(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066238
(43)【公開日】2023-05-15
(54)【発明の名称】初期処理方法
(51)【国際特許分類】
C23F 11/167 20060101AFI20230508BHJP
C23F 11/18 20060101ALI20230508BHJP
C23F 11/00 20060101ALI20230508BHJP
F28F 19/02 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
C23F11/167
C23F11/18 102
C23F11/00 E
C23F11/00 F
F28F19/02 501C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021176844
(22)【出願日】2021-10-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り オンラインのプレゼンテーションの実施による公開、実施日:令和3年4月9日、実施先:太陽石油株式会社(東京都千代田区内幸町二丁目2番3号日比谷国際ビル15階) [刊行物等]実施による公開、実施日:令和3年7月7日、発送先:太陽石油株式会社 四国事業所(愛媛県今治市菊間町種4070-2)
(71)【出願人】
【識別番号】000234166
【氏名又は名称】伯東株式会社
(72)【発明者】
【氏名】津田 貴智
【テーマコード(参考)】
4K062
【Fターム(参考)】
4K062AA01
4K062AA03
4K062BA08
4K062BB25
4K062BC09
4K062CA05
4K062FA04
4K062FA12
4K062FA20
(57)【要約】
【課題】
鉄系金属表面に従来技術よりも防食効果が高い防食被膜を形成する方法を提供する。
【解決方法】
(A) 有機ホスホン酸、ホスホノカルボン酸、ホスフィノポリカルボン酸、カルボン酸重合体及び無機リン化合物からなる群より選ばれる1種類以上を含む成分と、(B)水に可溶な金属及びその塩を添加し、鉄系金属表面に接触させることにより、鉄系金属表面の腐食を大幅に低減できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系における鉄系金属表面の防食被膜の形成方法であって、(A) 有機ホスホン酸、ホスホノカルボン酸、ホスフィノポリカルボン酸、カルボン酸重合体及び無機リン化合物からなる群より選ばれる1種類以上を含む成分と、(B)水に可溶な金属及びその塩を添加し、該鉄系金属表面に接触させることを特徴とする防食被膜の形成方法。
【請求項2】
請求項1記載の鉄系金属表面の防食被膜の形成方法において、(B)水に可溶な金属及びその塩が、アルカリ土類金属及び/又はアルカリ金属及びその塩であることを特徴とする防食被膜の形成方法。
【請求項3】
請求項1乃至2記載の鉄系金属表面の防食被膜の形成において、(B)水に可溶な金属及びその塩が、カルシウム及びその塩であることを特徴とする防食被膜の形成方法。
【請求項4】
請求項1乃至3記載の鉄系金属表面の防食被膜の形成において、(B)水に可溶な金属及びその塩が、塩化カルシウムであることを特徴とする防食被膜の形成方法。
【請求項5】
停止中の石油精製プラントにおける熱交換器及び加熱炉において、請求項1乃至4記載の鉄系金属表面の防食被膜の形成を行うことを特徴とする防食被膜の形成方法。
【請求項6】
請求項1~5記載の(B)水に可溶な金属及びその塩の濃度が100~2000ppmであることを特徴とする防食被膜の形成方法。
【請求項7】
請求項1~5記載の(B)水に可溶な金属及びその塩の濃度が500~1600ppmであることを特徴とする防食被膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系の防食被膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材は安価でありながら機械的特性に優れており、様々な分野で用いられているが、腐食しやすいという弱点を抱えている。より、持続的に鋼材を用いる方法として、腐食抑制剤や防食剤を金属表面に接触させ、防食被膜を形成し、汚れや腐食を防ぐ方法が知られている。
【0003】
特許文献1では、水処理においてリン酸系の防食剤を用いた防食被膜形成方法が記載されている。また、特許文献2では、石油精製分野においてリン酸系の防食剤を用いた防食被膜形成方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-037638号公報
