(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066624
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】二酸化炭素の光分解方法及び光分解システム
(51)【国際特許分類】
C01B 32/50 20170101AFI20230509BHJP
C01B 32/40 20170101ALI20230509BHJP
B01J 19/12 20060101ALN20230509BHJP
B01D 53/26 20060101ALN20230509BHJP
B01D 53/28 20060101ALN20230509BHJP
【FI】
C01B32/50
C01B32/40
B01J19/12 C
B01D53/26 230
B01D53/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177309
(22)【出願日】2021-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大塚 優一
(72)【発明者】
【氏名】鮫島 貴紀
(72)【発明者】
【氏名】島本 章弘
(72)【発明者】
【氏名】中村 謙介
(72)【発明者】
【氏名】相浦 良徳
【テーマコード(参考)】
4D052
4G075
4G146
【Fターム(参考)】
4D052CE00
4D052GA04
4D052GB03
4D052HA01
4D052HA03
4D052HA12
4D052HA49
4G075AA04
4G075AA62
4G075AA63
4G075AA65
4G075BA04
4G075BB04
4G075CA33
4G075DA02
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4G075EB31
4G146JA01
4G146JA02
4G146JB04
4G146JC01
4G146JC21
4G146JC22
4G146JC26
4G146JC27
4G146JD02
(57)【要約】
【課題】少ない投入エネルギーでより多くの二酸化炭素を分解できる、二酸化炭素の光分解方法を提供する。
【解決手段】二酸化炭素の光分解方法は、前記二酸化炭素と水を含むガスから水を減らす工程と、水を減らしたガスにエキシマ光を照射する工程とを含む方法と、前記二酸化炭素と、5%以上、かつ、20%以下の酸素とを含むガスに、エキシマ光を照射する方法と、前記二酸化炭素と、0.4%以上、かつ、4.0%以下の水素とを含むガスに、エキシマ光を照射する方法のうち、少なくともいずれか一つの方法を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素の光分解方法であって、
前記二酸化炭素と水を含むガスから水を減らす工程と、
水を減らしたガスにエキシマ光を照射することにより、前記二酸化炭素を光分解する工程と、を備えることを特徴とする光分解方法。
【請求項2】
前記ガスは、0.4%以上、かつ、4.0%以下の水素を含むことを特徴とする、請求項1に記載の光分解方法。
【請求項3】
前記ガスは、5%以上、かつ、25%以下の酸素を含むことを特徴とする、請求項1に記載の光分解方法。
【請求項4】
二酸化炭素の光分解方法であって、
前記二酸化炭素と、5%以上、かつ、25%以下の酸素とを含むガスに、エキシマ光を照射することにより、前記二酸化炭素を光分解する工程を備えることを特徴とする光分解方法。
【請求項5】
二酸化炭素の光分解方法であって、
前記二酸化炭素と、0.4%以上、かつ、4.0%以下の水素とを含むガスに、エキシマ光を照射することにより、前記二酸化炭素を光分解する工程を備えることを特徴とする光分解方法。
【請求項6】
前記エキシマ光が照射される雰囲気にある前記ガスの温度は、400K以下であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の光分解方法。
【請求項7】
前記エキシマ光の主たる波長は172nmであることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の光分解方法。
【請求項8】
前記水を減らした後のガスに含まれる水の濃度は100ppm以下であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の光分解方法。
【請求項9】
前記ガスを前記エキシマ光が照射される空間に送りながら、前記エキシマ光を照射することを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の光分解方法。
【請求項10】
二酸化炭素の光分解システムであって、
前記二酸化炭素と水を含むガスを導入する導入口と、前記ガスから水を減らす除水装置と、前記除水装置から前記ガスを排出する排出口とを含む第一処理室と、
前記第一処理室の前記排出口に接続され、前記排出口から排出された前記ガスが導入される第二処理室と、
前記第二処理室内の前記ガスに対してエキシマ光を照射するエキシマランプと、を備え、
前記第二処理室は、前記エキシマ光がその内部に存在する前記ガスに含まれる前記二酸化炭素を光分解することを特徴とする、光分解システム。
【請求項11】
前記第二処理室より上流で、前記ガスに水素を供給する水素供給源と、
前記水素の供給量を調整する水素調整弁と、
前記ガス中の水素濃度が0.4%以上、かつ、4.0%以下になるように前記水素調整弁を制御する制御部と、を備えることを特徴とする、請求項10に記載の光分解システム。
【請求項12】
前記第二処理室より上流で、前記ガスに酸素を供給する酸素供給源と、
前記酸素の供給量を調整する酸素調整弁と、
