(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066658
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】細胞培養チップ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20230509BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20230509BHJP
C12N 5/079 20100101ALI20230509BHJP
【FI】
C12M1/00 C
C12M3/00
C12N5/079
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177372
(22)【出願日】2021-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江刺家 勝弘
(72)【発明者】
【氏名】高村 一夫
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 淳
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029AA21
4B029BB11
4B029CC02
4B029GB10
4B065AA91X
4B065AA93X
4B065BD40
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】軸索の培養に好適で、形状を保ったまま生体内に移植することができる軸索を培養するための細胞培養チップ、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】神経細胞を培養するための細胞培養チップであって、前記神経細胞の細胞体を受容する第一チャンバー部と、前記第一チャンバー部と一端部が連通し水平方向に延設された流路部と、を少なくとも有するチップ基材を備え、前記チップ基材の流路部が、生分解性ポリマーから構成される、細胞培養チップ。神経細胞を培養するための細胞培養チップであって、前記神経細胞の細胞体を受容する第一チャンバー部と、前記第一チャンバー部と一端部が連通し水平方向に延設された流路部と、を少なくとも有するチップ基材を備え、さらに前記チップ基材の上面には、生分解性ポリマーから構成される蓋部材が設けられている、細胞培養チップ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経細胞を培養するための細胞培養チップであって、
前記神経細胞の細胞体を受容する第一チャンバー部と、
前記第一チャンバー部と一端部が連通し水平方向に延設された流路部と、
を少なくとも有するチップ基材を備え、
前記チップ基材の流路部が、生分解性ポリマーから構成される、細胞培養チップ。
【請求項2】
前記流路部が、複数設けられている、請求項1に記載の細胞培養チップ。
【請求項3】
前記流路部の他端部に連通する第二チャンバー部を有する、請求項1又は2に記載の細胞培養チップ。
【請求項4】
前記流路部の垂直方向の最大深さが20~200μmの範囲内であり、
前記流路部の水平方向の最大幅が20~200μmの範囲内である、請求項1~3のいずれか一項に記載の細胞培養チップ。
【請求項5】
前記チップ基材の上面には、蓋部材が設けられている、請求項1~4のいずれか一項に記載の細胞培養チップ。
【請求項6】
前記蓋部材が、生分解性ポリマーから構成される、請求項5に記載の細胞培養チップ。
【請求項7】
前記生分解性ポリマーが、単量体(a)の単独重合体及び共重合体、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、乳酸-グリコール酸共重合体、乳酸-カプロラクトン共重合体、グリコール酸-カプロラクトン共重合体、乳酸-グリコール酸-カプロラクトン共重合体、ポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)、キトサン、ヒアルロン酸、ゼラチン、コラーゲン、ペクチン、アルギン酸、並びにポリエチレングリコールからなる群より選ばれる1種以上であり、前記単量体(a)が、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシヘキサン酸、及びヒドロキシオクタン酸からなる群より選ばれる1種以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載の細胞培養チップ。
【請求項8】
前記生分解性ポリマーのTgが-100~100℃である、請求項1~7のいずれか一項に記載の細胞培養チップ。
【請求項9】
神経細胞を培養するための細胞培養チップであって、
前記神経細胞の細胞体を受容する第一チャンバー部と、
前記第一チャンバー部と一端部が連通し水平方向に延設された流路部と、
を少なくとも有するチップ基材を備え、
さらに前記チップ基材の上面には、生分解性ポリマーから構成される蓋部材が設けられている、細胞培養チップ。
【請求項10】
前記流路部が、複数設けられている、請求項9に記載の細胞培養チップ。
【請求項11】
前記流路部の他端部に連通する第二チャンバー部を有する、請求項9又は10に記載の細胞培養チップ。
【請求項12】
前記流路部の垂直方向の最大深さが20~200μmの範囲内であり、
前記流路部の水平方向の最大幅が20~200μmの範囲内である、請求項9~11のいずれか一項に記載の細胞培養チップ。
【請求項13】
前記流路部が、生分解性ポリマーから構成される、請求項9~12のいずれか一項に記載の細胞培養チップ。
【請求項14】
前記生分解性ポリマーが、単量体(a)の単独重合体及び共重合体、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、乳酸-グリコール酸共重合体、乳酸-カプロラクトン共重合体、グリコール酸-カプロラクトン共重合体、乳酸-グリコール酸-カプロラクトン共重合体、ポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)、キトサン、ヒアルロン酸、ゼラチン、コラーゲン、ペクチン、アルギン酸、並びにポリエチレングリコールからなる群より選ばれる1種以上であり、前記単量体(a)が、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシヘキサン酸、及びヒドロキシオクタン酸からなる群より選ばれる1種以上である、請求項9~13のいずれか一項に記載の細胞培養チップ。
【請求項15】
前記生分解性ポリマーのTgが-100~100℃である、請求項9~14のいずれか一項に記載の細胞培養チップ。
【請求項16】
神経細胞を培養するための細胞培養チップの製造方法であって、
前記細胞培養チップが、
前記神経細胞の細胞体を受容する第一チャンバー部と、
前記第一チャンバー部と一端部が連通し水平方向に延設された流路部と、
を少なくとも有するチップ基材を備え、
前記流路部の垂直方向の最大深さが20~200μmの範囲内であり、
前記流路部の水平方向の最大幅が20~200μmの範囲内であり、
前記第一チャンバー部及び前記流路部に対応する凹凸パターンを有するモールドを用いて、生分解性ポリマーを含む樹脂組成物に前記凹凸パターンを転写する工程を含む、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養チップ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内では、さまざまな種類の神経細胞が協調して働き、身体を正常に制御している。神経細胞は、軸索と呼ばれる長い突起を介して電気信号という形で情報をやりとりするが、生体内においては、離れた細胞集団をつなぐ多数の軸索が束状になった構造がしばしば観察される。例えば、大脳皮質は運動制御、言語処理、視覚情報処理といった機能ごとに、異なる神経細胞群からなる領域に分かれているが、このような領域間は束状の軸索によって繋がっている。また、大脳からの指令は脊髄の運動神経に伝えられ、さらに筋肉に送られるが、脊髄と筋肉の間に存在する多数の運動神経細胞は、軸索が束状に集まっている。このような体内の束状神経組織の発生過程、及び性質などは、解析手法に乏しいことから、まだ明らかになっていないことが多い。そのため、束状神経組織(軸索束)をin vitroで構築する手法が求められている。