【特許文献2】特開2019-168162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者が上記従来のリン酸系等の防食剤を用いて、腐食試験を行ったところ、充分な防食効果が得られないという問題を見出した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意研究を重ねた結果、 (A) 有機ホスホン酸、ホスホノカルボン酸、ホスフィノポリカルボン酸、カルボン酸重合体及び無機リン化合物からなる群より選ばれる1種類以上を含む成分と、(B)水に可溶な金属及びその塩を添加し、鉄系金属表面に接触させることで、従来よりも防食効果が高い防食被膜の形成方法を見出した。
【発明の効果】
【0007】
本発明を用いることにより、水処理システムにおいて、鉄系金属表面の腐食や汚れに対し、優れた防食効果を得ることができる。さらには停止中の石油精製プラントにおける熱交換器及び加熱炉に適用することで、運転開始後の石油精製プラントにおいても、熱交換器及び加熱炉の鉄系金属表面での硫化腐食の発生を防止できる。このため、硫化腐食によって生じた硫化鉄中に、油中のアスファルテンやスラッジ等の有機物が取り込まれることを防止でき、該有機物と硫化鉄との複合汚れの形成が防止され、伝熱効率の低下を防ぐことができる。
それにより、熱交換器及び加熱炉の熱交換率を長期にわたって高く維持することができ、ひいては、燃料コストや清掃コストを削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】油を用いた際の汚れ防止剤を評価するための腐食試験装置模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明の防食被膜形成方法は、種々な鉄、鋼鉄からなる鉄系金属表面を改善するための方法である。
【0010】
本発明の防食被膜形成方法の作用機構について説明する。鉄系金属表面と、(A)ホスホノカルボン酸、有機ホスホン酸、ホスフィノポリカルボン酸、カルボン酸重合体及び無機リン化合物からなる群より選ばれる1種類以上を含む成分(以下(A)成分)を接触させることで、溶出した鉄イオンと反応し、不溶性の被膜を形成することにより、表面の腐食の進行を抑える。そして、(B)水に可溶な金属及びその塩(以下(B)成分)には、(A)成分により形成された結晶被膜の形成を促進させる作用があり、且つ被膜の耐久性が向上する。そのため、水処理システムや石油精製プラントの熱交換器等において、腐食を受け難くなると考えられる。
【0011】
本発明の防食被膜形成方法は、一般水処理システムにおける、紙パルプ製造業、自動車工場、半導体製造工場等の各種製造業の冷却システムや空調用の冷却システムに含まれる熱交換器や、石油精製プラントにおける停止中の熱交換器及び加熱炉に適用される。本発明の対象となる熱交換器は、シェルアンドチューブ式多管式熱交換器、二重管式熱交換器、スパイラル式熱交換器、プレート式熱交換器、渦巻管式熱交換器、渦巻板式熱交換器、コイル式熱交換器、ジャケット式熱交換器等が挙げられる。
【0012】
次に、本発明の防食被膜形成方法が適用される代表的な石油精製プラントを
図1に示す。この石油精製プラントでは、図示しない原油貯留タンクから供給された原油が予熱交換器21で110~140℃に加熱され、デソルター22に入る。デソルター22では水分及び無機成分が除去され、油分は予熱交換器23で150~180℃に加熱された後、プレフラッシュ塔24へ送られ低沸点ガス分が分離される。そして、さらに油分が予熱交換器25によって240~280℃に加熱され、加熱炉26で350~380℃に加熱された後、常圧蒸留塔27に送られる。常圧蒸留塔27では沸点の差によって分留された留分が、ポンプ28を介して熱交換器25のシェル側に熱源として送られる。
【0013】
本発明の防食被膜形成方法は、この石油精製プロセスに使用される熱交換器21、23、25の防食及び加熱炉26内部の防食において効果を発揮する。これらは、予熱交(予熱交換器)、プレヒータ-、リボイラー等を含む鉄系金属の熱交換器である。これら鉄系金属からなる熱交換器等では、硫化腐食によって生じた硫化鉄中に、油中のアスファルテンやスラッジ等の有機物が取り込まれ、該有機物と硫化鉄との複合汚れが形成されやすいが、本発明の防食被膜形成方法を適用することで、鉄系金属からなる熱交換器は防食被膜により硫化腐食を受け難くなる。その結果、硫化鉄が形成し難くなり、前記複合汚れの付着も防止される。
