(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066025
(43)【公開日】2023-05-15
(54)【発明の名称】フタロシアニン系化合物、膜及びフタロシアニン系化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 487/22 20060101AFI20230508BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
C07D487/22
C09K11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021176505
(22)【出願日】2021-10-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「光触媒の能動的制御による近赤外光合成プロセスの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(72)【発明者】
【氏名】古山 渓行
(72)【発明者】
【氏名】中谷 友哉
(72)【発明者】
【氏名】前田 和哉
(72)【発明者】
【氏名】前多 肇
(72)【発明者】
【氏名】千木 昌人
【テーマコード(参考)】
4C050
【Fターム(参考)】
4C050PA13
(57)【要約】 (修正有)
【課題】近赤外光を吸収、発光するフタロシアニン系化合物、膜及びフタロシアニン系化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】フタロシアニン系化合物は、以下の式(1)で表記され、Mは、水素二原子、中心元素又は中心元素に軸配位子が配位したものであり、R
1はそれぞれ、フェニル基、ナフチル基、窒素を含む複素環を有する基又はこれらの一部が置換された基であり、R
2はそれぞれ、水素、アリール基、炭素数6以下のアルキル基又はこれらの一部が置換された基であり、R
3はそれぞれ、水素である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(1)で表され、
【化1】
式中において、
Mは、水素二原子、中心元素又は中心元素に軸配位子が配位したものであり、
R
1はそれぞれ、フェニル基、ナフチル基、窒素を含む複素環を有する基又はこれらの一部が置換された基であり、
R
2はそれぞれ、水素、アリール基、炭素数6以下のアルキル基又はこれらの一部が置換された基であり、
R
3はそれぞれ、水素である、フタロシアニン系化合物。
【請求項2】
請求項1に記載のフタロシアニン系化合物を含む、膜。
【請求項3】
以下の式(2)で表される前駆体を合成する工程と、
【化2】
前記前駆体を反応させる工程と、を有する、フタロシアニン系化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フタロシアニン系化合物、膜及びフタロシアニン系化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
波長が1μm程度の近赤外光を吸収、発光できる材料は、医療、センサー等への適用が期待されている。
【0003】
例えば、特許文献1、2及び非特許文献1には、近赤外に吸収、発光を有するフタロシアニン系化合物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-176126号公報
【特許文献2】特開2013-103911号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Taniyuki Furuyama, Koh Satoh, Tomofumi Kushiya, and Nagao Kobayashi. J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 765-776.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近赤外に吸収、発光を有する材料は、まだまだ数が限られており、更なる開拓が求められている。また金属元素等の導入により吸収、発光波長を選択可能な材料の開発が求められている。
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、近赤外光を吸収、発光するフタロシアニン系化合物、膜及びフタロシアニン系化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0009】
