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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023006594
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】細胞分離用基材および細胞分離方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/02 20060101AFI20230111BHJP
   C08F 292/00 20060101ALI20230111BHJP
   C08G 81/02 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
C12N1/02
C08F292/00
C08G81/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021109279
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】今村 龍太郎
(72)【発明者】
【氏名】大嶽 知之
(72)【発明者】
【氏名】丸山 厚
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 直彦
【テーマコード(参考)】
4B065
4J026
4J031
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BC41
4B065CA44
4B065CA60
4J026AA01
4J026AA17
4J026AA45
4J026AB08
4J026AB17
4J026AB44
4J026AC00
4J026BA29
4J026BA30
4J026BA32
4J026BA39
4J026BA41
4J026BB03
4J026BB06
4J026BB09
4J026BB10
4J026CA04
4J026CA06
4J026DB06
4J026DB16
4J026EA06
4J026FA05
4J026FA08
4J026GA08
4J026GA10
4J031AA13
4J031AA20
4J031AA22
4J031AA25
4J031AB02
4J031AC03
4J031AC07
4J031AD01
4J031AE11
4J031AF09
(57)【要約】      (修正有)
【課題】特定の細胞を選択的に吸着でき、細胞を細胞分離用基材から脱離させやすく、さらには純度の高い細胞が得られる細胞分離用基材、および該基材を用いた細胞分離方法を提供する。
【解決手段】基材表面に少なくとも特定のウレイド基含有構造の繰り返しであるウレイド基含有繰り返し配列と電荷含有繰り返し配列とを有し、上限臨界溶液温度(UCST)が4~50℃の範囲である共重合体が固定化された細胞分離用基材を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に少なくとも下記式(1)で表されるウレイド基含有構造の繰り返しであるウレイド基含有繰り返し配列Aと電荷含有繰り返し配列Bとを有し、上限臨界溶液温度(UCST)が4~50℃の範囲である共重合体が固定化された細胞分離用基材。
【化1】

(式(1)中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Aは存在しないか、-(C=O)O-または-(C=O)NH-を表し、aは1~6の整数を表す。)
【請求項2】
電荷含有繰り返し配列Bが下記式(2)で表される電荷含有構造の繰り返しである電荷含有繰り返し配列B’である請求項1に記載の細胞分離用基材。
【化2】

(式(2)中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Aは存在しないか、-(C=O)O-または-(C=O)NH-を表し、bは0~6の整数を表し、XはNH 、N(CH)H 、N(CH、N(CH 、S(CH 、COO、SO 、CSO およびPOから選択される基を表す。ただし、bが0のとき、Aは存在しない。)
【請求項3】
XがNH 、N(CH)H 、N(CH、N(CH およびS(CH から選択される基である請求項2に記載の細胞分離用基材。
【請求項4】
がメチル基であり、Aが-(C=O)O-であり、aが2であり、Rがメチル基であり、Aが-(C=O)O-であり、bが2であり、XがN(CHまたはN(CH である請求項3に記載の細胞分離用基材。
【請求項5】
が水素原子であり、Aが存在せず、aが1であり、Rが水素原子であり、Aが存在せず、bが1であり、XがNH である請求項3に記載の細胞分離用基材。
【請求項6】
Xが、COO、SO 、CSO およびPOから選択される基である請求項2に記載の細胞分離用基材。
【請求項7】
がメチル基であり、Aが-(C=O)O-であり、aが2であり、Rが水素原子であり、Aが存在せず、bが0であり、XがCOOである請求項6に記載の細胞分離用基材。
【請求項8】
上記共重合体を構成する全モノマー単位中における上記ウレイド基含有繰り返し配列Aの存在比が、モル比で30%≦A<100%である請求項1~7のいずれか1項に記載の細胞分離用基材。
【請求項9】
上記共重合体が下記式(3)で表されるホスホリルコリン基含有構造の繰り返しであるホスホリルコリン基含有繰り返し配列Cをさらに有する請求項1~8のいずれか1項に記載の細胞分離用基材。
【化3】

(式(3)中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Aは存在しないか、-(C=O)O-または-(C=O)NH-を表し、cは1~6の整数を表す。)
【請求項10】
がメチル基であり、Aが-(C=O)O-であり、cが2である請求項9に記載の細胞分離用基材。
【請求項11】
上記共重合体を構成する全モノマー単位中における上記ホスホリルコリン基含有繰り返し配列Cの存在比が、モル比で0%<C≦20%である請求項9または10に記載の細胞分離用基材。
【請求項12】
上記共重合体の数平均分子量が1,000~5,000,000である請求項1~11のいずれか1項に記載の細胞分離用基材。
【請求項13】
上記基材の材質がガラス、シリコンまたはプラスチックである請求項1~12のいずれか1項に記載の細胞分離用基材。
【請求項14】
被分離細胞を含む細胞群から被分離細胞を分離するための方法であって、下記〔工程A〕、〔工程B〕および〔工程C〕を含むことを特徴とする細胞分離方法。
〔工程A〕
被分離細胞を含む細胞群を請求項1~13のいずれか1項に記載の細胞分離用基材と接触させて、被分離細胞を上記細胞分離用基材に吸着させる工程
〔工程B〕
上記細胞分離用基材に吸着された被分離細胞を洗浄する工程
〔工程C〕
温度変化により、被分離細胞を上記細胞分離用基材から脱離させる工程
【請求項15】
上記〔工程C〕中、温度変化が上記細胞分離用基材の表面に固定化されている共重合体の上限臨界溶液温度(UCST)以下の温度から上限臨界溶液温度(UCST)以上の温度まで加温することである請求項14に記載の細胞分離方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被分離細胞を分離するための細胞分離用基材、細胞分離方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療分野では疾患のある患者から正常な細胞を取り出し、体外で培養後、再度患者に移植するといった手法が多く用いられる。しかしながら患者の体内、血液、体液から特定の細胞のみを取り出すのは困難である。そこで特定の細胞を分離する技術が必要となる。
この細胞分離方法は、病理診断または臨床検査の分野においても普及している。細胞分離方法としては密度勾配遠心法、磁性粒子を用いた分離法、基材を用いた分離方法やフローサイトメトリーとセルソーターを組み合わせた方法が知られている。なかでも特定の細胞を基材を用いて分離する方法は処理可能な細胞数が多く、細胞分離の操作が簡便であるというメリットもある。
【0003】
また基板に吸着した細胞を脱離させる手法としては、近年では酵素等を使用せず、細胞にダメージを与えない脱離方法として温度応答性ポリマーを使用する方法が知られている。例えば培養した細胞構造体を細胞培養器から回収する技術として、特許文献1には温度応答性ポリマーであるポリ[N-イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)]を、電子線照射により表面に導入した細胞培養支持体材料が開示されている。しかしながらこの細胞培養容器に固定化されているNIPAMポリマーには電荷が含まれていないために、特定の細胞を選択的に吸着することができないという課題がある。
【0004】
このような課題を解決するために、非特許文献1には電荷を有する温度応答性ポリマーが固定化された基材が開示されている。温度応答性ポリマーとしてN-イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)とアニオン性の電荷としてカルボン酸を有するモノマーとを共重合したポリマー(p(NIPAM-co-AA))をガラス基板に固定し、温度応答により細胞分離を行う方法である。しかしながら上記p(NIPAM-co-AA)のように下限臨界溶液温度(LCST)を有する共重合体を固定化した細胞分離用基材を用いて細胞分離を行う場合、基板に吸着した細胞を脱離させる場合には低温に傾ける必要がある。低温条件では細胞の運動性が低下するため、細胞を脱離しにくくなり、結果として細胞の回収率が低下する懸念がある。さらにNIPAM系ポリマーは下限臨界溶液温度(LCST)を有し、低温条件では親水性を示すが高温条件では疎水性を示す性質がある。そのため、細胞を基板に吸着する場合には高温条件を用いるが、ポリマーの疎水性のために非特異吸着を起こしやすく、分離後の細胞の純度が低くなる懸念もある。
