(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066471
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】カバーテープ基材用フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20230509BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177087
(22)【出願日】2021-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】000222462
【氏名又は名称】東レフィルム加工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186484
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 満
(72)【発明者】
【氏名】井上 則英
(72)【発明者】
【氏名】赤澤 雅
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AC07
3E086AD24
3E086BA04
3E086BA15
3E086BB90
4F100AK04A
4F100AK05B
4F100AK06A
4F100AK06B
4F100AK06C
4F100AK07A
4F100AK63B
4F100AK63C
4F100AK64A
4F100AL02A
4F100AL03A
4F100AL05A
4F100AL05B
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100BA16
4F100DD07A
4F100EH202
4F100EH20A
4F100EH20B
4F100EH20C
4F100GB15
4F100GB41
4F100JA13B
4F100JA13C
4F100JK07
4F100JK16
4F100YY00
4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00C
(57)【要約】
【課題】無機粒子の滑落による電子部品包装体に混入されることなく、良好な滑り性、剥離性、コーティング性を持つカバーテープ用基材フィルムを提供する。
【解決手段】A層、B層及びC層の3層からなり、A層はポリエチレン系樹脂5~95質量%とポリプロピレン系樹脂95~5質量%からなり、B層は密度0.910g/cm3以下の低密度ポリエチレン系樹脂を主成分とし、C層は密度0.915g/cm3以下の低密度ポリエチレン系樹脂からなるカバーテープ基材用フィルム。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともA層、B層及びC層の3層からなり、A層はポリエチレン系樹脂5~95質量%とポリプロピレン系樹脂95~5質量%からなり、B層は密度0.910g/cm3以下の低密度ポリエチレン系樹脂を主成分とし、C層は密度0.915g/cm3以下の低密度ポリエチレン系樹脂からなるカバーテープ基材用フィルム。
【請求項2】
A層の表面中心線平均粗さRaが0.05μm以上、0.25μm以下である、請求項1に記載のカバーテープ基材用フィルム。
【請求項3】
フィルムのヤング率がフィルム長手方向および幅方向ともに250MPa以下である請求項1または2に記載のカバーテープ基材用フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子部品包装体に好適に用いられるカバーテープ基材用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ICチップなどの電子部品は、その使用に供されるまでに汚染や損傷を防ぐために、所謂キャリアテープという凹状の格納ポケットが等間隔に形成された容器と、キャリアテープにヒートシールされ、電子部品を封入するためのカバーテープと言われる封止材に形成されたものに、電子部品は封入される。そして、キャリアテープとカバーテープがヒートシールされた電子部品包装体は、リール状に巻かれた状態で保管および輸送される。この電子部品包装体は、電子基板に組付けられる際に、カバーテープが連続して剥離されつつ、中のICチップが取り出されて基板に組付けられる。このような電子部品包装体は、封入している部品の汚染や損傷を防ぐ意味合いで、可能な限り異物の混入を避けることが求められる。そのカバーテープは、基材の片面に表面の美麗さとコシの強さを付与するために、ポリエステルなどのフィルムがドライラミネートされ、その反対面にヒートシール性を持たせる樹脂が積層されて完成される。