前記ガス中の酸素濃度が5%以上、かつ、25%以下になるように前記酸素調整弁を制御する制御部と、を備えることを特徴とする、請求項10に記載の光分解システム。
【請求項13】
二酸化炭素の光分解システムであって、
前記二酸化炭素を含むガスを導入する導入口と、
エキシマ光を出射するエキシマランプと、
前記導入口に接続され、かつ、前記エキシマ光がその内部に存在する前記二酸化炭素を光分解する、処理室と、
前記処理室より上流で、前記ガスに酸素を供給する酸素供給源と、
前記酸素の供給量を調整する酸素調整弁と、
前記ガス中の酸素濃度が5%以上、かつ、25%以下になるように前記酸素調整弁を制御する制御部と、を備えることを特徴とする、光分解システム。
【請求項14】
二酸化炭素の光分解システムであって、
前記二酸化炭素を含むガスを導入する導入口と、
エキシマ光を出射するエキシマランプと、
前記導入口に接続され、かつ、前記エキシマ光がその内部に存在する前記二酸化炭素を光分解する、処理室と、
前記処理室より上流で、前記ガスに水素を供給する水素供給源と、
前記水素の供給量を調整する水素調整弁と、
前記ガス中の水素濃度が0.4%以上、かつ、4.0%以下になるように前記水素調整弁を制御する制御部と、を備えることを特徴とする、光分解システム。
【請求項15】
請求項10~12のいずれか一項に記載の第二処理室の内部、又は、請求項13若しくは14に記載の処理室の内部に、前記エキシマランプが配置されることを特徴とする、光分解システム。
【請求項16】
請求項10~12のいずれか一項に記載の第二処理室の上流、又は、請求項13若しくは14に記載の処理室の上流に配置された、前記ガスを冷却する冷却器と、
前記冷却器で冷却された前記ガスの温度を測定する温度センサと、
前記温度センサの測定値が400K以下になるように前記冷却器を制御する制御部と、を備えることを特徴とする、光分解システム。
【請求項17】
前記エキシマランプは、発光管内に封入された発光ガスがキセノンガスであることを特徴とする、請求項10~14のいずれか一項に記載の光分解システム。
【請求項18】
前記除水装置は、ゼオライトを備えることを特徴とする、請求項10~12のいずれか一項に記載の光分解システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、二酸化炭素の光分解方法及び光分解システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油や石炭など化石燃料の燃焼量の増加に伴い、大気中における二酸化炭素(以下、「CO2」ということがある。)の濃度が上昇し、地球温暖化が進行している。そのため、特に、工業化の進んだ国においては、CO2の排出量の削減が喫緊の課題である。
【0003】
CO2の排出量を削減する方法のひとつが、CO2を有機物に変換し、化学的に固定化する方法である。下記特許文献1には、誘電体バリア放電を利用した光源から放射されるエキシマ光を、CO2を含むガスに照射することで、CO2を光分解して一酸化炭素(以下、「CO」ということがある。)に変化させ、このCOを水酸化ナトリウムと反応させてギ酸ナトリウムに固定化する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エキシマ光をCO2に照射しCO2を光分解する技術において、重要な要素は、CO2の光分解効率である。CO2の光分解効率が向上すると、少ない投入エネルギーでより多くのCO2を分解できる。
【0006】
本発明は、少ない投入エネルギーでより多くのCO2を分解できる、CO2の光分解方法及び光分解システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためのCO2の光分解方法は、
(1)CO2と水を含むガスから水を減らす工程と、水を減らしたガスに、エキシマ光を照射する工程とを含む方法、
(2)CO2と、5%以上、かつ、25%以下の酸素(以下、「O2」ということがある。)と、を含むガスに、エキシマ光を照射する方法、及び
(3)CO2と、0.4%以上、かつ、4.0%以下の水素(以下、「H2」ということがある。)と、を含むガスに、エキシマ光を照射する方法、
のうち、少なくともいずれか一つの方法を含む。
【0008】
上記(1)の、CO2と水を含むガスから水を減らす工程と、水を減らしたガスにエキシマ光を照射する工程とを含む方法について、詳細は後述するが、本発明者らは、光分解するガスに水が含まれていると、水がCO2の光分解を妨げることを突き止めた。そこで、光分解を行う前に、ガスに含まれる水の量を減らすことを編み出した。これにより、CO2の光分解効率が高まる。
【0009】
上記(2)のCO2と、5%以上、かつ、25%以下のO2とを含むガスに、エキシマ光を照射する方法について、詳細は後述するが、エキシマ光が多量のO2を光分解することにより、励起状態の原子状酸素であるO(1D)を増加させる。O(1D)がCO2と反応してCOの生成率が増加する。つまり、CO2の光分解効率が高まる。また、CO2と水を含むガスから水を減らしたガスが、5%以上、かつ、25%以下のO2を含んでいても構わない。なお、この25%という酸素濃度の数値は、空気中の酸素濃度に近い値であるが、光分解されるガスは、大気中の空気に近い成分比のガスであっても構わない。ただし、大気中の空気よりも多量のCO2を含むガスであると、光分解効率がより高まる。光分解されるガスのCO2濃度は、例えば、1%以上であるとよく、5%以上であるとより好ましく、10%以上であるとさらに好ましい。
【0010】
