(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066642
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】膨張性混和材
(51)【国際特許分類】
C04B 22/06 20060101AFI20230509BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20230509BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20230509BHJP
C04B 22/10 20060101ALI20230509BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20230509BHJP
C04B 40/02 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
C04B22/06 Z
C04B22/14 B
C04B22/08 Z
C04B22/14 A
C04B22/10
C04B22/08 B
C04B28/02
C04B40/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177336
(22)【出願日】2021-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】丸田 浩
(72)【発明者】
【氏名】竹下 永造
(72)【発明者】
【氏名】長塩 靖祐
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MA00
4G112MB04
4G112MB06
4G112MB12
4G112MB13
4G112MB23
4G112PB03
4G112PB07
4G112PB08
4G112PB10
4G112PB11
4G112PC09
4G112PC14
4G112PE07
4G112RA05
(57)【要約】
【課題】良好な膨張性能を確保しつつ、早期強度発現性が得られる膨張性混和材を提供することである。
【解決手段】膨張性組成物を30~55質量%、石膏類を25~60質量%、カルシウムアルミネートを10~30質量%含む膨張性混和材。さらに、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等のアルカリ金属硫酸塩、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、硝酸カルシウム、亜硝酸カルシウム及び硫酸アルミニウムから選ばれる1種または2種以上の金属塩を含む膨張性混和材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨張性組成物を30~55質量%、石膏類を25~60質量%、カルシウムアルミネートを10~30質量%含む膨張性混和材。
【請求項2】
さらに、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等のアルカリ金属硫酸塩、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、硝酸カルシウム、亜硝酸カルシウム及び硫酸アルミニウムから選ばれる1種または2種以上の金属塩を0.1~3.0質量%含む請求項1に記載の膨張性混和材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の膨張性混和材を含有してなるモルタル又はコンクリート。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の膨張性混和材を含有し、最高温度が40~80℃で蒸気養生することを特徴とするプレキャストコンクリートの製造方法。
【請求項5】
材齢5時間の圧縮強度が10N/mm3以上、材齢5時間における膨張量が150×10-6以上を有することを特徴とする請求項4に記載のプレキャストコンクリートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モルタル、コンクリート等のひび割れ抑制等のために混和使用される膨張性混和材に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントを結合相とするモルタル、コンクリート等の各種部材や建築物、とりわけコンクリート製の建築構造物の耐久性を向上するためには、硬化収縮に伴い発生するひび割れや乾燥収縮で発生する亀裂を抑制することが不可欠である。ひび割れ抑制の特に有効な手段は、コンクリート用膨張材の使用である。このような膨張材としては、生石灰を有効成分とするものと、カルシウムサルフォアルミネートを有効成分とするものに大別される。このうち、生石灰を有効成分とするものは、一般に、反応活性が高いため早期膨張発現性に優れ、また比較的大きな膨張量も期待できるため、特にコンクリートの大規模な初期収縮を抑制するには適している。
【0003】
しかしながら、近年、膨張材が各種用途への応用展開が図られる中、膨張性能に加えて付加的機能が求められてきている。このような要望を受けて、例えば、打放しコンクリート用膨張材、水中不分離性コンクリート用膨張材などが提案されている(特許文献1、2)。
【0004】
一方、コンクリート製品工場において製造されるプレキャスト(PCa)コンクリートにおいては、コスト削減、高性能化、省エネ等の目的で様々な混和材が使用されており、膨張材もひび割れ抑制の観点から多く適用されている。膨張材以外の混和材としては、高炉スラグ微粉末、シリカフューム、フライアッシュ、ケイ酸質微粉末、石灰石微粉末、高強度混和材、早期強度混和材、着色材等があげられる(非特許文献1)。近年、生産性向上を目的に、型枠の回転率を上げるため、より短時間での強度発現性が求められており、そのために早期強度混和材が使用されているが、膨張材と併用する場合にはサイロが2つ必要になる。サイロを設けない場合は、手投入することになるが、その場合は投入作業が煩雑となり、管理も難しくなる。そのため、1材で膨張性能と早期強度発現性が得られる手法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-127372号公報
