(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066083
(43)【公開日】2023-05-15
(54)【発明の名称】ショットキーバリアダイオード
(51)【国際特許分類】
H01L 29/872 20060101AFI20230508BHJP
C01B 32/90 20170101ALI20230508BHJP
H01L 29/24 20060101ALI20230508BHJP
H01L 21/288 20060101ALI20230508BHJP
H01L 29/47 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
H01L29/86 301M
C01B32/90
H01L29/86 301D
H01L29/24
H01L21/288 M
H01L29/48 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021176589
(22)【出願日】2021-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】マカリアン,タロン
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓悟
【テーマコード(参考)】
4G146
4M104
【Fターム(参考)】
4G146MA09
4G146MA19
4G146MB02
4G146MB27
4G146NA04
4G146PA07
4G146PA13
4G146PA15
4M104AA03
4M104BB06
4M104BB36
4M104CC03
4M104DD51
4M104FF02
4M104GG03
(57)【要約】
【課題】MXeneを使用した新規なショットキーバリアダイオードを提供する。
【解決手段】半導体部分と導電性部分とが接合されたショットキーバリアダイオードであって、半導体部分が、酸化物半導体から成り、かつ、導電性部分と接合される表面にて10nm以下の表面粗さを有し、導電性部分が、1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子から成り、該層が、式:M
mX
n(式中、Mは、少なくとも1種の第3~7族金属であり、Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、nは、1以上4以下であり、mは、nより大きく、5以下である)で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、導電性部分において、互いに隣接する2つの層の間の距離が1.10nm以上である、ショットキーバリアダイオード。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体部分と導電性部分とが接合されたショットキーバリアダイオードであって、
前記半導体部分が、酸化物半導体から成り、かつ、前記導電性部分と接合される表面にて10nm以下の表面粗さを有し、
前記導電性部分が、1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子から成り、
前記層が、以下の式:
MmXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記導電性部分において、互いに隣接する2つの前記層の間の距離が1.10nm以上である、ショットキーバリアダイオード。
【請求項2】
前記酸化物半導体が、前記層状材料の仕事関数より小さい仕事関数を有するn型酸化物半導体である、請求項1に記載のショットキーバリアダイオード。
【請求項3】
前記n型酸化物半導体が、ZnO、TiO2、SnO2、CeO2、In2O3、Ga2O3、BaTiO3、およびSrTiO3からなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項2に記載のショットキーバリアダイオード。
【請求項4】
前記酸化物半導体が、前記層状材料の仕事関数より大きい仕事関数を有するp型酸化物半導体である、請求項1に記載のショットキーバリアダイオード。
【請求項5】
前記p型酸化物半導体が、NiO、Cu2O、CuO、CoO、Mn3O4、SnOおよびZnCo2O4からなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項4に記載のショットキーバリアダイオード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショットキーバリアダイオードに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、導電性を有する新規材料としてMXeneが注目されている。MXeneは、いわゆる二次元材料の1種であり、後述するように、1つまたは複数の層の形態を有する層状材料である。一般的に、MXeneは、かかる層状材料の粒子(粉末、フレーク、ナノシート等を含み得る)の形態を有する。
【0003】
ショットキーバリアダイオードは、従来一般的に半導体と金属とが接合された構成を有し、これらの間に形成されるショットキーバリアを利用したダイオードである。かかる金属に代えてMXeneを使用したショットキーバリアダイオードとして、GaAsとMXeneとが接合されたフォトディテクタ(非特許文献1)、GaNとMXeneとが接合されたフォトディテクタおよび発光ダイオード(非特許文献2)、SiとMXeneとが接合されたフォトディテクタ(非特許文献3)が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Kiana Montazeri, et al., "Beyond Gold: Spin-Coated Ti3C2-Based MXene Photodetectors", Advanced Materials, Volume 31, Issue 43, 1903271
【非特許文献2】Chujun Yi, "MXene-GaN van der Waals Heterostructures for High-Speed Self-Driven Photodetectors and Light-Emitting Diodes", Advanced Electronic Materials, 2021, Volume 7, Issue 5, 2000955
