(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066702
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】圧着端子、コネクタおよび端子圧着方法
(51)【国際特許分類】
H01R 4/18 20060101AFI20230509BHJP
H01R 43/048 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
H01R4/18 A
H01R43/048 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177451
(22)【出願日】2021-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】591236301
【氏名又は名称】ミネベアコネクト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】原 優介
【テーマコード(参考)】
5E063
5E085
【Fターム(参考)】
5E063CC05
5E063XA01
5E085BB01
5E085BB12
5E085DD14
5E085EE02
5E085FF01
5E085JJ13
(57)【要約】
【課題】電線の中心軸のズレに対応する場合であっても、良好な防水性能を得ることを可能にする。
【解決手段】被覆電線5が挿通された状態のワイヤシール6に装着されるインシュレーションバレル部13と、前記インシュレーションバレル部13に設けられ、前記ワイヤシール6の装着側に向けて突出する凸断面形状を有するビード部15と、を備える圧着端子10において、前記インシュレーションバレル部13の展開長に沿った方向の前記ビード部15の形成長を、前記展開長の70%以上の大きさに形成する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆電線が挿通された状態のワイヤシールに装着されるインシュレーションバレル部と、
前記インシュレーションバレル部に設けられ、前記ワイヤシールの装着側に向けて突出する凸断面形状を有するビード部と、を備え、
前記インシュレーションバレル部の展開長に沿った方向の前記ビード部の形成長が、前記展開長の70%以上の大きさに形成されている
圧着端子。
【請求項2】
前記形成長が前記展開長の80%以上の大きさに形成されている
請求項1に記載の圧着端子。
【請求項3】
前記展開長と直交する方向の前記ビード部の形成幅が、前記インシュレーションバレル部の形成幅の40%以上の大きさに形成されている
請求項1または2に記載の圧着端子。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の圧着端子と、
前記圧着端子が装着されるハウジング部と、
を備えるコネクタ。
【請求項5】
圧着端子を被覆電線が挿通された状態のワイヤシールに圧着する圧着工程を備え、
前記圧着端子として、
前記被覆電線の芯線に装着されるワイヤバレル部と、
前記ワイヤシールに装着されるインシュレーションバレル部と、
前記インシュレーションバレル部に設けられ、前記ワイヤシールの装着側に向けて突出する凸断面形状を有するビード部と、を備え、
前記インシュレーションバレル部の展開長に沿った方向の前記ビード部の形成長が、前記展開長の70%以上の大きさに形成されている
ものを用いる端子圧着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧着端子、コネクタおよび端子圧着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
防水コネクタに用いられる圧着端子として、例えば、被覆電線の芯線に当該圧着端子のワイヤバレルが圧着され、その被覆電線の周囲に嵌装されたワイヤシールに当該圧着端子のインシュレーションバレルが圧着されるようになっており、そのワイヤシールを利用して防水機能を実現するように構成されたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、これとは別に、圧着端子として、例えば、ワイヤバレルのバレル底面とインシュレーションバレルのバレル底面とが段差を有する状態で連結されているとともに、そのインシュレーションバレルのバレル底面に突出部が形成されており、これにより被覆厚さの違いによる電線の中心軸のズレにも適切に対応し得るように構成されたものがある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-170996号公報
