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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066587
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】半導体製造テープ用基材フィルム
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20230509BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20230509BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
H01L21/78 M
B32B27/32 E
C08J5/18 CES
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177261
(22)【出願日】2021-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】000108719
【氏名又は名称】タキロンシーアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石本 享之
(72)【発明者】
【氏名】味口 陽介
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
5F063
【Fターム(参考)】
4F071AA15X
4F071AA19
4F071AA20
4F071AA21
4F071AF15Y
4F071AF53
4F071AH12
4F071BA01
4F071BB06
4F071BC01
4F100AK06B
4F100AK09A
4F100BA02
4F100EH20
5F063AA05
5F063AA18
5F063AA31
5F063AA33
5F063DD67
5F063DD85
5F063EE02
5F063EE04
5F063EE05
5F063EE07
5F063EE08
5F063EE11
5F063EE21
(57)【要約】      (修正有)
【課題】均一伸長性と剛性と加工安定性に優れた半導体製造テープ用基材フィルムを提供する。
【解決手段】中間層2と、中間層2の両面に積層された表面層3との積層体により構成され、表面層/中間層/表面層の順に積層された3層構造を有する半導体製造テープ用基材フィルム1は、1-ブテンのホモポリマーを少なくとも含み、引張速度が300mm/分の条件下で、伸長割合が0%から100%まで伸長する間に降伏点を有さず、応力(25%伸長時)が5MPa以上20MPa以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1-ブテンのホモポリマーを少なくとも含み、
引張速度が300mm/分の条件下で、伸長割合が0%から100%まで伸長する間に降伏点を有さず、
応力(25%伸長時)が5MPa以上20MPa以下であることを特徴とする半導体製造テープ用基材フィルム。
【請求項2】
応力(20%伸長時)に対する応力(40%伸長時)の比が、1以上2以下であることを特徴とする請求項1に記載の半導体製造テープ用基材フィルム。
【請求項3】
TDにおける応力(25%伸長時)に対するMDにおける応力(25%伸長時)の比が、0.8以上1.3以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の半導体製造テープ用基材フィルム。
【請求項4】
単層または多層構造であることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の半導体製造テープ用基材フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造テープ用基材フィルム(以下、単に「基材フィルム」という場合がある。)に関する。
【背景技術】
【0002】
ICチップ等の半導体デバイスの製造方法としては、例えば、略円板形状の半導体ウエハ上に回路が形成されたウエハ回路を、ウエハ用の半導体製造テープ(ダイシングテープ)上でダイシングにより分割し、個々の半導体デバイスを得る方法が広く用いられている。そして、ダイシング後は、例えば、ダイシングテープを引き延ばして半導体デバイス間に隙間を形成した(すなわち、エキスパンド)後、各半導体デバイスがロボット等でピックアップされる。
【0003】