【非特許文献3】Weidong Song, et al., "Interface Engineering Ti3C2 MXene/Silicon Self-Powered Photodetectors with High Responsivity and Detectivity for Weak Light Applications", Small, 2021, Volume 17, Issue 23, 2100439
【非特許文献4】Hyunho Kim, et al., "MXetronics: Eectronic and photonic applications of MXenes", Nano Energy, 2019, Volume 60, pp. 179-197
【非特許文献5】S.K. Cheung et al., "Extraction of Schottky diode parameters from forward current-voltage characteristics", Applied Physics Letters, 1986, Volume 49, pp85-87
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に記載のMXene/GaAsフォトディテクタは、As元素の高い毒性のため、これを含むGaAsも高い毒性を有するという難点がある。非特許文献2に記載のMXene/GaNフォトディテクタは、高純度なGaN単結晶を作製することが非常に困難で、高価になるという難点がある。非特許文献3に記載のMXene/Siフォトディテクタは、Siの表面が非常に酸化し易く、これによりダイオード特性が変化し得るという難点がある。非特許文献1および2に記載のフォトディテクタも、化合物半導体であるGaAsおよびGaNの表面が酸化されると、これによりダイオード特性が変化し得るという難点がある。
【0006】
本発明は、上述したような難点のない、MXeneを使用した新規なショットキーバリアダイオードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの要旨によれば、半導体部分と導電性部分とが接合されたショットキーバリアダイオードであって、
前記半導体部分が、酸化物半導体から成り、かつ、前記導電性部分と接合される表面にて10nm以下の表面粗さを有し、
前記導電性部分が、1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子から成り、
前記層が、以下の式:
MmXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記導電性部分において、互いに隣接する2つの前記層の間の距離が1.10nm以上である、ショットキーバリアダイオードが提供される。
【0008】
本発明の1つの態様において、前記酸化物半導体は、前記層状材料の仕事関数より小さい仕事関数を有するn型酸化物半導体であり得る。
【0009】
例えば、前記n型酸化物半導体は、ZnO、TiO2、SnO2、CeO2、In2O3、Ga2O3、BaTiO3、およびSrTiO3からなる群より選択される少なくとも1つを含んでいてよい。
【0010】
本発明のもう1つの態様において、前記酸化物半導体は、前記層状材料の仕事関数より大きい仕事関数を有するp型酸化物半導体であり得る。
【0011】
例えば、前記p型酸化物半導体は、NiO、Cu2O、CuO、CoO、Mn3O4、SnOおよびZnCo2O4からなる群より選択される少なくとも1つを含んでいてよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、酸化物半導体から成る半導体部分の表面粗さを10nm以下とし、該表面に、層間距離が1.10nm以上の所定の層状材料(本明細書において「MXene」とも言う)を含む導電性部分を接触させることによって、ショットキーバリアダイオードを実現できることが見出された。本発明によれば、MXeneを使用しつつも、低毒性または無毒性で、比較的安価に製造可能で、酸化環境下で製造した場合でも安定したダイオード特性が得られる、新規なショットキーバリアダイオードが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の1つの実施形態におけるショットキーバリアダイオードを説明する模式断面図である。
【
図2】本発明の1つの実施形態におけるショットキーバリアダイオードを説明する図であって、(a)は半導体部分の表面と接触して配置された導電性部分の概略模式断面図を示し、(b)は導電性部分における層状材料(MXene)の粒子の概略模式斜視図を示す。
【
図3】本発明の1つの実施形態において利用可能な層状材料(MXene)の粒子を示す概略模式断面図であって、(a)は単層MXene粒子を示し、(b)は多層(例示的に二層)MXene粒子を示す。
【
図4】実施例1~5および比較例1のサンプルを説明する模式断面図である。
【
図5】比較例2のサンプルを説明する模式断面図である。
【
図6】比較例3~4のサンプルを説明する模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の1つの実施形態におけるショットキーバリアダイオードについて詳述するが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではない。
【0015】
図1を参照して、本実施形態のショットキーバリアダイオード20は、半導体部分11と導電性部分13とが接合された構成を有する。ショットキーバリアダイオード20において、半導体部分11および導電性部分13は、これらの間にショットキーバリアが形成される限り、任意の適切な態様で互いに接触して配置され得る。ショットキーバリアダイオード20は、任意の適切な態様で外部と電気的に接続され得る。
図1には、半導体部分11および導電性部分13が、それぞれコンタクト15aおよび15bを介してリードに接続された例を示すが、本実施形態はかかる例に限定されない。
【0016】
図1~2を参照して、半導体部分11は、酸化物半導体から成り、かつ、導電性部分13と接合される表面11aにて10nm以下の表面粗さを有する。導電性部分13は、所定の層状材料の粒子10から成り、導電性部分13において、互いに隣接する2つの層の間の距離が1.10nm以上である。
【0017】
本実施形態において使用可能な所定の層状材料はMXeneであり、次のように規定される:
1つまたは複数の層を含む層状材料であって、該層が、以下の式:
MmXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、いわゆる早期遷移金属、例えばSc、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびMnからなる群より選択される少なくとも1種を含み得、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体(該層本体は、各XがMの八面体アレイ内に位置する結晶格子を有し得る)と、該層本体の表面(より詳細には、該層本体の互いに対向する2つの表面の少なくとも一方)に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含む層状材料(これは層状化合物として理解され得、「MmXnTs」とも表され、sは任意の数であり、従来、sに代えてxが使用されることもある)。代表的には、nは、1、2、3または4であり得るが、これに限定されない。
【0018】
MXeneの上記式中、Mは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびMnからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましく、Ti、V、CrおよびMoからなる群より選択される少なくとも1つであることがより好ましい。
【0019】
MXeneは、上記の式:MmXnが、以下のように表現されるものが知られている。
Sc2C、Ti2C、Ti2N、Zr2C、Zr2N、Hf2C、Hf2N、V2C、V2N、Nb2C、Ta2C、Cr2C、Cr2N、Mo2C、Mo1.3C、Cr1.3C、(Ti,V)2C、(Ti,Nb)2C、W2C、W1.3C、Mo2N、Nb1.3C、Mo1.3Y0.6C(上記式中、「1.3」および「0.6」は、それぞれ約1.3(=4/3)および約0.6(=2/3)を意味する。)、
Ti3C2、Ti3N2、Ti3(CN)、Zr3C2、(Ti,V)3C2、(Ti2Nb)C2、(Ti2Ta)C2、(Ti2Mn)C2、Hf3C2、(Hf2V)C2、(Hf2Mn)C2、(V2Ti)C2、(Cr2Ti)C2、(Cr2V)C2、(Cr2Nb)C2、(Cr2Ta)C2、(Mo2Sc)C2、(Mo2Ti)C2、(Mo2Zr)C2、(Mo2Hf)C2、(Mo2V)C2、(Mo2Nb)C2、(Mo2Ta)C2、(W2Ti)C2、(W2Zr)C2、(W2Hf)C2、
Ti4N3、V4C3、Nb4C3、Ta4C3、(Ti,Nb)4C3、(Nb,Zr)4C3、(Ti2Nb2)C3、(Ti2Ta2)C3、(V2Ti2)C3、(V2Nb2)C3、(V2Ta2)C3、(Nb2Ta2)C3、(Cr2Ti2)C3、(Cr2V2)C3、(Cr2Nb2)C3、(Cr2Ta2)C3、(Mo2Ti2)C3、(Mo2Zr2)C3、(Mo2Hf2)C3、(Mo2V2)C3、(Mo2Nb2)C3、(Mo2Ta2)C3、(W2Ti2)C3、(W2Zr2)C3、(W2Hf2)C3、(Mo2.7V1.3)C3(上記式中、「2.7」および「1.3」は、それぞれ約2.7(=8/3)および約1.3(=4/3)を意味する。)
【0020】
代表的には、MmXnが、Ti2C、Ti3C2、Ti3(CN)、(Cr2Ti)C2、(Mo2Ti)C2、(Mo2Ti2)C3、および(Mo2.7V1.3)C3からなる群より選択される少なくとも1つで表される。
【0021】
かかるMXeneの粒子(以下、単に「MXene粒子」と言う)10は、MAX相からA原子(および場合によりM原子の一部)を選択的にエッチング(除去および場合により層分離)することにより合成することができる。MAX相は、以下の式:
MmAXn
(式中、M、X、nおよびmは、上記の通りであり、Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、通常はA族元素、代表的にはIIIA族およびIVA族であり、より詳細にはAl、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、P、As、SおよびCdからなる群より選択される少なくとも1種を含み得、好ましくはAlである)
で表され、かつ、MmXnで表される2つの層(各XがMの八面体アレイ内に位置する結晶格子を有し得る)の間に、A原子により構成される層が位置した結晶構造を有する。MAX相は、代表的にm=n+1の場合、n+1層のM原子の層の各間にX原子の層が1層ずつ配置され(これらを合わせて「MmXn層」とも称する)、n+1番目のM原子の層の次の層としてA原子の層(「A原子層」)が配置された繰り返し単位を有するが、これに限定されない。MAX相からA原子(および場合によりM原子の一部)が選択的にエッチング(除去および場合により層分離)されることにより、A原子層(および場合によりM原子の一部)が除去されて、露出したMmXn層の表面にエッチング液(通常、含フッ素酸の水溶液が使用されるがこれに限定されない)中に存在する水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子等が修飾して、かかる表面を終端する。
【0022】
上記エッチングは、HF、HCl、HBr、HI、硫酸、リン酸、硝酸等の酸でエッチング処理を行うものであってよい。例えば、フッ化リチウムおよび塩酸の混合液を用いた方法や、フッ酸を用いた方法などであってよい。その後、適宜、任意の適切な後処理(例えば超音波処理、ハンドシェイクまたはオートマチックシェイカーなど)により、MXeneの層分離(デラミネーション、多層MXeneを単層MXeneに分離すること)を促進してもよい。例えば、機械式振とう器、ボルテックスミキサー、ホモジナイザー、超音波バス等を用いて、所定時間、デラミネーション処理を行い得る。
【0023】
なお、本発明において、MXeneは、残留するA原子を比較的少量、例えば元のA原子に対して10質量%以下で含んでいてもよい。A原子の残留量は、好ましくは8質量%以下、より好ましくは6質量%以下であり得る。しかしながら、A原子の残留量は、10質量%を超えていたとしても、ショットキーバリアダイオードの用途や使用条件によっては問題がない場合もあり得る。
【0024】
このようにして合成されるMXeneの粒子10を本実施形態の導電性部分13の原料として使用できる。MXeneの粒子10は、
図3に模式的に示すように、1つまたは複数のMXene層7a、7bを含む層状材料の粒子(MXene粒子10の例として、
図3(a)中に1つの層のMXene粒子10aを、
図3(b)中に2つの層のMXene粒子10bを示しているが、これらの例に限定されない)であり得る。より詳細には、MXene層7a、7bは、M
mX
nで表される層本体(M
mX