(1)第1の態様にかかるフタロシアニン系化合物は、以下の式(1)で表される。
【0010】
【0011】
式中において、Mは、水素二原子、中心元素又は中心元素に軸配位子が配位したものであり、R1はそれぞれ、フェニル基、ナフチル基、窒素を含む複素環を有する基又はこれらの一部が置換された基であり、R2はそれぞれ、水素、アリール基、炭素数6以下のアルキル基又はこれらの一部が置換された基であり、R3はそれぞれ、水素である。
【0012】
(2)第2の態様にかかる膜は、上記態様にかかるフタロシアニン系化合物を含む。
【0013】
(3)第3の態様にかかるフタロシアニン系化合物の製造方法は、以下の式(2)で表される前駆体を合成する工程と、前記前駆体を反応させる工程と、を有する。
【0014】
【発明の効果】
【0015】
上記態様にかかるフタロシアニン系化合物及び膜は、近赤外光を吸収、発光できる。また上記態様にかかるフタロシアニン系化合物の製造方法は、近赤外光を吸収、発光できるフタロシアニン系化合物を作製できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】実施例1におけるフタロシアニン系化合物の反応式を示す。
【
図3】実施例におけるフタロシアニン系化合物の吸収スペクトルを示す。
【
図4】実施例におけるフタロシアニン系化合物の吸収スペクトルを示す。
【
図5】実施例におけるフタロシアニン系化合物の吸収スペクトルを示す。
【
図6】実施例におけるフタロシアニン系化合物の発光スペクトルを示す。
【
図7】実施例におけるフタロシアニン系化合物を含む分散膜の光学特性を示す。
【
図8】実施例11におけるフタロシアニン系化合物の反応式を示す。
【
図9】各実施例において評価対象とするフタロシアニン系化合物をまとめた図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本実施形態について詳細に説明する。以下の説明は本発明の一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0018】
「フタロシアニン系化合物」
本実施形態にかかるフタロシアニン系化合物は、下記の式(1)で表される。
【0019】
【0020】
上記式(1)中のMは、水素二原子、中心元素又は中心元素に軸配位子が配位したものである。水素二原子がMに配位した場合の式(1)の化合物は、下記の式(1A)で表される。
【0021】
【0022】
中心元素は、例えば金属元素である。中心元素は、例えば、Mg、Si、P、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ru、Pd、Snである。一部の中心元素は、軸配位子Lが配位した状態で、中心位置に配置される。配位子である中心元素は、フタロシアニン系化合物のπ-π*遷移に影響を及ぼす。中心元素が変わると、光の吸収ピーク波長が変わる。
【0023】
中心元素に軸配位子Lが配位した場合の式(1)の化合物は、下記の式(1B)で表される。中心元素Mは、フタロシアニン環と同一平面上に存在し、軸配位子Lはフタロシアニン環が存在する平面と交差する位置にある。
【0024】
【0025】
軸配位子Lの数は、中心元素Mによって異なる。軸配位子Lの数は、例えば、0個、1個、2個のいずれかである。
【0026】
例えば、中心元素MがMg、Ni、Cu、Zn、Pd等の場合は、軸配位子Lは0個である。すなわち、中心元素Mは、軸配位子Lを有さない。
【0027】
また例えば、中心元素がMnの場合は、軸配位子Lは1個である。この場合、軸配位子Lは、例えば、Cl、OAcである。Acは、アセチル基である。
【0028】
また例えば、中心元素がFe、Coの場合は、軸配位子Lは0個又は1個である。この場合、軸配位子Lは、例えば、Cl、OAcである。
【0029】
また例えば、中心元素がSi、P、Snの場合は、軸配位子Lは2個である。中心元素がSi、Snの場合は、軸配位子Lは、例えば、OH、Cl、ORである。中心元素がPの場合は、軸配位子Lは、例えば、OH、Cl、Br、ORである。Rは、炭素数6以下のアルキル基又はベンゼン誘導体であり、ベンゼン誘導体は任意の置換基で置換されたものでもよい。軸配位子Lが2個以上の場合、それぞれの軸配位子Lは異なっていてもよい。
【0030】
また例えば、中心元素がRuの場合は、軸配位子Lは1個又は2個である。中心元素がRuの場合は、軸配位子Lは、例えば、ピリジン、ピリジンを構成する炭素に接続する水素を上記のRで置換したもの、ベンゾニトリル、ベンゾニトリルを構成する炭素に接続する水素を上記のRで置換したもの、R’CN、COである。R’は、炭素数6以下のアルキル基である。