【0005】
さらに特許文献2には温度応答性ポリマーとしてN,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)ポリマーと電荷調節の役割としてアニオン性モノマーとを共重合したポリマーをガラス基板に固定し、温度応答により細胞分離を行う方法が開示されている。しかしながら上記p(NIPAM-co-AA)と同様に該ポリマーは下限臨界溶液温度(LCST)を有しているため、細胞を脱離しにくくなり、結果として細胞の回収率が低下する懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4475847号公報
【特許文献2】特開2017-014323号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Colloids and Surfaces B,2020,185,p.110565
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、特定の細胞を選択的に吸着でき、細胞を細胞分離用基材から脱離させやすく、さらには純度の高い細胞の得られる細胞分離用基材は知られていない。
【0009】
本発明の課題は、特定の細胞を選択的に吸着でき、細胞を細胞分離用基材から脱離させやすく、さらには純度の高い細胞の得られる細胞分離用基材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上述の目的を達成するべく鋭意研究を重ねた結果、特定の細胞を選択的に吸着するために電荷を有し、かつ温度変化による親疎変化が小さく、かつ上限臨界溶液温度(UCST)を有する共重合体を基材表面に固定した細胞分離用基材が上述の課題を解決できることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、少なくとも下記の[1]~[15]を提供する。
[1]
基材表面に少なくとも下記式(1)で表されるウレイド基含有構造の繰り返しであるウレイド基含有繰り返し配列Aと電荷含有繰り返し配列Bとを有し、上限臨界溶液温度(UCST)が4~50℃の範囲である共重合体が固定化された細胞分離用基材。
【0012】
【化1】
【0013】
(式(1)中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Aは存在しないか、-(C=O)O-または-(C=O)NH-を表し、aは1~6の整数を表す。)
[2]
電荷含有繰り返し配列Bが下記式(2)で表される電荷含有構造の繰り返しである電荷含有繰り返し配列B’である上記[1]に記載の細胞分離用基材。
【0014】
【化2】
【0015】
(式(2)中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Aは存在しないか、-(C=O)O-または-(C=O)NH-を表し、bは0~6の整数を表し、XはNH 、N(CH)H 、N(CH、N(CH 、S(CH 、COO、SO 、CSO およびPOから選択される基を表す。ただし、bが0のとき、Aは存在しない。)
[3]
XがNH 、N(CH)H 、N(CH、N(CH およびS(CH から選択される基である上記[2]に記載の細胞分離用基材。
[4]
がメチル基であり、Aが-(C=O)O-であり、aが2であり、Rがメチル基であり、Aが-(C=O)O-であり、bが2であり、XがN(CHまたはN(CH である上記[3]に記載の細胞分離用基材。
[5]
が水素原子であり、Aが存在せず、aが1であり、Rが水素原子であり、Aが存在せず、bが1であり、XがNH である上記[3]に記載の細胞分離用基材。
[6]
Xが、COO、SO 、CSO およびPOから選択される基である上記[2]に記載の細胞分離用基材。
[7]
がメチル基であり、Aが-(C=O)O-であり、aが2であり、Rが水素原子であり、Aが存在せず、bが0であり、XがCOOである上記[6]に記載の細胞分離用基材。
[8]
上記共重合体を構成する全モノマー単位中における上記ウレイド基含有繰り返し配列Aの存在比が、モル比で30%≦A<100%である上記[1]~[7]のいずれかに記載の細胞分離用基材。
[9]
上記共重合体が下記式(3)で表されるホスホリルコリン基含有構造の繰り返しであるホスホリルコリン基含有繰り返し配列Cをさらに有する上記[1]~[8]のいずれかに記載の細胞分離用基材。
【0016】
【化3】
【0017】
(式(3)中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Aは存在しないか、-(C=O)O-または-(C=O)NH-を表し、cは1~6の整数を表す。)
[10]
がメチル基であり、Aが-(C=O)O-であり、cが2である上記[9]に記載の細胞分離用基材。
[11]
上記共重合体を構成する全モノマー単位中における上記ホスホリルコリン基含有繰り返し配列Cの存在比が、モル比で0%<C≦20%である上記[9]または[10]に記載の細胞分離用基材。
[12]
上記共重合体の数平均分子量が1,000~5,000,000である上記[1]~[11]のいずれかに記載の細胞分離用基材。
[13]
上記基材の材質がガラス、シリコンまたはプラスチックである上記[1]~[12]のいずれかに記載の細胞分離用基材。
[14]
被分離細胞を含む細胞群から被分離細胞を分離するための方法であって、下記〔工程A〕、〔工程B〕および〔工程C〕を含むことを特徴とする細胞分離方法。
〔工程A〕
被分離細胞を含む細胞群を上記[1]~[13]のいずれかに記載の細胞分離用基材と接触させて、被分離細胞を上記細胞分離用基材に吸着させる工程
〔工程B〕
上記細胞分離用基材に吸着された被分離細胞を洗浄する工程
〔工程C〕
温度変化により、被分離細胞を上記細胞分離用基材から脱離させる工程
[15]
上記〔工程C〕中、温度変化が上記細胞分離用基材の表面に固定化されている共重合体の上限臨界溶液温度(UCST)以下の温度から上限臨界溶液温度(UCST)以上の温度まで加温することである上記[14]に記載の細胞分離方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、特定の細胞を選択的に吸着でき、細胞を細胞分離用基材から脱離させやすく、さらには純度の高い細胞の得られる細胞分離用基材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0020】
<共重合体>
上記共重合体は、少なくとも下記式(1)で表されるウレイド基含有構造の繰り返しであるウレイド基含有繰り返し配列Aと下記式(2)で表される電荷含有構造の繰り返しである電荷含有繰り返し配列B’などの電荷含有繰り返し配列Bとを有し、上限臨界溶液温度(UCST)が4~50℃の範囲である共重合体のことである。
【0021】
【化4】
【0022】
(上記式(1)中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Aは存在しないか、-(C=O)O-または-(C=O)NH-を表し、aは1~6の整数を表す。また上記式(2)中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Aは存在しないか、-(C=O)O-または-(C=O)NH-を表し、bは0~6の整数を表し、XはNH 、N(CH)H 、N(CH、N(CH 、S(CH 、COO、SO 、CSO およびPOから選択される基を表す。)
なお、本明細書でいう「構造の繰り返し」は、当該構造の連続した繰り返しである場合の他、断続的な繰り返しも指す。
【0023】
また、上記ウレイド基含有繰り返し配列A中のそれぞれの式(1)で表されるウレイド基含有構造におけるR、Aおよびa、並びに上記電荷含有繰り返し配列B中のそれぞれの式(2)で表される電荷含有構造におけるR、A、bおよびXは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0024】
上記式(1)において、Aが存在しないとは上記式(1)中、Aの上部の炭素(C)とAの下部の(CHとが直接単結合していることを示している。
【0025】
上記式(1)において、aは1~6の整数を表すが、好ましくは1~4であり、例えば1または2である。
【0026】
上記ウレイド基含有繰り返し配列Aとしては、例えばRがメチル基であり、Aが-(C=O)O-であり、aが2であるウレイド基含有繰り返し配列A、Rが水素原子であり、Aが-(C=O)O-であり、aが2であるウレイド基含有繰り返し配列A、Rがメチル基であり、Aが-(C=O)NH-であり、aが2であるウレイド基含有繰り返し配列A、Rが水素原子であり、Aが-(C=O)NH-であり、aが2であるウレイド基含有繰り返し配列A、Rが水素原子であり、Aが存在せず、aが1であるウレイド基含有繰り返し配列Aなどが挙げられるが、共重合性の観点からRがメチル基であり、Aが-(C=O)O-であり、aが2であるウレイド基含有繰り返し配列A、Rが水素原子であり、Aが-(C=O)O-であり、aが2であるウレイド基含有繰り返し配列A、Rが水素原子であり、Aが-(C=O)NH-であり、aが2であるウレイド基含有繰り返し配列AまたはRが水素原子であり、Aが存在せず、aが1であるウレイド基含有繰り返し配列Aが好ましく、Rがメチル基であり、Aが-(C=O)O-であり、aが2であるウレイド基含有繰り返し配列AまたはRが水素原子であり、Aが存在せず、aが1であるウレイド基含有繰り返し配列Aがより好ましい。
【0027】
上記式(2)において、Aが存在しないとは上記式(2)中、Aの上部の炭素(C)とAの下部の(CHとが直接単結合していることを示している。
【0028】
上記式(2)において、bは0~6の整数を表すが、好ましくは0~4であり、例えば0、1または2である。
【0029】
