(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066706
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】再利用される既存杭の頭部の補強構造
(51)【国際特許分類】
E02D 5/34 20060101AFI20230509BHJP
【FI】
E02D5/34 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177460
(22)【出願日】2021-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100070024
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 宣行
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 正美
【テーマコード(参考)】
2D041
【Fターム(参考)】
2D041BA17
2D041BA37
(57)【要約】
【課題】再利用される既存杭の水平耐力の向上に寄与する既存杭の頭部の補強構造を提供すること。
【解決手段】補強構造14は、既存杭10の頭部12の周囲を環状断面の空間Pを置いて取り巻く地中の下部16bと該下部に連なる地上の上部16aとからなる鋼管部材16と、第1の筒状物18と、第1の筒状物下の第2の筒状物20と、板状物22とを備える。第1及び第2の両筒状物はそれぞれ環状断面の空間を満たすソイルセメント及び土塊からなる。また、板状物は、鋼管部材の上部内に形成され該上部内を満たすコンクリートからなり、既存杭の頭部及び第1の筒状物の双方上に位置する。鋼管部材は、好ましくは既存杭の頭部に対してこれと同軸に配置されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
再利用される既存杭の頭部の補強構造であって、
鋼管部材であって前記既存杭の頭部の周囲を環状断面の空間を置いて取り巻く地中の下部と、該下部に連なる地上の上部とからなる鋼管部材と、
前記環状断面の空間を満たすソイルセメントからなる第1の筒状物及び該第1の筒状物下の土塊からなる第2の筒状物と、
前記鋼管部材の上部内を満たすコンクリートからなる板状物であって前記既存杭の頭部及び前記第1の筒状物の双方上に位置する板状物とを備える、既存杭の頭部の補強構造。
【請求項2】
前記鋼管部材は前記既存杭の頭部に対してこれと同軸に配置されている、請求項1に記載の補強構造。
【請求項3】
前記鋼管部材の上部は100mm以上の長さ寸法を有する、請求項1又は2に記載の補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
再利用に供される既存杭の頭部の補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、既存の建物の杭基礎をなす杭(既存杭)を解体、撤去することなく、新設の建物の杭として再利用することが提案されている。既存杭の再利用は、建設廃棄物の削減、建設コストの低減等に寄与する。
【0003】
従来、既存杭の再利用に当たり、その頭部を補強することが提案されている。この提案においては、既存杭が埋設されている地盤中に既存杭の頭部の周囲及びその上方空間を取り巻く鋼管部材が配置され、既存杭の頭部と鋼管部材との間に形成された環状空間と既存杭の頭部の上方空間とにコンクリートが打設される。これによれば、既存杭の鉛直支持力と水平耐力とを確保することが可能であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来の事情に鑑み、特に、再利用される既存杭の水平耐力の向上に寄与する既存杭の頭部の補強構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、再利用される既存杭の頭部の補強構造に係る。前記補強構造は、前記既存杭の頭部の周囲を環状断面の空間を置いて取り巻く地中の下部と、該下部に連なる地上の上部とからなる。また、前記板状物は、前記鋼管部材の上部内を満たすコンクリートからなり、前記既存杭の頭部及び前記第1の筒状物の双方上に位置する。前記鋼管部材は、好ましくは前記既存杭の頭部に対してこれと同軸に配置されている。また、前記鋼管部材の上部は、好ましくは100mm以上の長さ寸法を有する。
【0007】
本発明によれば、既存杭の頭部上に位置するコンクリート製の板状物が、前記既存杭に支持される上部構造の鉛直荷重を前記既存杭に伝達する働きをなす。また、コンクリート製の前記板状物及びこれと一体をなす前記鋼管部材は前記上部構造が受ける水平外力を受けてその一部を負担する機能を担う。前記水平外力の他の一部は、前記鋼管部材を介して、前記既存杭の頭部の周囲を取り巻くソイルセメントからなる第1の筒状物及びその下の土塊からなる第2の筒状物にそれぞれ伝達され、さらにこれらの2つの筒状物を介して前記既存杭の頭部に伝達される。
【0008】
