(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066153
(43)【公開日】2023-05-15
(54)【発明の名称】植物の栽培方法および栽培装置
(51)【国際特許分類】
A01G 31/00 20180101AFI20230508BHJP
【FI】
A01G31/00 601B
A01G31/00 617
【審査請求】未請求
【請求項の数】26
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021176704
(22)【出願日】2021-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】596136316
【氏名又は名称】三菱ケミカルアクア・ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】岡 隆英
【テーマコード(参考)】
2B314
【Fターム(参考)】
2B314NA09
2B314NC11
2B314NC25
2B314NC55
2B314ND02
2B314ND16
2B314ND27
2B314PB02
2B314PC04
(57)【要約】
【課題】植物の水耕栽培における省力化が実現可能な技術を提供する。
【解決手段】育苗槽に収容されており、複数の孔(2)に植物の苗の根鉢(4)を収容している育苗槽中のパネル板(1)を、養液(24)を収容する栽培槽(20)に移し、養液(24)の液面に根鉢(4)が接触しない高さの位置で支持する。そして栽培槽(20)において、苗の根への養液(24)の供給が絶たれた状態で植物の栽培を開始する。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の苗を保持している植物保持容器を、養液を保持する栽培槽に移す工程と、
前記栽培槽に保持されている前記養液の液面に前記植物の苗の根が接触しない高さの位置で、前記植物保持容器を前記栽培槽内に支持する工程と、を含み、
前記苗の根への前記養液の供給が絶たれた状態で前記栽培槽における前記植物の栽培を開始する、植物の栽培方法。
【請求項2】
前記支持する工程では、前記植物の苗から根が伸びて前記栽培槽中の前記養液に届くまで、前記栽培槽中の前記養液の液面から前記植物保持容器の下面までの距離を一定の距離に保つように前記植物保持容器を前記栽培槽内に支持する、請求項1に記載の植物の栽培方法。
【請求項3】
前記植物の苗を前記植物保持容器で栽培する育苗工程を、前記栽培槽に移す工程の前にさらに含む、請求項1または2に記載の植物の栽培方法。
【請求項4】
前記育苗工程において、前記植物保持容器が育苗槽に収容されている、請求項3に記載の植物の栽培方法。
【請求項5】
前記植物保持容器がトレイであり、底板に貫通孔を有し、前記底板の前記貫通孔の合計面積の、前記トレイの底板の面積に対する割合が8%以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の植物の栽培方法。
【請求項6】
前記貫通孔の径が2.5mm以上6.0mm以下である、請求項5に記載の植物の栽培方法。
【請求項7】
前記植物保持容器がパネル板であり、
前記パネル板が、複数の孔に植物の苗の根鉢を収容しているとともに育苗槽に収容されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の植物の栽培方法。
【請求項8】
前記パネル板の下面における前記孔の寸法は、前記パネル板の上面における前記孔の寸法より小さい、請求項7に記載の植物の栽培方法。
【請求項9】
前記根鉢の上面が前記孔における前記パネル板の上面よりも下に位置している、請求項7または8に記載の植物の栽培方法。
【請求項10】
前記パネル板には、複数の板が厚さ方向において分離可能に重なっている積層パネル板を用いる、請求項7~9のいずれか一項に記載の植物の栽培方法。
【請求項11】
前記積層パネル板は、前記厚さ方向に直交する方向における前記複数の板のそれぞれの位置を規定するための位置決め機構をさらに有する、請求項10に記載の植物の栽培方法。
【請求項12】
前記根鉢に養液を供給する工程を含まない、請求項7~11のいずれか一項に記載の植物の栽培方法。
【請求項13】
前記パネル板のそれぞれの前記孔に収容されている培地に前記育苗槽が収容する育苗養液を供給しながら前記苗を育てて前記根鉢を生成する工程をさらに含む、請求項7~12のいずれか一項に記載の植物の栽培方法。
【請求項14】
前記生成する工程において、前記育苗養液を前記培地の下部から前記培地に供給する、請求項13に記載の植物の栽培方法。
【請求項15】
前記培地の底面の位置が前記パネル板の最下面の位置に揃えられている、請求項13または14に記載の植物の栽培方法。
【請求項16】
植物の苗を栽培するための植物の栽培装置であって、
養液を保持可能な栽培槽と、
前記植物の苗を保持する植物保持容器と、
前記植物の苗の根が前記栽培槽に保持されている前記養液の液面に接触しない高さの位置において、前記苗の根への前記養液の供給が絶たれた状態で前記植物保持容器を前記栽培槽内に支持可能な支持構造と、
を有する、植物の栽培装置。
【請求項17】
前記植物保持容器が、底板に貫通孔を有するトレイであり、前記底板の前記貫通孔の合計面積の、前記トレイの底板の面積に対する割合が8%以上である、請求項16に記載の植物の栽培装置。
【請求項18】
前記貫通孔の径が2.5mm以上6.0mm以下である、請求項17に記載の植物の栽培装置。
【請求項19】
前記植物保持容器が、植物の苗の根鉢を収容するための孔を複数有するパネル板であり、
前記パネル板の前記孔のそれぞれに収容されている前記根鉢が前記栽培槽に収容されている前記養液の液面に接触しない高さの位置において、前記苗の根への前記養液の供給が絶たれた状態で前記パネル板を前記栽培槽内に支持可能な支持構造と、
を有する、請求項16に記載の植物の栽培装置。
【請求項20】
