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特開2023-66591ブレーキ装置健全性判断装置およびブレーキ装置健全性判断方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066591
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】ブレーキ装置健全性判断装置およびブレーキ装置健全性判断方法
(51)【国際特許分類】
   B60T 17/22 20060101AFI20230509BHJP
   B60T 17/00 20060101ALI20230509BHJP
   B60L 7/24 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
B60T17/22 Z
B60T17/00 B
B60T17/00 E
B60L7/24 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177268
(22)【出願日】2021-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮内 努
(72)【発明者】
【氏名】工藤 匠
(72)【発明者】
【氏名】北井 瑳佳
(72)【発明者】
【氏名】小池 潤
【テーマコード(参考)】
3D049
5H125
【Fターム(参考)】
3D049AA04
3D049BB03
3D049CC03
3D049CC04
3D049CC07
3D049HH02
3D049HH47
3D049HH48
3D049HH51
3D049QQ01
3D049RR02
3D049RR06
5H125AA05
5H125CB07
5H125EE44
5H125EE57
(57)【要約】
【課題】ブレーキ圧力の健全性をより正確に判断し検査の手間を軽減することができるブレーキ装置健全性判断装置およびブレーキ装置健全性判断方法を提供することを目的とする。
【解決手段】列車の空気ブレーキ圧の健全性を判定するブレーキ装置健全性判断装置において、当該列車の運転指令と当該列車の乗車率と当該列車の回生ブレーキ力の情報を用いて当該列車の空気ブレーキ圧基準値を算出するとともに、当該列車の空気ブレーキ圧の健全性の判定を実施してよいかを示す判断可否信号を算出する基準値算出部と、前記判断可否信号の内容に応じて当該列車の空気ブレーキ圧の健全性の判定を実施し、前記判定は前記空気ブレーキ圧基準値と測定された当該列車の空気ブレーキ圧を比較して判定する健全性判定部と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車の空気ブレーキ圧の健全性を判定するブレーキ装置健全性判断装置において、
当該列車の運転指令と当該列車の乗車率と当該列車の回生ブレーキ力の情報を用いて当該列車の空気ブレーキ圧基準値を算出するとともに、当該列車の空気ブレーキ圧の健全性の判定を実施してよいかを示す判断可否信号を算出する基準値算出部と、
前記判断可否信号の内容に応じて当該列車の空気ブレーキ圧の健全性の判定を実施し、前記判定は前記空気ブレーキ圧基準値と測定された当該列車の空気ブレーキ圧を比較して判定する健全性判定部と、
を備えることを特徴とするブレーキ装置健全性判断装置。
【請求項2】
請求項1に記載のブレーキ装置健全性判断装置において、
前記基準値算出部は、前記判断可否信号を判断可とする場合、前記運転指令がブレーキ指令でかつ所定時間以上変動することがないことを条件に含み、
前記健全性判定部は、前記判断可否信号が判断可の場合に当該列車の空気ブレーキ圧の健全性の判定を実施することを特徴とするブレーキ装置健全性判断装置。
【請求項3】
請求項2に記載のブレーキ装置健全性判断装置において、
前記基準値算出部は、前記判断可否信号を判断可とする場合、前記回生ブレーキ力の変動が所定時間内において所定範囲内であることを条件に含むことを特徴とするブレーキ装置健全性判断装置。
【請求項4】
請求項2に記載のブレーキ装置健全性判断装置において、
前記基準値算出部は、前記判断可否信号を判断可とする場合、当該列車が空転及び滑走しない状態であることを条件に含むことを特徴とするブレーキ装置健全性判断装置。
【請求項5】
請求項1に記載のブレーキ装置健全性判断装置において、
前記基準値算出部は、空気ブレーキ圧基準値の算出に、当該列車の減速度特性と、当該列車の重量特性と、当該列車のブレーキ圧特性を用いることを特徴とするブレーキ装置健全性判断装置。
【請求項6】
請求項1に記載のブレーキ装置健全性判断装置において、
前記健全性判定部による前記判定は、前記空気ブレーキ圧基準値と空気ブレーキ圧の差分の絶対値が、判定閾値以下の場合に正常であると判定し、判定閾値を超えた場合に異常であると判定することを特徴とするブレーキ装置健全性判断装置。
【請求項7】
請求項6に記載のブレーキ装置健全性判断装置において、
前記判定閾値は、前記運転指令と前記乗車率に応じて算出されることを特徴とするブレーキ装置健全性判断装置。
【請求項8】
請求項1に記載のブレーキ装置健全性判断装置において、
前記健全性判定部による前記判定は、前記空気ブレーキ圧基準値と前記空気ブレーキ圧の差分の絶対値が判定閾値を超えた回数が複数回継続した場合に異常であると判定し、複数回継続しない場合は正常と判定することを特徴とするブレーキ装置健全性判断装置。
【請求項9】
列車の空気ブレーキ圧の健全性を判定するブレーキ装置健全性判断装置において、
当該列車の運転指令と当該列車の乗車率と当該列車の回生ブレーキ力の情報を用いて当該列車の空気ブレーキ圧基準値を算出するとともに、当該列車の空気ブレーキ圧の健全性の判定を実施してよいかを示す第1の判断可否信号を算出する基準値算出部と、
測定された当該列車の空気ブレーキ圧から空気ブレーキ圧の健全性の判断を実施してよいかを示す第2の判断可否信号を算出する判断可否信号算出部と、
前記第1の判断可否信号と前記第2の判断可否信号の内容に応じて当該列車の空気ブレーキ圧の健全性の判定を実施し、前記判定は前記空気ブレーキ圧基準値と測定された当該列車の空気ブレーキ圧を比較して判定する健全性判定部と、
を備えることを特徴とするブレーキ装置健全性判断装置。
【請求項10】
請求項9に記載のブレーキ装置健全性判断装置において、
前記健全性判定部は、前記第1の判断可否信号と前記第2の判断可否信号のいずれかが判断可の場合に空気ブレーキ圧の健全性を判定することを特徴とするブレーキ装置健全性判断装置。
【請求項11】
請求項9に記載のブレーキ装置健全性判断装置において、
前記健全性判定部は、前記第1の判断可否信号と前記第2の判断可否信号のいずれも判断可の場合に空気ブレーキ圧の健全性を判定することを特徴とするブレーキ装置健全性判断装置。
【請求項12】
請求項11に記載のブレーキ装置健全性判断装置において、
前記判断可否信号算出部は、列車のブレーキ圧力が0よりも大きく、かつ列車のブレーキ圧力変動が所定時間内において所定範囲内の場合に、前記第2の判断可否信号を判断可とすることを特徴とするブレーキ装置健全性判断装置。
【請求項13】
列車の空気ブレーキ圧の健全性を判定するブレーキ装置健全性判断方法において、
当該列車の運転指令と当該列車の乗車率と当該列車の回生ブレーキ力の情報を用いて当該列車の空気ブレーキ圧基準値を算出するとともに、当該列車の空気ブレーキ圧の健全性の判定を実施してよいかを示す判断可否信号を算出する基準値算出ステップと、
前記判断可否信号の内容に応じて当該列車の空気ブレーキ圧の健全性の判定を実施し、前記判定は前記空気ブレーキ圧基準値と測定された当該列車の空気ブレーキ圧を比較して判定する健全性判定ステップと、
を有することを特徴とするブレーキ装置健全性判断方法。
【請求項14】
請求項13に記載のブレーキ装置健全性判断方法において、
前記基準値算出ステップは、前記判断可否信号を判断可とする場合、前記運転指令がブレーキ指令でかつ所定時間以上変動することがないことを条件に含み、
前記健全性判定ステップは、前記判断可否信号が判断可の場合に当該列車の空気ブレーキ圧の健全性の判定を実施することを含むことを特徴とするブレーキ装置健全性判断方法。
【請求項15】
請求項13に記載のブレーキ装置健全性判断方法において、
前記健全性判定ステップによる前記判定は、前記空気ブレーキ圧基準値と空気ブレーキ圧の差分の絶対値が、判定閾値以下の場合に正常であると判定し、判定閾値を超えた場合に異常であると判定することを特徴とするブレーキ装置健全性判断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ装置健全性判断装置およびブレーキ装置健全性判断方法に関し、特に、鉄道車両のブレーキ装置の健全性を判断するブレーキ装置健全性判断装置およびブレーキ装置健全性判断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両において、一般的に3ヶ月毎の月検査や4年毎の全般検査で、ブレーキ装置の健全性の検査を実施している。この検査は、車庫などにおいて、空車状態を想定してブレーキ圧力の測定を行っている。これにより、ブレーキ圧が指令に対して十分にかかるかどうかを調べている。