また、ウエハ用の半導体製造テープとして、上述のダイシングテープの粘着層上に接着層が積層されたダイシング・ダイアタッチフィルム(DDAF)が使用されており、ダイシング・ダイアタッチフィルム上でウエハ回路をダイシングにより分割後、ダイシング・ダイアタッチフィルムを引き延ばして半導体デバイス間に隙間を形成し、その後、粘着層を光硬化させて、接着層が接着された状態で半導体デバイスが粘着層から剥離されてピックアップされる。
【0004】
ダイシングテープやダイシング・ダイアタッチフィルムは、一般に、ウエハを固定する粘着層とポリオレフィン等を含有する基材フィルムとにより構成されており、例えば、基材フィルムが、プロピレン及び/又は1-ブテン成分の含有率が50重量%以上の非晶質ポリオレフィンを30~100重量%と、結晶性ポリプロピレン系樹脂を0~70重量%と、ポリエチレン系樹脂を0~70重量%含有するポリオレフィン層(中間層)と、当該ポリオレフィン層の両面に積層され、低密度ポリエチレンなどのポリエチレン系樹脂で構成されたポリエチレン系樹脂層(表面層)との積層体により構成された基材フィルムを備えたダイシングテープが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、エチレン、プロピレン、1-ブテンからなる群から選ばれる少なくとも1成分を40質量%以上含有する非晶質ポリオレフィンを含む中間層と、当該中間層の両面に積層され、結晶性ポリエチレンを主成分とする表面層との積層体により構成された基材フィルムが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
また、プロピレンとエチレン及び/又は炭素数4~8のα-オレフィンとのランダム共重合体であって、エチレン及び/又は炭素数4~8のα-オレフィンの含有量が6重量%以上、ASTM D1505に準拠して測定される密度が885kg/m以下のプロピレン系ランダム共重合体(β)を主成分とする中間層と、当該中間層の両面に積層され、プロピレン系ランダム共重合体(β)より、エチレン及び/又は炭素数4~8のα-オレフィンの含有量が少なく、密度が高いプロピレン系ランダム共重合体(α)を主成分とする表面層との積層体により構成された基材フィルムが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11-323273号公報
【特許文献2】特開2001-232683号公報
【特許文献3】特開2018-65327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記特許文献1に記載の基材フィルムにおいては、非晶性のブテンコポリマーに対して、結晶性のランダムポリプロピレンを同量以上添加しているため、基材フィルムを伸長する際にネッキングが発生し、基材フィルムの均一伸長性(均一なエキスパンド性)が不十分であるという問題があった。また、低粘度のブテンコポリマーを使用しているため、基材フィルムを成形する際のドローレゾナンスなどの吐出変動による厚みの変動が大きくなり、基材フィルムの加工安定性が不十分であるという問題があった。
【0009】
また、上記特許文献2に記載の基材フィルムにおいては、基材フィルムの剛性が不十分であるため、基材フィルムの製造工程において、基材の巻き出しが不安定となるという問題があった。
【0010】
また、上記特許文献3に記載の基材フィルムにおいては、非晶性ではなく半晶性の樹脂を用いているため、基材フィルムを成形する際にネッキングが発生し、基材フィルムの均一伸長性が不十分であるという問題があった。また、基材フィルムの剛性が不十分であるため、基材フィルムの製造工程において、基材の巻き出しが不安定となるという問題があった。また、基材フィルムの表面が高粘着性であるため、基材フィルムを搬送する際に基材フィルムが搬送ロールへ粘着して、基材フィルムの搬送と巻き取りが困難になるとともに、基材フィルムの巻き取りを行う際のブロッキングが発生し、加工安定性が不十分であるという問題があった。
【0011】
そこで、本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、均一伸長性と剛性と加工安定性に優れた半導体製造テープ用基材フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の半導体製造テープ用基材フィルムは、1-ブテンのホモポリマーを少なくとも含み、引張速度が300mm/分の条件下で、伸長割合が0%から100%まで伸長する間に降伏点を有さず、応力(25%伸長時)が5MPa以上20MPa以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、均一伸長性と剛性と加工安定性に優れた半導体製造テープ用基材フィルムを提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第2の実施形態に係る半導体製造テープ用基材フィルムを示す断面図である。