前記パネル板の下面における前記孔の寸法は、前記パネル板の上面における前記孔の寸法より小さい、請求項19に記載の植物の栽培装置。
【請求項21】
前記孔は、前記根鉢の上面が前記孔の上端よりも下に位置するように前記根鉢を収容可能である、請求項19または20に記載の植物の栽培装置。
【請求項22】
前記パネル板は、複数の板が厚さ方向において分離可能に重なっている積層パネル板である、請求項19~21のいずれか一項に記載の植物の栽培装置。
【請求項23】
前記パネル板は、前記複数の板のそれぞれの平面方向における位置を決めるための位置決め機構をさらに有する、請求項22に記載の植物の栽培装置。
【請求項24】
前記栽培槽内の前記養液と前記根鉢とを連結して前記養液を前記根鉢に吸い上げる吸液構造を有さない、請求項19~23のいずれか一項に記載の植物の栽培装置。
【請求項25】
前記支持構造は、前記栽培槽の内壁面に形成されている、前記パネル板の縁部に当接する段差部である、請求項19~24のいずれか一項に記載の植物の栽培装置。
【請求項26】
前記パネル板は、植物の苗を育苗するための育苗槽に設置可能であり、
前記パネル板は、前記育苗槽中の育苗養液の液面が前記パネル板の前記孔に収容されている培地の下部に接するように前記育苗槽内に設置可能に構成されている、請求項19~25のいずれか一項に記載の植物の栽培装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の栽培方法および栽培装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、葉菜類などの植物の栽培方法として、種々の水耕栽培方法が知られている。このような水耕栽培方法の一例には、
図20に示されるように、ガイド穴61をもつパネル板62を栽培槽63内に支持し、パネル板62のガイド孔61に植物の根鉢64を栽培槽63の底面に接触するまで押し込み、栽培槽63に供給された養液65を根鉢64に接触させることによって植物を栽培する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、水耕栽培方法の他の例には、
図21に示されるように、植物の苗を保有する培地パレット71を栽培容器72に設置し、栽培容器72内の養液73の液面と培地パレット71の下面との間隔を調整して、苗の根が養液73に接触する程度を調節する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
また、水耕栽培方法のさらなる他の例には、
図22に示されるように、植物が植えられている層状の培養土81を栽培槽82における養液83の液面より上の位置に支持し、培養土81と養液83とを毛管布84で接続して栽培槽82内の養液83を培養土81に吸い上げる方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6-141714号公報
【特許文献2】特開2016-178887号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】岡部勝美著,「はじめてのボックス水耕栽培」,株式会社 講談社,2018年4月25日,p.10-11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
水耕栽培方法で多数の苗から作物を栽培する際に、育苗環境にある苗を水耕栽培方法の装置へ個々に移植する場合、手間がかかり、省力化が求められている。このように、従来の水耕栽培方法では、栽培の省力化の観点からさらなる検討が求められている。
【0008】
本発明の一態様は、植物の水耕栽培における省力化を行う装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る植物の栽培方法は、植物の苗を保持している植物保持容器を、養液を保持する栽培槽に移す工程と、前記栽培槽に保持されている前記養液の液面に前記植物の苗の根が接触しない高さの位置で、前記植物保持容器を前記栽培槽内に支持する工程と、を含み、前記苗の根への前記養液の供給が絶たれた状態で前記栽培槽における前記植物の栽培を開始する。
【0010】
また、前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る植物の栽培装置は、植物の苗を栽培するための植物の栽培装置であって、養液を保持可能な栽培槽と、前記植物の苗を保持する植物保持容器と、前記植物の苗の根が前記栽培槽に保持されている前記養液の液面に接触しない高さの位置において、前記苗の根への前記養液の供給が絶たれた状態で前記植物保持容器を前記栽培槽内に支持可能な支持構造と、を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、植物の水耕栽培における省力化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第一の実施形態で用いられる植物栽培容器の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図2】本発明の第二の実施形態で用いられるパネル板の一例の断面形状を模式的に示す図である。
【
図3】
図2に示されるパネル板の一例を平面視した様子を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態における植物の苗と根鉢の一例を模式的に示す図である。
【
図5】
図2に示されるパネル板の孔に培地が収容されている状態を模式的に示す図である。
【
図6】本発明の実施形態で用いられる育苗槽の一例の断面形状を模式的に示す図である。
【
図7】
図6に示される育苗槽と
図6に示されるパネル板とを有する育苗装置における育苗当初の様子を模式的に示す図である。
【
図8】
図7に示される育苗装置において、根鉢が形成されるまで植物の苗が成長した様子を模式的に示す図である。
【
図9】本発明の実施形態で用いられる栽培槽の一例の断面形状を模式的に示す図である。
【
図10】
図9に示される栽培槽と
