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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023065914
(43)【公開日】2023-05-15
(54)【発明の名称】活動体検出方法およびそのための装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/3504 20140101AFI20230508BHJP
【FI】
G01N21/3504
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021176337
(22)【出願日】2021-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 英樹
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB01
2G059BB08
2G059CC04
2G059EE02
2G059EE12
2G059HH01
2G059HH06
2G059JJ03
2G059KK04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】壁などの遮蔽物の裏に存在する車などの活動体をパッシブに検出する方法を提供する。
【解決手段】赤外光を結像する結像光学系と、赤外光を電気信号に変換する光電変換層を有する赤外光感知素子からなる画素素子がマトリックス状に配置された画像センサーを使用し、赤外光を結像光学系を介して画像センサー上に結像させ、ものや遮蔽体の裏に存在する活動体から排出されるガスを捉えることにより、活動体を検出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外光を結像する結像光学系と、
前記赤外光を電気信号に変換する光電変換層を有する赤外光感知素子からなる画素素子が、マトリックス状に配置された画像センサーを使用し、
前記赤外光を前記結像光学系を介して、前記画像センサー上に結像させ、
ものや遮蔽体の裏に存在する活動体を検出する、活動体検出方法。
【請求項2】
前記赤外光の波長が4.15μm以上4.40μm以下である、請求項1記載の活動体検出方法。
【請求項3】
前記赤外光の波長が4.20μm以上4.35μm以下である、請求項1記載の活動体検出方法。
【請求項4】
前記赤外光は2以上の異なる波長帯の光からなり、前記波長帯の光に応じて個々別々に前記画像センサー上に結像させ、
かつ前記波長帯の光の波長は、2.4μm以上3.6μm以下、2.5μm以上2.9μm以下、2.9μm以上3.2μm以下、3.1μm以上3.5μm以下、4.15μm以上4.40μm以下、4.15μm以上4.90μm以下、4.4μm以上5.5μm以下、4.45μm以上4.95μm以下、4.6μm以上10μm以下、5.0μm以上7.5μm以下、5.0μm以上6.5μm以下、5.1μm以上5.6μm以下、6.0μm以上6.5μm以下、6.0μm以上7.1μm以下、7.2μm以上8.2μm以下、7.6μm以上8.2μm以下、8μm以上13μm以下、14μm以上16μm以下からなる群より選ばれる2以上よりなる、請求項1記載の活動体検出方法。
【請求項5】
前記2以上の異なる波長帯の光による強度変化の比較により、活動体の種類を特定して検出する、請求項4記載の活動体検出方法。
【請求項6】
前記波長帯の1つである第1の波長帯が4.15μm以上4.40μm以下である、請求項4または5記載の活動体検出方法。
【請求項7】
前記第1の波長帯は4.20μm以上4.35μm以下である、請求項6記載の活動体検出方法。
【請求項8】
前記光電変換層はInSbからなる、請求項1から7の何れか1項に記載の活動体検出方法。
【請求項9】
前記波長の赤外光のみを透過させるバンドパスフィルタを前記結像光学系の前または後ろに設置して、
前記バンドパスフィルタを介して、前記赤外光を前記画像センサー上に結像させる、請求項1から8の何れか1項に記載の活動体検出方法。
【請求項10】
前記バンドパスフィルタは冷却されている、請求項9記載の活動体検出方法。
【請求項11】
前記冷却の温度は50K以上250K以下である、請求項10記載の活動体検出方法。
【請求項12】
カメラと画像処理手段を具備し、
前記カメラは、波長が2.4μm以上16μm以下の赤外光用の結像光学系と、
前記赤外光を電気信号に変換する光電変換層を有する赤外光感知素子からなる画素素子が、マトリックス状に配置された画像センサーを有し、
前記画像処理手段は、前記画像センサーにより取得された強度分布を解析して領域抽出処理を行う、活動体検出装置。
【請求項13】
前記赤外光の波長が4.15μm以上4.40μm以下である、請求項12記載の活動体検出装置。
【請求項14】
前記赤外光の波長が4.20μm以上4.35μm以下である、請求項12記載の活動体検出装置。
【請求項15】
前記赤外光は2以上の異なる波長帯の光からなり、前記波長帯の光に応じて個々別々に前記画像センサー上に結像させ、
かつ前記波長帯の光の波長は、2.4μm以上3.6μm以下、2.5μm以上2.9μm以下、2.9μm以上3.2μm以下、3.1μm以上3.5μm以下、4.15μm以上4.40μm以下、4.15μm以上4.90μm以下、4.4μm以上5.5μm以下、4.45μm以上4.95μm以下、4.6μm以上10μm以下、5.0μm以上7.5μm以下、5.0μm以上6.5μm以下、5.1μm以上5.6μm以下、6.0μm以上6.5μm以下、6.0μm以上7.1μm以下、7.2μm以上8.2μm以下、7.6μm以上8.2μm以下、8μm以上13μm以下、14μm以上16μm以下からなる群より選ばれる2以上よりなる、請求項12記載の活動体検出装置。
