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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066416
(43)【公開日】2023-05-15
(54)【発明の名称】露光装置および露光方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/20 20060101AFI20230508BHJP
   G02B 5/02 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
G03F7/20 501
G02B5/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172526
(22)【出願日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2021176287
(32)【優先日】2021-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏史
【テーマコード(参考)】
2H042
2H197
【Fターム(参考)】
2H042BA02
2H042BA11
2H042BA13
2H042BA16
2H197BA30
2H197CA03
2H197CA07
2H197CE01
2H197CE10
2H197DA02
2H197HA10
(57)【要約】
【課題】簡易で低コストな構成で、感光性材料を含む感光層を形成した露光基材を露光させて、マイクロメートルサイズやサブマイクロメートルサイズの微細な構造物を形成することが可能な露光装置、およびこれを用いた露光方法を提供する。
【解決手段】基材の一面に感光性材料を含む感光層を形成した露光基材を露光させる露光装置であって、前記感光性材料の感光波長を含むコヒーレント光を照射可能な光源と、前記コヒーレント光の照射領域を制御する光学素子と、複数の球状の粒子を液体に混合させた光拡散液を有する光拡散部と、を備えたことを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の一面に感光性材料を含む感光層を形成した露光基材を露光させる露光装置であって、
前記感光性材料の感光波長を含むコヒーレント光を照射可能な光源と、
前記コヒーレント光の照射領域を制御する光学素子と、
複数の球状の粒子を液体に混合させた光拡散液を有する光拡散部と、を備えたことを特徴とする露光装置。
【請求項2】
前記光拡散部は、前記光拡散液を収容する保持体を備え、露光時に前記露光基材を前記保持体の内部に入れて、前記露光基材を前記光拡散液に浸漬させることを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項3】
前記光拡散部は、前記光拡散液を収容する光透過性の保持体を備え、露光時に前記保持体に隣接して前記露光基材を配することを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項4】
前記粒子は、光透過性材料から構成されていることを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項5】
前記粒子は、光透過性ポリスチレン粒子であることを特徴とする請求項4に記載の露光装置。
【請求項6】
前記粒子は、光反射性材料から構成されていることを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項7】
前記粒子は、金属ナノ粒子であることを特徴とする請求項6に記載の露光装置。
【請求項8】
前記粒子の直径は、1.8nm以上、2mm以下の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項9】
前記光拡散液は、互いに異なる2以上の直径の前記粒子を含むことを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項10】
前記液体は、基準温度における粘度が1mPa・s以上であることを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項11】
前記コヒーレント光は、レーザー光線であることを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の露光装置を用いた露光方法であって、