図9に示される苗および根鉢を有するパネル板とを有する栽培装置における栽培当初の様子を模式的に示す図である。
【
図11】
図10に示される栽培装置において、養液に根が届くまで植物が成長した様子を模式的に示す図である。
【
図12】
図11に示される栽培装置において成長した植物の一例を模式的に示す図である。
【
図13】本発明の第三の実施形態で用いられるパネル板の一例の断面形状を模式的に示す図である。
【
図14】
図13に示されるパネル板において、根鉢が形成されるまで植物の苗が成長した様子を模式的に示す図である。
【
図15】
図14に示されるパネル板を本実施形態における栽培槽に設置した様子を模式的に示す図である。
【
図16】本発明の第四の実施形態のパネル板における培地の他の配置例を模式的に示す図である。
【
図17】本発明の実施例1における栽培から5日後のホウレンソウの根の写真を示す図である。
【
図18】本発明の実施例2における栽培から6日後のホウレンソウの根の写真を示す図である。
【
図19】本発明の比較例1における栽培から7日後のホウレンソウの根の写真を示す図である。
【
図20】従来の第一の例における栽培装置による植物の栽培の様子を模式的に示す図である。
【
図21】従来の第二の例における栽培装置による植物の栽培の様子を模式的に示す図である。
【
図22】従来の第三の例における栽培装置による植物の栽培の様子を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
【0014】
〔第一の実施形態〕
[栽培方法]
本発明の第一の実施形態に係る植物の栽培方法では、苗を保持した植物保持容器を、養液を保持する栽培槽に移し、前記植物保持容器を前記栽培槽内に支持して植物を栽培する。本発明の実施形態では、養液を保持する栽培槽に、植物の苗を保持している植物保持容器を移す。
【0015】
<植物保持容器>
植物保持容器とは、植物の苗、および当該植物の苗が成長した植物を継続して保持する容器である。植物保持容器には、本実施形態の効果が得られる範囲において、種々の容器または部材を適用可能である。本実施形態では当該植物保持容器の一例としてトレイを後述する。植物保持容器は、後述するが、育苗にも適用可能であることが、水耕栽培における作業の省力化の観点から好ましい。
【0016】
<支持工程>
本発明の実施形態では、栽培槽に保持されている養液の液面に植物の苗の根が接触しない高さの位置で、植物保持容器を栽培槽内に支持する。このように、本発明の実施形態における植物の栽培方法では、育苗から栽培へ切り替わった当初に、植物に養液が供給されない期間が設けられる。支持工程は、このような期間が設定可能な範囲で、植物保持容器を栽培槽内で支持する方法で実施可能であり、例えば植物保持容器を一定の位置に支持してもよいし、養液の水面の位置に応じて変位するように支持してもよい。
【0017】
支持工程では、植物保持容器を栽培槽における一定の位置に支持することが、栽培作業の省力化の観点から好ましい。たとえば、支持工程では、植物の苗から根が伸びて栽培槽中の養液に届くまで、栽培槽中の養液の液面から植物保持容器板の下面までの距離を一定の距離に保つように植物保持容器を栽培槽内に支持してよい。栽培槽内において植物保持容器を支持する位置は、後に詳述する本実施形態の効果が得られる範囲において、栽培する植物に応じて適宜に設定してよい。
【0018】
<育苗工程>
本発明の実施形態では、好ましい他の工程として、育苗工程が挙げられる。育苗工程は、前記植物の苗を植物保持容器で栽培する工程であり、植物保持容器を栽培槽に移す工程の前に行われる。育苗工程は、植物保持容器において苗を育てる工程であれば限定されないが、その後の栽培と同様に、植物保持容器が槽内に支持されながら育苗が行われることが、作業の効率化および省力化の観点から好ましい。たとえば、育苗工程では、植物保持容器が育苗槽に収容されていてよい。育苗槽については後述する。
【0019】
<栽培装置>
本実施形態の栽培方法は、植物の苗を栽培するための以下に示す栽培装置によって好適に実施され得る。当該栽培装置は、養液を保持可能な栽培槽と、植物の苗を保持する植物保持容器と、植物の苗の根が栽培槽に保持されている養液の液面に接触しない高さの位置において、苗の根への養液の供給が絶たれた状態で植物保持容器を栽培槽内に支持可能な支持構造と、を有する。栽培槽および支持構造は、前述した栽培方法に適用可能な形態であれば限定されず、種々の装置、器具および部材を適用することが可能である。当該栽培装置は、公知の農業資材を適用して構成してもよい。
【0020】
なお、本実施形態に適用可能な植物の例には、コマツナ・チンゲン菜・ミズナ・クレソン・ブロッコリー・ハクサイ・ワサビ菜などのアブラナ科、レタス・春菊などのキク科、ネギ・ニラなどのユリ科、ホウレンソウ・フダンソウなどのアカザ科、バジル・えごま・シソなどのシソ科、ホワイトセルリー・パクチー・ニンジン・パセリ・セロリなどのセリ科、空芯菜などのヒルガオ科の葉菜、イチゴなどのバラ科、トマトなどのナス科の果菜が含まれる。
【0021】
<トレイ>
本発明の第1の実施形態では、植物保持容器としてトレイを用いる。
図1は、本発明の第一の実施形態で用いられるトレイの一例を斜めから見た状態を模式的に示す図である。
【0022】
図1に示されるトレイは、平面形状の底面部と、適当な、例えば3~4cm程度の高さの側面部を有する。製造上容易であること、空間充填密度を高めやすいことから、当該トレイの底面は矩形であることが好ましい。当該トレイは、その底板に複数の貫通孔を有する。トレイの材質は、限定されないが、貫通孔を容易に形成可能、および十分な強度を有するなどの観点から、例えばポリプロピレン、ポリエチレンなどである。トレイとしては、市販の育苗トレイを用いることができる。
【0023】
トレイの底板に形成される貫通孔は、トレイにおいて等間隔に並んで形成されている(