【0003】
しかし、従来の車庫などを行う定期検査は、ブレーキのバルブを人為的に開けてから、ブレーキ圧の指令を出して、実際のブレーキ圧を測定して行っている。このため、非常に時間と手間のかかる検査となる。この定期検査の工数低減のため、走行中データを用いた検査代用について検討されている。例えば、特許文献1では、走行中データを用いてブレーキの妥当性を判定する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-223206公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の手法は、AI(人工知能)技術を基に判断するため多くのデータが必要である。また、ブレーキ力は、鉄道車両の重量と運転指令に依存している。ブレーキの運転指令を変動させるとブレーキ力も変動するが、目標のブレーキ力に達するまでに遅れが生じる。この変動中のブレーキ力は一定とならず、ブレーキ圧力は所定時間不安定な状態となる。特許文献1の手法では常時判断しているためこのような不安定なブレーキ圧力の状態も用いることとなり、誤検知をする可能性が高い。
【0006】
さらに、鉄道システムのブレーキ装置は、電力回生ブレーキと空気ブレーキの両者で構成されている。通常制動においては、電力回生ブレーキと空気ブレーキの両者によりブレーキ力が発揮される。一方、電力回生ブレーキ力が回生失効などにより出力を絞った場合は、電力回生ブレーキ力を補うために空気ブレーキ力が増加する。この場合は、空気ブレーキ力が増加するまでに所定時間を要し、その間は不安定な状態となる。さらに、通常制動と回生失効のケースが混在すると、正常な判断ができず誤検知をする可能性が高い。特許文献1ではこれらのケースについては想定されていない。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みて、ブレーキ圧力の健全性をより正確に判断し検査の手間を軽減することができるブレーキ装置健全性判断装置およびブレーキ装置健全性判断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、代表的な本発明のブレーキ装置健全性判断装置の一つは、列車の空気ブレーキ圧の健全性を判定するブレーキ装置健全性判断装置において、当該列車の運転指令と当該列車の乗車率と当該列車の回生ブレーキ力の情報を用いて当該列車の空気ブレーキ圧基準値を算出するとともに、当該列車の空気ブレーキ圧の健全性の判定を実施してよいかを示す判断可否信号を算出する基準値算出部と、前記判断可否信号の内容に応じて当該列車の空気ブレーキ圧の健全性の判定を実施し、前記判定は前記空気ブレーキ圧基準値と測定された当該列車の空気ブレーキ圧を比較して判定する健全性判定部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
さらに本発明のブレーキ装置健全性判断方法の一つは、列車の空気ブレーキ圧の健全性を判定するブレーキ装置健全性判断方法において、当該列車の運転指令と当該列車の乗車率と当該列車の回生ブレーキ力の情報を用いて当該列車の空気ブレーキ圧基準値を算出するとともに、当該列車の空気ブレーキ圧の健全性の判定を実施してよいかを示す判断可否信号を算出する基準値算出ステップと、前記判断可否信号の内容に応じて当該列車の空気ブレーキ圧の健全性の判定を実施し、前記判定は前記空気ブレーキ圧基準値と測定された当該列車の空気ブレーキ圧を比較して判定する健全性判定ステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ブレーキ装置健全性判断装置およびブレーキ装置健全性判断方法において、ブレーキ圧力の健全性をより正確に判断し検査の手間を軽減することができる。
上記以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の実施形態による態様を実施するためのコンピュータシステムのブロック図である。
図2図2は、本発明の実施例1におけるブレーキ装置健全性判断装置の例を示すブロック図である。
図3図3は、本発明の実施例1における基準値算出部の例を示すブロック図である。
図4図4は、本発明の実施例1における判断可否判定部の処理の例を示すフローチャートである。
図5図5は、本発明の実施例1における健全性判定部の処理の例を示すフローチャートである。
図6図6は、本発明の実施例1における空気ブレーキ圧異常度表示の例を示すグラフである。
図7図7は、本発明の実施例2におけるブレーキ健全性判断装置の例を示すブロック図である。
図8図8は、本発明の実施例2における判断可否信号算出部の処理の例を示すフローチャートである。
図9図9は、本発明の実施例2における健全性判定部の処理の例を示すフローチャートである。
図10図10は、本発明の実施例3におけるブレーキ装置健全性判断装置の例を示すブロック図である。
図11図11は、本発明の実施例3における基準値算出部の例を示すブロック図である。
図12図12は、本発明の実施例3における判断可否判定部の処理の例を示すフローチャートである。
図13図13は、本発明の実施例3における健全性判定部の処理の例を示すフローチャートである。
図14図14は、本発明の実施例4におけるブレーキ装置健全性判断装置の例を示すブロック図である。
図15図15は、本発明の実施例4における基準値算出部の例を示すブロック図である。
図16図16は、本発明の実施例4における判断可否判定部の処理の例を示すフローチャートである。
図17図17は、本発明の実施例5におけるブレーキ装置健全性判断装置の例を示すブロック図である。
図18図18は、本発明の実施例5における空気ブレーキ圧判定閾値テーブルの例を示す。
図19図19は、本発明の実施例5における健全性判定部の処理の例を示すフローチャートである。
図20図20は、本発明の実施例6における鉄道システムの例を示すブロック図である。
図21図21は、本発明の実施例6におけるブレーキ装置健全性判断装置の例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を実施するための形態を説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態による態様を実施するためのコンピュータシステム1のブロック図である。本明細書で開示される様々な実施形態の機構及び装置は、任意の適切なコンピューティングシステムに適用されてもよい。
【0014】
コンピュータシステム1の主要コンポーネントは、1つ以上のプロセッサ2、メモリ4、端末インターフェースユニット12、ストレージインターフェースユニット14、I/O(入出力)デバイスインターフェースユニット16、及びネットワークインターフェース18を含む。これらのコンポーネントは、メモリバス6、I/Oバス8、バスインターフェースユニット9、及びI/Oバスインターフェースユニット10を介して、相互的に接続されてもよい。
【0015】
コンピュータシステム1は、プロセッサ2と総称される1つ又は複数の処理装置2A及び2Bを含んでもよい。各プロセッサ2は、メモリ4に格納された命令を実行し、オンボードキャッシュを含んでもよい。ある実施形態では、コンピュータシステム1は複数のプロセッサを備えてもよく、また別の実施形態では、コンピュータシステム1は単一の処理装置によるシステムであってもよい。処理装置としては、CPU(Central Processing Unit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processong Unit)等を適用できる。
【0016】
ある実施形態では、メモリ4は、データ及びプログラムを記憶するためのランダムアクセス半導体メモリ、記憶装置、又は記憶媒体(揮発性又は不揮発性のいずれか)を含んでもよい。ある実施形態では、メモリ4は、コンピュータシステム1の仮想メモリ全体を表しており、ネットワークを介してコンピュータシステム1に接続された他のコンピュータシステムの仮想メモリを含んでもよい。メモリ4は、概念的には単一のものとみなされてもよいが、他の実施形態では、メモリ4は、キャッシュおよび他のメモリデバイスの階層など、より複雑な構成となる場合がある。例えば、メモリは複数のレベルのキャッシュとして存在し、これらのキャッシュは機能毎に分割されてもよい。その結果、1つのキャッシュは命令を保持し、他のキャッシュはプロセッサによって使用される非命令データを保持する構成であってもよい。メモリは、いわゆるNUMA(Non-Uniform Memory Access)コンピュータアーキテクチャのように、分散され、種々の異なる処理装置に関連付けられてもよい。
