(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066048
(43)【公開日】2023-05-15
(54)【発明の名称】天板部材、金属缶、及び天板部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B65D 8/02 20060101AFI20230508BHJP
【FI】
B65D8/02 A
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021176538
(22)【出願日】2021-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000207540
【氏名又は名称】大日製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100211122
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(72)【発明者】
【氏名】新井 隆
(72)【発明者】
【氏名】小林 伸之
(72)【発明者】
【氏名】河瀬 拓真
【テーマコード(参考)】
3E061
【Fターム(参考)】
3E061AA15
3E061AA21
3E061AB13
3E061BA02
(57)【要約】
【課題】本発明に係る天板部材、金属缶、及び天板部材の製造方法によれば、耐腐食性、密着力及び耐圧性を備えた口金をもち、高速かつ能率よく製造できる金属缶の天板部材を提供することができる。
【解決手段】本発明に係る天板部材は、天板本体111と、天板本体111の所定の位置に天板本体111を貫通する開口を形成する折曲がり部140と、折曲がり部140の開口の周縁141から天板本体111の天板外面112側に突出して折曲がり部140の中心側に熱可塑性樹脂で被覆された第一接着面152を有する折返し部150と、を有する天板と、折返し部150に嵌合され、少なくとも第一接着面152と接着する第二接着面122が熱可塑性樹脂で形成されたリング状の口金120と、を備え、天板の第一接着面152と口金120の第二接着面122とは熱融着により接合されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天板本体と、前記天板本体の所定の位置に前記天板本体を貫通する開口を形成する折曲がり部と、前記折曲がり部の前記開口の周縁から前記天板本体の天板外面側に突出して前記折曲がり部の中心側に熱可塑性樹脂で被覆された第一接着面を有する折返し部と、を有する天板と、
前記折返し部に嵌合され、少なくとも前記第一接着面と接着する第二接着面が熱可塑性樹脂で形成されたリング状の口金と、
を備え、
前記天板の前記第一接着面と前記口金の前記第二接着面とは熱融着により接合されている、
天板部材。
【請求項2】
前記口金が、同一の種類の熱可塑性樹脂で形成された、
請求項1に記載の天板部材。
【請求項3】
前記天板の前記第一接着面に被覆された熱可塑性樹脂と、前記口金の前記第二接着面に被覆された熱可塑性樹脂と、が同一の種類である、
請求項1または請求項2に記載の天板部材。
【請求項4】
前記天板の前記第一接着面と前記天板本体の天板内面とは連続面であり、同一の種類の熱可塑性樹脂で被覆されている、
請求項1から請求項3のいずれかの1項に記載の天板部材。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかの1項に記載の天板部材と、
缶底と、
缶胴と、
を備える、
金属缶。
【請求項6】
前記金属缶は、
前記天板部材と、前記天板部材の天板内面と同一の種類の熱可塑性樹脂が内面に被覆された缶胴と、前記天板部材の前記天板内面と同一の種類の熱可塑性樹脂が内面に被覆された缶底と、
を備え、
前記天板部材と、缶胴と、缶底とは熱融着されている、
請求項5に記載の金属缶。
【請求項7】
天板本体と、前記天板本体の所定の位置に前記天板本体を貫通する開口を形成する折曲がり部と、前記折曲がり部の前記開口の周縁から前記天板本体の天板外面側に突出して前記折曲がり部の中心側に熱可塑性樹脂で被覆された第一接着面を有する折返し部と、を有する天板と、少なくとも前記第一接着面と接着する第二接着面が熱可塑性樹脂で形成された口金と、を備える天板部材の製造方法であって、
前記口金を前記折返し部へ嵌合する嵌合工程と、
前記天板本体の前記天板外面であって前記折曲がり部の周回りを誘導加熱する誘導加熱工程と、
