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特開2023-66254イオン注入方法、イオン注入装置および半導体デバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066254
(43)【公開日】2023-05-15
(54)【発明の名称】イオン注入方法、イオン注入装置および半導体デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/317 20060101AFI20230508BHJP
   H01J 37/147 20060101ALI20230508BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
H01J37/317 A
H01J37/147 D
H01L21/265 T
H01L21/265 603Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】26
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021176875
(22)【出願日】2021-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000183196
【氏名又は名称】住友重機械イオンテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】石橋 和久
(72)【発明者】
【氏名】弓山 敏男
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA25
5C101EE22
5C101EE49
5C101EE53
5C101GG13
5C101GG15
5C101GG33
5C101GG44
5C101HH04
5C101HH05
5C101HH46
5C101HH52
(57)【要約】
【課題】イオン注入工程における生産性を向上させる。
【解決手段】イオン注入方法は、第1走査信号に基づいて第1スキャンビームを生成することと、複数の測定位置において第1スキャンビームのビーム電流をビーム測定装置を用いて測定することと、測定されたビーム電流の時間波形と、第1走査信号に定められる走査指令値の時間波形とに基づいて、ビーム電流行列を算出することと、測定したビーム電流を時間積分することにより、第1スキャンビームの第1ビーム電流密度分布を算出することと、第1ビーム電流密度分布に基づいてビーム電流行列の各成分の値を補正することと、補正されたビーム電流行列に基づいて、目標とするビーム電流密度分布を実現するための第2走査信号を生成することと、を備える。
【選択図】図18
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スポット状のイオンビームを第1走査信号に基づいて所定方向に往復走査させることにより、第1スキャンビームを生成することと、
前記所定方向に異なる複数の測定位置において、前記第1スキャンビームのビーム電流をビーム測定装置を用いて測定することと、
前記ビーム測定装置により測定されたビーム電流の時間波形と、前記第1走査信号に定められる走査指令値の時間波形とに基づいて、前記所定方向に異なる複数の位置および複数の走査指令値に対するビーム電流値を成分とするビーム電流行列を算出することと、
前記測定したビーム電流を時間積分することにより、前記第1スキャンビームの前記所定方向における第1ビーム電流密度分布を算出することと、
前記第1ビーム電流密度分布に基づいて前記ビーム電流行列の各成分の値を補正することと、
前記補正されたビーム電流行列に基づいて、目標とするビーム電流密度分布を実現するための第2走査信号を生成することと、を備えることを特徴とするイオン注入方法。
【請求項2】
前記ビーム測定装置のビーム電流測定に関するパラメータに基づいて、前記ビーム電流の時間波形を補正することをさらに備え、
前記ビーム電流行列は、前記補正されたビーム電流の時間波形に基づいて算出されることを特徴とする請求項1に記載のイオン注入方法。
【請求項3】
前記ビーム電流の時間波形は、前記ビーム測定装置の前記所定方向の測定幅に基づいて補正されることを特徴とする請求項2に記載のイオン注入方法。
【請求項4】
前記ビーム電流の時間波形は、前記ビーム測定装置のビーム電流測定回路の時定数に基づいて補正されることを特徴とする請求項2または3に記載のイオン注入方法。
【請求項5】
前記ビーム電流は、前記ビーム測定装置を前記所定方向に移動させることにより、前記複数の測定位置において測定されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のイオン注入方法。
【請求項6】
前記ビーム測定装置は、前記所定方向に異なる位置に配置される複数のファラデーカップを含むことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のイオン注入方法。
【請求項7】
前記ビーム測定装置を前記所定方向に往復移動させることをさらに備え、
前記複数の測定位置は、複数の第1測定位置と、複数の第2測定位置とを含み、
前記ビーム電流は、前記往復移動の往路において前記複数の第1測定位置にて測定され、前記往復移動の復路において前記複数の第2測定位置にて測定されることを特徴とする請求項5または6に記載のイオン注入方法。
【請求項8】
前記ビーム電流行列を算出することは、前記複数の測定位置に対するビーム電流値の成分に基づいて、前記複数の測定位置とは異なる複数の補足位置に対するビーム電流値の成分を算出することを含むことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載のイオン注入方法。
【請求項9】
前記ビーム電流行列を算出することは、前記第1走査信号に定められる走査指令値の時間波形に基づいて、前記ビーム電流の時間波形を前記走査指令値に対するビーム電流の波形に変換することを含むことを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載のイオン注入方法。
【請求項10】
前記第1走査信号は、前記走査指令値の時間変化率が不均一であることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載のイオン注入方法。
【請求項11】
前記第2走査信号は、前記補正されたビーム電流行列および前記第2走査信号に基づいて算出されるビーム電流密度分布と、前記目標とするビーム電流密度分布との間の差異を評価するための第1評価値に基づいて生成されることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載のイオン注入方法。
【請求項12】
前記第2走査信号は、前記第2走査信号における前記走査指令値の時間変化率の変化量を評価するための第2評価値にさらに基づいて生成されることを特徴とする請求項11に記載のイオン注入方法。
【請求項13】
前記第2走査信号は、前記イオンビームの前記所定方向の走査範囲のうちの一部範囲に照射されるビーム電流量を評価するための第3評価値にさらに基づいて生成されることを特徴とする請求項11または12に記載のイオン注入方法。
【請求項14】
前記第2走査信号に基づいて前記イオンビームを前記所定方向に往復走査させることにより、第2スキャンビームを生成することと、
前記第2スキャンビームを半導体ウェハに照射することと、をさらに備えることを特徴とする請求項1から13のいずれか一項に記載のイオン注入方法。
【請求項15】
前記第2走査信号を生成することは、前記補正されたビーム電流行列に基づいて、目標とする複数のビーム電流密度分布を実現するための複数の第2走査信号を生成することを含み、
前記第2スキャンビームを生成することは、前記複数の第2走査信号に対応する複数の第2スキャンビームを順次生成することを含み、
前記第2スキャンビームを前記半導体ウェハに照射することは、前記半導体ウェハ上の前記所定方向と直交する方向に分割される複数の領域のそれぞれに前記複数の第2スキャンビームのいずれかを照射することを含むことを特徴とする請求項14に記載のイオン注入方法。
【請求項16】
前記第2スキャンビームを測定して第2ビーム電流密度分布を算出することと、
前記第2ビーム電流密度分布を前記目標とするビーム電流密度分布と比較することと、をさらに備えることを特徴とする請求項14または15に記載のイオン注入方法。
【請求項17】
前記算出された第2ビーム電流密度分布は、前記第1スキャンビームの測定に用いる前記ビーム測定装置とは別のビーム測定装置を用いて測定されることを特徴とする請求項16に記載のイオン注入方法。
【請求項18】
前記算出された第2ビーム電流密度分布と、前記目標とするビーム電流密度分布と、前記補正されたビーム電流行列とに基づいて、前記第2走査信号を再生成することを特徴とする請求項16または17に記載のイオン注入方法。
【請求項19】
前記補正されたビーム電流行列に基づいて、前記イオンビームのビーム形状を推定することと、
前記推定したビーム形状に基づいて、前記イオンビームのビーム形状を調整することと、をさらに備えることを特徴とする請求項1から18のいずれか一項に記載のイオン注入方法。
【請求項20】
スポット状のイオンビームを第1走査信号に基づいて所定方向に往復走査させることにより、第1スキャンビームを生成するビーム走査装置と、
前記所定方向に異なる複数の測定位置において、前記第1スキャンビームのビーム電流を測定するよう構成されるビーム測定装置と、
前記ビーム測定装置による測定に基づいて、前記所定方向の走査位置に対応する走査指令値の時間波形を定める走査信号を生成する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記複数の測定位置において測定される前記第1スキャンビームのビーム電流の時間波形を取得し、
前記取得したビーム電流の時間波形と、前記第1走査信号に定められる走査指令値の時間波形とに基づいて、前記所定方向の位置および前記走査指令値に対するビーム電流値を成分とするビーム電流行列を算出し、
前記取得したビーム電流を時間積分することにより、前記第1スキャンビームの前記所定方向における第1ビーム電流密度分布を算出し、
前記第1ビーム電流密度分布に基づいて前記ビーム電流行列の各成分の値を補正し、
前記補正されたビーム電流行列に基づいて、目標とするビーム電流密度分布を実現するための第2走査信号を生成するよう構成されることを特徴とするイオン注入装置。
【請求項21】
前記制御装置は、前記第1走査信号に定められる走査指令値の時間波形に基づいて、前記ビーム電流の時間波形を前記走査指令値に対するビーム電流の波形に変換するように構成されることを特徴とする請求項20に記載のイオン注入装置。
【請求項22】
前記ビーム走査装置は、前記第2走査信号に基づいて前記イオンビームを前記所定方向に往復走査させることにより、第2スキャンビームを生成し、
前記イオン注入装置は、前記第2スキャンビームを半導体ウェハに照射することを特徴とする請求項20または21に記載のイオン注入装置。
【請求項23】
前記制御装置は、前記補正されたビーム電流行列に基づいて、目標とする複数のビーム電流密度分布を実現するための複数の第2走査信号を生成するように構成され、
前記ビーム走査装置は、前記複数の第2走査信号のそれぞれに基づいて前記イオンビームを前記所定方向に往復走査させることにより、前記複数の第2走査信号に対応する複数の第2スキャンビームを順次生成し、
