(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066039
(43)【公開日】2023-05-15
(54)【発明の名称】視覚情報補正装置、視覚情報補正方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 3/113 20060101AFI20230508BHJP
A61B 3/08 20060101ALI20230508BHJP
A61B 3/024 20060101ALI20230508BHJP
G09G 5/00 20060101ALI20230508BHJP
G09G 5/38 20060101ALI20230508BHJP
A61F 2/70 20060101ALI20230508BHJP
A61F 9/00 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
A61B3/113
A61B3/08
A61B3/024
G09G5/00 550C
G09G5/38 A
A61F2/70
A61F9/00 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021176529
(22)【出願日】2021-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】川守田 拓志
【テーマコード(参考)】
4C097
4C316
5C182
【Fターム(参考)】
4C097AA24
4C316AA16
4C316AA18
4C316AA21
4C316AA22
4C316FA18
4C316FA19
4C316FB11
5C182AB02
5C182AB08
5C182AB33
5C182BA01
5C182BA02
5C182BA14
5C182BA56
5C182CB42
5C182CC24
5C182DA69
(57)【要約】
【課題】眼振、眼筋麻痺、または視野欠損に起因する視覚異常を有するユーザに対し、ユーザの視線に合わせて視認しやすい位置に移動した映像を出力することができる視覚情報補正装置を提供する。
【解決手段】視覚情報補正装置は、ユーザの視線を検出する検出部と、検出した前記視線に合わせて映像を移動させた補正後視覚情報を生成する補正部と、前記補正後視覚情報を表示する表示部と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの視線を検出する検出部と、
検出した前記視線に合わせて映像を移動させた補正後視覚情報を生成する補正部と、
前記補正後視覚情報を表示する表示部と、
を備える視覚情報補正装置。
【請求項2】
前記補正部は、前記映像の特定位置が前記視線と交差する位置に配置されるように、前記映像を移動させる、
請求項1に記載の視覚情報補正装置。
【請求項3】
前記特定位置は、前記映像における前記ユーザの視認目標位置である、
請求項2に記載の視覚情報補正装置。
【請求項4】
前記補正部は、前記視線の移動量が、固視微動による移動量を超える場合に、前記補正後視覚情報を生成する、
請求項1から3の何れか一項に記載の視覚情報補正装置。
【請求項5】
前記検出部は、前記ユーザの左眼の視線、および右眼の視線をそれぞれ検出し、
前記補正部は、左眼の視線に合わせて映像を移動させた左眼用の補正後視覚情報、および右眼の視線に合わせて映像を移動させた右眼用の補正後視覚情報の少なくとも一方を生成する、
請求項1から4の何れか一項に記載の視覚情報補正装置。
【請求項6】
前記特定位置は、前記映像における前記ユーザの視認目標位置から所定量をオフセットした位置である、
請求項2に記載の視覚情報補正装置。
【請求項7】
前記ユーザの残存視野を検出する視野検出部をさらに備え、
前記補正部は、前記視認目標位置が前記残存視野に投影されるように前記所定量を設定する、
請求項6に記載の視覚情報補正装置。
【請求項8】
前記ユーザから、前記所定量を指定する操作を受け付ける操作受付部をさらに備える、
請求項6に記載の視覚情報補正装置。
【請求項9】
前記ユーザの視界に映る映像を撮影する撮影部をさらに備え、
前記補正部は、前記撮影部が撮影した前記映像に基づいて、前記補正後視覚情報を生成する、