前記天板の前記第一接着面と、前記口金の前記第二接着面と、を融着する融着工程と、
を備える、
天板部材の製造方法。
【請求項8】
前記口金が、すべて熱可塑性樹脂で形成された、
請求項7に記載の天板部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天板部材、金属缶、及び天板部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属缶の開口部(注出口)に取り付ける樹脂製口金部材は、開口部の内側に本体を押し込んで、その樹脂製口金部材の弾性力により密着力を得る。しかし、樹脂製口金部材は、その弾性反発力により、徐々に樹脂製口金部材の変形が進んでいく現象(クリープ現象)を生じさせる。このクリープ現象は、時間経過とともにさらに進展する。そして、最終的には、樹脂製口金部材が劣化し弾性力を失い、開口部と樹脂製口金部材とに隙間を生じさせ、開口部から抜けやすくなるという問題があった。特許文献1には、樹脂製口金部材を収容容器の開口部に取り付けた後、カシメ圧着を行い樹脂製口金部材と開口部を一体化することで密着力を高め、堅固な取付構造とする考案がされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の樹脂製口金部材をカシメ圧着する取付構造では、浸透性の高い液体を充填すると漏洩しやすい欠点や、天板の開口部端部が内容物と接触し腐食し易い点で問題があった。
【0005】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、耐腐食性、密着力及び耐圧性を備えた口金をもち、高速かつ能率よく製造できる金属缶の天板部材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の第一の態様に係る天板部材は、天板本体と、前記天板本体の所定の位置に前記天板本体を貫通する開口を形成する折曲がり部と、前記折曲がり部の前記開口の周縁から前記天板本体の天板外面側に突出して前記折曲がり部の中心側に熱可塑性樹脂で被覆された第一接着面を有する折返し部と、を有する天板と、前記折返し部に嵌合され、少なくとも前記第一接着面と接着する第二接着面が熱可塑性樹脂で形成されたリング状の口金と、を備え、前記天板の前記第一接着面と前記口金の前記第二接着面とは熱融着により接合されている。
【0007】
本発明の第二の態様によれば、第一の態様に係る天板部材は、前記口金が、同一の種類の熱可塑性樹脂で形成される。
【0008】
本発明の第三の態様によれば、第一の態様または第二の態様に係る天板部材は、前記天板の前記第一接着面に被覆された熱可塑性樹脂と、前記口金の前記第二接着面に被覆された熱可塑性樹脂と、が同一の種類である。
【0009】
本発明の第四の態様によれば、第一から第三のいずれか一つの態様に係る天板部材は、前記天板の前記第一接着面と前記天板本体の天板内面とは連続面であり、同一の種類の熱可塑性樹脂で被覆されている。
【0010】
本発明の第五の態様に係る金属缶は、第一から第三のいずれか一つの態様に係る天板部材と、缶底と、缶胴と、を備える。
【0011】
本発明の第六の態様によれば、第五の態様に係る金属缶は、前記天板部材と、前記天板部材の天板内面と同一の種類の熱可塑性樹脂が内面に被覆された缶胴と、前記天板部材の前記天板内面と同一の種類の熱可塑性樹脂が内面に被覆された缶底と、を備え、前記天板部材と、缶胴と、缶底とは熱融着されている。
【0012】
本発明の第七の態様に係る天板部材の製造方法は、天板本体と、前記天板本体の所定の位置に前記天板本体を貫通する開口を形成する折曲がり部と、前記折曲がり部の前記開口の周縁から前記天板本体の天板外面側に突出して前記折曲がり部の中心側に熱可塑性樹脂で被覆された第一接着面を有する折返し部と、を有する天板と、少なくとも前記第一接着面と接着する第二接着面が熱可塑性樹脂で形成された口金と、を備える天板部材の製造方法であって、前記口金を前記折返し部へ嵌合する嵌合工程と、前記天板本体の前記天板外面であって前記折曲がり部の周回りを誘導加熱する誘導加熱工程と、前記天板の前記第一接着面と、前記口金の前記第二接着面と、を融着する融着工程と、を備える。
【0013】
