(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023065929
(43)【公開日】2023-05-15
(54)【発明の名称】ブレードの製造方法及びブレード
(51)【国際特許分類】
F03D 3/06 20060101AFI20230508BHJP
【FI】
F03D3/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021176357
(22)【出願日】2021-10-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 千葉大学(西千葉キャンパス)にて開催された日本機械学会 2021年度 年次大会にて、令和3年9月6日に発表した。
(71)【出願人】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】100154014
【弁理士】
【氏名又は名称】正木 裕士
(74)【代理人】
【識別番号】100154520
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 祐子
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 修哉
【テーマコード(参考)】
3H178
【Fターム(参考)】
3H178AA12
3H178AA40
3H178BB31
3H178BB75
3H178CC03
(57)【要約】
【課題】風車をより効率的に回転させることができるブレードの製造方法を提供する。
【解決手段】垂直に立設される垂直回転軸を中心とする円周上を回転するように、該垂直回転軸に取り付けられた支持アームに取り付けられるブレードの製造方法であって、
基本となる基本ブレードを支持アームに取り付ける際の取付角度が、支持アームに対して0°~90°になるように設定し、
取付角度における基本ブレードの0°~360°のアジマス角(Ψ)における、基本ブレードに発生させる空気力の周方向成分の極大値を算出し、
算出した極大値におけるアジマス角(Ψ)に基づいて、基本ブレードから、周方向成分が増大するブレードの断面形状を探索する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直に立設される垂直回転軸を中心とする円周上を回転するように、該垂直回転軸に取り付けられた支持アームに取り付けられるブレードの製造方法であって、
基本となる基本ブレードを前記支持アームに取り付ける際の取付角度が、前記支持アームに対して0°~90°になるように設定し、
前記取付角度における前記基本ブレードの0°~360°のアジマス角における、前記基本ブレードに発生させる空気力の周方向成分の極大値を算出し、
算出した前記極大値における前記アジマス角に基づいて、前記基本ブレードから、前記周方向成分が増大する前記ブレードの断面形状を探索することで前記ブレードを製造してなるブレードの製造方法。
【請求項2】
前記基本ブレードを前記支持アームに取り付ける際の取付角度が、前記支持アームに対して50°~70°になるように設定し、
前記基本ブレードに発生させる空気力の周方向成分の極大値が、前記取付角度における前記基本ブレードの0°~70°の間のアジマス角、又は、前記取付角度における前記基本ブレードの180°~270°の間のアジマス角にあって、
前記極大値における前記アジマス角に基づいて、前記基本ブレードから、前記周方向成分が増大する前記ブレードの断面形状を探索することで前記ブレードを製造してなる請求項1に記載のブレードの製造方法。
【請求項3】
前記請求項1又は2に記載のブレードの製造方法を用いて製造したブレードであって、
前記ブレードの断面形状は、
第1外方向に向かって突出する円弧状に形成される前縁部と、
前記第1外方向と逆方向の第2外方向に向かって突出する円弧状に形成される後縁部と、
前記前縁部の一端部と前記後縁部の一端部とを繋ぐ第1側部と、
前記前縁部の他端部と前記後縁部の他端部とを繋ぐ第2側部と、を有し、
前記前縁部の円弧は、前記後縁部の円弧よりも径大に形成され、
前記後縁部の円弧は、鉤型形状に形成され、
前記第1側部は、前記前縁部の一端部と前記後縁部の一端部とを繋ぐ際、円弧状となるように繋がれ、さらに、前記前縁部の一端部とは、凹段部が形成されるように繋がれ、