請求項1から8の何れか一項に記載の視覚情報補正装置。
【請求項10】
ユーザの視線を検出するステップと、
検出した前記視線に合わせて映像を移動させた補正後視覚情報を生成するステップと、
前記補正後視覚情報を表示するステップと、
を有する視覚情報補正方法。
【請求項11】
ユーザの視線を検出するステップと、
検出した前記視線に合わせて映像を移動させた補正後視覚情報を生成するステップと、
前記補正後視覚情報を表示するステップと、
を視覚情報補正装置に実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、視覚情報補正装置、視覚情報補正方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ユーザの視覚を改善するための技術として、例えば特許文献1には、能動液体レンズによりユーザの眼の焦点を調節する焦点調節眼科用装置が開示されている。この焦点調節眼科用装置は、電圧に応じて変形する能動液体レンズと、ユーザの固視微動を検出するセンサを有している。焦点調節眼科用装置は、ユーザの固視微動中に能動液体レンズの形状を維持するための操作(能動液体レンズに印加する電圧の分極反転)を行うことにより、この操作に伴う焦点の一時的な変動がユーザに知覚されることを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
眼の焦点の調節機能の他にも、視覚に影響する症状がある。例えば、眼球が無意識で規則的に動く、振り子のように往復運動がおこる、眼球振盪(以下、「眼振」とも記載する。)と呼ばれる症状がある。眼振には、先天性及び後天性がある。また、先天性眼振を有する患者は、網膜中心窩に光刺激が適切に送られない(像が常に揺れている状態となる)ために、視覚野の発達障害が生じ、眼鏡で矯正しても視力が出ない弱視となる可能性がある。
【0005】
また、眼球の動きを司る筋肉が何かしらの原因でうまく動かなくなる眼筋麻痺という症状がある。眼筋麻痺患者は、左右の一方の眼球を移動させることが困難となり、両眼の視線が一致しない斜視を有する場合がある。そうすると、視認したい対象が2つ見える複視が生じることがある。また、眼筋麻痺患者は、麻痺筋が作用する方向に頭を回す、傾ける等の行動を伴う場合がある。
【0006】
さらに、視野の中に見えない箇所がある視野欠損という症状がある。視野欠損は、脳梗塞、視神経の障害(例えば、緑内障)、網膜の障害(例えば、加齢黄斑変性)などにより生じる。視野欠損患者は、残存視野を活用することになるが、視認したい対象が残存視野で結像するようにうまく視線を定めることが難しい場合がある。このため、視野欠損患者は、読書などの視力に頼った行動を行うことが難しくなることがある。また、視野欠損患者の交通事故や転倒のリスクが上昇する可能性がある。
【0007】
このような眼振、眼筋麻痺、視野欠損などの視覚異常を有する患者(ユーザ)が、視認したい対象をより明確に見られるようにする技術が求められている。
【0008】
本開示は、このような課題に鑑みてなされたものであって、眼振、眼筋麻痺、または視野欠損に起因する視覚異常を有するユーザに対し、ユーザの視線に合わせて視認しやすい位置に移動した映像を出力することができる視覚情報補正装置、視覚情報補正方法、及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の第1の態様によれば、視覚情報補正装置は、ユーザの視線を検出する検出部と、検出した前記視線に合わせて映像を移動させた補正後視覚情報を生成する補正部と、前記補正後視覚情報を表示する表示部と、を備える。
【0010】
本開示の第2の態様によれば、第1の態様に係る視覚情報補正装置において、前記補正部は、前記映像の特定位置が前記視線と交差する位置に配置されるように、前記映像を移動させる。
【0011】
本開示の第3の態様によれば、第2の態様に係る視覚情報補正装置において、前記特定位置は、前記映像における前記ユーザの視認目標位置である。
【0012】
本開示の第4の態様によれば、第1から第3の何れか一の態様に係る視覚情報補正装置において、前記補正部は、前記視線の移動量が、固視微動による移動量を超える場合に、前記補正後視覚情報を生成する。