【特許文献2】特開2019-194961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の中心軸のズレに対応する技術(例えば、特許文献2参照)では、バレル底面に突出部が形成されるため、これをワイヤシールへの圧着を想定した圧着端子(例えば、特許文献1参照)に適用しても、良好な防水性能が得られるとは限らない。突出部が形成されるインシュレーションバレルは電線の被覆への圧着を想定しているのに対し、防水機能を実現するためのワイヤシールは電線の被覆に比べて柔らかい(弾性変形し易い)材料で形成されていることから、バレル底面に突出部が形成されていると、インシュレーションバレルを圧着した際にワイヤシールの偏りが生じてしまい、これにより防水性能が損なわれ得るからである。
【0006】
本発明は、電線の中心軸のズレに対応する場合であっても、良好な防水性能を得ることを可能にする技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、
被覆電線が挿通された状態のワイヤシールに装着されるインシュレーションバレル部と、
前記インシュレーションバレル部に設けられ、前記ワイヤシールの装着側に向けて突出する凸断面形状を有するビード部と、を備え、
前記インシュレーションバレル部の展開長に沿った方向の前記ビード部の形成長が、前記展開長の70%以上の大きさに形成されている
圧着端子が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電線の中心軸のズレに対応する場合であっても、良好な防水性能を得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係るコネクタの概略構成の一例を示す側断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る圧着端子の概略構成の一例を示す説明図であり、(a)は端子全体の平面図、(b)は端子全体の側面図、(c)は(a)中のA-A断面を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態において扱われる被覆電線を示す説明図であり、(a)は絶縁被覆の厚さが相対的に小さい被覆電線の一例を示す図、(b)は絶縁被覆の厚さが相対的に大きい被覆電線の例を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る端子圧着方法の具体的な態様の一例を示す説明図であり、(a)は絶縁被覆の厚さが相対的に小さい被覆電線に圧着端子を圧着する場合の例を示す図、(b)は絶縁被覆の厚さが相対的に大きい被覆電線に圧着端子を圧着する場合の例を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る圧着端子の要部構成例を示す説明図であり、(a)はインシュレーションバレル部の展開状態の一例を示す図、(b)はインシュレーションバレル部のワイヤシールへの圧着状態の断面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態に係る圧着端子、コネクタおよび端子圧着方法について、図面を参照しながら説明する。
【0011】
(1)コネクタの構成例
まず、本実施形態に係るコネクタの構成例について説明する。
図1は、本実施形態に係るコネクタの概略構成の一例を示す側断面図である。
【0012】
図1に示すように、本実施形態に係るコネクタ1は、圧着端子10と、その圧着端子10が装着されるハウジング部2と、を備えて構成されている。
【0013】
ハウジング部2は、例えば、絶縁性を有する樹脂材料(例えば、ポリブチレンテレフタレート:PBT)の一体成型加工によって形成されたもので、圧着端子10を収容するための端子収容部3を有している。コネクタ1が多ピン対応のものであれば、端子収容部3は、ピン数に対応する数のものが、例えば図中奥行き方向に並ぶように配される。
【0014】
