(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066138
(43)【公開日】2023-05-15
(54)【発明の名称】熱伝導シート
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20230508BHJP
C08L 33/08 20060101ALI20230508BHJP
C08L 33/10 20060101ALI20230508BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20230508BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20230508BHJP
C08K 5/12 20060101ALI20230508BHJP
C09K 5/14 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
C08J5/18 CEY
C08L33/08
C08L33/10
C08K3/22
C08K3/34
C08K5/12
C09K5/14 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021176680
(22)【出願日】2021-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000242231
【氏名又は名称】北川工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 政宏
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA33
4F071AA88
4F071AB11
4F071AB18
4F071AB26
4F071AC10
4F071AD02
4F071AD06
4F071AE04
4F071AE22
4F071AF25Y
4F071AF39Y
4F071AF44Y
4F071AG05
4F071AH12
4F071AH16
4F071BB02
4F071BB13
4F071BC01
4F071BC03
4J002BG041
4J002BG051
4J002BN121
4J002DE118
4J002DJ006
4J002EH147
4J002FD016
4J002FD018
4J002FD027
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】熱伝導性、柔軟性、絶縁性に優れ、容易に成形可能な熱伝導シートを提供する。
【解決手段】アクリル系単量体とアクリル系重合体とからなるアクリル系樹脂に、炭化珪素とソフトフェライトと可塑剤とを配合した熱伝導シートであって、シートの熱伝導率が2W/m・K以上で、アスカーC硬度が2~10で、体積抵抗率が1010Ω・cm以上であることを特徴とする熱伝導シート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系単量体20~35mass%とアクリル系重合体65~80mass%とからなるアクリル系樹脂に、炭化珪素とソフトフェライトと可塑剤とを配合した熱伝導シートであって、
前記アクリル系樹脂100質量部に対し、
前記炭化珪素230~250質量部と、
前記ソフトフェライト10~20質量部と、
前記可塑剤40~55質量部とをそれぞれ配合し、
硬化後のシートの熱伝導率が2W/m・K以上で、アスカーC硬度が2~10で、体積抵抗率が1010Ω・cm以上であることを特徴とする熱伝導シート。
【請求項2】
前記ソフトフェライトは、レーザー回折装置で測定したメディアン径が20~40μmのNi-Zn系のフェライト粉末である請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項3】
前記炭化珪素は、レーザー回折装置で測定されるメディアン径が60~80μmの粉末である請求項1又は請求項2に記載の熱伝導シート。
【請求項4】
前記可塑剤はトリメリット酸アルキルエステルである請求項1~3のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
【請求項5】
前記熱伝導シートの硬化前の熱伝導材において、ロータNo.7、回転数2回転/分、25℃の条件でブルックフィールド粘度計により測定された粘度が100~200Pa・sである請求項1~4のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放熱材料用アクリル系樹脂組成物からなる熱伝導性、成形性、柔軟性、絶縁性に優れた熱伝導シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、柔軟性を有する樹脂に、例えば、炭化珪素、アルミナ(酸化アルミニウム)などの熱伝導フィラーを配合した熱伝導材が考えられている。この種の熱伝導材をシート状に成形した熱伝導シートは、電気・電子部品などの発熱体と、ヒートシンクや筐体パネル等の放熱体との間に介在させるように配置して使用される。このように熱伝導シートを配置した場合、発熱体で発生した熱を放熱体側に効率的に逃がすことができる。また、熱伝導シートには熱伝導性の他、シートの配置時に発熱体と放熱体との間の導通を防ぐ絶縁性や、それらの表面形状に応じたシートの変形により、接触面積を大きくすることができる柔軟性等が求められている。
