(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066558
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】斜面保護装置、接続具、および、斜面保護シートを接続する方法
(51)【国際特許分類】
E02D 17/20 20060101AFI20230509BHJP
【FI】
E02D17/20 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177215
(22)【出願日】2021-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】000226747
【氏名又は名称】日新産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 友人
(72)【発明者】
【氏名】長沼 寛
【テーマコード(参考)】
2D044
【Fターム(参考)】
2D044DB01
(57)【要約】
【課題】隣接する斜面保護シートの接続作業をより容易とした斜面保護装置を提供する。
【解決手段】斜面保護装置は、斜面保護シートと、互いに重なり合って隣接する斜面保護シートを接続するための1または複数の接続具と、を備える。接続具は、頭部から先端部まで所定の長さで延伸し、隣接する斜面保護シートの重合部分を貫通するように、先端部から重合部分に挿入される軸部と、軸部の周囲から径方向外側に突出するとともに先端部側から頭部側へ向かって延びる1または複数の係止部と、を備える。係止部は、軸部が重合部分を貫通した際、軸部の挿入方向への移動を許容し、かつ、軸部の反挿入方向の移動を、斜面保護シートとの係合によって規制する。少なくとも1つの係止部が重合部分を挿入方向に突き抜けるように軸部が重合部分を貫通し、かつ、軸部の軸方向が斜面保護シートに対して略平行に配向することで、隣接する斜面保護シートの接続状態が維持される。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜面に設置されて前記斜面を保護するための斜面保護装置であって、
縦横に平面状に延在し、前記斜面に敷設される2以上の斜面保護シートと、
互いに重なり合って隣接する前記斜面保護シートを接続するための1または複数の接続具と、を備え、
前記接続具は、
頭部と、
前記頭部から先端部まで所定の長さで延伸し、前記隣接する斜面保護シートの重合部分を貫通するように、前記先端部から前記重合部分に挿入される軸部と、
前記軸部の周囲から径方向外側に突出するとともに前記先端部側から前記頭部側へ向かって延びる1または複数の係止部と、を備え、
前記係止部は、前記軸部が前記重合部分を貫通した際、前記軸部の挿入方向への移動を許容し、かつ、前記軸部の反挿入方向の移動を、前記斜面保護シートとの係合によって規制するように構成されており、
前記1または複数の係止部のうちの少なくとも1つの係止部が前記重合部分を挿入方向に突き抜けるように前記軸部が前記重合部分を貫通し、かつ、前記軸部の軸方向が前記斜面保護シートに対して略平行に配向することで、前記接続具によって前記隣接する斜面保護シートの接続状態が維持されることを特徴とする斜面保護装置。
【請求項2】
前記頭部は、前記軸部が前記重合部分を貫通した際、前記重合部分を突き抜けないように前記軸部の径方向外側に張り出していることを特徴とする請求項1に記載の斜面保護装置。
【請求項3】
前記軸部は、前記重合部の2箇所以上で貫通する長さを有することを特徴とする請求項1または2に記載の斜面保護装置。
【請求項4】
前記複数の係止部は、前記軸部の軸方向の異なる位置に形成された第1の係止部および第2の係止部を含み、前記第1の係止部および前記第2の係止部が前記軸部の径方向の異なる位置を向いて配置されることを特徴とする請求項3に記載の斜面保護装置。
【請求項5】
前記先端部は、テーパー状に形成され、前記先端部に隣接した位置に前記1または複数の係止部のうちの少なくとも1つが形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の斜面保護装置。
【請求項6】
前記斜面保護シートは、網糸を縦横に編み込んで形成した網状体を含むことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の斜面保護装置。
【請求項7】
前記斜面保護シートには、横方向に沿って長筒状に延伸し、植生材料を内包する袋状または筒状の袋体を保持可能に構成された収容部が設けられ、
前記収容部は、目が粗い粗部、及び、目が細かい密部を組み合わせてなり、前記粗部は、前記シート材の平面視において、前記収容部の長手方向に直交する幅方向の一端側に偏って形成されており、
前記斜面保護シートは、前記斜面に敷設されたときに、前記粗部が前記斜面の法肩側に位置し、前記密部が前記斜面の法尻側に位置するように敷設可能であることを特徴とする請求項6に記載の斜面保護装置。
【請求項8】
互いに重なり合って隣接する斜面保護シートを接続するための接続具であって、
頭部と、
前記頭部から先端部まで所定の長さで延伸し、前記隣接する斜面保護シートの重合部分を貫通するように、前記先端部から前記重合部分に挿入される軸部と、
前記軸部の周囲から径方向外側に突出するとともに前記先端部側から前記頭部側へ向かって針状に延びる1または複数の係止部と、を備え、
前記係止部は、前記軸部が前記重合部分を貫通した際、前記軸部の挿入方向への移動を許容し、かつ、前記軸部の反挿入方向の移動を、前記斜面保護シートとの係合によって規制するように構成されており、