端子収容部3は、ハウジング部2を貫通するように設けられており、その内部にランス部4が設けられている。そして、端子収容部3の一端側から挿入される圧着端子10とランス部4とを係止させることで、その圧着端子10が端子収容部3内に装着されるようになっている。これにより、端子収容部3内に装着された圧着端子10は、端子収容部3の他端側から挿入される接続相手の端子金具(ただし不図示)と接続し得るようになる。
【0015】
また、端子収容部3の一端側において、その端子収容部3内に装着される圧着端子10には、金属撚り線等の芯線と、その外周を覆う樹脂被膜等の絶縁被覆と、を備えて構成された被覆電線5の端縁が取り付けられる。ただし、被覆電線5の取り付けは、その被覆電線5の周囲にワイヤシール6が嵌装された状態で行われる。
【0016】
ワイヤシール6は、弾性材料(例えば、シリコンゴム)によって、被覆電線5が挿通される貫通孔を有する筒状(例えば円筒状)に形成されたもので、被覆電線5が挿通された状態で端子収容部3内に装着されることで、端子収容部3の内壁と被覆電線5との間を密封するように構成されている。
【0017】
このような構成のコネクタ1では、ハウジング部2が接続相手となる図示せぬ他のコネクタハウジングと嵌合することで、それぞれにおける端子金具の間の電気的接続を確保するようになっており、さらには、ワイヤシール6を利用することで、防水機能を実現するようになっている。
【0018】
(2)圧着端子の構成例
次に、上述のコネクタ1で用いられる圧着端子10の構成例、すなわち本実施形態に係る圧着端子10の構成例について説明する。
図2は、本実施形態に係る圧着端子の概略構成の一例を示す説明図である。
圧着端子10としては、詳細を後述するように、ビード部15を備えて構成された種類の圧着端子10aと、ビード部15が設けられていない種類の圧着端子10bとがあるが、ここでは主として圧着端子10aの構成例について説明する。
【0019】
圧着端子10aは、ワイヤシール6が嵌装された被覆電線5に取り付けられて用いられるものであり、銅合金等の導電性を有した金属材料からなる薄板部材にプレス抜き加工を行って成形されている。薄板部材には、錫メッキ等の表面処理が施されていてもよい。
【0020】
このような薄板部材が成形されてなる圧着端子10は、
図2(a)および(b)に示すように、少なくとも、接続部11と、ワイヤバレル部12と、インシュレーションバレル部13と、連結部としてのステップ部14と、突出部としてのビード部15と、を備えて構成されている。
【0021】
接続部11は、例えば角筒状に形成されており、その筒内に接続相手となる圧着端子の接続部(ただし不図示)が嵌合し得るように構成されたものである。なお、接続部11は、接続相手が嵌合し得るものであれば、角筒状に限定されることはなく、他の形状に形成されたものであってもよい。また、ここでは、接続部11が角筒状に形成されている場合、すなわち雌型端子を構成する場合を例に挙げているが、これに限定されることはなく、接続部11は雄型端子を構成するものであってもよい。
【0022】
ワイヤバレル部12は、接続部11の一端側(接続相手の嵌合側とは反対側)に位置するように配されており、被覆電線5の端縁近傍で露出する当該被覆電線5の芯線に圧着され得るように構成された、いわゆるオープンバレル形式のものである。
【0023】
インシュレーションバレル部13は、ワイヤバレル部12よりもさらに接続部11から離れた側に位置するように配されており、被覆電線5が挿通された状態のワイヤシール6に圧着され得るように構成されたオープンバレル形式のものである。
【0024】
ステップ部14は、ワイヤバレル部12とインシュレーションバレル部13との間に配されて、これらを連結するように構成されたものである。つまり、ステップ部14は、ワイヤバレル部12とインシュレーションバレル部13とを連結する「連結部」として機能するものである。ただし、ステップ部14は、ワイヤバレル部12のバレル底面とインシュレーションバレル部13のバレル底面とが段差を有する状態(具体的には、ワイヤバレル部12のバレル底面のほうがインシュレーションバレル部13のバレル底面よりも図中上方側に位置する状態)で、これらを連結するようになっている。
【0025】
上述のように、圧着端子10においては、接続相手の嵌合側から接続部11、ワイヤバレル部12、ステップ部14およびインシュレーションバレル部13が順に並ぶように配されている。
【0026】