図2】実施例1の基材フィルムにおけるMDのS-Sカーブ(応力-歪曲線)である。
図3】実施例1の基材フィルムにおけるTDのS-Sカーブ(応力-歪曲線)である。
図4】実施例10の基材フィルムにおけるMDのS-Sカーブ(応力-歪曲線)である。
図5】実施例10の基材フィルムにおけるTDのS-Sカーブ(応力-歪曲線)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の半導体製造テープ用基材フィルムについて具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において、適宜変更して適用することができる。
【0016】
(第1の実施形態)
本実施形態の基材フィルムは、ポリオレフィン系樹脂により形成されたフィルムであり、少なくとも1-ブテンのホモポリマーを含んでいる。
【0017】
<1-ブテンのホモポリマー>
本実施形態においては、ポリブテンとして、1-ブテンを単独で重合したホモポリマーが使用される。この1-ブテンのホモポリマーは、高分子量であって嵩高い側鎖を有しており、この嵩高い側鎖による強い分子間力により、結晶性高分子であるにも関わらず、非晶性の場合と同様に、基材フィルムの均一伸長性を向上させることができる。
【0018】
また、本実施形態で使用する1-ブテンのホモポリマーは、重量平均分子量(Mw)が約50万~150万のものを使用することができる。
【0019】
なお、上記「重量平均分子量」とは、JIS K 7252-1:2016に準拠して算出されるものを言う。
【0020】
そして、本実施形態で使用する1-ブテンのホモポリマーは高分子量であるため、表面粘着性が低く、表面層として使用することができ、また、非晶性ポリオレフィンに比し、剛性が高いため、基材フィルムの製造工程において、基材の巻き出しが可能な高い剛性を有する基材フィルムを提供することができる。
【0021】
また、本実施形態で使用する1-ブテンのホモポリマーは、高分子量であるにも関わらず、汎用の押出機で成形が可能であり、高分子量成分によりフィルムの表面粘着性が低いため、基材フィルムを搬送する際の搬送ロールへの粘着を抑制することができるとともに、基材フィルムの巻き取りを行う際のブロッキング、及び基材フィルムを成形する際のドローレゾナンスを抑制することができ、基材フィルムの加工安定性を向上させることができる。
【0022】
以上より、基材フィルムを形成する樹脂として、1-ブテンのホモポリマーを使用することにより、基材フィルムの均一伸長性と剛性と加工安定性を向上させることができる。
【0023】
<低密度ポリエチレン>
また、本実施形態の基材フィルムは、密度が0.930g/cm以下である低密度ポリエチレンを含んでいる。密度が0.930g/cm以下の場合は、結晶化度の過度な上昇を抑制して柔軟性が向上するため、基材フィルムの等方性を向上させることができる。なお、密度が0.930g/cmよりも大きい場合は、結晶化度が過度に上昇するため、等方性が低下する場合があり、また、剛性が大きくなり過ぎるため、半導体デバイスのピックアップ性が低下し、半導体デバイスが破損する場合がある。
【0024】
また、加工安定性を向上させるとの観点から、低密度ポリエチレンの密度は、0.860g/cm以上であることが好ましく、0.880g/cm以上であることがより好ましい。
【0025】
また、直鎖状低密度ポリエチレンは、高密度ポリエチレンの直鎖構造に側鎖分岐を有しているため、高密度ポリエチレンと比較して、結晶化度が高くなり過ぎず、柔軟性に優れている。
【0026】
なお、強度の点から、メタロセン系触媒またはチグラー触媒を用いて製造された直鎖状低密度ポリエチレンを使用してもよい。
【0027】
また、直鎖状低密度ポリエチレンのメルトマスフローレート(MFR)は、0.5~7.5g/10分であることが好ましく、1.0~6.0g/10分がより好ましく、2.0~5.0g/10分がさらに好ましい。メルトマスフローレート(MFR)が0.5g/10分以上の場合は、分子量が大き過ぎず、柔軟性と加工性を向上させることができるためであり、7.5g/10分以下の場合は、分子量が小さ過ぎず、加工安定性を向上させることができるためである。
【0028】
なお、上記のメルトマスフローレートは、JIS K7210:1999の規定に準拠して測定することで得られる。
【0029】
以上より、基材フィルムを形成する樹脂として、密度が0.93g/cm以下である低密度ポリエチレンを使用することにより、基材フィルムの柔軟性と等方性を向上させることができる。