前記粒子を前記液体に拡散させた状態で前記露光基材を露光させることを特徴とする露光方法。
【請求項13】
請求項1から11のいずれか一項に記載の露光装置を用いた露光方法であって、
前記粒子を前記液体に沈殿させた状態で前記露光基材を露光させることを特徴とする露光方法。
【請求項14】
請求項1から11のいずれか一項に記載の露光装置を用いた露光方法であって、
前記感光層上にトップコート層を形成した露光基材を用いることを特徴とする露光方法。
【請求項15】
基材の一面に感光性材料を含む感光層を形成した露光基材を露光させる露光方法であって、前記感光性材料の感光波長を含むコヒーレント光を照射可能な光源と、前記コヒーレント光の照射領域を制御する光学素子とを有する露光装置を用い、前記露光基材上に、複数の球状の粒子を液体に混合させた光拡散液を配置した状態で露光を行うことを特徴とする露光方法。
【請求項16】
前記感光層上にトップコート層を形成した露光基材を用いることを特徴とする請求項15に記載の露光方法。
【請求項17】
前記光拡散液を前記露光基材上に塗布することによって、前記露光基材上に光拡散液を配置した状態とすることを特徴とする請求項15に記載の露光方法。
【請求項18】
前記露光基材上に、前記光拡散液を配置する箇所を制限する領域制限部材を配置して露光を行うことを特徴とする請求項15に記載の露光方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細構造物を形成するための露光装置、およびこれを用いた露光方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロメートルからサブマイクロメートルのサイズの微細な構造物を材料の表面に形成することで、様々な機能性材料が得られることが知られている。こうした微細な構造物は、そのサイズによって機能が大きく変わり、様々な用途に適用することができる。
【0003】
こうした微細な構造物を備えた材料の用途の例としては、以下のようなものが挙げられる。
(1)疎水性(撥水性や親水性)の付与:ピペットチップ先端への微細構造物の形成による分注残差の改善効果。これによる分注機器や医療機器・分析機器への利用。
(2)摩擦力の低減:微細構造物の形成によって接触面積が減ることによる摩擦力の低減効果。これによる自動車等のエンジンの燃焼エネルギー向上、部品劣化の抑制による部品の寿命向上。
(3)光特性の付与:微細構造物を形成した拡散面での光拡散、微細構造物を形成した面での光反射の抑制。これによる光拡散板や光反射防止への利用。
(4)密着性の向上:ダイヤモンドライクカーボンや、生体親和性を高めるハイドロキシアパタイトなどの機能性薄膜の密着性向上。これによる吸着材、シール材への利用。
【0004】
このような微細構造物の形成方法としては、構造物がマイクロメートルサイズの場合には機械加工が用いられ、構造物がサブマイクロメートルサイズの場合にはフェムト秒レーザ(超短パルスレーザ)や熱リソグラフィなどの高出力のレーザを用いた直接加工法、あるいは電子線やシンクロトロン光を用いた方法が用いられる。
【0005】
例えば、特許文献1には、拡散体を通して拡散された干渉光を用いて、可撓性部材を用いた基板の感光性媒体面を拡散体側に撓ませて、感光性媒体を露光・現像してスペックルパターンを有する微細彫刻面を形成する方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、スペックルパターンに変調されたコヒーレント光を用いて、基板上に形成された感光性媒体を露光、現像および固定化することにより、その表面に微細かつランダムな凹凸形状を有する微細彫刻面を形成する方法が開示されている。
【0007】
更に、特許文献3には、感光性樹脂層と、前記感光性樹脂層と対向するように配設された散乱板と、前記感光性樹脂層が、前記散乱板により生じるスペックルにより露光されるように前記散乱板に準コヒーレント光を照射する光源と、前記感光性樹脂層と前記散乱板との間隙を、前記準コヒーレント光の空間的コヒーレント長程度以下になるように調節する調節手段とを具備した露光装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005-140966号公報
【特許文献2】特開2005-140967号公報