【請求項16】
前記画像処理手段は、前記2以上の異なる波長帯の光による強度変化を比較し、変化量の比から活動体の種類を特定して出力する、請求項15記載の活動体検出装置。
【請求項17】
前記第波長帯の1つである第1の波長帯が4.15μm以上4.40μm以下である、請求項15または16記載の活動体検出装置。
【請求項18】
前記第1の波長帯は4.20μm以上4.35μm以下である、請求項17記載の活動体検出装置。
【請求項19】
前記光電変換層はInSbからなる、請求項12から18の何れか1項に記載の活動体検出装置。
【請求項20】
前記波長の赤外光のみを透過させるバンドパスフィルタを前記結像光学系の前または後ろに設置して、
前記バンドパスフィルタを介して、前記赤外光を前記画像センサー上に結像させる、請求項12から19の何れか1項に記載の活動体検出装置。
【請求項21】
前記バンドパスフィルタは冷却されている、請求項20記載の活動体検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活動体検出方法およびそのための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
壁などの遮蔽物の陰に隠れている車、兵器、動物などの活動体の検知、検出が嘱望されている。
活動体検出技術があれば、物陰から飛び出してくる子供を察知して交通事故から守ったり、茂みに潜んでいる凶暴な熊から身を守ったり、茂みやシェルターなどに隠して待機状態にある兵器をトレースしてその兵器を破壊したり、地震などで瓦礫に埋もれて探せなかった人やペットを救出したりすることが可能になる。
【0003】
活動体を検出する方法としては、車の衝突回避システムとして実用化が進んでいるアクティブまたはパッシブ方式で可視光、赤外線波長域の画像を取り込む方法、マイクロ波などの電磁波反射波を照射してその反射波を解析する方法、軍事用途で開発が進んでいる赤外線を利用してパッシブ的に熱源を偵察機や人工衛星から監視する方法などがある。この種のシステムとして、例えば、ストロボ発光装置の光を用いて赤外線センサーにより検知するアクティブ型の検知システムが特許文献1に開示されている。
しかし、これらの方法は、検出を行うサイトと活動体の置かれている場所の間に壁や茂みなどの遮蔽物、特に常温に保たれた遮蔽物体があると活動体を検出するのが難しいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-90018号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】L.S.Rothman,et al.,J.Quant.Spectrosc.Radiat.Transfer,111,2139-2150(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、物陰などの遮蔽物に遮られている状態でも車や動物などの活動体をパッシブ型で検知、検出する活動体検出方法およびそのための装置を提供することである。
また、本発明では、測定対象や環境に限定がないことと、活動体の種別が車などのエンジン(内燃機関)搭載系か、人、熊や鹿などの動物系かの判別を可能とすることも課題とする。
したがって、本発明では、レーザ光のような光源を用いずに、人が存在する空間でも、安全に対する配慮を必要とすることなく、可視光やレーダーあるいは集音機で検知することが困難な遮蔽物の陰に隠れた活動体を検出できる方法および装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
課題を解決するための本発明の構成を下記に示す。
(構成1)
赤外光を結像する結像光学系と、
前記赤外光を電気信号に変換する光電変換層を有する赤外光感知素子からなる画素素子が、マトリックス状に配置された画像センサーを使用し、
前記赤外光を前記結像光学系を介して、前記画像センサー上に結像させ、
ものや遮蔽体の裏に存在する活動体を検出する、活動体検出方法。
(構成2)
前記赤外光の波長が4.15μm以上4.40μm以下である、構成1記載の活動体検出方法。
(構成3)
前記赤外光の波長が4.20μm以上4.35μm以下である、構成1記載の活動体検出方法。
(構成4)
前記赤外光は2以上の異なる波長帯の光からなり、前記波長帯の光に応じて個々別々に前記画像センサー上に結像させ、
かつ前記波長帯の光の波長は2.4μm以上3.6μm以下、2.5μm以上2.9μm以下、2.9μm以上3.2μm以下、3.1μm以上3.5μm以下、4.15μm以上4.40μm以下、4.15μm以上4.90μm以下、4.4μm以上5.5μm以下、4.45μm以上4.95μm以下、4.6μm以上10μm以下、5.0μm以上7.5μm以下、5.0μm以上6.5μm以下、5.1μm以上5.6μm以下、6.0μm以上6.5μm以下、6.0μm以上7.1μm以下、7.2μm以上8.2μm以下、7.6μm以上8.2μm以下、8μm以上13μm以下、14μm以上16μm以下からなる群より選ばれる2以上よりなる、構成1記載の活動体検出方法。
(構成5)
前記2以上の異なる波長帯の光による強度変化の比較により、活動体の種類を特定して検出する、構成4記載の活動体検出方法。
(構成6)
前記波長帯の1つである第1の波長帯が4.15μm以上4.40μm以下である、構成4または5記載の活動体検出方法。
(構成7)
前記第1の波長帯は4.20μm以上4.35μm以下である、構成6記載の活動体検出方法。
(構成8)
前記光電変換層はInSbからなる、構成1から7の何れか1項に記載の活動体検出方法。
(構成9)
前記波長の赤外光のみを透過させるバンドパスフィルタを前記結像光学系の前または後ろに設置して、