前記1または複数の係止部のうちの少なくとも1つの係止部が前記重合部分を挿入方向に突き抜けるように前記軸部が前記重合部分を貫通し、かつ、前記軸部の軸方向が前記斜面保護シートに対して略平行に配向することで、前記隣接する斜面保護シートの接続状態を維持可能であることを特徴とする接続具。
【請求項9】
請求項8に記載の接続具を用いて、隣接する斜面保護シートを接続する方法であって、
隣接する斜面保護シートを重ね合わせて重合部分を形成する工程と、
前記接続具を前記重合部分に縫い付けるように前記接続具を配置する工程と、
を含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、法面等の斜面に設置されて該斜面を保護するための斜面保護装置、隣接する斜面保護シートを接続するための接続具、および、接続具を用いて隣接する斜面保護シートを接続する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、法面などの斜面において、土砂の流失、斜面崩落、小規模な落石等を抑制するために斜面を保護することが行われている。
【0003】
例えば、土、種子、肥料、保水材などの植生材料(または植生基材)を保持する植生マットが土壌にアンカーなどを用いて固定されることにより、緑化とともに斜面保護が行われている。特許文献1は、自然植生植物で緑化すべき土壌の表面に敷設される植生マットを示している。以下、当該段落において、()内に特許文献1の符号を示す。植生マット(100)は、緑化すべき土壌(P)の自然環境に対応する埋土種子(111)を含む現地発生土(106)を収容した第1収容部(102)と、第1収容部(102)と異なる位置で人工土(107)を収容した第2収容部(103)と、を備える。第1及び第2収容部(102,103)は、長手方向に延伸する網状の長筒体から構成され、現地発生土(106)又は人工土(107)を収容する植生袋(108)を保持可能に構成されている。植生マット(100)は、法面等の美化と共に土砂の流失等を防止するために土壌(P)に設置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のような従来の植生マット(斜面保護シート)では、複数設置されて法面を含む斜面を保護することは可能であったが、隣接する植生マット同士が接続されていない場合、植生マットの間に隙間が生し、その隙間が起点となって土砂の流失や斜面の崩落が発生するおそれがあった。一方で、隣接する植生マットの間の隙間の発生を防止するために、Cリングをかしめて、隣接する植生マットを接続することが一般的な手法として行われている。しかしながら、隣接する植生マット同士の接続には、多くのCリングを必要とし、接続作業に手間がかかることが問題であった。特には、Cリングをかしめるには、コンプレッサなどの専用工具が必要となることから、接続作業の効率が悪いことが課題として挙げられる。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、隣接する斜面保護シートの接続作業をより容易とした斜面保護装置、接続具、および、隣接する斜面保護シートを接続する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の斜面保護装置は、斜面に設置されて前記斜面を保護するための斜面保護装置であって、
縦横に平面状に延在し、前記斜面に敷設される2以上の斜面保護シートと、
互いに重なり合って隣接する前記斜面保護シートを接続するための1または複数の接続具と、を備え、
前記接続具は、
頭部と、
前記頭部から先端部まで所定の長さで延伸し、前記隣接する斜面保護シートの重合部分を貫通するように、前記先端部から前記重合部分に挿入される軸部と、
前記軸部の周囲から径方向外側に突出するとともに前記先端部側から前記頭部側へ向かって延びる1または複数の係止部と、を備え、
前記係止部は、前記軸部が前記重合部分を貫通した際、前記軸部の挿入方向への移動を許容し、かつ、前記軸部の反挿入方向の移動を、前記斜面保護シートとの係合によって規制するように構成されており、
前記1または複数の係止部のうちの少なくとも1つの係止部が前記重合部分を挿入方向に突き抜けるように前記軸部が前記重合部分を貫通し、かつ、前記軸部の軸方向が前記斜面保護シートに対して略平行に配向することで、前記接続具によって前記隣接する斜面保護シートの接続状態が維持されることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の斜面保護装置は、請求項1に記載の斜面保護装置において、前記頭部は、前記軸部が前記重合部分を貫通した際、前記重合部分を突き抜けないように前記軸部の径方向外側に張り出していることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の斜面保護装置は、請求項1または2に記載の斜面保護装置において、前記軸部は、前記重合部の2箇所以上で貫通する長さを有することを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の斜面保護装置は、請求項3に記載の斜面保護装置において、前記複数の係止部は、前記軸部の軸方向の異なる位置に形成された第1の係止部および第2の係止部を含み、前記第1の係止部および前記第2の係止部が前記軸部の径方向の異なる位置を向いて配置されることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の斜面保護装置は、請求項1から4のいずれか一項に記載の斜面保護装置において、前記先端部は、テーパー状に形成され、前記先端部に隣接した位置に前記1または複数の係止部のうちの少なくとも1つが形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の斜面保護装置は、請求項1から5のいずれか一項に記載の斜面保護装置において、前記斜面保護シートは、網糸を縦横に編み込んで形成した網状体を含むことを特徴とする。
