(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066655
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】板ばねナット及び締結構造
(51)【国際特許分類】
F16B 39/30 20060101AFI20230509BHJP
F16B 33/02 20060101ALI20230509BHJP
F16B 37/02 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
F16B39/30 Z
F16B33/02 Z
F16B37/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177364
(22)【出願日】2021-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】591209246
【氏名又は名称】濱中ナット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091465
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 久夫
(72)【発明者】
【氏名】濱中 重信
(57)【要約】 (修正有)
【課題】螺旋状ねじを形成した棒体に対して回転し難くすることによって抜け止め効果を喪失しないようにした板ばねナット及びそれを用いた締結構造を提供する。
【解決手段】棒材の長径部分の外周面には盛り上がり部分31が形成され、短径部分は低い盛り上がり状となっており、部材の締結を行うのに用いられる板ばねナットであって、ナット板10の挿通穴には抜け止め片部11が形成され、抜け止め片部11は板ばねナットの締付け方向には棒材の盛り上がり部分31を乗り越えるような弾性変形を許容され、板ばねナットの抜け方向には棒材の盛り上がり部分31を乗り越えるような弾性変形を阻止されている。回転防止板には回り止め板部21が弾性変形可能でかつ起立可能になっており、回り止め板部21は締結方向に弾性変形されて棒材の短径部分に圧接されて廻り止めし、ナット板10の抜け止め片部11が棒材の盛り上がり部分31に係止される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒材と板ばねナットとによって部材の締結を行うようにした締結構造であって、
上記棒材は横断面において長径部分と短径部分とを有し、上記長径部分の外周面には盛り上がり部分が軸線方向に一定の間隔で螺旋状にかつ周方向に一定の長さで間欠的に形成され、上記短径部分は平坦状又は上記長径部分の盛り上がり部分に比較して低い盛り上がり状となっている一方、
上記板ばねナットはナット板と回転防止板とが積層されて構成され、上記ナット板には上記棒材が挿通し得る挿通穴が形成され、上記ナット板の挿通穴の内縁側部分には抜け止め片部が形成され、該抜け止め片部は上記板ばねナットの締結方向には上記棒材の盛り上がり部分を乗り越えるような弾性変形を許容され、上記板ばねナットの抜け方向には上記棒材の盛り上がり部分を乗り越えるような弾性変形を阻止されている一方、上記回転防止板には切込み溝が形成されて回り止め板部が弾性変形可能でかつ起立可能になっており、該回り止め板部は締結方向には弾性変形されて上記棒材の短径部分に圧接されて上記棒材に対して廻り止めするとともに、上記ナット板の抜け止め片部は上記棒材の盛り上がり部分に係止されることにより、上記棒材とともに上記部材の締結を行うようになっていることを特徴とする締結構造。
【請求項2】
棒材が横断面において長径部分と短径部分とを有し、上記長径部分の外周面には盛り上がり部分が軸線方向に一定の間隔で螺旋状にかつ周方向に一定の長さで間欠的に形成され、上記短径部分は平坦状又は上記長径部分の盛り上がり部分に比較して低い盛り上がり状となっており、上記棒材ととともに部材の締結を行うのに用いられる板ばねナットであって、
ナット板と回転防止板とが積層されて構成され、
上記ナット板には上記棒材が挿通し得る挿通穴が形成され、該挿通穴の内縁側部分には抜け止め片部が形成され、該抜け止め片部は上記板ばねナットの締付け方向には上記棒材の盛り上がり部分を乗り越えるような弾性変形を許容され、上記板ばねナットの抜け方向には上記棒材の盛り上がり部分を乗り越えるような弾性変形を阻止されている一方、