ビード部15は、インシュレーションバレル部13に設けられており、ワイヤシール6が装着される側(すなわち、被覆電線5が配される側)に向けて突出する凸断面形状を有するように形成されたものである。つまり、ビード部15は、ワイヤシール6の側に向けて突出するように形成された「突出部」の一例として機能するものである。このようなビード部15は、例えば、金属材料からなる薄板部材に対するプレス抜き加工を行う際のビード加工(ひも出し加工)によって形成することが考えられる。ただし、ビード加工に限定されることはなく、突出部として機能するものを形成できれば、絞り加工や切り起こし加工等といった他の加工手法を利用して形成したものであってもよい。
【0027】
なお、ビード部15の形成サイズ等については、その詳細を後述する。
【0028】
(3)端子圧着方法
次に、圧着端子10を被覆電線5の端縁に取り付ける場合の具体的な手順について説明する。
図3は、本実施形態において扱われる被覆電線を示す説明図である。
図4は、本実施形態に係る端子圧着方法の具体的な態様の一例を示す説明図である。
【0029】
ここでは、絶縁被覆の厚さが異なる複数種類の被覆電線5a,5bのそれぞれに対して、端子取り付けを行う必要がある場合を例に挙げる。具体的には、
図3(a)に示す絶縁被覆52aが相対的に小さい厚さt1の被覆電線5aと、
図3(b)に示す絶縁被覆52bが相対的に大きい厚さt2の被覆電線5bとのそれぞれに対して、端子取り付けを行うものとする。なお、いずれの被覆電線5a,5bにおいても、芯線51は、同じ径で構成されている。
これらの被覆電線5a,5bに圧着端子を取り付ける場合には、既述のように、その被覆電線5a,5bの被覆電線5a,5bの周囲にワイヤシール6が嵌装された状態とする。その際に、ワイヤシール6は、弾性材料によって形成されているため、嵌装される被覆電線5a,5bの径に応じて伸縮する。そのため、同一サイズのワイヤシール6であっても、絶縁被覆52aが相対的に小さい厚さt1の被覆電線5aへの嵌装時には、
図3(a)に示すように、芯線51からワイヤシール6の外周までの厚さt1´が相対的に小さくなる一方で、絶縁被覆52bが相対的に大きい厚さt2の被覆電線5bへの嵌装時には、
図3(b)に示すように、芯線51からワイヤシール6の外周までの厚さt2´も相対的に大きくなる。
【0030】
(手順の概要)
以上のような複数種類の被覆電線5a,5bに対する端子取り付けを、本実施形態では、以下に説明する手順で行う。すなわち、本実施形態に係る端子圧着方法は、大別すると、複数種類の圧着端子を用意する準備工程と、用意した複数種類の圧着端子のいずれかを選択して被覆電線に圧着する圧着工程と、を備える。
【0031】
(準備工程)
準備工程では、
図4(a)および(b)に示すように、複数種類の圧着端子10a,10bを用意する。具体的には、少なくとも、上述した構成例のようにビード部15を備えて構成された種類の圧着端子10aと(
図4(a)参照)、これに対してビード部15が設けられていない種類の圧着端子10bと、を用意する。以下、ビード部15を備えて構成された種類の圧着端子10aを「突出有圧着端子」と称し、ビード部15が設けられていない種類の圧着端子10bを「突出無圧着端子」と称する。突出有圧着端子10aと突出無圧着端子10bは、ビード部15の有無を除き、全く同様に構成されているものとする。したがって、突出有圧着端子10aと突出無圧着端子10bは、ビード部15以外の箇所について、同じ型を用いたプレス抜き加工によって成形することが可能である。
【0032】
突出無圧着端子10bとしては、ステップ部14におけるワイヤバレル部12のバレル底面とインシュレーションバレル部13のバレル底面との段差の大きさが、被覆電線5bにおける芯線51からワイヤシール6の外周までの厚さt2´に合致するものを用意する。
【0033】
一方、突出有圧着端子10aについては、突出無圧着端子10bと同様の構成であることから、ステップ部14における段差の大きさが上述した厚さt2´に合致するものとなる。ただし、突出有圧着端子10aにおいては、インシュレーションバレル部13にビード部15が設けられており、そのビード部15の突出量の分だけ、ステップ部14における段差の大きさが相殺される。
このことを踏まえ、突出有圧着端子10aとしては、ワイヤバレル部12のバレル底面とビード部15の頂点との間の大きさが、被覆電線5aにおける芯線51からワイヤシール6の外周までの厚さt1´に合致するように、インシュレーションバレル部13のバレル底面からのビード部15の突出量が設定されているものを用意する。つまり、突出有圧着端子10aにおいて、ビード部15の突出量は、上述した厚さt1´とステップ部14の段差の大きさとの差分に合致することになる。