そこで、神経細胞を培養し、軸索束を作製するための細胞培養チップ及び培養方法が開発されている。例えば、特許文献1には、神経細胞の細胞塊を所定の培養チップで培養し、神経細胞から延びる軸索束を迅速に成長させる、神経細胞の培養チップが開示されている。また、特許文献2には、複数のウェルを有する細胞培養チップにおいて、各ウェルで培養される細胞の種類に応じて最適な培養条件で培養を行うことができる、神経細胞と神経細胞以外の細胞との共培養方法及びそのための細胞培養チップが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2017/187696号
【特許文献2】国際公開第2019/41719号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の軸索束を作製する技術では、神経細胞は細胞培養チップ内で培養されるので、形成された軸索束は細胞培養チップに接着しやすい。軸索束を細胞培養チップから取り出して次の実験、例えば、軸索束を生体内に移植する実験を行いたい場合、軸索束を細胞培養チップから剥がすと、軸索束の形状が保たれず、また、軸索束が損傷するおそれがあった。
そこで、本発明者らは、形成された軸索束を細胞培養チップから剥がすことなく、生体内に移植できれば、軸索束の形状を保ち、軸索束を損傷することがないと考えた。本発明は、神経細胞を培養して、形状を保ったまま生体内に移植することができる軸索束を作製するための細胞培養チップ、及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、以下の構成を有することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、例えば以下の〔1〕~〔16〕に関する。
〔1〕 神経細胞を培養するための細胞培養チップであって、
前記神経細胞の細胞体を受容する第一チャンバー部と、
前記第一チャンバー部と一端部が連通し水平方向に延設された流路部と、
を少なくとも有するチップ基材を備え、
前記チップ基材の流路部が、生分解性ポリマーから構成される、細胞培養チップ。
〔2〕 前記流路部が、複数設けられている、〔1〕に記載の細胞培養チップ。
〔3〕 前記流路部の他端部に連通する第二チャンバー部を有する、〔1〕又は〔2〕に記載の細胞培養チップ。
〔4〕 前記流路部の垂直方向の最大深さが20~200μmの範囲内であり、
前記流路部の水平方向の最大幅が20~200μmの範囲内である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の細胞培養チップ。
〔5〕 前記チップ基材の上面には、蓋部材が設けられている、〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の細胞培養チップ。
〔6〕 前記蓋部材が、生分解性ポリマーから構成される、〔5〕に記載の細胞培養チップ。
〔7〕 前記生分解性ポリマーが、単量体(a)の単独重合体及び共重合体、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、乳酸-グリコール酸共重合体、乳酸-カプロラクトン共重合体、グリコール酸-カプロラクトン共重合体、乳酸-グリコール酸-カプロラクトン共重合体、ポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)、キトサン、ヒアルロン酸、ゼラチン、コラーゲン、ペクチン、アルギン酸、並びにポリエチレングリコールからなる群より選ばれる1種以上であり、前記単量体(a)が、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシヘキサン酸、及びヒドロキシオクタン酸からなる群より選ばれる1種以上である、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の細胞培養チップ。
〔8〕 前記生分解性ポリマーのTgが-100~100℃である、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の細胞培養チップ。
〔9〕 神経細胞を培養するための細胞培養チップであって、
前記神経細胞の細胞体を受容する第一チャンバー部と、
前記第一チャンバー部と一端部が連通し水平方向に延設された流路部と、
を少なくとも有するチップ基材を備え、
さらに前記チップ基材の上面には、生分解性ポリマーから構成される蓋部材が設けられている、細胞培養チップ。
〔10〕 前記流路部が、複数設けられている、〔9〕に記載の細胞培養チップ。
〔11〕 前記流路部の他端部に連通する第二チャンバー部を有する、〔9〕又は〔10〕に記載の細胞培養チップ。
〔12〕 前記流路部の垂直方向の最大深さが20~200μmの範囲内であり、
前記流路部の水平方向の最大幅が20~200μmの範囲内である、〔9〕~〔11〕のいずれかに記載の細胞培養チップ。
〔13〕 前記流路部が、生分解性ポリマーから構成される、〔9〕~〔12〕のいずれか一項に記載の細胞培養チップ。
〔14〕 前記生分解性ポリマーが、単量体(a)の単独重合体及び共重合体、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、乳酸-グリコール酸共重合体、乳酸-カプロラクトン共重合体、グリコール酸-カプロラクトン共重合体、乳酸-グリコール酸-カプロラクトン共重合体、ポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)、キトサン、ヒアルロン酸、ゼラチン、コラーゲン、ペクチン、アルギン酸、並びにポリエチレングリコールからなる群より選ばれる1種以上であり、前記単量体(a)が、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシヘキサン酸、及びヒドロキシオクタン酸からなる群より選ばれる1種以上である、〔9〕~〔13〕のいずれかに記載の細胞培養チップ。
〔15〕 前記生分解性ポリマーのTgが-100~100℃である、〔9〕~〔14〕のいずれかに記載の細胞培養チップ。
〔16〕 神経細胞を培養するための細胞培養チップの製造方法であって、
前記細胞培養チップが、
前記神経細胞の細胞体を受容する第一チャンバー部と、
前記第一チャンバー部と一端部が連通し水平方向に延設された流路部と、
を少なくとも有するチップ基材を備え、
前記流路部の垂直方向の最大深さが20~200μmの範囲内であり、
前記流路部の水平方向の最大幅が20~200μmの範囲内であり、
前記第一チャンバー部及び前記流路部に対応する凹凸パターンを有するモールドを用いて、生分解性ポリマーを含む樹脂組成物に前記凹凸パターンを転写する工程を含む、製造方法。
【発明の効果】
【0006】
神経細胞を培養して、形状を保ったまま生体内に移植することができる軸索束を作製するための細胞培養チップ、及びその製造方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
次に本発明について具体的に説明する。
数値範囲に関する「A~B」との記載は、特に断りがなければ、A以上B以下であることを表す。例えば、「1~5%」との記載は、1%以上5%以下を意味する。
【0008】
[神経細胞]
本発明において、神経細胞とは、細胞体、樹状突起及び軸索から構成される神経単位を意味し、ニューロンとも呼ばれる。
軸索束とは、複数の軸索が自己組織的に束化したものをいう。
神経細胞は、末梢神経系を構成する神経細胞であっても、中枢神経系を構成する神経細胞であってもよい。また、神経細胞は、感覚神経細胞、運動神経細胞、介在神経細胞のいずれであってもよい。
【0009】
神経細胞は、神経細胞が産生する神経伝達物質の違いにより分類することができ、神経伝達物質としては、ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン及びセロトニンなどのモノアミン、アセチルコリン、γ-アミノ酪酸(GABA)、グルタミン酸などの非ペプチド性神経伝達物質、また、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、α-エンドルフィン、β-エンドルフィン、γ-エンドルフィン、バソプレッシンなどのペプチド性神経伝達物質が挙げられる。例えば、ドーパミン、アセチルコリン、GABA、又はグルタミン酸を伝達物質とする神経細胞を、それぞれドーパミン作動性神経細胞、コリン作動性神経細胞、GABA作動性神経細胞、又はグルタミン酸作動性神経細胞という。
【0010】
