(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066674
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】保険金支払業務支援装置及び保険金支払業務支援方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 40/08 20120101AFI20230509BHJP
【FI】
G06Q40/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177399
(22)【出願日】2021-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】網本 薫
(72)【発明者】
【氏名】植木 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】西川 元太
【テーマコード(参考)】
5L055
【Fターム(参考)】
5L055BB61
(57)【要約】
【課題】保険金請求に絡む各種処理を効率的で的確なものとする。
【解決手段】保険金支払業務支援装置100において、機器に関する稼働データと、前記機器の運用基準の情報を格納する記憶装置101と、前記稼働データ又は所定の診断結果に基づき、前記機器における所定の事象を検知した場合、前記事象は、前記機器が前記運用基準に沿って運用された上で発生したものか判定し、前記運用基準に沿って前記機器が運用された上で前記事象が発生したものであったならば、所定の保険業務に必要なエビデンスとして、前記稼働データ及び前記稼働データに基づく所定の分析結果の少なくともいずれかを、所定装置に送信する演算装置104を含む構成とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器に関する稼働データと、前記機器の運用基準の情報を格納する記憶装置と、
前記稼働データ又は所定の診断結果に基づき、前記機器における所定の事象を検知した場合、前記事象は、前記機器が前記運用基準に沿って運用された上で発生したものか判定し、前記運用基準に沿って前記機器が運用された上で前記事象が発生したものであったならば、所定の保険業務に必要なエビデンスとして、前記稼働データ及び前記稼働データに基づく所定の分析結果の少なくともいずれかを、所定装置に送信する演算装置と、
を含むことを特徴とする保険金支払業務支援装置。
【請求項2】
前記記憶装置は、
前記運用基準の情報として、前記機器の保全実施基準の情報を格納し、
前記演算装置は、
前記稼働データ又は所定の診断結果に基づき、前記機器における事後保全の実施を検知した場合、当該事後保全は、前記機器が前記保全実施基準に沿って運用された上で実施されたものか判定し、前記保全実施基準に沿って前記機器が運用された上で前記事後保全が実施されたものであったならば、前記保険業務における保険金申請の際のエビデンスとして、所定期間に関する前記稼働データ及び前記稼働データに基づく故障診断結果の少なくともいずれかを、所定装置に送信する処理を実行するものである、
ことを特徴とする請求項1に記載の保険金支払業務支援装置。
【請求項3】
前記記憶装置は、
前記機器に関する保全履歴をさらに格納し、
前記演算装置は、
前記エビデンスとして、所定期間に関する前記稼働データ、前記稼働データに基づく故障診断結果、及び前記保全履歴の少なくともいずれかを、所定装置に送信するものである、
ことを特徴とする請求項2に記載の保険金支払業務支援装置。
【請求項4】
前記演算装置は、
前記エビデンスのうち、前記事後保全の対象となった故障に起因する、前記機器での機会損失の発生期間に関するものを抽出し、前記所定装置に送信するものである、
ことを特徴とする請求項2に記載の保険金支払業務支援装置。
【請求項5】
前記演算装置は、
前記機器の運用者のシステムに対し、または前記所定装置に対し、前記事後保全の対象となった故障の発生確認の手続要求を行うものである、
ことを特徴とする請求項2に記載の保険金支払業務支援装置。
【請求項6】
前記記憶装置は、
パラメトリック保険の対象となる前記機器に関する稼働データと、前記機器に関する前記パラメトリック保険の保全実施基準の情報を格納し、
前記演算装置は、
前記稼働データ又は所定の診断結果に基づき、前記機器における事後保全の実施を検知した場合、当該事後保全は、前記機器が前記パラメトリック保険における前記保全実施基準に沿って運用された上で実施されたものか判定し、前記保全実施基準に沿って前記機器が運用された上で前記事後保全が実施されたものであったならば、前記パラメトリック保険の保険金申請の際のエビデンスとして、所定期間に関する前記稼働データ及び前記稼働データに基づく故障診断結果の少なくともいずれかを、所定装置に送信するものである、
