(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066028
(43)【公開日】2023-05-15
(54)【発明の名称】電線被覆の劣化程度評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/91 20060101AFI20230508BHJP
G01N 17/00 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
G01N21/91 A
G01N17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021176508
(22)【出願日】2021-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野口 優弥
(72)【発明者】
【氏名】松本 均
(72)【発明者】
【氏名】東 勇吾
(72)【発明者】
【氏名】宇都宮 里佐
【テーマコード(参考)】
2G050
2G051
【Fターム(参考)】
2G050AA04
2G050BA01
2G050BA10
2G050BA20
2G050CA04
2G050EA01
2G050EA06
2G050EB01
2G050EB07
2G050EC06
2G051AA44
2G051AB02
2G051GB01
2G051GC03
2G051GD05
(57)【要約】
【課題】設置現場から電線被覆のサンプルを持ち帰ることなく、設置現場でも簡便に実施可能な電線被覆の劣化程度を評価する方法を提供する。
【解決手段】ポリ塩化ビニル及び可塑剤を含有する電線被覆の劣化程度評価方法であって、
(1)前記電線被覆に染料のアルコール溶液を接触させて接触部を得る工程1、
(2)前記接触部の着色程度に基づいて前記電線被覆の劣化程度を評価する工程2、
を順に備える、電線被覆の劣化程度評価方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビニル及び可塑剤を含有する電線被覆の劣化程度評価方法であって、
(1)前記電線被覆に染料のアルコール溶液を接触させて接触部を得る工程1、
(2)前記接触部の着色程度に基づいて前記電線被覆の劣化程度を評価する工程2、
を順に備える、電線被覆の劣化程度評価方法。
【請求項2】
前記可塑剤は、フタル酸エステル系可塑剤、アジピン酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、及びトリメリット酸エステル系可塑剤からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の電線被覆の劣化程度評価方法。
【請求項3】
前記染料は、アゾ系染料、アントラキノン系染料、ペリノン系染料、ペリレン系染料、メチン系染料、及びキノリン系染料からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1又は2に記載の電線被覆の劣化程度評価方法。
【請求項4】
前記アルコールは、C1-4アルコールである、請求項1~3のいずれかに記載の電線被覆の劣化程度評価方法。
【請求項5】
前記アルコール溶液に含有される前記染料の濃度が、0.01~20質量%である、請求項1~4のいずれかに記載の電線被覆の劣化程度評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線被覆の劣化程度評価方法に関し、特にポリ塩化ビニル及び可塑剤を含有する電線被覆の劣化程度評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般電気工作物、電気機器用配線、盤内配線等に用いられる絶縁電線として、ポリ塩化ビニル絶縁電線(例えば、IV電線)がよく知られている。このような絶縁電線の電線被覆は、経年劣化により電線自体が硬化したり漏電等の原因ともなり得るため、適時に電線被覆の劣化程度(主に硬化劣化の程度)を確認する必要がある。
【0003】
