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特開2023-66666微細セルロース繊維固形物、及び微細セルロース繊維固形物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066666
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】微細セルロース繊維固形物、及び微細セルロース繊維固形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 5/14 20060101AFI20230509BHJP
   D06M 13/248 20060101ALI20230509BHJP
   D06M 101/06 20060101ALN20230509BHJP
【FI】
C08B5/14
D06M13/248
D06M101:06
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177388
(22)【出願日】2021-10-29
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】望月 誠
(72)【発明者】
【氏名】佐古 尚裕
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健
(72)【発明者】
【氏名】岩本 伸一朗
(72)【発明者】
【氏名】谷 遼太郎
【テーマコード(参考)】
4C090
4L033
【Fターム(参考)】
4C090AA08
4C090BA24
4C090BB63
4C090BC09
4C090BD36
4C090CA38
4C090DA28
4L033AA02
4L033AB01
4L033AC15
4L033BA23
(57)【要約】
【課題】本開示の目的は、容易に水等に分散させることが可能な、微細セルロース繊維固形物を提供することである。
【解決手段】本発明の一態様は、微細セルロース繊維と、水とを含む微細セルロース繊維固形物であり、前記微細セルロース繊維の平均繊維幅が、1nm~1000nmであり、前記微細セルロース繊維は、下記一般式(1)(一般式(1)において、nは1~3の整数であり、Mn+はn価の陽イオンであり、波線は他の原子への結合部位である。)で表される硫酸エステル基を有し、前記微細セルロース繊維は、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量が、0.3mmol/g以上、3.0mmol/g以下であり、前記固形物の水分率が50質量%以下であり、前記固形物の比表面積が5m/g以上である、微細セルロース繊維固形物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細セルロース繊維と、水とを含む微細セルロース繊維固形物であり、
前記微細セルロース繊維の平均繊維幅が、1nm~1000nmであり、
前記微細セルロース繊維は、下記一般式(1)で表される硫酸エステル基を有し、
前記微細セルロース繊維は、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量が、0.3mmol/g以上、3.0mmol/g以下であり、
前記固形物の水分率が50質量%以下であり、
前記固形物の比表面積が1m/g以上である、微細セルロース繊維固形物。
【化1】
(一般式(1)において、nは1~3の整数であり、Mn+はn価の陽イオンであり、波線は他の原子への結合部位である。)
【請求項2】
前記微細セルロース繊維固形物を、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%となるように水に分散させることにより調製した、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%の水分散液の25℃における2.6rpmで測定される粘度が、500mPa・S以上である、請求項1に記載の微細セルロース繊維固形物。
【請求項3】
前記微細セルロース繊維固形物を、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%となるように水に分散させることにより調製した、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%の水分散液の25℃における2.6rpmで測定される粘度及び26rpmで測定される粘度から求めたチキソトロピックインデックス(TI値)が、1~30である、請求項1又は2に記載の微細セルロース繊維固形物。
【請求項4】
前記一般式(1)におけるMn+が、ナトリウムイオン(Na)である、請求項1~3のいずれか1項に記載の微細セルロース繊維固形物。
【請求項5】
前記微細セルロース繊維固形物を、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%となるように水に分散させることにより調製した、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%の水分散液の全光線透過率が、90%以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の微細セルロース繊維固形物。
【請求項6】
前記微細セルロース繊維固形物を、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%となるように水に分散させることにより調製した、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%の水分散液のヘイズ値が、20%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の微細セルロース繊維固形物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の微細セルロース繊維固形物を水に分散する工程を有する、微細セルロース繊維水分散液の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の製造方法で得られた微細セルロース繊維水分散液を成膜する工程を有する、フィルムの製造方法。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項に記載の微細セルロース繊維固形物を製造する方法であり、