上記回転防止板には切込み溝が形成されて回り止め板部が弾性変形可能でかつ起立可能になっており、該回り止め板部は締結方向には弾性変形されて上記棒材の短径部分に圧接されて上記棒材に対して廻り止めし、上記ナット板の抜け止め片部が上記棒材の盛り上がり部分に係止されることによって上記棒材とともに上記部材の締結を行うようになっていることを特徴とする板ばねナット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は板ばねナット及び締結構造に関し、特に長径側に螺旋状ねじを形成した棒体に対して回転し難くすることによって抜け止め効果を喪失しないようにした板ばねナット及びそれを用いた締結構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、構造物等を構築する場合、押込みタイプの板ばねナットは施工が容易なことから、力のかからない木材の締結、電波吸収体の取付け、あるいは端子接続方法に使用されてきた(特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
【0003】
かかる押込みタイプの板ばねナットは施工が容易という大きな長所を有することから、これをねじ節鉄筋と組み合わせて使用することが考えられる。
【0004】
ところで、ねじ節鉄筋は熱間圧延で量産されることが多く、ねじのピッチが一般のメートルねじに比較して粗く、その精度も切削ねじや転造ねじと比較して粗い。
また、JISの規格上、板ばねナットはナット呼び径8mm以下の小径部材の抜け止めに主として使用されてきたが(JISB21216)、ねじ節鉄筋のサイズは長径が50mmを超えるものもある点で、JISB21216が想定するサイズの範囲を超えてしまい、施工が容易という大きな長所を有する板ばねナットはねじ節鉄筋を使用する基礎構造物等には使用し難い。
【0005】
これに対し、本件出願人らは、ねじ節鉄筋と板ばねナットとによって部材の締結を行うようにした締結構造であって、板ばねナットにはねじ節鉄筋を挿通し得る挿通穴を形成し、挿通穴の内縁側部分には抜け止め部及び廻り止め部を形成し、抜け止め部は板ばねナットの締付け方向にはねじ節鉄筋の盛り上がり部分を乗り越えるような弾性変形を許容し、板ばねナットの抜け方向にはねじ節鉄筋の盛り上がり部分を乗り越えるような弾性変形を阻止する一方、廻り止め部はねじ節鉄筋の盛り上がり部分のない部分によって廻り止めし、部材の締結を行うようにした締結構造を開発し、提案するに至った(特許文献4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2006-105383号公報
【特許文献2】特開平08-070212号公報
【特許文献3】実開平05-048227号公報
【特許文献4】特許第4519042号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献4記載の締結構造では螺旋状のねじ節を形成した長径部分に合わせて製作したJISB21216付表1に規定のd寸法を適用した板ばねナットはこれをねじ節に押し込むと、ねじ底径がd寸法より小さくなって回転できるようになってしまい、回転した板ばねナットはばね変形がなくなり、抜け止め効果を喪失することがあった。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑み、長径側に螺旋状ねじを形成した棒体に対して回転し難くすることによって抜け止め効果を喪失しないようにした板ばねナット及びそれを用いた締結構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明に係る締結構造は、棒材と板ばねナットとによって部材の締結を行うようにした締結構造であって、上記棒材は横断面において長径部分と短径部分とを有し、上記長径部分の外周面には盛り上がり部分が軸線方向に一定の間隔で螺旋状にかつ周方向に一定の長さで間欠的に形成され、上記短径部分は平坦状又は上記長径部分の盛り上がり部分に比較して低い盛り上がり状となっている一方、上記板ばねナットはナット板と回転防止板とが積層されて構成され、上記ナット板には上記棒