【0030】
<基材フィルム>
本実施形態の基材フィルムにおいては、基材フィルムの機械軸(長手)方向(以下、「MD」という。)及び、これと直交する方向(以下、「TD」という。)における応力(25%伸長時)が5MPa以上20MPa以下である。応力が20MPaよりも大きい場合は、剛性が大きくなり過ぎるため、半導体デバイスのピックアップ性が低下し、半導体デバイスが破損する場合があり、応力が5MPa未満の場合は、剛性が低くなるため、基材フィルムの製造工程において、基材の巻き出しが困難になるとともに、粘着剤の塗工性が低下する場合がある。
【0031】
すなわち、MD、及びTDにおける応力(25%伸長時)が5MPa以上20MPa以下であるため、基材フィルムの製造工程において、基材の巻き出しが可能な剛性に優れた基材フィルムを提供することができる。
【0032】
なお、MD、及びTDにおける応力(25%伸長時)は、6MPa以上15MPa以下が好ましく、7MPa以上13MPa以下がより好ましい。
【0033】
また、本実施形態の基材フィルムは、引張速度が300mm/分の条件下で、伸長割合が0%から100%まで伸長する間に降伏点を有していない。従って、均一伸長性に優れた基材フィルムを提供することができる。
【0034】
本実施形態の基材フィルムにおける1-ブテンのホモポリマーと低密度ポリエチレンとの質量比は、1-ブテンのホモポリマー:低密度ポリエチレン=10:90~70:30の範囲であることが好ましい。1-ブテンのホモポリマーと低密度ポリエチレンとの質量比を、この範囲に設定することにより、基材フィルムを成形する際のネッキングの発生を防止して、エキスパンドがより一層均一になるとともに、基材フィルムの製造工程において、基材の巻き出しがより一層可能になる。さらに、基材フィルムの巻き取りを行う際のブロッキングの発生と、基材フィルムを成形する際のドローレゾナンスによる厚みの変動を防止することが可能になる。従って、均一伸長性と剛性と加工安定性により一層優れた基材フィルムを提供することが可能になる。
【0035】
また、本実施形態の基材フィルムにおいては、基材フィルムの均一伸長性をより一層向上させるとの観点から、MD、及びTDにおいて、応力(20%伸長時)に対する応力(40%伸長時)の比(すなわち、基材フィルムの伸び率)が、1以上2以下であることが好ましく、1.05以上1.8以下がより好ましく、1.1以上1.7以下がさらに好ましい。基材フィルムの伸び率が2よりも大きい場合は、過剰な応力増大に伴い、エキスパンドリングの保持が困難になる場合があり、基材フィルムの伸び率が1未満の場合は、ネッキングが発生して、均一なエキスパンドが困難になる場合がある。
【0036】
また、エキスパンド時における基材フィルムの等方性が優れ、弛みの発生を抑制するとの観点から、TDにおける応力(25%伸長時)に対するMDにおける応力(25%伸長時)の比(すなわち、25%伸長時における基材フィルムの応力比)が、0.8以上1.3以下であることが好ましく、0.85以上1.15以下がより好ましく、0.9以上1.1以下がさらに好ましい。
【0037】
なお、上記「応力」とは、JIS K7161-2:2014に準拠して測定される応力のことを言う。
【0038】
基材フィルムの厚みは、50~300μmが好ましく、80~150μmがより好ましい。基材フィルムの厚みが50μm以上であれば、ハンドリング性が向上し、厚みが300μm以下であれば、柔軟性(エキスパンド性)を向上させることができる。なお、ウエハ用の基材フィルムの場合は、基材フィルムの厚みが50~150μmが好ましく、70~100μmがより好ましい。
【0039】
<製造方法>
本実施形態の基材フィルムは、上述の1-ブテンのホモポリマーと、密度が0.93g/cm以下である低密度ポリエチレンとを含有する樹脂材料を用いて、例えば、Tダイを備える押出機により、所定の温度で上記樹脂材料を押し出し成形することにより製造される。なお、公知のカレンダー法やインフレーション法により、本実施形態の基材フィルムを製造してもよい。
【0040】
(第2の実施形態)
本実施形態の基材フィルムは、上述の1-ブテンのホモポリマーを含む少なくとも1層の中間層と、当該中間層の両面に積層される表面層との積層体により構成された基材フィルムである。
【0041】
この多層構造を有する基材フィルムとしては、例えば、図1に示すように、中間層2と、中間層2の両面に積層された表面層3との積層体により構成され、表面層/中間層/表面層の順に積層された3層構造を有する基材フィルム1が挙げられる。
【0042】