【特許文献2】特開2018-131359号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】土田伸治著「プレキャストコンクリートの製造」コンクリート工学、2000年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
よって、本発明が解決しようとする課題は、良好な膨張性能を確保しつつ、早期強度発現性が得られる膨張性混和材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、膨張性混和材の構成成分について鋭意検討した結果、上記課題を解決し得る膨張性混和材を見出した。すなわち、本発明は、以下の〔1〕~〔5〕に示すとおりである。
〔1〕膨張性組成物を30~55質量%、石膏類を25~60質量%、カルシウムアルミネートを10~30質量%含む膨張性混和材。
〔2〕さらに、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等のアルカリ金属硫酸塩、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、硝酸カルシウム、亜硝酸カルシウム及び硫酸アルミニウムから選ばれる1種または2種以上の金属塩を0.1~3.0質量%含む〔1〕の膨張性混和材。
〔3〕〔1〕又は〔2〕の膨張性混和材を含有してなるモルタル又はコンクリート。
〔4〕〔1〕又は〔2〕の膨張性混和材を含有し、最高温度が40~80℃で蒸気養生することを特徴とするプレキャストコンクリートの製造方法。
〔5〕材齢5時間の圧縮強度が10N/mm3以上、材齢5時間における膨張量が150×10-6以上を有することを特徴とする〔4〕のプレキャストコンクリートの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の膨張性混和材を使用することによって、良好な膨張性能を確保しながら、早期強度発現性に優れたモルタル又はコンクリートを得ることができる。本発明の膨張性混和材をプレキャストコンクリートに用いることによって、型枠の回転数を増やすことが可能となり、生産性向上が図れる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<膨張性混和材>
本発明の膨張性混和材は、膨張性組成物を30~55質量%、石膏類を25~60質量%、カルシウムアルミネートを10~30質量%含むことを特徴とする。以下、詳細に説明する。
【0011】
本発明における膨張性組成物は、遊離生石灰(f-CaO)を有効成分として含有する。遊離生石灰含有量としては、30~80質量%が好ましく、40~70質量%がより好ましい。遊離生石灰以外には、CaO・2SiO2(C2S)、CaO・3SiO2(C3S)等のカルシウムシリケート、4CaO・Al2O3・Fe2O3(C4AF)、6CaO・2Al2O3・Fe2O3(C6A2F)等のカルシウムアルミノフェライト、3CaO・3Al2O3・CaSO4(アウイン)等のカルシウムサルフォアルミネート等の水硬性化合物を1種または2種以上含むことができる。膨張性組成物の粉末度としては、ブレーン比表面積で2000~7000cm2/gが好ましく、3000~6500cm2/gがより好ましい。
【0012】
本発明の膨張性組成物は、石灰石、生石灰、消石灰等のカルシウム質原料を含む焼成原料を焼成することにより製造される。カルシウム質原料以外に、シリカ質原料、アルミナ質原料、酸化鉄原料等が使用される。シリカ質原料としては例えば珪石粉、珪藻土等が挙げられ、アルミナ質原料としては例えばアルミナ、ボーキサイト、バンド頁岩、アルミ灰、アルミドロス、石炭灰、粘土等が挙げられ、酸化鉄原料としては例えば酸化鉄、べんがら、銅スラグ、製鋼スラグ等が挙げられる。焼成には、ロータリーキルンや電気炉等が使用される。焼成温度は1100~1500℃とすることが好ましい。焼成後、焼成クリンカを粉砕、分級することによって、所定の粉末度に調製される。
【0013】
本発明における石膏類は、半水石膏、二水石膏、無水石膏等が挙げられるが、特に無水石膏が好ましい。また、天然石膏、副生石膏の他に、粒度調整された廃石膏も利用できる。石膏類の粉末度としては、ブレーン比表面積で4000~10000cm2/gが好ましく、5000~8000cm2/gがより好ましい。
【0014】
本発明におけるカルシウムアルミネートは、CaOとAl2O3からなる化合物であり、例えば、CaO・2Al2O3(CA2)、CaO・Al2O3(CA)、12CaO・7Al2O3(C12A7)、3CaO・Al2O3(C3A)等が挙げられる。また、非晶質のカルシウムアルミネートが挙げられる。これらを1種または2種以上含む。特にCAを主成分として含むものが好ましい。また、カルシウムアルミネートとして、市販のアルミナセメントも使用することができる。
【0015】
カルシウムアルミネートのCaO含有量としては、20~70質量%が好ましく、30~60質量%がより好ましく、35~45質量%が特に好ましい。なお、カルシウムアルミネート中には、不純物として、SiO2、MgO、K2O、Na2O、Fe2O3、TiO2、MnO、Cr2O3、V2O5、NiO、SrO、BaO、P2O5、ZrO2、CeO2等が少量含まれていても構わない。カルシウムアルミネートの粉末度としては、ブレーン比表面積で3000~8000cm2/gが好ましく、4000~7000cm2/gがより好ましい。
【0016】