前記バンドパスフィルタを介して、前記赤外光を前記画像センサー上に結像させる、構成1から8の何れか1項に記載の活動体検出方法。
(構成10)
前記バンドパスフィルタは冷却されている、構成9記載の活動体検出方法。
(構成11)
前記冷却の温度は50K以上250K以下である、構成10記載の活動体検出方法。
(構成12)
カメラと画像処理手段を具備し、
前記カメラは、波長が2.4μm以上16μm以下の赤外光用の結像光学系と、
前記赤外光を電気信号に変換する光電変換層を有する赤外光感知素子からなる画素素子が、マトリックス状に配置された画像センサーを有し、
前記画像処理手段は、前記画像センサーにより取得された強度分布を解析して領域抽出処理を行う、活動体検出装置。
(構成13)
前記赤外光の波長が4.15μm以上4.40μm以下である、構成12記載の活動体検出装置。
(構成14)
前記赤外光の波長が4.20μm以上4.35μm以下である、構成12記載の活動体検出装置。
(構成15)
前記赤外光は2以上の異なる波長帯の光からなり、前記波長帯の光に応じて個々別々に前記画像センサー上に結像させ、
かつ前記波長帯の光の波長は、2.4μm以上3.6μm以下、2.5μm以上2.9μm以下、2.9μm以上3.2μm以下、3.1μm以上3.5μm以下、4.15μm以上4.40μm以下、4.15μm以上4.90μm以下、4.4μm以上5.5μm以下、4.45μm以上4.95μm以下、4.6μm以上10μm以下、5.0μm以上7.5μm以下、5.0μm以上6.5μm以下、5.1μm以上5.6μm以下、6.0μm以上6.5μm以下、6.0μm以上7.1μm以下、7.2μm以上8.2μm以下、7.6μm以上8.2μm以下、8μm以上13μm以下、14μm以上16μm以下からなる群より選ばれる2以上よりなる、構成12記載の活動体検出装置。
(構成16)
前記画像処理手段は、前記2以上の異なる波長帯の光による強度変化を比較し、変化量の比から活動体の種類を特定して出力する、構成15記載の活動体検出装置。
(構成17)
前記第波長帯の1つである第1の波長帯が4.15μm以上4.40μm以下である、構成15または16記載の活動体検出装置。
(構成18)
前記第1の波長帯は4.20μm以上4.35μm以下である、構成17記載の活動体検出装置。
(構成19)
前記光電変換層はInSbからなる、構成12から18の何れか1項に記載の活動体検出装置。
(構成20)
前記波長の赤外光のみを透過させるバンドパスフィルタを前記結像光学系の前または後ろに設置して、
前記バンドパスフィルタを介して、前記赤外光を前記画像センサー上に結像させる、構成12から19の何れか1項に記載の活動体検出装置。
(構成21)
前記バンドパスフィルタは冷却されている、構成20記載の活動体検出装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、物陰などの遮蔽物に遮られている状態でも車や動物などの活動体をパッシブ型で検知、検出する活動体検出方法およびそのための装置が提供される。
また、本発明によれば、測定対象や環境の限定がなく、活動体の種別が車などの内燃機関搭載系か、人、熊や鹿などの動物系、生命系かの判別も可能になる。
さらに、本発明の装置は、実環境に簡便に持ち運び可能なコンパクトなものであることも特徴の一つとする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】遮蔽物に隠れた活動体の検出方法を説明する説明図である。
図2】本発明の装置の概要構成を示すブロック図である。
図3】本発明の装置のカメラ部の構成を示す説明図である。
図4】本発明の画像処理手段の構成を示すブロック図である。
図5】各種ガスの吸収スペクトルを示す特性図で、(a)はCOガス、(b)は水蒸気、(c)はCHガスおよび(d)はNHガスの場合を示す。
図6】各種ガスの吸収スペクトルを示す特性図で、(a1)は常温のCOガス、(a2)は2000℃のCOガス、(b1)は常温のHO(水蒸気)および(b2)は2000℃のHOの場合を示す。
図7】常温における各種ガスの吸収スペクトルを示す特性図で、(a)はCOガス、(b)はNOガスおよび(c)はNOガスの場合を示す。
図8】2000℃における各種ガスの吸収スペクトルを示す特性図で、(a)はCOガス、(b)はNOガスおよび(c)はNOガスの場合を示す。
図9】実施例で用いた持ち運び可能な測定装置の写真である。
図10】実施例で用いたバンドパスフィルタの透過スペクトルを示す特性図である。
図11】実施例で用いたバンドパスフィルタの放射強度の温度特性を示す特性図である。
図12】本発明による観測例を示す写真である。
図13】本発明による観測例を示す写真である。
図14】本発明による観測例を示す写真である。
図15】本発明による観測例を示す写真である。
図16】本発明による観測例を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
なお、文中に出てくるA-Bは、A以上B以下を表す。
【0011】
<検出原理>
本発明の活動体検出方法では、遮蔽物から漏れ出るガスを、パッシブ的に特定の波長に感応するカメラで可視化することにより検出する。
すなわち、本発明の活動体検出方法では、図1に示すように、赤外光領域の特定の波長に感応して画像を取得するカメラを有する活動体検出装置4を用いて、壁などの遮蔽物1の裏に潜んでいる動物2や車3などの活動体が活動に伴って排出するガス5が、遮蔽物1の周囲に漏れ拡がる様子を捉えることにより、活動体を検知、検出、識別する。自然に外界が放射している赤外光を利用するパッシブ測定なので、簡便で、暗闇でも使用でき、広い適用範囲をもつ検出方法である。