【0003】
従来、柔軟性を有する樹脂として、シリコーン系樹脂が多く用いられてきたが、シリコーン系樹脂は柔軟性が不十分であること、樹脂材料が高価であること、硬化に時間がかかること、低分子量のシロキサン発生による接点不良が発生し得ること等の問題があった。それらの問題を解決するために、本願出願人は、アクリル酸エステルを含むモノマーを重合してなるアクリル系樹脂に、熱伝導フィラーを配合した熱伝導材を提案している(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
熱伝導フィラーとして一般的に用いられてきた炭化珪素は、非常に良好な熱伝導性を有するが、絶縁性に劣る。そのため、アクリル系樹脂に炭化珪素を多く配合した熱伝導材では、熱伝導性は向上するものの、絶縁性は低下してしまうという問題があった。また、その他の熱伝導フィラーとして一般的に用いられてきたアルミナは、炭化珪素より劣るものの、比較的良好な熱伝導性を有し、絶縁性にも優れる。しかしながら、アクリル系樹脂にアルミナを多く配合した熱伝導材は、粘度が不十分であり、成形性に劣るという問題があった。そこで、本発明は、熱伝導性、柔軟性、絶縁性に優れ、シート状への成形性にも優れるアクリル系樹脂の熱伝導シートを提供することを課題として掲げている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決した本発明は、アクリル系単量体20~35mass%とアクリル系重合体65~80mass%とからなるアクリル系樹脂に、炭化珪素とソフトフェライトと可塑剤とを配合した熱伝導シートであって、前記アクリル系樹脂100質量部に対し、前記炭化珪素230~250質量部と、前記ソフトフェライト10~20質量部と、前記可塑剤40~55質量部とをそれぞれ配合し、硬化後のシートの熱伝導率が2W/m・K以上で、アスカーC硬度が2~10で、体積抵抗率が1010Ω・cm以上であることを特徴としている。
【0007】
なお、本発明は、更に以下のような構成あるいは特性を備えていてもよい。
前記ソフトフェライトは、レーザー回折装置で測定したメディアン径が20~40μmのNi-Zn系のフェライト粉末であってもよい。前記炭化珪素は、レーザー回折装置で測定されるメディアン径が60~80μmの粉末であり、前記可塑剤はトリメリット酸アルキルエステルであってもよい。前記熱伝導シートの硬化前の熱伝導材において、ロータNo.7、回転数2回転/分、25℃の条件でブルックフィールド粘度計により測定された粘度が100~200Pa・sであってもよい。
【0008】
本願出願人は、アクリル系樹脂に炭化珪素を配合してなる熱伝導材に対し、ソフトフェライトを配合することにより、2W/m・K以上の熱伝導率および1010Ω・cm以上の体積抵抗率を有しつつ、アスカーC硬度が2~10である柔軟な熱伝導シートを容易に成形可能となることを発見した。
【0009】
熱伝導シートは、コーター装置等を用いて熱伝導材を塗工し、シート状への成形・硬化をすることにより短時間で製造できる。但し、コーター装置等で塗工するためには、塗工する材料の粘度が一定の範囲内にあることが好ましい。本願出願人は、炭化珪素と可塑剤とに加え、新たにソフトフェライトを配合することで、熱伝導材の粘度を100~200Pa・sの範囲に調整し、2mm以上の厚手の熱伝導シートへの成形が可能になることを発見した。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の熱伝導シート(あるいは熱伝導材)は、従来公知のアクリル系樹脂と、炭化珪素と、ソフトフェライトと、可塑剤とを必須成分とするものである。
【0011】
本発明のアクリル系樹脂は、従来公知のアクリル系単量体(アクリルモノマー)と、アクリル系重合体(アクリルポリマー)とをラジカル(共)重合して得られる。
【0012】
本発明におけるアクリル系樹脂としては、アクリル酸エステルを含むものであれば種々のものを使用することができる。例えば、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタアクリレート)、i-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-アミル(メタ)アクリレート、i-アミル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、i-オクチル(メタ)アクリレート、i-ミリスチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、i-ノニル(メタ)アクリレート、i-デシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、i-ステアリル(メタ)アクリレート等のアクリル系樹脂を使用することができる。なお、これらのアクリル系樹脂は、単独で用いる他、2種類以上併用してもよい。
