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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066506
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】繊維強化部材
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/00 20060101AFI20230509BHJP
   B32B 3/18 20060101ALI20230509BHJP
   B32B 5/28 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
B32B5/00 B
B32B3/18
B32B5/28 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177141
(22)【出願日】2021-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】清家 聡
(72)【発明者】
【氏名】松島 彰吾
(72)【発明者】
【氏名】西崎 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】山中 雄介
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AK07B
4F100AK17B
4F100AK31A
4F100AK46B
4F100AK53A
4F100AT00
4F100DA12
4F100DG06A
4F100DG06H
4F100DH01A
4F100DH02A
4F100EC202
4F100EH072
4F100EH512
4F100GB51
4F100GB90
4F100JD01B
(57)【要約】
【課題】 疲労寿命が長く、強度にも優れる、断面形状が扁平であり内部空間を有した、繊維強化部材の提供を可能とする。
【解決手段】 断面形状が扁平な形状であり内部空間を有する繊維強化複合材料からなる基材の内表面の側にフィルムが配置された繊維強化部材であって、前記フィルムの厚みが10μm以上200μm以下である繊維強化部材。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面形状が扁平な形状であり内部空間を有する繊維強化複合材料からなる基材の内表面の側にフィルムが配置された繊維強化部材であって、前記フィルムの厚みが10μm以上200μm以下である繊維強化部材。
【請求項2】
前記フィルムを構成する樹脂の融点をTm1、前記繊維強化複合材料を構成する樹脂のガラス転移温度をTgとしたとき、その関係が、Tm1>Tgであることを特徴とする、請求項1に記載の繊維強化部材。
【請求項3】
前記フィルムを構成する樹脂の融点をTm1、前記繊維強化複合材料を構成する樹脂の融点をTm2としたとき、その関係が、Tm1>Tm2であることを特徴とする、請求項1に記載の繊維強化部材。
【請求項4】
前記フィルムを構成する樹脂の融点をTm1としたとき、Tm1が150℃以上であることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の繊維強化部材。
【請求項5】
前記フィルムの水蒸気透過度が、40℃、90%RHの条件において、100g/(m・24hr)以下であることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の繊維強化部材。
【請求項6】
前記フィルムが前記基材の内表面を覆う割合が内表面の面積の90%以上であることを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の繊維強化部材。
【請求項7】
前記フィルムを構成する樹脂がポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂およびフッ素樹脂のいずれかであることを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載の繊維強化部材。
【請求項8】
体積10cm以上の空間が基材の内部に2つ以上あることを特徴とする、請求項1~7のいずれかにに記載の繊維強化部材。
【請求項9】
長さが150cm未満であることを特徴とする、請求項1~8のいずれかに記載の繊維強化部材。
【請求項10】
前記繊維強化複合材料に用いる繊維が、炭素繊維およびガラス繊維の何れかまたは両方であることを特徴とする、請求項1~9のいずれかに記載の繊維強化部材。
【請求項11】