ここで、遮蔽物(遮蔽体)とは、壁や茂みなど、検知対象とする活動体を可視光、赤外光、紫外光、マイクロ波などで直視することを妨げる遮蔽材のことをいう。
また、活動体とは、内燃機関、燃料電池や生命器官により移動が可能な物体のことをいい、具体例としては、車、飛行機、移動可能兵器(戦闘車両、戦闘機、ロボット兵器など)、人間、熊、猪、鹿などの動物、生命体を挙げることができる。
【0012】
<<第1の特定波長>>
上記赤外光の第1の特定の波長としては、CO分子の吸収スペクトル帯である4.15μm以上4.40μm以下、特にその波長帯域の中でも吸光度が比較的高い波長帯域である4.20μm以上4.35μm以下を挙げることができる。CO分子は、内燃機関、動物に係らず排出されるものなので、CO分子の存在をこの波長帯でモニターすることにより、活動体が検知される。
【0013】
CO分子の第一の特徴は、視認性、識別性である。
COガスは温暖化ガスの筆頭として挙げられることからもわかるように、赤外域に強い吸収をもつ吸収体である。
CO分子の吸光度を、常温の場合について図5(a)および図6(a1)、2000℃の場合について図6(a2)に示す。本特許で主に議論するInSb赤外感知素子の感度波長域3-5μm内には、波長4.20-4.35μmに鋭く、強い吸収がある。この吸光度は1気圧、25℃の空気中にCOが柱密度100ppm・m含まれた状態の吸光度で、指数の底として10を用いている(自然対数ではなくて常用対数を使用している)。柱密度とは吸光性の気体の吸光度を指定する上で必要な濃度と光路長の両方を加味した実質的に光の減衰を規定する量のことで、例えば体積濃度100ppmの気体が長さ1mに渡って分布している状態が柱密度100ppm・mである。また、本特許では1気圧、25℃の状態を標準状態と呼ぶこととする。空気中に存在する主要な気体分子で、同じ波長域に強い吸収をもつものはない。したがって、この波長に注目していれば、高感度にCOガスの量を捉えることができ、かつ、COに関する情報だけを他のガスから識別して知ることができる。
ここで、このCOを含めたすべてのガスの常温での吸光度は、株式会社エス・ティ・ジャパンのHANSTガス定量データベースの分解能1.0cm-1のものを用いた。また、すべてのガスの2000℃での吸光度は、公開データベースHITEMP(非特許文献1)を用いて分解能1.0cm-1として求めた。
【0014】
CO分子の第二の特徴は、軽量性、追従性である。
COは分子そのものなので、周囲の空気に容易に混じり合い、正確に追従する。あえて言えば、分子量44で、空気の平均分子量28.8より重いので、原理的には静置状態ではいずれ空気中で下に沈降すると考えられる。しかし、通常の環境中では、乱流混合が起こるので、沈降せず滞留する。このことは、地球の空気の組成が高度80kmまでの均質園ではCO濃度を含めて一定であることを考えれば自明である。流れがある状態では分子量差による沈降は完全に無視でき、COは遮蔽物の背後から流れ出る気流に乗って活動体の存在を忠実に示す優れたトレーサとして機能する。
【0015】
CO分子の第三の特徴は、その量である。
大気のCOの濃度は、地球温暖化の影響を受けて年々増加する傾向があるが、2020年時点で約400ppm(0.04%)である。何の手も加えていない屋外の空気、人のいない建物の中の空気など、標準状態の空気にもこれだけの量のCOが自然に含まれ、図5(a)および図6(a1)の吸光度に従うと、標準状態の空気中のCOのゆらぎすら十分に検出できるほどの強度変化をもたらす。
このように環境中に存在する微量のCOすら検出されるのに対して、活動体からは環境中より桁違いに多くのCOが排出される。例えば、人の呼気中のCO濃度は4%とされている。標準状態の100倍の濃度である。車室内、テントなど、人の存在する室内環境のCO濃度はそれよりは薄まるが、1000ppm程度には容易に到達する。そのため、人の室内への出入りの度にその程度のCOが室外に放出されることになる。内燃機関、燃焼装置などからの排出ガスは10%、標準状態の250倍である。その他、携帯装置の駆動に利用される炭酸ガスボンベや炭酸飲料からは100%、標準状態の2500倍の濃度のCOが放出される。このように、活動体の存在により、様々な要因で容易に検出できる程度のCOが排出されることになる。
【0016】
第1の特定波長帯の赤外光を測定する画像センサーとしては、感度の観点から、光電変換層がInSbからなるセンサーを好んで用いることができる。
また、波長の赤外光のみを透過させるバンドパスフィルタを前記結像光学系の前または後ろに設置して、バンドパスフィルタを介して、赤外光を画像センサー上に結像させると効率よく所望の波長帯の画像を取り込むことが可能になって好ましい。この際、バンドパスフィルタが冷却されているとノイズが低減されて好ましい。
【0017】
背景と活動体検出装置4の間に特定の波長の光を吸収する吸収体があると、その吸収体を透過した吸収帯の波長の光の強度は変化する。背景は広い波長域で発光しているので、狭い吸収帯の光が吸収されただけでは全体に対する変化は微小である。しかし、ここで、感知する波長を吸収体の吸収波長帯に制限しておくと、吸収体の存在によって、活動体検出装置4に届く赤外光の強度は大きなコントラストで敏感に変化することになる。こうして吸収体の存在を可視化できる。
その吸収体の吸光度はビアランバート則に従い、分子固有のモル吸光係数、その分子の濃度、吸収層の厚さ(濃度と厚さの積が柱密度)に比例する。標準状態における柱密度100ppm・mのCOの吸光度は、図5(a)および図6(a1)の通りであるが、この高さが濃度や厚さに比例して変化することになる。
【0018】