前記第2側部は、前記第1側部と平行となるように、前記前縁部の他端部と前記後縁部の他端部とを繋ぐ際、円弧状となるように繋がれ、さらに、前記前縁部の他端部とは、凸段部が形成されるように繋がれてなるブレード。
【請求項4】
前記請求項1又は2に記載のブレードの製造方法を用いて製造したブレードであって、
前記ブレードの断面形状は、
第1外方向に向かって突出する円弧状に形成される前縁部と、
前記第1外方向と逆方向の第2外方向に向かって突出する円弧状に形成される後縁部と、
前記前縁部の一端部と前記後縁部の一端部とを繋ぐ第1側部と、
前記前縁部の他端部と前記後縁部の他端部とを繋ぐ第2側部と、を有し、
前記前縁部の円弧は、前記後縁部の円弧よりも径大に形成され、
前記第1側部は、前記前縁部の一端部と前記後縁部の一端部とを繋ぐ際、円弧状となるように繋がれ、
前記第2側部は、前記第1側部と平行となるように、前記前縁部の他端部と前記後縁部の他端部とを繋ぐ際、円弧状となるように繋がれ、さらに、前記前縁部の他端部とは、凸段部及び凹段部が連続して形成されるように繋がれてなるブレード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレードの製造方法及びブレードに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、垂直軸風車としては、主にサボニウス形やパドル形等のようにブレードに作用する抗力によって風車を回転させる抗力形と、ダリウス形やジャイロミル形等のようにブレードに作用する揚力によって風車を回転させる揚力形とが知られている。
【0003】
ところで、風車の発電量は、回転トルク×回転数で決定されるが、抗力形の垂直軸風車の場合、低風速時に回転することができるものの、風よりも早く回転することはできない。そのため、風速が上がったとしても、それ以上の回転数を得ることができないため、得られる電力は限られてしまうという問題があった。
【0004】
また、揚力形の垂直軸風車の場合、高風速時に風速を超えて高速回転することができるため、大きな発電量を得ることができるものの、中風速~低風速では回転しないため、山間部や洋上などの極めて風況に恵まれた場所でないと使用することが出来ないという問題があった。
【0005】
そこで、このような問題を解決すべく、特許文献1に記載のような垂直軸風車が提案されている。この特許文献1に記載の垂直軸風車は、特別な機構等を設けることなく、設置角度を変更させるだけで、抗力形としても揚力形としても作動することができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のような垂直軸風車は、低風速時には抗力形として作動させ、高風速時には揚力形として作動させることにより広い風速範囲で風車を効率良く回転させることができるものの、まだ改善の余地があるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題に鑑み、風車をより効率的に回転させることができるブレードの製造方法及びブレードを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記本発明の目的は、以下の手段によって達成される。なお、括弧内は、後述する実施形態の参照符号を付したものであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0010】
請求項1に係るブレードの製造方法は、垂直に立設される垂直回転軸(2)を中心とする円周(C)上を回転するように、該垂直回転軸(2)に取り付けられた支持アーム(4)に取り付けられるブレード(3A,3B)の製造方法であって、
基本となる基本ブレード(ブレード3)を前記支持アーム(4)に取り付ける際の取付角度(β)が、前記支持アーム(4)に対して0°~90°になるように設定し、
前記取付角度(β)における前記基本ブレード(ブレード3)の0°~360°のアジマス角(Ψ)における、前記基本ブレード(ブレード3)に発生させる空気力(F)の周方向成分(Fθ)の極大値を算出し、
算出した前記極大値における前記アジマス角(Ψ)に基づいて、前記基本ブレード(ブレード3)から、前記周方向成分(Fθ)が増大する前記ブレード(3A,3B)の断面形状を探索することで前記ブレード(3A,3B)を製造してなることを特徴としている。
【0011】