上記(3)のCO2と、0.4%以上、かつ、4.0%以下のH2とを含むガスに、エキシマ光を照射する方法について、詳細は後述するが、H2は、COが、水を起源とするOHと化合することに優先して、OHと化合する。そのため、COとOHの化合によりCO2に戻る逆反応を抑制できる。逆反応の抑制は、CO2の光分解効率の向上に繋がる。
【0011】
「水を起源とするOH」における水は、供給されるCO2ガス自体に含まれる。さらに、供給されるCO2ガス自体が水を含まない場合であっても、大気中に含まれる水蒸気が外から浸入してCO2ガスと混合され、その結果、意図しなくても微量の水を有するCO2ガスになることがある(詳細は後述する)。そのため、供給されるCO2ガス自体に水を含まない場合であっても、H2は、上記逆反応の抑制によるCO2の光分解効率の向上に実質的に寄与する場合がある。
【0012】
供給されるCO2ガス自体に多量の水を含む場合には、水を減らした工程の後で、水を減らした、0.4%以上、かつ、4.0%以下のH2を含むガスをエキシマ光で光分解しても構わない。また、水素濃度の上限を4.0%に設定することにより、水素の酸化反応による爆発リスクを低減できる。
【0013】
前記エキシマ光が照射される雰囲気にある前記ガスの温度は、400K以下であっても構わない。詳細は後述するが、ガスの温度が低下すると、オゾン(以下、「O3」ということがある。)の生成率が上昇したり、O3の熱分解が抑制されたりする。そうすると、基底状態の原子状酸素であるO(3P)の生成が抑制される。その結果、O(3P)とCOとが再結合し、COがCO2に戻ってしまう反応を抑制できる。逆反応の抑制は、CO2の光分解効率の向上に繋がる。
【0014】
前記エキシマ光の主たる波長は172nm又は172nm近傍であっても構わない。CO2分子は、主たる波長が172nm近傍の光をよく吸収するため、主たる波長が172nm近傍のエキシマ光は、効率よくCO2を分解できる。また、主たる波長が172nm近傍のエキシマ光は、キセノンエキシマランプを点灯させて得られる。キセノンエキシマランプは安定的に大量生産できる光源であるため、主たる波長が172nm近傍の光は、高いコスト効果を有する。
【0015】
本明細書において、「172nm近傍」とは、172nm±5nmの範囲内の領域を指す。本明細書において、「主たる波長」とは、ある波長λに対して±10nmの波長域Z(λ)を発光スペクトル上で規定した場合において、発光スペクトル内における全積分強度に対して40%以上の積分強度を示す波長域Z(λi)における、波長λiを指す。「主たる波長」の光を出射する光源が、キセノンエキシマランプのように、半値幅が極めて狭く、且つ、特定の波長においてのみ高い光強度を示す光源においては、通常は、光強度が相対的に最も高い波長(主たるピーク波長)を、主たる波長とみなして構わない。
【0016】
前記水を減らした後のガスに含まれる水の濃度は100ppm以下であっても構わない。
【0017】
前記ガスに含まれる水をゼオライトに吸着させることにより、前記水を減らしても構わない。
【0018】
前記ガスを前記エキシマ光が照射される空間に送りながら、前記エキシマ光を照射しても構わない。これにより、多量のCO2を光分解できる。
【0019】
上記課題を解決するためのCO2の光分解システムは、
(4)光分解前の、二酸化炭素と水を含むガスから水を減らす装置と、
(5)光分解前の、二酸化炭素を含むガスに、5%以上、かつ、25%以下の酸素濃度となるように酸素を供給するための供給源と、
(6)光分解前の、二酸化炭素を含むガスに、0.4%以上、かつ、4.0%以下の水素濃度となるように水素を供給するための供給源と、
のうち、少なくともいずれか一つを備える。
【0020】
上記(4)を備えるCO2の光分解システムは、具体的には、
前記二酸化炭素と水を含むガスを導入する導入口と、前記ガスから水を減らす除水装置と、前記除水装置から前記ガスを排出する排出口とを含む第一処理室と、
前記第一処理室の前記排出口に接続され、前記排出口から排出された前記ガスが導入される第二処理室と、
前記第二処理室内の前記ガスに対してエキシマ光を照射するエキシマランプと、を備え、
前記第二処理室は、前記エキシマ光がその内部に存在する前記ガスに含まれる前記二酸化炭素を光分解する。
【0021】
CO2の光分解システムは、さらに、前記第二処理室より上流で、前記ガスに水素を供給する水素供給源と、
前記水素の供給量を調整する水素調整弁と、
前記ガス中の水素濃度が0.4%以上、かつ、4.0%以下になるように前記水素調整弁を制御する制御部と、を備えていても構わない。すなわち、上記(4)を備えるCO2の光分解システムについて上記(6)の要素を組み合わせた形態としても構わない。
【0022】
CO2の光分解システムは、さらに、前記第二処理室より上流で、前記ガスに酸素を供給する酸素供給源と、
前記酸素の供給量を調整する酸素調整弁と、
前記ガス中の酸素濃度が5%以上、かつ、25%以下になるように前記酸素調整弁を制御する制御部と、を備えていても構わない。すなわち、上記(4)を備えるCO2の光分解システムについて上記(5)の要素を組み合わせた形態としても構わない。
【0023】
上記(5)を備えるCO2の光分解システムは、具体的には、
前記二酸化炭素を含むガスを導入する導入口と、
エキシマ光を出射するエキシマランプと、
前記導入口に接続され、かつ、前記エキシマ光がその内部に存在する前記二酸化炭素を光分解する、処理室と、
前記処理室より上流で、前記ガスに酸素を供給する酸素供給源と、
前記酸素の供給量を調整する酸素調整弁と、
前記ガス中の酸素濃度が5%以上、かつ、25%以下になるように前記酸素調整弁を制御する制御部と、を備える。
【0024】
上記(6)を備えるCO2の光分解システムは、具体的には、
前記二酸化炭素を含むガスを導入する導入口と、
エキシマ光を出射するエキシマランプと、