神経細胞としては、初代培養細胞を用いることができる。初代培養細胞は、生体内において本来有する細胞機能を多く保持しており、生体内における薬物などの影響を評価することができるため、好ましい。
初代培養細胞としては、哺乳類、例えばマウス若しくはラットなどのげっ歯類、又はサル若しくはヒトなどの霊長類の中枢神経系及び末梢神経系の神経細胞を使用することができる。これらの神経細胞を調製及び培養するに際し、動物の解剖方法、組織採取方法、神経分離・単離方法、神経細胞培養用培地、培養条件などは、培養する細胞の種類及び細胞の目的に応じて、公知の方法より選択することができる。市販の初代培養神経細胞製品としては、例えばロンザ社のラット脳神経細胞、DS PHARMA BIOMEDICAL社のラット神経細胞、マウス神経細胞、及びScienCell Research Laboratories社のヒト脳神経細胞が挙げられる。
【0011】
神経細胞としては、株化した神経細胞又は神経細胞以外の株化した細胞から分化誘導した神経様細胞を用いることができる。株化した神経細胞としては、例えば、ヒト神経芽細胞腫(neuroblastoma)に由来するSH-SY5Y、SK-N-SH、マウス神経芽細胞腫(neuroblastoma)に由来するNeuro 2a、N1E-115、マウス神経芽細胞腫(neuroblastoma)とラット神経膠腫(glioma)のとハイブリッド細胞であるNG108が挙げられる。神経細胞以外の株化した細胞から分化誘導した神経様細胞としては、例えば、ヒト多能性胎生期癌に由来するNTERA-2、ラット副腎褐色細胞腫(Pheochromocytoma)に由来するPC-12が挙げられる。
【0012】
神経細胞としては、さらに多能性幹細胞由来の神経細胞を用いることができる。多能性幹細胞としては、例えば胚性幹細胞(ES細胞)、iPS細胞が挙げられる。多能性幹細胞を、公知の神経分化誘導方法を用いて分化誘導することにより、様々なタイプの神経細胞を得ることができる。多能性幹細胞由来の神経細胞は、分化が完了した神経細胞であってもよいし、神経細胞への分化誘導を開始した多能性幹細胞であってもよい。例えば、以下の文献1~4に記載の分化誘導方法によって神経細胞を得ることができる。
【0013】
文献1:Chambers SM, Qi Y, Mica Y, Lee G, Zhang XJ, Niu L, Bilsland J, Cao L, Stevens E, Whiting P, Shi SH, Studer L. Combined small-molecule inhibition accelerates developmental timing and converts human pluripotent stem cells into nociceptors. Nat Biotechnol. 2012 Jul 1;30(7):715-20
文献2: Xi J, Liu Y, Liu H, Chen H, Emborg ME, Zhang SC. Specification of midbrain dopamine neurons from primate pluripotent stem cells. Stem Cells. 2012 Aug;30(8):1655-63
文献3: Shimojo D, Onodera K, Doi-Torii Y, Ishihara Y, Hattori C, Miwa Y, Tanaka S, Okada R, Ohyama M, Shoji M, Nakanishi A, Doyu M, Okano H, Okada Y. Rapid, efficient, and simple motor neuron differentiation from human pluripotent stem cells. Mol Brain. 2015 Dec 1;8(1):79
文献4:Sato T, Imaizumi K, Watanabe H, Ishikawa M, Okano H. Generation of region-specific and high-purity neurons from human feeder-free iPSCs. Neurosci Lett. 2021 Feb 16;746:135676
【0014】
また、市販の多能性幹細胞由来の神経細胞、例えば、iPS細胞を所定の化合物で処理することにより神経細胞へ分化させた製品であるFUJIFILM Cellular Dynamics,Inc.社のiCellTMドーパミン作動性神経細胞、iCellTMGABA作動性神経細胞、及びiCellTMグルタミン酸作動性神経細胞、iCellTM運動神経細胞、Axol Bioscience社の各種神経幹細胞、BrainXell社の各種神経前駆細胞及びXCell Science社のXCL-1ニューロン等を用いてもよい。さらに、iPS細胞に所定の遺伝子を導入することにより神経細胞へ分化させた製品であるNeuCyte社のSynFire神経細胞及びElixirgen Scientific社の各種神経細胞を用いることもできる。これらの市販の神経細胞は、付属の培養液を使用して培養することができる。
【0015】
神経細胞は、哺乳類の組織から単離した神経幹細胞からニューロスフェアを形成させ、神経細胞への分化誘導を開始したもの又は分化が完了した神経細胞を用いてもよい。
【0016】
神経細胞は1種単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
神経細胞は、哺乳類の脳由来のグリア細胞又は哺乳類のiPS細胞から分化させたグリア細胞と共に培養してもよい。グリア細胞としては、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリアなどが挙げられる。また、アストロサイトを培養したあとの培養液(アストロサイト培養上清)を神経細胞用培養液に、終濃度5~30%で添加し培養してもよい。
【0017】
[培養]
本発明において、培養とは、神経細胞を維持、増殖させることだけでなく、神経細胞の播種、継代、分化誘導、自己組織化誘導、軸索伸長等のプロセスも含む広い意味で用いる。
【0018】
神経細胞の培養は、2次元(細胞が自発的に重層化する場合を含む)培養でも、3次元培養でもよい。
培養に用いる培地等は制限されず、神経細胞の種類に応じて、適切な培地を選択すればよい。
培養を行う際の細胞播種密度は、特に制限されず、神経細胞が軸索を伸長させやすい細胞播種密度を選択すればよい。
【0019】
[細胞培養チップ]
本発明において、細胞培養チップとは、細胞を培養するために用いられる、微細な流路を有する、小型の実験容器を意味する。
【0020】
細胞培養チップの形状及び大きさは特に制限されないが、好ましくは、顕微鏡観察用のスライドガラスと同様の形状及び大きさである。前記細胞培養チップは通常、インキュベーターなどの装置内で用いられる。
【0021】
細胞培養チップは、通常、底面に培地を保持あるいは貯留するため、底面が培養面を含む細胞培養チップであることが好ましい。
ここで培養面とは、細胞等を培養する際に、培地及び/又は細胞が接触している面、若しくは培地及び/又は細胞が接触する予定の面を意味する。
【0022】
本発明の一実施形態である細胞培養チップは、神経細胞を培養するための細胞培養チップであって、神経細胞の細胞体を受容する第一チャンバー部と、前記第一チャンバー部と一端部が連通し水平方向に延設された流路部と、を少なくとも有するチップ基材を備え、前記チップ基材の流路部が、生分解性ポリマーから構成される、細胞培養チップである。この細胞培養チップを細胞培養チップ(I)と称する。
【0023】
本発明の一実施形態である細胞培養チップは、神経細胞を培養するための細胞培養チップであって、前記神経細胞の細胞体を受容する第一チャンバー部と、前記第一チャンバー部と一端部が連通し水平方向に延設された流路部と、を少なくとも有するチップ基材を備え、さらに前記チップ基材の上面には、生分解性ポリマーから構成される蓋部材が設けられている、細胞培養チップである。この細胞培養チップを細胞培養チップ(II)と称する。
【0024】
[細胞培養チップ(I)]
細胞培養チップ(I)は、神経細胞を培養するための細胞培養チップであって、前記神経細胞の細胞体を受容する第一チャンバー部と、前記第一チャンバー部と一端部が連通し水平方向に延設された流路部と、を少なくとも有するチップ基材を備え、前記チップ基材の流路部が、生分解性ポリマーから構成される、細胞培養チップである。
【0025】
[チップ基材]
チップ基材は、少なくとも、第一チャンバー部と流路部とを有する。チップ基材は、第二チャンバー部を有してもよい。