【0017】
メモリ4は、本明細書で説明する機能を実施するプログラム、モジュール、及びデータ構造のすべて又は一部を格納してもよい。例えば、メモリ4は、潜在因子特定アプリケーション50を格納していてもよい。ある実施形態では、潜在因子特定アプリケーション50は、後述する機能をプロセッサ2上で実行する命令又は記述を含んでもよく、あるいは別の命令又は記述によって解釈される命令又は記述を含んでもよい。ある実施形態では、潜在因子特定アプリケーション50は、プロセッサベースのシステムの代わりに、またはプロセッサベースのシステムに加えて、半導体デバイス、チップ、論理ゲート、回路、回路カード、および/または他の物理ハードウェアデバイスを介してハードウェアで実施されてもよい。ある実施形態では、潜在因子特定アプリケーション50は、命令又は記述以外のデータを含んでもよい。ある実施形態では、カメラ、センサ、または他のデータ入力デバイス(図示せず)が、バスインターフェースユニット9、プロセッサ2、またはコンピュータシステム1の他のハードウェアと直接通信するように提供されてもよい。このような構成では、プロセッサ2がメモリ4及び潜在因子識別アプリケーションにアクセスする必要性が低減する可能性がある。
【0018】
コンピュータシステム1は、プロセッサ2、メモリ4、表示システム24、及びI/Oバスインターフェースユニット10間の通信を行うバスインターフェースユニット9を含んでもよい。I/Oバスインターフェースユニット10は、様々なI/Oユニットとの間でデータを転送するためのI/Oバス8と連結していてもよい。I/Oバスインターフェースユニット10は、I/Oバス8を介して、I/Oプロセッサ(IOP)又はI/Oアダプタ(IOA)としても知られる複数のI/Oインターフェースユニット12、14、16、及び18と通信してもよい。表示システム24は、表示コントローラ、表示メモリ、又はその両方を含んでもよい。表示コントローラは、ビデオ、オーディオ、又はその両方のデータを表示装置26に提供することができる。また、コンピュータシステム1は、データを収集し、プロセッサ2に当該データを提供するように構成された1つまたは複数のセンサ等のデバイスを含んでもよい。例えば、コンピュータシステム1は、湿度データ、温度データ、圧力データ等を収集する環境センサ、及び加速度データ、運動データ等を収集するモーションセンサ等を含んでもよい。これ以外のタイプのセンサも使用可能である。バスインターフェースユニット9が提供する機能は、プロセッサ2を含む集積回路によって実現されてもよい。
【0019】
I/Oインターフェースユニットは、様々なストレージ又はI/Oデバイスと通信する機能を備える。例えば、端末インターフェースユニット12は、ビデオ表示装置、スピーカテレビ等のユーザ出力デバイスや、キーボード、マウス、キーパッド、タッチパッド、トラックボール、ボタン、ライトペン、又は他のポインティングデバイス等のユーザ入力デバイスのようなユーザI/Oデバイス20の取り付けが可能である。ユーザは、ユーザインターフェースを使用して、ユーザ入力デバイスを操作することで、ユーザI/Oデバイス20及びコンピュータシステム1に対して入力データや指示を入力し、コンピュータシステム1からの出力データを受け取ってもよい。ユーザインターフェースは例えば、ユーザI/Oデバイス20を介して、表示装置に表示されたり、スピーカによって再生されたり、プリンタを介して印刷されたりしてもよい。
【0020】
ストレージインターフェースユニット14は、1つ又は複数のディスクドライブや直接アクセスストレージ装置22(通常は磁気ディスクドライブストレージ装置であるが、単一のディスクドライブとして見えるように構成されたディスクドライブのアレイ又は他のストレージ装置であってもよい)の取り付けが可能である。ある実施形態では、ストレージ装置22は、任意の二次記憶装置として実装されてもよい。メモリ4の内容は、ストレージ装置22に記憶され、必要に応じてストレージ装置22から読み出されてもよい。I/Oデバイスインターフェースユニット16は、プリンタ、ファックスマシン等の他のI/Oデバイスに対するインターフェースを提供してもよい。ネットワークインターフェース18は、コンピュータシステム1と他のデバイスが相互的に通信できるように、通信経路を提供してもよい。この通信経路は、例えば、ネットワーク30であってもよい。
【0021】
図1に示されるコンピュータシステム1は、プロセッサ2、メモリ4、バスインターフェースユニット9、表示システム24、及びI/Oバスインターフェースユニット10の間の直接通信経路を提供するバス構造を備えているが、他の実施形態では、コンピュータシステム1は、階層構成、スター構成、又はウェブ構成のポイントツーポイントリンク、複数の階層バス、平行又は冗長の通信経路を含んでもよい。さらに、I/Oバスインターフェースユニット10及びI/Oバス8が単一のユニットとして示されているが、実際には、コンピュータシステム1は複数のI/Oバスインターフェースユニット10又は複数のI/Oバス8を備えてもよい。また、I/Oバス8を様々なI/Oデバイスに繋がる各種通信経路から分離するための複数のI/Oインターフェースユニットが示されているが、他の実施形態では、I/Oデバイスの一部または全部が、1つのシステムI/Oバスに直接接続されてもよい。
【0022】
ある実施形態では、コンピュータシステム1は、マルチユーザメインフレームコンピュータシステム、シングルユーザシステム、又はサーバコンピュータ等の、直接的ユーザインターフェースを有しない、他のコンピュータシステム(クライアント)からの要求を受信するデバイスであってもよい。他の実施形態では、コンピュータシステム1は、デスクトップコンピュータ、携帯型コンピュータ、ノートパソコン、タブレットコンピュータ、ポケットコンピュータ、電話、スマートフォン、又は任意の他の適切な電子機器であってもよい。
【0023】
<実施例1>
図2は、本発明の実施例1におけるブレーキ装置健全性判断装置の例を示すブロック図である。ブレーキ装置健全性判断装置103は、基準値算出部101、健全性判定部102を備えている。
【0024】
鉄道車両におけるブレーキ装置について説明する。鉄道車両のブレーキ装置は列車に備えられ、回生ブレーキと空気ブレーキを用いる。回生ブレーキは、電気的なブレーキであり、モーターを発電機として働かせることによって生ずる抵抗で制動を行うブレーキである。一方、空気ブレーキは、圧縮された空気を動力として作動させるブレーキであり、このためのピストンやタンク等の構成を備える。空気ブレーキを作動させるために必要な圧力が空気ブレーキ圧となる。これらの構成により全体のブレーキ力は、回生ブレーキ力と空気ブレーキ力の合計で表すことができる。
【0025】
ブレーキ装置健全性判断装置103には、運転指令151、乗車率152、回生ブレーキ力153、空気ブレーキ圧156の情報が列車から入力される。これらの情報は、所定時間ごと(例えば200msecごと)の周期で、リアルタイムに時々刻々の情報が受信される。ブレーキ装置健全性判断装置103は、これらの周期毎に入力された情報を用いて以下に示す処理が行われる。
【0026】
運転指令151は、列車の時々刻々の力行、惰行、制動などの動作を指令する情報である。このうち、制動がブレーキに関する情報であり、ノッチ毎に段階的にブレーキの強さが異なる情報である。例えば、B1~B7の7段階に分けて数値が上がるほど強い制動を示す情報とする等である。乗車率152は、当該列車の乗車率であり、当該列車でセンサを用いる等して測定することが可能な値である。回生ブレーキ力153は、当該列車が制動する際に発生する回生ブレーキ力であり、当該列車でセンサを用いる等して測定することが可能な値である。空気ブレーキ圧156は、当該列車の当該列車の時々刻々の空気ブレーキ圧であり、この圧力は当該列車でセンサを用いる等して測定することで得られる値である。
【0027】
基準値算出部101は、運転指令151、乗車率152、回生ブレーキ力153の情報を取得する。そして、基準値算出部101は、空気ブレーキ圧基準値154を算出して出力するとともに、空気ブレーキ圧の健全性の判断を実施してよいかを示す判断可否信号155を算出して出力する。
【0028】
健全性判定部102は、空気ブレーキ圧基準値154、判断可否信号155、空気ブレーキ圧156の情報を取得する。そして、ブレーキ圧の健全性を判断して健全性判断157を出力する。
【0029】
ブレーキ装置健全性判断装置103は、列車に搭載することが可能である。また、列車以外の地上側に設置してもよい。この場合、運転指令151、乗車率152、回生ブレーキ力153、空気ブレーキ圧156の情報は、該当の列車から遠隔で送信される。
【0030】
図3は、本発明の実施例1における基準値算出部の例を示すブロック図である。基準値算出部101の詳細について図3を用いて説明する。
【0031】
