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特開2023-65889放射線検出器及び放射線の入射方位推定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023065889
(43)【公開日】2023-05-15
(54)【発明の名称】放射線検出器及び放射線の入射方位推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/29 20060101AFI20230508BHJP
   G01T 1/20 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
G01T1/29 C
G01T1/20 B
G01T1/20 E
G01T1/20 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021176290
(22)【出願日】2021-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】505089614
【氏名又は名称】国立大学法人福島大学
(71)【出願人】
【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 建男
(72)【発明者】
【氏名】眞田 幸尚
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 美雪
【テーマコード(参考)】
2G188
【Fターム(参考)】
2G188BB04
2G188BB05
2G188BB15
2G188BB18
2G188CC18
2G188CC23
2G188CC25
2G188CC28
2G188DD03
2G188DD30
2G188EE14
2G188EE25
2G188EE29
2G188EE37
(57)【要約】
【課題】放射線の入射方向を検出することができ、かつ、安価に小型軽量化を図ることが可能な放射線検出器を提供する。
【解決手段】放射線検出器1は、放射線を検出し、フラクタル構造を形成するように配列された複数の放射線センサ10と、隣り合う放射線センサ10の間を埋める放射線遮蔽材20と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を検出し、フラクタル構造を形成するように配列された複数の放射線センサと、
隣り合う前記放射線センサの間を埋める放射線遮蔽材と、を備える放射線検出器。
【請求項2】
前記フラクタル構造のフラクタル次元が、1.5以上かつ2.5以下である請求項1に記載の放射線検出器。
【請求項3】
複数の前記放射線センサは、それぞれ正四面体の外観を有し、
前記フラクタル構造は、シェルピンスキーの四面体である請求項1または請求項2に記載の放射線検出器。
【請求項4】
前記放射線センサは、前記放射線を光に変換するシンチレーション材料からなるシンチレーション部と、前記シンチレーション部の表面に固定され、前記放射線を透過させ、かつ、前記光を検出する光検出部と、を備える請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の放射線検出器。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の放射線検出器の複数の前記放射線センサにおいてそれぞれ得られた放射線の計数率に基づいて逆問題解析を行うことで、三次元空間における前記放射線の入射方向を推定する放射線の入射方位推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線検出器及び放射線の入射方位推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、放射線の一種であるX線を検出する放射線検出器が開示されている。この放射線検出器は、X線を光に変換するシンチレーション層と、シンチレーション層に結合されて光を検出する複数のシリコンフォトマルチプライヤ(SiPM)と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-25308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、放射能で汚染された屋内や宇宙空間などでは、様々な方向から放射線が入射してくる。このため、放射線検出器には、放射線の入射方向を検出できるものが求められている。