【0031】
また中心元素によっては、フタロシアニン系化合物全体の電荷を補償するカウンターアニオンが系内にあってもよい。例えば、中心元素がPの場合、カウンターアニオンとしてOH-、Cl-、PF6
-、ClO4
-のいずれかを系内に有してもよい。
【0032】
上記式(1)、(1A)及び(1B)中のR1は、フェニル基、ナフチル基、窒素を含む複素環を有する基又はこれらの一部が置換された基である。「これらの一部が置換された基」とは、環を構成する元素に接続された水素元素の一部が、他の元素に置換されたものであり、例えば、置換フェニル基、置換ナフチル基である。例えば、フェニル基の環を構成する炭素元素に接続される水素の一部が、ヒドロキシル基に置換されたもの、アルキル基に置換されたもの等である。R1は、一つのフタロシアニン系化合物中に8カ所あるが、R1はそれぞれ同じでも異なってもよい。
【0033】
上記式(1)、(1A)及び(1B)中のR2は、水素、アリール基、炭素数6以下のアルキル基又はこれらの基の一部が置換された基である。R2は、一つのフタロシアニン系化合物中に8カ所あるが、R2はそれぞれ同じでも異なってもよい。
【0034】
上記式(1)、(1A)及び(1B)中のR3は、水素である。R3を修飾すると、フタロシアニン系化合物の分子軌道に影響を及ぼし、フタロシアニン系化合物の吸収、発光波長をシフトさせる。その結果、フタロシアニン系化合物が所望の波長域で吸収、発光を示さなくなる場合がある。
【0035】
次いで、本実施形態に係るフタロシアニン系化合物の製造方法について説明する。本実施形態に係るフタロシアニン系化合物の製造方法は、前駆体を合成する工程と、前駆体を反応させる工程とを有する。
【0036】
まず以下の式(2)で表される前駆体を合成する。
【0037】
【0038】
まず溶媒中に、第1化合物と第2化合物と触媒の金属塩と触媒の配位子と脱プロトン剤とを添加し、加熱還流しながら撹拌した。
【0039】
第1化合物は、例えば、以下の式(3)で表される。Xは、ハロゲンである。例えば、第1化合物として、Xがヨウ素である3,6-ジヨードフタロニトリルを用いることができる。
【0040】
【0041】
第2化合物は、例えば、上記式(3)のハロゲンと置換する元素である。第2化合物の一部は、本実施形態に係るフタロシアニン系化合物のR1となる。例えば、R1がフェニル基の場合は、アニリンを用いる。
【0042】
触媒の金属塩は、例えば、酢酸パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(Pd2(dba)3)である。触媒の金属塩は、例えば、触媒の配位子と相互作用し、第1化合物と第2化合物を適切に連結するという作用を及ぼす。
【0043】
触媒の配位子は、例えば、2-ジシクロヘキシルホスフィノー2’,6’―ジメトキシビフェニル(SPhos)、2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフチル(BINAP)である。触媒の配位子は、例えば、触媒の金属塩と相互作用し、第1化合物と第2化合物を適切に連結するという作用を及ぼす。
【0044】
脱プロトン剤は、例えば、炭酸セシウム、炭酸カリウムである。塩基は、例えば、第1化合物と第2化合物の連結反応において、中間体を活性化させるという作用を及ぼす。
【0045】
溶媒は、例えば、トルエン、1,4-ジオキサンである。
【0046】
次いで、反応溶液を室温まで冷却後に、反応溶液に水を追加し、反応を中止させる。そして反応溶液から有機層を抽出し、乾燥させて粗生成物を作製する。その後、粗生成物を精製し、第1前駆体を作製する。粗生成物の精製は、例えば、クロマトグラフィーを用いて行う。第1前駆体は、例えば、以下の式(4)で表される。作製されるフタロシアニン系化合物のR2が水素の場合は、第1前駆体を用いてフタロシアニン系化合物を作製する。
【0047】
【0048】
次いで、必要に応じて、第1前駆体の一部を置換する。置換は、溶液中に第1前駆体と置換体と脱プロトン剤とを添加し、加熱撹拌することで行う。
【0049】
置換体は、例えば、R2のヨウ化物である。例えば、R2がメチル基の場合は、ヨウ化メチルである。脱プロトン剤は、例えば、炭酸カリウムである。脱プロトン剤は、炭酸カリウムに代えて水素化ナトリウムでもよい。溶液は、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)である。溶媒は、DMFに代えてテトラヒドロフラン(THF)でもよい。