前記導入口に接続され、かつ、前記エキシマ光がその内部に存在する前記二酸化炭素を光分解する、処理室と、
前記処理室より上流で、前記ガスに水素を供給する水素供給源と、
前記水素の供給量を調整する水素調整弁と、
前記ガス中の水素濃度が0.4%以上、かつ、4.0%以下になるように前記水素調整弁を制御する制御部と、を備える。
【0025】
前記エキシマランプは、前記二酸化炭素を光分解する前記処理室又は前記第二処理室の内部に配置されても構わない。
【0026】
前記光分解システムは、前記二酸化炭素を光分解する前記処理室又は前記第二処理室の上流に配置され、前記ガスを冷却する冷却器と、
前記冷却器で冷却された前記ガスの温度を測定する温度センサと、
前記温度センサの測定値が400K以下になるように前記冷却器を制御する制御部と、を備えていても構わない。
【0027】
前記エキシマランプは、発光管内に封入された発光ガスがキセノンガスであっても構わない。
【0028】
前記除水装置は、ゼオライトを備えていても構わない。
【発明の効果】
【0029】
これにより、少ない投入エネルギーでより多くの二酸化炭素を分解できる、二酸化炭素の光分解方法及び光分解システムを提供できる。
【0030】
少ない投入エネルギーでより多くの二酸化炭素を分解できる、二酸化炭素の光分解方法及び光分解システムを提供することは、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標13「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」に大きく貢献するものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】二酸化炭素の光分解システムの第一実施形態を示す図である。
【
図2】ガス中の水の含有量とCO生成率との関係を示すグラフである。
【
図3】ガス中の水素濃度とCO生成率との関係を示すグラフである。
【
図4】ガスの温度とCO生成率との関係を示すグラフである。
【
図5】光分解システムの第二処理室の変形例である。
【
図6】二酸化炭素の光分解システムの第二実施形態を示す図である。
【
図7】二酸化炭素の光分解システムの第三実施形態を示す図である。
【
図8】ガス中の酸素濃度とCO生成率との関係を示すグラフである。
【
図9】CO
2の回収から固定化までのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
適宜、図面を参照しながら実施形態を説明する。なお、グラフ又はフロー図を除く図面は、いずれも模式的に図示されたものであり、当該図面上の寸法比は必ずしも実際の寸法比と一致しておらず、各図面間においても寸法比は必ずしも一致していない。
【0033】
<第一実施形態>
[光分解システムの概要]
図1は、CO
2の光分解システムの第一実施形態を示す図である。光分解システム10は、第一処理室1と、第一処理室1の後段に接続された第二処理室2とを有する。この光分解システム10は、ガスG1に含まれる二酸化炭素を分解する機能を有する。
【0034】
第一処理室1は、ガスG1中に含有する水の量を減らす処理室である。ガスG1は、CO
2と水を含むガスである。第一処理室1は、ガスG1を導入する導入口4iと、除水装置3と、前記除水装置から前記ガスを排出する排出口4oと、を含む。除水装置3は、ガスG1に含まれる水の少なくとも一部を除去する。これにより、ガスG1は、含有する水の量の減少した、乾燥ガスになる。
図1では、除水装置3で処理されたガスと、処理前のガスとを区別するために、異なる符号が付されている。すなわち、除水装置3で処理する前のガスを「ガスG1」と称し、除水装置3で処理された後のガスを「ガスG2」と称する。さらに、後述するように、ガスG2と区別する観点から、第二処理室2内で処理された後のガスを「ガスG3」と称する。除水装置3の具体的な態様については、後述される。
【0035】
本明細書において、除去される水は、気体及び霧状の液体の水を含む概念である。つまり、除水装置3で処理される前のガスG1には、水蒸気以外に、例えば、液体としての水が霧状に含まれていても構わない。除水装置3で処理された後のガスG2には、水蒸気のみが含まれているか、又は、水蒸気及び液体としての水を全く含まない。
【0036】
ガスG1における二酸化炭素の含有割合は、特に限定されないが、50%以上であると好ましく、70%以上であるとより好ましく、80%以上であるとさらに好ましい。なお、本明細書において、流体の割合を「%」を用いて表示するとき、「vol%」を意図する。また、ガスG1において二酸化炭素以外に含まれるガスは、後述する追加ガスG4又は追加ガスG5と同種のガスを除き、ガスに照射する光に対して不活性なガスが好ましい。例えば、ガスに照射する光が波長172nm近傍の光である場合には、不活性なガスとして窒素ガスが挙げられる。
【0037】
第二処理室2は、接続管7を介して第一処理室1の排出口4oに接続される。すなわち、第二処理室2は、第一処理室1の後段に接続される。第二処理室2には、第一処理室1においてガスG1中の水を減らしたガスG2が供給される。第二処理室2は、ガスG2を光分解する処理室である。本実施形態では、エキシマランプ5が第二処理室2の内部に配置されており、エキシマランプ5が点灯することにより、エキシマ光L1が第二処理室2内のガスG2に照射される。これにより、ガスG2に含まれるCO2が光分解されて、COを生成する。エキシマランプ5の詳細については後述する。第二処理室2で生成されたCOを含む、処理済みガスG3は、第二処理室2の排出口6から排出される。ガスG2をエキシマ光L1が照射される空間(すなわち第二処理室2)に送りながら、エキシマ光L1を照射すると、光分解を連続的に行うことができる。
【0038】