基準値算出部101は、列車特性テーブル201、予定減速度算出部202、ブレーキ力算出部203、空気ブレーキ力算出部204、空気ブレーキ圧基準値計算部205、判断可否判定部206を備えている。
【0032】
列車特性テーブル201は、少なくとも、当該列車の減速度特性251、当該列車の重量特性252、当該列車の空気ブレーキ圧特性253の情報を有する。列車特性テーブル201は、記憶部に記録しておくことができる。
【0033】
減速度特性251は、運転指令151から減速度が一意に定まるように設定されている特性である。例えば、運転指令151がブレーキ指令(制動指令)のB1であれば、0.5[km/h/s]というような形で設定されていれば良い。つまり、各運転指令に対する減速度をあらかじめ定めておけば一意で定めることができる。なお、以降の説明において、本減速度は平坦かつ直線の場合の減速度としている。
【0034】
重量特性252は、少なくとも列車の空車重量と定員人数と列車の慣性重量に相当する重量が記録されている特性である。設計値としてあらかじめ登録しておくことができる。
【0035】
空気ブレーキ圧特性253は、空気ブレーキ力と空気ブレーキ圧が一意に定まるように設定されている特性である。例えば、空気ブレーキ力が300[kN]の場合、空気ブレーキ圧が345[KPa]というようになっていれば良い。この場合、具体的な数値でこれらの関係を記録して良いし、空気ブレーキ力と空気ブレーキ圧の比が記載されている形となっていても良い。例えば、ブレーキ力が300[kN]の場合、比率1.15という値が記録されたテーブルの形式でも良い。
【0036】
予定減速度算出部202は、列車特性テーブル201からの列車の減速度特性251と、運転指令151を入力して、これらを基に列車の予定減速度254を算出し出力する。減速度特性251は、上述したように、運転指令151から減速度が一意に定まるように設定されている特性である。このことから、入力された運転指令151を基に予定減速度254が一意に得られる。
【0037】
ブレーキ力算出部203は、乗車率152と、列車特性テーブル201からの重量特性252と、予定減速度算出部202からの予定減速度254を入力して、これらを基にブレーキ力255を算出し出力する。ここで、予定減速度254をβ[km/h/s]、乗車率152をP[%]、重量特性252に含まれる列車の空車重量をW[ton]と定員人数をN、乗客1人当たりの重量をX[ton]、列車の慣性重量に相当する重量をWi[ton]とすると、ブレーキ力BP[KN]は、
BP = β/3.6×(W+N×P/100×X+Wi) ・・・(式1)
で計算可能である。このブレーキ力BPは全体のブレーキ力であり、これをブレーキ力255として出力する。
【0038】
空気ブレーキ力算出部204は、ブレーキ力算出部203からのブレーキ力255と、回生ブレーキ力153を入力して、これらを基に空気ブレーキ力256を算出し出力する。空気ブレーキ力256は、全体のブレーキ力であるブレーキ力255から回生ブレーキ力153を引いたものであることから、
空気ブレーキ力256 = ブレーキ力255-回生ブレーキ力153
・・・(式2)
で算出することができる。なお、空気ブレーキ力256が負の値になることは、実態としてはないが、データの計測精度によっては、計算上発生することもあるため、0以下はすべて0とするように制限する。
【0039】
空気ブレーキ圧基準値計算部205は、空気ブレーキ力算出部204からの空気ブレーキ力256と、列車特性テーブル201からの空気ブレーキ圧特性253を入力して、これらを基に当該列車の空気ブレーキ圧基準値154を算出する。空気ブレーキ圧特性253は、上述したように、空気ブレーキ力と空気ブレーキ圧が一意に定まるように設定されている特性である。このため、入力された空気ブレーキ力256を基に、一意に空気ブレーキ圧基準値154が得られる。
【0040】
判断可否判定部206は、運転指令151を基に、空気ブレーキ圧の健全性の判断を実施してよいかを示す判断可否信号155を決定して出力する。図4でその処理の詳細について説明する。
【0041】
図4は、本発明の実施例1における判断可否判定部の処理の例を示すフローチャートである。この処理は判断可否判定部206において運転指令151の情報が入力される毎に行う。
【0042】
まず、ステップ301は、本処理が当該日においてこれまで実施されていないかをチェックする。実施されていない(YES)ならばステップ302に進む。実施されている(No)ならばステップ303に進む。ここでの当該日は、その日や始発から終電までの時間範囲等とすることができる。また、当該日に代えて電源を入れている間の期間としてもよい。
【0043】
ステップ302では、ノッチ同一判定カウントを0にリセットして、ステップ303に進む。この処理は、電源を入れた時などにおいて、前のデータが仮に残っていると誤検知してしまうため、このようなことを防止するための処理である。
【0044】
ステップ303では、今回入力された運転指令151が前回入力された運転指令151と同一の運転指令で、かつブレーキ指令かどうかを判断する。この条件を満たす場合は(Yesであれば)、ステップ304に進む。この条件を満たさない場合は(Noであれば)、ステップ305に進む。例えば、200msecごと周期で入力される場合、前回の運転指令151と200msec前の前回の運転指令を比較する。これらの運転指令151が、例えば、同じブレーキ指令B1であれば、同一のブレーキ指令であると判定される。
【0045】
ステップ304では、ノッチ同一判定カウントを1増加して、ステップ306に進む。ノッチ同一判定カウントは、同じノッチがどれだけ連続したかを示す値である。ここでのノッチは、運転指令(ブレーキ指令)に該当するため、同じ運転指令(ブレーキ指令)がどれだけ連続したかを示す。また、所定の周期毎に運転指令が入力されるので、どれだけの時間、同じノッチが維持されているかに相当する。例えば、200msecごと周期で入力される場合、ノッチ同一判定カウントが「3」であれば、600msecは同じ運転指令(ブレーキ指令)を維持していることになる。
【0046】
ステップ305は、ノッチ同一判定カウントを0にリセットして、ステップ306に進む。ここでは、同じブレーキ指令が維持されていないため、ノッチ同一判定カウントを0にリセットする。
【0047】
ステップ306は、ノッチ同一判定カウントが所定値以上かどうかを判断する。所定値以上であれば(Yesであれば)、ステップ307に進む。所定値以上でなければ(Noであれば)、ステップ308に進む。所定値は任意に適切な値が決められる。例えば、ブレーキ指令が出てから出力が安定するまでにかかる時間を基に定めて良い。この時間の例として、2秒以上、3秒以上、5秒以上などである。
【0048】
ステップ307では、判断可否信号155を判断可として、終了となる。
【0049】
ステップ308では、判断可否信号155を判断否として、終了となる。
【0050】
このように判断可否判定部206は、所定時間以上、同じブレーキ指令である場合に判断可否信号155が判断可となるように処理される。そして、判断可否信号155は判断可否の情報を伴い出力される。
【0051】
図5は、本発明の実施例1における健全性判定部の処理の例を示すフローチャートである。図2で示した健全性判定部102の処理について、図5を用いて説明する。
【0052】
まず、ステップ401は、判断可否信号155が判断可になっているかをチェックする。判断可であれば(Yesであれば)、ステップ402に進む。判断否であれば(Noであれば)、終了となる。すなわち判断否の場合は空気ブレーキ圧の健全性の判断は行わない。
【0053】
ステップ402では、健全性判定部102の空気ブレーキ圧基準値計算部205で算出された空気ブレーキ圧基準値154と、空気ブレーキ圧156の差の絶対値が、基準判定値以下かどうかを判断する。基準判定値以下であれば(Yesであれば)、ステップ403に進む。基準判定値以下でなければ(Noであれば)、ステップ404に進む。基準判定値は、判定閾値となるようにあらかじめ定められた定数であり、例えば10とか20というように定めればよい。また、空気ブレーキ圧にも設計公差などがあると考えられることから、設計公差を用いて定めても良い。さらに、鉄道会社などで判定用の閾値があれば、それらを用いても良い。
【0054】
ここで、空気ブレーキ圧基準値154は上述したように運転指令151に基づく予定減速度254から推定される空気ブレーキ圧である。このため、運転指令151が変化しなければ空気ブレーキ圧基準値154は基本的には変化しない。また、空気ブレーキ圧156は、列車で測定される空気ブレーキ圧である。空気ブレーキ圧156は測定される値のためデータを取得するたびに時々刻々変化している。運転指令151に対して空気ブレーキが正常に作動していれば、空気ブレーキ圧基準値154と、空気ブレーキ圧156の差の絶対値が、基準判定値以下と想定される。