図1参照)。貫通孔の開口形状は、円でもよく、矩形でもよく、限定されない。本実施形態におけるトレイでの貫通孔の開口形状はいずれも円形である。本実施形態のトレイの貫通孔の径は、一例として約4mmである。貫通孔の径は、通水性を良くする観点から、2.5mm以上であることが好ましく、3.0mm以上がより好ましく、3.5mm以上がさらに好ましい。また、貫通孔の径は、育苗のための培地を保持可能な大きさである観点から、6.0mm以下が好ましく、5.5mm以下がより好ましく、5.0mm以下がさらに好ましく、4.5mm以下が特に好ましい。貫通孔の径は、貫通孔の開口における最大長さとする。貫通孔の最大長さの最小長さに対する比は、対称性が高く、養液の表面張力による形状による影響を最小限にできることから、0.8以上が好ましく、0.85以上がより好ましく、0.90以上がさらに好ましい。当該比は、同様の観点から、1.2以下が好ましく、1.15以下がより好ましく、1.10以下がさらに好ましい。
【0024】
本実施形態のトレイの貫通孔の面積は、培地を保持と透水性の観点から、0.05cm2/個以上であることが好ましく、0.08cm2/個以上であることがより好ましく、0.10cm2/個以上であることがさらに好ましい。貫通孔の面積は、上記の観点から、0.25cm2/個以下であることが好ましく、0.20cm2/個以下であることがより好ましく、0.15cm2/個以下であることがさらに好ましい。
【0025】
本実施形態のトレイの開口比は、貫通孔の開口面積の合計の、トレイの底板の面積に対する割合である。当該開口比は、透水性の観点で、5%以上が好ましい。8%以上がより好ましく、10%以上がさらに好ましい。また、当該開口比は、培地を保持する観点で、20%以下が好ましい。18%以下がより好ましく、15%以下がさらに好ましい。
【0026】
本実施形態におけるトレイが有する貫通孔の数は、トレイの大きさ、貫通孔の大きさ、および栽培する植物の種類などに応じて適宜決めることが可能であり、例えば100cm2あたり50個~200個の範囲から適宜に決めることが可能である。市販品で入手容易であることから、80個~150個であることがより好ましい。
【0027】
トレイの底面部の厚さは、トレイの大きさ、貫通孔の大きさ、および栽培する植物の種類などに応じて適宜決めることが可能であるが、植物に対するストレスと、トレイの形状保持性の観点から、0.5mm~5.0mmの範囲から適宜に決めることが可能である。市販品で入手容易であることから、1.5mm~3.0mmであることがより好ましい。
【0028】
[本実施形態のまとめ]
本実施形態における植物の栽培方法は、植物の苗を保持している植物保持容器を、養液を保持する栽培槽に移す工程と、栽培槽に保持されている養液の液面に植物の苗の根が接触しない高さの位置で、植物保持容器を栽培槽内に支持する工程と、を含み、苗の根への養液の供給が絶たれた状態で栽培槽における植物の栽培を開始する。
【0029】
また、本実施形態における植物の栽培装置は、植物の苗を栽培するための植物の栽培装置であって、養液を保持可能な栽培槽と、植物の苗を保持する植物保持容器と、植物の苗の根が栽培槽に保持されている養液の液面に接触しない高さの位置において、苗の根への養液の供給が絶たれた状態で植物保持容器を栽培槽内に支持可能な支持構造とを有する。
【0030】
本実施形態によれば、作物の栽培を、植物保持容器単位で行うことが可能であるため植物の水耕栽培における作業の省力化が実現される。
【0031】
本実施形態において、支持する工程では、植物の苗から根が伸びて栽培槽中の養液に届くまで、栽培槽中の養液の液面から植物保持容器板の下面までの距離を一定の距離に保つように植物保持容器を栽培槽内に支持してもよい。この構成は、養液の液面に対する所期の位置関係で植物体を栽培槽内に簡易に保持する観点からより一層効果的である。
【0032】
また、本実施形態では、当該栽培方法は、植物の苗を植物保持容器で栽培する育苗工程を、栽培槽に移す工程の前にさらに含んでいてもよい。この場合、育苗工程において、植物保持容器が育苗槽に収容されていてもよい。この構成は、育苗から栽培まで、植物保持容器に一括して植物体を形成する観点からより一層効果的である。
【0033】
また、本実施形態において、植物保持容器がトレイであってよく、底板に貫通孔を有し、底板の貫通孔の合計面積の、トレイの底板の面積に対する割合が8%以上であってよい。この構成は、トレイ内外での透水性を十分に確保する観点からより一層効果的である。
【0034】
また、本実施形態において、トレイの貫通孔の径は2.5mm以上6.0mm以下であってよい。この構成は、トレイの培地保持性とトレイ内外での透水性とを十分に確保する観点からより一層効果的である。
【0035】
〔第二の実施形態〕
[栽培方法]
本発明の第二の実施形態に係る植物の栽培方法では、植物保持容器としてパネル板を用いる。本実施形態で用いられるパネル板を
図2および
図3に示す。
【0036】
<パネル板>
図2は、本発明の第二の実施形態で用いられるパネル板の一例の断面形状を模式的に示す図である。
図3は、
図2に示されるパネル板の一例を平面視した様子を示す図である。
【0037】
パネル板1は、平面形状と適当な、例えば3~4cm程度の厚さを有する。製造上容易であることから、パネル板1は矩形であることが好ましい。パネル板1は、複数の孔2を有する。パネル板1の材質は、限定されないが、保温性、孔2を容易に形成可能、および十分な強度などの観点から、例えば発泡スチロールである。
【0038】
孔2は、育苗のための培地を収容可能な大きさを有していればよい。孔2は、
図3に示されるように、パネル板1において等間隔に並んで形成されている。パネル板1が有する孔2の数は、パネル板1の大きさ、孔2の大きさおよび数、栽培する植物の種類などに応じて適宜決めることが可能であり、例えば64~288の範囲から適宜に決めることが可能である。
【0039】
孔2の形状は、培地あるいは根鉢を収容可能な範囲において限定されない。本実施形態におけるパネル板1での孔2の開口形状はいずれも円形である。孔2は、円柱形上でもよいが、