このような要求に対し、従来では、ピンホールカメラやコンプトンカメラなど放射線の入射方向をある程度の範囲で検出できる放射線検出器がある。ピンホールカメラでは、放射線を検出する検出器本体が、ピンホールが形成した遮蔽体の内部に収容される。遮蔽体は放射線を遮蔽する鉛などの材料からなるため、ピンホールカメラは重いという欠点を有する。一方、コンプトンカメラは、ピンホールカメラと比較して重量が軽いという利点を有するが、構造が複雑である上に、放射線の検出に要する放射線センサの数(チャンネル数)が多くなるため、高価となってしまう。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、放射線の入射方向を検出することができ、かつ、安価に小型軽量化を図ることが可能な放射線検出器及びこれを用いた放射線の入射方位推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を含む。
〔1〕 放射線を検出し、フラクタル構造を形成するように配列された複数の放射線センサと、
隣り合う前記放射線センサの間を埋める放射線遮蔽材と、を備える放射線検出器。
〔2〕 前記フラクタル構造のフラクタル次元が、1.5以上かつ2.5以下である〔1〕に記載の放射線検出器。
〔3〕 複数の前記放射線センサは、それぞれ正四面体の外観を有し、
前記フラクタル構造は、シェルピンスキーの四面体である〔1〕または〔2〕に記載の放射線検出器。
〔4〕 前記放射線センサは、前記放射線を光に変換するシンチレーション材料からなるシンチレーション部と、前記シンチレーション部の表面に固定され、前記放射線を透過させ、かつ、前記光を検出する光検出部と、を備える〔1〕から〔3〕のいずれか一項に記載の放射線検出器。
〔5〕 〔1〕から〔4〕のいずれか一項に記載の放射線検出器の複数の前記放射線センサにおいてそれぞれ得られた放射線の計数率に基づいて逆問題解析を行うことで、三次元空間における前記放射線の入射方向を推定する放射線の入射方位推定方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、放射線の入射方向を検出でき、かつ、安価に小型軽量化を図ることが可能な放射線検出器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る放射線検出器を示す斜視図である。
図2】本発明の一実施形態に係る放射線検出器を、図1と異なる方向から見た斜視図である。
図3図1,2の放射線検出器から放射線遮蔽材を除いた状態を示す斜視図である。
図4図1~3の放射線検出器を構成する一つの放射線センサを示す斜視図である。
図5図1,2の放射線検出器に対する放射線の入射方向の例を示す図である。
図6図5において、放射線が第一入射方向D1から放射線検出器に入射した場合の複数の放射線センサの計数率の分布を示すグラフである。
図7図5において、放射線が第二入射方向D2から放射線検出器に入射した場合の複数の放射線センサの計数率の分布を示すグラフである。
図8】γ線及びβ線のエネルギースペクトルの一例を示すグラフである。
図9】γ線及びβ線を弁別して測定できることを説明するためのグラフである。
図10】他の実施形態に係る放射線検出器を示す斜視図である。
図11】他の実施形態に係る放射線検出器を示す斜視図である。
図12】放射線センサに対するβ線の飛程を模式的に示す図であって、(a)は放射線センサが小さい場合を示し、(b)は放射線センサが大きい場合を示している。
図13】放射線センサに対するγ線の飛程を模式的に示す図であって、(a)は放射線センサが小さい場合を示し、(b)は放射線センサが大きい場合を示している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について、図1~7を参照して説明する。
図1,2に示すように、本実施形態に係る放射線検出器1は、複数の放射線センサ10と、放射線遮蔽材20と、を備える。
【0010】
各放射線センサ10は、当該放射線センサ10に入射する放射線(例えばγ線やβ線)を検出する。放射線センサ10は、入射した放射線に応じて電気信号を出力する。図4に示すように、本実施形態の放射線センサ10は、シンチレーション部11と、光検出部12と、を有するがこれに限定されない。放射線センサ10は、例えば、半導体検出器によって構成されてもよい。
シンチレーション部11は、放射線を光に変換するシンチレーション材料によって構成されている。シンチレーション部11は、放射線センサ10の外観をなしている。本実施形態では、シンチレーション部11が正四面体に形成されていることで、放射線センサ10が正四面体の外観を有する。
【0011】
光検出部12は、シンチレーション部11の表面に固定され、シンチレーション部11において放出された光を検出する。具体的に、光検出部12は、シリコンフォトマルチプライヤ(SiPM)であり、検出した光を電気信号に変換して当該電気信号を外部に出力する。光検出部12は、放射線を透過させるように形成されている。光検出部12は、例えば、放射線が透過する程度に薄く形成されている。