請求項2に係るブレードの製造方法は、上記請求項1に記載のブレードの製造方法において、前記基本ブレード(ブレード3)を前記支持アーム(4)に取り付ける際の取付角度(β)が、前記支持アーム(4)に対して50°~70°になるように設定し、
前記基本ブレード(ブレード3)に発生させる空気力(F)の周方向成分(Fθ)の極大値が、前記取付角度(β)における前記基本ブレード(ブレ―ド3)の0°~70°の間のアジマス角(Ψ)、又は、前記取付角度(β)における前記基本ブレード(ブレード3)の180°~270°の間のアジマス角(Ψ)にあって、
前記極大値における前記アジマス角(Ψ)に基づいて、前記基本ブレード(ブレード3)から、前記周方向成分(Fθ)が増大する前記ブレード(3A,3B)の断面形状を探索することで前記ブレード(3A,3B)を製造してなることを特徴としている。
【0012】
請求項3に係るブレードは、前記請求項1又は2に記載のブレードの製造方法を用いて製造したブレードであって、
前記ブレード(3A)の断面形状は、
第1外方向(
図4(a)では、左外方向)に向かって突出する円弧状に形成される前縁部(30A)と、
前記第1外方向(
図4(a)では、左外方向)と逆方向の第2外方向(
図4(a)では、右外方向)に向かって突出する円弧状に形成される後縁部(31A)と、
前記前縁部(30A)の一端部(上端部30Aa)と前記後縁部(31A)の一端部(上端部31Aa)とを繋ぐ第1側部(32A)と、
前記前縁部(30A)の他端部(下端部30Ab)と前記後縁部(31A)の他端部(下端部31Ab)とを繋ぐ第2側部(33A)と、を有し、
前記前縁部(30A)の円弧は、前記後縁部(31A)の円弧よりも径大に形成され、
前記後縁部(31A)の円弧は、鉤型形状に形成され、
前記第1側部(32A)は、前記前縁部(30A)の一端部(上端部30Aa)と前記後縁部(31A)の一端部(上端部31Aa)とを繋ぐ際、円弧状となるように繋がれ、さらに、前記前縁部(30A)の一端部(上端部30Aa)とは、凹段部(32Aa1)が形成されるように繋がれ、
前記第2側部(33A)は、前記第1側部(32A)と平行となるように、前記前縁部(30A)の他端部(下端部30Ab)と前記後縁部(31A)の他端部(下端部31Ab)とを繋ぐ際、円弧状となるように繋がれ、さらに、前記前縁部(30A)の他端部(下端部30Ab)とは、凸段部(33Aa1)が形成されるように繋がれてなることを特徴としている。
【0013】
請求項4に係るブレードは、前記請求項1又は2に記載のブレードの製造方法を用いて製造したブレードであって、
前記ブレード(3B)の断面形状は、
第1外方向(
図4(b)では、左外方向)に向かって突出する円弧状に形成される前縁部(30B)と、
前記第1外方向(
図4(b)では、左外方向)と逆方向の第2外方向(
図4(b)では、右外方向)に向かって突出する円弧状に形成される後縁部(31B)と、
前記前縁部(30B)の一端部(上端部30Ba)と前記後縁部(31B)の一端部(上端部31Ba)とを繋ぐ第1側部(32B)と、
前記前縁部(30B)の他端部(下端部30Bb)と前記後縁部(31B)の他端部(下端部31Bb)とを繋ぐ第2側部(33B)と、を有し、
前記前縁部(30B)の円弧は、前記後縁部(31B)の円弧よりも径大に形成され、
前記第1側部(32B)は、前記前縁部(30B)の一端部(上端部30Ba)と前記後縁部(31B)の一端部(上端部31Ba)とを繋ぐ際、円弧状となるように繋がれ、
前記第2側部(33B)は、前記第1側部(32B)と平行となるように、前記前縁部(30B)の他端部(下端部30Bb)と前記後縁部(31B)の他端部(下端部31Bb)とを繋ぐ際、円弧状となるように繋がれ、さらに、前記前縁部(30B)の他端部(下端部30Bb)とは、凸段部(33Ba1)及び凹段部(33Ba2)が連続して形成されるように繋がれてなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
次に、本発明の効果について、図面の参照符号を付して説明する。なお、括弧内は、後述する実施形態の参照符号を付したものであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0015】