図1に戻り、本実施形態の光分解システム10は、第一処理室1と第二処理室2とを接続する接続管7に、追加ガスG4を供給する供給管8が接続されている。供給管8には、追加ガスG4の供給源11が接続されている。供給管8の途中には、流量弁12と流量計(不図示)が配置されている。流量弁12は制御部14により制御される。追加ガスG4については後述する。なお、追加ガスG4は第二処理室2の上流に供給すればよいため、追加ガスG4は、第一処理室1と第二処理室2との間だけでなく、第一処理室1の上流に供給しても構わない。
【0039】
[COの生成メカニズム]
本発明の光分解システム及び光分解方法は、CO2をエキシマ光で光分解して、COを生成する。光分解によりCO2からCOを生成するメカニズムについて説明する。CO2にエキシマ光hν(例えば、主たる波長が172nmの光)が照射されると、CO2はエキシマ光hνを吸収して、CO2分子のC=O結合を解離し、以下の反応が起こる。
CO2+hν → CO +O(3P) …(1)
CO2+hν → CO +O(1D) …(2)
【0040】
(1)式及び(2)式は、エキシマ光hνがCO2からCOを直接的に生成することを表す。(1)式で生成された、O(3P)は基底状態の原子状酸素を表す。(2)式で生成されたO(1D)は、励起状態の原子状酸素を表す。
【0041】
励起状態の原子状酸素であるO(1D)は高活性である。よって、O(1D)は、CO2と反応して、COを生成する。
CO2+O(1D) → CO +O2 …(3)
(3)式は、エキシマ光hνがCO2からCOを間接的に生成することを表す。
【0042】
(1)式で生成された、基底状態の原子状酸素であるO(3P)は、以下の反応を起こすことがある。
CO+O(3P)+M → CO2+M …(4)
(4)式は、(1)式によりCO2を分解してCOを生成したとしても、COがO(3P)と結合してCO2になる、逆反応を発生させることを表す。なお、この(4)式において、Mは、第三体を示す。
【0043】
(1)式と(2)式の生じる割合は、エキシマ光hνの波長によって異なる。波長が短くなるほど光エネルギーが高くなるため、(1)式の反応が少なくなり(2)式の反応が増えていく。そのため、波長が短いほど、O(1D)が増えてCO2の分解が進む傾向にある。
【0044】
なお、O(1D)及びO(3P)は、(1)式及び(2)式により生成される他に、(3)式により生成されたO2から生成されたり、又は、後述するHOXサイクル連鎖反応の過程で生成されたりすることもある。
【0045】
[光分解における水の影響]
本発明者らはCO
2の光分解について鋭意研究した結果、光分解のためのガスにおける水の含有量と、光分解によるCOの生成率との間には、
図2に示す関係があることを発見した。
【0046】
図2は、CO
2を含むガス中の水の含有量と、光分解により生成したCOの生成率との関係をシミュレーションにより求めたグラフである。CO生成率とは、全体の混合ガスに占めるCOの量の割合であり、「vol%」を意図する。シミュレーション条件は、以下のように設定された。ガスG2は、CO
2と、水蒸気とで構成されるガスとされた。ガス温度は400Kとされた。また、光分解には、ピーク波長172nmのエキシマ光を出射するキセノンエキシマランプの使用が想定された。キセノンエキシマランプと光分解されるガスとの平均距離と、ガスG2の流量は、シミュレーションの間、一定値をとると想定された。
【0047】
図2より、水を全く含まない(水の含有量が0ppm)ガスのCO生成率が8%であるのに対し、6ppmの水を含むガスのCO生成率が3%しかないことが確認される。つまり、ガスが水を6ppm含むだけで、CO生成率が5%低下したことが分かる。
【0048】
よって、上記検証の結果を踏まえると、二酸化炭素含有ガスから水を減らすと、光分解効率の向上に繋がりやすいことが理解される。また、仮に、供給される二酸化炭素含有ガス自体が水を含まない場合であっても、大気中に含まれる水蒸気が、処理室又は処理室に繋がる配管経路の微小な隙間から浸入することがわかった。その結果、浸入した水蒸気が二酸化炭素含有ガスと混合され、僅かな水を含む二酸化炭素含有ガスになる。そして、上述したように、10ppmに満たない僅かな量の水であっても、CO生成率が低下する。つまり、水によりCO2の光分解が妨げられるリスクは、二酸化炭素含有ガス自体に水を含む可能性がない場合にあっても、存在する。
【0049】
本発明者らの鋭意研究によれば、CO2の光分解が妨げられる現象は、概ね以下の化学反応によって生じるものと考察される。
CO+OH → CO2+H …(5)
(5)式は、(3)式によりCO2を分解してCOを生成したとしても、OHがCOと反応し、COをCO2に戻してしまうことを表す。つまり、(5)式の反応を生じさせないように、OHの生成を抑制することが重要である。
【0050】
(5)式に表れるOHは、水(「H2O」ということがある。)を起源としている。ただ、(5)式に表れるOHは、単純にH2O→OH+Hを経て生成されるOHよりも、連鎖反応によって生成されるOHが大半を占めると考えられる。連鎖反応によって生成されるOHは、代表的には、以下の4つの反応式によって生じると考えられる。
O3+H → OH+O2 …(6)
HO2+H → OH+OH …(7)
HO2+O3 → OH+O2+O2 …(8)
H2O2+H → H2O+OH …(9)
【0051】
このうち、(9)式のH2O2の生成に寄与しているのは、
H2+HO2 → H2O2+H ・・・(10)
であると考えられる。
【0052】
(7)式、(8)式及び(10)式のHO2生成に寄与しているのは、
HCO+O2 → CO+HO2 ・・・(11)
であると考えられる。
【0053】