【0013】
請求項7に記載の斜面保護装置は、請求項6に記載の斜面保護装置において、前記斜面保護シートには、横方向に沿って長筒状に延伸し、植生材料を内包する袋状または筒状の袋体を保持可能に構成された収容部が設けられ、
前記収容部は、目が粗い粗部、及び、目が細かい密部を組み合わせてなり、前記粗部は、前記シート材の平面視において、前記収容部の長手方向に直交する幅方向の一端側に偏って形成されており、
前記斜面保護シートは、前記斜面に敷設されたときに、前記粗部が前記斜面の法肩側に位置し、前記密部が前記斜面の法尻側に位置するように敷設可能であることを特徴とする。
【0014】
請求項8に記載の接続具は、互いに重なり合って隣接する斜面保護シートを接続するための接続具であって、
頭部と、
前記頭部から先端部まで所定の長さで延伸し、前記隣接する斜面保護シートの重合部分を貫通するように、前記先端部から前記重合部分に挿入される軸部と、
前記軸部の周囲から径方向外側に突出するとともに前記先端部側から前記頭部側へ向かって針状に延びる1または複数の係止部と、を備え、
前記係止部は、前記軸部が前記重合部分を貫通した際、前記軸部の挿入方向への移動を許容し、かつ、前記軸部の反挿入方向の移動を、前記斜面保護シートとの係合によって規制するように構成されており、
前記1または複数の係止部のうちの少なくとも1つの係止部が前記重合部分を挿入方向に突き抜けるように前記軸部が前記重合部分を貫通し、かつ、前記軸部の軸方向が前記斜面保護シートに対して略平行に配向することで、前記隣接する斜面保護シートの接続状態を維持可能であることを特徴とする。
【0015】
請求項9に記載の方法は、請求項8に記載の接続具を用いて、隣接する斜面保護シートを接続する方法であって、
隣接する斜面保護シートを重ね合わせて重合部分を形成する工程と、
前記接続具を前記重合部分に縫い付けるように前記接続具を配置する工程と、
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の斜面保護装置によれば、互いに重なり合って隣接する斜面保護シートの重合部分に接続具の軸部を貫通させて、軸部の軸方向を斜面保護シートの平面方向に対して略平行に配向させることで、接続具によって隣接する斜面保護シートの接続状態を容易に形成および維持することが可能である。特には、係止部が重合部分を突き抜けるように接続具が重合部分に挿入されて、係止部が斜面保護シートに係合可能となることにより、接続具が重合部分から反挿入方向に移動して抜け出ることが防止される。すなわち、接続具を重合部分に挿入するという単純な作業工程により、隣接する斜面保護シート同士の接続状態を安定的に維持することが可能である。したがって、本発明の斜面保護装置は、隣接する斜面保護シートの接続作業をより効率的に改善したものである。
【0017】
請求項2に記載の斜面保護装置によれば、請求項1に記載の発明の効果に加えて、接続具の頭部が、接続具を重合部分に挿入した際、重合部分を突き抜けないように斜面保護シートの表面に係止される。すなわち、接続具が、挿入方向および反挿入方向のいずれの方向に移動しても、斜面保護シートの重合部分から抜け落ちることが防止される。これにより、本発明の斜面保護装置は、隣接する斜面保護シート同士の接続状態をより安定的に維持することが可能である。
【0018】
請求項3に記載の斜面保護装置によれば、請求項1または2に記載の発明の効果に加えて、軸部が重合部の2箇所以上で貫通する長さを有することにより、1つの接続具によって、軸部の長さ範囲に亘って接続箇所を複数形成し、斜面保護シートの一点に荷重が集中して斜面保護シートが破れることが抑えられる。
【0019】
請求項4に記載の斜面保護装置によれば、請求項3に記載の発明の効果に加えて、軸部の軸方向の異なる位置に形成された第1および第2の係止部の径方向の突出向きを変更したことにより、少なくとも一方の係止部が、より確実に斜面保護シートに引っ掛かり、接続具が重合部分から抜け落ちることが抑えられる。。
【0020】
請求項5に記載の斜面保護装置によれば、請求項1から4のいずれかに記載の発明の効果に加えて、先端部がテーパー状であることにより、先端部が重合部分を突き抜けることが容易となる。また、少なくとも1つの係止部が先端部近傍に形成されていることにより、接続具の先端部が重合部分を貫通するとすぐに、係止部が重合部分を突き抜けて配置される。すなわち、接続具の少ない挿入操作で、隣接する斜面保護シートの接続(または仮止め)が可能となる。
【0021】
請求項6に記載の斜面保護装置によれば、請求項1から5のいずれかに記載の発明の効果に加えて、斜面保護シートが縦横に網糸を編み込んで形成した網状体からなることにより、網目を介して接続具を重合部分に貫通挿入することが容易であり、かつ、網糸に係止部が引っ掛かることによって抜け止め(係止)状態を効果的に形成することが可能である。
【0022】
請求項7に記載の斜面保護装置によれば、請求項6に記載の発明の効果に加えて、収容部に植生材料を内包する袋体を充填することにより、斜面保護と同時に斜面の緑化を効果的に実施することが可能となる。また、網状の長筒体の粗部が法面の法肩(上方)側に位置し、網状長筒体の密部が法面の法尻(下方)側に位置するように斜面保護シートを斜面に配置可能である。すなわち、斜面の法肩側の網目が粗いので、植物の発芽及び成長が網状体によって邪魔されることがない。他方、法面の法尻側の網目が細かいので、植生材料を安定的に保持することが可能である。さらに、収容部の密部で流れ落ちる細かい土砂を捕捉して土砂の流出量を抑えることも可能である。