前記イオン注入装置は、前記半導体ウェハ上の前記所定方向と直交する方向に分割される複数の領域のそれぞれに前記複数の第2スキャンビームのいずれかを照射することを特徴とする請求項22に記載のイオン注入装置。
【請求項24】
イオン注入工程を備える半導体デバイスの製造方法であって、前記イオン注入工程は、
スポット状のイオンビームを第1走査信号に基づいて所定方向に往復走査させることにより、第1スキャンビームを生成することと、
前記所定方向に異なる複数の測定位置において、前記第1スキャンビームのビーム電流を測定することと、
前記測定したビーム電流の時間波形と、前記第1走査信号に定められる走査指令値の時間波形とに基づいて、前記所定方向に異なる複数の位置および複数の走査指令値に対するビーム電流値を成分とするビーム電流行列を算出することと、
前記測定したビーム電流を時間積分することにより、前記第1スキャンビームの前記所定方向における第1ビーム電流密度分布を算出することと、
前記第1ビーム電流密度分布に基づいて前記ビーム電流行列の各成分の値を補正することと、
前記補正されたビーム電流行列に基づいて、目標とするビーム電流密度分布を実現するための第2走査信号を生成することと、
前記第2走査信号に基づいて前記イオンビームを前記所定方向に往復走査させることにより、第2スキャンビームを生成することと、
前記第2スキャンビームを半導体ウェハに照射することと、を備えることを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
【請求項25】
前記ビーム電流行列を算出することは、前記第1走査信号に定められる走査指令値の時間波形に基づいて、前記ビーム電流の時間波形を前記走査指令値に対するビーム電流の波形に変換することを含むことを特徴とする請求項24に記載の半導体デバイスの製造方法。
【請求項26】
前記第2走査信号を生成することは、前記補正されたビーム電流行列に基づいて、目標とする複数のビーム電流密度分布を実現するための複数の第2走査信号を生成することを含み、
前記第2スキャンビームを生成することは、前記複数の第2走査信号に対応する複数の第2スキャンビームを順次生成することを含み、
前記第2スキャンビームを前記半導体ウェハに照射することは、前記半導体ウェハ上の前記所定方向と直交する方向に分割される複数の領域のそれぞれに前記複数の第2スキャンビームのいずれかを照射することを含むことを特徴とする請求項24または25に記載の半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、イオン注入方法、イオン注入装置および半導体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程では、半導体の導電性を変化させる目的、半導体の結晶構造を変化させる目的などのため、半導体ウェハにイオンを注入する工程(イオン注入工程ともいう)が標準的に実施されている。イオン注入工程に使用される装置は、イオン注入装置と呼ばれる。イオン注入工程では、ウェハ処理面内における二次元ドーズ量分布を均一とする「均一注入」の他、二次元ドーズ量分布を意図的に不均一にする「不均一注入」が求められることがある。
【0003】
ウェハ処理面内における二次元ドーズ量分布は、ウェハ処理面内におけるビーム照射位置に応じて、ビームスキャン速度およびウェハスキャン速度の少なくとも一方を変化させることによって制御される。例えば、ビームスキャン方向におけるビームスキャン速度分布を調整することにより、ビームスキャン方向における一次元ドーズ量分布が制御される。目標とする一次元ドーズ量分布を実現するためのビームスキャン速度分布は、ビームスキャン方向におけるビーム電流密度分布の測定値と目標値に基づいて計算される。ビームスキャン速度分布の計算では、ビーム電流密度がビームスキャン速度に反比例するという関係性が利用される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-41595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ビームサイズが十分に小さく、かつ、ビーム電流が位置に依存せず一定である場合、ビーム電流密度分布とビームスキャン速度分布の間に単純な反比例の関係性が成立するため、目標値を実現するためのビームスキャン速度分布を容易に計算できる。しかしながら、ビームサイズが大きくなると、単純な反比例の関係性が成立しにくくなり、計算されたビームスキャン速度分布によって得られるビーム電流密度分布の測定値が目標値から大きく乖離することがある。この場合、目標値を実現するためのビームスキャン速度分布を得るまでに測定と計算を繰り返す必要があり、調整に時間を要する。場合によっては、ビームスキャン速度分布の調整に失敗してしまうこともある。調整にかかる時間の増加や調整の失敗は、イオン注入工程における生産性の低下につながる。
【0006】
本開示のある態様の例示的な目的のひとつは、イオン注入工程における生産性を向上させるための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のある態様のイオン注入方法は、スポット状のイオンビームを第1走査信号に基づいて所定方向に往復走査させることにより、第1スキャンビームを生成することと、所定方向に異なる複数の測定位置において、第1スキャンビームのビーム電流をビーム測定装置を用いて測定することと、ビーム測定装置により測定されたビーム電流の時間波形と、第1走査信号に定められる走査指令値の時間波形とに基づいて、所定方向に異なる複数の位置および複数の走査指令値に対するビーム電流値を成分とするビーム電流行列を算出することと、測定したビーム電流を時間積分することにより、第1スキャンビームの所定方向における第1ビーム電流密度分布を算出することと、第1ビーム電流密度分布に基づいてビーム電流行列の各成分の値を補正することと、補正されたビーム電流行列に基づいて、目標とするビーム電流密度分布を実現するための第2走査信号を生成することと、を備える。
【0008】
本開示の別の態様は、イオン注入装置である。この装置は、スポット状のイオンビームを第1走査信号に基づいて所定方向に往復走査させることにより、第1スキャンビームを生成するビーム走査装置と、所定方向に異なる複数の測定位置において、第1スキャンビームのビーム電流を測定するよう構成されるビーム測定装置と、ビーム測定装置による測定に基づいて、所定方向の走査位置に対応する走査指令値の時間波形を定める走査信号を生成する制御装置と、を備える。制御装置は、複数の測定位置において測定される第1スキャンビームのビーム電流の時間波形を取得し、取得したビーム電流の時間波形と、第1走査信号に定められる走査指令値の時間波形とに基づいて、所定方向の位置および走査指令値に対するビーム電流値を成分とするビーム電流行列を算出し、取得したビーム電流を時間積分することにより、第1スキャンビームの所定方向における第1ビーム電流密度分布を算出し、第1ビーム電流密度分布に基づいてビーム電流行列の各成分の値を補正し、補正されたビーム電流行列に基づいて、目標とするビーム電流密度分布を実現するための第2走査信号を生成するよう構成される。
【0009】
本開示のさらに別の態様は、半導体デバイスの製造方法である。この方法は、イオン注入工程を備える半導体デバイスの製造方法であって、イオン注入工程は、スポット状のイオンビームを第1走査信号に基づいて所定方向に往復走査させることにより、第1スキャンビームを生成することと、所定方向に異なる複数の測定位置において、第1スキャンビームのビーム電流を測定することと、測定したビーム電流の時間波形と、第1走査信号に定められる走査指令値の時間波形とに基づいて、所定方向に異なる複数の位置および複数の走査指令値に対するビーム電流値を成分とするビーム電流行列を算出することと、測定したビーム電流を時間積分することにより、第1スキャンビームの所定方向における第1ビーム電流密度分布を算出することと、第1ビーム電流密度分布に基づいてビーム電流行列の各成分の値を補正することと、補正されたビーム電流行列に基づいて、目標とするビーム電流密度分布を実現するための第2走査信号を生成することと、第2走査信号に基づいてイオンビームを所定方向に往復走査させることにより、第2スキャンビームを生成することと、第2スキャンビームを半導体ウェハに照射することと、を備える。
【0010】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本開示の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の限定的ではない例示的な実施の形態によれば、イオン注入工程における生産性を向上させるための技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態に係るイオン注入装置の概略構成を示す上面図である。
図2図1のイオン注入装置の概略構成を示す側面図である。
図3】制御装置の構成の一例を模式的に示す図である。
図4】注入処理室内の構成を概略的に示す上面図である。
図5】注入レシピのデータ構造を模式的に示す図である。
図6図6(a),(b)は、二次元ドーズ量分布を模式的に示す図である。
図7】補正関数ファイルおよび相関情報ファイルの一例を示す図である。
図8】相関情報ファイルの一例を示すテーブルである。
図9】複数ステップ注入を模式的に示す図である。
図10】制御装置の機能構成を模式的に示すブロック図である。
図11】実施の形態に係るビーム電流行列を模式的に示す図である。
図12】走査指令値に対するビーム電流分布の測定を模式的に示す図である。
図13】位置に対するビーム電流分布の測定を模式的に示す図である。
図14】ビーム電流行列とビーム電流密度分布の関係を模式的に示すグラフである。
図15】第1走査信号およびビーム電流の時間波形の一例を示すグラフである。
図16】ビーム電流測定回路の構成の一例を示す回路図である。
図17】補正前のビーム電流行列に基づくビーム電流密度分布の算出値およびビーム電流密度分布の実測値の一例を示すグラフである。
図18】実施の形態に係るイオン注入方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本開示に係るイオン注入方法、イオン注入装置および半導体デバイスの製造方法を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0014】
実施の形態を詳述する前に概要を説明する。本実施の形態は、半導体ウェハに照射されるイオンビームの二次元ドーズ量分布を制御する技術に関し、特に、ビームスキャン方向における一次元のビーム電流密度分布を制御する技術に関する。ビームスキャン方向のビーム電流密度分布は、イオンビームを往復走査させるビームスキャンのビームスキャン速度分布を調整することで制御される。本実施の形態では、ビーム電流密度分布とビームスキャン速度分布の間に反比例の関係性が成立するという単純な関係性を利用する代わりに、「ビーム電流行列」を用いてビーム電流密度分布とビームスキャン速度分布の関係性を規定する。
【0015】
ビーム電流行列は、走査指令値Viおよびx方向の位置Xjに対するビーム電流値I(Vi,Xj)=Iijを成分とし、スキャンビームを構成するスポット状のイオンビームのx方向のビーム電流分布(つまり、ビーム形状)の集合を表す。x方向の位置Xjに対するビーム電流密度分布J(Xj)は、以下の式(1)で表される。
【数1】
ここで、Δtiは、ビームスキャンにおいて走査指令値Viに保持される微小時間(つまり、スキャンビームの滞在時間)であり、走査指令値Viにおけるビームスキャン速度の逆数に比例する。