図2に示されるように、孔2の径がパネル板1の上面から下面にかけて漸次減少する形状に形成されていることが、培地を容易に保持できる観点で好ましい。このように、パネル板1の下面における孔2の寸法は、パネル板1の上面における孔2の寸法より小さくなっている。なお、孔2の寸法は、孔2の大きさを表す代表値であればよく、円の場合は直径でとし、その他の形状の場合は最大径とする。
【0040】
<根鉢>
本実施形態の栽培方法において、パネル板1が有する複数の孔2には、植物の苗の根鉢4が収容されている。根鉢4とは、培地5で生育させた苗の根6が培地5に十分に絡み合った、培地5と根6との一体化物である。
図4は、本発明の一実施形態における植物の苗と根鉢の一例を模式的に示す図である。
【0041】
根鉢4における培地5は、例えばロックウールである。培地5には、ロックウール、ポリウレタンまたは土を用いることができる。ポリウレタンの塊を培地5とする根鉢4を「ウレタン苗」とすると、本実施形態において、根鉢は、
図4に示されるような根鉢およびウレタン苗から選ばれる一以上の物であればよい。根鉢4では、
図4に示されるように、苗の根6が培地5を巻き込んで一体化しており、また根鉢4の下方により集中して存在しやすい。
【0042】
<育苗>
パネル板1における苗は、パネル板1を利用可能な育苗槽において生育することができる。苗とは、播種後発芽し、本葉の第1~3葉が完全展開するまでの植物とする。以下、苗を育てる工程である育苗の一例を説明する。
図5は、
図2に示されるパネル板の孔に培地が収容されている状態を模式的に示す図である。
図6は、本発明の第二の実施形態で用いられる育苗槽の一例の断面形状を模式的に示す図である。
図7は、
図6に示される育苗槽と
図5に示されるパネル板とを有する育苗装置における育苗当初の様子を模式的に示す図である。
図8は、
図7に示される育苗装置において、根鉢が形成されるまで植物の苗が成長した様子を模式的に示す図である。
【0043】
図5に示されるように、パネル板1の孔2に培地5が充填される。培地5は、孔2に直接充填されてもよいし、不織布などの通液性を有するシートを介して孔2に充填されてもよい。孔2は、その径が下方に漸次減少する形状を有することから、培地5が孔2の下側でより密に充填される。このため、植物の栽培中における孔2からの培地5の漏出がより抑制される。培地としてロックウールを用いる場合は、ロックウールの繊維が絡み合うことで、孔2から培地5の漏出が抑制される。なお、上記のシートを用いる場合では、水で崩壊しやすい培地5を用いる場合に、育苗中の培地の崩壊を抑制する観点から好ましい。培地5は、例えば、パネル板1が平らな場所に置かれた状態でパネル板1の上方から孔2に押し込められて充填される。培地5の底面の位置は、パネル板1の下面の位置に揃えられている。後述する、複数の板が厚さ方向において分離可能に重なっている積層パネル板30を用いる場合は、積層したパネル板のうち、最も下のパネル板の下面、すなわち最下面の位置に、培地5の底面の位置が揃えられている。パネル板が1枚の場合、および複数枚を積層した場合の両者において、最も下にある面を最下面と称する。
【0044】
次いで、各孔2に充填されている培地5のそれぞれに播種する。播種された種の位置および数は、植物により異なるが、ホウレンソウでは3粒が好ましく、パクチーでは2粒が好ましくネギでは3粒が好ましい。
【0045】
次いで、パネル板1を育苗槽10に設置する。育苗槽10は、
図6に示されるように、底部11および側壁12を有する容器である。側壁12の下部には段差部13が形成されている。そして、育苗槽10は、底部11に育苗養液を収容可能に構成されている。育苗槽10の開口形状は、パネル板1の平面形状とほぼ同じであり、パネル板1の平面形状に比べてやや大きい。育苗槽10の底部11における段差部13よりも内側の部分の平面形状は、パネル板1の平面形状よりもやや小さい。したがって、パネル板1は、育苗槽10内において、パネル板1の周縁部が段差部13に当接し、支持される。
【0046】
図7に示されるように、育苗槽10内には、段差部13の頂面の位置まで育苗養液14が供給される。育苗養液14とは、発芽および苗の生育のための養液であり、水を主成分とする。育苗養液14は、栽培する植物の種類に応じて選択することができ、水耕栽培において公知の養液から適宜に選択することが可能である。
【0047】
パネル板1の孔2に充填されている培地5は、育苗養液14と接触し、育苗養液14を吸い上げる。このように、パネル板1は、育苗槽10中の育苗養液14がパネル板1の孔2に収容されている培地5の下部に接するように育苗槽10内に設置可能に構成されている。そして、育苗では、育苗養液14は、培地5の下部から培地5に供給される。
【0048】
培地5に蒔かれた種は、培地5によって吸い上げられた育苗養液14が常時十分に存在する環境にあり、このような環境において植物は発芽し、苗が成長する。培地5がその下端から育苗養液14を吸い上げることは、根6が培地5の下側に向って伸びることで培地5と一体化しやすく、培地5の下側に根6がより密集する根鉢4を形成するのに好適である。根鉢4において根6が下側により密集していることは、根鉢4からの培地5の崩落を抑制する観点からも好ましい。
【0049】
このようにして、
図8に示されるように、前述の根鉢4を形成するまで育苗槽10において苗が育成される。本実施形態では、上記のように、パネル板1のそれぞれの孔2に収容されている培地5に育苗槽10が収容する育苗養液14を供給しながら苗を育てて根鉢4を形成している。上記の育苗により、パネル板1には、後段の栽培に供される状態まで苗が育成される。よって、上記の育苗から後段の栽培まで同じパネル板1で一貫して植物の育成が可能である。
【0050】
<栽培>
植物の苗をさらに成長させるために、育苗槽10に収容されているパネル板1は、育苗槽10から養液を収容する栽培槽20に移される。
図9は、本発明の第二の実施形態で用いられる栽培槽の一例の断面形状を模式的に示す図である。
図9に示されるように、栽培槽20は、底部21および側壁22を有する容器であり、栽培用の養液を収容可能である。側壁22の下部には段差部23が形成されている。栽培槽20は、段差部23の頂面の位置がより高い以外は、育苗槽10と同様に構成されている。