【0050】
次いで、反応溶液を室温まで冷却後に、反応溶液に水を追加し、反応を中止させる。そして反応溶液から有機層を抽出し、乾燥させて粗生成物を作製する。その後、粗生成物を精製する。粗生成物の精製は、例えば、クロマトグラフィーを用いて行う。上記手順で、式(4)の水素が、別の基に置換され、式(2)の前駆体が得られる。
【0051】
次いで、前駆体を反応させて、所定のフタロシアニン系化合物を作製する。前駆体からフタロシアニン系化合物を作製する工程は、公知の方法を用いることができる。
【0052】
例えば、リチウムへキソキシド溶液に、前駆体を添加し、加熱しながら撹拌する。そして、反応溶液を冷却後、混合物を抽出する。そして抽出された有機層を洗浄後、乾燥、ろ過し、粗生成物を作製する。作製された粗生成物を有機溶媒で洗浄することで、第1のフタロシアニン系化合物が得られる。第1のフタロシアニン系化合物は、上記の式(1A)で表される。第1のフタロシアニン系化合物は、式(1)のMが水素二原子の場合に対応する。
【0053】
次いで、必要に応じて、第1のフタロシアニン系化合物の中心に元素を配位する。元素の配位は、第1のフタロシアニン系化合物と配位する元素を含む化合物とを溶液中に添加し、加熱撹拌することで行う。そして、反応溶液を冷却後、混合物を抽出する。そして抽出された有機層を洗浄後、乾燥、ろ過し、粗生成物を作製する。作製された粗生成物を分離精製することで、式(1)で表されるフタロシアニン系化合物が得られる。
【0054】
ここでは、式(1)で表されるフタロシアニン系化合物の作製方法の一例について説明した。このフタロシアニン系化合物の作製方法は、この例に限られるものではない。例えば、上記の例では、式(1A)で表される第1のフタロシアニン系化合物を作製後に、中心に元素を配位したが、第1前駆体と中心元素を含む化合物とを反応させて、第1前駆体から直接的に、式(1)で表されるフタロシアニン系化合物を作製してもよい。
【0055】
本実施形態にかかるフタロシアニン系化合物は、800nm以上の長波長域に吸収及び発光スペクトルのピークを有する。また本実施形態にかかるフタロシアニン系化合物は、350nmから780nmの可視光波長域の光をほとんど吸収せず、これらの領域でほとんど発光しない。したがって、可視光波長域において本実施形態にかかるフタロシアニン系化合物は透明である。本実施形態にかかるフタロシアニン系化合物は、様々な用途に適用可能である。
【0056】
例えば、当該化合物を、色素増感型太陽電池に用いることができる。当該化合物が、可視光より長波長域の光を吸収することで、色素増感型太陽電池の発電効率が向上する。また例えば、当該化合物を水素製造触媒として用いることもできる。当該化合物が、可視光より長波長域の光を吸収することで、触媒の反応効率が高まる。また例えば、当該化合物を光線力学療法、光免疫療法の増感剤として用いることもできる。当該化合物が生体透過性の高い可視光より長波長域の光を吸収することで、可視光では到達できない組織深部の治療効率が高まる。また例えば、当該化合物を光音響イメージングの造影剤として用いることもできる。当該化合物が可視光より長波長域の光を吸収することで、造影剤効率が高まる。
【0057】
また例えば、フタロシアニン系化合物を、膜に用いることもできる。膜は、例えば、フタロシアニン系化合物が樹脂中に分散した膜である。この膜は、可視光波長域において透明性を有しており、様々な用途への適用が期待される。例えば、当該膜を用いて近赤外光領域に選択的に応答する近赤外光電変換素子が提供できる。
【0058】
樹脂は、特に限定されない。樹脂は、例えば、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、オレフィン樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、シリコーン樹脂、熱可塑性エラストマー、ブチルゴム、ニトリルゴム、シリコーンゴム等である。例えば、アクリル樹脂(ポリメタクリル酸メチル(PMMA))は光学特性に優れ、光学部材に適用しやすい。
【0059】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例0060】
(実施例1)
「前駆体の作製」
実施例1では、
図1に示す反応を行い、前駆体を作製した。
【0061】
<第1前駆体の作製>