【0013】
本発明におけるアクリル系樹脂は、アクリル系単量体と、前記アクリル系単量体を重合してなるアクリル系重合体とを公知の重合方法で(共)重合することにより得られたものである。また前記アクリル系樹脂中の前記アクリル系単量体と前記アクリル系重合体とは、それぞれ20~35mass%、65~80mass%の割合で含まれていることが好ましく、より好ましくはそれぞれ25~30mass%、70~75mass%の割合で含まれている。
【0014】
本発明における炭化珪素は、熱伝導シートの熱伝導性を高めるために配合される熱伝導フィラーである。炭化珪素は単体で200W/m・K以上の熱伝導率を有する物質であり、アクリル系樹脂に対する配合量が多いほど、得られる熱伝導シートの熱伝導性は向上する。しかし、炭化珪素は半導体(例えば、体積抵抗率;約108Ω・cm)であり、高い硬度(例えば、ビッカーズ硬度;23.0GPa)を有する物質でもある。そのため、アクリル系樹脂に対する炭化珪素の配合量が多すぎる場合、熱伝導シートの絶縁性や柔軟性について、問題が発生する虞がある。
【0015】
本発明に用いた炭化珪素は、従来公知の研削研磨材用の粉末であり、レーザー回折装置により測定したメディアン径(D50)が60~80μm、より好ましくは65~75μmのものである。炭化珪素のメディアン径が前記範囲内にある場合、本発明の熱伝導シートは、2W/m・K以上の熱伝導性、および一定以上の厚み(例えば、2mm以上)のシート状に成形可能な粘度を有することができる。なお、炭化珪素のメディアン径が前記範囲よりも小さい場合、本発明の熱伝導シート中に高熱伝導率の経路が形成できず、2W/m・K以上の熱伝導性を出せない虞がある。また、炭化珪素のメディアン径が前記範囲よりも大きい場合、熱伝導材の塗工時にコーター装置等で目詰まりを起こす虞や、シートの成形中に発生するボイド(空孔)を除去できない虞がある。
【0016】
ソフトフェライトは磁性を有し、一般的には配合した物に磁性を付与するために用いられることが多い。しかし、本発明におけるソフトフェライトは、熱伝導シートの熱伝導性、絶縁性、柔軟性、および熱伝導シートに成形・硬化する前の熱伝導材の粘度を調整するために少量配合されるフィラーであり、熱伝導シートに磁性を付与する意図で多量に配合されるものとは異なる。
【0017】
本発明に用いたソフトフェライトは、Ni-Zn系の軟磁性フェライト粉末であり、レーザー回折装置により測定したメディアン径(D50)が20~40μm、より好ましくは25~35μmのものである。ソフトフェライトのメディアン径が前記範囲内にある場合、本発明の熱伝導材は、適度な熱伝導性、絶縁性、粘度を有し、シート状への成形を容易に行うことができる。ソフトフェライトのメディアン径が前記範囲よりも小さい場合、本発明の熱伝導材の粘度上昇を十分に行うことができず、シート状に成形できない虞がある。また、ソフトフェライトのメディアン径が前記範囲よりも大きい場合、本発明の熱伝導シート中に導電経路が形成されやすくなり、一定以上の絶縁性(例えば、体積抵抗率;1010Ω・cm以上)を有さなくなる虞がある。
【0018】
本発明に用いた可塑剤は、アクリル系単量体やアクリル系重合体とラジカル重合しない非ラジカル重合性のトリメリット酸アルキルエステルである。可塑剤は、熱伝導材の粘度や、熱伝導シートの成形性および柔軟性(あるいは硬度)に影響するものである。
【0019】
本発明の熱伝導材あるいは熱伝導シートは、重合開始剤や酸化防止剤を含んでいてもよい。重合開始剤は、熱伝導材の反応速度に影響し、熱伝導シートの生産性を向上させることができる。酸化防止剤は、熱伝導材の空気中での酸化を抑制し、熱伝導材の可使時間(ポットライフ)を調整することができる。
【0020】
本発明の熱伝導材あるいは熱伝導シートは、本発明の目的に反しない程度で従来公知の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、多官能充填剤、強化繊維、離型剤、消泡剤、分散剤、有機系難燃剤、金属水酸化物の無機系難燃剤、カップリング剤、顔料、帯電防止剤等が挙げられる。
【0021】
[材料の混練方法]
本発明で使用する材料に対し、従来公知の混練機を用いて熱伝導材を得た。混練機として、ミキサー、ロールミル、バンバリーミキサー、ニーダー、加圧ニーダー、二軸混練機等の連続混練機が挙げられるが、これらの装置は特に限定されるものではない。また、必要に応じて、材料の混練の際には、減圧や脱気をすることも可能である。
【0022】
[熱伝導シートの製造方法]
本発明で使用する各種材料を混練機により混練してできた熱伝導材を、従来公知のコーター装置等でPETフィルム上に所定の厚みになるように塗工し、シート状に成形した。その後、シート状に成形された熱伝導材を、加熱炉により、所定の温度・時間で加熱硬化した物を熱伝導シートとした。