n層)1a、1bと、層本体1a、1bの表面(より詳細には、各層にて互いに対向する2つの表面の少なくとも一方)に存在する修飾または終端T 3a、5a、3b、5bとを有する。よって、MXene層7a、7bは、「M
mX
nT
s」とも表され、sは任意の数である。MXene粒子10は、かかるMXene層が個々に分離されて1つの層で存在するもの(
図3(a)に示す単層構造体、いわゆる単層MXene粒子10a)であっても、複数のMXene層が互いに離間して積層された積層体(
図3(b)に示す多層構造体、いわゆる多層MXene粒子10b)であっても、それらの混合物であってもよい。MXene粒子10は、単層MXene粒子10aおよび/または多層MXene粒子10bから構成される集合体としての粒子(粉末またはフレークとも称され得る)であり得る。多層MXene粒子である場合、隣接する2つのMXene層(例えば7aと7b)は、必ずしも完全に離間していなくてもよく、部分的に接触していてもよい。
【0025】
本実施形態を限定するものではないが、MXeneの各層(上記のMXene層7a、7bに相当する)の厚さは、例えば0.8nm以上5nm以下、特に0.8nm以上3nm以下であり(主に、各層に含まれるM原子層の数により異なり得る)、層に平行な平面(二次元シート面)内における最大寸法(粒子の「面内寸法」に対応し得る)は、例えば0.1μm以上、特に1μm以上、例えば200μm以下、特に40μm以下である。
【0026】
MXene粒子が積層体(多層MXene)粒子である場合、個々の積層体粒子の内部の層間距離(または空隙寸法、
図3(b)中にΔd
1にて示す)は、導電性部分13を構成する前の状態では、特に限定されず、例えば0.8nm以上10nm未満、特に0.8nm以上5nm以下、より特に約1nmであり、積層方向に垂直な平面(二次元シート面)内における最大寸法(粒子の「面内寸法」に対応し得る)は、例えば0.1μm以上、特に1μm以上、例えば100μm以下、特に20μm以下である。
【0027】
MXene粒子における層の総数は、1または2以上であればよいが、例えば1以上20以下であり、積層方向の厚さ(粒子の「厚さ」に対応し得る)は、例えば0.8nm以上20nm以下である。
【0028】
なお、上述した各寸法は、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)または原子間力顕微鏡(AFM)の写真に基づく数平均寸法(例えば少なくとも40個の数平均)あるいはX線回折(XRD)法により測定した(002)面の逆格子空間上の位置より計算した実空間における距離として求められ得る。
【0029】
本実施形態の導電性部分13は、かかるMXene粒子10(単層MXene粒子、多層MXene粒子、およびこれらの混合物であってよい)を半導体部分11の表面11aの上に配置して、必要に応じて適宜熱処理に付すことによって形成され得る(
図2参照)。MXene粒子10を半導体部分11の表面11a上に配置する方法は、特に限定されず、例えば、上記のように合成したMXene粒子を適切な溶媒に分散および/または懸濁させたスラリーを調製し、スラリーを半導体部分11の表面11aに対して適用し、溶媒を(少なくとも部分的に、好ましくは実質的に全部を)乾燥除去してよい。スラリーの適用は、スプレー、スピンキャストまたはブレード法により実施してよい。乾燥は、自然乾燥および/または熱風乾燥などであり得る。熱処理を実施する場合、熱処理条件は適宜設定され得るが、例えば、真空(大気圧より低い圧力、例えば0.01MPa(絶対圧)以下の圧力)下にて、30℃以上500℃以下の最高温度で実施してよい。熱処理時間は、適用する圧力および温度により異なり得る。熱処理中の周囲雰囲気の酸素分圧(酸素濃度)は、厳密に制御する必要はなく、特に限定されない。
【0030】
MXeneの仕事関数は、上記の式:MmXnで表される層本体の材料種および修飾/終端Tに応じて大きく異なり得る。例えば、非特許文献4のFig.4から理解されるように、MXeneの仕事関数は、層本体の材料種および修飾/終端Tを調節することにより、約1.6eV以上約8eV以下の範囲内で制御可能であることが理解される。例えば、層本体がTi3C2であり、修飾/終端Tとして少なくとも水酸基を有するMXene粒子を原料として用いる場合、かかるMXene粒子を半導体部分11の上に配置して熱処理に付すことにより、水酸基が酸素原子に変化し、これにより得られる導電性部分13におけるMXeneの仕事関数を制御し得る。
【0031】
他方、半導体部分11を構成する酸化物半導体は、導電性部分13を構成するMXeneおよびショットキーバリアダイオードに所望されるダイオード特性等に応じて適宜選択される。かかる酸化物半導体は、不純物(意図的に添加されるドーパントおよび/または不可避的に混入する微量元素等)を含んでいてもよい。
【0032】
酸化物半導体は、Asなどの毒性の高い元素を含まないように選択でき、よって、最終的に得られるショットキーバリアダイオード20を低毒性、好ましくは無毒性にすることができる。また、酸化物半導体は、高純度なGaN単結晶に比べて安価に市販で入手および/または製造することができ、よって、最終的に得られるショットキーバリアダイオード20を比較的安価に製造することができる。更に、酸化物半導体は、安定な酸化物を既に形成しているため、ショットキーバリアダイオード20の製造過程で酸化環境に曝された場合(例えば、上述したように熱処理を実施した場合)でも、酸化物半導体の電気特性を維持することができ、よって、安定したダイオード特性を容易に得ることができる。これに対して、Siまたは化合物半導体の場合には、酸化環境下にて表面酸化を生じることにより、半導体が変質してその電気特性が変化し得るので、表面酸化を防止するために、例えば、熱処理時の周囲雰囲気の酸素分圧を厳密に制御するというような特別な操作を要することとなる。
【0033】
酸化物半導体は、導電性部分13を構成するMXeneの仕事関数を考慮して選択され得る。酸化物半導体の仕事関数と、MXeneの仕事関数との大小関係により、ダイオードを構成し得るか否かが決まる。より詳細には、MXeneの仕事関数より小さい仕事関数を有するn型酸化物半導体、あるいは、MXeneの仕事関数より大きい仕事関数を有するp型酸化物半導体を使用できる。
【0034】