本発明の第八の態様によれば、第七の態様に係る天板部材の製造方法は、前記口金が、すべて熱可塑性樹脂で形成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る天板部材、金属缶、及び天板部材の製造方法によれば、折曲がり部の周縁へ嵌合され、耐腐食性、密着力及び耐圧性を備えた口金をもち、高速かつ能率よく製造できる金属缶の天板部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る金属缶の斜視図である。
【
図3】(A)は、
図2のA-A断面であり、すべてが熱可塑性樹脂で形成された口金が天板の折曲がり部の周縁に嵌合された状態を示す側面図である。(B)は、
図2のA-A断面であり、内部が金属製であり、外枠を熱可塑性樹脂で被覆された口金が天板の折曲がり部の周縁に嵌合された状態を示す側面図である。
【
図4】同金属缶の天板部材において、高周波加熱装置を用いた製造工程の一例を説明する図である。
【
図5】同金属缶の天板部材において、高周波加熱装置を用いた製造工程の一例を説明する図である。
【
図6】同金属缶の天板部材の従来技術の一例を説明する図である。
【
図7】実験1において、金属缶の天板部材の折曲がり部の周縁へ嵌合された口金の強度を確認する実験を示す図である。
【
図8】実験2において、折曲がり部の周縁及び折返し部と口金との間の液体漏れを確認する実験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態について、
図1から
図5を参照して説明する。
【0017】
この金属缶1は、
図1に示すように、缶底2と、缶胴3と、天板部材100と、下端11と、上端12と、を備える。金属缶1に使用される金属は、一例として、ティンフリースチール(冷延鋼板の表面に電解クロム酸処理を施した表面処理鋼板、以下TFS)を用いるが、TFS以外の金属を用いてもよい。また金属缶1は、内部に石油、化学または食油等の内容物を貯留及び保存可能である。ここで、金属缶1の内部側の面を内面と言い、外部側を外面と言う。下端11及び上端12は、後述する缶胴3により略同じ大きさに形成される。
【0018】
缶底2は、
図1に示すように、金属缶1の下端11に備えられた水平な平板状の金属製の板である。缶底2は、缶底縁21及び缶底内面(不図示)を有する。缶底縁21は、缶底2の外縁である。また、缶底内面は、金属缶1の内面の一部であり、熱可塑性樹脂で被覆加工される。熱可塑性樹脂とは、熱によって溶けて軟化し、冷却により再び固まる性質を持つ樹脂のことを言う。なお、缶底内面の熱可塑性樹脂による被覆加工は必ずしも必要ではない。
【0019】
缶胴3は、鉛直方向に沿って角筒状に形成された金属缶1の側壁であり、缶胴3は、胴下縁31と、胴上縁32と、缶胴内面(不図示)と、を有する。胴下縁31は、金属缶1の下端11に形成された缶胴3の下側の縁である。胴上縁32は、金属缶1の上端12に形成された缶胴3の上側の縁である。缶胴内面は、金属缶1の内面の一部であり、熱可塑性樹脂で被覆加工される。なお、缶胴3の内面の熱可塑性樹脂による被覆加工は、必ずしも必要ではない。
【0020】
天板部材100は、
図1及び
図2に示すように、金属缶1の上端12に備えられる。天板部材100は、天板110と、口金120と、取っ手130と、を備える。
【0021】
天板110は、
図1、
図2または
図3に示すように、金属缶1の上端12の大きさと形状が略同じ大きさの平板状の水平な金属製の板である。天板110は、天板本体111と、折曲がり部140と、折返し部150と、を有する。
【0022】
天板本体111は、
図3に示すように、天板外面112と、天板内面113と、天板縁114(
図2参照)と、を有する。天板外面112は、金属缶1の外面の一部である。天板内面113は、金属缶1の内面の一部であり、熱可塑性樹脂で被覆される。天板縁114は、天板の周囲の縁である。
【0023】
折曲がり部140は、
図3に示すように、天板本体111を天板外面112側へ折曲げて形成される部分である。折曲がり部140は、天板本体111において、円状に連続して設けられ、天板本体111を貫通し開口を形成する。開口の縁は、円周縁141として天板本体111上に備えられる。以降の説明において、折曲がり部140の周回りの方向を周方向R(
図2参照)とする。また、折曲がり部140の開口の軸方向の中心軸を中心軸Oとし、折曲がり部140の径の方向を径方向Dとする。
【0024】
円周縁141は、折曲がり部140の周縁である。円周縁141は、後述する折返し部150の基端151と連なっている。
【0025】