請求項1に係る発明によれば、基本となる基本ブレード(ブレード3)を支持アーム(4)に取り付ける際の取付角度(β)が、支持アーム(4)に対して0°~90°になるように設定し、取付角度(β)における基本ブレード(ブレード3)の0°~360°のアジマス角(Ψ)における、基本ブレード(ブレード3)に発生させる空気力(F)の周方向成分(Fθ)の極大値を算出し、算出した極大値におけるアジマス角(Ψ)に基づいて、基本ブレード(ブレード3)から、周方向成分(Fθ)が増大するブレード(3A,3B)の断面形状を探索することでブレード(3A,3B)を製造するようにしている。これにより、周方向成分(Fθ)が増大するブレード(3A,3B)を製造することができることとなる。
【0016】
しかして、本発明によれば、高性能な垂直軸風車が実現できることとなり、もって、風車をより効率的に回転させることができる。
【0017】
また、このような作用効果を実現するにあたっては、請求項2に係る発明のように、基本ブレード(ブレード3)を支持アーム(4)に取り付ける際の取付角度(β)を、支持アーム(4)に対して50°~70°になるように設定し、基本ブレード(ブレード3)に発生させる空気力(F)の周方向成分(Fθ)の極大値が、取付角度(β)における基本ブレード(ブレ―ド3)の0°~70°の間のアジマス角(Ψ)、又は、取付角度(β)における基本ブレード(ブレード3)の180°~270°の間のアジマス角(Ψ)にあって、極大値におけるアジマス角(Ψ)に基づいて、基本ブレード(ブレード3)から、周方向成分(Fθ)が増大するブレード(3A,3B)の断面形状を探索することでブレード(3A,3B)を製造するのが好ましい。このようにすれば、より周方向成分(Fθ)が増大するブレード(3A,3B)を製造することができる。
【0018】
また、このような製造方法によれば、風車をより効率的に回転させることができる請求項3に記載のようなブレード(3A)や請求項4に記載のようなブレード(3B)を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る垂直軸風車の概略平面図である。
【
図2】(a-1)は、ブレードを支持アームに取り付ける際の取付角度を0°としたことを示す説明図、(a-2)は、ブレードを支持アームに取り付ける際の取付角度を90°としたことを示す説明図、(b)は、反時計回りする垂直軸風車の図示左側を風上とした場合のアジマス角の説明図である。
【
図3】取付角度50°、60°、70°におけるブレードの0°~360°のアジマス角Ψにおける、ブレードに発生させる空気力の周方向成分を無次元化したものを算出した結果を示すグラフ図である。
【
図4】(a)は、アジマス角Ψ=21°に基づいて、周方向成分が増大するブレードの断面形状を探索して得られたブレードの断面形状を示す図、(b)は、アジマス角Ψ=211°に基づいて、周方向成分が増大するブレードの断面形状を探索して得られたブレードの断面形状を示す図である。
【
図5】(a)は、
図4(a)に示すブレードを用いた場合のシミュレーション結果を示す図、(b)は、(a)に示す図示右上に位置するブレードの拡大図、(c)は、ブレードに発生する空気力と、その周方向成分の方向を示す説明図である。
【
図6】(a)は、
図4(b)に示すブレードを用いた場合のシミュレーション結果を示す図、(b)は、(a)に示す図示左下に位置するブレードの拡大図、(c)は、ブレードに発生する空気力と、その周方向成分の方向を示す説明図である。
【
図7】
図4(a)に示すブレードを用いてフィールド実験を行った結果を示す図である。
【
図8】
図7に示す低周速比部分(
図7の左下部分)を拡大し、揚力形風車(NACA0018ブレード)のデータを追記した図である。
【
図9】風洞実験を行い、
図4(a)に示すブレードと
図4(b)に示すブレードの性能比較を行った結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るブレードの製造方法の一実施形態を、図面を参照して具体的に説明する。なお、以下の説明において、上下左右の方向を示す場合は、図示正面から見た場合の上下左右をいうものとする。
【0021】
本実施形態におけるブレードの製造方法において製造されるブレードは、
図1に示すような垂直軸風車1に使用される。この垂直軸風車1は、風向に対して垂直に立設される垂直回転軸2に勾玉状のブレード3が、垂直回転軸2から放射状に延設する支持アーム4を介して設けられたものである。この垂直軸風車1は、風を受けると、ブレード3に作用する抗力によって、支持アーム4が垂直回転軸2を中心とする円周C上を回転することとなる。