吸収体の温度が背景の温度と同等あるいは低い場合、吸収体は単純に背景からの赤外光を吸収し、カメラに届く赤外光の強度は弱くなる。しかし、吸収体の温度が背景よりも高温の場合、吸収と熱放射の可逆性を示すキルヒホッフの法則に従い、吸収体はむしろその吸収波長において発光し、カメラに届く赤外光の強度は強くなる。より正確には、温度だけでなく、吸収体の吸収率、放射率(両者はキルヒホッフの法則により等しい)や背景の放射率、結像レンズ12などで決まる光学的関係など様々な要因により、吸収体の存在によりカメラに届く赤外光に生じる強度変化の起こり方は変化する。いずれにせよ、吸収体の存在は赤外光の強度変化として捉えられることとなる。
【0019】
本発明では、COをトレーサとして扱って、その濃度の揺らぎを捉えて活動体2,3の検出を行う。ここで、濃度に着目するメリットは、その圧倒的な変化の幅(ダイナミックレンジ)の大きさによる。
【0020】
<<その他の特定波長>>
上記赤外光のその他の特定波長としては、ガスおよびその温度環境から以下を挙げることができる。ここで、選択した波長帯の根拠内容を波長帯に続けて記載した。また、その波長帯が選ばれた根拠となるデータを図5から図7に示す。高温としては、内燃機関の排出物を想定して2000℃の場合を例に挙げている。
【0021】
(ア)2.4μm以上3.6μm以下:高温HO短波長ピーク
(イ)2.5μm以上2.9μm以下:常温HO短波長ピーク
(ウ)2.9μm以上3.2μm以下:選択的高温H
(プロファイルとしては高温HOの裾野であるが、常温HOは感知しない帯域)
(エ)3.1μm以上3.5μm以下:CH短波長ピーク
(オ)4.15μm以上4.40μm以下:CO短波長ピーク
(カ)4.15μm以上4.90μm以下:高温CO短波長ピーク
(キ)4.4μm以上5.5μm以下:高温CO
(ク)4.45μm以上4.95μm以下:CO
(ケ)4.6μm以上10μm以下:高温HO長波長ピーク
(コ)5.0μm以上7.5μm以下:HO長波長ピーク
(サ)5.0μm以上6.5μm以下:高温NO
(ス)5.1μm以上5.6μm以下:NO
(セ)6.0μm以上6.5μm以下:NO短波長ピーク
(ソ)6.0μm以上7.1μm以下:高温NO
(タ)7.2μm以上8.2μm以下:CH長波長ピーク
(チ)7.6μm以上8.2μm以下:NO長波長ピーク
(ツ)8μm以上13μm以下:NH
(テ)14μm以上16μm以下:CO長波長ピーク
【0022】
この中で、常温のCO、HO、CH、NHは、人、動物などの生命体からの排出物であり、動物や生命体を検知、検出するには、これらのガスが検出される(イ)(エ)(オ)(ク)(コ)(タ)(ツ)(テ)の波長帯を選択するのが好ましい。
一方、CO特に高温のCO、HO特に高温のHO,CO、NOは、内燃機関からの排出物であり、車や飛行機などの内燃機関、燃料電池搭載系の活動体を検知、検出するには、これらのガスが検出される(ア)(イ)(オ)(カ)(キ)(ク)(ケ)(コ)(サ)(ス)(セ)(ソ)(チ)(テ)の波長帯を選択するのが好ましい。
また、(ウ)の波長帯は、高温HOスペクトルの裾野であるが、常温HOは少なくとも有意には感知しないので、特に内燃機関系の活動体の検知、検出、測定に好んで用いることができる。
【0023】
さらに、(ア)から(テ)の群からなる2以上の異なる波長帯の光に応じて個々別々に画像センサー上に結像させて検出すると、内燃機関か生命体(動物)かの活動体の種類を判別可能になって好ましい。この際、2以上の異なる波長帯の強度変化の比較を行うことにより、活動体種類の特定精度が向上する。
また、上記2以上の異なる波長帯の1つとして、COガス吸収域である4.15μm以上4.40μm以下、より好ましくは4.20μm以上4.35μm以下を用いることが高い感度を得る上で好ましい。
以上から、ここで示した実施の形態の方法により、赤外光の波長選択により、活動体から排出されるガスがモニターできて、遮蔽物の陰に潜んでいる活動体を検知、検出することが可能になる。
【0024】
なお、本発明では、内燃機関や燃料電池を用いない電源を利用したモーター駆動による活動体は検知が困難であるが、モーターを駆動すると、壁程度の遮蔽物では一般に、磁場や音の変化が観測される。このため、本発明による検知、検出と、磁場や音の測定を行うと、活動体が生命体なのか、内燃機関系なのか、モーター駆動系なのか、あるいはそれらが組み合わされたものなのかを判別することが可能になる。
【0025】
<測定装置とその構成>
ここでは、活動体検出装置の構成とその特徴について述べる。
【0026】
図2は、活動体検出装置201の装置構成を示す概要図であり、活動体検出装置201はカメラ51と画像処理手段52を具備する。
【0027】
カメラ51は、図3(a)に示すように、上記特定波長域の赤外光11用の結像光学系12と、赤外光を電気信号に変換する光電変換層を有する赤外光感知素子からなる画素素子14がマトリックス状に配置された画像センサー13を有する。
【0028】
結像手段12は、カメラとしての十分な結像性能を有していれば特に規定はないが、例えばGe、Si、ZnSe、ZnS、サファイアを用いた光学レンズによるレンズ結像系、ミラーを用いた反射光学系、ミラーとレンズを併用した複合光学系を用いることができる。短焦点距離レンズでもズームレンズでも構わない。倍率やF値、許容収差なども特に限定はなく、コスト、使い勝手、重量、分解能、視野などを鑑みて適当な選択を行えばよい。
【0029】
画素素子14(赤外光感知素子)としては、InSb、HgCdTe、InAs/GaSb超格子、InGaAs/InAlAs量子井戸、GaAs/AlGaAs量子井戸、InAs、PbS、PbSeなどの光電変換素子を用いることができる。また、ボロメータ、サーモパイル、焦電素子を用いた熱型赤外光感知素子を用いても良い。この中でも特にInSbは、感度とS/N特性に優れるため好んで用いることができる。
画素素子14の画素サイズおよび画素数は特に限定はない。