本実施形態において、光検出部12は、正四面体とされたシンチレーション部11の1つの平面(三角形の平面)に固定されている。また、光検出部12は、同一のシンチレーション部11に対して1つだけ設けられている。
【0012】
以上のように構成される本実施形態の放射線センサ10においては、放射線が、シンチレーション部11の表面に固定された光検出部12を透過できる。これにより、放射線センサ10では、三次元空間における全方位からの放射線を検出することができる。
また、本実施形態の放射線センサ10は、シンチレーション部11の表面に光検出部12を固定した単純な構造であるため、容易に小型化できる。放射線センサ10の小型化によりその軽量化も図ることができる。さらに、放射線センサ10の小型化により、放射線センサ10に入射する放射線の数を少なくしてパイルアップ(計数率の飽和)の発生を効果的に抑制することもできる。
【0013】
図示しないが、放射線センサ10は、シンチレーション部11及び光検出部12を覆う被覆部をさらに備えることが好ましい。被覆部は、測定対象である放射線を透過させ、光を遮蔽する材料によって構成されている。被覆部は、例えばシンチレーション部11及び光検出部12の表面への塗布によって形成されてよい。また、被覆部は、例えばシンチレーション部11及び光検出部12を収容する筐体であってもよい。被覆部は、例えばアルミニウム箔などの薄い金属で形成されてもよい。
放射線センサ10が被覆部を有することで、光検出部12が対となる放射線センサ10の外部からの光を検出することを防止できる。すなわち、対となる放射線センサ10において入射した放射線を正しく検出することができる。
【0014】
図1~3に示すように、複数の放射線センサ10は、フラクタル構造を形成するように配列されている。フラクタル構造とは、同じ形状かつ同じ大きさの放射線センサ10を複数配置した全体の形状が、単体の放射線センサ10と同じ形状となる構造(すなわち自己相似性を有する構造)である。フラクタル構造の具体例としては、例えば、シェルピンスキーの四面体や、メンガーのスポンジが挙げられるが、これに限定されない。複数の放射線センサ10を配列したフラクタル構造のフラクタル次元は、2前後であることが好ましい。また、当該フラクタル次元は、例えば1.5以上かつ2.5以下であることが好ましく、これらの上限値及び下限値よりも2に近いことがさらに好ましい。
【0015】
本実施形態におけるフラクタル構造は、シェルピンスキーの四面体である。すなわち、各々正四面体とされた複数の放射線センサ10は、その全体(放射線検出器1)の外観が正四面体となるように配列されている。シェルピンスキーの四面体におけるフラクタル次元は2である。
【0016】
図1~3に示す放射線検出器1では、4個の放射線センサ10が、全体で正四面体の外観を有する1個のセンサユニット5を構成するように配列されている。また、4個のセンサユニット5が、全体で正四面体の外観を有するように配列されている。すなわち、図1~3に示す放射線検出器1は、16個の放射線センサ10を有する。
【0017】
放射線遮蔽材20は、フラクタル構造を形成するように配列された複数の放射線センサ10において隣り合う放射線センサ10の間を埋める。言い換えれば、放射線遮蔽材20は、複数の放射線センサ10によって自己相似の形状に形成された構造体の内側の空隙あるいは空間を埋める。これにより、フラクタル構造を形成するように配列された各放射線センサ10の表面のうち、隣り合う他の放射線センサ10に対向する領域(平面)が、放射線遮蔽材20によって覆われる。
放射線遮蔽材20には、放射線の遮蔽性能が高い高密度金属(例えばタングステン、タングステン合金、鉛など)を用いることが好ましい。
本実施形態の放射線検出器1では、フラクタル構造がシェルピンスキーの四面体であるため、複数の放射線センサ10によって自己相似の形状に形成された構造体の内側の空隙あるいは空間は、一つに繋がっている。このため、図1,2では、放射線遮蔽材20が放射線検出器1の表面において複数箇所に分かれた状態で露出しているが、実際には放射線遮蔽材20は一つにまとまっている。
【0018】
このように構成された放射線検出器1では、各放射線センサ10の表面のうち他の放射線センサ10に対向しない領域だけが露出する。他の放射線センサ10に対向しない各放射線センサ10の領域は、放射線検出器1の外側に向く露出面である。図1,2に示す放射線検出器1では、その正四面体の頂点に対応する4個の放射線センサ10(10-1,10-6,10-11,10-16)の3つの面が上記の露出面に該当する。また、当該正四面体の頂点に対応しないが正四面体の辺に対応する放射線センサ10(10-2~10-5,10-7~10-10,10-12~10-15)の2つの面が上記の露出面に該当する。
この放射線検出器1では、各放射線センサ10の露出面から入射する放射線を検出することができる。
【0019】