ことを特徴とする請求項2に記載の保険金支払業務支援装置。
【請求項7】
情報処理装置が、
記憶装置において、機器に関する稼働データと、前記機器の運用基準の情報を格納し、
前記稼働データ又は所定の診断結果に基づき、前記機器における所定の事象を検知した場合、前記事象は、前記機器が前記運用基準に沿って運用された上で発生したものか判定し、前記運用基準に沿って前記機器が運用された上で前記事象が発生したものであったならば、所定の保険業務に必要なエビデンスとして、前記稼働データ及び前記稼働データに基づく所定の分析結果の少なくともいずれかを、所定装置に送信する、
ことを特徴とする保険金支払業務支援方法。
【請求項8】
前記情報処理装置が、
前記記憶装置において、前記運用基準の情報として、前記機器の保全実施基準の情報を格納し、
前記稼働データ又は所定の診断結果に基づき、前記機器における事後保全の実施を検知した場合、当該事後保全は、前記機器が前記保全実施基準に沿って運用された上で実施されたものか判定し、前記保全実施基準に沿って前記機器が運用された上で前記事後保全が実施されたものであったならば、前記保険業務における保険金申請の際のエビデンスとして、所定期間に関する前記稼働データ及び前記稼働データに基づく故障診断結果の少なくともいずれかを、所定装置に送信する処理を実行する、
ことを特徴とする請求項7に記載の保険金支払業務支援方法。
【請求項9】
前記情報処理装置が、
前記記憶装置において、前記機器に関する保全履歴をさらに格納し、
前記エビデンスとして、所定期間に関する前記稼働データ、前記稼働データに基づく故障診断結果、及び前記保全履歴の少なくともいずれかを、所定装置に送信する、
ことを特徴とする請求項8に記載の保険金支払業務支援方法。
【請求項10】
前記情報処理装置が、
前記エビデンスのうち、前記事後保全の対象となった故障に起因する、前記機器での機会損失の発生期間に関するものを抽出し、前記所定装置に送信する、
ことを特徴とする請求項8に記載の保険金支払業務支援方法。
【請求項11】
前記情報処理装置が、
前記機器の運用者のシステムに対し、または前記所定装置に対し、前記事後保全の対象となった故障の発生確認の手続要求を行う、
ことを特徴とする請求項8に記載の保険金支払業務支援方法。
【請求項12】
前記情報処理装置が、
前記記憶装置において、パラメトリック保険の対象となる前記機器に関する稼働データと、前記機器に関する前記パラメトリック保険の保全実施基準の情報を格納し、
前記稼働データ又は所定の診断結果に基づき、前記機器における事後保全の実施を検知した場合、当該事後保全は、前記機器が前記パラメトリック保険における前記保全実施基準に沿って運用された上で実施されたものか判定し、前記保全実施基準に沿って前記機器が運用された上で前記事後保全が実施されたものであったならば、前記パラメトリック保険の保険金申請の際のエビデンスとして、所定期間に関する前記稼働データ及び前記稼働データに基づく故障診断結果の少なくともいずれかを、所定装置に送信する、
ことを特徴とする請求項8に記載の保険金支払業務支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保険金支払業務支援装置及び保険金支払業務支援方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種設備などからIoTデータを取得し、これに基づいて当該設備の故障リスクを分析する技術が知られている。例えば、IoTデータから設備の故障リスクを定量化するためのモデルを生成し、当該モデルに日々の稼働データを適用することで、当該時点での故障リスクを算出する技術が該当する。
このような方法で、設備の故障リスクを推定し、その結果に基づき種々の分析を行う従来技術が提案されている。例えば、対象となるプラントの保守を請け負う者、当該プラントの故障等による損失を補償する保険会社及び当該プラントの保有者の三者がそれぞれメリットを享受し得る合理的なプラントの保守及び保険契約システム(特許文献1参照)などが提案されている。
【0003】