n型酸化物半導体は、例えば、ZnO、TiO2、SnO2、CeO2、In2O3、Ga2O3、BaTiO3、およびSrTiO3からなる群より選択される少なくとも1つを含むものであってよい。代表的には、NbがドープされたSrTiO3(「Nb:SrTiO3」または「NSTO」などと表記され得る)などであってよい。p型酸化物半導体は、例えば、NiO、Cu2O、CuO、CoO、Mn3O4、SnOおよびZnCo2O4からなる群より選択される少なくとも1つを含むものであってよい。代表的には、NiO、Cu2Oなどであってよい。これら例示した酸化物半導体について、ノンドープのとき(ドープ量がゼロのとき)の仕事関数およびハイドープのとき(ドープ量を更に増やしても仕事関数がそれ以上ほぼ変化しないとき)の仕事関数を表1に示す。表1を参照して、各酸化物半導体の仕事関数は、ドープ量を調節することにより、ノンドープのときの仕事関数とハイドープのときの仕事関数との間の範囲内で所望の通りに制御可能であることが理解される。なお、表1中、TiO2(R)は、ルチル型TiO2を意味し、TiO2(A)は、アナターゼ型TiO2を意味する。
【0035】
【0036】
上述のように、本実施形態のショットキーバリアダイオード20では、半導体部分11のうち導電性部分13と接合される表面11aの表面粗さが10nm以下であり、導電性部分13において互いに隣接する2つのMXene層の間の距離が1.10nm以上である。これにより、ダイオード理想係数が小さく、かつ逆方向飽和電流が小さい(換言すれば、整流比が高い)ショットキーバリアダイオード20が実現される。ダイオード理想係数(n)は、例えば8以下、好ましくは5以下であり得、下限は特に限定されないが、理論的には1以上である(ダイオード理想係数(n)は1に近いほうが望ましい)。逆方向飽和電流(I0)は、例えば5×10-4A以下、好ましくは2.00×10-4A以下であり得、下限は特に限定されないが、理論的には0より大きい値である(逆方向飽和電流(I0)は0に近いほうが望ましい)。
【0037】
本発明はいかなる理論によっても拘束されないが、以下のように考えられ得る。第1に、半導体部分11の表面11aの表面粗さが10nm以下であることにより、これと接触して形成される導電性部分13のうち、MXene粒子10による表面11aの被覆率(カバレッジ)が高くなる。これにより、半導体部分11と導電性部分13との間での接触が意図される領域に対する、半導体部分11とMXene粒子10との間で実際に接触が形成される領域の割合が著しく増加し、半導体部分11と導電性部分13との間で極めて良好な接触が得られる。第2に、導電性部分13において、互いに隣接する2つのMXene層の間の距離が1.10nm以上であることにより、導電性部分13においてMXene粒子10が高い配向性を有して存在できて、MXene粒子10から構成される導電性部分13の導電率が高くなる。これらが複合的に作用した結果、ダイオード理想係数が小さく、かつ逆方向飽和電流が小さい(換言すれば、整流比が高い)ショットキーバリアダイオード20が実現されると考えられる。
【0038】
これに対して、半導体部分11の表面11aの表面粗さが10nmより大きい場合には、MXene粒子10による表面11aの被覆率(カバレッジ)が低くなり、半導体部分11と導電性部分13との間で良好な接触が得られず、オーミック接触になり得る。この結果、電流電圧曲線を指数関数でフィッティングすることによってダイオード特性を抽出しようとしても、電流電圧曲線が直線状(線形)になり、指数関数でフィッティングできず、ダイオードとしての機能を果たさない。また、導電性部分13において、互いに隣接する2つのMXene層の間の距離が1.10nm未満である場合には、導電性部分13におけるMXene粒子10の配向性が低くなり、MXene粒子10から構成される導電性部分13の導電率が低くなると共に、MXene粒子10による表面11aの被覆率(カバレッジ)も低くなる。この結果、電流電圧曲線を指数関数でフィッティングすることによってダイオード特性を抽出しようとしても、電流電圧曲線が直線(線形)になり、指数関数でフィッティングできず、ダイオードとしての機能を果たさない。
【0039】
半導体部分11の表面11aの表面粗さは、次のようにして決定される。半導体部分11の断面(半導体部分11の上に導電性部分13が存在していても、存在していなくてもよい)を露出させ、この断面を電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)にて観察して、半導体部分11の厚さを十点測定し、二乗平均平方根高さRq(平均線から測定曲線までの偏差の二乗を平均した値の平方根)を求める。このRqを表面粗さとする。
【0040】
導電性部分13において互いに隣接する2つのMXene層の間の距離(本明細書において単に「MXeneの層間距離」とも言う)は、互いに隣接する任意の2つのMXene層の間の距離を意味し、2つのMXene層は、別々のMXene粒子に属するものであっても、同一のMXene粒子に属するものであってもよい。2つのMXene層が、別々のMXene粒子に属する場合の層間距離は、
図2に示すように、1つのMXene粒子10の層(単層MXene粒子および多層MXene粒子のいずれであってもよいが、多層MXene粒子である場合は最外層)と、この層に隣接する別のMXene粒子10の層(同上)との間の距離Δd
2に該当する(
図2中、便宜的に単層MXene粒子のみを示すが、MXene粒子10は、単層MXene粒子であっても多層MXene粒子であってもよく、これらが混在していてもよい)。2つのMXene層が、同一のMXene粒子に属する場合の層間距離は、
図3に示すように、多層MXene粒子10bの内部の層間距離Δd
1に該当する。「MXeneの層間距離」は、これらの場合を総合して求められる包括的な値となる。
【0041】
MXeneの層間距離は、次のようにして決定される。導電性部分13をX線回折(XRD)法により、θ軸方向スキャンのXRDプロファイル(縦軸が強度で、横軸が2θであり、一般的に「XRDプロファイル」と称される)を測定し、MXeneの(002)面に由来するピークに基づいて、ブラッグの式から(002)面の面間隔を求める。この(002)面の面間隔をMXeneの層間距離とする。
【0042】
導電性部分13におけるMXene粒子10の配向性は、導電性部分13をX線回折測定して得られる、MXeneの(002)面に由来するピークの半値幅に基づいて理解可能であり、かかる半値幅が小さいほど、MXene粒子10の配向性が高い。MXeneの(002)面に由来するピークの半値幅は、上記のXRDプロファイルから求められる。
【0043】