【0016】
本実施の形態では、ビーム電流行列Iijを用いて目標とするビーム電流密度分布J(Xj)を実現するためのビーム滞在時間Δtiを算出し、ビームスキャンにおいて走査指令値Viに保持されるビーム滞在時間Δtiに基づいて走査信号を生成する。ビーム電流行列は、スポット状のイオンビームのx方向のビーム形状に関する全ての情報を含むため、イオンビームのx方向のビームサイズ(つまり、スポットサイズ)が大きい場合であっても、目標となるビーム電流密度分布J(Xj)を実現するための走査信号を短時間で高精度に計算できる。
【0017】
本実施の形態では、さらに、ビーム電流密度分布の測定値に基づいてビーム電流行列の各成分Iijの値を補正し、補正されたビーム電流行列に基づいて目標とするビーム電流密度分布を実現するための走査信号を生成する。補正されたビーム電流行列を用いることにより、ビーム電流行列をビーム電流密度分布の実測値に適合させることができる。補正されたビーム電流行列に基づいて走査信号を生成することにより、目標とするビーム電流密度分布を実現するための走査信号を短時間で高精度に計算できる。
【0018】
図1は、実施の形態に係るイオン注入装置10を概略的に示す上面図であり、図2は、イオン注入装置10の概略構成を示す側面図である。イオン注入装置10は、被処理物の表面にイオン注入処理を施すよう構成される。被処理物は、例えば基板であり、例えば半導体ウェハである。説明の便宜のため、本明細書において被処理物をウェハWと呼ぶことがあるが、これは注入処理の対象を特定の物体に限定することを意図しない。
【0019】
イオン注入装置10は、ビームを一方向に往復走査させ、ウェハWを走査方向と直交する方向に往復運動させることによりウェハWの処理面全体にわたってスポット状のイオンビームを照射するよう構成される。本書では説明の便宜上、設計上のビームラインAに沿って進むイオンビームの進行方向をz方向とし、z方向に垂直な面をxy面と定義する。イオンビームをウェハWに対して走査する場合において、ビームの走査方向をx方向とし、z方向及びx方向に垂直な方向をy方向とする。したがって、ビームの往復走査はx方向に行われ、ウェハWの往復運動はy方向に行われる。
【0020】
イオン注入装置10は、イオン生成装置12と、ビームライン装置14と、注入処理室16と、ウェハ搬送装置18とを備える。イオン生成装置12は、イオンビームをビームライン装置14に与えるよう構成される。ビームライン装置14は、イオン生成装置12から注入処理室16へイオンビームを輸送するよう構成される。注入処理室16には、注入対象となるウェハWが収容され、ビームライン装置14から与えられるイオンビームをウェハWに照射する注入処理がなされる。ウェハ搬送装置18は、注入処理前の未処理ウェハを注入処理室16に搬入し、注入処理後の処理済ウェハを注入処理室16から搬出するよう構成される。イオン注入装置10は、イオン生成装置12、ビームライン装置14、注入処理室16およびウェハ搬送装置18に所望の真空環境を提供するための真空排気系(図示せず)を備える。
【0021】
ビームライン装置14は、ビームラインAの上流側から順に、質量分析部20、ビームパーク装置24、ビーム整形部30、ビーム走査部32、ビーム平行化部34および角度エネルギーフィルタ(AEF;Angular Energy Filter)36を備える。なお、ビームラインAの上流とは、イオン生成装置12に近い側のことをいい、ビームラインAの下流とは注入処理室16(またはビームストッパ46)に近い側のことをいう。
【0022】
質量分析部20は、イオン生成装置12の下流に設けられ、イオン生成装置12から引き出されたイオンビームから必要なイオン種を質量分析により選択するよう構成される。質量分析部20は、質量分析磁石21と、質量分析レンズ22と、質量分析スリット23とを有する。
【0023】
質量分析磁石21は、イオン生成装置12から引き出されたイオンビームに磁場を印加し、イオンの質量電荷比M=m/q(mは質量、qは電荷)の値に応じて異なる経路でイオンビームを偏向させる。質量分析磁石21は、例えばイオンビームにy方向(図1および図2では-y方向)の磁場を印加してイオンビームをx方向に偏向させる。質量分析磁石21の磁場強度は、所望の質量電荷比Mを有するイオン種が質量分析スリット23を通過するように調整される。
【0024】
質量分析レンズ22は、質量分析磁石21の下流に設けられ、イオンビームに対する収束/発散力を調整するよう構成される。質量分析レンズ22は、質量分析スリット23を通過するイオンビームのビーム進行方向(z方向)の収束位置を調整し、質量分析部20の質量分解能M/dMを調整する。なお、質量分析レンズ22は必須の構成ではなく、質量分析部20に質量分析レンズ22が設けられなくてもよい。
【0025】
質量分析スリット23は、質量分析レンズ22の下流に設けられ、質量分析レンズ22から離れた位置に設けられる。質量分析スリット23は、質量分析磁石21によるビーム偏向方向(x方向)がスリット幅となるように構成され、x方向が相対的に短く、y方向が相対的に長い形状の開口23aを有する。
【0026】
質量分析スリット23は、質量分解能の調整のためにスリット幅が可変となるように構成されてもよい。質量分析スリット23は、スリット幅方向に移動可能な二枚のビーム遮蔽体により構成され、二枚のビーム遮蔽体の間隔を変化させることによりスリット幅が調整可能となるように構成されてもよい。質量分析スリット23は、スリット幅の異なる複数のスリットのいずれか一つに切り替えることによりスリット幅が可変となるよう構成されてもよい。
【0027】
ビームパーク装置24は、ビームラインAからイオンビームを一時的に退避し、下流の注入処理室16(またはウェハW)に向かうイオンビームを遮蔽するよう構成される。ビームパーク装置24は、ビームラインAの途中の任意の位置に配置することができるが、例えば、質量分析レンズ22と質量分析スリット23の間に配置できる。質量分析レンズ22と質量分析スリット23の間には一定の距離が必要であるため、その間にビームパーク装置24を配置することで、他の位置に配置する場合よりもビームラインAの長さを短くすることができ、イオン注入装置10の全体を小型化できる。
【0028】
ビームパーク装置24は、一対のパーク電極25(25a,25b)と、ビームダンプ26と、を備える。一対のパーク電極25a,25bは、ビームラインAを挟んで対向し、質量分析磁石21のビーム偏向方向(x方向)と直交する方向(y方向)に対向する。ビームダンプ26は、パーク電極25a,25bよりもビームラインAの下流側に設けられ、ビームラインAからパーク電極25a,25bの対向方向に離れて設けられる。
【0029】
第1パーク電極25aはビームラインAよりも重力方向上側に配置され、第2パーク電極25bはビームラインAよりも重力方向下側に配置される。ビームダンプ26は、ビームラインAよりも重力方向下側に離れた位置に設けられ、質量分析スリット23の開口23aの重力方向下側に配置される。ビームダンプ26は、例えば、質量分析スリット23の開口23aが形成されていない部分で構成される。ビームダンプ26は、質量分析スリット23とは別体として構成されてもよい。
【0030】
ビームパーク装置24は、一対のパーク電極25a,25bの間に印加される電場を利用してイオンビームを偏向させ、ビームラインAからイオンビームを退避させる。例えば、第1パーク電極25aの電位を基準として第2パーク電極25bに負電圧を印加することにより、イオンビームをビームラインAから重力方向下方に偏向させてビームダンプ26に入射させる。図2において、ビームダンプ26に向かうイオンビームの軌跡を破線で示している。また、ビームパーク装置24は、一対のパーク電極25a,25bを同電位とすることにより、イオンビームをビームラインAに沿って下流側に通過させる。ビームパーク装置24は、イオンビームを下流側に通過させる第1モードと、イオンビームをビームダンプ26に入射させる第2モードとを切り替えて動作可能となるよう構成される。
【0031】
質量分析スリット23の下流にはインジェクタファラデーカップ28が設けられる。インジェクタファラデーカップ28は、インジェクタ駆動部29の動作によりビームラインAに出し入れ可能となるよう構成される。インジェクタ駆動部29は、インジェクタファラデーカップ28をビームラインAの延びる方向と直交する方向(例えばy方向)に移動させる。インジェクタファラデーカップ28は、図2の破線で示すようにビームラインA上に配置された場合、下流側に向かうイオンビームを遮断する。一方、図2の実線で示すように、インジェクタファラデーカップ28がビームラインA上から外された場合、下流側に向かうイオンビームの遮断が解除される。
【0032】
インジェクタファラデーカップ28は、質量分析部20により質量分析されたイオンビームのビーム電流を計測するよう構成される。インジェクタファラデーカップ28は、質量分析磁石21の磁場強度を変化させながらビーム電流を測定することにより、イオンビームの質量分析スペクトラムを計測できる。計測した質量分析スペクトラムを用いて、質量分析部20の質量分解能を算出することができる。
【0033】
ビーム整形部30は、収束/発散四重極レンズ(Qレンズ)などの収束/発散装置を備えており、質量分析部20を通過したイオンビームを所望の断面形状に整形するよう構成されている。ビーム整形部30は、例えば、電場式の三段四重極レンズ(トリプレットQレンズともいう)で構成され、三つの四重極レンズ30a,30b,30cを有する。ビーム整形部30は、三つのレンズ装置30a~30cを用いることにより、イオンビームの収束または発散をx方向およびy方向のそれぞれについて独立に調整しうる。ビーム整形部30は、磁場式のレンズ装置を含んでもよく、電場と磁場の双方を利用してビームを整形するレンズ装置を含んでもよい。
【0034】
ビーム走査部32は、ビームの往復走査を提供するよう構成され、整形されたイオンビームをx方向に走査するビーム偏向装置である。ビーム走査部32は、ビーム走査方向(x方向)に対向する走査電極対を有する。走査電極対は可変電圧電源(図示せず)に接続されており、走査電極対の間に印加される電圧を周期的に変化させることにより、電極間に生じる電界を変化させてイオンビームをさまざまな角度に偏向させる。その結果、イオンビームがx方向の走査範囲全体にわたって走査される。図1において、矢印Xによりビームの走査方向及び走査範囲を例示し、走査範囲でのイオンビームの複数の軌跡を一点鎖線で示している。なお、ビーム走査部32は他のビーム走査装置で置き換えられてもよく、ビーム走査装置は磁界を利用する磁石装置として構成されてもよい。
【0035】
ビーム平行化部34は、走査されたイオンビームの進行方向を設計上のビームラインAの軌道と平行にするよう構成される。ビーム平行化部34は、y方向の中央部にイオンビームの通過スリットが設けられた円弧形状の複数の平行化レンズ電極を有する。平行化レンズ電極は、高圧電源(図示せず)に接続されており、電圧印加により生じる電界をイオンビームに作用させて、イオンビームの進行方向を平行に揃える。なお、ビーム平行化部34は他のビーム平行化装置で置き換えられてもよく、ビーム平行化装置は磁界を利用する磁石装置として構成されてもよい。
【0036】
ビーム平行化部34の下流には、イオンビームを加速または減速させるためのAD(Accel/Decel)コラム(図示せず)が設けられてもよい。
【0037】