折返し部150は、水平な天板110に対して、円周縁141から天板110の天板外面112側に突出している。折返し部150は、基端151と、開口接着面(第一接着面)152と、最上端153と、先端154と、を備える。折返し部150は、例えば天板本体111に形成した貫通孔の周縁を天板外面112側に折り曲げることにより形成できる。そのため、天板内面113と開口接着面152とは、熱可塑性樹脂を被覆した連続面となる。
【0026】
折返し部150は、天板110の天板外面112側に突出して、天板外面112に対して垂直方向の最も上部の位置に最上端153を有する。開口接着面(第一接着面)152は、基端151から少なくとも折返し部150の最上端153まで延在する中心軸O側の面であり、熱可塑性樹脂が被覆された面である。開口接着面152は、例えば、上下方向における中間部分が中心軸Oに対して近付くように反る緩やかなカーブ状に形成されている。
【0027】
先端154は、折返し部150を最上端153から、さらに径方向Dの外側であって天板外面112側に向かって円弧を描くように折り曲がっている。折返し部150は、後述する口金120が取り付けられる天板外面112側に形成されることで、口金120が折返し部150へ嵌合しやすいようにガイドすることができる。先端154は、金属缶1の内部へ内容物を貯留及び保存する際に、内容物の漏れ防止に取り付ける蓋(不図示)等の縁を、先端154へ引っ掛けて係止することができる。
【0028】
口金120は、外部から天板110の折返し部150に嵌合されたリング状の保護部材である。本実施形態においては、口金120の中心軸は中心軸Oと略一致している。口金120は、口金内側面121と、口金接着面122(第二接着面)と、を備える。本実施形態では、
図3(A)に示すように、口金120がすべて熱可塑性樹脂で形成される。なお、口金120は、少なくとも口金接着面122が熱可塑性樹脂で被覆されていればよく、例えば、
図3(B)に示すように、口金の外枠123が熱可塑性樹脂形成され、内部124はTFS等の金属で形成されてもよい。この場合も、口金接着面122は、熱可塑性樹脂で形成される。例えば、口金120で使用される熱可塑性樹脂は、ポリエチレン製である。
【0029】
口金内側面121は、口金120の径方向D内側の側面であり、金属缶1の内部から外部に流出する内容物が接触する面である。
【0030】
口金接着面122(第二接着面)は、口金120の径方向D外側の側面である。口金接着面122は、第一突出部125と、第二突出部126と、凹部127と、を有する。第一突出部125は、口金接着面122の上側に形成されており、径方向D外側に突出する凸部である。第二突出部126は、口金接着面122の下側に形成されており、径方向D外側に突出する凸部である。凹部127は、上下方向において第一突出部125と第二突出部126との間に形成された凹部である。
【0031】
凹部127は、少なくとも折返し部150の開口接着面152と、隙間なく接触できる形状に形成される。そのため、口金120は、凹部127へ折返し部150をぐらつきのないように嵌合することができる。また、口金120の高さは、折返し部150の基端151と最上端153までの高さよりも少しだけ大きな高さに設定するのがよい。上述の構成により、内部の内容物が注出される場合に、円周縁141及び折返し部150へ内容物が当たらず、折曲がり部140の周辺で錆が発生するのを防止することができる。
【0032】
天板110の開口接着面(第一接着面)152と口金接着面122(第二接着面)とは、周方向Rの全周において熱融着により接合している。
【0033】
取っ手130は、
図1及び
図2に示すように、天板110の天板外面112の中央にリング状に取り付けられ、人間の手が入る程度の大きさに形成される。
【0034】
缶底2の缶底縁21及び缶胴3の胴下縁31は、公知の手段により、缶底縁21及び缶胴3の胴下縁31の接合部(不図示)に熱可塑性樹脂製の補修テープ等で融着する。また、天板110の天板縁114及び缶胴3の胴上縁32も同様に、公知の手段により、天板110の天板縁114及び缶胴3の胴上縁32の接合部(不図示)に熱可塑性樹脂製の補修テープ等で融着する。金属缶1は上述の構成により缶状に形成される。缶底2及び缶胴3は、従来公知の18L金属缶(一斗缶)等に用いられるものであれば特に制限されるものではない。また、金属缶1に使用される熱可塑性樹脂は、口金120同様のポリエチレン製のフィルムを用いる。ただし、熱可塑性樹脂は、例えば、ポリプロピレンフィルムまたはPETフィルム等を用いてもよい。また、缶底2及び缶胴3は、必ずしも熱可塑性樹脂で被膜加工される必要はない。また、金属缶1に用いられる熱可塑性樹脂は、すべて同一の種類を使用するのがよい。これにより、より高い接着強度を得ることができる。さらに、熱可塑性樹脂による被膜は、1層以上であってもよいし、複数の異なる種類の熱可塑性樹脂を用いてもよい。熱可塑性樹脂の層数及び種類は、内部に保存する内容物に合わせて適宜選定される。