【特許文献3】特開平10-253977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1では、被加工物体の中心部と周辺部とでは、光源からの距離が異なることから、微細構造物の大きさ、方向性、密度が中心部と周辺部との間で変わってしまうという課題があった。また、微細構造物の大きさはマスター拡散板からの距離に依存するため、微細構造物の大きさがサブマイクロメートルサイズなどである場合には、マスター拡散板から近い距離に被加工物を設置する必要があり、高精度な位置決め機構が必要になり、露光装置が高コストになるという課題があった。
【0010】
また、特許文献2のように、拡散板に光をあててスペックルを発生させ、感光性樹脂を塗布した被加工物体にスペックルを投影することで微細構造物を転写する方法では、転写マスターとする拡散板が平面であり、スペックルの分布はこの拡散板からの距離に依存するため、微細構造物を平坦面にしか形成することができず、光学素子のように曲面を有する表面には精度よく微細構造物を形成することが困難であった。
【0011】
更に、特許文献3では、被加工物が曲面の場合には、散乱板とステージ上に配置した感光性樹脂層との距離を近接させることができず、精度よく微細構造物を形成することが困難であった。
【0012】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、簡易で低コストな構成で、感光性材料を含む感光層を形成した露光基材を露光させて、マイクロメートルサイズやサブマイクロメートルサイズの微細な構造物を形成することが可能な露光装置、およびこれを用いた露光方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
本発明の態様1に係る露光装置は、基材の一面に感光性材料を含む感光層を形成した露光基材を露光させる露光装置であって、前記感光性材料の感光波長を含むコヒーレント光を照射可能な光源と、前記コヒーレント光の照射領域を制御する光学素子と、複数の球状の粒子を液体に混合させた光拡散液を有する光拡散部と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、感光層を感光させるコヒーレント光を、液体に粒子を混合してなる光拡散部を介して感光層に入射、感光させることによって、例えば、直径数10cmといった大面積の微細構造物を簡易な構成で低コストに形成することが可能になる。また、液体の構成材料と、粒子のサイズとを任意に組み合わせることによって、微細構造物の形状、サイズ、形成ピッチ、密度などを自在に制御することが可能になる。
【0015】
また、光拡散液を構成する粒子は球体など単純な形状のため、従来の露光光の拡散のための拡散板のようなランダムな形状と異なり、拡散状態を制御する際のモデル化が容易である。このため、液体の種類や粒子の材質、直径を任意に選択することによって、所望の形状、サイズの微細構造物を容易に得ることが可能になる。
【0016】
また、本発明の態様2に係る露光装置では、態様1の露光装置であって、前記光拡散部は、前記光拡散液を収容する保持体を備え、露光時に前記露光基材を前記保持体の内部に入れて、前記露光基材を前記光拡散液に浸漬させてもよい。
【0017】
また、本発明の態様3に係る露光装置では、態様1の露光装置であって、前記光拡散部は、前記光拡散液を収容する光透過性の保持体を備え、露光時に前記保持体に隣接して前記露光基材を配してもよい。
【0018】
また、本発明の態様4に係る露光装置では、態様1~態様3のいずれかの露光装置であって、前記粒子は、光透過性材料から構成されていてもよい。
【0019】
また、本発明の態様5に係る露光装置では、態様4の露光装置であって、前記粒子は、光透過性ポリスチレン粒子であってもよい。
【0020】
また、本発明の態様6に係る露光装置では、態様1~態様3のいずれかの露光装置であって、前記粒子は、光反射性材料から構成されていてもよい。
【0021】
また、本発明の態様7に係る露光装置では、態様6の露光装置であって、前記粒子は、金属ナノ粒子であってもよい。
【0022】
また、本発明の態様8に係る露光装置では、態様1~態様7のいずれかの露光装置であって、前記粒子の直径は、1.8nm以上、2mm以下の範囲であってもよい。
【0023】
また、本発明の態様9に係る露光装置では、態様1~態様8のいずれかの露光装置であって、前記光拡散液は、互いに異なる2以上の直径の前記粒子を含んでいてもよい。
【0024】