【0003】
しかしながら、以下に示す先行技術文献には、カバーテープおよびその基材の取り回しのしやすさを目的とし、スリップ剤として無機粒子の使用が記載されているが、このように無機粒子を含有させると、擦過などの外部による衝撃により無機粒子が滑落し、電子部品が封入された電子部品包装体に混入し、内封されている電子部品に損傷を与える虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-142807号公報
【特許文献2】特開2012-188509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、無機粒子の滑落による電子部品包装体への混入がなく、良好な滑り性、剥離性、コーティング性を持つカバーテープ用基材フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究開発を重ねた結果、次のような構成とすることで目的が達成できることを見出した。
(1)少なくともA層、B層及びC層の3層からなり、A層はポリエチレン系樹脂5~95質量%とポリプロピレン系樹脂95~5質量%からなり、B層は密度0.910g/cm3以下の低密度ポリエチレン系樹脂を主成分とし、C層は密度0.915g/cm3以下の低密度ポリエチレン系樹脂からなるカバーテープ基材用フィルム。
(2)A層の表面中心線平均粗さRaが0.05μm以上、0.25μm以下である、(1)に記載のカバーテープ基材用フィルム。
(3)フィルムのヤング率がフィルム長手方向および幅方向ともに250MPa以下である(1)または(2)に記載のカバーテープ基材用フィルム。
【発明の効果】
【0007】
本発明によって、異物混入の虞がなく、良好なフィルムの滑り性、被着体からの剥離性、シール層のコーティング性を持つ、電子部品包装体に使用されるカバーテープ基材フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のカバーテープ基材用フィルムは、少なくともA層、B層及びC層の3層からなる。これらすべての層において、いずれの層にも無機粒子を配合せず、A層はポリエチレン系樹脂5~95質量%とポリプロピレン系樹脂95~5質量%からなり、B層は密度0.910g/cm3以下の低密度ポリエチレンを主成分とし、C層は密度0.915g/cm3以下の低密度ポリエチレンからなることを特徴とする。
【0009】
A層、B層及びC層の厚み比率としては特に限定されるものではないが、製膜や縁断など製造工程にて発生する切れ端などをリサイクルして使用するのであれば、リサイクル原料を投入する層については厚い方、例えば全体の厚みに対して60%以上を占めることが望ましい。
【0010】
A層を構成するポリエチレン系樹脂については、密度が高いと、A層表面を擦過したときにポリエチレン系樹脂が削れて被着体への異物混入の元となるため、好ましくは低密度ポリエレン、さらに好ましくは密度0.930g/cm3以下の高圧法低密度ポリエレンが用いられる。
【0011】
A層において、ポリマで海島構造を形成して表面に凹凸を作り、その表面の粗さを形成するために、A層のポリプロピレン系樹脂として、ポリプロピレンからなる成分を配合するが、A層を構成するポリエチレン系樹脂との相溶性から、好ましくはプロピレン・エチレンランダム共重合体、もしくはプロピレン・エチレンブロック共重合体が用いられる。
【0012】
このようにしてA層の表面に凹凸を作りフィルムの滑りやすさを発現させ、表面中心線平均粗さRaが0.05μm以上、0.25μm以下となるようにすることが望ましく、具体的にはポリエチレン系樹脂分が5~95質量%、ポリプロピレン系樹脂が95~5質量%であり、好ましくはポリエチレン系が10~80質量%、ポリプロピレン系樹脂が90~20質量%である。表面中心線平均粗さRaが0.05μm未満の場合、フィルム同士の滑りが悪くなりフィルム巻取り性やラミネート加工性が悪化することがある。また、表面中心線平均粗さRaが0.25μmを超えると、他基材のポリエステルなどのフィルムとラミネートした際に表面の凹凸が粗いため界面に空気の噛み込みが発生し、ラミネート強度が低下したり、内容物の視認性が悪くなることがある。A層は、カバーテープ基材用フィルムの表層として機能する。