【0035】
次に、本実施形態に係る天板部材100の工程について、
図4及び
図5を参照しながら説明する。天板部材100の製造方法は、嵌合工程と、誘導加熱工程と、融着工程と、を備える。
【0036】
天板部材100は、
図4及び
図5に示すように、高周波加熱装置200により製造される。高周波加熱装置200は、載置台210と、加熱コイルCと、を備える。加熱コイルCは、天板110の円周縁141(
図3参照)と略同じ大きさであり、高周波加熱装置200によって通電され、誘導電流を生じる。天板部材100は、載置台210上に天板外面112を上にして設置する。なお、高周波加熱装置200は従来公知の装置であり、載置台210または加熱コイルC等の大きさや形状などは適宜選定される。また、高周波加熱装置200はその他に、制御装置または検知センサ等のオプション機能を備えてもよい。
【0037】
まず、天板110の折曲がり部140へ口金120を嵌合する工程について説明する(嵌合工程)。所定の手段によって、天板部材100の折返し部150に、外部から口金120を嵌合する。口金120は、折返し部150を径方向D(
図3参照)の外側へ押し付け、その樹脂部材の弾性力により密着力を得ることができる。この時、口金120の口金接着面122(
図3参照)は、折返し部150の開口接着面152(
図3参照)の形状に隙間なく接着するように形成されているため、口金120が折返し部150から外れないように固定できる。なお、口金接着面122は、必ずしも開口接着面の形状に合わせて形成されなくてもよい。また、上述の嵌合工程の後に、さらに折返し部150と口金120とをカシメ圧着する工程を行ってもよい。
【0038】
次に、高周波加熱装置200が、天板110の折曲がり部140の周方向Rへ誘導加熱する工程について説明する(誘導加熱工程)。
図4及び
図5に示すように、天板部材100は、高周波加熱装置200の載置台210に、天板外面112を上にした状態で載置される。高周波加熱装置200は、加熱コイルCに通電し、誘導電流を生じさせる。すると、加熱コイルCは、熱を発生する。高周波加熱装置200は、加熱コイルCへ熱を発生させた状態で、天板外面112の折曲がり部140の周方向Rへ天板部材100の上部にある加熱コイルCを近づける。天板外面112は金属面であるため、上述の動作により、天板外面112の折曲がり部140の周辺は、誘導加熱される。
【0039】
次に、折返し部150の開口接着面152と口金120の口金接着面122とが融着する工程について説明する(融着工程)。上述した誘導加熱工程により与えられた熱は、天板外面112を誘導加熱し、天板内面113(
図3参照)に被膜された熱可塑性樹脂及び嵌合工程において折曲がり部140へ嵌合された口金120へ伝わる。すると、天板内面113の一部である開口接着面152の熱可塑性樹脂と口金120の口金接着面122の熱可塑性樹脂の一部が熱によって溶けて軟化し、互いに融着する。そのため、円周縁141及び折返し部150と口金120は、開口接着面152と口金接着面122との間に隙間を設けることなく一体化できる。
【0040】
なお、誘導加熱工及び融着工程においては、高周波加熱装置200が、短時間のうちに天板部材100へ誘導加熱及び融着する(約25個/毎分)。そのため、高周波加熱装置200は、腐食性、密着力及び耐圧性を備えた注出口をもつ金属缶1(
図1参照)の天板部材100を高速かつ能率よく製造できる。さらに、本実施形態に係る誘導加熱工程では、天板110の折曲がり部140の周辺のみを加熱するため、熱可塑性樹脂でされ被覆された天板110の開口接着面152及び口金120に用いられた熱可塑性樹脂を大きく変形することなく、融着することができる。
【0041】
本実施形態では、天板110の開口接着面152及び口金120に熱可塑性樹脂を使用するため、錆の発生を防ぐことができる。さらに、上述した融着工程により、天板部材100の折返し部150と口金120とが融着するため、固定力を増加することができる。
【0042】