また、本発明の態様10に係る露光装置では、態様1~態様9のいずれかの露光装置であって、前記液体は、基準温度における粘度が1mPa・s以上であってもよい。
【0025】
また、本発明の態様11に係る露光装置では、態様1~態様10のいずれかの露光装置であって、前記コヒーレント光は、レーザー光線であってもよい。
【0026】
本発明の態様12に係る露光方法は、態様1~態様11のいずれかの露光装置を用いた露光方法であって、前記粒子を前記液体に拡散させた状態で前記露光基材を露光させることを特徴とする。
【0027】
本発明の態様13に係る露光方法は、態様1~態様11のいずれかの露光装置を用いた露光方法であって、前記粒子を前記液体に沈殿させた状態で前記露光基材を露光させることを特徴とする。
【0028】
本発明の態様14に係る露光方法は、態様1~態様11のいずれかの露光装置を用いた露光方法であって、前記感光層上にトップコート層を形成した露光基材を用いることを特徴とする。
【0029】
本発明の態様15に係る露光方法は、基材の一面に感光性材料を含む感光層を形成した露光基材を露光させる露光方法であって、前記感光性材料の感光波長を含むコヒーレント光を照射可能な光源と、前記コヒーレント光の照射領域を制御する光学素子とを有する露光装置を用い、前記露光基材上に、複数の球状の粒子を液体に混合させた光拡散液を配置した状態で露光を行うことを特徴とする。
【0030】
本発明の態様16に係る露光方法は、態様15の露光方法であって、前記感光層上にトップコート層を形成した露光基材を用いてもよい。
【0031】
本発明の態様17に係る露光方法は、態様15の露光方法であって、前記光拡散液を前記露光基材上に塗布することによって、前記露光基材上に光拡散液を配置した状態としてもよい。
【0032】
本発明の態様18に係る露光方法は、態様15の露光方法であって、前記露光基材上に、前記光拡散液を配置する箇所を制限する領域制限部材を配置して露光を行ってもよい。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、簡易で低コストな構成で、感光性材料を含む感光層を形成した露光基材を露光させて、マイクロメートルサイズやサブマイクロメートルサイズの微細な構造物を形成することが可能な露光装置、およびこれを用いた露光方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の第1実施形態の露光装置を示す模式図である。
図2】本発明の第2実施形態の露光装置を示す模式図である。
図3】本発明の第3実施形態の露光装置を示す模式図である。
図4】本発明の第4実施形態の露光装置を示す模式図である。
図5】形成例1の微細構造物の様子を示す光学顕微鏡写真である。
図6】形成例1の微細構造物の様子を示す電子顕微鏡写真である。
図7】形成例2の微細構造物の様子を示す光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の露光装置、およびこれを用いた露光方法について、複数の実施形態で説明する。なお、以下に示す実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0036】
(露光装置:第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態の露光装置を示す模式図である。
本実施形態の露光装置10は、例えば、基材21の一面側に感光性材料を含む感光層22を形成した露光基材20を露光させるものである。本実施形態の露光装置10を用いて、液体を介して露光を行う液浸リソグラフィを実施することができる。露光基材としては、液浸リソグラフィで通常行われるように、感光層上にトップコート層を形成した露光基材を用いてもよい。トップコート層としては公知の材料のものを用いることができる。
【0037】
露光装置10は、光源11と、光学素子12と、光拡散部13と、を有している。
光源11は、感光層22を構成する感光性材料の感光波長を含む波長域のコヒーレント光を照射可能なものであればよく、具体的には、レーザー光線を照射するレーザー光源であればよい。レーザー光源としては、ガスレーザー装置、LD(レーザダイオード)装置、SLD(低コヒーレンスレーザダイオード)装置などが挙げられる。
【0038】