画素サイズを小さくすると画像センサー13の大きさも小さくなり、結像手段12も小型化が容易になる。画素サイズが大きい場合は、感度とS/Nの向上が容易になり、分解能も上げやすくなる。画素サイズとしては、例えば10×10―30×30μmとしてよい。
画素数は、特に限定はなく、装置の大きさや必要な分解能などを鑑みて適宜設定すればよい。画素数としては、例えば64×64以上1920×1536以下を挙げることができる。
【0030】
測定する赤外光11の波長を、所定の範囲以下に狭くするためには、バンドパスフィルタを用いることが有効である。バンドパスフィルタは小型、軽量で取り扱いも容易で、必要に応じて取り外すこともできる。なお、バンドパスフィルタとしては、例えばサファイアやゲルマニウム基板上に成膜したSiO、ZnS、Geなどから構成された多層膜などを用いることができる。
バンドパスフィルタを置く場所は、図3(b)のカメラ102におけるバンドパスフィルタ15aに示されるように、画像センサー13から見て結像手段12の前とすることも、図3(c)のカメラ103におけるバンドパスフィルタ15bに示されるように、結像手段12の後ろとすることもできる。前に置く場合は、バンドパスフィルタの交換や脱着が容易になるというメリットがあり、後ろに置く場合は、バンドパスフィルタが小さくて済むほか、後述の冷却を行う場合、画像センサー13とともに冷却できるというメリットがある。
【0031】
バンドパスフィルタ15a、15bや画像センサー13は、冷却されることが好ましい。冷却することにより環境や部品などからの熱輻射によるノイズを低減することができる。特にバンドパスフィルタ15a、15bが常温の場合は、そこからの熱輻射が画像センサー13の信号に大きなベースラインとして重畳し、得られる画像のコントラストを著しく低下させる。
冷却方法としては、スターリングクーラー、ペルチェ素子、液体窒素冷却などを挙げることができるが、スターリングクーラーとペルチェ素子は、取り扱いが容易なので好んで用いることができる。特に、スターリングクーラーは、ハンディサイズでも80K以下に冷却が可能であり、しかもバッテリーで稼働させることができるため特に好んで用いることができる。
【0032】
冷却温度は、50K以上250K以下が好ましい。250K以下とすることにより、ノイズレベルを1桁以上改善することができる。温度が低ければ低いほどノイズレベルは下がるが、50Kではノイズレベルが常温使用時の20桁以上下がり、このレベルでは電圧変動など他要因によるノイズが支配的になる。極低温にすると簡便性、取り扱いの容易性が低下するので、50K以上での使用が好ましい。
【0033】
画像処理手段52は、カメラ51の画像センサー13により取得された強度分布を解析して活動体から排出されるガスが漂う領域の抽出処理を行う手段で、図4に示すように、画像インターフェース部31、CPUなどを備えた演算部32、DRAMなどを備えたメモリ部33、GPUやディスプレなどを備えた表示・出力部34および露光時間、フレームレート、コントラスト強調、空間フィルタリング、空間微分処理、時間微分処理、濃度計算、比率計算、判別処理などの指示、設定を行う条件入力・制御部35からなる。
この処理により、活動体が存在する場所(活動体存在領域)や種類の特定が行えるとともに、画像処理手段52によって抽出された活動体存在領域の時間変化をトレースすることにより、遮蔽物に隠れている活動体の動きを追うことも可能になる。
以上から、本実施の形態の活動体検出装置201は、遮蔽物に遮られて発見が困難な活動体を検知、検出、識別することができる装置で、さらに時間変化を追えば活動体の動きも追うことが可能な装置である。
【実施例0034】
(実施例1)
実施例1では、装置構成とそれを用いて壁の陰に隠れている人間の観察実例について説明する。当然ながら、本発明はこのような特定の形式に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲により規定されるものである。
【0035】
用いた装置の全体写真を図9に示す。
装置は、カメラと、制御・観察・表示用のPC、それらを駆動するバッテリー、およびカメラを保持する三脚からなる持ち運び可能な装置である。カメラの重量は約2.5Kg、バッテリーの重量は約5Kgである。このカメラでは、家庭用のビデオカメラによる撮影と同様に、簡便に撮影を行うことができる。
【0036】
カメラ103の構成を図3(c)に示す。
カメラ103はFLIR社製のA6796型であり、カメラ103は、3-5μmの波長域の赤外光に適応する結像手段(結像レンズ)12、透過中心波長が4.25μm付近にあるバンドパスフィルタ15b、およびInSbを用いた赤外光感知素子からなる画像素子14が640×512のマトリックス状に配置された画像センサー13を有する。
ここで、バンドパスフィルタ15bはバッテリー駆動のスターリングクーラーによって画像センサー13(画素素子14)とともに80Kに冷却される。画像センサー13(画素素子14)は、階調14ビットであり、感応波長帯域は3-5μmである。結像レンズ12としては、例えば焦点距離25mm、50mm、100mm、F値2.5のものが入手できる。
【0037】
80Kに冷却されたバンドパスフィルタ15bの透過波長特性を図10に示す。4.0-4.4μmの波長域の赤外光を透過する。
また、図11にバンドパスフィルタ15bを冷却したときの効果を示す。縦軸はこのバンドパスフィルタがInSb赤外光感知素子の感度波長域3-5μm内で放射する赤外光強度の総量、すなわちバンドパスフィルタに由来する赤外光信号レベルを表しており、フィルタを80Kに冷却すれば、室温(300K)より10桁以上ベースラインが低減されたコントラストの高いクリアな像が得られることが示されている。
【0038】