【0013】
本開示の第5の態様によれば、第1から第4の何れか一の態様に係る視覚情報補正装置において、前記検出部は、前記ユーザの左眼の視線、および右眼の視線をそれぞれ検出し、前記補正部は、左眼の視線に合わせて映像を移動させた左眼用の補正後視覚情報、および右眼の視線に合わせて映像を移動させた右眼用の補正後視覚情報の少なくとも一方を生成する。
【0014】
本開示の第6の態様によれば、第2の態様に係る視覚情報補正装置において、前記特定位置は、前記映像における前記ユーザの視認目標位置から所定量をオフセットした位置である。
【0015】
本開示の第7の態様によれば、第6の態様に係る視覚情報補正装置は、前記ユーザの残存視野を検出する視野検出部をさらに備え、前記補正部は、前記視認目標位置が前記残存視野に投影されるように前記所定量を設定する。
【0016】
本開示の第8の態様によれば、第6の態様に係る視覚情報補正装置は、前記ユーザから、前記所定量を指定する操作を受け付ける操作受付部をさらに備える。
【0017】
本開示の第9の態様によれば、第1から第8の何れか一の態様に係る視覚情報補正装置は、前記ユーザの視界に映る映像を撮影する撮影部をさらに備え、前記補正部は、前記撮影部が撮影した前記映像に基づいて、前記補正後視覚情報を生成する。
【0018】
本開示の第10の態様によれば、視覚情報補正方法は、ユーザの視線を検出するステップと、検出した前記視線に合わせて映像を移動させた補正後視覚情報を生成するステップと、前記補正後視覚情報を表示するステップと、を有する。
【0019】
本開示の第11の態様によれば、プログラムは、ユーザの視線を検出するステップと、検出した前記視線に合わせて映像を移動させた補正後視覚情報を生成するステップと、前記補正後視覚情報を表示するステップと、を視覚情報補正装置に実行させる。
【発明の効果】
【0020】
本開示に係る視覚情報補正装置、視覚情報補正方法、及びプログラムによれば、眼振、眼筋麻痺、または視野欠損に起因する視覚異常を有するユーザに対し、ユーザの視線に合わせて視認しやすい位置に移動した映像を出力することができる。これにより、ユーザは、映像内において視認したい対象をより鮮明に視認することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】第1の実施形態に係る視覚情報補正装置の全体構成を示す図である。
【
図2】第1の実施形態に係る視覚情報補正装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図3】第1の実施形態に係る視覚情報補正装置の処理の一例を示すフローチャートである。
【
図4】第2の実施形態に係る視覚情報補正装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図5】第2の実施形態に係る視覚情報補正装置の処理の一例を示すフローチャートである。
【
図6】第3の実施形態に係る視覚情報補正装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図7】第3の実施形態に係る視覚情報補正装置の処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<第1の実施形態>
以下、本開示の第1の実施形態に係る視覚情報補正装置について、
図1~
図3を参照しながら説明する。
【0023】
(視覚情報補正装置の全体構成)
図1は、第1の実施形態に係る視覚情報補正装置の全体構成を示す図である。
図1に示すように、視覚情報補正装置1は、本体部10と、表示部11と、検出部12と、撮影部13とを備える。
【0024】
視覚情報補正装置1は、例えば
図1に示すようにヘッドマウントディスプレイであり、ユーザMの頭部に装着される。
【0025】
表示部11は、ユーザMに対し、本体部10から出力された映像を表示するディスプレイである。
【0026】
検出部12は、ユーザMの視線を検出する視線解析装置である。例えば、検出部12は、ユーザの眼球の位置情報を取得する2次元センサである。また、検出部12は、ユーザMの眼球の位置情報をより正しく取得できるように、ユーザMの眼球に発光ダイオード(LED)、レーザーダイオード(LD)等を照射する照明を有していてもよい。