(11)式のHCO生成に寄与しているのは、概ね、
CO+H+M → HCO+M ・・・(12)
であると考えられる。なお、(12)式において、Mは、第三体を示す。
【0054】
つまり、H2OがCO2と混在する中で光エネルギーを与えると、(6)~(12)式を経て、多量のOHが生成される。そして、上述の機序によって生成された多量のOHは、(5)式の反応により、CO2の光分解を妨げる。よって、水が、10ppmに満たない、僅かな量だけ混入した場合であっても、CO2の光分解が妨げられると考えられる。
【0055】
[除水装置]
本発明者らは、上記分析の結果、光分解雰囲気下に存在するガスに含まれる水を減らすことで、COの生成率を高める方法を発見した。
【0056】
本実施形態では、CO2の光分解をする前に、除水装置3を使用してガスG1から水を減らし、ガスG2を生成する。本実施形態において、除水装置3は、吸水性能の高い合成ゼオライト(例えば、ユニオンカーバイド社の「モレキュラーシーブ」)を使用し、水を吸着させて減らしている。しかしながら、ゼオライトの種類は特に限定されない。また、ゼオライト以外の吸水材(例えば、シリカゲル、塩化カルシウム、又はMOF(金属有機構造体)など)を使用しても構わない。また、吸水材を使用した除水装置に限定されず、例えば、コンプレッサーを使用した除水装置を使用しても構わない。ガスG1が霧状の水を含む場合には、水蒸気を通過させ、霧状の水の通過を妨げるフィルタを使用して、水を減らしても構わない。また、除水装置3は、上述した複数の除水機構を組み合わせても構わない。
【0057】
水を減らした後のガスG2に含まれる水の濃度は100ppm以下であるとよい。水の濃度が100ppm以下である場合は、光分解効率が高い。なお、ガスG2に含まれる水の濃度は、水分計によって検出することができる。
【0058】
[水素ガスの添加]
本実施形態の光分解システム10は、追加ガスG4として水素ガスを供給する。供給源11は水素ガスの供給源である。ガスG2に水素ガスを添加することの意義を、
図3を用いて説明する。
【0059】
図3は、ガス中の水素濃度と、光分解により生成したCOの生成率との関係をシミュレーションにより求めたグラフである。本明細書において、CO生成率とは、混合ガス全体に占めるCOの量の割合であり、「vol%」を意図する。シミュレーション条件は、以下のように設定された。ガスは、N
2とCO
2とを含み、全ガス中のCO
2の割合が4%である混合ガスと、水蒸気500ppmと、で構成される混合ガスとされた。混合ガスの温度は500Kとされた。また、光分解には、ピーク波長172nmのエキシマ光を出射するキセノンエキシマランプを使用し、光強度30mW/cm
2で、1000秒間にわたってガスに対してエキシマ光が照射される場合が想定された。キセノンエキシマランプと光分解されるガスとの平均距離と、ガスG2の流量は、シミュレーションの間、一定値をとると想定された。
【0060】
図3より、ガスに水素(以下、「H
2」ということがある。)が入っていない0%の状態から、水素濃度を0.2%程度添加することにより、CO生成率が一時的に低下する。この現象は、下に示す(13)式、又は(14)式によりOHの量が増えて、(5)式の反応により、COをCO
2に戻したことに起因するものと考察される。
H
2+O(
3P) → OH+H ・・・(13)
H
2+O(
1D) → OH+H ・・・(14)
【0061】
しかしながら、
図3から、0.4%以上の水素をガスに添加すると、光分解に伴ってCO生成率が上昇することがわかった。この現象は、主として、(5)式の、COがOHと化合する反応に優先して、H
2がOHと化合しOHを消費したことに起因するものと考察される。H
2がOHと化合しOHを消費する反応を以下に示す。
H
2+OH → H
2O+H ・・・(15)
(15)式の反応が増加すると、OHが減少し、(5)の反応が抑制される。つまり、CO
2の分解効率の低下を抑制する。
【0062】
よって、ガスは、0.4%以上の水素を含んでいるとよい。また、水素の爆発限界の下限は4.0%であるから、爆発リスク低減のため、水素濃度を4.0%以下に設定するとよい。ガスG2に含まれる水素の濃度は、例えば、市販の携帯型水素濃度計によって検出できる。
【0063】
[ガスの温度制御]
図1に戻り、本実施形態の光分解システム10は、ガス冷却器9と、温度センサ13とを有する。本実施形態において、ガス冷却器9は接続管7の途中に設けられ、接続管7を通過するガスG2を冷却する。ガス冷却器9の構成は特に限定されない。ガス冷却器9は、例えば、多数のフィンに内蔵された配管にガスを流し、ガスを空冷する熱交換器で構成される。温度センサ13は、第二処理室2に取り付けられ、第二処理室2内のガスG2の温度を測定する。制御部14は、温度センサ13及びガス冷却器9と、それぞれ電気的に接続されている。制御部14は、温度センサ13の測定結果にしたがい、ガス冷却器9によりガスG2を冷却する。本実施形態において、温度センサ13は、第二処理室2内の温度を測定しているが、接続管7内のガスG2の温度を測定しても構わないし、除水装置3の上流におけるガスG1の温度を測定しても構わない。また、追加ガスG4を、ガスG2と混合する前に、予め冷却することで、追加ガスG4と混合した後のガスを冷却しても構わない。
【0064】
図4は、CO
2を含むガスの温度と、COの生成量の割合、すなわちCO生成率との関係をシミュレーションにより求めたグラフである。CO生成率とは、混合ガス全体に占めるCOの量の割合であり、「vol%」を意図する。シミュレーション条件は、以下のように設定された。ガスG2は、CO
2ガス100%であり、水及び水素を含まないガスとされた。光分解には、波長172nmのエキシマ光を出射するキセノンエキシマランプを使用し、光強度30mW/cm