微細セルロース繊維の水分散液を乾燥し、微細セルロース繊維固形物を得る乾燥工程を有する、微細セルロース繊維固形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、微細セルロース繊維固形物、及び微細セルロース繊維固形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境意識の高まりからバイオマス由来材料の実用化を目指した検討が世界中で展開されている。例えば木質(木材チップ)から取り出されるセルロースの多くは紙として人々の生活と、CO固定化の両方に大きく貢献している。
【0003】
塗料・コーティング・化粧品業界におけるバイオマス由来材料の活用機運が高まっている。さらには、これらの業界で使用される原材料の製造においてもバイオマス由来材料の活用機運が高まっている。また、これらの分野を始めとする多くの分野において、安全性やクオリティーオブライフの観点から、人体に悪影響な有機溶剤を水系溶剤に変更することが求められている。
【0004】
セルロースの中でもセルロースナノファイバーは、多くの分野で利用されている、又は利用することが望まれている。セルロースナノファイバーはセルロースの繊維をナノサイズにまで解繊したバイオマス由来の化合物であり、水に良分散し、分散液を乾燥させることで容易に透明なナノセルロース膜を得る事ができる。また、樹脂やゴムと混合させると強度・柔軟性・伸び率の向上といった各種物性の向上につながり、環境適合型の新材料として着目されており、様々な提案が従来から行われている。
【0005】
例えば、特許文献1には、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル(以下、TEMPO)等のN-オキシル化合物を酸化触媒として用いて、セルロースを変性することにより得られた微細セルロース繊維が開示されている。
【0006】
例えば、特許文献2には、平均繊維幅が2~50nmの微細繊維状セルロースと、液状化合物とを含む微細繊維状セルロース凝集物が開示されている。特許文献2では、実施例2-1において、微細繊維状セルロースとしてリン酸基を導入した微細繊維状セルロースが開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、微細セルロース繊維含有乾燥固形物の製造方法が開示されており、該製造方法では、パルプを化学的に処理する化学処理工程、該化学処理工程後のパルプを平均繊維幅が1nm~1000nmの微細セルロース繊維に微細化する微細化処理工程等が必須の工程として開示されている。また、特許文献3では、パルプ繊維を構成するセルロースの水酸基の一部にスルホ基を導入する工程が、必須の工程として開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008-1728号公報
【特許文献2】国際公開2014/024876号
【特許文献3】特開2020-97812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般的にセルロースナノファイバーは繊維長が数百nmから最大数10μmであり、繊維幅が1nmから数100nmの繊維である。しかしながら、これまでのセルロースナノファイバーの産業界への適用には、処方設計の自由度や保管・輸送に多くの課題があった。
【0010】
従来はセルロースナノファイバー水分散液を一度乾燥し、セルロースナノファイバーを粉末等の固形物として得た場合には、セルロースナノファイバーの固形物を再度別の水系組成物中に分散させること、及び樹脂等の材料中に均一に分散させることが困難であった。さらに、セルロースナノファイバー水分散液では、セルロースナノファイバーの濃度を高くすることが困難であった。このため、従来のセルロースナノファイバーは、セルロースナノファイバーの濃度が低濃度、例えば0.5~2wt%程度の水分散液として、販売、使用等されることが多かった。このため、セルロースナノファイバー水分散液は、大半が水により構成され、体積及び重量が大きくなり、輸送や保管において、大掛かりな設備が必要であった。また、従来のセルロースナノファイバーは、塗料や化粧品等の組成物に添加する際に、セルロースナノファイバー量を増加させるためには、同時に添加される水の量、すなわち分散媒としての水の量が増えるため、水の量が増えることによる不具合、例えば組成物の粘度特性や、濃度バランス等が大きく崩れるという不具合があり、処方設計の自由度が低いという問題があった。
【0011】
特許文献1に開示された微細セルロース繊維、特許文献2に開示されたリン酸基を導入した微細繊維状セルロースであっても、固形物を得た後に、水に再分散させることは困難であった。
【0012】
特許文献3に開示された微細セルロース繊維含有乾燥固形物は、水への再分散は可能であったが、本発明者らの検討によると、微細セルロース繊維をナノレベルで分散させるためには、分散処理時間が長時間必要であったり、高圧ホモジナイザー等の大掛かりな装置が必要であったり、未だ十分な分散性を有する物ではなかった。
【0013】
また、従来のセルロースナノファイバー水分散液は、水を多量に含むため、保管時に雑菌が繁殖するリスクがあった。このため従来のセルロースナノファイバー水分散液には、防腐剤等の添加材が添加されていることがあったが、セルロースナノファイバーの用途によっては防腐剤の添加は好ましくなかった。さらに特許文献3に開示された微細セルロース繊維含有乾燥固形物では、再分散を可能にするため、微細セルロース繊維以外の成分(例えば分散剤)を用いた態様が開示されているが、セルロースナノファイバーの用途によっては分散剤の添加は好ましくなかった。
【0014】
そこで、本開示の目的は、容易に水等に分散させることが可能な、微細セルロース繊維固形物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行ったところ、特定の微細セルロース繊維固形物であれば、上記課題を解決することができることを見出し、本開示に至った。
【0016】
本実施形態の態様例は、以下の通りに記載される。
【0017】
(1) 微細セルロース繊維と、水とを含む微細セルロース繊維固形物であり、
前記微細セルロース繊維の平均繊維幅が、1nm~1000nmであり、
前記微細セルロース繊維は、下記一般式(1)で表される硫酸エステル基を有し、
前記微細セルロース繊維は、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量が、0.3mmol/g以上、3.0mmol/g以下であり、
前記固形物の水分率が50質量%以下であり、
前記固形物の比表面積が1m/g以上である、微細セルロース繊維固形物。
【化1】
(一般式(1)において、nは1~3の整数であり、Mn+はn価の陽イオンであり、波線は他の原子への結合部位である。)
(2) 前記微細セルロース繊維固形物を、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%となるように水に分散させることにより調製した、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%の水分散液の25℃における2.6rpmで測定される粘度が、500mPa・S以上である、(1)に記載の微細セルロース繊維固形物。