このシステムは、プラントの運転履歴データ、当該プラントの設計データ、当該プラントを構成する各部品の破損モードを評価した破損モード毎評価データを含む各種のプラントデータに基づき時間対破損確率線図を作成する破損確率計算ツールと、当該破損確率計算ツールで作成した破損確率線図に基づく破損確率と前記部品が破損した場合の損害額とに基づく演算の結果として得るプラントリスクを算出してこのプラントリスクを表すデータを送出する装置により構成されている。
【0004】
また、機械設備ユーザが、機械設備の異常回避設備の設置及び運用次第で保守料及び保険料の支払を削減でき、メーカー及び保険会社も保守費及び保険金支払を低減できる保守料及び保険料の設定システム(特許文献2参照)なども提案されている。
【0005】
このシステムは、機械設備と、前記機械設備において発生が予測される異常に対処するための異常検知装置とを備える機械設備ユーザ局と、を具備し、前記異常検知装置の異常への対処の内容により前記機械設備の保守料が決定される、機械設備保守料設定システムである。
【0006】
また、経済性の観点から最適な保守管理計画立案ができ、保守管理に係る種々の金銭処理が容易に実施できる方法および装置(特許文献3参照)なども提案されている。
【0007】
この装置は、表示および操作が可能な画面を持つディスプレイを有し、プラントを構成する部品の展開状態、前記部品各々の故障イベントおよび対策についてのイベントツリー展開、ならびに前記部品についての保守管理情報を表示するとともに、操作により前記部品の展開状態およびイベントツリー展開の変更ができるようにしたプラント展開表示・操作手段と、前記部品および前記故障イベントに対応した、故障履歴データ、運転履歴データ、経済性データを記憶する記憶手段と、前記プラント展開表示・操作手段の出力および前記記憶手段の記憶データに基づき種々の組合せのイベントツリーを作成するイベントツリー生成手段と、前記イベントツリー生成手段の出力および前記記憶手段の記憶データに基づきイベントツリーを構成する各イベントの属性であるかを定義するイベント属性設定手段と、前記イベント属性設定手段の出力および前記記憶手段の記憶データに基づき故障イベントの故障確率を計算する故障確率計算手段と、前記故障確率計算手段の出力および前記記憶手段の記憶データに基づき故障確率およびリスクを計算するリスク計算手段と、前記リスク計算手段の出力および前記記憶手段の記憶データに基づきリスク、対策費用および最終利得を計算する経済性計算手段と、前記経済性計算手段の出力および前記記憶手
段の記憶データに基づき、各部品の最終利得を比較して順位付けるとともにプラント全体の利得を計算し、最も利得の高いイベントツリーの組合せを選択する保守管理計画作成手段と、前記記憶手段と前記各手段との間の情報の受け渡しおよび計算処理の制御を行う情報制御手段と、を備えるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005-190271号公報
【特許文献2】特開2002-297803号公報
【特許文献3】特開2004-234536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
設備を稼働させ、所定の生産行為等を行っている事業者にしてみれば、当該設備での故障発生は、直ちに生産や販売の機会損失につながりうる。
そのため事業者は、そうした事態に備える保険に加入しておき、故障発生時に、所定の保険金請求業務を行うこととなる。
【0010】
この保険金請求業務の遂行に際し、上述の事業者は、それまでの保守履歴や故障内容、或いは機器などの稼働実績等を示すエビデンスを保険会社に送付する必要がある。
【0011】
ところが、事業者における、保険金請求業務の担当部署とエビデンスの提供部署とが異なることで、当該部署間での協働がスムーズにいかず、エビデンス送付に時間を要するケースがある。
【0012】
その場合、結果として保険金請求およびそれに伴う保険金支払いの各処理の完了までに時間を要することなる。この事態は、事業者にとってみれば、実損に対する補償がなかなかなされないことになる。また、保険会社にとってみれば、故障発生から時間が経過するほど、経過確認など、保険金支払いについての確認事項が増えて、管理コスト増加に繋がり、保険事業の持続可能性を低下させることとなる。
【0013】
そこで本発明の目的は、保険金請求に絡む各種処理を効率的で的確なものとする技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決する本発明の保険金支払業務支援装置は、機器に関する稼働データと、前記機器の運用基準の情報を格納する記憶装置と、前記稼働データ又は所定の診断結果に基づき、前記機器における所定の事象を検知した場合、前記事象は、前記機器が前記運用基準に沿って運用された上で発生したものか判定し、前記運用基準に沿って前記機器が運用された上で前記事象が発生したものであったならば、所定の保険業務に必要なエビデンスとして、前記稼働データ及び前記稼働データに基づく所定の分析結果の少なくともいずれかを、所定装置に送信する演算装置と、を含むことを特徴とする。