【0023】
請求項8に記載の接続具によれば、互いに重なり合って隣接する斜面保護シートの重合部分に接続具の軸部を貫通させて、軸方向を斜面保護シートの平面方向に対して略平行に配向させることで、接続具によって隣接する斜面保護シートの接続状態を容易に形成および維持することが可能である。特には、係止部が重合部分を突き抜けるように接続具が重合部分に挿入されて、係止部が斜面保護シートに係合可能となることにより、接続具が重合部分から反挿入方向に移動して抜け出ることが防止される。すなわち、接続具を重合部分に挿入するという単純な作業工程により、隣接する斜面保護シート同士の接続状態を安定的に維持することが可能である。したがって、本発明の接続具は、隣接する斜面保護シートの接続作業をより効率的に改善したものである。
【0024】
請求項9に記載の方法によれば、請求項8に記載の接続具に係る発明の効果を隣接する斜面保護シートを接続する方法として発揮することができる。したがって、本発明の方法は、隣接する斜面保護シートの接続作業をより効率的に改善したものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施形態の斜面保護装置の概略分解斜視図。
【
図3】
図2の接続具の(a)平面図、(b)正面図、および(c)底面図。
【
図4】
図3の接続具の(a)A-A断面図、および(b)B-B断面図。
【
図5】
図1の斜面保護装置において、隣接する斜面保護シートの接続状態を示す部分拡大斜視図。
【
図8】
図1の斜面保護装置において、接続具を用いて隣接する斜面保護シートを接続する工程を示す模式図。
【
図9】
図1の斜面保護装置において、隣接する斜面保護シートの異なる接続状態を示す模式図であって、(a)貫通箇所が1つである接続状態、(b)貫通箇所が2つである接続状態、および(c)貫通箇所が3つである接続状態を示す。
【
図10】
図1の斜面保護装置による設置構造を示す概略図。
【
図11】本発明の斜面保護装置の斜面保護シートの応用例を示す概略図。
【
図12】本発明の斜面保護装置の斜面保護シートのさらなる応用例を示す概略図。
【
図13】本発明の斜面保護装置の接続具の変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において参照する各図の形状は、好適な形状寸法を説明する上での概念図または概略図であり、寸法比率等は実際の寸法比率とは必ずしも一致しない。つまり、本発明は、図面における寸法比率に限定されるものではない。
【0027】
本発明の一実施形態の斜面保護装置100は、法面等の斜面に設置されることで、土砂の流出防止や落石の抑制等の斜面保護を目的とするものである。なお、本明細書では、斜面保護装置100が斜面に敷設されたときに斜面の傾斜方向に沿う方向を「縦」方向とし、斜面の等高線方向に沿う方向を「横」方向として定義する。さらに、斜面保護装置100が斜面に敷設されたときに斜面の法肩側(上方または高所側)に配置される側を「上」位置とし、斜面の法尻側(下方または低所側)に配置される側を「下」位置として定義する。
【0028】
図1は、本実施形態の斜面保護装置100の概略分解斜視図である。斜面保護装置100は、
図1に示すように、保護すべき斜面表面を被覆可能に縦横に所定の大きさで延在する2以上の斜面保護シート101と、互いに重なり合って隣接する斜面保護シート101を接続するための(1または)複数の接続具110と、を備える。また、斜面保護装置100は、構成要素として、斜面保護シート101を斜面に固定するための1または複数の固定具120を備えてもよい(
図10参照)。すなわち、斜面保護装置100は、斜面の保護領域の面積よりも小さい斜面保護シート101を複数用いることで、所定面積の斜面を保護するように構成されている。
【0029】
斜面保護シート101は、斜面に敷設されて、斜面からの土砂流失、斜面の崩落、小規模な落石を抑制するように構成されている。斜面保護シート101は、土砂流失等を抑制するものであれば、種々の形態を取り得る。ここでは、斜面保護シート101は、説明の便宜上、または好適な形態の1つとして、縦横に網糸102を編み込んで形成した矩形状の網状体(またはネット)として表される。本実施形態では、網状体は、柔軟で高強度の繊維からなる。また、斜面保護シート101の一方側の表面が第1表面101aと定められ、該第1表面101aの反対側の表面が第2表面101bと定められた。
【0030】
2以上の斜面保護シート101は、縦方向または横方向において互いに隣接配置されるとともに、隙間を形成しないように部分的に重なり合って配置される(
図10参照)。そして、互いに隣接する2枚の斜面保護シート101,101によって、重合部分Sが形成される。当該重合部分Sを接続具110が斜面保護シート101の平面方向に沿って貫通することにより、隣接する2枚の斜面保護シート101,101の接続状態が形成および維持され得る。
【0031】
図2乃至
図4を参照して、接続具110の構成について説明する。
図2は、接続具110の概略斜視図である。
図3(a)~(c)は、接続具110の平面図、正面図および底面図である。
図4(a)、(b)は、接続具110のA-A断面図およびB-B断面図である。
【0032】