電線被覆の劣化程度を確認する方法としては、例えば、設置現場から持ち帰った電線被覆のサンプルに対してオートグラフを用いて引張試験を行い、破断伸度により確認する方法がある。これに関連し、例えば、特許文献1の[0015]段落には、JIS規格に記載されている破断伸度[%]について、「破断伸度は、基準長L0の電線被覆を引っ張ったときの切断時の伸び率のことをいう。破断伸度は、切断時の長さをL1とすると、「破断伸度=((L1-L0)/L0×100)」の式により表される。判断伸度が例えば100%未満の場合、その電線は規格不適合(劣化)となる。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電線被覆のサンプルに引張試験を行い、破断伸度により劣化程度を確認する方法では、設置現場から電線被覆のサンプルを持ち帰るのは、一般に電線、電気機器等の交換時となるため、使用中の電線に対して任意の時期に劣化程度を確認することは困難である。
【0006】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みて完成されたものであり、設置現場から電線被覆のサンプルを持ち帰ることなく、設置現場でも簡便に実施可能な電線被覆の劣化程度を評価する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の染料溶液を使用することにより、ポリ塩化ビニルを含有する電線被覆の劣化程度を設置現場でも簡便な方法で評価できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は下記の電線被覆の劣化程度評価方法に関する。
項1 ポリ塩化ビニル及び可塑剤を含有する電線被覆の劣化程度評価方法であって、
(1)前記電線被覆に染料のアルコール溶液を接触させて接触部を得る工程1、
(2)前記接触部の着色程度に基づいて前記電線被覆の劣化程度を評価する工程2、
を順に備える、電線被覆の劣化程度評価方法。
項2 前記可塑剤は、フタル酸エステル系可塑剤、アジピン酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、及びトリメリット酸エステル系可塑剤からなる群から選択される少なくとも一種である、上記項1に記載の電線被覆の劣化程度評価方法。
項3 前記染料は、アゾ系染料、アントラキノン系染料、ペリノン系染料、ペリレン系染料、メチン系染料、及びキノリン系染料からなる群から選択される少なくとも一種である、上記項1又は項2に記載の電線被覆の劣化程度評価方法。
項4 前記アルコールは、C1-4アルコールである、上記項1~項3のいずれかに記載の電線被覆の劣化程度評価方法。
項5 前記アルコール溶液に含有される前記染料の濃度が、0.01~20質量%である、上記項1~項4のいずれかに記載の電線被覆の劣化程度評価方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電線被覆の劣化の程度を、電線被覆を破壊することなく、設置現場から電線被覆のサンプルを持ち帰ることなく、設置現場でも簡便に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例の試験例1における各種条件での着色後の電線被覆の写真像と、破断伸度の結果とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について説明する。なお、以下において、数値範囲を示す「~」の標記は「未満」又は「超過」の意味であることを特に断らない限り「以上以下」を示す。つまり、「A~B」は「A以上B以下」を意味する。
【0012】
本明細書において、ある成分を「含む」又は「含有する」の表現には、当該成分を含み、さらに他の成分を含んでいてもよい意味のほか、当該成分のみを含む「のみからなる」の概念も包含される。
【0013】
電線被覆の劣化程度評価方法
本発明の電線被覆の劣化程度評価方法は、ポリ塩化ビニル及び可塑剤を含有する電線被覆の劣化程度評価方法であって、以下の工程1及び2;
(1)前記電線被覆に染料のアルコール溶液を接触させて接触部を得る工程1、
(2)前記接触部の着色程度に基づいて前記電線被覆の劣化程度を評価する工程2、
を順に備える。上記電線被覆としては、一般電気工作物、電気機器用配線、盤内配線等に用いられるポリ塩化ビニル絶縁電線(例えば、IV電線)の被覆が挙げられる。
【0014】
上記ポリ塩化ビニルは、電線被覆の材料として可塑剤とともに使用されるポリ塩化ビニルである限り、特に限定されない。
【0015】
上記可塑剤は、電線被覆に使用されるポリ塩化ビニルと共に使用することができる可塑剤であり、本発明の効果を発揮する限りにおいて、特に限定されない。具体的には、フタル酸エステル系可塑剤、アジピン酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤等のエステル系可塑剤を挙げることができる。これらの中でも、汎用性の高い可塑剤であり、一般的にポリ塩化ビニル電線被覆材料に使用される可塑剤の半数以上を占めているため、大半の劣化状態を評価できるという観点から、フタル酸エステル系可塑剤が好ましい。なお、上記可塑剤は、一種単独で使用しても、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0016】