光学素子12は、光源11から出射したコヒーレント光(レーザー光線)を、感光層22の表面全体に照射されるように、コヒーレント光の照射領域を制御する。こうした光学素子12は、例えば、複数の光学レンズなどから構成されたビームエキスパンダーを用いることができ、個々のレンズどうしの間の光路長を調節可能な構成(可変ビームエキスパンダー)にすれば、様々なサイズの感光層22に合わせて、その照射範囲を任意に設定することができる。
【0039】
なお、本実施形態の露光装置10は、光源11の光軸に対して、露光基材20が直角な位置に配されるため、光学素子12と光拡散部13との間に反射ミラー14が形成されている。こうした反射ミラー14は、露光基材20が光源11の光軸上に配される構成であれば、特に形成しなくてもよい。
【0040】
光拡散部13は、保持体15と、この保持体15に収容される光拡散液16と、を有する。露光時において、露光基材20は、この光拡散部13を構成する保持体15の底部に載置され、光拡散液16に浸漬される。
【0041】
光拡散部13を構成する保持体15は、上面を開放面にした水槽であり、例えば、透明や不透明な樹脂、金属などから構成されればよい。また、保持体15の内面を光反射面(鏡面)にすることもできる。
【0042】
光拡散液16は、液体17と、この液体に混合される複数の球状の粒子18とから構成されている。
液体17は、屈折率標準液の純水を用いることができる。なお、粒子18を沈殿させずに分散させた状態で露光を行う場合には、水よりも粘度の高い液体、例えば、粘度が1mPa・s以上の粘性液体を用いることが好ましい。
【0043】
粒子18は、外形が球状を成す。なお、ここでいう球状とは、真球状、楕円球状などを含む。こうした球状の粒子18の構成材料としては、光(コヒーレント光)が内部を透過可能な光透過性材料や、光が表面で反射される光反射性材料などを用いることができる。
【0044】
粒子18を光透過性材料で構成する場合、例えば、光透過性(透明)ポリスチレン粒子、ガラス粒子、シリカ粒子などを用いることができる。また、粒子18を光反射性材料で構成する場合、鏡面加工された金属ナノ粒子、例えば、粒子状アルミニウムや粒子状金を用いることができる。
【0045】
粒子18を沈殿させずに分散させた状態で露光を行う場合には、粒子18は、比重が液体17の比重と同じか、または近似して材料を用いることが好ましい。これにより、液体17に混合させた粒子18が、短時間で沈殿することを抑制できる。
【0046】
こうした粒子18は、例えば真球状である場合、直径は1.8nm以上、2mm以下の範囲であればよい。また、互いに異なる2種類以上の直径の粒子18を混在させることもできる。
【0047】
(露光方法:第1実施形態)
以上のような構成の露光装置の作用、および露光方法について説明する。
第1実施形態の露光装置10を用いて、露光基材20の(未露光の)感光層22を露光させ、表面に微細構造物を形成する際には、まず、基材21の一面に感光層22を形成した露光基材20を用意する。
【0048】
基材21としては、光透過性基板、遮光性基板のいずれでもよく、例えば、光透過性基板としては樹脂板、遮光性基板としては半導体シリコンウェハやステンレス等の金属板を挙げることができる。感光層22を構成する感光性材料としては、ポジ型レジスト、ネガ型レジストなどのフォトレジスト材を用いればよい。こうしたフォトレジスト材を、例えば、スピンコートや噴射によって基材21の一面に塗布することにより、露光基材20を得ることができる。
【0049】
また、光学素子(ビームエキスパンダー)12を調整して、感光層22の表面全体に照射されるように、コヒーレント光の照射領域を設定する。
【0050】
次に、こうした露光基材20を光拡散部13の保持体15の底部に載置する。そして、保持体15内に光拡散液16を入れる。この時、光拡散液16内に空気などの気泡が巻き込まれないにようにすることが好ましい。
【0051】
次に、光拡散液16を撹拌して、粒子18を液体17内で偏りなく分散させる。
光拡散液16は、粒子18と液体17とを、例えばマイクロピペットや電子天秤を用いて規定量を混ぜることで混合比率を決定する。粘度が1mPa・s以上といった粘度が大きい液体を利用する場合には、偏りなく粒子18を液体17中に分散させるために撹拌を行う。また、粒子18が小さい場合は、粒子同士がくっつきあう凝集が発生する場合がある。この場合は、液体17内に界面活性剤等を入れることによって、液体17中に粒子18を偏りなく分散させることができる。
【0052】