上記式(2)において、Xがカチオン性の場合は、合成の容易さから該XはNH 、N(CH)H 、N(CHまたはN(CH であるのが好ましく、NH 、N(CH)H またはN(CHであるのがより好ましい。また、Xがアニオン性の場合は、合成の容易さから該XはCOO、SO またはCSO であるのが好ましく、COOまたはSO であるのがより好ましい。
【0030】
上記電荷含有繰り返し配列Bとしては、例えばRがメチル基であり、Aが-(C=O)O-であり、bが2であり、XがNH である電荷含有繰り返し配列B(AEMA)、Rがメチル基であり、Aが-(C=O)O-であり、bが2であり、XがN(CHである電荷含有繰り返し配列B(DMAEMA)、Rがメチル基であり、Aが-(C=O)O-であり、bが2であり、XがN(CH である電荷含有繰り返し配列B(コリンメタクリレート)、Rがメチル基であり、Aが-(C=O)O-であり、bが2であり、XがS(CH である電荷含有繰り返し配列B(三級スルホニウムメタクリレート)、Rが水素原子であり、Aが存在せず、bが0であり、XがCOOである電荷含有繰り返し配列B(アクリル酸)、Rがメチル基であり、Aが-(C=O)O-であり、bが2であり、XがCOOである電荷含有繰り返し配列B(カルボキシルエチルメタクリレート)、Rがメチル基であり、Aが-(C=O)O-であり、bが2であり、XがSO である電荷含有繰り返し配列B(スルホン酸エチルメタクリレート)、Rがメチル基であり、Aが-(C=O)NH-であり、bが2であり、XがNH である電荷含有繰り返し配列B(アミノエチルメタクリルアミド)、Rが水素原子であり、Aが-(C=O)NH-であり、bが2であり、XがNH である電荷含有繰り返し配列B(アミノエチルアクリルアミド)、Rが水素原子であり、Aが存在せず、bが1であり、XがNH である電荷含有繰り返し配列B(アリルアミン)、Rが水素原子であり、Aが存在せず、bが0であり、XがCSO である電荷含有繰り返し配列B(スチレンスルホン酸)などが挙げられるが、共重合性の観点からRがメチル基であり、Aが-(C=O)O-であり、bが2であり、XがNH である電荷含有繰り返し配列B(AEMA)、Rがメチル基であり、Aが-(C=O)O-であり、bが2であり、XがN(CHである電荷含有繰り返し配列B(DMAEMA)、Rがメチル基であり、Aが-(C=O)O-であり、bが2であり、XがN(CH である電荷含有繰り返し配列B(コリンメタクリレート)、Rが水素原子であり、Aが存在せず、bが0であり、XがCOOである電荷含有繰り返し配列B(アクリル酸)、Rが水素原子であり、Aが存在せず、bが1であり、XがNH である電荷含有繰り返し配列B(アリルアミン)またはRが水素原子であり、Aが存在せず、bが0であり、XがCSO である電荷含有繰り返し配列B(スチレンスルホン酸)が好ましく、Rがメチル基であり、Aが-(C=O)O-であり、bが2であり、XがNH である電荷含有繰り返し配列B(AEMA)、Rがメチル基であり、Aが-(C=O)O-であり、bが2であり、XがN(CHである電荷含有繰り返し配列B(DMAEMA)、Rがメチル基であり、Aが-(C=O)O-であり、bが2であり、XがN(CH である電荷含有繰り返し配列B(コリンメタクリレート)、Rが水素原子であり、Aが存在せず、bが0であり、XがCOOである電荷含有繰り返し配列B(アクリル酸)またはRが水素原子であり、Aが存在せず、bが1であり、XがNH である電荷含有繰り返し配列B(アリルアミン)がより好ましく、Rがメチル基であり、Aが-(C=O)O-であり、bが2であり、XがN(CHである電荷含有繰り返し配列B(DMAEMA)、Rがメチル基であり、Aが-(C=O)O-であり、bが2であり、XがN(CH である電荷含有繰り返し配列B(コリンメタクリレート)、Rが水素原子であり、Aが存在せず、bが0であり、XがCOOである電荷含有繰り返し配列B(アクリル酸)またはRが水素原子であり、Aが存在せず、bが1であり、XがNH である電荷含有繰り返し配列B(アリルアミン)が特に好ましい。
【0031】
上記共重合体における各繰り返し配列のモル比としては要求される性能が発揮されるように適宜決定できるが、上限臨界温度を4~50℃の範囲にするためには上記共重合体を構成する全モノマー単位中における上記ウレイド基含有繰り返し配列Aの存在比が、モル比で30%≦A<100%の範囲にあることが好ましい。より好ましくは50%≦A<100%の範囲内にあり、50%≦A≦98%の範囲内にあることが特に好ましい。
【0032】
上記共重合体は下記式(3)で表されるホスホリルコリン基含有構造の繰り返しであるホスホリルコリン基含有繰り返し配列Cをさらに有してもよい。上記共重合体にホスホリルコリン基を導入することで、上記共重合体の上限臨界溶液温度(UCST)を制御しやすくなるほか、細胞分離に使用する際に親水性が向上し、不要な細胞の非特異吸着を抑制しやすくなる。
【0033】
【化5】
【0034】
(上記式(3)中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Aは存在しないか、-(C=O)O-または-(C=O)NH-を表し、cは1~6の整数を表す。)
【0035】
上記式(3)において、Aが存在しないとは上記式(3)中、Aの上部の炭素(C)とAの下部の(CHとが直接単結合していることを示している。
【0036】
上記式(3)において、cは1~6の整数を表すが、好ましくは1~4であり、例えば1または2である。
【0037】
上記ホスホリルコリン基含有繰り返し配列Cとしては、例えばRがメチル基であり、Aが-(C=O)O-であり、cが2であるホスホリルコリン基含有繰り返し配列Cなどが挙げられる。
【0038】
上記ホスホリルコリン基含有繰り返し配列Cの含有量としては、要求される性能が発揮されるように適宜決定できるが、上限臨界温度を4~50℃の範囲にするためには上記共重合体を構成する全モノマー単位中における上記ホスホリルコリン基含有繰り返し配列Cの存在比が、モル比で0%<C≦20%の範囲にあることが好ましい。より好ましくは0%<C≦15%の範囲内にあり、0%<C≦10%の範囲内にあることが特に好ましい。
【0039】
上記共重合体は他のモノマーとの共重合体であってもよい。他のモノマーの種類としては細胞分離の効率を向上させるために適宜選択可能である。上限臨界溶液温度(UCST)を下げるためには、親水性モノマー、例えばグリセロール(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシエチルホスフェート、N-メチルカルボキシベタイン(メタ)アクリレート、N-メチルスルホベタイン(メタ)アクリレート、アミノエチル(メタ)アクリレート、N,N’-ジメチルアクリルアミド、S-メチルスルホニウムカルボン酸(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、アリルアルコールアクリロニトリル、アクロレイン、ビニルスルホン酸ナトリウム、N-ビニルピロリドン、イタコン酸、マレイン酸などが挙げられ、上限臨界温度(UCST)の調節効果の大きいモノマーとしてはN-メチルカルボキシベタイン(メタ)アクリレート、N-メチルスルホベタイン(メタ)アクリレート、アミノエチル(メタ)アクリレート、S-メチルスルホニウムカルボン酸(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートまたはポリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレートが好ましく、N-メチルカルボキシベタイン(メタ)アクリレート、N-メチルスルホベタイン(メタ)アクリレート、アミノエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートまたはポリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレートが特に好ましい。上限臨界溶液温度(UCST)を上げるためには、疎水性モノマー、例えばn-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、へキシル(メタ)アクリレート、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、酢酸ビニル、スチレン、クロロスチレン、ビニルフェノール、ビニルシンナメート、塩化ビニル、ビニルブロミド、ブタジエン、ビニレンカーボネート、イタコン酸エステル、フマル酸エステル、マレイン酸エステルなどが挙げられ、上限臨界温度(UCST)の調節効果の大きいモノマーとしてはn-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、へキシル(メタ)アクリレートまたはN-イソプロピル(メタ)アクリルアミドが好ましく、n-ブチル(メタ)アクリレートまたはN-イソプロピル(メタ)アクリルアミドがより好ましい。さらに、細胞分離において、特定の細胞を認識するリガンドを結合させるためのモノマーも使用できる。例えば、(メタ)アクリル酸プロパルギル、アジドプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸スクシンイミド、(メタ)アクリル酸、アミノエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸イソシアネート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどが好ましく、リガンドとの結合性の容易さから(メタ)アクリル酸プロパルギル、アジドプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸スクシンイミドまたは(メタ)アクリル酸イソシアネートが好ましく、(メタ)アクリル酸プロパルギル、アジドプロピル(メタ)アクリレートまたは(メタ)アクリル酸スクシンイミドが特に好ましい。また、他のモノマーの配合量は任意であり、適宜選択できるが、上記共重合体の性能を十分に引き出すためには、配合される上記他のモノマーが、全モノマー中、20モル%以下であることが好ましく、15モル%以下であることがより好ましく、10モル%以下であることがさらに好ましい。