上記フタル酸エステル系可塑剤は、本発明の効果を発揮する限りにおいて、特に限定されない。具体的には、ジブチルフタレート、ジヘキシルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジn-オクチルフタレート、ジ-2-エチルヘキシルフタレート、ジイソオクチルフタレート、ジノニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート等のフタル酸エステル系可塑剤が挙げられる。上記フタル酸エステル系可塑剤は、一種単独で使用しても、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0017】
上記アジピン酸エステル系可塑剤は、本発明の効果を発揮する限りにおいて、特に限定されない。具体的には、ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジイソブチルアジペート、ジイソノニルアジペート、ジ2-エチルヘキシルアジペート、ジn-オクチルアジペート、ジデシルアジペート、n-オクチル-n-デシルアジペート、n-ヘプチル-n-ノニルアジペート、ベンジルオクチルアジペート、ジブチルジグリコールアジペート等のアジピン酸エステル系可塑剤が挙げられる。こ上記アジピン酸エステル系可塑剤は、一種単独で使用しても、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0018】
上記リン酸エステル系可塑剤は、本発明の効果を発揮する限りにおいて、特に限定されない。具体的には、トリブチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート等のリン酸エステル系可塑剤が挙げられる。上記リン酸エステル系可塑剤は、一種単独で使用しても、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
上記トリメリット酸エステル系可塑剤は、本発明の効果を発揮する限りにおいて、特に限定されない。具体的には、トリ-2-エチルヘキシルトリメリテート(TOTM)、トリ-n-オクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、トリイソデシルトリメリテート、ジ-n-オクチル-n-デシルトリメリレート等のトリメリット酸エステル系可塑剤が挙げられる。なお、上記トリメリット酸エステル系可塑剤は、一種単独で使用しても、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
上記電線被覆における可塑剤の含有量は、本発明の効果を発揮する限りにおいて、特に限定されない。具体的には、100質量部のポリ塩化ビニルに対して、通常、2.0~20質量部程度の量の可塑剤を含有することができる。
【0021】
上記に説明した可塑剤を含むポリ塩化ビニル電線被覆材料としては、本発明の効果を発揮する範囲において、特に限定されない。具体的には、硬質ポリ塩化ビニル、軟質塩化ビニル、耐熱性ポリ塩化ビニル、耐火性ポリ塩化ビニル等のポリ塩化ビニル電線被覆材料を挙げることができる。これらの中でも、本発明の電線被覆の劣化程度評価方法が主に硬化劣化の程度を評価するものであることに鑑みると、本発明の効果はとりわけ軟質ポリ塩化ビニルに対して得られ易い。
【0022】
工程1
工程1は、前記電線被覆に染料のアルコール溶液を接触させて接触部を得る。
上記染料のアルコール溶液におけるアルコールは、本発明の効果を発揮する限りにおいて、特に限定されない。具体的には、炭素数が1~4のアルコール(C1-4アルコールとも記載する)を挙げることができる。このようなC1-4アルコールは、本発明の効果を発揮する限りにおいて、特に限定されない。具体的には、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコールを挙げることができる。これらの中でも、劣化程度を装置設置環境で判定する際の安全性や使用の容易さの観点から、エタノールが好ましい。なお、上記C1-4アルコールは、一種単独で使用しても、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