【0034】
(圧着工程)
準備工程の後に行う圧着工程では、圧着対象となる被覆電線5a,5bに応じて、用意した突出有圧着端子10aまたは突出無圧着端子10bのいずれかを選択する。さらに詳しくは、圧着工程では、圧着対象となる被覆電線5a,5bにおける芯線51からワイヤシール6の外周までの厚さt1´,t2´に応じて、突出有圧着端子10aと突出無圧着端子10bとについての選択を行う。そして、選択した突出有圧着端子10aまたは突出無圧着端子10bを、圧着対象となる被覆電線5aまたは被覆電線5bに圧着する。圧着は、ワイヤバレル部12とインシュレーションバレル部13とのそれぞれについて、例えば、各バレル部12,13をかしめる専用の型(アンビル、クリンパ等)を備えた圧着アプリケータや端子圧着機等を用いて行うことが考えられる。これにより、突出有圧着端子10aまたは突出無圧着端子10bは、被覆電線5aまたは被覆電線5bの端縁に取り付けられることになる。
【0035】
具体的には、例えば、芯線51からワイヤシール6の外周まで相対的に大きい厚さt2´である被覆電線5bが圧着対象となる場合であれば、
図4(b)に示すように、ステップ部14の段差の大きさが当該厚さt2´に合致する突出無圧着端子10bを選択する。そして、突出無圧着端子10bにおけるワイヤバレル部12のバレル内に被覆電線5bの芯線51が位置し、かつ、インシュレーションバレル部13のバレル内にワイヤシール6の被圧着箇所が位置する状態で、圧着アプリケータや端子圧着機等を用いてワイヤバレル部12およびインシュレーションバレル部13をそれぞれかしめて圧着させる。これにより、突出無圧着端子10bは、ワイヤシール6が嵌装された状態の被覆電線5bの端縁に取り付けられる。
【0036】
これに対して、例えば、芯線51からワイヤシール6の外周まで相対的に小さい厚さt1´である被覆電線5aが圧着対象となる場合を考える。このような被覆電線5aに対して、上述した被覆電線5bのときと同様に突出無圧着端子10bを取り付けようとすると、厚さt1´と突出無圧着端子10bにおけるステップ部14の段差の大きさとが合致しないことから、上述した被覆電線5bのときとは異なり、取り付け後において、ワイヤバレル部12のバレル内に位置する芯線51の中心(以下「ワイヤバレル側中心」という。)とインシュレーションバレル部13のバレル内に位置する芯線51の中心(以下「インシュレーションバレル側中心」という。)とにズレが生じてしまうおそれがある。
【0037】
これを解消するためには、ステップ部14の段差の大きさを厚さt1´に合致させた突出無圧着端子を別途用意することが考えられる。ところが、その場合には、突出無圧着端子10bのときに用いていた圧着アプリケータや端子圧着機等をそのまま用いることができず、型の交換等を行わなければならないため、設備投資に伴うコスト上昇を招いてしまうことになる。
【0038】
そこで、本実施形態においては、ビード部15を備えて構成された突出有圧着端子10aを用意しておき、芯線51からワイヤシール6の外周まで相対的に小さい厚さt1´である被覆電線5aが圧着対象となる場合には、突出有圧着端子10aを選択して被覆電線5aに圧着するようにする。
【0039】
具体的には、例えば、
図4(b)に示すように、被覆電線5aが圧着対象となる場合であれば、ワイヤバレル部12のバレル底面とビード部15の頂点との間の大きさが、当該被覆電線5aにおける芯線51からワイヤシール6の外周までの厚さt1´に合致するように、インシュレーションバレル部13のバレル底面からのビード部15の突出量が設定されている突出有圧着端子10aを選択する。そして、その突出有圧着端子10aにおけるワイヤバレル部12のバレル内に被覆電線5aの芯線51が位置し、かつ、インシュレーションバレル部13のバレル内に当該被覆電線5aに嵌装されたワイヤシール6の被圧着箇所が位置する状態で、ワイヤバレル部12およびインシュレーションバレル部13をそれぞれかしめて圧着させる。これにより、突出有圧着端子10aは、被覆電線5aの端縁に取り付けられる。
【0040】