第一チャンバー部と流路部を組み合わせたものをモジュールと称する。モジュールは、第二チャンバー部を有してもよい。
チップ基材は、少なくとも1つのモジュールを有し、2つ以上のモジュールを有してもよい。同じ細胞培養チップ上で、同時に同じ条件で複数の軸索束を作製することができるため、チップ基材は、2つ以上のモジュールを有することが好ましい。
【0026】
チップ基材を構成する材料は特に制限されない。例えば、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリイミド、PDMS(ポリジメチルシロキサン)、生分解性ポリマー、これらをフッ素化したポリマー、ガラス等、一般的な培養容器に用いられる材料が挙げられる。これらの材料は1種単独でも2種以上を組み合わせてもよい。
【0027】
[第一チャンバー部]
第一チャンバー部は、神経細胞の細胞体を受容する。第一チャンバー部は、神経細胞が播種される凹部であり、第一チャンバー部には、培養中、該神経細胞の少なくとも細胞体が収容される。
第一チャンバー部には、通常、培地が充填される。
【0028】
第一チャンバー部に播種される神経細胞は1つでも複数でもよい。複数の神経細胞は、個々の細胞が解離した状態で播種されてもよいし、細胞塊(sphere)を形成した状態で播種してもよいが、細胞塊(sphere)を形成した状態で播種することが好ましい。
【0029】
第一チャンバー部の形状は、神経細胞の細胞体を受容できれば、特に制限されないが、好ましくは円筒状の凹部であり、より好ましくは底面がチップ基材によって閉止され、上面が開口する井戸状の凹部である。第一チャンバー部の平面形状は、特に制限されないが、円形又は楕円形が好ましい。第一チャンバー部がこのような形状であると、播種された神経細胞は、まず多数の軸索を放射状に伸ばすが、他に行き場がないため、どの軸索も円形の第一チャンバー部の壁に沿って進展し、最終的には流路部内へ伸びていきやすい。
【0030】
第一チャンバー部の大きさは、神経細胞の細胞体を受容できれば、特に制限されない。第一チャンバー部の平面形状が円形である場合、第一チャンバー部の直径は、好ましくは0.5mm~5mm、より好ましくは1~2mmである。
【0031】
第一チャンバー部の深さは、神経細胞の細胞体を受容できれば、特に制限されないが、好ましくは0.5mm~5mm、より好ましくは0.5mm~3mmである。
【0032】
第一チャンバー部の底面の形状は、特に制限されない。第一チャンバー部の底面の形状としては、例えば、平底(F底)、丸底(U底)、円錐底(V底)、平底+カーブエッジ等が挙げられる。
【0033】
第一チャンバー部を構成する材料は、特に制限されない。例えば、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリイミド、PDMS(ポリジメチルシロキサン)、生分解性ポリマー、これらをフッ素化したポリマー、ガラス等、一般的な培養容器に用いられる材料が挙げられる。これらの材料は1種単独でも2種以上を組み合わせてもよい。
第一チャンバー部は、好ましくは、生分解性ポリマーから構成される。第一チャンバー部が、生分解性ポリマーから構成されると、形成された軸索束と共に第一チャンバー部も生体内に移植することができる。生分解性ポリマーについては、後述する。
【0034】
[流路部]
流路部は、第一チャンバー部と一端部が連通し水平方向に延設されている。
細胞培養チップ(I)の流路部は、生分解性ポリマーから構成される。生分解性ポリマーについては、後述する。
【0035】
流路部の形状は特に制限されないが、好ましくは直線状の凹部であり、より好ましくは底面がチップ基材によって閉止され、上面が開口する溝状の凹部である。流路部の平面形状は、特に制限されないが、長方形状が好ましい。このような形状であると、軸索が流路部に沿って伸長しやすい。
【0036】
流路部の底面の形状は、特に制限されない。流路部の底面の形状としては、例えば、平底(F底)、丸底(U底)、円錐底(V底)、平底+カーブエッジ等が挙げられる。
【0037】
第一チャンバー部に播種された神経細胞の軸索は、伸長して流路部に到達し、流路部内でさらに伸長しながら軸索束を形成する。流路部の深さ及び幅は特に制限されないが、神経細胞の軸索束を収容するのに十分な大きさであることが好ましい。
前記流路部の垂直方向の最大深さは、好ましくは20~200μm、より好ましくは50~180μmの範囲内である。また、前記流路部の水平方向の最大幅は、好ましくは20~200μm、より好ましくは50~180μmの範囲内である。
【0038】
流路部の延設方向の長さは特に制限されないが、所望の長さの軸索束を収容するのに充分な長さであることが好ましい。流路部の延設方向の長さは、好ましくは0.5cm~5cm、より好ましくは1cm~3cmである。
【0039】
流路部は、一つのみ設けられていても、複数設けられていてもよいが、複数設けられていることが好ましい。複数設けられている流路部は、互いに平行であることが好ましい。また、複数設けられている流路部の間隔は、特に制限されないが、好ましくは2~80μm、より好ましくは5~50μmの範囲内である。
第一チャンバー部に播種された神経細胞から伸長した軸索は、流路部内で軸索束を形成するが、流路部が複数設けられていると、複数の軸索束を同時に作製することができる。また、複数の流路部の間隔を狭くすれば、近接した複数の軸索束を同時に作製することができる。
【0040】
流路部には、通常、培地を充填しなくても、第一チャンバー部に充填された培地が流れ込む場合があるが、流路部に、第一チャンバー部と同じ培地を充填してもよいし、第一チャンバー部とは異なる培地を充填してもよい。
【0041】
流路部の一端部は、第一チャンバー部と連通し、他端部は、第二チャンバー部に連通してもよい。
【0042】
[第二チャンバー部]
細胞培養チップ(I)は、好ましくは流路部の他端部に連通する第二チャンバー部を有する。
第二チャンバー部は、流路部を介して第一チャンバー部と連通する。
【0043】
第二チャンバー部は、神経細胞の細胞体、又は神経細胞以外の細胞(例えば、骨格筋細胞)を受容することができる。第二チャンバー部は、神経細胞又は神経細胞以外の細胞(例えば、骨格筋細胞)が播種されてもよい凹部であり、第二チャンバー部には、培養中、該神経細胞の少なくとも細胞体又は該神経細胞以外の細胞が収容されてもよい。
第二チャンバー部には、神経細胞又は神経細胞以外の細胞を播種してもよいし、細胞を播種しなくてもよい。 第二チャンバー部に、神経細胞を播種する場合、第一チャンバー部に播種された神経細胞の軸索束が、流路部を通って、第二チャンバー部に到達すると、第一チャンバー部に播種された神経細胞の軸索束と、第二チャンバー部に播種された神経細胞とを接合させることができる。
第二チャンバー部に、神経細胞以外の細胞(例えば、骨格筋細胞)を播種する場合、第一チャンバー部に播種された神経細胞の軸索束が、流路部を通って、第二チャンバー部に到達すると、第一チャンバー部に播種された神経細胞の軸索束と、第二チャンバー部に播種された神経細胞以外の細胞(例えば、骨格筋細胞)とを接合させることができる。
【0044】
第二チャンバー部には、第一チャンバー部と同じ培地を充填してもよいし、第一チャンバー部とは異なる培地を充填してもよい。また、第二チャンバー部には培地を充填せず、第一チャンバー部に充填され、流路部を通って、第二チャンバー部に到達した培地をそのまま用いてもよい。
【0045】
第二チャンバー部に播種される神経細胞、又は神経細胞以外の細胞は1つでも複数でもよい。複数の細胞は、個々の細胞が解離した状態で播種されてもよいし、細胞塊(sphere)を形成した状態で播種してもよい。
第二チャンバー部に播種される神経細胞、又は神経細胞以外の細胞は1種単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
第二チャンバー部の形状は、神経細胞の細胞体、又は神経細胞以外の細胞を受容することができれば、特に制限されないが、好ましくは円筒状の凹部であり、より好ましくは底面がチップ基材によって閉止され、上面が開口する井戸状の凹部である。第二チャンバー部の平面形状は、特に制限されないが、円形又は楕円形が好ましい。
【0047】
第二チャンバー部の大きさは、神経細胞の細胞体、又は神経細胞以外の細胞を受容できれば、特に制限されない。第二チャンバー部の平面形状が円形である場合、第一チャンバー部の直径は、好ましくは0.5mm~5mm、より好ましくは1~2mmである。
【0048】