表面層としては、例えば、上述の第1の実施形態において説明した1-ブテンのホモポリマーを含有するものや、ポリプロピレンのホモポリマーを含有するものが挙げられる。
【0043】
<ポリプロピレンのホモポリマー>
ポリプロピレンのホモポリマーは、プロピレンを単独で重合したホモポリプロピレンであり、このポリプロピレンのホモポリマーは、立体規則性が高く、融点に寄与する結晶化度が大きいため、耐熱性に優れている。また、結晶化度が大きいため、剛性が大きいが、上述の直鎖状低密度ポリエチレンと混合することで、基材フィルムのエキスパンド性に寄与する柔軟性を得ることができる。
【0044】
また、中間層としては、例えば、上述の1-ブテンのホモポリマーと、オレフィン系エラストマーとを含有するものが挙げられる。
【0045】
<オレフィン系エラストマー>
オレフィン系エラストマーは、JIS K 6200におけるエラストマーの用語の定義に準ずるオレフィン系材料で構成される。より具体的には、非晶性もしくは低結晶性のα-オレフィンの共重合体で構成される材料がオレフィン系エラストマーに該当し、ポリエチレンが主体となるものをエチレン系エラストマー、ポリプロピレンが主体となるものをプロピレン系エラストマーという。例えば、エチレン系エラストマーとしては、三井化学社製の商品名「タフマー(登録商標)」、プロピレン系エラストマーとしてエクソンモービル社製の商品名「ビスタマックス(登録商標)」が該当する。
【0046】
なお、オレフィン系エラストマーの密度は、0.850~0.900g/cmであることが好ましく、0.860~0.890g/cmであることがより好ましい。
【0047】
また、加工性とコスト性の観点から、中間層における1-ブテンのホモポリマーとオレフィン系エラストマーとの質量比は、1-ブテンのホモポリマー:オレフィン系エラストマー=60:40~90:10の範囲が好ましい。
【0048】
<基材フィルム>
本実施形態の基材フィルムにおいては、MD、及びTDにおける応力(25%伸長時)が5MPa以上20MPa以下である。応力が20MPaよりも大きい場合は、剛性が大きくなり過ぎるため、半導体デバイスのピックアップ性が低下し、半導体デバイスが破損する場合があり、応力が5MPa未満の場合は、剛性が低くなるため、基材フィルムの製造工程において、基材の巻き出しが困難になるとともに、粘着剤の塗工性が低下する場合がある。
【0049】
すなわち、MD、及びTDにおける応力(25%伸長時)が5MPa以上20MPa以下であるため、基材フィルムの製造工程において、基材の巻き出しが可能な剛性に優れた基材フィルムを提供することができる。
【0050】
また、本実施形態の基材フィルムは、引張速度が300mm/分の条件下で、伸長割合が0%から100%まで伸長する間に降伏点を有していない。従って、均一伸長性に優れた基材フィルムを提供することができる。
【0051】
また、上述の第1の実施形態における基材フィルムと同様に、基材フィルムの均一伸長性をより一層向上させるとの観点から、MD、及びTDにおいて、応力(20%伸長時)に対する応力(40%伸長時)の比(すなわち、基材フィルムの伸び率)が、1以上2以下であることが好ましく、1.05以上1.8以下がより好ましく、1.1以上1.7以下がさらに好ましい。
【0052】
また、上述の第1の実施形態における基材フィルムと同様に、エキスパンド時における基材フィルムの等方性により、弛みの発生を抑制するとの観点から、TDにおける応力(25%伸長時)に対するMDにおける応力(25%伸長時)の比(すなわち、25%伸長時における基材フィルムの応力比)が、0.8以上1.3以下であることが好ましく、0.85以上1.15以下がより好ましく、0.9以上1.1以下であることがさらに好ましい。
【0053】
また、上述の第1の実施形態における基材フィルムと同様に、表面層を構成する基材フィルムにおける1-ブテンのホモポリマーと低密度ポリエチレンとの質量比は、1-ブテンのホモポリマー:低密度ポリエチレン=10:90~70:30の範囲であることが好ましい。
【0054】
本実施形態における多層構造を有する基材フィルムの厚みは、上述の第1の実施形態の場合と同様に、50~300μmが好ましく、80~150μmがより好ましい。なお、ウエハ用の基材フィルムの場合は、基材フィルムの厚みが50~150μmが好ましく、70~100μmがより好ましい。
【0055】
また、例えば、表面層/中間層/表面層の順に積層された3層構造を有する基材フィルムの場合、表面層の厚みは特に限定されないが、5~15μmが好ましく、8~10μmがより好ましい。また、中間層の厚みは特に限定されないが、40~120μmが好ましく、50~80μmがより好ましい。
【0056】