また、本発明の保険金支払業務支援方法は、情報処理装置が、記憶装置において、機器に関する稼働データと、前記機器の運用基準の情報を格納し、前記稼働データ又は所定の診断結果に基づき、前記機器における所定の事象を検知した場合、前記事象は、前記機器が前記運用基準に沿って運用された上で発生したものか判定し、前記運用基準に沿って前記機器が運用された上で前記事象が発生したものであったならば、所定の保険業務に必要なエビデンスとして、前記稼働データ及び前記稼働データに基づく所定の分析結果の少なくともいずれかを、所定装置に送信する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、保険金請求に絡む各種処理を効率的で的確なものとできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態の保険金支払業務全体の流れを示す図である。
【
図2】本実施形態の保険金支払業務支援装置を含むネットワーク構成図である。
【
図3】本実施形態における保険金支払業務支援装置のハードウェア構成例を示す図である。
【
図4】本実施形態の稼働データDBの構成例を示す図である。
【
図5】本実施形態の診断結果データDBの構成例を示す図である。
【
図6】本実施形態の保全履歴DBの構成例を示す図である。
【
図7】本実施形態における保険金支払業務支援方法のフロー例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<概要>
図1は本実施形態の保険金支払業務全体の流れを示す図である。本発明の実施形態に関する詳細説明に先立ち、本実施形態の保険金支払業務支援装置で取り扱う保険である、パラメトリック保険の運用について説明する。
【0018】
パラメトリック保険は、従来型の保険と異なり、予め定義された事象のパラメータが設定条件を満たす場合に保険金の支払いが行われる保険である。
【0019】
そのために、保険組成(年次運用)、日々運用(日次運用)、及び保険運用(事故時)の3ステージでの運用を適宜繰り返し行うこととなる。
【0020】
このうち保険組成のステージは、例えば、年次運用されるステージであり、保険の契約者である「機器オーナ」、支援事業者、及び保険会社の各間で、保険の組成に伴う各種処理を実行する。支援事業者は、機器オーナと保険会社の間にあって、パラメトリック保険におけるKPIの設定支援等を行うサービス提供者(保険金支払業務支援サービスを行う事業者)である。
【0021】
支援事業者は、パラメトリック保険により補償する事象について、例えば、当該機器の稼働データやそれに基づく累積ダメージと故障発生確率の間の予測モデルを人工知能によって生成し、この予測モデルに基づいた種々の提案を機器オーナに行う者である。その提案に際しては、支援事業者が把握している前提情報の提示や、当該機器での事象や、当該機器の稼働による成果物、などの観点で定めるKPIの情報の共有が行われる。
【0022】
保険会社は、機器オーナと支援事業者の間での手順を経た情報に基づき、パラメトリック保険の組成業務を実行し、当該保険商品の提案や契約の手続を実行することとなる。
こうしたパラメトリック保険では、保険対象となる機器の保全実施基準(予防保全を実施すべき故障確率)が定められているものとする。なお、上述の「機器」とは、1個体の機器のみならず、プラント全体も概念に含むものであり、特段の範囲限定はしないものとする。
【0023】
次の日々運用のステージは、機器オーナが当該機器の稼働データを支援事業者側に連携するためのステージである。よって、機器オーナのシステムが支援事業者のシステム、すなわち本発明の保険金支払業務支援装置に対し、稼働データの配信等を行うこととなる。このステージでは、他にも、支援事業者のタスクとして、機器オーナのシステムから得た稼働データに基づく診断結果を、機器オーナに配信する処理や、稼働データから事後保全が起こってないか判断する処理も実施される。一方、上述の診断結果を受けた機器オーナ
は、機器の保全を行う。
【0024】