まずアルゴン雰囲気下で、3,6-ジヨードフタロニトリル(444.4mg, 1.2mmol)、酢酸パラジウム(18.4mg, 82μmol)、2-ジシクロヘキシルホスフィノー2’,6’-ジメトキシビフェニル(SPhos)(70.0mg, 0.17mmol)、炭酸セシウム(1.37g, 4.2mmol)およびアニリン(93.1mg, 3.5mmol)をトルエン(2 mL)に溶解させた。そしてこの溶液を、加熱還流下において、2.5時間撹拌した。
【0062】
次いで、反応溶液を室温まで冷却後、水を加えて反応を停止させた。次いで、反応液から酢酸エチルを用いて混合物を抽出した。抽出された混合物の有機層を水および飽和食塩水で洗浄後、硫酸ナトリウムを用いて有機層を乾燥させた。その後、固体を濾過で取り除き溶液を濃縮して粗生成物を得た。そしてこの粗生成物をシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィー(展開溶媒、ヘキサン:酢酸エチル=2.5:1)で精製した。精製後に、307.1mgの黄色固体が得られた。収率は82%であった。
【0063】
次いで、得られた黄色固体の結晶を以下の条件で、NMR(核磁気共鳴)を用いて分子構造を測定した。また高分解能マススペクトル測定を用いて、元素分析を行った。
400 MHz 1H NMR (CDCl3) δ (ppm) 7.36-7.32 (m, 4H), 7.32 (s, 2H), 7.13-7.08 (m, 6H). 125 MHz 13C{1H} NMR (CDCl3) δ (ppm): 141.8, 140.0, 129.9, 124.3, 122.2, 121.0, 114.9, 100.1.
HR-APCI-FT-ICR-MS calcd for C20H15N4 [M+H]+: 311.1291, found 311.1289.
【0064】
その結果、
図1の化学式Iで示される第1前駆体が得られていることを確認した。
【0065】
<第2前駆体の作製>
次いで、この化合式I(26.5mg, 0.084mmol)、ヨウ化メチル(0.1 mL)、炭酸カリウム(58.8mg, 0.44mmol)を、アルゴン雰囲気下で、DMF(4mL)に溶解させた。そして、溶液を130°Cで2日間撹拌した。反応溶液を室温まで冷却後、水を加えて反応を停止した。混合物を酢酸エチルで抽出し、有機層を水および飽和食塩水で洗浄した。その後、洗浄後の試料を硫酸ナトリウムで乾燥させ、固体を濾過で取り除き溶液を濃縮して、粗生成物を得た。そしてこの粗生成物をシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィー(展開溶媒、ヘキサン:酢酸エチル=2:1)で精製した。精製後に、26.2mgの黄色固体が得られた。収率は91%であった。
【0066】
次いで、得られた黄色固体の結晶を以下の条件で、NMR(核磁気共鳴)を用いて分子構造を測定した。また高分解能マススペクトル測定を用いて、元素分析を行った。
400 MHz 1H NMR (CDCl3) δ (ppm): 7.34-7.28 (m, 4H), 7.31 (s, 2H), 7.04-7.00 (m, 2H), 6.94-6.91 (m, 4H), 3.44 (s, 6H). 125 MHz 13C{1H} NMR (CDCl3) δ (ppm): 148.8, 147.5, 130.6, 129.5, 122.2, 118.8, 114.5, 111.9, 41.0.
HR-APCI-FT-ICR-MS calcd for C22H19N4 [M+H]+: 339.1604, found 339.1602.
【0067】
その結果、
図1の化学式IIで示される第2前駆体が得られていることを確認した。
【0068】
「フタロシアニン系化合物の作製」
次いで、化学式IIで示される第2前駆体を用いてフタロシアニン系化合物を作製した。
【0069】
<第1のフタロシアニン系化合物の作製>
まずアルゴン雰囲気下で、1-ヘキサノール(3 mL)に金属リチウム(19.5mg, 2.8mmol)を加え、金属リチウムがなくなるまで加熱還流し、リチウムヘキソキシド溶液を調製した。そして、この溶液に化学式IIで示される第2前駆体(201.6mg, 0.60mmol)を素早く加え、150℃で2時間撹拌した。そして、反応溶液を室温まで冷却後、混合物をクロロホルムで抽出した。抽出した混合物の有機層を水および飽和食塩水で洗浄した。その後、洗浄後の試料を硫酸ナトリウムで乾燥させ、固体を濾過で取り除き溶液を濃縮して粗生成物を得た。そして、得られた粗生成物をメタノール、続いてヘキサンで洗浄した。そして、試料を乾燥させることで、103.2mgの暗緑色固体が得られた。収率は、51%であった。