上記染料は、本発明の効果を発揮する限りにおいて、特に限定されない。具体的には、上記アルコールに可溶性であるいわゆるアルコール染料、又は油溶性染料が使用できる。例えば、アゾ系染料、アントラキノン系染料、ペリノン系染料、ペリレン系染料、メチン系染料、キノリン系染料等の染料が挙げられる。染料の種類は、例えば、電線被覆自体の色との関係から選択することもでき、着色とその程度が電線被覆自体の色との対比で明確に識別できる染料を好適に使用することができる。
【0024】
上記アルコール溶液における染料の濃度は、本発明の効果を発揮する限りにおいて、特に限定されない。具体的には、アルコール溶液において、通常0.01~20質量%程度とすることができる。より好ましくは、0.1~10質量%程度であり、1~5質量%程度をすることが好ましい。0.01質量%以上とすることによって、電線被覆に対して十分に着色することができる。また、20質量%以下とすることによって、着色程度の判断において程度比較が容易となるとメリットがある。
【0025】
上記アルコール溶液には、染料を効率的に溶解させることを目的に、エステル類が含有されていてもよい。このようなエステル類は、本発明の効果を発揮する限りにおいて、特に限定されない。具体的には、高沸点エステル等を挙げることができる。
【0026】
上記エステル類の含有量は、発明の効果を発揮する限りにおいて、特に限定されない。具体的には、上記アルコール溶液中、通常は、5~50質量%程度の含有量とすることができ、25~35質量%程度とする事が好ましい。
【0027】
上記アルコール溶液には、染料を効率的に分散させることを目的に、界面活性剤が含有されていてもよい。このような界面活性剤は、本発明の効果を発揮する限りにおいて、特に限定されない。具体的には、グリコールエーテル系界面活性剤等を挙げることができる。このようなグリコールエーテル系界面活性剤は、本発明の効果を発揮する限りにおいて、特に限定されない。具体的には、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等を挙げることができる。中でも、ジエチレングリコールモノブチルエーテルが好ましい。高沸点エステル等を挙げることができる。
【0028】
上記界面活性剤の含有量は、発明の効果を発揮する限りにおいて、特に限定されない。具体的には、上記アルコール溶液中、通常は、1~40質量%程度とすることができ、5~15質量%程度とする事が好ましい。
【0029】
上記アルコール溶液には、上記の他に、鉱油等が含有されるものとすることができる。
【0030】
上記アルコール溶液を電線被覆に接触させて接触部を得る方法は、本発明の効果を発揮する限りにおいて、特に限定されない。例えば、噴霧、浸漬、又は刷毛等を使用して電線被覆に塗布する方法を挙げることができる。
【0031】
工程1におけるアルコール溶液の接触時間は、本発明の効果を発揮する限りにおいて、特に限定されない。通常、1分~20時間とすることができる。より好ましくは、6~18時間である
【0032】
工程2
工程2は、前記接触部の着色程度に基づいて前記電線被覆の劣化程度を評価する。
工程2において、着色の程度を評価する手段は、接触部の着色程度に基づいていればよく、特に限定されない。例えば、着色の濃淡により目視にて評価する手段を挙げることができる。よって、劣化していない電線被覆の着色の程度を基準に、電線被覆の劣化の程度を評価することができる。なお、着色の色調は、工程1にて使用するアルコール溶液に含有される染料が呈する色調であり、例えば、アゾ系染料であれば、一般的に赤色である。
【0033】
本発明において、染料のアルコール溶液による着色の程度により電線被覆の劣化程度を評価できる理由としては、電線被覆の劣化程度が進むにつれて電線被覆に含まれる可塑剤の含有量が減少することと相関関係があるものと推測される。これは、可塑剤の含有量が劣化により減少することにより劣化が進んだ電線被覆の破断伸度が小さくなるという従来の知見とも一致する。フタル酸エステル系可塑剤を例示すると、可塑剤はフタル酸構造に由来する極性部分とアルコール構造に由来する非極性部分に分かれる。染料のアルコール溶液は可塑剤の非極性部分と親和性があるため、劣化の少ない電線被覆では染料のアルコール溶液との親和性が大きい点で着色程度が大きく、劣化が進んだ電線被覆では可塑剤の含有量が減少している点で染料のアルコール溶液との親和性が相対的に小さくなっている点で着色程度が小さくなるものと推定される。