また、保険運用のステージは、支援事業者において、上述の機器オーナの機器が、保全実施基準の故障確率を越えた状態であるにもかかわらず、予防保全が実施されないまま故障が発生したか、或いは、適切に予防保全を実施してきていて故障確率も問題無かったにも関わらず、故障が発生したか検知し、その検知結果に応じて、パラメトリック保険における免責事項への該当有無を判定する。つまり、保険金の支払対象事象となるか否かを特定する。
【0025】
従来型の保険であれば、保険会社が保険の契約者すなわち上述の機器オーナに対して事故エビデンスを要求し、保険金支払事象に該当するか否か確認する必要があった。また、故障に伴う損害発生の通知は契約者側のキックに頼り切っており、契約者が主体的に動かない限り、保険会社が保険金支払に関して始動できない状況であった。
【0026】
そこで本実施形態の保険金支払業務支援装置では、上述の対象機器におけるIoTデータの分析結果から、保険金支払い候補対象事象を検知して知らせるとともに、エビデンスとして(支払い条件に合致しているのか保険会社が判断するための情報として)、IoTデータやその分析結果を提供する。
【0027】
これによれば、保険の契約者側からのキックを待たずに、保険会社が先んじてエビデンスの取得、確認などの業務を開始し、契約者への確認を進めることで保険金支払いの迅速化に繋がる。
【0028】
また、別の観点では、契約時と保険金支払い時が保険会社と契約者との主要な接触ポイントであるが、その接点を逃さず、かつ、ポジティブな接触として印象づけることにも貢献する。
<ネットワーク構成>
以下に本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
図2は、本実施形態の保険金支払業務支援装置100を含むネットワーク構成図である。
図2に示す保険金支払業務支援装置100は、保険金請求に絡む各種処理を効率的で的確なものとするコンピュータである。
【0029】
本実施形態の保険金支払業務支援装置100は、
図2で示すように、ネットワーク1を介して、機器20、機器オーナーシステム200、保険会社システム300、及び端末400と通信可能に接続されている。よって、これらを総称して保険金支払業務支援システム10としてもよい。
【0030】
このうち機器20は、保険対象となる機器であって、稼働状況をセンサ21で観測し手続を得たIoTデータを保険金支払業務支援装置100に提供する。
【0031】
また、機器オーナーシステム200は、上述の機器20を備えた工場やプラントを運営する事業者のシステムとなる。機器オーナーシステム200は、機器20の保全履歴など、機器20に関する各種のデータを管理し、これを必要に応じて又は要求に応じて、保険金支払業務支援装置100に提供する。
【0032】
また、保険会社システム300は、保険金支払業務支援装置100から、パラメトリック保険の保険金支払処理や支払査定に必要となるエビデンスを受信および保管し、これに基づき保険会社内の各種処理を実行するものである。
【0033】
また、端末400は、例えば、保険会社システム300の担当者等が使用する端末であ
り、保険会社システム300にアクセスして上述のエビデンスを表示し、担当者に閲覧させる等の処理を担っている。具体的には、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末などを想定できる。
<ハードウェア構成>
また、本実施形態の保険金支払業務支援装置100のハードウェア構成は、
図3に以下の如くとなる。
【0034】
すなわち保険金支払業務支援装置100は、記憶装置101、メモリ103、演算装置104、および通信装置105、を備える。
【0035】
このうち記憶装置101は、SSD(Solid State Drive)やハードディスクドライブなど適宜な不揮発性記憶素子で構成される。
【0036】
また、メモリ103は、RAMなど揮発性記憶素子で構成される。
【0037】
また、演算装置104は、記憶装置101に保持されるプログラム102をメモリ103に読み出すなどして実行し装置自体の統括制御を行なうとともに各種判定、演算及び制御処理を行なうCPUである。
【0038】
また、通信装置105は、ネットワーク1と接続し、機器20、機器オーナーシステム200、保険会社システム300、及び端末400との通信処理を担うネットワークインターフェイスカード等を想定する。
【0039】
なお、保険金支払業務支援装置100は、ユーザからのキー入力や音声入力を受け付ける入力装置、処理データの表示を行うディスプレイ等の出力装置、を更に備えるとしてもよい。
【0040】
また、記憶装置101内には、本実施形態の保険金支払業務支援装置として必要な機能を実装する為のプログラム102に加えて、稼働データDB125、診断結果データDB126、及び保全履歴DB127が少なくとも記憶されている。ただし、これらデータベースについての詳細は後述する。