本実施形態の接続具110は、頭部111と、該頭部111から先端部113まで所定の長さで延伸し、斜面保護シート101の重合部分Sを貫通可能である軸部112と、該軸部112の周囲から径方向外側に針または棒状に延びる1または複数の係止部115と、を備える。ここで、頭部111から先端部113に向かう方向が、接続具110の挿入方向として定められ、(その反対の)先端部113から頭部111に向かう方向が、接続具110の反挿入方向(または抜け出し方向)として定められた。すなわち、接続具110は、先端部113から挿入方向に沿って斜面保護シート101の重合部分Sに挿入されるものである。なお、本実施形態の接続具110は、硬質な合成樹脂材料または金属材料などから形成され得る。
【0033】
頭部111は、軸部112の基端に設けられ、軸部112の径方向外側に張り出している。頭部111の張り出し量は、軸部112が重合部分Sを貫通した際、重合部分Sを突き抜けないように定められた。好ましくは、頭部111は、斜面保護シート101の網目よりも大きい。
【0034】
軸部112は、所定の長さおよび径で延伸し、隣接する斜面保護シート101の重合部分Sを貫通するように、先端部113から重合部分Sに挿入されるように構成されている。
図4に示すように、軸部112は、頭部111側の基端から先端部113付近まで略一様な径の断面円形状で延伸し、先端部113においてテーパー形状を有する。このように、先端部113が尖っていることから、先端部113が斜面保護シート101または重合部分Sを突き抜けることが容易となる。軸部112の長さは、少なくとも斜面保護シート101の網目より大きくなるように定められた。また、軸部112は、重合部分Sの2箇所以上で貫通する長さを有することが好ましい。さらに、軸部112は、重合部分Sの3~5箇所で貫通する長さを有することがさらに好ましい。
【0035】
係止部115は、軸部112の周囲から径方向外側に突出するとともに先端部113側から頭部111側へと向かって延びる、細長い突出片である。つまり、係止部115は、挿入方向の反対側に折り返して延びており、その先端が細く、所謂「かえし」として機能するものである。そして、各係止部115は、軸部112が重合部分Sを貫通した際、軸部112の挿入方向への移動を許容し、かつ、軸部112の反挿入方向の移動を斜面保護シート101との係合によって規制するように構成されている。すなわち、係止部115は、軸部112の挿入方向への移動に従って係止部115自身が重合部分Sを挿入方向に突き抜けて通過することが可能である。一方で、係止部115は、軸部112の反挿入方向への移動に際して、斜面保護シート101に係止されることにより、重合部分Sを反挿入方向に突き抜けて通過することができない。
【0036】
より具体的には、各係止部115の基端が軸部112の外周面に一体的に形成され、その先端が径方向外側かつ反挿入方向側を向いている。つまり、係止部115は、軸部112の軸方向に対して所定の傾斜角で傾斜して延びている。この傾斜角は、頭部111側に鋭角をなしている。また、係止部115は、鋭利な先端を有し、径方向外側に反り返るように延びている。そして、係止部115の先端と軸部112の外周面との間には、隙間が形成されている。当該隙間を斜面保護シート101の網糸102が通ることで、係止部115が斜面保護シート101に係合するように構成されている。すなわち、係止部115は、斜面保護シート101の網糸102が引っ掛かる形状をなしている。さらに、各係止部115は、軸部112の径方向内側に弾性変形可能に構成されてもよい。軸部112が斜面保護シート101を貫通する際、その貫通孔(または網目)が狭い場合、係止部115が、径方向内側に弾性変形することで斜面保護シート101を軸部112とともに突き抜けることが可能となる。
【0037】
また、複数の係止部115が、軸部112の軸方向の異なる位置に形成されている。本実施形態では、係止部115は軸部112の2箇所に形成された。先端部113に隣接した位置に複数の係止部115のうちの第1の係止部115が形成されている。第1の係止部115が、先端部113近傍に形成されていることにより、接続具110の先端部113およびその近傍が重合部分Sを貫通するとすぐに、第1の係止部115が重合部分Sを突き抜けて配置される。すなわち、接続具110の少ない挿入操作で、隣接する斜面保護シート101,101の接続(または仮止め)が可能となる。また、第1の係止部115から軸方向に離隔した軸部112の略中央位置には、第2の係止部115が形成されている。すなわち、本実施形態では、接続具110は、2つの係止部115により、軸方向に離隔した2箇所で斜面保護シート101に係合することが可能である。また、第1の係止部115および第2の係止部155は、軸部112の径方向の異なる位置(ここでは反対側)を向いて配置されている。このように、複数の係止部115の径方向の突出向きを相違させることにより、少なくとも1つの係止部115が、より確実に斜面保護シート101に引っ掛かり、接続具110が重合部分Sから抜け落ちることが抑えられる。
【0038】
次に、互いに隣接させて重ね合わせた斜面保護シート101,101を複数の接続具110を用いて接続した形態について説明する。
図5は、斜面保護装置100において、隣接する斜面保護シート101,101の接続状態を示す概略斜視図である。
図6は、その概略平面図である。
図7は、そのC-C断面模式図である。
【0039】
図5および
図6に示すように、隣接する斜面保護シート101,101の周縁が部分的に重なり合って重合部分Sが形成されている。このとき、重合部分Sが一様の幅を有するように、隣接する斜面保護シート101,101が平行に配置されることが好ましい。そして、重合部分Sに対して、複数の接続具110が斜面保護シート101の平面方向と略平行になるように縫い付けられている。ここで、斜面保護シート101の第1表面101aが上側に位置し、第2表面101bが下側に位置する。
【0040】