角度エネルギーフィルタ(AEF)36は、イオンビームのエネルギーを分析し必要なエネルギーのイオンを下方に偏向して注入処理室16に導くよう構成されている。角度エネルギーフィルタ36は、電界偏向用のAEF電極対を有する。AEF電極対は、高圧電源(図示せず)に接続される。図2において、上側のAEF電極に正電圧、下側のAEF電極に負電圧を印加させることにより、イオンビームを下方に偏向させる。なお、角度エネルギーフィルタ36は、磁界偏向用の磁石装置で構成されてもよく、電界偏向用のAEF電極対と磁石装置の組み合わせで構成されてもよい。
【0038】
このようにして、ビームライン装置14は、ウェハWに照射されるべきイオンビームを注入処理室16に供給する。本実施の形態において、イオン生成装置12およびビームライン装置14をビーム生成装置ともいう。ビーム生成装置は、ビーム生成装置を構成する各種機器の動作パラメータを調整することで、所望の注入条件を実現するためのイオンビームを生成するよう構成される。
【0039】
注入処理室16は、ビームラインAの上流側から順に、エネルギースリット38、プラズマシャワー装置40、サイドカップ42(42L,42R)、プロファイラカップ44およびビームストッパ46を備える。注入処理室16は、図2に示されるように、1枚又は複数枚のウェハWを保持するプラテン駆動装置50を備える。
【0040】
エネルギースリット38は、角度エネルギーフィルタ36の下流側に設けられ、角度エネルギーフィルタ36とともにウェハWに入射するイオンビームのエネルギー分析をする。エネルギースリット38は、ビーム走査方向(x方向)に横長のスリットで構成されるエネルギー制限スリット(EDS;Energy Defining Slit)である。エネルギースリット38は、所望のエネルギー値またはエネルギー範囲のイオンビームをウェハWに向けて通過させ、それ以外のイオンビームを遮蔽する。
【0041】
プラズマシャワー装置40は、エネルギースリット38の下流側に位置する。プラズマシャワー装置40は、イオンビームのビーム電流量に応じてイオンビームおよびウェハWの表面(ウェハ処理面)に低エネルギー電子を供給し、イオン注入で生じるウェハ処理面における正電荷のチャージアップを抑制する。プラズマシャワー装置40は、例えば、イオンビームが通過するシャワーチューブと、シャワーチューブ内に電子を供給するプラズマ発生装置とを含む。
【0042】
サイドカップ42(42L,42R)は、ウェハWへのイオン注入処理中にイオンビームのビーム電流を測定するよう構成される。図2に示されるように、サイドカップ42L,42Rは、ビームラインA上に配置されるウェハWに対して左右(x方向)にずれて配置されており、イオン注入時にウェハWに向かうイオンビームを遮らない位置に配置される。イオンビームは、ウェハWが位置する範囲を超えてx方向に走査されるため、イオン注入時においても走査されるビームの一部がサイドカップ42L,42Rに入射する。これにより、イオン注入処理中のビーム電流量がサイドカップ42L,42Rにより計測される。
【0043】
プロファイラカップ44は、ウェハ処理面におけるビーム電流を測定するよう構成されるファラデーカップである。プロファイラカップ44は、プロファイラ駆動装置45の動作により可動となるよう構成され、イオン注入時にウェハWが位置する注入位置から退避され、ウェハWが注入位置にないときに注入位置に挿入される。プロファイラカップ44は、x方向に移動しながらビーム電流を測定することにより、x方向のビーム走査範囲の全体にわたってビーム電流を測定することができる。プロファイラカップ44は、ビーム走査方向(x方向)の複数の位置におけるビーム電流を同時に計測可能となるように、複数のファラデーカップがx方向に並んでアレイ状に形成されてもよい。
【0044】
サイドカップ42およびプロファイラカップ44の少なくとも一方は、ビーム電流量を測定するための単一のファラデーカップを備えてもよいし、ビームの角度情報を測定するための角度計測器を備えてもよい。角度計測器は、例えば、スリットと、スリットからビーム進行方向(z方向)に離れて設けられる複数の電流検出部とを備える。角度計測器は、例えば、スリットを通過したビームをスリット幅方向に並べられる複数の電流検出部で計測することにより、スリット幅方向のビームの角度成分を測定できる。サイドカップ42およびプロファイラカップ44の少なくとも一方は、x方向の角度情報を測定可能な第1角度測定器と、y方向の角度情報を測定可能な第2角度測定器とを備えてもよい。
【0045】
プラテン駆動装置50は、ウェハ保持装置52と、往復運動機構54と、ツイスト角調整機構56と、チルト角調整機構58とを含む。ウェハ保持装置52は、ウェハWを保持するための静電チャック等を含む。往復運動機構54は、ビーム走査方向(x方向)と直交する往復運動方向(y方向)にウェハ保持装置52を往復運動させることにより、ウェハ保持装置52に保持されるウェハをy方向に往復運動させる。図2において、矢印YによりウェハWの往復運動を例示する。
【0046】
ツイスト角調整機構56は、ウェハWの回転角を調整する機構であり、ウェハ処理面の法線を軸としてウェハWを回転させることにより、ウェハの外周部に設けられるアライメントマークと基準位置との間のツイスト角を調整する。ここで、ウェハのアライメントマークとは、ウェハの外周部に設けられるノッチやオリフラのことをいい、ウェハの結晶軸方向やウェハの周方向の角度位置の基準となるマークをいう。ツイスト角調整機構56は、ウェハ保持装置52と往復運動機構54の間に設けられ、ウェハ保持装置52とともに往復運動される。
【0047】
チルト角調整機構58は、ウェハWの傾きを調整する機構であり、ウェハ処理面に向かうイオンビームの進行方向とウェハ処理面の法線との間のチルト角を調整する。本実施の形態では、ウェハWの傾斜角のうち、x方向の軸を回転の中心軸とする角度をチルト角として調整する。チルト角調整機構58は、往復運動機構54と注入処理室16の内壁の間に設けられており、往復運動機構54を含むプラテン駆動装置50全体をR方向に回転させることでウェハWのチルト角を調整するように構成される。
【0048】
プラテン駆動装置50は、イオンビームがウェハWに照射される注入位置と、ウェハ搬送装置18との間でウェハWが搬入または搬出される搬送位置との間でウェハWが移動可能となるようにウェハWを保持する。図2は、ウェハWが注入位置にある状態を示しており、プラテン駆動装置50は、ビームラインAとウェハWとが交差するようにウェハWを保持する。ウェハWの搬送位置は、ウェハ搬送装置18に設けられる搬送機構または搬送ロボットにより搬送口48を通じてウェハWが搬入または搬出される際のウェハ保持装置52の位置に対応する。
【0049】
ビームストッパ46は、ビームラインAの最下流に設けられ、例えば、注入処理室16の内壁に取り付けられる。ビームラインA上にウェハWが存在しない場合、イオンビームはビームストッパ46に入射する。ビームストッパ46は、注入処理室16とウェハ搬送装置18の間を接続する搬送口48の近くに位置しており、搬送口48よりも鉛直下方の位置に設けられる。
【0050】
ビームストッパ46には、複数のチューニングカップ47(47a,47b,47c,47d)が設けられている。複数のチューニングカップ47は、ビームストッパ46に入射するイオンビームのビーム電流を測定するよう構成されるファラデーカップである。複数のチューニングカップ47は、x方向に間隔をあけて配置されている。複数のチューニングカップ47は、例えば、注入位置におけるビーム電流をプロファイラカップ44を用いずに簡易的に測定するために用いられる。
【0051】
サイドカップ42(42L,42R)、プロファイラカップ44およびチューニングカップ47(47a~47d)は、イオンビームの物理量としてビーム電流を測定するためのビーム測定装置、または、ビーム電流を検出するためのビーム検出部(beam detector)である。サイドカップ42(42L,42R)、プロファイラカップ44およびチューニングカップ47(47a~47d)は、イオンビームの物理量としてビーム角度を測定するためのビーム測定装置、または、ビーム角度を検出するためのビーム検出部であってもよい。
【0052】
イオン注入装置10は、制御装置60をさらに備える。制御装置60は、イオン注入装置10の動作全般を制御する。制御装置60は、ハードウェア的には、コンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や機械装置で実現され、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現される。制御装置60により提供される各種機能は、ハードウェアおよびソフトウェアの連携によって実現されうる。
【0053】
図3は、制御装置60の構成の一例を模式的に示す図である。制御装置60は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ90と、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などのメモリ91と、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの記憶装置92と、これらを接続するシステムバス93とを備える。制御装置60は、例えば、システムバス93を介して、キーボードやマウスなどのユーザインターフェースである入力装置94と、液晶ディスプレイなどの表示装置95と、磁気テープ、磁気ディスクおよび光学ディスクなどの記録媒体に記録されるプログラムを読み取るための読取装置96と、ネットワーク98を介した通信によってプログラムを取得するための通信インターフェース97とに接続される。
【0054】
制御装置60は、例えば、メモリ91に格納されたプログラムをプロセッサ90が実行することにより、プログラムにしたがってイオン注入装置10の動作全般を制御する。プロセッサ90は、記憶装置92に記憶されるプログラムを実行してもよいし、読取装置96により記録媒体から取得されるプログラムを実行してもよいし、ネットワーク98を介して通信インターフェース97により取得されるプログラムを実行してもよい。プログラムが格納されるメモリ91は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリであってもよいし、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)、フラッシュメモリ、磁気抵抗メモリ、抵抗変化型メモリ、強誘電体メモリなどの不揮発性メモリであってもよい。不揮発性メモリ、磁気テープおよび磁気ディスクなどの磁気記録媒体ならびに光学ディスクなどの光学記録媒体は、非一時的(non-transitory)かつ有形(tangible)なコンピュータ読み取り可能(computer readable)である記録媒体(storage medium)の一例である。
【0055】
図4は、注入処理室16内の構成を概略的に示す上面図であり、注入処理室16に配置されるビーム測定装置がスキャンビームSBを測定する様子を示している。イオンビームBは、矢印Xで示されるようにx方向に往復走査され、x方向に往復走査されたスキャンビームSBとしてウェハWに入射する。
【0056】
イオンビームBは、ウェハWが位置する注入範囲C1と、注入範囲C1よりも外側のモニタ範囲C2L,C2Rとを含む走査範囲C3にわたって往復スキャンされる。左右のモニタ範囲C2L,C2Rのそれぞれには、左右のサイドカップ42L,42Rが配置されている。左右のサイドカップ42L,42Rは、注入工程においてモニタ範囲C2L,C2RまでオーバースキャンされるイオンビームBを測定することができる。