以上のように構成される本実施形態の放射線検出器1では、三次元空間における放射線の入射方向を検出することができる。以下、この点について説明する。
【0020】
例えば図5に示すように、放射線が二つの異なる方向(第一、第二入射方向D1,D2から放射線検出器1に入射する場合を考える。第一入射方向D1は、上方から下方へ放射線検出器1の上端(放射線センサ10-1)に向かう方向である。第二入射方向D2は、放射線検出器1の側辺(4個の放射線センサ10-1,10-4,10-13,10-16が並ぶ辺)に向かう方向である。
【0021】
図6は、放射線が第一入射方向D1から放射線検出器1に入射した場合の複数の放射線センサ10の計数率の分布を示すグラフである。また、図7は、放射線が第二入射方向D2から放射線検出器1に入射した場合の複数の放射線センサ10の計数率の分布を示すグラフである。図6,7の各グラフにおけるセンサ番号(1,2,3…,16)は、それぞれ図1~3,5に示す放射線センサ10の枝番号(10-1,10-2,10-3…,10-16)に対応している。
【0022】
放射線が第一入射方向D1から放射線検出器1に入射する場合、図6に示すように、第一入射方向D1から見た放射線センサ10の露出面積が大きい程、放射線センサ10における計数率が大きくなることが分かる。
具体的に、第一入射方向D1から見た放射線センサ10の露出面積は、放射線検出器1の上端に位置する放射線センサ10-1が最も大きい(露出面が3つである)。このため、当該放射線センサ10-1における計数率が最も大きい。
【0023】
次いで、放射線検出器1の上端(頂点)から延びる3つの辺に沿って位置する放射線センサ10-2~10-6,10-9,10-11,10-13,10-16(図1,2参照)の露出面積が大きい(露出面が2つである)。このため、これら放射線センサ10-2~10-6,10-9,10-11,10-13,10-16における計数率が放射線センサ10-1に次いで大きい。
そして、放射線検出器1の下端に位置する3つの辺に沿って位置し、かつ、正四面体の頂点と関連しない放射線センサ10-7,10-8,10-10,10-12,10-14,10-15(図1,2参照)の露出面積が最も小さい(露出面が1つである)。このため、これら放射線センサ10-7,10-8,10-10,10-12,10-14,10-15における計数率が最も小さい。
以上により、図6に示すような複数の放射線センサ10の計数率の分布が得られる。
【0024】
一方、放射線が第二入射方向D2から放射線検出器1に入射する場合、図7に示すように、第二入射方向D2から見た放射線センサ10の露出面積が大きい程、放射線センサ10における計数率が大きくなることが分かる。
具体的に、第二入射方向D2から見た放射線センサ10の露出面積は、第二入射方向D2側に向く放射線検出器1の側辺に沿って位置する放射線センサ10-1,10-4,10-13,10-16(図1,2参照)の露出面積が最も大きい(露出面が2つである)。このため、これら放射線センサ10-1,10-4,10-13,10-16における計数率が最も大きい。
【0025】
次いで、上記した放射線検出器1の側辺に連なる2つの平面に位置し、前記側辺と関連しない放射線センサ10-2,10-3,10-5,10-6,10-8,10-9,10-11,10-12,10-14,10-15の露出面積が大きい(露出面が1つである)。このため、これらの放射線センサ10-2,10-3,10-5,10-6,10-8,10-9,10-11,10-12,10-14,10-15における計数率は、放射線センサ10-1,10-4,10-13,10-16に次いで大きい。
残りの放射線センサ10-7,10-10は、第二入射方向D2から見えない位置にあるため、これら放射線センサ10-7,10-10における計数率が最も小さい。
以上により、図7に示すような複数の放射線センサ10の計数率の分布が得られる。
【0026】
図6,7に示したように、放射線検出器1に対する放射線の入射方向が異なると、複数の放射線センサ10の計数率の分布が変化することが分かる。したがって、本実施形態の放射線検出器1では、計測された複数の放射線センサ10の計数率の分布に基づいて、三次元空間における放射線の入射方向を検出することができる。
【0027】
次に、本実施形態の放射線検出器1を用いた放射線の入射方位推定方法について説明する。
放射線の入射方位推定方法では、放射線検出器1の複数の放射線センサ10においてそれぞれ得られた放射線の計数率に基づいて逆問題解析を行うことで、三次元空間における放射線の入射方向を推定する。
具体的には、例えば、下記に示す方程式の逆問題を解くことで、入射方向を推定する。
【0028】
【数1】
【0029】