(3) 前記微細セルロース繊維固形物を、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%となるように水に分散させることにより調製した、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%の水分散液の25℃における2.6rpmで測定される粘度及び26rpmで測定される粘度から求めたチキソトロピックインデックス(TI値)が、1~30である、(1)又は(2)に記載の微細セルロース繊維固形物。
(4) 前記一般式(1)におけるMn+が、ナトリウムイオン(Na)である、(1)~(3)のいずれかに記載の微細セルロース繊維固形物。
(5) 前記微細セルロース繊維固形物を、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%となるように水に分散させることにより調製した、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%の水分散液の全光線透過率が、90%以上である、(1)~(4)のいずれかに記載の微細セルロース繊維固形物。
(6) 前記微細セルロース繊維固形物を、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%となるように水に分散させることにより調製した、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%の水分散液のヘイズ値が、20%以下である、(1)~(5)のいずれかに記載の微細セルロース繊維固形物。
(7) (1)~(6)のいずれかに記載の微細セルロース繊維固形物を水に分散する工程を有する、微細セルロース繊維水分散液の製造方法。
(8) (7)に記載の製造方法で得られた微細セルロース繊維水分散液を成膜する工程を有する、フィルムの製造方法。
(9) (1)~(6)のいずれかに記載の微細セルロース繊維固形物を製造する方法であり、
微細セルロース繊維の水分散液を乾燥し、微細セルロース繊維固形物を得る乾燥工程を有する、微細セルロース繊維固形物の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本開示により、容易に水等に分散させることが可能な、微細セルロース繊維固形物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本実施形態の一態様は、微細セルロース繊維と、水とを含む微細セルロース繊維固形物であり、前記微細セルロース繊維の平均繊維幅が、1nm~1000nmであり、前記微細セルロース繊維は、下記一般式(1)で表される硫酸エステル基を有し、前記微細セルロース繊維は、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量が、0.3mmol/g以上、3.0mmol/g以下であり、前記固形物の水分率が50質量%以下であり、前記固形物の比表面積が1m/g以上である、微細セルロース繊維固形物である。
【0020】
本実施形態の微細セルロース繊維固形物は、容易に水等に分散させることが可能である。また、水等に分散させた後の安定性に優れ、液分離が発生しづらい。本実施形態の微細セルロース繊維固形物は、容易に水等に分散するため、分散液ではなく、固形物として組成物中に配合できるため、処方設計の自由度が高く、また、分散剤を用いる必要が無い。さらに、固形物は、水を多量に含む分散液ではないため、輸送及び保管が容易であり、水分量が少ない固形物として保管可能であるため、防腐剤を用いる必要もない。このため、本実施形態の微細セルロース繊維固形物は、塗料・コーティング・化粧品業界を始めとする様々な分野で使用することが可能である。
【0021】
以下、本実施形態について、詳細に説明する。
【0022】
(微細セルロース繊維)
本実施形態の微細セルロース繊維固形物は、微細セルロース繊維を含有する。なお、一般的なセルロース(未変性セルロース)は、グルコースがβ-1,4-グリコシド結合した多糖類であり、(C10で示されるが、本実施形態における微細セルロース繊維は、硫酸エステル基を有することからも明らかなように、変性されたセルロースから構成される繊維である。
【0023】
微細セルロース繊維の平均繊維幅は、1nm~1000nmであり、1nm~100nmであることが好ましく、2nm~10nmであることがより好ましい。微細セルロース繊維の平均繊維長は、特に制限はないが、通常は0.1μm~6μmであり、0.1μm~2μmであることが好ましい。
【0024】
平均繊維幅及び平均繊維長は、例えば原子間力顕微鏡(SPM-9700HT、株式会社島津製作所製)を用いて、任意に選択した50本の繊維における繊維幅(繊維径(円相当直径))及び繊維長を計測し、それぞれ加算平均値をとることで測定することができる。平均繊維幅及び平均繊維長は硫酸エステル化反応時間や試薬の配合比を調整することにより、所望の範囲に設定することができる。
【0025】
微細セルロース繊維は、下記一般式(1)で表される硫酸エステル基を有する。なお、微細セルロース繊維を、硫酸エステル化セルロースナノファイバーとも記す。微細セルロース繊維は、通常は繊維を構成するセルロース中のOH基の一部を、一般式(1)で表される硫酸エステル基で置換することにより、硫酸エステル基が導入されている。微細セルロース繊維は、例えば、実施例で示したように、原料パルプを硫酸エステル化及び解繊することにより製造することができる。
【0026】
【化2】
(一般式(1)において、nは1~3の整数であり、Mn+はn価の陽イオンであり、波線は他の原子への結合部位である。)
【0027】
n+としては、水素イオン(H)、金属イオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。nが2又は3の場合、Mn+は、2つ又は3つの-OSO との間でイオン結合を形成する。
【0028】
金属イオンとしては、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオン、その他の金属イオンが挙げられる。
【0029】
ここで、アルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン(Li)、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)、ルビジウムイオン(Rb)、セシウムイオン(Cs)等が挙げられる。アルカリ土類金属イオンとしては、カルシウムイオン(Ca2+)、ストロンチウムイオン(Sr2+)等が挙げられる。遷移金属イオンとしては、鉄イオン、ニッケルイオン、パラジウムイオン、銅イオン、銀イオン等が挙げられる。その他の金属イオンとしては、ベリリウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、アルミニウムイオン等が挙げられる。