【0070】
次いで、得られた暗緑色固体の結晶を以下の条件で、NMR(核磁気共鳴)を用いて分子構造を測定した。また高分解能マススペクトル測定を用いて、元素分析を行った。
400 MHz 1H NMR (CDCl3) δ (ppm): 7.66 (s, 8H), 7.24-7.20 (m, 16H), 6.94-6.91 (m, 24H), 3.43 (s, 24H).
HR-MALDI-FT-ICR-MS calcd for C88H74N16 [M]+: 1354.6277, found 1354.6289.
UV-vis-NIR (CHCl3) λmax nm (ε x 10-4): 896 (8.7), 791sh (3.7), 497 (1.1), 337 (9.7). λF, max (CHCl3): 972 nm. ΦF = 0.001.
【0071】
その結果、
図2の化学式IIIで示される第1のフタロシアニン系化合物が得られていることを確認した。
【0072】
<第2のフタロシアニン系化合物の作製>
次いで、第1のフタロシアニン系化合物の中心の水素2元素を他の元素に置換し、中心元素を配位する置換工程を行った。化学式IIIで示される第1のフタロシアニン系化合物(13.3mg, 10μmol)と酢酸亜鉛(15.6mg, 85μmol)とをDMF(1mL)に溶解させ、150℃で3時間撹拌した。そして、反応溶液を室温まで冷却後、混合物をクロロホルムで抽出した。そして、混合物の有機層を水および飽和食塩水で洗浄した。その後、洗浄後の試料を硫酸ナトリウムで乾燥させ、固体を濾過で取り除き溶液を濃縮して粗生成物を得た。そして粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒、クロロホルム)で精製し、7.3mgの暗緑色固体を得た。収率は、54%であった。
【0073】
次いで、得られた暗緑色固体の結晶を以下の条件で、NMR(核磁気共鳴)を用いて分子構造を測定した。また高分解能マススペクトル測定を用いて、元素分析を行った。
500 MHz 1H NMR (pyridine-d5) δ (ppm): 7.78 (s, 8H), 7.40-7.37 (m, 16H), 7.15-7.11 (m, 24H), 3.81 (s, 24H).
HR-MALDI-FT-ICR-MS calcd for C88H72N16Zn [M]+: 1416.5412, found 1416.5431.
UV-vis-NIR (CHCl3) λmax nm (ε x 10-4): 844 (5.1), 748sh (1.9), 332 (5.3). λF, max (CHCl3): 919 nm. ΦF = 0.003.