光拡散液16は、露光基材20に形成する微細構造物の形状に応じて、液体17内での粒子18の混合状態を選択することができる。例えば、粒子18を液体17内でほぼ均一に拡散させた状態で露光させる場合には、露光時に光拡散液16を撹拌した直後に露光を行う。一方、粒子18が保持体15に挿入された露光基材20の感光層22上に沈殿した状態で露光させる場合には、光拡散液16を撹拌した後に静置して、粒子18を充分に沈殿させた状態で露光を行う。
【0053】
そして、光拡散液16の状態(粒子18の混合状態)が所望の状態であることを確認した後、光源11からコヒーレント光(レーザー光線)を照射する。すると、コヒーレント光は光学素子12によって照射範囲が広げられ、反射ミラー14を介して光拡散部13に入射する。
【0054】
光拡散部13に入射したコヒーレント光は、光拡散液16の液体17に混合された粒子18によって、液体17内で透過・反射して多重散乱される。そしてこの多重散乱し干渉を起こした、ランダムないし所定のパターンの斑点状の光強度パターン(スペックルパターン)を有するコヒーレント光が露光基材20の感光層22に入射し、感光層22に微細構造物を象った露光が行われる。なお、露光時間(コヒーレント光の照射時間)は、感光層であるレジストの種類や厚み、光強度パターンの大きさ、光拡散液の濃度や量などに応じて適宜決定されればよい。
この後、感光層22の未露光部分、または露光部分を現像処理等で除去することによって、表面に微細構造物が形成された基材21を得ることができる。
【0055】
本実施形態の露光方法において、形成する微細構造物の形状やサイズを設定する際には、以下のような設定項目(パラメータ)が挙げられる。
(1)照射するコヒーレント光の波長の設定。波長を短くした方が、光強度パターンが微細化する。
(2)感光層に対するコヒーレント光の照明領域の設定。広い面積に照明することにより、光強度パターンが微細化する。
(3)コヒーレント光を感光層に照明する時間の設定。
(4)コヒーレント光の強度の設定。
(5)粒子の粒子径の選択。これによりコヒーレント光の拡散性が制御できる。
(6)粒子の構成材料の選択。これにより、粒子の屈折率が制御できる。
(7)液体に混合される粒子の混合量の設定。これによりコヒーレント光の拡散性が制御できる。
(8)液体の構成材料の選択。これにより粘性を選択して粒子の拡散性と位置の保持を制御できる。また、液体の屈折率を制御できる。粒子と液体の屈折率差によって光が曲がるために、これによっても拡散性を制御できる。
【0056】
以上のように、本実施形態の露光装置10、およびこれを用いた露光方法によれば、感光層22を感光させるコヒーレント光を、液体17に粒子18を混合してなる光拡散部13を介して感光層22に入射、感光させることによって、例えば、直径数10cmといった大面積に微細構造物を簡易な構成で低コストに形成することが可能になる。また、液体17の構成材料と、粒子18のサイズとを任意に組み合わせることによって、微細構造物の形状、サイズ、形成ピッチ、密度などを自在に制御することが可能になる。
【0057】
また、光拡散液16を構成する粒子18は球体など単純な形状のため、従来の露光光の拡散のための拡散板のようなランダムな形状と異なり、拡散状態を制御する際のモデル化が容易である。このため、液体17と粒子18を選択することで、所望の形状、サイズの微細構造物を容易に得ることが可能になる。
【0058】
即ち、予め、形成する微細構造物に合わせて、上述した各種のパラメータ(例えば、液体17の種類、粒子18の構成材料、サイズ)を決定することができる。具体的には、電磁場解析シミュレーションソフトを用いて、感光層22を感光させるコヒーレント光がどのように干渉し合うかを明確にすることができる。
【0059】
更に、露光基材20を光拡散液16に浸漬させることによって、感光層22と、コヒーレント光を拡散させる粒子18との距離を最小限、本実施形態では接触させている状態にできるので、例えば、大きさがサブマイクロメートルサイズなど微細なスペックルパターンを感光層22に転写することが可能になる。
【0060】
(露光装置:第2実施形態)
図2は、本発明の第2実施形態の露光装置を示す模式図である。
なお、第1実施形態と同様の構成には同一の番号を付し、重複する説明を省略する。
本実施形態の露光装置30は、光源11と、光学素子12と、光拡散部33と、を有している。本実施形態の露光装置30を用いて、液体を介して露光を行う液浸リソグラフィを実施することができる。露光基材としては、液浸リソグラフィで通常行われるように、感光層上にトップコート層を形成した露光基材を用いてもよい。トップコート層としては公知の材料のものを用いることができる。