MXeneの層間距離がより小さいことは、水分等の不純物がより少ないことを意味し、導電性部分13の導電率をより高くできる点で好ましい。例えば、上述のような熱処理を実施することにより、層間に存在し得る水分を適度に除去できて、MXeneの層間距離をより小さくできる。これにより、導電性部分13の導電率が向上すると、ショットキーバリアダイオード20の等価回路の直列抵抗成分(Rs)を低下させることができる。しかしながら、過剰に熱処理を実施すると、MXeneの層間距離はより小さくなるものの、水分が除去された痕跡が導電性部分13に残存し、MXene粒子10の配向性が低くなる。この結果、電流電圧曲線を指数関数でフィッティングすることによってダイオード特性を抽出しようとしても、電流電圧曲線が直線(線形)になり、指数関数でフィッティングできず、ダイオードとしての機能を果たさない。かかる観点から、MXeneの層間距離を1.10nm以上とし、高い配向性を確保している。MXeneの層間距離は1.10nm以上であればよいが、例えば2.00nm以下、特に1.50nm以下であり得、とりわけ低い直列抵抗成分が所望される場合には1.25nm以下、特に1.20nm以下であり得る。
【0044】
更に、高周波特性に優れたショットキーバリアダイオードが所望される場合には、立ち上がり電圧が低いことが好ましい。本実施形態によれば、立ち上がり電圧を低くすることもでき、よって、高周波特性に優れたショットキーバリアダイオード20が実現される。ショットキーバリアダイオードの立ち上がり電圧の支配的因子は、導電性部分13を構成するMXeneの仕事関数と、半導体部分11を構成する酸化物半導体の仕事関数との差であり、かかる仕事関数差が小さいほど、立ち上がり電圧を小さくすることができる。上述のように、MXeneの仕事関数は、層本体の材料種および修飾/終端Tを調節することにより制御可能であり、酸化物半導体の仕事関数も様々であり得る。よって、適切な酸化物半導体を選択し、MXeneの仕事関数を制御することによって、立ち上がり電圧が低く、高周波特性に優れたショットキーバリアダイオード20を得ることができる。
【0045】
以上、本発明の1つの実施形態におけるショットキーバリアダイオードについて詳述したが、本発明は種々の改変が可能である。なお、本発明のショットキーバリアダイオードは、上述の実施形態における製造方法とは異なる方法によって製造されてもよいことに留意されたい。
【実施例0046】
<実施例1>
(操作1-1)
半導体部分11として、NSTO単結晶から成る基板(株式会社信光社製、NbがドープされたSrTiO3基板:Nbドープ量0.5重量%(約1.0原子%)、平面寸法15mm×15mmおよび厚さ0.5mm、片面研磨、面方位(001))を市販で入手し、これを、赤外線高速加熱装置(アドバンス理工株式会社製、QH-E68VHT)を用いて、酸素雰囲気中、900℃にて10分間、熱処理した。
【0047】
(操作1-2)
上記操作1-1を経た半導体部分11を切断して断面を露出させ、FE-SEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、S-5000)を用いて、半導体部分の表面(研磨面)を計測することで、表面粗さRqを求めた。結果を表2に示す。
【0048】
(操作1-3)
TiC粉末、Ti粉末およびAl粉末(いずれも株式会社高純度化学研究所製)を2:1:1のモル比で、ジルコニアボールを入れたボールミルに投入して24時間混合した。得られた混合粉末をAr雰囲気下にて1350℃で2時間焼成した。これにより得られた焼成体(ブロック)をエンドミルで最大寸法40μm以下まで粉砕した。これにより、MAX粒子としてTi3AlC2粒子(粉末)を得た。
【0049】
上記で得られたTi3AlC2粒子(粉末)をLiFと共に9モル/Lの塩酸に添加して(Ti3AlC2粒子1gにつき、LiF 1g、9モル/Lの塩酸10mLとした)、35℃にてスターラーで24時間撹拌して、Ti3AlC2粒子に由来する固体成分(Ti3C2Ts粒子)を含む固液混合物(懸濁液)を得た。これに対して、純水による洗浄および遠心分離機を用いたデカンテーションによる上澄みの分離除去(上澄みを除いた残りの沈降物を再び洗浄に付す)操作を10回程度繰り返し実施した。そして、沈降物に純水を添加した混合物をオートマチックシェーカーで15分間撹拌した。これにより、粗精製MXene(Ti3C2Ts)スラリーを得た。この粗精製MXeneスラリーを遠心分離機にて遠心分離操作に付し、不要部分を適宜、分離除去して、MXene(Ti3C2Ts)-水分散液を得た。
【0050】
上記で得られたMXene-水分散液1gを、固形分濃度2mg/mLとなるように純水で希釈した。希釈されたMXene-水分散液を、氷浴中において超音波洗浄器(株式会社エスエヌディ製、US-4)で15分間、超音波処理した。
【0051】
(操作1-4)
上記操作1-1を経た半導体部分11の表面(研磨面)上に、大きさ2mm×2mmの開口部を有するシャドウマスクを配置し、その開口部に対して、上記操作1-3で得たMXene-水分散液を、市販のエアーブラシ(株式会社タミヤ製、スプレーワークHGエアーブラシワイド(トリガータイプ)、エアーブラシシステム No.53 スプレーワークパワーコンプレッサー 74553)を用いて、エア圧力0.40MPa(絶対圧)でスプレーした。これにより、半導体部分11の表面の上記開口部に対応する領域上に、MXene(Ti3C2Ts)粒子を含む前駆体層が形成された。半導体部分11上の前駆体層に対して、ハンドドライヤー(パナソニック株式会社製、EH5206P-A)で温風を吹き付けて、前駆体層を乾燥させた。
【0052】
(操作1-5)
上記操作1-4におけるスプレーおよび乾燥の操作を繰り返した。その後、シャドウマスクを取り除いた。これにより、MXene(Ti3C2Ts)粒子から成る導電性部分13が、半導体部分11上に形成された。
【0053】
(操作1-6)
上記操作1-5で得られた、半導体部分11および導電性部分13の接合構造体について、XRD装置(株式会社リガク製、MiniFlex)を用いて導電性部分13のXRDプロファイルを測定し(特性X線:CuKα=1.54Å)、MXene(Ti3C2Ts)の(002)面に由来するピーク(2θ=約4~10°に現れるピーク)に基づいて、ブラッグの式から(002)面の面間隔として、MXeneの層間距離を求めた。更に、(002)面に由来するピークの半値幅を求めた。これらの結果を表2に示す。
【0054】
(操作1-7)
図4を参照して、シリコン(Si)基板31上にシリコン酸化物(SiO
2)層32およびPt層33を有する基板30に対して、Pt層33の所定の領域上に金属層34としてInGa層を形成し、さらにその上に、上記操作1-5で得られた、半導体部分11(実施例1ではNSTO単結晶)および導電性部分13の接合構造体を配置した。これにより、実施例1のショットキーバリアダイオードのサンプルを得た(