【0022】
ところで、垂直回転軸2は、下端が発電機(図示せず)に連結されており、風力によって得られるブレード3の回転力が、支持アーム4を介して垂直回転軸2へと伝達されるようになっている。この支持アーム4の一端には、ブレード3が取り付けられており、支持アーム4の他端は円盤状の固定具5によって垂直回転軸2に固定されている。
【0023】
ところで、垂直軸風車1は、上記説明したように、垂直回転軸2に作用する回転トルクによって回転することとなるが、垂直軸風車1側から見ると、垂直回転軸2の外周部に作用する周方向の力FTがこの回転トルクを構成する力となる。一方、風の側から見ると、ブレード3に発生する空気力Fの周方向成分Fθが、垂直回転軸2の回転に寄与することとなる。してみると、周方向成分Fθが増大するようなブレードは、大きなFTを垂直回転軸2にもたらすこととなるため、もって、高性能な垂直軸風車1が実現、すなわち、風車をより効率的に回転させることができることとなる。
【0024】
そこで、本発明者は、その点に着目し、周方向成分Fθが増大するようなブレードを製造する方法を考えるに至った。以下、この点について詳しく説明することとする。
【0025】
(1)まず、周方向成分F
θが増大するブレードを製造するにあたって、
図1に示すブレード3を支持アーム4に取り付ける際の取付角度βが、支持アーム4に対して0°~90°になるように設定した。これは、特許文献1に示すように、ブレード3を支持アーム4に取り付ける際の取付角度βを0°(
図2(a-1)参照)とすると、揚力形の配置となり、取付角度βを90°(
図2(a-2)参照)とすると、抗力形の配置となるため、何れでも作動できるように、取付角度βを、支持アーム4に対して0°~90°になるように設定した。
【0026】
(2)次いで、取付角度βにおけるブレード3の0°~360°のアジマス角における、ブレード3に発生させる空気力Fの周方向成分F
θを無次元化したC
Fθの極大値を算出した。なお、本実施形態においては、
図2(b)に示すように、反時計回りする垂直軸風車1の図示左側を風上としている。そのため、アジマス角Ψ、0°≦Ψ≦180°の範囲が、風上方向にブレード3が進行する戻り側となり、180°≦Ψ≦360°の範囲が、逆方向の進み側となる。
【0027】
(3)次いで、算出した極大値におけるアジマス角Ψに基づいて、周方向成分Fθが増大するブレードの断面形状を、遺伝的アルゴリズムを用いて探索した。すなわち、勾玉状のブレード3の断面形状を基本とし、そこから、遺伝的アルゴリズムを用いて、算出した極大値におけるアジマス角Ψに基づいて、周方向成分Fθが増大するブレードの断面形状を探索するようにした。なお、本実施形態においては、粘性を考慮した流れの数値解析により周方向成分Fθを求めている。
【0028】
ところで、周方向成分F
θが増大するブレードの断面形状は、アジマス角Ψにより異なるものと考えられる。その一方で、ブレードの断面形状は、アジマス角Ψによらず単一に固定する必要がある。そのため、遺伝的アルゴリズムによる検討を実施する
図1に示すブレード3のアジマス角Ψの位置を予め選定しておく必要がある。アジマス角Ψの位置の選定基準は、その位置における周方向成分F
θを無次元化したC
Fθそのものや、C
Fθのアジマス角Ψ方向変化率等、様々考えられるが、本実施形態においては、周方向成分F
θを無次元化したC
Fθが極大値となるアジマス角Ψを選定した。
【0029】
かくして、上記(1)~(3)の工程を経て、周方向成分Fθが増大するブレードを製造することができることとなる。これにより、高性能な垂直軸風車1が実現できることとなり、もって、垂直軸風車1をより効率的に回転させることができることとなる。また、周方向成分Fθを求めるにあたり、粘性を考慮した流れの数値解析を用いることにより、ブレードが発生する空気力Fの周方向成分Fθの計算精度が向上し、もって、より高性能な垂直軸風車1を実現できることとなる。これにより、垂直軸風車1をさらに効率的に回転させることができる。
【0030】
ここで、より理解しやすくするため、具体例を用いて、上記(1)~(3)の工程を説明することとする。
【0031】
まず、周方向成分F
θが増大するブレードを製造するにあたって、
図1に示すブレード3を支持アーム4に取り付ける際の取付角度βを、50°、60°、70°に設定した。そして、取付角度β(50°、60°、70°)におけるブレード3の0°~360°のアジマス角Ψにおける、ブレード3に発生させる空気力Fの周方向成分F