【0030】
アンモニウムイオンとしては、NH だけでなく、NH の1つ以上の水素原子が有機基に置き換わってできる各種アミン由来のアンモニウムイオンも挙げられる。アンモニウムイオンとしては、例えば、NH 、第四級アンモニウムカチオン、アルカノールアミンイオン、ピリジニウムイオン等が挙げられる。
【0031】
n+としては、微細セルロース繊維固形物の各用途における加工性の観点から、水素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、又は第四級アンモニウムカチオンが好ましく、ナトリウムイオン(Na)であることが特に好ましい。上記一般式(1)で表される硫酸エステル基が有するMn+としては1種のみであってもよく、2種以上であってもよい。
【0032】
微細セルロース繊維が、繊維を構成するセルロース中のOH基の一部を、一般式(1)で表される硫酸エステル基で置換することにより、硫酸エステル基が導入されている場合には、波線は前記OH基が結合していた炭素原子への結合部位である。
【0033】
微細セルロース繊維は、上記一般式(1)で表される硫酸エステル基の他に、他の置換基を有していてもよい。ここで、微細セルロース繊維が、上記一般式(1)で表される硫酸エステル基以外の基、すなわち、他の置換基を有する場合、他の置換基は通常微細セルロース繊維を構成するセルロース中のOH基の少なくとも1つと置換されている。他の置換基としては、例えば、特に限定されないが、アニオン性置換基及びその塩、エステル基、エーテル基、アシル基、アルデヒド基、アルキル基、アルキレン基、アリール基、これらの2種以上の組み合わせ等が挙げられる。他の置換基が2種以上の組み合わせの場合、それぞれの置換基の含有比率は限定されない。他の置換基としては、中でも、ナノ分散性の観点からアニオン性置換基及びその塩、又はアシル基が好ましい。アニオン性置換基及びその塩としては、特にカルボキシ基、リン酸エステル基、亜リン酸エステル基、ザンテート基が好ましい。アニオン性置換基が塩の形態である場合、ナノ分散性の観点からナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩が特に好ましい。また特に好ましいアシル基としては、ナノ分散性の観点からアセチル基が好ましい。
【0034】
微細セルロース繊維は、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量が、0.3mmol/g以上、3.0mmol/g以下である。硫酸エステル基導入量は、前記範囲内で、用途等に応じて任意の適切な値に設定することができる。微細セルロース繊維の、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量は、微細セルロース繊維1g当たりの硫黄含有率(mmol)で表すことができる。硫黄導入量は、0.5mmol/g以上、3.0mmol/g以下であることが好ましく、0.7mmol/g以上、3.0mmol/g以下であることがより好ましい。硫黄導入量が前記範囲内であると、水中での分散性の観点から好ましい。
【0035】
硫黄導入量は、例えば実施例で記載した燃焼吸収-イオンクロマトグラフィー(IC)法(燃焼吸収-IC法、燃焼IC法)により求めることができる。硫黄導入量は、例えばパルプを解繊する際に用いる溶液(解繊溶液)中の硫酸等の試薬の濃度、解繊溶液に対するパルプの量、反応時間や温度等を制御することにより、調整することができる。
【0036】
(微細セルロース繊維固形物)
本実施形態の微細セルロース繊維固形物は、微細セルロース繊維と、水とを含む。微細セルロース繊維固形物は、微細セルロース繊維及び水以外の成分を含んでいてもよいが、微細セルロース繊維及び水のみから形成されていてもよい。微細セルロース繊維は、水に溶解することが通常無いため、微細セルロース繊維固形物が、微細セルロース繊維及び水のみから形成される場合には、前記固形物及び水から調製された微細セルロース繊維水分散液における固形分とは、微細セルロース繊維を意味し、固形分濃度と、微細セルロース繊維の濃度とは実質的に同義であり、固形分質量と、微細セルロース繊維の質量とは実質的に同義である。
【0037】
微細セルロース繊維固形物の比表面積は、1m/g以上であり、3m/g以上であることが好ましく、5m/g以上であることがより好ましい。また、比表面積は1000m/g以下であることが好ましく、500m/g以下であることがより好ましい。微細セルロース繊維固形物の比表面積は、例えば窒素ガス吸着によるBET法により求めることができる。微細セルロース繊維固形物の比表面積は、例えば微細セルロース繊維水分散液を乾燥させる際に、親水性の有機溶媒を添加することや、乾燥温度を変化させること、凍結乾燥や真空乾燥といった乾燥方法を変化させるにより、調整することができる。
【0038】
微細セルロース繊維固形物の水分率は、50質量%以下であり、30質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。また、水分率は1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましい。水分率が高いほど容易に水に分散させることができる。一方で水分率が低いほど輸送及び保管が容易であり、水分量を増やすことなく、組成物等に配合することができるため、処方設計の自由度が高く好ましい。本発明において水としては、例えば、水道水、イオン交換水、蒸留水、精製水及び天然水が挙げられ、水道水、イオン交換水、蒸留水、精製水が好ましく、イオン交換水、蒸留水、精製水がより好ましい。
【0039】
微細セルロース繊維固形物の水分率は、例えばJIS P8203に準拠して、求めることができる。
【0040】
微細セルロース繊維固形物に含まれる微細セルロース繊維の量としては、通常は50質量%以上であり、70質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましい。また、微細セルロース繊維の量は99質量%以下であることが好ましく、97質量%以下であることがより好ましい。
【0041】
微細セルロース繊維固形物の形状としては、特に制限はないが、粉末状、チップ状、フレーク状、フィルム状等が挙げられる。粉末状とは、例えばメジアン径が0.1~1000μmの粉末を意味する。なお、微細セルロース繊維固形物のメジアン径は、例えばレーザ回折・散乱法の規格ISO 13320及びJIS Z 8825に準拠した乾式粒度分布計を用いて測定することができる。
【0042】