図4)。プローブポテンショメーター(Keithley Instruments. Inc.製、2400シリーズ)の2本の配線(出力側とグランド側)を試料ステージ(MMR Technologies, Inc.製、UMC-2)の2本の金属プローブにそれぞれ接続した。試料ステージ上に上記サンプルを配置し、光学顕微鏡(オリンパス株式会社製、SZ40)を用いて、金属プローブ(出力側)を半導体部分13に接触させ、もう一本の金属プローブ(グランド側)をPt層33に接触させて金属層34が電気的にグランド接続されるようにした。上記ポテンショメーターを用いて、線形電圧掃引しながら電流を測定して、電流電圧曲線を得た。
【0055】
(操作1-8)
Cheung法(非特許文献5に記載の方法)を用いて、上記操作1-7で得た電流電圧曲線(I-V特性)から、ダイオード理想係数n(-)、直列抵抗Rs(Ω)、逆方向飽和電流I0(A)およびショットキーバリアΦ0(eV)を導出した。その後、ショットキー-モット方程式を用いてMXeneの仕事関数MX-WF(eV)を導出した。なお、MXeneの仕事関数MX-WFを求めるときに、NSTOの電子親和力3.9eVを適用した。また、上記操作1-7で得た電流電圧曲線(I-V特性)にて、電流が0.1mAとなったときの電圧を立ち上がり電圧(eV)とした。これらの結果を表2に示す。
【0056】
<実施例2>
(操作2-1)
実施例1にて上述した操作1-1~操作1-5と同様の操作を行った。
【0057】
(操作2-2)
上記操作2-1で得られた、半導体部分11および導電性部分13の接合構造体を、真空定温乾燥器(アドバンテック製、DRV320DC)を用いて、100Pa(絶対圧)にて、200℃まで加熱し、200℃に到達後直ちに(即ち、保持時間0時間で)降温することにより、真空熱処理した。その後、自然冷却により、真空定温乾燥器内の温度が40℃以下になってから、接合構造体を真空定温乾燥器から取り出した。
【0058】
(操作2-3)
実施例1にて上述した操作1-6~操作1-8と同様の操作を行った。
【0059】
<実施例3>
(操作3-1)
実施例1にて上述した操作1-1~操作1-5と同様の操作を行った。
【0060】
(操作3-2)
保持時間を2時間としたこと以外、実施例2にて上述した操作2-2と同様の操作を行った。
【0061】
(操作3-3)
実施例1にて上述した操作1-6~操作1-8と同様の操作を行った。
【0062】
<実施例4>
(操作4-1)
半導体部分11として、NiO単結晶から成る基板(有限会社クリスタルベース製、平面寸法10mm×10mmおよび厚さ0.5mm、片面研磨、面方位(001))を市販で入手し、これを、赤外線高速加熱装置(アドバンス理工株式会社製、QH-E68VHT)を用いて、酸素雰囲気中、900℃にて10分間、熱処理した。
【0063】
(操作4-2)
実施例1にて上述した操作1-2~操作1-5と同様の操作を行った後、実施例2にて上述した操作2-2と同様の操作を行い、その後、実施例1にて上述した操作1-6と同様の操作を行った。
【0064】
(操作4-3)
図4を参照して、上記操作4-2で得られた、半導体部分11(実施例4ではNiO単結晶)および導電性部分13の接合構造体について、半導体部分11の導電性部分13と反対側の表面に、金属層34としてAu層を蒸着し、これにより得られた構造体を、シリコン(Si)基板31上にシリコン酸化物(SiO
2)層32およびPt層33を有する基板30の上に図示するように配置した。これにより、実施例4のショットキーバリアダイオードのサンプルを得た(
図4)。プローブポテンショメーター(Keithley Instruments. Inc.製、2400シリーズ)の2本の配線(出力側とグランド側)を試料ステージ(MMR Technologies, Inc.製、UMC-2)の2本の金属プローブにそれぞれ接続した。試料ステージ上に上記サンプルを配置し、光学顕微鏡(オリンパス株式会社製、SZ40)を用いて、金属プローブ(出力側)をPt層33に接触させて金属層34と電気的に接続し、もう一本の金属プローブ(グランド側)を半導体部分13に接触させ、電気的にグランド接続した。上記ポテンショメーターを用いて、線形電圧掃引しながら電流を測定して、電流電圧曲線を得た。
【0065】
(操作4-4)
実施例1にて上述した操作1-8と同様の操作を行った。なお、MXeneの仕事関数MX-WFを求めるときに、NiOのイオン化ポテンシャル5.1eVを適用した。
【0066】
<実施例5>
(操作5-1)
半導体部分11として、Cu2O単結晶から成る基板(有限会社クリスタルベース製、平面寸法10mm×10mmおよび厚さ0.5mm、片面研磨、面方位(001))を用いたこと以外、実施例4にて上述した操作4-1~操作4-4と同様の操作を行った。なお、MXeneの仕事関数MX-WFを求めるときに、Cu2Oのイオン化ポテンシャル5.3eVを適用した。
【0067】
<比較例1>
(操作6-1)
実施例1にて上述した操作1-1~操作1-5と同様の操作を行った。
【0068】
(操作6-2)
保持時間を8時間としたこと以外、実施例2にて上述した操作2-2と同様の操作を行った。
【0069】
(操作6-3)
実施例1にて上述した操作1-6~操作1-8と同様の操作を行った。実施例1にて上述した操作1-8と同様の操作において、比較例1では、電流電圧曲線(I-V特性)が直線状(線形)になり、指数関数でフィッティングできず、各種ダイオード特性(ダイオード理想係数n、直列抵抗Rs、逆方向飽和電流I0、ショットキーバリアΦ0、および立ち上がり電圧)を導出できず、MXeneの仕事関数MX-WF(eV)も導出できなかった。よって、表2中、これらを「N/A」にて示す。
【0070】
<比較例2>
(操作7-1)
図5を参照して、石英ガラス基板30’をエキシマランプ(ウシオ電機株式会社製、H0011)にてUVオゾンプラズマ処理し、基板30’の表面を洗浄した。
【0071】
(操作7-2)
硝酸ストロンチウム無水物(富士フィルム和光純薬株式会社製)、酸化チタン(Degussa P25)および1Mの水酸化ナトリウム水溶液を純水に添加して、SrおよびTiを含む水溶液を作製した。この水溶液に対して、合成後に得られるNSTOにおけるNb含量が0.5重量%となるように塩化ニオブを添加して、Sr、TiおよびNbを含む水溶液を得た。
【0072】
(操作7-3)