【0055】
ステップ403は、判定結果を正常として、終了となる。このため、空気ブレーキ圧基準値154に対する測定される空気ブレーキ圧156の差が所定以内の場合は異常がないと判断される。
【0056】
ステップ404は、判定結果を異常として、終了となる。
【0057】
変形例として、ステップ404において判定結果をすぐには異常とせず、異常予兆としておき、異常予兆が数回繰り返された場合に異常としても良い。例えば、2回以上、もしくは3回以上とするなどである。これにより、1回だけなら誤検知の可能性もある場合でも、複数回を条件とすれば、誤検知を防止できる確率が高くなる。その際において、例えば,ステップ402で、基準判定値との差分が一定以上大きくなった場合には、異常の可能性が高くなったとして、異常判定とする方法でも良い。すなわち、空気ブレーキ圧基準値154と空気ブレーキ圧156の差が、基準判定値よりも一定以上大きい場合は、1回で異常判定する。
【0058】
なお、本実施例では、列車特性テーブル201を設け、その中に減速度特性251、重量特性252、空気ブレーキ圧特性253があるとして説明した。しかし、入力に対して一意に定まる式あるいは数値があれば、それらの数値を用いる方法でも良い。
【0059】
例えば、減速度特性251は、
減速度=運転指令から定まる減速度×η+勾配×ω ・・・(式3)
と表現し、η、ωを予定減速度算出部202に格納して計算するという方法でも良い。
【0060】
例えば、重量特性252は、空車重量、定員人数、慣性重量をブレーキ力算出部203に格納しておいても良い。
【0061】
例えば、空気ブレーキ圧特性253は、
空気ブレーキ圧基準値=γ×空気ブレーキ力 ・・・(式4)
と表現し、γを空気ブレーキ圧基準値計算部205に格納して計算しても良い。
【0062】
なお、上記のη、ω、γは定数に限らず関数の形であっても良い。さらに、上記で述べた特性について、一部分はテーブルとして、残りは計算式という形であっても良い。
【0063】
また、上述した構成を用いて、正常/異常の結果を基に、健全性の指標を出す方法も考えられる。例えば、1日毎あるいは1か月毎といった定期的な期間毎に、異常とされた判定回数/全判定回数で計算された異常度を表示する。このことで、異常と思われるブレーキ装置を抽出し、保守員が、作業する際に優先的かつ精査すべき装置を示すことができる。
【0064】
図6は、本発明の実施例1における空気ブレーキ圧異常度表示の例を示すグラフである。図6に示すように、横軸を日時、縦軸を空気ブレーキ圧の異常度として示すことで、異常の予兆をとらえることも可能となる。すなわち、異常度が他の期間よりも上昇していれば、何らかの異常が明らかに発生していることを知ることができる。さらに、真の異常と判定する閾値を設け、異常度の割合が真の異常と思われる閾値を超えたら異常と判定するようにしても良い。
【0065】
このように実施例1では、同じブレーキ指令が所定時間継続した場合に、ブレーキ圧健全性判定を行うことで、不安定な状態での判定を防止することができる。さらにブレーキ指令から想定される空気ブレーキ圧基準値154と実際に測定された空気ブレーキ圧156の差を比較することで、列車を走行させながら空気ブレーキ圧の健全性の判定が可能となる。
【0066】
<実施例2>
図7は、本発明の実施例2におけるブレーキ健全性判断装置の例を示すブロック図である。実施例2では、実施例1と異なる点について主に説明し、同一の箇所には同一の符号を付してあり、特に説明がない部分は同じ説明を省略している。
【0067】
ブレーキ装置健全性判断装置603は、基準値算出部101、判断可否信号算出部601、健全性判定部602を備えている。ブレーキ装置健全性判断装置603には、運転指令151、乗車率152、回生ブレーキ力153、空気ブレーキ圧156の情報が入力される点は、実施例1と同様である。
【0068】
基準値算出部101は、実施例1と同様であるが、本実施例では実施例1の判断可否信号155は便宜上、第1の判断可否信号155と記載するが同じ内容である。
【0069】
判断可否信号算出部601は、空気ブレーキ圧156の情報を取得し、これに基づき第2の判断可否信号651を出力する。
【0070】
健全性判定部602は、空気ブレーキ圧基準値154、第1の判断可否信号155、空気ブレーキ圧156、第2の判断可否信号651の情報を取得する。そして、これらに基づきブレーキ圧の健全性を判断して健全性判断157を出力する。ここでは、第2の判断可否信号651をふまえる点が実施例1の健全性判定部102とは異なる。
【0071】
ブレーキ装置健全性判断装置603は、実施例1のブレーキ装置健全性判断装置103と同様に列車に搭載することが可能であるし、地上側に設置してもよい。
【0072】
図8は、本発明の実施例2における判断可否信号算出部の処理の例を示すフローチャートである。この処理は判断可否信号算出部601において空気ブレーキ圧156の情報が入力される毎に行う。
【0073】
まず、ステップ701は、本処理が当該日においてこれまで実施されていないかをチェックする。実施されていない(YES)ならばステップ702に進む。実施されている(No)ならばステップ703に進む。ここでの当該日は、その日や始発から終電までの時間範囲等とすることができる。また、当該日に代えて電源を入れている間の期間としてもよい。
【0074】
ステップ702では、ブレーキ圧停滞カウントを0にリセットして、ステップ703に進む。この処理は、電源を入れた時などにおいて、前のデータが仮に残っていると誤判定してしまうため、このようなことを防止するための処理である。
【0075】
ステップ703は、今回入力された空気ブレーキ圧156が前回の空気ブレーキ圧と同一かつ0よりも大きい値となっているかどうかを判断する。条件に合致すれば(Yesであれば)、ステップ704に進む。条件に合致しなければ(Noであれば)、ステップ705に進む。ここで、今回の空気ブレーキ圧156が前回の空気ブレーキ圧156と同一であることは、空気ブレーキ圧が所定時間一定であると判断している。また、空気ブレーキ圧156が0よりも大きい値は、空気ブレーキ圧に値があることを判断している。
【0076】
ステップ704では、第2の判断可否信号651を判断可にし、終了となる。
【0077】
ステップ705では、第2の判断可否信号651を判断否にし、終了となる。
【0078】
なお、ステップ703で実施する空気ブレーキ圧156が前回の空気ブレーキ圧と同一の判定については、得られるデータの精度も考慮して、例えば、判定閾値εを設けて、
||今回の空気ブレーキ圧156-前回の空気ブレーキ圧||≦ε
・・・(式5)
が成立した場合としても良い。これにより、空気ブレーキ圧156と前回の空気ブレーキ圧の差が、同一とみなされる所定の範囲内にある場合は、第2の判断可否信号651を判断可とする。
【0079】
また、ステップ703では、今回の空気ブレーキ圧156が前回の空気ブレーキ圧と同一であることを条件としている。しかし、これ以外に実施例1のノッチ同一判定カウントのように、複数回、連続して同一の場合を条件としてもよい。すなわち、空気ブレーキ圧156が所定回数以上同一で、かつ0よりも大きい値となっているかどうかを判断する。合致すれば、ステップ704で第2の判断可否信号651を判断可とする。ここでの所定回数以上同一は、所定時間以上同一の場合に相当する。また、この場合の同一は、(式5)のように同一とみなされる所定の範囲であってもよい。
【0080】
図9は、本発明の実施例2における健全性判定部の処理の例を示すフローチャートである。図9は実施例1の図5のステップ401がステップ801となっている以外は同一である。
【0081】
まず、ステップ801は、第1の判断可否信号155および第2の判断可否信号651が判断可になっているかをチェックする。条件に合致すれば(Yesであれば)、ステップ402に進む。条件に合致しなければ(Noであれば)、終了となる。
【0082】
ステップ402は、空気ブレーキ圧基準値154と、空気ブレーキ圧156の差の絶対値が、基準判定値以下かどうかを判断する。基準判定値以下であれば(Yesであれば)、ステップ403に進む。基準判定値以下でなければ(Noであれば)、ステップ404に進む。
【0083】
ステップ403は、判定結果を正常として、終了となる。
【0084】
ステップ404は、判定結果を異常として、終了となる。
【0085】
実施例1で説明したステップ402~404の変形例の判定方法は本実施例でも同様に適用できる。
【0086】
また、ステップ801では、第1の判断可否信号155および第2の判断可否信号651が判断可になっている場合にステップ402に進む判定を説明した。しかし、これ以外に、第1の判断可否信号155あるいは第2の判断可否信号651のいずれかが判断可になっている場合にステップ402に進む判定とすることもできる。第2の判断可否信号651のみを用いる場合は、図7に記載の基準値算出部101で第1の判断可否信号155を出力しなくてもよい。また、第2の判断可否信号651を用いずに第1の判断可否信号155のみを用いて実施する場合については、実施例1で示した内容と同じ構成となる。