【0027】
撮影部13は、ユーザMの視界に映る映像を撮影するカメラである。
【0028】
本体部10は、撮影部13が撮影した映像を、検出部12により検出されたユーザMの視線に合わせて移動させて、表示部11に表示させる。
【0029】
なお、
図1には本体部10がヘッドマウントディスプレイに内蔵されている例が示されているが、これに限られることはない。他の実施形態では、本体部10は、ヘッドマウントディスプレイの外部に設けられた一般的なパーソナルコンピュータに設けられてもよい。
【0030】
さらに他の実施形態では、視覚情報補正装置1はスマートフォンなどの携帯端末やPCに接続された電子ディスプレイであってもよい。この場合、表示部11、検出部12、および撮影部13として、それぞれスマートフォンのディスプレイ、インカメラ(ディスプレイ側のカメラ)、およびアウトカメラ(スマートフォンの背面側のカメラ)が用いられる。また、例えば、視覚情報補正装置1がゴーグル型、眼鏡型、コンタクトレンズ型の仮想現実・拡張現実・複合現実技術を用いたディスプレイなどである態様も、本発明の範囲に含まれる。
【0031】
(視覚情報補正装置の機能構成)
図2は、第1の実施形態に係る視覚情報補正装置の機能構成を示すブロック図である。
図2に示すように、視覚情報補正装置1の本体部10は、CPU100と、メモリ101と、ストレージ102と、インタフェース103とを有する。
【0032】
メモリ101は、いわゆる主記憶装置であって、CPU100がプログラムに基づいて動作するための命令及びデータが展開される。
【0033】
ストレージ102は、いわゆる補助記憶装置であって、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等であってよい。
【0034】
インタフェース103は、表示部11、検出部12、撮影部13等の機器と通信可能に接続するためのインタフェース(通信インタフェース)である。
【0035】
CPU100は、視覚情報補正装置1の動作全体の制御を司るプロセッサである。CPU100は、所定のプログラムに従って動作することにより、補正部1001としての機能を発揮する。
【0036】
補正部1001は、ユーザMの視線に合わせて、撮影部13が撮影した映像を移動させた補正後視覚情報(補正後映像)を生成する。具体的には、補正部1001は、表示部11上において、映像の特定位置がユーザMの視線と交差する位置に配置されるように、映像を移動させる。
【0037】
(視覚情報補正装置の処理フロー)
図3は、第1の実施形態に係る視覚情報補正装置の処理の一例を示すフローチャートである。
本実施形態では、ユーザMは眼振患者であるとする。ユーザMは、眼振のため、見たいと思う対象に視線を静止させることができず、網膜上に鮮明に結像することが困難である。このため、視覚情報補正装置1は、ユーザMの眼振による視線の移動に追随するように、撮影部13が撮影した映像を移動させて表示部11に表示させる。
以下、
図3を参照しながら、第1の実施形態に係る視覚情報補正装置1の処理の流れについて詳細に説明する。
【0038】
まず、検出部12は、ユーザMの眼球に発光ダイオード(LED)、レーザーダイオード(LD)等の照明を当て、2次元センサで眼球の位置情報を取得する。また、検出部12は、眼球の位置情報から、ユーザMの視線を推定して検出する(ステップS10)。
【0039】
なお、検出部12は、カメラによりユーザMの眼球を撮影して、既知の画像認識技術を利用してユーザMの視線を推定して検出するようにしてもよい。
【0040】
次に、補正部1001は、視認目標位置を設定する(ステップS11)。視認目標位置は、撮影部13が撮影した映像において、ユーザMが見ようとする物体が存在する位置である。例えば、ユーザM自身、または医師等が、映像内の特定の物体を見るように予め指定していた場合、補正部1001は、この物体の位置を視認目標位置として設定する。
【0041】
また、補正部1001は、撮影部13が撮影した映像内の特定位置と、検出したユーザMの視線とが交差するように、映像を移動させた補正後視覚情報(補正後映像)を生成する(ステップS12)。特定位置は、ステップS11で設定した視認目標位置である。