本発明の膨張性混和材の配合割合は、膨張性組成物が30~55質量%、石膏類が25~60質量%、カルシウムアルミネートが10~30質量%である。膨張性組成物が30質量%未満になると、膨張性能を確保できなくなる。また、石膏類が25質量%未満になると、蒸気養生条件下における強度発現性が低下するとともにコンクリートのフレッシュ性状も悪くなる。また、カルシウムアルミネートが10質量%未満になると、早期強度発現性が大きく低下する。上記配合割合とすることによって、良好な膨張性能と早期強度発現性に優れたコンクリートを得ることができる。
【0017】
さらに、本発明の膨張性混和材は、促進成分として、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等のアルカリ金属硫酸塩、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、硝酸カルシウム、亜硝酸カルシウム及び硫酸アルミニウムから選ばれる1種または2種以上の金属塩を含むことができる。これらの中で、特に硫酸ナトリウムを含むことが好ましい。硫酸ナトリウム等の金属塩を添加することによって、さらに早期強度発現性を増進させることができる。上記金属塩の含有量としては、膨張性混和材中、0.1~3.0質量%が好ましく、0.2~2.0質量%がより好ましい。
【0018】
本発明における膨張性混和材には、上記構成成分の他に、本発明の特長が損なわれない範囲で、各種添加剤が併用されても良い。この種の添加剤としては、例えば減水剤、AE剤、発泡剤、収縮低減剤、凝結遅延剤、防水剤、防錆剤、増粘剤、セメント混和用ポリマー、保水剤、顔料、撥水剤、白華防止剤等が挙げられる。
【0019】
本発明の膨張性混和材をモルタル又はコンクリートに添加することによって、良好な膨張性能を確保しながら、早期強度発現性に優れたモルタル又はコンクリートを得ることができる。モルタル又はコンクリートに対する膨張性混和材の添加量としては、モルタル又はコンクリート中のセメントに対して、3~25質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましい。また、コンクリート中の単位量としては、20~60kg/m3が好ましく、30~50kg/m3がより好ましい。
【0020】
また、本発明の膨張性混和材は、特にコンクリート製品工場で製造されるプレキャストコンクリートに使用されることが有効である。膨張性混和材を添加したコンクリート製品は、最高温度が40~80℃の蒸気養生によって5時間で10N/mm2以上の強度発現が得られるので、1日2回転の型枠製造が可能となり生産性を高めることができる。また、5時間材齢時における膨張量は、150×10-6以上を有するコンクリートを得ることができ、十分なひび割れ抑制効果を有する。
【実施例0021】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0022】
(膨張性組成物の作製)
工業用生石灰、珪石、バン土頁岩及び酸化鉄の混合物を、電気炉にて1400℃で焼成し、遊離生石灰が60質量%含有する焼成物を得た。この焼成物に含まれる遊離石灰以外の主な鉱物は、ケイ酸カルシウム(3CaO・SiO2)、カルシウムアルミノフェライト(4CaO・Al2O3・Fe2O3)等である。この焼成物を、ボールミルで粉砕し、ブレーン比表面積を3500±200cm2/gに粒度調製して、膨張性組成物を得た。
【0023】
(膨張性混和材の作製)
作製した膨張性組成物、石膏類、カルシウムアルミネート及び硫酸ナトリウムを使用して、膨張性混和材を作製した。石膏類として、無水石膏(ブレーン比表面積:7000cm2/g)を用いた。また、カルシウムアルミネートとして、石灰石及び焼成ボーキサイトを原料として焼成して製造したCaO含有量が38質量%のカルシウムアルミネート(ブレーン比表面積:5100cm2/g)を使用した。これらを、所定の配合割合にてミキサで混合し、膨張性混和材を得た。
【0024】
(コンクリートの作製)
膨張性混和材の配合量を40kg/m3として、スランプが3.0±1.5cmのコンクリートを作製した。セメントは普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)を、細骨材は掛川産山砂を、粗骨材は桜川砕石2005を使用した。コンクリート配合を表1に示す。セメントと膨張性混和材の合計量に対して、高性能減水剤(ポゾリスソリューションズ社製、「マスターグレニウム8000S」)を0.85質量%添加した。コンクリートは、コンクリートミキサーで練り混ぜ後、型枠に詰め、前置き時間1時間、昇温速度30℃/時間、最高温度50℃、最高温度保持時間3時間の蒸気養生条件で5時間養生を行い、脱型後、試験に供した。
【0025】
【0026】
(評価試験)
作製したコンクリートについて、圧縮強度試験及び拘束膨張試験を実施した。試験方法を下記に示す。
(1)圧縮強度試験
「JIS A 1108 コンクリートの圧縮強度試験」に準じて試験した。
(2)拘束膨張試験
コンクリートを成型し、以降「JIS A 6202 コンクリート用膨張材 付属書B」に準じ、A法に用いる拘束器具にひずみゲージを貼り付けて膨張量を測定した。
【0027】
<実施例1>
膨張性混和材の配合割合及び試験結果を表2に示す。本発明の範囲に調製された膨張性混和材を用いたコンクリートは、材齢5時間における圧縮強度は10N/mm3以上であった。これはプレキャストコンクリートの型枠を脱型するには十分な強度である。また、膨張量も150×10-6以上を示しており、いずれも良好な膨張性能を有することが分かる。
【0028】
【0029】
<実施例2>
次に、金属塩を含む膨張性混和材について試験を実施した。金属塩以外は実施例1と同じ材料を使用した。膨張性混和材の配合割合及び試験結果を表3に示す。硫酸ナトリウムとしては芒硝(市販品)を、硫酸アルミニウムとしては硫酸バンド(市販品)を、炭酸リチウムとしては試薬を使用した。特に、硫酸ナトリウムを含む膨張性混和材を使用した場合、膨張性能を維持したまま、良好な早期強度発現性が得られることが分かった。
【0030】