発明者は、以上の構成の、COの吸収波長に合わせて作られ、冷却されたバンドパスフィルタを結像手段と画像センサーの間に装備したカメラにて、壁の向こうに隠れている人間の検知実験を行った。
【0039】
図12は、図10のバンドパスフィルタを装着した図9のカメラを用いて撮影した一連の動画から切り出した静止画である。撮影条件は、露光時間45ms、フレームレート22.2Hz、レンズ焦点距離25mm、F値2.5である。図12(b)は屋内の廊下の一角を映した映像である。室温の物体はこの波長の赤外光を自然に放射しているので、何の照明光も用いることなく、このような画像をパッシブに取得することができる。しかし、左側の白色破線で表示した角の奥に人間が隠れているが、その様子は検知できていない。隠れている人間は室温より高い温度で熱放射をしており、直接姿を捉えれば容易に可視化できるが、遮蔽物の存在により、熱線画像としては人間を検知できない。しかし、同じ映像に時間微分処理をして固定画像を消去し、変化のあった部分だけを抜き出すと、図12(a)のように角(対応する場所を白色破線で表示)の奥からCOガスが噴出している様子を可視化できる。実際、回り込んで角の奥を見てみると、図12(c)のように、人間が隠れていることがわかる。
なお、図13に示すように、本発明の活動体検出装置201を用いると、人間の呼気由来のCOガスが非接触で遠方から明瞭にモニターされる。したがって、図12に示した結果は、呼気のCOガスが遮蔽物を超えて漏れ拡がる様子を捉えることにより、遮蔽物の奥に隠れている活動体を検知、検出したものである。
【0040】
(実施例2)
実施例2では、内燃機関を想定して、高温の炎に含まれるHOを検知、可視化できるかを調べた。
装置としては、実施例1で示した活動体検出装置201とほぼ同様であるが、カメラもバンドパスフィルタもやや異なるものを用いた。カメラ103はFLIR社製のA6751型であり、カメラ103は、3-5μmの波長域の赤外光に適応する結像手段(結像レンズ)12、およびInSbを用いた赤外光感知素子からなる画像素子14が640×512のマトリックス状に配置された画像センサー13を有する。画像センサー13(画素素子14)は、階調14ビット、感応波長帯域は3-5μmであり、バッテリー駆動のスターリングクーラーによって80Kに冷却される。結像レンズ12としては、例えば焦点距離25mm、50mm、100mm、F値2.5のものが入手できる。
バンドパスフィルタ15bは図3(c)のように結像レンズ12の後ろに配置しているが、実施例1とは異なり、冷却はしていない。バンドパスフィルタ15bは、透過帯域が2.9μm以上3.2μm以下のものである。この帯域は、前述のように、常温のHOには有意な吸光度を示さず、高温のHOに対して吸光度を有する高温HO選択的スペクトル帯域である。
【0041】
ライターの炎を観察した結果を図14に示す。撮影条件は、露光時間1.2ms、フレームレート30Hz、レンズ焦点距離25mm、F値2.5である。ライターの原料はブタンガスで、燃焼によりCOとHOが生成される。この画像はその内、HOを捉えたものであるが、まず、吸収ではなく発光として明るく観察されていることから、ガスが少なくとも常温よりは高いことがわかる。さらに、常温のHOの吸光度は図5(b)および図6(b1)に示すように、この波長域では吸収(発光)を示さないので、図6(b2)で示したように、2000℃やそれに近い高温のHOガスが存在していることがわかる。こうして、原料に水素原子を含むものが高温で燃焼している様子が非接触で遠方から明瞭に検知、モニターできていることがわかる。
【0042】
(実施例3)
実施例3では、活動体から排出される様々なガスを検知、可視化できるかを調べた。
その結果を図15および16に示す。
【0043】
図15(a)は、図10のバンドパスフィルタを装着した図9のカメラを用いてガソリンエンジン車の排気ガスに含まれるCOを撮影した一連の動画から切り出した静止画である。撮影条件は、露光時間40ms、フレームレート24.9Hz、レンズ焦点距離25mm、F値2.5である。この画像は時間微分処理を施したもので、ガスに白黒の縞模様が見えるのはその処理によるものである。処理前の画像では、常温よりもガスが高温なので、ガスが明るく見えている。
【0044】
図15(b)は同じ自動車の排気ガス中のCOを別のカメラで捉えた別の波長帯の映像である。用いたカメラはOptris社製のPI-160型であり、マイクロボロメータを用いた赤外光感知素子からなる画像素子14が160×120のマトリックス状に配置された画像センサー13を有する。結像レンズ12は焦点距離10mmであり、ここでは波長12μm以上16μm以下の領域を透過させている。高温のマフラーと、排出されたガスが明るく観察されている。これは図5(a)および図6(a1)の波長14-16μmの長波長側のピークを捉えることにより、排気ガス中のCOを可視化したものである。
【0045】
図15(c)は同じ自動車のCOを実施例2のカメラを用いて検出した例である。用いたバンドパスフィルタ15bは、透過帯域が4.5μm以上4.9μm以下のものである。撮影条件は、露光時間40ms、フレームレート24.9Hz、レンズ焦点距離25mm、F値2.5である。この波長帯は図6(a2)に示すように高温のCOも重なっているが、この実験では基本的にはガスは観察されなかった。これは普通の自動車ではマフラーから排出される排気ガスは十分に低い温度まで冷却されているためである。しかし、アクセルを強く踏み込んだ瞬間、図15(c)のようにガスの排出が観察された。ガスが常温より高温なので明るく観察されている。これは急加速時の不完全燃焼によるCOの排出を可視化したものと思われる。
【0046】