【0057】
プロファイラカップ44は、注入工程において走査範囲C3よりも外側の非走査範囲C4Rに退避されている。図示する構成では、プロファイラ駆動装置45が右側に配置され、注入工程においてプロファイラカップ44が右側の非走査範囲C4Rに退避されている。なお、プロファイラ駆動装置45が左側に配置される構成では、注入工程において、プロファイラカップ44が左側の非走査範囲C4Lに退避されてもよい。
【0058】
プロファイラカップ44は、注入工程に先立って実行される準備工程において、注入範囲C1に配置され、注入範囲C1におけるイオンビームBのビーム電流を測定する。プロファイラカップ44は、注入範囲C1においてx方向に移動しながらビーム電流を測定し、スキャンビームSBのx方向のビーム電流密度分布を測定する。プロファイラカップ44は、注入工程におけるウェハ処理面に一致する平面(測定面MS)に沿ってx方向に移動することで、ウェハ処理面の位置でのビーム電流を測定する。プロファイラカップ44は、注入範囲C1に加えて、モニタ範囲C2L,C2RにおけるスキャンビームSBのx方向のビーム電流密度分布を測定してもよい。
【0059】
複数のチューニングカップ47は、注入範囲C1に配置され、注入範囲C1におけるイオンビームBのビーム電流を測定する。複数のチューニングカップ47は、ウェハWよりも下流側に離れた位置に配置されている。チューニングカップ47は、プロファイラカップ44のように注入範囲C1と非走査範囲C4Rの間で移動させる必要がないため、プロファイラカップ44に比べて簡易的に注入範囲C1におけるビーム電流を測定することができる。
【0060】
準備工程では、注入処理室16内に設けられる各種ファラデーカップにてビーム電流測定値が測定される。具体的には、サイドカップ42L,42R、プロファイラカップ44および複数のチューニングカップ47を用いて複数のビーム電流測定値が測定される。制御装置60は、取得したビーム電流測定値間の比率を記憶し、注入工程においてサイドカップ42L,42Rにより測定されるビーム電流測定値からウェハ処理面におけるビーム電流値を算出できるようにする。通常、各種ファラデーカップで測定されるビーム電流測定値間の比率は、ビームライン装置14のビーム光学系の設定に依存し、イオン生成装置12から引き出されるイオンビームBのビーム電流が多少変動したとしても、ビーム電流測定値の比率はほぼ一定である。つまり、準備工程においてビーム光学系の設定が決まれば、その後の注入工程におけるビーム電流測定値間の比率も変わらない。したがって、準備工程においてビーム電流測定値間の比率を記憶しておけば、その比率と、サイドカップ42L,42Rにより測定されるビーム電流測定値とに基づいて、注入工程においてウェハWにイオンが注入される注入位置(つまり、ウェハ処理面)でのビーム電流値を算出できる。
【0061】
注入工程では、サイドカップ42L,42Rを用いてビーム電流を常時測定できる。注入工程では、プロファイラカップ44やチューニングカップ47を用いてビーム電流を常時測定することはできず、間欠的な測定しかできない。したがって、注入工程では、サイドカップ42L,42Rにより測定されるビーム電流測定値に基づいて、ウェハ処理面に注入されるイオンのドーズ量が制御される。注入工程の途中でサイドカップ42L,42Rにより測定されるビーム電流測定値が変化した場合、ウェハWのy方向のウェハスキャン速度vw(y)を変化させることで、ウェハ処理面のドーズ量分布が調整される。例えば、ウェハ処理面の面内で均一なドーズ量分布を実現しようとする場合、サイドカップ42L,42Rによりモニタされるビーム電流値に比例する速度でウェハWを往復運動させる。具体的には、モニタするビーム電流測定値が増加する場合にはウェハスキャン速度vw(y)を速くし、モニタするビーム電流値が低下する場合にはウェハスキャン速度vw(y)を遅くする。これにより、スキャンビームSBのビーム電流の変動に起因するウェハ処理面内におけるドーズ量分布のばらつきを防ぐことができる。
【0062】
図5は、注入レシピ70のデータ構造を模式的に示す図である。制御装置60は、注入レシピにしたがってイオン注入工程を制御する。注入レシピ70は、基本設定データ71と、詳細設定データ72とを含む。基本設定データ71は、設定が必須となる注入条件を定める。基本設定データ71は、例えば、1)イオン種、2)ビームエネルギー、3)ビーム電流、4)ビームサイズ、5)ウェハチルト角、6)ウェハツイスト角、および、7)平均ドーズ量の設定データを含む。平均ドーズ量は、ウェハ処理面に注入されるべきドーズ量分布の面内平均値を示す。
【0063】
詳細設定データ72は、ウェハ処理面に注入すべきイオンのドーズ量分布を意図的に不均一にする「不均一注入」を実行する場合に設定される。詳細設定データ72は、ウェハ処理面内における二次元ドーズ量分布を一定値とする「均一注入」を実行する場合には設定されなくてもよい。詳細設定データ72は、8)二次元ドーズ量分布、および、9)補正データセットを含む。二次元ドーズ量分布は、例えば、不均一注入を実施した場合にウェハ処理面WS内に実現される二次元不均一ドーズ量分布の実績値である。補正データセットは、ビーム走査部32によるx方向のビームスキャン速度と、プラテン駆動装置50によるy方向のウェハスキャン速度とを可変制御するために用いられる。補正データセットは、二次元不均一ドーズ量分布を実現するための補正関数ファイルおよび相関情報ファイルを含む。
【0064】
図6(a),(b)は、二次元不均一ドーズ量分布73を模式的に示す図である。図6(a)は、円形のウェハ処理面WS内において不均一に設定される二次元ドーズ量分布を示し、ウェハ処理面WS内の領域74a,74b,74c,74dの濃淡によりドーズ量の大きさを示している。図示する例では、第1領域74aのドーズ量が最も大きく、第4領域74dのドーズ量が最も小さい。二次元不均一ドーズ量分布73は、プラテン駆動装置50に保持されるウェハWの向きを基準に定められる。具体的には、基本設定データ71に定められるウェハツイスト角となるようにウェハWをプラテン駆動装置50に配置したときのビームスキャン方向(x方向)とウェハスキャン方向(y方向)を基準に定められる。図示する例では、ウェハWの中心OからアライメントマークWMに向かう方向が+y方向となっているが、アライメントマークWMの位置はウェハツイスト角に応じて異なりうる。
【0065】
図6(b)は、二次元不均一ドーズ量分布73を定義するための複数の格子点75を模式的に示す。複数の格子点75は、例えば、ウェハ処理面WSにおいて等間隔に設定される。二次元不均一ドーズ量分布73は、例えば、複数の格子点75のそれぞれの位置座標と、複数の格子点75のそれぞれにおけるドーズ量とを対応付けるデータにより定義される。例えば、直径300mmのウェハの場合、ウェハ処理面WSの中心Oを原点とする31×31の格子点75が設定され、隣接する格子点75の間隔d1は10mmである。複数の格子点75の間隔d1は、イオンビームBのビームサイズより小さくなるように設定される。イオンビームBのビームサイズの一例は20mm~30mm程度である。
【0066】
図7は、補正関数ファイル77および相関情報ファイル78の一例を示す図である。補正関数ファイル77は、x方向の一次元不均一ドーズ量分布に基づいて定められる補正関数h(x)を定義する。補正関数ファイル77は、一つの二次元不均一ドーズ量分布73に対して複数定義され、図示する例では6個の補正関数ファイル77A,77B,77C,77D,77E,77Fが定義される。複数の補正関数ファイル77A~77Fのそれぞれは、補正関数h(x)の形状が互いに異なる。複数の補正関数ファイル77A~77Fの数は、例えば、一つの二次元不均一ドーズ量分布73に対して5個~10個程度定義される。
【0067】
相関情報ファイル78は、二次元不均一ドーズ量分布73と、複数の補正関数ファイル77とを対応付ける相関情報を定義する。ウェハ処理面WSは、y方向に複数の分割領域76_1~76_31(総称して分割領域76ともいう)に分割され、複数の分割領域76のそれぞれに複数の補正関数ファイル77A~77Fのいずれかが対応付けられる。複数の分割領域76のy方向の分割幅d2は、格子点75の間隔d1と同じであり、例えば10mmである。複数の分割領域76のそれぞれのy方向の中心位置は、格子点75の位置に対応しうる。複数の分割領域76のy方向の分割幅d2は、イオンビームのビームサイズ(例えば20mm~30mm)よりも小さくなるように設定される。
【0068】
複数の補正関数ファイル77の個数は、複数の分割領域76の個数よりも少なくてもよい。したがって、少なくとも一つの補正関数ファイル77は、複数の分割領域76に対応付けられてもよい。逆の言い方をすれば、複数の分割領域76に対して一つの補正関数ファイル77に定められる補正関数h(x)が共通して用いられてもよい。補正関数h(x)は、複数の分割領域76にて利用可能となるように規格化されてもよく、例えば、補正関数h(x)の最大値、平均値または第1方向における積分値が所定値となるように定義されてもよい。相関情報ファイル78は、複数の分割領域76のそれぞれの一次元不均一ドーズ量分布D(x)と、D(x)に対応する補正関数h(x)との比率を補正係数kとして保持する。複数の分割領域76のそれぞれの一次元不均一ドーズ量分布D(x)は、補正関数h(x)に補正係数kを乗じたk・h(x)に対応する。補正係数kの値は、相対的に高ドーズ量となる分割領域76において大きくなり、相対的に低ドーズ量となる分割領域76において小さくなる傾向にある。補正係数kは、y方向のウェハスキャン速度を制御するために用いられる。
【0069】
図8は、相関情報ファイル78の一例を示すテーブルである。相関情報ファイル78は、複数の分割領域76を識別する領域番号「1」~「31」のそれぞれに対し、ウェハ処理面WSが存在するx方向およびy方向の範囲と、補正関数ファイル77を識別する番号A~Fと、補正係数kの値とを定める。ウェハ処理面WSは円形状であるため、ウェハ処理面WSの中心Oから離れるほどウェハ処理面WSが存在するx方向の範囲が小さくなる。例えば、領域番号「1」では、ウェハ処理面WSの中心Oに対して±20mmの範囲のみにウェハ処理面WSが存在し、それよりも外側の範囲にはウェハ処理面WSは存在しない。一方、ウェハ処理面WSの中心Oに対応する領域番号「16」では、ウェハ処理面WSの直径に相当する±150mmの範囲全体にウェハ処理面WSが存在する。図示する例では、複数の分割領域76のそれぞれのy方向の幅が一定値(10mm)であるが、複数の分割領域76のそれぞれのy方向の幅が領域ごとに異なってもよい。
【0070】
図9は、複数ステップ注入を模式的に示す図である。不均一注入を実施する場合、ウェハWのアライメントマークWMを基準とする二次元不均一ドーズ量分布を固定したまま、ウェハツイスト角を変化させて複数回のイオン注入を実施する「複数ステップ注入」を実施することがある。ウェハツイスト角を変化させると、イオン注入装置10の座標系を基準とする二次元不均一ドーズ量分布も一緒に回転する。図9は、ウェハツイスト角を90度ずつ回転させて4回のイオン注入を実施する場合を示している。第1の二次元不均一ドーズ量分布73aは、上述の図6(a)の二次元不均一ドーズ量分布73と同じである。第2の二次元不均一ドーズ量分布73bは、第1の二次元不均一ドーズ量分布73aを右回りに90度回転させたものである。同様に、第3の二次元不均一ドーズ量分布73cは、第2の二次元不均一ドーズ量分布73bを右回りに90度回転させたものであり、第4の二次元不均一ドーズ量分布73dは、第3の二次元不均一ドーズ量分布73cを右回りに90度回転させたものである。複数ステップ注入における複数の二次元不均一ドーズ量分布73a~73dのそれぞれは、イオン注入装置10のx方向およびy方向の座標系から見て異なる形状を有している。そのため、複数ステップ注入では、複数の二次元不均一ドーズ量分布73a~73dのそれぞれについて補正データセットが定められる。4回のステップ注入を実施する場合、注入レシピ70には4回の注入工程に対応する4個の詳細設定データ72が含まれる。