また、例えば、表面層/中間層/表面層の順に積層された3層構造を有する基材フィルムの場合、加工性と低コストの観点から、基材フィルム全体に対する中間層の比率は40~95%が好ましく、50~90%がより好ましい。
【0057】
<製造方法>
例えば、表面層/中間層/表面層の順に積層された3層構造を有する基材フィルムを製造する場合、まず、表面層形成用の樹脂材料と、中間層形成用の樹脂材料とを用意する。
【0058】
次に、Tダイを備える押出機を用い、表面層形成用の樹脂材料および中間層形成用の樹脂材料を所定の温度で同時に押し出して成形することにより、中間層と、当該中間層の両面に積層された表面層との積層体により構成された本実施形態の多層構造を有する基材フィルムが製造される。なお、公知のカレンダー法やインフレーション法により、本実施形態の基材フィルムを製造してもよい。
【0059】
<他の形態>
本発明の基材フィルムには、各種添加剤が含有されていてもよい。添加剤としては、半導体製造テープに通常用いられる公知の添加剤を用いることができ、例えば、架橋助剤、帯電防止剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、アンチブロッキング剤、着色剤等が挙げられる。なお、これらの添加剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0060】
また、架橋助剤としては、例えば、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられ、基材フィルムが架橋助剤を含有する場合、基材フィルム中の架橋助剤の含有量は、基材フィルムを形成する樹脂100質量部に対して、0.05~5質量部が好ましく、1~3質量部がより好ましい。
【0061】
また、上記第2の実施形態においては、表面層/中間層/表面層の順に積層された3層構造を有する基材フィルムを例に挙げて説明したが、本発明の多層構造を有する基材フィルムは、3層構造に限定されず、例えば、表面層/中間層/中間層/中間層/表面層の順に積層された5層構造を有する基材フィルムであってもよい。
【実施例0062】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【0063】
基材フィルムの作製に使用した材料を以下に示す。
(1)LLDPE-1:直鎖状低密度ポリエチレン、融点:120℃、密度:0.913g/cm、MFR:2.0g/10分
(2)LLDPE-2:直鎖状低密度ポリエチレン、融点:108℃、密度:0.921g/cm、MFR:2.5g/10分
(3)LLDPE-3:直鎖状低密度ポリエチレン、融点:93℃、密度:0.903g/cm、MFR:2.0g/10分
(4)LLDPE-4:直鎖状低密度ポリエチレン、融点:124℃、密度:0.936g/cm、MFR:2.0g/10分
(5)LLDPE-5:直鎖状低密度ポリエチレン、密度:0.923g/cm、MFR:0.5g/10分(プリムポリマー社製、商品名:ウルトゼックス(登録商標) 2005HC)
(6)LDPE-1:低密度ポリエチレン、融点:108℃、密度:0.918g/cm、MFR:7.5g/10分(宇部丸善PE社製、商品名:UBEポリエチレン L719)
(7)LDPE-2:低密度ポリエチレン、融点:110℃、密度:0.922g/cm、MFR:5.0g/10分(宇部丸善PE社製、商品名:UBEポリエチレン F522N)
(8)PPエラストマー1:プロピレン系エラストマー、密度:0.889g/cm、MFR:8.0g/10分(230℃)、ポリエチレン含有率4%(エクソン社製、商品名:ビスタマックス(登録商標) 3588FL)
(9)PPエラストマー2:プロピレン系エラストマー、密度:0.862g/cm、MFR:3.0g/10分(230℃)、ポリエチレン含有率:16%(エクソン社製、商品名:ビスタマックス(登録商標) 6102FL)
(10)PPエラストマー3:プロピレン系エラストマー、融点:160℃、密度:0.868g/cm、MFR:6.0g/10分(230℃)
(11)非晶質ポリオレフィン+結晶性ポリプロピレン(1-ブテン・プロピレン共重合体:結晶性ポリプロピレン=50:50):密度:0.880g/cm、MFR:11.7g/10分(大日精化社製、商品名:ペリコン CAP350S)
(12)1-Bu:1-ブテンのホモポリマー、融点:128℃、密度:0.920g/cm、MFR:0.5g/10分
(13)PEエラストマー:エチレン系エラストマー、融点:50℃未満、密度:0.864g/cm、MFR:6.7g/10分(230℃)
(14)h-PP:ポリプロピレンのホモポリマー、融点:163℃、密度:0.900g/cm、MFR:0.5g/10分