図15(d)はCHガスを実施例2のカメラを用いて検出した例である。用いたバンドパスフィルタ15bは、透過帯域が3.18μm以上3.45μm以下のものである。撮影条件は、露光時間2.3ms、フレームレート30Hz、レンズ焦点距離25mm、F値2.5である。ボンベからのCHガスを左側に見えるノズルから右向きに噴出した。この例では観察しやすいように背景に赤外線光源(温度55℃の黒体光源)を配置しているが、バンドパスフィルタを冷却すればS/N比が向上するので、常温の自然の背景に対しても同様の映像が記録できると期待できる。ガスが背景より低温であるので、暗く観察されている。これにより動物の呼気や、内燃機関の燃料(通常の燃料は炭化水素の混合物であり、その吸収スペクトルはCHと大きく異ならない)から揮発した成分が検知できることがわかる。
【0047】
図15(e)は同じCHガスを図15(b)で用いたカメラで捉えた別の波長帯の映像である。ここでは波長7μm以上12μm以下の領域を透過させている。観察しやすいように背景に温度55℃の黒体光源を配置した。ガスが背景より低温であるので、暗く観察されている。高性能カメラと冷却フィルタを組み合わせれば、常温の背景でも同様の映像が記録できると期待される。
【0048】
図15(f)は約100℃の水蒸気を図15(b)で用いたカメラで捉えた映像である。水蒸気はHOを沸騰させて発生させ、左側に見えるノズルから右向きに噴出した。ここでは波長7μm以上8μm以下の領域を観察している。カメラの仕様は8μm以上であるので、本来観察できない波長域であるが、実際にはわずかに感度があり、そのためにうっすらと可視化できている。背景は常温で、ガスが背景より高温であるので明るく観察されている。水蒸気は生命体が絶えず放散する他、燃料の燃焼により生じる。これにより、遮蔽物に隠れた生命体や内燃機関、あるいは燃料電池が稼動している様子をうかがい知ることができる。
【0049】
図16(a)はNOガスを実施例2のカメラを用いて検出した例である。観察波長は5μm以上6μm以下である。撮影条件は、露光時間2.4ms、フレームレート30Hz、レンズ焦点距離50mm、F値2.5である。NOガスは希硝酸に銅を溶解して発生し、左側に見えるノズルから噴出させた。カメラの波長帯域3-5μmを超えており、本来観察できない波長域であるが、現実に存在するごくわずかの感度により、背景に温度227℃の円形黒体光源を配置することにより可視化できた。背景よりもガスが低温なので暗く見えている。帯域の合致したカメラを用いれば背景を常温にしてもより明瞭に観察できると期待される。
【0050】
図16(b)はNOガスを図15(b)で用いたカメラで捉えた映像である。観察波長は7μm以上8μm以下である。NOガスは濃硝酸に銅を溶解して発生し、左側に見えるノズルから噴出させた。カメラの仕様は8μm以上であるので、本来観察できない波長域であるが、実際にはNO長波長ピークにわずかに感度があり、そのために可視化できている。背景は常温で、ガスも常温であるので吸収により暗く観察されている。NOもNOも内燃機関から放出されるので、遮蔽物の背後で稼動している内燃機関の存在を検知することができる。
【0051】
図16(c)はNHガスを図15(b)で用いたカメラで捉えた映像である。観察波長は8μm以上13μm以下である。NHガスは25%アンモニア水をビーカーに入れ、自然に蒸発させた。観察しやすいように背景に温度55℃の黒体光源を配置した。ガスが背景より低温であるので、暗く観察されている。高性能カメラと冷却フィルタを組み合わせれば、常温の背景でも同様の映像が記録できると期待される。NHは人間の動物の汗や尿から発生する他、今後は燃料としても用いられることが期待されているので、内燃機関の燃料から揮発することも想定される。そのため、遮蔽物に隠れた生命体や内燃機関の存在をうかがい知ることができる。
【0052】
さらに、検知されたガスの組み合わせにより、遮蔽体背後の活動体の識別も可能である。COとHO、あるいはCOとNHから、生命体の存在が示唆される。COとCH、あるいはCHとNHからは鹿や牛などの動物の存在が推察される。COとCO、COとNO、あるいはCOとNOからは内燃機関が隠されていることが推定できる。また、COとHOやCOとCHが特に高濃度であったり、大量である場合も、生命体よりは内燃機関の可能性が高い。また、NHとNO、NHとNO、あるいはNHとHOからは、NHを燃料とする内燃機関の存在が示唆される。さらに3種類以上のガスの組み合わせや相互の比率を考えると、さらに詳細に背後に存在する活動体の種類を特定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明により、壁などの遮蔽物の裏に存在する活動体を検出する方法を提供方法およびそのための装置が提供される。
この方法および装置は、例えば塀の裏から飛び出してくる車、人や動物の事前察知、茂みに隠している待機中の戦車や戦闘機の探知、地震等の災害で建物などの瓦礫の下に埋もれている怪我人などの救出など多様な活用が想定される。
したがって、本発明は、社会的に大きなインパクトを有し、産業に与える影響も大きいと考える。
【符号の説明】
【0054】
1:遮蔽物(壁)
2:動物、活動体
3:車、活動体
4:活動体検出装置
5:活動体が排出するガス
11:赤外光
12:結像手段(結像レンズ)
13:画像センサー
14:画素素子(赤外光感知素子)
15a:バンドパスフィルタ
15b:バンドパスフィルタ
31:画像インターフェース部
32:演算部
33:メモリ部
34:表示・出力部
35:条件入力・制御部
51:カメラ
52:画像処理手段
101:カメラ
102:カメラ
103:カメラ
201:活動体検出装置
図1
図2
図3
図4
図5
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図10
図11
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