第二チャンバー部の深さは、神経細胞の細胞体、又は神経細胞以外の細胞を受容できれば、特に制限されないが、好ましくは0.5mm~5mm、より好ましくは0.5mm~3mmである。
【0049】
第二チャンバー部の底面の形状は、特に制限されない。第二チャンバー部の底面の形状としては、例えば、平底(F底)、丸底(U底)、円錐底(V底)、平底+カーブエッジ等が挙げられる。
【0050】
第二チャンバー部を構成する材料は、特に制限されない。例えば、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリイミド、PDMS(ポリジメチルシロキサン)、生分解性ポリマー、これらをフッ素化したポリマー、ガラス等、一般的な培養容器に用いられる材料が挙げられる。これらの材料は1種単独でも2種以上を組み合わせてもよい。
第二チャンバー部は、好ましくは、生分解性ポリマーから構成される。第二チャンバー部が、生分解性ポリマーから構成されると、形成された軸索束と共に第二チャンバー部も生体内に移植することができる。生分解性ポリマーについては、後述する。
【0051】
[蓋部材]
細胞培養チップ(I)は、好ましくはチップ基材の上面には、蓋部材が設けられている。チップ基材の上面に、蓋部材が設けられていると、コンタミネーションを防止しやすく、また、軸索が流路に沿って伸長しやすい。
【0052】
細胞培養チップ(I)における蓋部材の形状は特に制限されないが、好ましくはシート状又はフィルム状である。このような形状であると、チップ基材の上面と蓋部材の間に隙間ができにくく、コンタミネーション防止効果が高く、また、軸索が流路に沿って伸長しやすい。
【0053】
細胞培養チップ(I)における蓋部材の大きさは特に制限されないが、コンタミネーション防止の観点から、好ましくは少なくとも第一チャンバー部、及び流路部を覆える大きさであり、より好ましくは少なくとも第一チャンバー部、流路部、及び第二チャンバー部を覆える大きさである。
【0054】
細胞培養チップ(I)における蓋部材を構成する材料は、特に制限されない。例えば、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリイミド、PDMS(ポリジメチルシロキサン)、生分解性ポリマー、これらをフッ素化したポリマー、ガラス等、一般的な培養容器に用いられる材料が挙げられる。これらの材料は1種単独でも2種以上を組み合わせてもよい。
細胞培養チップ(I)における蓋部材は、好ましくは、生分解性ポリマーから構成される。蓋部材が、生分解性ポリマーから構成されると、形成された軸索束と共に蓋部材も生体内に移植することができる。生分解性ポリマーについては、後述する。
【0055】
[生分解性ポリマー]
生分解性ポリマーとは、生体内で分解又は吸収される高分子化合物を意味し、生体吸収性ポリマー、生体適合性ポリマーと言い換えることができる。
生分解性ポリマーは、生体内において分解又は吸収されるので、生分解性ポリマーから構成される部材は、生体内に移植することができる。
生分解性ポリマーは、生物由来の高分子化合物であってもよく、半合成又は合成された高分子化合物であってもよい。生分解性ポリマーの重量平均分子量は特に限定されず、例えば、10000~500000であってもよい。
【0056】
生分解性ポリマーは、細胞培養チップの部材を形成できる程度の成形性及び強度を有する生分解性ポリマーであれば特に限定されないが、具体的には、例えば、エステル(共)重合体、ポリアミノ酸類、多糖類、及びポリエチレングリコールが挙げられる。
生分解性ポリマーは、1種単独でも2種以上を組み合わせてもよい。
【0057】
エステル(共)重合体としては、例えば、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸との重合体、ヒドロキシカルボン酸の重合体等が挙げられ、具体的には例えば、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸(ポリ-L-乳酸、ポリ-D-乳酸、ポリ-DL-乳酸)、乳酸-グリコール酸共重合体、乳酸-カプロラクトン共重合体、グリコール酸-カプロラクトン共重合体、乳酸-グリコール酸-カプロラクトン共重合体;ポリリンゴ酸、ポリ-p-ジオキサノン(PDO)、ポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート);ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシヘキサン酸、及びヒドロキシオクタン酸からなる群より選ばれる1種以上である、単量体(a)の単独重合体及び共重合体;より具体的には、3-ヒドロキシ酪酸(略称:3HB)のホモポリマーであるポリヒドロキシ酪酸(P(3HB)、3HBと3-ヒドロキシ吉草酸(略称:3HV)の共重合体P(3HB-co-3HV)、3HBと3-ヒドロキシヘキサン酸(略称:3HH)の共重合体P(3HB-co-3HH)(略称:PHBH)、3HBと4-ヒドロキシ酪酸(略称:4HB)の共重合体P(3HB-co-4HB)、乳酸(略称:LA)と3HBの共重合体P(LA-co-3HB)などが挙げられる。
【0058】
ポリアミノ酸類としては、例えば、ポリアミノ酸、ポリアミノ酪酸、ペプチド、タンパク質、糖タンパク質、リン酸化タンパク質等が挙げられ、具体的には例えば、α-アミノ酸(アラニン、アルギニン及びその塩、アスパラギン、アスパラギン酸及びその塩、システイン、グルタミン、グルタミン酸及びその塩、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン及びその塩、ヒドロキシリジン及びその塩、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、ヒドロキシプロリン、セリン、トレオニン及びその塩、トリプトファン、チロシン、バリン、並びにこれらの誘導体からなる群から選択される1種以上)を含むポリα-アミノ酸、ポリグルタミン酸、ポリリジン、ポリ(グルタミン酸ベンジル)、ポリ(グルタミン酸メチル)、ポリα-アミノ酪酸、ポリβ-アミノ酪酸、ポリγ-アミノ酪酸、ゼラチン、ペクチン、コラーゲン、アルブミン、グロブリン、フィブリン、フィブリノーゲン、トランスフェリン、及びカゼイン(α-カゼイン、β-カゼイン、κ-カゼイン)が挙げられる。
【0059】
多糖類としては、例えば、プルラン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デンプン、グリコーゲン、ペクチン、カラギーナン、アガロース、アミロース、アミロペクチン、キシログリカン、エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、デキストラン、デキストリン、カルメロース、キトサン、アルギン酸及びそれらの塩などが挙げられる。
【0060】
生分解性ポリマーは、生分解性に優れることから、単量体(a)の単独重合体及び共重合体、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、乳酸-グリコール酸共重合体、乳酸-カプロラクトン共重合体、グリコール酸-カプロラクトン共重合体、乳酸-グリコール酸-カプロラクトン共重合体、ポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)、キトサン、ヒアルロン酸、ゼラチン、コラーゲン、ペクチン、アルギン酸、並びにポリエチレングリコールからなる群より選ばれる1種以上であり、前記単量体(a)が、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシヘキサン酸、及びヒドロキシオクタン酸からなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。中でも、加工性に優れることから、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、乳酸-グリコール酸共重合体、乳酸-カプロラクトン共重合体、グリコール酸-カプロラクトン共重合体、及び乳酸-グリコール酸-カプロラクトン共重合体からなる群より選ばれる1種以上であることがより好ましい。さらに、分解に伴ってポリマーが細片化せず、ポリマー表面から溶解し、使用目的に応じて機械的物性及び分解速度を制御しやすいことから、乳酸-カプロラクトン共重合体及び乳酸-グリコール酸-カプロラクトン共重合体からなる群より選ばれる1種以上であることがさらに好ましい。
【0061】