<データ構造例>
続いて、本実施形態の保険金支払業務支援装置100が用いる各種情報について説明する。
図4に、本実施形態における稼働データDB125の一例を示す。
【0041】
本実施形態の稼働データDB125は、機器20のセンサ21が観測した稼働データ(IoTデータ)を格納したデータベースである。
【0042】
この稼働データDB125は、例えば、観測日時をキーとして、機器20の温度、湿度、圧力、などといったデータを紐付けレコードの集合体となっている。
【0043】
また、
図5に本実施形態の診断結果データDB126の構成例を示す。本実施形態の診断結果データDB126は、上述の稼働データDB125で保持する稼働データに基づき算定された、機器20の受けているダメージや、それに伴い想定される故障に関する情報を格納したデータベースである。
【0044】
この診断結果データDB126は、例えば、診断日時をキーとして、ダメージ、累積ダメージ、区間故障率、及び累積故障確率といったデータを紐付けたレコードの集合体となっている。なお、こうしたデータは、機器20の故障現象を数理的・確率論的にモデル化し、当該モデルに稼働データや保全履歴を適用することで得られるものとなる。ただし、
こうした診断結果データDB126のデータ構成は一例であって、ある時点での累積故障確率が含まれるものであれば特に限定はしない。
【0045】
また、
図6に本実施形態の保全履歴DB127の構成例を示す。本実施形態の保全履歴DB127は、機器20に対する事前または事後の保全の履歴を格納したデータベースである。
【0046】
この保全履歴DB127は、例えば、保全実施日時をキーとして、当該日時に実施した保全の保全分類、及び保全メニューといったデータを紐付けたレコードの集合体となっている。保全分類は、故障が発生する前の事前保全、または、故障が発生したことで実施した事後保全、のいずれかの値となる。また、保全メニューは、例えば、○○部品の交換、などといった保全内容を示すものである。
<フロー例:事後保全時回復費補償>
以下、本実施形態における保険金支払業務支援方法の実際手順について図に基づき説明する。以下で説明する保険金支払業務支援方法に対応する各種動作は、保険金支払業務支援装置100がメモリ等に読み出して実行するプログラムによって実現される。そして、このプログラムは、以下に説明される各種の動作を行うためのコードから構成されている。
【0047】
図7は、本実施形態における保険金支払業務支援方法のフロー例を示す図である。この場合、保険金支払業務支援装置100は、機器20に関する稼働データを機器オーナーシステム200(或いは機器20接)から取得し(s10)、これを稼働データDB125に格納する。
【0048】
続いて、保険金支払業務支援装置100は、s10で得た稼働データ又は所定の診断結果に基づき、機器20に対する保全実施の種類を判定する(s11)。この判定は、稼働データが示す事象(例:機器20の所定箇所での温度)が、例えば、或る日時に所定の基準値を超えた後、それ以後の或る日時に通常レベルに戻った、といった挙動を示す場合、温度異常に伴う故障発生に対し、事後保全を実施したことで故障を解消して正常温度に戻した、などと判定できる。一方、或る日時までに温度が少しずつ上昇していたものの、故障レベルの異常値にはまだ達していない状況であり、それ以後の或る日時を境に温度上昇の傾向は解消され、温度も完全な通常レベルの範囲に戻った、といった挙動を示す場合、温度異常に伴う故障発生を予防する意図で、事前保全が実施された、などと判定できる。或いは、機器20に関して予め得ている、故障の診断結果に基づいて、事後保全を検知することも想定できる。
【0049】
上述の判定の結果、機器20で実施されたのが事前保全である場合(s11:事前保全)、保険金支払業務支援装置100は、本フローを終了する。
【0050】
一方、上述の判定の結果、機器20で実施されたのが事後保全である場合(s11:事後保全)、保険金支払支援装置100は、前営業日の診断結果データを、診断結果データDB126から取得する(s12)。
【0051】
続いて、保険金支払業務支援装置100は、s12で得た診断結果データから、機器20に関して算定されている累積故障確率の値が、予め定めてある保全実施基準を上回るもの、すなわち事前保全を実施すべき故障確率を上回るものであるか判定する(s13)。
【0052】