微細セルロース繊維固形物は、微細セルロース繊維固形物を、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%となるように水に分散させることにより調製した、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%の水分散液の25℃における2.6rpmで測定される粘度が、500mPa・S以上であることが好ましく、1000mPa・S以上であることがより好ましく、5000mPa・S以上であることが特に好ましい。また、2.6rpmで測定される粘度が50000mPa・S以下であることが好ましく、40000mPa・S以下であることがより好ましい。なお、2.6rpmは、粘度の測定に用いられる粘度計(例えばB型粘度計)の回転数を意味する。
【0043】
なお、微細セルロース繊維の濃度とは、微細セルロース繊維固形物の濃度とは異なる概念である。すなわち、微細セルロース繊維の濃度とは、微細セルロース繊維固形物中に含まれる、微細セルロースに着目した際の濃度である。例えば、微細セルロース繊維固形物が、微細セルロース繊維及び水のみを含み、水分率が25質量%である場合、微細セルロース繊維固形物を0.4g秤量し、99.6gの水と混合することにより、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%の水分散液を100g調製することができる。
【0044】
微細セルロース繊維固形物は、微細セルロース繊維固形物を、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%となるように水に分散させることにより調製した、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%の水分散液の25℃における2.6rpmで測定される粘度及び26rpmで測定される粘度から求めたチキソトロピックインデックス(TI値)が、1~30であることが好ましく、2~25であることがより好ましく、3~20であることが特に好ましい。なお、2.6rpm及び26rpmはそれぞれ、粘度の測定に用いられる粘度計(例えばB型粘度計)の回転数を意味する。また、TI値は下記式より算出することができる。
TI値=(2.6rpmで測定される粘度)/(26rpmで測定される粘度)
【0045】
微細セルロース繊維固形物は、前記微細セルロース繊維固形物を、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%となるように水に分散させることにより調製した、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%の水分散液の全光線透過率が、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。全光線透過率は、通常は100%以下である。
【0046】
微細セルロース繊維固形物は、前記微細セルロース繊維固形物を、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%となるように水に分散させることにより調製した、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%の水分散液のヘイズ値が、20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。ヘイズ値は通常は0%以上である。
【0047】
微細セルロース繊維固形物が、微細セルロース繊維及び水以外の成分を含む場合には、例えば添加物を含んでいてもよい。添加物としては無機添加物であってもよく、有機添加物であってもよい。
【0048】
無機添加物としては、例えば無機微粒子が挙げられる。無機微粒子の例として、シリカ、マイカ、タルク、クレー、カーボン、炭酸塩(例えば炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム)、酸化物(例えば酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄)、セラミックス(例えばフェライト)、又はこれらの混合物の微粒子が挙げられる。無機微粒子は例えば微細セルロース繊維固形物中に、0.09~5質量%の範囲内の量で含まれていてもよい。
【0049】
有機添加物としては、例えば、樹脂及びゴムからなる群から選択される少なくとも1種の物質が挙げられる。樹脂及びゴムとしては、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂(例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン)、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、アクリルアミド樹脂、シリコーン樹脂、天然ゴム、合成ゴムが挙げられる。また、微細セルロース繊維固形物は、有機添加物として、機能性化合物を含んでもよい。機能性化合物としては、色素、UV吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、界面活性剤が挙げられる。有機添加物は例えば微細セルロース繊維固形物中に、0.09~5質量%の範囲内の量で含まれていてもよい。
【0050】
微細セルロース繊維固形物は、微細セルロース繊維及び水以外の成分を含んでいてもよいが、微細セルロース繊維固形物が、微細セルロース繊維及び水のみから形成されることが、好ましい態様の一つである。なお、微細セルロース繊維及び水のみから形成されるとは、微細セルロース繊維及び水の合計量が微細セルロース繊維固形物の100質量%を占める場合だけでなく、微細セルロース繊維固形物が、微細セルロース繊維及び水を含み、それ以外の成分が意図的に添加されていない場合も含まれる。すなわち、不純物として、微細セルロース繊維及び水以外の成分が微細セルロース繊維固形物に含まれる場合にも、微細セルロース繊維及び水のみから形成される微細セルロース繊維固形物に該当する。すなわち、微細セルロース繊維及び水のみから形成される微細セルロース繊維固形物とは、実質的に微細セルロース繊維及び水のみから形成される微細セルロース繊維固形物を包含する概念である。なお、実質的に微細セルロース繊維及び水のみから形成される微細セルロース繊維固形物とは、例えば、微細セルロース繊維固形物100質量%中に、微細セルロース繊維及び水を合計で99質量%以上含む態様が挙げられる。
【0051】
本実施形態の微細セルロース繊維固形物は、例えば微細セルロース繊維水分散液として、各種用途に使用可能である。本実施形態の微細セルロース繊維水分散液としては、例えば、微細セルロース繊維固形物が水に分散された、微細セルロース繊維水分散液が挙げられる。言い換えると本発明には、一実施形態として、微細セルロース繊維固形物を水に分散する工程を有する、微細セルロース繊維水分散液の製造方法が含まれる。