【0040】
上記共重合体の分子量としては、要求される性能が発揮しうるように重合条件等を調整して適宜決定できるが、通常、数平均分子量で1,000~5,000,000程度であり、上記共重合体を固定化した細胞分離用基材を作製する場合、細胞分離の効率を上げるためには2,000~2,000,000が好ましく、2,000~1,000,000がより好ましい。上記共重合体の分子量が数平均分子量で1,000以上の場合、温度応答による細胞の脱離がよりしやすくなり、5,000,000以下の場合は細胞分離用基材に被分離細胞をより吸着させやすくなる。
【0041】
<共重合体の上限臨界溶液温度(UCST)>
上記上限臨界溶液温度(UCST)とは、上記共重合体が水や培地中で不溶化し不溶相を形成する温度と、上記共重合体が水や培地中で溶解し溶解相を形成する温度との境界温度のことであり、上記共重合体を少なくとも1mMの濃度で水や培地に溶解し、降温させながら石英セル中で500nmの可視光の透過率を測定し、当該共重合体が完全に溶解しているときの清澄溶液の可視光の透過率を100%とした場合に、これを降温したときに該透過率が減少し始める温度として求めることができる。上限臨界溶液温度(UCST)は特に限定されないが、細胞培養に適した温度である必要があるため、2~60℃、好ましくは3~50℃、より好ましくは4~50℃の範囲である。
【0042】
<共重合体の製造方法1>
上記共重合体は例えば下記式(4)で表されるウレイドモノマーと下記式(5)で表される電荷モノマーをラジカル重合することによって製造することができる。
【0043】
【化6】
【0044】
(上記式(4)中、R、Aおよびaは、それぞれ前記と同義である。また上記式(5)中、R、A、bおよびXは、それぞれ前記と同義である。)
【0045】
上記ウレイドモノマーと上記電荷モノマーのラジカル重合においては、他のモノマーとの共重合も可能である。
【0046】
上記ウレイドモノマーと上記電荷モノマー(および上記他のモノマー)のラジカル重合は、バルク重合も可能であるが、溶媒を加えて重合に供することもできる。また、溶媒としては上記ウレイドモノマーと上記電荷モノマー(および上記他のモノマー)が溶解するものであれば特に限定されず、一般的な溶媒が使用可能である。例えばアセトン、ジオキサン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)、アニソール、トルエン、アセトニトリル、ジメチルアセトアミドなどの極性非プロトン性溶媒、メタノール、エタノール(EtOH)、2-プロパノール、水などの極性プロトン溶媒性溶媒、これらの混合液から選択される。
【0047】
上記ウレイドモノマーと上記電荷モノマー(および上記他のモノマー)のラジカル重合は、熱重合または光重合により行うことができる。上記熱重合は、例えばラジカル開始剤を用いて行うことができる。熱重合開始剤としては、例えば、過酸化物系ラジカル開始剤(過酸化ベンゾイル、過硫酸アンモニウム等)、または、アゾ系ラジカル開始剤(アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス-ジメチルバレロニトリル(ADVN)等)、2,2’-アゾビスシアノ吉草酸(ACVA)、アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩(VA-044)、水溶性あるいは油溶性のレドックス系ラジカル開始剤(ジメチルアニリンと過酸化ベンゾイルからなる)などが使用できる。ラジカル開始剤の使用量は、上記ウレイドモノマーと上記電荷モノマー(および上記他のモノマー)の合計100質量部に対して通常0.01から10質量部が好ましい。重合温度および重合時間はラジカル開始剤の種類や他のモノマーの有無や種類などによって適宜選択して決定することができる。例えば、上記ウレイドモノマーと上記電荷モノマー(および上記他のモノマー)のラジカル重合をAIBNを用いて行う場合等において、重合温度は40~90℃、重合時間は2~48時間程度が適当である。
【0048】
上記光重合は、例えば、波長254nmの紫外線(UV)または加速電圧150~300kVの電子線(EB)照射等により実施することができる。この際、光重合開始剤の使用は任意であるが、反応時間の点からは使用することが好ましい。光重合開始剤としては2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-プロパノン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシルフェニルケトンなどが挙げられるが、溶解性等の点から2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-プロパノンが好ましく挙げられる。
【0049】
上記ウレイドモノマーと上記電荷モノマー(および上記他のモノマー)のラジカル重合においては、連鎖移動剤を用いることもできる。上記連鎖移動剤としては2-メルカプトエタノール、1-メルカプト-2-プロパノール、3-メルカプト-1-プロパノール、p-メルカプトフェノール、メルカプト酢酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、2-メルカプトニコチン酸などが挙げられる。
【0050】
上記ウレイドモノマーと上記電荷モノマー(および上記他のモノマー)のラジカル重合はリビングラジカル重合法により行うことも可能であり、具体的には原子移動ラジカル重合法(ATRP法)、可逆的付加開裂連鎖移動重合法(RAFT重合法)およびニトロキシドを介した重合法(NMP法)などが利用可能である。特に本発明の細胞分離用基材への固定化用途では金属を使用せず、酵素活性を低下させないといった理由で可逆的付加開裂連鎖移動重合法(RAFT重合法)や基板表面から直接高分子を修飾できる原子移動ラジカル重合法(ATRP法)が好ましい。
【0051】
上記RAFT重合法としては公知の方法が利用可能であり、例えばWO99/31144、WO98/01478および米国特許第6,153,705号などに記載されている方法が有効である。RAFT重合を用いて、上記ウレイドモノマーと上記電荷モノマー(および上記他のモノマー)のラジカル重合を行う場合、通常のラジカル重合にRAFT剤を添加することで行うことができる。上記RAFT剤としては4-シアノペンタン酸ジチオベンゾエート、2-シアノ-2-プロピルベンゾジチオエート、ベンジルベンゾジチオエート、2-フェニル-2-プロピルベンゾジチオエート、メチル2-フェニル-2-(フェニル-カルボノチオイルチオ)アセテート、4-シアノ-4-(フェニルカルボノチオイルチオ)ペンタン酸N-スクシンイミジルエステル、4-シアノ-4-(ドデシルスルファニル-チオカルボニル)スルファニルペンタン酸、4-シアノ-4-(ドデシルスルファニル-チオカルボニル)スルファニルペンタノール、2-シアノ-2-プロピルドデシルトリチオカーボネート、2-(ドデシルチオカルボニルチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸、4-シアノ-4-(ドデシルスルファニル-チオカルボニル)スルファニルペンタン酸ポリエチレングリコールメチルエーテルエステル、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸-3-アジド-1-プロパノールエステル、ベンジル1H-ピロール-1-カルボジチオエート、2-シアノプロパン-2-イル-N-メチル-N-ピリジン4-イルカルボジチオエート、プロピオン酸エチル-2-エチルザンテートなどから選択されるが、上記ウレイドモノマーと電荷モノマー(および上記他のモノマー)の重合制御の観点から、4-シアノペンタン酸ジチオベンゾエート、4-シアノ-4-(フェニルカルボノチオイルチオ)ペンタン酸N-スクシンイミジルエステル、4-シアノ-4-(ドデシルスルファニル-チオカルボニル)スルファニルペンタン酸、4-シアノ-4-(ドデシルスルファニル-チオカルボニル)スルファニルペンタノールまたは2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロピオン酸-3-アジド-1-プロパノールエステルが好ましい。
【0052】
上記ATRP法としては公知の方法が利用可能であり、上記ATRP法により上記共重合体を合成した後に基材に修飾してもよく、ATRP開始剤を有する基材表面から直接上記共重合体を重合してもよい。ATRP法において用いられる触媒は、特に限定されず、ATRP法において通常使用されるものの中から幅広く選択できる。触媒として、例えば遷移金属錯体を用いることができる。遷移金属錯体は特に限定されず、幅広く選択できる。例えば、以下に示す遷移金属塩と配位子をそれぞれ適宜選び出して組み合わせることができる。