特に、デソルター22より下流側の熱交換器23、25及び加熱炉26では200℃以上の高温となり、汚れが蓄積されやすいため、本発明の防食被膜形成方法の効果が発揮される。
【0014】
予熱交換器21、23、25や加熱炉26内部の硫化腐食を防止するために、
図1中のA点、B点、C点、D点などに(A)成分及び(B)成分を添加し、系内を循環させることで、防食被膜を形成させることができる。
【0015】
本発明における(A)成分の有機ホスホン酸とは、分子中に1個以上のホスホノ基を有する有機化合物であり、具体的には1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、ヘキサミチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸等が挙げられ、好ましくは1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸である。
【0016】
ホスホノカルボン酸とは、分子中に1個以上のホスホノ基と1個以上のカルボキシル基を有する有機化合物であり、具体的には2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、ヒドロキシホスホノ酢酸、ホスホノポリマレイン酸、ホスホンコハク酸等が挙げられ、好ましくは2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、ホスホノポリマレイン酸等が挙げられる。ホスホノカルボン酸はローディア社からBRICORR288の商品名、またBWA社からBELCOR585の商品名で市販されている。
【0017】
ホスフィノポリカルボン酸とは、分子中に1個以上のホスフィノ基と2個以上のカルボキシル基を有する化合物であり、具体的にはアクリル酸と次亜リン酸を反応させて得られるビス-ポリ(2-カルボキシエチル)ホスフィン酸、マレイン酸と次亜リン酸を反応させて得られるビス-ポリ(1,2-ジカルボキシエチル)ホスフィン酸、マレイン酸とアクリル酸と次亜リン酸を反応させて得られるポリ(2-カルボキシエチル)(1,2-ジカルボキシエチル)ホスフィン酸、イタコン酸と次亜リン酸を反応させて得られるビス-ポリ[2-カルボキシ-(2-カルボキシメチル)エチル]ホスフィン酸、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸と次亜リン酸の反応物等が挙げられる。好ましくはマレイン酸とアクリル酸と次亜リン酸の反応物やイタコン酸とマレイン酸と次亜リン酸の反応物である。ホスフィノポリカルボン酸は、BWA社よりBELCLENE500、BELSPERSE164、BELCLENE400等の商品名で市販されている。
【0018】
カルボン酸重合体は、モノエチレン性不飽和カルボン酸のホモ重合体及びその水溶性塩、2種以上の異なるモノエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体及びその水溶性塩である。
モノエチレン性不飽和カルボン酸のホモ重合体としては、例えば、アクリル酸重合体、メタクリル酸重合体、マレイン酸重合体、無水マレイン酸重合体の加水分解物、イタコン酸重合体、フマル酸重合体等が挙げられ、2種以上の異なるモノエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体としては、アクリル酸とマレイン酸の共重合体、アクリル酸とイタコン酸の共重合体、マレイン酸とイタコン酸の共重合体、マレイン酸とフマル酸の共重合体、アクリル酸とイタコン酸とマレイン酸の三元共重合体、アクリル酸とイタコン酸とフマル酸の三元共重合体等が挙げられるが、好ましくは、ホモマレイン酸重合体およびマレイン酸と共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体との共重合体、及びホモイタコン酸重合体およびイタコン酸と共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体との共重合体である。
【0019】
ここで、マレイン酸やイタコン酸と共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体としては、フマル酸;(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシルアルキルエステル;(メタ)アクリルアミド、N-アルキル置換(メタ)アクリルアミド;炭素数2~8のオレフィンであるエチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、ヘキセン、2-エチルヘキセン、ペンテン、イソペンテン、オクテン、イソオクテン等;ビニルアルキルエーテルのビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル;マレイン酸アルキルエステル等が挙げられ、その1種または2種以上が用いられる。