前記繊維強化複合材料に用いる樹脂が、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂(レゾール型)、ユリア・メラミン樹脂およびポリイミド樹脂、ならびにこれらの共重合体およびこれらの変性体からなる群から選ばれる少なくともひとつの樹脂であることを特徴とする、請求項1~10のいずれかに記載の繊維強化部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロペラブレードに用いるに好適な繊維強化部材に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材料は、軽量かつ高強度、高剛性であるため、産業の幅広い分野で用いられている。特に、強化繊維に樹脂を含浸した中間材料であるプリプレグを使用した成形品や成形時に強化繊維へ樹脂を含浸した成形品が好適に利用されている。近年、風車や航空機の分野でブレード状の繊維強化複合材料の利用が盛んである。ブレード状の繊維強化複合材料にあっては軽量化のために、内部を中空構造とした構造をとることがあり、そのような繊維強化複合材料は、その軽量性と強靭性を活かして、航空機、船舶等の輸送機関や風力発電分野において利用されている。
【0003】
このような中空構造を有した繊維強化複合材料として、ブラダーを使用して成形した中空構造のスパー(例えば、特許文献1)やグリッド構造のコアと繊維強化樹脂を含むスキン層からなる中空ブレードが提案されている(例えば、特許文献2)。また、円筒状の翼根部を有し、前記翼根部から翼長方向に沿って延在する中空の翼本体と、翼根部の内側面に接するように設けられた補強板が備えられた中空ブレードが提案されている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州登録特許第3556544号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2019/0195073号公報
【特許文献3】特開2018-127963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
中空構造を有したブレード状の繊維強化複合材料の製造方法としては、曲面を有した2枚のシート状の部材を貼り合わせてブレード状の形状にすることや、管状の部材を長手方向につなぎ合わせ、両端にキャップ部材を接合してブレード状の形状とすることが簡便であるが、内部空間には水分や残渣分が残ることがあり、また、一部に外部空間との間に孔が存在する場合もあって、水分や繊維強化複合材料の劣化をもたらすような望ましくない物質が内部空間に侵入する可能性がある。そのような水分や物質は製品の寿命を縮めるおそれや力学特性を損ねたりするおそれがある。
【0006】
そこで、本発明はかかる水分や製品寿命等に望ましくない物質の影響を軽減して、疲労寿命が長く、強度にも優れる、断面形状が扁平であり内部空間を有した、繊維強化部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のいずれかの手段を採用するものである。すなわち、
〔1〕断面形状が扁平な形状であり内部空間を有する繊維強化複合材料からなる基材の内表面の側にフィルムが配置された繊維強化部材であって、前記フィルムの厚みが10μm以上200μm以下である繊維強化部材。
〔2〕前記フィルムを構成する樹脂の融点をTm1、前記繊維強化複合材料を構成する樹脂のガラス転移温度をTgとしたとき、その関係が、Tm1>Tgであることを特徴とする、〔1〕に記載の繊維強化部材。
〔3〕前記フィルムを構成する樹脂の融点をTm1、前記繊維強化複合材料を構成する樹脂の融点をTm2としたとき、その関係が、Tm1>Tm2であることを特徴とする、〔1〕に記載の繊維強化部材。
〔4〕前記フィルムを構成する樹脂の融点をTm1としたとき、Tm1が150℃以上であることを特徴とする、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の繊維強化部材。
〔5〕前記フィルムの水蒸気透過度が、40℃、90%RHの条件において、100g/(m・24hr)以下であることを特徴とする、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の繊維強化部材。
〔6〕前記フィルムが前記基材の内表面を覆う割合が内表面の面積の90%以上であることを特徴とする、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の繊維強化部材。
〔7〕前記フィルムを構成する樹脂がポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂のいずれかであることを特徴とする、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の繊維強化部材。
〔8〕体積10cm以上の空間が基材の内部に2つ以上あることを特徴とする〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の繊維強化部材。
〔9〕長さが150cm未満であることを特徴とする、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の繊維強化部材。