【0061】
光拡散部33は、保持体35と、この保持体35に収容される光拡散液16と、を有する。露光時において、露光基材20は、この光拡散部33を構成する保持体35の底部外面に接して配される。
【0062】
光拡散部33を構成する保持体35は、コヒーレント光を透過可能な透明な材料、例えば透明樹脂から構成される。保持体35は、上面が開放面を成す開放水槽であっても、光拡散液16を封入した密閉水槽であってもよい。
【0063】
本実施形態の露光装置30によれば、露光基材20を光拡散液16に浸漬させないので、液体17として、感光層22に影響を与える材料を選択することもできる。また、光拡散部33の保持体35の外側に露光基材20を配することで、露光時の露光基材20の取り扱いを容易にすることができる。
【0064】
なお、本実施形態では、感光層22とコヒーレント光を拡散させる粒子18との距離を最小限にするために、光拡散液16の粒子18を保持体35内で沈殿させた状態で露光させることが好ましく、また、光透過性の保持体35の底部の厚みを、例えば膜材のように最小限にすることが好ましい。
【0065】
(露光装置:第3実施形態)
図3は、本発明の第3実施形態の露光装置を示す模式図である。
なお、第1実施形態と同様の構成には同一の番号を付し、重複する説明を省略する。
本実施形態では、露光装置10の構成は第1実施形態と同様であるが、露光させる露光基材40は、基材41の一面が湾曲面を成し、この湾曲面に形成される感光層42は曲面形状とされている。図3に示す露光装置を用いて、液体を介して露光を行う液浸リソグラフィを実施することができる。露光基材としては、液浸リソグラフィで通常行われるように、感光層上にトップコート層を形成した露光基材を用いてもよい。トップコート層としては公知の材料のものを用いることができる。
【0066】
本実施形態の露光装置10によれば、曲面などの形状が複雑な感光層42に対しても、容易に露光することができ、湾曲形状の微細構造物を容易に形成することができる。
【0067】
また、変形例として、例えば、内面側を感光層22とした有底円筒形の露光基材40を光拡散部13の保持体15として用いて、この露光基材40の内側に光拡散液16を収容して露光を行うことによって、従来は形成が困難であった円筒形状物の内周面に微細構造物を容易に形成することが可能になる。
【0068】
(露光装置:第4実施形態)
図4は、本発明の第4実施形態の露光装置を示す模式図である。
なお、第1実施形態と同様の構成には同一の番号を付し、重複する説明を省略する。
本実施形態の露光装置50は、光源11と、光学素子12と、光拡散部53と、を有している。図4に示す露光装置を用いて、液体を介して露光を行う液浸リソグラフィを実施することができる。露光基材としては、液浸リソグラフィで通常行われるように、感光層上にトップコート層を形成した露光基材を用いてもよい。トップコート層としては公知の材料のものを用いることができる。
【0069】
本実施形態の光拡散部53は、露光基材20の感光層22上に密着するように形成されている。光拡散部53は、例えば、1mPa・s以上の液体17と粒子18とを混合させた光拡散液16からなり、こうした光拡散液16が感光層22に直接接触するように形成されている。即ち、感光層22上に光拡散液16が層状に塗布された形態を成す。
【0070】
光拡散部53は、感光層22を形成した露光基材20の上に光拡散液16を滴下して表面張力によって塗布する方法、感光層22の中心に滴下した光拡散液16を回転させて均一の厚さにするスピンコート法、光拡散液16をスプレー状に噴射してつけるスプレー法、光拡散液16に露光基材20を浸漬してから引き上げるディップ法などによって、感光層22上に所定の厚みで塗布される。
【0071】
光拡散部22の厚みは、光拡散液16に含まれる粒子18が感光層17の表面に固定されればよいので、粒子18の直径と同等以上で有れば良い。また、光拡散部22の厚みを制御することで多重散乱を多くすることにより、形成される微細構造物のサイズや形状を変化させることができる。
本実施形態の露光装置50によれば、感光層22を有する露光基材20に対して光拡散液を均一な任意の厚さで密着させることができる。
【0072】
(露光方法:第2実施形態)
上述した第4実施形態の露光装置を用いた第2実施形態の露光方法では、まず、基材21の一面側に感光層22を形成した露光基材20を用意する。