上記ATRP開始剤としては、特に限定されるものではないが、1-トリメトキシシリル-2-(p-クロロメチルフェニル)エタン、4-(クロロメチル)フェニルトリメトキシシラン、1-トリクロロシリル-2-(m-クロロメチルフェニル)エタン、1-トリクロロシリル-2-(p-クロロメチルフェニル)エタン、2-(4-クロロスルホニルフェニル)エチルトリメトキシシラン、(3-(2-ブロモイソブチリル)プロピル)トリメトキシシラン、2-ブロモ-2-メチルプロパン酸3-(トリクロロシリル)プロピル、2-ブロモ-2-メチルプロパン酸3-(トリメトキシシリル)プロピル、2-ブロモ-2-メチル-N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]プロパナミド、2-ブロモ-2-メチル-N-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]プロパナミド、臭化2-ブロモ-2-メチルプロピオニル、2-t-ブトキシカルボニル-2-ブロモプロパン、2-ブロモ-2-メチルプロピオン酸エチル、クロロメチルキシレン、1-ブロモエチルベンゼン、1-クロロエチルベンゼン、2-ブロモイソ酪酸2-ヒドロキシエチル、2,2-ジクロロアセトフェノン、2-クロロプロピオン酸メチル、ブロモメチルアセテート、ブロモエチルアセテート、2-ブロモイソ酪酸エチル、ブロモアセトニトリル、2-ブロモイソブチリルブロミド、ジエチルmeso-2,5-ジブロモアジペートなどが挙げられるが、上記ウレイドモノマーと電荷モノマー(および上記他のモノマー)の重合制御の観点から1-トリメトキシシリル-2-(p-クロロメチルフェニル)エタン、4-(クロロメチル)フェニルトリメトキシシラン、1-トリクロロシリル-2-(p-クロロメチルフェニル)エタン、2-ブロモ-2-メチルプロパン酸3-(トリメトキシシリル)プロピル、2-ブロモ-2-メチル-N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]プロパナミド、クロロメチルキシレンまたは2-ブロモイソ酪酸エチルが好ましい。簡便な方法として、2-ブロモプロピオニルブロミドをドーパミンと反応させて得られる物質や2-ブロモプロピオニルブロミドを3-アミノプロピルトリメトキシシランや3-アミノプロピルトリエトキシシランと反応させて得られる物質を使用して、基材表面修飾することにより、ATRP開始剤として使用することもできる。
【0053】
また、上記ATRP法における遷移金属塩としてはCuCl、CuCl、CuBr、CuBr、TiCl、TiCl、TiCl、TiBr、FeCl、FeCl、FeBr、FeBr、CoCl、CoBr、NiCl、NiBr、MoCl、MoCl、RuClなどが挙げられる。
【0054】
遷移金属塩に対する配位子についても特に限定されるものではないが、トリス(2-(ジメチルアミノ)エチル)アミン(MeTREN)、N,N,N,N-ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)、1,1,4,7,10,10-ヘキサメチルトリエチレンテトラアミン(HMTETA)、1,4,8,11-テトラメチル1,4,8,11-アザシクロテトラデカン(MeCyclam)、2,2-ビピリジン、4,4-ジメチル-2,2-ジピリジル、4,4-ジ-t-ブチル-2,2-ジピリジル、4,4-ジノニル-2,2-ジピリジル、N-ブチル-2-ピリジルメタンイミン、N-オクチル-2-ピリジルメタンイミン、N-ドデシル-N-(2-ピリジル-メチレン)アミン、N-オクタデシル-N-(2-ピリジルメチレン)アミン、トリス(2-ピリジルメチル)アミン、N,N,N,N-テトラキス(2-ピリジルメチル)-エチレンジアミン等が挙げられる。上記遷移金属塩と配位子の組み合わせとしては、例えばCuBr/2,2-ビピリジン、CuBr/2,2-ビピリジン、CuCl/MeTREN、CuCl/MeTRENなどが挙げられる。
【0055】
さらに上記遷移金属塩と配位子の他に、必要に応じて還元剤を添加することも可能である。上記還元剤としてはアスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、2-エチルヘキサン酸スズ(II)、一価の銅塩などが挙げられる。
【0056】
上記ATRP法を用いる場合、バルク重合も可能であるが、溶媒を加えて重合に供することもできる。また、溶媒としては上記ウレイドモノマーと上記電荷モノマーおよび上記他のモノマーが溶解するものであれば特に限定されず、一般的な溶媒が使用可能である。例えばアセトン、ジオキサン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)、アニソール、トルエン、アセトニトリル、ジメチルアセトアミドなどの極性非プロトン性溶媒、メタノール、エタノール(EtOH)、2-プロパノール、水などの極性プロトン溶媒性溶媒、これらの混合液から選択される。重合温度は溶媒に応じて適宜選択されるが、通常、25~120℃の範囲であり、好ましくは25~70℃の範囲である。重合温度が25℃以上の場合、重合がより進行しやすく、一方で120℃以下の場合には、重合の制御がよりしやすい。さらに重合時間についても特に制限されないが、通常、1~96時間の範囲であり、好ましくは1~48時間の範囲である。重合時間が1時間以上の場合にはより十分に重合が進行しやすく、96時間以下の場合には不要な停止反応により、副生成物を生じる可能性がより低い。
【0057】
<共重合体の製造方法2>
上記共重合体の製造方法はすでに公知であり、例えば特許第5800323号に記載の方法を使用することもできる。具体的には下記式(4)で表される構造の繰り返しである繰り返し配列を有する一級アミン含有ポリマーを溶媒に溶解させ、シアン酸塩(MCNO)と反応させる方法が使用できる。
【0058】
【化7】
【0059】
(上記式(4)中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Aは存在しないか、-(C=O)O-または-(C=O)NH-を表し、dは1~6の整数を表す。)
【0060】
上記式(4)において、Aが存在しないとは上記式(4)中、Aの上部の炭素(C)とAの下部の(CHが直接単結合していることを示している。
【0061】
上記式(4)において、dは1~6の整数を表すが、好ましくは1~4であり、例えば1または2である。
【0062】
上記一級アミン含有ポリマーとしては、例えばRがメチル基であり、Aが-(C=O)O-であり、dが2である一級アミン含有ポリマー、Rが水素原子であり、Aが-(C=O)O-であり、dが2である一級アミン含有ポリマー、Rがメチル基であり、Aが-(C=O)NH-であり、dが2である一級アミン含有ポリマー、Rが水素原子であり、Aが-(C=O)NH-であり、dが2である一級アミン含有ポリマー、Rが水素原子であり、Aが存在せず、dが1である一級アミン含有ポリマーなどが挙げられるが、共重合性の観点からRがメチル基であり、Aが-(C=O)O-であり、dが2である一級アミン含有ポリマー、Rが水素原子であり、Aが-(C=O)O-であり、dが2である一級アミン含有ポリマー、Rが水素原子であり、Aが-(C=O)NH-であり、dが2である一級アミン含有ポリマーまたはRが水素原子であり、Aが存在せず、dが1である一級アミン含有ポリマーが好ましく、Rがメチル基であり、Aが-(C=O)O-であり、dが2である一級アミン含有ポリマーまたはRが水素原子であり、Aが存在せず、dが1である一級アミン含有ポリマーがより好ましい。
【0063】
上記一級アミン含有ポリマーの分子量としては、要求される性能が発揮しうるように重合条件等を調整して適宜決定できるが、通常、数平均分子量で1,000~5,000,000程度であり、本発明の細胞分離用基材の細胞分離の効率を上げるためには2,000~2,000,000が好ましく、2,000~1,000,000がより好ましい。上記一級アミン含有ポリマーの分子量が数平均分子量で1,000以上の場合、本発明の細胞分離用基材において温度応答による細胞の脱離がよりしやすくなり、5,000,000以下の場合は細胞分離用基材に被分離細胞をより吸着させやすくなる。
【0064】
上記一級アミン含有ポリマーを溶解するための溶媒としては、例えば水、イミダゾール緩衝液などの緩衝液、有機溶媒またはこれらの混合液を挙げることができる。有機溶媒としては、一級アミン含有ポリマーが溶解すれば特に限定されないが、例えばメタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール等のアルコール類;アセトニトリル、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等を挙げることができる。反応に使用する一級アミン含有ポリマー溶液における一級アミン含有ポリマーの濃度としては、制限されないが、通常1~80重量%、好ましくは2~50重量%、より好ましくは5~40重量%を挙げることができる。上記一級アミン含有ポリマーの濃度が80重量%以下の場合、溶液粘度が上がりすぎることなく上記シアン酸塩との反応性を維持しやすく好ましい。
【0065】
上記一級アミン含有ポリマーと反応させるシアン酸塩(MCNO)としては、シアン酸カリウムやシアン酸ナトリウム等のシアン酸のアルカリ金属塩を好適に例示することができる。好ましくはシアン酸カリウムである。シアン酸塩の使用割合としては、特に限定されないが、上記一級アミン含有ポリマー中の一級アミノ基1モルに対して、0.4モル以上が好ましい。シアン酸塩の使用割合が0.4モル以上の場合、より十分にウレイド基を導入することができ、上限臨界溶液温度(UCST)がより達成されやすい。
【0066】
上記一級アミン含有ポリマーとシアン酸塩(MCNO)との反応は、撹拌しながら行うことが好ましい。反応温度は、特に制限されないが、好ましくは0~100℃、より好ましくは30~60℃に維持することが望ましい。反応温度が0℃以上の場合、反応がより十分に進行しやすく、100℃以下の場合は、原料の分解、さらには望まない副反応を生じる恐れがより少ない。反応時間も特に制限されないが、通常1~48時間、好ましくは1~25時間で、上記共重合体の溶液を得ることができる。反応時間が1時間以上の場合、反応がより十分に進行しやすく、48時間以下の場合は、原料の分解、さらには望まない副反応を生じる恐れがより少ない。
【0067】
得られた上記共重合体はそのまま未精製で次工程に用いられるほか、好ましくは再沈殿、ゲルろ過クロマトグラフィーや透析などの処理により単離、精製を行うこともできる。
【0068】