上記方程式において、Ci(i=1,2,・・・,16)は各放射線センサ10(10-1~10-16)において計測される計数率である。iは放射線センサ10のセンサ番号(枝番号)に対応している。θ及びζは、放射線検出器1への放射線の入射方向を示す角度であり、極座標系において放射線検出器1を中心として互いに直交する方向の角度である。φは、入射角度θ及びζをパラメータとしたフラックス(放射線の粒子束)である。Ri(i=1,2,・・・,16)は、各放射線センサ10の応答関数であり、モンテカルロ計算で予め求められるものである。
上記方程式は、各放射線センサ10の計数率Ciが、放射線の入射角度θ,ζ毎のフラックスφの積分値であることを示している。
【0030】
放射線の入射方位推定方法では、複数の放射線センサ10において計測された放射線の計数率Ciに基づいて、上記方程式の逆問題を解くことで、放射線検出器1への放射線の入射角度θ、ζ及びフラックスφが求められる。これにより、三次元空間における放射線検出器1への放射線の入射方向を推定することができる。
なお、逆問題を解く際には、例えばアンフォールディング計算や深層学習(ディープラーニング)を用いてよい。この場合には、複数の放射線の入射方向を推定するほか、放射線源の位置を推定することができる。
【0031】
以上説明したように、本実施形態の放射線検出器1では、複数の放射線センサ10がフラクタル構造を形成するように配置されている。これにより、放射線センサ10の数を少なく抑えても、放射線の入射方向を検出することができる。そして、放射線センサ10の数を少なく抑えることで、小型かつ安価な放射線検出器1を提供することが可能となる。
また、複数の放射線センサ10がフラクタル構造を形成するように配置されていることで、放射線センサ10の間を埋める放射線遮蔽材20の量を従来のピンホールカメラよりも小さく抑えることが可能となる。これにより、放射線検出器1の軽量化を図ることができる。
【0032】
また、本実施形態の放射線検出器1では、複数の放射線センサ10を配列するフラクタル構造のフラクタル次元が、1.5以上かつ2.5以下の範囲に収まっている。フラクタル次元が1.5以上であることで、三次元空間における全方位からの放射線を効率よく検出することが可能となる。また、フラクタル次元が2.5以下であることで、フラクタル構造による放射線検出器1の構造を単純化することが可能となる。例えば、少ないチャンネル数(放射線センサ10の数)で全方位からの放射線を検出することができる。複数の放射線センサ10の形状が同じであることで、放射線に対する放射線センサ10の応答特性も同じであるため、放射線検出器1の製造、放射計数率等の信号データ処理、逆問題解析もシンプル化しやすい、という利点もある。
【0033】
また、本実施形態の放射線検出器1では、複数の放射線センサ10がそれぞれ正四面体の外観を有する。その上で、複数の放射線センサ10を配列するフラクタル構造が、シェルピンスキーの四面体である。これにより、フラクタル構造のフラクタル次元が2となるため、最低限のチャンネル数(放射線センサ10の数)で全方位からの放射線を検出することができる。
【0034】
また、本実施形態の放射線検出器1において、各放射線センサ10の光検出部12は放射線を透過するように構成されている。これにより、光検出部12が放射線センサ10の露出面に相当するシンチレーション部11の表面に配置されていても、放射線を検出することができる。
【0035】
また、本実施形態の放射線検出器1では、放射線の種類に応じたエネルギーの差を利用して、複数種類の放射線、具体的にはγ線とβ線とを弁別して測定することも可能であるし、また、放射線源から直接発せられて放射線検出器1に入射する直達線と、周りに散乱して放射線検出器1に入射する散乱線とを弁別して測定することも可能である。すなわち、各種類の放射線の入射方向を個別に検出することもできる。以下、この点について図8図9を参照して説明する。
【0036】
図8は、γ線及びβ線のエネルギースペクトルを示すグラフである。図8のグラフにおいては、γ線核種(Cs137、Ba137m)が出すγ線のエネルギースペクトルと、β線核種(Sr90、Y90)が出すβ線のエネルギースペクトルと、が示されている。図8のグラフの縦軸は、放射線検出器1(放射線センサ10)に入射した放射線の量(入射した放射線に応じてシンチレーション部11で発光した光の数)に対応している。図8のグラフにおいて、測定されるβ線核種(Y90)のβ線エネルギーには、β線核種(Sr90)が崩壊してできるβ線核種(Y90)のβ線エネルギーが含まれている。
【0037】