また、本実施形態では、上述した融着工程により、天板部材100の天板110と、口金120が融着し、隙間を無くすことができる。そのため、隙間にパッキンや接着剤等の別の物質を用いることなく、金属缶1の内部の液体が外部へ漏れるのを防止することができる。
【0043】
また、本実施形態では、上述した融着工程により、円周縁141及び折返し部150が内容物と接触し腐食してしまうのを防止することができる。さらに、口金120は、気密性と堅固性を実現し、密着・密封力を強化できる。
【0044】
また、本実施形態では、開口接着面152と口金120の口金接着面122とを、カシメ圧着する必要がないため、浸透性の高い液体を充填することができる。
【0045】
なお、この発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更をすることが可能である。
【0046】
(変形例)
本実施形態では、嵌合工程、誘導加熱工程及び熱融着工程において、天板部材100に対して行うが、本発明はこれに限らない。先に、缶底2と、缶胴3と、天板部材100と、を一体化して金属缶1に形成したのち、上述の工程を行ってもよい。
【0047】
また、本実施形態では、金属缶1は18L金属缶(一斗缶)の缶底及び缶胴を使用するが、本実施形態に限らず、従来公知のものであれば特に制限されるものではない。また缶胴は、角筒状でなくてもよく、例えば、円筒状であってもよく、その際は、缶底及び天板部材の形状は、缶胴の形状に対応して形成される。
【0048】
また、金属缶1の内部に貯留または保存される内容物の例として、飲料、果汁、ソースなどの液体食品や、界面活性剤、顔料、染料、アルコール、農薬、油脂類その他の化学品、石油、及び食油その他の食品が挙げられる。
【0049】
また、本実施形態では、天板110の天板外面112に取っ手130が取り付けられるが、取っ手130は無くてもよい。また、取っ手130の位置、個数及び材質は特に限定されない。
【0050】
また、本実施形態では、折返し部150は、先端154を備えるが、先端154は必ずしも必要ではない。折返し部150は、最上端153を先端として形成されてもよい。さらに、開口接着面152は、必ずしも中心軸Oに対して反るような緩やかなカーブ状で形成されていなくてもよい。例えば、開口接着面152は、天板外面112に対して垂直であってもよい。なお、いずれの開口接着面152の形態においても、口金接着面122の凹部127は、開口接着面152の形状に合わせて形成されるのがよい。
【0051】
いずれの上記形態においても、本発明に係る天板部材、金属缶、及び天板部材の製造方法によれば、耐腐食性、密着力及び耐圧性を備えた口金をもち、高速かつ能率よく製造できる金属缶の天板部材を提供することができる。
【実施例0052】
本発明の金属缶の天板部材について、実施例を用いてさらに説明する。また、表1、
図3、
図6、
図7及び
図8を示しながら説明する。なお、本発明の技術的範囲は、実施例の内容によって何ら制限されない。
【0053】
(実験1)
金属缶1の天板部材100の折曲がり部140へ嵌合された口金120の強度を確認する実験を行った。本実験では、まず天板部材100に対して温度変化を与えることのできる器具によって、常温の状態から温度変化を加え、その後、天板部材100へ嵌合された口金120の強度を確認する実験を行った。
【0054】
実験者は、天板部材100を煮沸装置等によって熱湯(約90℃)で温度変化し、その後常温まで冷ます。その後、実験者は、天板部材100の天板外面112を上面に向け床に載置し、両端を抑え固定した状態にする。そして、実験者は、
図7に示すように、折返し部150へ嵌合された口金120に、鉛直上方へ外力Fを加え、その時の外力Fを測定可能な測定器具等をつなげ、口金120が円周縁141及び折返し部150から外れた時の外力Fを計測する。口金120が円周縁141及び折返し部150から外れた時の外力Fを引張せん断強度とし、得られた計測結果を表1に示す。
【0055】
天板部材は、比較例1、比較例2、実施例1及び実施例2を用いて実験行った。比較例1、比較例2、実施例1及び実施例2に使用される口金120はすべて同一であり、ポリエチレン製の樹脂口金である。
【0056】
比較例1は、前述の一実施形態の各工程のうち、
図6に示すように、誘導加熱工程及び融着工程を行わない場合の従来の天板部材であり、天板部材の天板内面に被膜された熱可塑性樹脂の種類が口金120と同一のポリエチレン製である。比較例2は、比較例1と同様に、前述の一実施形態の各工程のうち、誘導加熱工程及び融着工程を行わない場合の従来の天板部材であり、天板部材の天板内面に被膜された熱可塑性樹脂の種類が口金120と異なる種類である。実施例1は、