【0052】
微細セルロース繊維水分散液には、水以外の成分が含まれていてもよい。水以外の成分としては、例えば、塗料・コーティング・化粧品業界等で、水系組成物に配合される各種成分を用いることができる。微細セルロース繊維固形物は、容易に水に分散するため、分散剤を用いることなく、微細セルロース繊維水分散液として、微細セルロース繊維が均一に分散した組成物を得ることができる。また、従来の微細セルロース繊維は、低濃度の水分散液として流通することが通常であったため、水系組成物と混合する際に、微細セルロース繊維と共に、多量の水が水系組成物中に添加されることになり、処方設計の自由度が低かったが、微細セルロース繊維固形物は、直接水系組成物と混合することが可能であるため、処方設計の自由度が高く好ましい。
【0053】
微細セルロース繊維水分散液は、その用途に応じて、適宜使用することができるが、例えば、塗料やコーティングの分野においては、成膜することにより、フィルムを形成することができる。本実施形態のフィルムとしては、例えば微細セルロース繊維水分散液を成膜して作製された、フィルムが挙げられる。言い換えると本発明には、一実施形態として、微細セルロース繊維水分散液を成膜する工程を有する、フィルムの製造方法が含まれる。フィルム(塗膜)の厚さとしては、特に制限はなく、その用途に応じて適宜設定することができる。本実施形態のフィルムは、微細セルロース繊維の分散性に優れる、微細セルロース繊維水分散液から得られるため、フィルムにおいても微細セルロース繊維の凝集が抑制されており好ましい。
【0054】
(微細セルロース繊維固形物の製造方法)
前述の微細セルロース繊維固形物を製造する方法としては特に制限はないが、例えば、水や水以外の分散媒を含む微細セルロース繊維の分散液を乾燥させる工程を経て得る事ができる。水以外の分散媒としては、ジメチルスルホキシド、アルコールやポリオール等の極性有機溶媒、また4級アンモニウム化合物等のイオン液体が挙げられるが、分散媒としては、水又は水と有機溶媒との混合溶媒を用いることが好ましく、安全性等の観点から水を用いることが好ましい。
【0055】
水や水以外の分散媒を含む微細セルロース繊維の分散液を調製する方法としては特に制限はないが、例えば実施例に記載の方法により、セルロースの繊維をナノサイズにまで解繊する際に、硫酸エステル基を導入し、精製を行い、水に分散することにより得ることができる。
【0056】
微細セルロース繊維の分散液から分散媒を除去(乾燥)することにより、微細セルロース繊維固形物を得ることができる。乾燥方法としては、公知の方法を用いることができ、特に限定されない。例えば、凍結乾燥、スプレードライ、圧搾、風乾、熱風乾燥、晶析法、真空乾燥を挙げることができる。乾燥装置は、特に限定されないが、コニカル乾燥装置、連続式のトンネル乾燥装置、バンド乾燥装置、縦型乾燥装置、垂直ターボ乾燥装置、多重段円板乾燥装置、通気乾燥装置、回転乾燥装置、気流乾燥装置、スプレードライヤー乾燥装置、噴霧乾燥装置、円筒乾燥装置、ドラム乾燥装置、ベルト乾燥装置、スクリューコンベア乾燥装置、加熱管付回転乾燥装置、振動輸送乾燥装置、回分式の箱型乾燥装置、通気乾燥装置、真空箱型乾燥装置、及び撹拌乾燥装置等を単独で又は2つ以上組み合わせて用いることができる。乾燥方法としては、短時間で乾燥が可能な熱風乾燥が好ましい。
【0057】
微細セルロース繊維固形物は、必要に応じて乾式粉砕機等を用いて粉砕してもよく、所望の大きさの粉末として、使用、保管、流通に供してもよい。
【0058】
本実施形態の微細セルロース繊維固形物の製造方法として、前述の微細セルロース繊維固形物を製造する方法であり、微細セルロース繊維の水分散液を乾燥し、微細セルロース繊維固形物を得る乾燥工程を有する、微細セルロース繊維固形物の製造方法が挙げられる。分散液の分散媒としては、少なくとも水が用いられ、水又は水と有機溶媒との混合溶媒を用いることが好ましく、安全性等の観点から水を用いることがより好ましい。本実施形態では、予め微細セルロース繊維の水分散液を調製する。該水分散液を乾燥することにより、前述の微細セルロース繊維固形物を得ることができる。微細セルロース繊維の水分散液における微細セルロース繊維の濃度としては、特に制限はないが、通常は0.1~50質量%であり、好ましくは0.5~10質量%である。
【実施例0059】
以下、実施例を挙げて本実施形態を説明するが、本開示はこれらの例によって限定されるものではない。
【0060】
[比較例1]
ジメチルスルホキシド(DMSO)150g、無水酢酸25g(解繊溶液における濃度:14質量%)及び硫酸3.35g(解繊溶液における濃度:1.87質量%)を300mlのサンプル瓶に入れ、23℃の室温下で磁性スターラーを用いて約30秒撹拌し、解繊溶液を調製した。
【0061】
次いで、解繊溶液に針葉樹クラフトパルプNBKP(日本製紙製)5.0gを加え、23℃の室温下でさらに2時間撹拌し、硫酸エステル化反応を行った。撹拌後、セルロースを含む解繊溶液に蒸留水を250ml加えて反応を停止させ、続いて5質量%の水酸化ナトリウム水溶液をpHが7になるまで加え、反応液を中和した。その後、遠心分離により上澄みを除いた。
【0062】
さらに蒸留水1350mlを加えて均一分散するまで攪拌した後、遠心分離により上澄みを除いた。同じ手順を繰り返し合計3回洗浄した。遠心分離により洗浄した後に蒸留水を加え、全体の重さが500gになるまで希釈した。
【0063】
次に、ミキサー(G5200、Biolomix製)を用いて3分撹拌することにより1質量%の均一な硫酸エステル基を有する微細セルロース繊維の水分散液を得た。続いて、得られた微細セルロース繊維の水分散液を、送風乾燥機を用いて、105℃で水分量が20%以下になるまで乾燥することで微細セルロース繊維固形物である試料No.1を得た。なお、実験器具に対して、使用前の滅菌処理は行わなかった。
【0064】
[実施例1]
比較例1と同じ方法で作製した1質量%の均一な硫酸エステル基を有する微細セルロース繊維の水分散液を、凍結乾燥機(FDU-2110、東京理科器械製)を用いて48時間乾燥することで微細セルロース繊維固形物である試料No.2を得た。
【0065】
[実施例2]
比較例と同じ方法で作製した1質量%の均一な硫酸エステル基を有する微細セルロース繊維の水分散液500gにメタノール1500gを加えて、2時間攪拌することで微細セルロース繊維の晶析を行った。
【0066】
晶析工程で得られた微細セルロース繊維沈殿物を含む分散液を遠心分離機で処理して上澄みを除去し、微細セルロース繊維沈殿物を得た。なお遠心分離の速度は12000rpm、遠心分離時間は50分であった。得られた微細セルロース沈殿物にメタノール1500gを加えて、2時間攪拌することで微細セルロース繊維の2回目の晶析を行った。