【0064】
(実施例1)
<基材フィルムの作製>
まず、表1に示す各材料をブレンドして、表1に示す組成(質量部)を有する実施例1の樹脂材料を用意した。次に、この樹脂材料を、三種三層の共押出機を用いて、Tダイスにより、ダイス温度が180~200℃、チルロール温度が40℃の条件で押出すことにより、表1の厚みを有する基材フィルムを得た。
【0065】
<降伏点の有無の評価>
作製した基材フィルムを用いて、JIS K7161-2:2014に準拠して、測定用のサンプルを得た。次に、得られた測定用サンプルを、つかみ具間が40mmとなるように引張試験機(島津製作所社製,商品名:AG-5000A)にセットし、JIS K7161-2:2014に準拠して、温度が23℃、相対湿度が40%の環境下において、300mm/分の引張速度で引張試験を行った。
【0066】
そして、MD,及びTDのS-Sカーブ(応力-歪曲線)において、伸長割合が0%から100%まで伸長する間に降伏点が確認されなかったもの(ネッキングが発生せず、均一なエキスパンドが可能なもの)を〇とし、降伏点が確認されたもの(ネッキングが発生し、均一なエキスパンドが不可能なもの)を×とした。以上の結果を表1に示す。
【0067】
なお、本実施例の基材フィルムにおけるMD及びTDのS-Sカーブ(応力-歪曲線)を図2図3に示す。図2図3に示すように、MD、及びTDのS-Sカーブ(応力-歪曲線)において、伸長割合が0%から100%まで伸長する間に降伏点を有していないことが分かる。
【0068】
<MD、及びTDにおける応力の測定>
作製した基材フィルムを用いて、JIS K7161-2:2014に準拠して、測定用のサンプルを得た。次に、得られた測定用サンプルを、つかみ具間が40mmとなるように引張試験機(島津製作所社製,商品名:AG-5000A)にセットし、JIS K7161-2:2014に準拠して、温度が23℃、相対湿度が40%の環境下において、引張速度300mm/分にて引張試験を行った。
【0069】
そして、基材フィルムのMD、及びTDにおける、25%伸長時の応力(25%応力)を測定するとともに、TDにおける応力(25%伸長時)に対するMDにおける応力(25%伸長時)の比(すなわち、25%伸長時における基材フィルムの応力比)を算出した。以上の結果を表1に示す。
【0070】
また、同様に、基材フィルムのMD、及びTDにおける、20%伸長時の応力(20%応力)と40%伸長時の応力(40%応力)を測定するとともに、MDにおける、応力(20%伸長時)に対する応力(40%伸長時)の比(すなわち、MDにおける基材フィルムの伸び率)と、TDにおける、応力(20%伸長時)に対する応力(40%伸長時)の比(すなわち、TDにおける基材フィルムの伸び率)を算出した。以上の結果を表1に示す。
【0071】
<剛性評価>
作製した基材フィルムを用いて、剛性を評価した。より具体的には、基材フィルムの製造工程において、基材の巻き出しが可能な場合を〇(基材フィルムの剛性が優れている)とし、基材フィルムの製造工程において、基材の巻き出しが不安定な場合を×(基材フィルムの剛性が乏しい)とした。以上の結果を表1に示す。
【0072】
<加工安定性評価>
作製した基材フィルムを用いて、加工安定性を評価した。より具体的には、基材フィルムを搬送する際の搬送ロールへの粘着を抑制することができるとともに、基材フィルムの巻き取りを行う際のブロッキング、及び基材フィルムを成形する際のドローレゾナンスによる厚みの変動を防止することが可能な場合を〇(基材フィルムの加工安定性が優れている)とし、基材フィルムを搬送する際に基材フィルムが搬送ロールへ粘着し、基材フィルムの搬送と巻き取りが困難な場合、または基材フィルムを成形する際のドローレゾナンスによる厚みの変動が大きい場合を×(基材フィルムの加工安定性が乏しい)とした。以上の結果を表1に示す。
【0073】
(実施例2~9、比較例1~3)
樹脂成分の組成を表1、表3に示す組成(質量部)に変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、表1、表3に示す厚みを有する基材フィルムを作製した。
【0074】
そして、上述の実施例1と同様にして、降伏点の有無の評価、MD、及びTDにおける応力の測定、剛性評価、及び加工安定性評価を行った。以上の結果を表1、表3に示す。
【0075】
(実施例10~15、比較例4~8)
まず、各実施例、及び各比較例において、表2、表4に示す各材料をブレンドして、表2、表4に示す組成(質量部)を有する表面層形成用の樹脂材料と中間層形成用の樹脂材料とを用意した。
【0076】