【0087】
さらに、実施例2においては、第1の判断可否信号155は基準値算出部101にて、第2の判断可否信号651は判断可否信号算出部601にてそれぞれ算出としている。しかしながら、第1の判断可否信号155、第2の判断可否信号651の算出を基準値算出部101あるいは判断可否信号算出部601のいずれかにまとめて実施する構成としても良い。
【0088】
このように実施例2では、実際に測定されるブレーキ圧が前回と同一の場合に、ブレーキ圧健全性判定を行うことで、不安定な状態での判定を防止することができる。さらに、実施例1で示した同じブレーキ指令が所定時間継続した場合の条件と合わせることで、より的確な判定をすることができる。なお、列車を走行させながらブレーキ圧の健全性判定が可能となることは実施例1と同様である。
【0089】
<実施例3>
図10は、本発明の実施例3におけるブレーキ装置健全性判断装置の例を示すブロック図である。実施例3では、実施例1、2と異なる点について主に説明し、同一の箇所には同一の符号を付してあり、特に説明がない部分は同じ説明を省略している。
【0090】
ブレーキ装置健全性判断装置903は、基準値算出部901、判断可否信号算出部601、健全性判定部902を備えている。ブレーキ装置健全性判断装置903には、運転指令151、乗車率152、回生ブレーキ力153、空気ブレーキ圧156の情報が入力される点は、実施例1のブレーキ装置健全性判断装置103と同様である。
【0091】
基準値算出部901は、運転指令151、乗車率152、回生ブレーキ力153の情報を取得する。そして、基準値算出部901は、空気ブレーキ圧基準値154を算出して出力するとともに、空気ブレーキ圧の健全性の判断を実施してよいかを示す第1の判断可否信号951を算出して出力する。
【0092】
判断可否信号算出部601は、実施例2の判断可否信号算出部601と同様である。
【0093】
健全性判定部902は、空気ブレーキ圧基準値154、第1の判断可否信号951、第2の判断可否信号651、空気ブレーキ圧156の情報を取得する。そして、ブレーキ圧の健全性を判断して健全性判断157を出力する。
【0094】
ブレーキ装置健全性判断装置903は、実施例1のブレーキ装置健全性判断装置103と同様に列車に搭載することが可能であるし、地上側に設置してもよい。
【0095】
図11は、本発明の実施例3における基準値算出部の例を示すブロック図である。基準値算出部901の詳細について図11を用いて説明する。
【0096】
基準値算出部901は、列車特性テーブル201、予定減速度算出部202、ブレーキ力算出部203、空気ブレーキ力算出部204、空気ブレーキ圧基準値計算部205、判断可否判定部1001を備えている。実施例1で説明した基準値算出部101と異なる箇所は、判断可否判定部206に代えて判断可否判定部1001となっている点である。ここでは、判断可否判定部1001について説明しそれ以外の構成は説明を省略する。
【0097】
判断可否判定部1001は、運転指令151と回生ブレーキ力153の情報を入力してこれらを基に、第1の判断可否信号951を決定して、出力する。図12でその処理の詳細について説明する。
【0098】
図12は、本発明の実施例3における判断可否判定部の処理の例を示すフローチャートである。この処理は判断可否判定部1001において運転指令151と回生ブレーキ力153のデータが入力される毎に行う。
【0099】
まず、ステップ1101は、本処理が当該日においてこれまで実施されていないかをチェックする。実施されていない(YES)ならばステップ1102に進む。実施されている(No)ならばステップ1103に進む。この処理は実施例1(図4)のステップ301と同様である。
【0100】
ステップ1102では、ノッチ同一判定カウントを0にリセットして、ステップ1103に進む。この処理は実施例1(図4)のステップ302と同様である。
【0101】
ステップ1103では、今回入力された運転指令151が前回の運転指令151と同一かつブレーキ指令かどうかを判断する。この条件を満たす場合は(Yesであれば)、ステップ1104に進む。この条件を満たさない場合は(Noであれば)、ステップ1105に進む。この処理は実施例1(図4)のステップ303と同様である。
【0102】
ステップ1104では、ノッチ同一判定カウントを1増加して、ステップ1106に進む。この処理は実施例1(図4)のステップ304と同様である。
【0103】
ステップ1105では、ノッチ同一判定カウントを0にリセットして、ステップ1106に進む。この処理は実施例1(図4)のステップ305と同様である。
【0104】
ステップ1106では、ノッチ同一判定カウントが所定値以上かどうかを判断する。所定値以上であれば(Yesであれば)、ステップ1107に進む。所定値以上でなければ(Noであれば)、ステップ1109に進む。この処理は実施例1(図4)のステップ306と同様である。
【0105】
ステップ1107では、今回入力された回生ブレーキ力153が前回の回生ブレーキ力と同一となっているかどうかを判断する。同一であれば(Yesであれば)、ステップ1108に進む。同一でなければ(Noであれば)、ステップ1109に進む。今回の回生ブレーキ力153が前回の回生ブレーキ力153と同一であることは、回生ブレーキ力153が所定時間一定であると判断している。
【0106】
ステップ1108では、第1の判断可否信号951を判断可にして、終了となる。
【0107】
ステップ1109では、第1の判断可否信号951を判断否にして、終了となる。
【0108】
なお、変形例として、ステップ1107で実施する今回の回生ブレーキ力153が前回の回生ブレーキ力と同一の判定については、得られるデータの精度も考慮して、例えば、判定閾値εを設けて、
||今回の回生ブレーキ力153-前回の回生ブレーキ力||≦ε
・・・(式6)
が成立した場合としても良い。これにより、今回の回生ブレーキ力153と前回の回生ブレーキ力の差が、同一とみなされる所定の範囲内にある場合は、第1の判断可否信号951を判断可とする。
【0109】
また、他の変形例として、ステップ1107では、今回の回生ブレーキ力153が前回の回生ブレーキ力153と同一であることを条件としている。しかし、これ以外にノッチ同一判定カウントのように、複数回、連続して同一の場合を条件としてもよい。すなわち、回生ブレーキ力153が所定回数以上同一かどうかを判断する。同一ならば、ステップ1107で第1の判断可否信号951を判断可とする。ここでの所定回数以上同一は所定時間以上同一の場合に相当する。また、この場合の同一は、(式6)のように同一とみなされる所定の範囲であってもよい。
【0110】
図13は、本発明の実施例3における健全性判定部の処理の例を示すフローチャートである。図13は実施例1の図5のステップ401がステップ1201となっている以外は同一である。
【0111】
ステップ1201は、第1の判断可否信号951および第2の判断可否信号651が判断可になっているかをチェックする。条件に合致すれば(Yesであれば)、ステップ402に進む。条件に合致しなければ(Noであれば)、終了となる。
【0112】
ステップ402は、空気ブレーキ圧基準値154と空気ブレーキ圧156の差の絶対値が、基準判定値以下かどうかを判断する。基準判定値以下であれば(Yesであれば)、ステップ403に進む。基準判定値以下でなければ(Noであれば)、ステップ404に進む。
【0113】
ステップ403は、判定結果を正常として、終了となる。
【0114】
ステップ404は、判定結果を異常として、終了となる。
【0115】
実施例1で説明したステップ402~404の変形例の判定方法は本実施例でも同様に適用できる。
【0116】
また、ステップ1201では、第1の判断可否信号951および第2の判断可否信号651が判断可になっている場合に判定結果を正常とする判定を説明した。しかし、これ以外に、第1の判断可否信号951あるいは第2の判断可否信号651のいずれかが判断可になっている場合にステップ402に進む判定とすることもできる。
【0117】
さらに、実施例3においては、第1の判断可否信号951は基準値算出部901にて、第2の判断可否信号651は判断可否信号算出部601にてそれぞれ算出としている。しかしながら、第1の判断可否信号951、第2の判断可否信号651の算出を基準値算出部901あるいは判断可否信号算出部601のどちらかにまとめて実施する構成としても良い。
【0118】
このように実施例3では、ノッチ同一判定カウントの判定に加えて、回生ブレーキ力が所定時間一定であることを条件とすることで、より正確に安定な状態を判断できる。これは、回生ブレーキ力が変化すると空気ブレーキ力も変わってしまい、空気ブレーキ圧は安定な状態にならないからである。それ以外の効果については、実施例1や2と同様である。