市販のポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、乳酸-グリコール酸共重合体、乳酸-カプロラクトン共重合体、グリコール酸-カプロラクトン共重合体、乳酸-グリコール酸-カプロラクトン共重合体としては、例えば多木化学株式会社製のタキソーブTMCL-20、CDL-20、CLG-244を好ましく用いることができる。
【0062】
生分解性ポリマーは、Tg(ガラス転移温度)が好ましくは-100~100℃、より好ましくは-100~30℃である。Tg(ガラス転移温度)が前記範囲内にあると、生分解性ポリマーから構成される部材は、柔軟性に優れ、自己融着しやすい。
【0063】
生分解性ポリマーは、結晶性樹脂でも非晶性樹脂であってもよいが、非晶性樹脂であることが好ましい。生分解性ポリマーが非晶性樹脂であると、生分解性ポリマーから構成される部材は透明性に優れる。
【0064】
[細胞培養チップ(I)の用途]
細胞培養チップ(I)の第一チャンバー部に神経細胞を播種して培養すると、前記神経細胞の軸索が、伸長して流路部に到達し、流路部内でさらに伸長しながら軸索束を形成することができる。チップ基材の流路部は生分解性ポリマーから構成されるので、形成された軸索束は、流路部に接着していても、そこから剥がすことなく、流路部と共に生体内に移植することができる。細胞培養チップ(I)を用いると、形状を保ったまま生体内に移植することができる軸索束を作製することができる。
【0065】
本発明のもう1つの態様は、細胞培養チップ(I)を用いる軸索束の作製方法であって、前記第一チャンバー部に神経細胞を播種する工程(A)、工程(A)で得られた前記神経細胞を培養して軸索を伸長させ、軸索束を形成させる工程(B)、を含む、軸索束の作製方法である。
【0066】
本発明のさらにもう1つの態様は、細胞培養チップ(I)を用いる軸索の移植方法であって、前記第一チャンバー部に神経細胞を播種する工程(A)、工程(A)で得られた前記神経細胞を培養して軸索を伸長させ、軸索束を形成させる工程(B)、工程(B)で得られた前記軸索束を、前記流路部と共にヒト又は非ヒト動物に移植する工程(C)、を含む、軸索の移植方法である。
【0067】
細胞培養チップ(I)を用いて作製した軸索を生体内に移植すると、外傷又は神経変性疾患等によって損傷された神経を治療することができる。
【0068】
工程(A)は、前記第一チャンバー部に神経細胞を播種する工程である。第一チャンバー部に神経細胞を播種する方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。
【0069】
播種する神経細胞は1つでも複数でもよい。複数の神経細胞は、個々の細胞が解離した状態で播種されてもよいし、細胞塊(sphere)を形成した状態で播種してもよいが、細胞塊(sphere)を形成した状態で播種することが好ましい。
第一チャンバー部に神経細胞を播種する密度は、神経細胞の種類に応じて適宜決定することができる。
【0070】
工程(B)は、工程(A)で得られた前記神経細胞を培養して軸索を伸長させ、軸索束を形成させる工程である。
神経細胞を培養する方法及び期間は、神経細胞の種類に応じて適宜決定することができる。神経細胞を培養する期間は、例えば数日~数週間である。
工程(B)では、少なくとも軸索束が流路部中央に到達するまで培養することが好ましく、少なくとも軸索束が流路部末端に到達するまで培養することがより好ましく、少なくとも軸索束が第二チャンバー部に到達するまで培養することがさらに好ましい。
【0071】
工程(C)は、工程(B)で得られた前記軸索束を、前記流路部と共にヒト又は非ヒト動物に移植する工程である。前記軸索束を、流路部と共にヒト又は非ヒト動物に移植する方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。
【0072】
細胞培養チップ(I)は、少なくともチップ基材の流路部が生分解性ポリマーから構成されるが、好ましくは、さらに、第一チャンバー部、第二チャンバー部、及び蓋部材から選ばれる1以上の部材が生分解性ポリマーから構成される。生分解性ポリマーから構成される部材は、軸索束と共に生体内に移植することができるからである。
例えば、細胞培養チップ(I)のチップ基材の流路部のみが生分解性ポリマーから構成される場合、工程(B)の後、前記流路部以外の部材を取り除き、前記流路部と共に、前記流路部において形成された軸索束を生体内に移植することができる。
また、細胞培養チップ(I)の第一チャンバー部及びチップ基材の流路部が生分解性ポリマーから構成される場合、工程(B)の後、前記第一チャンバー部及び前記流路部以外の部材を取り除き、前記第一チャンバー部及び前記流路部と共に、第一チャンバー部に播種された神経細胞の細胞体及び前記流路部において形成された軸索束を生体内に移植することができる。
また、細胞培養チップ(I)の第一チャンバー部、チップ基材の流路部、及び第二チャンバー部が生分解性ポリマーから構成される場合、工程(B)の後、前記第一チャンバー部、前記流路部及び前記第二チャンバー部以外の部材を取り除き、前記第一チャンバー部、前記流路部及び前記第二チャンバー部と共に、第一チャンバー部に播種された神経細胞の細胞体、前記流路部において形成された軸索束、及び第二チャンバー部に播種された、神経細胞又は神経細胞以外の細胞を生体内に移植することができる。
また、細胞培養チップ(I)のチップ基材の流路部、及び蓋部材が生分解性ポリマーから構成される場合、工程(B)の後、前記流路部及び前記蓋部材以外の部材を取り除き、前記流路部及び前記蓋部材と共に、前記流路部において形成された軸索束を生体内に移植することができる。
また、細胞培養チップ(I)全体が生分解性ポリマーから構成される場合、工程(B)の後、細胞培養チップ(I)全体を形成された軸索束と共に生体内に移植することができる。
【0073】
前記軸索束は、細胞体を含まない軸索束のみで移植してもよいし、第一チャンバー部に播種された神経細胞の細胞体と共に移植してもよいし、第二チャンバー部に播種された神経細胞又は神経細胞以外の細胞と共に移植してもよい。
また、前記軸索束は、必要に応じて、トリミングを行ってから移植してもよい。例えば、軸索束は、第一チャンバー部に播種された神経細胞の細胞体を切除してから移植してもよいし、第二チャンバー部に播種された神経細胞又は神経細胞以外の細胞を切除してから移植してもよい。また、前記軸索束の一部を切除してから移植してもよい。
【0074】
軸索束及び流路部は、広げた状態で移植してもよいし、折りたたむ、丸める、巻く等、形状を変化させてから移植してもよい。折りたたむ、丸める、巻く等してから移植すると、複数のモジュールにおいて作製された複数の軸索束を近接した状態で移植できるため、好ましい。
【0075】
移植する軸索束及び流路部は、薬学的に許容される一つあるいはそれ以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られる任意の方法により製造した医薬製剤として提供してもよい。薬学的に許容される担体としては、例えば生理的食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水グルコース液、及び緩衝生理食塩水が挙げられる。また、前記医薬製剤には、賦型剤、安定化剤、保存剤等を添加してもよい。
【0076】
[細胞培養チップ(II)]
細胞培養チップ(II)は、神経細胞を培養するための細胞培養チップであって、前記神経細胞の細胞体を受容する第一チャンバー部と、前記第一チャンバー部と一端部が連通し水平方向に延設された流路部と、を少なくとも有するチップ基材を備え、さらに前記チップ基材の上面には、生分解性ポリマーから構成される蓋部材が設けられている、細胞培養チップである。
【0077】
[チップ基材]
細胞培養チップ(II)におけるチップ基材は、細胞培養チップ(I)におけるチップ基材と同様である。
【0078】
[第一チャンバー部]
細胞培養チップ(II)における第一チャンバー部は、細胞培養チップ(I)における第一チャンバー部と同様である。
【0079】
[流路部]
細胞培養チップ(II)における流路部は、流路部を構成する材料以外は、細胞培養チップ(I)における流路部と同様である。
【0080】
細胞培養チップ(II)において、流路部を構成する材料は、特に制限されない。例えば、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリイミド、これらのフッ素化合物、PDMS(ポリジメチルシロキサン)、生分解性ポリマー、ガラス等、一般的な培養容器に用いられる材料が挙げられる。これらの材料は1種単独でも2種以上を組み合わせてもよい。