上述の判定の結果、累積故障確率が保全実施基準を上回るもの、すなわち保全実施基準に則った保全ではない場合(s13:NO)、保険金支払業務支援装置100は、処理を終了する。このケースは、保全実施基準に則った保全を行わずに、事後保全が発生してお
り、保険金の支払い対象外となるケースであり、そもそも保険会社に対して保険金請求を行う事案ではないと判断できる(よって、エビデンスの提供も不要)。
【0053】
一方、上述の判定の結果、累積故障確率が保全実施基準を下回るもの、すなわち保全実施基準に則った保全である場合(s13:YES)、保険金支払業務支援装置100は、診断結果データを少なくとも含むエビデンスを保険会社システム300に送信する(s14)。このケースは、保全実施基準に則って保全を行っているにも拘らず、事後保全が発生しており、保険金の支払い対象となるケースとなる。
【0054】
エビデンスとしては、診断結果データの元となった稼働データ、及び保全履歴の少なくともいずれかをさらに含むとしてもよい。また、保険会社システム300に送信するエビデンスとしては、事後保全の対象となった故障に起因する、対象機器での機会損失の発生期間に関するものを抽出し、保険会社システム300に送信するとしてもよい。
【0055】
なお、保険金支払業務支援装置100は、上述のs14に引き続いて、上述の機器20の機器オーナーシステム200に対し、または保険会社システム300に対し、上述の事後保全の対象となった故障の発生確認の手続要求を行うとしてもよい。例えば、この手続要求を認識した機器オーナーシステム200は、機器20に関して管理している保全履歴や稼働データを確認し、確かに事後保全が行われた旨を保険会社システム300に通知することとなる。
【0056】
なお、上述の実施形態に加えて、例えば、業務の改善や効率化といった各種サービスやシステムに関して、予定していた効果が得られずに想定外のコストが発生した場合、そのコストを補償する保険商品について、本発明の技術を適用するとしてもよい。また他にも、故障予兆を検知した際に、事前保全にかかる費用及び事前保全による稼働停止に伴う機会損失を補償する保険商品について、本発明の技術を適用するとしてもよい。
【0057】
以上、本発明を実施するための最良の形態などについて具体的に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0058】
こうした本実施形態によれば、保険金請求に絡む各種処理を効率的で的確なものとできる。
【0059】
本明細書の記載により、少なくとも次のことが明らかにされる。すなわち、本実施形態の保険金支払業務支援装置において、前記記憶装置は、前記運用基準の情報として、前記機器の保全実施基準の情報を格納し、前記演算装置は、前記稼働データ又は所定の診断結果に基づき、前記機器における事後保全の実施を検知した場合、当該事後保全は、前記機器が前記保全実施基準に沿って運用された上で実施されたものか判定し、前記保全実施基準に沿って前記機器が運用された上で前記事後保全が実施されたものであったならば、前記保険業務における保険金申請の際のエビデンスとして、所定期間に関する前記稼働データ及び前記稼働データに基づく故障診断結果の少なくともいずれかを、所定装置に送信する処理を実行するものである、としてもよい。なお、「故障診断」の概念には、故障したかどうかの診断の他に、設備のリスク(故障確率)の診断も包含されうるものとする。
【0060】
これによれば、故障発生に伴う事後保全に関して、保険金の請求対象となるか否か効率的に判定可能となる。ひいては、保険金請求に絡む各種処理を効率的で、より的確なものとできる。
【0061】
また、本実施形態の保険金支払業務支援装置において、前記記憶装置は、前記機器に関する保全履歴をさらに格納し、前記演算装置は、前記エビデンスとして、所定期間に関す
る前記稼働データ、前記稼働データに基づく故障診断結果、及び前記保全履歴の少なくともいずれかを、所定装置に送信するものである、としてもよい。
【0062】
これによれば、保険金申請のエビデンスとして、保全履歴についても提出可能であり、対象機器がいつどのような保全を受けたのかについて、詳細に提出可能となる。ひいては、保険金請求に絡む各種処理を効率的で、より的確なものとできる。
【0063】
また、本実施形態の保険金支払業務支援装置において、前記演算装置は、前記エビデンスのうち、前記事後保全の対象となった故障に起因する、前記機器での機会損失の発生期間に関するものを抽出し、前記所定装置に送信するものである、としてもよい。
【0064】
これによれば、保険金による補償対象である、売上減少などの機会損失の根拠を的確に示すエビデンスを提出可能となる。ひいては、保険金請求に絡む各種処理を効率的でより的確なものとできる。