θを無次元化したC
Fθを算出した。その結果が、
図3に示すものである。
図3に示すように、取付角度β(50°)においては、C
Fθが負となるのは、
図2(b)に示す戻り側の一部である70°≦Ψ≦170°のおよそ100°の狭い範囲に限られる。それ以外のおよそ260°の範囲では、C
Fθが正となり、垂直回転軸2を反時計回りに回転させる推進力が発生している。中でも、戻り側入り口のΨ=41°と進み側入り口のΨ=211°の2箇所にて、C
Fθが極大値となっている。また、
図3に示すように、取付角度β(60°)においては、C
Fθが負となるのは、
図2(b)に示す戻り側の一部である70°≦Ψ≦160°のおよそ90°の狭い範囲に限られる。それ以外のおよそ270°の範囲では、C
Fθが正となり、垂直回転軸2を反時計回りに回転させる推進力が発生している。中でも、戻り側入り口のΨ=21°と進み側入り口のΨ=211°の2箇所にて、C
Fθが極大値となっている。さらに、
図3に示すように、取付角度β(70°)においては、C
Fθが負となるのは、
図2(b)に示す戻り側の一部である30°≦Ψ≦40°,60°≦Ψ≦150°のおよそ100°の狭い範囲に限られる。それ以外のおよそ260°の範囲では、C
Fθが正となり、垂直回転軸2を反時計回りに回転させる推進力が発生している。中でも、戻り側入り口のΨ=55°と進み側入り口のΨ=211°の2箇所にて、C
Fθが極大値となっている。
【0032】
かくして、取付角度β(50°~70°)に対して、CFθの極大値は、アジマス角Ψ0°~70°の間、アジマス角Ψ180°~270°の間にあることとなる。
【0033】
ところで、
図3に示す極大値のうち、取付角度β(50°)では、ポイントXとポイントYにて、取付角度β(60°)と比較して、極大値が低くなっている。また、取付角度β(70°)では、取付角度β(60°)と比較して、ポイントYにおける極大値は大きいものの、ポイントXにおける極大値は低くなっている。そのため、結果として、取付角度β(60°)が最適と考えられる。
【0034】
そこで、本実施形態においては、取付角度β(60°)における極大値におけるアジマス角Ψ=21°と、アジマス角Ψ=211°を選定することとした。
【0035】
次いで、
図1に示すブレード3の断面形状を基本とし、そこから、遺伝的アルゴリズムを用いて、アジマス角Ψ=21°に基づいて、周方向成分F
θが増大するブレードの断面形状を探索した。この際、本実施形態においては、粘性を考慮した流れの数値解析により周方向成分F
θを求めた。
【0036】
かくして、上記探索の結果、
図4(a)に示すブレード3Aの断面形状を得た。また、
図1に示すブレード3の断面形状を基本とし、そこから、遺伝的アルゴリズムを用いて、アジマス角Ψ=211°に基づいて、周方向成分F
θが増大するブレードの断面形状を探索した。この際、本実施形態においては、粘性を考慮した流れの数値解析により周方向成分F
θを求めた。
【0037】
かくして、上記探索の結果、
図4(b)に示すブレード3Bの断面形状を得た。なお、以下では、ブレード3AをMT-C、ブレード3BをMT-Dと呼ぶことがある。
【0038】
ブレード3Aは、
図4(a)に示すように、前縁部30Aと、後縁部31Aと、上側部32Aと、下側部33Aと、で構成されている。前縁部30Aは、
図4(a)に示すように、図示左外方向に向かって突出する円弧状に形成されている。また、後縁部31Aは、
図4(a)に示すように、図示右外方向に向かって突出する円弧状に形成されている。この後縁部31Aの円弧状は、
図4(a)に示すように、前縁部30Aの円弧状よりも径小に形成され、鉤型形状に形成されている。
【0039】
一方、上側部32Aは、
図4(a)に示すように、前縁部30Aの上端部30Aaと後縁部31Aの上端部31Aaとを繋ぐ役割を担い、円弧状に形成されている。また、前縁部30Aの上端部30Aaと上側部32Aの左端部32Aaを繋ぐにあたって、凹段部32Aa1が形成されるように繋がれている。
【0040】
一方、下側部33Aは、
図4(a)に示すように、前縁部30Aの下端部30Abと後縁部31Aの下端部31Abとを繋ぐ役割を担い、上側部32Aと平行となるように、円弧状に形成されている。また、前縁部30Aの下端部30Abと下側部33Aの左端部33Aaを繋ぐにあたって、凸段部33Aa1が形成されるように繋がれている。