〔10〕前記繊維強化複合材料に用いる繊維が、炭素繊維およびガラス繊維の何れかまたは両方であることを特徴とする、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の繊維強化部材。
〔11〕前記繊維強化複合材料に用いる樹脂が、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂(レゾール型)、ユリア・メラミン樹脂およびポリイミド樹脂、ならびに、これらの共重合体およびこれらの変性体からなる群から選ばれる少なくともひとつの樹脂であることを特徴とする、〔1〕~〔10〕のいずれかに記載の繊維強化部材。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、疲労寿命が長く、強度にも優れた、断面形状が扁平な形状であり内部空間を有する繊維強化部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の繊維強化部材の一例の断面図である。
図2】本発明の繊維強化部材の別な一例の断面図である。
図3】本発明の繊維強化部材の一例の上面図である。
図4】本発明に用いることができる端部補強層の例であり、(a)は巻物構造の端部補強層の例を示し、(b)は折畳構造の端部補強層の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、断面形状が扁平な形状であり内部空間を有する繊維強化複合材料からなる基材の内表面の側にフィルムが配置された繊維強化部材である。図1に例示するように内表面の側にフィルムが配置されている。このように内表面の側にフィルムが配置されることによって、保護層として機能し、雨、霧、露などの湿気、海塩水が繊維強化複合材料内に侵入することを防ぎ、疲労寿命や強度の低下を抑制できる。
【0011】
本発明の繊維強化複合材料からなる基材は断面形状が扁平である。ここで、断面形状が扁平であるとは、該基材の外表面で形成された密度が一様の立体を想定し、その重心を通過する断面のうち、最も面積が小さい断面(該断面を便宜的に「断面L」という)において、断面Lの外縁で形成される図形の重心を通過するとともに外縁上の最も遠い二点間を結ぶ線分の長さ(l1)と、該図形の重心を通過するとともに外縁上の最も近接した二点間を結ぶの線分の長さ(l2)との比(l1/l2)が1.5以上であることをいい、好ましく、断面Lに垂直な直線でかつ前記立体の内にある線分の50%以上の部分で該線分に直交する断面において前記の比(l2/l1)の関係を充足することが望ましい。
【0012】
本発明の繊維強化部材は長さが150cm未満であることが好ましく、また、繊維強化複合材料からなる基材の内部には体積10cm以上の空間を2つ以上有することが好ましい。基材の内部に複数の空間を持たせるための構造としては、図2に例示するような、剛性補強の役割を担うシェアウェブによって仕切られた構造を挙げることができる。ここで繊維強化部材の長さは、繊維強化部材に外接する最も体積の小さい長方体の最も長い辺の長さをいい、例えば、繊維強化部材が図3に示すような翼の形状を有している場合、翼根から翼先端までの長さを意味する。
【0013】
以下、本発明の繊維強化部材を構成する材料、および、繊維強化部材の作製方法について例を挙げて説明する。
【0014】
<繊維強化複合材料に用いられる繊維(強化繊維)>
本発明の繊維強化部材は、繊維強化複合材料からなる基材が用いられる。複合材料を強化するために用いられている繊維としては、強化の作用を奏する繊維であれば制限はないが、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、金属繊維を用いることが好ましい。なかでも炭素繊維を用いることが好ましい。炭素繊維としては、特に限定されないが、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系、ピッチ系、レーヨン系の炭素繊維が力学特性の向上、繊維強化樹脂成形品の軽量化効果の観点から好ましく使用でき、これらは1種または2種以上を併用しても良い。中でも、得られる繊維強化樹脂成形品の強度と弾性率とのバランスの観点から、PAN系炭素繊維がさらに好ましい。
【0015】
強化繊維の単繊維径は0.5μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましく、4μm以上がさらに好ましい。また、強化繊維の単繊維径は20μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。強化繊維のストランド強度は3.0GPa以上が好ましく、4.0GPa以上がより好ましく、4.5GPa以上がさらに好ましい。強化繊維のストランド弾性率は200GPa以上が好ましく、220GPa以上がより好ましく、240GPa以上がさらに好ましい。強化繊維のストランド強度または弾性率がそれぞれ、この範囲であれば、繊維強化樹脂成形品の力学特性を高めることができる。
【0016】
強化繊維は、連続繊維(長繊維)であっても不連続繊維(短繊維)であっても構わない。
【0017】