【0067】
2回目の晶析工程で得られた微細セルロース繊維沈殿物を含む分散液を遠心分離機で処理して上澄みを除去し、微細セルロース繊維沈殿物を得た。なお遠心分離の速度は12000rpm、遠心分離時間は50分であった。続いて、2回の晶析工程で得られた微細セルロース繊維沈殿物をビーカーに取り出し、ビーカーごと真空乾燥機(AVO-200V、アズワン製)を用い、40℃で水分量が20%以下になるまで真空乾燥を行い、微細セルロース繊維固形物である試料No.3を得た。
【0068】
[比較例2]
硫酸エステル化反応を行う際の攪拌時間を2時間から5時間に変更した以外は比較例1と同様に行い、微細セルロース繊維固形物である試料No.4を得た。
【0069】
[実施例3]
硫酸エステル化反応を行う際の攪拌時間を2時間から5時間に変更した以外は実施例1と同様に行い、微細セルロース繊維固形物である試料No.5を得た。
【0070】
[実施例4]
硫酸エステル化反応を行う際の攪拌時間を2時間から5時間に変更した以外は実施例2と同様に行い、微細セルロース繊維固形物である試料No.6を得た。
【0071】
[水分率]
実施例、比較例で得た試料の水分率は、試料作製完了後24h以内に以下の方法で求めた。
水分率(質量%)は、JIS P8203に準拠して、試料の質量に対する水分量で表すことができる。つまり、水分率(質量%)は、下記式から求めることができる。
水分率(質量%)=((試料の質量-試料の固形分質量)/試料の質量)×100
(試料の質量は、測定に供した試料の質量(g)を意味する。試料の固形分質量は、測定に供した試料と同量の試料を105℃の雰囲気下で2時間、恒量になるまで乾燥させた後に残った固形物の質量(g)を意味する。)
【0072】
[平均繊維幅]
実施例、比較例で得た試料中の微細セルロース繊維の平均繊維幅は、原子間力顕微鏡(SPM-9700HT、株式会社島津製作所製)を用いて、任意に選択した50本の繊維における繊維幅を計測し、加算平均値をとることで測定した。なお、評価サンプルは以下の方法で調製したものを用いた。
【0073】
微細セルロース繊維が3gとなるように試料を秤量し、試料を、試料との合計が1000gになるように秤量した蒸留水に加え、ミキサー(G5200、Biolomix製)を用いて3分撹拌することにより0.3質量%の均一な微細セルロース繊維の水分散液(微細セルロース繊維水分散液)を得た。続いて、高圧分散処理機である高圧ホモジナイザー(M-110EH-30、Microfluidics社製)に200μm補助処理モジュールおよび87μmインターアクションチャンバーを取り付け、200MPa条件下で3パス処理する事で、高分散処理を行った。続いて、高分散処理後の0.3質量%の均一な微細セルロース繊維の水分散液1.0gに蒸留水149.0gを加え、ミキサー(G5200、Biolomix製)を用いて3分撹拌することにより0.002質量%の均一な微細セルロース繊維の水分散液を得た。続いて天然マイカ(天然白雲母)基板(15mm×15mm×厚さ0.15mm)にマイクロピペットで0.002質量%の均一な微細セルロース繊維の水分散液を30μL滴下し、0.5時間自然乾燥する事で評価サンプルを得た。
【0074】
[硫黄導入量]
実施例、比較例で得た試料中の微細セルロース繊維の硫黄導入量(mmol/g)は、以下の方法で求めた。
【0075】
試料中の微細セルロース繊維の硫黄導入量は、日本ダイオネクス株式会社製のICS-1500を用いた燃焼吸収-IC法により定量した。磁性ボードに乾燥した微細セルロース繊維(0.01g)を入れ、酸素雰囲気(流量:1.5L/分)環状炉(1350℃)にて燃焼させ、発生したガス成分を3%過酸化水素水(20ml)に吸収させて吸収液を得た。得られた吸収液を純水で100mlにメスアップし、希釈液をイオンクロマトグラフィーに供した。測定結果から微細セルロース繊維中の硫酸イオン濃度(重量%)を測定し、微細セルロース繊維1gあたりの硫黄導入量(mmol/g)を算出した。なお、乾燥した微細セルロース繊維は、試料を105℃の雰囲気下で、恒量になるまで乾燥させることにより得た。
【0076】
[比表面積]
実施例、比較例で得た試料の比表面積は、表面積・細孔径分析装置(NOVA4200e、Anton-Paar社製)を用い窒素ガス吸着によるBET法により求めた。
【0077】
[微細セルロース繊維水分散液の作製]
実施例、比較例で得た試料を用いて、微細セルロース繊維水分散液を作製した。
前記水分率に基づき、微細セルロース繊維が0.3gとなるように試料を秤量し、試料を、試料との合計が100gになるように秤量した蒸留水に加え、ミキサー(G5200、Biolomix製)を用いて3分撹拌することにより0.3質量%の均一な微細セルロース繊維の水分散液(微細セルロース繊維水分散液)を得た。
【0078】
[粘度]
実施例、比較例で得た試料から作製された微細セルロース繊維水分散液の粘度は、以下の条件で脱泡及び24時間静置した後、B型粘度計を用いて、粘度測定開始後(回転開始後)10分の時点の粘度を記録(N=3)し、平均値を算出することにより求めた。
【0079】
微細セルロース繊維水分散液100gを脱泡装置(泡とり練太郎ARE-310、シンキー製)で10秒間脱泡処理し、24時間静置した。続いてB型粘度計(DV-II+、Brookfield社製)を用いて、回転数2.6rpmで粘度測定を行い、測定開始後(回転開始後)10分の時点の粘度を記録した。同様の方法で別に調整した計3つの微細セルロース繊維水分散液の粘度測定を記録(N=3)し、その3回の平均値を微細セルロース繊維水分散液の粘度(回転数2.6rpmにおける微細セルロース繊維水分散液の粘度)とした。なお、測定は水分散液の温度が25℃となる環境で実施した。
【0080】
微細セルロース繊維水分散液100gを脱泡装置(泡とり練太郎ARE-310、シンキー製)で10秒間脱泡処理し、24時間静置した。続いてB型粘度計(DV-II+、Brookfield社製)を用いて、回転数26rpmで粘度測定を行い、測定開始後(回転開始後)10分の時点の粘度を記録した。同様の方法で別に調整した計3つの微細セルロース繊維水分散液の粘度測定を記録(N=3)し、その3回の平均値を微細セルロース繊維水分散液の粘度(回転数26rpmにおける微細セルロース繊維水分散液の粘度)とした。なお、測定は水分散液の温度が25℃となる環境で実施した。
【0081】
回転数2.6rpmにおける微細セルロース繊維水分散液の粘度及び回転数26rpmにおける微細セルロース繊維水分散液の粘度から、下記式に基づきチキソトロピックインデックス(TI値)を算出した。
TI値=(回転数2.6rpmにおける微細セルロース繊維水分散液の粘度)/(回転数26rpmにおける微細セルロース繊維水分散液の粘度)
【0082】
[透過率]
実施例、比較例で得た試料から作製された微細セルロース繊維水分散液の透過率を以下の方法で測定した。