【0042】
なお、補正部1001は、補正後視覚情報を生成する際に、たとえば約0.1度程度の固視微動を意図的に与え、分解能の向上や健常人の自然な見え方を与える機構を有していてもよい。
【0043】
次に、表示部11は、補正部1001が生成した補正後視覚情報を表示する(ステップS13)。
【0044】
視覚情報補正装置1は、ステップS10~S13の処理を繰り返し実行することにより、眼振によってユーザMの視線が移動する度に、映像の移動量を調整して表示部11に表示する。そうすると、ユーザMには、視認目標位置があたかも静止しているように見える。これにより、視覚情報補正装置1は、ユーザMの網膜上に鮮明な映像を結像させることができる。
【0045】
(作用、効果)
以上のように、本実施形態に係る視覚情報補正装置1は、ユーザMの視線を検出する検出部12と、検出した視線に合わせて映像を移動させた補正後視覚情報を生成する補正部1001と、補正後視覚情報を表示する表示部11と、を備える。
このようにすることで、視覚情報補正装置1は、ユーザMの眼振に伴う視線の移動に追随するように、撮影部13が撮影した映像を移動させた補正後視覚情報(補正後映像)を表示することができる。つまり、視覚情報補正装置1は、ユーザMが見たい物体の位置と、ユーザMの視線の向く位置とを合わせた映像を逐次、表示することができるので、ユーザMの網膜上に鮮明な映像を結像させることができる。この結果、視覚情報補正装置1は、ユーザMの視力を補正することが可能である。また、視覚情報補正装置1は、鮮明な映像を視認する訓練をユーザMに繰り返し実施させることにより、ユーザMの視覚野を賦活し、弱視を改善させることが可能である。
【0046】
また、視覚情報補正装置1の補正部1001は、映像の特定位置がユーザMの視線と交差する位置に配置されるように、映像を移動させる。なお、本実施形態において、特定位置は、映像におけるユーザMの視認目標位置である。
このようにすることで、視覚情報補正装置1は、映像内の特定位置、すなわち、ユーザMが見たい物体が存在する視認目標位置とユーザMの視線が重なるように、映像を移動して表示することができる。これにより、ユーザMは、見たい物体を鮮明に見ることが可能となる。
【0047】
また、視覚情報補正装置1は、ユーザMの視界に映る映像を撮影する撮影部13をさらに備える。
このようにすることで、視覚情報補正装置1は、ユーザMが実生活において視界に映る様々な物体を、ユーザに鮮明に視認させることが可能となる。
【0048】
なお、ステップS10において、検出部12は、眼振により視線が移動したのか、固視微動により視線が移動したのかをさらに検出するようにしてもよい。具体的には、検出部12は、ユーザMの視線の移動量が固視微動による移動量を超える場合に、眼振により視線が移動したことを検出する。固視微動は健常者でも生じる眼球の細かな動きであり、これに追随して映像を移動させてしまうと、逆にユーザMが見たい物体を視認することが困難となる場合がある。このため、視覚情報補正装置1は、眼振と固視微動とを識別して、眼振による視線の揺れにのみ追随するように映像を移動させる。これにより、視覚情報補正装置1は、ユーザMが物体を見づらくなることを抑制することができる。
【0049】
また、補正部1001は、ステップS10において、ユーザMが見ようとする物体を変更して視線が移動したこと(意図的な視線の移動)を検出するようにしてもよい。補正部1001は、ユーザMの意図的な視線の移動を検出しなかった場合、すなわち、視線の移動が眼振によるものである場合、視認目標位置を前回の位置から変更しない(ステップS11をスキップする)。一方、補正部1001は、ユーザMの意図的な視線の移動を検出した場合、ステップS11において、移動後の視線の向く先を視認目標位置として設定する。これにより、視覚情報補正装置1は、ユーザMに見たい物体を自由に選ばせて、その物体を鮮明に視認できるように映像を調整することができる。そうすると、ユーザMは、視力が補正された状態を維持したまま、様々な物体を自由に選んで視認することができる。
【0050】
<第2の実施形態>
次に、本開示の第2の実施形態に係る視覚情報補正装置について、
図4~