図3に示すように、上述の本発明の一実施形態に係る天板部材100であり、天板部材の天板内面113に被膜された熱可塑性樹脂の種類が口金120と同一のポリエチレン製である。実施例2は、実施例1と同様に、上述の本発明の一実施形態に係る天板部材であり、天板部材の天板内面113に被膜された熱可塑性樹脂の種類が口金120と異なる種類である。本実験では、比較例1、比較例2、実施例1及び実施例2の天板部材をそれぞれ三枚ずつ用意し、実験を行った。
【0057】
【0058】
表1の従来品である比較例1は、引張せん断強度の平均が約34N、比較例2は、引張せん断強度の平均が約31Nであった。それぞれの個々の計測結果を見ても、引っ張りせん断強度は40N以下であった。一方、実施例1は、引張せん断強度の平均が約1084N、実施例2は、引張せん断強度の平均が約1173Nであった。以上の結果より、実施例1及び実施例2は、どちらも1000Nを超える引張せん断強度を有することが分かった。そのため、実施例1及び実施例2は、比較例1及び比較例2と比較して、耐圧性を有し、気密性と堅固性を備えた天板部材100であると考察される。また、実施例1及び実施例2の結果から、天板部材の天板内面113の熱可塑性樹脂と口金120の熱可塑性樹脂の種類の組合せにおいて、異なる種類の熱可塑性樹脂を使用しても、一定の効果が認められる事を確認した。
【0059】
なお、本実験では、時間の経過や温度の変化などを考慮して強度実験を行ったが、例えば、熱湯等で温度変化しない場合についても計測を行った。比較例1及び実施例1について、温度変化を除き、上記に記載と同様の実験を行った。その結果、比較例1は、引張せん断強度の平均が約439Nであった。また、実施例1は、1,300N以上の引張せん断強度があり、口金120が外れないことを確認した。以上の結果より、熱の変動がない場合においても、比較例1の天板部材よりも実施例1の天板部材100の方が、高い引張せん断強度を持ち、1,300N以上の外力Fをかけても口金120が天板部材100から外れないことが分かった。
【0060】
(実験2)
次に、
図8に示すように、円周縁141及び折返し部150と口金120との間の液体漏れを確認する実験を行った。本実験では、浸透液を用いた非破壊検査を行った。
【0061】
実験者は、天板部材の天板内面側において折曲がり部140へ嵌合された口金120との間に赤色の浸透液を塗布する。また、天板部材の天板外面側に現像液mを塗布し、天板内面側を上向きにした状態で10℃に設定した冷凍庫内に保管し温度変化を与える。所定時間経過後、冷凍庫内から取り出し、天板外面における赤色の浸透液の滲出状態を確認する。
【0062】
天板部材は、実験1で使用した比較例1及び実施例1を用いて実験行った。実験の結果を
図8(A)及び
図8(B)に示し説明する。
【0063】
実験後の比較例1は、
図8(A)に示すように、天板外面に赤色の浸透液laの滲出を確認した。比較例1は、誘導加熱工程及び融着工程を行っていない。そのため、
図6に示すように、温度変化により樹脂収縮が発生し、折曲がり部140へ嵌合された口金120との間に隙間が形成されたことで、天板内面側に塗布した赤色の浸透液が開口接着面152と口金120の口金接着面122との間の隙間を通過して天板外面側へ滲出したものと考えられる。一方、実施例1は、
図8(B)に示すように、天板内面113側から、天板外面112側への赤色の浸透液lbの滲出は確認されなかった。開口接着面152と口金120の口金接着面122とが、誘導加熱工程及び融着工程を行うこと融着し、隙間を無くしたためと考えられる。また、追加検証として、さらに比較例1及び実施例1を冷凍保管し、時間経過(約72時間)後に、再度液漏れの状態確認を実施したが、実施例1においては、
図8(B)と同様に、赤色の浸透液lbの滲出は確認できなかった。以上の結果から、実施例1は、比較例1と比較して、
図3に示すように、誘導加熱工程及び融着工程を行うことで、開口接着面152と口金120の口金接着面122との密着力が向上し、液体漏れを防止することができることを確認した。
本発明に係る天板部材、金属缶、及び天板部材の製造方法によれば、耐腐食性、密着力及び耐圧性を備えた口金をもち、高速かつ能率よく製造できる金属缶の天板部材を提供することができるので産業上利用可能である。