【0051】
栽培槽20に収容されたパネル板1に保持されている根鉢4の下端は、鉛直方向において、パネル板1の下面と実質的に同じ位置、すなわち略面一の位置関係にある。
【0052】
図10は、
図9に示される栽培槽20と
図9に示される苗および根鉢4を有するパネル板1とを有する栽培装置における栽培当初の様子を模式的に示す図である。栽培装置は、
図10に示されるような栽培槽20と、必要に応じたその他の構成、例えば栽培槽20に後述の養液24を供給する装置(不図示)、とを有する。
【0053】
図10に示されるように、栽培槽20には、液面が段差部23の頂面よりも低い位置となるように養液24が供給される。パネル板1は、栽培槽20内において、栽培槽20に収容されている養液24の液面に根鉢4が接触しない高さの位置で支持されている。本実施形態では、このようにパネル板1を栽培槽20内で支持する構造は、栽培槽20の内壁面に形成されてパネル板1の縁部に当接する段差部23である。
【0054】
栽培槽20におけるパネル板1の下面から養液24の液面までの距離は、植物の種類に応じて、あるいは植物の根が根鉢から養液24に到達するまでの根の成長期間に応じて、適宜に決められる。栽培槽20にパネル板1が収容された状態では、植物への養液24の供給が絶たれている。植物は、一般に、水の供給が絶たれると、水を求めて下方に根を伸ばす性質を有する。したがって、根鉢4における植物の根は、下方に延出する。そして、例えば2~3日後には、植物の根は、根鉢4から養液24の液面に到達し、養液24を吸い上げる。
【0055】
このように、本実施形態では、前述の栽培装置は、栽培槽20と、栽培槽20内において支持されているパネル板1と、パネル板1の孔2のそれぞれに収容されている根鉢4が栽培槽20に収容されている養液24の液面に接触しない高さの位置において、苗の根6への養液24の供給が絶たれた状態でパネル板1を栽培槽20内に支持可能な支持構造である段差部23と、を有している。
【0056】
こうして、本実施形態では、苗の根6への養液24の供給が絶たれた状態で栽培槽20における植物の栽培を開始している。そして、栽培槽20では、根鉢4の根6が伸びて栽培槽20中の養液24に届くまで、栽培槽20中の養液24の液面からパネル板1の下面までの距離を一定の距離が保たれるように、パネル板1が栽培槽20内に支持される。
【0057】
本実施形態では、栽培槽20内の養液24と根鉢4とを連結して養液24を根鉢4に吸い上げる吸液構造を含んでいない。よって、根鉢4にある植物の根が養液24に到達するまでの期間では、栽培槽20内に支持されているパネル板1が保持する根鉢4には、養液が供給されない。このように、本実施形態では、パネル板1に保持される根鉢4は、根が養液24に到達するまでの間、栽培槽20の水環境(養液24)から独立した、水が供給されない環境に置かれる。このため、栽培槽20に移された植物に養液24を供給し得るのは植物の根のみである。よって、根6を養液24に向けて延出させている間、植物は、一時的に萎れることがあるが、養液24の供給により再び水分を十分に獲得し、そしてさらに成長していく。
【0058】
ここで、栽培槽20において成長する植物の様子について、より詳しく説明する。
図11は、
図10に示される栽培装置において、養液に根が届くまで植物が成長した様子を模式的に示す図である。
図12は、
図11に示される栽培装置において成長した植物の一例を模式的に示す図である。
【0059】
図11に示されるように、養液24の液面と根鉢4の下端との間に気相が介在する。このため、
図11および
図12に示されるように、根鉢4から延出する根6には湿気中根7が多く生える。植物は、栽培槽20へパネル板1を移したこと(養液24の供給が絶たれたこと)によるストレスを受け、このようなストレスの下、養分を求めて成長する。このため、
図11に示されるように、植物は、根鉢4から養液24に届くほどに延出した根6を獲得する。そして、根6における、養液24の液面から根鉢4の下端までの空間に位置する部分の表面には、湿気中根7が繁茂し、当該表面を覆う。
【0060】
前述したように培地5の下端の位置は、パネル板1の最下面の位置に揃えられていることから、根鉢4の下端から養液24の液面までの距離は、根鉢4間で実質的に均一である。よって、根鉢4における根6が養液24に到達する期間も、根鉢4間で実質的に均一となる。また、根鉢4における湿気中根7の生成状態も、根鉢4間で実質的に同等となる。
【0061】
よって、本実施形態では、栽培槽20において、植物は、養液24の十分な供給を受ける場合に比べて、根6がより一層発達する。よって、植物は、このような根6を介してより一層十分に養液24を吸収することが可能となり、また湿気中根7によってより一層十分に酸素を吸収することが可能となる。よって、植物は、一律により強く成長する。
【0062】
[本実施形態のまとめ]
前述の第一の実施形態と同様に、本実施形態では、植物の栽培において、植物が根鉢4を形成した時点で植物への養液24の供給を一時的に絶つ。このため、植物に養液24を供給し続けて栽培する場合に比べて、湿気中根が発達した状態の植物を栽培することが可能となる。
【0063】
また、本実施形態では、パネル板1を育苗槽10から栽培槽20に移し替えることにより、栽培装置への苗の移し替えが完了し、上記のような養液24の供給を一時的に絶つ植物の栽培が実施される。よってパネル板1の各孔2から、別のパネル板に根鉢4を移し替えて定植することで植物の栽培を続ける場合に比べて、植物の水耕栽培における作業の省力化が実現される。
【0064】
以上の説明から明らかなように、本実施形態の植物の栽培方法は、複数の孔(2)に植物の苗の根鉢(4)を収容しているとともに育苗槽(10)に収容されているパネル板(1)を、育苗槽から養液(24)を収容する栽培槽(20)に移す工程と、栽培槽に収容されている養液の液面に根鉢が接触しない高さの位置でパネル板を栽培槽内に支持する工程と、を含む。そして、苗の根(6)への養液の供給が絶たれた状態で栽培槽における植物の栽培を開始する。