このとき、突出有圧着端子10aにおけるステップ部14の段差の大きさは、上述した突出無圧着端子10bの場合と同様なので、その突出無圧着端子10bのときに用いていた圧着アプリケータや端子圧着機等をそのまま用いることができる。したがって、型の交換等を行う必要が生じてしまうことがないので、設備投資に伴うコスト上昇を招いてしまうことがない。
しかも、突出有圧着端子10aにはビード部15が設けられているので、ステップ部14の段差の大きさが被覆電線5aにおける芯線51からワイヤシール6の外周までの厚さt1´と合致していなくても、その相違量をビード部15の突出量によって是正することができる。したがって、被覆電線5aへの突出有圧着端子10aの取り付け後において、ワイヤバレル側中心とインシュレーションバレル側中心とにズレが生じてしまうことがない。
つまり、ビード部15を備えた突出有圧着端子10aを用いることで、芯線51からワイヤシール6の外周まで相対的に小さい厚さt1´である被覆電線5aへの取り付けを行う必要が生じた場合であっても、これに適切に対応することができるようになる。
【0041】
(作用効果)
以上のように、本実施形態においては、複数種類の圧着端子として少なくとも突出無圧着端子10bと突出有圧着端子10aとを用意する。そして、圧着対象となる被覆電線5a,5bにおける芯線51からワイヤシール6の外周までの厚さt1´,t2´に応じて、突出有圧着端子10aと突出無圧着端子10bとのいずれかを選択して、被覆電線5a,5bへの圧着を行う。したがって、本実施形態によれば、被覆電線5a,5bのそれぞれについて、芯線51からワイヤシール6の外周までの厚さt1´,t2´が異なる場合であっても、適切に対応することができる。
つまり、各被覆電線5a,5bのそれぞれに対応する場合であっても、ワイヤバレル側中心とインシュレーションバレル側中心とにズレが生じてしまうことがないので、そのワイヤシール6による防水性能を損なうことなく、圧着の信頼性を十分に確保することができる。しかも、突出有圧着端子10aと突出無圧着端子10bとのいずれについても、同じ圧着アプリケータや端子圧着機等をそのまま用いることができるので、設備投資に伴うコスト上昇を招いてしまうことがない。つまり、各被覆電線5a,5bに対して、コスト上昇等を招くことなく、柔軟かつ容易に対応することが可能となる。
しかも、突出有圧着端子10aと突出無圧着端子10bとは、ビード部15の有無を除けば、同じ型を用いたプレス抜き加工によって成形することが可能である。したがって、突出有圧着端子10aと突出無圧着端子10bとを用意する場合であっても、それぞれの製造工程の共通化が可能となり、このことによってもコスト上昇を抑制することが実現可能となる。
【0042】
また、本実施形態において、突出有圧着端子10aは、インシュレーションバレル部13にビード部15を備えて構成されている。したがって、絶縁被覆52aの厚さが異なり、これにより芯線51からワイヤシール6の外周までの厚さt1´が異なる被覆電線5aへの取り付けを行う必要が生じた場合であっても、これに適切に対応することができる。
具体的には、例えば、芯線51からワイヤシール6の外周までの厚さt1´がステップ部14の段差の大きさと合致していなくても、インシュレーションバレル部13にビード部15が設けられていれば、当該厚さt1´と当該段差の大きさとの相違量をビード部15の突出量によって是正することができる。したがって、被覆電線5aへのへの圧着端子10の取り付け後において、ワイヤバレル側中心とインシュレーションバレル側中心とにズレが生じてしまうことがない。つまり、ワイヤシール6による防水性能を損なうことなく、圧着の信頼性を十分に確保しつつ被覆電線5aに対応することが可能となる。
また、突出有圧着端子10aにおいて、ビード部15は、プレス抜き加工を行う際のビード加工によって形成することが可能である。したがって、非常に容易かつ確実に形成することができる。しかも、例えば突出部を別ピースとして設ける場合とは異なり、取り扱いが煩雑になってしまうこともない。したがって、被覆電線5aに圧着して取り付けるための構成として、非常に優れたものとなる。このことは、ビード加工による場合のみならず、絞り加工や切り起こし加工等といった他の加工手法を利用して形成した場合についても同様である。
【0043】
(4)突出有圧着端子の要部構成例
次に、上述した手順の端子圧着方法において用いられる突出有圧着端子10aについて、その特徴的な要部構成例を説明する。
【0044】