<繊維強化複合材料に用いられる樹脂(マトリックス樹脂)>
本発明の繊維強化部材に用いられる繊維強化複合材料からなる基材において、樹脂は前記強化繊維を内包するマトリックス材料として用いられる。マトリックス樹脂としては特に限定されず、熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂を用いることが可能であり、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂などの熱硬化性樹脂や、ポリアミド、ポリアセタール、ポリアクリレート、ポリスルフォン、ABS、ポリエステル、アクリル、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー、塩ビ、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、シリコーンなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。また、これら樹脂をなす高分子の共重合体や変成体を用いることもできる。また、複数種の樹脂を用いることを妨げない。
【0018】
<繊維強化複合材料からなる基材の内表面の側に配置されるフィルム>
本発明の繊維強化部材は、内部空間を有する繊維強化複合材料からなる基材の内表面の側にフィルムが配されている。ここに用いられるフィルムの厚みの下限は10μm以上であり、20μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましい。フィルムの厚みが10μm未満の場合、繊維強化部材の作製時や使用時にフィルムが破れる可能性がある。フィルムの厚みの上限としては200μm以下であり、150μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。200μmを超えると繊維強化部材の作製時にフィルムが成形品の形状に追従せず成形不良となる恐れがある。
【0019】
本発明に用いられるフィルムを構成する樹脂の融点をTm1、繊維強化複合材料に用いられる樹脂のガラス転移温度をTgとしたとき、その関係が、Tm1>Tgであることが好ましい。Tm1がTg以下の場合、繊維強化部材の作製時にフィルムが裂けて保護層として機能しない可能性がある。また、Tm1は150℃以上であることが好ましく、180℃以上がより好ましく、210℃以上がさらに好ましい。Tm1が150℃未満の場合、繊維強化部材の作製時にフィルムが溶けて保護層としての機能を消失する可能性がある。
【0020】
また、前記繊維強化複合材料に用いられる樹脂の融点をTm2としたとき、前記Tm1との関係が、Tm1>Tm2であることが好ましい。Tm1がTm2以下の場合、繊維強化部材の作製時にフィルムが裂けて保護層として機能しない可能性がある。なおここで、融点Tm1、Tm2およびガラス転移温度Tgは、JIS 7121:2012に準拠して測定される。
【0021】
本発明に用いられるフィルムは、その水蒸気透過度が40℃、90%RHの条件において、100g/(m・24hr)以下であることが好ましく、10g/(m・24hr)以下がより好ましく、1g/(m・24hr)以下がさらに好ましい。ここで水蒸気透過度は、JIS 7129-1:2019に準拠して測定される。
【0022】
本発明に用いられるフィルムを構成する樹脂の種類としてはフィルムとして成形することが可能であれば、特に限定されず、ポリアミド、ポリアセタール、ポリアクリレート、ポリスルフォン、ABS、ポリエステル、アクリル、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー、塩ビ、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、シリコーンなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。中では、耐候性や耐薬品性の点で有利であることから、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂またはフッ素樹脂を用いることが好ましい。
【0023】
本発明の繊維強化部材を構成するフィルムの形状としては袋状のフィルムとしてあることが好ましい。袋状であることによって、雨、霧、露などの湿気、海塩水等が繊維強化樹脂に直接付着する面積を軽減できる。また、成形時に圧空や粒子などを効率よく入れることもできる。
【0024】
また、繊維強化複合材料からなる基材の内表面を保護する観点から、フィルムは繊維強化複合材料からなる基材の内表面を覆う割合が内表面の面積の90%以上であることが好ましい。内表面を覆う割合が大きければ大きいほど雨、霧、露などの湿気、海塩水が繊維強化複合材料内に侵入することを防ぎ、疲労寿命や強度の低下を抑制できる。ここで、フィルムが覆っている面積とは、フィルムが繊維強化複合材料からなる基材の内表面に接している面積をいう。なお、図1および図2にあっては、フィルムの存在を明確に表すためにあえて繊維強化複合材料からなる基材から離してフィルムを図示している。