【0023】
[硬化前熱伝導材の粘度]
本発明で使用する各種材料を混練機により混練した後、コーター装置等によりシート状へ成形・硬化する前の状態の熱伝導材に対し、温度25℃の条件下で、ブルックフィールド粘度計(B型回転粘度計)を用いて、ロータNo.7、回転数2回転/分の設定で粘度の測定を行った。本発明の熱伝導シートを成形するためには、成形前の熱伝導材の粘度が100~200Pa・sであることが好ましい。粘度が前記範囲内にある場合、本発明の熱伝導材は、コーター装置等によるシート状への成形およびその形状保持を容易に行うことができる。粘度が前記範囲よりも低い場合、流動性が高く、シートとしての形状保持や、厚みのあるシートを作成することが困難となる。粘度が前記範囲よりも高い場合、流動性が低く、コーター装置等による塗工や、シート内部に混入したボイド(空孔)の除去が困難となる。
【0024】
[シートの硬度(柔軟性)]
成形・硬化された熱伝導シートに対し、温度25℃の条件下で、JIS K7312の規格に準じて、デュロメータ(高分子計器社製;商品名「アスカーゴム硬度計C型」)を用いて硬度(柔軟性)の測定を行った。本発明の熱伝導シートは、アスカーC硬度の値が2以上10以下であることが好ましい。硬度の値が低いほど柔軟性が高く、熱伝導シートを発熱体あるいは放熱体に貼り付けた際に、それらの表面形状に応じて熱伝導シートは変形し、接触面積を大きくする(熱伝導効率を上げる)ことができる。アスカーC硬度が前記範囲内にある場合、本発明の熱伝導シートは、発熱体あるいは放熱体の表面に凹凸形状があったとしても、その形状に応じて変形し、十分な接触面積を確保することができる。アスカーC硬度の値が前記範囲よりも高い場合、発熱体や放熱体の表面形状によっては熱伝導シートとの接触面積を十分に確保できず、想定された熱伝導効率を出すことが困難となる。アスカーC硬度の値が前記範囲よりも低い場合、柔軟性は高いものの、熱伝導シートの耐久性が低く、千切れやすくなる。
【0025】
[シートの熱伝導率(熱伝導性)]
成形・硬化された熱伝導シートに対し、温度25℃の条件下で、迅速熱伝導率計(京都電子工業社製;品番「QTM-500」)を用いて熱伝導率の測定を行った。本発明の熱伝導シートは、熱伝導率が2W/m・K以上であることが好ましい。熱伝導シートにおいて、熱伝導率は高いほど好ましいが、熱伝導率が前記範囲よりも低い場合、発熱体から放熱体への熱伝導を十分に行えず、熱暴走などの不具合が発生してしまう虞がある。
【0026】
[シートの体積抵抗率(絶縁性)]
成形・硬化された熱伝導シートに対し、温度25℃の条件下で、JIS K6911の規格に準じて、抵抗率計(三菱化学社製;品番「MCP-HT450」)を用いて体積抵抗率の測定を行った。本発明の熱伝導シートは、体積抵抗率が1010Ω・cm以上であることが好ましい。体積抵抗率が高いほど絶縁性が高く、熱伝導シートを発熱体と放熱体との間に配置した際に、発熱体あるいは放熱体のどちらか一方から発生した電流を、他方に伝えづらくする(導通を抑制する)ことができる。本発明の熱伝導シートにおいて、体積抵抗率は高いほど好ましいが、体積抵抗率が前記範囲よりも低い場合、例えば、電子・電気装置の外部(放熱体側)で発生した電流が、ICチップなどがある電子・電気装置の内部(発熱体側)に伝わることで、装置の破損や誤作動などの不具合が発生してしまう虞がある。
【実施例0027】
以下、実施例によって本発明をさらに詳述するが、後述の実施例は本発明を制限するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更されたものは、全て本発明の技術範囲に含まれるとされる。また、後述の実施例および比較例の配合と特性評価結果を表1~表6に記載する。表1~6における配合の単位は特に断りがない限り「質量部」である。なお、表1~6における「熱伝導率評価」については、フィラーを一切含まないアクリル系樹脂の熱伝導率(約0.2W/m・K)の10倍もの高さを有し、発熱体からの熱を放熱体側に好適に逃がすことが可能な2W/m・K以上のものを「○」とし、2W/m・K未満のものを「×」とした。また、表1~6における「体積抵抗率評価」については、一般的に帯電(静電)防止といわれる基準の1010Ω・cm以上のものを「○」とし、1010Ω・cm未満のものを「×」とした。
【0028】
[実施例1~9および比較例1~10]
アクリル系単量体とアクリル系重合体とが重合してなるアクリル系樹脂(日本触媒社製;商品名「HD-A218」)100質量部に対し、炭化珪素として研削研磨材用SiC(大平洋ランダム社製;商品名「NG F180」)220~260質量部、ソフトフェライトとして軟磁性フェライト(戸田工業社製;商品名「BSN-714」)0~25質量部、可塑剤としてトリメリット酸アルキルエステル(ADEKA社製;商品名「C-880」)40質量部を加え、混練機を用いて熱伝導材とし、コーター装置等により成形・硬化して熱伝導シートを得た。これらの配合と各評価結果を表1に示した。