【0071】
図10は、制御装置60の機能構成を模式的に示すブロック図である。制御装置60は、注入制御部61と、測定制御部65と、ビーム電流行列生成部66と、記憶部67とを備える。図10に示される各機能ブロックは、制御装置60が提供する各種機能を模式的に示すものであり、制御装置60が備えるプロセッサ90がメモリ91に格納されるプログラムを実行することにより実現される機能を示す。各機能ブロックの境界は、説明の便宜のために任意に決められたものであり、各種機能が適切に実現される限り、上述の機能ブロックとは別の境界が決められてもよい。制御装置60が提供する各種機能は、プロセッサ90およびメモリ91を備える単一の装置によって実現されてもよいし、それぞれがプロセッサ90およびメモリ91を備える複数の装置の連携によって実現されてもよい。
【0072】
注入制御部61は、注入レシピに基づいてイオン注入装置10の動作を制御する。注入制御部61は、ビーム制御部62と、ビーム走査制御部63と、プラテン制御部64とを含む。測定制御部65は、ビーム電流を測定するためのビーム測定装置の動作を制御し、ビーム測定装置により測定された測定値を取得する。ビーム電流行列生成部66は、走査信号とビーム測定装置により測定された測定値とに基づいて、ビーム電流行列を生成する。記憶部67は、注入レシピや注入レシピを実現するための動作パラメータなどを記憶する。
【0073】
ビーム制御部62は、イオン注入装置10を構成する各種機器の動作パラメータを調整することで、所望の注入レシピに定められる注入パラメータが実現されるようにする。ビーム制御部62は、イオン生成装置12のガス種や引出電圧、質量分析部20の磁場強度などを調整することでイオンビームのイオン種を制御する。ビーム制御部62は、イオン生成装置12の引出電圧、ビーム平行化部34の印加電圧、ADコラムの印加電圧、角度エネルギーフィルタ36の印加電圧などを調整することでイオンビームのビームエネルギーを制御する。ビーム制御部62は、イオン生成装置12のガス量、アーク電流、アーク電圧、ソースマグネット電流といった各種パラメータや、質量分析スリット23の開口幅などを調整することでイオンビームのビーム電流を制御する。ビーム制御部62は、ビーム整形部30に含まれる収束/発散装置の動作パラメータなどを調整することにより、ウェハ処理面WSに入射するイオンビームのビームサイズを制御する。
【0074】
ビーム走査制御部63は、ビーム走査部32の走査指令値の時間波形を定める走査信号を生成し、走査信号に基づいてビーム走査部32の動作を制御する。ビーム走査部32が電場式の場合、走査指令値は、ビーム走査部32の走査電極対に印加する走査電圧Vに相当する。ビーム走査部32が磁場式の場合、走査指令値は、ビーム走査部32の磁石装置を流れるマグネット電流に相当する。本実施の形態では、ビーム走査部32が電場式の場合について説明し、走査指令値が走査電圧Vと同義であるとみなして、走査指令値Vとも表す。
【0075】
ビーム走査制御部63は、ビーム走査部32により実現されるビームスキャン速度vb(x)を可変制御することにより、ビームスキャン方向(x方向)のビーム電流密度分布J(x)を制御する。x方向のビームスキャン速度vb(x)は、走査指令値Vの時間tに対する変化率dV/dtにほぼ比例する。ビーム走査制御部63は、例えば、相対的に高ドーズ量とする箇所において、ビームスキャン速度vb(x)が遅くなるように走査指令値Vの時間変化率dV/dtを小さくする。ビーム走査制御部63は、例えば、相対的に低ドーズ量とする箇所において、ビームスキャン速度vb(x)が速くなるように制御電圧の時間変化率dV/dtを大きくする。
【0076】
ビーム走査制御部63は、ビーム電流行列生成部66によって生成されるビーム電流行列に基づいて、目標とするビーム電流密度分布を実現するための走査信号を生成する。ビーム走査制御部63は、例えば、注入レシピに含まれる補正関数ファイル77に定められる補正関数h(x)と、ビーム電流行列とに基づいて、補正関数h(x)に比例するビーム電流密度分布を実現するための走査信号を生成する。ビーム電流行列の詳細については別途後述する。
【0077】
プラテン制御部64は、相関情報ファイル78に基づいて往復運動機構54の往復運動速度、つまり、y方向のウェハスキャン速度vw(y)を指定するための速度指令値を生成する。プラテン制御部64は、相対的に高ドーズ量とする箇所においてウェハスキャン速度vw(y)を遅くし、相対的に低ドーズ量とする箇所においてウェハスキャン速度vw(y)を速くするように速度指令値を定める。例えば、y方向の位置に応じたウェハスキャン速度vw(y)は、相関情報ファイル78に定められる複数の分割領域76のそれぞれの補正係数kの逆数1/kに比例するように設定される。
【0078】
プラテン制御部64は、注入工程において取得されるビーム電流の測定値に基づいてウェハスキャン速度を調整してもよい。プラテン制御部64は、例えばサイドカップ42L,42Rにて測定されるビーム電流測定値に基づいて、注入工程におけるビーム電流の変動の影響を低減するようにウェハスキャン速度を調整してもよい。
【0079】
図11は、実施の形態に係るビーム電流行列80を模式的に示す図である。ビーム電流行列80は、ビーム走査部32の走査指令値Vの配列Vi(i=1…m)と、ウェハ処理面に一致する測定面MSにおけるx方向の位置Xの配列Xj(j=1…n)とに対するビーム電流値Iijを成分82とする。図11の例では、ビーム電流行列80の行(横方向)が走査指令値Viであり、ビーム電流行列80の列(縦方向)がx方向の位置Xjである。ビーム電流行列80の行成分84は、x方向の位置Xjを特定の位置に固定した場合における走査指令値Viに対するビーム電流分布I(Vi)である。ビーム電流行列80の列成分86は、走査指令値Viを特定の値に固定した場合におけるx方向の位置Xjに対するビーム電流分布I(Xj)である。
【0080】
図12は、走査指令値Viに対するビーム電流分布I(Vi)の測定を模式的に示す図であり、図11のビーム電流行列80の行成分84の測定方法を示す。走査指令値Viに対するビーム電流分布I(Vi)は、ビーム走査部32の走査指令値Viを変化させてイオンビームBを矢印Xで示されるようにスキャンした状態で測定され、スキャンビームSBのビーム電流を特定の測定位置Xpに固定されたプロファイラカップ44により測定することによって得られる。走査指令値Viに対するビーム電流分布I(Vi)は、例えば、特定の走査指令値Vpを中心とする範囲84aにおいてピークを有し、特定の走査指令値Vpから十分に離れた範囲84b,84cにおいて0となる分布形状を有する。ここで、特定の走査指令値Vpは、ウェハ処理面に一致する測定面MSにおいて、イオンビームBが特定の測定位置Xpに照射されるように偏向させるための走査指令値に相当する。
【0081】
図13は、位置Xjに対するビーム電流分布I(Xj)の測定を模式的に示す図であり、図11のビーム電流行列80の列成分86の測定方法を示す。位置Xjに対するビーム電流分布I(Xj)は、ビーム走査部32の走査指令値Viを特定値Vpに固定した状態で測定され、プロファイラカップ44を矢印Xで示されるように移動させることにより複数の測定位置XjにおいてイオンビームBのビーム電流を測定することによって得られる。位置Xjに対するビーム電流分布I(Xj)は、例えば、特定の測定位置Xpを中心とする範囲86aにおいてピークを有し、特定の測定位置Xpから十分に離れた範囲86b,86cにおいて0となる分布形状を有する。ここで、特定の測定位置Xpは、特定の走査指令値Vpに固定したときに、ウェハ処理面に一致する測定面MSにおいて、イオンビームBが照射されるx方向の位置に相当する。
【0082】
図14は、ビーム電流行列I(Vi,Xj)とビーム電流密度分布J(Xj)の関係を模式的に示すグラフである。図14では、走査指令値Viが互いに異なる複数のビーム電流分布Ii(Xj)を重ねて示している。ビーム電流密度分布J(Xj)は、ビーム電流行列I(Vi,Xj)を構成する複数のビーム電流分布Ii(Xj)を足し合わせたものに相当し、以下の式(2)で表すことができる。
【数2】
ここで、Δtiは、走査指令値Viにおけるスキャンビームの滞在時間であり、走査指令値Viにおけるビームスキャン速度viの逆数(1/vi)に比例する。例えば、x方向における特定の位置Xqにおけるビーム電流密度J(Xq)は、走査指令値Viが互いに異なる複数のビーム電流分布Ii(Xj)の位置Xqにおける複数のビーム電流値Ii(Xq)を滞在時間Δtiを考慮して合計した値であり、以下の式(3)で表すことができる。
【数3】
【0083】
つづいて、ビーム電流行列I(Vi,Xj)の生成方法について説明する。図11のビーム電流行列80は、複数の行成分84の集合または複数の列成分86の集合であるため、複数の行成分84または複数の列成分86のいずれかを測定することによって導出できる。本実施の形態では、測定時間の観点から、複数の行成分84を測定することによってビーム電流行列80を導出する。図12に示される特定の測定位置Xpにおける行成分84の測定にかかる最短の時間は、スキャンビームSBの往復のスキャン時間の半分に相当する。スキャンビームSBのスキャン周期が1kHzの場合、一つの測定位置Xjにおける行成分84の測定にかかる最短の時間は0.5ミリ秒である。一方、図13に示される特定の走査指令値Vpにおける列成分86の測定にかかる最短の時間は、プロファイラカップ44を図4の注入範囲C1にわたって移動させる時間に相当し、例えば2秒程度である。
【0084】
測定制御部65は、プロファイラカップ44を移動させながら複数の測定位置にてスキャンビームSBのビーム電流を測定することにより、複数の行成分84を取得する。測定対象となるスキャンビームSBは、第1走査信号に基づいて往復走査される。第1走査信号は、例えば、ビームスキャン速度vb(x)が一定であり、走査指令値Viの時間変化率dVi/dtが一定となるように構成される。なお、第1走査信号は、ビームスキャン速度vb(x)が一定ではなく、意図的に不均一となるように構成されてもよい。なお、第1走査信号に基づいて往復走査されるスキャンビームのことを「第1スキャンビーム」ともいう。
【0085】
測定制御部65は、例えば、300mmの注入範囲C1において、3mmごとに設定される100箇所の測定位置にてスキャンビームSBのビーム電流をプロファイラカップ44に測定させる。測定制御部65は、プロファイラカップ44を移動させながらビーム電流を測定する場合、例えば、ある測定位置から±1.5mmの位置となる3mmの範囲にて測定されるビーム電流をその測定位置におけるビーム電流の測定値として取得する。プロファイラカップ44の移動速度が150mm/sである場合、測定位置の間隔3mmを通過する時間は20msである。スキャンビームSBのスキャン周期が1kHzの場合、20msの間にスキャンビームSBが20回往復走査されるため、走査の往路と復路のそれぞれにおいてスキャンビームSBを20回ずつ測定でき、往復で計40回測定できる。したがって、300mmの注入範囲C1にわたってプロファイラカップ44を移動させる2秒間において、例えば、100箇所の測定箇所のそれぞれにおいてスキャンビームSBのビーム電流の時間波形を40回測定でき、その平均値を計算することができる。