【0025】
<端部補強層>
本発明の繊維強化部材は断面形状が扁平な形状、特には好ましく翼状の形状、を有した繊維強化複合材料からなる基材が用いられているので、その端部は衝撃が加わったときに壊れる可能性が考慮される。そこで、当該端部を補強する目的でこの層が設けられる。図1は端部補強層が設けられた態様を図示しており、端部補強層3を内部空間の前縁部および後縁部に認めることができる。端部補強層は、周縁部に用いることが好ましく、周縁部とは、繊維強化部材を上部(体積が最も小さくなる外接直方体において最も面積の大きな平面の側。底部でも同じ)から投影した時の周囲部分を意味し、金型を用いて製造された繊維強化部材においては全周を、また連続成形法により製造された長尺ものの繊維強化部材においては左右両端部を意味する。
【0026】
端部補強層は、繊維強化複合材料によって作製されたものであることが望ましく、更に好ましくは、一方向に引き揃えられた強化繊維とマトリックス樹脂とからなる繊維強化複合材料であることが好ましい。
【0027】
また、リーディングエッジ5側の端部補強層は2層以上のシート状の繊維強化複合材料の積層体であることが好ましく、4層以上のシート状の繊維強化複合材料の積層体であることがより好ましい。
【0028】
また、トレーリングエッジ6側の端部補強層は、1層以上のシート状の繊維強化複合材料またはその積層体であることが好ましい。
【0029】
一方、端部補強層に用いられるシート状の繊維強化複合材料は、繊維強化フォームであることも好ましい。この様な繊維強化フォームの例として、サンドイッチ構造体(例えば、WO2014/162873号)や、一方の面に熱可塑性樹脂が含浸し、かつ、もう一方の面から強化繊維が露出した不織布(例えば、特開2014-172201号公報)を例示することができる。
【0030】
本発明の繊維強化部材の寸法にもよるが、周縁部の輪郭方向に直交する断面において、端部補強層の断面積は1mm以上であることが好ましく、5mm以上がさらに好ましい。端部補強層の断面積は1200mm以下であることが好ましく、500mm以下がさらに好ましい。厚みが上記好ましい範囲内にあることにより、積層体内部にまで均一に熱を伝えることが容易となり、ひいては外観に優れる繊維強化部材が得られるようになる。
【0031】
端部補強層は、周縁部の輪郭に沿った方向の繊維配向を有することが好ましい。例えば、長手方向に配向した細長い積層体を作製した後、周縁部の輪郭に沿って配置することで、周縁部の輪郭に沿った方向の繊維配向とすることができる。
【0032】
端部補強層は、巻物構造または折畳構造を有することが好ましい。
【0033】
図4(a)に巻物構造の例を、図4(b)に折畳構造の例を示す。巻物構造を有する端部補強層は、巻き上げる量を調整することで厚みや断面積を容易に調整でき、しかも製造も容易であることから、繊維強化部材の端部が丸みを帯びた形状である場合に特に好適に使用できる。一方、折畳構造を有する端部補強層は、折り畳む幅の調整や折り畳む回数の調整によって厚みを変化させたり、巻物構造よりも厚みを薄く調整しやすいことから、繊維強化部材の端部がシャープな形状である場合に特に好適に使用できる。
【0034】
<繊維強化部材の製造方法>
本発明の繊維強化部材は、シート状の繊維強化複合材料とフィルムとを用いて成形することが簡便である。特に、シート状の繊維強化複合材料としては強化繊維に樹脂をあらかじめ含浸させた中間基材として知られるプリプレグを好ましく用いて得ることができる。また、成形方法としてはオートクレーブ成形、フィラメントワインディング成形、プレス成形、トランスファー成形、スタンピング成形、射出成形を適用できる。
【0035】
以下、プリプレグを用いての成形方法を例に挙げて説明する。
【0036】
プリプレグは、強化繊維とマトリックス樹脂とから構成される。プリプレグに含まれる強化繊維の体積含有率は下限として、40%以上であることが好ましく、45%以上がより好ましく、50%以上がさらに好ましい。40%を下回った場合、成形品とした際、所望の力学特性を得られない可能性がある。また、体積含有率の上限としては、80%以下であることが好ましく、75%以下がより好ましく、70%以下がさらに好ましい。80%を超えるとボイドを内包し、力学特性を損ねる恐れがある。
【0037】
プリプレグに含まれる強化繊維の目付量としては、50g/m以上1000g/m以下であることが好ましい。目付量が小さすぎると、プリプレグの面内に強化繊維が存在しない空孔を生じる場合がある。目付量を50g/m以上とすることにより破壊起点となる空孔を排除することができるようになる。また、目付量が1000g/m以下あれば、成形の予熱において内部へ熱を均一に伝えることができるようになる。目付量は、構造としての均一性と伝熱の均一性を両立させる上で、より好ましくは100g/m以上600g/m以下であり、さらに好ましくは150g/m以上400g/m以下である。強化繊維の目付量の測定は、強化繊維のシート状物から10cm角の領域を切り出し、その質量を測り、面積で除することで実施する。測定は強化繊維のシート状物の異なる部位について10回行い、その平均値を強化繊維の目付量とする。