【0065】
また、本実施形態の保険金支払業務支援装置において、前記演算装置は、前記機器の運用者のシステムに対し、または前記所定装置に対し、前記事後保全の対象となった故障の発生確認の手続要求を行うものである、としてもよい。
【0066】
これによれば、エビデンス提出後に必要となる、保険金支払対象候補事象の発生確認やその合意、及び保険金支払といった一連の処理のトリガーを、エビデンス提出に引き続いて自動的に実行できる。ひいては、保険金請求に絡む各種処理をより効率的で的確なものとできる。
【0067】
また、本実施形態の保険金支払業務支援装置において、前記記憶装置は、パラメトリック保険の対象となる前記機器に関する稼働データと、前記機器に関する前記パラメトリック保険の保全実施基準の情報を格納し、前記演算装置は、前記稼働データ又は所定の診断結果に基づき、前記機器における事後保全の実施を検知した場合、当該事後保全は、前記機器が前記パラメトリック保険における前記保全実施基準に沿って運用された上で実施されたものか判定し、前記保全実施基準に沿って前記機器が運用された上で前記事後保全が実施されたものであったならば、前記パラメトリック保険の保険金申請の際のエビデンスとして、所定期間に関する前記稼働データ及び前記稼働データに基づく故障診断結果の少なくともいずれかを、所定装置に送信するものである、としてもよい。
【0068】
これによれば、パラメトリック保険に関するエビデンス提出を効率的かつ的確なものとできる。ひいては、保険金請求に絡む各種処理を効率的で的確なものとできる。
【0069】
また、本実施形態の保険金支払業務支援方法において、前記情報処理装置が、前記記憶装置において、前記運用基準の情報として、前記機器の保全実施基準の情報を格納し、前記稼働データ又は所定の診断結果に基づき、前記機器における事後保全の実施を検知した場合、当該事後保全は、前記機器が前記保全実施基準に沿って運用された上で実施されたものか判定し、前記保全実施基準に沿って前記機器が運用された上で前記事後保全が実施されたものであったならば、前記保険業務における保険金申請の際のエビデンスとして、所定期間に関する前記稼働データ及び前記稼働データに基づく故障診断結果の少なくともいずれかを、所定装置に送信する処理を実行する、としてもよい。
【0070】
また、本実施形態の保険金支払業務支援方法において、前記情報処理装置が、前記記憶装置において、前記機器に関する保全履歴をさらに格納し、前記エビデンスとして、所定期間に関する前記稼働データ、前記稼働データに基づく故障診断結果、及び前記保全履歴の少なくともいずれかを、所定装置に送信する、としてもよい。
【0071】
また、本実施形態の保険金支払業務支援方法において、前記情報処理装置が、前記エビデンスのうち、前記事後保全の対象となった故障に起因する、前記機器での機会損失の発生期間に関するものを抽出し、前記所定装置に送信する、としてもよい。
【0072】
また、本実施形態の保険金支払業務支援方法において、前記情報処理装置が、前記機器の運用者のシステムに対し、または前記所定装置に対し、前記事後保全の対象となった故障の発生確認の手続要求を行う、としてもよい。
【0073】
また、本実施形態の保険金支払業務支援方法において、前記情報処理装置が、前記記憶装置において、パラメトリック保険の対象となる前記機器に関する稼働データと、前記機器に関する前記パラメトリック保険の保全実施基準の情報を格納し、前記稼働データ又は所定の診断結果に基づき、前記機器における事後保全の実施を検知した場合、当該事後保全は、前記機器が前記パラメトリック保険における前記保全実施基準に沿って運用された上で実施されたものか判定し、前記保全実施基準に沿って前記機器が運用された上で前記事後保全が実施されたものであったならば、前記パラメトリック保険の保険金申請の際のエビデンスとして、所定期間に関する前記稼働データ及び前記稼働データに基づく故障診断結果の少なくともいずれかを、所定装置に送信する、としてもよい。
【符号の説明】
【0074】
1 ネットワーク
10 保険金支払業務支援システム
20 機器
21 センサ
100 保険金支払業務支援装置
101 記憶装置
102 プログラム
103 メモリ
104 演算装置
105 通信装置
125 稼働データDB
126 診断結果データDB
127 保全履歴DB
128 システムデータDB
129 KPI実績データDB
130 計画・実績差分データDB
300 機器オーナーシステム
400 保険会社システム
500 端末