図5を参照しながら説明する。
上述の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
第1の実施形態では、ユーザMが眼振患者である場合について説明した。しかしながら、他の実施形態では、ユーザMは眼振患者に限定されない。例えば、第2の実施形態では、ユーザMは眼筋麻痺患者である。ユーザMは、眼筋麻痺のため、左右のうち一方の眼球を移動させることが困難である。そうすると、ユーザMの左眼の視線と、右眼の視線とが異なる方向を向いたときに、複視が生じて映像を鮮明に視認することができない場合がある。このため、第2の実施形態に係る視覚情報補正装置1は、ユーザMの左右の視線のずれが小さくなるように、撮影部13が撮影した映像を移動させて表示部11に表示する。
【0051】
(視覚情報補正装置の機能構成)
図4は、第2の実施形態に係る視覚情報補正装置の機能構成を示すブロック図である。
図4に示すように、第2の実施形態に係る視覚情報補正装置1の表示部11は、左眼用ディスプレイ110と、右眼用ディスプレイ111とからなる。
【0052】
第2の実施形態に係る検出部12は、ユーザMの左眼の視線と、右眼の視線とをそれぞれ検出する。
【0053】
第2の実施形態に係る補正部1001は、ユーザMの左右の視線に合わせて、左眼用の補正後視覚情報と、右眼用の補正後視覚情報とをそれぞれ生成する。左眼用の補正後視覚情報は左眼用ディスプレイ110に表示され、右眼用の補正後視覚情報は右眼用ディスプレイ111に表示される。
【0054】
(視覚情報補正装置の処理フロー)
図5は、第2の実施形態に係る視覚情報補正装置の処理の一例を示すフローチャートである。
以下、
図5を参照しながら、第2の実施形態に係る視覚情報補正装置1の処理の流れについて詳細に説明する。
【0055】
まず、検出部12は、ユーザMの左右の視線をそれぞれ検出する(ステップS20)。視線を検出する方法は、第1の実施形態(
図3のステップS10)と同様である。
【0056】
次に、補正部1001は、視認目標位置を設定する(ステップS21)。視認目標位置を設定する方法は、第1の実施形態(
図3のステップS11)と同様である。
【0057】
また、補正部1001は、撮影部13が撮影した映像の特定位置と、検出部12が検出したユーザMの左眼の視線とが交差するように、映像を移動させた左眼用の補正後視覚情報を生成する。同様に、補正部1001は、撮影部13が撮影した映像の特定位置と、検出部12が検出したユーザMの右眼の視線とが交差するように、映像を移動させた右眼用の補正後視覚情報を生成する(ステップS22)。特定位置は、ステップS21で設定した視認目標位置である。
【0058】
なお、補正部1001は、左右の眼のうち、眼筋麻痺のある一方の眼に対する補正後視覚情報のみを生成してもよい。例えば、ユーザMが左眼に眼筋麻痺がある場合は、左眼用の補正後視覚情報のみを生成し、右眼用には撮影部13が撮影した映像を補正せずにそのまま出力する。これにより、補正部1001は、眼筋麻痺のない右眼で見える映像と一致するように、左眼用の映像のみを補正することができる。
【0059】
次に、表示部11は、左眼用ディスプレイ110に左眼用の補正後視覚情報を表示し、右眼用ディスプレイ111に右眼用の補正後視覚情報を表示する(ステップS23)。
【0060】
視覚情報補正装置1は、ステップS20~S23の処理を繰り返し実行することにより、ユーザMの左右の視線が移動する度に、左眼用及び右眼用の映像の移動量を調整して、左眼用ディスプレイ110及び右眼用ディスプレイ111にそれぞれ表示する。そうすると、ユーザMは、左右の視線方向にずれがあったとしても、両眼とも視線が同じ視認目標位置を向いた映像を見ることができる。
【0061】
(作用、効果)
以上のように、本実施形態に係る視覚情報補正装置1は、ユーザMの左右の視線を検出する検出部12と、左眼の視線に合わせて映像を移動させた左眼用の補正後視覚情報、及び右眼の視線に合わせて映像を移動させた右眼用の補正後視覚情報の少なくとも一方を生成する補正部1001と、左眼用及び右眼用の補正後視覚情報それぞれを表示する表示部11と、を備える。