図7に示すように、各接続具110は、重合部分Sの2箇所以上で貫通することで隣接する斜面保護シート101,101を接続している。ここでは、接続具110の頭部111が第1表面101a側に位置し、軸部112が重合部分Sの5箇所で貫通し、先端部113が第2表面101b側に延び出ている。軸部112は、斜面保護シート101の平面に対して略平行に配向し、かつ、軸方向において重合部分Sの第1表面101a側および第2表面101b側に交互に配置されている。換言すると、接続具110に対して、重合部分Sが蛇行するように変形している。そして、複数の係止部115が重合部分Sを挿入方向に突き抜けるように軸部112が重合部分Sを貫通し、かつ、軸部112の軸方向が斜面保護シート101(平面方向)に対して略平行に配向することで、接続具110によって隣接する斜面保護シート101,101の接続状態が形成および維持されている。
【0041】
より具体的に、接続具110の最も基端側の1番目の貫通箇所をP1と示し、基端側から順にP2~P5(つまり、n番目の貫通箇所はPn)と示した。本実施形態では、貫通箇所P1~P5は、重合部分Sにおいて2枚の斜面保護シート101の網目の開口が重なった位置である。また、隣接する貫通箇所Pn、Pn+1の間には、網目を形成する1以上の網糸102が配置されている。また、接続具110の頭部111が第1の貫通箇所P1の軸方向の先端側に配置され、先端部113が第5の貫通箇所P5の先端側に突き抜けて配置されている。ここで、頭部111は、網糸102に引っ掛かって係止されることから、軸部112が斜面保護シート101の平面に対して平行に配向した姿勢で、第1の貫通箇所P1を挿入方向に通過することができない。
【0042】
また、第1の係止部115が、接続具110の先端部113と同様に、第5の貫通箇所P5を先端側に突き抜けて配置されている。この第1の係止部115は、軸部112が反挿入方向(基端側)に移動する際、第5の貫通箇所P5の先端側に位置する網糸102と引っ掛かることで抜け止め(または、かえし)として機能する。仮に、第1の係止部115が、網糸102に引っ掛かることなく、反挿入方向に第5の貫通箇所P5を通過した場合であっても、その基端側の他の網糸102に係止される可能性が極めて高く、他の全ての貫通箇所Pを反挿入方向に通過することはほぼ不可能である。
【0043】
また、第2の係止部115が、第3の貫通箇所P3と第4の貫通箇所P4との間に配置されている。第2の係止部115も同様に、軸部112が反挿入方向(基端側)に移動する際、第3の貫通箇所P3(または、より基端側の貫通箇所)の先端側に位置する網糸102と引っ掛かることで抜け止め(または、かえし)として機能する。すなわち、第2の係止部115は、斜面保護シート101に対して、第1の係止部115が係合する網目とは異なる位置の網目に係合し得る。さらに、各貫通箇所P1~P5の軸方向の前後の複数箇所において、軸部112に網糸102が絡み付いている。つまり、軸部112は、第1表面101a側および第2表面101b側の両方から網糸102によって挟まれている。すなわち、接続具110を中心として、隣接する斜面保護シート101,101の網糸102が互いに絡み合って接続され、なおかつ、接続具110が重合部分S内で挿入方向および反挿入方向の両方向に移動して抜け落ちることが規制されている。
【0044】
したがって、本実施形態の斜面保護装置100によれば、隣接する斜面保護シート101,101の接続状態において、1つの接続具110につき、(重合部分Sの2箇所以上で貫通する長さを有する)軸部112の長さ範囲に亘って接続箇所を複数形成し、斜面保護シート101の一点に荷重が集中して斜面保護シート101(または網糸102)が破れることが抑えられる。従来のCリングによる接続では、植生マットの接続箇所の1点に荷重が集中することから、経時により接続箇所を中心に植生マットが破損し易く、接続状態を安定的に維持できないことが第2の課題として挙げられる。これに対し、本実施形態の斜面保護装置100は、接続具110を用いることにより、隣接する斜面保護シート101,101の接続状態を安定的に維持可能とするものである。
【0045】
続いて、
図8を参照して、隣接する斜面保護シート101,101を接続する方法について説明する。
【0046】
まず、隣接する斜面保護シート101,101を重ね合わせて重合部分Sを形成するように配置する。次に、接続具110を重合部分Sに縫い付けるように接続具110を配置する。より具体的には、
図8(a)に示すように、重合部分Sを折り曲げるとともに、接続具110を斜面保護シート101の平面方向に略平行に配向させつつ、その先端部113を折り曲げた重合部分Sの網目の開口(第1の貫通箇所P1)に挿入し、軸部112を重合部分Sに貫通配置する。このとき、接続具110の頭部111が、第1の貫通箇所P1を介して、重合部分Sの第1表面101a側に位置し、先端部113が第2表面101b側に位置する。
【0047】
次に、挿入方向前方の重合部分Sを再び折り曲げるとともに、接続具110を斜面保護シート101の平面方向に略平行に配向させつつ、接続具110を挿入方向に移動させる。
図8(b)に示すように、軸部112の先端部113を第1の貫通箇所P1と異なる網目(第2の貫通箇所P2)に挿入させ、第2表面101b側から第1表面101a側へと重合部分Sに貫通配置する。
図8(c)に示すように、この貫通操作を繰り返しながら、接続具110を挿入方向に移動させることにより、複数の貫通箇所Pnを順々に形成して、隣接する斜面保護シート101,101を接続することが可能である。したがって、本実施形態の斜面保護装置100は、接続具110を重合部分Sに対して、略平行に差し込むという単純な操作によって、隣接する斜面保護シート101,101の間に安定的な接続状態を構築することが可能である。
【0048】