スピンコータ(ミカサ株式会社製、1H360S)に上記操作7-1で得た基板30’をセットし、上記操作7-2で得たSr、TiおよびNbを含む水溶液をフィルタ(Whatman plc製、ポリプロピレン被覆ポリテトラフルオロエチレン、ポアサイズ0.2μm)越しに基板30’上へ塗布して該水溶液の液膜を形成した。スピンコート条件は、塗布開始から2秒未満を600rpm、2秒経過後から2000rpmとして、全部で6秒間継続して終了した。上記液膜が形成された基板30’を120℃のホットプレートに30秒間載置して溶媒を蒸発させ、このホットプレートに載置したまま120℃にて更に1分間加熱した。
【0073】
(操作7-4)
上記操作7-3で得た塗膜付きの基板30’を、赤外線高速加熱装置(アドバンス理工株式会社製、QH-E68VHT)を用いて、酸素雰囲気中、600℃にて10分間、熱処理した。これにより、塗膜が結晶化した。
【0074】
(操作7-5)
上記操作7-4で得た結晶化膜付きの基板30’を、赤外線高速加熱装置(アドバンス理工株式会社製、QH-E68VHT)を用いて、窒素雰囲気中、800℃にて10分間、熱処理した。これにより、石英ガラス基板30’上に、半導体部分61として、NSTO多結晶から成る膜(NbがドープされたSrTiO3:Nbドープ量0.5重量%(約1.0原子%)、厚さ500nm)が形成された。
【0075】
(操作7-6)
半導体部分11に代えて半導体部分61を使用したこと以外、実施例1にて上述した操作1-2~操作1-6と同様の操作を行った。
【0076】
(操作7-7)
図5を参照して、上記操作7-6で得られた半導体部分61(NSTO多結晶膜)の所定の領域上に金属層35としてInGa層を形成した。これにより、比較例2のショットキーバリアダイオードのサンプルを得た(
図5)。プローブポテンショメーター(Keithley Instruments. Inc.製、2400シリーズ)の2本の配線(出力側とグランド側)を試料ステージ(MMR Technologies, Inc.製、UMC-2)の2本の金属プローブにそれぞれ接続した。試料ステージ上に上記サンプルを配置し、光学顕微鏡(オリンパス株式会社製、SZ40)を用いて、金属プローブ(出力側)を半導体部分13に接触させ、もう一本の金属プローブ(グランド側)を金属層35に接触させて電気的にグランド接続されるようにした。上記ポテンショメーターを用いて、線形電圧掃引しながら電流を測定して、電流電圧曲線を得た。
【0077】
(操作7-8)
実施例1にて上述した操作1-8と同様の操作を行った。
【0078】
<比較例3>
(操作8-1)
図6を参照して、シリコン(Si)基板31上にシリコン酸化物(SiO
2)層32およびPt層33を有する基板30をエキシマランプ(ウシオ電機株式会社製、H0011)にてUVオゾンプラズマ処理し、基板の表面を洗浄した。
【0079】
(操作8-2)
酢酸ニッケル四水和物(富士フィルム和光純薬株式会社製)を金属塩、2-メトキシエタノール(ナカライテスク株式会社製)を溶媒、ジエタノールアミン(ナカライテスク株式会社製)を錯形成剤とし、0.5MのNi錯体溶液を作製した。このとき、ジエタノールアミンは、Niに対するモル比が3となるように添加した。
【0080】
(操作8-3)
上記操作8-1で得た基板30および上記操作8-2で得たNi錯体溶液を用いたこと以外、比較例2にて上述した操作7-3と同様の操作を行った。
【0081】
(操作8-4)
比較例2にて上述した操作7-4と同様の操作を行った。これにより、基板30上に、半導体部分61として、NiO多結晶から成る膜(厚さ500nm)が形成された。
【0082】
(操作8-5)
実施例4にて上述した操作4-2と同様の操作を行った。これにより、比較例3のショットキーバリアダイオードのサンプルを得た(
図6)。
【0083】
(操作8-6)
プローブポテンショメーター(Keithley Instruments. Inc.製、2400シリーズ)の2本の配線(出力側とグランド側)を試料ステージ(MMR Technologies, Inc.製、UMC-2)の2本の金属プローブにそれぞれ接続した。試料ステージ上に上記サンプルを配置し、光学顕微鏡(オリンパス株式会社製、SZ40)を用いて、金属プローブ(出力側)をPt層33に接触させて電気的に接続し、もう一本の金属プローブ(グランド側)を半導体部分13に接触させ、電気的にグランド接続した。上記ポテンショメーターを用いて、線形電圧掃引しながら電流を測定して、電流電圧曲線を得た。
【0084】
(操作8-7)
実施例4にて上述した操作4-4と同様の操作を行った。
【0085】
<比較例4>
(操作9-1)
比較例3にて上述した操作8-1と同様の操作を行った。
【0086】
(操作9-2)
酢酸銅四水和物(富士フィルム和光純薬株式会社製)を金属塩として用いたこと以外、比較例3にて上述した操作8-2と同様の操作を行った。なお、ジエタノールアミンは、Cuに対するモル比が3となるように添加した。
【0087】
(操作9-3)
上記操作9-2で得たCu錯体溶液を用いたこと以外、比較例3にて上述した操作8-3と同様の操作を行った。
【0088】
(操作9-4)
比較例3にて上述した操作8-4と同様の操作を行った。これにより、基板30上に、半導体部分61として、Cu2O多結晶から成る膜(厚さ500nm)が形成された。その後、比較例3にて上述した操作8-5~操作8-6と同様の操作を行った。
【0089】
(操作9-5)
実施例1にて上述した操作1-8と同様の操作を行った。なお、MXeneの仕事関数MX-WFを求めるときに、Cu2Oのイオン化ポテンシャル5.3eVを適用した。
【0090】
【0091】
表2を参照して、実施例1~5で作製したショットキーバリアダイオードのサンプルでは、MXeneの層間距離が1.10nm以上で、かつ、半導体部分の表面粗さが10nm以下であり、半導体部分とMXene粒子から成る導電性部分との間にショットキーバリアが形成され、ダイオードとしての機能を果たすことが確認された。実施例1~5のサンプルは、ダイオード理想係数が小さく、逆方向飽和電流が小さく、立ち上がり電圧が低かった。なかでも、実施例1のサンプルは、ダイオード理想係数が極めて小さかった。実施例2~5のサンプルは、直列抵抗が極めて小さかった。
【0092】
これに対して、比較例1のサンプルでは、MXeneの層間距離が1.10nmより小さかった。比較例2~4のサンプルでは、半導体部分の表面粗さが10nmを超えていた。比較例1~4のサンプルでは、電流電圧曲線が直線(線形)になり、指数関数でフィッティングできず、ダイオードとしての機能を果たさなかった。これは、比較例1~4のサンプルでは、半導体部分とMXene粒子から成る導電性部分との間の接触が、オーミック接触になっているものと考えられる。