【0013】
B層の積層厚み比率としては先述の通り60%以上であることが望ましく、そのためB層の樹脂によってカバーテープ基材用フィルムのヤング率に大きく影響を与えることがある。B層に配合される樹脂については、ヤング率の低くなる密度が0.890g/cm3以上0.910g/cm3以下の低密度ポリエチレンが好ましい。またB層に主成分として用いられる低密度ポリエチレンについては密度の他には特に制限されるものではないが、高圧法低密度ポリエチレンやエチレン・α-オレフィン共重合体の直鎖状低密度ポリエチレンなどが好適に用いられ、特にメタロセン触媒を用いて重合された低密度ポリエチレンや直鎖状低密度ポリエチレンが好ましい。なお、上記主成分とは樹脂組成全量を100質量%として、60質量%以上の含有量を言う。
【0014】
B層の主成分である低密度ポリエチレンの密度が0.890g/cm3未満になるとフィルムのヤング率が低くなり過ぎて、フィルムの巻取り性が悪化することがある。また、主成分である低密度ポリエチレンの密度が0.910g/cm3より上になったり、他の樹脂例えば高密度ポリエチレンやポリプロピレン系樹脂などを用いるとヤング率が250MPaを超え、フィルムのヤング率が高くなり過ぎて、カバーテープとしてキャリアテープにヒートシールした後カバーテープを剥離する際にスムーズに剥離できず、剥離が止まったり剥離に大きな力が必要になることがある。いわゆるジッピング剥離が発生して表面欠点となることがある。
【0015】
C層は、表面にヒートシール用樹脂がコーティングされることが好ましく、ヒートシール用樹脂との密着性において、密度が0.915g/cm3以下、好ましくは0.890g/cm3以上0.915g/cm3以下の低密度ポリエチレンを適用するのが望ましく、例えばエチレン・α-オレフィン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体などが好適に用いられる。密度が0.915g/cm3より大きいポリエチレン系樹脂や、ポリプロピレン系樹脂を用いるとコーティングされるヒートシール用樹脂との密着強度が低くなってコーティングがうまくできず、キャリアテープとのヒートシール力が低下することがある。また、密度が0.890g/cm3未満であるとC層のべたつきが増し、C層の滑りが非常に悪くなり工程通過性が悪化することがある。
【0016】
A層、B層及びC層には必要に応じて、ポリチオフェンなどの導電剤などといった別途機能性を持った樹脂を添加してもよい。さらに、ラミネートやヒートシール用樹脂をコーティングする機能が阻害されない範囲で、A層とB層の間や、またB層とC層の間に、着色層や導電層などといった別途機能性の持った層が積層されてもよい。
【実施例0017】
以下、具体的な実施例に基づいて、本発明のカバーテープ基材用フィルムを詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0018】
<実施例1>
A層として、低密度ポリエチレン(住友化学製CE3059、密度0.924g/cm3)80質量%と、ポリプロピレン系樹脂としてプロピレン・エチレンランダム共重合体(住友化学製)20質量%を配合した混合樹脂とし、B層として、直鎖状低密度ポリエチレン(プライムポリマー製SP0540、密度0.903g/cm3)67質量%と高密度ポリエチレン(日本ポリエチレン製HF562、密度0.963g/cm3)33質量%を配合した混合樹脂とし、C層として、直鎖状低密度ポリエチレン(住友化学製CW3004、密度0.910g/cm3)をそれぞれ別々の押出機に供給して、Tダイ型複合製膜機を用い押出温度200℃で、A層の厚さが4μm、B層の厚さが24μm、C層の厚さが9μm、総厚みが37μmとなるようA層/B層/C層の積層構成で共押出し、カバーテープ基材用フィルムを作成した。
【0019】
<実施例2>
実施例1において、A層として、低密度ポリエチレン90質量%と、ポリプロピレン系樹脂としてプロピレン・エチレンブロック共重合体(住友化学製)10質量%を配合した混合樹脂とした以外は実施例1と同様とし、カバーテープ基材用フィルムを作成した。
【0020】
<実施例3>
実施例1において、A層として、低密度ポリエチレン10質量%と、ポリプロピレン系樹脂としてプロピレン・エチレンランダム共重合体90質量%を配合した混合樹脂とした以外は実施例1と同様とし、カバーテープ基材用フィルムを作成した。
【0021】
<比較例1>