【0086】
図15は、第1走査信号およびビーム電流の時間波形の一例を示すグラフである。図15の上段は、第1走査信号の時間波形の一例を示す。図15の下段は、プロファイラカップ44が特定の測定位置Xpに位置するときにプロファイラカップ44によって測定されるビーム電流の時間波形(ビーム波形ともいう)を示す。スキャンビームSBは、プロファイラカップ44の測定位置Xpに対応する特定の走査指令値Vpとなるタイミングでプロファイラカップ44を横切るため、特定の走査指令値Vpとなるタイミングにてビーム波形I(t)が測定される。一つのビーム波形I(t)の時間幅twは、スキャンされるスポット状のイオンビームBがプロファイラカップ44の測定幅(スリット幅)を通過する時間に相当する。例えば、プロファイラカップ44のx方向の測定幅が5mmであり、イオンビームBのx方向のスポットサイズが15mmであり、イオンビームBのx方向の走査速度が800m/sである場合、一つのビーム波形の時間幅twは25μsである。図15の下段の丸印は、ビーム電流測定のサンプリングタイミングを示す。ビーム電流測定のサンプリング周波数は、例えば0.5MHzである。図15の例では、25μsの時間幅twを2μsごとにサンプリングするため、13個のサンプリング値によって一つのビーム波形I(t)が構成される。
【0087】
なお、スキャンビームSBの測定に関する各種パラメータは、上記例示した数値に限られず、他の任意の数値が採用されてもよい。スキャンビームSBの周波数は、0.1Hz~10kHzの範囲から選択され、例えば1Hz~5kHzの範囲から選択される。注入範囲C1は、100mm~1000mmの範囲から選択され、例えば150mm~450mmの範囲、好ましくは200mm~300mmの範囲から選択される。注入範囲C1は、例えばウェハWの直径に基づいて選択されてもよい。プロファイラカップ44の移動速度は、50mm/s~500mm/sの範囲から選択され、例えば100mm/s~300mm/sの範囲から選択される。測定位置の間隔は、0.5mm~100mmの範囲から選択され、例えば1mm~10mmの範囲から選択される。イオンビームBのスポットサイズは、5mm~500mmの範囲から選択され、例えば10mm~300mm、好ましくは20mm~200mmの範囲から選択される。プロファイラカップ44の測定幅は、1mm~30mmの範囲から選択され、例えば5mm~10mmの範囲から選択される。ビーム電流のサンプリング周波数は、10kHz~10MHzの範囲から選択され、例えば0.1MHz~1MHzの範囲から選択される。
【0088】
測定制御部65は、プロファイラカップ44を注入範囲C1にわたって往復移動させ、往復移動の往路と復路においてビーム電流の測定位置が異なるようにしてもよい。例えば、プロファイラカップ44は、往復移動の往路において複数の第1測定位置にてビーム電流の時間波形を測定し、往復移動の復路において複数の第2測定位置にてビーム電流の時間波形を測定してもよい。複数の第1測定位置および複数の第2測定位置は、x方向に交互に位置するように設定されてもよい。
【0089】
測定制御部65は、ビーム測定装置のビーム電流測定に関するパラメータに基づいて、ビーム電流の時間波形を補正してもよい。測定制御部65は、ビーム測定装置が有するx方向の測定幅に基づいてビーム波形を補正してもよい。プロファイラカップ44などのビーム測定装置は、x方向の測定幅(スリット幅)にわたるビーム電流の平均値を測定している。そのため、プロファイラカップ44によって測定される一つのビーム波形の時間幅twは、実際のイオンビームBのスポットサイズに対応する真のビーム波形の時間幅よりも大きくなる。図15の例であれば、スポットサイズ15mmのイオンビームBに対してプロファイラカップ44にて測定されるビーム波形の時間幅twは25μsになるが、真のビーム波形の時間幅は19μsになる。
【0090】
測定制御部65は、例えば、ビーム波形の測定値が真のビーム波形を平滑化した成分によって構成されるという関係性を利用してビーム電流の時間波形を補正することにより、真のビーム波形に相当する時間波形を導出してもよい。測定制御部65は、ビーム波形の測定値の時間幅twを狭めるようにビーム電流の時間波形を補正することにより、真のビーム波形に相当する時間波形を導出してもよい。
【0091】
測定制御部65は、ビーム電流測定回路に含まれるローパスフィルタの時定数τ=CRに基づいてビーム電流の時間波形を補正してもよい。図16は、ビーム電流測定回路100の構成の一例を示す回路図である。ビーム電流測定回路100は、シャント抵抗102と、フィルタ回路104と、増幅回路106と、A/D(Analog to Digital)変換回路108とを含む。シャント抵抗102は、プロファイラカップ44に入射するイオンビームのビーム電流Iinを入力電圧Vinに変換する。シャント抵抗102の抵抗値をRsとすると、Vin=Rs・Iinである。フィルタ回路104は、抵抗RとコンデンサCを用いたローパスフィルタ(LPF)であり、入力電圧Vinを平滑化した出力電圧Voutを生成する。フィルタ回路104の入力電圧Vinと出力電圧Voutの関係性は、Vin=Vout+CR(dVout/dt)と表される。増幅回路106は、オペアンプと抵抗R1~R4により構成される電圧増幅回路であり、フィルタ回路104の出力電圧Voutを所定の増幅率βで増幅した電圧β・Voutを出力する。A/D変換回路108は、増幅回路106の出力電圧β・Voutをサンプリングしてデジタル値を生成する。測定制御部65は、A/D変換回路108から出力されるデジタル値をビーム電流の測定値として取得する。
【0092】
測定制御部65が取得するビーム電流の測定値は、フィルタ回路104の出力電圧Voutに比例するため、プロファイラカップ44において測定される真のビーム波形Iin(t)に比例しない。測定制御部65は、フィルタ回路104の時定数τ=CRを用いて、Vin=Vout+CR(dVout/dt)の関係式に基づいて、VoutからVinを算出することにより、真のビーム波形Iin(t)に相当する時間波形を導出してもよい。
【0093】
測定制御部65は、さらに、ビーム測定装置によって測定されるビーム電流を測定位置Xjごとに時間積分することにより、第1スキャンビームのx方向におけるビーム電流密度分布を算出する。第1スキャンビームのビーム電流密度分布の実測値のことを「第1ビーム電流密度分布J1(Xj)」ともいう。測定制御部65は、例えば、図15の下段に示されるビーム波形を時間積分し、ビーム波形が占める面積を算出することにより、特定の測定位置Xpにおける第1ビーム電流密度の実測値J1(Xp)を算出する。測定制御部65は、プロファイラカップ44にて測定されるビーム電流の時間波形をサンプリング測定することによりビーム波形I(t)を取得すると同時に、ビーム電流の時間波形を時間積分することによって第1ビーム電流密度分布の実測値J1(Xj)を算出する。
【0094】
ビーム電流行列生成部66は、複数の測定位置におけるビーム電流の時間波形I(t)と、第1走査信号に定められる走査指令値の時間波形V(t)とに基づいて、ビーム電流行列を算出する。ビーム電流行列生成部66は、走査指令値の時間波形V(t)に基づいて、ビーム電流の時間波形I(t)を走査指令値Viに対するビーム電流分布I(Vi)に変換し、複数の測定位置におけるビーム電流分布I(Vi)を算出する。これにより、複数の位置Xjおよび複数の走査指令値Viに対するビーム電流値I(Xj,Vi)=Iijを成分とするビーム電流行列を算出できる。
【0095】
ビーム電流行列生成部66は、複数の測定位置Xcに対するビーム電流値の成分Iij=I(Xc,Vj)に基づいて、複数の測定位置Xcとは異なる複数の補足位置Xdに対するビーム電流値の成分Iij=I(Xd,Vj)を算出してもよい。ビーム電流行列生成部66は、例えば、隣接する二つの測定位置Xc1,Xc2の間に位置する補足位置Xdに対するビーム電流値の成分Iij=I(Xd,Vj)を内挿により算出してもよい。ビーム電流行列生成部66は、複数の測定位置Xcの外側に位置する補足位置Xdに対するビーム電流値の成分Iij=I(Xd,Vj)を外挿により算出してもよい。複数の補足位置Xdの数は、複数の測定位置Xcの数と同程度であってもよいし、複数の測定位置Xcの数よりも多くてもよい。複数の補足位置Xdの数は、複数の測定位置Xcの数の2倍~5倍程度であってもよい。
【0096】
ビーム電流行列生成部66は、算出したビーム電流行列の各成分Iijの値を第1ビーム電流密度分布の実測値J1(Xj)に基づいて補正し、補正ビーム電流行列の各成分I’ijを決定する。補正ビーム電流行列の各成分I’ijは、補正前のビーム電流行列の各成分Iijに補正行列αijを乗算したものであり、I’ij=αij・Iijと表現することができる。補正行列αijは、補正ビーム電流行列I’ijに基づくビーム電流密度分布の算出値J’(Xj)と、第1ビーム電流密度分布の実測値J1(Xj)とが一致するように決定される。補正ビーム電流行列I’ijに基づくビーム電流密度分布の算出値J’(Xj)は、第1走査信号に定められる走査指令値Viにおける第1スキャンビームの滞在時間Δt1iを用いて、以下の式(4)で表される。
【数4】
理想的には、補正前のビーム電流行列Iijと第1走査信号に定められる走査指令値Viとに基づいて、以下の式(5)で算出されるビーム電流密度分布の算出値J(Xj)が、第1ビーム電流密度分布の実測値J1(Xj)と一致することが望ましいが、発明者らの知見によれば、両者の間にはずれが存在する。
【数5】
上記式(5)で示されるビーム電流密度分布の算出値J(Xj)は、式(1)においてΔti=Δt1iとして計算したものである。
【0097】
図17は、補正前のビーム電流行列Iijと第1走査信号に定められる走査指令値Viとに基づくビーム電流密度分布の算出値J(Xj)およびビーム電流密度分布の実測値J1(Xj)の一例を示すグラフである。グラフの縦軸は電流強度を示しており、ビーム電流密度分布の全体の平均値を1として規格化している。算出値J(Xj)および実測値J1(Xj)は、概ね一致しているが、両者の間には位置Xjに応じて±2%程度の範囲内でずれが存在する。算出値J(Xj)と実測値J1(Xj)を一致させるために、位置Xjに応じた補正係数α(Xj)を定義することができ、α(Xj)=J1(Xj)/J(Xj)と表すことができる。補正行列αijは、補正係数α(Xj)を対角成分とする対角行列となる。
【0098】
つづいて、ビーム電流行列に基づく走査信号の生成方法について説明する。ビーム走査制御部63は、目標とするビーム電流密度分布Jt(Xj)と、ビーム電流行列生成部66によって生成された補正ビーム電流行列I’ijとに基づいて、走査信号を生成する。ここで、目標とするビーム電流密度分布Jt(Xj)を実現するための走査信号を「第2走査信号」ともいう。ビーム走査制御部63は、以下の式(6)の関係性を満たすようなビーム滞在時間Δt2iを算出する。
【数6】
ビーム走査制御部63は、走査指令値Viにおけるスキャンビームの滞在時間Δt2iに基づいて、第2走査信号を生成する。
【0099】
ビーム走査制御部63は、最適化計算手法を用いて、走査指令値Viにおけるスキャンビームの滞在時間Δt2iを算出できる。例えば、目標とするビーム電流密度分布Jt(Xj)と、補正ビーム電流行列I’ijおよびビーム滞在時間Δt2iに基づいて算出されるビーム電流密度分布J’(Xj)との差異を評価するための第1評価値に基づく最適化計算によってビーム滞在時間Δt2iを算出できる。第1評価値E1として、例えば、以下の式(7)で表される目標値Jt(Xj)と算出値J’(Xj)の二乗誤差の総和を用いることができる。