このようにすることで、視覚情報補正装置1は、ユーザMの眼筋麻痺に伴う左右の視線のずれを低減するように、撮影部13が撮影した映像を移動させた補正後視覚情報(補正後映像)を左眼用ディスプレイ110及び右眼用ディスプレイ111それぞれに表示することができる。そうすると、ユーザMは、左右の視線方向にずれがあったとしても、両眼とも視線が同じ視認目標位置を向いているかのような映像を見ることができる。つまり、視覚情報補正装置1は、ユーザMの複視を低減することができる。また、視覚情報補正装置1は、複視を低減することによって、ユーザMの視力や立体視などの両眼視を補正することが可能である。
【0062】
<第3の実施形態>
次に、本開示の第3の実施形態に係る視覚情報補正装置について、
図6~
図7を参照しながら説明する。
上述の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
第1の実施形態では、ユーザMが眼振患者である場合について説明した。また、第2の実施形態では、ユーザMが眼筋麻痺患者である場合について説明した。これに対し、第3の実施形態では、視野欠損患者である。例えば、ユーザMの中心視野が欠損していた場合、ユーザMが見たい物体に視線を向けると、この物体の映像が欠損部位に投影されてしまい、この物体を視認することが困難である。このため、第3の実施形態に係る視覚情報補正装置1は、ユーザMの見たい物体が視野の残存部位(以下、「残存視野」とも記載する。)に投影されるように、映像を移動させて表示部11に表示する。
【0063】
(視覚情報補正装置の機能構成)
図6は、第3の実施形態に係る視覚情報補正装置1の機能構成を示すブロック図である。
図6に示すように、第3の実施形態に係る視覚情報補正装置1は、ユーザMの残存視野を検出する視野検出部14をさらに備える。なお、視野検出部14は、既知の視野検査装置であってよい。
【0064】
また、第3の実施形態に係る視覚情報補正装置1は、ユーザMの操作を受け付ける操作受付部15をさらに備えていてもよい。操作受付部15は、マウス、キーボード、タッチパネル等の入力装置である。
【0065】
第3の実施形態に係る補正部1001は、視認目標位置がユーザMの残存視野に含まれるように映像を移動(オフセット)して、補正後視覚情報を生成する。映像を移動する量(以下、「オフセット量」とも記載する。)は、例えば、操作受付部15を介してユーザMが入力する。
【0066】
(視覚情報補正装置の処理フロー)
図7は、第3の実施形態に係る視覚情報補正装置の処理の一例を示すフローチャートである。
以下、
図7を参照しながら、第3の実施形態に係る視覚情報補正装置1の処理の流れについて詳細に説明する。
【0067】
まず、視野検出部14は、ユーザMの視野の欠損部位および残存部位の位置及び範囲を検出する(ステップS30)。
【0068】
また、ユーザMが見たい物体を視野中心にとらえたとき、ユーザMの視線は、撮影部13が撮影した映像内のこの物体の位置と交差する。しかしながら、ユーザMの視野中心近傍が欠損部位となっている場合、ユーザMはこの物体を視認することができない。このため、本実施形態に係る補正部1001は、この物体がユーザMの残存視野に投影されるように、映像を移動(オフセット)する。つまり、補正部1001は、ユーザMの視線が見ようとする物体の位置から外れて、映像内の他の位置(特定位置)と交差するように、映像を移動する。ここで、補正部1001は、視野中心から残存視野内の所定位置までの距離及び方向に基づいて、映像のオフセット量と、オフセット方向を設定する(ステップS31)。なお、残存視野の所定位置は、例えば、残存視野内の位置であって、欠損部位から一定距離離れた位置である。
【0069】
次に、検出部12は、ユーザMの視線を検出する(ステップS32)。視線を検出する方法は、第1の実施形態(
図3のステップS10)と同様である。なお、本実施形態では、映像内においてユーザMの視線と交差する位置が、視認目標位置である。
【0070】
また、補正部1001は、撮影部13が撮影した映像内において、視認目標位置から、ステップS32で設定したオフセット量だけ移動した位置を、ユーザMの視線と交差する特定位置として設定する(ステップS33)。
【0071】