実施例1において、A層として、ポリプロピレン系樹脂としてプロピレン・エチレンランダム共重合体を使用しない組成とした以外は実施例1と同様とし、カバーテープ基材用フィルムを作成した。
【0022】
<比較例2>
実施例1において、A層として、低密度ポリエチレン96質量%と無機粒子マスター(平均粒径:3μm、濃度:20質量%)4質量%を配合した樹脂組成物とした以外は実施例1と同様とし、カバーテープ基材用フィルムを作成した。
【0023】
<比較例3>
実施例1において、A層として、低密度ポリエチレン95質量%と超高分子量ポリエチレン(“三井化学性製ミペロン(登録商標)”)5質量%を配合した混合樹脂とした以外は実施例1と同様とし、カバーテープ基材用フィルムを作成した。
【0024】
<比較例4>
実施例1において、B層の樹脂組成物として、直鎖状低密度ポリエチレン(プライムポリマー製 SP0540、密度0.902g/cm3)33質量%と高密度ポリエチレン(日本ポリエチレン製HF562、密度0.963g/cm3)67質量%を配合した混合樹脂とした以外は実施例1と同様とし、カバーテープ基材用フィルムを作成した。
【0025】
<比較例5>
実施例1において、C層として、直鎖状低密度ポリエチレン(住友化学製 CW3006、密度0.922g/cm3)とした以外は実施例1と同様とし、カバーテープ基材用フィルムを作成した。
【0026】
実施例1~3、ならびに比較例1~5にて得られたカバーテープ基材用フィルムを以下のように評価した。
【0027】
<背面層粗さ>
得られたカバーテープ基材用フィルムを、作成後3日以上、室温23℃、湿度50RH%雰囲気下で保管し、しかる後に小坂研究所製サーフコーダ-「ET4000A」を用い、A層表面の表面中心線平均粗さ(Ra)を測定した。
【0028】
<擦過試験>
得られたカバーテープ基材用フィルムを、作成後3日以上、室温23℃、湿度50RH%雰囲気下で保管し、しかる後にA層に東レ製「トレシー」で20往復こすり付け、脱落物があるか目視にて確認した。
【0029】
<摩擦係数>
得られたカバーテープ基材用フィルムを、作成後3日以上、室温23℃、湿度50RH%雰囲気下で保管し、しかる後にA層表面とC層表面を重ね、摩擦係数を測定した。
【0030】
<コーティング加工性>
得られたカバーテープ基材用フィルムのC層表面をコロナ処理した後、シーラント層としてのアクリル系シーラント樹脂(大日本インキ社製、A450A)を、膜厚が2μmとなるように製膜し、脱落物の有無やシワの発生などコーティング加工時の異常の有無を目視にて確認した。
【0031】
<ラミネート加工性>
得られたカバーテープ基材用フィルムのA層表面をコロナ処理した後、膜厚12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレート製フィルム(東レ製“ルミラー(登録商標)”P60)を積層し、空気の噛み込みなどラミネート加工時の異常の有無を目視にて確認した。
【0032】
<ヤング率>
得られたカバーテープ基材用フィルムを作成後3日以上、室温23℃、湿度50RH%雰囲気下で保管し、しかる後に、JIS K7161-1:2014 プラスチック-引張特性の求め方に準拠しヤング率を測定した。
【0033】
実施例1~3、ならびに比較例1~5の評価結果を表1に示す。
【0034】
実施例1~3では樹脂や無機粒子の脱落もなく、適度な背面粗さと摩擦係数を持つためにラミネート時の空気の噛み込みもなく綺麗な巻き上がりになるのに対し、比較例1ではプロピレン・エチレンランダム共重合体またはプロピレン・エチレンブロック共重合体の配合が無いために摩擦係数が高くフィルム同士の滑りが非常に悪く巻き上がりが悪くなり、擦過による樹脂屑が発生し、比較例2では摩擦係数や表面粗さに問題は無いもの無機粒子のスリップ剤を配合しているため、フィルムの擦過による脱落物が見られ、電子部品包装体に混入する恐れがある。
【0035】
また、比較例3においては表面粗さが粗いために、ポリエステルフィルムとのラミネート時に空気の噛み込みが発生し、外観の美麗さだけでなく内容物の視認が困難となる。比較例4では脱落物やコーティング・ラミネートに異常は見られないが、引張弾性率が250MPaを超えるため、カバーテープの剥離がスムーズに行われず、ジッピングが発生する恐れがある。比較例5ではC層にヒートシール樹脂との密着性に劣り、カバーテープとしての役割を果たせていない。
【0036】
こうして、異物混入の恐れがなく、ラミネート時に気泡の噛み込みが無く巻き上がりが綺麗な電子部品包装体に使用されるカバーテープ基材を提供することができる。
【0037】