【0065】
また、本実施形態の植物の栽培装置は、育苗槽で育苗された植物の苗をさらに栽培するための植物の栽培装置であり、養液を収容可能な栽培槽と、植物の苗の根鉢を収容可能な複数の孔を有し、栽培槽内において支持されているパネル板と、パネル板の孔のそれぞれに収容されている根鉢が栽培槽に収容されている養液の液面に接触しない高さの位置において、苗の根への養液の供給が絶たれた状態でパネル板を栽培槽内に支持可能な支持構造と、を有する。
【0066】
したがって、本実施形態によれば、植物の水耕栽培における省力化を実現することができる。
【0067】
本実施形態において、パネル板の下面における孔の寸法は、パネル板の上面における孔の寸法より小さくてもよい。この構成は、培地(5)の孔からの漏出を抑制する観点からより一層効果的である。
【0068】
また、本実施形態において、栽培槽内に支持されているパネル板が保持する根鉢には、吸液構造によって養液を供給しなくてもよい。この構成は、植物へ適度なストレスを与えて湿気中根を発生させることで、湿気空間中の水分あるいは酸素の吸収が容易になる観点からより一層効果的である。
【0069】
また、本実施形態では、栽培槽内においてパネル板を支持する支持構造は、栽培槽の内壁面に形成されている、パネル板の縁部に当接する段差部であってよい。この構成は、養液の液面に対する所期の位置関係で根鉢を栽培槽内に簡易に保持する観点からより一層効果的である。
【0070】
また、本実施形態において、パネル板は、育苗槽中の育苗養液の液面がパネル板の孔に収容されている培地の下部に接するように育苗槽内に設置可能に構成されていてもよい。この構成は、パネル板に一括して根鉢を形成する観点からより一層効果的である。
【0071】
生成する工程において、例えば、育苗養液を培地の下部から培地に供給する方法を用いてもよい。この構成は、根が培地の下方により密集する根鉢を形成する観点からより一層効果的である。
【0072】
また、本実施形態において、培地の底面の位置は、パネル板の最下面の位置に揃えられていてもよい。この構成は、生育状態が揃うように植物を栽培する観点からより一層効果的である。
【0073】
〔第三の実施形態〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
図13は、本発明の第三の実施形態で用いられるパネル板の一例の断面形状を模式的に示す図である。
【0074】
本実施形態では、パネル板には、複数の板が厚さ方向において分離可能に重なっている積層パネル板30を用いる。使用される積層パネル板30は、
図13に示されるように、上板31と下板32との二枚の板で構成されている。上板31および下板32は、それぞれ上板孔33および下板孔34をそれぞれ有する。上板31と下板32とが重なることにより上板孔33と下板孔34とが合体し、孔35を形成する。孔35は、第二の実施形態における孔2と同形の孔である。
【0075】
積層パネル板30における一部の孔35には、ピン36が刺し込まれている。ピン36は、上板31と下板32を連結できればどのような形状であってもよいが、一例としては孔35とほぼ同じ形をしており、積層パネル板30と同様に、発砲スチロール製であってもよい。ピン36が一部の孔35に刺し込まれることにより、積層パネル板30における上板31と下板32との水平方向の位置のずれが防止される。このように、積層パネル板30は、上板31と下板32という複数の板のそれぞれの平面方向における位置を決めるための位置決め機構としてのピン36をさらに有している。
【0076】
図14は、
図13に示されるパネル板において、根鉢が形成されるまで植物の苗が成長した様子を模式的に示す図である。
図14に示されるように、積層パネル板30の孔35には、第二の実施形態と同様に、孔35に充填された培地5で苗が育てられ、根鉢4が形成される。
【0077】
図15は、
図14に示されるパネル板を本実施形態における栽培槽に設置した様子を模式的に示す図である。
図15に示されるように、栽培槽40は、鉛直方向における段差部43の頂面の位置が下板32の厚さだけより高い位置になっている以外は、前述した第二の実施形態の栽培槽20と同様に構成されている。
【0078】
本実施形態では、栽培槽40にパネル板を設置する際に、積層パネル板30の下板32を外し、
図15に示されるように、上板31に根鉢4が保持された状態で上板31のみを栽培槽40に設置する。なお、積層パネル板39の下板32を外す際に、ピン36を孔35から取り外してもよい。
【0079】
図15に示されるように、根鉢4は、下半分が気相に露出した状態で栽培槽40に設置される。根鉢4は、第二の実施形態と同様に養液に接触していないことから、苗への養液が絶たれた状態となる。本実施形態では、気相に露出している根鉢4の下部以外に、根鉢4の側面、気相に露出した部分からも発根する。よって、第二の実施形態に比べて、より多くの根が発達し、養液24に到達することにより、植物はより多くの養液24を吸い上げられるようになる。またより多くの湿気中根を有することから、植物の湿気中根による呼吸がより一層十分となる。そのため、本実施形態では、第二の実施形態に比べて、栽培装置において植物がより一層大きく発育しやすく、より高品質な植物が栽培され得る。
【0080】
このように本実施形態では、パネル板には、複数の板が厚さ方向において分離可能に重なっている積層パネル板30を用いる。よって、より根が発達した植物を栽培する観点からより一層効果的である。
【0081】
また、本実施形態では、積層パネル板30は、厚さ方向に直交する方向における複数の板のそれぞれの位置を規定するための位置決め機構としてのピン36をさらに有している。よって、上板31と下板32との水平方向への位置のずれが実質的に生じず、苗根鉢の側面がゆがまないため、積層パネル板30を育苗槽から栽培槽40に移す際の作業性を維持する観点から好適である。
【0082】