次に、補正部1001は、ステップS33で設定した特定位置と、検出したユーザMの視線とが交差するように、映像を移動させた補正後視覚情報を生成する(ステップS34)。
【0072】
そうすると、表示部11は、補正部1001が生成した補正後視覚情報を表示する(ステップS35)。
【0073】
視覚情報補正装置1は、ユーザMの残存視野の検出と、オフセット方向及びオフセット量の設定が完了した後、ユーザMの視認目標位置が残存視野に投影されるように、以降のステップS32~S35の処理を繰り返し実行して補正後視覚情報の生成及び表示を行う。これにより、視覚情報補正装置1は、ユーザMが見たい物体を、欠損部位を避けて、残存部位に投影させることができる。また、ユーザMは、残存部位において所望する物体を視認することができる。
【0074】
(作用、効果)
以上のように、本実施形態に係る視覚情報補正装置1は、ユーザMの視線を検出する検出部12と、検出した視線が映像内の特定位置と交差するように映像を移動させた補正後視覚情報を生成する補正部1001と、補正後視覚情報を表示する表示部11と、を備える。また、本実施形態において、特定位置は、映像におけるユーザMの視認目標位置(映像内の見たい物体の位置)から所定量をオフセットした位置である。
たとえば、視野中心に欠損部位があるユーザMの場合、映像内の見たい物体に視線を向けてしまうと、この物体が欠損部位に投影されることとなり、視認することができない。しかしながら、視覚情報補正装置1は、見たい物体の位置から離れた特定位置とユーザMの視線が交差するように、映像を移動させることにより、ユーザMが見たい物体を、欠損部位を避けた場所、すなわち、残存視野に投影することができる。つまり、視覚情報補正装置1は、視野欠損を有するユーザMが物体を見やすい位置に映像を移動させることができる。
【0075】
また、視覚情報補正装置1は、ユーザMの残存視野を検出する視野検出部14をさらに備える。
このようにすることで、視覚情報補正装置1は、ユーザMの見たい物体が残存視野に投影されるように、正確に映像をオフセットすることが可能となる。
【0076】
なお、本実施形態では、補正部1001がステップS31においてオフセット方向及びオフセット量を自動的に設定する例について説明したが、これに限られることはない。他の実施形態では、補正部1001は、ユーザMが操作受付部15を通じて指定したオフセット方向及びオフセット量を取得してもよい。例えば、ユーザMは、操作受付部15を通じて、見たい物体を指定する操作を行う。また、ユーザMは、残存部位に投影されるように視線を移動させる。ユーザMは、視野中心が欠損している場合には、見たい物体を周辺視野において視認できるように、視線を移動させる。視線の移動を完了すると、ユーザMは、操作受付部15を通じて、視線を決定する操作を行う。補正部1001は、ユーザMが指定した物体の位置に対し、ユーザMが決定した視線がどの方向にどのくらい離れているかを示す、オフセット方向及びオフセット量を計測する。また、補正部1001は、ステップS34において、計測したオフセット方向及びオフセット量に基づいて、映像を移動させる。視覚情報補正装置1は、このようにユーザM自身が指定したオフセット方向及びオフセット量を用いることにより、ユーザMの残存視野のうち、ユーザMが最も見えやすいと感じる位置にユーザMが見たい物体を投影させることが可能となる。
【0077】
以上のとおり、本開示に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0078】
たとえば、上述の各実施形態において、補正部1001は、撮影部13が撮影した映像を移動させて補正後視覚情報を生成する例について説明したが、これに限られることはない。他の実施形態では、補正部1001は、撮影部13が撮影した映像ではなく、予め用意された映像に基づいて、補正後視覚情報を生成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0079】
1 視覚情報補正装置
10 本体部
100 CPU
1001 補正部
101 メモリ
102 ストレージ
103 インタフェース
11 表示部
110 左眼用ディスプレイ
111 右眼用ディスプレイ
12 検出部
13 撮影部
14 視野検出部
15 操作受付部