【数7】
ビーム走査制御部63は、第1評価値E1が最小となるような最適化計算によってビーム滞在時間Δt2iを算出できる。
【0100】
ビーム走査制御部63は、複数の評価値を組み合わせて最適化計算をしてもよい。ビーム走査制御部63は、第2走査信号における走査指令値Viの時間変化率dVi/dtの変化量を評価するための第2評価値をさらに用いてもよい。第2評価値E2は、例えば、ビーム滞在時間Δt2iの変化量の二乗和として定義することができ、以下の式(8)で表すことができる。
【数8】
第2評価値E2が小さくなるように最適化計算をすることによって、ビーム滞在時間Δt2iの変化率を小さくして第2走査信号における走査指令値Viの変化を平坦にすることができる。ビーム走査制御部63は、第1評価値E1と第2評価値E2を組み合わせた評価関数Eを用いることができ、E=E1+w2・E2が最小となるような最適化計算をしてもよい。ここで、w2は、第1評価値E1に対する第2評価値E2の重み付け係数である。
【0101】
ビーム走査制御部63は、イオンビームBの走査範囲C3のうちの一部範囲に照射されるビーム電流量を評価するための第3評価値をさらに用いてもよい。第3評価値E3は、位置Xjが特定の範囲(例えば、Xa≦Xj≦Xb)となるビーム電流密度分布の算出値J’(Xj)の二乗和として定義することができ、以下の式(9)で表すことができる。
【数9】
例えば、図4の注入範囲C1を特定の範囲とすることで、注入範囲C1におけるビーム電流量を最大化し、モニタ範囲C2L,C2Rのビーム電流量を最小化するように最適化計算をすることができる。その他、図8のX範囲を特定の範囲とすることにより、ウェハWが存在する範囲におけるビーム電流量を最大化するように最適化計算をすることができる。なお、ウェハWの一部領域において注入量を低くするような補正関数h(x)が定義されている場合、ウェハWが存在する範囲におけるビーム電流量を最小化するように最適化計算をしてもよい。また、ウェハWが存在しない範囲を特定の範囲に設定し、ウェハWが存在しない範囲のビーム電流量を最大化(または最小化)することにより、ウェハWが存在する範囲のビーム電流量が最小化(または最大化)されるようにしてもよい。ビーム走査制御部63は、第1評価値E1と第3評価値E3を組み合わせた評価関数Eを用いることができ、E=E1+w3・E3が最小となるような最適化計算をしてもよい。ここで、w3は、第1評価値E1に対する第3評価値E3の重み付け係数である。ビーム走査制御部63は、三つの評価値E1~E3を組み合わせた評価関数Eを用いてもよく、E=E1+w2・E2+w3・E3が最小となるような最適化計算をしてもよい。
【0102】
ビーム走査制御部63は、補正ビーム電流行列I’ijに基づいて複数の第2走査信号を生成してもよい。複数の第2走査信号は、目標とする複数のビーム電流密度分布を実現するために生成される。目標とする複数のビーム電流密度分布は、例えば、二次元不均一注入を実施するための複数の補正関数h(x)に相当する。
【0103】
ビーム走査制御部63は、生成した第2走査信号に基づいてビーム走査部32の動作を制御し、第2スキャンビームを生成する。測定制御部65は、ビーム測定装置を用いて第2スキャンビームのビーム電流を測定する。測定制御部65は、例えば、プロファイラカップ44によるビーム電流の測定値を時間積分することにより、第2スキャンビームの第2電流密度分布の実測値J2(Xj)を算出する。ビーム走査制御部63は、第2電流密度分布の実測値J2(Xj)と、目標とするビーム電流密度分布Jt(Xj)とを比較し、第2走査信号の妥当性を評価する。例えば、実測値J2(Xj)と目標値Jt(Xj)の差異が所定範囲内である場合、第2走査信号が妥当であると判定し、差異が所定範囲外であれば、第2走査信号が妥当ではないと判定する。注入制御部61は、第2走査信号が妥当であれば、第2走査信号に基づく第2スキャンビームをウェハWに照射してイオン注入処理を実行する。
【0104】
測定制御部65は、第2スキャンビームのビーム電流をプロファイラカップ44で測定するのではなく、プロファイラカップ44とは別のビーム測定装置を用いて測定してもよい。測定制御部65は、第1スキャンビームの測定に用いるビーム測定装置とは別のビーム測定装置を用いて、第2スキャンビームの第2電流密度分布J2(Xj)を測定してもよい。測定制御部65は、複数のチューニングカップ47a~47dを用いて、第2スキャンビームの第2電流密度分布J2(Xj)を測定してもよい。複数のチューニングカップ47a~47dを用いる場合、プロファイラカップ44をx方向に移動させる必要がないため、プロファイラカップ44を用いる場合よりも迅速かつ簡易的に第2電流密度分布J2(Xj)を測定できる。ビーム走査制御部63は、複数のチューニングカップ47a~47dによって測定された第2電流密度分布の実測値J2(Xj)に基づいて、第2走査信号の妥当性を評価してもよい。
【0105】
ビーム走査制御部63は、第2走査信号が妥当ではないと判定した場合、目標とするビーム電流密度分布Jt(Xj)が実現されるように第2走査信号を再生成してもよい。ビーム走査制御部63は、目標とするビーム電流密度分布Jt(Xj)をそのまま目標値として使用するのではなく、目標値を変更することにより第2走査信号を再生成してもよい。例えば、第2スキャンビームの第2電流密度分布の実測値J2(Xj)と目標値Jt(Xj)の差分値ΔJ(Xj)=Jt(Xj)-J2(Xj)を当初目標値に加算した値Ju(Xj)=Jt(Xj)+m・ΔJ(Xj)を新たな目標値として第2走査信号を再生成してもよい。ここで、mは正の値を持ち、差分値ΔJ(Xj)の重み付けを調整する係数である。
【0106】
ビーム電流行列生成部66は、ビーム走査制御部63によって生成または再生成された第2走査信号が妥当ではない場合、補正ビーム電流行列I’ijを再生成してもよい。例えば、イオンビームBのビーム電流やビームサイズといったビーム条件が変わってしまった場合、測定制御部65は、第1走査信号に基づく第1スキャンビームを再測定し、ビーム電流行列生成部66は、再測定結果に基づいて補正ビーム電流行列I’ijを再生成してもよい。
【0107】
ビーム制御部62は、補正ビーム電流行列I’ijに基づいてスポット状のイオンビームBのx方向のビーム形状を推定し、推定したビーム形状に基づいてイオンビームBのビーム形状を調整してもよい。図11に示すビーム電流行列80の列成分86は、走査指令値Viを特定の値に固定した場合におけるx方向の位置Xjに対するビーム電流分布I(Xj)であるため、スキャンしていないイオンビームBのビーム形状を表すと言える。例えば、走査指令値Vi=0における補正ビーム電流行列の列成分I’0(Xj)をイオンビームBのビーム形状とみなすことにより、ビーム制御部62は、列成分I’0(Xj)に基づいてビームサイズなどを調整してもよい。
【0108】
本実施の形態によれば、補正ビーム電流行列I’ijに基づいて目標とするビーム電流密度分布Jt(Xj)を実現するための第2走査信号を生成することにより、従来に比べて短時間かつ高精度で妥当な第2走査信号を生成できる。従来の手法では、1回の計算処理では妥当な第2走査信号を生成できない場合があり、ビーム電流密度分布の実測を繰り返しながら複数回の計算処理をしなければ妥当な第2走査信号を生成できない場合があった。また、目標とするビーム電流密度分布Jt(Xj)の形状が複雑な場合、従来の手法では、ビーム電流密度分布の実測を繰り返しながら複数回の計算処理を実行したとしても妥当な第2走査信号を生成できず、生成に失敗してしまうことがあった。一方、本実施の形態によれば、従来の手法では失敗してしまうようなケースであっても、1回や2回といった少ない回数の計算処理によって妥当な第2走査信号を生成できる。その結果、注入処理前の準備工程における第2走査信号を生成するための作業時間を短縮化し、イオン注入工程における生産性を向上できる。特に、不均一注入のために複数の第2走査信号を生成しなければならない場合において、準備工程にかかる作業時間を大幅に短縮化できる。
【0109】
つづいて、上述のイオン注入装置10を用いたイオン注入方法について説明する。ここでは、イオンビームBの照射対象が半導体ウェハWであり、半導体デバイスの製造方法に含まれるイオン注入工程について説明する。
【0110】
図18は、実施の形態に係るイオン注入方法の一例を示すフローチャートである。ビーム走査制御部63は、第1走査信号に基づいてビーム走査部32を動作させ、スポット状のイオンビームBを所定方向(x方向)に往復走査させることにより、第1スキャンビームを生成する(S10)。測定制御部65は、所定方向(x方向)に異なる複数の測定位置において、第1スキャンビームのビーム電流をビーム測定装置を用いて測定する(S12)。ビーム電流行列生成部66は、ビーム測定装置により測定されたビーム電流の時間波形と、第1走査信号に定められる走査指令値の時間波形とに基づいて、所定方向(x方向)に異なる複数の位置および複数の走査指令値に対するビーム電流値を成分とするビーム電流行列を算出する(S14)。測定制御部65は、測定したビーム電流を時間積分することにより第1スキャンビームの所定方向(x方向)における第1ビーム電流密度分布を算出する(S16)。ビーム電流行列生成部66は、第1ビーム電流密度分布に基づいて、ビーム電流行列の各成分の値を補正し、補正ビーム電流行列を生成する(S18)。ビーム走査制御部63は、補正ビーム電流行列に基づいて、目標とするビーム電流密度分布を実現するための第2走査信号を生成する(S20)。ビーム走査制御部63は、第2走査信号に基づいてビーム走査部32を動作させ、スポット状のイオンビームBを所定方向(x方向)に往復走査させることにより、第2スキャンビームを生成する(S22)。注入制御部61は、第2スキャンビームを半導体ウェハに照射することによりイオン注入処理を実行する(S24)。
【0111】
以上、本開示を上述の各実施の形態を参照して説明したが、本開示は上述の各実施の形態に限定されるものではなく、各実施の形態の構成を適宜組み合わせてもよいし、置換してもよい。また、当業者の知識に基づいて各実施の形態における組み合わせや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような組み替えや変形が加えられた実施の形態も本開示に係るイオン注入装置、イオン注入方法および半導体デバイス製造方法の範囲に含まれ得る。
【0112】
本開示に係る実施の形態は、本開示に係る方法を記述するコンピュータ読み取り可能な一以上のシーケンスを含むコンピュータプログラムの形態を取ってもよいし、このようなコンピュータプログラムが格納される非一時的かつ有形な記録媒体(例えば、不揮発性メモリ、磁気テープ、磁気ディスクまたは光学ディスク)の形態を取ってもよい。プロセッサは、このようなコンピュータプログラムを実行することにより、本開示に係る方法を実現してもよい。
【符号の説明】
【0113】
10…イオン注入装置、12…イオン生成装置、14…ビームライン装置、16…注入処理室、18…ウェハ搬送装置、32…ビーム走査部、34…ビーム平行化部、60…制御装置、61…注入制御部、62…ビーム制御部、63…ビーム走査制御部、64…プラテン制御部、65…測定制御部、66…ビーム電流行列生成部、80…ビーム電流行列、B…イオンビーム、W…ウェハ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18