さらに、本実施形態では、上方から下方へ径が漸次減少する形状を孔2が有することから、孔2に根鉢4を保持させたまま下板32を上板31から取り外すことが十分に可能である。よって、上記の構成は、根鉢4の下方が気相に露出するように根鉢4が孔2に保持されているパネル板を、下板32のみを外すというより簡素な工程で可能とする観点からより一層効果的である。
【0083】
〔第四の実施形態〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
図16は、本発明の第四の実施形態のパネル板における培地の他の配置例を模式的に示す図である。
【0084】
本実施形態では、
図16に示されるように、根鉢4は、根鉢4の上面が孔2の上端よりも下に位置するように孔2に収容されている。このような根鉢4の孔2への収容形態は、孔2の大きさあるいは孔2におけるテーパ角の設定、培地5の材料の選択、培地5の孔2への充填具合、あるいは通気性のシートによる培地5の下方からの支持、などによって実現可能である。
【0085】
また、本実施形態によれば、根鉢4の上面が孔2におけるパネル板1の上面よりも下に位置していることから、植物の茎および葉の部分の水平方向への広がりが、孔2の上部の内周壁によって規制される。よって、植物が鉛直上方に向けて伸びやすく、隣り合う植物間での生育の阻害を抑制する観点、および、植物の収穫を容易にする観点、からより一層効果的である。
【0086】
〔変形例〕
本発明は上述した各実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0087】
たとえば、パネル板が有する孔は、上方から下方に向けて径が漸次減少するテーパ状の孔でなくてもよく、培地および根鉢を保持可能であれば寸胴の孔でもよい。
【0088】
積層パネル板について、上板と下板は、積層方向において互いに重なる位置にのみ、上板が上板孔を有し、下板が下板孔を有していてもよい。また、位置決め機構は、前述のピンでなくてもよく、例えば上板と下板とを挟持して固定する器具であってもよい。
【0089】
栽培槽においてパネル板を養液の液面に対して所定の位置に支持する方法は、段差部またはスペーサによる支持以外であってもよい。たとえば、栽培槽内において、ジャッキアップのように任意の位置での支持が可能な器具によって、パネル板を所望の高さの位置で支持してもよい。あるいは、養液の液面の位置を調整可能な栽培槽における給排液装置のような装置によって、特定の位置に支持されているパネル板に対して液面の高さを自在に調整してもよい。
【0090】
なお、本発明の前述した実施形態は、野菜などの食用の植物の栽培に適用される場合には、食糧の安定供給に貢献し、持続可能な農業の推進に貢献し得る。また、農地の拡大による土地の劣化の抑制に貢献し、土地の劣化に伴う生物多様化の損失の抑制に貢献し得る。このように、本発明の実施形態では、持続可能な開発目標(SDGs)の達成への貢献が期待される。
【実施例0091】
〔実施例1〕
パネル板として、上方の孔径D125mm、下方の孔径D221mmとした逆円錐形状をなす植孔を碁盤目状にピッチ10cmで144個穿設した、縦90cm、横60cm、厚さT1 3~4cmの発泡スチロール製パネル板を用意した。
【0092】
該パネル板に、培地としてロックウール(太平洋マテリアル社製、バイドン)を詰めた。
【0093】
該培地上に、ホウレンソウ(三菱ケミカルアクア・ソリューションズ品種NPL10号)の種子を3粒播種し、発芽させた。発芽後の苗を、パネル板ごと育苗システム(三菱ケミカルアクア・ソリューションズ社製「苗テラス」(登録商標))に配置し、8日間育成して、成苗を得た。
【0094】
得られた成苗を、パネル板ごと、栽培ベッド槽に移植し、日間育成した。この際、苗根鉢の下端を、養液の水面から18mmの位置に配置した。前記栽培ベッド槽としては、幅約1m、高さ11cm、長さ2mの発泡スチロール製栽培槽ユニットを10から25ユニット連結したものを使用した。
【0095】
また、前記栽培ベッド槽は勾配が1/80になるよう配置し、底面の上面側には、親水性シートを配置し、前記栽培ベッド槽の底面に養液(養液濃度:EC2.0dS/m、住友化学(株)社製ハイテンポAr、住友化学(株)社製ハイテンポCu、12.5質量%のKNO3水溶液を、体積比3:9:10で混合したもの、養液温度:20℃)を毎分8リットルの流量で供給した。
【0096】
移植後、根が培地から下方に伸び、移植から1~3日後にいずれの成苗の根も養液まで到達した。
【0097】
5日栽培後のホウレンソウの根の写真を
図17に示す。
図17に示されるように、養液上部の空間にある根には根毛が生じていることが確認される。
【0098】
〔実施例2〕
パネル板として、上下に2分割可能であり、位置決め機構があるものを用いた。育苗が完了したのち、パネル板の下部のみ除去し、上部のパネル板ごと移植したこと以外は実施例1と同様にして、ホウレンソウを栽培した。
【0099】
6日栽培後のホウレンソウの根の写真を
図18に示す。
図18に示されるように、養液上部の空間にある根がより一層増え、また当該根には根毛が生じていることが確認される。空間内の根からも根毛が発生する。
【0100】
〔比較例1〕
育苗に使用する育苗トレイとして、上方の孔径D3が17mm、下方の孔径D4が13mmとした逆円錐形状をなす植孔を碁盤目状にピッチ1.5cmで144個穿設した、縦59.3cm、横30cm、厚さT4が4.2cmの発泡スチロール製パネル板を用い、成苗を育苗トレイから取り出して、本圃システムのパネル板に定植し、その際に、苗根鉢の下端が養液に接するよう配置したこと以外は実施例1と同様にして、ホウレンソウを栽培した。
【0101】
7日栽培後のホウレンソウの根の写真を
図19に示す。
図19に示されるように、根は水平方向に延出している。根における水平方向に延出している部分には根毛は実質的には確認されなかった。
【0102】
このように、
図17~19に示されるように、実施例1および実施例2のホウレンソウでは、苗根鉢の下端を養液に接するよう配置した比較例1のホウレンソウと比較し、湿気中根の発達が促進された。