【0020】
マレイン酸系重合体ならびにイタコン酸系重合体の分子量は、重量平均分子量として300~20000が好ましいが、より好ましくは400~1000である。
【0021】
無機リン酸化合物は分子中にリン酸基又はリン酸骨格を有する無機化合物であり、具体的には、りん酸やリン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム等のアルカリ金属のリン酸塩、及びピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウムなどの縮合リン酸塩等が挙げられる。
【0022】
本発明における(B)成分の水に可溶な金属及びその塩において、金属の種類に制限はないが、金属及び塩の状態で、水に可溶であることが望まれる。
本発明に記載されている水に可溶とは、酸性、中性、アルカリ性の25℃の水に対し、1ppm以上溶解していることである。好ましくは、100ppm以上溶解していることであり、より好ましくは、500ppm以上溶解していることである。この時の金属の状態は、水溶液中にイオン状で存在している。
【0023】
本発明の水に可溶な金属及びその塩として、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属及びその塩が使用できるが、具体的な例として、アルカリ金属しては、ナトリウム、カリウム、アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、遷移金属としては、鉄、銅、卑金属としては、アルミニウム等が使用できるが、好ましくは、アルカリ土類金属及び/又はアルカリ金属である。防食効果の観点から、特に好ましくはカルシウム及びその塩であり、もっとも好ましくは塩化カルシウムである。また、これらの金属及びその塩は、1種以上含まれていてもよい。
本発明において、使用可能な塩の種類に制限はなく、水に可溶なことが必要である。例えば、塩化物塩、炭酸塩、硫酸塩が使用できるが、カルシウムの塩は溶解度が低いため、塩化カルシウムの使用が好ましい。
【0024】
本発明の被膜形成工程とは、(A)成分、(B)成分を添加し、鉄系金属表面に接触させる工程である。本発明の被膜形成工程は、前記(A)成分、(B)成分を添加し、鉄系金属表面と1~72時間接触させることが好ましく、より好ましくは5~48時間である。接触時間が1時間未満であれば、防食被膜が不均一に形成され、防食効果が低下する場合がある。
【0025】
本発明の被膜形成工程におけるpHは、特に制限はないが、pH3.0~9.0が好ましい。
【0026】
本発明の(A)成分の添加量は有効成分として、10~10000ppmである。好ましくは100~5000ppmである。(B)成分の添加量は100~2000ppmである。好ましくは500~1600ppmである。
【0027】
本発明の前記(A)成分、(B)成分を含む水溶液を鉄系金属表面と接触させる際の温度は水の範囲内であれば特に制限はないが、好ましくは50℃未満である。
【0028】
本発明の前記(A)成分、(B)成分を含む水溶液を鉄系金属表面と接触させる際の攪拌については特に制限はないが、乱流域が好ましい。
【0029】
本発明において、使用する水に制限はなく、水道水、工水、井水、イオン交換水、蒸留水
等が使用できる。
また、水道水、工水中にナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等の金属イオンが含まれているが、前記水中においても、(B)成分を添加することにより、防食効果が向上する。
【実施例0030】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定さ
れるものではない。また、特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる
範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
以下の実施例、比較例における汚れ防止剤の添加量は有効成分換算である。
【0031】
<腐食試験1>