次に、Tダイを備える三種三層用の共押出機を用い、表面層形成用の樹脂材料および中間層形成用の樹脂材料を180~200℃、チルロール温度が40℃の条件で同時に押し出して成形することにより、表2、表4の厚みを有する(すなわち、基材フィルム全体に対する中間層の比率が80%である)とともに、表面層/中間層/表面層の順に積層された3層構造を有する基材フィルムを得た。
【0077】
そして、上述の実施例1と同様にして、降伏点の有無の評価、MD、及びTDにおける応力の測定、剛性評価、及び加工安定性評価を行った。以上の結果を表2、表4に示す。
【0078】
なお、実施例10の基材フィルムにおけるMD及びTDのS-Sカーブ(応力-歪曲線)を図4図5に示す。図4図5に示すように、MD、及びTDのS-Sカーブ(応力-歪曲線)において、伸長割合が0%から100%まで伸長する間に降伏点を有していないことが分かる。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
【表4】
【0083】
表1~表2に示すように、実施例1~15の基材フィルムにおいては、1-ブテンのホモポリマーを少なくとも含み、引張速度が300mm/分の条件下で、伸長割合が0%から100%まで伸長する間に降伏点を有さず、応力(25%伸長時)が5MPa以上20MPa以下であるため、均一伸長性に優れるとともに、剛性と加工安定性に優れていることが分かる。
【0084】
一方、表3に示すように、比較例1の基材フィルムにおいては、結晶性の1-ブテンのホモポリマーを過剰量添加しているため、降伏点が確認されるとともに、TDにおいて、応力(20%伸長時)に対する応力(40%伸長時)の比が1未満であり、均一伸長性に乏しいことが分かる。
【0085】
また、表3に示すように、比較例2の基材フィルムにおいては、1-ブテンのホモポリマーが含まれていないため、降伏点が確認され、均一伸長性に乏しく、また、加工安定性も乏しいことが分かる。
【0086】
また、表3に示すように、比較例3の基材フィルムにおいては、高密度で結晶性の高い直鎖状低密度ポリエチレンを使用しているため、降伏点が確認されるとともに、TDにおいて、応力(20%伸長時)に対する応力(40%伸長時)の比が1未満であり、均一伸長性に乏しいことが分かる。
【0087】
また、表4に示すように、比較例4の基材フィルムにおいては、1-ブテンのホモポリマーが含まれていないため、降伏点が確認され、均一伸長性に乏しいことが分かる。また、TDにおける応力(25%伸長時)に対するMDにおける応力(25%伸長時)の比が1.3よりも大きいため、等方性に乏しいことが分かる。また、低粘度のブテンコポリマーを使用しているため、基材フィルムを成形する際にドローレゾナンスによる厚みの変動が大きくなり、加工安定性に乏しいことが分かる。
【0088】
また、表4に示すように、比較例5の基材フィルムにおいては、1-ブテンのホモポリマーが含まれておらず、また、TDにおける応力(25%伸長時)が5MPa未満であるため、基材フィルムの製造工程において、基材の巻き出しが不安定となり、剛性に乏しいことが分かる。
【0089】
また、表4に示すように、比較例6の基材フィルムにおいては、1-ブテンのホモポリマーが含まれておらず、MD、及びTDにおいて、応力(20%伸長時)に対する応力(40%伸長時)の比が1未満であるため、降伏点が確認され、均一伸長性に乏しいことが分かる。また、MD、及びTDにおける応力(25%伸長時)が5MPa未満であるため、基材フィルムの製造工程において、基材の巻き出しが不安定となり、剛性に乏しいことが分かる。また、フィルムの表面が高粘着性であるため、基材フィルムを搬送する際に基材フィルムが搬送ロールへ粘着し、基材フィルムの搬送と巻き取りが困難になり、加工安定性に乏しいことが分かる。
【0090】
また、表4に示すように、比較例7の基材フィルムにおいては、TDにおける応力(25%伸長時)が5MPa未満であるため、基材フィルムの製造工程において、基材の巻き出しが不安定となり、剛性に乏しいことが分かる。
【0091】
また、表4に示すように、比較例8の基材フィルムにおいては、TDにおける応力(25%伸長時)に対するMDにおける応力(25%伸長時)の比が1.3よりも大きいため、等方性に乏しいことが分かる。また、TDにおいて、応力(20%伸長時)に対する応力(40%伸長時)の比が1未満であるため、降伏点が確認され、均一伸長性に乏しいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
以上説明したように、本発明は、半導体製造テープ用基材フィルムに適している。
【符号の説明】
【0093】
1 基材フィルム
2 中間層
3 表面層
図1
図2
図3
図4
図5