【0074】
その結果、
図2の化学式IVで示される第2のフタロシアニン系化合物が得られていることを確認した。すなわち、実施例1のフタロシアニン系化合物の中心元素Mは、Znである。
【0075】
「評価」
次いで、作製した第2のフタロシアニン系化合物の評価を行った。第2のフタロシアニン系化合物の吸収スペクトル及び発光スペクトルを測定した。吸収スペクトル及び発光スペクトルは、結晶のクロロホルム溶液を調製し、測定した。測定結果を、
図3~
図6に示す。
図3~
図5は、後述する各実施例にかかるフタロシアニン系化合物の吸収スペクトルであり、
図6は、後述する一部の実施例にかかるフタロシアニン系化合物の発光スペクトルである。実施例1のフタロシアニン系化合物の吸収スペクトルのピーク波長は844nmであり、発光スペクトルのピーク波長は919nmであった。
【0076】
また作製した第2のフタロシアニン系化合物をPMMAに分散させ、PMMA分散膜を作製した。そしてPMMA分散膜の分光評価を行った。PMMA分散膜の分光評価は、日本分光社製の紫外可視近赤外分光光度計V-770に積分球ILF-533を接続した装置を用いて行った。測定結果を
図7に示す。また
図7には、比較例として、2,9,16,23-テトラキス(tert-ブチル)フタロシアニンの分光特性も示す。実施例1の分散膜は、可視光波長域に吸収、発光がほとんどなく、可視光波長域において透明であった。実際の目視においても、比較例にかかるフタロシアニンの分散膜は青色であるのに対し、実施例1にかかる分散膜は透明であった。
【0077】
(実施例2)
実施例2は、第1のフタロシアニン系化合物を評価対象とした点が実施例1と異なる。すなわち、実施例2のフタロシアニン系化合物の中心元素Mは、水素二原子である。
【0078】
実施例2は、実施例1と同様の手順で評価を行った。実施例2のフタロシアニン系化合物の吸収スペクトルのピーク波長は896nmであり、発光スペクトルのピーク波長は972nmであった。
【0079】
(実施例3)
実施例3は、実施例1の第2のフタロシアニン系化合物の作製時の置換工程において添加する化合物を変えた点が実施例1と異なる。具体的には、酢酸亜鉛二水和物(9.2mg, 50μmol)を塩化マンガン無水物(12.4 mg, 100 μmol)に変えた。その他の条件は、実施例1と同等とした。実施例3のフタロシアニン系化合物の中心元素Mは、Mnであり、軸配位子LとしてClが1つ配位している。
【0080】
実施例3は、実施例1と同様の手順で評価を行った。実施例3のフタロシアニン系化合物の吸収スペクトルのピーク波長は1019nmであった。
【0081】
(実施例4)
実施例4は、実施例1の第2のフタロシアニン系化合物の作製時の置換工程において添加する化合物を変えた点が実施例1と異なる。具体的には、酢酸亜鉛二水和物(15.6mg, 71μmol)を塩化スズ(II)(181.6 mg, 100 μmol)に変えた。その他の条件は、実施例1と同等とした。実施例4のフタロシアニン系化合物の中心元素Mは、Snであり、軸配位子Lとして塩素が2つ配位している。
【0082】
実施例4は、実施例1と同様の手順で評価を行った。実施例4のフタロシアニン系化合物の吸収スペクトルのピーク波長は1011nmであった。
【0083】
(実施例5)
実施例5は、実施例1の第2のフタロシアニン系化合物の作製時の置換工程において添加する化合物を変えた点が実施例1と異なる。具体的には、酢酸亜鉛二水和物(15.6mg, 71μmol)を酢酸マグネシウム(12.6 mg, 88 μmol)に変えた。その他の条件は、実施例1と同等とした。実施例5のフタロシアニン系化合物の中心元素Mは、Mgである。
【0084】
実施例5は、実施例1と同様の手順で評価を行った。実施例5のフタロシアニン系化合物の吸収スペクトルのピーク波長は834nmであり、発光スペクトルのピーク波長は917nmであった。
【0085】
(実施例6)
実施例6は、実施例1の第2のフタロシアニン系化合物の作製時の置換工程において添加する化合物を変えた点が実施例1と異なる。具体的には、酢酸亜鉛二水和物(15.6mg, 71μmol)を酢酸銅(II)(12.4 mg, 68 μmol)に変えた。その他の条件は、実施例1と同等とした。実施例5のフタロシアニン系化合物の中心元素Mは、Cuである。
【0086】
実施例6は、実施例1と同様の手順で評価を行った。実施例6のフタロシアニン系化合物の吸収スペクトルのピーク波長は860nmであった。
【0087】
(実施例7)