細胞培養チップ(II)において、流路部は、好ましくは、生分解性ポリマーから構成される。流路部が、生分解性ポリマーから構成されると、形成された軸索束と共に流路部も生体内に移植することができる。
【0081】
[第二チャンバー部]
細胞培養チップ(II)における第二チャンバー部は、細胞培養チップ(I)における第二チャンバー部と同様である。
【0082】
[蓋部材]
細胞培養チップ(II)は、前記チップ基材の上面に、生分解性ポリマーから構成される蓋部材が設けられている。細胞培養チップ(II)における蓋部材は、コンタミネーションを防止するためだけでなく、前記蓋部材をチップ基材の上面に配設した後、前記細胞培養チップの上面下面を反転させ、前記蓋部材のチップ基材側の面で前記神経細胞を培養して軸索を伸長させ、軸索束を形成させるために用いる。細胞培養チップ(II)における蓋部材は、生分解性ポリマーから構成されるので、形成された軸索束と共に生体内に移植することができる。
【0083】
細胞培養チップ(II)における蓋部材の形状は特に制限されないが、好ましくはシート状又はフィルム状である。また、細胞培養チップの上面下面を反転した際に、チップ基材の上面と蓋部材の間から培地が漏れ出ないように、チップ基材の上面と密着できる、シール性を有するシート状又はフィルム状の蓋部材が好ましい。
【0084】
細胞培養チップ(II)における蓋部材の大きさは特に制限されないが、好ましくは少なくとも流路部を覆える大きさであり、より好ましくは少なくとも第一チャンバー部、及び流路部を覆える大きさであり、さらに好ましくは少なくとも第一チャンバー部、流路部、及び第二チャンバー部を覆える大きさである。
【0085】
細胞培養チップ(II)における蓋部材の厚さは特に制限されないが、好ましくは10~500μmであり、より好ましくは20~300μmである。蓋部材の厚さが上記範囲内にあると、生体内において分解されやすい。
【0086】
[生分解性ポリマー]
細胞培養チップ(II)における生分解性ポリマーは、細胞培養チップ(I)における生分解性ポリマーと同様である。
【0087】
[細胞培養チップ(II)の用途]
細胞培養チップ(II)の第一チャンバー部に神経細胞を播種した後、蓋部材をチップ基材の上面に配設し、前記細胞培養チップの上面下面を反転させてから、前記蓋部材のチップ基材側の面で前記神経細胞を培養すると、前記神経細胞の軸索が、伸長して流路部に到達し、流路部内でさらに伸長しながら軸索束を形成することができる。前記蓋部材は生分解性ポリマーから構成されるので、軸索束は、前記蓋部材に接着していても、そこから剥がすことなく、前記蓋部材と共に生体内に移植することができる。細胞培養チップ(II)を用いると、形状を保ったまま生体内に移植することができる軸索束を作製することができる。
【0088】
本発明のもう1つの態様は、細胞培養チップ(II)を用いる軸索束の作製方法であって、前記第一チャンバー部に神経細胞を播種する工程(α)、前記蓋部材をチップ基材の上面に配設する工程(β)、前記細胞培養チップの上面下面を反転させる工程(γ)、及び前記蓋部材のチップ基材側の面で前記神経細胞を培養して軸索を伸長させ、軸索束を形成させる工程(δ)、を含む、軸索束の作製方法である。
【0089】
さらに、本発明のさらにもう1つの態様は、細胞培養チップ(II)を用いる軸索の移植方法であって、前記第一チャンバー部に神経細胞を播種する工程(α)、前記蓋部材をチップ基材の上面に配設する工程(β)、前記細胞培養チップの上面下面を反転させる工程(γ)、前記蓋部材のチップ基材側の面で前記神経細胞を培養して軸索を伸長させ、軸索束を形成させる工程(δ)、及び工程(δ)で得られた前記軸索束を、前記蓋部材と共にヒト又は非ヒト動物に移植する工程(ε)、を含む、軸索の移植方法である。
【0090】
細胞培養チップ(II)を用いて作製した軸索を生体内に移植すると、外傷又は神経変性疾患等によって損傷された神経を治療することができる。
【0091】
工程(α)は、前記第一チャンバー部に神経細胞を播種する工程である。第一チャンバー部に神経細胞を播種する方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。
【0092】
播種する神経細胞は1つでも複数でもよい。複数の神経細胞は、個々の細胞が解離した状態で播種されてもよいし、細胞塊(sphere)を形成した状態で播種してもよいが、多数の軸索から構成される軸索束を形成しやすいことから、細胞塊(sphere)を形成した状態で播種することが好ましい。
第一チャンバー部に神経細胞を播種する密度は、神経細胞の種類に応じて適宜決定することができる。
【0093】
工程(β)は、蓋部材をチップ基材の上面に配設する工程である。蓋部材をチップ基材の上面に配設する方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。蓋部材は、チップ基材の上面に固定することが好ましく、固定の方法としては、例えば、磁力による固定、接着による固定、機械的係合、弾力性を有するバネ部材による挟持、又はネジ部材による緊締等の方法が挙げられる。これらの中でも、蓋部材がチップ基材の上面に密着し、培地が漏れ出しにくいことから、接着による固定が好ましく、蓋部材を融着させることがより好ましい。
【0094】
工程(γ)は、細胞培養チップの上面下面を反転させる工程である。工程(γ)を行う前は、通常、第一チャンバー部の底面に培地が保持又は貯留されるので、第一チャンバー部の底面が培養面であるが、工程(γ)を行った後は、蓋部材のチップ基材側の面、すなわち、蓋部材の内側面が培養面となる。
【0095】
工程(δ)は、前記蓋部材のチップ基材側の面で前記神経細胞を培養して軸索を伸長させ、軸索束を形成させる工程である。
神経細胞を培養する方法及び期間は、神経細胞の種類に応じて適宜決定することができる。神経細胞を培養する期間は、例えば数日~数週間である。
工程(δ)では、少なくとも軸索束が流路部中央に到達するまで培養することが好ましく、少なくとも軸索束が流路部末端に到達するまで培養することがより好ましく、少なくとも軸索束が第二チャンバー部に到達するまで培養することがさらに好ましい。
【0096】
工程(ε)は、工程(δ)で得られた前記軸索束を、前記蓋部材と共にヒト又は非ヒト動物に移植する工程である。前記軸索束を、前記蓋部材と共にヒト又は非ヒト動物に移植する方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。
【0097】
細胞培養チップ(II)は、少なくとも蓋部材が生分解性ポリマーから構成されるが、好ましくは、さらに、第一チャンバー部、第二チャンバー部、及び流路部から選ばれる1以上の部材が生分解性ポリマーから構成される。生分解性ポリマーから構成される部材は、軸索束と共に生体内に移植することができるからである。
例えば、細胞培養チップ(II)の蓋部材のみが生分解性ポリマーから構成される場合、工程(δ)の後、前記蓋部材以外の部材を取り除き、前記蓋部材と共に、前記蓋部材において形成された軸索束を生体内に移植することができる。
また、細胞培養チップ(II)の流路部及び蓋部材が生分解性ポリマーから構成される場合、工程(δ)の後、前記流路部及び前記蓋部材以外の部材を取り除き、前記流路部及び前記蓋部材と共に、前記蓋部材において形成された軸索束を生体内に移植することができる。
また、細胞培養チップ(II)の第一チャンバー部及び蓋部材が生分解性ポリマーから構成される場合、工程(δ)の後、前記第一チャンバー部及び前記蓋部材以外の部材を取り除き、前記第一チャンバー部及び前記蓋部材と共に、第一チャンバー部に播種された神経細胞の細胞体及び前記蓋部材において形成された軸索束を生体内に移植することができる。
また、細胞培養チップ(II)の流路部、第一チャンバー部、及び蓋部材が生分解性ポリマーから構成される場合、工程(δ)の後、前記流路部、前記第一チャンバー部、及び蓋部材以外の部材を取り除き、前記流路部、第一チャンバー部、及び蓋部材と共に、第一チャンバー部に播種された神経細胞の細胞体、及び前記蓋部材において形成された軸索束を生体内に移植することができる。
また、細胞培養チップ(II)の流路部、第一チャンバー部、蓋部材、及び第二チャンバー部が生分解性ポリマーから構成される場合、工程(δ)の後、前記流路部、第一チャンバー部、蓋部材、及び第二チャンバー部以外の部材を取り除き、前記流路部、第一チャンバー部、蓋部材、及び第二チャンバー部と共に、第一チャンバー部に播種された神経細胞の細胞体、前記蓋部材において形成された軸索束、及び第二チャンバー部に播種された、神経細胞又は神経細胞以外の細胞を生体内に移植することができる。