400番研磨紙で研磨仕上げした寸法が1×13×75mmの低炭素鋼試験片(材質:JIS G3141 SPCC-SB)を、(A)成分、(B)成分を所定量添加し浸漬させ、24時間混合攪拌し、被膜処理した後、乾燥して試験前の質量を測定した。イオン交換水(比抵抗18MΩ・cm)をpH9.4(25℃)に調整して試験液として用いた。試験液100mlと試験片を密閉容器に入れ、窒素ガスを通気して試験液の溶存酸素濃度を10μg/lまで低下させた後、密閉して温度70℃で7日間保持した。7日後、試験片を取り出して付着物を除去後、試験後の質量を測定し、下記式より腐食速度(mdd)を計算した。結果を表1に示す。
腐食速度(mdd)=(W0-W1)/(S×T)
W0:試験前の質量(mg)、W1:試験後の質量(mg)
S:試験片の表面積(dm2)
T:試験期間(日数)
【0032】
<(A)成分>
・1―ヒドロキシチリデン―1,1―ジホスホン酸(HEDP、Belclene660LA、BWA社製)
・2-ホスホノブタン―1,2,4―トリカルボン酸(PBTC、Belclene650、BWA社製)
・ポリマレイン酸(分子量2000、Belclene200LA、BWA社製)
・りん酸(試薬、和光純薬工業社製)
・ビス-ポリ(2-カルボキシエチル)ホスフィン酸(BELSPERSE164、BWA社製)
<(B)成分>
・塩化カルシウム(CaCl2、試薬、和光純薬工業社製)
・酸化カルシウム(CaO、試薬、和光純薬工業社製)
・炭酸水素ナトリウム(NaHCO3、試薬、和光純薬工業社製)
・硫酸アルミニウム(Al2(SO4)2、試薬、和光純薬工業社製)
【0033】
結果を表1に示した。実施例1~16のように、(A)成分、(B)成分を所定濃度、添加した場合、腐食速度7mdd以下であるのに対して、被膜形成処理を行わなかった比較例1は腐食速度58mddとなった。また、(A)成分を添加し、(B)成分を添加しなかった比較例2~6は腐食速度25mdd以上となり、(A)成分を添加せず、(B)成分を添加した比較例7~10は比較例1とほぼ同等の腐食速度となった。(B)成分の添加量を変化させた実施例17~26は、腐食速度20mdd以下となり、比較例2~6の結果よりも低い値となった。また、同じカルシウム塩であっても、実施例2の酸化カルシウムに比べ、実施例1の塩化カルシウムの方が、防食効果が優れていた。
以上の結果から(A)成分、(B)成分を併用した実施例の方が比較例に比べ、防食効果が優れていることが分かった。
【0034】
【0035】
<腐食試験2>
400番研磨紙で研磨仕上げした寸法が1×13×75mmの低炭素鋼試験片(材質:JIS G3141 SPCC-SB)を、(A)成分、(B)成分を所定量添加し浸漬させ、24時間混合攪拌し、被膜処理した後、乾燥して試験前の質量を測定した。試験片を取り出し、回転軸32に取り付けた。オートクレーブ31の内部に原油を250ml入れ、蓋31aを閉め、オートクレーブ内の空気を窒素で置換した。撹拌機を駆動して回転軸32を500rpmの攪拌速度で回転させ、オートクレーブ31の周囲を図示しないマントルヒーターによって300℃で加熱し、96時間維持した。その後、室温まで冷却した後、蓋31aを開けて試験片を取り出した。取り出した試験片をヘキサンで洗浄し、乾燥後、重量を測定した。さらにヘキサン洗浄を行った試験片を3.5%塩酸に浸水し、表面の腐食生成物を算出し、テストピース2枚の数値の平均値を試験結果とした。
付着量(%)={(ヘキサン洗浄後重量(g)-塩酸洗浄後重量(g))/試験片初期重量(g)}×100
腐食減量(%)={(試験片初期重量(g)-塩酸洗浄後重量(g))/試験片初期重量(g)}×100
【0036】
結果を表2に示した。実施例28~43のように、(A)成分、(B)成分を所定濃度、添加した場合、付着量4%及び腐食減量5%以下であるのに対して、被膜形成処理を行わなかった比較例1は付着量13%及び腐食減量16%となった。また、(A)成分を添加し、(B) 成分を添加しなかった比較例12~16は付着量8%及び腐食減量11%以上となり、(A)成分を添加せず、(B) 成分を添加した比較例17~20は付着量及び腐食減量、共に比較例11とほぼ同等の結果となった。(B) 成分の添加量を変化させた実施例44~54は、付着量7%及び腐食減量10%以下となり、比較例12~16の結果よりも低い値となった。
以上の結果から、油を用いた腐食試験においても、(A)成分、(B)成分を併用した実施例の方が比較例に比べ、防食効果が優れていることが分かった。
【0037】
鉄系金属表面に従来技術よりも防食効果が高い防食被膜を形成するために、本発明の防食被膜の形成方法が適用できる。その結果、水処理システムに含まれる熱交換器や、石油精製プラントにおける停止中の熱交換器等の伝熱効率の低下につながる腐食を大幅に低減させ、安定操業に寄与できる。