【0119】
<実施例4>
図14は、本発明の実施例4におけるブレーキ装置健全性判断装置の例を示すブロック図である。実施例4では、実施例1~3と異なる点について主に説明し、同一の箇所には同一の符号を付してあり、特に説明がない部分は同じ説明を省略している。
【0120】
ブレーキ装置健全性判断装置1302は、基準値算出部1301、判断可否信号算出部601、健全性判定部902を備えている。
【0121】
ブレーキ装置健全性判断装置1302には、実施例1と同様に運転指令151、乗車率152、回生ブレーキ力153、空気ブレーキ圧156の情報が入力されることに加えて、空転・滑走情報1351が入力される。
【0122】
基準値算出部1301は、運転指令151、乗車率152、回生ブレーキ力153、空転・滑走情報1351を入力する。そして、基準値算出部1301は、空気ブレーキ圧基準値154を算出して出力するとともに、空気ブレーキ圧の健全性の判断を実施してよいかを示す第1の判断可否信号1352を算出して出力する。
【0123】
判断可否信号算出部601は、実施例2、3の判断可否信号算出部601と同様である。
【0124】
健全性判定部902は、実施例3の健全性判定部902と同様であるが、実施例3の第1の判断可否信号951に代えて第1の判断可否信号1352を入力する点が異なる。すなわち、健全性判定部902は、空気ブレーキ圧基準値154、第1の判断可否信号1352、第2の判断可否信号651、空気ブレーキ圧156の情報を取得する。そして、ブレーキ圧の健全性を判断して健全性判断157を出力する。処理の内容は図13と同様である。
【0125】
ブレーキ装置健全性判断装置1302は、列車に搭載することが可能である。また、列車以外の地上側に設置してもよい。この場合、運転指令151、乗車率152、回生ブレーキ力153、空気ブレーキ圧156、空転・滑走情報1351の情報は、該当の列車から遠隔で送信される。
【0126】
図15は、本発明の実施例4における基準値算出部の例を示すブロック図である。基準値算出部1301の詳細について図15を用いて説明する。
【0127】
基準値算出部1301は、列車特性テーブル201、予定減速度算出部202、ブレーキ力算出部203、空気ブレーキ力算出部204、空気ブレーキ圧基準値計算部205、判断可否判定部1401を備えている。実施例1で説明した基準値算出部101と異なる箇所は、判断可否判定部206に代えて判断可否判定部1401となっている点である。ここでは、判断可否判定部1401について説明しそれ以外の構成は説明を省略する。
【0128】
判断可否判定部1401は、運転指令151と回生ブレーキ力153と空転・滑走情報1351のデータを基に、第1の判断可否信号1352を決定して、出力する。図16でその処理の詳細について説明する。
【0129】
図16は、本発明の実施例4における判断可否判定部の処理の例を示すフローチャートである。この処理は判断可否判定部1401において運転指令151と回生ブレーキ力153の情報が入力される毎に行う。また、空転・滑走情報1351は、空転や滑走が発生した場合にその情報が入力される。
【0130】
まず、ステップ1501は、本処理が当該日においてこれまで実施されていないかをチェックする。実施されていない(YES)のならばステップ1502に進む。実施されている(No)ならばステップ1503に進む。この処理は実施例1(図4)のステップ301と同様である。
【0131】
ステップ1502では、判定カウントを0にリセットして、ステップ1503に進む。この処理は実施例1(図4)のステップ302と同様である。
【0132】
ステップ1503では、空転・滑走情報1351がないかを判断する。空転・滑走情報1351がない場合(Yesの場合)は、空転・滑走していない状態が想定され、ステップ1504に進む。空転・滑走情報1351がある場合(Noの場合)には、空転・滑走している状態が想定されるため判定できないとして、ステップ1510に進む。
【0133】
空転は、鉄道車両の車輪がレール面上を滑って回転している状態である。また、滑走は、鉄道車両の車輪が回転せずにレール面を滑る状態である。このような状態は、不安定な状態のため、空気ブレーキ圧の健全性判定を行わないことが好ましい。空転・滑走情報1351は列車内で計測されているデータから取得することができる。空転・滑走情報1351は空転や滑走が生じた場合の情報であり、空転・滑走情報1351がない場合は、空転や滑走が生じていない状態であると想定される。
【0134】
ステップ1504は、今回入力された運転指令151が前回の運転指令151と同一かつブレーキ指令かどうかを判断する。この条件を満たす場合は(Yes)であれば、ステップ1505に進む。この条件を満たさない場合は(Noであれば)、ステップ1506に進む。この処理は実施例1(図4)のステップ303と同様である。
【0135】
ステップ1505では、ノッチ同一判定カウントを1増加して、ステップ1507に進む。この処理は実施例1(図4)のステップ304と同様である。
【0136】
ステップ1506では、ノッチ同一判定カウントを0にリセットして、ステップ1507に進む。この処理は実施例1(図4)のステップ305と同様である。
【0137】
ステップ1507は、ノッチ同一判定カウントが所定値以上かどうかを判断する。所定値以上であれば(Yes)であれば、ステップ1508に進む。所定値以上でなければ(Noであれば)、ステップ1511に進む。この処理は実施例1(図4)のステップ306と同様である。
【0138】
ステップ1508は、今回入力された回生ブレーキ力153が前回の回生ブレーキ力と同一となっているかどうかを判断する。同一であれば(Yes)であれば、ステップ1509に進む。同一でなければ(Noであれば)、ステップ1511に進む。この処理は実施例3(図12)のステップ1107と同様である。
【0139】
ステップ1509は、第1の判断可否信号1352を判断可にして、終了となる。この処理は実施例1(図4)のステップ307と同様である。
【0140】
ステップ1510は、判定カウントを0にリセットして、ステップ1511に進む。
【0141】
ステップ1511は、第1の判断可否信号1352を判断否にして、終了となる。この処理は実施例1(図4)のステップ308と同様である。
【0142】
以上で述べた本実施例の判断可否判定部1401処理は、実施例3に対して空転・滑走情報1351を考慮した処理となっている。これ以外に、実施例1、2に空転・滑走情報1351を考慮した構成としてもよい。具体的には実施例1、2の判断可否判定部206を判断可否判定部1401に置き換える等である。
【0143】
また、ステップ1508の回生ブレーキ力153を考慮するステップは、実施例3の図12のステップ1107で説明した変形例を適用してもよい。
【0144】
このように実施例4では、ノッチ同一判定カウントの判定に加えて、空転や滑走が生じていない場合を条件とすることで、より正確に安定な状態を判断できる。それ以外の効果については、実施例1~3と同様である。
【0145】
<実施例5>
図17は、本発明の実施例5におけるブレーキ装置健全性判断装置の例を示すブロック図である。実施例5では、実施例1と異なる点について主に説明し、同一の箇所には同一の符号を付してあり、特に説明がない部分は同じ説明を省略している。
【0146】
本実施例の図17の構成では実施例1の図1の構成に対して、判定閾値算出部1601を加えたものである。
【0147】
ブレーキ装置健全性判断装置1603は、基準値算出部101、判定閾値算出部1601、健全性判定部1602を備えている。ブレーキ装置健全性判断装置1603には、運転指令151、乗車率152、回生ブレーキ力153、空気ブレーキ圧156の情報が入力される点は、実施例1と同様である。
【0148】
基準値算出部101は、実施例1と同様である。
【0149】
判定閾値算出部1601は、運転指令151と乗車率152の情報を取得し、これらに基づき空気ブレーキ圧判定閾値1651を算出して出力する。
【0150】
健全性判定部1602は、空気ブレーキ圧基準値154と判断可否信号155と空気ブレーキ圧156と空気ブレーキ圧判定閾値1651から、空気ブレーキ圧の健全性判断157を判定して出力する。
【0151】
図18は、本発明の実施例5におけるブレーキ圧判定閾値テーブルの例を示す。図18のテーブルを例として、判定閾値算出部1601について説明する。
【0152】
図18のテーブルでは、横方向が運転指令の種類となる。「B」はブレーキ指令であることを表し、その後の数値は強さを表す。すなわちB1、B2、B3、・・・、B7の順に段階的に強いブレーキ(高い減速度)となるように設定される。また、縦軸が乗車率(%)を表す。乗車率が高いほど、判定閾値を大きく設定してある。