図8に示すように、放射線のエネルギースペクトルの特性は、γ線とβ線とで大きく異なる。例えば、γ線(Cs137の崩壊によってできるBa137m)については0.8MeV以上のエネルギーが測定されないが、β線(Y90)については0.8MeV以上のエネルギーも測定される。なお、β線(Sr90)については0.8MeV以上のエネルギーは測定されない。このことから、γ線(Cs137の崩壊によってできるBa137m)とβ線(Y90)との特性の違いを利用し、例えば、放射線検出器1(放射線センサ10)において測定するエネルギーレンジを0.8MeV以下とすることで、γ線を測定することができる。また、放射線検出器1(放射線センサ10)において測定するエネルギーレンジを0.8MeV以上とすることで、β線を測定することができる。すなわち、γ線とβ線とを弁別して測定することができ、同様に直達線と散乱線についてもエネルギー差を利用して弁別することができる。直達線と散乱線を弁別することでより高精度に入射方向を推定することができる。
【0038】
また、上記したγ線とβ線とのエネルギースペクトルの特性の違いを考慮し、例えば、放射線検出器1(放射線センサ10)において測定される計数率を利用してγ線とβ線とを弁別して測定することもできる。具体的には、エネルギーが0.0MeV以上(全エネルギーレンジ)における計数率Ctotalと、エネルギーが0.8MeV以上における計数率Chighとの比(Chigh/Ctotal)を用いる。そして、図9に例示するように、全エネルギーレンジにおける計数率Ctotalと、計数率の比(Chigh/Ctotal)との関係を求める。計数率の比(Chigh/Ctotal)が小さい範囲では、γ線が起因となる事象(γ線事象)が顕著に表れる。計数率の比(Chigh/Ctotal)が大きい範囲では、β線が起因となる事象(β線事象)が顕著に表れる。したがって、計数率の比(Chigh/Ctotal)を利用することで、γ線とβ線とを弁別して測定することが可能となる。
【0039】
なお、γ線とβ線とを弁別して測定する手法は、上記のものに限られない。例えば、図12,13に示すように、γ線及びβ線の飛程の違いを利用することで、γ線とβ線とを弁別して測定できるようにしてもよい。以下、この点について説明する。
図12に示すように、放射線センサ10に入射したβ線は、放射線センサ10の表面あるいは表面近傍において停止する。一方、図13に示すように、放射線センサ10に入射したγ線は、放射線センサ10の内部に到達したり放射線センサ10を貫通したりする。すなわち、β線の飛程はγ線の飛程よりも短い。
【0040】
このようなγ線及びβ線の飛程の違いを利用するためには、放射線センサ10の大きさが異なる2種類の放射線検出器1を用いる。図12(a)、図12(b)に示すように、放射線センサ10の表面あるいは表面近傍において停止するβ線の放射線量は、2種類の放射線検出器1の間で放射線センサ10の表面積に比例する。一方、図13(a)、図13(b)に示すように、放射線センサ10の内部に到達したり放射線センサ10を貫通したりするγ線の放射線量は、2種類の放射線検出器1の間で放射線センサ10の体積に比例する。したがって、2種類の放射線検出器1で検出された放射線量の比例関係を求めることで、γ線とβ線とを弁別して測定することができる。なお、図12、13においては、β線、γ線を示す線の本数が多い程、放射線センサ10に対応するβ線、γ線の放射線量が多いことを示している。
【0041】
以上、本発明による実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0042】
上記した実施形態では、正四面体の放射線センサ10を16個使用して、シェルピンスキーの四面体を構成しているが、例えば図10に示すように、より多くの数の放射線センサ10を使ってシェルピンスキーの四面体を構成してもよい。すなわち、放射線検出器におけるフラクタル構造の段数を増やしてもよい。フラクタル構造の段数(放射線センサ10の数)を増やすことで、線量が低い放射線であっても、放射線検出器1によって検出することができる。また、フラクタル構造の段数を増やしても、その幾何学的な配置は同様であるため、放射線の計数率等のデータ処理や逆問題解析も複雑化しにくい。
【0043】
また、上記した実施形態において、放射線検出器は、フラクタル構造を形成するように複数の放射線センサを配列した構造体を1つだけ備えているが、例えば複数備えてもよい。放射線検出器が当該構造体を複数備える場合、例えば図11に示すように、四面体に形成された複数(図示例では2つ)の構造体2の向きあるいは角度を互いに変えてもよい。この場合には、放射線検出器に対する放射線の入射角度の分解能の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0044】
1 放射線検出器
10 放射線センサ
11 シンチレーション部
12 光検出部
20 放射線遮蔽材
図1
図2
図3
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図5
図6
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図11
図12
図13