上述したように、突出有圧着端子10aは、ビード部15の突出量を利用して、ワイヤバレル側中心とインシュレーションバレル側中心のズレを是正する。
ただし、ビード部15に支持されるワイヤシール6は、シリコンゴム等の弾性材料によって形成されている。つまり、ワイヤシール6は、防水機能を実現するために、被覆電線5aの絶縁被覆52aに比べて柔らかい(弾性変形し易い)材料で形成されている。
そのため、ビード部15の配置や形状等によっては、そのビード部15の突出量を利用しても、ワイヤバレル側中心とインシュレーションバレル側中心とのズレに適切に対応できないおそれがある。具体的には、例えば、インシュレーションバレル部13のバレル底面のみに突出部としてのビード部が形成されていると、当該ビード部の形成箇所と非形成箇所とのアンバランスにより、インシュレーションバレル部13を圧着した際に弾性変形し易いワイヤシール6の偏りが生じてしまい得る。その場合、ワイヤシール6の偏りが当該ワイヤシール6による密封状態に悪影響を及ぼし、その結果として当該ワイヤシール6の防水性能が損なわれるおそれがある。
【0045】
このことを踏まえ、本実施形態では、インシュレーションバレル部13においてワイヤシール6が装着対象となる場合であっても良好な防水性能を得ることを可能にすべく、ビード部15が以下に説明するように形成されている。
図5は、本実施形態に係る圧着端子の要部構成例を示す説明図である。
【0046】
本実施形態において、インシュレーションバレル部13に設けられるビード部15は、バレル底面のみに形成される場合に比べると、ワイヤシール6の被圧着箇所との接触面積が大きくなるように形成されている。
【0047】
具体的には、
図5(a)に示すように、ビード部15は、圧着端子10aを展開した状態(曲げ加工前の状態)において、インシュレーションバレル部の展開長(以下「バレル展開長」という。)L1に対し、当該バレル展開長L1に沿った方向のビード部15の形成長(以下「ビード形成長」という。)L2が、バレル展開長L1の70%以上の大きさ、より好ましくは80%以上の大きさに形成されている。少なくとも70%以上、より好ましくは80%以上の大きさであれば、ビード形成長L2は、バレル展開長L1と同一(すなわち100%)の大きさ)であってもよい。
【0048】
また、ビード部15は、好ましくは、バレル展開長L1と直交する方向のビード部15の形成幅(以下「ビード形成幅」という。)W2が、インシュレーションバレル部13の形成幅(以下「バレル形成幅」という。)W1の40%以上の大きさに形成されている。40%以上の大きさであれば、ビード形成幅W2は、バレル形成幅W1と同一(すなわち100%)の大きさ)であってもよい。
【0049】
以上のようなビード部15が形成された圧着端子10aでは、
図5(b)に示すように、ワイヤシール6の被圧着箇所の周長の少なくとも70%以上、より好ましくは80%以上の部分がビード部15と接触している状態で、ワイヤシール6がインシュレーションバレル部13のバレル内に位置することになる。つまり、インシュレーションバレル部13をかしめると、ワイヤシール6は、被圧着箇所の略3/4周以上の部分が囲われた状態で、インシュレーションバレル部13のバレル内に圧着される。
【0050】
そのため、インシュレーションバレル部13をかしめてワイヤシール6に圧着させると、そのワイヤシール6に対しては、図中においてバレル底面から上方側に向けて作用する押圧力のみならず、これに抗するように下方側に向けて作用する成分を含む押圧力も働くようになる。このことは、ビード部15との接触範囲がワイヤシール6の被圧着箇所の周長の80%以上である場合に、より顕著となる。このように、互いに反する方向に作用する押圧力成分を働かせれば、インシュレーションバレル部13をかしめた際のワイヤシール6の偏り発生を抑制することができる。
【0051】
さらに、ビード部15との接触範囲がワイヤシール6の被圧着箇所の周長の少なくとも70%以上であれば、その接触範囲については、ビード部15からワイヤシール6に対して、均等な押圧力が作用する。その一方で、押圧力が作用しない範囲(すなわち、ビード部15との非接触範囲)については、ワイヤシール6の被圧着箇所の周長の30%未満という一部の範囲に限定される。つまり、ワイヤシール6が逃げるように弾性変形し得る範囲が、一部の小さい範囲のみに限定される。このことによっても、インシュレーションバレル部13をかしめた際のワイヤシール6の偏り発生を抑制することができる。