【0153】
判定閾値算出部1601では、図18に示すような運転指令と乗車率をそれぞれ軸として定めたテーブルを用いて空気ブレーキ圧判定閾値1651を算出する。図18の例では、運転指令が「B3」、乗車率が「10%」の場合は、数値が「20」となっているため、空気ブレーキ圧判定閾値1651は「20」となる。なお、該当するデータがない場合には線形補間などによりデータを算出するあるいは、該当データに最も近いデータの値を用いる構成とすればよい。
【0154】
なお、図18に用いたテーブルを、下記式のように
空気ブレーキ圧判定閾値1651 = 運転指令×θ+乗車率×δ
・・・(式7)
のような形で表しても良い。ここで、θやδは、定数である。なお、定数に限らず関数の形であっても良い。また(式7)の運転指令は、その運転指令の減速度に応じた値であればよく、θによって調整することが可能である。
【0155】
図19は、本発明の実施例5における健全性判定部の処理の例を示すフローチャートである。図19を用いて、健全性判定部1602の処理について説明する。図19は実施例1の図5のステップ402がステップ1801となっている以外は同一である。
【0156】
ステップ401は、判断可否信号155が判断可になっているかをチェックする。判断可であれば(Yesであれば)、ステップ1801に進む。判断可でなければ(Noであれば)、終了となる。
【0157】
ステップ1801は、空気ブレーキ圧基準値154、空気ブレーキ圧156の差の絶対値が、空気ブレーキ圧判定閾値1651以下かどうかを判断する。空気ブレーキ圧判定閾値1651以下であれば(Yesであれば)、ステップ403に進む。空気ブレーキ圧判定閾値1651以下でなければ(Noであれば)、ステップ404に進む。
【0158】
ステップ403は、判定結果を正常として、終了となる。
【0159】
ステップ404は、判定結果を異常として、終了となる。
【0160】
実施例1で説明したステップ404の変形例の判定方法は、基準判定値を空気ブレーキ圧判定閾値1651と変更すれば、本実施例でも同様に適用できる。
【0161】
なお、上述した実施例5では、実施例1に対して空気ブレーキ圧判定閾値1651を用いる構成を示したが、実施例2~4に対しても空気ブレーキ圧判定閾値1651を用いることができる。この場合は、ブレーキ装置健全性判断装置603、903、1302に判定閾値算出部1601を追加で設け、健全性判定部602、902の処理における基準判定値を空気ブレーキ圧判定閾値1651に変更すればよい。
【0162】
このように実施例4では、基準判定値を空気ブレーキ圧判定閾値1651とすることで、運転指令の内容と乗車率を考慮した、より適切な閾値による空気ブレーキ圧の健全性の判定が可能となる。
【0163】
<実施例6>
図20は、本発明の実施例6における鉄道装置の例ブロック図である。実施例6では、実施例1~5と異なる点について主に説明し、同一の箇所には同一の符号を付してあり、特に説明がない部分は同じ説明を省略している。
【0164】
実施例6の鉄道装置は、ブレーキ装置健全性判断装置1901と、自動運転システム1902を備えている。
【0165】
ブレーキ装置健全性判断装置1901は、運転指令151、乗車率152、回生ブレーキ力153、空気ブレーキ圧156の情報が入力され、ブレーキ圧の健全性判断157と、ブレーキノッチ1951を出力する。ブレーキノッチ1951は、当該列車のブレーキ装置において健全性を判定したいブレーキノッチの情報である。
【0166】
自動運転システム1902は、ブレーキノッチ1951を優先的に用いて走行パターンを生成する自動運転装置である。自動運転装置は、運転手なしで列車を自動運転することができる装置である。
【0167】
図21は、本発明の実施例6におけるブレーキ装置健全性判断装置の例を示すブロック図である。図20を用いてブレーキ装置健全性判断装置1901の詳細について説明する。
【0168】
図20に示すブレーキ装置健全性判断装置1901は、基準値算出部101と、健全性判定部102と、計画パターンノッチ選定部2001を備えている。
【0169】
基準値算出部101は実施例1と同様である。
【0170】
健全性判定部102は実施例1と同様である。
【0171】
計画パターンノッチ選定部2001は、運転指令151と、基準値算出部101が出力する判断可否信号155を入力する。そして、計画パターンノッチ選定部2001では、判断可否信号155が判断可となっている時の運転指令151のデータを収集する。収集した当該列車の運転指令のブレーキ指令の中で、実施が少ないもの、あるいは、最も判定を実施していないブレーキ指令に対応するブレーキノッチのデータを抽出する。この抽出したブレーキノッチをブレーキノッチ1951として出力する。なお、実施が少ないブレーキノッチが複数ある場合には、複数のブレーキノッチを出力しても良い。
【0172】
自動運転システム1902は、ブレーキ装置健全性判断装置1901が出力されたブレーキノッチ1951を入力する。そして、入力したブレーキノッチ1951を優先的に用いた走行パターン作成する。走行パターンの作成方法は、既知の手法を用いて実施すれば良い。
【0173】
なお、上述した実施例6では、実施例1のブレーキ装置健全性判断装置103の構成をベースにした計画パターンノッチ選定部2001や自動運転システム1902を付加する構成を示した。しかし、実施例2~5のブレーキ装置健全性判断装置603、903、1302、1603の構成をベースとした場合でも、計画パターンノッチ選定部2001や自動運転システム1902を付加する構成の鉄道システムとしても良い。
【0174】
このように実施例6では、自動運転システムにおいて、実施が少ないブレーキノッチの情報を収集して、このブレーキノッチを優先的に使用する走行パターンを作成する。このことで、走行しながら実施が少ないブレーキノッチにおける空気ブレーキ圧の健全性を判断することが可能となる。
【0175】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0176】
例えば、上述した実施形態では、AI(人工知能)技術を適用してもよい。AI技術を適用する方法としては、実際に入力されているデータに対してAI技術でチューニングする等である。例えば、図1では、空気ブレーキ圧基準値154の値について収集したデータにAIを利用してチューニングすることも可能である。この他、健全性判断157では、空気ブレーキ圧156と空気ブレーキ圧基準値154の差分をとって判定をするが、差分判定に使う閾値について収集したデータに基づきAIを利用してチューニングすることも可能である。
【符号の説明】
【0177】
1…コンピュータシステム、2…プロセッサ、2A…処理装置、4…メモリ、6…メモリバス、8…I/Oバス、9…バスインターフェースユニット、10…I/Oバスインターフェースユニット、12…端末インターフェースユニット、14…ストレージインターフェースユニット、16…I/Oデバイスインターフェースユニット、18…ネットワークインターフェース、22…ストレージ装置、24…表示システム、26…表示装置、30…ネットワーク、50…潜在因子特定アプリケーション、101…基準値算出部、102…健全性判定部、103…ブレーキ装置健全性判断装置、151…運転指令、152…乗車率、153…回生ブレーキ力、154…空気ブレーキ圧基準値、155…判断可否信号(第1の判断可否信号)、156…空気ブレーキ圧、157…健全性判断、201…列車特性テーブル、202…予定減速度算出部、203…ブレーキ力算出部、204…空気ブレーキ力算出部、205…空気ブレーキ圧基準値計算部、206…判断可否判定部、251…減速度特性、252…重量特性、253…空気ブレーキ圧特性、254…予定減速度、255…ブレーキ力、256…空気ブレーキ力、345…空気ブレーキ圧、601…判断可否信号算出部、602…健全性判定部、603…ブレーキ装置健全性判断装置、651…第2の判断可否信号、901…基準値算出部、902…健全性判定部、903…ブレーキ装置健全性判断装置、951…第1の判断可否信号、1001…判断可否判定部、1301…基準値算出部、1302…ブレーキ装置健全性判断装置、1351…滑走情報、1352…第1の判断可否信号、1401…判断可否判定部、1601…判定閾値算出部、1602…健全性判定部、1603…ブレーキ装置健全性判断装置、1651…空気ブレーキ圧判定閾値、1901…ブレーキ装置健全性判断装置、1902…自動運転システム、1951…ブレーキノッチ、2001…計画パターンノッチ選定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
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図19
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