材が挿通し得る挿通穴が形成され、上記ナット板の挿通穴の内縁側部分には抜け止め片部が形成され、該抜け止め片部は上記板ばねナットの締結方向には上記棒材の盛り上がり部分を乗り越えるような弾性変形を許容され、上記板ばねナットの抜け方向には上記棒材の盛り上がり部分を乗り越えるような弾性変形を阻止されている一方、上記回転防止板には切込み溝が形成されて回り止め板部が弾性変形可能でかつ起立可能になっており、該回り止め板部は締結方向に弾性変形されて上記棒材の短径部分に圧接されて上記棒材に対して廻り止めするとともに、上記ナット板の抜け止め片部は上記棒材の盛り上がり部分に係止されることにより、上記棒材とともに上記部材の締結を行うようになっていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る板ばねナットは、棒材が横断面において長径部分と短径部分とを有し、上記長径部分の外周面には盛り上がり部分が軸線方向に一定の間隔で螺旋状にかつ周方向に一定の長さで間欠的に形成され、上記短径部分は平坦状又は上記長径部分の盛り上がり部分に比較して低い盛り上がり状となっており、上記棒材ととともに部材の締結を行うのに用いられる板ばねナットであって、ナット板と回転防止板とが積層されて構成され、上記ナット板には上記棒材が挿通し得る挿通穴が形成され、該挿通穴の内縁側部分には抜け止め片部が形成され、該抜け止め片部は上記板ばねナットの締付け方向には上記棒材の盛り上がり部分を乗り越えるような弾性変形を許容され、上記板ばねナットの抜け方向には上記棒材の盛り上がり部分を乗り越えるような弾性変形を阻止されている一方、上記回転防止板には切込み溝が形成されて回り止め板部が弾性変形可能でかつ起立可能になっており、該回り止め板部は締結方向に弾性変形されて上記棒材の短径部分に圧接されて上記棒材に対して廻り止めし、上記ナット板の抜け止め片部が上記棒材の盛り上がり部分に係止されることによって上記棒材とともに上記部材の締結を行うようになっていることを特徴とする。
【0011】
本発明の特徴の1つは板ばねナットをナット板と回転防止板とを積層して構成し、ナット板には棒材が挿通し得る挿通穴を形成し、ナット板の挿通穴の内縁側部分には抜け止め片部を板ばねナットの締付け方向には棒材の盛り上がり部分を乗り越えるような弾性変形を許容し、板ばねナットの抜け方向には棒材の盛り上がり部分を乗り越えるような弾性変形を阻止し、回転防止板には例えばH状の切込み溝を形成し、板ばねナットの棒材への押込みによって回り止め板部を弾性変形させて起立させ、棒材の短径部分に圧接させて棒材に対して廻り止めするようにした点にある。
【0012】
これにより、板ばねナットはナット板の抜け止め片部を弾性変形させて棒材の長径側の盛り上がり部分に対して係止して締結の弛み方向に対して抜け止めし、回転防止板の廻り止め板部を弾性変形させて起立させ、棒材の短径側に圧接させて廻り止めすることができるので、回転し難くすることによって抜け止め効果を喪失するのを防止でき、長径が50mmを超えるようなねじ節鉄筋に対して板ばねナットを使用することができる。
【0013】
棒材は盛り上がり部分を軸線方向に一定の間隔でかつ周方向に一定の長さで間欠的に形成したものであればその横断面形状(軸線に垂直な断面形状)は特に限定されず、長円形状や多角形状などの棒材とすることができる。
【0014】
また、棒材は軸線の方向から見たときにほぼ三角形状、ほぼ四角形状、ほぼ五角形状、ほぼ六角形状などの多角形状となし、多角形状の各頂点の部分に盛り上がり部分を形成することもできる。この場合、板ばねナットのナット板はその挿通穴の内縁側部分の多角形状の頂点の位置に抜け止め片部を形成するとともに、隣接する抜け止め片部の間に位置する回転防止板に廻り止め板部を形成するのがよい。
【0015】
また、棒材は上述のような異形棒ではなく、丸棒に雄ねじを形成するとともに雄ねじを横断して深い長溝を形成したねじ棒とすることもできる。
【0016】
盛り上がり部分は軸線方向に一定の間隔で形成するが、棒材の製造時における盛り上がり部分の加工性を考慮すると、盛り上がり部分は螺旋状に形成するのがよい。即ち、盛り上がり部分は一定の間隔で螺旋状にかつ周方向に一定の長さで間欠的に形成されるのが好ましい。
【0017】