【0038】
本発明に用いるプリプレグは、好ましくその表面に切込みを入れたものを用いることができる(かかるプリプレグを「切込プリプレグ」と称する)。切込プリプレグは、面内全域にわたって規則的に分布する切り込みを有することが好ましく、切り込みによってプリプレグに含まれた強化繊維が切り込みの存在部位で切断されている。このような規則的に分布する切り込みは、例えば特許第5272418号明細書に記載されている方法で設けることができる。
【0039】
切込プリプレグによると、切込を設けた箇所に開口、ずれが生じやすくなり、プリプレグの強化繊維方向への伸張性が向上する。また、圧縮成形時の流動で切込挿入箇所が開放して強化繊維の繊維束同士が離れることで、プリプレグとして柔軟性を示すようになり、流動性が高まる。このようにしてプリプレグが流動しあるいは変形しやすい構成とすることで、端部にまで強化繊維が到達し、また、樹脂過多となる領域が減じられ、力学特性と外観に優れた繊維強化部材を得ることができる。なお、流動性の点から、切り込みは、プリプレグの厚み方向に亘って全域に入れることが好ましい。
【0040】
端部補強層に切込プリプレグを使用することは、内圧によって端部補強層が繊維強化部材の端部輪郭へと押し付けられて変形する際、繊維方向のつっぱりを抑制できることから樹脂リッチやボイドの発生が抑制され、端部における外観品位や力学特性の点で好ましい。端部補強層の強化繊維の繊維方向は、繊維強化部材の端部輪郭に沿った方向であることが好ましい。
【0041】
次にプリプレグを用いての成形方法について具体的な例を挙げて説明する。
【0042】
本発明の繊維強化部材に成形する方法としては、オートクレーブ成形、フィラメントワインド成形としては繊維強化複合材料からなる基材の厚み分およびフィルムの厚み分程度をオフセットした中子を作製、準備し、中子の周りにフィルム、プリプレグの順に巻いて成形する。成形圧としては樹脂が繊維間に充填するように0.3MPa以上、中子の種類としては成形温度より高い融点の耐熱性樹脂が好ましい。成形後に中子を取り出せるように中子を分割することもできる。
【0043】
プレス成形を採用する場合、繊維強化複合材料からなる基材の厚み分程度をオフセットした樹脂製袋を作製、準備し、内圧がかかるように袋内に圧空や粒子などを入れる。成形圧としては樹脂が繊維間に充填するように0.3MPa以上が好ましい。粒子の種類としては、特に限定されず、例えば、アルミナ粒子、ガラスバルーン、フライアッシュバルーン、パーライトなどが挙げられる。粒子直径の下限は10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、30μm以上がさらに好ましい。下限値を下回った場合、取り扱い性が難しく、高コストになる可能性がある。上限としては500μm以下が好ましく、350μm以下がより好ましく、200μm以下がさらに好ましい。上限値を超えると繊維強化部材に転写される凹凸形状が大きくなり、繊維強化部材の力学特性が低下する恐れがある。
【0044】
フィラメントワインド成形およびトランスファー成形としては繊維強化複合材料からなる基材の厚み分およびフィルムの厚み分をオフセットした中子を作製、準備し、中子の周りにフィルム、ドライ繊維の順に巻いて成形する。成形圧としては樹脂が繊維間に充填するように0.3MPa以上、中子の種類としては成形温度より融点の高い樹脂を用いることが好ましい。成形後に中子を取り出せるように中子を分割することもできる。
【0045】
なお、プリプレグは1枚のシート状のプリプレグで中子を巻くように用いても構わないが、2枚以上のシート状のプリプレグを用いて成形を行っても構わない。扁平な繊維強化複合材料からなる基材を得るにおいては、周縁部からみて上半分の面側と下半分の面側に対応する2枚のシート状プリプレグを用いることが簡便である。
【0046】
一方で、スタンピング成形、射出成形を用いて作製する方法としては熱可塑性樹脂製の基材の表面、あるいは型の表面にフィルムを貼って成形する。成形圧としては熱可塑性樹脂が繊維間に充填するように1Ma以上が好ましい。繊維強化複合材料からなる基材とフィルムからなる複数の部品がある場合は溶着や接着により接合することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、疲労寿命が長く、強度にも優れる、断面形状が扁平であり内部空間を有した、繊維強化部材を提供できる。
【0048】
本発明の繊維強化部材は、UAM(Urban Air Mobility)やUAS(Unmanned Aircraft Systems)、航空機などのプロペラに好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0049】
1: 繊維強化複合材料からなる基材
2: フィルム
3: 端部補強層
4: シェアウェブ
5: リーディングエッジ
6: トレーリングエッジ
7: 翼先端
8: 翼根
図1
図2
図3
図4