2で、1000秒間にわたってガスに対してエキシマ光が照射される場合が想定された。室温付近である300KではCOの生成率は69%に達する。しかし、ガスの温度が上昇するにしたがってCO生成率が低下する。ガスの温度が400Kの場合には、CO生成率が57%になる。ガスの温度が500Kの場合には、CO生成率が10%を下回ることがわかった。
図4より、ガスの温度が400K以下であれば、50%を超えるCO生成率を維持できることがわかった。
【0065】
ガスの温度が上昇するとCO生成率が低下する理由を考察する。上述したように、(1)式及び(2)式により、CO2が分解されるとO(3P)及びO(1D)を生成し、O(3P)及びO(1D)は、O3の生成に使用される。以下に(1)式及び(2)式を再掲する。
CO2+hν → CO +O(3P) …(1)
CO2+hν → CO +O(1D) …(2)
しかしながら、ガスの温度が上昇すると、O3が生成され難くなる。または、一時的にO3が生成されたとしても、O3がO2とO(3P)に熱分解される。O(3P)は、(4)式に示すように、COを消費してCO2を増やすため、CO2の分解率が低下すると考えられる。よって、ガスの温度は、低い方が好ましい。
【0066】
[エキシマランプ]
本実施形態において、エキシマランプ5(
図1参照)には、主たる波長が172nmのエキシマ光を出射するキセノンエキシマランプが使用されている。主たる波長が172nmの光は、CO
2分子のC=O結合を解離できる。キセノンエキシマランプは、発光管の内部に発光ガスとしてキセノンガスを有する。キセノンガスは、誘電体バリア放電により励起状態にされる。そして、励起状態のキセノンガスが基底状態のキセノンガスに戻るとき、主たる波長が172nmのエキシマ光L1を発光する。エキシマランプ5に供給される電力は制御部14によって制御され、制御部14はエキシマランプの点灯及び消灯を制御する。
【0067】
[変形例]
光分解システムの第二処理室2の変形例を示す。
図5は、光分解システムの第二処理室2の拡大図である。この変形例では、二つの第二処理室(2a,2b)が、エキシマランプ5の外部で、エキシマランプ5を挟むように配置されている。エキシマランプ5から出射されるエキシマ光は、それぞれの第二処理室(2a,2b)の内部に向かって照射され、第二処理室(2a,2b)の内部を流れるガスG2を処理する。また、二つの第二処理室(2a,2b)とエキシマランプ5の間に、エキシマランプ5を冷却するためのガス(例えば、窒素)を導入して、エキシマランプ5を冷却してもよい。エキシマランプ5を冷却するためのガスを導入することで、エキシマランプ5が冷却されるとともに、ガスG2の温度上昇も抑制できる。
【0068】
<第二実施形態>
図6は、CO
2の光分解システムの第三実施形態を示す図である。なお、以下の説明では、上述した第一実施形態と共通する箇所については、適宜説明が割愛される。本実施形態の光分解システム20は、第一実施形態の光分解システム10と比較して、除水装置3を有する処理室1を備えていない点が異なる。なお、光分解システム20は、エキシマランプ5が内部に配置された光分解の処理室2を備えている点については、第一実施形態の光分解システム10と共通する。
【0069】
本実施形態の光分解システム20は、ガスG1の導入口4iと光分解の処理室2の入口とを接続する接続管7を備えている。第一実施形態と同様に、接続管7には、ガスG1に追加ガスG4(すなわち、水素)を供給する供給管8が接続され、供給管8には、追加ガスG4の供給源11が接続されている。ガスG1について、導入口4iに供給されるガスG1自体に水を含む。または、導入口4iに供給されるガスG1自体に水を含まないとしても、処理室2内のガスG1は、大気中の水蒸気の浸入により、微量(例えば、10ppm以下)の水を含む。供給管8の途中には、流量弁12と流量計(不図示)が配置されている。流量弁12は制御部14により制御される。本実施形態は、除水装置がなくても、水素ガスの添加があれば、CO2の光分解効率が高まることを表している。
【0070】
<第三実施形態>
図7は、CO
2の光分解システムの第三実施形態を示す図である。なお、以下の説明では、上述した第一実施形態又は第二実施形態と共通する箇所については、適宜説明が割愛される。本実施形態の光分解システム30は、第一実施形態の光分解システム10と比較して、除水装置3を有する処理室1を備えていない点、第二実施形態の光分解システム20と比較して、水素ガスを添加しない点が異なる。なお、光分解システム30は、エキシマランプ5が内部に配置された光分解の処理室2を備えている点については、第一実施形態の光分解システム10と共通する。
【0071】
本実施形態の光分解システム30は、ガスG1の導入口4iと光分解の処理室2の入口とを接続する接続管7を備えている。接続管7には、ガスG1に追加ガスG5を供給する供給管28が接続され、供給管28には、追加ガスG5の供給源21が接続されている。供給管28の途中には、流量弁22と流量計(不図示)が配置されている。流量弁22は制御部14により制御される。
【0072】
[酸素ガスの添加]
本実施形態において、追加ガスG5は酸素ガスである。供給源21は酸素ガスの供給源である。ガスG1に酸素ガスを添加することの意義を、
図8を用いて説明する。
図8は、ガス中の酸素濃度と、光分解により生成したCOの生成率との関係をシミュレーションにより求めたグラフである。シミュレーション条件は、以下のように設定された。ガスは、500ppmの水蒸気を含むCO
2ガスであり、水素を含まないガスとされた。ガスの温度は300Kとされた。ピーク波長172nmのエキシマ光を出射するキセノンエキシマランプを使用し、光強度30mW/cm