上記一級アミン含有ポリマーより製造された上記共重合体は電荷含有繰り返し配列Bとして一級アミノ基を有しているが、ハロゲン化アルキル、トリフルオロメタンスルホニルアルキル、メタンスルホニルアルキルなどと反応させることで二級アミン、三級アミン、四級アミンに変換することができる。また、無水コハク酸と反応させることでカルボキシル基に変換できる。
【0069】
<基材>
上記基材の材質としては特に限定はないがプラスチックや多糖類、金属、磁性を有する金属、シリコン、ガラス等が用いられ、これらの材料が複数使用されていてもよく、細胞分離に使用しやすい材料としては、水や溶媒に耐性のあるシリコン、ガラスやプラスチックが好ましい。プラスチックとしてはポリメタクリル酸メチル等のアクリル系ポリマー、ポリジメチルシロキサン等の各種シリコーンゴム、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート等が挙げられる。
【0070】
また、基材の形状は、例えば、容器状、板状、粒子状および繊維状の形状のほか、穴や溝が設けられた多孔質状のものであってもよい。なかでも細胞分離時の取り扱いの容易さから、容器状、板状、粒子状、繊維状または磁性を有した粒子状(磁性粒子)が好ましく、シャーレやフラスコといった容器状やシリコンウェハーやガラス板のような板状が特に好ましい。
【0071】
上記基材の表面は水酸基、アミノ基、カルボキシル基、トシル基、エポキシ基、N-ヒドロキシスクシンイミド基、マレイミド基、チオール基、アジド基、フェニルアジド基、ビオチン残基およびアビジン残基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を表面に有していてもよい。
【0072】
<細胞分離用基材の作製方法1>
本発明における細胞分離用基材の作製方法は基材に表面開始剤を固定化する[工程a]、表面開始剤から上記共重合体を重合する[工程b]を経て製造できる。
【0073】
[工程a]を実施するにあたり、通常、基材に対して前処理工程を行うことができる。前処理工程は、酸性溶液を基材表面にコーティングすることにより行うことができる。酸性溶液としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、過酸化水素などが挙げられ、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中では硫酸および過酸化水素を等量混合した混合液が特に好ましい。酸性溶液のコーティングは、基材表面をコーティングできる方法であれば特に制限はなく、例えば、塗布、スプレー、ディッピングなどにより行うことができる。酸性溶液による処理時間は、1~48時間が好ましく、3~24時間がより好ましい。処理時間が1時間以上の場合、表面修飾をより十分に行うことができる。処理時間が48時間以下の場合は材料表面にそれ以上変化がおきないといったことが生じにくく、生産性がより向上する。
【0074】
上記表面開始剤としては以降の[工程b]で用いる重合方法に応じて適宜選択できるが、例えば上記ラジカル開始剤、上記RAFT剤、上記ATRP開始剤などが挙げられる。その他の表面開始剤としてはアリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、(3-メルカプトプロピル)トリメトキシシラン、(3-メルカプトプロピル)トリエトキシシラン、(メタ)アクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル、(メタ)アクリル酸3-(トリエトキシシリル)プロピルなども挙げられる。
【0075】
上記表面開始剤を基材に固定化する方法としては基材への添加、シランカップリング反応、クリック反応、アミド化、エステル化、チオエステル化、カーボネート化、シッフ塩基形成反応、還元的アミノ化、ラジカルを介したカップリング反応、ディールスアルダー反応、ジスルフィド化、マイケル付加反応、エン-チオール反応、芳香族ホウ素化合物を介したカップリング反応、三級スルホニウム形成反応、四級アンモニウム形成反応などが挙げられるが、汎用性の高さから、シランカップリング反応、クリック反応、アミド化またはエステル化が好ましい。
【0076】
その他の固定化方法としては上記基材の官能基に2-ブロモプロピオニルブロミドを反応させる方法や3-アミノプロピルトリメトキシシランまたは3-アミノプロピルトリエトキシシランを反応させた表面に2-ブロモプロピオニルブロミドを反応させる方法、ドーパミンと2-ブロモプロピオニルブロミドとの反応物を使用する方法などが挙げられ、これらにより表面開始剤として上記基材の表面にATRP開始剤を導入できる。さらに、カルボキシル基を有するラジカル開始剤である、4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)を反応させる方法や、4-シアノペンタン酸ジチオベンゾエート、4-シアノ-4-(フェニルカルボノチオイルチオ)ペンタン酸N-スクシンイミジルエステル、4-シアノ-4-(ドデシルスルファニル-チオカルボニル)スルファニルペンタン酸などを上記基材の官能基に反応させることで表面開始剤として上記基材の表面にRAFT剤を導入することができる。
【0077】
上記シランカップリング反応は塗布、スプレー、ディッピング、真空蒸着法、イオンプレーティング、熱CVDなどにより行うことができる。中でも簡便な方法としては塗布またはディッピングが好ましい。シランカップリング反応の温度としては、特に限定されないが、通常、20~200℃であり、20~150℃が好ましく、20~120℃がより好ましい。反応温度が20℃以上の場合、反応がより進行しやすく、200℃以下の場合はシランカップリング剤の分解等望まない副反応がより進行しにくい。さらにシランカップリング反応の時間としては、通常、2~96時間であり、2~72時間が好ましく、2~48時間がより好ましい。反応時間が2時間以上の場合、より十分に反応が進行しやすく、96以下の場合はシランカップリング剤の分解等望まない副反応がより進行しにくい。
【0078】
上記シランカップリング反応は、溶媒を加えて固定化に供することもできる。また、溶媒としては上記表面開始剤が溶解するものであれば特に限定されず、一般的な溶媒が使用可能である。例えばトルエン、アセトン、ジオキサン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)、アニソール、トルエン、キシレン、アセトニトリル、ジメチルアセトアミドなどの極性非プロトン性溶媒、メタノール、エタノール(EtOH)、2-プロパノール、水などの極性プロトン溶媒性溶媒、これらの混合液から選択される。
【0079】
上記[工程b]は上記[工程a]で上記基材の表面に固定化した表面開始剤から上記共重合体をGrafting from法で合成する工程であり、上記共重合体の製造方法1と同様である。
【0080】
<細胞分離用基材の作製方法2>
本発明の細胞分離用基材はGrafting to法によっても作製できる。つまり、上記共重合体を合成する[工程c]、上記共重合体を基材に固定化する[工程d]を経て製造することもできる。
【0081】
上記[工程c]は上記共重合体の製造方法と同様である。
【0082】
上記[工程d]における上記共重合体を基材に固定化する方法としては上記[工程a]と同様の方法が挙げられる。
【0083】
<細胞分離方法>
本発明の細胞分離用基材を用いることで被分離細胞を含む細胞群からの被分離細胞の分離は下記の〔工程A〕、〔工程B〕および〔工程C〕を含む細胞分離方法により行うことができる。
【0084】
〔工程A〕
被分離細胞を含む細胞群を上記細胞分離用基材と接触させ、被分離細胞を上記細胞分離用基材に吸着させる工程である。
【0085】
上記細胞としては、培養用樹立細胞、ヒトを含む動物の受精卵および卵細胞などを挙げることができる。また、精細胞、ES細胞、iPS細胞、間葉系幹細胞、造血系幹細胞、神経幹細胞、臍帯血細胞などの幹細胞、肝細胞、神経細胞、心筋細胞、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、血球細胞などのヒトを含む動物細胞もしくは植物細胞などを挙げることもできる。
【0086】
上記被分離細胞とは本発明の細胞分離用基材を用いて細胞分離を行った結果、得られる細胞群のことであり、単一の種類であっても、複数の種類の細胞からなる細胞群であってもよい。
【0087】
上記被分離細胞を含む細胞群とは被分離細胞を好ましくは0.1%以上含有する細胞群のことで、含まれる細胞の種類は制限されない。
【0088】
上記被分離細胞を含む細胞群を上記細胞分離用基材と接触させる温度としては細胞分離用基材の表面に固定化されている共重合体の上限臨界溶液温度(UCST)以下であればよく、例えば2~20℃であり、好ましくは3~15℃、より好ましくは3~10℃である。2℃以上の温度で上記被分離細胞を含む細胞群を上記細胞分離用基材と接触させる場合、氷結し、細胞にダメージを与える恐れがより少ない。
【0089】
上記被分離細胞を含む細胞群を上記細胞分離用基材と接触させる方法としては、プレートやシャーレ、フラスコを遠心することで細胞を上記細胞分離用基材に押し付ける方法、細胞が上記細胞分離用基材に沈降するのを待つ方法などが挙げられる。
【0090】
上記被分離細胞を含む細胞群に含まれる細胞数としては、通常、1.0×1010cells/mL以下であり、1.0×10cells/mL以下が好ましく、1.0×10cells/mL以下が特に好ましい。1.0×1010cells/mL以下の細胞数の場合、上記細胞分離用基材上に接触する細胞が飽和することなく、十分な分離効果を得られやすい。
【0091】
