-2不活化剤は、手指及び皮膚の他、SARS-CoV-2が付着しているおそれがあるドアノブ、レバー、洋式便器の便座、携帯端末及び医療機器等を構成する基材等の表面を対象として適用される。基材の種類は、特に限定されず、金属、天然樹脂、合成樹脂、ガラス及びゴム等の任意である。SARS-CoV-2不活化剤を使用する態様としては、対象がSARS-CoV-2不活化剤に暴露されればよく、例えば対象に塗布及び噴霧する等が挙げられる。
【0024】
SARS-CoV-2不活化剤の使用量は、特に限定されず、対象の表面の面積等に応じて適宜調整される。
【0025】
本実施の形態に係るSARS-CoV-2不活化剤は、大豆から抽出した大豆脂肪酸を含む場合、大豆に含まれるイソフラボン等の成分を含んでもよい。また、SARS-CoV-2不活化剤は、SARS-CoV-2の不活化作用を維持する限り、添加剤、特に天然由来の成分を含んでいてもよい。
【0026】
なお、本実施の形態に係るSARS-CoV-2不活化剤におけるコロイド溶液における大豆脂肪酸の濃度は、SARS-CoV-2に対する有効性を評価することで任意に調整すればよい。また、別の実施の形態では、SARS-CoV-2用消毒剤が提供され、SARS-CoV-2用消毒剤は、本実施の形態に係るSARS-CoV-2不活化剤を含み、塗布又は噴霧により使用される。
【実施例0027】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0028】
試験例1:培養細胞に対する影響の検討1
20μLのナノコロナチュレ(商標)(株式会社Nexting製)と、80μLの温泉水99(商標)(エスオーシー株式会社製)、pH8.8~9.4のアルカリ水又は精製水とを混合し(5倍希釈)、サンプルを調製した。以下では、温泉水99(商標)(エスオーシー株式会社製)で希釈したサンプル、アルカリ水で希釈したサンプル及び精製水で希釈したサンプルをそれぞれサンプル1、サンプル2及びサンプル3とする。
【0029】
試験前日からVeroE6/TMPRSS細胞をマイクロプレートに播種し(2×104細胞/ウェル)、37℃にて培養した。培養液には5%ウシ胎児血清(FBS)を含むDMEMを用いた。培養液で希釈した各サンプルを、各サンプルが40倍、200倍、1000倍又は5000倍に希釈されるようにマイクロプレートに添加し、細胞を3日間培養した。培養後、細胞を顕微鏡で観察するとともに、生細胞数を色素(MTT)法にて定量した。
【0030】
(結果)
サンプル1~3は、培養液でさらに40倍に希釈しても細胞の形態を変化させた。一方、200倍希釈では形態の変化は認められなかった。色素法で定量した生細胞数の割合を
図1に示す。サンプル1~3は、40倍希釈で生細胞数をやや減少させたものの、ほとんど影響はなかった。以下の当該細胞を用いたSARS-CoV-2に対する不活化作用の検討では、ナノコロナチュレ(商標)の希釈倍率が40倍以下では不活化作用を正しく評価できないため、細胞を含む培養液におけるナノコロナチュレ(商標)の希釈倍率が200倍を超えるようにした。
【0031】
試験例2:SARS-CoV-2に対する不活化作用の検討1
試験前日からVeroE6/TMPRSS細胞をマイクロプレートに播種し(2×104細胞/ウェル)、37℃にて培養した。上記の0.1mLのサンプル1、2又は3と等量のウイルス液(WK-521標準株(以下、“標準株”とする)又は英国型アルファ変異株(以下、“アルファ変異株”とする))とを混合し、室温で1分間放置した。なお、対照では、0.1mLの培養液を使用した。その後、1.8mLの培養液を添加し、混合することで反応を停止させた。次に、これを培養液で種々の濃度に階段希釈し、培養細胞を播種したプレートに添加し、3日間培養した。培養後、細胞を顕微鏡にて観察することで、ウイルス増殖の有無を判定した。判定の結果に基づいてウイルス感染価(1mLあたりの感染力のある新型コロナウイルスの数)を定量した。
【0032】
(結果)
標準株及びアルファ変異株の結果をそれぞれ表1及び表2に示す。希釈した水の種類に関わらず、ウイルス液と混合後1分間で、ウイルス感染価が標準株で97%以上、アルファ変異株で94%以上減少した。
【0033】
【0034】
【0035】
試験例3:培養細胞に対する影響の検討2
ナノコロナチュレ(商標)(株式会社Nexting製)と、温泉水99(商標)(エスオーシー株式会社製)と、表3に示す比率で混合し、サンプルB~Fを調製した。サンプルB~Fを用いて、上記試験例1と同様に、細胞に対する影響を評価した。
【0036】
【0037】
(結果)
サンプルB、C及びFは培養液でさらに40倍に希釈しても細胞の形態を変化させた。この変化は200倍希釈では認められなかった。サンプルA、B及びCについて色素法で定量した生細胞数の割合をそれぞれ
図2(A)、(B)及び(C)に示す。サンプルD、E及びFについて色素法で定量した生細胞数の割合をそれぞれ
図3(A)、(B)及び(C)に示す。サンプルB~Fは、40倍希釈で生細胞数をやや減少させたものの、ほとんど影響はなかった。
【0038】
試験例4:SARS-CoV-2に対する不活化作用の検討2
試験前日からVeroE6/TMPRSS細胞をマイクロプレートに播種し(2×104細胞/ウェル)、37℃にて培養した。上記の0.1mLのサンプルA~Fそれぞれと等量のウイルス液(標準株)とを混合し、室温で2分間放置した。その後、1.8mLの培養液を添加し、混合することで反応を停止させた。次に、これを培養液で種々の濃度に階段希釈し、培養細胞を播種したプレートに添加し、3日間培養した。培養後、試験例2と同様に、ウイルス感染価を定量した。
【0039】
(結果)
結果を表4に示す。サンプルB、C及びFは、ウイルス液と混合後2分間で、標準株のウイルス感染価を99.9%以上減少させた。一方、20倍以上に希釈したサンプルD及びEでは、新型コロナウイルスに対する不活化作用が消失した。
【0040】
【0041】
試験例5:SARS-CoV-2に対する不活化作用の検討3
試験前日からVeroE6/TMPRSS細胞をマイクロプレートに播種し(2×104細胞/ウェル)、37℃にて培養した。ナノコロナチュレ(商標)と温泉水99(商標)とを体積比1:9で混合し、ナノコロナチュレ(商標) SENを調製した。標準株又はインド型デルタ変異株(以下、“デルタ変異株”とする)のウイルス液100μLとナノコロナチュレ(商標) SEN又は蒸留水100μLとを混合し、室温で2分間放置した。その後、1.8mLの培養液を混合することで反応を停止させ、ウイルス感染価を定量した。
【0042】
(結果)
結果を表5に示す。ナノコロナチュレ(商標) SENは、標準株及びデルタ変異株の感染価を2分間で99.9%以上減少させることが示された。
【0043】
【0044】
上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。