2で、1000秒間にわたってガスに対してエキシマ光が照射される場合が想定された。キセノンエキシマランプと光分解されるガスとの平均距離と、ガスG2の流量は、シミュレーションの間、一定値をとると想定された。
【0073】
以下において、
図8を参照しながら、酸素濃度とCO生成率の関係について考察する。
図8によれば、ガスG1にO
2が含まれていない状態(酸素濃度0%の状態)から、ガスG1に2%の酸素を添加することで、CO生成率が一時的に低下することが確認された。この低下は、次の機序に起因して生じると考えられる。まず、HCOと結合するO
2が増えるため、(11)式によりHO
2が増える。増えたHO
2は、多量のOHを生成し、(5)式の反応により、生成したCOをCO
2に戻すと考えられる。以下に関係する各式を再掲する。
HCO+O
2 → CO+HO
2 ・・・(11)
HO
2+H → OH+OH …(7)
HO
2+O
3 → OH+O
2+O
2 …(8)
CO+OH → CO
2+H …(5)
【0074】
しかしながら、ガスG1に含まれる酸素濃度が2%を超えるように酸素ガスを添加すると、ガス中のO2又はO3の量が増える。そして、これらのO2又はO3がエキシマ光hνを吸収して、O2分子又はO3分子を解離し、多量のO(1D)を生成する。O(1D)はCO2と結合して、(3)式によりCOが生成される。以下に(3)式を再掲する。
CO2+O(1D) → CO +O2 …(3)
【0075】
ガス中の酸素濃度が5%以上になると、ガスが酸素を含まない場合に比べて、紫外線が照射されたときのCO生成率が上昇する。よって、ガスへの紫外線照射によってCO生成率を高めるためには、酸素ガスを添加することが好ましい。酸素濃度が25%に到達するまで、酸素濃度が高くなるに従いCO生成率が高まる。追加ガスG5として、空気を使用しても構わない。ガスに含まれる酸素の濃度は、例えば、市販の携帯型酸素濃度計によって検出できる。
【0076】
以上で、CO2の光分解方法及び光分解システムの各実施形態を説明した。上記実施形態は、本発明の一例を示すものにすぎず、本発明は、上記した実施形態に何ら限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、上記の実施形態に種々の変更又は改良を加えたり、上記実施形態を組み合わせたりすることができる。
【0077】
例えば、第一実施形態の光分解システム10は、水素を供給する供給源11及びガス冷却器9の少なくともいずれか一つを備えていなくても構わない。第二実施形態の光分解システム20は、ガス冷却器9を備えていなくても構わない。第三実施形態の光分解システム30は、ガス冷却器9を備えていなくても構わないし、追加的に除水装置3を備えていても構わない。二酸化炭素と水を含むガスから水を減らすこと、ガスに水素を加えること、ガスに酸素を加えること、及び、ガスの温度を冷却することのうち、いずれか一つを行った場合でも、光分解効率は向上する。
【0078】
[光分解システムの適用方法]
図9は、CO
2の回収から固定化までのフロー図である。
図9を参照しながら、上述したCO
2の光分解システム10を適用可能な、CO
2の固定化法の一例を説明する。
【0079】
ステップS1で、化石燃料の燃焼機関(例えば、火力発電所)が、CO2を排出する。
【0080】
ステップS2で、高濃度CO2生成装置で、排出された低濃度のCO2を、高濃度のCO2にする。高濃度のCO2にすることで、後工程でCO2を効率的に分解できる。高濃度のCO2は吸着剤や物理膜により達成できることが知られている。また、上述したように、後工程におけるCO2の分解効率を向上させるため、残留させても構わない。高濃度のCO2にするためのステップS2は、必須のステップではない。
【0081】
ステップS3で、高濃度のCO2を、処理対象ガスG1として上述した光分解システム(10,20,30)に導き、同システム(10,20,30)内においてCO2を分解して、COを生成する。光分解後の処理済みガスG3には、生成されたCOの他、残留しているCO2やO2、光分解システム(10,20,30)において、追加ガスとして投入されたH2又はO2を含む。
【0082】
ステップS4で、処理済みガスG3を分離して、一酸化炭素を取出す。一酸化炭素の分離方法としては、例えば多孔性材料に一酸化炭素を吸着させる方法などが利用できる。一酸化炭素が取り除かれたガスは、再び高濃度CO2生成装置に導かれ(ステップS2)、以下同様のプロセスを繰り返す。
【0083】
ステップS5で、COを、水酸化ナトリウムを含有する液体に導く。そして、COをNaOHと反応させてギ酸ナトリウムを生成する。ギ酸ナトリウムから生成されるギ酸は非常に簡単な構造の有機物であり、有機合成化学における原料として利用されるほか、燃料電池における水素源などとしても利用される。
【0084】
CO2の固定化法で固定化した後の有機化合物が社会で消費され、再びCO2として排出されても構わない。また、上述したCO2の固定化法は一例にすぎず、他の有機化合物等に固定化しても構わない。
【符号の説明】
【0085】
1 :第一処理室
2、2a,2b:第二処理室、又は(光分解のための)処理室
3 :除水装置
4i :(第一処理室、又は光分解のための処理室の)導入口
4o :(第一処理室の)排出口
5 :エキシマランプ
6 :(光分解のための処理室、又は第二処理室の)排出口
7 :接続管
8 :供給管
9 :ガス冷却器
10 :光分解システム
11 :供給源
12 :流量弁
13 :温度センサ
14 :制御部
20 :光分解システム
21 :供給源
22 :流量弁
28 :供給管
30 :光分解システム
G1、G2、G3:ガス
G4、G5 :追加ガス
L1 :エキシマ光