上記被分離細胞を含む細胞群と上記細胞分離用基材との接触は、被分離細胞に悪影響を与えなければ特に限定されないが、通常この分野で用いられる緩衝液や培地を用いることができる。例えば、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、グッド緩衝液、グリシン緩衝液、ホウ酸緩衝液等が挙げられ、これらを混合して使用してもよい。好ましくはリン酸緩衝液である。またダルベッコ改変イーグルMEM培地(DMEM)、α-MEM培地、ロズウェルパーク記念研究所(RPMI)培地、F12培地、TC199培地、GMEM培地、などが挙げられ、これらを混合したり、必要に応じてウシ胎児血清(FBS)やグルタミン、抗生物質といったサプリメントを添加してもよいが、細胞分離用基材表面の電荷の効果を損なわないためには無血清の培地が好ましい。
【0092】
〔工程B〕
上記細胞分離用基材に吸着された被分離細胞を洗浄する工程である。
【0093】
上記洗浄の温度としては細胞分離用基材の表面に固定化されている共重合体の上限臨界溶液温度(UCST)以下であればよく、例えば2~20℃であり、好ましくは3~15℃、より好ましくは3~10℃である。2℃以上の温度で洗浄する場合、氷結し、細胞にダメージを与える恐れがより少ない。
【0094】
上記洗浄の回数としては、通常、10回以下であり、好ましくは7回以下、さらに好ましくは5回以下である。10回以下の回数洗浄する場合には洗浄時のせん断応力により、細胞にダメージを与える恐れがより少ない。
【0095】
上記洗浄に用いる緩衝液や培地については〔工程A〕で使用したものと同じものが使用できる。
【0096】
〔工程C〕
温度変化により、被分離細胞を上記細胞分離用基材から脱離させる工程である。
【0097】
上記脱離の温度としては細胞分離用基材の表面に固定化されている共重合体の上限臨界溶液温度(UCST)以上であればよく、例えば20~50℃であり、好ましくは25~40℃、より好ましくは30~40℃である。50℃以下の温度で脱離させた場合、細胞に含まれるタンパク質が変性し、細胞へダメージを与える恐れがより少ない。
【実施例0098】
以下、実施例などに基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例などに限定されるものではない。
【0099】
<開始剤修飾基材の作製>
【0100】
【化8】
【0101】
ピラニア溶液(濃硫酸/30%過酸化水素水 3/1 v/v)にガラス基板(10mm×10mm)をディッピングし、2時間浸漬させた。浸漬後イオン交換水で洗浄し乾燥させた。ピラニア処理したガラス基板をトルエン(8mL)に入れ、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(50μL)を添加し、30℃で24時間反応させた。反応後トルエンを除去し、エタノールで洗浄した。その後窒素雰囲気下、120℃で2時間アニーリングを行うことで表面にアミノ基を有するガラス基板を得た。表面にアミノ基を有するガラス基板をTHF(2mL)に入れ、トリエチルアミン(50μL)、2-ブロモプロピオニルブロミド(140μL)を添加した。室温で3時間反応後、エタノールで洗浄することで開始剤修飾基材(以下、「開始剤修飾基材」という。)を得た。
【0102】
<実施例1:細胞分離用基材Aの作製>
【0103】
【化9】
【0104】
(式中、coは化学式中の3つのモノマー単位の共重合体構造であることを示す。)
【0105】
試験管に開始剤修飾基材(10mm×10mm)、モノマーとしてウレイドエチルメタクリレート(UMA)(230mg,1.35mmol)、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)(11.8mg,0.075mmol)、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)(22.1mg,0.075mmol)、2-ブロモイソ酪酸エチル(1.9mg,0.01mmol)、CuBr(8,82mg,0.036mmol)および2,2-ビピリジン(11.4mg,0.072mmol)を入れ、エタノール/水(50/50 v/v)3mLに溶解した。窒素ガスでバブリングした後、アスコルビン酸(1.26mg,0.0072mmol)を加え反応を開始させた。24時間反応後、反応液から基材を回収後、洗浄を行うことで、細胞分離用基材Aを得た。
また、細胞分離用基材Aに固定化されたポリマーの分析を行うために、反応液からアセトンで再沈殿を行うことで2-ブロモイソ酪酸エチルから重合して得られた遊離の共重合体A’を得た。
・遊離の共重合体A’の収量;199mg
・遊離の共重合体A’の組成比;x:y:z=89:6:5(H NMRより算出)
H-NMR(CDOD+DO、400MHz);
4.1ppm(UMA、DMAEMA:COO-C ),3.8-4,6ppm(MPC:COO-C ,CH-C ,PO-C ),3.6ppm(MPC:C -N),3.4ppm(UMA、DMAEMA:CH-C ),3.2ppm(N(C ),2.8ppm(DMAEMA:N(CH),1.0-2.4ppm(ポリマー主鎖)
【0106】
得られた遊離の共重合体A’の数平均分子量は、検出器にWYATT社製 多角度光散乱検出器(MALS)を用いたゲル浸透クロマトグラフィー測定により求めた。ポンプに島津製作所(株)社製LC-720ADを、検出器(示差屈折率計)に島津製作所(株)社製RID10Aを、検出器(UV)にSPD-20Aを用いた。カラムには、東ソー(株)社製TSKGel G3000PWXLとTSKGel G5000PWXL(カラムサイズ 4.6mm×25cm)とを二本連結したものを用いた。展開溶媒は、100mMの硝酸ナトリウムを溶解させた蒸留水/アセトニトリル(5/5 v/v)を用いた。測定条件は、流速 0.6ml/min、カラム温度 40℃、サンプル濃度 2mg/mL、注入量 100μLであった。ゲル浸透クロマトグラフィー測定の結果、遊離の共重合体A’の数平均分子量は17,000であった。
【0107】
得られた遊離の共重合体A’の上限臨界溶液温度(UCST)は紫外可視分光光度計により透過率を測定し、透過率が減少し始める温度を上限臨界溶液温度(UCST)とした。遊離の共重合体A’を、無血清のRPMI培地に2.5mg/mL濃度になるように溶解した。溶液を石英セルに入れ、溶液温度を70℃~5℃の範囲で変化させ、その間の溶液の透過率(%)を紫外可視分光光度計によって測定した。なお、溶液の透過率(%)は下式から算出した。その結果遊離の共重合体A’の上限臨界溶液温度(UCST)は27℃であった。
【0108】
【数1】
【0109】
<実施例2:細胞分離用基材Bの作製>
【0110】
【化10】
【0111】
(式中、coは化学式中の3つのモノマー単位の共重合体構造であることを示す。)
【0112】
試験管に開始剤修飾基材(10mm×10mm)、モノマーとしてウレイドエチルメタクリレート(UMA)(230mg,1.35mmol)、コリンメタクリレート(CMA)(15.6mg,0.075mmol)、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)(22.1mg,0.075mmol)、2-ブロモイソ酪酸エチル(1.9mg,0.01mmol)、CuBr(8,82mg,0.036mmol)および2,2-ビピリジン(11.4mg,0.072mmol)を入れ、エタノール/水(50/50 v/v)3mLに溶解した。窒素ガスでバブリングした後、アスコルビン酸(1.26mg,0.0072mmol)を加え反応を開始させた。24時間反応後、得られた基材を回収後、洗浄を行うことで、細胞分離用基材Bを得た。
また、細胞分離用基材に固定化されたポリマーの分析を行うために、反応液からアセトンで再沈殿を行うことで2-ブロモイソ酪酸エチルから重合して得られた遊離の共重合体B’を得た。
・遊離の共重合体B’の収量;187mg
・遊離の共重合体B’の組成比;x:y:z=88:6:6(H NMRより算出)
【0113】
得られた遊離の共重合体B’の数平均分子量は、実施例1と同様にして求めた。ゲル浸透クロマトグラフィー測定の結果、遊離の共重合体B’の数平均分子量は20,000であった。
【0114】
得られた遊離の共重合体B’の上限臨界溶液温度(UCST)は実施例1と同様にして求めた。紫外可視分光光度計による測定の結果、上限臨界溶液温度(UCST)は25℃であった。
【0115】
<実施例3:細胞分離用基材Cの合成>
【0116】
【化11】
【0117】
(式中、coは化学式中の3つのモノマー単位の共重合体構造であることを示す。)
【0118】
試験管に開始剤修飾基材(10mm×10mm)、モノマーとしてウレイドエチルメタクリレート(UMA)(230mg,1.35mmol)、t-ブチルアクリレート(tBA)(9.6mg,0.075mmol)、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)(22.1mg,0.075mmol)、2-ブロモイソ酪酸エチル(1.9mg,0.01mmol)、CuBr(8,82mg,0.036mmol)および2,2-ビピリジン(11.4mg,0.072mmol)を入れ、エタノール/水(50/50 v/v)3mLに溶解した。窒素ガスでバブリングした後、アスコルビン酸(1.26mg,0.0072mmol)を加え反応を開始させた。24時間反応後、得られた基材を回収後、洗浄を行った。その後メタンスルホン酸と反応させ、t-ブチル基を加水分解することで、細胞分離用基材Cを得た。
また、細胞分離用基材に固定化されたポリマーの分析を行うために、反応液からアセトンで再沈殿を行うことで2-ブロモイソ酪酸エチルから重合して得られた遊離の共重合体C’を得た。
・遊離の共重合体C’の収量;157mg
・遊離の共重合体C’の組成比;x:y:z=90:5:5(H NMRより算出)
【0119】
得られた遊離の共重合体C’の数平均分子量は、実施例1と同様にして求めた。ゲル浸透クロマトグラフィー測定の結果、遊離の共重合体C’の数平均分子量は16,000であった。
【0120】