【0083】
微細セルロース繊維水分散液2mLを測定セルに投入し、透過率計(UV-2600、島津製作所製)を用い、波長600nmにおける全光線透過率及び拡散光線透過率を測定した。
【0084】
[ヘイズ]
前記[透過率]の項で記載した方法により求めた拡散光線透過率及び全光線透過率を用い、下記式に基づきヘイズ値を計算することにより、波長600nmにおけるヘイズ値を求めた。なお、波長600nmにおけるヘイズ値を単にヘイズとも記す。
ヘイズ値=(拡散光線透過率/全光線透過率)×100
【0085】
[水分散性]
実施例、比較例で得た試料(微細セルロース繊維固形物)の水分散性を以下の方法で評価した。
【0086】
試料1gをシャーレに測り取りその上から10gの水を静かに滴下し1時間静置した。その後、目視により試料の形態を観察し、次の基準で水分散性を評価した。
〇:試料が乾燥状態の形状を維持していない
×:試料が乾燥状態の形状を維持している
【0087】
[カビ耐性]
実施例、比較例で得た試料(微細セルロース繊維固形物)のカビ耐性を以下の方法で評価した。
【0088】
試料5gを30mLバイアル瓶に入れて密栓した。各試料を入れたバイアル瓶は30℃、60%RHの恒温恒湿槽(LHL-114、エスペック製)に3か月間静置した。3か月経過後、バイアル瓶から試料をシャーレに取り出し、光学顕微鏡観察を行いカビ等の菌類に由来するコロニー発生の有無を確認し、以下の基準でカビ耐性評価をした。
〇:直径0.3mm以上のカビ等の菌類に由来するコロニーが発生無し
×:直径0.3mm以上のカビ等の菌類に由来するコロニーが発生有り
【0089】
実施例及び比較例で得た試料中の微細セルロース繊維の平均繊維幅、硫黄導入量、試料の比表面積、水分率、乾燥方法、微細セルロース繊維水分散液の各物性の評価結果を、表1に示す。
なお、表1において、回転数2.6rpmにおける微細セルロース繊維水分散液の粘度を、粘度2.6rpmと記し、回転数26rpmにおける微細セルロース繊維水分散液の粘度を、粘度26rpmと記す。
【0090】
【表1】
【0091】
実施例で得られた試料を用いた水分散液は、水分散性に優れていた。
【0092】
本明細書中に記載した数値範囲の上限値及び/又は下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。例えば、数値範囲の上限値及び下限値を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、数値範囲の上限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、また、数値範囲の下限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。また、本願において、記号「~」を用いて表される数値範囲は、記号「~」の前後に記載される数値のそれぞれを下限値及び上限値として含む。
【0093】
以上、本実施形態を詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本開示に含まれるものである。
【手続補正書】
【提出日】2022-11-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細セルロース繊維と、水とを含む微細セルロース繊維固形物であり、
前記微細セルロース繊維の平均繊維幅が、1nm~1000nmであり、
前記微細セルロース繊維は、下記一般式(1)で表される硫酸エステル基を有し、
前記微細セルロース繊維は、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量が、0.3mmol/g以上、3.0mmol/g以下であり、
前記固形物の水分率が50質量%以下であり、
前記固形物の比表面積が1m/g以上であ
前記微細セルロース繊維固形物を、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%となるように水に分散させることにより調製した、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%の水分散液の25℃における2.6rpmで測定される粘度が、500mPa・s以上であり、
前記水分散液の25℃における2.6rpmで測定される粘度及び26rpmで測定される粘度から求めたチキソトロピックインデックス(TI値)が、3~30である、微細セルロース繊維固形物。
【化1】

(一般式(1)において、nは1~3の整数であり、Mn+はn価の陽イオンであり、波線は他の原子への結合部位である。)
【請求項2】
前記固形物の水分率が30質量%以下である、請求項1に記載の微細セルロース繊維固形物。
【請求項3】
前記固形物の比表面積が3m /g以上である、請求項1又は2に記載の微細セルロース繊維固形物。
【請求項4】
前記一般式(1)におけるMn+が、ナトリウムイオン(Na)である、請求項1~3のいずれか1項に記載の微細セルロース繊維固形物。
【請求項5】
前記微細セルロース繊維固形物を、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%となるように水に分散させることにより調製した、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%の水分散液の全光線透過率が、90%以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の微細セルロース繊維固形物。
【請求項6】
前記微細セルロース繊維固形物を、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%となるように水に分散させることにより調製した、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%の水分散液のヘイズ値が、20%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の微細セルロース繊維固形物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の微細セルロース繊維固形物を水に分散する工程を有する、微細セルロース繊維水分散液の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の製造方法で得られた微細セルロース繊維水分散液を成膜する工程を有する、フィルムの製造方法。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項に記載の微細セルロース繊維固形物を製造する方法であり、
微細セルロース繊維の水分散液を乾燥し、微細セルロース繊維固形物を得る乾燥工程を有する、微細セルロース繊維固形物の製造方法。