【0052】
したがって、本実施形態においては、ビード形成長L2がバレル展開長L1の70%以上の大きさに形成されているので、ワイヤシール6が弾性変形し易い材料で形成されている場合であっても、インシュレーションバレル部13をかしめた際のワイヤシール6の偏り発生を抑制することができる。特に、ビード形成長L2がバレル展開長L1の80%以上の大きさに形成されていれば、そのことが顕著となる。
【0053】
また、本実施形態のように、ビード形成幅W2がバレル形成幅W1の40%以上の大きさに形成されていれば、ワイヤシール6の被圧着箇所に対してビード部15が接触する部分の面積を十分に確保し得るようになり、当該ビード部15が面接触することになる。例えば、ビード形成幅W2がバレル形成幅W1の40%未満の大きさであると、接触面積を十分に確保できず、ビード部15の頂部が線接触してしまうおそれがある。その場合、ビード部15の頂部の接触圧が大きくなってしまうので、ワイヤシール6が弾性変形し易い材料で形成されていると、ビード部15の頂部がワイヤシール6に食い込んでしまい、その結果としてワイヤバレル側中心とインシュレーションバレル側中心とのズレに適切に対応できないおそれが生じてしまう。これに対して、ビード形成幅W2がバレル形成幅W1の40%以上の大きさであれば、ビード部15が面接触することになるので、ワイヤバレル側中心とインシュレーションバレル側中心とのズレに適切に対応することが可能となり、また、インシュレーションバレル部13をかしめた際のワイヤシール6の偏り発生を抑制することができる。
【0054】
(5)本実施形態により得られる効果
本実施形態によれば、以下に示す一つまたは複数の効果が得られる。
【0055】
(a)本実施形態において、インシュレーションバレル部13に設けられたビード部15は、ビード形成長L2がバレル展開長L1の70%以上の大きさに形成されている。そのため、ワイヤシール6が弾性変形し易い材料で形成されている場合であっても、インシュレーションバレル部13をかしめた際のワイヤシール6の偏り発生を抑制することができる。これにより、ワイヤシール6による防水性能を損うことなく、ワイヤシール6の中心軸のズレに適切に対応することが可能になる。
つまり、本実施形態に係る圧着端子10aによれば、ワイヤバレル側中心とインシュレーションバレル側とのズレに対応する場合であっても、良好な防水性能を得ることが可能になる。
【0056】
(b)特に、本実施形態で説明したように、ビード形成長L2がバレル展開長L1の80%以上の大きさに形成されていれば、ワイヤシール6の偏り発生を抑制する効果が顕著に得られるようになる。したがって、良好な防水性能を得つつワイヤバレル側中心とインシュレーションバレル側中心とのズレに対応する場合に適用して非常に好適なものとなる。
【0057】
(c)また、本実施形態で説明したように、ビード形成幅W2がバレル形成幅W1の40%以上の大きさに形成されていれば、ワイヤシール6の被圧着箇所に対してビード部15が接触する部分の面積を十分に確保し得るようになり、当該ビード部15が面接触することになる。このように、ワイヤシール6の被圧着箇所に対してビード部15が面接触すれば、ワイヤバレル側中心とインシュレーションバレル側中心とのズレに適切に対応することが可能となり、また、インシュレーションバレル部13をかしめた際のワイヤシール6の偏り発生を抑制する上で非常に好適なものとなる。
【0058】
(6)変形例等
以上、本発明の一実施形態を具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0059】
上述の実施形態では、突出有圧着端子10aと突出無圧着端子10bとを用意した上で、これらのいずれかを選択する場合を例に挙げたが、本発明がこれに限定されることはない。例えば、突出有圧着端子10aとして、ビード部15の突出量が異なるものを複数用意しておくことも考えられる。また、突出有圧着端子10aまたは突出無圧着端子10bのいずれかのみを用意して被覆電線への圧着を行うことも可能である。
【符号の説明】
【0060】
1…コネクタ、2…ハウジング部、5,5a,5b…被覆電線、6…ワイヤシール、10…圧着端子、10a…突出有圧着端子(圧着端子)、10b…突出無圧着端子(圧着端子)、11…接続部、12…ワイヤバレル部、13…インシュレーションバレル部、14…ステップ部、15…ビード部、51…芯線、52a,52b…絶縁被覆