得られた遊離の共重合体C’の上限臨界溶液温度(UCST)は実施例1と同様にして求めた。紫外可視分光光度計による測定の結果、上限臨界溶液温度(UCST)は23℃であった。
【0121】
<実施例4-1:共重合体D’の合成>
【0122】
【化12】
【0123】
(式中、coは化学式中の2つのモノマー単位の共重合体構造であることを示す。)
【0124】
四ッ口フラスコに数平均分子量が150,000程度であるポリアリルアミン(500mg)を入れ、イオン交換水10mLに溶解し、50℃に加熱し、これにシアン酸カリウム(611mg,7.54mmol)(ポリアリルアミン中アミノ基1モルに対して0.83モル)を加え、24時間反応させた。反応終了後、同温度で透析により精製し、共重合体D’を得た。
組成比(モル比)x:y=81:19(H NMRより算出)
【0125】
得られた共重合体D’の上限臨界溶液温度(UCST)は実施例1と同様にして求めた。紫外可視分光光度計による測定の結果、上限臨界溶液温度(UCST)は30℃であった。
【0126】
<実施例4-2:細胞分離用基材Dの合成>
【0127】
【化13】
【0128】
(式中、coは化学式中の3つのモノマー単位の共重合体構造であることを示す。)
【0129】
表面にカルボン酸を導入した細胞培養表面処理済みポリスチレン製6ウェルプレート(コーニング社製)の一つに共重合体D’(30mg)および水溶性カルボジイミド(WSC)(2mg)を入れ、水3mLに溶解させ反応を開始させた。3時間反応後、ポリスチレンディッシュを洗浄することで、細胞分離用基材Dを得た。
【0130】
<試験例1-1:接触角測定>
作製した細胞分離用基材Aの接触角は接触角計DMo-702(共和界面科学株式会社製)を用いて測定した。ステージの上に細胞分離用基材Aを載せ、窒素雰囲気下で4℃および37℃の温度でイオン交換水1μLを滴下し測定を行った。液面と固体面とのなす角を計測することで各温度での接触角を算出した。
【0131】
<試験例1-2~試験例1-4>
表1に示す細胞分離用基材を使用したこと以外は試験例1-1と同様にして接触角を測定した。評価結果を表1に示す。
【0132】
<試験例2-1:細胞分離試験>
ポリスチレン製6ウェルプレートに細胞分離用基材として細胞培養用基材Aを入れ、Jurkat細胞と被分離細胞としてHoechest33342であらかじめ染色したHL-60細胞を細胞数で50:50となるように混合した複数細胞混合液(1.0×10cells/mL)3mLを4℃で添加した。6ウェルプレートを遠心することで細胞を沈降させた後、2回洗浄し、1mm×1mmの範囲を蛍光顕微鏡で観察し、細胞分離用基材上の被分離細胞の細胞数をカウントした(カウントA)。その後37℃に昇温し、洗浄し、再度、蛍光顕微鏡観察による被分離細胞の細胞数のカウントを行った(カウントB)。脱離率は下式より算出した。純度は細胞分離操作後にフローサイトメーターで分析することで算出した。評価結果を表2に示す。
脱離率=(カウントA-カウントB)/カウントA×100
【0133】
<試験例2-2~試験例2-4>
表2に示す細胞分離用基材および分離細胞を使用したこと以外は試験例2-1と同様にして細胞分離試験を行った。評価結果を表2に示す。
【0134】
<比較例1:細胞分離用基材Eの合成>
【0135】
【化14】
【0136】
試験管に開始剤修飾基材(10mm×10mm)、モノマーとしてウレイドエチルメタクリレート(UMA)(243mg,1.43mmol)、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)(22.1mg,0.075mmol)、2-ブロモイソ酪酸エチル(1.9mg,0.01mmol)、CuBr(8,82mg,0.036mmol)および2,2-ビピリジン(11.4mg,0.072mmol)を入れ、エタノール/水(50/50 v/v)3mLに溶解した。窒素ガスでバブリングした後、アスコルビン酸(1.26mg,0.0072mmol)を加え反応を開始させた。24時間反応後、得られた基材を回収後、洗浄を行うことで、細胞分離用基材Eを得た。
また、細胞分離用基材に固定化されたポリマーの分析を行うために、反応液からアセトンで再沈殿を行うことで2-ブロモイソ酪酸エチルから重合して得られた遊離の共重合体E’を得た。
・遊離の共重合体E’の収量;200mg
・遊離の共重合体E’の組成比;x:y=94:6(H NMRより算出)
【0137】
得られた遊離の共重合体E’の数平均分子量は、実施例1と同様にして求めた。ゲル浸透クロマトグラフィー測定の結果、遊離の共重合体E’の数平均分子量は20,000であった。
【0138】
得られた遊離の共重合体E’の上限臨界溶液温度(UCST)は実施例1と同様にして求めた。紫外可視分光光度計による測定の結果、上限臨界溶液温度(UCST)は25℃であった。
【0139】
<比較例2:細胞分離用基材Fの合成>
【0140】
【化15】
【0141】
試験管に開始剤修飾基材(10mm×10mm)、モノマーとしてN-イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)(162mg,1.43mmol)、t-ブチルアクリレート(tBA)(9.6mg,0.075mmol)2-ブロモイソ酪酸エチル(1.9mg,0.01mmol)、CuBr(8,82mg,0.036mmol)および2,2-ビピリジン(11.4mg,0.072mmol)を入れ、エタノール/水(80/20 v/v)3mLに溶解した。窒素ガスでバブリングした後、アスコルビン酸(1.26mg,0.0072mmol)を加え反応を開始させた。24時間反応後、得られた基材を回収後、洗浄を行った。その後メタンスルホン酸と反応させ、t-ブチル基を加水分解することで、細胞分離用基材Fを得た。
また、細胞分離用基材に固定化されたポリマーの分析を行うために、反応液からアセトンで再沈殿を行うことで2-ブロモイソ酪酸エチルから重合して得られた遊離の共重合体F’を得た。
・遊離の共重合体F’の収量;200mg
・遊離の共重合体F’の組成比;x:y=95:5(H NMRより算出)
【0142】
得られた遊離の共重合体F’の数平均分子量は、実施例1と同様にして求めた。ゲル浸透クロマトグラフィー測定の結果、遊離の共重合体F’の数平均分子量は12,000であった。
【0143】
得られた遊離の共重合体F’の下限臨界溶液温度(LCST)は紫外可視分光光度計により透過率を測定し、透過率が50となる温度を下限臨界溶液温度(LCST)とした。遊離の共重合体F’を、無血清のRPMI培地に2.5mg/mL濃度になるように溶解した。溶液を石英セルに入れ、溶液温度を70℃~5℃の範囲で変化させ、その間の溶液の透過率(%)を紫外可視分光光度計によって測定した。なお、溶液の透過率(%)は実施例1と同様に算出した。その結果遊離の共重合体F’の下限臨界溶液温度(LCST)は31℃であった。
【0144】
<比較試験例1-1~1-2>
表1に示す細胞分離用基材を使用したこと以外は試験例1-1と同様にして接触角を測定した。評価結果を表1に示す。
【0145】
<比較試験例2-1>
表2に示す細胞分離用基材および分離細胞を使用したこと以外は試験例2-1と同様にして細胞分離試験を行った。評価結果を表2に示す。
【0146】
<比較試験例2-2>
ポリスチレン製6ウェルプレートに細胞分離用基材として細胞培養用基材Fを入れ、Jurkat細胞と被分離細胞としてHoechest33342であらかじめ染色したHUVEC細胞を細胞数で50:50となるように混合した複数細胞混合液(1.0×10cells/mL)3mLを37℃で添加した。6ウェルプレートを遠心することで細胞を沈降させた後、2回洗浄し、1mm×1mmの範囲を蛍光顕微鏡で観察し、細胞分離用基材上の被分離細胞の細胞数をカウントした(カウントA)。その後4℃に降温し、洗浄し、再度、蛍光顕微鏡観察による被分離細胞の細胞数のカウントを行った(カウントB)。脱離率および純度は試験例2-1と同様にして算出した。評価結果を表2に示す。
【0147】
【表1】
【0148】
【表2】
【0149】
上記ウレイド基含有繰り返し配列を有する共重合体が固定化された細胞分離用基材A~E(試験例1-1~試験例1-4、比較試験例1-1)では4℃と37℃での接触角の変化は小さく、親水性を維持している。一方でNIPAM系ポリマーが固定化された細胞分離用基材F(比較試験例1-2)では4℃と37℃での接触角の変化が大きく、37℃で疎水性を示すことが分かった。このことから、本発明の細胞分離用基材は温度変化による親疎変化が小さく、常に親水性であることが分かった。
【0150】
電荷を有していない基板である細胞分離用基材Eでは、カウントAの値が小さい、すなわち被分離細胞の吸着量が少なくなった。さらに電荷を有していないために、特定の細胞のみを吸着できず分離後の純度も低い結果となった(比較試験例2-1)。またNIPAM系ポリマーが固定化された細胞分離用基材Fでは、低温条件で細胞を脱離させる必要があるために、細胞の運動性が下がった結果、脱離率の低下が見られた。さらに分離後の純度も低い結果となった。これは細胞分離用基材Fは37℃では疎水性を示すために、細胞吸着時に目的の被分離細胞(HUVEC)だけでなく目的外細胞(Jurkat)についても疎水性相互作用により吸着したためと考えられる。以上のことから、特定の細胞を選択的に吸着するために電荷を有し、かつ温度変化による親疎変化が小さく、かつ上限臨界溶液温度(UCST)を有する共重合体を基材表面に固定した本発明の細胞分離用基材を用いることで、特定の細胞を選択的に吸着でき、細胞を細胞分離用基材から脱離させやすく、さらには純度の高い細胞の得られることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明により、特定の細胞を選択的に吸着でき、細胞を細胞分離用基材から脱離させやすく、さらには純度の高い細胞の得られる細胞分離用基材が提供される。