また、細胞培養チップ(II)全体が生分解性ポリマーから構成される場合、工程(δ)の後、細胞培養チップ(II)全体を形成された軸索束と共に生体内に移植することができる。
【0098】
前記軸索束は、細胞体を含まない軸索束のみで移植してもよいし、第一チャンバー部に播種された神経細胞の細胞体と共に移植してもよいし、第二チャンバー部に播種された神経細胞又は神経細胞以外の細胞と共に移植してもよい。
また、前記軸索束は、必要に応じて、トリミングを行ってから移植してもよい。例えば、軸索束は、第一チャンバー部に播種された神経細胞の細胞体を切除してから移植してもよいし、第二チャンバー部に播種された神経細胞又は神経細胞以外の細胞を切除してから移植してもよい。また、前記軸索束の一部を切除してから移植してもよい。
【0099】
軸索束及び蓋部材は、広げた状態で移植してもよいし、折りたたむ、丸める、巻く等、形状を変化させてから移植してもよい。折りたたむ、丸める、巻く等してから移植すると、複数のモジュールにおいて作製された複数の軸索束を近接した状態で移植できるため、好ましい。
【0100】
移植する軸索束及び蓋部材は、薬学的に許容される一つあるいはそれ以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られる任意の方法により製造した医薬製剤として提供してもよい。薬学的に許容される担体としては、例えば生理的食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水グルコース液、及び緩衝生理食塩水が挙げられる。また、前記医薬製剤には、賦型剤、安定化剤、保存剤等を添加してもよい。
【0101】
細胞培養チップ(I)及び細胞培養チップ(II)は、少なくともその培養面に表面改質処理を行ってもよい。
表面改質処理に用いる方法は特に限定されないが、例えばコロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、紫外線処理等の親水化処理、エステル化、シリル化、フッ化等の疎水化処理、表面グラフト重合、化学蒸着、エッチング、又は、ヒドロキシル基、アミノ基、スルホン基、チオール基、カルボキシル基等の特定の官能基付加、シランカップリング、チタンカップリング、ジルコニウムカップリング等の特定の官能基による処理、酸化剤等による表面粗化、ラビングやサンドブラスト等の物理的処理等が挙げられる。これらの表面改質処理は、単独で行ってもよいし、2種以上を組み合わせて行ってもよい。
【0102】
細胞培養チップ(I)及び細胞培養チップ(II)は、その培養面上に天然高分子材料、合成高分子材料、又は無機材料をコーティングしてもよい。
前記天然高分子材料、合成高分子材料、又は無機材料は特に制限されないが、天然高分子材料として、コラーゲン、ゼラチン、アルギン酸、ヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸等のグリコサミノグリカン、フィブロネクチン、ラミニン、フィブリノーゲン、オステオポンチン、テネイシン、ビトロネクチン、トロンボスポンジン、アガロース、エラスチン、ケラチン、キトサン、フィブリン、フィブロイン、ポリリジン、糖類、合成高分子材料として、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリエチレングリコール、ポリカプロラクトン、合成ペプチド類、合成タンパク質類、ポリヒドロキシエチルメタクリラート、ポリエチレンイミン、無機材料として、β-リン酸三カルシウム、炭酸カルシウムなどが挙げられる。
【0103】
細胞の接着性や細胞の増殖性を向上させる、細胞の機能をより長期に維持させる、などの観点から、コラーゲン、ゼラチン、ラミニン、ポリリジン等のタンパク質、又はペプチドによるコーティングが好ましく、コラーゲン又はポリリジンによるコーティング処理がより好ましい。これらのコーティングは、1種単独でもよいし、2種以上を組み合わせて行ってもよい。
【0104】
細胞培養チップ(I)及び細胞培養チップ(II)は、コンタミネーション防止のために、消毒・滅菌処理を施してもよい。消毒・滅菌処理の方法としては、特に制限されず、流通蒸気法、煮沸法、間歇法、紫外線法等の物理的消毒法、オゾン等の気体、エタノール等の消毒薬を用いる化学的消毒法;高圧蒸気法、乾熱法等の加熱滅菌法;ガンマ線法、電子線法、高周波法等の照射滅菌法;酸化エチレンガス法、過酸化水素ガスプラズマ法等のガス滅菌法等が挙げられる。中でも操作が簡便で、充分に滅菌が行えることから、エタノール消毒法、高圧蒸気滅菌法、ガンマ線滅菌法、電子線滅菌法、又は酸化エチレンガス滅菌法が好ましい。これらの消毒・滅菌処理は、1種単独で行ってもよいし、2種以上を組み合わせて行ってもよい。
【0105】
細胞培養チップ(I)及び細胞培養チップ(II)の製造方法は特に制限されず、製造に用いる機器も制限されない。細胞培養チップ(I)及び細胞培養チップ(II)は、切削加工、光リソグラフィ法、電子線直接描画法、粒子線ビーム加工法、走査プローブ加工法等、微粒子の自己組織化、ナノインプリント法、キャスト法、射出成形法に代表される成形加工法、めっき法、3Dプリンターを用いた方法、これらを組み合わせた方法等により製造することができるが、ナノインプリント法又は3Dプリンターを用いて製造することが好ましい。ナノインプリント法によれば、モールドの微細な形状が正確に転写されるので、設計どおりの形状とすることができるため、成形性が優れたものとなる。3Dプリンターを用いれば、操作が容易であり、また、モールドの制約を受けずに優れた成形性が得られる。
細胞培養チップ(I)及び細胞培養チップ(II)は、第一チャンバー部及び流路部等の部材をナノインプリント法又は3Dプリンターを用いて製造してから、チップ基材と接合してもよい。
【0106】
[細胞培養チップの製造方法]
本発明の一態様は、細胞を培養するための細胞培養チップの製造方法であって、前記細胞培養チップが、前記神経細胞の細胞体を受容する第一チャンバー部と、前記第一チャンバー部と一端部が連通し水平方向に延設された流路部と、を少なくとも有するチップ基材を備え、前記流路部の垂直方向の最大深さが20~200μmの範囲内であり、前記流路部の水平方向の最大幅が20~200μmの範囲内であり、前記第一チャンバー部及び前記流路部に対応する凹凸パターンを有するモールドを用いて、生分解性ポリマーを含む樹脂組成物に前記凹凸パターンを転写する工程を含む、製造方法である。
この製造方法により、例えば、細胞培養チップ(I)を製造することができる。
【0107】
前記モールドは、神経細胞の細胞体を受容する第一チャンバー部と、流路部に対応する凹凸パターンを有し、前記流路部は、前記第一チャンバー部と一端部が連通し水平方向に延設され、前記流路部の垂直方向の最大深さが20~200μmの範囲内であり、前記流路部の水平方向の最大幅が20~200μmの範囲内である。
【0108】
前記モールドの材質としては、特に制限されないが、例えば、ニッケル、鉄、ステンレス鋼、ゲルマニウム、チタン、シリコン等の金属材料;ガラス、石英、アルミナ等の無機材料;ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂等の樹脂材料;ダイヤモンド、黒鉛等の炭素材料等が挙げられる。
【0109】
前記モールドを用いて、生分解性ポリマーを含む樹脂組成物に前記凹凸パターンを転写する方法は特に制限されず、公知のナノインプリント法を用いることができる。ナノインプリント法としては、以下の方法1~3が例示される。
【0110】
方法1:生分解性ポリマーを含む樹脂組成物から形成される成形体(例:フィルム等)の表面をモールドの凹凸パターンを有する面で押圧する方法。
より具体的には、成形体にガラス転移温度以上に加熱したモールドを圧着させる方法、成形体をガラス転移温度以上に加熱してモールドを圧着させる方法、又は成形体とモールドをガラス転移温度以上に加熱してモールドを圧着させる方法が挙げられる。
【0111】
方法2:生分解性ポリマーを含む樹脂組成物を加熱溶融し、加熱溶融した樹脂組成物をモールドの微細凹凸パターンを有する面上に押出して加圧成形する方法。
【0112】
方法3:生分解性ポリマーを含む樹脂組成物を含む溶液ないし分散液をモールドの凹凸パターンを有する面に接触した後に乾燥させる方法。
前記樹脂組成物を溶解あるいは分散可能な媒体に溶解させて溶液又は分散液を調製する。溶液又は分散液中の樹脂組成物の濃度は特に制限されない。
溶液又は分散液はモールドに塗布してもよいし、基板等に塗布した後、モールドを接触させてもよい。