【0034】
このような劣化の程度は、従来、破断伸度で評価することが知られている。このような破断伸度と、上記着色の程度とは相関関係を有しており、ともに電線被覆の劣化の程度を評価することができる。例えば、リトマス試験紙によるpHの評価と同様に、着色の程度(濃淡の程度)を標準見本とし、これに応じた破断伸度を設定し、電線被覆の劣化の程度を着色の程度と破断伸度とから定量的に評価することもできる。
【0035】
また、上述した本発明の各実施態様について説明した性質、構造、機能等の各種の特性は、本発明に包含される態様を特定するにあたり、適宜組み合わせることができる。すなわち、本発明には、本明細書で開示する、組み合わせることができる各特性の態様の全ての発明を包含することができる。
【実施例0036】
以下に、本発明をより詳細に説明するための試験例1を示す。本発明が下記に示す試験例1に限定されないのは言うまでもない。
【0037】
試験例1
タセト社製のカラーチェック(商標登録)染色浸透探傷剤FP-Sとエタノールとを、1:9で混合した試験液を調製した。上記FP-Sとは、アゾ系油溶性染料を1~5質量%、高沸点エステルを35~45質量%、鉱油を40~50質量%、及びジエチレングリコールモノブチルエーテルを5~15質量%含有する。
【0038】
試験に使用した電線被覆はフジクラダイヤケーブル社のIV電線(2Sq)である。この電線被覆に対して100℃で所定時間の加熱(促進試験)を行った。なお、「屈曲」と記載した条件では電線被覆を屈曲状態で促進試験に供した。その後、上記試験液を処理後の各電線被覆に塗布し、18時間、室温にて放置した。
【0039】
その後、塗布した処理液を除去して、電線被覆の着色の程度を観察した。また、各種処理後の電線被覆は、JISC3005及びJISC3316に基づいて、引張特性試験により破断伸度を測定した。これらの着色後の電線被覆の写真像と、破断伸度の結果を
図1に示す。
【0040】
図1の(1)は、初期品、すなわち無処理の電線被覆の結果であり、破断伸度が222%で処理液に含有されるアゾ系色素による赤色を呈することが観察された。
【0041】
図1の(2)は、120時間の加熱処理に供した電線被覆(直線)の結果であり、破断伸度が190%と測定され、着色の程度は、
図1の(1)の無処理の電線被覆よりも、薄くなることが明らかとなった。
【0042】
図1の(3)は、240時間の加熱処理に供した電線被覆(直線)の結果であり、破断伸度が183%と測定され、着色の程度は、
図1の(1)の無処理の電線被覆よりも、薄くなることが明らかとなった。
【0043】
図1の(4)は、480時間の加熱処理に供した電線被覆(直線)の結果であり、破断伸度が111%と測定され着色の程度は、
図1の(1)の無処理の電線被覆よりも、薄くなることが明らかとなった。
【0044】
図1の(5)は、720時間の加熱処理に供した電線被覆(直線)の結果であり、破断伸度が45%と測定され、着色の程度は、
図1の(1)の無処理の電線被覆よりも、薄くなることが明らかとなった。
【0045】
図1の(6)は、120時間の加熱処理と共に屈曲処理に供した電線被覆の結果であり、破断伸度が117%と測定され、着色の程度は、
図1の(1)の無処理の電線被覆よりも、薄くなることが明らかとなった。
【0046】
図1の(7)は、240時間の加熱処理と共に屈曲処理に供した電線被覆の結果であり、破断伸度が91%と測定され、着色の程度は、
図1の(1)の無処理の電線被覆よりも、薄くなることが明らかとなった。
【0047】
図1の(8)は480時間の加熱処理と共に屈曲処理に供した電線被覆の結果であり、破断伸度が11%と測定され、着色の程度は、
図1の(1)の無処理の電線被覆よりも、薄くなることが明らかとなった。
【0048】
図1の(9)は、720時間の加熱処理と共に屈曲処理に供した電線被覆の結果であり、破断伸度が7%と測定され、着色の程度は、
図1の(1)の無処理の電線被覆よりも、薄くなることが明らかとなった。
【0049】
上記試験の結果から、各種処理を行った電線被覆の破断伸度が低くなるにつれて、試験液に含有されるアゾ系色素による赤色の着色の程度が薄くなる傾向が確認された。破断伸度が100%以下となる電線被覆は使用限界となることから、上記試験により、使用限界の電線被覆を設置現場にて確認できることが期待される。
【0050】
なお、上記試験液により、電線被覆に含まれる電線の機能に悪影響を与えないことは、別途確認されている。