図9(a)~(c)は、斜面保護装置100の隣接する斜面保護シート101,101において、貫通箇所Pが1つである接続状態、貫通箇所Pが2つである接続状態、および貫通箇所Pが3つである接続状態を示している。
図9(a)、(b)に示すように、本発明において、接続具110を斜面保護シート101に1回または2回通すことで固定することも可能であるが、接続強度が十分であるとはいえない。一方で、作業性を考慮すると、接続具110を斜面保護シート101に通す回数は10回以内であることが好ましい。そこで、作業性および接続強度の両方を考慮すると、接続具110を斜面保護シート101に通す回数は、
図7および
図9(c)に示すように、3~5回程度が好適である。
【0049】
次に、本実施形態の斜面保護装置100を斜面Gの土壌表面に敷設した設置構造10について説明する。
図10は、設置構造10の概略斜視図である。
【0050】
図10に示す設置構造10において、斜面保護装置100の複数の斜面保護シート101が斜面Gの土壌表面に複数の固定具120を用いて固定されている。複数の斜面保護シート101は、斜面Gの傾斜方向、および、それに直交する等高線方向において敷き詰められている。特には、隣接する斜面保護シート101,101同士が重なり合って、斜面Gに隙間が形成されていない。ここでは、斜面保護シート101が縦方向および横方向に隣接し、縦横両方に重合部分Sが形成されている。また、固定具120は、L字形のアンカーであり、その頭部を法肩側に向けた状態で重合部分Sに打設されることが好ましい。そして、重合部分Sにおいて、複数の接続具110が斜面保護シート101の平面方向と略平行に延びるように取り付けられることで、隣接する斜面保護シート101,101が強固に接続されている。すなわち、本実施形態の設置構造10は、接続具110によって、隣接する斜面保護シート101,101の接続状態を安定的に維持可能であることから、隙間が事後的に発生することが抑制される。その結果、当該隙間の事後的な発生に起因する土砂の流失等を抑制して斜面Gを効果的に保護することが可能である。
【0051】
なお、本実施形態では、本発明を限定するものではないが、接続具110の長さが約150mmであり、斜面Gの縦または横方向に約500mmの間隔で複数の接続具110が重合部分Sに取り付けられている。また、隣接する斜面保護シート101,101の接続は、1つの重合部分Sに対して最低1つの接続具110であっても可能であるが、接続強度を向上させるために、所定の間隔で複数の接続具110が取り付けられることが好ましい。
【0052】
上記実施形態では、斜面保護シート101を単純な網状体として示したが、斜面保護シートは、様々な形態のものを対象としている。以下、斜面保護シートの具体例を説明する。
【0053】
図11は、斜面保護装置の斜面保護シートの一例として、植生マットである斜面保護シート201を示している。斜面保護シート201は、縦横に網糸202を略直交に編み込んで形成した網状体からなる。斜面保護シート201には、網状体が2重となる複数の箇所を有し、当該箇所に横方向に長筒状に延びる複数の収容部204が設けられている。斜面保護シート201は、植生材料を含む袋体205が収容部204に充填されることで、斜面表面を植生植物で緑化するための植生マットとしても使用され得る。なお、植生材料は、植生に用いられる材料であって、種子、肥料、土壌改良材、保水材、撥水抑制材、土砂、生育基盤材などを少なくとも1つ含むものである。
【0054】
収容部204は、長手方向に延伸する網状の長筒体から構成され、植生材料を内包する袋状または筒状の袋体205を保持可能に構成されている。各収容部204は、斜面保護シート201の横方向に亘って長手状に延在している。より具体的には、網状の収容部204は、縦方向に位置する複数の縦糸と、該縦糸を連結する横糸とにより構成されて、横糸を表裏に分割してこれら各横糸のそれぞれに各縦糸を横方向に対して交互に編み込むことにより筒状を形成したものである。つまり、収容部204は、2枚の網状体が重ね合わされた袋状に形成されている。そして、収容部204は、その長手方向が斜面保護シート201の横方向に沿うように一端から他端に亘って延在している。該収容部204の長手方向の端部の一端又は両端が開口し、筒状の袋体205を開口から挿入可能に構成されている。
【0055】
また、収容部204は、目が粗い粗部204a、及び、目が細かい密部204bを組み合わせてなる。なお、粗部204a及び密部204bは、縦横両方又はいずれかの目の大きさが相対的に異なる領域として定められている。粗部204aは、その平面視において、収容部204の長手方向に直交する幅方向の一端側に偏って形成されている。特には、平面における縦方向の略上側半分を粗部204aが占め、残りの略下側半分を密部204bが占めている。斜面保護シート201が斜面に設置されたときに、収容部204の外周の一部を占める粗部204aが斜面の上側に位置し、収容部204の外周の残りを占める密部204bが斜面の下側に位置する。すなわち、収容部204の斜面の法肩側の網目が粗いので、植物の発芽及び成長が網状体によって邪魔されることがない。他方、収容部204の斜面の法尻側の網目が細かいので、植生材料を安定的に保持することが可能である。さらに、収容部204の密部204bで流れ落ちる細かい土砂を捕捉して土砂の流出量を抑えることも可能である。
【0056】
また、斜面保護シート201には、
図12に示すように、不織布、紙または織布シート等からなる植生用シート206が貼り付けられてもよい。植生用シート206は、水解性(水溶性、水脆弱性)の不織布と紙との間に種子や肥料を挟み込んで接着することで、斜面保護シート201に植生用シートとしての機能を追加するものである。