次に、この露光基材20の上に、液体17と粒子18とを混合させた光拡散液16を塗布し、光拡散を発生させる光拡散部53を感光層22密着形成する。光拡散液16の塗布方法は、例えば、感光層22を形成した露光基材20の上に光拡散液16を滴下して表面張力によって塗布する方法、感光層22の中心に滴下した光拡散液16を回転させて均一の厚さにするスピンコート法、光拡散液16をスプレー状に噴射してつけるスプレー法、光拡散液16に露光基材20を浸漬してから引き上げるディップ法などであればよく、光拡散部53の厚みや露光基材20の大きさ・形状に応じて適宜選択されればよい。
【0073】
そして、光拡散液16の状態が所望の状態であることを確認した後、第1実施形態の露光方法と同様に、光源11からコヒーレント光(レーザー光線)を照射し、光拡散部53によって透過・反射して多重散乱させ、感光層22に微細構造物を象った露光を行えばよい。
【0074】
この後、光拡散部53、および感光層22の未露光部分、または露光部分を現像処理等で除去することによって、表面に微細構造物が形成された基材21を得ることができる。
【0075】
(露光方法:第3実施形態)
第3実施形態に係る露光方法では、上記光拡散部を用いず、上記光拡散液を、露光基材上に配置した状態で露光する方法である。露光基材としては、液浸リソグラフィで通常行われるように、感光層上にトップコート層を形成した露光基材を用いてもよい。トップコート層としては公知の材料のものを用いることができる。
【0076】
光拡散液を露光基材上に配置する方法としては公知の塗布方法を用いることができる。
例えば、光拡散液を滴下したり、さらに、滴下後にスピンコータを用いて、露光基材上に光拡散液を薄く均一な厚みにコーティングできる。この場合、光拡散部を用いる場合に比べて、少ない量の光拡散液で済むため、コスト低減を図ることができる。
【0077】
また、光拡散液を露光基材上に配置するに際して、露光基材上で露光する箇所を制限するために、光拡散液を配置する箇所を制限する領域制限部材を露光基材上に配置してもよい。この場合、露光基材上で領域制限部材が配置する箇所には光拡散液は配置せず、領域制限部材が配置しない箇所に光拡散液が配置する状態とすることができる。
領域制限部材としては特に制限はない。領域制限部材として、穴開き部材を用いることができる。露光基材上に穴開き部材を配置して、穴から光拡散液を滴下すると、平面視して、露光基材上の穴に対応する箇所には光拡散液が配置し、露光基材上の穴に対応しない箇所には光拡散液が配置しない状態となる。
【0078】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例0079】
上述した第1実施形態の露光装置を用いて、実際に露光基材に微細構造物を形成した。
(形成例1)
露光基材は、基材としてシリコンウェハを用い、このシリコンウェハ上に、感光層として、ネガ型レジスト(SU-8)を膜厚50μmになるように塗布したものを用いた。
光拡散液は直径300μmのガラス球体粒子を純水に対して1:1の割合で混合したものを用いた。
露光光源としては、波長405nm、光強度1mW以上の紫外線レーザー装置を用いた。
【0080】
こうした形成条件で得られた形成例1の微細構造物の光学顕微鏡写真を図5に、また、電子顕微鏡写真を図6に示す。
図5図6に示す顕微鏡写真によれば、本発明の露光装置によって、ミクロンオーダーの微細構造物を基材(シリコンウェハ)上に形成できることが確認できた。
【0081】
(形成例2)
露光基材は、基材としてシリコンウェハを用い、このシリコンウェハ上に、感光層として、ポジ型レジスト(THMR iP3300:東京応化工業株式会社製)を膜厚1μmになるように塗布したものを用いた。
光拡散液は直径200nm~2.5μmのガラス球体粒子を純水に対して1:1の割合で混合したものを用いた。
露光光源としては、波長405nm、光強度1mW以上の紫外線レーザー装置を用いた。
【0082】
こうした形成条件で得られた形成例2の微細構造物の光学顕微鏡写真を図7に示す。
図7に示す顕微鏡写真によれば、本発明の露光装置によって、ミクロンオーダーの微細構造物を基材(シリコンウェハ)上に形成できることが確認できた。
【符号の説明】
【0083】
10…露光装置
11…光源
12…光学素子
13…光拡散部
14…反射ミラー
20…露光基材
21…基材
22…感光層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7