実施例7は、実施例1の第1前駆体の作製時に、アニリンに代えてp-アニシジンを用い、第1のフタロシアニン系化合物を作製し評価した点が実施例1と異なる。実施例7のフタロシアニン系化合物は、R1がp-メトキシフェニル基である点が実施例1の第1のフタロシアニン系化合物と異なる。すなわち、実施例7のフタロシアニン系化合物は、R1がp-メトキシフェニル基である点が実施例2と異なる。
【0088】
実施例7は、実施例1と同様の手順で評価を行った。実施例7のフタロシアニン系化合物の吸収スペクトルのピーク波長は935nmであり、発光スペクトルのピーク波長は1000nmであった。
【0089】
(実施例8)
実施例8は、実施例1の第1前駆体の作製時に、アニリンに代えて3-アミノピリジンを用い、第1のフタロシアニン系化合物を作製し評価した点が実施例1と異なる。実施例8のフタロシアニン系化合物は、R1が3-ピリジル基である点が実施例1の第1のフタロシアニン系化合物と異なる。すなわち、実施例8のフタロシアニン系化合物は、R1が3-ピリジル基である点が実施例2と異なる。
【0090】
実施例8は、実施例1と同様の手順で評価を行った。実施例8のフタロシアニン系化合物の吸収スペクトルのピーク波長は868nmであり、発光スペクトルのピーク波長は977nmであった。
【0091】
(実施例9)
実施例9は、実施例1の第1前駆体の作製時に、アニリンに代えて4-クロロアニリンを用い、第1のフタロシアニン系化合物を作製し評価した点が実施例1と異なる。実施例9のフタロシアニン系化合物は、R1がp-クロロフェニル基である点が実施例1の第1のフタロシアニン系化合物と異なる。すなわち、実施例9のフタロシアニン系化合物は、R1がp-クロロフェニル基である点が実施例2と異なる。
【0092】
実施例9は、実施例1と同様の手順で評価を行った。実施例9のフタロシアニン系化合物の吸収スペクトルのピーク波長は898nmであり、発光スペクトルのピーク波長は987nmであった。
【0093】
(実施例10)
実施例10は、実施例1の第1前駆体の作製時に、アニリンに代えて4-tert-ブチルアニリンを用い、第1のフタロシアニン系化合物を作製し評価した点が実施例1と異なる。実施例10のフタロシアニン系化合物は、R1がp-tert-ブチルフェニル基である点が実施例1の第1のフタロシアニン系化合物と異なる。すなわち、実施例10のフタロシアニン系化合物は、R1がp-tert-ブチルフェニル基である点が実施例2と異なる。
【0094】
実施例10は、実施例1と同様の手順で評価を行った。実施例10のフタロシアニン系化合物の吸収スペクトルのピーク波長は934nmであり、発光スペクトルのピーク波長は1017nmであった。
【0095】
(実施例11)
実施例11は、実施例10において得られた第2前駆体を用いて、中心元素MがNiのフタロシアニン系化合物を作製した。
【0096】
実施例10において得られた第2前駆体(49.9mg, 0.11mmol)と酢酸ニッケル(12.1mg, 68μmol)と1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(0.3 mL)とを1-ヘキサノール(1mL)に溶解させ、150℃で24時間撹拌した。そして、反応溶液を室温まで冷却後、溶液を濃縮して得られた固体をメタノールで洗浄して粗生成物を得た。そして粗生成物をアルミナカラムクロマトグラフィー(展開溶媒、クロロホルム)で精製し、2.1mgの暗緑色固体を得た。収率は、4%であった。
【0097】
次いで、得られた暗緑色固体の結晶を以下の条件で、NMR(核磁気共鳴)を用いて分子構造を測定した。
500 MHz 1H NMR (CDCl3) δ (ppm): 7.54 (s, 8H), 7.24-7.15 (m, 24H), 6.80-6.75 (m, 16H), 3.31 (s, 24H).
UV-vis-NIR (THF) λmax nm (ε x 10-4): 896 (5.0), 800 (3.0), 483 (1.0), 337 (7.0).
【0098】
その結果、
図8の化学式Vで示されるフタロシアニン系化合物が得られていることを確認した。
【0099】
実施例11は、実施例1と同様の手順で評価を行った。実施例11のフタロシアニン系化合物の吸収スペクトルのピーク波長は896nmであった。
【0100】
図9に、各実施例の評価対象としているフタロシアニン系化合物をまとめた。
本発明のフタロシアニン系化合物は、例えば、光電変換素子、撮像素子、色素増感型太陽電池、カラーフィルター、光熱変換材料、近赤外光増感剤、触媒等に適用可能である。