ところで、前記2つの筒状物は、それぞれ、前記コンクリート製の板状物と比べて柔らかく、強度が低い。このことから、前記2つの筒状物はそれぞれ前記鋼管部材から伝達される前記水平外力の他の一部を受けると前記コンクリート製の板状物と異なり、大きく圧縮変形される。このため、前記水平外力の他の一部は、その一部分が前記2つの筒状物を圧縮変形させることに費やされ、その大きさが低減される。その結果、前記水平外力に対する既存杭の負担を比較的小さいものとすることができ、これにより、前記既存杭の水平耐力を相対的に増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】既存杭の頭部の補強構造を概略的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1を参照すると、地盤E中(以下、必要に応じて、地中という。)に埋設されている既存杭10の頭部(以下、杭頭という。)12の補強構造が全体に符号14で示されている。
【0011】
既存杭10は、現場打ちコンクリート杭又は既製杭からなる。図示の例においては、杭頭12がその頂面12aにおいて地表面E1に露出している。
【0012】
杭頭12の補強構造14は、鋼管部材16と、第1の筒状物18及び第2の筒状物20と、板状物22とを備える。
【0013】
鋼管部材16は円形の断面形状を有する。鋼管部材16は、既存杭10の杭頭12の周囲を環状断面の空間(より詳細には環状の断面形状を有する空間)Pを置いて取り巻く地中の下部16bと、該下部に連なる地上の上部16aとからなる。鋼管部材16の上部16aは地表面E1からその上方へ伸び、下部16bは地表面E1から下方へ伸びている。鋼管部材16の上部16aは、好ましくは100mm以上の長さ寸法Sを有する。
【0014】
鋼管部材16は、その設置の前に地盤Eを掘削することにより杭頭12の周囲に形成され地表面E1に開放する凹所24内に好ましくは杭頭12と同軸に配置される。このとき、杭頭12の周面と鋼管部材16の下部16bの内周面との間に環状断面の空間(以下、環状空間という。)Pが形成され、鋼管部材16はその下部16bの外周面において地盤Eに接している。
【0015】
第1の筒状物18及び第2の筒状物20は、それぞれ、環状空間P内に形成され環状空間Pを満たすソイルセメント及び土塊からなる。第1の筒状物18は、第2の筒状物20上に位置し、第2の筒状物20に接している。また、第2の筒状物20は、凹所24の形成のために地盤Eを掘削したときに生じ凹所24の底部24a上に堆積した土砂からなる。第1の筒状物18は、好ましくは第2の筒状物20より上下方向に長い寸法を有する。但し、第1の筒状物18と第2の筒状物の上下方向長さは任意に定めることが可能である。
【0016】
板状物22は、鋼管部材16の上部16a内に形成され該上端部内を満たすコンクリートからなり、全体に円板状を呈する。板状物22は、鋼管部材16の上部16a内に生コンクリートを流し込むことにより形成され、鋼管部材16と一体をなす。形成された板状物22は、杭頭12及び第1の筒状物18の双方上、より詳細にはこれらの頂面12a、18a上に位置し、両頂面12a、18aに接している。
【0017】
この補強構造14にあっては、杭頭12上に位置するコンクリート製の板状物22が、既存杭10に支持される建築物のような上部構造26の鉛直荷重を既存杭10に伝達する働きをなす。また、コンクリート製の板状物22及びこれと一体をなす鋼管部材16は上部構造26が受ける水平外力を受けてその一部を負担する機能を担う。
【0018】
また、前記水平外力の他の一部は、鋼管部材16を介して、杭頭12の周囲を取り巻くソイルセメントからなる第1の筒状物18及びその下の土塊からなる第2の筒状物20にそれぞれ伝達され、さらにこれらの2つの筒状物18、20を介して杭頭12に伝達される。
【0019】
ところで、2つの筒状物18、20をそれぞれ構成する前記ソイルセメント及び前記土塊は、いずれもコンクリート製の板状物22と比べて軟らかく、強度が低い。また、前記土塊からなる第2の筒状物20は前記ソイルセメント製の第1の筒状物18に比べて軟らかく、強度が低い。このことから、2つの筒状物18、20はそれぞれ前記水平外力の他の一部を受けると、コンクリート製の板状物22と異なり、大きく圧縮変形される。このため、2つの筒状物18、20はコンクリート製の板状物22と比べて、前記水平外力に対する負担能力が小さい。このことから、前記水平外力の他の一部は、その一部分が2つの筒状物18、20を圧縮変形させることに費やされ、このためにその大きさが低減される。その結果、前記水平外力に対する既存杭10の負担を比較的小さいものとすることができ、これにより、既存杭10の水平耐力を相対的に増大させることができる。
【符号の説明】
【0020】
10 既存杭
12 既存杭の頭部(杭頭)
12a 既存杭の頭部の頂面
14 既存杭の頭部の補強構造
16 鋼管部材
16a、16b 鋼管部材の下部及び上部
18 第1の筒状物
20 第2の筒状物
22 板状物
P 環状断面の空間