【0029】
[実施例10~18および比較例11~18]
アクリル系樹脂100質量部に対し、炭化珪素220~260質量部、ソフトフェライト10~25質量部、可塑剤45質量部を加え、混練機を用いて熱伝導材とし、コーター装置等により成形・硬化して熱伝導シートを得た。これらの配合と各評価結果を表2に示した。
【0030】
[実施例19~27および比較例19~26]
アクリル系樹脂100質量部に対し、炭化珪素220~260質量部、ソフトフェライト10~25質量部、可塑剤50質量部を加え、混練機を用いて熱伝導材とし、コーター装置等により成形・硬化して熱伝導シートを得た。これらの配合と各評価結果を表3に示した。
【0031】
[実施例28~36および比較例27~34]
アクリル系樹脂100質量部に対し、炭化珪素220~260質量部、ソフトフェライト10~25質量部、可塑剤55質量部を加え、混練機を用いて熱伝導材とし、コーター装置等により成形・硬化して熱伝導シートを得た。これらの配合と各評価結果を表4に示した。
【0032】
[比較例35~45]
アクリル系樹脂100質量部に対し、炭化珪素230~260質量部、ソフトフェライト10~25質量部、可塑剤60質量部を加え、混練機を用いて熱伝導材とし、コーター装置等により成形・硬化して熱伝導シートを得た。これらの配合と各評価結果を表5に示した。
【0033】
[比較例46~比較例51]
アクリル系樹脂100質量部に対し。炭化珪素260質量部、ソフトフェライトとの比較としてアルミナ(日鉄ケミカル&マテリアル社製;商品名「AX35-125」、平均粒径35μm)10~30質量部、可塑剤40~60質量部を加え、混練機を用いて熱伝導材を得た。これらの配合と各評価結果を表6に示した。
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
表1の比較例1~3から、本発明の配合において、熱伝導シートを成形するためには、ソフトフェライトの配合量が少なくとも10質量部必要であることがわかった。
【0041】
表1の実施例1と比較例3との比較、表2の実施例10と比較例11との比較、表3の実施例19と比較例19との比較、表4の実施例28と比較例27との比較および表5の比較例36と比較例37との比較から、本発明の配合において、炭化珪素の配合量が260質量部であった場合には、熱伝導シートの体積抵抗率が1010Ω・cm未満となることが確認され、炭化珪素の配合量が260質量部以上の場合には、熱伝導ソートの体積抵抗率が1010Ω・cm未満となることがわかった。
【0042】
表1の実施例3,6,9および比較例9と比較例4~6および比較例10との比較、表2の実施例12,15,18および比較例17と比較例12~14および比較例18との比較、表3の実施例21,24,27および比較例25と比較例20~22および比較例26との比較、表4の実施例30,33,36および比較例33と比較例28~30および比較例34との比較、表5の比較例38,41および比較例44と比較例39,42および比較例45との比較から、本発明の配合において、ソフトフェライトの配合量が25質量部であった場合には、熱伝導シートのアスカーC硬度が10を超えることが確認され、ソフトフェライトの配合量が25質量部以上の場合には、熱伝導シートのアスカーC硬度が10を超えることがわかった。また、前述の比較例1~3から得られた結果と合わせると、本発明の熱伝導シートに配合されるソフトフェライトの配合量は、10~20質量部であると好ましいことがわかった。
【0043】
表1の比較例7~10、表2の比較例15~18、表3の比較例23~26および表4の比較例31~34から、本発明の配合において、炭化珪素の配合量が220質量部であった場合には、熱伝導シートの熱伝導率が2W/m・K未満となることが確認され、炭化珪素の配合量が220質量部以下であった場合には、熱伝導シートの熱伝導率が2W/m・K未満となることがわかった。また、前述の炭化珪素の配合量が260質量部であった場合の結果と合わせると、本発明の熱伝導シートに配合される炭化珪素の配合量は230~250質量部であると好ましいことがわかった。ただし、表5の比較例43~45では、炭化珪素の配合量が230質量部であるにも関わらず、熱伝導シートの熱伝導率が2W/m・K未満となっている。これは、可塑剤が多く配合されている場合、熱伝導シート中のフィラーが偏在(重力に従い沈殿)するようになり、効率の良い熱伝導経路を形成できなくなるためだと考えられる。
【0044】
表6の比較例46~51から、本発明の配合において、ソフトフェライトの代わりとしてアルミナを同じ程度の量を添加した場合には、熱伝導材の粘度が十分ではなく、シート状への成形が困難であることがわかった。
【0045】
以上から、本発明は、アクリル系樹脂100質量部に対し、炭化珪素230~250質量部、ソフトフェライト10~20質量部、可塑剤40~55質量部を配合した熱伝導材から成形された熱伝導シートは、柔軟性、熱伝導性、絶縁性に優れることがわかった。