【0041】
ブレード3Bは、
図4(b)に示すように、前縁部30Bと、後縁部31Bと、上側部32Bと、下側部33Bと、で構成されている。前縁部30Bは、
図4(b)に示すように、図示左外方向に向かって突出する円弧状に形成されている。また、後縁部31Bは、
図4(b)に示すように、図示右外方向に向かって突出する円弧状に形成されている。この後縁部31Aの円弧状は、
図4(b)に示すように、前縁部30Aの円弧状よりも径小に形成されている。
【0042】
一方、上側部32Bは、
図4(b)に示すように、前縁部30Bの上端部30Baと後縁部31Bの上端部31Baとを繋ぐ役割を担い、円弧状に形成されている。
【0043】
また一方、下側部33Bは、
図4(b)に示すように、前縁部30Bの下端部30Bbと後縁部31Bの下端部31Bbとを繋ぐ役割を担い、上側部32Bと平行となるように、円弧状に形成されている。また、前縁部30Bの下端部30Bbと下側部33Bの左端部33Baを繋ぐにあたって、凸段部33Ba1及び凹段部33Ba2が連続して形成されるように繋がれている。
【0044】
ここで、本発明者は、
図4(a)に示すブレード3A及び
図4(b)に示すブレード3Bが、周方向成分F
θが増大するブレードの断面形状となっているのか否かを、数値解析ソフトウェアCOSMOL Multiphysics(COSMOL社)を用いて、回転する垂直軸風車1を通過する風のシミュレーションを行った。その結果が、
図5及び
図6に示すものである。
【0045】
図5は、
図4(a)に示すブレード3Aを用いた場合のシミュレーション結果を示すもので、図示では、MT-Cと記載している。
図5(a)及び
図5(b)は、風の速度(図示では、赤矢印)と圧力(図示では、青が最も低圧で、赤になるにつれ高圧となることを示している)を示している。
図5(a)に示すように、図示左側から流入した風の流れは、回転する垂直軸風車1を通過して蛇行しつつ流下する様子が確認できる。また、垂直軸風車1の下流には、回転するブレード3Aの通過により生じた複数の低圧領域(図示では、A~Gで示している)が流下している様子も確認できる。また、この低圧領域に合わせて速度ベクトルが蛇行している。
【0046】
一方、
図5(a)では、図示右上に位置するブレード3Aが、遺伝的アルゴリズムを用いたアジマス角Ψ=21°に位置した瞬間を示しており、
図5(b)が図示右上に位置するブレード3Aの拡大図である。
図5(b)を見ると、ブレード3Aの上側部32Aの風速が大きく、圧力が低くなっている。そのため、
図5(c)に示すように、このブレード3Aを図示右上に押し上げる空気力Fが発生する。この空気力Fは、
図5(c)に示すように、回転方向の成分、すなわち、周方向成分F
θを持つことから、これによって、ブレード3Aが取り付けられている支持アーム4が回転し、もって、垂直回転軸2が回転することとなる。
【0047】
ところで、周方向成分F
θが増大するとは、空気力Fと周方向成分F
θの方向を近くづけることと同意である。そのため、
図5(c)に示すように、空気力Fと周方向成分F
θの方向は、90°を下回る程近づいていることから、
図4(a)に示すブレード3Aは、周方向成分F
θが増大していることとなる。これにより、
図4(a)に示すブレード3Aは、周方向成分F
θが増大するブレードの断面形状であることが確認できた。
【0048】
図6は、
図4(b)に示すブレード3Bを用いた場合のシミュレーション結果を示すもので、図示では、MT-Dと記載している。
図6(a)及び
図6(b)は、風の速度(図示では、赤矢印)と圧力(図示では、青が最も低圧で、赤になるにつれ高圧となることを示している)を示している。
図6(a)に示すように、図示左側から流入した風の流れは、回転する垂直軸風車1を通過して蛇行しつつ流下する様子が確認できる。また、垂直軸風車1の下流には、回転するブレード3Bの通過により生じた複数の低圧領域(図示では、H~Oで示している)が流下している様子も確認できる。また、この低圧領域に合わせて速度ベクトルが蛇行している。
【0049】
一方、
図6(a)では、図示左下に位置するブレード3Bが、遺伝的アルゴリズムを用いたアジマス角Ψ=211°に位置した瞬間を示しており、
図6(b)が図示左下に位置するブレード3Bの拡大図である。
図6(b)を見ると、ブレード3Bの上側部32Bの風速が大きく、圧力が低くなっている。そのため、