盛り上がり部分を螺旋状とする場合、盛り上がり部分は雄ねじやねじ節鉄筋のねじ節として形成することができる。即ち、外周面に盛り上がり形状部分と長溝とを形成した丸棒とする場合、雄ねじのねじ山よりも深い長溝を軸線方向に延びて形成したねじ棒を棒材として利用することができる。
【0018】
棒材の材料は特に限定されず、部材に締結に利用できる材料であればよい、例えば金属材料や合成樹脂材料、繊維強化材料その他の複合材料を用いることができる。また、板ばねナットの回転防止板は抜け止め板部が弾性変形して盛り上がり部分の外表面を押しつけることができればどのような材料でもよく、例えばばね鋼を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係る締結構造に用いるねじ節鉄筋と板ばねナットを示す概略斜視図である。
【
図2】上記実施形態における板ばねナットを示す概略斜視図である。
【
図3】上記実施形態における回転防止板をを示す図である。
【
図4】上記実施形態におけるナット板をを示す図である。
【
図5】上記実施形態におけるねじ節鉄筋を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を図面に示す具体例に基づいて詳細に説明する。
図1ないし
図5は本発明に係る締結構造の好ましい実施形態を示す。本例の締結では板ばねナットとねじ節鉄筋(棒材)30とが用いられる。
【0021】
ねじ節鉄筋30は棒鋼を用いて製作され、軸線の方向から見たとき、すなわち横断面において相互に直交する方向に長径部分と短径部分とを有し、長径部分には盛り上がり部分31が軸線方向に一定の間隔で螺旋状に形成されており、これによってねじ節鉄筋30の外周面には盛り上がり部分31が軸線方向に一定の間隔でかつ周方向に一定の長さで間欠的に形成され、短径部分は平面状となっている。
【0022】
板ばねナットはナット板10と回転防止板20とを積層してリベットなどの固定具で固定して構成され、ナット板10及び回転防止板20は弾性変形し得る適切な金属材料、例えばばね鋼を用いて製作されている。
【0023】
ナット板10には一対の直線状の切り溝と一対のく字状の切り溝が形成されてく字状の切り溝の間がねじ節鉄筋30の挿通穴となっており、又く字状の切り溝から弾性変形されて抜け止め片部11が起立されてねじ節鉄筋30盛り上がり部分31の基部と接触し得るようになっている。
【0024】
この抜け止め片部11は板ばねナットの締結け方向にはねじ節鉄筋30の盛り上がり部分31を乗り越えるような弾性変形を許容される一方、板ばねナットの抜け方向にはねじ節鉄筋30の盛り上がり部分31によって該盛り上がり部分31を乗り越えるような弾性変形を阻止されるようになっている。
【0025】
回転防止板20には例えばH字状の切込み溝が形成され、板ばねナットの締結方向には回り止め板部21が弾性変形されて起立され、ねじ節鉄筋30の短径部分32に圧接されてねじ節鉄筋30に対して板ばねナットを廻り止めするようになっている。
【0026】
例えば、ねじ節鉄筋30に板ばねナットをセットする場合、板ばねナットの回転防止板20の切込み溝のHの中央部分をねじ節鉄筋30の短径部分32の側面に合わせ、板ばねナットをねじ節鉄筋30に押し込む。
【0027】
すると、板ばねナットのナット板20の回り止め板部21がねじ節鉄筋30によって
弾性変形されながら起立され、ねじ節鉄筋30の短径部分の平坦面32に圧接され、又抜け止め片部11が弾性変形されながらねじ節鉄筋30の盛り上がり部分31を乗り越え、板ばねナットは次第にねじ節鉄筋30に沿って移動し、これによって板ばねナットはねじ節鉄筋30にセットされることとなる。
【0028】
板ばねナットがねじ節鉄筋30の軸線方向に抜けようとすると、板ばねナットのナット板10の抜け止め片部11はねじ節鉄筋30の盛り上がり部分31の基部に押し付けられ、盛り上がり部分31を乗り越えようとする弾性変形を阻止され、板ばねナットはねじ節鉄筋30に対して抜け止めされる。
【0029】
同時に、板ばねナットの回転防止板20の回り止め板部21がねじ節鉄筋30の短径部分32の平坦面に圧接され、板ばねナットはねじ節鉄筋30に対して廻り止めされるので、板ばねナットはねじ節鉄筋30対して抜け止めされる。
【符号の説明】
【0030】
10 ナット板
20 回転防止板
30 ねじ節鉄筋
31 盛り上がり部分