【0057】
隣接する斜面保護シート201,201を接続するには、予め袋体205を収容部204に収納した上で、斜面保護シート201,201の端縁を重ね合わせて重合部分Sを形成する。そして、上述の説明と同様に、接続具110を重合部分Sに対して縫い付けるように取り付けることにより、接続状態を形成および維持することができる。本形態において、取付容易性の観点から、接続具110が収容部204の粗部204aに取り付けられることが好ましい。
【0058】
すなわち、接続具110は、
図11および
図12で示すような植生マットの機能を有する斜面保護シート201と組み合わせることにより、斜面を植物によって緑化しつつ、斜面保護装置として斜面を保護することが可能である。
【0059】
以下、本発明の一実施形態の斜面保護装置100の作用効果について説明する。
【0060】
本実施形態の斜面保護装置100によれば、互いに重なり合って隣接する斜面保護シート101,101の重合部分Sに接続具110の軸部112を貫通させて、軸方向を斜面保護シート101の平面方向に対して略平行に配向させることで、接続具110によって隣接する斜面保護シート101,101の接続状態を容易に形成および維持することが可能である。特には、係止部115が重合部分Sを突き抜けるように接続具110が重合部分Sに挿入されて、係止部115が斜面保護シート101に係合可能となることにより、接続具110が重合部分Sから反挿入方向に移動して抜け出ることが防止される。また、接続具110の頭部111は、挿入方向に重合部分Sを突き抜けることがない。すなわち、接続具110を重合部分Sに挿入するという単純な作業工程により、隣接する斜面保護シート101,101同士の接続状態を安定的に維持することが可能である。したがって、本実施形態の斜面保護装置100は、隣接する斜面保護シート101,101の接続作業をより効率的に改善したものである。
【0061】
本発明は、上記実施形態に限定されず、種々の変形例を取り得る。以下、本発明の変形例を説明する。
【0062】
(1)本発明の接続具は、上記実施形態に限定されず、種々の形態を取り得る。
図13は、本発明の変形例として、接続具210,310を例示する。
図13(a)に示す接続具210は、頭部211、軸部212、先端部213および係止部215を備える。頭部211は、軸部212の基端から略L字型に屈曲するように、重合部分を突き抜けないように軸部212の径方向外側に張り出している。また、軸部212の軸方向の同じ位置で2つの係止部215が形成されている。2つの係止部215は、径方向の反対側に延び出ているが、径方向に交差または直交する方向に延び出ていてもよい。そして、軸部212の軸方向の異なる位置においても、同様に2つの係止部215が形成されている。
図13(b)に示す接続具310は、頭部311、軸部312、先端部313および係止部315を備える。頭部311は、軸部312に対して相対的に拡径し、重合部分を突き抜けないように軸部312の径方向外側に張り出している。また、軸部312は、頭部311から先端部313に向けて連続的に細くなるように構成されている。つまり、軸部312は一様な径を有していない。また、軸部312の先端部313が尖っていない。そして、軸部312には、1つの係止部315のみが形成されている。すなわち、本発明の接続具は、少なくとも斜面保護装置として、その機能を発揮することができれば、いかなる形態をとってもよい。
【0063】
(2)本発明の斜面保護装置は、上記実施形態に限定されず、種々の形態を取り得る。上記実施形態の斜面保護装置では、斜面保護シートが、網状体として形成されたが、本発明はこれに限定されない。例えば、斜面保護シートは、不織布または織布シートで構成されてもよい。この場合、接続具を斜面保護シートに突き刺すことにより、先端部が繊維の目を突き抜けて貫通孔を形成し、当該貫通孔を押し拡げながら、軸部を重合部分を貫通挿入することが可能である。係止部は、軸部とともに貫通孔を通過する際、径方向内側に弾性変形し、貫通孔を通過した後に弾性復帰することで、反挿入方向に斜面保護シートと係合可能となり、同様の抜け止め効果が発揮される。
【0064】
(3)本発明の斜面保護装置は、上記実施形態に限定されず、種々の形態を取り得る。上記実施形態の斜面保護装置では、斜面保護シートは、網状体による柔軟な材質で形成されたが、本発明はこれに限定されない。例えば、斜面保護シートは、繊維や糸を編んで形成した網状体よりも強度及び耐久性が高い、金網や合成樹脂ネット(ネトロン(登録商標)シート)などであってもよい。
【0065】
(4)本発明の斜面保護装置は、上記実施形態に限定されず、種々の形態を取り得る。上記実施形態の斜面保護装置では、斜面保護シートは、矩形状のシートとして形成され、その縁辺を重ね合わせることで重合部分を形成したが、本発明はこれに限定されない。例えば、隣接する斜面保護シートを重合させるために、矩形状のシートの縁辺から突出する箇所を接続代として別途設けてもよい。
【0066】
なお、本発明は上述した複数の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限りにおいて種々の態様で実施しうるものである。
【符号の説明】
【0067】
10 設置構造
100 斜面保護装置
101 斜面保護シート
101a 第1表面
101b 第2表面
102 網糸
110 接続具
111 頭部
112 軸部
113 先端部
115 係止部
120 固定具
201 斜面保護シート
201a 第1表面
201b 第2表面
202 網糸
204 収容部
204a 粗部
204b 密部
205 袋体
206 植生用シート
Pn n番目の貫通箇所
S 重合部分
G 斜面