図6(c)に示すように、このブレード3Bを図示右下に押し上げる空気力Fが発生する。この空気力Fは、
図6(c)に示すように、回転方向の成分、すなわち、周方向成分F
θを持つことから、これによって、ブレード3Bが取り付けられている支持アーム4が回転し、もって、垂直回転軸2が回転することとなる。
【0050】
ここで、
図6(c)に示すように、空気力Fと周方向成分F
θの方向は、
図5(c)と比べさらに近づいていることから、
図4(b)に示すブレード3Bは、周方向成分F
θが増大していることとなる。これにより、
図4(b)に示すブレード3Bは、周方向成分F
θが増大するブレードの断面形状であることが確認できた。
【0051】
以上のことから、
図4(a)に示すブレード3A及び
図4(b)に示すブレード3Bが、周方向成分F
θが増大するブレードの断面形状となっていることが確認できた。
【0052】
さらに、本発明者は、上記のような
図4(a)に示すブレード3A及び
図4(b)に示すブレード3Bが、抗力形風車や揚力形風車よりも優れていることを確認するべく、以下のような実験を行った。
【0053】
図7は、
図1に示すような垂直軸風車1に
図4(a)に示すブレード3Aを取り付け、フィールド実験を行った結果を示している。
図7は、横軸が周速比、縦軸が風車出力を示している。この
図7によれば、
図4(a)に示すブレード3Aを取り付けた場合、周速比が1.0以下で回転するだけでなく、1.0を大きく超えても回転していることが分かる。この点、抗力形風車は、風速を超える周速度で回転することができないことから、周速比1.0を超えて回転することはない。それゆえ、
図4(a)に示すブレード3Aを取り付けた垂直軸風車1は、抗力形風車よりも優れていることが分かる。
【0054】
一方、
図8は、
図7に示す低周速比部分(
図7の左下部分)を拡大したもので、この
図8では、さらに、揚力形風車(NACA0018ブレード)のデータも追記している。
図8を見れば明らかなように、揚力形風車(NACA0018ブレード)よりも、
図4(a)に示すブレード3Aを取り付けた垂直軸風車1の方が、風車出力が大きくなっている。それゆえ、
図4(a)に示すブレード3Aを取り付けた垂直軸風車1は、揚力形風車よりも優れていることが分かる。
【0055】
他方、
図9は、風洞実験を行い、
図4(a)に示すブレード3Aと
図4(b)に示すブレード3Bの性能比較を行った結果を示す図である。この
図9を見れば明らかなように、
図4(b)に示すブレード3Bと、
図4(a)に示すブレード3Aとは、ほぼ同じ性能を有している。そのため、
図4(b)に示すブレード3Bも、抗力形風車よりも優れ、揚力形風車よりも優れていることが分かる。
【0056】
以上のことから、
図4(a)に示すブレード3A及び
図4(b)に示すブレード3Bが、抗力形風車や揚力形風車よりも優れていることが確認できた。
【0057】
しかして、以上説明した本実施形態に示すようなブレードの製造方法によれば、風車をより効率的に回転させることができるブレードを製造することができる。
【0058】
なお、本実施形態において示した形状等はあくまで一例であり、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。例えば、本実施形態においては、
図1に示すブレード3の断面形状を基本とし、そこから、遺伝的アルゴリズムを用いるようにしたが、それ以外のものを基本とし、そこから、遺伝的アルゴリズムを用いるようにしても良い。また、本実施形態においては、遺伝的アルゴリズムを用いた例を示したが、それに限らず、機械学習や強化学習等、どのような手法を用いても良い。
【符号の説明】
【0059】
1 垂直軸風車
2 垂直回転軸
3 ブレード(基本ブレード)
3A,3B ブレード
4 支持アーム
30A 前縁部
30Aa 上端部(一端部)
30Ab 下端部(他端部)
31A 後縁部
31Aa 上端部(一端部)
31Ab 下端部(他端部)
32A 第1側部
32Aa1 凹段部
33A 第2側部
33Aa1 凸段部
30B 前縁部
30Ba 上端部(一端部)
30Bb 下端部(他端部)
31B 後縁部
31Ba 上端部(一端部)
31Bb 下端部(他端部)
32B 第1側部
33B 第2側部
33Ba1 凸段部
33Ba2 凹段部
F 空気力
Fθ 周方向成分
Ψ アジマス角